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Chapter7♯7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く


登場人物


貴志 鳴海(なるみ) 19歳男子

Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。


早乙女 菜摘(なつみ) 19歳女子

Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている


貴志 (ひろ)

鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。


早乙女 すみれ 46歳女子

優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。


早乙女 (じゅん) 47歳男子

永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。


貴志/神北 風夏(ふうか) 25歳女子

看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。


神北(かみきた) 龍造(りゅうぞう) 25歳男子

風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。


南 汐莉(しおり) 16歳女子

Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。


一条 雪音(ゆきね) 19歳女子

鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。


伊桜(いざくら) 京也(けいや) 32歳男子

緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。


荻原 早季(さき) 15歳(?)女子

どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。


瑠璃(るり)

鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。


来栖(くるす) (まこと) 59歳男子

緋空事務所の社長。


神谷 志郎(しろう) 44歳男子

Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。


貴志 希海(のぞみ) 女子

貴志の名字を持つ謎の人物。


三枝 琶子(わこ) 女子

“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。


三枝 碧斗(あおと) 男子

“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。


有馬 千早(ちはや) 女子

ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。


太田 美羽(みう) 30代後半女子

緋空事務所で働いている女性社員。


目黒 哲夫(てつお) 30代後半男子

緋空事務所で働いている男性社員。


一条 佐助(さすけ) 男子

雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。


一条 智秋(ちあき) 25歳女子

雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。


神谷 絵美(えみ) 30歳女子

神谷の妻、現在妊娠中。


神谷 七海(ななみ) 女子

神谷志郎と神谷絵美の娘。


天城 明日香(あすか) 19歳女子

鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。


白石 嶺二(れいじ) 19歳男子

鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。


三枝 響紀(ひびき) 16歳女子

波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。


永山 詩穂(しほ) 16歳女子

波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。


奥野 真彩(まあや) 16歳女子

波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。


双葉 篤志(あつし) 19歳男子

鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。


井沢 由香(ゆか)

波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。


伊桜 真緒(まお) 37歳女子

伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。


伊桜 陽芽乃(ひめの) 13歳女子

礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。


水木 由美(ゆみ) 52歳女子

鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。


水木 優我(ゆうが) 男子

鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。


鳴海とぶつかった観光客の男 男子

・・・?


少年S 17歳男子

・・・?


サン 女子

・・・?


ミツナ 19歳女子

・・・?


X(えっくす) 25歳女子

・・・?


Y(わい) 25歳男子

・・・?


ドクターS(どくたーえす) 19歳女子

・・・?


シュタイン 23歳男子

・・・?






伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物


リーヴェ 17歳?女子

奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。


メーア 19歳?男子

リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。


バウム 15歳?男子

お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。


盲目の少女 15歳?女子

バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。


トラオリア 12歳?少女

伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。


エルガラ 12歳?男子

伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。






滅びかけた世界


老人 男子

貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。


ナツ 女子

母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。


スズ 女子

ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。


柊木 千春(ちはる) 15、6歳女子

元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。

Chapter7♯7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く


◯1855貴志家キッチン(日替わり/朝)

 外は快晴

 キッチンにいる鳴海

 鳴海は冷蔵庫を開ける

 冷蔵庫の中には2リットルのペットボトルの水、納豆、卵、ケチャプ、マヨネーズ、醤油などの調味料しか入っておらず、ほとんど食材がない

 鳴海は冷蔵の中を見ている


鳴海「(冷蔵庫の中を見ながら)しまった・・・飯のことを考えていなかった・・・(少し間を開けて)昼はコンビニでパンを買うとして・・・朝飯は抜きにするか・・・」


 鳴海の家のインターホンが鳴る

 鳴海は冷蔵庫の中を見るのをやめる

 冷蔵庫を閉める鳴海


◯1856貴志家玄関(朝)

 玄関には風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある

 玄関にやって来る鳴海

 鳴海は玄関の扉を開ける

 外は快晴

 菜摘が鳴海の家の玄関の前に立っている

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 お弁当箱を持っている菜摘

 菜摘が持っているお弁当箱は和柄のランチクロスに包まれている


菜摘「おはよう鳴海くん!」

鳴海「(驚いて)な、何してるんだよ菜摘」


 菜摘は和柄のランチクロスに包まれているお弁当箱を鳴海に差し出す


菜摘「(和柄のランチクロスに包まれているお弁当箱を鳴海に差し出して)はい、これお弁当」

鳴海「(和柄のランチクロスに包まれているお弁当箱を菜摘に差し出されたまま)べ、弁当?つ、作ってくれたのか?」

菜摘「(和柄のランチクロスに包まれているお弁当箱を鳴海に差し出したまま)うん!!」


 鳴海は和柄のランチクロスに包まれているお弁当箱を菜摘から受け取る


鳴海「(和柄のランチクロスに包まれているお弁当箱を菜摘から受け取って)わ、悪いな菜摘・・・ちょうど今食材がなくて困ってたところなんだよ」

菜摘「やっぱりそうだったんだ・・・」

鳴海「やっぱりってことは気付いてたのか?」

菜摘「うん、この前鳴海くんのお家の冷蔵庫を覗いた時もおかずが全然なかったもん」

鳴海「なるほど・・・まさかそんなところまで見られているとはな・・・」

菜摘「な、鳴海くん・・・」

鳴海「ど、どうした?」

菜摘「晩ご飯・・・鳴海くんのお家に作りに来て良い・・・?」

鳴海「か、構わないが・・・そこまでされると申し訳ないな・・・」

菜摘「鳴海くんが嫌ならやめるけど・・・でも一人でご飯を食べるのは寂しいんじゃないかって思って・・・だから私と一緒に・・・」

鳴海「(菜摘の話を遮って)も、もちろんだ。もちろん一人よりも菜摘と一緒の方が良いに決まってる」

菜摘「ほ、本当・・・?」

鳴海「あ、ああ。仕事が終わったら連絡するからさ、二人で飯を食べよう」

菜摘「うん!!」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「い、家に上がってくか?」

菜摘「お仕事前の鳴海くんの時間をこれ以上は奪えないよ」

鳴海「そ、そうか・・・」

菜摘「また後でね、鳴海くん」

鳴海「お、おう」


 菜摘は鳴海に手を振り、鳴海の家から離れて行く


◯1857緋空事務所に向かう道中(朝)

 快晴

 緋空浜にある緋空事務所に向かっている鳴海

 鳴海は登校中の波音高校のたくさんの生徒たちとすれ違っている


鳴海「菜摘に飯を作ってもらえるとはな・・・(少し間を開けて)け、結婚したら・・・こんな感じの幸せな毎日が続くのか・・・やばいな・・・幸せ過ぎて死ぬかもしれないぞ・・・」


 鳴海はぶつぶつ独り言を言いながら緋空浜にある緋空事務所に向かい続ける

 ぶつぶつ独り言を言っている鳴海のことを不思議そうに見ている登校中の波音高校のたくさんの生徒たち


◯1858緋空浜/緋空事務所の前(朝)

 緋空浜にある緋空事務所の前にいる鳴海

 太陽の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている

 浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている

 緋空浜には鳴海以外にも釣りやウォーキングをしている人がいる

 鳴海は深呼吸をする


鳴海「(深呼吸をして)やれば出来る・・・やれば出来る・・・やれば出来る・・・」


 鳴海は深呼吸をするのやめる

 緋空事務所の扉を開ける鳴海

 緋空事務所の中には男女合わせて数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたり、談笑をしたりしている

 緋空事務所の社員の中には伊桜京也、太田美羽、目黒哲夫がいる

 伊桜は机に向かって自分の椅子に座っており、コーヒーを飲みながら書類を読んでいる

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃(いざくらひめの)の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 太田と目黒は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある


鳴海「(緋空事務所の扉を開けたまま)お、おはようございます!!」


 一瞬、緋空事務所の中が静かになり、作業中の社員の何人かが鳴海のことを見る


伊桜「(書類を読みながら)おはよう」

鳴海「え、えっと・・・きょ、今日からお世話になる貴志鳴海と申します!!」


 鳴海は深く頭を下げる


鳴海「(深く頭を下げて)よ、よろしくお願いします!!」

緋空事務所の男性社員1「よろしくー」

緋空事務所の男性社員2「頑張れよー」


 鳴海は顔を上げる


鳴海「(顔を上げて)は、はい!!」


 鳴海は緋空事務所の中に入る、

 緋空事務所の扉を閉める鳴海


鳴海「(緋空事務所の扉を閉めて)あ、あの・・・(少し間を開けて)ま、まずは何をすれば・・・」


 伊桜は書類を読みながら自分の隣の机と椅子を指差す

 伊桜の隣の椅子には誰も座っておらず、机にも物がない


伊桜「(書類を読みながら自分の隣の机と椅子を指差して)席はここだ」

鳴海「は、はい!」


 伊桜は書類を読みながら自分の隣の机と椅子を指差すのをやめる

 慌てて伊桜の隣の机に向かって椅子に座る鳴海

 鳴海は机の上に菜摘の手作り弁当が入ったカバンを置く


伊桜「(書類を読みながら)社長は今電話をしてる」

鳴海「そ、そうですか・・・」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海はチラッと書類を読んでいる伊桜のことを見る

 伊桜は書類を読みながらコーヒーが注がれたマグカップを手に取る

 書類を読みながらコーヒーを一口飲む伊桜


伊桜「(書類を読みながらコーヒーを一口飲んで)コーヒーポッドなら向こうだ、コップは使ったら洗えよ」

鳴海「は、はい・・・」


 伊桜は書類を読みながらコーヒーが注がれたマグカップを机の上に置く

 再び沈黙が流れる

 社長室から社長の来栖真が出て来る


来栖「いやぁまいったまいった・・・クレーマーは朝も元気で本当に困るよ・・・」


 伊桜は書類を読むのをやめる


伊桜「(書類を読むのをやめて)社長、例の新人が」

来栖「ああ、待たせて悪いね貴志くん」


 鳴海は立ち上がる


鳴海「(立ち上がって)い、いえ!!」

来栖「みんな、この子が今日から入ってくれる貴志鳴海くん。きつそうな時は助けてやってね」

伊桜・太田・目黒を含む緋空事務所の社員全員「はーい!!」


 鳴海は再び深く頭を下げる


鳴海「(深く頭を下げたまま)お世話になります!!」

来栖「貴志くん、こちら伊桜くん」


 鳴海は顔を上げる

 鳴海に手を差し出す伊桜


伊桜「(鳴海に手を差し出して)伊桜京也だ、よろしく」


 鳴海は伊桜の手を握る

 握手をする鳴海と伊桜


鳴海「(伊桜と握手をしながら)よろしくお願いします!!」

伊桜「(鳴海と握手をしながら)ああ」

来栖「貴志くんはまだ研修期間みたいなものだから、原則伊桜くんと一緒に仕事をしてもらうよ」

鳴海「(伊桜と握手をしながら)わ、分かりました」


 鳴海と伊桜は握手をするのをやめる


来栖「彼は頼りになる男なんでね。何かあれば、まあまずは伊桜くんに相談するのがお勧めだ」

鳴海「は、はい」

来栖「そういうわけだから、あとはいつも通りによろしく伊桜くん。ああ、あんまり厳しくやらないようにね」

伊桜「了解です社長」


 来栖は社長室に向かう


来栖「(社長室に向かいながら)みんな熱中症とか怪我には気をつけて、お昼休みまでしっかり働くんだよ」

伊桜・太田・目黒を含む緋空事務所の社員全員「はーい!!」

来栖「(社長室に向かいながら)僕はクレーマーと戦うために部屋に閉じこもるから」


 来栖は社長室の中に入る

 少しの沈黙が流れる

 伊桜は立ち上がる


伊桜「(立ち上がって)行くか・・・」

鳴海「い、行くってどこに・・・」

伊桜「ついてくれば分かる」

太田「伊桜くん、いきなり新人ちゃんにいつものをやらせるの?」

伊桜「そうです」

目黒「厳しくやるなって社長に言われたばかりだぞ」

伊桜「最初なんで、仕事のほとんどは俺がやりますよ。でも今慣れてもらわないと、後でしんどくなるのは俺たちよりも彼自身ですから」


 伊桜、太田、目黒の3人が鳴海のことを見る


鳴海「えっ・・・ど、どういうことですか・・・?」

伊桜「説明は現地に着いてからする」


 再び沈黙が流れる


目黒「が、頑張れよ新人。伊桜に殺されないようにな!」


◯1859緋空浜(朝)

