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Chapter7♯9 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く


登場人物


貴志 鳴海(なるみ) 19歳男子

Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。


早乙女 菜摘(なつみ) 19歳女子

Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている


貴志 (ひろ)

鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。


早乙女 すみれ 46歳女子

優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。


早乙女 (じゅん) 47歳男子

永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。


貴志/神北 風夏(ふうか) 25歳女子

看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。


神北(かみきた) 龍造(りゅうぞう) 25歳男子

風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。


南 汐莉(しおり) 16歳女子

Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。


一条 雪音(ゆきね) 19歳女子

鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。


伊桜(いざくら) 京也(けいや) 32歳男子

緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。


荻原 早季(さき) 15歳(?)女子

どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。


瑠璃(るり)

鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。


来栖(くるす) (まこと) 59歳男子

緋空事務所の社長。


神谷 志郎(しろう) 44歳男子

Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。


貴志 希海(のぞみ) 女子

貴志の名字を持つ謎の人物。


三枝 琶子(わこ) 女子

“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。


三枝 碧斗(あおと) 男子

“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。


有馬 千早(ちはや) 女子

ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。


太田 美羽(みう) 30代後半女子

緋空事務所で働いている女性社員。


目黒 哲夫(てつお) 30代後半男子

緋空事務所で働いている男性社員。


一条 佐助(さすけ) 男子

雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。


一条 智秋(ちあき) 25歳女子

雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。


神谷 絵美(えみ) 30歳女子

神谷の妻、現在妊娠中。


神谷 七海(ななみ) 女子

神谷志郎と神谷絵美の娘。


天城 明日香(あすか) 19歳女子

鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。


白石 嶺二(れいじ) 19歳男子

鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。


三枝 響紀(ひびき) 16歳女子

波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。


永山 詩穂(しほ) 16歳女子

波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。


奥野 真彩(まあや) 16歳女子

波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。


双葉 篤志(あつし) 19歳男子

鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。


井沢 由香(ゆか)

波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。


伊桜 真緒(まお) 37歳女子

伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。


伊桜 陽芽乃(ひめの) 13歳女子

礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。


水木 由美(ゆみ) 52歳女子

鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。


水木 優我(ゆうが) 男子

鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。


鳴海とぶつかった観光客の男 男子

・・・?


少年S 17歳男子

・・・?


サン 女子

・・・?


ミツナ 19歳女子

・・・?


X(えっくす) 25歳女子

・・・?


Y(わい) 25歳男子

・・・?


ドクターS(どくたーえす) 19歳女子

・・・?


シュタイン 23歳男子

・・・?






伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物


リーヴェ 17歳?女子

奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。


メーア 19歳?男子

リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。


バウム 15歳?男子

お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。


盲目の少女 15歳?女子

バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。


トラオリア 12歳?少女

伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。


エルガラ 12歳?男子

伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。






滅びかけた世界


老人 男子

貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。


ナツ 女子

母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。


スズ 女子

ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。


柊木 千春(ちはる) 15、6歳女子

元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。

Chapter7♯9 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く


◯1948鳴海の夢/緋空浜近くの道路(約30年前/夕方)

 弱い雨が降っている

 約30年前の緋空浜近くの歩道にいる鳴海

 道路には車やバイクが走っているが、それらのデザインは古い

 鳴海は雨に濡れながら歩道を歩いている


鳴海「まただ・・・また夢だ・・・しかも寒い・・・」


 少しすると波空スーパーが見えて来る

 波空スーパーは◯1871の鳴海と伊桜が品出しの仕事を行い、Chapter6◯203で滅びかけた世界のナツ、スズ、老人が訪れたスーパーと同じ店

 鳴海は波空スーパーを見ている


鳴海「(波空スーパーを見たまま)波空スーパーじゃないか・・・この時代からあったんだな・・・」


 鳴海の反対の歩道から波音高校の制服を着て傘をさした18歳の由夏理と、同じく18歳のすみれがやって来る

 鳴海は波空スーパーを見たまま、反対の歩道から波音高校の制服を着た18歳の由夏理と、同じく波音高校の制服を着た18歳のすみれがやって来ていることに気付く

 折り畳み傘をさしている由夏理

 鳴海は波空スーパーを見るのをやめる

 由夏理とすみれのことを見る鳴海


鳴海「(由夏理とすみれのことを見て)あ、あの二人は・・・」


 由夏理とすみれは波空スーパーの中に入って行く


鳴海「(波空スーパーの中に入って行った由夏理とすみれのことを見たまま)やっぱりまた夢で会うのか俺は・・・」


 鳴海は由夏理とすみれの後を走って追いかけようとする

 鳴海が由夏理とすみれの後を走って追いかけようとした瞬間、前から傘をさして歩いて来た波音高校の一年生男子生徒と鳴海がぶつかる

 鳴海とぶつかった拍子に波音高校の一年生男子が片手に持っていた数学の参考書が落ちる


鳴海「あ、悪い・・・」

波音高校の一年生男子生徒「ここは歩道で走るための道じゃない、マラソンがしたかったらグラウンドか轢かれる覚悟で車道に行けよ」

鳴海「す、すまない」


 鳴海は地面に落ちた波音高校の一年生男子生徒の数学の参考書を拾う


鳴海「(波音高校の一年生男子生徒の数学の参考書を拾って)大丈夫か?」

波音高校の一年生男子生徒「大丈夫じゃないのはお前の方だ、規則も守れないのに歩道を使用して」

鳴海「(地面に落ちた波音高校の一年生男子生徒の数学の参考書を拾いながら)わ、悪かったって言ってるだろ」


 地面に落ちた波音高校の一年生男子生徒の数学の参考書を拾い終える

 数学の参考書を波音高校の一年生男子生徒に差し出す鳴海


鳴海「(数学の参考書を波音高校の一年生男子生徒に差し出して)ほら、お前こそ参考書を読みながら傘をさして歩くなよ」

波音高校の一年生男子生徒「僕と関わる人間はいつもこうだ・・・謝罪の意味を0.01%も理解していない・・・」


 鳴海は数学の参考書に名前が書いてあることに気付く

 数学の参考書の名前欄には”神谷 志郎”と書いてある

 鳴海がぶつかった人物は高校一年生だった頃の神谷


鳴海「(数学の参考書を神谷に差し出したまま、参考書の名前の欄に書いてある”神谷 志郎”という字を見て)う、嘘だろ・・・?お、お前が神谷か・・・?」

神谷「(数学の参考書を鳴海に差し出されたまま)僕の存在意義を知ったかぶるな、僕は僕だ。神谷なんて苗字は不要でしかない」


 神谷は数学の参考書を鳴海から奪い取る


鳴海「ちゅ、厨二病を拗らせてたんだな・・・」

神谷「僕の話を聞く奴はいないと分かってる・・・だから数字と会話するんだ・・・(少し間を開けて)数学は常に真実を光らせてくれる・・・こういう初対面の人間に対する礼儀も弁えない愚か者を・・・数字で粛清するんだ・・・報復のナンバーを用意をしよう・・・ポセイドンの三叉の槍も、数字を司る海の町に暮らす・・・」


 鳴海には傘の下から一瞬、ニヤニヤ笑う神谷の顔が見える

 神谷はぶつぶつ独り言を言いながら鳴海の横を通り過ぎて行く

 ぶつぶつ独り言を言っている神谷のことを見ている鳴海


鳴海「(ぶつぶつ独り言を言っている神谷のことを見ながら)む、昔から面倒な奴だ・・・」


 鳴海はぶつぶつ独り言を言っている神谷のことを見るのをやめる

 波空スーパーに走って向かう鳴海


◯1949鳴海の夢/波空スーパー(約30年前/夕方)

 外は弱い雨が降っている

 約30年前の波空スーパーの中にいる鳴海

 波空スーパーの中は広く、たくさんの食材、飲料水、生活用品などが棚に陳列されている

 波空スーパーの中には数人の主婦の客がいる

 鳴海がいる波空スーパーは◯1871の鳴海と伊桜が品出しの仕事を行い、Chapter6◯203で滅びかけた世界のナツ、スズ、老人が訪れたスーパーと同じ店

 波空スーパーの中は◯1871の鳴海と伊桜が品出しの仕事を行った時とは違って商品が古く、陳列されている場所も変わっている

 鳴海は由夏理とすみれのことを探している

 鳴海の体は雨で濡れている


鳴海「(由夏理とすみれのことを探しながら)入れ違ったか・・・?クソッ・・・神谷の奴・・・どれだけ俺に面倒なことをかければ気が済むんだ・・・」

すみれ「あっ、キョドキョド・・・?」


 鳴海は由夏理とすみれのことを探すのをやめる

 振り返って後ろを見る鳴海

 鳴海の後ろには波音高校の制服姿の由夏理とすみれが立っている


鳴海「す、すみれさん!!」

すみれ「ずいぶん久しぶりですね?夏以来かな?」

由夏理「静かに二人とも!!」


 由夏理はお菓子コーナーの棚に隠れてレジを見ている


鳴海「あー・・・な、何をしてるんだ・・・?」

すみれ「(小声で)今ね、スパイ活動中なの」

鳴海「は・・・?」

すみれ「スパイ、知らない?スパイスじゃありませんよ」

鳴海「いや・・・意味は知ってますけど・・・状況の理解が出来ないというか・・・」

すみれ「スパイは情報収集をするのがしご・・・」

鳴海「(すみれの話を遮って)そ、それは理解してます」

すみれ「あ、そうなの?」

鳴海「は、はい」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジを見ながら)そんなことは良いからこっちに隠れてって」


 鳴海とすみれはお菓子コーナーの棚に隠れてレジを見ている由夏理のところに行く

 

鳴海「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジを見ている由夏理のところに行って)い、一体何をしてるんだよ・・・」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジを見ながら)お久なところ悪いけどさ少年、ことはすみれから説明してもらってよ」

鳴海「そのすみれさんの説明が意味不明だったんだが・・・」

すみれ「私の説明、そんなに変でしたか?」

鳴海「めちゃくちゃ変でしたよ・・・」

すみれ「(少し残念そうに)そうですか・・・」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジを見ながら)少年少年、ほら、あいつがいるんだだって」


 由夏理はお菓子コーナーの棚に隠れてレジを見ながら、レジの方を指差す

 由夏理が指差した方を見る鳴海

 由夏理が指差したレジの方には18歳の紘がおり、レジスタッフをしている

 紘は波空スーパーの店員の服を着ている

 紘が着ている波空スーパーの店員の服は、◯1871の鳴海と伊桜が着ていた服と完全に同じ物

 由夏理はお菓子コーナーの棚に隠れてレジを見ながら、紘のことを指差すのをやめる

 レジスタッフをしている紘のことを見ている鳴海

  

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)君、これで分かったよね?」

鳴海「(レジスタッフをしている紘のことを見たまま)わ、分かったには分かったが・・・いや・・・やっぱり全く分かってないな・・・」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)少年ってば、もっと頭の中をスライムにしてよ」

鳴海「(レジスタッフをしている紘のことを見たまま)す、スライムにしたら馬鹿になっちまうだろ・・・」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら少し笑って)馬鹿はすぐに人の話を聞いてくれるから良いじゃん」

鳴海「(レジスタッフをしている紘のことを見たまま)な、なんてことを言うんだ・・・」

すみれ「由夏理、私お菓子買って来ますね」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)ば、馬鹿!!今行ったら紘にバレるって!!」

鳴海「(レジスタッフをしている紘のことを見たまま)馬鹿はすぐに人の話を聞いてくれるんじゃなかったのか・・・」

すみれ「私、バカじゃないですから」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)た、確かにすみれは私たちの中で一番賢い子だけどさ」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海はレジスタッフをしている紘のことを見るのをやめる


鳴海「(レジスタッフをしている紘のことを見るのをやめて)ここはツッコミ不在か・・・?」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)私がツッコミに決まってるじゃん少年」

鳴海「す、スーパーでバイトしてる恋人のことを監視しながら言われても説得力がないんだが・・・」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)ふ、普段は私がツッコミなんだって!!」


 再び沈黙が流れる


鳴海「そういや今日は潤さんはいないんすか?」

すみれ「潤くんは自動車工場で整備士のバイトをしているの、でも後で合流するよ」

鳴海「そ、そうなんすね。(少し間を開けて)つまりこの先更にツッコミが不在になるわけだ・・・」

すみれ「私、ジュース見て来て良い?紘くんに気付かれないようするから」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)良いけど頼むからバレないでねー・・・」

すみれ「うん」


 すみれは飲料水のコーナーを見に行く

 少しの沈黙が流れる

 由夏理はお菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら、鳴海の袖を引っ張って自分の方に引き寄せる

 

鳴海「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ている由夏理に服の袖を引っ張られ、由夏理の方に引き寄せられて)な、何するんだよ」


 由夏理はお菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら、鳴海の服の袖を離す


由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら、鳴海の服の袖を離して)なんか少年の服濡れてるんだけどー・・・」

鳴海「あ、雨のせいだ」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)君は傘をささない国からやって来たのかい」

鳴海「も、持ってなかったんだよ」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)少年ってほんと変わってるよね〜」

鳴海「う、うるさいな」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)君と会うのは何ヶ月ぶりだっけ・・・?最後に遊んだのは確か夏休みの時?」

鳴海「あ、ああ」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)元気してた?少年」

鳴海「ま、まあな」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)そっかそっか、私は少年とまた会えて嬉しいよ」

鳴海「そ、そんなことより何をしてるのか教えてくれ」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)そんなことだとー?少年のくせに生意気言っちゃってー」

鳴海「あなたはガキ大将か・・・」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)まあ暇なら付き合ってよ、後でまた適当に奢ってあげるからさ」


