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最終話 今日も朝は始まる

「そうですか、そしたらもう死ぬつもりもなさそうで安心しましたよ」


 セリカちゃんを育てるつもりみたいだし、今は死ぬつもりじゃないはずだ。

 レイナさんのその驚いた顔を見れただけで、なんか今日は良かった気がする。



「いつから気が付いていた?」


 少しばつが悪そうに苦笑いを浮かべているレイナさん。

 僕は思い出しながら返答する。


「うーん、セリカちゃんが弟子に来たときですかね」


「おい、完全に最初からじゃんか」



「確信に変わったのは、ノートル学園で理事長と話したときですかね」


 実際、それまではあくまでも推測の域を出なかったし、他の候補の方が確率は高かったと思う。

 だからこそ一言も質問はしなかったわけだが。


「理事長から、レイナさん側からセリカちゃんみたいな子を希望していたって聞いたので」


「あいつめ……余計なことを」



「僕が元々いた人間社会に戻れるように色々手配してくれていたんですよね」


 まず、セリカちゃんのように社交性が高くて世間知らずな子を寄越して、強制的に弟子にして外界との繋がりを作る。

 そしてそこから少しずつ僕が人間社会へ復帰できるようにあの手この手で外に引っ張り出していこうという算段だ。


「でないと、僕に二つ名をつけたことや理事長だけ記憶を残したことに意味がないんですよね。賢人として働くか、ノートル学園で働くかは別として、そういう構想はあったのかなって」


 誰か、信頼できる人には僕の保護者的な役割を求めていたんだろう。それが理事長になった理由はわからないが、レイナさんの目に狂いはないはずだから正しい選択だったんだろう。


 ドクターに拷問されることは予定外だったのかもしれないけれど、基本的にはレイナさんの掌の上だったという事だ。



「やっぱり、それだけ魔神は強敵だったんですかね」


「まあ、それもあったが」


 少し歯切れが悪そうだった。



「お前にはすぐ否定されたけど、心の中ではなんだかんだ信じられなかったんだよ。ゼロ、お前があたしのことを殺すんじゃないかって」


「…………」


 魔神がエルザさんの元凶だとするならば、レイナさんが僕の元凶だ。

 僕の魔力を奪い、地獄のような10代前半を過ごさせた張本人。



「だからよく試すようなことをさせたし、あたしが死んだ後のことも結構考えていたんだよ」


 なんだかなぁ……

 弟子はこんなにも師匠を信頼しきっていたのに、師匠は弟子をそこまで信用していなかったわけだ。


 でも、それはわかる気がする。


 加害者は忘れるが、被害者は忘れない。そんな常識的なことを考えていたんだろう。残念ながら僕は常識的ではなかったんだろうけれども。



「残念でしたね、全然的外れでしたよ」


「本当だよな、これだったら出会ったときからもっと可愛がっておけばよかったわ」



 いろんな意味で可愛がられていましたけどね。

 多分、レイナさんは本当に僕について責任を感じていたんだろう。特に、僕以外の魔力がないものは全滅してしまったから、余計に僕だけはって思いが強かった。



「まったく、わざわざモカを賢人に挙げる必要もなかったのか」


「え、そこまで昔の話になるんですか?」



「当たり前だろ。いつかはお前に秘密を話さないといけないとは思っていたんだ。それまでに一人で生きられるような地盤を作っておきたかったんだよ」


 だからアヤメちゃんやモカちゃんに出会わせたという事だろうか。


「僕と年が近い女性を集めたことに理由ってあるんですか?」


「そりゃあゼロちゃん、思春期真っただ中の男なんだから一人くらい恋人になってもおかしくないなぁって」



 ……なるほど。それも随分見当違いな話だが、そこはもう触れないでおこう。

 全てはレイナさんの早とちりだった。それだけの話だ。



「結果的に、ゼロちゃん。お前はあたしが思っていたよりもまともだったけれど、あたしが思っているよりも馬鹿だったわけだ」


「馬鹿とは失礼ですね」


「あたしを本気で好くなんて流石に思いもしてなかった」


 ……やっぱり半ば冗談だと思われていたのか。

 僕はレイナさんと初めて会ったときのことを思い返す。


 それこそこれから思春期に入るであろう少年が、あんな絶世の美女に命を助けられたら誰だって本気で惚れこむと思う。



「まったく、困りものですよ、誰のせいでしょうか」


 誰のせいだろうね、全く。

 つまり、レイナさんの自業自得ってことだ。


「ふふ……ほんとだよ」



 魔王と勇者によって魔神は死にかけて。死にかけて逃げた結果、対策としてレイナさんに魔力を集められて。僕の魔力を奪った結果、僕がぶっこわされて。助けた結果、惚れられて。でも信用できなくて自分が死ぬ可能性を考慮した結果、ただの杞憂で。


 なんかこう、徒労が尋常ではないかもしれないけれど、終わってみれば結果オーライだ。



 そして家の近くの森で、鼻歌を歌いながらスキップしながら歩いてくるノートル学園の制服を着た小柄な少女の姿が見える。


「さて、ゼロちゃんよ」


「なんですか?」



「また今度な」


「はい、気を付けて行ってらっしゃい」

 もう完全に朝だ。

 レイナさんは音もなく消えるのを見届けてから、僕は梯子で地上に戻ってルンルンとご機嫌な少女を待ち受けることにする。







「ゼロ様、おはようございます!」



「おはよう、セリカちゃん。今日は早いね」



「はい! 修行させてもらいに来ました!」




 やれやれ、また僕の日常が始まるのか。

 とりあえず、朝ご飯でも作ろうかな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何だ…目から謎の液体が….。 [一言] 小常堂 海先生、お疲れ様です、とても楽しませてもらいました。                                            …
2020/11/16 05:35 ハリケーン
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