 緋空浜の浜辺を歩いている鳴海と伊桜

 浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている

 太陽の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている

 緋空浜には鳴海以外にも釣りやウォーキングをしている人がいる

 伊桜は大きなリュックを背負っている

 目的地も分からないまま伊桜の後ろをついて行っている鳴海


鳴海「ど、どこに行くんすか?」

伊桜「仕事場だ」

鳴海「じ、事務所なら反対ですけど・・・」

伊桜「俺たちの仕事場は常に変わる。緋空浜の近くで困ってる人がいれば、その人たちを助ける場所が俺たちの仕事場だ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(小声でボソッと)結局どこに行くのか分からないままか・・・」


 伊桜は立ち止まる


伊桜「(立ち止まって)おい」

鳴海「は、はい!!」

伊桜「もう少し早く歩け、仕事の時間が押したらまずい」

鳴海「す、すみません!!」


 伊桜は歩き始める

 歩く速度を上げて伊桜の後ろをついて行く鳴海


◯1860緋空銭湯の前(朝)

 緋空浜の近くにある緋空銭湯の前にいる鳴海と伊桜

 緋空銭湯には”湯”と書かれたのれんがかけてある

 緋空銭湯からは緋空浜が見える

 緋空浜の浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている

 太陽の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている

 緋空浜には釣りやウォーキングをしている人がいる

 伊桜は大きなリュックを背負っている


鳴海「銭湯なんかで何するんすか?」

伊桜「なんかはつけるな、失礼だぞ」

鳴海「せ、銭湯で・・・何するんすか?」


 伊桜はため息を吐く


伊桜「(ため息を吐いて)言葉使いまで注意させないでくれよ」

鳴海「す、すみません・・・」

伊桜「まあ良い・・・入るぞ」

鳴海「は、はい」


 鳴海と伊桜は緋空銭湯ののれんをくぐる


◯1861緋空銭湯男子脱衣所(朝)

 緋空銭湯の男子脱衣所にやって来た鳴海と伊桜

 男子脱衣所には中心に番台があり、番台の向こうには女子脱衣所がある

 男子脱衣所と女子脱衣所の間には仕切りがある

 番台には女将のおばちゃんが座っている

 男子脱衣所にはたくさんのロッカーがあり、着替えをしまえるようになっている

 男子脱衣所には古いマッサージチェア、体重計、扇風機、数脚のソファ、透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫が置いてある

 透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫には缶ジュース、瓶ジュース、缶ビール、瓶ビール、瓶の牛乳などが冷やされている

 男子脱衣所は男湯と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男湯に入れるようになっている

 伊桜は大きなリュックを背負っている

 話をしている伊桜と女将のおばちゃん


女将のおばちゃん「悪いねぇ桜ちゃん、アルバイトしたいって子がまだ全然見つからなくて」

伊桜「力仕事は最近の子供じゃやりたがらないでしょうね」

女将のおばちゃん「そうなのよ・・・」


 女将のおばちゃんは鳴海のことを見る


女将のおばちゃん「桜ちゃん、その子は?」

伊桜「うちの新人です。貴志、女将に挨拶を」

鳴海「き、貴志鳴海です!!よろしくお願いします!!」

女将のおばちゃん「元気ねぇ、まだ10代?」

鳴海「は、はい!」

女将のおばちゃん「それじゃあ貴志くんがおじさんになる前に、初めてもらおうかしら」


 伊桜は大きなリュックを背負うのをやめる

 大きなリュック床に置く伊桜


鳴海「あの・・・始めるって一体何をするんですか?」

女将のおばちゃん「決まってるじゃない、掃除よ掃除」

鳴海「掃除・・・?」


 伊桜は床に置いた大きなリュックを開ける

 大きなリュックからゴム手袋とたわしを手に取る伊桜

 伊桜はゴム手袋とたわしを鳴海に向かって投げる


伊桜「(ゴム手袋とたわしを鳴海に向かって投げて)仕事道具だ」


 鳴海は伊桜が投げて来たゴム手袋とたわしをキャッチする


鳴海「(伊桜が投げて来たゴム手袋とたわしをキャッチし)ま、マジすか・・・」


◯1862緋空銭湯男湯(朝)

 緋空銭湯の男湯の中にいる鳴海と伊桜

 男湯の中には浴槽が5据えあり、座風呂、薬湯の風呂、電気風呂、水風呂、超音波風呂などがある

 男湯の中には鏡、シャワー、蛇口がたくさん設置されている

 男湯の隅の方には桶と椅子がたくさん置いてある

 男湯の壁には富士山が描かれている

 男湯の向こうには女湯がある

 男湯と女湯の間には仕切りがある

 男湯は男子脱衣所と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男子脱衣所に出れるようになっている

 鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている

 ゴム手袋をつけてたわしを持っている鳴海と伊桜

 男湯の中にはお風呂掃除用の洗剤が2個、大きなデッキブラシが2本、スポンジが2個置いてある


伊桜「ブラシとたわしは鏡の掃除に使うな、傷が付く。浴槽、それから床のタイルはブラシとたわしでやるんだ」

鳴海「ブラシとたわしは鏡には使わない、了解です」

伊桜「貴志はまずスポンジで鏡の周辺をやってくれ」

鳴海「はい・・・」

伊桜「元気があるのかないのかどっちだ」

鳴海「げ、元気ならあります!」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「新人には誰も期待してない」

鳴海「えっ?」

伊桜「お前は期待されてないんだ、だから焦るな」

鳴海「はあ・・・」

伊桜「返事はちゃんとしろ」

鳴海「は、はい!!」


 時間経過


 鳴海は椅子に座りながら男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除している

 鳴海の近くにはお風呂掃除用の洗剤が置いてある

 伊桜は浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗っている

 浴槽の隣には伊桜が洗い終えた桶と椅子、そしてその横にはまだ洗っていない桶と椅子が置いてある


伊桜「(浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗いながら)桶と椅子が洗い終わるまで貴志はそれを続けてろ」

鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)はい!!」


 再び沈黙が流れる

 伊桜は浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗い終える

 洗い終わった桶と椅子を浴槽の横に置く伊桜

 伊桜はチラッと男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除している鳴海のことを見る

 浴槽の横に置いてあった洗っていない桶と椅子を手に取る伊桜

 伊桜は桶と椅子を浴槽に溜めた水とスポンジを使って洗い始める


伊桜「(浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗いながら)この仕事を選んだ理由はあるのか?」

鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)大切な人が・・・言ってたんです、緋空浜を美しいままに保ってたい、みんなが愛する緋空浜を守りたいって。でもそいつ、生まれつき体が弱いんです。だからとてもじゃないけどこの仕事は無理で・・・それで代わりに俺が緋空浜を守ろうって決めたんですよ」

伊桜「(浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗いながら)真面目だな」

鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)どうも」

伊桜「(浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗いながら)今だけ真面目でも困る、やるからには最後まで真面目でいてくれ」

鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)も、もちろんっす」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)い、伊桜先輩はどうしてここで働くようになったんすか?」


 伊桜は浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗い終える

 洗い終わった桶と椅子を浴槽の横に置く伊桜

 伊桜は浴槽の横に置いてあった洗っていない桶と椅子を手に取る伊桜

 桶と椅子を浴槽に溜めた水とスポンジを使って洗い始める伊桜


伊桜「(浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗いながら)お前がこの仕事を辞めなかったら教えてやる」

鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)わ、分かりました、先輩の秘密を楽しみにしつつ仕事を頑張ります」

伊桜「(浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗いながら)その先輩ってのはよせ」

鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)ダメなんすか?」

伊桜「(浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗いながら)仕事に支障が出る」

鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)じゃあ・・・伊桜さんで・・・」


 時間経過


 変わらず椅子に座りながら男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除している鳴海

 伊桜は桶と椅子を全て洗い終えて、鳴海の掃除を見ている

 伊桜が洗い終えた桶と椅子は浴槽の隣に置いてある

 鳴海は男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除するのをやめる

 立ち上がる鳴海

 鳴海はシャワーを手に取る

 シャワーハンドルを回してシャワーからお湯を出す鳴海

 鳴海は鏡についた洗剤をシャワーで軽く洗い落とし始める

 鏡についた洗剤をシャワーで軽く落とした後、シャワーハンドルを回してシャワーのお湯を止める鳴海

 鳴海は椅子を動かし、隣の鏡の前に移動する

 鏡に向かって椅子に座る鳴海

 鳴海は再び鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除し始める

 鳴海が掃除し終えた鏡と鏡の周辺を念入りにチェックする伊桜

 再び沈黙が流れる

 伊桜は鳴海が掃除し終えた鏡と鏡の周辺を念入りにチェックするのをやめる


伊桜「(鳴海が掃除し終えた鏡と鏡の周辺を念入りにチェックするのをやめて)やり直しだ、貴志」


 鳴海は鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除するのをやめる


鳴海「(鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除するのをやめて)や、やり直しっすか・・・」


 伊桜は頷く

 鳴海が掃除し終えた鏡を指差す伊桜


伊桜「(鳴海が掃除し終えた鏡を指差して)これを見ろ」


 鳴海は伊桜が指差している鏡を見る


鳴海「(伊桜が指差している鏡を見て)綺麗になってますよ」

伊桜「(鳴海が掃除し終えた鏡を指差したまま)よく見るんだ、これを」


 鳴海は伊桜が指差している鏡をよく見てみる

 伊桜が指差している鏡には小さな黒ずみが残っている

 伊桜が指差している鏡を見るのをやめる鳴海


鳴海「(伊桜が指差している鏡を見るのをやめて)そういう汚れは取れませんって。さっきも何回か擦りましたけど、びくともしませんでしたし」

伊桜「(鳴海が掃除し終えた鏡を指差したまま)お前の大切な人はこの汚れを見て喜ぶのか?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「スポンジじゃ取れない汚れっすよ・・・」

伊桜「(鳴海が掃除し終えた鏡を指差したまま)もう一度を鏡を見ろ」


 鳴海は渋々伊桜が指差している鏡を見る

 鳴海が掃除し終えた鏡を指差すのをやめる伊桜


伊桜「(鳴海が掃除し終えた鏡を指差すのをやめて)スポンジを貸すんだ」


 鳴海は鏡を見たままスポンジを伊桜に差し出す

 スポンジを鳴海から受け取る伊桜

 伊桜は鳴海の近くに置いてあったお風呂掃除用の洗剤を手に取る

 お風呂掃除用の洗剤をスポンジにつける伊桜


伊桜「(お風呂掃除用の洗剤をスポンジにつけて)洗剤はスポンジの全体につけろ、それからもっと手首に力を入れるんだ」


 伊桜はお風呂掃除用の洗剤をスポンジにつけるのをやめる

 鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦り始める伊桜

 伊桜が何回か鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦ると、黒ずみが落ち始める


伊桜「(鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦り汚れを落としながら)最後にシャワーで洗う時も・・・」

