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第103話 ∴確率論

「大丈夫か!?」


「ええ、そうですね。結果としては大丈夫でしたよ」


 僕は扉をもう一度潜ると、先程から少しも時間が進んでいないように見えた。

 いや、違うな。

近寄ってきたレイナさんはそこまで変わらないのだが、リイランさんが少し額から汗を流している。


僕は抱きしめようとするレイナさんを押し留め、深くため息をつきながら扉から離れる。

その動作だけでレイナさんの表情は少し変わり、まだ終わっていないことをすぐに読み取る。



「とりあえず、お話したいことがあるので皆さん円になって集まってもらってもいいですか」


 変わらない口調で話すから、他のメンバーは僕が何を話すのか気になっているだろう。特に心臓を潰せたのかどうかが気になっているであろう。


 僕は両隣にリイランさんとレイナさんになるように間に立ち、向かい側にはエルザさんやアル君、モカちゃんになるように多少誘導する。

 特に、僕の向かい側には内通者である可能性のあるメンツ、そして延長線上には消えかけている黒い扉が映っている。



 僕は出来る限りいつも通りに、なるべくいつもよりもやや声を小さくして話す。そうすることで、自然と集まってくる円は小さくなる。多分向かいまでは5m前後か。


「ロミアちゃん、お疲れ様」


「……ご無事で何よりです」


 自ら身体を分離して禁呪を消すのだが、ぺたんと地面に座り込んでいる。流石に禁呪を使うのは体に負担がかかるようだ。魔力がないから僕は知らなかったけれど。



「リイランさん、今更なんですけど魔力を食わせていた魔族ってどこにいるんですか?」


「地下よ。もう死んでるけど」


 グランドドラゴンという地中深くに生息するものらしい。ドラゴンという名前であるものの、どちらかというと蜥蜴の魔族らしい。魔王城よりも巨大な体躯で三大幹部として城を守る役割であったようだ。

 一匹で禁呪を発動させる魔力量と考えるとかなりの強敵になっていたのかもしれない。違う世界線では。



「次開くことって可能ですか?」


「そうねぇ……そっちの賢人から魔力を借りたいところね。あとはロミア次第」


 そんなことを話している間に他のメンバー全員が揃う。

 レイナさんやリイランさんは僕の反応から何かを感じ取っているのだろう。


 必要以上に質問をしてこなかった。



「先に結論だけ言いますね。魔神の心臓は見つけました」


 賢人たちの表情がぱっと浮かばれるのだが、モカちゃんは一人表情を曇らせる。多分僕との交友が深いので、この言い方をしていることから裏を類推しているようだ。



「でも、届かなかったんですよ。なのでもう一度行く必要はあるかもしれません」


「【不可視】、接敵はしなかったの?」


「あ、はい。大丈夫でした。敵は全くいませんでしたよ」


 【猛吹雪】は警戒を緩めることなく質問してきた。


 僕はなるべく、なるべく自然な動作で全員の顔を見回す。

 特にこれから魔神と戦うことに覚悟している6人の姿を。


 誰も表情は変わらないし、落胆の表情は隠せてはいない。でも集中力を切らしたような様子でもなく一段落した形だ。



 僕は亜空間での話を適当に嘘八百で並べ立てる。

 嘘を見抜ける人がどれくらいいるだろうか、レイナさんくらいだろう。


「心臓って言っても多分僕がナイフで刺せると思うんですよ。ただ、届かない位置にあって困っていました。ちょっと聞きたいんですが」


 手に持っているナイフを宙に投げて弄んで見せる。


 そして一応状況的に知りたかったのは、僕が収納魔法の空間に行ってからどれくらい時間が経っていたのか。

 すぐに回答を得られるのだが、僕の体感時間とかなりずれていた。


 というか、それだけ長い時間禁呪を使っていたからグランドドラゴンの魔力が尽きたわけか。





「そう、ですか……なので大変申し訳ないんですが、もしかしたら賢人の誰かにも助けてもらう形になるかもしれません。ああやって禁呪を使わなければ」


 僕は前方にほぼ消えている、半透明の扉を指さす。

 僕らレイナさん、リイランさんは視界の延長線上にあるから顔をそこまで動かす必要などない。

 ロミアちゃんと【粉砕者】、【猛吹雪】は横に顔を向ける程度だった。



 そして、モカちゃん、アル君、エルザさん、【要塞】がほぼ真後ろの扉を一度向こうと振り返ったタイミングで、




「え?」





 僕は走り出していた。


 そして




「…………は?」




 無防備に背を向けて、扉を見ていたエルザさんの心臓目掛けてナイフを勢いよく突き刺した。

 殺す気で、容赦なく、慈悲もなく、僕の出せる限りの力で。




「な、に…………を?」


「違ったらごめんね」


「ゼ、ロ…………さ、ま」


 時間が止まったみたいだった。

 エルザさんの隣にいたモカちゃんは驚き口を動かす以外は石造のように固まっている。


 僕はエルザさんを突き刺した返り血を存分に浴び、視界が赤くなる。



「馬鹿!!」


 更に横から突き飛ばされる。

 僕はナイフから手を放して地面を転がった。


 レイナさんが僕を吹き飛ばしたのだとわかった時に、既にレイナさんが脇に抱えて大きく大空に跳躍していた。



 その突如、爆裂音が炸裂する。


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