 再び沈黙が流れる


由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)あいつ、やばい仕事に手を出してるらしくてさ・・・」

鳴海「や、やばい仕事?」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら)ん、そうそう。大丈夫だとは思うんだけど、心配なんだよね」


 少しの沈黙が流れる

 すみれはジュースを持って紘がレジをしているところに行く

 紘が担当しているレジは誰も並んでいない

 すみれは紘が担当しているところのレジカウンターにジュースを置く


鳴海「や、やばい仕事ってなん・・・」

紘「すみれ、買い物か?」

すみれ「うん、買いも・・・あっ・・・」

由夏理「(お菓子コーナーの棚に隠れてレジスタッフをしている紘を見ながら大きな声で)か、買ったらバレちゃうじゃんすみれ!!!!」


 鳴海の声は由夏理の大きな声にかき消される

 お菓子コーナーの棚の方を見る紘

 由夏理はレジスタッフをしている紘のことを見るのをやめて慌ててお菓子コーナーの棚に隠れる


由夏理「(レジスタッフをしている紘のことを見るのをやめて慌ててお菓子コーナーの棚に隠れて)き、君も隠れてよ!!」

鳴海「も、もう隠れても無駄だろ・・・」


 紘はレジから出て来てお菓子コーナーの方に向かう

 紘の後ろをついて行くすみれ

 由夏理はお菓子コーナーの棚に隠れながら口の前に人差し指を立てて鳴海に見せる

 再び沈黙が流れる

 お菓子コーナーに紘とすみれがやって来る


紘「こんなところで何をしているんだ、由夏理」


 由夏理は口の前に人差し指を立てるのやめる


由夏理「(口の前に人差し指を立てるのやめて少し笑って)や、やあ紘、ちょっと偶然通りかかったものだから挨拶にと思ってさ。どうだい、スーパーでの任務は。真面目にやってるなら今晩はお姉さんが色々サービスしちゃうよ」


 少しの沈黙が流れる

 紘はすみれのことを見る


紘「(すみれのことを見て)遊んでいたのか」

すみれ「うん、3人でスパイ活動を・・じゃなくてちょっと偶然通りかかったんだよ」

 

 紘はすみれのことを見るのをやめる

 ため息を吐き出す紘


紘「(ため息を吐き出して)由夏理、すみれ、店では遊ぶなと何度も言っただろう」

すみれ「ごめんなさい・・・」

紘「シフトが終わるまでは大人しくしていてくれ」

由夏理「紘」

紘「何だ」

由夏理「夜はエカクラに一緒に来てくれるって約束、今日は守ってくれるんだよね?」

紘「ああ」

由夏理「もう嘘は無しだぞ、紘」

紘「分かっている。駐車場で待っていてくれ」


 再び沈黙が流れる


由夏理「ん、じゃあ信じて待ってるからね?」


 紘は頷く

 鳴海のことを見る紘


紘「(鳴海のことを見て)お前は・・・確か前に会ったな・・・」

すみれ「紘くんの代わりにキツネ様の奇跡で出てくれた子だよ、通称キョドキョド」

紘「(鳴海のことを見たまま)そうか・・・あの時は迷惑をかけたな、後で改めて礼をしよう」

鳴海「い、いや・・・俺は別に大したことはしてなくて・・・」

由夏理「(少し笑って)謙虚な子でしょー?少年は凄く良い奴なんだよー?」


 紘は鳴海のことを見るのをやめる


紘「(紘の鳴海のことを見るのをやめて)そのようだな。じゃあ俺は仕事に戻るぞ」


 紘はレジ場に戻って行く


鳴海「ま、全くの俺のことを良い奴だとは思ってなさそうだったが・・・」


 少しの沈黙が流れる


すみれ「確かに・・・似ているのかも・・・」

由夏理「ね?だからそう言ったじゃん?」


 すみれは鳴海とレジに戻った紘のことを交互に見る


すみれ「(鳴海とレジにいる紘のことを交互に見て)うん・・・間違いありませんね」

鳴海「な、何のことですか」

由夏理「前にも言ったけどさ、君は紘に似てるんだよ」

鳴海「そ、そんなことないだろ」

すみれ「(鳴海とレジにいる紘のことを交互に見ながら)でも心なしか・・・顔も似ていませんか・・・?」

鳴海「に、似てませんって」


 再び沈黙が流れる


鳴海「ま、まだ時間があるんですよね、と、とりあえずここから出ましょうよ」


 すみれは鳴海とレジにいる紘のことを交互に見るのをやめる


すみれ「(鳴海とレジにいる紘のことを交互に見るのをやめて)あ、じゃあ・・・」

由夏理「(すみれの話を遮って)まーた喫茶店?」

すみれ「さすが、分かっているじゃない由夏理」

由夏理「そりゃあ分かるさー、特にこういうことに関してすみれは分かりやすいし」

すみれ「お見通しだった?」

由夏理「まあね〜」


 由夏理とすみれは歩き始める

 ボーッと由夏理とすみれの後ろ姿を見ている鳴海

 由夏理は立ち止まる

 振り返る由夏理


由夏理「(振り返って少し笑って)何ボーッとしてんの少年、君もおいでよ」


 鳴海は慌てて由夏理とすみれの後ろについて行く


すみれ「キョドキョドはキョドキョドのままですね」

鳴海「こ、個性なんで・・・」

由夏理「(少し笑いながら)この子、鈍臭くてちょっとお馬鹿で可愛いでしょ〜?」

すみれ「(少し笑って)ええ」

鳴海「ど、鈍臭い馬鹿で悪かったな!!」

由夏理「おっ、少年今日は荒ぶってるねー」

鳴海「(小声でボソッと)だ、誰のせいだと思ってるんだ」


◯1950鳴海の夢/“喫茶ジラソーレ”(約30年前/夕方)

 外は弱い雨が降っている

 約30年前の緋空浜近くにある喫茶店”喫茶ジラソーレ”の中にいる鳴海、由夏理、すみれ

 ”喫茶ジラソーレ”の中には鳴海たちの他に数人の客がおり、コーヒーを飲みながらタバコを吸ったり、新聞を読んだりしている

 由夏理とすみれは波音高校の制服を着ている

 メニュー表を見ている由夏理とすみれ


由夏理「(メニュー表を見ながら)すみれ、決めた?」


 すみれはメニュー表を見るのをやめる


すみれ「(メニュー表を見るのをやめて)うん、いつものにします」

由夏理「(メニュー表を見ながら)少年はどうすんの?」

鳴海「お、俺・・・金が・・・」

由夏理「(メニュー表を見ながら少し笑って)さっき奢るって言ったじゃん」

鳴海「だ、だけど・・・」

由夏理「(メニュー表を見ながら少し笑って)良いから良いから、好きな物を頼みなって、男の子なんだしさ」


 少しの沈黙が流れる

 由夏理はメニュー表を鳴海の前に置く

 メニュー表を見る鳴海


すみれ「オススメはジラソーレコーヒーですよ」

鳴海「(メニュー表を見ながら)こ、コーヒーは飲めないんです」

すみれ「コーヒーが飲めないって、由夏理と同じだね」

由夏理「少年とは舌の感性が近いのか・・・」

鳴海「(メニュー表を見ながら 声 モノローグ)親子だからな・・・感性が近くて当たり前だ・・・」

由夏理「ここはクリームソーダが美味しいんだけどさ、君、炭酸は平気?」

鳴海「(メニュー表を見ながら)クリームソーダか・・・どちらかと言うと俺はエナジードリンクみたいな飲み物の方が好きだが・・・」

由夏理「(少し笑って)エナジードリンク?」

鳴海「(メニュー表を見ながら)ああ」

すみれ「エナジードリンクってどんな飲み物なの?」

鳴海「(メニュー表を見ながら)俺、たまに飲んでるじゃないですか、合宿の時とか、部誌を書いてる時に飲んでたやつのことですよ」

すみれ「(不思議そうに)合宿・・・?部誌・・・?」

鳴海「(メニュー表を見ながら)ほら、菜摘たちと一緒に・・・」


 鳴海はメニューを見ながら話途中で口を閉じる


鳴海「(メニュー表を見ながら 声 モノローグ)し、しまった・・・このすみれさんは俺の知ってるすみれさんじゃない・・・え、エナジードリンクもまだこの時代に存在してないんだ・・・」


 再び沈黙が流れる

 鳴海はメニュー表を見るのをやめる


すみれ「キョドキョド・・・どうしたの・・・?」

鳴海「え、エナジードリンクは南アルゼンチンから取り寄せたジュースなんですけど・・・い、今は生産中止になってます。な、なので俺はクリームソーダをいただきますね」

すみれ「う、うん」


 由夏理はチラッと鳴海のことを見る


 時間経過


 鳴海と由夏理はクリームソーダ、すみれはコーヒーを飲んでいる


鳴海「え、エカクラに行くって言ってたよな?何かの店なのか?」

由夏理「(驚いて)君、エカクラも知らないの?」

鳴海「あ、ああ」

すみれ「ディスコだよ」

鳴海「でぃ、ディスコ?」

由夏理「(少し笑って)この辺りでエカクラを知らない子なんて少年くらいだねー」

鳴海「そ、そんなに有名なのか・・・」

由夏理「(少し笑いながら)地元の連中はみんな行ってるよー」

鳴海「な、なるほど・・・」

すみれ「キョドキョドはそういう場所が苦手なの?」

鳴海「い、いや・・・苦手というか・・・そもそも縁がないっすね・・・すみれさんはクラブとかディスコって好きなんすか?」

すみれ「うん、行ってみると楽しいよ」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海はクリームソーダのアイスを一口食べる

 

由夏理「君ってほんと謎だよね、お金も傘も持ってないしさ」

鳴海「も、物を持ち歩かない主義なんだ」

由夏理「そんな物を持ち歩かない主義者の地元はどこなんだい」

鳴海「も、もちろん波音町だぞ、し、白瀬波音が作ったこの町が俺の故郷だ」

由夏理「やけに白瀬波音とか佐田奈緒衛とか古い名前を引っ張って来る割には、肝心の少年の名前が未だに秘密っていうのがねー」

鳴海「お、俺は秘密主義者でもあるんだよ」


 鳴海は再びクリームソーダのアイスを一口食べる

 コーヒーを一口飲むすみれ


由夏理「会う時も毎回突然現れてさ」

鳴海「そ、そうか?」

由夏理「そうだよ〜。もう3回目なのに、君はあまりにも謎の存在なんだから」

すみれ「でもちょっとキツネ様みたいでしょう?」

由夏理「まあねー・・・少年は実は人じゃありませんでした、ってことがあったらそれはそれで面白いけどさー」

すみれ「うん。波音町にはそういう不思議なことがあっても素敵だと思う、だって奇跡が起きる町だもの」

鳴海「お、俺は人間ですすみれさん」

由夏理「君、尻尾とか生えてないよね?」

鳴海「は、生えてるわけないだろ」

由夏理「(少し笑って)まあ、少年が何者であれ良い子なのは事実だし、私は気にしないけどさ」

鳴海「あ、ああ、気にしないでくれ」


 再び沈黙が流れる

 由夏理はクリームソーダを一口飲む


鳴海「そ、そういえばキツネ様の奇跡は完成したのか?」


 すみれは首を横に振る


すみれ「(首を横に振って)映画祭までに間に合わなかったの」

鳴海「そ、それは残念ですね・・・見たかったんですけど・・・」

すみれ「データはまだ残っているから、未完の作品なら見れるよ」

鳴海「未完の状態でストーリーは理解出来るんすか?」

すみれ「うーん・・・どう思う?由夏理」

由夏理「出来たり、出来なかったり、半々かなー。コンセプトはなんとなーく伝わると思うけど」

鳴海「お、俺が出たシーンはどうなってるんだ?」

由夏理「もちろん残ってるとも」

鳴海「そ、そうか・・・せっかくなら完成させて欲しかったんだが・・・」

すみれ「潤くんはまだ諦めていないよ、今は無理でも大人になってから夢を叶えるつもりですから」

鳴海「大人になってから・・・夢を・・・」

すみれ「潤くんは映画監督になることを目指しているんです」


 少しの沈黙が流れる


すみれ「その夢を叶えて、ラストシーンに主人公とヒロインが緋空浜をバイクで走り抜ける場面を撮る、それが潤くんの目指している場所なの」

由夏理「(少し笑って)潤が映画監督になったらさ、私も友情出演で出してもらうんだ」

鳴海「そうか・・・」

由夏理「ん・・・もしかして少年、この間の撮影で潤が映画監督になりたがってるって気付いた?」

鳴海「お、俺は・・・(少し間を開けて)し、知らなかったよ・・・潤さんが・・・そんな夢を持ってたなんて・・・」

すみれ「(少し笑って)潤くんはこのことをあちこちで言いふらしてるから、波音町で知らなかったのはキョドキョドだけかもしれません」


 再び沈黙が流れる

 鳴海はクリームソーダを一口飲む


鳴海「(クリームソーダを一口飲んで 声 モノローグ)菜摘を妊娠した時に・・・すみれさんと潤さんは夢を諦めたんだ・・・」

由夏理「夢があるって良いよねー」

すみれ「由夏理にはないの?」

由夏理「私、紘と一緒にいられたらそれで万事オッケーだからさー・・・具体的にこういうのがしたい、ああなりたいっていうのは昔からあんまりないんだよねー」

すみれ「一緒にいたいだって、全然悪い夢じゃないと思うけど・・・」

由夏理「でもこればっかりは紘が将来についてどう考えてるかにかかってるじゃん?」

すみれ「そうね・・・」


 少しの沈黙が流れる


由夏理「少年は夢ってあるの?」

鳴海「俺は別に・・・特にないけど・・・」

由夏理「私と同じ口か〜・・・」

すみれ「キョドキョド、私たちよりも一学年上なんだよね?」

鳴海「あ、ああ・・・一応は・・・」

由夏理「(少し笑って)君が時たま使う一応って何なのさ」

鳴海「こ、これは・・・癖で言ってるだけで・・・い、意味はないんだ」

由夏理「少年って謎が謎を呼ぶよね〜。今のところ分かってるのは年が一つ上で、文芸部に所属してて、コーヒーが飲めなくて・・・」

鳴海「だ、だから俺のことを気にするのはやめてくれよ」

由夏理「(少し笑って)そんなこと言われると余計にお姉さんの興味が湧くに決まってるじゃーん」

すみれ「家はどこら辺なの?」

鳴海「こ、この辺です」

由夏理「(少し笑いながら)そんな答えが許されると思っているのかい君は」


 再び沈黙が流れる

 由夏理はクリームソーダのアイスを一口食べる


由夏理「(クリームソーダのアイスを一口食べて)じゃあ少年、一つゲームをしようよ」

鳴海「げ、ゲーム?」

由夏理「うん。これから私と会うごとにさ、一つずつ君の秘密を教えてくれない?」

鳴海「そ、それじゃ俺が損するだけじゃないか!!」

由夏理「(少し笑って)私も君に秘密を教えてあげるよ」

鳴海「ひ、秘密って何だよ」

由夏理「(少し笑いながら)秘密は秘密さ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「ど、どう考えても俺の方が不利だ」