鳴海「(鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦り汚れを落としている伊桜のことを見ながら 声 モノローグ)伊桜さんは俺の親父と同じタイプな気がした。仕事熱心だが、ぶっきらぼうで、教えるのが下手だ。(少し間を開けて)俺の親父もそういう人間だった」

伊桜「(鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦り汚れを落としながら)おい、聞いてるのか」

鳴海「(鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦り汚れを落としている伊桜のことを見ながら)す、すみません!!」

伊桜「(鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦り汚れを落としながら)学校じゃないんだぞ。お前が話を聞かなければ、困るのはお前ではなくこの町で暮らす人たちなんだ。分かってるな」

鳴海「(鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦り汚れを落としている伊桜のことを見ながら)は、はい!!」

伊桜「(鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦り汚れを落としながら)利用者や住民のことを第一に考えるようにしろ。それが出来ないなら、お前の大切な人が喜ぶか悲しむかで行動するんだ」

鳴海「(鏡の黒ずみを洗剤をつけたスポンジで擦り汚れを落としている伊桜のことを見ながら)わ、分かりました」


 時間経過


 男湯の床をデッキブラシで掃除している鳴海と伊桜

 

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら小声でボソッと)大掃除をしてる気分だ・・・」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)なんて言った」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)お、大掃除みたいで楽しいっすねって言ったんです」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)掃除が得意なのか?」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)得意ってことはないと思いますよ・・・ただ厄介な作業には少し慣れてて・・・」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)高校では部活をよくやってたらしいな」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)はい、活動期間は一年間だけでしたけど、色々学べたんです。だから俺の精神的な基盤は部活で作り上げられて・・・」


 男湯の床をデッキブラシで掃除しながら話をしている鳴海が滑って転びそうになる


鳴海「(床に滑って転びそうになりながら)うおっ!!」


 鳴海は床に滑って転びそうになりながら何とか踏ん張り体勢を直す


鳴海「(何とか踏ん張り体勢を直して)あ、危なかった・・・」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)怪我だけはよしてくれ、怪我をされたらうちの評判と信頼がガタ落ちするんだ」

鳴海「はい・・・気をつけます・・・」


 再び沈黙が流れる


伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)学生時代の経験に頼りきっていると、足元をすくわれるぞ」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は再び男湯の床をデッキブラシで掃除し始める


鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)それでもっすよ、俺を成長させてくれた大事な経験なんです。それに使える経験値はガンガン使っていかないと勿体無いですから」


 時間経過


 鳴海と伊桜は浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除している


鳴海「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら小声でボソッと)クソッ・・・全然取れないじゃないか・・・」

伊桜「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)おい」

鳴海「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)何です?」

伊桜「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)言われなきゃ分からないのか?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)すみません・・・」


◯1863緋空銭湯男子脱衣所(朝)

 男湯の掃除を全て終え、男子脱衣所にやって来た鳴海と伊桜

 男子脱衣所には中心に番台があり、番台の向こうには女子脱衣所がある

 男子脱衣所と女子脱衣所の間には仕切りがある

 番台には女将のおばちゃんが座っている

 男子脱衣所にはたくさんのロッカーがあり、着替えをしまえるようになっている

 男子脱衣所には古いマッサージチェア、体重計、扇風機、数脚のソファ、透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫が置いてある

 透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫には缶ジュース、瓶ジュース、缶ビール、瓶ビール、瓶の牛乳などが冷やされている

 男子脱衣所は男湯と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男湯に入れるようになっている

 鳴海はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている

 

鳴海「体が痛え・・・」

伊桜「普段使ってない筋肉を使ったんだ、明日はもっと痛くなるぞ」

鳴海「ま、まだ痛くなるんすか・・・」

伊桜「若くても筋肉痛は起きるだろ」

鳴海「そ、そうっすね・・・」

女将のおばちゃん「まだ10代なんだからもう少し頑張りなさいな」

鳴海「は、はい!!って・・・つ、次は何をするんですか?」

伊桜「ロッカーと床の雑巾掛け、それからトイレ掃除、ここが終わったら今度は同じ作業を女湯でやるんだ」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「辞めるなら今すぐだぞ、貴志」

鳴海「や、辞めないっす!!こ、これも生きていくには必要な労力ですから!!」

伊桜「どうですか女将、こいつ、これでやっていけると思いますか?」

女将のおばちゃん「いや、この調子じゃすぐに壊れるわね」

鳴海「そ、そんなこと言わないでくださいよ・・・」

女将のおばちゃん「あなた、良い子っぽそうだけど世渡りが下手に見えるわ」

鳴海「そうですか・・・」

女将のおばちゃん「みんなね、世間を知って少しずつ性格を捻じ曲げたり、夢や目標を諦めて大人になるんだけど、あなたはまだその準備が済んでないのよ」


 再び沈黙が流れる


鳴海「ど、どうやったら準備が済まされるんです?」

女将のおばちゃん「桜ちゃんをよくよく見て、学びなさい。身近にいる大人は生きる参考書になるんだから」

鳴海「お、お願いします伊桜さん」

伊桜「お願いされる前にもう色々教えてるだろ」

鳴海「まあ・・・そうなんすけど・・・」


 時間経過


 鳴海と伊桜は男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしている

 番台に座って新聞を読んでいる女将のおばちゃん


鳴海「(男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)筋トレだと思えば掃除もちょっと楽っすね」

伊桜「(男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)今に筋トレにも嫌気がさすぞ」

鳴海「(男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)大丈夫っすよ、運動は好きですから」


 時間経過


 男子脱衣所の床を雑巾掛けしている鳴海と伊桜

 女将のおばちゃんは番台から男子脱衣所の床を雑巾掛けしている鳴海と伊桜のことを見ている

 息を切らしながら男子脱衣所の床を雑巾掛けしている鳴海

 鳴海は汗だくになっている


鳴海「(息を切らしながら男子脱衣所の床を雑巾掛けして)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・た、体力には自信があったのに・・・ハァ・・・ハァ・・・」

伊桜「(男子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)ノロノロするな貴志、早く終わらせないと最初のお客さんが来るぞ」

鳴海「(息を切らしながら男子脱衣所の床を雑巾掛けして)は、はい!!ハァ・・・ハァ・・・」


◯1864緋空銭湯トイレ(朝)

 銭湯の狭いトイレを一人で掃除している鳴海

 鳴海はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている

 鳴海はゴム手袋をつけてトイレの便器にブラシがけをしている


鳴海「(トイレの便器にブラシがけをしながら)こ、こんな仕事・・・合同朗読劇の準備に比べたら簡単じゃないか・・・(少し間を開けて)そうだ・・・合同朗読劇に比べたら・・・簡単で・・・苦労も少ないはずだ・・・」


◯1865緋空銭湯女湯(昼前)

 緋空銭湯の女湯の中にいる鳴海と伊桜

 女湯の中には浴槽が5据えあり、座風呂、薬湯の風呂、電気風呂、水風呂、超音波風呂などがある

 女湯の中には鏡、シャワー、蛇口がたくさん設置されている

 女湯の隅の方には桶と椅子がたくさん置いてある

 女湯の壁には富士山が描かれている

 女湯の向こうには男湯がある

 女湯と男湯の間には仕切りがある

 女湯は女子脱衣所と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま女子脱衣所に出れるようになっている

 鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている

 鳴海は椅子に座りながら女湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除している

 鳴海の近くにはお風呂掃除用の洗剤が置いてある

 伊桜は浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗っている

 浴槽の隣には伊桜が洗い終えた桶と椅子、そしてその横にはまだ洗っていない桶と椅子が置いてある


伊桜「(浴槽に溜めた水とスポンジを使って桶と椅子を洗いながら)今度はしっかりやるんだぞ、貴志」

鳴海「(女湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)はい!!」


 時間経過


 女湯の排水溝の掃除をしている鳴海と伊桜

 鳴海と伊桜の近くにはゴミ袋が置いてある

 伊桜は排水溝の中に手を入れ、中に詰まったゴミを取り出している

 排水溝の中に詰まっていた髪の毛の塊を取り出す伊桜

 伊桜は排水溝の中に詰まっていた髪の毛を塊を鳴海に差し出す

 気持ち悪がりながら排水溝の中に詰まっていた髪の毛の塊を伊桜から受け取る鳴海

 鳴海は排水溝の中に詰まっていた髪の毛の塊を気持ち悪がりながらゴミ袋の中に捨てる


伊桜「(排水溝の中に手を入れ、中に詰まったゴミを取り出しながら)これは俺も慣れない」

鳴海「そ、そうっすか・・・というかその割には冷静に手を排水溝の中に突っ込んでますよね・・・」

伊桜「(排水溝の中に手を入れ、中に詰まったゴミを取り出しながら)お前の前に辞めた部下が、排水溝の中から吸い出した抜け毛の塊を見てパニックを起こしたんだ」

鳴海「ぱ、パニックを起こしてどうなったんすか?」

伊桜「(排水溝の中に手を入れ、中に詰まったゴミを取り出しながら)排水溝にそいつの腕がはまって、丸6時間身動きが取れなくなった。(少し間を開けて)だから貴志、お前は焦って怪我をするなよ。パニックになった無能な部下のために6時間も女湯の排水溝の前で立ち往生するのは避けたいんだ」


 少しの沈黙が流れる

 伊桜は再び排水溝の中に詰まっていた髪の毛の塊を手に取る

 排水溝の中に詰まっていた髪の毛の塊を鳴海に差し出す伊桜

 鳴海は気持ち悪がりながら排水溝の中に詰まっていた髪の毛の塊を伊桜から受け取る


鳴海「(気持ち悪がりながら排水溝の中に詰まっていた髪の毛の塊を伊桜から受け取って)な、何事も慎重にっすね・・・」


 鳴海は排水溝の中に詰まっていた髪の毛の塊を気持ち悪がりながらゴミ袋の中に捨てる


 時間経過


 女湯の床をデッキブラシで掃除している鳴海と伊桜


鳴海「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら)お、俺が入るまでは・・・伊桜さんが一人でこれをやってたんすか・・・?」

伊桜「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら)部下がいる時は二人だ。大抵の奴は過労で辞めるが」

鳴海「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら)で、ですよね・・・辞めないですけど・・・辞める奴の気持ちも分かりますよ・・・」

伊桜「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら)辞めたところで就職難のこの時世じゃ良い会社は見つからないだろ。だから根性のある奴らだけはうちの会社に残るんだ」

鳴海「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら)そうなんすね」

伊桜「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら)幸い、うちは給料が良い」

鳴海「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら)そりゃこれだけ肉体労働をしてればその分貰えて当然っすよ・・・俺なんてもう全身を痛めつけてますし・・・」

伊桜「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら)割に合うことを願うんだな」

鳴海「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら)えっ?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら 声 モノローグ)生真面目な伊桜さんは、事細かに浴槽のあらゆる箇所を磨き上げていった」


