Chapter7♯8 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
・・・?
ミツナ 19歳女子
・・・?
X 25歳女子
・・・?
Y 25歳男子
・・・?
ドクターS 19歳女子
・・・?
シュタイン 23歳男子
・・・?
伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯8 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯1898貴志家リビング(日替わり/朝)
外は晴れている
リビングにいる鳴海と菜摘
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはご飯、目玉焼き、ソーセージ、味噌汁が置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
朝食を食べながら話をしている鳴海と菜摘
鳴海「(朝食を食べながら菜摘と話をして 声 モノローグ)菜摘は朝と夜に必ず来てくれた。これも合鍵を渡した効果だろうか?それとも俺がだらしないからだろうか?」
◯1899緋空事務所に向かう道中/早乙女家に向かう道中(朝)
晴れている
緋空浜にある緋空事務所に向かっている鳴海
菜摘は家に帰っている
鳴海と菜摘は途中まで一緒に行っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
登校中の波音高校のたくさんの生徒たちとすれ違っている鳴海と菜摘
鳴海と菜摘は楽しそうに話をしている
鳴海「(菜摘と楽しそうに話をしながら 声 モノローグ)菜摘は俺の出勤に合わせて一度に家に戻って行った。昼間、菜摘が何をしているのか俺は知らない。菜摘に日中のことを尋ねても、大体の答えは読書とか、散歩とか、極めて当たり障りのないもので、そこから会話が広がらなかった。すみれさんに付き添ってもらって病院に行ってることもあるだろう、だが菜摘はそのことについて話をしたがらない」
◯1900緋空浜/緋空事務所に向かう道中(朝)
緋空浜にいる鳴海
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている
太陽の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている
緋空浜には鳴海以外にも釣りやウォーキングをしている人がいる
鳴海は緋空浜にある緋空事務所に向かっている
鳴海「(声 モノローグ)俺はというと、仕事で伊桜さんに追いつこうと必死になっていた」
◯1901緋空事務所(朝)
緋空事務所の中には伊桜、来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたり、談笑をしたりしている
伊桜は机に向かって自分の椅子に座っている
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
コーヒーを飲んでいる伊桜
来栖、太田、目黒は自分の席で、パソコンに向かってタイピングをしている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
緋空事務所の中に入って来る鳴海
鳴海「(緋空事務所の中に入って)おはようございます!!」
来栖は驚いてパソコンに向かってタイピングをするのをやめる
来栖「(驚いてパソコンに向かってタイピングをするのをやめて)お、おはよう」
目黒はパソコンに向かってタイピングをするのをやめる
目黒「(パソコンに向かってタイピングをするのをやめて)元気だな新入り」
鳴海「当たり前じゃないっすか、俺、元気だけが取り柄なんで」
太田「(パソコンに向かってタイピングをしながら)若いって良いねえ・・・」
伊桜は少し笑ってチラッと来栖のことを見る
緋空事務所の扉の横の棚の引き出しから自分のタイムカードを取り出す鳴海
鳴海はタイムカードをタイムレコードにセットする
タイムレコードからタイムカードを抜く鳴海
鳴海は緋空事務所の扉の横の棚の引き出しにタイムカードをしまう
自分の席にカバンを置く鳴海
鳴海の席は伊桜の席の隣
鳴海「おはようございます、伊桜さん」
伊桜「おはよう」
鳴海「今日も午前中は銭湯っすか?」
伊桜「ああ」
鳴海「なら早く行きましょう」
伊桜はコーヒーを一気に飲み干す
コーヒーを一気に飲み干して立ち上がる伊桜
◯1902緋空銭湯男湯(朝)
緋空銭湯の男湯の中にいる鳴海と伊桜
男湯の中には浴槽が5据えあり、座風呂、薬湯の風呂、電気風呂、水風呂、超音波風呂などがある
男湯の中には鏡、シャワー、蛇口がたくさん設置されている
男湯の隅の方には桶と椅子がたくさん置いてある
男湯の壁には富士山が描かれている
男湯の向こうには女湯がある
男湯と女湯の間には仕切りがある
男湯は男子脱衣所と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男子脱衣所に出れるようになっている
鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている
ゴム手袋をつけている鳴海と伊桜
男湯の中にはお風呂掃除用の洗剤が2個、大きなデッキブラシが2本置いてある
浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除している鳴海と伊桜
鳴海「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら 声 モノローグ)とにかく俺は伊桜さんに遅れを取りたくなかった。伊桜さんが俺よりも年上で、俺よりも長くこの仕事をやっていようが、そんなことは関係ない。ただ俺の中にある何かが、伊桜さんに負けたくないという強い想いを引き出させた。別に競っているわけでも、戦っているわけでもないのに」
伊桜「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)お前」
鳴海「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)なんすか?」
伊桜「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)やっぱりまだまだ尖ってるな」
鳴海「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)気のせいっすよ」
少しの沈黙が流れる
伊桜「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)今日は女湯を太田さんたちがやってくれるから、もう少し力を抜いても良いぞ」
鳴海「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)その分は配達の仕事っすよね?」
伊桜「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)そうだ」
鳴海「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら 声 モノローグ)伊桜さんは俺よりもずっと前を歩いている。俺は昔から追い詰められたり、自分の容量が一杯になると、その時点で焦ってミスをすることが多い。文芸部で活動していた時も、それで南たちに迷惑をかけていた。俺と違って伊桜さんは余裕があって、他の仕事のことを頭に入れながら目の前の作業をこなしている。しかも隣にはお荷物の俺がいるのに、この人の動きは何一つ乱れていない」
◯1903緋空銭湯男子脱衣所(昼前)
緋空銭湯の男子脱衣所にいる鳴海と伊桜
男子脱衣所には中心に番台があり、番台の向こうには女子脱衣所がある
男子脱衣所と女子脱衣所の間には仕切りがある
番台には女将のおばちゃんが座っている
男子脱衣所にはたくさんのロッカーがあり、着替えをしまえるようになっている
男子脱衣所には古いマッサージチェア、体重計、扇風機、数脚のソファ、透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫が置いてある
透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫には缶ジュース、瓶ジュース、缶ビール、瓶ビール、瓶の牛乳などが冷やされている
男子脱衣所は男湯と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男湯に入れるようになっている
鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている
番台に座っている女将のおばちゃんは新聞を読んでいる
緋空銭湯の掃除を終えている鳴海と伊桜
鳴海と伊桜は瓶の牛乳を飲んでいる
鳴海「(瓶の牛乳を飲みながら 声 モノローグ)とりあえず俺は全てにおいて伊桜さんのことを参考にした。伊桜さんのように仕事をこなすためには、まずは真似するのが一番手っ取り早いからだ」
伊桜は瓶の牛乳を飲み干す
◯1904緋空事務所(昼)
緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜
緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ机に向かって椅子に座り、談笑しながら昼食を食べている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
自分の席で昼食を食べている鳴海と伊桜
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
鳴海の席は伊桜の席の隣
鳴海は菜摘の手作り弁当、伊桜は手作りのおにぎり、来栖と目黒はコンビニの弁当、太田はコンビニのサンドイッチを食べている
菜摘の手作り弁当のメニューは梅が乗っているご飯、コロッケ、卵焼き、きゅうりのハム巻き、うさぎカットのりんご
鳴海「(菜摘の手作り弁当を食べながら)痛っ・・・」
目黒「筋肉痛なんだろ」
鳴海「そうなんすよ・・・ずっと体が痛くて・・・」
太田「まだ若いのに」
鳴海「若い方が早く筋肉痛になるとも言いますよ、太田さん」
太田「(少し笑って)若くても筋肉がなかったらやり直しだわ」
伊桜は手作りおにぎりを食べ切る
机の引き出しを開ける伊桜
伊桜の机の引き出しの中には絆創膏、湿布、ガーゼ、消毒液、包帯、湿布などが入っている
机の引き出しの中から湿布を取り出す伊桜
伊桜は鳴海の机の上に湿布を置く
伊桜「(鳴海の机の上に湿布を置いて)貼っておけ」
鳴海「あ、ありがとうございます!!」
◯1905緋空海鮮市場の駐車場(昼過ぎ)
広く大きな緋空海鮮市場の駐車場にいる鳴海、龍造、伊桜
龍造は漁業用の作業服を着ている
配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている龍造
緋空海鮮市場の駐車場にはたくさんの車が止まっている
鳴海、龍造、伊桜は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら、大きなトラックの前で話をしている
鳴海たちの前に止まっている大きなトラックには”緋空海鮮市場”と荷台の側面に書かれてある
伊桜「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら)場所は頭に入ったか、貴志」
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見るのをやめる
鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見るのをやめて)はい!!」
龍造と伊桜は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見るのをやめる
配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを鳴海に差し出す龍造
龍造「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを鳴海に差し出して)頑張ってるね、鳴海くん」
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを龍造から受け取る
鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを龍造から受け取って少し笑って)当たり前じゃないっすか。あ、そうだ龍さん、結婚式の招待状、待ってますよ」
龍造「そ、それは今絶賛準備中で・・・まだ時間がかかるけど、鳴海くんの家にも届けるよ、それから菜摘ちゃんのご両親にも」
鳴海「お願いします!!」
◯1906配達先に向かう道中(昼過ぎ)
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席に座り、運転をしている
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている
伊桜「(運転をしながら)どうしたんだ」
鳴海「どうしたって何がっすか?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「気合を入れ直したんですよ」
伊桜「(運転をしながら)だからそんなに暑苦しいのか」
鳴海「辛辣っすね・・・」
伊桜「(運転をしながら)そうか?」
鳴海「辛辣っすよ、伊桜さんは毎回俺の心を一撃必殺してますし」
伊桜「(運転をしながら)必殺してないだろ」
鳴海「ま、まあそうですけど・・・」
再び沈黙が流れる
伊桜「(運転をしながら)調子に乗って怪我だけはするなよ」
鳴海「やっぱ俺が仕事から抜けると困ります?」
伊桜「(運転をしながら)困るわけないだろ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「どうして伊桜さんは俺の体のことを気にするんすか?困らないなら、俺が怪我するかなんてどうでも良いことだと思うんですけど・・・」
