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第2話 噂が偶然にも真実でした

 さて、正直レイナさんの圧力に屈して弟子を取らされたわけだが、僕の魔力が0ということを向こうからやっぱりなしということを言ってくれないだろうか。

 今すぐにでも、真実を告げたくなる感覚に襲われたが、僕はずきりと胸を締め付けられるような感覚に襲われる。


 ダメだ、それだけは絶対にダメだ。



「師匠?」


 セリカちゃんが心配そうに顔を覗き込んでいる。自分が気付かない間に額からは脂汗が出ていたようだ。誤魔化すように額を拭って紅茶を口に含む。


「あ、いやごめんね。なんでもないから」


 慌てて取り繕う。彼女は思うところがあったのだろうが、僕が否定したことで口には出さず飲み込んでくれる。


「実は僕、長らく社会の喧騒から外れていたから自分の噂を知らないんだけど、【不可視】について聞いてもいいかな?」


 別の話題にすり替えることにする。


「えっと、代名詞的なことで言えば、今も師匠がやっていらっしゃる魔力の感知をさせない魔力遮断能力ですね。お会いした時から今までずっと魔力を全く感知することが出来ないのですが、日常的にも遮断し続けるなんて流石です!」


 ……やめて、そのまるでこの人すごいみたいな表情するの本当にやめて。

 本来、お互いに魔力はある程度感知することができるみたいで、魔力が強ければ強いほど感知されやすくなる。皇帝レイナさんみたいな世界最強であれば感知されないように遮断することもできるみたいだが、そもそも魔力のない僕からしたら全く関係のない話である。

 恐らく【不可視】という二つ名の由来がここから来ているのだ。


「あと精神系魔法をすべて無効化できる強力な抵抗力(レジスト)を持っていると聞いたこともあります」


 精神系は相手の魔力に干渉して作用を引き起こす魔法だから、そもそも魔力の……以下略。


「あとこれは師匠にも確認してみたかった噂なのですが、この世界の根幹をなす結界の一端を担っているだとか、致命傷すら回復させる稀少アイテム『世界樹の葉』をとれるのは師匠だけだとかです」


 世界樹の葉について僕は聞き返す。

 前者の噂は確実にただの噂で師匠が面白がって言っている情景が思い浮かぶ。


「その反応ですと噂なのですね……こんなはっぱみたいです。稀少なので私も実物を見たことはないのですが」


 セリカちゃんは残念そうにしていたが、恐らく魔力を込めているであろう指先をテーブルの上を滑らせていくと、魔法により描かれていく。


「へえ……これが、世界……樹の葉?」


 何か見たことあるな。

 僕は視線を下に落とし、ティーポットの中でゆらゆらと揺れている葉を見る。


 うん、なんかこれと似ている。



「もしかして、これのこと?」


 ぎょっとしたように少女はカップを取り落とす。割れるほどの高さではなかったが、高そうな制服には少しだけ紅茶が飛び散り染みを作っていく。セリカちゃんはそれすら気にしていない。


「な、せ、世界樹の葉で紅茶を!?」


「いや、これ森で取れる葉なんだけど、見た目似てるなーって」


 僕は一旦台所に戻って、まだ紅茶用として処理する前の葉を一枚取りに行く。


「こ、これですよ! このティーポットに入ってる量だけで一生暮らせる金額の価値があるのに、それを紅茶にするなんて! 世間の価値観に囚われないその豪快さに感服します!」