 鳴海は女湯の床をデッキブラシで掃除しながらチラッと伊桜のことを見る

 変わらず女湯の床をデッキブラシで掃除している伊桜


鳴海「(女湯の床をデッキブラシで掃除しながら 声 モノローグ)こういう人の部下になってしまった以上、俺は俺で伊桜さんに叱られないように精一杯仕事をするしかない」


◯1866緋空銭湯女子脱衣所(昼前)

 緋空銭湯の女子脱衣所にいる鳴海と伊桜

 女子脱衣所には中心に番台があり、番台の向こうには男子脱衣所がある

 女子脱衣所と男子脱衣所の間には仕切りがある

 番台には女将のおばちゃんが座っている

 女子脱衣所にはたくさんのロッカーがあり、着替えをしまえるようになっている

 女子脱衣所には古いマッサージチェア、体重計、扇風機、数脚のソファ、透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫が置いてある

 透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫には缶ジュース、瓶ジュース、缶ビール、瓶ビール、瓶の牛乳などが冷やされている

 女子脱衣所は女湯と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま女湯に入れるようになっている

 鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている

 緋空銭湯の全ての掃除を終えている鳴海と伊桜

 鳴海は汗だくになっている

 額の汗を拭う鳴海

 

鳴海「(額の汗を拭って)やっと終わった・・・」

番台のおばちゃん「二人ともご苦労様、そこの冷蔵庫から好きなジュースを一本を持ってて良いわよ」


 番台のおばちゃんは女子脱衣所の中にある透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫を指差す


伊桜「いつもありがとうございます、女将」


 番台のおばちゃんは女子脱衣所の中にある透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫を指差すのをやめる


番台のおばちゃん「(女子脱衣所の中にある透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫を指差すのをやめて少し笑って)割には合わないでしょうけど」

伊桜「俺には合ってますよ」


 伊桜は透明の冷蔵庫を開ける

 透明の冷蔵庫の中から瓶の牛乳を二本を手に取る伊桜

 透明の冷蔵庫の中から瓶の牛乳を二本を手に取って透明の冷蔵庫を閉める伊桜

 伊桜は瓶の牛乳の一本を鳴海に差し出す


伊桜「(瓶の牛乳の一本を鳴海に差し出して)貴志も飲め」


 鳴海は瓶の牛乳の一本を伊桜から受け取る


鳴海「(瓶の牛乳の一本を伊桜から受け取って)ああ・・・どうも」

伊桜「礼は女将に言うんだ」

鳴海「あ、ありがとうございます、女将」

番台のおばちゃん「これからも頼むわ、貴志ちゃん」

鳴海「はい!!」


 伊桜は瓶の牛乳の蓋を開ける


伊桜「(瓶の牛乳の蓋を開けて)昼飯に間に合わなくなるかもしれない、急げ」

鳴海「は・・・?」

伊桜「午後の仕事がある。急ぐんだ」

鳴海「りょ、了解!!」


 伊桜は瓶の牛乳を一気に飲む

 瓶の牛乳の蓋を開ける鳴海

 鳴海は瓶の牛乳を一口飲む


鳴海「(瓶の牛乳を一口飲んで小声でボソッと)美味え・・・」


 伊桜は瓶の牛乳を飲み干す


伊桜「(瓶の牛乳を飲み干して)一旦事務所に戻るぞ」

鳴海「お、俺まだ牛乳が・・・」


 伊桜はチラッと腕時計を見る


伊桜「(チラッと腕時計を見て)早く飲むんだ、予定よりも仕事が遅れてる」

鳴海「す、すみません!!」


 鳴海は瓶の牛乳を一気に飲む


◯1867緋空事務所(昼)

 緋空事務所の中には男女合わせて数十人の社員がおり、それぞれ机に向かって椅子に座り、談笑しながら昼食を食べている

 緋空事務所で昼食を食べている人の中には社長の来栖、太田美羽、目黒哲夫がいる

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 来栖と目黒はコンビニの弁当、太田はコンビニのサンドイッチを食べている


来栖「(コンビニの弁当を食べながら)ただでさえ忙しいのに、クレーマーは更に私の時間を奪う気なのかね・・・」

太田「(コンビのサンドイッチを食べながら)クレーマーは暇なんじゃないですか」

来栖「(コンビニの弁当を食べながら)それがまた厄介なところだ・・・」

目黒「(コンビニの弁当を食べながら)変な奴に絡まれてる時は一条会に相談しちゃいましょうよ、そしたら相手もビビってうちに目をつけて来なくなると思うんで」

来栖「(コンビニの弁当を食べながら)いやぁ・・・私としては一条さんに頼りたくなくてね・・・特に今は代替わりで組織がぐらついてるってもっぱらの噂だし」

太田「(コンビのサンドイッチを食べながら)ついこの前高校を卒業したばかりの子ですしね、前にここに来た時も智秋さんよりも高圧的な態度で、何をしでかすか分からなかったですよ」

来栖「(コンビニの弁当を食べながら)口が裂けても本人の前では言えないけど、ああいう組織は時代錯誤だから。まさに奇跡の町に残された黒い文化だ」

太田「(コンビのサンドイッチを食べながら)ですね」


 太田はコンビニのサンドイッチを食べ終える


目黒「(コンビニの弁当を食べながら)むしろ若い連中が古いしきたりに縛られてるんすよ」

来栖「(コンビニの弁当を食べながら)確かに、そういう節もあるか」

目黒「(コンビニの弁当を食べながら)今日入って来た新入りも心配っすね、ちょっとは骨がありゃ良いんすけど」

来栖「(コンビニの弁当を食べながら)貴志くんか。何とか伊桜くんとハマってくれたら私たちも助かるだろうけどね」

目黒「(コンビニの弁当を食べながら)あの伊桜っすよ、ハマるなんてことあるんすか?社長」

来栖「(コンビニの弁当を食べながら)真面目そうな子だったら、私は敢えて伊桜くんと組ませてみたんだよ」

太田「社長、今まで伊桜くんと長く仕事をやれた人がいないってことを忘れてませんか?」


 少しの沈黙が流れる


太田「しかも初日から体力勝負の銭湯の掃除って・・・」


 時間経過


 昼過ぎになっている

 来栖、太田、目黒を含む数十人の緋空事務所の社員たちは、それぞれ机に向かってパソコンのキーボードを打ったり、書類に書き込みをしたりしている

 少しすると緋空事務所の扉が開き、鳴海と伊桜が事務所の中に入って来る

 伊桜は大きなリュックを背負っている


伊桜「お疲れ様です」

来栖・太田・目黒「お疲れー」

鳴海「お、お疲れ様です・・・」


 伊桜は自分の席に座る

 伊桜の机の上には幼い頃の娘の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 フラフラしながら自分の席に座る鳴海

 フラフラしながら自分の席に座った鳴海のことを見ている来栖、太田、目黒を含む数十人の緋空事務所の社員たち

 鳴海の席は伊桜の席の隣

 鳴海の机の上には菜摘の手作り弁当が入ったカバンが置いてある

 来栖は立ち上がる

 鳴海のところに行く来栖


来栖「(鳴海のところに行って)貴志くん、タイムカードのことなんだけど」

鳴海「はあ・・・」

来栖「今日の帰りからで良いから記録して欲しいんだ」

鳴海「タイムカードっすね・・・了解っす・・・」


 再び沈黙が流れる


伊桜「疲れてても人の話はしっかり聞け、じゃないとミスするぞ」

鳴海「は、はい!!」

来栖「良い返事だね、貴志くん」

鳴海「そ、そうっすか・・・?」

来栖「声の大きい若者は良いよ、こちらからしても、静かにするための育て甲斐ってもんがある」


◯1868回想/貴志家リビング(昼)

 外は快晴

 リビングにいる4歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘、10歳頃の風夏

 テーブルに向かって椅子に座っている4歳頃の鳴海、由夏理、紘、10歳頃の風夏

 4歳頃の鳴海は一枚の写真を持っている

 4歳頃の鳴海が持っている写真には、緋空浜の浜辺にいる20歳頃の紘が写っている

 4歳頃の鳴海が持っている写真は、◯1694で菜摘、鳴海、風夏が見ていた写真の中のベッドの上で横向けに眠っている4歳頃の鳴海が持っていた写真と、完全に同じ物

 緋空浜の浜辺にいる紘の写真を持ったまま俯いている4歳頃の鳴海


紘「父さんの話を聞くんだ、鳴海」


 少しの沈黙が流れる


紘「風夏を見ろ、お前の姉さんは人の話をちゃんと聞くんだぞ」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(俯いたまま)パパは嘘つきだ・・・帰って来るって言ったのに・・・」

風夏「パパが謝ってるんだから許してあげなよ、鳴海」

鳴海「(俯いたまま)やだ・・・」


 少しの沈黙が流れる


由夏理「鳴海は写真のパパの方が良いってさ」

紘「写真?そんな物はただの紙切れだろう」

由夏理「鳴海には写真の方が本物なんだよ」

紘「また適当なことを・・・」

由夏理「写真のパパは嘘をつかないからさ、そっちの方が良いんだよね?鳴海」


 4歳頃の鳴海は俯いたまま頷く


紘「よくも鳴海の前でそんなことが言えるな・・・君は何度家族に嘘をついたんだ」

風夏「ぱ、パパ・・・」


 由夏理は紘から顔を逸らす

 再び沈黙が流れる


紘「父さんの話を聞くんだ、鳴海。このままお前と喧嘩を続けたくはない。だから俺の話を・・・」


 4歳頃の鳴海は俯き緋空浜の浜辺にいる紘の写真を持ったまま黙って紘の話を聞き続ける


◯1869回想戻り/緋空事務所(昼過ぎ)

 緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜

 緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたりしている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 自分の席で手作りのおにぎりを食べている伊桜

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃(いざくらひめの)の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 来栖、太田、目黒は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている

 鳴海は自分の席でボーッとしている

 鳴海の席は伊桜の席の隣

 鳴海の机の上には菜摘の手作り弁当が入ったカバンが置いてある


伊桜「(手作りのおにぎりを食べながら)昼食を食わないと体がもたないぞ」

鳴海「えっ・・・?」

伊桜「(手作りのおにぎりを食べながら)昼食だ」

鳴海「ああ・・・飯っすね・・・い、急いで食べます」


 鳴海は机の上に置いてあったカバンから菜摘の手作り弁当を取り出す

 菜摘の手作り弁当は和柄のランチクロスに包まれている

 鳴海は和柄のランチクロスを丁寧に外す

 和柄のランチクロスを外すとお弁当箱と箸が出て来る

 お弁当箱の蓋を取る鳴海

 菜摘の手作り弁当の中身はふりかけのかかったご飯、唐揚げ、卵焼き、プチトマト、コロッケ、ひじきの煮物、ブロッコリー

 鳴海は菜摘の手作り弁当を見ている

 

鳴海「(菜摘の手作り弁当を見ながら 声 モノローグ)クソッ・・・せっかく菜摘が作ってくれた弁当を急いで食べなきゃならないのか・・・」


 伊桜は手作りのおにぎりを食べ終える


伊桜「(手作りのおにぎりを食べ終えて)急かしてすまんな」


 鳴海は菜摘の手作り弁当を見るのをやめる


鳴海「(菜摘の手作り弁当を見るのをやめて)い、いえ、俺の動きが遅いのが悪いんです」


 伊桜はチラッと鳴海のことを見る

 箸を手に取る

 鳴海は急いで菜摘の手作り弁当を食べ始める


鳴海「(急いで菜摘の手作り弁当を食べ始めて小さな声で)い、いただきます・・・」

伊桜「昼食の後は波空に行くぞ」

鳴海「(急いで菜摘の手作り弁当を食べながら)波空って何すか・・・?」

伊桜「緋空浜の道路沿いにあるスーパーだ」

鳴海「(急いで菜摘の手作り弁当を食べながら)了解です・・・ってスーパーで一体何を・・・」

伊桜「行ったら分かる」

鳴海「(急いで菜摘の手作り弁当を食べながら 声 モノローグ)またそれか・・・」


◯1870波空スーパーの倉庫(昼過ぎ)