伊桜「(運転をしながら)部下の怪我の責任は俺になる、だからそういう意味では大いに困るんだ」
鳴海「なるほど・・・」
伊桜「(運転をしながら)恋人がいるんだろ」
鳴海「は、はい」
伊桜「(運転をしながら)貴志が怪我をしたら、間接的にその恋人を泣かせたのは俺になるんだ。お前は俺が恋人に謝ってる姿が見たいのか?」
鳴海「い、いや・・・」
伊桜「(運転をしながら)じゃあ怪我をするな」
鳴海「き、気をつけます・・・(少し間を開けて)あいつのことは・・・絶対に俺が守るって決めてますから・・・」
◯1907貴志家リビング(夕方)
夕日が沈みかけている
リビングにいる菜摘
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
菜摘はテーブルに向かって椅子に座っている
鳴海が帰って来るのを一人待っている菜摘
菜摘「また失敗しちゃった・・・」
菜摘は咳き込む
菜摘「(咳き込んで)ゲホッ・・・ゲホッ・・・やっぱり・・・ゲホッ・・調子悪いな・・・・・・」
菜摘は咳き込みながらテーブルに突っ伏す
◯1908緋空浜/帰路(夕方)
夕日が沈みかけている
帰り道、緋空浜の浜辺を歩いている鳴海
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている
夕日の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている
緋空浜には鳴海以外にも、釣りやウォーキングをしている人、浜辺で遊んでいる学生などたくさんの人がいる
早足で浜辺を歩き、自宅を目指している鳴海
少ししてから鳴海は違和感を覚えて立ち止まる
振り返る鳴海
鳴海の少し後ろには波音高校の制服姿の早季が立っている
早季の周りには一匹のカラスアゲハが飛んでいる
早季の周りを飛んでいるカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
鳴海は早季のことを見ている
鳴海「(早季のことを見たまま)お前・・・」
早季はゆっくり首を横に振る
鳴海「(ゆっくり首を横に振っている早季のことを見たまま)何だ・・・何が言いたいんだ・・・」
早季は何かを言う
早季は何かを言うが、鳴海には早季が何を言ったのか聞こえず分からない
鳴海「(早季のことを見たまま)早く・・・帰らないと・・・早く・・・菜摘のところに・・・」
鳴海は早季のことを見るのをやめる
走り出す鳴海
鳴海「(走りながら)ちくしょう・・・あいつ・・・何を言ったんだ・・・」
◯1909貴志家リビング(夕方)
夕日が沈みかけている
リビングにいる菜摘
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
菜摘はテーブルに突っ伏している
鳴海が帰って来るのを一人待っている菜摘
少しすると玄関の方から鳴海が帰って来た音が聞こえる
急いでリビングにやって来る鳴海
鳴海は汗だくになっている
汗だくになったまま慌ててテーブルに突っ伏している菜摘の元に駆け寄る鳴海
鳴海「(慌ててテーブルに突っ伏している菜摘の元に駆け寄って大きな声で)菜摘!!!!」
菜摘はゆっくり体を起こす
菜摘「(ゆっくり体を起こして)お帰りなさい、鳴海くん」
鳴海「(汗だくになったまま)菜摘!!だ、大丈夫か!?」
菜摘「だ、大丈夫だよ。(少し間を開けて)な、鳴海くん、どうかしたの?」
鳴海「(汗だくになったまま)と、突然菜摘のことが心配になったんだ・・・」
菜摘「突然・・・?」
鳴海「(汗だくになったまま)あ、ああ」
菜摘「鳴海くん、いっぱい汗かいてるよ」
鳴海「(汗だくになったまま)は、走って来たからな」
菜摘「そっか・・・ありがとう、今ご飯の準備をするね」
菜摘はゆっくり立ち上がる
鳴海「な、菜摘!!」
菜摘は鳴海の声を無視してキッチンに向かう
菜摘「さっきパスタを買ってきたから、今晩は洋食にしよっか」
鳴海「おい!!」
菜摘「カルボナーラ、ペペロンチーノ、ミートソース、鳴海くんはどれが・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って怒鳴り声で)俺の話を聞け!!!!」
菜摘は立ち止まる
少しの沈黙が流れる
菜摘「ど、どうしたの・・・?」
鳴海「頼むから・・・俺の話を聞いてくれ菜摘」
菜摘「うん・・・」
鳴海「晩飯は・・・俺が作るよ・・・」
菜摘「でも鳴海くんはお仕事で疲れて・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)俺の話を聞けと言っただろ・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘は再びテーブルに向かって椅子に座る
鳴海「今日は俺に作らせてくれ・・・ここのところ毎日菜摘に任せっぱなしなんだから・・・たまには良いだろ・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「本当は凄く嫌だけど・・・(少し間を開けて)特別に良いよ・・・」
時間経過
夜になっている
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはペペロンチーノと生野菜のサラダが置いてある
静かに夕食を食べている鳴海と菜摘
鳴海はペペロンチーノを食べていた手を止める
少しの沈黙が流れる
菜摘はペペロンチーノを食べていた手を止める
鳴海「別に食べながらでも・・・構わないぞ」
菜摘「ううん・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「怒鳴ってすまない・・・」
菜摘「大丈夫・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ほ、本当は気の利いたことが言いたかったんだ・・・」
菜摘「うん・・・」
鳴海「りょ、料理は・・・交代制にしないか」
再び沈黙が流れる
鳴海「お、俺の手料理も食べてくれよ菜摘、3つ星とはいかなくても、0.1星くらいの飯なら作れるつもりだしさ・・・」
菜摘「0.1なの・・・?」
鳴海「大体そのくらいだ。マックスが3点で0.1点ならそこまで悪くない・・・こともないか・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「朝も昼も夜も飯を作ってもらってるのは、申し訳ないんだよ、菜摘」
菜摘「私・・・気にしてないもん・・・」
鳴海「俺は気にしてるんだ」
菜摘「そっか・・・(少し間を開けて)合鍵・・・まだ少し早かったのかな・・・」
鳴海「そ、そんなこと言うなよ」
菜摘「ごめんなさい・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「あ、朝飯は各自の家で食べて、夜は交代制にする・・・それじゃダメか・・・?」
菜摘「でもお昼はどうするの・・・?」
鳴海「ひ、昼はコンビニで適当に済ますよ」
菜摘「嫌だ・・・」
鳴海「えっ?」
菜摘「私は・・・・鳴海くんに私が作ったもらった物を食べてもらいたい・・・」
鳴海「そ、それは・・・あ、ありがたいことだけどさ・・・」
菜摘「鳴海くんは勘違いしてるよ・・・」
鳴海「か、勘違いって何をだ?」
菜摘「鳴海くんに私のご飯を食べて欲しいのは・・・私が鳴海くんのことを好きだから・・・」
鳴海「そ、そんなことくらい分かってるぞ」
菜摘「馬鹿・・・」
鳴海「な・・・ば、馬鹿はないだろ・・・」
菜摘「だって鳴海くんは大馬鹿だもん・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ば、馬鹿で悪かったな!!」
再び沈黙が流れる
鳴海「な、菜摘・・・も、もっと分かるように説明してくれよ・・・」
菜摘「私は・・・好きな人のためにご飯を作りたい・・・それから食べて欲しい・・・その気持ちを鳴海くんは・・・」
鳴海「い、いや待つんだ菜摘、お、俺はあくまでも交代制にしようと言っただけで、菜摘のご飯が食べたくないとは・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)でも私が作った椎茸のバター醤油焼き、食べなかったでしょ・・・」
鳴海「あ、あれは別件だ!!」
菜摘「別件って・・・何・・・?」
鳴海「い、いや・・・その・・・と、とにかく交代制が嫌なら・・・そうだな・・・(少し間を開けて)い、一緒にコンビニの弁当を食べるとかはどうだ?」
菜摘「大馬鹿・・・」
鳴海「わ、悪い!!だ、だがそれ以外の方法が思いつかなかったんだ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「と、というかだな・・・お、俺も同じ気持ちかもしれないだろ・・・?」
菜摘「同じ気持ちって何が・・・?」
鳴海「お、俺も好きな人である菜摘に、俺が作った飯を食べて欲しいって思っているかもしれないじゃないか」
菜摘「鳴海くんはそんなこと思ってなさそう・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「きょ、今日の菜摘は疲れてそうだから・・・代わりに俺が飯を作りたかったんだよ・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「私・・・」
鳴海「な、何だ」
菜摘「鳴海くんと喧嘩したくない・・・」
鳴海「お、俺だって!!」
菜摘「鳴海くんのことを怒鳴らせるつもりもなくて・・・(少し間を開けて)結果はそうなっちゃったけど・・・本当は楽しく過ごしたかったんだよ・・・」
鳴海「す、すまない・・・怒鳴ったことと・・・俺が馬鹿なのことについては謝る・・・」
菜摘「ううん・・・私・・・わがままだから・・・」
鳴海「そ、それは俺もそうだろ・・・」
菜摘は首を横に振る
再び沈黙が流れる
鳴海「たまにはさ・・・俺が作った飯も食ってくれよ」
菜摘「うん」
鳴海「たまにで良いから・・・」
◯1910回想/貴志家リビング(夜)
リビングにいる7歳頃の鳴海、30歳頃の紘、10歳頃の風夏
テーブルに向かって椅子に座っている7歳頃の鳴海、紘、10歳頃の風夏
テーブルの上には食べかけのカレーライスが置いてある
話をしている鳴海たち
風夏「パパ・・・このカレーおかしいよ・・・」
紘「たまには父親が作った飯も食べてくれ」
鳴海「でも・・・不味いし・・・」
紘「何だと?」
少しの沈黙が流れる
紘「良いか、この家で一番偉いのは父親の俺だ。子供のお前たちが逆らうことは絶対に許さない、絶対にだ。(少し間を開けて)分かったら黙って出された物を食え」
再び沈黙が流れる
紘「なんてわがままなガキなんだ・・・全く・・・誰に似てこうなったのか・・・」
紘はポケットからZIPPOライターとくしゃくしゃになったタバコの箱を取り出す
くしゃくしゃになったタバコの箱から一本のタバコを取り出す紘
紘はタバコを口に咥える
ZIPPOライターでタバコに火を付ける紘
紘は深くタバコの煙を吐き出す
◯1911回想戻り/貴志家リビング(夜)
リビングにいる鳴海と菜摘
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上には食べかけのペペロンチーノと生野菜のサラダが置いてある
鳴海は頭を抱える
菜摘「(心配そうに)鳴海くん・・・?」
鳴海「(頭を抱えたまま)気にするな・・・何でもない・・・」
菜摘「(心配そうに)だ、大丈夫・・・?」
鳴海「(頭を抱えたまま)大丈夫だ・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海は頭を抱えるのをやめる
鳴海「(頭を抱えるのをやめて)明日も・・・来てくれるのか・・・」
菜摘「う、うん・・・鳴海くんに嫌がられなければ・・・だけど・・・」
鳴海「じゃあ・・・こうしよう・・・朝と夜はなるべく一緒に作って、昼飯は菜摘に頼むよ・・・」
菜摘「わ、分かった・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「合鍵・・・やっぱり鳴海くんに・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)ダメだ・・・菜摘が持っててくれ・・・」
菜摘「でも・・・本当に良いの・・・?」
鳴海「ああ」
◯1912早乙女家に向かう道中(夜)
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
黙って歩いている鳴海と菜摘
鳴海「(小声でボソッと)楽しく過ごしたい、か・・・」
菜摘「えっ・・・?」
鳴海「リレー小説・・・ってのはどうだ」
菜摘「リレー小説?」
鳴海「た、楽しそうだろ・・・?」
菜摘「でもリレー小説って、二人だけでやっても・・・」
鳴海「そうか・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「私・・・鳴海くんとお話しているだけで楽しいよ」
鳴海「話って言ってもな・・・(少し間を開けて)菜摘は昼間、何かしてたのか・・・?」
菜摘「今日は・・・・波音高校の周りをグルーって一周したんだ。あっ、走ってないよ、ゆっくりお散歩しただけだから」
鳴海「それは・・・懐かしかったんじゃないか」
菜摘「懐かしいって、ついこの前まで私たちも波音高校に通ってたんだよ、鳴海くん」
鳴海「だから懐かしいんだろ」
菜摘「そうかな・・・?」
鳴海「ああ、俺は結構懐かしいと感じる派だ」
菜摘「じゃあ戻りたいって思ったりもするの?」
鳴海「波高の生徒にか?」
菜摘「うん」
鳴海「そりゃあ出来るなら、まだまだ現役で文芸部の副部長をやっていたいところだけどさ」
菜摘「そうも言ってられないもんね・・・」
鳴海「ああ」
再び沈黙が流れる
菜摘「私、鳴海くんといっぱい遊びたいな」
鳴海「祭りとかでか?」
菜摘「お祭りもだし・・・海とか・・・」
鳴海「緋空浜にはしょっちゅう行ってる気がするんだが・・・」
菜摘「そ、それはそうなんだけど・・・」
鳴海「ショッピングをしに行きたい、とか思わないのか?」
菜摘「お、思うよ!!」
鳴海「遊園地とか、動物園とか、映画館とかは?」
菜摘「そ、そういうところも楽しそうだよね!!」