由夏理「(少し笑いながら)損はさせないって、お客さん」

鳴海「あ、怪しい香りしかしないんだが・・・」

すみれ「まずはお試しに一回だけでやってみたら・・・?」

鳴海「お、お試しにって・・・こっちにはリスクあるんすよリスクが」

由夏理「君、そんなにたくさんの秘密を抱えてるんだ?」


 再び沈黙が流れる

 すみれはコーヒーを一口飲む


鳴海「あ、あなたは俺の何を知りたいんだよ」

由夏理「ん、まずは名前」

鳴海「そ、それはダメだ」

由夏理「どうしてそこまで名前を隠したがるのさ」

鳴海「な、名前は・・・か、過去を思い出すから言いたくない」

由夏理「過去?」

鳴海「あ、ああ」

由夏理「つまり、君には過去に囚われたくないような記憶があるんだね?」

鳴海「そ、そうだ、だ、だから俺は絶対に名前を言わないぞ」

由夏理「名前は君が誰なのか証明する唯一無二の物なのにさ、それを隠し続けたら名付けた人が悲しむよ、少年」

鳴海「よ、余計なお世話だ」


 由夏理はクリームソーダを一口飲む


鳴海「そ、それであなたの秘密なんだよ」

由夏理「ん?」

鳴海「ひ、秘密と秘密の交換条件だろ」

すみれ「キョドキョド、まだ名前を教えてない」

鳴海「だ、だから名前は言わないんです!!」

すみれ「それなら秘密を言ったことにもならないよ」

鳴海「な、名前を言わない理由がそもそも秘密みたいなもんじゃないですか!!」

由夏理「そりゃあんまりだって少年、秘密っていうのはもっと不確かなものじゃなきゃさ」

鳴海「こ、これ以上俺に秘密なんてないんだ!!」

由夏理「君、彼女はいるの?」

鳴海「えっ・・・?」

由夏理「か・の・じょ」

鳴海「そ、それを教えたら秘密を言うのか?」

由夏理「ん、釣り合う分の秘密をね」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「か、彼女は・・・(少し間を開けて)いる」

すみれ「(驚いて)嘘!?」

鳴海「何ですみれさんが一番に驚くんすか・・・というか嘘って・・・」

すみれ「あ・・・ごめんなさい・・・」

由夏理「やるじゃん少年!!ちゃんと良い子を捕まえたんだよね?」

鳴海「ま、まあな。お、俺の秘密の後はあなたの番だぞ」

由夏理「私かー・・・んー・・・何も考えてなかったなー・・・」

鳴海「お、おい、俺だけ言うってのは無しだぞ・・・」

由夏理「分かった分かった、言うよ。(少し間を開けて)私が小学生の時さ・・・」

鳴海「あ、ああ」

由夏理「一人称が僕だったんだよね」

鳴海「(驚いて)ま、マジかよ・・・」

すみれ「初耳なんだけど・・・由夏理・・・」

由夏理「だって私の秘密の缶から持ってきた情報だしー」

鳴海「しょ、小学生まで僕だったのか・・・?」

由夏理「そうそう」

鳴海「な、何で僕だったんだ・・・?」

由夏理「男の子とよく遊んでからかもねー」


 再び沈黙が流れる


鳴海「も、もうこのゲームはやめよう」

すみれ「面白いのに?」

鳴海「す、すみれさんは秘密を言ってないから面白いでしょうね・・・」

すみれ「私、キョドキョドの秘密を一つ知っているよ」

鳴海「お、俺の秘密!?」

すみれ「うん」

由夏理「えっ、何それ、教えてよすみれ」

すみれ「キョドキョドは・・・」

鳴海「ちょ、ちょっと待ってください!!」

すみれ「何?」

鳴海「お、俺の秘密って何なんですか!?」

由夏理「だーかーら、今すみれがそれを言おうとしてるじゃん少年」

鳴海「あ、そ、そうだったな・・・」

由夏理「早く教えてよ、すみれ」

すみれ「うん。(少し間を開けて)実は・・・私・・・キョドキョドが・・・」

鳴海「(声 モノローグ)な、何を言うつもりなんだ・・・?も、もしかしてすみれさんには俺が未来人だってことがバレてるんじゃないのか・・・?あ、あり得る・・・あり得るぞ・・・こ、この人の洞察力なら・・・俺のことなんて何でもお見通しなんだ・・・」

すみれ「役者をやってるって知っているんだ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「は、はい・・・?」

由夏理「役者・・・?少年が・・・?」

すみれ「うん、映画に出演していたしょう?」

鳴海「いやいやいやいや!!出てませんって!!」

すみれ「本当に・・・?」

鳴海「(呆れて)出てませんよ・・・」

すみれ「でも、確かにキョドキョドに似た男の子が映り込んでいるのを見たことがあるんだけど・・・」

鳴海「気のせいじゃないっすか・・・?」

すみれ「気のせいかな、そっくりだったよ」

由夏理「なら少年のドッペルゲンガーかね〜」

鳴海「ドッペルゲンガーっておい・・・」

由夏理「何さ」

鳴海「いや・・・」

由夏理「君、今馬鹿馬鹿しいって思ってるでしょ?」

鳴海「ま、まあな」

由夏理「どうして男の子たちはファンタジーってもんを信じようとしないのかねー」

鳴海「げ、現実的な考えを持ってるからじゃないか」

すみれ「それだとつまらなくない?」

鳴海「そ、そんなことないと思いますけど・・・」

すみれ「そういえば潤くんも、キョドキョドに似た子が映画に映り込んでいてもそんな奴はいねえって言ってました」

鳴海「や、やっぱり気のせいだったってことじゃないですか」

由夏理「少年、もっと広い視野で世界を見てみなって。世の中にはこんなにも不思議なことで溢れてるんだからさ、それを信じないなんて勿体無いとお姉さんは思うんだよ」

鳴海「ふ、不思議なことって例えば何だ」

由夏理「ん・・・例えば・・・君の存在とか?」

鳴海「べ、別に不思議でも何でもないけどな・・・」


 すみれはコーヒーを一口飲む


鳴海「じゃ、じゃあ俺に似てる奴がたまたま出演していたってことで・・・」

由夏理「しかし少年は役者にしてはオーラがないよね」

鳴海「い、一般人なんだからオーラなんかあるわけないだろ・・・というか役者でもないからな・・・」

由夏理「そう言うけど君は本当に一般人なわけ?」

鳴海「あ、ああ、一般人だ」

由夏理「それにしてはずいぶん変わってるよ、少年って」


 再び沈黙が流れる


鳴海「す、すみれさんも秘密を言ったらどうですか」

すみれ「えっ・・・私・・・?」

鳴海「な、何かネタがあるなら言ってくださいよ」


 すみれは考え込む

 少しの間考え込むすみれ


すみれ「秘密と言えば・・・(少し間を開けて)昨日、3階の男子トイレから戸崎先生と栗山さんが出て来るのを見ちゃった・・・」

由夏理「えっ!?戸崎ってひ・・・ひがん・・・彼岸花みたいな名前の奴と付き合ってんじゃないの?」

すみれ「西願原さんね、でも別れたんですって」

由夏理「はーん・・・3階の男子トイレってキスボックス?」

すみれ「多分」

鳴海「き、キスボックスだと?」

由夏理「お、少年やけに食い付いて来たじゃん」

鳴海「ゆ、由緒正しき男子トイレに変な名称がついてるからだ」

すみれ「3階の男子トイレはカップルの名所だよ、キョドキョド」

鳴海「な、何故3階の男子トイレがカップルの名所になってしまったのか・・・」


 少しの沈黙が流れる


由夏理「キスボックス、少年も波高の卒業生なんだから知ってるでしょー?」

鳴海「し、知るわけないだろ・・・」

由夏理「ほ〜、君は健全だね〜」

鳴海「け、健全な奴が楽しめる秘密を教えてくれよ・・・」

すみれ「ごめんねキョドキョド、そういう地味な秘密は持ち合わせがないの・・・」

鳴海「地味って・・・」


 再び沈黙が流れる

 鳴海と由夏理のクリームソーダのアイスは完全に溶けている


由夏理「(少し笑って)二人の秘密は私が料理して美味しく頂いたということで」

鳴海「や、やっぱり俺が一番損してると思うんだが・・・」

由夏理「(少し笑いながら)それは君が損得勘定で頭を動かすからだって」

鳴海「そ、そうなのか・・・?」

由夏理「(少し笑いながら)私が少年の心にスパイスを振りかけてあげる。君はこう思えば良いんだよ、秘密を打ち明け、3人で共有したことによってより絆が深まったってさ」

鳴海「ま、また上手く口車に乗せようとしているだろ」

由夏理「(少し笑いながら)君、そこまで私のことが信じられないの?」

鳴海「し、信じたい気持ちはあるけどさ・・・お、俺とあなたは近付き過ぎなくたって良いと思うんだ」


 少しの沈黙が流れる


すみれ「由夏理、フラれちゃったね」

由夏理「チェッ・・・私の時計の針が5時59分で止まる前に舞踏会の支度をすれば良かった・・・」

鳴海「ご、誤解しないでくれ、お、俺はあなたの味方なんだ」

由夏理「(少し笑って)優しいことを言ってるじゃん少年。今の言葉は、私の秘密の缶に大切にしまっておくよ」

鳴海「あ、ああ」

由夏理「(少し笑いながら)でも願わくばさ、そんな優しい言葉をかけてくれた少年の心境が私は知りたいんだけど」

鳴海「そ、それは秘密だ」

由夏理「(少し笑いながら)また秘密かね?」

鳴海「ど、どんなものだって全貌が分かってしまったらつまらないだろ。み、見えぬものこそ、知らぬものこそ魅力が溢れるんだ。た、例えば映画や夢、小説もそうだと思わないか?」

すみれ「確かに・・・100%分かっていることよりも・・・分からないことがある方が素敵だと感じるかも・・・」

鳴海「そ、その通りです。ひ、秘密があるからその人のことを知ろうとするし、惹かれるんですよ」

由夏理「君、良いこと言うじゃん」

鳴海「こ、これは人の受け売りなんだ」


◯1951◯1820の回想/公園(夕方)

 夕日が沈みかけている

 公園にいる鳴海と菜摘

 鳴海は車椅子に乗っている

 鳴海は右足だけサンダルを履いている

 鳴海の右足には包帯が巻いてある

 車椅子に乗ったまま右足を伸ばしている鳴海

 鳴海は一眼レフカメラを首から下げている

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 公園には鳴海と菜摘の他に人はいない

 公園の地面には菜摘が木の棒を使って書いた文字がある

 公園の地面に菜摘が木の棒を使って書いた文字の全文は読めず分からない

 右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押し始める菜摘


菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)夢とか、映画とか、小説とか、絵画と同じで、全貌は分からない方が魅力的に感じるんだよ、鳴海くん」

鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)そ、それは否定しないけどさ・・・」


◯1952回想戻り/鳴海の夢/“喫茶ジラソーレ”(約30年前/夕方)

 外は弱い雨が降っている

 約30年前の緋空浜近くにある喫茶店”喫茶ジラソーレ”の中にいる鳴海、由夏理、すみれ

 ”喫茶ジラソーレ”の中には鳴海たちの他に数人の客がおり、コーヒーを飲みながらタバコを吸ったり、新聞を読んだりしている

 由夏理とすみれは波音高校の制服を着ている

 鳴海と由夏理はアイスが溶けたクリームソーダ、すみれコーヒーを飲んでいる

 話をしている鳴海たち


由夏理「そっかそっか、少年には素敵なガールフレンドがいるんだねー」

鳴海「あ、ああ・・・って何で彼女だって・・・」

由夏理「だっているんでしょー?大好きな彼女がさー」

鳴海「ま、まあ・・・」

すみれ「素敵な恋人さんだね。私もキョドキョドに教えてもらった考えをみんなに広めて良い?」

鳴海「も、もちろんです!!」


◯1953鳴海の夢/波空スーパー駐車場(約30年前/夕方) 

