第102話 内通者=
そんなことがあるのか、などとは考えない。
今一番確率の高い可能性を考えているだけだ。
幸いにもここはじっくり一人で考えられる。
魔力のある者はこれないんだから、誰かに邪魔されることもない……はず。
何も物を置いていないのが、僕に見られて裏切り者だとばれる可能性があると考えれば矛盾はしない。
では誰だ。
誰なんだ…………魔神と繋がっているものは。
「…………」
僕が知っている情報だけで答えは出せるのか?
僕が関与している禁呪、魔神に関わる情報。
魔導評議会、オーテルダム、研究所。
出るわけがない。
ここに答えがあるなら、僕はとっくに気が付いていてもおかしくはない。
では、最早運を天に任せて適当に決めつけた方が早いのではないかとすら思えてくる。
僕は苦笑する。
そもそも内通者がいるとも決まっていないのに何を考えているんだか。
というか、内通者がいたらレイナさんが読心したらすぐにばれるんじゃないのか?
いや、違うか。
前にブーザー教団について言っていたことだ。
本人が真実だと思っていることは読心しても、内通者であると判断できない。
魔神に洗脳されているならば無理なはず。
こんなの答えが出るはずもない。
そもそも答えがあるとも限らない問題で答えを提出しなければならないのだから。
では、逆に味方は誰だ?
レイナさんだけは絶対に味方だ。これをひっくり返してしまったらゲームが成り立たない。確実に負けるだけだ。内通する必要もない。
リイランさんはどうだ。わからない。
多分確率論だけで言ってしまえば、高確率で多分内通者ではないと思う。
リイランさんの過去が妄言だとしても、レイナさんを強化する必要があまりにも合理的ではない。
ロミアちゃんは……わからない。
五大賢人と護衛はどうだ。わからない。
でも、内通者がいたとしてロミアちゃん、エルザさん、モカちゃん、アル君、【猛吹雪】、【要塞】、【粉砕者】の7人だから、7回に一回の奇跡を信じればいいのか。
よし、そのくじ引きならもしかしたらいけるかもしれない!
僕は笑う。
あほか……
だが、ここでうだうだしていても解決しないのは事実だ。
依り代がどこにいるのかも、何者なのかもわかっていない場合、内通者から知る必要があるのだろうが、結局のところ洗脳されているんだからどうすればいいだろうか。
レイナさんならどうにかできるだろうか。
いや、どうにかしてもらわないとダメか。
僕はこの部屋で探すことを半ば諦めていた。
物が溢れかえって、どこに何があるかわからないというのであれば一生懸命探すけれど。
では、この空間を出た瞬間が勝負だ。
僕が仮にも内通者に気が付いたと悟られてしまえば逃げられる可能性、自害される可能性、襲ってくる可能性様々ある。
……まあそもそもいるとも限らないけれど。
でも、仮に内通者がいなかったらこの状況をどう説明してくれる?
昨日の今日で、裏を取られることがあるのか?
その場合にはリイランさんの前提条件がおかしいということだから、魔神を倒すという今の目標は絶対に実行されてはならない。
レイナさんであったとしても、心臓がない魔神を倒すことはできないんだろう。
いや、正確に言うと魔神を追い返すことはできるかもしれないが。これではまた歴史は繰り返される、未来への先送りだ。
では、確率に身を任せるのが正しいのか?
7回に一度だけ、未来への先送りはなくなる。
……7回に1回。
本当にそうだろうか?
失敗した場合を想定する。
例えば、内通者がそもそもとしていなかった場合。
多分僕の頭がおかしくなったと思われるだけだ。心臓も潰せなかったわけだし、洗脳魔法をかけられたわけでもないのに頭がおかしくなったと。
そして内通者がいたが外した場合。
内通者に逃げられる……そうなのか? 恐らく内通者は自らが内通者であると気が付いていないのではないか。気が付いていればレイナさんの読心を食らう可能性があるんだ。あるとしたら自害だが、その場合にしても死者が最大2名に増えるだけではないか。
僕が誤って指摘して最大死ぬかもしれない一人と、自害した本当の内通者。実際誤った指摘をしても死ぬとも限らないし、本物の内通者が殺しにかかってくるならレイナさんに任せれば解決。
……あれ、当てずっぽうでももしかして割合勝てる可能性があるのでは?
だって、世界を救うために犠牲は多少あっても仕方ない。
僕は再度苦笑していた。
随分とまあ頭のおかしい発想をしている。僕ならではの狂った考え方だが、ここでは誰も否定する人はいないから思う存分考えられる。
でも、流石に無実の人を内通者というのはあまりにも心苦しいから、可能なら一発で内通者がいる証拠、誰が内通者かを当てたいものだ。
そもそも内通者がいて、それが誰かだと気付ける瞬間はあったんじゃないのか?
僕は気付きという言葉は好きじゃない。
まるで気が付いた瞬間以前は何も知らない、違和感を抱いていないみたいだ。
では、僕は何か違和感を抱いていたのか?