鳴海「じゃあいつか行くか」
菜摘「うん!!」
少しすると鳴海と菜摘は菜摘の家に辿り着く
家の前で立ち止まる菜摘
鳴海は菜摘に合わせて菜摘の家の前で立ち止まる
和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を菜摘に差し出す鳴海
鳴海「(和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を菜摘に差し出て)弁当、ありがとな」
菜摘は和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を鳴海から受け取る
菜摘「(和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を鳴海から受け取って)ううん!!」
鳴海「菜摘・・・」
菜摘「な、何?」
鳴海「怒鳴って本当にごめん」
菜摘「も、もう気にしてないよ鳴海くん。それに私の方こそごめんなさい」
鳴海「(少し笑って)俺も大丈夫だ。これからは協力していこうな、菜摘」
菜摘「そうだね」
少しの沈黙が流れる
菜摘「向日葵が教えてくれる・・・」
鳴海「な、波に背かないで・・・だろ」
菜摘「うん!!じゃあまた明日ね」
鳴海「おう、おやすみ」
菜摘「おやすみなさい」
菜摘はポケットから家の鍵を取り出す
家の玄関の鍵穴に鍵を挿す菜摘
菜摘は家の玄関の鍵を開ける
家の玄関の鍵穴から鍵を抜く菜摘
菜摘は家の中に入って行く
再び沈黙が流れる
鳴海「菜摘のわがままを聞けないのは・・・菜摘の想いを殺してるのは・・・俺のせいなんだ・・・(少し間を開けて)忌々しい記憶が・・・あんな過去は消えてしまえば・・・」
◯1913早乙女家菜摘の自室(深夜)
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
ベッドの上で横になっている菜摘
菜摘は鳴海から貰った合鍵を握り締めている
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる
菜摘「(鳴海から貰った合鍵を握り締めたまま)苦しい・・・私と鳴海くんは・・・波のように押し寄せて来る記憶に・・・犯されてるんだ・・・」
◯1914貴志家リビング(日替わり/朝)
外は曇っている
リビングにいる鳴海と菜摘
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上には焼いた食パン、ベーコン、目玉焼き、ヨーグルトが置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
朝食を食べながら話をしている鳴海と菜摘
鳴海「(菜摘と話をしながら朝食を食べて 声 モノローグ)菜摘は俺の家に来るのをやめなかった」
◯1915緋空事務所に向かう道中/早乙女家に向かう道中(朝)
空は曇っている
緋空浜にある緋空事務所に向かっている鳴海
菜摘は家に帰っている
鳴海と菜摘は途中まで一緒に行っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
登校中の波音高校のたくさんの生徒たちとすれ違っている鳴海と菜摘
鳴海と菜摘は話をしている
鳴海「(菜摘と話をしながら 声 モノローグ)この先、俺と菜摘はどうなるんだろう。仕事が忙しくなって、菜摘の一人の時間が増えて、俺たちの間に距離が出来て・・・もしかしたら俺と菜摘に壁が立ってしまうのかもしれない・・・(少し間を開けて)ダメだ、こんな弱気じゃダメなんだ。俺は菜摘の人生を背負う立場にある、だからもっと強くならなければいけない、弱いのは許されないんだ」
◯1916緋空銭湯男湯(朝)
外は曇っている
緋空銭湯の男湯の中にいる鳴海と伊桜
男湯の中には鏡、シャワー、蛇口がたくさん設置されている
男湯の隅の方には桶と椅子がたくさん置いてある
男湯の壁には富士山が描かれている
男湯の向こうには女湯がある
男湯と女湯の間には仕切りがある
男湯は男子脱衣所と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男子脱衣所に出れるようになっている
鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている
男湯の中にはお風呂掃除用の洗剤が2個置いてある
男湯の床をデッキブラシで掃除している鳴海と伊桜
鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら 声 モノローグ)仕事は緋空銭湯の掃除、品出し、配達に加え、様々な作業が増えていった」
◯1917”The Hizora are House”店内(昼過ぎ)
外は曇っている
緋空浜の浜辺にある廃屋と化したThe Hizora are Houseの中にいる鳴海と菜摘
“The Hizora are House”は◯1787の鳴海、18歳の由夏理、すみれ、潤がいた約30年前のThe Hizora are Houseとは完全に違う状態になっている
“The Hizora are House”の中は荒れ果てていて、椅子、テーブルがひっくり返り、床には粉々になったグラスや酒のボトルの落ちている
“The Hizora are House”の厨房とカウンターは半壊になっている
鳴海と伊桜はマスクと手袋をつけている
“The Hizora are House”の半壊したカウンターの上には箒、ちりとり、大きなゴミ袋、新聞、ガムテープが置いてある
廃屋と化した”The Hizora are House”の中からは緋空浜の浜辺が見える
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には釣りやウォーキングをしている人がいる
伊桜「割れ物は新聞紙に包んでガムテープで止めろ、後のゴミは基本的に袋の中に入れて良い」
鳴海「は、はい!!」
時間経過
伊桜は粉々になったグラスや酒のボトルを新聞で包んでいる
箒とちりとりを使って”The Hizora are House”のゴミを集めている鳴海
鳴海「(箒とちりとりを使って”The Hizora are House”のゴミを集めながら 声 モノローグ)伊桜さんがこの仕事を大事にするのも分かる。かつて母が働いていた店は朽ち果てていたが、誰かが守っていかない限り、いずれ緋空浜全土がこうなってしまうこともあり得るのだ」
◯1918緋空モア(夕方)
外は曇っている
緋空浜にあるパチンコ専門の店”緋空モア”の中にいる鳴海と伊桜
“緋空モア”の中にはたくさんパチンコ台があり、若者から年寄りまで様々な人がプレイしている
鳴海と伊桜は大量のパチンコ玉が入ったドル箱を台車で押している
鳴海「(大量のパチンコ玉が入ったドル箱を台車で押しながら 声 モノローグ)結局、緋空事務所に入って来る仕事のほんとがバイトのお下がりや、バイトの延長線上にあるような雑用ばかりだったため、俺の筋肉はずっと麻痺していた」
◯1919緋空事務所(夜)
外は曇っている
緋空事務所に戻って来た鳴海と伊桜
緋空事務所の中には来栖、太田を含む数人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたりしている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
伊桜は自分の席で、コーヒーを飲みながらパソコンに向かってタイピングをしている
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
緋空事務所の扉の横の棚の上に置いてあったタイムレコードにタイムカードをセットしている
タイムレコードは鳴海のタイムカードに退勤時刻を記録する
鳴海はタイムレコードからタイムカードを抜く
来栖「ああ貴志くん、ちょっと待ってくれる?」
鳴海「何ですか?社長」
来栖は机の引き出しを開ける
来栖の机の引き出しの中にはたくさんの書類が入っている
机の引き出しの中から一枚の書類を取り出す来栖
来栖は机の引き出しの中から一枚の書類を取り出して立ち上がる
机の引き出しを閉じる来栖
来栖は鳴海の元に行く
書類を鳴海に差し出す来栖
来栖「(書類を鳴海に差し出して)これこれ、君にも受けて欲しいんだよ」
鳴海は書類を来栖から受け取る
書類を見る鳴海
書類には大きな字で”救命講習のお知らせ”と書かれている
鳴海「(書類を見ながら)救命講習・・・?」
来栖「お金は会社負担だし、こっちで申し込んでおくから、次の土曜日行って来て」
鳴海「(書類を見ながら)はあ・・・でもこれって仕事と関係あるんですか・・・?」
来栖「万が一の保険だよ、海辺は事故も多いしね。こういうのを持っておけば、もし伊桜くんの身に何かあった時は君が助けられるだろ」
鳴海は書類を見るのをやめる
鳴海「(書類を見るのをやめて)確かにそうですけど・・・」
伊桜「(パソコンに向かってタイピングをしながら)俺も救命講習は受けてるんだ」
鳴海「へぇー・・・伊桜さんが・・・」
伊桜「(パソコンに向かってタイピングをしながら)だからお前も受けろ、俺だけ助からないのはフェアじゃない」
鳴海「そ、そうっすね・・・(少し間を開けて)しゃ、社長、出来れば土曜日以外の日でお願い出来ませんか」
来栖「こういうのは早め早めだよ、貴志くん。先延ばしにしても良いことはないんだから」
少しの沈黙が流れる
来栖「どうしても外せない予定でもあるの?」
鳴海「いえ・・・」
来栖「じゃあ土曜日行って来てよ、場所は君の母校だし、自宅から近いよね」
再び沈黙が流れる
鳴海「分かりました・・・」
◯1920貴志家キッチン(夜)
外は曇っている
キッチンにいる鳴海と菜摘
キッチンの調理場には玉ねぎ、みつば、鶏肉が置いてある
鳴海と菜摘は一緒に夕飯を作っている
菜摘は味噌汁を煮ている
包丁を使ってまな板の上で鶏肉を一口サイズに切り分けている鳴海
鳴海と菜摘は一緒に夕飯を作りながら話をしている
菜摘「(味噌汁を煮ながら)パチンコ玉・・・?」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で鶏肉を一口サイズに切り分けながら)ああ、初めて持ったんだけどめちゃくちゃ重いんだよ、あれ」
菜摘「(味噌汁を煮ながら)そうなんだ・・・体は痛くない・・・?」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で鶏肉を一口サイズに切り分けながら)多少は痛いが・・・でもその痛みが筋肉になるからな、要するに筋トレみたいなもんなんだ。きっと半年後の俺はアメリカのボディボルダーにも負けない体になってるぞ」
菜摘「(味噌汁を煮ながら)えー・・・」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で鶏肉を一口サイズに切り分けながら)嫌そうなリアクションだな・・・」
菜摘「(味噌汁を煮ながら)あんまりムキムキ過ぎるのはちょっと・・・」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で鶏肉を一口サイズに切り分けながら)それもそうか・・・」
菜摘は味噌汁を煮ていたコンロの火を弱める
菜摘「卵は私がやっておくね」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で鶏肉を一口サイズに切り分けながら)サンキュー」
菜摘「うん」
菜摘は冷蔵庫を開ける
冷蔵庫の中には2リットルのお茶、豚肉、牛肉、卵、納豆、豆腐、ヨーグルト、調味料など様々な食材が入っている
冷蔵庫の中から卵を2個取り出す菜摘
鳴海は包丁を使ってまな板の上で鶏肉を一口サイズに切り分け終える
キッチンの引き出しからボウルを取り出す鳴海
菜摘は冷蔵庫を閉める
ボウルを菜摘に差し出す鳴海
菜摘はボウルを鳴海から受け取る
菜摘「(ボウルを鳴海から受け取って)ありがとう、鳴海くん」
鳴海「きょ、共同作業だからな」
菜摘「(嬉しそうに)そうだね」
鳴海はキッチンの調理場に置いてあった玉ねぎを手に取る
包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにし始める鳴海
菜摘は2個の卵をボウルの中で割る
2個の卵の殻をシンクの中に入れる菜摘
菜摘「(2個の卵の殻をシンクの中に入れて)時々、お母さんとお父さんもこんなふうに料理をしているんだ」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにしながら)二人でか?」
菜摘「うん」
菜摘は菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜ始める
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにしながら少し笑って)仲が良いよな、すみれさんと潤さんって。どこかの親とは大違いだ、羨ましいよ」
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)どこかの親って・・・鳴海くんのご両親のこと・・・?」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにしながら)ああ。最近色々思い出して来たんだが、どうやら俺の両親の仲はそこまで良くなかったらしいんだ」
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)辛い・・・記憶だね・・・」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにしながら)別に今更気にしてないけどな」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)そうだ、鳴海くんさえ良ければなんだけど・・・今度の土曜日、どこか遊びに行かない・・・?」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにしながら)わ、悪い・・・土曜は救命講習を入れられちまった・・・」