 波空スーパーの大きな倉庫の中にいる鳴海、伊桜、波空スーパーの社長

 波空スーパーの倉庫はとても大きく、たくさんの段ボール箱が積まれている

 たくさんの段ボール箱の中に入っているのは調味料、お菓子、ジュース、生活用品などの陳列される前の商品たち

 波音スーパーの倉庫には台車が何台も置いてある

 波空スーパーの中にある扉の一つは波空スーパーの店内と繋がっている

 鳴海と伊桜は波空スーパーの店員と同じ服を着ている

 波空スーパーの社長は商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを持っている

 話をしている鳴海、伊桜、波空スーパーの社長


波空スーパーの社長「新人くん?へえ、そうなんだ」


 鳴海は頭を下げる


鳴海「(頭を下げて)よろしくお願いします!!」

波空スーパーの社長「ここは二人以外にもバイトの子が少しいるし、ミスをしない程度に気楽に頑張ってよ」


 鳴海は顔を上げる


鳴海「(顔を上げて)は、はい!!」

波空スーパーの社長「じゃあいつも通り頼むね、伊桜くん」

伊桜「分かりました」


 波空スーパーの社長は商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを伊桜に差し出す

 商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを波空スーパーの社長から受け取る伊桜

 波空スーパーの社長は鳴海と伊桜から離れて行く

 伊桜は商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見る

 少しの沈黙が流れる


伊桜「(商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見ながら)貴志」

鳴海「な、何ですか?」

伊桜「(商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見ながら)スーパーでのバイトの経験は?」

鳴海「な、ないですけど・・・」

伊桜「(商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見ながら)良かったな」


 伊桜は商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見るのをやめる


伊桜「(商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見るのをやめて)今日から経験出来るようになる」

鳴海「へっ・・・?」


 伊桜は商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを鳴海に差し出す


伊桜「(商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを鳴海に差し出して)初めに商品のチェックからだ」


 時間経過


 鳴海は商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを持っている

 段ボール箱の中の洗濯用洗剤の数を確認している鳴海と伊桜

 鳴海と伊桜が確認している段ボール箱の中には洗濯用洗剤が12本入っている

 

伊桜「(段ボール箱の中の洗濯用洗剤の数を確認して)洗濯用洗剤、12本×10箱」

鳴海「洗剤・・・12×10っすね・・・」


 鳴海は商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見る

 段ボール箱の中の洗濯用洗剤の数を確認するのをやめる伊桜

 

鳴海「(商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見たまま)120本、ありました」

伊桜「確認したら一つずつに印をつけていけ」

 

 鳴海は商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見るのをやめる


鳴海「(商品の補充記録用紙とボールペンが挟まれたグリップボードを見るのをやめて)はい」


 鳴海はグリップボードに挟まれたボールペンを手に取る

 ボールペンで商品の補充記録用紙の洗濯用洗剤の欄にチェックを入れる鳴海


鳴海「(ボールペンで商品の補充記録用紙の洗濯用洗剤の欄にチェックを入れて)印、入れましたよ」

伊桜「次の商品の確認をするぞ」

鳴海「あ、はい・・・」


 伊桜は歩き始める

 伊桜について行く鳴海


鳴海「さっきの洗剤、あそこに置いたままで良いんすか?」

伊桜「あれはこの後棚に並べる物だ、しまうとかえって時間を取られるだろ」

鳴海「そ、そうっすね」

伊桜「次は何だ、貴志」

鳴海「つ、次?」

伊桜「今やってることの先の情報を入れておけ」

鳴海「は、はい」


 再び沈黙が流れる


伊桜「次に確認する商品は?」

鳴海「あ・・・えっと・・・」


 鳴海は商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見る

 商品の補充記録用紙の洗濯用洗剤の下には”ポテトチップス コンソメ味 スギ花屋”と書かれている


鳴海「(商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見たまま)ぽ、ポテトチップスです」

伊桜「それだけじゃ何も分からん、メーカーは?味は何だ?」

鳴海「(商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見ながら)す、すみません!!ポテトチップスコンソメ味、メーカーはスギ花屋です」

伊桜「曖昧な情報は伝えるな、混乱を招くだろ」

鳴海「(商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見ながら)は、はい!!」

 

 少しすると伊桜は”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた段ボール箱がたくさん積まれている棚の前で立ち止まる

 商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見ながら、伊桜に合わせて”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱が積まれている棚の前で立ち止まる鳴海


伊桜「確認するぞ」


 鳴海は商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見るのをやめる


鳴海「(商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見るのをやめて)りょ、了解です!!」


 鳴海は持っていた商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードとボールペンを床に置く

 ”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろし始める鳴海と伊桜

 

鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろしながら)伊桜さん、この後は品出しとかやるんですよね?」

伊桜「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろしながら)ああ」

鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろしながら)だったら商品の確認は俺がやって、伊桜さんはスーパーの中での仕事をやった方が良くないっすか?」

伊桜「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろしながら)何でそんなことを提案する?」

鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろしながら)そ、そりゃあ・・・そうした方が効率が良いと思ったんすよ。別々に作業をやれば、遅れた分も取り戻せますし」

伊桜「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろしながら)仕事が遅れたのはお前のせいじゃない」

鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろしながら)な、何言ってるんすか。俺が緋空銭湯でもっと機敏に動いていたら・・・」

伊桜「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろしながら鳴海の話を遮って)部下の遅れは上司の遅れだ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた積まれているたくさんの段ボール箱を1箱ずつ下ろしながら)すみません・・・」


 再び沈黙が流れる

 少しすると鳴海と伊桜は”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を下ろし終える

 ”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開け始める鳴海と伊桜

 少しの間鳴海と伊桜は黙って”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を開け続ける


伊桜「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)何か言いたそうだな」

鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)えっ・・・べ、別に何も・・・」

伊桜「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)俺はこの仕事を始めてもうすぐ14年目になる」

鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)長いっすね」

伊桜「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)14年やって来たから、貴志みたいに仕事に対して不平不満がある奴はすぐに分かるぞ」

鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)ふ、不平不満はありませんよ、伊桜さんと違って俺はまだ初日ですし・・・」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)仕事に大きな疑問を持つな」

鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)ど、どういうことっすか?」

伊桜「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)一度に仕事に疑問を持つと、なかなか忘れられなくなる。だから疑問が大きくなる前に、自分の中でそれを片付けろ」

鳴海「(”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれたたくさんの段ボール箱を1箱ずつ開けながら)そんなことを言われても簡単には片付けられないっすよ・・・」


 鳴海と伊桜は”スギ花屋 ポテトチップス コンソメ味”と書かれた段ボール箱を開け終える

 床に置いていた商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードとボールペンを拾う鳴海

 伊桜はたくさんの段ボール箱の中のスギ花屋のポテトチップスコンソメ味の数を1箱ずつ確認し始める


伊桜「(たくさんの段ボール箱の中のスギ花屋のポテトチップスコンソメ味の数を1箱ずつ確認しながら)言いたいことがあるんだろ」

鳴海「そ、それはまあ・・・あるにはありますけど・・・」

伊桜「(たくさんの段ボール箱の中のスギ花屋のポテトチップスコンソメ味の数を1箱ずつ確認しながら)ならその言いたいことが大きなる前に、俺にぶつけるんだ」

鳴海「良いんすか?」

伊桜「(たくさんの段ボール箱の中のスギ花屋のポテトチップスコンソメ味の数を1箱ずつ確認しながら)良いわけないだろ」

鳴海「そ、そうっすよね・・・」


 再び沈黙が流れる


伊桜「(たくさんの段ボール箱の中のスギ花屋のポテトチップスコンソメ味の数を1箱ずつ確認しながら)今のお前なら言った方が良い。何もしないまま若い奴に辞められるのは、うちの会社にとっちゃ不都合でしかないんだ」

鳴海「伊桜さんだって若いじゃないですか」

伊桜「(たくさんの段ボール箱の中のスギ花屋のポテトチップスコンソメ味の数を1箱ずつ確認しながら)俺はもう人生の主役を人に譲ってる。しかも若くない、ただのおじさんだ」

鳴海「じ、人生の主役を・・・人に・・・(少し間を開けて)なんか格好良いっすね・・・」

伊桜「(たくさんの段ボール箱の中のスギ花屋のポテトチップスコンソメ味の数を1箱ずつ確認しながら)お前もそのうちそうなる」

鳴海「俺がっすか・・・?」

伊桜「(たくさんの段ボール箱の中のスギ花屋のポテトチップスコンソメ味の数を1箱ずつ確認しながら)ああ」


 伊桜はたくさんの段ボール箱の中のスギ花屋のポテトチップスコンソメ味の数を数え終える


伊桜「スギ花屋のポテトチップスコンソメ味、24袋×15箱」

鳴海「スギ花屋のポテトチップスコンソメ味・・・24×15は・・・」


 伊桜はポケットから小さな電卓を取り出す

 小さな電卓を鳴海に差し出す伊桜


伊桜「(小さな電卓を鳴海に差し出して)これを使え」


 鳴海は小さな電卓を伊桜から受け取る


鳴海「(小さな電卓を伊桜から受け取って)あ、ありがとうございます!」


 鳴海は伊桜の小さな電卓に24×15と打ち込む

 伊桜の小さな電卓には”24×15=360”と表示される

 鳴海は床に置いてある商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見る

 商品の補充記録用紙の洗濯用洗剤の下には”ポテトチップス コンソメ味 スギ花屋 360袋”と書かれている

 鳴海は床に置いてある商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見るのをやめる


鳴海「(商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードを見るのをやめて)ポテトチップスコンソメ味、360袋確認出来ました」

伊桜「印をつけろ」


 鳴海は床に置いてある商品の補充記録用紙が挟まれたグリップボードとボールペンを拾う

 ボールペンで商品の補充記録用紙のポテトチップスコンソメ味スギ花屋の欄にチェックを入れる鳴海


鳴海「(ボールペンで商品の補充記録用紙のポテトチップスコンソメ味スギ花屋の欄にチェックを入れて)印、入れました」

伊桜「電卓を返してくれ」

鳴海「あ、はい」


 鳴海は小さな電卓を伊桜に差し出す

 小さな電卓を鳴海から受け取る伊桜


伊桜「俺が貴志の次に新入りなんだ」

鳴海「えっ?」

伊桜「この13年間、俺の後に入って来た奴はみんな続かなかった」

鳴海「そ、それって・・・」

伊桜「やばいか」

鳴海「や、やばいっすよ・・・」

伊桜「だからみんな新入りのお前に期待をしないんだ」

鳴海「な、なるほど・・・せ、説得力がありますね・・・」

伊桜「でも同時にこうも思ってる、今度は続いたら良いなと」

鳴海「が、頑張ります!!」

伊桜「その言葉が聞きたかったんじゃない」

鳴海「じゃ、じゃあ何すか・・・?」

伊桜「お前は何を疑問に持ってる?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「緋空事務所の仕事って・・・何でも屋なのは分かりますけど・・・これって・・・バイト・・・ですよね・・・?」

