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第109話 兼ねてから疑問でした

 レイナさんは感心したように頷いているのだが、僕は登り始めた朝日をみながら少しだけ言い訳を心の中でする。


 実際のところ、外したところでリスクが低かったのだ。

 賢人を抹殺してしまえばそれだけ戦力が落ちる。ロミアちゃんはナイフでは殺せない。


 アル君かエルザさんであれば、疑わしいエルザさんから殺す、それだけだ。



 賭けに出なければならない程度には僕は追い詰められていたわけだ。

 それでも7回に1回が2回に1回になるなら、運命をかけてもいいとは思っていた。失敗してもレイナさんが尻拭いしてくれるし。


 今思いついたけれど、エルザさんが水着の上にシャツを着ていたのは心臓を隠したかったのかもしれない。実際のところ知らないけれど。


「まったく、お前があたしの弟子で良かったよ、ほんとに」


 レイナさんはエルザさんの過去を語ってくれた。

 オーテルダムの近くのモンスターに壊滅させられた村で一人だけ生き残っていたらしい。

 どうやって生き残ったのかは本人も覚えていなかったが、まだ幼かったエルザさんをレイナさんは助けたらしい。


 そこからの付き合いだったのだが、もしかしたらその時から既に依り代だったのかもしれない。モンスター事態が魔神に洗脳されていたとか。

 勿論、その事実や僕の推測に何の意味もない。


 事実として残されているのは僕の賭けが偶然にも上手くいったというだけなのだから。

 勝てば官軍負ければ賊軍、全てが終わった後に振り返ってもいくらでも言える。



「しかし、惜しい人材を殺したな」


 そういえば誰が殺したということになるんだろうか。

 魔神なのか、僕なのか、それともレイナさんなのか。



 そもそも人間として殺したのは魔神だし、依り代として殺したのは僕だし、魔神として殺したのはレイナさんだ。

 魔神の依り代となった彼女は、洗脳されて裏で色々操られていたんだろうし、完全に被害者なわけだ。


 今回のように前代未聞のバトルとなったのは、結果的に誰が依り代でも変わらなかったんだろう。


「魔導評議会で司会進行していましたしね」


 そのせいでブーザー教団に魔導書を奪われたという適当なことも言われてしまったわけだ。何が、信頼できる筋だ。自分で見ているんだから当たり前じゃないか。


「まあな、まともな人間ではあったし。正直、あたしは評議会をやめるしある意味丁度良かったか」



「え、やめるんですか?」


 レイナさんは髪をかき上げる。

 その動作に惚れ惚れしながら僕は驚きの声を隠せなかった。


「元々魔神を倒すための情報収集目的だったしな。もう目的も達成されたわけだし、これ以上あそこに留まる必要もないわけだ」


 ……それもそうか。

 世界には平和が訪れた。その事実さえ真実であれば、彼女からしたら魔導評議会はもう不要だ。


 よくよく考えたらレイナさんが組織に属している時点で疑問を持つべきだった。自由奔放なうちの師匠が組織に縛られるんだから目的があって当然だ。


「で、これからはどうするんですか?」


「別に今まで通りのんびり過ごすよ。とりあえず孫弟子もいることだし、適当に次の世界最強にしてもいいかもしれん」


 セリカちゃん、逃げて。超逃げて。

 多分この人が本気で目指したらセリカちゃんがとんでもないことになってしまうし、僕がそれを止めることはできない。


 モンスターの中に放置したり、超危険な場所に置いて行ったりするんだろう。勿論、レイナさんは絶対に片時も目を離さない、世界一安全であることは保障されているけれど。


「本人の意見も汲み取ってあげてくださいね」


「うーん……それを言うと、お前が大変な目に遭うけどいいのか?」


 ……いや、何の話?

 え、魔力のない人形に修行を積んでほしいってこと?


「それに、セリカにまだお前は渡せんから、手厳しく指導していくか」


 僕は未来でひどい目に遭う自分の弟子に一応合掌しておく。

 死ななければ大丈夫だよ、多分。




「あ、そういえば」


 セリカちゃんを思い出して、僕はレイナさんについて一つだけ気になっていたことがあったのだ。

 ずっと前から、そもそものこの僕の冒険の始まりとなる疑問についてだった。


 今までは魔神関連のせいで聞くタイミングがなかったんだけれど全てが終わった今、そして全ての答えを得られた今、質問しても許されると思う。




「答えたくなければ別にいいんですけど、一つ質問してもいいですか?」


「その質問で既に一つしているけどな」


 そんな屁理屈は聞きたくないんですけど、という僕の本音を読み取ったのか、レイナさんはいいよ、とでもいうように笑った。


 僕はどうやって聞こうか少し悩んだけれど、結局ストレートに聞くことにした。

 なんかあまり駆け引きをしない方がうまくいく気がしたし。


「もしかしてレイナさん、死ぬつもりでした?」


 ぴくり、と彼女の動きが止まった。


 ……図星だったのか。

 僕は苦笑しながら紅茶を一口含んだ。


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