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)救命講習・・・?」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにしながら)よく分からないんだが、社長が資格をスケジュールを抑えて来たんだ」
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)そ、そっか・・・じゃあ・・・日曜日はどうかな・・・?」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにしながら)日曜日は・・・姉貴と龍さんが引越すからその手伝いが・・・(少し間を開けて)すまない・・・」
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)う、ううん!き、気にしないで」
再び沈黙が流れる
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにしながら)せっかく誘ってくれたのに・・・ほんと・・・悪いな菜摘・・・」
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)だ、大丈夫だよ、鳴海くん」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)お、お引越しの準備は私も手伝うね」
鳴海「(包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにしながら)俺はともかく・・・菜摘まで付き合わなくても・・・」
鳴海は包丁を使ってまな板の上で玉ねぎを薄切りにし終える
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)段ボールに荷物を詰める手伝いだってしたんだもん、だから最後まで出来ることはしなきゃ」
鳴海はキッチンの調理場に置いてあったみつばを手に取る
包丁を使ってまな板の上でみつばを短く切り始める鳴海
鳴海「(包丁を使ってまな板の上でみつばを短く切りながら)今度・・・必ず埋め合わせるするよ、菜摘」
菜摘「(菜箸を使ってボウルの中の2個の生卵をかき混ぜながら)うん、楽しみにしてる」
◯1921貴志家鳴海の自室(深夜)
外は曇っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から雲に隠れた月の光が差し込んでいる
鳴海「(声 モノローグ)社会人になって多少すれ違うことは分かっていた。想いが同じでも、お互いの予定が噛み合わなかったり、融通が効かなくなったりで、一緒に過ごせる時間が削られてしまう。そして時間は、自分たちで作らない限り生まれない。だから菜摘は朝と夜、俺のところに来てくれた」
鳴海は大きなあくびをする
鳴海「(大きなあくびをして 声 モノローグ)俺が今欲しいのは、誰にも邪魔されず菜摘と一緒に過ごせる空間なのかもしれない」
鳴海は両目を瞑る
鳴海「(両目を瞑って 声 モノローグ)菜摘と永遠の時を・・・」
◯1922緋空事務所(日替わり/朝)
外は曇っている
緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜
緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたり、談笑をしたりしている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
伊桜は自分の席で、コーヒーを飲んでいる
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
来栖、太田、目黒は自分の席で、パソコンに向かってタイピングをしている
鳴海は自分の席に座っている
鳴海の席は伊桜の席の隣
話をしている鳴海と伊桜
鳴海「今日はまだ行かないんすよね」
伊桜「ああ」
伊桜はコーヒーを一口飲む
チラッと伊桜の机に飾られてある陽芽乃の写真を見る鳴海
鳴海「(チラッと伊桜の机に飾られてある陽芽乃の写真を見て 声 モノローグ)伊桜さんの子供か・・・」
伊桜「娘だ」
鳴海「えっ、ああ・・・か、可愛いっすね」
少しの沈黙が流れる
伊桜「最近反抗期でな」
鳴海「む、娘さんがですか?」
伊桜「俺が反抗期だったらおかしいだろ」
鳴海「で、ですよね」
伊桜「貴志、お前反抗期の時はどうしてた」
鳴海「な、何で俺に反抗期がある前提なんすか」
伊桜「どうせあったんだろ」
鳴海「た、確かにありましたけど・・・」
伊桜「反抗期の時、ご両親とどうやって接してたんだ」
鳴海「ああ・・・俺、親いないんです、俺が10歳の時に事故で死んでて」
再び沈黙が流れる
伊桜「個人的なことを聞き過ぎたな・・・」
鳴海「い、いや、もう慣れてますから・・・」
伊桜「苦労しただろ」
鳴海「苦労したのは俺よりも姉貴の方です、俺が反抗したのも姉貴や学校の教師に対してだったんで・・・」
少しの沈黙が流れる
伊桜「大変だったな」
鳴海「はい・・・」
伊桜はコーヒーを一口飲む
鳴海「(声 モノローグ)苦労しただろ・・・大変だったな・・・(少し間を開けて)伊桜さんではなく・・・親父からこの言葉が聞くことが出来たら・・・」
再び沈黙が流れる
来栖はパソコンに向かってタイピングをするのをやめる
立ち上がる来栖
来栖は両手を2、3回叩く
来栖「(両手を2、3回叩いて)みんな、予定表がメールで届いたか確認して」
太田、目黒を含む社員たちが作業をやめて、来栖の話を聞き始める
来栖「みんなと言っても伊桜くんと貴志くん以外だよ、しばらくは不規則な予定表になってるから勘違いしないようにね。それと休日出勤について、これから夏にかけて増えると思う。まあまだ春だけど、ゴールデンウィークも控えてるし、忙しくなるからみんな頑張って欲しい。はい、朝の連絡は以上、各自持ち場の仕事に行って来て」
太田、目黒を含む社員たちは立ち上がったり、作業を再開し始めたりする
鳴海と伊桜の方にやって来る来栖
来栖「伊桜くん、貴志くん、君たちは緋空浜の掃除を任せるよ」
伊桜「了解です」
鳴海「緋空浜で・・・?」
伊桜はコーヒーを飲み干す
コーヒーを飲み干して立ち上がる伊桜
伊桜「(立ち上がって)行くぞ、貴志」
鳴海「は、はい!!」
◯1923緋空浜(朝)
空は曇っている
緋空浜の浜辺でゴミ掃除をしている鳴海と伊桜
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には鳴海と伊桜以外にも釣りやウォーキングをしている人がいる
鳴海と伊桜はマスクと手袋をして、トングでゴミを拾っている
鳴海と伊桜の側には大きなゴミ袋が5つ、新聞紙、ガムテープが置いてある
鳴海と伊桜の側に置いてある5つのゴミ袋の中には浜辺で拾ったたくさんのゴミが入っている
鳴海と伊桜はトングで拾ったゴミを分別し、小さな山にしている
ゴミの小さな山は燃える物、缶類、ペットボトル類、燃えない物、割れ物などに分別されている
トングでゴミを拾いながら話をしている鳴海と伊桜
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)分別を怠るなよ、割れ物は・・・」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら伊桜の話を遮って)新聞紙に包んでガムテープで止めろ、ですね?」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)そうだ」
鳴海と伊桜はトングで拾ったゴミを小さな山の上に置く
トングで浜辺のゴミを拾い始める鳴海と伊桜
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)緋空浜自体での仕事もあるんすね」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)これは仕事でありボランティアだ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)ボランティアですか・・・でも良いっすよね、こうやって目に見えて緋空浜が綺麗になっていくのは」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)そんなふうに思うんだな」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)だって良いことじゃないですか」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)俺は潔癖症だ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)よ、よくそれでこの仕事が出来ますね」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)苦手苦手じゃ生きていけん」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)なるほど・・・勉強になります」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)もっと他のことも勉強しろ、じゃなきゃ若いうちに才能が腐るぞ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)才能なんてないですよ、俺。だからこういう単純作業の方が向いてると思うんです」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)文芸部だったんだろ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)はい。(少し笑いながら)でも俺は全然書けなくて、よく同級生とか後輩に怒られてましたよ」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)才能を伸ばそうとはしたのか」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)いえ・・・一人で色々した時期もあったんですけど、結局は仲間に頼りっきりで・・・でも楽しかったです」
少しの沈黙が流れる
鳴海と伊桜はトングで拾ったゴミを小さな山の上に置く
伊桜「(トングで拾ったゴミを小さな山の上に置いて)そろそろ缶のゴミはまとめよう」
鳴海「はい」
伊桜はトングを浜辺に置く
伊桜はゴミを積んで出来た小さな山から缶を一つに手に取る
手に取った缶を潰す伊桜
鳴海はトングを浜辺に置く
ゴミを積んで出来た小さな山から缶を一つに手に取る鳴海
鳴海は手に取った缶を潰す
ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰していく鳴海と伊桜
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)伊桜さんは学生時代に何かしてなかったんですか?」
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)俺は帰宅部だ」
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)それは前も聞いたんですけど・・・」
再び沈黙が流れる
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)高校は中退した」
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)えっ、マジっすか・・・」
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)高校三年生の時に、退学せざるを得ない事情が出来たんだ」
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)その事情っていうのは聞かない方が良さそうっすね・・・」
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)話してやらんこともない。皮肉にも、俺はお前の家庭のことを聞いてしまったからな」
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)そ、そうですか・・・(少し間を開けて)じゃあ・・・何で退学なんかになったんです?」
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)娘が出来たんだ」
ゴミを積んで出来た小さな山から缶を取ろうとしていた鳴海の手が止まる
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を取ろうとしていた手が止まって)こ、高三の時に・・・?」
伊桜はゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら頷く
鳴海「そ、それは・・・た、大変でしたね・・・」
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)俺と同じことを言うな」
鳴海「す、すみません!!」
鳴海はゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取る
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)確かに大変だった、苦労もした、でもそういう経験はみんながする。結婚してなくても、子供がいなくても、いつか自分の親がいなくなってしまうことに変わりはない。俺は最近、そんな考えが持てるようになった、だから大変だったり、苦労したことも、今は財産だと思ってる。(少し間を開けて)貴志が経験したことを、他の人たちと一緒にするつもりはないが・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)伊桜さんって、めちゃくちゃかっけえっすね」