伊桜「そうだ、俺たちの仕事はほとんどがバイトと変わらない」


 鳴海は頭を掻く


鳴海「(頭を掻いて)ならどうしてバイトにやらせないんですか・・・?」

伊桜「人が足りてないからだ。若者は地元の古い店で働こうとはせず、新しく出来たショッピングモールでバイトをするか、上京先で仕事を見つけてるだろ」


 鳴海は頭を掻くのをやめる


鳴海「(頭を掻くのをやめて)た、確かにそうですけど・・・」

伊桜「緋空銭湯を利用したことはあるか?」

鳴海「いえ・・・」

伊桜「あの銭湯は女将が一人で切り盛りしてるんだ」

鳴海「(驚いて)ひ、一人で?」

伊桜「(頷き)それでも店を畳まない理由は分かるだろ」

鳴海「り、利用者がいるからですよね」

伊桜「そうだ。利用者の中には風呂のない家に住んでる人や、緋空銭湯に思い出を持ってる人がいる。そういう人たちからあの銭湯を奪うことが出来るか?(少し間を開けて)俺は出来ない。緋空浜には・・・いや、波音町全体に、同じようなお店がたくさんあるんだ」

鳴海「そういうことですか・・・」


 再び沈黙が流れる


伊桜「確かに俺たちのやってる仕事はバイトと同じだ。下手したらバイトより何倍も体を使ってるかもしれない。それを割に合うと考えるかは貴志次第だ。でも俺はこの仕事に誇りを持ってる。この町の誰かが愛する場所を、愛した場所を守れるなんて素晴らしいことじゃないか」


 再び沈黙が流れる


鳴海「い、伊桜さん・・・今の説明・・・凄く感動しました・・・俺も・・・波音町を愛する人のためにこの仕事を続けます!!それでいつか伊桜さんみたいな大人になります!!」


 伊桜は歩き始める 


鳴海「伊桜さん・・・?」

伊桜「無駄話は終わりだ。仕事を続ける」


 鳴海は伊桜について行く


鳴海「(伊桜について行って)はい!!」


 時間経過


 鳴海と伊桜は荷台に”緋空浜の水”と書かれた段ボール箱を積んで押している


鳴海「(“緋空浜の水”と書かれた段ボール箱を積んで押してながら 声 モノローグ)仕事を始めてまだ一日目だが、この人について行きたいと思った」


◯1871波空スーパー(夕方)

 夕日が沈みかけている

 波空スーパーの中にいる鳴海と伊桜

 波空スーパーの中は広く、たくさんの食材、飲料水、生活用品などが棚に陳列されている

 波空スーパーの中には数人の主婦の客がいる

 鳴海と伊桜は波空スーパーの店員と同じ服を着ている

 レタスの品出しをしている鳴海と伊桜

 鳴海は伊桜がいる波空スーパーは、Chapter6◯203で滅びかけた世界のナツ、スズ、老人が訪れたスーパーと同じ店

 鳴海と伊桜の横にはレタスの入った段ボール箱と台車が置いてある

 

鳴海「(レタスの品出しをしながら 声 モノローグ)正直に言って体はクタクタになっている」


 伊桜は鳴海に台車を客の邪魔にならないように動かせと指示を出す

 伊桜に言われた通り台車を動かす鳴海

 鳴海が台車を動していると、野菜コーナーを見ながら主婦の客が押していたカートと鳴海がぶつかりそうになる

 レタスの品出しをするのをやめて主婦の客に真っ先に謝り頭を下げる伊桜

 鳴海は慌てて伊桜に続いて主婦の客に謝り頭を下げる


鳴海「(慌てて伊桜に続いて主婦の客に謝り頭を下げて 声 モノローグ)初日にしてこのダメージだ」


 主婦の客は鳴海と伊桜のことを許し、野菜コーナーからトマトを手に取る

 カートのカゴにトマトを入れる主婦の客

 伊桜は顔を上げる

 顔を上げる鳴海

 伊桜は主婦の客が鳴海と伊桜が離れて行ったのを見計らい鳴海のことを叱る


鳴海「(伊桜に叱られながら 声 モノローグ)体の痛みに加えて、覚えなくてはいけないことが山ほどあった」


◯1872波空スーパーの倉庫(夕方)

 夕日が沈みかけている

 波空スーパーの大きな倉庫の中にいる鳴海、伊桜、波空スーパーの社長

 波空スーパーの倉庫はとても大きく、たくさんの段ボール箱が積まれている

 たくさんの段ボール箱の中に入っているのは調味料、お菓子、ジュース、生活用品などの陳列される前の商品たち

 波音スーパーの倉庫には台車が何台も置いてある

 波空スーパーの中にある扉の一つは波空スーパーの店内と繋がっている

 話をしている鳴海、伊桜、波空スーパーの社長

 波空スーパーの社長はポケットから波空スーパーのクーポン券を取り出す

 波空スーパーのクーポン券を鳴海と伊桜に差し出す波空スーパーの社長


波空スーパーの社長「(波空スーパーのクーポン券を鳴海と伊桜に差し出して)これ使って」


 伊桜は波空スーパーのクーポン券を波空スーパーの社長から受け取る


伊桜「(波空スーパーのクーポン券を波空スーパーの社長から受け取って)ありがとうございます、社長」

波空スーパーの社長「(波空スーパーのクーポン券を鳴海に差し出したまま)貴志くんも」

鳴海「(波空スーパーのクーポン券を波空スーパーの社長に差し出されたまま)お、俺はまだ伊桜さんほど仕事をこなせてないですし、お客さんにも迷惑をかけてたので受け取れないです」

波空スーパーの社長「(クーポン券を鳴海と伊桜に差し出したまま)良いから取っておいて、言っちゃあれだけどこれは余り物だから」

鳴海「(波空スーパーのクーポン券を波空スーパーの社長に差し出されたまま)いや・・・でも・・・」

伊桜「人の好意には素直に甘えろ」

鳴海「は、はい・・・じゃあ・・・いただきます・・・」


 鳴海は波空スーパーのクーポン券を波空スーパーの社長から受け取る


波空スーパーの社長「またシフトに入れない子が多い時は頼むね、伊桜くん、貴志くん」

鳴海・伊桜「はい」

波空スーパーの社長「じゃ、お疲れ様」

鳴海・伊桜「お疲れ様です」


 波空スーパーの社長は鳴海と伊桜から離れて行く

 少しの沈黙が流れる

 伊桜は歩き始める

 伊桜について行く鳴海


鳴海「次はどこでどんな仕事ですか?」

伊桜「今日はこれで終わりだ」

鳴海「お、終わりって・・・」

伊桜「事務所に戻って、タイムカードを記録したら退勤してくれ」

鳴海「ま、マジっすか!?」

伊桜「ああ」


 鳴海は立ち止まってガッツポーズをする


鳴海「(立ち止まってガッツポーズをして)よし!!やっと帰れるぞ!!」

伊桜「タイムカードを記録するまでは仕事中だ」


 鳴海は慌ててガッツポーズをするのやめる


鳴海「(慌ててガッツポーズをするのやめて)す、すみません!!」


 鳴海は走って伊桜のことを追いかける


◯1873緋空事務所(夕方)

 夕日が沈みかけている

 緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜

 緋空事務所の中には来栖を含む数人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたりしている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 伊桜は机に向かって椅子に座り書類に書き込みをしている

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃(いざくらひめの)の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 来栖は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている

 鳴海は机に向かって椅子に座っている

 鳴海の机の上には菜摘の手作り弁当が入ったカバンが置いてある

 鳴海の席は伊桜の席の隣

 タイムカードの名前欄にボールペンで”貴志鳴海”と書く鳴海

 鳴海はボールペンをカバンの中にしまう

 カバンとタイムカードを持って立ち上がる鳴海

 

伊桜「(書類に書き込みをしながら)明日も待ってるぞ」

鳴海「はい!!」


 鳴海は緋空事務所の扉の方に向かう

 緋空事務所の扉の横の棚の上に置いてあったタイムレコードにタイムカードをセットする鳴海

 タイムレコードは鳴海のタイムカードに退勤時刻を記録する

 鳴海はタイムレコードからタイムカードを抜く

 緋空事務所の扉の横の棚の引き出しにタイムカードをしまう鳴海

 鳴海は頭を下げる


鳴海「(頭を下げて)お先に失礼します!」

伊桜・来栖を含む緋空事務所の社員全員「お疲れー!!」


 鳴海は顔を上げる

 緋空事務所の扉を開けて緋空事務所から出る鳴海


◯1874緋空浜/帰路(夕方)

 夕日が沈みかけている

 緋空浜の浜辺を歩いている鳴海

 浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている

 夕日の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている

 緋空浜には鳴海以外にも、釣りやウォーキングをしている人、浜辺で遊んでいる学生などたくさんの人がいる

 早足で浜辺を歩き、自宅を目指している鳴海 


鳴海「(早足で)早く家に帰らないと・・・菜摘の奴・・・もう待ってるらしいからな・・・(少し間を開けて)痛え・・・足まで筋肉痛だ・・・」


◯1875貴志家前(夕方)

 夕日が沈みかけている

 鳴海の家の玄関の前で体育座りをして一人鳴海のことを待っている菜摘

 菜摘は食材の入ったスーパーのビニール袋を抱えて俯いている


菜摘「(スーパーのビニール袋を抱え体育座りをして俯いたまま)鳴海くん・・・まだかな・・・」


 波音高校二年生のカップルが鳴海の家の前を通る

 波音高校二年生のカップルは手を繋いでいる

 鳴海の家の前を通って行く波音高校二年生のカップルが手を繋いだまま、チラッとスーパーのビニール袋を抱え体育座りをして俯いている菜摘のことを見て、コソコソと話をする


波音高校の二年生男子生徒1「(波音高校の二年生女子生徒と手を繋ぎながら、チラッとスーパーのビニール袋を抱え体育座りをして俯いている菜摘のことを見て小声で)あの人、去年の卒業生だよ」

波音高校の二年生女子生徒1「(波音高校の二年生男子生徒と手を繋ぎながら小声で)へぇー・・・」

波音高校の二年生男子生徒1「(波音高校の二年生女子生徒と手を繋ぎながら小声で)ほら、三枝とか南を巻き込んで色々やってた部活」

波音高校の二年生女子生徒1「(波音高校の二年生男子生徒と手を繋ぎながら小声で)あ、文芸部だっけ・・・?」

波音高校の二年生男子生徒1「(波音高校の二年生女子生徒と手を繋ぎながら小声で)そうそれ」


 菜摘はスーパーのビニール袋を抱え体育座りをして俯いたまま、手を繋いでいる波音高校の二年生男子生徒1と波音高校の二年生女子生徒1が話をしていることに気付く

 スーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま顔を上げる菜摘

 菜摘はスーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま、手を繋いでいる波音高校の二年生男子生徒1と波音高校の二年生女子生徒1のことを見る

 スーパーのビニール袋を抱え体育座りをして手を繋いでいる波音高校の二年生男子生徒1と波音高校の二年生女子生徒1のことを見たまま、少し悩んで2人に軽く手を振ってみる菜摘


波音高校の二年生男子生徒1「(波音高校の二年生女子生徒と手を繋ぎながら小声で)やべ、目が合った・・・」

波音高校の二年生女子生徒1「(波音高校の二年生男子生徒と手を繋ぎながら小声で)は、早く行こう・・・私あの人苦手・・・」


 波音高校の二年生男子生徒1と二年生女子生徒1は手を繋ぎながら逃げるように鳴海の家、そして菜摘から遠ざかって行く

 菜摘はスーパーのビニール袋を抱え体育座りをして手を繋いでいる波音高校の二年生男子生徒1と波音高校の二年生女子生徒1のことを見たまま、逃げるように去って行く2人に手を振るのをやめる

