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第107話 いつもの日常に戻りました

「お、やっと来たか」


「いや、集合よりもかなり早く来たつもりですが」



「何言ってんだよ、あたしが来た時間が集合時間だろ?」


 レイナさんはにやにやと笑っている。

 ため息をつきながら、僕は屋根によじ登る。


 自宅である屋敷の屋根に集合というのは面倒なものだ。そもそも屋根って普通人が登ることを想定していないんだから、僕には厳しいんですが。


 でも、いつだったかレイナさんから出自や秘密を聞いた時にも登っているから、今回は対策で梯子を持ってきていた。



「最近忙しそうでしたが、大丈夫ですか?」


 魔神を倒して以来、レイナさんはとても多忙な日々を迎えていた。

 人間界でも災害が各地で起こり、魔界は半壊した状態だったため色々と内政干渉が必要になっていた。


 王族は権力を持つものの、力はない。対する魔導評議会は力を持っている。

 その中でも世界最強であるレイナさんが世界をリードすることになっていた。



「まあな、生き残った魔族の受け入れは進まねえが、その辺は王族でも滅ぼしてから考えるかな」


 勿論冗談だろうけれど、やはり魔族の受け入れは順調ではないようだ。


 人間と魔族というのは種族が違うものの、この世界で生き続けている謂わば運命共同体だ。今回、共通の敵という魔神を倒したように、どこでいつ協力するかわからないのだ。


 魔導評議会は全面的に魔族の受け入れに乗り出しているみたいで、人間も休戦状態であったことを知っているので拒絶的な反応は大きくない。

 特に魔神を共同で倒したという事実は大きかったみたいだ。



「どうぞ」


 僕は水筒を渡した。

 今日のように冷えた夜明けには温かい紅茶がおいしい。でもなんでこんな時間に集合させたんだよって感じだ。


 レイナさんは僕から受け取りつつ、今回は寝転がらずに腰を落とした。



「で、突然館の屋根集合なんてどうしたんですか?」


「久しぶりに恋人のゼロちゃんに会いたくなった。それだけでよくないか?」



「よくないですよ。そもそも恋人じゃないですし、わざわざ館の屋根にする理由になってませんし。更に言うならつい先週も会ってるじゃないですか」



 一応僕もまだ五大賢人らしく、いつ辞めさせてもらえるか交渉中だ。そして、つい先週も魔導評議会で会議があったので仕方なく参加させられた時に会っている。


 適当なことを言い始めるレイナさんはいつもと変わらずにやにやと笑いながら、わしゃわしゃと僕の頭を撫でる。



「リイランが死んだよ」



「はぁ!?」


 いきなり爆弾をぶち込まれた。

 流石に冗談を言う内容でもないから、真実なのだろう。


「え、えーっと。僕は何を言えばいいんでしょうか」


「別に、あたしの話に相槌を打てばいいだけだ」


 僕は黙って頷いた。そして水筒を返されるので受け取る。

 レイナさんは僕から視線を外して頭上に広がる夜空を見上げた。


 空は雲一つなく夜明けが綺麗だったが、因みについ先程まで曇り空だったのをうちの師匠が無理矢理晴らしただけだ。



「元々魔神を倒して死ぬ予定だったみたいだしな。無理矢理魔力で生き永らえていたみたいだわ。あぁ、清々したな」


 全然そんな表情ではない。


「あの世で夫と仲良くしてんじゃないか? よく知らんけど」


「……やっぱり、勇者は既に亡くなっているんですね」


 人間だから当たり前だとは思っていたし、万が一にもいたら最後の戦いにも参戦してくれているだろうし。


「そもそもあたしが生まれたタイミングで死んでるぞ」


「え、そうなんですか?」



 リイランさんから聞いていたんだろうか。


「常識的に考えればわかることだ。あたしに魔力を集めたり時間を止めたり禁呪をわんさか使ってんだぞ。つまり、そういうことだ」


 ……ああ、なるほど。

 勇者エルノーは、未来の世界の為に、レイナさんの為に命を費やしたのか。

 


「魔界に一応墓標はあったんだが、あの女も死んだから一応山の上に墓標を移しておいたよ。古龍もいつかは死ぬし、過去の歴史はこうして埋没されるわけだ」


「……そうですね」


 淡々としているようだが、レイナさんの顔を見なくてもわかる。


「もしかしてレイナさんは知っていたんですか?」


「何を?」


「リイランさんのことです」


 ふん、と鼻を鳴らした。

 そしてまた僕の黒髪を、今度は雑に撫でた。


「どっちでもいいことだろ」


 知っていたのか。

 そしたら、僕はリイランさんを止めなかった方が良かったのかな。最期は親子で戦わせてもよかったんじゃないだろうか。

 その選択はわからないけれど、多分リイランさんが加わったところで多少時間がかかるだけで魔神を倒すことはできたはずだ。


 ……どっちがよかったんだろう。

 でも、レイナさんがリイランさんの死を知っているということは最期和解でもできたんじゃないかな。親子の問題に僕が首を突っ込むこともない。



「今後の魔王ってどうなるんですか?」


「一応ロミアがやるみたいだな。あいつなら問題ないだろ」


 もう一人の生き残っている幹部が補佐をして、人間界に馴染むようだ。特にロミアちゃんは人型だし常識的だし人間受けはよいはずだ。


 もう何ヶ月も液体美人には出会っていないが、多分もうそろそろ会議とかで会えるんじゃないかな。僕の賢人引退が先かもしれないけれど、暇があったら館まで来てくれるでしょう。



「まあ、そんなくだらない話をしに来たんじゃねえよ」


「くだらなくはないですよ」


「エルザの件。まだ聞いていなかったからな」



 ……まあ、その件だよね。


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