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)社会がそうさせたんだ、格好良いことじゃない。大人になれば誰もがこういう一面を持つようになる」
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)俺だって大人っすよ」
再び沈黙が流れる
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)意地は張るべきじゃない」
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)俺が意地を張ってると思ってるんすか?」
伊桜「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)ああ」
鳴海「(ゴミを積んで出来た小さな山から缶を手に取っては潰しながら)意地なんて張ってませんよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海と伊桜はゴミを積んで出来た山にあった缶を全て潰し終える
伊桜「貴志は缶を袋に入れておけ、俺は他のゴミをまとめる」
鳴海「あ、はい」
鳴海は潰した缶をゴミ袋に入れていく
トングで浜辺のゴミを拾い始める伊桜
鳴海「(潰した缶をゴミ袋に入れながら 声 モノローグ)ガキ扱いされてることに腹が立ったが、仕事で見返せば良い。伊桜さんに認められるまで頑張ろう、反骨精神だ」
時間経過
鳴海と伊桜は浜辺にガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認している
両手に割れたガラスのかけらや割れた皿を持っている鳴海と伊桜
伊桜「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)しっかり見るんだぞ」
鳴海「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)はい」
再び沈黙が流れる
鳴海はガラスのかけらを拾う
空き缶の小さな破片を拾う伊桜
鳴海は再びガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認し始める
伊桜「(空き缶の小さな破片を拾って)貴志」
鳴海「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)何すか?」
伊桜は空き缶の小さな破片をガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認している鳴海に差し出す
伊桜「(空き缶の小さな破片をガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認している鳴海に差し出して)これを見ろ」
鳴海は空き缶の小さな破片を伊桜に差し出されたまま、ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか確認するのをやめる
空き缶の小さな破片を伊桜から受け取る鳴海
鳴海は空き缶の小さな破片を見る
鳴海「(空き缶の小さな破片を見て)これが何です?」
伊桜「アルミは怪我をしやすく、傷から細菌が入ることもある。だから見逃すなよ」
鳴海は空き缶の小さな破片を見るのをやめる
鳴海「(空き缶の小さな破片を見るのをやめて)は、はい」
伊桜は再び浜辺にガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認し始める
伊桜「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認して)お前はいつか大きな事故を起こして怪我をしそうだ」
鳴海は再び浜辺にガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認し始める
鳴海「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認して)大丈夫ですよ伊桜さん、もう足にガラスが突き刺さるのは御免なんで」
伊桜「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)前にそういう怪我をしたのか?」
鳴海「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)足の裏に割れたコップが刺さったんです」
鳴海は瓶のかけらを拾う
伊桜「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)じゃあその痛みを緋空浜に来た人たちに体験させないようにしろ」
鳴海「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)今やってますよ、伊桜さん」
伊桜「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)はいと言え」
鳴海「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)は、はい!!」
伊桜「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)返事をしなくなったら社会人として終わりだぞ」
鳴海「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)すみません!!」
伊桜「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)感謝、謝罪、敬意、挨拶、最低限のマナーは守れ」
鳴海「(ガラスのかけらや割れた皿などが落ちていないか慎重に確認しながら)はい!!」
◯1924緋空事務所(昼)
外は薄暗く曇っている
緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜
緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ机に向かって椅子に座り、談笑しながら昼食を食べている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
自分の席で昼食を食べている鳴海と伊桜
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
鳴海の席は伊桜の席の隣
鳴海と伊桜は昼食を食べ終えている
来栖と目黒はコンビニの弁当、太田はコンビニのサンドイッチを食べている
大きなあくびをする鳴海
伊桜「午後は雨の予報だ」
鳴海「雨の時はどうするんすか?」
伊桜「変わらない、海が荒れてなければ掃除をする」
少しの沈黙が流れる
伊桜「コーヒーでも飲んで目を覚ましておけ、貴志」
鳴海「コーヒーは飲めないんで、エナジードリンクを買って来ます」
鳴海は立ち上がる
◯1925緋空浜/自販機前(昼)
空は薄暗く曇っている
緋空浜の浜辺にいる鳴海と早季
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には鳴海以外にも釣りやウォーキングをしている人がいる
浜辺には自販機がある
浜辺にある自販機の前にいる鳴海
自販機の近くにはゴミ箱があり、その周囲にペットボトルや空き缶のゴミが落ちている
鳴海は自販機のボタンを押してエナジードリンクを購入する
自販機の取り出し口にエナジードリンクが落ちて来る
鳴海はエナジードリンクを自販機の取り出し口から取り出そうとする
鳴海はエナジードリンクを自販機の取り出し口から取り出そうとしているが、自販機の取り出し口に引っかかっているせいでエナジードリンクはなかなか取れない
鳴海の遠くの方には波音高校の制服姿の早季がいる
早季はエナジードリンクを自販機の取り出し口から取り出そうとしている鳴海のことを見ている
早季の周りには一匹のカラスアゲハが飛んでいる
早季の周りを飛んでいるカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
遠くの方にいる早季に見られていることに気付いていない鳴海
鳴海「(自販機の取り出し口に引っかかったエナジードリンクを取り出すのに苦労しながら)何だこいつ・・・引っかかりやがって・・・」
鳴海は変わらず自販機の取り出し口に引っかかったエナジードリンクを取り出すのに苦労している
無理矢理エナジードリンクを引っ張り、自販機の取り出し口から出そうとしている鳴海
早季は変わらず自販機の取り出し口からエナジードリンクを出そうとしている鳴海のことを見ている
左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは変わらず早季の周りを飛んでいる
少しすると鳴海はエナジードリンクを自販機の取り出し口から引っ張り出す
鳴海「(エナジードリンクを自販機の取り出し口から引っ張り出して)よ、よし・・・」
ポツポツと雨が降って来る
鳴海はエナジードリンクの缶の蓋を開けようとする
鳴海「(エナジードリンクの缶の蓋を開けようとしながら)雨か・・・傘を持って来ればよか・・・」
鳴海がエナジードリンクの缶の蓋を開けた瞬間、炭酸が暴発しエナジードリンクが一気に吹きこぼれる
鳴海の手には大量のエナジードリンクがかかる
鳴海「(手に大量のエナジードリンクがかかって)何だよクソ!!」
少しの沈黙が流れる
早季はエナジードリンクと雨で濡れている鳴海のことを見ている
鳴海「最悪だ・・・ベタベタじゃねえか・・・」
鳴海はエナジードリンクを一口飲む
エナジードリンクを一口飲んでから足元を見る鳴海
鳴海の靴はエナジードリンクがかかって汚れている
鳴海「(エナジードリンクがかかって汚れている靴を見て)終わった・・・マイシューズが・・・」
鳴海はエナジードリンクがかかって汚れている靴から、そのままゴミ箱の周囲に落ちているペットボトルや空き缶のゴミを見る
鳴海「(ゴミ箱の周囲に落ちているペットボトルや空き缶のゴミを見て)ゴミ箱があるんだからそこに捨てろよ・・・」
鳴海はゴミ箱の周囲に落ちているペットボトルや空き缶のゴミを見るのをやめる
再びエナジードリンクを一口飲む鳴海
鳴海はエナジードリンクを一口飲んでゴミ箱の周囲に落ちていたコーヒーの缶を拾う
空き缶だと思い飲み口を下に向けてコーヒーの缶を拾う鳴海
コーヒーの缶から残っていたコーヒーがこぼれて来て鳴海のズボンにかかる
再び沈黙が流れる
鳴海「ク・・・ソ・・・では・・・ない・・・こんなことで怒るな俺・・・気にしなくて良い・・・誰にでもあるミスだ・・・いや・・・これも財産だと思おう・・・い、伊桜さんの姿勢を学ぼうじゃないか・・・」
鳴海はゆっくりコーヒーの缶をゴミ箱に捨てる
ゴミ箱の周囲に落ちていたペットボトルや缶をこぼさないように慎重に拾い、ゴミ箱に捨てて行く鳴海
少しすると鳴海はゴミ箱の周囲に落ちていたペットボトルや缶のゴミを捨て終える
エナジードリンクを一口飲む鳴海
雨の勢いが少しずつ強くなる
早季は変わらず鳴海のことを見ている
早季に見られていることに気付いていない鳴海
早季は鳴海のことを見たまま右手のひらを出す
早季の周りを飛んでいた左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは早季の右手のひらの上に止まる
早季は鳴海のことを見たまま、右手のひらに止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを左手で覆い隠す
再びエナジードリンクを一口飲む鳴海
鳴海「(エナジードリンクを一口飲んで)早く戻らないとな・・・」
鳴海は早季に見られていることに気付く
鳴海「(早季に見られていることに気付いて)あ、あいつ、また現れたのか・・・(少し間を開けて)きょ、今日って金曜日だろ・・・学校はサボったのか・・・?」
早季は右手のひらに止まり、左手で覆い隠された左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを鳴海に少し見せるようにする
早季の右手のひらに止まり、左手で覆い隠された左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを見る鳴海
鳴海「(早季の右手のひらに止まり、左手で覆い隠された左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを見て)蝶・・・?」
早季は右手のひらに止まり、左手で覆い隠された左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを鳴海に見せるのをやめる
鳴海に背を向け、歩き始める早季
鳴海「お、おい!!どこに行くんだよ!!」
早季は鳴海の声を無視してその場から離れて行く
少しの沈黙が流れる
鳴海「い、いつもいつも何なんだあいつは・・・」
鳴海はエナジードリンクを一気飲みする
時間経過
昼過ぎになっている
弱い雨が降っている
レインコートを着て浜辺でゴミ拾いをしている鳴海と伊桜
鳴海と伊桜はマスクと手袋をして、トングでゴミを拾っている
鳴海と伊桜の側には大きなゴミ袋が5つが置いてある
鳴海と伊桜の側に置いてある5つのゴミ袋の中には浜辺で拾ったたくさんのゴミが入っている
鳴海と伊桜はトングで拾ったゴミを分別し、小さな山にしている
ゴミの小さな山は燃える物、缶類、ペットボトル類、燃えない物、割れ物などに分別されている
トングでゴミを拾いながら話をしている鳴海と伊桜
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)あまり海の方には近付くな」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)大した波はありませんよ伊桜さん」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)そんなことを言ってる奴が真っ先にやられるんだ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)そ、そうっすね・・・了解です」