 うちの師匠がこの葉で淹れた紅茶が好きだから、僕が定期的に取りに行かされるだけだ。そこまで大変でもないのに、この葉にそこまでの価値があるのか……


 そして僕はここで非常に残念なことに気が付いてしまった。今までセリカちゃんが言っていた話のうち75%で真実だったことだ。

 これはまずい。嘘であれば否定はできたものの、真実であるとより僕がすごい人間みたいに勘違いされてしまうではないか。


 これは魔力がある前提であれば確かにすごいのだが、この世の人間が誰でも使える魔法を使えないという欠陥が大きすぎる。


「まあそれはいいとして」


「よくないですよ!」


 普段僕とレイナさんがいると僕が突っ込み役に回ることが圧倒的に多かったが、こう誰かがツッコミを入れてくれるのはいいね。


「セリカちゃんってノートル学園の学生でしょ? いつまでとか期限でもあるの?」


 できれば短い方がうれしいなとか思っていない、思っていないんだ。

 彼女は少し意外そうな表情を窺わせた。


「そうですね、一応お父さんにはまず2ヶ月くらいって言われちゃいました。高等部に上がれるかどうかの瀬戸際なので仕方ないのですが……」


 箱入り娘って感じなのかもしれない。とはいえ、中学生で一人森の中に修行へ出されるというのは親の心情を考えると微妙なところだな。

 2ヶ月だけ面倒を見て、是非とも表社会に復帰していただこう。


 そういえば、と僕は思い出す。

 ノートル学園ではそもそも才能があるとされた魔術師の卵たちが集まっている学園だ。そして入学したはいいものの他との才能の比較に絶望し、学園を去るものは一定数居る。高等部に上がれるかが一つの鬼門と言われているため、彼女の進退に関わるってことだ。

 ……大体の実力はこれでわかった。



「それはこつ……短い期間だけど頑張ろうか」


 危うく本音を言いそうになってしまった。

 しかし、そもそも僕は何を修行してあげればいいんだか。知識的な部分は日々書物を読んでいるからいいとして、実技面は一切役に立たない。

 そんな僕が高等部に上がれるかどうかの瀬戸際の彼女の修業っておかしくないか? でも藪蛇になる方が嫌だからスルーする。



 ちらっと視線を移し、壁にかかっている時計を確認する。


「あんまりのんびりしてても無駄に過ごしちゃうだけだし、とりあえずこれから過ごす部屋を案内するよ。流石に荷物は収納魔法で持ってきているんでしょ?」


「あ、はい。宜しくお願いします!」


 僕と師匠の二人では住むには広すぎる館で、2階建てではあるが何故か客室や応接室もきちんとある。別にこの子一人程度増えても何も変わらない。


「ここはレイナさんの隠れ家で、今は仕事でいないけど普段はだらだらしてるよ」


 僕らは部屋を出てざっくりと館を案内しながら、雑談を続けて情報を収集していく。

何故師匠がこの子の弟子入りを許可しようと思ったのか。どう考えても善意で師匠が動くわけがないから、何か裏があるのだ。


 セリカちゃんは15歳で僕よりも3つ年下。飛び級などはなく年齢通り中等部3年生。再来月の進級試験……もとい退学試験の準備期間。

 修行をしようと思った理由は、自分に才能がないとわかったから。努力で補おうとする分、日々惰性で生きている僕とは住んでいる世界が違いすぎる。

 得意魔法は破壊や崩壊と言った攻撃呪文だが、あまり制御が効かなく危ないとかなんとか。


「……とりあえずセリカちゃんが知っている必要がある場所はこんなところかな。さてと」


 レイナさんに入ってはいけないと言われている部屋や、家事に使う場所、屋外を除いて大まかに説明する。


「雑務があるから夜まで自由にしてもらってもいいかな?」


 時計の鐘が5回鳴らしたあたりで、彼女に自由を与えることにする。僕の弟子とは言え今日来たばかりの客人だ、彼女を連れて雑務をする必要はない。


「私も行きます! 師匠のお手伝いをします! 師匠の雑務は弟子がしなくては!」


「遠慮しておく」


「はやいですっ!」


二つ返事で拒否するが、彼女は食い下がる。

 そこから押し問答を数分やるのだが、結局僕が折れた。



 先に言っておく。恐らくこれから恐怖体験をするだろうけど、僕は止めたんだぞ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポよく会話中心に進んでいくので読みやすいです というかあらすじからゼロの願望が駄々漏れで笑ってしまいました。振り回されていく感じ、好きですわ…
2020/10/02 17:46 退会済み
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