第100話 亜空間へ
翌日、僕らはまた昨日の部屋に召集される。
多分レイナさんとリイランさんで話はつけていたようで、リイランさんは完全に準備万端と言った感じだった。
「まず魔神の心臓を潰す話からするわね」
「お願いします」
僕はいつも通りすました表情でいたのだが、他の賢人たちはかなり緊張している面持ちだった。
実際のところ、禁呪によって依り代の収納魔法であろう場所に繋げて僕が入るだけなのだろうけれど。
「禁呪を発動させるのはうちのロミア。禁呪は術者が逃げられる内容に組まれているからこの子が適任」
ロミアちゃんは液体だから自由に逃げられるらしい。
そう考えたら僕よりも適任かと思ったのだが、彼女自身の液体の量は回復しないので肉を切らせて骨を切る感じだ。
「あと、魔力は私の配下を使う。ゼロ君の負担を考えると、魔族側がそれくらい出資しないといけないでしょ?」
レイナさんの方を見て確認した。
となると、賢人たちは直接魔神とやり合う可能性が高まるわけだ。
僕の師匠は事前から知っていたように頷いている。
「そういえば心臓ってどこにあるかわかるんですか?」
「全く予測は付かないわね。正直、中がどうなっているのかもわからないわ。でも、多分敵はいないはず」
「魔神の魔力が充満している亜空間で生存できる奴なんていないからな。いたとしたらあたしよりも強力なモンスターってことで」
……そんなのがいたらこの世が滅亡しているのでいないと思いますよ。
そして魔神による精神系攻撃は全て僕は無効化されているから基本的に敵はいないはず。
「少し疑問があるんですが」
僕は口にする。
前に禁呪から黒い触手が出現した際には、そもそも僕には見えなかった。ならばその亜空間はどういう扱いになるのか。何もない空間から探せってことか。
「それはない」
レイナさんが一蹴する。
禁呪の触手は思念体が周囲の人間に魔力干渉して幻術で出現させたものだから僕には見えていない。ただし、亜空間内部は依り代の心象世界が具現化されているから大丈夫とのこと。
うん、僕には違いがよくわからないけど大丈夫ならいいや。
「ゼロ、危なくなったすぐに逃げてくれ、お願いだ。仮に失敗したとしても死なないことを優先しろ」
全く、この弟子馬鹿というかなんというか。
僕が絶対に刺し違えてやる覚悟であることくらい知っているだろうに。
それでも、レイナさんは真剣な表情で言ってくるから頷くしかない。
「レイナさん、絶対に成功させてくるので先にご褒美下さい」
「……褒美?」
僕らは魔王城の近くに配置されている広い庭に移動して、ロミアちゃんが禁呪を発動させていた。広大で平地であるから、ここで魔神と戦うことになると思われる。
黒い魔法陣が芝の上に出現し、猫型のロミアちゃんは形態を変えて人型に戻った。
いや、戻ったってどっちが本来の姿なのかはわからない。
レイナさんとリイランさんは同時に周辺の魔力吸収に対抗する防御魔法を展開させている。と思う。
「うーん、僕がやる気になれる、なんかないですか?」
ロミアちゃんが準備している間に、僕は一人馬鹿みたいに明るい声でそう聞いてみる。ただ、禁呪が発動するまでの間暇だからだ。
エルザさんが、モカちゃんが、アル君が、【猛吹雪】が、【要塞】が、【粉砕者】が、武器を構えた状態で構えて散開しているけれど、そこまで気にならない。
ロミアちゃんの前方には人一人が潜れそうな真っ黒い扉が徐々に透明な状態で虚空に出現する。
「逆にゼロ、お前がやる気になれることを教えろ。死ぬかもしれないんだぞ」
「……じゃあ戻ってきたらまたデートでも行きましょう」
レイナさんは苦笑する。
黒い扉は半透明から、実態があるように質感を持っていく。
見るからにやばい扉であるのは僕でも流石にわかる。ここへ入ったら戻ってこられないかもしれない。死への片道切符かもしれない。
「どうせなら結婚でもしてもいいんだぞ?」
僕が本気でレイナさんに惚れていることを、勿論彼女は知っている。
「それはいいですよ。だって」
それを約束されたら死にそうじゃないですか。
そう言おうか迷った。でもよく考えたら、それを言う事すら死ぬ布石になるのではないか?
「だって、そういうのって相手に惚れてもらわないといけないじゃないですか。そこは僕が努力しますから。だからデートでいいですよ」
門が完全に形どり、自然に開く。
中はどうなっているか何もわからない。
僕は一歩、扉に近づく。
こういう時、自分が壊れていて良かったと思う。
多分普通の人だったら怖く動けないと思うから。周りの人たちの表情を見ていたらそう思ってしまう。
エルザさんは大きく深呼吸している。モカちゃんは涙目だ。アル君は顔が強張っている。
他の賢人は、僕を追悼する様に黙祷をしている。
誰もが僕が戻ってこれないと思っているのかもしれない。まあ、未知の場所に行くわけだし。魔神の本拠地みたいなものだ。
相手から干渉できないとわかっていても、相手は魔神だから例外を考えてしまう。
「ゼロ、絶対に戻ってこい」
「はい、そう命令されたので」
近づくと、両手扉は完全に開かれる。
どんな金属を使っているのかもわからない。全く模様のない扉だ。
中を覗き込んでも何も見えない。
「じゃあ行ってきますね」
躊躇せずに扉を潜り抜けた。