鳴海と伊桜はトングで拾ったゴミを小さな山の上に置く
トングで浜辺のゴミを拾い始める鳴海と伊桜
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)割れ物は出来るだけ回収するが、無理な場合は埋めて行く」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)う、埋めるんすか?」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)目印をつけて埋めるんだ、その際は波に攫われないように深く埋めろ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)はい!!」
少しの沈黙が流れる
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)雨の中だと仕事もキツいだろ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)平気っすよ、それに俺、既に汚れまくってますし・・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)帰りは銭湯に寄るか?」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)えっ?」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)女将から貰った無料券があるんだ」
再び沈黙が流れる
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)汚れたまま帰るのは嫌だろ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)そうですね・・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)社長も、目黒さんも、こういう仕事の後は一風呂浴びて帰るのが恒例になってるんだ、だからお前も来ると良い。仲を深める機会にもなるぞ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)す、すみません伊桜さん!!お、俺待たせてる奴がいて・・・それで今日は・・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)分かった」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)すみません・・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)俺も同じ立場だったらきっと断ってる」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)そ、それは・・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)大切な人は待たせるべきじゃない」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)す、すみません」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)貴志が来たい時に来れば良いんだ、俺も昔はそうしてきた」
鳴海と伊桜はトングで拾ったゴミを小さな山の上に置く
トングで浜辺のゴミを拾い始める鳴海と伊桜
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)て、てっきり強制的に連行されるかと・・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)強制的に連行したくもあるが、お前を待ってる人のことを思うと気が引ける」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)伊桜さんって人のことを大事にしてるんすね」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)大事にされて来た分、俺も大事にしなきゃいけない。世界はそういうふうに回ってるんだ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)伊桜さんの言うことはいちいち勉強になります」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)いちいちじゃなくて常にやいつもと言え、俺は上司だぞ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)い、いちいちではなく、常にかいつも、分かりました」
少しの沈黙が流れる
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)貴志は学生の頃、よく叱られなかったか」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)そりゃしょっちゅう怒られてましたよ」
トングで拾ったゴミを小さな山の上に置く鳴海と伊桜
鳴海と伊桜はトングで浜辺のゴミを拾い始める
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)というか俺は親父にも叱られてばっかでしたから」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)厳しい人だったんだろ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)そうですね・・・何かにかけては叱られてた気がします」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)期待されてたんだな」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)その期待に・・・応えられてたら良いんですけど・・・」
◯1926緋空事務所(夜)
外は雨が降っている
緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜
緋空事務所の中には来栖を含む数人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたりしている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
伊桜は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
来栖は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている
鳴海は緋空事務所の扉の横の棚の上に置いてあったタイムレコードにタイムカードをセットしている
タイムレコードは鳴海のタイムカードに退勤時刻を記録する
タイムレコードからタイムカードを抜く鳴海
来栖「(パソコンに向かってタイピングをしながら)貴志くん、明日忘れないように」
鳴海「は、はい!!」
鳴海は緋空事務所の扉の横の棚の引き出しにタイムカードをしまう
頭を下げる鳴海
鳴海「(頭を下げて)お先に失礼します」
伊桜にパソコンに向かってタイピングをするのをやめる
伊桜「(パソコンに向かってタイピングをするのをやめて)待てよ貴志」
鳴海は顔を上げる
鳴海「(顔を上げて)何ですか?」
伊桜は机の引き出しを開ける
伊桜の机の引き出しの中にはボールペン、シャーペンの芯、消しゴム、ハサミ、カッター、ホッチキス、修正テープ、折り畳み傘などが入っている
机の引き出しの中から折り畳み傘を手に取る伊桜
伊桜は鳴海に向かって折り畳み傘を放り投げる
伊桜が放り投げて来た折り畳み傘をキャッチする鳴海
伊桜「一週間お疲れ様、その傘は持って行け」
鳴海「あ、ありがとうございます!!」
伊桜「お気に入りの傘なんだ、月曜日には返してくれよ」
鳴海「はい!!」
◯1927帰路(夜)
弱い雨が降っている
伊桜から借りた折り畳み傘をさして、自宅に向かっている鳴海
鳴海「(声 モノローグ)何はともあれ・・・一週間・・・乗り切ることが出来た・・・」
鳴海は大きなあくびをする
◯1928貴志家キッチン(夜)
外は弱い雨が降っている
鳴海の家のキッチンにいる菜摘
鳴海が帰って来るのを一人待っている菜摘
菜摘は冷蔵庫を開ける
冷蔵庫の中を覗いている菜摘
冷蔵庫の中には2リットルのお茶、豚肉、卵、納豆、豆腐、ヨーグルト、調味料など様々な食材が入っている
菜摘「(冷蔵庫の中を覗きながら)今日のご飯は・・・」
菜摘は冷蔵庫の中を覗きながら冷蔵庫から豚肉を取り出す
冷蔵庫の中を覗くのをやめる菜摘
菜摘は冷蔵庫を閉じる
菜摘「(冷蔵庫を閉じて)肉じゃがにしよう!!」
菜摘は冷蔵庫の野菜室を開ける
冷蔵庫の野菜室の中を覗く菜摘
冷蔵庫の野菜室の中にはジャガイモ、にんじん、キャベツ、レタス、トマト、椎茸、きゅうり、玉ねぎ、りんごなど様々な食材が入っている
菜摘「(冷蔵庫の野菜室の中を覗きながら)お野菜もある!!」
菜摘は冷蔵庫の野菜室の中を覗きながら野菜室からジャガイモ、にんじん、玉ねぎを手に取る
冷蔵庫の野菜室の中を覗くのをやめる菜摘
菜摘は冷蔵庫の野菜室を閉じる
少しの沈黙が流れる
菜摘は再び冷蔵庫の野菜室を開ける
冷蔵庫の野菜室の中から椎茸を手に取る菜摘
菜摘は椎茸を見る
少しの間椎茸を見る菜摘
菜摘は椎茸を見るのをやめる
椎茸を冷蔵庫の野菜室の中に戻す菜摘
菜摘は冷蔵庫の野菜室を閉じる
冷蔵庫の冷凍室を開ける菜摘
冷蔵庫の冷凍室の中には冷食、◯1896で鳴海が残した椎茸のバター醤油焼きなどがある
◯1896で鳴海が残した椎茸のバター醤油焼きはタッパーに入っている
菜摘は冷蔵庫の冷凍室の中から、◯1896で鳴海が残してタッパーに入れた椎茸のバター醤油焼きを手に取る
◯1896で鳴海が残してタッパーに入れた椎茸のバター醤油焼きは、◯1896で菜摘が作った物
◯1896で鳴海が残してタッパーに入れた椎茸のバター醤油焼きを見る菜摘
菜摘「(◯1893で鳴海が残してタッパーに入れた椎茸のバター醤油焼きを見て)鳴海くん・・・食べてくれるのかな・・・」
玄関の方から鳴海が帰って来た音が聞こえる
鳴海「(声)た、ただいま・・・」
玄関から鳴海の声が聞こえて来る
菜摘は◯1896で鳴海が残してタッパーに入れた椎茸のバター醤油焼きを見るのをやめる
菜摘「(◯1896で鳴海が残してタッパーに入れた椎茸のバター醤油焼きを見るのをやめて)お、お帰りなさい!!」
菜摘は慌てて◯1896で鳴海が残してタッパーに入れた椎茸のバター醤油焼きを冷蔵庫の冷凍室の中にしまう
冷蔵庫の冷凍室を閉じる菜摘
菜摘は小走りで玄関に向かう
◯1929貴志家玄関(夜)
外は弱い雨が降っている
玄関にいる鳴海と菜摘
玄関には風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
鳴海は伊桜から借りた折り畳み傘を持っている
話をしている鳴海と菜摘
菜摘「えっ・・・い、良いのかな・・・?」
鳴海「ああ・・・俺の部屋の押し入れから適当に取って来てくれ」
菜摘「う、うん・・・し、下着はいらないんだよね・・・?」
鳴海「い、いらないぞ、い、言っておくけどフリじゃないからな菜摘」
菜摘「わ、分かった、ちょっと待ってて」
鳴海「おう」
菜摘は小走りで鳴海の部屋に向かう
伊桜から借りた折り畳み傘を壁に立てかける鳴海
鳴海は大きなあくびをする
少しすると菜摘が小走りで玄関に戻って来る
菜摘は鳴海の部屋着を持っている
鳴海「ありがとう、菜摘」
菜摘「わ、私思ったんだけど・・・」
鳴海「何だ?」
菜摘「着替えるよりも・・・もうお風呂に入っちゃった方が良くない・・・?」
鳴海「そ、それはそうだが・・・」
菜摘「お、お風呂・・・入れて来ようか・・・?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「じゃ、じゃあ・・・頼むよ菜摘」
菜摘「う、うん・・・し、下着は・・・どうする・・・?」
鳴海「そ、そうだな・・・ふ、風呂から出て自分で取りに行くよ」
菜摘「えっ・・・で、でもそれって・・・」
鳴海「ど、どうかしたのか?菜摘」
菜摘「な、鳴海くん・・・は、裸じゃないの・・・?」
鳴海「あ、ああ・・・い、いやノーパンで移動すれば大丈夫だ」
再び沈黙が流れる
菜摘「わ、私下着も取って来るね」
鳴海「む、無理しなくても・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)む、無理じゃないよ」
鳴海「そ、そうか・・・し、下着と風呂・・・任務の遂行を祈ってるぞ菜摘・・・」
菜摘「う、うん」
菜摘は再び小走りで鳴海の部屋に向かう
◯1930貴志家鳴海の自室(夜)
鳴海の部屋にいる菜摘
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
菜摘は鳴海の着替えを持っている
鳴海の部屋の押し入れのタンスから下着を選んでいる菜摘
タンスの中には鳴海のトランクスが何枚も収納されてある
タンスの中の鳴海のトランクスを見ている菜摘
菜摘「(タンスの中の鳴海のトランクスを見ながら)ど、どれが良いんだろ・・・」
◯1931貴志家玄関(夜)
外は弱い雨が降っている
玄関で菜摘が戻って来るのを待っている鳴海
玄関には風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
玄関の壁には伊桜から借りた折り畳み傘が立てかけられてある
菜摘「(大きな声)ど、どれが良いのかな!?!?」
菜摘の大きな声が鳴海の部屋から聞こえて来る
鳴海「(大きな声で)て、適当に選んでくれ!!!!」
少しの沈黙が流れる
鳴海は玄関の壁にもたれる
少しすると菜摘が戻って来る
菜摘「お、お待たせ」
鳴海「お、おう、面倒かけて悪い」