 弱い雨が降っている

 約30年前の波空スーパーの駐車場にいる鳴海、由夏理、すみれ

 波空スーパーの駐車場には数台の車やバイクが止まっている

 駐車されている車やバイクのデザインは古い

 傘を持っていない鳴海の体は雨で濡れている

 由夏理とすみれは波音高校の制服姿で傘をさしている

 由夏理は折り畳み傘をさしている

 紘のバイトが終わるのを待っている鳴海たち


鳴海「寒いな・・・」

由夏理「少年、こういう天気の時は傘くらい持ち歩きなよー」

鳴海「あ、雨だって知らなかったんだ」

すみれ「キョドキョドは天気予報も見ないの?」

鳴海「み、見てないってことにしときます・・・」

由夏理「冬の雨で風邪を引いてガールフレンドに移すんじゃないぞ〜」

鳴海「(声 モノローグ)そうか・・・今は冬なのか・・・」

すみれ「後でカイロを買う?」

鳴海「い、要りませんよ・・・それにカイロを買う金があれば傘をですね・・・」

潤「(大きな声で)すみれ!!!!会いたかったぜ俺のマイガール!!!!」


 鳴海たちの後ろから潤の大きな声が聞こえて来る 

 振り返る鳴海、由夏理、すみれ

 作業服姿で傘を持っていない潤が鳴海たちのところに走ってやって来る

 潤の年齢は18歳


すみれ「お疲れ様、潤くん」

潤「おうよ!!」

鳴海「(小声でボソッと)相変わらず無駄に声がでかいな・・・」

潤「あぁん?」

鳴海「お、落ち着け」

潤「誰だよお前、何で俺のマイガールと一緒にいるんだ」

鳴海「ちょ、ちょっとお茶を・・・というか俺のマイガールって言葉はおかしいだろ・・・」

潤「あぁん!?」

鳴海「お、落ち着けって・・・」

潤「とっとと帰りやがれ傘なし野郎が」

鳴海「(呆れて)あんたが言うなよ・・・」

潤「(大きな声で)あぁん!?!?」

鳴海「そ、そのあぁんってのはやめてくれ」

潤「すみれ、由夏理、何なんだよこいつ」


 由夏理は鳴海の肩に手を置く


由夏理「(鳴海の肩に手を置いて)少年は私の友達」

潤「下僕か?」

鳴海「(由夏理に肩に手を置かれたまま)ちげえよ!!」

潤「じゃあ何だ?ペットか?」

由夏理「(鳴海の肩に手を置いたまま)友達だって言ってるじゃん」

すみれ「潤くん、夏休みにお世話になったキョドキョドだよ」

潤「俺は誰の世話も受けちゃいねえ」

すみれ「潤くん」

潤「すみれの厄介にはなってたな」

すみれ「キョドキョドには撮影を手伝ってもらったでしょう?」

潤「こいつに・・・?俺が・・・?」


 潤は鳴海の顔を見る


潤「(鳴海の顔を見て)ダメだ、全く覚えてねえ」

すみれ「紘くんの代わりにキツネ様の役で出てもらったのを忘れたの?」


 少しの沈黙が流れる


潤「(鳴海の顔を見たまま)何だお前、あん時の紘の代理か」

鳴海「(由夏理に肩に手を置かれたまま)あ、ああ」


 再び沈黙が流れる


潤「(鳴海の顔を見たまま)傘させよ、風邪引くぞ」

鳴海「(由夏理に肩に手を置かれたまま)あ、あんたが言うなあんたが!!」


 潤は鳴海の顔を見るのをやめる


潤「(鳴海の顔を見るのをやめて)さっ、こんな奴は置いてとっとと行こうぜすみれ」

すみれ「紘くんが来るのを待ってからね」

潤「あいつは来やしねえよ・・・」

由夏理「(鳴海の肩に手を置いたまま)来るって!!紘は私と約束したんだからさ!!」

潤「お前はいっつも紘に騙されてるよな・・・」

由夏理「(鳴海の肩に手を置いたまま)わ、私たちには私たちなりの愛ってもんがあるんだよ、そ、そう思うよね?すみれ」

すみれ「う、うん」

由夏理「(鳴海の肩に手を置いたまま)しょ、少年だってそう思うでしょ?」

鳴海「(由夏理に肩に手を置かれたまま)も、もちろんだ」

潤「イエスマンかてめえは」

由夏理「(鳴海の肩に手を置いたまま少し笑って)この子はいかなる時も私の味方だからね」

鳴海「(由夏理に肩に手を置かれたまま)あ、ああ」

潤「紘の代理は紘と同じくらい変人って・・・」

すみれ「(潤の話を遮って指差して)あ、紘くんが来たよ」


 すみれが指差した方には折り畳み傘をさした波音高校の制服姿の紘がいる

 紘は鳴海たちのところにやって来る

 紘のことを指差すのをやめるすみれ

 由夏理は鳴海の肩に手を置くのをやめる


由夏理「(鳴海の肩に手を置くのをやめて)遅いじゃん紘!!」

紘「すまない由夏理、何かで埋め合わせしよう」

由夏理「んー・・・簡単に許すと思うなよー・・・」

紘「来週末に温泉旅行、それでどうだ」

由夏理「温泉かー・・・手を打ってやらないこともないけどさー・・・」

紘「3泊4日でスケジュールを抑えるぞ」

由夏理「なら良いよ」

紘「今日の遅れた分は帳消しにしてくれるか?由夏理」

由夏理「(少し笑って)ん、しょうがないから許してあげる」

潤「俺らにも何かしろよ遅刻魔」

紘「すみれには必ず埋め合わせをしよう」

すみれ「ありがとう、紘くん」


 紘は鳴海のことを見る


紘「(鳴海のことを見て)お前にも何かした方が良いな」

鳴海「い、いや・・・俺は・・・」

潤「すみれの次は俺だろ!!何で紘の代理が・・・」

紘「(鳴海のことを見たまま潤の話を遮って)お前、名前は何て言うんだ」

鳴海「き、聞かないでくれ」

紘「(鳴海のことを見たまま)言いたくないのか」

鳴海「あ、ああ」

 

 少しの沈黙が流れる


紘「(鳴海のことを見たまま)変わった奴だな」


 紘は鳴海のことを見るのをやめる

 歩き出す紘

 紘に続いて歩き出す由夏理、すみれ、潤


潤「おい!!だから俺にも埋め合わせしろよ!!」

紘「気が向いたらな」

潤「あぁん!?」

紘「静かに喋れないのか、潤」

潤「(大きな声で)あぁん!?!?」

紘「すみれ、あんたの恋人が馬鹿になっているぞ」

すみれ「潤くん、馬鹿になってるよ」

潤「馬鹿は紘の方だろ!!」

由夏理「私の彼氏を馬鹿呼ばわりするとは良い度胸じゃん、潤」

潤「馬鹿の頂点を極めて・・・」


 由夏理、紘、すみれ、潤は話を続ける

 ゆっくり歩き出す鳴海

 鳴海は話をしている由夏理、紘、すみれ、潤の後ろをついて行く


鳴海「変わった奴、か・・・あんたらだってよっぽど変わってると思うけどな・・・」


◯1954鳴海の夢/“Ecarlate Club”(約30年前/夜)

 外は弱い雨が降っている

 約30年前の緋空浜にあるクラブ”Ecarlate Club”の中にいる鳴海、由夏理、すみれ、潤

 由夏理、紘、すみれは波音高校の制服を着ており、潤は作業服を着ている

 ”Ecarlate Club”の中には男女合わせてたくさんの人がおり、そのほとんどが高校生から20代後半の若者たち

 ”Ecarlate Club”の中心には踊るための広場があり、たくさんの若者たちが踊っている

 ”Ecarlate Club”の奥にはDJブースがあり、DJブースの両脇には大きなスピーカーが置いてある

 ”Ecarlate Club”のDJブースではDJがPet Shop Boysの”It’s a Sin”をアレンジして爆音で流している

 ”Ecarlate Club”ではカラフルな照明とミラーボールが設置されており、ミラーボールが回転しながら中心にある踊るための広場を赤、青、緑、黄色、ピンク、オレンジなど様々な色で照らしている

 ”Ecarlate Club”にはバーがあり、数人の若者たちがそこで酒やジュースを飲んだり、軽食を食べたりしている

 ”Ecarlate Club”にはバーの他にもテーブルと椅子が何台かあり、会話をしながら飲み食いをしている若者たちがいる

 由夏理とすみれは”Ecarlate Club”の中心には踊るための広場で、Pet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている

 鳴海、紘、潤はテーブルに向かって椅子に座っており、広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理とすみれのことを見ている


鳴海「(広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理とすみれのこと見ながら)こんな店があったのか・・・」


 少しの沈黙が流れる


潤「(広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理とすみれのこと見ながら大きな声で)でかい声で喋れよ!!!!聞こえないだろ!!!!」

紘「(広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理とすみれのこと見ながら大きな声で)何も言っていない!!!!」


 再び沈黙が流れる

 紘は広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理とすみれのこと見るのをやめる

 立ち上がる紘


紘「(立ち上がって大きな声で)見ているだけじゃつまらないだろう!!!!行くぞ潤!!!!」


 潤は広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理とすみれのこと見るのをやめる


潤「(広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理とすみれのこと見るのをやめて大きな声で)ああ!!!!」


 潤は立ち上がる


紘「(大きな声で)お前も来るか!!!!」

鳴海「(広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理とすみれのことを見ながら)え、遠慮しとくよ!!」

紘「(大きな声で)聞こえない!!!!」

鳴海「(広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理とすみれのことを見ながら大きな声で)遠慮しとくって言ったんだ!!!!」


 紘は頷く

 由夏理たちが踊っている広場に行く紘と潤

 紘と潤は由夏理たちと同じように広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊り出す

 広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら話をしている由夏理、紘、すみれ、潤

 鳴海は広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら話をしている由夏理たちのことを一人見ている

 由夏理たちが広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら何を話をしているのか鳴海には聞こえず、分からない

 

鳴海「(広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら話をしている由夏理たちのことを見て)すみれさんがクラブで踊り狂ってたって知ったら、菜摘はビビるだろうな・・・」


 広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら話をしている由夏理と鳴海の目が合う

 由夏理は広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら、鳴海に向かってウインクをする

 広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている由夏理たちのことを見ながら、由夏理に向かって軽く手を振る鳴海

 由夏理は広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら、鳴海に向かって手招きをする

 鳴海はPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊り手招きをしている由夏理に向かって、首を横に振る

 広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら、鳴海に向かって手招きをし続ける由夏理

 由夏理は広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら、しばらくの間鳴海に向かって手招きを続ける


鳴海「(広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら、手招きをし続けている由夏理のことを見て)しつこい人だ・・・」


 由夏理は広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら、鳴海に向かって手招きをするのやめる

 広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら紘たちに何かを言う由夏理

 広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら由夏理が何を言ったのか鳴海には聞こえず、分からない

 由夏理はPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊るのをやめる

 広場からテーブルに向かって一人椅子に座っている鳴海のところにやって来る由夏理


由夏理「(大きな声で少し笑って)何やってんの少年!!!!」

鳴海「(大きな声で)別に!!!!あなたこそ何をしてるんだ!!!!」

由夏理「(大きな声で少し笑いながら)踊ってるんじゃん!!!!ダンスだよダンス!!!!」


 少しの沈黙が流れる


由夏理「(大きな声で少し笑いながら)君も踊りなって!!!!」

鳴海「(大きな声で)さっきも断ったんだよ!!!!」

由夏理「(大きな声で少し笑いながら)何でさ!!!!」

鳴海「り、理由はないが・・・」

由夏理「(大きな声で)えっ!?!?」」

鳴海「(大きな声で)り、理由はないって言ったんだ!!!!」

由夏理「(大きな声で少し笑いながら)なら踊ろうよ!!!!恥ずかしがらないで!!!!楽しいからさ!!!!」


 紘は広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら鳴海と由夏理のことを見ている

 広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら紘が自分たちを見ていることに気付く鳴海


鳴海「(広場でPet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊りながら紘が自分たちを見ていることに気付いて大きな声で)か、彼氏がこっちを見てるぞ!!!!あなたのことを心配してるんじゃないか!!!!」


 由夏理は振り返ってチラッと広場でet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている紘たちのことを見る

 Pet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊るのをやめる紘

 紘は広場から鳴海と由夏理がいるところにやって来る


紘「(広場から鳴海と由夏理がいるところにやって来て大きな声で)どうしたんだ由夏理!!!!」

由夏理「(大きな声で)別に!!!!どうもないよ!!!!」

紘「(大きな声で)問題はないか!!!!」

由夏理「(大きな声で)問題って何さ!!!!