 スーパーのビニール袋を抱えて体育座りをしたまま再び俯く菜摘


菜摘「(スーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま俯いて)今日はまた店長さんに怒られちゃったし・・・どうして上手くいかないんだろ・・・」


 菜摘はスーパーのビニール袋を抱え体育座りをして俯いたまま、涙目になっている

 スーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま俯いている菜摘の元に、一匹のカラスアゲハがどこからか飛んで来る

 カラスアゲハはスーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま俯いている菜摘の右腕に止まる 

 スーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま俯いている菜摘の右腕に止まったカラスアゲハは、左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う

 菜摘はスーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま顔を上げる

 スーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま右腕に止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハのことを見る菜摘

 菜摘の目は変わらず涙目になっている


菜摘「(スーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま、右腕に止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハのことを見て)あなたも誰かを待ってるの・・・?そっか・・・ありがとう・・・」


 左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは変わらず菜摘の右腕に止まっている


菜摘「(スーパーのビニール袋を抱え体育座りをして、右腕に止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハのことを見たまま)私・・・本当は寂しいって分かってるんだ・・・今はまだ大丈夫だけど・・・これからのことを考えると・・・凄く寂くなって・・・」


 菜摘は涙を流す


菜摘「(スーパーのビニール袋を抱え体育座りをして、右腕に止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハのことを見たまま涙を流して)私・・・どうすれば良いのかな・・・」


 左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは、スーパーのビニール袋を抱え体育座りをして涙を流している菜摘の右腕から飛び去る

 

菜摘「(スーパーのビニール袋を抱え体育座りをして涙を流したまま、飛び去って行った左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハのことを見て)あっ・・・」


 左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハの姿はあっという間に見えなくなる

 菜摘はスーパーのビニール袋を抱え体育座りをして涙を流したまま、左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが飛び去って行った方を見る

 左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが飛び去って行った遠くの方には鳴海がいる

 菜摘はスーパーのビニール袋を抱え体育座りをしたまま手で涙を拭う

 走って菜摘のところに向かっている鳴海

 菜摘は走って向かって来ている鳴海のことを見たまま、鳴海に大きく手を振る

 走って菜摘の元に向かいながら菜摘に手を振り返す鳴海

 鳴海は菜摘に手を振り返しながら走って菜摘の元に向かい続ける

 走って向かって来ている鳴海のことを見たまま少し笑って、鳴海に手を振るのをやめる菜摘

 菜摘は走って向かって来ている鳴海のことを見るのをやめる

 空を見上げる菜摘

 菜摘の空高くには、左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが飛んでいる

 菜摘は空高くに飛んでいる左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハのことを見ている


菜摘「(空高くに飛んでいる左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハのことを見たまま小さな声で)ありがとう・・・」


 鳴海が走って菜摘のところにやって来る

 息切れをしている鳴海

 菜摘は空高くに飛んでいる左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハのことを見るのをやめる


鳴海「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・悪い・・・遅くなっちまった・・・」

菜摘「(首を横に振って)ううん!!大丈夫!!鳴海くんがもうすぐ来るって、教えてもらったから」

鳴海「(息切れをしながら)ハァ・・・お、俺がもうすぐ・・・?ハァ・・・ハァ・・・だ、誰かいたのか・・・?」

菜摘「いたよ、私たちの上に・・・・あれ・・・?」


 菜摘は空を見上げて左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが飛んでいた方を見るが、カラスアゲハはいつの間にかいなくなっている

 呼吸を整えながら菜摘が見ている方を見る鳴海


鳴海「(呼吸を整えながら菜摘が見ている方を見て)だ、誰もいないぞ・・・」


 菜摘は左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが飛んでいた方を見るのをやめる


菜摘「(左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが飛んでいた方を見るのをやめて)で、でもいたんだよ、私教えてもらったもん」

鳴海「(菜摘が見ていた方を見ながら)だ、誰に教えてもらったんだ?ま、まさか宇宙人か?」

菜摘「そ、それは・・・な、内緒にしておくね!!」


 鳴海は菜摘が見ていた方を見るのをやめる


鳴海「な、なんか最近の菜摘は・・・内緒とか秘密が多いな・・・」

菜摘「そ、そんなことないよ!!」

鳴海「なら良いが・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「い、家に入るか」

菜摘「う、うん」


 鳴海はポケットから家の鍵を取り出す


◯1876貴志家リビング(夜)

 リビングにいる鳴海と菜摘

 リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある

 鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている

 テーブルの上にはご飯、鯖の塩焼き、味噌汁、ほうれん草のおひたしが置いてある

 夕飯を食べながら話をしている鳴海

 菜摘は黙っている


鳴海「伊桜さんって言うんだけどさ、その人がやり甲斐のある仕事だって教えてくれたんだ。勤務一日目にしてそれが分かったんだから、十分過ぎる成果だろ?まあ、これから先大変なこともあるかもしれないが・・・というか今だって全身がボロボロだったな・・・」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は鯖の塩焼きを一口食べる


鳴海「(鯖の塩焼きを一口食べて)弁当、全部美味かったぞ、特に唐揚げが最高だった」

菜摘「ん・・・?」

鳴海「弁当だよ、今朝渡してくれただろ」

菜摘「あ、うん。美味しかった・・・?」

鳴海「ああ」

菜摘「そっか、良かった」


 再び沈黙が流れる

 菜摘はほうれん草のおひたしを一口食べる


鳴海「菜摘」

菜摘「な、何?」

鳴海「菜摘は今日何してたんだ?」

菜摘「えっと・・・読書したり・・・部屋の片付けをしたり・・・」

鳴海「そうか・・・」

菜摘「な、鳴海くんはお仕事どうだった?疲れてない?」

鳴海「今筋肉痛でぶっ倒れそうだよ」

菜摘「(驚いて)えっ!?だ、大丈夫!?」

鳴海「筋肉痛なのは事実だが、ぶっ倒れそうなほどじゃないから心配するな」

菜摘「な、そっか・・・鳴海くんのいつもの冗談だったんだね・・・」

鳴海「おう」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「きょ、今日はあれだな・・・」

菜摘「あ、あれって・・・?」

鳴海「い、いつもより無口じゃないか」

菜摘「ご、ごめん」

鳴海「い、いや俺の方こそ、一人で喋ってて悪い・・・」

菜摘「ううん!鳴海くんの話をもっと聞かせてよ!」

鳴海「い、良いけど面白い話じゃないと思うぞ。銭湯で掃除して、スーパーで仕入れをして・・・とにかくざっとそれだけだったからな・・・」

菜摘「凄いね、鳴海くんは波音町を助けてるいんだ」

鳴海「す、凄くはないだろ。こ、この町に住んでいる限り、波音町のためになることをするのは当たり前なんだしさ」

菜摘「そうだね」


 再び沈黙が流れる

 菜摘は味噌汁を一口飲む


菜摘「(味噌汁を一口飲んで小声で)しょっぱい・・・また・・・失敗しちゃった・・・」


◯1877早乙女家に向かう道中(夜)

 菜摘を家に送っている鳴海

 鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている

 黙って歩いている鳴海と菜摘

 少しの沈黙が流れる


鳴海「な、なあ」

菜摘「何・・・?」

鳴海「そ、その・・・鍵・・・欲しくないか・・・?」

菜摘「鍵って・・・何の?」

鳴海「あ、合鍵だよ。一つ余ってるのがあってさ、今日みたいに家の前で待っててもらうのは悪いし、鍵があった方が便利だろ」

菜摘「えっ・・・でも・・・良いのかな・・・」

鳴海「い、良いじゃないか」


 鳴海は立ち止まる

 鳴海に合わせて立ち止まる菜摘

 菜摘はポケットから家の合鍵を取り出す鳴海

 鳴海は家の合鍵を菜摘に差し出す


鳴海「(家の合鍵を菜摘に差し出して)受け取ってくれよ、菜摘」


 菜摘は鳴海の家の合鍵を鳴海から受け取る


菜摘「(鳴海の家の合鍵を鳴海から受け取って)う、うん・・・ありがとう」

鳴海「おう」


 鳴海は歩き始める 

 鳴海について行く菜摘

 再び沈黙が流れる

 少しすると鳴海と菜摘は菜摘の家に辿り着く

 家の前で立ち止まる菜摘

 鳴海は菜摘に合わせて菜摘の家の前で立ち止まる


鳴海「(菜摘の家の前で立ち止まって)弁当、本当に助かったよ、今日俺が倒れずにいられたのも菜摘のおかげだ」

菜摘「ううん」


 鳴海は和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を菜摘に差し出す

 和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を鳴海から受け取る菜摘


菜摘「(和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を鳴海から受け取って)な、鳴海くん・・・」

鳴海「どうした?」

菜摘「あ、明日も一緒に・・・」

鳴海「飯、食べるか?」

菜摘「う、うん。鳴海くんさえ良ければ、一緒に食べたい」

鳴海「よし、分かった。じゃあ明日は気にせず家に上がっててくれ」

菜摘「い、良いの?」

鳴海「当たり前だ、そのための合鍵なんだぞ」

菜摘「ありがとう、鍵、大切にするね」

鳴海「ああ、無くさないようにな」

菜摘「大丈夫、鳴海くんから貰った大事な物だもん、ちゃんと持っておくよ」


◯1878早乙女家菜摘の自室(深夜)

 綺麗な菜摘の部屋

 菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある 

 ベッドの上で横になっている菜摘

 菜摘は鳴海から貰った合鍵を握り締めている

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる

 

菜摘「(鳴海から貰った合鍵を握り締めたまま)鳴海くんの記憶の扉を・・・開けてしまう・・・夢が・・・鳴海くんの時を逆行させる・・・どうせいなくなってしまうなら・・・私も一緒に遡りたかったな・・・」


 菜摘は両目を瞑る

 両目を瞑ったまま菜摘が握り締めしている鳴海の家の合鍵が金色に光り輝き始める


菜摘「(両目を瞑り鳴海から貰った金色に光り輝く合鍵を握り締めたまま)ああ・・・夢の匂いがする・・・」


◯1879貴志家鳴海の自室(日替わり/朝)

