第106話 圧倒的勝利
最早その他観客と化している僕たちなのだが、レイナさんと魔神は壮絶な戦いを繰り広げている。
よくもまあ魔界が持っているなと言いたいところだが、破壊されているせいで魔族が揃って二人に襲い掛かろうとしていた。
普通は多勢に無勢、数が多い方が勝つのだろう。しかし圧倒的な実力差の前には風の前の塵に同じ。全く意に介さない二人の暴れっぷりに被害だけが増えていく。
「……とりあえず、もしかしたらこれで魔族は終わりかしらね」
「それに関しましては不明です。ただ、これ人間界にも被害出ているでしょうね」
ロミアちゃんが魔王に返答している。
最早戦闘態勢を解除して、全く周囲を警戒している様子すらない。
確かにあそこまで超人的なバトルを繰り広げられると、最早戦う気すら起きないのだろう。僕が魔法勝負を挑まないのと同じ理由だと思う。
勝てるわけがない、死ぬとわかっている試合を挑むのは勇敢とは言わない。勇敢と無謀には境界ラインがある。
「これ、均衡状態に見えるんですけどどうなんですか?」
「それはどうかしらね。レイナちゃんは体力的に削られるし、魔神の魔力は無限ではないわ。どこかで私たちが介入できるかもしれない。出来ないかもしれないけれど」
それもそうか。
僕を除く彼女たちはみな化け物クラスの強さだ。ただ、今空間を歪めるような戦いをしている二人が異次元過ぎるだけだ。
「モカちゃんは精神攻撃仕掛けてないの?」
首を横に振っている。
アル君と【要塞】、【粉砕者】の精神状態を抑えているようだ。
「それに、太刀打ちできないから逆に洗脳されるかもしれないしね。レイナ様の足を引っ張るのが今最悪でしょ?」
そして僕らの目の前にレイナさんが地面に叩きつけられた。
地面に亀裂を作ってめり込むのだが、すぐさま上空に飛んで魔神を蹴り上げる。
「……これ、すごいですね」
「そうね、お金を払っても見られるものでもない」
僕の呟きに【猛吹雪】がため息をついている。
レイナさんが勝つんだろうけれど、世界で1番強い者と2番目に強い者が戦っている。
僕以外は比較的目で追えているのか、時たま皆は顔を動かしている。
しっかりと見るように言われているものの、猛スピードで動くならもう無理だ。
それでもわかる。
レイナさんが少しずつ、それでも確実に魔神を追い詰めていく。
別に理由なんてない。
ただ、何となくそう思うだけ。自分の師匠を無限大に信じているわけではない。冷静に考え、状況を見極めているだけだ。
その過程で、多少偏見というか偏った見方や考え方があるだけだ。
全力を出しているレイナさんをそもそも見たことがないし、どれくらい今疲れているのか、魔力を使っているのかわからない。
「ゼロ君、何を考えているの?」
僕は静かに考え始めていた。
「あ、いや、全然大したことじゃないよ」
今日の食事はどうしようかと。
レイナさんの好きな物でも作ってあげたいところだ。
でも、流石にこんな世界の一大事でのんびり食事を家でとれるだろうか。
「あ、今日家に帰れるかなって」
「……何を暢気な」
「僕は始めからレイナさんが勝つに命を賭けているので、あとはいつ帰れるかの違いなんですよね」
魔神の腹部を抉り、風穴を開ける。
再生させない攻撃によって、次々と体に外気と交通する穴が増えていく。
均衡していたバランスがすでに崩れ始めていた。
僕が知っている方向で。
リイランさんは冷静に状況を分析していて、どこで協力しに行こうか考えているようだった。
「多分、行かない方がいいと思いますよ」
「……やっぱり邪魔になるのかしら」
「あ、いえ」
レイナさんは先程【猛吹雪】を庇ったときもそうだけれど、基本的には味方を守ろうとしている。僕だったらここぞとばかりに利用するのだが、そこは師匠の人間性……魔族性? いや、半人半魔性は立派なものだ。
僕を守っているのもそうだけれど、それをやった上でも勝てるとわかっているのだ。
だからこそ、余計な味方はいない方が自由に戦えると思う。
「レイナさんからしたら、母親を巻き込みたくないと思います」
「……あの子は母親だとは思ってくれてないわよ」
それはわからない。
いつかレイナさんに聞いてみたいのだけれど、でも言うほど嫌ってはいないと思う。
本当に嫌っているならば、そもそも交換条件の有無にもかかわらず魔神と戦うことを約束しないだろうし、敵対しててもおかしくはなかった。
でも、親子の形なんて色々あるだろうし。
「それ含めて、今度聞いてみましょうよ」
こんなことを言うと、レイナさんが負けたり相討ちになったりするかもしれない。
最後魔神が自爆して僕らを庇って死ぬという流れがあるかもしれない。
「…………まあ、それすら起こらないし、圧倒的に倒してこその世界最強ですよね」
世界最強が世界最凶を、レイナさんが魔神に勝った。
【皇帝】が右腕を高々と振り上げて、勝利の雄たけびを上げて、この戦いに終わりを告げた。
完全勝利だった。
はぁ……疲れた。