紘「(大きな声で)確認したんだ!!!!心配になるようなことはするんじゃないぞ!!!!」

由夏理「(大きな声で少し笑って)分かってるって!!!!」

紘「(大きな声で)潤たちに飯を奢るから手伝ってくれ由夏理!!!!」

由夏理「(大きな声で)良いよ!!!!」


 鳴海は立ち上がる


紘「(大きな声で)お前はここで待っていろ!!!!」

鳴海「(大きな声で)て、手伝いがいるんじゃないか!!!!」

紘「(大きな声で)俺には由夏理が!!!!由夏理には俺がいる!!!!」


 再び沈黙が流れる


紘「(大きな声で)飯はお前の分も買ってきてやる!!!!だからここで待っているんだ!!!!」

鳴海「(大きな声で)わ、分かったよ!!!!」


 由夏理と紘は”Ecarlate Club”の中にあるバーに向かう

 鳴海は由夏理と紘の後ろ姿を見る

 

◯1955回想/貴志家玄関(約十数年前/夜)

 ◯1797の続き

 玄関にいる2歳頃の鳴海、8歳頃の風夏、30歳頃の紘

 2歳頃の鳴海は8歳頃の風夏と手を繋いでいる

 2歳頃の鳴海と8歳頃の風夏は紘のことを見送りに来ている

 靴を履いている紘


紘「(靴を履きながら)友達に会いに行くと言ったんだな・・・」

風夏「(2歳頃の鳴海と手を繋いだまま)うん」


 紘は靴を履き終える


紘「(靴を履き終えて)そうか・・・分かった・・・(少し間を開けて)お前たちは家で待っていろ」

風夏「(2歳頃の鳴海と手を繋いだまま)パパ・・・ママを連れて帰って・・・」

紘「心配するな、母さんは一人で何か出来るような人じゃない」


 少しの沈黙が流れる


紘「夜飯は買って帰る、鳴海と風夏は俺たちの帰りを待っているんだ、良いな?」


◯1956回想戻り/鳴海の夢/“Ecarlate Club”(約30年前/夜)

 外は弱い雨が降っている

 約30年前の緋空浜にあるクラブ”Ecarlate Club”の中にいる鳴海、由夏理、すみれ、潤

 由夏理、紘、すみれは波音高校の制服を着ており、潤は作業服を着ている

 ”Ecarlate Club”の中には男女合わせてたくさんの人がおり、そのほとんどが高校生から20代後半の若者たち

 ”Ecarlate Club”の中心には踊るための広場があり、たくさんの若者たちが踊っている

 ”Ecarlate Club”の奥にはDJブースがあり、DJブースの両脇には大きなスピーカーが置いてある

 ”Ecarlate Club”のDJブースではDJがPet Shop Boysの”It’s a Sin”をアレンジして爆音で流している

 ”Ecarlate Club”ではカラフルな照明とミラーボールが設置されており、ミラーボールが回転しながら中心にある踊るための広場を赤、青、緑、黄色、ピンク、オレンジなど様々な色で照らしている

 ”Ecarlate Club”にはバーがあり、数人の若者たちがそこで酒やジュースを飲んだり、軽食を食べたりしている

 ”Ecarlate Club”にはバーの他にもテーブルと椅子が何台かあり、会話をしながら飲み食いをしている若者たちがいる

 すみれと潤は”Ecarlate Club”の中心には踊るための広場で、Pet Shop Boysの”It’s a Sin”に合わせて踊っている

 ”Ecarlate Club”の中にあるバーで注文をしている由夏理と紘

 鳴海はテーブルに向かって椅子に座っており、バーで注文をしている由夏理と紘のことを見ている

 少しするとPet Shop Boysの”It’s a Sin”が流れ終わる

 Pet Shop Boysの”It’s a Sin”に続いて、DJがGenghis Kahnの”Hadschi Halef Omar”をアレンジして爆音で流し始める

 すみれと潤は踊るのをやめる

 広場からテーブルに向かって一人椅子に座っている鳴海のところにやって来るすみれと潤

 すみれと潤は鳴海と同じテーブルに向かって椅子に座る


潤「(鳴海と同じテーブルに向かって椅子に座って大きな声で)一人で何してんだよ!!!!」


 鳴海はバーで注文をしている由夏理と紘のことを見るのをやめる


鳴海「(バーで注文をしている由夏理と紘のことを見るのをやめて大きな声で)な、何もしてない!!!!」

すみれ「(大きな声で)二人のことが気になっているの!!!!」

鳴海「(大きな声で)き、気になりませんよ!!!!変なことを言うのはやめてくださいすみれさん!!!!」

潤「(大きな声で)変なのはお前だろ!!!!踊らず喋らず見てばっかじゃねえか!!!!」

鳴海「(大きな声で)こ、こういう店に来るのは初めてなんだよ!!!!」

潤「(大きな声で)だっせえな!!!!」

鳴海「(大きな声で)うるせえ!!!!」


 由夏理と紘が瓶のジュース5本、チキンナゲット、フライドポテトを持って鳴海たちが座っているところにやって来る

 瓶のジュース5本、チキンナゲット、フライドポテトをテーブルの上に置く由夏理と紘

 鳴海はテーブルの上のジュース、チキンナゲット、フライドポテトを見る


鳴海「(ジュース、チキンナゲット、フライドポテトを見て)体に悪そうなものばっかりだな・・・」

 

 由夏理と紘は鳴海と同じテーブルに向かって椅子に座る


紘「(鳴海と同じテーブルに向かって椅子に座って大きな声で)適当に食べてくれ!!!!」

すみれ「(大きな声で)ありがとう!!!!」


 鳴海はテーブルの上のジュース、チキンナゲット、フライドポテトを見るのをやめる


鳴海「(テーブルの上のジュース、チキンナゲット、フライドポテトを見るのをやめて大きな声で)も、もっと健康的な飯はないのか!!!!」

紘「(大きな声で)文句はここの経営者に吐き出せ!!!!俺に言うな!!!!」


 少しの沈黙が流れる

 由夏理、すみれ、潤はそれぞれ食事を取り始める

 チキンナゲットを一個食べる潤


潤「(チキンナゲットを一個食べて大きな声で)バーベキューソースがねえぞ!!!!」

紘「(大きな声で)あいにくソースは品切れだ!!!!」

潤「(大きな声で)ざけんじゃねえ!!!!」

紘「(大きな声で)俺に言っているのか!!!!」

潤「(大きな声で)ああ!!!!」

紘「(大きな声で)鼻をへし曲げるぞ!!!!」

潤「(大きな声で)やれるもんならやってみろよ!!!!」

すみれ「(大きな声で)喧嘩しないの二人とも!!!!」


 由夏理はフライドポテトを一本食べる


紘「(大きな声で)すみれがいなかったらどうなっていたか!!!!」

潤「(大きな声で)すみれはいなくならねえ!!!!俺のマイガールだ!!!!」

紘「(大きな声で)日本語が狂っているぞ!!!!」

潤「(大きな声で)あぁん!?!?」


 由夏理はチキンナゲットを一個食べる


由夏理「(チキンナゲットを一個食べて大きな声で)ソースがなくてもいけるじゃんこれ!!!!」

紘「(大きな声で)俺はケチャップがあった方が良いんだ!!!!」

潤「(大きな声で)バーベキューだっつってんだろ!!!!」

紘「(大きな声で)欲しければ買いに・・・」


 紘と潤は言い争いを続ける

 

鳴海「(呆れて)黙って食えよあんたら・・・」


 すみれはチキンナゲットを一個食べる

 チキンナゲットを鳴海の方に勧めるすみれ


すみれ「(チキンナゲットを鳴海の方に勧めて大きな声で)キョドキョドもどうぞ!!!!」

鳴海「(大きな声で)す、すみません!!!!いただきます!!!!」


 鳴海はチキンナゲットを一個食べる

 紘と潤は変わらず言い争いを続けている


紘「(大きな声で)お前の分を買ってやったのは俺だぞ!!!!」

潤「(大きな声で)頼んじゃいねえよ!!!!バーベキューソースの良さも分からない奴なんかにな!!!!」

紘「(大きな声で)ケチャップの方が肉に合うだろう!!!!」

潤「(大きな声で)お前は前から舌がぶっ壊れて・・・」


 鳴海はチキンナゲットを飲み込む


鳴海「(チキンナゲットを飲み込み潤の話を遮って大きな声で)このナゲットに組み合わせるべき調味料はマヨネーズじゃないか!!!!バーベキューソースでもケチャップなんて論外だ!!!!」

由夏理「(大きな声で)奇遇だね少年!!!!私もこれに一番合うのはマヨネーズだと思ってたんだよ!!!!」

鳴海「(大きな声で)そうだよな!!!!マヨネーズこそ人類の宝だ!!!!」

紘「(大きな声で)悪いがそれだけはない!!!!どうしてもマヨネーズが食べたければお好み焼きかたこ焼きを頼め!!!!」

潤「(大きな声で)お好み焼きにはお好み焼きソースだろ!!!!」

鳴海「(大きな声で)ちげえよ!!!!お好み焼きソースプラスマヨネーズだ!!!!」

由夏理「(大きな声で)青のりと紅しょうがもいるでしょ少年!!!!」

鳴海「(大きな声で)青のりと紅しょうがはお好みでかければ良いじゃないか!!!!」

潤「(大きな声で)それを言ったら全ての飯の調味料がお好みになっちまうんだよ!!!!お好み焼きだけにな!!!!」

鳴海「(大きな声で)つまらないギャグを言うんじゃねえ!!!!というか紅しょうがは調味料に入るのか!?!?」

由夏理「(大きな声で)そりゃ入るって!!!!紅しょうがチューブとか売ってるじゃん!!!!」

紘「(大きな声で)由夏理は紅しょうがチューブを使ってお好み焼きを食べるのか!!!!」

由夏理「(大きな声で)使うわけないじゃん!!!!でも使う人もいるかもしれないしね!!!!」

潤「(大きな声で)誰が使ってんだ!!!!」

鳴海「(大きな声で)知るか!!!!」

潤「(大きな声で)すみれ!!!!すみれはどう思うのか教えてくれよ!!!!」


 再び沈黙が流れる

 Genghis Kahnの”Hadschi Halef Omar”が流れ終わる

 一瞬、”Ecarlate Club”の中が静かになる


すみれ「私はあるものを美味しく食べます、それだけです」


 少しの沈黙が流れる


潤「お、俺はすみれが美味いと思ったもんが好きだぜ!!」

すみれ「うん」


 DJがGenghis Kahnの”Genghis Kahn”をアレンジして爆音で流し始める


潤「(大きな声で)お前らジンギスカンのタレは何を・・・」

すみれ「(大きな声で)潤くん!!!!」

潤「はい・・・もうやめます・・・この話は・・・」

すみれ「(大きな声で)声が小さくて聞こえません!!!!」

潤「(大きな声で)こ、この話はもうやめます!!!!」


 すみれは潤に笑顔を見せて頷く

 

 時間経過


 DJが戸川純の”好き好き大好き”をアレンジして爆音で流している

 由夏理と紘は”Ecarlate Club”の中心には踊るための広場で、戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている

 鳴海、すみれ、潤はテーブルに向かって椅子に座っており、広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のことを見ている

 鳴海たちテーブルの上には飲みかけのジュースの瓶が5本、食べかけのフライドポテト、チキンナゲットが置いてある

 鳴海たちの他に波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちがいる

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちは広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のことを見ながら、コソコソ話をしている

 広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら話をしている鳴海たち


すみれ「(広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら大きな声で)あれが由夏理の言っていたあの二人だけの愛の形なんだよキョドキョド!!!!」

鳴海「(広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら大きな声で)そ、そうみたいですね!!!!こうやってると仲の良いカップルにしか見えません!!!!」

すみれ「(広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら大きな声で)実際に由夏理と紘くんは仲が良いもの!!!!」

潤「(広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら大きな声で)奴らは波高を卒業したらすぐに結婚するんだとよ!!!!」

鳴海「(広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら大きな声で)そ、それは本当か!?!?」

潤「(広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら大きな声で)多分な!!!!」

すみれ「(広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら大きな声で)幸せが広がりますね!!!!」

潤「(広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら大きな声で)ああ!!!!俺たちも分けてもらおうぜすみれ!!!!」

すみれ「(広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のこと見ながら大きな声で)うん!!!!」


 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちは変わらず広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のことを見ながら、コソコソ話をしている

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちが、広場で戸川純の”好き好き大好き”に合わせて踊っている由夏理と紘のことを見ながら、コソコソ話をしていることに気付く鳴海

 鳴海は波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちのことを見ている

 戸川純の”好き好き大好き”が流れ終わる

 カラフルな照明が消え、回転していたミラーボールが止まる

 ”Ecarlate Club”の中が真っ暗になる

 鳴海は波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちのことを見るのをやめる


鳴海「(波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちを見るのをやめて)な、何だ・・・?何か起きるのか・・・?」 

”Ecarlate Club”のDJ「(大きな声で)みんな待たせたな!!!!本日のメインイベント!!!!ペアダンスバトルの始まりだ!!!!優勝者には賞金3万円!!!!エントリーはそこのバーで受け付けてるぜ!!!!」


 カラフルな照明とミラーボールが再び中心にある踊るための広場を赤、青、緑、黄色、ピンク、オレンジなど様々な色で照らし始める

 広場にいた人たちは一斉にバーに向かう

 由夏理と紘は広場から鳴海たちが座っているところにやって来る


潤「おい紘、俺の言いたいことが分かるな」

紘「ああ、だが遠慮する」

潤「断るんじゃねえよ」

紘「悪いな」

潤「逃げる気か」


 再び沈黙が流れる


潤「由夏理、こいつを連れて行ってやってくれよ」

由夏理「んー・・・まあ良いけどー・・・(少し間を開けて)紘は嫌なんでしょ?」

紘「ああ」

すみれ「紘くんは競争ごとが嫌いなんだよね」

潤「誰よりも早く喧嘩をおっ始めるのはこの男だぞ、すみれ」

紘「俺から喧嘩を始めたことは一度もない」

潤「嘘がつきたいならもっと違う時にやれ」


 少しの沈黙が流れる


紘「由夏理は出たいのか」

由夏理「私は・・・紘と一緒ならベストを尽くすけどさ」


 再び沈黙が流れる


潤「良いだろ紘、今日こそは勝敗をつけようぜ?」


 少しの沈黙が流れる


紘「仕方のない奴らだな・・・分かったよ」

潤「そうと決まればエントリーだ」


 紘と潤は”Ecarlate Club”の中にあるバーに向かう


すみれ「ありがとう、由夏理」

由夏理「別にお礼を言われるようなことじゃないって、紘の前ではぼかしたけど私も出たかったし」

鳴海「前からあるイベントなのか?ペアダンスバトルって」

由夏理「そうだねー、賞金目当てにたくさんの人がいるイベントでさ」

鳴海「なるほど・・・」

すみれ「キョドキョドも今度恋人を連れて挑戦してみたらどう?」

鳴海「そ、それはちょっと・・・」

由夏理「君の彼女ってどういう系の子なの?」

鳴海「ど、どういう系って聞かれても・・・分からないな・・・」

すみれ「スポーツ系?勉強系?」

鳴海「し、強いて言うなら勉強系ですかね・・・」

由夏理「(少し笑って)何だよ〜、照れてないでしっかり答えろって〜」

鳴海「こ、答えてるだろ!!」

由夏理「(少し笑いながら)少年ったら恥ずかしがり屋さんなんだから〜」

鳴海「ほ、放っておいてくれ」

由夏理「(少し笑いながら)そう言われると構いたくなっちゃうんだよね〜」

鳴海「(小声でボソッと)あ、姉貴のうざさはここから来たのか・・・」

由夏理「ん?」

鳴海「な、何でもない!!」


 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちは鳴海たちのことを見ながら、コソコソ話をしている

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちが鳴海たちのことを見ながら、コソコソ話をしていることに気付く鳴海


