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第13話 忍者娘リターンズ


「師匠師匠! 見てください!」


「どうしたの? ってなにその猫は」


「森で拾いました! 最近私が修行していると近くによって来るんですよ。可愛くないですか!?」


 セリカちゃんは猫型のモンスターを胸に抱いて、僕の書斎に乗り込んできた。

 この森では初見だが、いつの間にか住み着いたのだろうか。


「先に言っておくけど、飼えないからね」


 僕は読書中だから、本から眼をずらすことなく先に弟子にくぎを刺しておいた。

 図星だったのか、狼狽する様子は雰囲気だけで分かる。やはり彼女は非常にわかりやすい。


「えー……ダメですか?」


 上目遣いで見てくるけれど、僕はそういう甘い人間ではない。

 僕はそういう小型の動物は好きでもないし、そもそも動物に好かれない性質なんだよ。


 セリカちゃんは猫の脇の下を両手で持ってぷらんぷらんと僕の前に猫を揺らす。猫は気怠そうな表情のままなすが儘にされている。


「うん、ダメ」


「え、でもこんなに可愛いんですよ!? 人の心があれば癒されますって!」


 でも、のつながりとしては間違っている。

 珍しく食い下がってくる彼女に、どうすれば一番平和的に断れるか考える。


「師匠も触ってみてくださいよ、すっごく柔らかくてすべすべしてて撫で心地いいですよー、あっ」


 黒猫はぴょんとセリカちゃんの腕から逃れ、僕の足元に近づいてくる。そして脚にすりすりしてくるが、邪魔に感じてしまう僕は人の心を持っていないのかもしれない。


「ほらー、この子こんなに師匠に懐いているのに……」


「セリカちゃん、僕はあまり何度も言いたくないんだけど、森に返してきてね」


 あまり声を荒げないように、なるべく彼女に怒っているという印象を与えないように静かに言葉を紡ぐ。

 それでも僕がむっとしたような表情をしていたのか、彼女は黒猫を僕から回収して少し離れる。


「わかりました……」


 しょんぼりしているようだったが、この館に動物を飼ってはいけない。師匠であるレイナさんに何を言われるかわからないし、入っていけない場所に行く可能性もあるから当たり前だ。



「そもそもセリカちゃんはあと2週間くらいで一旦帰るんだから、飼えないでしょ」


「それはそうなんですけど、師匠がその間世話をしてくれれば……」


「あと、隠れて飼ってたら僕の弟子破門ね」


「今すぐ戻してきます!」


 別にレイナさんの命令で弟子を取ったのだから、僕に破門する権限は実質的にはないがセリカちゃんは僕の言わんとするところはわかってくれたようだ。


 そんな昼下がり、森から戻ってきたセリカちゃんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、のんびりと今でくつろいでいた。


 くつろいでいたのだが、何やらお客様がきたみたい。



「アヤメちゃんと……男性がいますね」


「なんかまた忍者っぽいのがいるね」


 窓の外を見ると、男女二人が門のすぐ近くにいた。

 一人はアヤメちゃんで、もう一人も黒装束だ。


「【不可視】殿、お初お目にかかります。アヤメの父親で、ダンゾウと申します」


 新たな来訪者を家に招くことになるのだが、僕は不用心すぎるのだろうか。ここには訪問販売に来る人もいないし、強盗に来る人もいるわけがないからいいのかもしれないけれど。

 テーブルに案内し、親子の向かいに僕とセリカちゃんが座る。


 ダンゾウと名乗った男性は、アヤメちゃんが出身の忍びの里の頭領をしているようだ。親子同伴で僕の家に何の用だろうか。

 アヤメちゃんはとても緊張しているようで、紅茶には手を出さずに視線を泳がせている。


「ご丁寧にどうも。【皇帝】の弟子をさせて頂いております、ゼロと申します」


 お互いに丁寧なご挨拶。

 緊張感があるため、セリカちゃんは名乗ることもない。



「先日はうちのアヤメがお世話になったとのことで、その御礼に参りました」


 深々と頭を下げ、元々手にしていた風呂敷から菓子折りをテーブルの上に置く。

 多分、僕が収納魔法を使えないから手に持っているのとは違い、礼儀的な意味で目の前で魔法を使わないみたいな感じだろうか。


「わざわざご丁寧に」


 その後お互い牽制する様に社交辞令を言う時間。彼が何故アヤメちゃんについてきたのか見当はついていない。

 頭領ってことで襲撃に来たなら僕もセリカちゃんも瞬殺されそうだ。


「あまり婉曲的な表現での会話が苦手なので失礼を承知でお聞きしますが、本日いらっしゃった御用件はなんでしょうか?」


 お互いに直接的な物言いをしないせいで上辺だけの話が水面を浮いていたけれど、僕はストレートに切り込んでいく。

 

「随分と真直ぐ聞かれますね」


 ダンゾウさんは苦笑しながら、にこりと笑った。笑ったと思ったけれど口元を覆っている手拭いがあるせいで今一確証はない。


「お互いの時間の無駄かと思いまして」



「率直に言いましょう、我らの里イルガの頭領になって頂きたい」





 いや、こいつ何言ってんだよ、と思った。

 なるべくポーカーフェイスで相手にペースを握られないようにしていたのだが、思わずダンゾウさんを凝視してしまった。


 まだまだ僕も子供だ。予想外な言葉で表情を変えてしまったんだから。


「そう驚かれるのも無理はないでしょう」


「…………お話を聞きましょうか」


 どうやって断るか算段を立てる。


「我々忍びというのは主に二つの派閥があるのです。一つは我らの里イルガ、もう一つがコルガ」


 その二つの派閥がしのぎを削っていたのだが、コルガの方が王族直属の暗部となりイルガが徐々に衰退の一途を辿っていた。

 元々実力的にはイルガの方が優れているのだが、それでも財政面や権力面ではコルガが優るようになり、今ではイルガ出身の忍びは暗殺されることもあるようだ。


「つまり、何か後ろ盾が欲しいと」


 【不可視】は元々このダンゾウさんの奥様がつけていたらしいし、僕が後ろ盾としていればある程度抑止力として働くのではないかとのことだ。

 なんで忍者軍団の権力闘争に巻き込まれるんだとか思ったけれど、おくびにも出さない。



「流石は【不可視】殿。聞いていた通り御理解が早い」


「聞いていた通り?」


 ちらっとアヤメちゃんに視線を向ける。


「で、引き受けて頂けないでしょうか。【不可視】殿が頭領になった暁には、我らイルガの忍び全勢力を貴方様に捧げるでしょう」


 いや、いらないんだよなぁ。

 僕はどこかと戦争でもするの?と言いたい。


 僕はただ平和に生きていたいだけなのに。


「因みにその決定は貴方の一存で許されるのですか? 全く関係のない僕が頭領になるなんて、普通の集団であれば納得しないと思いますが」


 いきなり否定からは言っても平行線になりそうなので、ジャブを入れる。


「それはご心配ありません。是非うちのアヤメを嫁にすれば【不可視】殿も忍びの家系に」



「ちょぉぉっと待ってください!!」


 僕が何か言う前に口を開いたのはセリカちゃんだった。

 いきなりテーブルに両手を叩きつけて怒りを示すのだが、すごくびっくりした。



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