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第20話 幕間のデート

「おい、ゼロちゃん。起きてるか?」


「今何時だと思ってるんですか、普通の人は寝てる時間ですよ」


 レイナさんがノックもせずに僕の自室に入ってきたのは朝の4時。当たり前だが僕は来訪の直前まで寝ていた。


「じゃあゼロちゃん、お前は普通じゃないってことで」


「……で、なんですか? 意味もなく来たわけじゃないでしょう?」


 流石の僕でも朝4時から師匠が来たため息をつきたくもなる。


「これから世界樹の葉を取りに行くぞ」


 えー……僕は不満げな声を出しそうになったが、とりあえず思い留まる。彼女が行くと言ったらどう足掻いても回避できないのだ。諦めてベッドから出る。


「まったく、外はもう日が昇り始めているんだぞ? 元気に行こうぜ」


 この時期の4時って暗くないんだ。僕の部屋は窓が一切ないから気が付かなかった、正直一生気が付かないでも良かった。


「……師匠、濃霧が出ていますが」


「ん、それで?」


 一応玄関を出た時点で最後の抵抗を試みたけど、まったく意味介せずレイナさんはすたすたと歩いていく。

 レイナさんのドレスが濡れて下着とか透けても知りませんからね。


 霧がこの森に出るのは知っているが、大体朝ご飯を食べるまでには晴れている。つまり、この人は初めから濃霧が出ようと関係なかったと。



「朝はそこまで暖かくないのでこれでも着てください」


 僕は準備しておいた上着を師匠に渡す。

 風邪をひくとは思えないが、体調管理には気を付けてほしいとは思う。


「ありがと、ゼロちゃんは優しいな」


 僕はレイナさんの端正な顔立ちを見ながら、先程頭の中で思い浮かべていた文句や恨みつらみを全て破棄する。

 ……僕は平和な日々が好きだから、余計なことをいうのはよくない。


「あと暖かい紅茶も持ってきましたから、あとで飲みましょう」


「ゼロちゃんって母親みたいだな」



「……ダメ人間が師匠だから弟子は成長するんですよ」


 僕が弟子になるまで殆ど家事をしてこなかった彼女。

 着る服は毎日買う、捨てるなどのとんでもない無駄遣いに料理も全くしない。本も乱雑に床に詰まれており、彼女は一人でまともな普通の生活は出来ていなかった。


「別に世の中そういう面倒なことをしなくても生きていけるししゃあねえだろ」


「というか、レイナさんに母親なんているんですか?」



「……ゼロ、お前あたしを何だと思ってんの? 地面から湧いて出てきたとか空から降ってきたとかいうんじゃないだろうな?」


 呆れた顔でレイナさんが振り返る。


「いや、比喩的な意味合いですよ。魔力はある程度遺伝するって聞きますし、レイナさんを生むくらいならとんでもなく家族が強かったのでは?」


 軽口で彼女が不機嫌になりかけたので慌てて取り繕う。

 僕の魔力なしは例外中の例外だろうが、それにしても師匠の両親だったら僕が知っているようなレベルで有名なのかもしれない。



「まあそうだな、あたしは生まれ持って最強だったわけだが、両親も桁違いに強かったぜ」


 赤ちゃんの時は流石に最強じゃないだろ、とか思うけど口を噤む。

 しかし、やはりご機嫌だ。


 普段は自分の過去の話などしたがらないのに。僕も過去の話は絶対に言いたくはないのだが、レイナさんも言いたがらないタイプの人だ。


 二人で森の中を進んでいくが、少しずつ傾斜が強くなり木々の数が減っていく。

 山の方に近づいているが、ここには伝説のドラゴンがいたらしい。


 書物で呼んだことがあり、気になってレイナさんに聞いてみたら彼女が邪魔だから殺したらしい……可哀想に。確か三日三晩寝ずに戦い、何百回か殺したらしい。それだけドラゴンと言うのは生命力が高いという話がいきそうだが、それよりもそれだけレイナさんが殺し続けたという事が恐ろしい。


「突然変異ってこともあるしな。最強が世界最強になっちまったわけだ」


 ……突然変異。

 僕には双子の妹がいたが、彼女は普通に魔力を発現している。つまりそういうことか。



「レイナさん、そっちじゃないですよ」


「ん? 悪い、そっちだっけか。もう10年近く来てねえから忘れちまった」


 つまり、僕が弟子に来てからほぼ来ていないわけだ。

 レイナさんがどんどん進んでいくけど、勘で進んでいたのか。



「あとヒールも履いてるんですし、僕が先歩きますよ」


「よし、任せた」


 なんで山に来るのにヒールを履いてきたんだろう。師匠のことだからそもそもヒール以外持っていないとか言いそうだけど、今度探してみよう。

 それから僕と師匠は久し振りに長い間の雑談をこなしつつ、勾配のある道を進んでいく。霧があるものの、レイナさんにはいろんなものが見えているらしく時折きょろきょろと周りを確認している。


「おお、すごいな。あたしがとってた時はこんなに生えてなかったのに」


「一応レイナさんが好きだって言っていたので育ててたんですよ。結構育てるの大変なんですけどね。そういえば」


 僕は兼ねてから疑問だったことを口にする。


「なんで世界樹の葉なんですか? これ芝生みたいに下に生えてるじゃないですか」


 岩が多い山だったが、草木などの自然が全くないわけではない。岩の影などに健気に生えているのが世界樹の葉だ。

 正式名称は知らないが、最低でも僕からしたらこれは世界樹には見えない。


「これはあたしが命名した。なんとなく稀少価値が付きそうだろ?」


「…………」


 あっけらかんと言い放つけれど、最早これは詐欺ではなかろうか。

 世界樹って聞いたら何かでかい樹を連想しちゃうじゃないか。


「というのは嘘で」


 ムッとするよりもほっとした。

 レイナさんは頂上の方を指さすのだが、普段から常に雲に覆われて頂上が見えないのに今は霧も相まって何も見えない。


「あそこには世界樹があんだよ」


 僕はあそこまで登ったことがないが、師匠がそういうのだから本当なのだろう。

 もしかしたら非常に標高が高くなければ十分には育たないのかもしれない。確かに僕は世界樹の葉が花を咲かせているのを見たことはない。


「これだけ取れば大丈夫だな」


「別にまた今度僕が取りに行きますよ?」


 レイナさんは適当な量毟って僕に持たせた。取るけど僕に持たせるんですね、もうそれ僕が全部やっても問題なさそう。


「よし、帰るか」


「気が付いたら完全に明るくなってましたね、でもこれだと朝ごはんが遅れそうですが」


「それはそうだな」


 僕の方に近づいてきて、いきなり膝カックンをくらわしてきた。

 不意打ちに、当たり前のように僕は体勢を崩すと彼女はそのままお姫様抱っこをする。


「ちょ、レイナさん!?」


 左上半身に胸が押し付けられるが、そんなようなことを考えている間に彼女は大きく跳躍していた。



「……それなら始めからこれでよかったんじゃ」


 何時間かかけて歩いてきた行きの時間。

そして十秒前後で戻ってきた帰りの時間。


「ん? だからデートだって言っただろ?」


 僕の師匠はそう言って笑っていた。


急に短編?を思いついてしまったので載せてみました。

もしかしたら今後も章の切れ目、幕間で短編みたいのを載せるかもしれません。時系列は一応章後ということで。

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