鳴海「(波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちが鳴海たちのことを見ながら、コソコソ話をしていることに気付いて)またか・・・」

すみれ「また?」

鳴海「俺たちのことを見てる連中がいるんすよ」

すみれ「えっ、どこに?」

鳴海「男子高校生3人組です、俺たちのことを見ながら話をしてる奴らです」


 由夏理とすみれは波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちが鳴海たちのことを見ながら、コソコソ話をしていることに気付く


すみれ「(波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちが鳴海たちのことを見ながら、コソコソ話をしていることに気付いて)あの人たち・・・」

鳴海「(小声で)知り合いですか?」

すみれ「(小声で)うん」

由夏理「(小声で)前にちょっとさ・・・」

鳴海「(小声で)な、何だよ、何かあったのか?」

由夏理「(小声で)まあね・・・」


 再び沈黙が流れる

 ペアダンスバトルのエントリーをバーで済ませた紘と潤が鳴海たちのところに戻って来る

 

潤「(鳴海たちのところに戻って来て)済ませたぞ」

すみれ「あ、うん、ありがとう潤くん」

紘「どうかしたのか」

すみれ「ううん、何でもないよ」


 少しの沈黙が流れる


潤「今日は負けねえぞ紘」

紘「ああ」

潤「すみれ、この前再上映で見た映画を覚えてるか」

すみれ「香港の?」

潤「それだ、あの映画の踊りをやるぞ」

すみれ「出来るかな・・・」

潤「リードを俺に任せるんだ」

すみれ「うん」

由夏理「二人が見たのって最果ての蝶でしょ?」

すみれ「そうだよ」

由夏理「良いなー、私もあれ見たいんだよねー」


 由夏理はチラッと紘のことを見る


紘「今度借りるか」

由夏理「紘の苦手な恋愛映画だけど良いのかい」

紘「気にするな、由夏理は見たいんだろう」

由夏理「うん」

紘「それなら決まりだ」

鳴海「き、聞いたことないタイトルの作品なんだが・・・面白いのか・・・?」

潤「香港の新鋭が撮った恋愛映画で雰囲気があるんだよ」

鳴海「どんな内容なんだ?」

潤「恋愛だっつってんだろ」

鳴海「いや・・・恋愛だけじゃ漠然とし過ぎてだな・・・」

すみれ「蝶の生まれ変わいりだと信じてる主人公と、その周りを取り巻く恋愛群像劇がメインストーリーだよ」

鳴海「ファンタジーですか・・・?」

潤「ファンタジー要素は少ねえよ」

鳴海「そ、そうは思えないあらすじだったんだが・・・」

由夏理「蝶っていうのが良いんだよねー・・・」

鳴海「そ、そうなのか・・・?」

由夏理「だって蝶は飛べるじゃん、君、自由に空を飛べるのに憧れないの?」

鳴海「別に・・・そもそも飛ぶ機能だけなら鳩やカラスでも良いだろ」

由夏理「分かってないなー少年は・・・(少し間を開けて)私なんて、もし生まれ変わって他の動物になるんだとしたら蝶が良いって思ってるくらいなのにさ」


 時間経過


 ”Ecarlate Club”の広場に立っているすみれと潤

 広場にいるのはすみれと潤だけ 

 鳴海、由夏理、紘はテーブルに向かって椅子に座っており、すみれたちのことを見ている

 鳴海たちのテーブルの上には飲みかけのジュースの瓶が5本、食べかけのフライドポテト、チキンナゲットが置いてある

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちはテーブルに向かって椅子に座っており、すみれたちのことを見ながらコソコソ話をしている

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生のテーブルには、食べかけのピザと空のジュースの瓶が3本が置いてある

 ”Ecarlate Club”の中にいる人たちの多くが鳴海たちと同じくすみれと紘のことを見ている

 ミラーボールの回転が止まっている


DJ「(大きな声で)続いての曲はザビア・クガートのメドレーだ!!!!渋い選曲だがラテン音楽の特性を活かせるか!!!!」


 DJはザビア・クガートの”Maria Elena”をアレンジして爆音で流し始める

 DJがザビア・クガートの”Maria Elena”をアレンジして爆音で流し始めたのに合わせて、踊り出すすみれと潤

 DJがザビア・クガートの”Maria Elena”をアレンジして爆音で流し始めた瞬間、ミラーボールが回転し広場で踊っているすみれと潤のことを赤、青、緑、黄色、ピンク、オレンジなど様々な色で照らす

 すみれと潤はザビア・クガートの”Maria Elena”に合わせてダンスはマンボ風の踊りをしている

 すみれと潤の手、足の動きは完全にシンクロしており、二人はザビア・クガートの”Maria Elena”に合わせて同じ振り付けで踊っている


鳴海「(広場でザビア・クガートの”Maria Elena”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見ながら大きな声で)す、凄いじゃないかあの二人!!!!隠れて練習をしてたとしか思えない動きだぞ!!!!」

由夏理「(広場でザビア・クガートの”Maria Elena”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見ながら大きな声で)すみれと潤の間には絶対的な絆があるからね!!!!二人もそれが分かってるのさ!!!!」


 DJはザビア・クガートの”Maria Elena”から”My Shawl”をアレンジした曲を爆音で流し始める

 すみれと潤は曲が変わっても乱れることのないダンスをしている


波音高校とは違う制服を着た男子高校生1「(広場でザビア・クガートの”My Shawl”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見ながら大きな声で)だせえ踊りだな!!!!」


 鳴海は広場でザビア・クガートの”My Shawl”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見るのをやめる

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちのことを見る鳴海


波音高校とは違う制服を着た男子高校生2「(広場でザビア・クガートの”My Shawl”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見ながら大きな声で)今は平成だぞ!!!!昭和の踊りをする奴は帰れよ!!!!」

鳴海「(波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちのことを見たまま)あ、あいつら!!!!」

波音高校とは違う制服を着た男子高校生3「(広場でザビア・クガートの”My Shawl”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見ながら大きな声で)お前の感性は時代遅れだな早乙女!!!!」

鳴海「(波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちのことを見たまま)クソ野郎共め!!」


 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1は広場でザビア・クガートの”My Shawl”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見たまま、テーブルの上の食べかけのピザを手に取る

 広場でザビア・クガートの”My Shawl”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見たまま、すみれと潤に向かって食べかけのピザを投げる

 鳴海は波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちのことを見たまま、立ち上がろうとする

 鳴海は波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちのことを見たまま、立ち上がろうとするが由夏理に腕を掴まれる

 紘に腕を掴まれたまま、波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちのことを見るのをやめる鳴海

 紘は鳴海の腕を掴んだまま立ち上がろうとした鳴海のことを止めている

 鳴海の腕を掴み立ち上がろうとした鳴海のことを止めたまま、鳴海に向かって首を横に振る紘

 紘は鳴海の腕を離す

 立ち上がる紘

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちの元に向かう紘

 由夏理は広場でザビア・クガートの”My Shawl”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見るのをやめる

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちの元に向かっている紘のことを見る由夏理

 すみれと紘は動じずに広場でザビア・クガートの”My Shawl”に合わせてマンボ風の踊りをしている

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちの目の前で立ち止まる紘

 波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちは”My Shawl”に合わせてマンボ風の踊りをしているすみれと潤のことを見るのをやめる

 DJはザビア・クガートのDJはザビア・クガートの”My Shawl”から”El Cumbanchero”をアレンジした曲を爆音で流し始める

 曲が変わっても乱れることのないダンスを続けているすみれと潤

 

波音高校とは違う制服を着た男子高校生2「(大きな声で)んだよ貴志!!!!一人でまた喧嘩か!?!?殴られたいんだったら相手に・・・」


 紘は話途中だった波音高校とは違う制服を着た男子高校生2の顔面をいきなり思いっきり殴る

 紘にいきなり思いっきり顔面を殴られて、鼻血を出す波音高校とは違う制服を着た男子高校生2

 紘は鼻血を出している波音高校とは違う制服を着た男子高校生2の胸ぐらを掴んで、勢いよく顔面をテーブルに叩きつける

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生2の鼻血がテーブル中に飛び散る


鳴海「(鼻血を出している波音高校とは違う制服を着た男子高校生2の胸ぐらを掴んでいる紘のことを見たまま、驚き大きな声で)な、何やってるんだよ!?!?」

波音高校とは違う制服を着た男子高校生1「(大きな声で)やりやがったなてめえ!!!!」


 波音高校とは違う制服を着た男子高校生2の顔面を再び素早く殴り、その場に倒す紘

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1は紘に殴りかかる

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1は紘に殴りかかるが、紘は簡単に波音高校とは違う制服を着た男子高校生1の拳を避ける

 紘は波音高校とは違う制服を着た男子高校生1の腹を右手で強く殴り、続けて顔面を左手で思いっきり殴る

 紘に顔面と腹を殴られてふらつき倒れそうになる波音高校とは違う制服を着た男子高校生1

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生3は紘の顔面を目掛けて殴ろうとする

 顔面を目掛けて殴りかかって来た波音高校とは違う制服を着た男子高校生3の拳を手のひらで受け止める紘

 紘は波音高校とは違う制服を着た男子高校生3の拳を手のひらで受け止めたまま、波音高校とは違う制服を着た男子高校生3を顔面を肘で思いっきり殴る

 紘に肘で顔面を思いっきり殴られ、顔から血を垂れ流しながらその場に倒れる波音高校とは違う制服を着た男子高校生3は

 広場でザビア・クガートの”El Cumbanchero”に合わせてマンボ風の踊りをしていたすみれと潤のことを見ていた人たちは、いつの間にか紘たちのことを見ている

 すみれと潤は動揺しつつも広場でザビア・クガートの”El Cumbanchero”に合わせてマンボ風の踊りをしている

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生2は鼻血を出しながら、男子高校生3は顔から血を流しながら地面にうずくまっている

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1はふらついている

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生2と波音高校とは違う制服を着た男子高校生3のことを見下ろしている紘

 

由夏理「(波音高校とは違う制服を着た男子高校生2と波音高校とは違う制服を着た男子高校生3のことを見下ろしている紘のことを見ながら大きな声で)少年が思ってるほど紘は弱くないって!!!!」

鳴海「(波音高校とは違う制服を着た男子高校生2と3のことを見下ろしている紘のことを見ながら大きな声で)つ、強い弱いの問題じゃないだろ・・・」


 紘は変わらず波音高校とは違う制服を着た男子高校生2と波音高校とは違う制服を着た男子高校生3のことを見下ろしている


紘「(波音高校とは違う制服を着た男子高校生2と3のことを見下ろしながら大きな声で)俺の友人を馬鹿にする奴は許さないぞ!!!!」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は立ち上がる

 紘たちがいるところに向かう鳴海

 由夏理は波音高校とは違う制服を着た男子高校生2と波音高校とは違う制服を着た男子高校生3のことを見下ろしている紘のことを見るのをやめる


由夏理「(波音高校とは違う制服を着た男子高校生2と波音高校とは違う制服を着た男子高校生3のことを見下ろしている紘のことを見るのをやめ大きな声で)ちょ、ちょっと少年!!!!君が行っても怪我するよ!!!!」


 鳴海は由夏理の声を無視して波音高校とは違う制服を着た男子高校生2と波音高校とは違う制服を着た男子高校生3の前で立ち止まる


鳴海「(波音高校とは違う制服を着た男子高校生2と波音高校とは違う制服を着た男子高校生3の前で立ち止まって大きな声で)これ以上はやめておけ!!!!すみれさんと潤さんの踊りはまだ・・・」


 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1が素早くテーブルの上に置いてあった空のジュースの瓶を手に取り、話途中だった鳴海の頭を思いっきり殴ろうとする

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1がジュースの瓶で鳴海の頭を思いっきり殴ろうしていることに気付く紘

 紘は反射的に鳴海の体を突き飛ばして鳴海の身代わりになる

 紘に体を突き飛ばされて倒れる鳴海

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1は紘の頭を思いっきりジュースの瓶で殴る

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1のジュースの瓶は紘の頭に思いっきり当たって粉々に割れる

 ”Ecarlate Club”の中にいた数人の女性客から悲鳴が上がる

 紘は額から血を垂れ流し、その場に膝をつく

 DJが流していたザビア・クガートの”El Cumbanchero”の曲が止まる

 由夏理は額から血を垂れ流し、その場に膝をついている紘の元に駆け寄る


由夏理「(額から血を垂れ流し、その場に膝をついている紘の元に駆け寄って大きな声で)紘!!!!」

 