菜摘「う、ううん、き、着替えはお風呂場に置いといたよ」
鳴海「さ、サンキュー」
再び沈黙が流れる
菜摘「あ、上がらないの?」
鳴海「ああ、ズボンがコーヒーまみれだからな、風呂が沸くまではここにいるよ」
菜摘「そんなに汚れちゃったんだ・・・」
鳴海「(少し笑って)少しは雨で落ちたかもしれないが、それでも綺麗とは程遠い状態だぞ」
菜摘「じゃあ私もここで待ってるよ」
鳴海「い、良いのか菜摘、玄関で待つことになるんだぞ」
菜摘「鳴海くんがお風呂に入るまでだもん、そんなに長い時間じゃないよ」
鳴海「そ、そうか・・・(少し間を開けて)菜摘は今日は何をしてたんだ?」
菜摘「読書したり・・・お散歩をしたり・・・買い物をしたり・・・」
鳴海「平穏な一日だな」
菜摘「うん!!鳴海くんはずっと緋空浜でお掃除だったの?」
鳴海「ああ、とにかくゴミを拾いまくったぞ」
菜摘「そうなんだ!!じゃあ緋空浜は綺麗になってるね!!」
鳴海「残念ながら・・・1日やそこやらじゃ綺麗なったとは言えないな・・・」
菜摘「そんなにゴミが多いの・・・?」
鳴海「どこもかしこもゴミだらけさ、結局探そうと思えばいくらでも出て来るんだ。無限に尽きないって感じだぞ」
菜摘「悲しいね・・・」
鳴海「そうだな・・・」
菜摘「私は綺麗な緋空浜が好きだから・・・」
鳴海「ほとんどの奴は綺麗な緋空浜が好きだと思うぞ」
菜摘「うん・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「そ、そういえば波高の生徒に会ってさ」
菜摘「えっ?誰に会ったの?」
鳴海「名前は知らないんだが・・・菜摘も前に公園で会った奴だ。覚えてないか?」
◯1932◯Chapter6◯481の回想/せせらぎ公園(放課後/夜)
公園にいる鳴海、菜摘、早季
鳴海と菜摘はブランコに乗っている
公園の時計は7時前を指している
菜摘は公園の隅の方にあるベンチを見ている
ベンチには波音高校の制服の姿の早季が座っている
早季は鳴海と菜摘のことを見ている
ボーッと早季のことを見ている菜摘
菜摘の瞳には反射している早季の姿と、あるはずもない海が映っている
同じく早季の瞳には反射している菜摘の姿と、あるはずもない海が映っている
鳴海は菜摘に話しかけているが、菜摘には鳴海の声が聞こえていない
鳴海「(声)そいつは公園のベンチに座ってて・・・」
早季は鳴海と菜摘のことを見たまま立ち上がる
ベンチの方を見る鳴海
鳴海がベンチの方を見ると、早季は消えている
ベンチの周囲を見る鳴海
ベンチの周囲に早季はいない
話をする鳴海と菜摘
菜摘の瞳には元の公園のベンチが映っている
鳴海「(声)突然消えたかと思ったら、ベンチの上には魚が一匹落ちてたんだ」
早季が座っていたベンチの上には20cmほどの大きさの魚が飛び跳ねている
◯1933◯Chapter6◯905の回想/緋空浜(昼過ぎ)
緋空浜の浜辺にいる菜摘と早季
浜辺には所々に大きな水溜まりがある
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちている
太陽の光が波に反射し、キラキラと光っている
浜辺には菜摘と早季以外にも人がおり、釣りやウォーキングをしている
正面に右手を伸ばしている早季
早季の足元には水が溜まっている
早季の足元に溜まった水は渦を作る
早季「(正面に右手を伸ばしたまま)波音高校には南汐莉と貴志鳴海が在籍しています」
菜摘「あの二人を巻き込むのは良くないよ、早季ちゃん。鳴海くんと汐莉ちゃんは・・・このこととは関係ないもん・・・」
早季の足元に出来た水の渦はゆっくり宙に浮かび始める
早季が正面に伸ばしていた右手を菜摘の方へ向けると、宙に浮かんだ水が渦を巻いたまま菜摘の前に移動する
宙に浮かんだ水の渦は2mほどの大きさになっている
菜摘の目の前にある宙に浮かんだ水の渦の中心が開く
水の渦の中心は波音総合病院にある菜摘の病室と繋がっている
浜辺にいる人たちには宙に浮かんだ渦が見えていない
右手を伸ばすのをやめる早季
早季「(右手を伸ばすのをやめて)力無き者の魂を引き継いだ貴志鳴海は無関係かもしれません・・・でも・・・南汐莉はあなた同様に緋空の力を持っている・・・海人は・・・地球、子供たち、未来のために犠牲を払うのが務め・・・」
◯1934回想戻り/貴志家玄関(夜)
外は弱い雨が降っている
玄関にいる鳴海と菜摘
玄関には風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
玄関の壁には伊桜から借りた折り畳み傘が立てかけられてある
菜摘はその場に座り込む
鳴海「な、菜摘?ど、どうしたんだ?」
菜摘「(その場に座り込んだまま)ごめん・・・どうしたのかな・・・何でもないんだけど・・・」
鳴海「た、体調が悪いのか?」
菜摘「(その場に座り込んだまま)そうじゃないんだ・・・」
鳴海「じゃあ・・・一体何が・・・」
鳴海はしゃがむ
菜摘「(その場に座り込んだまま)少しだけ・・・心が締め付けられたみたい・・・」
鳴海はしゃがんだままその場に座り込んでいる菜摘の手を取る
しゃがんだままその場に座り込んでいる菜摘の手を握る鳴海
鳴海「(しゃがんだままその場に座り込んでいる菜摘の手を握って)か、必ず俺が菜摘の側にいるから・・・し、心配するな、俺が絶対に守ってやる、菜摘を傷つける奴は俺が壊すから・・・」
菜摘「(その場に座り込んだまましゃがんでいる鳴海に手を握られて)うん・・・分かってる・・・鳴海くんがいるから・・・私は大丈夫なんだ」
菜摘もその場に座り込んだまましゃがんでいる鳴海の手を取り握る
菜摘「(その場に座り込んだまましゃがんでいる鳴海と手を握って)私たちは孤独じゃないもん、心の中にはみんながいて、私たちのことを見守ってくれてるよ」
鳴海「(しゃがんだままその場に座り込んでいる菜摘の手を握って)そ、そうだ、な、何も心配することはない、奇跡が導いてくれるんだ」
◯1935貴志家風呂(夜)
鳴海はお風呂にいる
湯船に浸かっている鳴海
鳴海「(浴槽に浸かりながら)菜摘を傷つける奴は・・・俺が・・・壊す・・俺が・・・」
鳴海は大きなあくびをする
鳴海「(浴槽に浸かりながら大きなあくびをして)疲れたな・・・」
◯1936貴志家リビング(夜)
外は弱い雨が降っている
リビングにいる鳴海と菜摘
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上には肉じゃが、ご飯、味噌汁が置いてある
夕飯を食べながら話をしている鳴海と菜摘
鳴海「(夕飯を食べながら菜摘と話をして 声 モノローグ)その後の菜摘は、いつも通りだった」
鳴海は菜摘と話をしながらあくびをする
鳴海「(菜摘と話をしながらあくびをして 声 モノローグ)いや、もしかしたら違ったのかもしれない。だとしたら俺に悟られないようにしている」
鳴海は再びあくびをする
菜摘「鳴海くん・・・今日、ちゃんと休んでね・・・」
鳴海「安心しろ、爆睡を決め込む予定だ」
菜摘「うん・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「菜摘は退屈じゃないか」
菜摘「鳴海くんと一緒にいて退屈になることなんかないよ」
鳴海「昼間は・・・どうなんだ・・・?」
菜摘「お家にはお母さんがいるもん」
鳴海「でもすみれさんと遊んでいるわけじゃないだろ?」
菜摘「お母さんともたまにトランプをしたりするよ」
鳴海「二人でトランプか・・・?俺と嶺二みたいな関係だな・・・」
菜摘「鳴海くんと嶺二くんはトランプしてたの?」
鳴海「菜摘の家で合宿をした時、菜摘たちが銭湯に行ってて暇だからトランプをやろうぜって嶺二の野郎が言いやがってだな・・・」
菜摘「良いね、合宿でトランプ」
鳴海「どこが良いんだ・・・二人でトランプは虚しいだけだろ・・・」
菜摘「二人でもスピードとか出来るよ」
鳴海「そんなことをすみれさんとしてるのか?」
菜摘「うん、時々」
再び沈黙が流れる
菜摘「親子で過ごすのも楽しいよ鳴海くん。この前はお母さんたちが高校生の時に作った映画を見せてもらったんだ」
鳴海「映画・・・な・・・」
菜摘「(頷き)お母さんとお父さんは映画研究会に所属してたから、その時に撮った作品が家に少し残ってるんだよ」
鳴海「俺の親も参加してたらしいな」
菜摘「あ、うん・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「菜摘が楽しくやってるなら良いんだ、それで」
菜摘「心配しなくても大丈夫だよ、鳴海くんと会ってない時も私ちゃんと生活してるもん」
◯1937貴志家鳴海の自室(深夜)
外は弱い雨が降っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から雲に隠れた月の光が差し込んでいる
鳴海「(声 モノローグ)菜摘が心配だが・・・体も脳も・・・仕事の疲れで思うように動きそうにない・・・漠然と心配としか考えられなくなっている・・・明日仕事がないからか・・・否応なく全パワーがシャットダウンされそうだ・・・」
鳴海は大きなあくびをする
大きなあくびをして両目を瞑る鳴海
鳴海「(両目を瞑って)菜摘・・・お前は心配されたくないんだろうな・・・」
◯1938波音高校体育館(日替わり/朝)
外は弱い雨が降っている
波音高校の体育館の中にいる鳴海
体育館の中では救命講習が行われている
体育館の中には救命講習を受講している老若男女たくさんの人がいる
体育館の中には救命講習のスタッフが数十人いる
救命講習の受講者たちは5、6人で1グループを作っており、心肺蘇生法やAEDを使った除細動などのやり方を心配蘇生訓練用のマネキンを利用して、救命講習のスタッフから学んでいる
鳴海たちのグループにも救命講習のスタッフ1がおり、近くに置いてある心配蘇生訓練用のマネキンを使って説明を行っている
他の受講者と共に救命講習のスタッフ1の話を聞いている鳴海
救命講習のスタッフ1「まず初めに周囲の安全を確認してください」
救命講習のスタッフ1は心配蘇生訓練用のマネキンに顔を近付ける
心配蘇生訓練用のマネキンに顔を近付けたまま、心配蘇生訓練用のマネキンの肩を叩く救命講習のスタッフ1
救命講習のスタッフ1「(心配蘇生訓練用のマネキンに顔を近付けたまま、心配蘇生訓練用のマネキンの肩を叩いて)次に両手で肩を叩いて、相手の耳元で大丈夫ですか!!と大きな声で聞いてください。相手の名前が分かる場合は、名前を呼ぶことも忘れずに」
救命講習のスタッフ1は配蘇生訓練用のマネキンに顔を近付けたまま、心配蘇生訓練用のマネキンの肩を叩くのをやめる、
配蘇生訓練用のマネキンの顔から離れる救命講習のスタッフ1
救命講習のスタッフ1「(配蘇生訓練用のマネキンの顔から離れて)その後は119番に電話と、AEDの用意です。絶対に周囲にいる人に協力を仰いでくださいね、一人だけではたとえ対処出来たとしても、助かる確率は高くありません、なので出来るだけ周囲の人を巻き込んでください」
鳴海「(声 モノローグ)俺が交通事故に遭った時、この救命講習を受けてる奴が一人でもいたら・・・両親の命は助かっていただろうか・・・」
時間経過
心配蘇生訓練用のマネキンの横にはAEDが置いてある
救命講習のスタッフ1「説明は以上になります。この後10分間の休憩を挟んでから皆さんには心肺蘇生法、AEDを使用した除細動を行ってもらいます、何か質問がある方は・・・」
鳴海は体育館の出口に向かって歩き始める
◯1939波音高校二年生廊下(朝)
外は弱い雨が降っている
波音高校の二年生廊下を一人歩いている鳴海
廊下には生徒も教師もおらず、鳴海しかいない
鳴海は二年生の教室を覗きながら廊下を歩いている
廊下同様に二年生の教室の中には誰もいない
鳴海「(二年生の教室を覗きながら)誰もいないな・・・今日は登校しちゃいけない日か・・・」
鳴海は二年生の教室を覗きながら廊下を歩き続ける
少しすると鳴海は二年生廊下にある掲示板の前を通りかかる
二年生の教室を覗くのをやめる鳴海
鳴海は立ち止まる
掲示板には文芸部の部員募集の貼り紙がされている
文芸部の部員募集の貼り紙には”文芸部部員募集!!初心者でもOK!!放課後 特別教室の四で待ってます 部長 二年二組 南 汐莉”と書いてある
鳴海は掲示板に貼られている文芸部の部員募集の貼り紙を見ている
◯1940Chapter6◯516の回想/波音高校二年生廊下(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
波音高校の二年生廊下にいる鳴海と汐莉
鳴海と汐莉は波音高校の二年生廊下にある掲示板に部員募集の貼り紙をしている
廊下にはほとんど生徒がいない
二年生の教室では、雑談して居残っている生徒が数人いる
汐莉は部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
掲示板に画鋲を刺し、部員募集の紙を止める鳴海
夕日が廊下を赤く染めている
鳴海に部員募集の紙一枚と画鋲四個を差し出す汐莉
部員募集の紙と画鋲を汐莉から受け取る鳴海
鳴海は部員募集の紙を掲示板に貼り始める
鳴海「(部員募集の紙を掲示板に貼りながら)じゃあ・・・好きな奴がいるって認識で良いのか?」
汐莉「どうだと思います?」
鳴海「(部員募集の紙を掲示板に貼りながら)この会話の流れからして、いるんだろ?」
汐莉「ヒントを出しましょうか」
鳴海「(部員募集の紙を掲示板に貼りながら)頼むよ」
汐莉「私の身近にいます」
部員募集の紙を掲示板に貼っていた鳴海の手が止まる
恐る恐る汐莉のことを見る鳴海
鳴海「(恐る恐る汐莉のことを見て)ま、まさか・・・」
汐莉「なんですか?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(汐莉のことを見たまま)まさかだと思うんだけどさ・・・ひょ、ひょっとして・・・お、お・・・」
汐莉「(即答で)違います」
鳴海「(汐莉のことを見たまま)まだ最後まで言ってねえだろ!!!」
汐莉「みなまで言わなくても分かりますよ。鳴海先輩の顔にデカデカと、まさか俺!?って書かれてましたから」
鳴海は汐莉のことを見るのをやめる
笑い出す鳴海
汐莉「(少し怒ったように)何で笑うんですか」
鳴海「(笑いながら)い、いやだって・・・南、この前しょぼくれてたからさ・・・」
