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第105話 世界一の安全

 その証拠にレイナさんが魔法による攻撃を与えるときは回避できずに食らうことが多い。

 そして、攻撃を浴びても超再生している。



「愚かな」


 僕とレイナさんたちが戦っている場所は離れていたのに、魔神の声だと確信は持てた。

 それくらい悍ましく、深く、僕でも鳥肌が立った。



 その声に洗脳魔法が乗っているのか、アル君と【粉砕者】、【要塞】の足が一瞬止まる。

 この死闘に一瞬など致命傷だ。


 同時に三方向に発射されて光の線は、三名を貫通しても全く勢いは衰えず水平線に軌跡として残した。



「隙ありだよ!」


 どこに隙があるのかは知らないけれど、レイナさんの右手が魔神の左腕に振れる。

 触れられた腕は、まるで腐食するようにぼろぼろと崩れ落ちていくのだったが、魔神は右腕を振るって『自ら』の腕もろともレイナさんの右手を切断する。


 

 レイナさんの表情は一瞬歪む……が、にやりと笑って左手であらぬ方向へ落下していく右手を掴む。

 残された手首と、手を合わせると、なんとびっくり右腕がくっついている。


 ……なんだこのうちの師匠は。


 この人死ぬのかな。



 更に【猛吹雪】が魔神の背後から老体とは思えない速度で接近して氷の剣で背中を貫通する。


「どけ!」


 レイナさんが老婆を薙ぎ払って吹き飛ばすと、今さっきいたところに溶岩が噴出して高々と赤い液体がまき散らされる。


 溶岩を浴びても全くダメージも入らないレイナさんに対して、レイナさんに触れられて腐ったように腕を落とした魔神。

 魔神はエルザさんだった顔を憎々し気に歪め、自らの左腕を見る。


 再生されない。



 これが、魔力を流したという状況なんだろうか。

 わからないけど、もうそれでいいや。


 だってよくわかんないもん。

 なんだよ、これ。

 なんだって僕は観戦者としてこんな世界を揺るがすとんでもない戦いを見ているんだろうか。



「え、アル!?」


 地面に転がっていたモカちゃんは、アル君の豹変を感じたようだ。

 アル君は急にレイナさんに突っ込んでいく。


 先程受けた光の線によって腹部からはおびただしい量の出血が流れ続けているのだが、まったく気にしないように突進する。


 それは、【粉砕者】や【要塞】も同じようだ。

 リイランさんに襲い掛かる。



「レイナさん! せんの…………ええぇ」


 洗脳魔法によるものだと言い切る前に、またもボールのように何かが僕のすぐ近くまで飛んでくる。

 レイナさん、アル君を思い切り蹴り飛ばして一瞬で昏倒させる。


 この人には人の心がないんだろうか。



 そして僕の頭の上からどさどさと植物が大量に落下してくる。


「ゼロ! こいつらに食わせておけ!」


 世界樹の葉だ。それもこんなにたくさん。

 光の線に加えてレイナさんから渾身の蹴りを浴びて、明らかに両脚がおかしな方向を向いているアル君。それでも彼女の方に向かっていこうとしている。


 モカちゃんも悲痛な声を上げていたが、最早死ぬか生きるかの状況だ。

 殺されなかっただけ幸いかもしれない。



「【支配者】! こっち来なさい!」


 【猛吹雪】がモカちゃんを拾って、さらなる光の線を回避する。



 とりあえず折れている足で、どうやっているかわからないけれど立ち上がったアル君の両足を刈り取る。

受け身も取れず無様に転んで、地面を情けなく這っているアル君の口に世界樹の葉を突っ込んでみる。

 呻き声と暴れようとする動きはあるけれど、それは多分痛みからくるものだ。


  因みにリイランさんも全く容赦なく殴り飛ばしていたのは視界の隅で見ていたので、僕はすぐさま二人の賢人に同じような処置をとる。まるで操られているように、僕の姿は見えていないようにあっさりと転倒する。



「……う、ぜ、ろ……様」


「アル君、大丈夫? 顔からたくさん血が出ているよ!」


 犯人は今さっき顔面を打ち付けさせた僕だが……そんな事実を僕は知らない。

 アル君が力なく崩れ落ちているのを見て、多分洗脳状態が多少解けたんだろう。これは前のモカちゃんと同じような感じか。





 そして、そんなことをしている間にレイナさんの肩口から右腕が吹き飛ばされていた。

 ……で、いや、なんで再生できるの?


 僕からしたら魔神とレイナさんの区別がつかないレベルで化け物バトルを繰り広げているのだが、リイランさんも途中から戦闘に参加できなくなってきていた。


 残った女性賢人も最早格の違い悟ったのか、僕の方に逃げてくる。



「これが、世界最強……」


 【猛吹雪】が諦めるように苦笑いをしている。

 体には傷だらけだが、それでも魔神の攻撃で致命傷を浴びていないだけやはり賢人の一人と言ったところか。


「……もう、私たちではダメみたいね。レイナちゃんに任せるしかないのかしら」


 多分、はじめは魔神も現界して身体が馴染んでいなかったように動きが鈍っていたようだ。だが、今は違う。


 体が吹き飛ばされる回数が減っており、最初に食らった左腕がなくなっているくらいで明確なダメージが入らなくなっている。


 レイナさんだって無傷ではないはずなのだが、好戦的な笑みを浮かべたまま容赦なく魔神を破壊していく。



「ここから逃げた方がよくないのか?」


 【猛吹雪】がリイランさんに聞く。

 確かにそれもそうだ。彼女は他の賢人の傷を癒しているようだがここでやらなくてもいいのではないか。戦闘に巻き込まれたら多分僕らなんて瞬殺されるぞ。



「どこに逃げるのかしら。魔神が現界した以上、どこも安全な場所はないわ」


 ……それもそうだ。

 あんな天候をあっさり変えるような攻撃を繰り広げてくるなら、どこにいても無理だ。


 雷から猛吹雪、光の土砂降りに溶岩、今は竜巻と来た。

 あの二人の戦争の決着よりも、この世界が滅びるのが先かもしれない。



「……それもそうですけど、僕は知っています」


「何をかしら」



「レイナさんの近くが一番安全ですよ」


 だから僕をここに置いたんだから。


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