 広場で踊っていたすみれと潤は額から血を垂れ流し、その場に膝をついている紘の元に紘の元に駆け寄る


潤「(額から血を垂れ流し、その場に膝をついている紘の元に紘の元に駆け寄って大きな声で)だ、大丈夫か紘!!!!」


 紘は額から血を流し、その場で膝をついたまま動かなくなっている

 倒れたまま額から血を流し、その場で膝をついて動かなくなっている紘のことを見る鳴海

 

鳴海「(倒れたまま額から血を流し、その場で膝をついて動かなくなっている紘のことを見て)い、今・・・お、俺のことを・・・庇った・・・のか・・・?」

すみれ「は、早く救急車を・・・」

波音高校とは違う制服を着た男子高校生1「(すみれの話を遮って)ざ、ざまあみろ・・・ちょ、調子に乗ってるからだ」

潤「(大きな声で)元はお前らの方が始めてきたんだろうが!!!!」


 波音高校とは違う制服を着た男子高校生2は鼻血を出しながら、男子高校生3は顔から血を流しながら立ち上がる


由夏理「(大きな声で)紘!!!!しっかりして!!!!」


 紘は変わらず額から血を流し、その場で膝をついたまま動かなくなっている


鳴海「ま、まずいぞ・・・脳震盪を起こし・・・」

紘「(その場に膝をついたまま)うるせえな・・・騒ぐなよこんなことで・・・」


 紘はゆっくり立ち上がる

 

鳴海「(倒れたままゆっくり立ち上がった紘のことを見ながら)だ、大丈夫なのか!?あ、頭から血が・・・」

紘「(鳴海の話を遮って)それが何だ」


 紘は痰を吐き出す


紘「(痰を吐き出して)離れてろ由夏理、すみれ」

由夏理「だ、大丈夫なんだよね?紘」

紘「ああ」

すみれ「またやるの・・・?これ以上酷い怪我をしたら・・・」

潤「(すみれの話を遮って)紘一人でやるわけじゃねえんだ、すみれ」

すみれ「潤くん・・・」

波音高校とは違う制服を着た男子高校生1「き、貴志と早乙女が終わったら次は女たちの番だぞ」

紘「由夏理とすみれに触れたら、お前の手と足と口が使い物にならなくなるまで殴ってやる、生きていることを後悔する人生に変えてやるよ」


 由夏理は倒れたまま紘のことを見ている鳴海のことを無理矢理立たせる

 鳴海とすみれの手を掴み引っ張って後ろに下がる由夏理

 鳴海は由夏理に手を引っ張られながら紘のことを見るのをやめる


鳴海「(由夏理に引っ張られながら紘のことを見るのをやめて)な、何するんだ!!」

由夏理「(鳴海とすみれの手を引っ張って後ろに下がりながら)良いから下がって少年!!」


 鳴海は由夏理に手を引っ張られながら由夏理に抵抗する


鳴海「(由夏理に手を引っ張られながら由夏理に抵抗して)は、離してくれ!!」

由夏理「(抵抗している鳴海とすみれの手を引っ張って後ろに下がりながら)君を巻き込みたくないんだよ!!」

鳴海「(由夏理に手を引っ張られながら由夏理に抵抗して)い、今更そんなことを言う・・・」

すみれ「(由夏理に手を引っ張られながら鳴海の話を遮って大きな声で)キョドキョド!!!!潤くんと紘くんのことを信じてみましょう!!!!きっと二人なら大丈夫だと思うから!!!!」


 再び沈黙が流れる

 鳴海は由夏理に手を引っ張られながら由夏理に抵抗するのをやめる

 抵抗している鳴海とすみれの手を引っ張って後ろに下がり、紘たちから距離を取る由夏理

 由夏理は鳴海とすみれの手を離す


潤「いけるのか、紘」

紘「ああ」

潤「血、出てるぞ」

紘「人間だからな」


 少しの沈黙が流れる


波音高校とは違う制服を着た男子高校生1「(大きな声で)舐めやがってええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1は紘に殴りかかる

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1は紘に殴りかかるが、紘は簡単に波音高校とは違う制服を着た男子高校生1の拳を避ける

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1の腰を思いっきり蹴る紘

 潤は波音高校とは違う制服を着た男子高校生2の顔面を思いっきり殴る

 潤が波音高校とは違う制服を着た男子高校生2の顔面を思いっきり殴った直後に、潤の顔面を殴る波音高校とは違う制服を着た男子高校生3

 潤は顔面を殴られた拍子に一瞬ふらつく

 潤は顔面を殴られた拍子に一瞬ふらつくが、そのまま波音高校とは違う制服を着た男子高校生3の顔面を殴り返す


潤「(波音高校とは違う制服を着た男子高校生3の顔面を殴り返して大きな声で)てめえこそ舐めてんじゃねえ!!!!」


 潤に顔面を殴られた波音高校とは違う制服を着た男子高校生3の顔の血が周囲に飛び散る

 その場に倒れる波音高校とは違う制服を着た男子高校生3

 鳴海は呆然としながら紘、潤と波音高校とは違う制服を着た男子高校生たちの喧嘩を見ている

 由夏理、すみれ、その他”Ecarlate Club”の中にいた大勢の人たちが紘、潤と波音高校とは違う制服を着た男子高校生たちの喧嘩を見ている

 潤は波音高校とは違う制服を着た男子高校生2の足を引っ掛けて倒す

 その場に倒れた波音高校とは違う制服を着た男子高校生2の腹を思いっきり蹴る潤

 潤に腹を蹴られた波音高校とは違う制服を着た男子高校生2は倒れたままうめいている

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1の髪の毛を掴む紘

 紘は波音高校とは違う制服を着た男子高校生1の髪の毛を掴んだまま顔面を思いっきり壁に叩きつける

 紘が波音高校とは違う制服を着た男子高校生1の髪の毛を掴んだまま顔面を思いっきり壁に叩きつけると、波音高校とは違う制服を着た男子高校生1の鼻が折れた鈍い音が鳴る

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1は鼻血を流しながらその場に倒れる

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1の鼻は折れ曲がっている

 息切れをしている紘と潤

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1、2は鼻血を流しながら、男子高校生3は顔から血を流しながらその場に倒れている


紘「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・クソ野郎たちが・・・」

潤「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・足を引っ張ってんじゃねえ紘・・・」

紘「(息切れをしながら)ハァ・・・足を引っ張っていたのは潤の方だろう・・・」

潤「(息切れをしながら)ハァ・・・てめえもぶん殴られてえのか・・・」

紘「(息切れをしながら)ハァ・・・いや・・・」


 鳴海は変わらず呆然としながら紘と潤のことを見ている

 再び沈黙が流れる


DJ「あいつらだ!!また貴志と早乙女がやったんだよ!!」


 DJは一人の男を連れて紘たちのところにやって来る

 DJが連れて来たのは”Ecarlate Club”の経営者

 紘と潤は呼吸を整える


”Ecarlate Club”の経営者「また貴志と早乙女がやったのか!!」

紘「(呼吸を整えながら)そうだ、また貴志と早乙女がやったらしい」

潤「(呼吸を整えながら)正義のヒーローだぜ、俺たちはよ」


 時間経過


 ”Ecarlate Club”の出入り口の近くで説教を食らっている鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤

 紘と潤が波音高校とは違う制服を着た3人の男子高校生たちと喧嘩した場所には、至る所に血の痕が残っており、周囲にはジュースの瓶の破片が散らばっている

 波音高校とは違う制服を着た男子高校生1、波音高校とは違う制服を着た男子高校生2は鼻血を流しながら、波音高校とは違う制服を着た男子高校生3は顔から血を流しながら机に向かって椅子に座り、ボーッとしている


”Ecarlate Club”の経営者「あれほど喧嘩を持ち込むなと言ったんだぞ!!」


 少しの沈黙が流れる


”Ecarlate Club”の経営者「なぜ一人も謝ろうとしないんだ!!」

すみれ「悪いのは彼らの方です・・・」

由夏理「悪いのってあいつらじゃん・・・」

潤「悪いのは俺らじゃねえしな・・・」

紘「むしろ俺たちは良い人間だ」


 再び沈黙が流れる


”Ecarlate Club”の経営者「貴様ら・・・今度こそ停学処分は免れんぞ・・・」

紘「停学で構いませんよ、元々ちゃんと学校には行ってないんで」

”Ecarlate Club”の経営者「貴志・・・お前という男は・・・地獄まで苦しむことに・・・」

鳴海「(”Ecarlate Club”の経営者の話を遮って)あ、頭を殴られて正常なことが言えなくなってるんですよ、そ、それも拳じゃなくてジュースの瓶で殴られたんですから、も、もしかしたら脳震盪でも・・・」

”Ecarlate Club”の経営者「(鳴海の話を遮って)大人を馬鹿にするのも良い加減にしろ!!!!」

鳴海「お、俺はこの場を出来るだけ丸く収めようとしてるだけで・・・」

”Ecarlate Club”の経営者「(鳴海の話を遮って)初めて見る顔だがお前も波高生だな?覚悟しろよ、学校を通して親にも連絡してやるぞ」

鳴海「ど、どうぞご自由に・・・それであんたが満足するんだったらやれば良いっすよ・・・」


 少しの沈黙が流れる


”Ecarlate Club”の経営者「お前たちは今日から出禁だ、二度とその面を見せるんじゃねえ」


 ”Ecarlate Club”の経営者はバーに向かう

 由夏理は”Ecarlate Club”の経営者の後ろ姿に向かって舌を出して中指を突き立てる


鳴海「(小声でボソッと)やめとけよおい・・・」


 由夏理は”Ecarlate Club”の経営者の後ろ姿に向かって中指を突き立てたまま舌を出すのをやめる


由夏理「(”Ecarlate Club”の経営者の後ろ姿に向かって中指を突き立てたまま舌を出すのをやめて)後ろから蹴っ飛ばす機会を見逃してやってるんだからこれくらい良いでしょ」


 再び沈黙が流れる

 紘は歩き始める

 

鳴海「こ、この後はどうするんだ?」

潤「それを考えるためにまずはここを出るぞ、紘の代理」

鳴海「そ、そうだな・・・」

 

 すみれと潤は歩き出す

 ”Ecarlate Club”を出て外に行くすみれと潤

 由夏理は”Ecarlate Club”の経営者の後ろ姿に向かって中指を突き立てるのをやめる


由夏理「(”Ecarlate Club”の経営者の後ろ姿に向かって中指を突き立てるのをやめて)行こ、少年」

鳴海「あ、ああ」


 鳴海と由夏理は歩き出す


◯1957鳴海の夢/波空スーパー駐車場(約30年前/夜) 

 ポツポツと雨が降っている

 約30年前の波空スーパーの駐車場にいる鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤

 波空スーパーの駐車場には数台の車やバイクが止まっている

 駐車されている車やバイクのデザインは古い

 由夏理、すみれ、紘は波音高校の制服を着ており、潤は作業服を着ている

 紘は額から血を流しており、潤は目の下に痣が出来ている

 傘をささず話をしている鳴海たち


すみれ「二人とも、本当に病院に行かなくて良いの・・・?」

紘「ああ」

潤「傷は男の勲章だぜ、すみれ」

すみれ「でもどこかで休んだ方が良くない・・・?」

鳴海「すみれさんに賛成だ」

由夏理「じゃあボゾラに行く?」

鳴海「ボゾラ・・・?」

由夏理「ん、君、ボゾラも知らないの?」

鳴海「新手のベトナム料理屋の名前か?」

由夏理「ちーがーう、緋空ボウリングだよー」

鳴海「何がどうなったら緋空ボウリングがボゾラになるんだ」

由夏理「ボウリングのボと緋空のゾラを足したんじゃん」

鳴海「なるほど・・・って納得するか」

由夏理「いつも思うけど少年のツッコミはキレがないよねー」

鳴海「悪かったな・・・キレがなくて・・・」


 少しの沈黙が流れる


紘「他に行く当てがなければボウリングにするか・・・」

鳴海「で、でももう夜だぞ」

紘「それがどうした」

鳴海「な、何時か知らないが今からボウリングなんかやって大丈夫なのか・・・?」

潤「帰りてえのかよ、お前」

鳴海「い、いや・・・」

由夏理「少年、もう帰っちゃうの?」

鳴海「か、帰らないけどさ・・・(少し間を開けて)す、すみれさんは平気なんですか?」

すみれ「うん、今晩は遅くなるって伝えているから」


 再び沈黙が流れる


由夏理「どうすんのさ少年、ここでバイバイしちゃうのかい」

鳴海「か、帰らないって言ってるだろ」

由夏理「じゃあもう少しお姉さんたちと遊んで行くかね?」

鳴海「あ、ああ」

潤「ボゾラを目指して旅の出発だな」

鳴海「た、旅って近くにあるんじゃないのか?」

紘「緋空ボウリングは電車で30分だぞ」

鳴海「(驚いて)さ、30分!?」

紘「知らなかったのか」

由夏理「紘、この子知らないことばっかなんだよー」

紘「そのようだな」

潤「聞きたいことがあればいつでも俺たちのところへ来いよ、癪だがお前にはいつかの撮影の借りがあるからな」


◯1958◯1716の回想/早乙女家前(昼過ぎ)