汐莉「(少し怒ったように)先輩、笑うのは失礼ですよ」
鳴海は止めていた手を動かし部員募集の紙を貼り始める
鳴海「(部員募集の紙を掲示板に貼りながら)悪い悪い、たこ焼きを奢るから怒らないでくれ」
汐莉「それならまあ・・・(少し間を開けて)許してあげますけど・・・?」
鳴海は部員募集の紙を掲示板に貼り終える
◯1941回想戻り/波音高校二年生廊下(朝)
外は弱い雨が降っている
波音高校の二年生廊下にある掲示板の前に一人いる鳴海
廊下には生徒も教師もおらず、鳴海しかいない
廊下同様に二年生の教室の中には誰もいない
掲示板には文芸部の部員募集の貼り紙がされている
文芸部の部員募集の貼り紙には”文芸部部員募集!!初心者でもOK!!放課後 特別教室の四で待ってます 部長 二年二組 南 汐莉”と書いてある
鳴海は掲示板に貼られている文芸部の部員募集の貼り紙を笑いながら見ている
鳴海「(笑いながら掲示板に貼られている文芸部の部員募集の貼り紙を見て)そうだよな・・・笑うのは失礼か・・・」
鳴海は笑いながら掲示板に貼られている文芸部の部員募集の貼り紙を見るのをやめる
歩き出す鳴海
鳴海「(声 モノローグ)ここにいるだけで・・・みんなの声が聞こえて来る気がした・・・菜摘と、嶺二と、明日香と、南と、千春と、一条と、響紀と、永山と、奥野の声が・・・(少し間を開けて)この校舎には・・・俺たちの声が刻まれている・・・それが俺の記憶と繋がって共鳴してるのかもしれない」
鳴海は立ち止まる
振り返って掲示板に貼られている文芸部の部員募集の貼り紙を見る鳴海
鳴海「(振り返って掲示板に貼られている文芸部の部員募集の貼り紙を見て)頑張れよ・・・みんな・・・」
◯1942波音高校体育館(昼前)
外は弱い雨が降っている
波音高校の体育館の中にいる鳴海
体育館の中では救命講習が行われている
体育館の中には救命講習を受講している老若男女たくさんの人がいる
体育館の中には救命講習のスタッフが数十人いる
救命講習の受講者たちは5、6人で1グループを作っており、心肺蘇生法やAEDを使った除細動などのやり方を心配蘇生訓練用のマネキンを利用して、練習を行っている
救命講習のスタッフたちは心肺蘇生法やAEDを使った除細動などのやり方を心配蘇生訓練用のマネキンを利用した行っている受講者を見ている
鳴海たちのグループでは中年の男が心配蘇生訓練用のマネキンに対してAEDを使って電気ショックを与えている
救命講習のスタッフ1は中年の男が行う心肺蘇生の練習を見ている
中年の男が行う心肺蘇生の練習を見ている鳴海
鳴海「(中年の男の心肺蘇生の練習を見ながら 声 モノローグ)しかし人生でこれらを使った方が良い状況に出くわすことが果たして何回あるのか・・・一回もあれば十分だろう・・・いや、一回だってなくて良い・・・だがそういう時というのは、まるで試練のように降りかかってくるものだと俺は分かっている」
時間経過
昼過ぎになっている
鳴海は心配蘇生訓練用のマネキンに対して心臓マッサージを行っている
救命講習のスタッフ1「強く!!早く!!」
鳴海「(心肺蘇生訓練用のマネキンに対して心臓マッサージを行いながら)は、はい!!」
救命講習のスタッフ1「1分間あたりに100回から120回行ってください!!」
鳴海は心肺蘇生訓練用のマネキンに対して行っている心臓マッサージの速度を上げる
鳴海「(心肺蘇生訓練用のマネキンに対して行っている心臓マッサージの速度を上げて 声 モノローグ)両親が死ぬ前に・・・俺が心臓マッサージをしていたら・・・俺が二人を生かそうとしていたら・・・(少し間を開けて)俺が・・・俺が母さんと父さんを救おうと努力していたら!!」
◯1943回想/道路(約8年前/昼)
道路の真ん中に激しく損壊している二台の車がある
頭から血を流しながらふらふらと車の一台から出て来る10歳の鳴海
二台の車の周りには人だかりが出来ている
頭から血を流しながら車の中を覗く10歳の鳴海
車の前の座席には血だらけで大怪我を負った由夏理と紘がいる
後部座席には頭から血を流して気絶している16歳の風夏がいる
10歳の鳴海は頭から血を流しながらその場に座り込む
鳴海「(大きな声 モノローグ)ガキの俺に力があれば!!!!」
◯1944回想戻り/波音高校体育館(昼過ぎ)
外は弱い雨が降っている
波音高校の体育館の中にいる鳴海
体育館の中では救命講習が行われている
体育館の中には救命講習を受講している老若男女たくさんの人がいる
体育館の中には救命講習のスタッフが数十人いる
体育館の中の受講者は5、6人で1グループを作っており、心肺蘇生法やAEDを使った除細動などのやり方を心配蘇生訓練用のマネキンを利用して、練習を行っている
救命講習のスタッフたちは心肺蘇生法やAEDを使った除細動などのやり方を心配蘇生訓練用のマネキンを利用した行っている受講者を見ている
鳴海は心配蘇生訓練用のマネキンに対して何度も強く心臓マッサージを行っている
救命講習のスタッフ1は鳴海が行う心肺蘇生の練習を見ている
鳴海「(心肺蘇生訓練用のマネキンに対して強く心臓マッサージを行いながら 大きな声 モノローグ)二人は死なずに済んだのに!!!!」
鳴海が強く心配蘇生訓練用のマネキンの胸骨を圧迫した瞬間、マネキンの胸が潰れて壊れる
救命講習のスタッフ1「強くやり過ぎです!!もうやめてください!!」
鳴海は胸が潰れて壊れた心配蘇生訓練用のマネキンに対して心臓マッサージをしていた手を止める
鳴海「(胸が潰れて壊れた心配蘇生訓練用のマネキンに対して心臓マッサージをしていた手を止めて)で、でも強くやれってあんたが・・・」
救命講習のスタッフ1「も、もう良いです・・・あ、新しい人形を持って来ます、少し待っていてください」
救命講習のスタッフ1は他のスタッフがいるところに行く
少しの沈黙が流れる
中年の男「兄ちゃんなー、あんなやり方じゃ、逆に人を殺しちまうって」
再び沈黙が流れる
中年の男「マネキンで良かったなー、本物の人間だったら兄ちゃん、今頃人殺しになってから」
◯1945貴志家リビング(昼過ぎ)
外は弱い雨が降っている
リビングには誰もいない
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
家に帰って来た鳴海がリビングにやって来る
鳴海は家の鍵を持っている
鳴海「ただいま・・・(少し間を開けて)菜摘・・・?」
鳴海は周囲を見る
鳴海は周囲を見るが家には鳴海しかいない
周囲を見るのをやめる
鳴海「(周囲を見るのをやめて)菜摘も・・・いないのか・・・」
鳴海はテーブルの上に家の鍵を置く
テーブルに向かって椅子に座る鳴海
鳴海「(テーブルに向かって椅子に座って 声 モノローグ)その後の救命講習は地獄の時間だった。何をしても交通事故の映像が頭の中でフラッシュバックし、講習の内容が全く身についてこない。おまけに一緒に受講したクソジジイが嫌味を言い続けて来て酷くイライラした。(少し間を開けて)結局、平日の疲れを倍増させただけだ」
◯1946早乙女家に向かう道中(夜)
弱い雨が降っている
菜摘を家に送っている鳴海
傘をさしている鳴海と菜摘
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
話をしている鳴海と菜摘
鳴海「何で久しぶりの学校で嫌な思いをしなきゃいけないんだか・・・」
菜摘「私、資格なんて一つも持ってないから鳴海くんのことを凄いと思うよ。嫌なことがあっても鳴海くんは一生懸命頑張ったんだから、自分を誇っても良いんじゃないかな」
鳴海「資格ってほどの物じゃないんだ。遅刻や早退でもしない限り受講者はみんな貰えるし、実質参加賞と言って良い」
菜摘「それでも凄いよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「最近ふとした瞬間に両親を思い出すことが増えていたが・・・今日は交通事故の記憶が何度も何度もフラッシュバックした。多分、俺の両親に対する想いと・・・救命講習の内容がぶつかり合って混ざったんだろうな・・・」
菜摘「記憶が完全に失われてしまうよりは・・・辛くても・・・少しでも忘れていたことを蘇らせる方が私は良いと思う・・・」
鳴海「俺だって何一つ覚えてないよりはマシだって思うけどさ・・・でも時には、全部忘れてしまいたいって思うこともあるんだぞ」
再び沈黙が流れる
菜摘「本当は・・・忘れちゃいけないことなのかもしれないよ」
鳴海「両親が悲しむからって言うんだろ」
菜摘「うん・・・」
鳴海「菜摘がそういう考えなのは分かってたよ」
菜摘「そっか・・・全部お見通しだった・・・?」
鳴海「まあな。こういうことに関して菜摘は分かりやすいんだよ」
菜摘「私も鳴海くんのことになると、熱血系に目覚めちゃうからね」
鳴海「熱血系か・・・俺的には勘弁して欲しいが・・・」
菜摘「えー・・・」
鳴海「一番俺が苦手とするタイプだろ、熱血って」
菜摘「そうかな?鳴海くんも自覚がないだけで熱血タイプだと思うよ」
鳴海「俺のどこが熱血なんだ・・・」
菜摘「伊桜さんに認められるようと頑張ってるところとか・・・(少し間を開けて)今日だって、伊桜さんと社長さんに言われたから行って来たんじゃないの?」
鳴海「確かにそうだが・・・」
菜摘「私が思うに、鳴海くんは心の中に熱いものを秘めてるんだよ。普段は滅多に出て来ないけど、合同朗読劇の時とか、お仕事のことで覚醒するんだ」
鳴海「それだとまるで俺は仕事熱心な男じゃないか」
菜摘「違うの・・・?」
鳴海「俺は別に仕事熱心ではないぞ」
菜摘「そうなのかな・・・?」
鳴海「ああ、出来るだけ楽がしたいし出来るだけサボりたいんだ」
菜摘「それはみんなそうだよ」
鳴海「みんなそうだとしても、そんな俺を仕事熱心扱いするのは失礼だろ」
菜摘「失礼って誰に?」
鳴海「プロの仕事人にだ」
菜摘「プロの仕事人って・・・誰のこと・・・?」
鳴海「それは俺にも分からない」
菜摘「鳴海くんだってプロの仕事人だよ」
鳴海「いや、とにかく俺は違う。それだけは間違いない」
菜摘「でも鳴海くんが真面目に仕事をしてるのは事実だし・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「月曜日は無断欠勤しちまうか」
菜摘「だ、ダメだよ!!」
鳴海「冗談だ」
菜摘「よ、良かった・・・」
鳴海「菜摘、今本気で止めただろ」
菜摘「う、うん」
鳴海「(少し笑って)そうか、つまりは菜摘は俺が無断欠勤すると思ってるんだな」
菜摘「ちょ、ちょっとだけ怪しいなって思っただけだよ!!大変とか、体が痛いとか、叱られたとか、そういう話をよく聞くからつい・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)心配するな、もうあと一週間だけは続けるから」
菜摘「い、一週間?」
鳴海「(少し笑って)今のも冗談だ」
菜摘「(怒って)な、鳴海くん!!」
鳴海「(少し笑いながら)悪い」
菜摘「(怒りながら)か、からかうのは良くないよ!!」
鳴海「(少し笑いながら)そうは言われても、俺は高校の時から誰かしらをからかいながら過ごしてたしな、嶺二や明日香とか、南をさ」
菜摘「(怒りながら)だ、だから明日香ちゃんは鳴海くんに怒ってたんだと思う」
鳴海「明日香が勝手に怒ってたって言い分は通らないのか?」
菜摘「と、通らないよ!!」
鳴海「それは残念だ・・・」
再び沈黙が流れる
少しすると鳴海と菜摘は菜摘の家に辿り着く
家の前で立ち止まる菜摘
鳴海は菜摘に合わせて菜摘の家の前で立ち止まる
和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を菜摘に差し出す鳴海
鳴海「(和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を菜摘に差し出して)いつもありがとうな」
菜摘は(和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を鳴海から受け取る
菜摘「(和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を鳴海から受け取って)ううん」
鳴海「明日は姉貴たちの引越しだけど・・・」
菜摘「手伝いに行くよ」
鳴海「そうか、待ってるぞ」
菜摘「うん」
鳴海「じゃあまあ明日な、菜摘」
菜摘「な、鳴海くん」
鳴海「ん?」
菜摘「ゆっくり休んでね」
鳴海「おう」
菜摘「おやすみなさい」
鳴海「おやすみ」
菜摘はポケットから家の鍵を取り出す
菜摘は家の玄関の鍵を開ける
家の玄関の鍵穴から鍵を抜く菜摘
菜摘は家の中に入って行く
菜摘が家に入ったのを確認し、自宅に向かい始める鳴海
◯1947早乙女家菜摘の自室(深夜)
外は弱い雨が降っている
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
菜摘は机に向かって椅子に座っている
菜摘は入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真と、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真を見ている
入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真と、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真は、滅びかけた世界の老人が持っている写真と完全に同じ物
菜摘が見ている2枚の写真はChapter6◯605で鳴海の家から菜摘が盗んだ物
菜摘は入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真と、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真を見るのをやめる
両目を瞑る菜摘
入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真と、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真が金色に光り輝き始める
菜摘「(両目を瞑ったまま)深く・・・深く・・・夢と記憶が交差する場所へ・・・鳴海くんを誘って・・・」