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第14話 忍者の隠里へ


「なんでいきなり師匠とアヤメちゃんが結婚することになってるんですか!」


「いや、なってないから」


「でも師匠!」


 何故君がそこまで怒るのかはわからないが、ダンゾウさんはそういう話をしていないのだろう。立場上ってことで、僕が忍びの一族になれば他からの文句が出にくいってことだ。


「名目上夫婦であれば誰も文句を言えないという事でしょうが、それはアヤメちゃん本人の意思としてはどうなんですか?」


「……私は構いません。頭領の意向なので」


 なるほど、忍びの里では頭領の意思が絶対なのか。

 顔を俯いているアヤメちゃんを見て、僕は少しだけだけど嫌な感情が沸き上がる。つまり、自分の娘だろうがこの親からしたら選択肢のカードの一つなのだと。



「引き受けて頂けないでしょうか」


「お断りします。僕は親族を切り捨てるような集団とは距離を置きたいんで」


 丁寧な口調にしていたが、少し嫌悪感を示す。


「あ、いえ。そこは訂正させて頂きたいのですが」


 少し慌てたようにダンゾウさんが言い取り繕う。

 説得ではなく、訂正? 僕は少しきょとんとしたように聞き返す。セリカちゃんも口を出したそうだったが、我慢してくれている。


「勿論私は頭領ですが、同時にアヤメの父親でもあります」


 口調がやや柔らかくなる。


「里に帰ってきたアヤメから貴方の話を聞き、アヤメが非常に気に入っているようなので是非にと思いまして」


「はい?」


 アヤメちゃんが僕を気に入っている?

 彼女の方に視線を向けると、ずっと下を見て表情を見せてくれない。というか耳まで真っ赤になってる。


「今後のイルガの里のこともありますが、やはりアヤメの将来も心配なのです。あなたの妻であれば、確実にコルガの者たちも手出しは出来ないでしょう」


「……えーっと、ごめんなさい。とりあえず僕はアヤメちゃんと結婚するつもりはないですし、イルガの里の頭領にもなるつもりはないです」


「それはやはり、お隣にいらっしゃるセリカ嬢とご結婚されるからでしょうか?」


 おい、ダンゾウ。思わず心の中で呼び捨てにした。


「そそそそんなわけないじゃないですか! 私は師匠の弟子なんですから!」


「仮に、セリカ嬢とご結婚されても、第二婦人ということでどうでしょうか」


「うーん、それだったら……?」

「いや、遠慮します」


 押し問答を繰り返すのだが、やはりアヤメちゃんの父親。全くの平行線でどうやっても話が進まない。


「そもそもそれだったらもっと別の二つ名でいい人いそうじゃないですか」


 誰かは知らないけど100人くらいいるんだから。ちょうどいい人一人くらいいるだろう。何故僕なんだ、という感情が強い。

 アヤメちゃんも可愛い部類ではあるだろうが。


「しかし貴方の強さは我々忍びの頂点に君臨しているのです。常時魔力を遮断し続けられる精神力、人混みに紛れれば見つけられないであろう平凡な顔に体格。それが如何に貴重かわかっておられない」


 毎回毎回僕のこと褒めているようで貶していくスタイルなんなの?

 魔力については勝手に勘違いされているのはまあ許すとして、顔って……


 僕はため息をつく。



「それでしたら、アヤメとの結婚はひとまず置きます」


 一応父親と頭領の二つのミッションを同時にこなすのは難しいと思ったのだろう。流石に公私を分けてきた。


「いや、でも結婚しなければ僕は余所者ですよ? そんなのが頭領にはなれません」


 だからお断りします。という意味合いで言ったのだが……


「でしたら私が他のものを説得致します。是非里に来て頂きたい! 皆、貴方のその実力を見れば理解できるでしょう!」


 ごり押しにごり押しを重ねられ、僕は諦めて一度イルガの里に行くことになる。

 もう断る方が面倒過ぎたのだ。人間諦めが肝心なのだ。







「ネーカ、ごめんね。動いてもらって」


「イイ、ぜろトせりかトオ散歩」


 僕とセリカちゃんはネーカの頭の上に乗って、イルガの里まで向かっていた。

 はじめは鳥型のモンスターに運ばせるとダンゾウさんが申し出ていたが、隠れ忍び里に行く以上、脱出手段が欲しいから丁重に断った。


 となると一番確実な移動手段はネーカの上に乗ることだ。蛇は胴体が長いので、頭の位置は基本的に動かさずに森の中をすいすいと振動なく進んでくれるからかなり快適だ。


「ネーカちゃんありがとね」


 イルガの里はレイナさんの館ほどではないが隠密の魔法がかけられているようで、通常であれば行くことはできない。ただし、ネーカには魔法に対する抵抗力が高いので問題ないみたい。



「お待ちしておりました!」


 ネーカに乗っていた僕らよりも速いスピードで戻っていたダンゾウさんとアヤメちゃん。

 因みにアヤメちゃんは途中から僕と全く目を合わせてくれないし、話しかけても来ない。すごく気まずい。


「正直僕は待たれたくもなかった」


 ネーカには里の周りをうろうろしてもらう方針として、僕とセリカちゃんは里の中を案内してもらうことになった。


 イルガの里は村というような規模の大きさで、僕らが住んでいるような館とは違い平屋で木造の家が多かった。

 異国の文化みたいで非常に興味深いが、なるべく早く帰りたい。直ぐにも帰りたい。


「本日は時間も遅いので、是非お泊り下さい。精一杯もてなしますので」


 ……そうなんだよね。

 昼過ぎからネーカに乗ったんだけど、思ったよりも遠くてびっくりしたよ。

 森を出て、平原を越えて、そしてまた森に入ってやっと着いたからね。


 アヤメちゃんの家にお世話になることになる。


 頭領の家とは言え、普通の家とそこまで違いはないみたいだ。


「アヤメちゃんは料理上手いんだね」


「ありがとうございます、ゼロ殿」


 セリカちゃんの料理は全く違ってまともな料理を食べれて僕は感動するよ。

 異国の文化のように全然食べたことのない料理だったけど、多分おいしんだと思う。


黒装束から、着物に着替えているアヤメちゃんは非常に大人しく見える。

 因みにアヤメちゃんと僕の間には大体セリカちゃんがいる。多分自分のものがとられたような感覚になって防御感みたいのがあるのだろう。

 勿論僕はセリカちゃんのものでもないけど。


「【不可視】殿は寝室をどちらと共にされますか?」


「いや、どちらともしませんよ」


 何さりげなくアヤメちゃんかセリカちゃんと寝室同じにさせようとしてるんだよ。僕は少しずつダンゾウさんに対して苛立ちを隠せなくなってくる。

 うちの師匠と似たような性質を持っているのだ。


 なるべく一人で寝たいという事を伝え、会話もそこそこに僕は一人で部屋にこもることにした。

 明日里の長老たちと会って、きちんと事態の旨を伝えるつもりだ。



 その夜、僕は色々なパターンを想定して、いかにして断るかを考えていた。


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