第21話 珍しい頼み事
「なあ、ゼロちゃん」
破壊系少女の弟子と忍者系少女の弟子志望がいなくなってからしばらくして、珍しく朝からしっかり起きているレイナさんが僕を呼び止めた。
「なんですか? まだお昼ご飯の時間でもないですけど」
「ちょっと頼みたいことがあるんだが」
珍しい会話の切口だ。
普段のレイナさんであれば、頼みたいなどと言う優しい言葉ではなくいきなり命令してくるのだ。なんなんだろう、僕は反射的に身構える。
この人は無理なことは命令しない。つまり命令しないという事は、レイナさん的には僕に無理だとわかっている。だから頼みごとなのだ。
「昨日サイオンから手紙が渡されたのを覚えているか?」
「はい、レイナさん宛てに来てたやつですよね」
基本的には僕が彼女の手紙関連も全て確認しているのだが、何やら高級な封筒に入っていたので一応直接手渡したやつだ。
「ミスって仕事ブッキングさせちまったんだよ。あたしは北に遠出しないといけないから片方やってもらえないかなって」
レイナさんの仕事。それは世界最強だからこそなせる何でも屋だ。主にとんでもないモンスターを狩ったり、とんでもなく危険な場所での救援だったり、彼女でなければならないことを彼女がやるのだ。
つまり、僕が出来るわけがない。
「いや、僕がレイナさんの代わりなんて無理ですよ」
読書している手を休めて、反論する。
彼女の代わりなどこの世で誰もこなせるものではない。
「大丈夫だ、ちょこっと人に会ってもらうだけだよ。ゼロちゃんでもできるって。ただ」
「ただ?」
「行き先が王都」
……王都。
僕が昔住んでいた場所。ノートル学園がある場所。僕と因縁がある場所。
雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、レイナさんは苦笑する。
「別にノートル学園に送り込もうなんて思ってねえよ」
「でしょうね」
流石にそこまで彼女は鬼ではないと思っている。
でも僕が他の者たちから迫害されている過去を知っているから、無理に命令はさせないということだ。多分仮に僕が断ってもブッキングしている仕事をなんとかしてしまうのだろうが……
「仕方ないですね、わかりましたよ」
「え、いいのか?」
「え? はい。断ると思いました?」
意外そうに見つめてくるので、僕も意外そうに返答する。
レイナさんであれば、僕があなたのお願いを断らないということを知っていると思っていた。
「いや、王都だぞ? ゼロ、お前この森から出たがらないじゃないか」
「それはそうなんですけど、最近セリカちゃんやアヤメちゃん、忍者軍団と交友を持ったからですかね。前ほどは嫌じゃないですよ」
多少は嫌だが、師匠からの頼みごとなのだ。断るほどでもない。
「おっぱいでも触るか?」
「いや、なんでですか」
師匠は何故か膨満のバストを見せつけてくる。
「で、行くのはいつなんですか?」
「今日の午後から」
キョウノゴゴカラ?
……今日の午後?
僕は一瞬彼女が何かの間違いで言っているのかと思った。しかし、冷静に考えると少し納得できた。彼女が無茶を言ってこないと何かおかしい気がするのだ。
この前から機嫌がよかったし、これくらいのことは言ってきてくれないと。
レイナさんと一緒にいすぎて感覚がマヒしている気もするが、それはそれだ。
「流石に一人で送り込むわけにもいかんし、連れを頼んでいるから楽しみにしとけ」
「あ、そうなんですね」
流石に僕の交友関係が狭すぎるから知らない人だろう。
何を楽しみにすればいいのかわからないが、とりあえず準備でもしようか。
僕は準備をしようと思ったが、よく考えたら大して持っていくものがないことに気が付いた。そもそも僕には私物が殆どない。
着替えや時間を潰すための本、一応保険にナイフ……それくらいしかない。
暇になってしまった僕は、迎えが来るという時間までレイナさんの為に昼ご飯を作ることにした。それくらいしかやることがないのだ。
「向こうまで馬車で行くから時間かかるわ。紅茶でも持っていくといいぞ」
それもそうか、珍しくまともなアドバイスをしてくれるじゃないか。
いつもはもっと適当なことを言ってくるのに、もしかしたら初の遠出だから多少心配してくれている……わけもないな、流石に。
僕は水筒に紅茶を入れる。やはり紅茶というのはいい、心が落ち着く。
「あれ、馬車ってここまで来れるんですか?」
予定時間になり、僕は窓の外を見るが一向に来る気配はない。
世界最強の【皇帝】であるレイナさんが手配しているのに遅刻するなんてないだろう、何かに巻き込まれたのだろうか。
「じゃあ行くか」
「え?」
レイナさんは僕を片手で持ち上げ、地面をける。
「う……」
僕の身体は強引に地上から持ち上げられ、レイナさんに首根っこを掴まれた状態で空中を散歩する。正確に言うと無理矢理運ばれている。希望だけで言うと前回みたいにお姫様抱っこの方が衝撃が少なくて良かったんだけどなぁ。
彼女が魔法によって跳躍すると眼下には緑一色が広がっていて、物の十数秒で森の外れまで跳躍してしまった。
滅茶苦茶な方法だが、僕を運ぶうえでは一番楽なのかもしれない。
馬車のすぐ近くに誤差なく、衝撃波とともに着地するレイナさん。
その衝撃全ても魔法で吸収してしまっているのを見る。やはり師匠というのはこう規格外でなければ。
「遅れた、悪いな」
「お待ちしておりました。レイナ様、【不可視】様」
馬車のすぐ近くに佇んでいたのは、僕と同じくらいの身長をした眼鏡をかけた美人。
ブロンドの髪を三つ編みにしており、見る限り真面目そうな雰囲気に、スーツを着ておりより厳格そうに見える。
「じゃ、あたしは行くから詳細はエルザに聞いてくれ」
僕が何か言う前にまた跳躍してしまった。竜巻みたいな人だ……いや、違う、最早これは竜巻だ。
お礼も言う時間がなかった。
「よろしくお願いします、ご紹介預かりました。エルザと言います」
……この人、多分レイナさんと知り合いだ。
まずレイナさんのことを二つ名で呼ばないし、あの適当な一言で紹介預かったと解釈できるなんて、かなり対レイナさんの理解が長けている。僕以外にも被害者がいたのだ。それが少し嬉しかった。