 雨が降っている

 菜摘の家の前にいる鳴海と潤

 鳴海と潤は傘をさしている

 道には緋空祭りに合わせてたくさんの提灯が吊るされている

 道には所々に咲いている桜の木がある

 雨の影響で散った桜の花びらが地面に落ちている

 地面にある桜の花びらは雨水に流されている

 潤はタバコを吸っている

 話をしている鳴海と潤


潤「(タバコを咥えたまま)鳴海・・・」

鳴海「ん?」

潤「(タバコを咥えたまま)お前が・・・両親のことを聞きたくなったら・・・いつでも俺のところへ来い。遠慮はするなよ、鳴海。お前には知る権利があるんだ」

鳴海「あんたは・・・両親のことを知りたいという俺の想いに応えてくれるのか」

潤「(タバコを咥えたまま)ああ」

鳴海「菜摘が言ってたぞ、あんたにとって俺は親友の息子だから気にかけたくなるんじゃないかって」

潤「(タバコを咥えたまま)ただ親友の息子ってだけじゃない。お前は菜摘の大切な恋人だ、癪だがな」

鳴海「なら世話になり過ぎないように注意するよ」


◯1959回想戻り/鳴海の夢/波空スーパー駐車場(約30年前/夜) 

 ポツポツと雨が降っている

 約30年前の波空スーパーの駐車場にいる鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤

 波空スーパーの駐車場には数台の車やバイクが止まっている

 駐車されている車やバイクのデザインは古い

 由夏理、すみれ、紘は波音高校の制服を着ており、潤は作業服を着ている

 紘は額から血を流しており、潤は目の下に痣が出来ている

 傘をささず話をしている鳴海たち


鳴海「あなたちには・・・この先も世話になるような気がするな・・・」

由夏理「(少し笑って)そんなことは気にしなくても良いんだよ少年、私たちと君は友達なんだからさ」

鳴海「ありがとう」

由夏理「(少し笑いながら)良いって良いって、逆に私たちも少年の世話になると思うし?そうだよね?紘、すみれ、潤」

紘「ああ」

潤「そうだな」

すみれ「みんなで助け合って生きていきましょう」

鳴海「はい!!」

潤「じゃあ行くか・・・ゾラボに・・・」


 由夏理、紘、すみれ、潤は歩き出す

 由夏理たちの少し後ろをついて行く鳴海

 鳴海たちは緋空浜近くの一般道を歩いている

 少しの沈黙が流れる

 いつの間にか雨が止んでいる


由夏理「おっ、雨止んだ?」

すみれ「うん」

紘「今日の天気予報、お前たちは見たか?」

潤「見たけど忘れたな」

紘「俺もだ」

すみれ「朝には晴れるって言っていたよ」

由夏理「まだ夜なのにねー」

潤「すみれ、今何時か教えてくれねえか」


 すみれは腕時計を見る

 すみれの腕時計は長針と短針が6時を指して止まったままになっている


すみれ「(長針と短針が6時を指して止まったままになっている腕時計を見て)6時・・・?」

潤「6時ってさっきここに集まった時間だろ」


 すみれは長針と短針が6時を指して止まったままになっている腕時計を見るのをやめる


すみれ「(長針と短針が6時を指して止まったままになっている腕時計を見るのをやめて)うん。この時計、止まってるみたいです」

潤「修理する時が来たか・・・」

鳴海「きょ、今日って冬なんだよな」

紘「ああ」

鳴海「そ、それにしては暖かくないか?」

由夏理「君、エカクラに入るまでは寒がってたのにね」

鳴海「そういえばそうだな・・・」


 再び沈黙が流れる

 鳴海は周囲を見る

 緋空浜近くの一般道には鳴海たち以外に人がおらず、車も、バイクも、自転車も全く通っていない


鳴海「(周囲を見ながら)お、おい」

由夏理「んー?」

鳴海「(周囲を見ながら)さ、さっきから人と車が全く通ってないぞ」

由夏理「夜中だしねー」

鳴海「(周囲を見ながら)い、いくら夜中でもここまで誰もいないのはおかしいだろ」

潤「俺らだけの世界になってるんじゃねえのか」

鳴海「(周囲を見るのをやめて)な、何だよそれ」

すみれ「波音町が奇跡を起こしたのかな」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海たちが歩いている緋空浜近くの一般道は緩やかな下り坂になっている


鳴海「な、なあ」

紘「何だ」

鳴海「あ、あなたたちは・・・いつもこんなに長い時間を過ごしてるのか?」

紘「いや、今日ほど夜が長く感じたことはない」


 再び沈黙が流れる


鳴海「な、何が起きてるんだろうな・・・」

由夏理「(小声で)少年」

鳴海「あ、ああ」

由夏理「(小声で)君はまだ私たちとバイバイしないって決めてくれたじゃん?私それが嬉しかったからさ、心の中で波音町にありがとって言ったんだよね」

鳴海「だ、だから何だ?」

由夏理「(小声で)別に何でもないけど、ただ不思議なことって続くんだなって思ったわけだよ。(少し間を開けて)もしかしたらさ、キツネ様のように現れては消える少年のことを、波音町が気に入って私たちの時間を引き伸ばしてくれたのかもしれないね」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「こんなに長い夜を過ごすのは、俺も初めてだな・・・」


◯1960鳴海の夢/波音駅前(約30年前/夜) 

 空は曇っている

 約30年前の波音駅の前にいる鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤 

 由夏理、すみれ、紘は波音高校の制服を着ており、潤は作業服を着ている

 紘の額には深い切り傷が、潤の目の下には痣が出来ている

 紘の額の深い切り傷からの出血は止まっている

 波音駅には鳴海たち以外に誰もいない

 波音駅の横には券売機が設置されてある

 由夏理、紘、すみれ、潤は券売機で切符を購入している

 波音駅の建物のデザインや券売機は古い

 鳴海は周囲を見ている

 

鳴海「(周囲を見ながら 声 モノローグ)時間も、季節も分からない波音駅で、母さんたちは電車の切符を買っていr」


 券売機で電車の切符の購入を終える由夏理、紘、すみれ、潤

 由夏理は電車の切符を鳴海に差し出す

 由夏理に電車の切符を差し出されて周囲を見るのをやめる鳴海

 鳴海は電車の切符を由夏理から受け取って由夏理に礼を言う


◯1961鳴海の夢/波音駅/ホーム(約30年前/夜) 

 空は曇っている

 約30年前の波音駅のホームにいる鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤

 波音駅のホームは木造で古い

 由夏理、すみれ、紘は波音高校の制服を着ており、潤は作業服を着ている

 紘の額には深い切り傷が、潤の目の下には痣が出来ている

 波音駅のホームには横長の大きな椅子が設置されてある

 波音駅のホームには鳴海たち以外に誰もいない

 由夏理と紘は横長の大きな椅子に座って電車が来るのを待っている

 赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描いている紘

 すみれは由夏理と紘と同じように横長の大きな椅子に座って電車が来るのを待っている

 すみれの膝の上に頭を乗せて、長針と短針が6時を指して止まっているすみれの腕時計を直そうとしている潤

 鳴海は立って電車が来るのを待っている

 

鳴海「(声 モノローグ)電車は全く来ない・・・まるでこの時間を楽しめと言わんばかりに・・・」


 鳴海は由夏理たちが座っている横長の大きな椅子に座る

 鳴海の隣では変わらず紘が赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描いている

 チラッと赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描いている紘のことを見る鳴海


鳴海「(チラッと赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描いている紘のことを見て 声 モノローグ)親父が絵を描いている姿を久しぶりに見た」

由夏理「(紘に赤いペンで右手首にツツジの絵を描いてもらいながら)少年、綺麗な絵でしょー?」


 鳴海は由夏理の右手首に赤いペンで描かれているツツジを見る


鳴海「(由夏理の右手首に赤いペンで描かれているツツジを見て)そうだな」

由夏理「(紘に赤いペンで右手首にツツジの絵を描いてもらいながら)君も後で描いてもらう?」


 鳴海は由夏理の右手首に赤いペンで描かれているツツジを見るのをやめる


鳴海「(由夏理の右手首に赤いペンで描かれているツツジを見るのをやめて)俺は良いよ、男の手首に花の絵があったら気持ち悪いだろ」

由夏理「(紘に赤いペンで右手首にツツジの絵を描いてもらいながら少し笑って)別にそんなことないって、男でも女でも可愛いもんは可愛いんだからさ」

鳴海「か、可愛い、か・・・」

すみれ「(潤の頭を膝に乗せながら)キョドキョドはキツネ様の絵が似合うんじゃない?」

由夏理「(紘に赤いペンで右手首にツツジの絵を描いてもらいながら)それも似合いそうだねー」

潤「(すみれの膝の上に頭を乗せて、長針と短針が6時を指して止まっているすみれの腕時計を直そうとしながら)代役を務めたのは一回なのにな」

鳴海「潤さんは一体何をしてるんだ?」

潤「(すみれの膝の上に頭を乗せて、長針と短針が6時を指して止まっているすみれの腕時計を直そうとしながら)見て分からねえのか?俺はすみれの腕時計を直してんだよ」

鳴海「時計なんて修理に出した方が早いだろ?」

紘「(赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描きながら)あいつはあれでも機械いじりが得意なんだ」

鳴海「そ、そうか・・・車関係の仕事をしてるだけはあるな・・・」

すみれ「(潤の頭を膝に乗せながら)潤くんの手にかかれば何でも直っちゃうんですよ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「直らない物だって・・・ありませんか」

すみれ「(潤の頭を膝に乗せながら)あったとしても潤くんは諦めないんだ」

潤「(すみれの膝の上に頭を乗せて、長針と短針が6時を指して止まっているすみれの腕時計を直そうとしながら)途中で投げ出しちまうのは気持ち悪いだろ」

すみれ「(潤の頭を膝に乗せながら)うん。何事も諦めない潤くんは素敵だよ」

潤「(すみれの膝の上に頭を乗せて、長針と短針が6時を指して止まっているすみれの腕時計を直そうとしながら)聞いたか紘と紘の代理、俺は素敵なんだぞ」

紘「(赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描きながら)お前のことを素敵だと思ってくれる人が身近にいて良かったな」

潤「(すみれの膝の上に頭を乗せて、長針と短針が6時を指して止まっているすみれの腕時計を直そうとしながら)今の返事的にも俺の方が紘より素敵度は高いだろ、すみれ」

すみれ「(潤の頭を膝に乗せながら)人と比べなくたって、潤くんは私の中でいつも一番素敵ですよ」

潤「(すみれの膝の上に頭を乗せて、長針と短針が6時を指して止まっているすみれの腕時計を直そうとしながら)すみれ・・・お前っていう優しい奴は・・・これじゃあ俺の瞳から涙が溢れちまいそうだぜ・・・」

すみれ「(潤の頭を膝に乗せながら)スカートは汚さないでね」

潤「(すみれの膝の上に頭を乗せて、長針と短針が6時を指して止まっているすみれの腕時計を直そうとしながら)お、おうよ」

鳴海「(声 モノローグ)すみれさんと潤さんの関係は今でも変わっていない・・・それなのに俺の親は・・・」


 鳴海は再び赤いペンで由夏理の右手首に描かれているツツジの絵を見る


由夏理「(紘に赤いペンで右手首にツツジの絵を描いてもらいながら少し笑って)くすぐったいよ、紘」

紘「(赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描きながら)すまない」

由夏理「(紘に赤いペンで右手首にツツジの絵を描いてもらいながら少し笑って)わざとやってるでしょー?」

紘「(赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描きながら)いや・・・」

由夏理「(紘に赤いペンで右手首にツツジの絵を描いてもらいながら少し笑って)ん?何々?」

紘「(赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描きながら)何でもない」

由夏理「(紘に赤いペンで右手首にツツジの絵を描いてもらいながら少し笑って)もー、紘は照れ屋さんなんだからさー」


 紘は赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描き終える

 

紘「(赤いペンを使って由夏理の右手首にツツジの絵を描き終えて)か、完成だ、由夏理」


 由夏理は右手首に描かれた赤いツツジの絵をよく見てみる


由夏理「(右手首に描かれた赤いツツジの絵をよく見て嬉しそうに)めちゃくちゃ上手に描けてるじゃん、ありがとう紘」

紘「満足してくれたか?」

由夏理「(右手首に描かれた赤いツツジの絵をよく見ながら嬉しそうに)もちろんだとも!!」

紘「良かった」

鳴海「(由夏理の右手首に描かれた赤いツツジの絵を見ながら)な、何で手首に描いてもらったんだ?」

由夏理「(右手首に描かれた赤いツツジの絵をよく見ながら)ここにあれば絶対に忘れないでしょ?」

鳴海「(由夏理の右手首に描かれた赤いツツジの絵を見ながら)忘れない?」

由夏理「(右手首に描かれた赤いツツジの絵をよく見ながら)紘のことも、この絵を描いてくれた今晩のことも、すみれのことも、潤のことも、それから君のことも、絵にすればずっと私の心に残るからさ」

鳴海「(由夏理の右手首に描かれた赤いツツジの絵を見ながら)で、でも絵はいつか消えてしまうだろ?」

由夏理「(右手首に描かれた赤いツツジの絵をよく見ながら)そんなふうに考えちゃダメだって、少年」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(由夏理の右手首に描かれた赤いツツジの絵を見ながら 声 モノローグ)俺は母さんの右手首にある赤いツツジの絵が少しだけ羨ましかった。(少し間を開けて)無理もない、俺は父さんに絵を描いてもらったことなんて一度もなかったはずだから」

由夏理「(右手首に描かれた赤いツツジの絵をよく見ながら)次は左手に、ピンクか紫色のツツジを描いて欲しいんだよねー・・・」

鳴海「(由夏理の右手首に描かれた赤いツツジの絵を見ながら 声 モノローグ)電車はその後、1時間か・・・10分か・・・1分か・・・どれだけの時間をかけたか分からないまま、ホームに来て俺たちを夢の奥へ連れて行った」

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