 鳴海の部屋にいる鳴海と菜摘

 片付いている鳴海の部屋

 鳴海の部屋はカーテンが閉められている

 鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない

 机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある

 机の上のてるてる坊主には顔が描かれている

 ベッドの上で眠っている鳴海

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 鳴海の部屋のカーテンを開ける菜摘

 外は快晴


菜摘「鳴海くん、朝だよ鳴海くん」


 鳴海は寝返りを打つ

 眠っている鳴海の体を揺さぶる菜摘


菜摘「(眠っている鳴海の体を揺さぶって)鳴海くんってば、起きないと遅刻しちゃうよ」

鳴海「ん・・・」


 鳴海は菜摘に体を揺さぶられながら目を覚ます

 鳴海の体を揺さぶるのをやめる菜摘


菜摘「(鳴海の体を揺さぶるのをやめて)おはよう鳴海くん」


 鳴海は体を起こす


鳴海「(体を起こして)ああ・・・おはよう菜摘・・・」


 鳴海は両手で両目を擦る


鳴海「(両手で両目を擦って)今日は早いな・・・」

菜摘「うん!!」

鳴海「(両手で両目を擦りながら)菜摘が俺のことを起こしてくれるなんて・・・珍しいじゃないか・・・神谷の授業で眠っていた時ぶりに菜摘に起こされ・・・」


 鳴海は両手で両目を擦りながら話途中で口を閉じる

 両手で両目を擦るのをやめる鳴海

 鳴海は菜摘のことを見る


鳴海「(菜摘のことを見て)菜摘・・・?」

菜摘「ど、どうしたの・・・?」

鳴海「(菜摘のことを見たまま)ほ、本物の菜摘か?」

菜摘「ほ、本物だよ」


 鳴海は菜摘のことを見たまま菜摘の手を触る


鳴海「(菜摘のことを見たまま菜摘の手を触って)ゆ、夢じゃないよな・・・」

菜摘「(鳴海に手を触られながら)な、鳴海くん・・・キツネさんに化かされたと思ってない・・・?」

鳴海「(菜摘のことを見て菜摘の手を触りながら)あ、ああ・・・」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は菜摘のことを見たまま菜摘の手を離す

 菜摘のことを見るのをやめる鳴海


菜摘「あ、朝ご飯、出来てるよ」

鳴海「そうか・・・朝ご飯か・・・(少し間を開けて)なあ菜摘・・・お前、尻尾とか生えてないよな・・・?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「な、何で答えてくれないんだ?」

菜摘「に、人間に尻尾は生えてないもん!!」

鳴海「いや・・・それはそうなんだが・・・どうして本物の菜摘がこんな時間に俺の部屋にいるんだ・・・?も、もしかしてこれはあれか・・・?よ、夜這い・・・じゃなくて朝這い・・・か・・・?」

菜摘「そ、そんなんじゃないよ!!昨日鳴海くんが気にせず家に上がっててくれって言ったから・・・」

鳴海「(菜摘の話を遮って)ま、待て!!それは夕方とか夜のことだぞ!!」

菜摘「えっ・・・そ、そうだったの・・・?」

鳴海「い、いや・・・(少し間を開けて)別に朝来てくれても構わないというか・・・むしろありがたいくらいだけどさ・・・」

菜摘「ほ、本当!?じゃあ私今日は失敗してない?」

鳴海「き、昨日も失敗してないだろ・・・」

菜摘「あ・・・うん・・・」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海はベッドから出る


鳴海「(ベッドから出て)まだ夢の中かと思ったが、現実なんだな」

菜摘「そ、そうだよ。私はずっと現実の時間で生きてるもん」


◯1880貴志家リビング(朝)

 リビングにいる鳴海と菜摘

 リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある

 鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている

 テーブルの上にはご飯、焼き鮭、味噌汁、納豆が置いてある

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 朝食を食べながら話をしている鳴海と菜摘


鳴海「朝から悪いな・・・」

菜摘「ううん、好きでやってるから良いんだよ」

鳴海「す、好きで、か・・・」

菜摘「うん」


 鳴海はご飯と焼き鮭を一口ずつ食べる


鳴海「(ご飯と焼き鮭を一口ずつ食べて)よ、夜も勝手に入って良いからな、それか俺が帰って来るまで家にいても良いが・・・」

菜摘「私も鳴海くんと一緒に出るよ」

鳴海「そ、そうか、す、すみれさんたちも心配するしな・・・」

菜摘「お母さんとお父さんにはちゃんと伝えてあるから大丈夫」

鳴海「な、なんて伝えたんだ?」

菜摘「鳴海くんのお家で朝ご飯とお弁当の準備をして来るって」

鳴海「ま、マジか・・・む、娘からそんな言葉を聞いたら潤さんは荒ぶるだろうな・・・」

菜摘「お父さんは、俺も食いてえ!!俺も菜摘の手作り弁当が食いてえんだ!!って大騒ぎしてたけど、お母さんに止められちゃった」

鳴海「すみれさん・・・さすがっす・・・」

 

 菜摘は味噌汁を一口飲む


菜摘「(味噌汁を一口飲んで)あ・・・」

鳴海「ど、どうかしたのか?」

菜摘「う、ううん!!何でもないよ!!」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「い、急ごう鳴海くん!!遅刻しちゃうよ!!」

鳴海「あ、ああ」


 鳴海はご飯の上に納豆を乗せる

 ご飯と納豆をかき混ぜる菜摘


菜摘「(小声で)今日は成功だ・・・良かった・・・」


◯1881緋空事務所に向かう道中/早乙女家に向かう道中(朝)

 快晴

 緋空浜にある緋空事務所に向かっている鳴海

 菜摘は家に帰っている

 鳴海と菜摘は途中まで一緒に行っている

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 登校中の波音高校のたくさんの生徒たちとすれ違っている鳴海と菜摘

 鳴海と菜摘は楽しそうに話をしている


鳴海「(菜摘と楽しそうに話をしながら 声 モノローグ)良かった・・・今日の菜摘は元気そうだ・・・」


 時間経過


 鳴海と菜摘は分かれ道の前で立ち止まっている

 鳴海と菜摘は手を振り、鳴海は右の道、菜摘は左の道に進む

 変わらず緋空浜にある緋空事務所に向かう鳴海


鳴海「(声 モノローグ)こうして俺の仕事と、新しい生活が始まった」


◯1882緋空事務所(朝)

 緋空事務所の中には男女合わせて数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたり、談笑をしたりしている

 緋空事務所の中には伊桜、来栖、太田、目黒がいる

 伊桜は自分の席でコーヒーを飲んでいる

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃(いざくらひめの)の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 来栖は自分の席で書類を読んでいる

 太田と目黒は自分の席で周囲の社員と談笑をしている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 緋空事務所の中に入って来る鳴海

 

鳴海「(緋空事務所の中に入って)おはようございます!!」

太田「おはよう」

目黒「おはよう!!」


 鳴海は緋空事務所の扉を閉める

 自分の席に行く鳴海

 鳴海の席は伊桜の席の隣

 鳴海は自分の席にカバンを置く

 

伊桜「出勤したらまずは挨拶、それからタイムカードを記録しろ」

鳴海「す、すみません!!」


 鳴海は慌てて緋空事務所の扉の横の棚の引き出しから自分のタイムカードを取り出す

 タイムカードをタイムレコードにセットする鳴海


太田「厳しいよねえ、伊桜くんって」

伊桜「いけませんか」

太田「私は良いけど、貴志くんじゃないし」

目黒「でもよー伊桜、お前の厳しいって必要以上なところがあると思うぞ」

伊桜「苦手なんですよ、ベタベタするのは」

目黒「そうだろうけどな・・・」


 鳴海はタイムレコードからタイムカードを抜く

 緋空事務所の扉の横の棚の引き出しにタイムカードをしまう鳴海


来栖「(書類を読みながら)貴志くん、今日も伊桜くんとやってもらうよ」

鳴海「はい!!お願いします!!」

伊桜「聞きましたか、社長、太田さん、目黒さん、彼はこれでも返事だけは出来る男です」

鳴海「へ、返事だけはですか・・・」

伊桜「お前はまだ新入りだ、出来ることは何もないと思って良い」

鳴海「そ、そうっすね・・・こ、これから色々出来るように頑張ります!!」

伊桜「今日も午前中は緋空銭湯だぞ」

鳴海「は、はい」

伊桜「急に力が抜けたな」

鳴海「あ、あれは大変ですから・・・」

目黒「頑張れよ新人!!」


 目黒は鳴海の背中を思いっきり叩く


鳴海「(目黒に背中を思いっきり叩かれて)は、はい!!」


◯1883緋空銭湯男湯(朝)

 緋空銭湯の男湯の中にいる鳴海と伊桜

 男湯の中には鏡、シャワー、蛇口がたくさん設置されている

 男湯の隅の方には桶と椅子がたくさん置いてある

 男湯の壁には富士山が描かれている

 男湯の向こうには女湯がある

 男湯と女湯の間には仕切りがある

 男湯は男子脱衣所と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男子脱衣所に出れるようになっている

 鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている

 鳴海は椅子に座りながら男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除している

 鳴海の近くにはお風呂掃除用の洗剤が置いてある

 伊桜は男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除している鳴海のことを見ている


伊桜「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除している鳴海のことを見ながら)昨日も言っただろ、そのやり方じゃいつまで経っても綺麗にならないぞ」

鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)す、すみません!!」

伊桜「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除している鳴海のことを見ながら)手首を捻り過ぎなんだ」


 鳴海はスポンジの持ち方を変える

 再び鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除する鳴海


伊桜「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除している鳴海のことを見ながら)一度体に染み付いた癖は取れない、だからお前はここで正しいやり方を学べ、分かったか?」

鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら)はい!!」


 鳴海は男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除を続ける


鳴海「(男湯にある鏡と鏡の周辺の汚れを洗剤をつけたスポンジで掃除しながら 声 モノローグ)伊桜さんの教えは予想通り厳しかった。この人は仕事に誇りを持っている。俺みたいな生意気な奴に、たかが風呂掃除だと思われたくないんだ」


 時間経過


 鳴海と伊桜は男湯の床をデッキブラシで掃除している

 

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)怪我はするなよ、貴志」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)はい!!」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)お前、本当に返事だけは良いな」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)返事だけじゃないっすよ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)俺もすぐに、伊桜さんみたいなプロになりますから」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)そういうことは仕事の工程を覚えてから言ってくれないか」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)す、すみません」


◯1884緋空銭湯女子脱衣所(朝)

 緋空銭湯の女子脱衣所にいる鳴海と伊桜

 女子脱衣所には中心に番台があり、番台の向こうには男子脱衣所がある

 女子脱衣所と男子脱衣所の間には仕切りがある

 番台には女将のおばちゃんが座っている

 女子脱衣所にはたくさんのロッカーがあり、着替えをしまえるようになっている

 女子脱衣所には古いマッサージチェア、体重計、扇風機、数脚のソファ、透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫が置いてある

 透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫には缶ジュース、瓶ジュース、缶ビール、瓶ビール、瓶の牛乳などが冷やされている

 女子脱衣所は女湯と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま女湯に入れるようになっている

 鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている

 女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしている鳴海と伊桜

 番台に座っている女将のおばちゃんは新聞を読んでいる

 鳴海は汗だくになっている


鳴海「(汗だくになって女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)これって・・・慣れたら疲れなくなりますかね・・・?」

伊桜「(女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)慣れても疲れるに決まってるだろ」

鳴海「(汗だくになって女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)ま、マジっすか・・・そいつは大変だ・・・」

伊桜「(女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)俺たちはロボットじゃないんだぞ」

鳴海「(汗だくになって女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)で、ですよね・・・」

伊桜「(女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)ただ体力の減りは遅くなる」

鳴海「(汗だくになって女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)そ、そうなんすか?」

伊桜「(女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)ああ、俺も始めた頃はお前のように無駄口を叩いて疲れてたからな」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(汗だくになって女子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら 声 モノローグ)辛辣な人だ」


 時間経過


 鳴海と伊桜は女子脱衣所の床を雑巾掛けしている

 番台に座っている女将のおばちゃんは変わらず新聞を読んでいる

 鳴海は汗だくになって息切れをしながら女子脱衣所の床を雑巾掛けしている

 

鳴海「(汗だくになって息切れをしながら女子脱衣所の床を雑巾掛けして 声 モノローグ)慣れるしかない・・・慣れるしか・・・」


 伊桜は鳴海と違って息を切らさずに女子脱衣所の床を雑巾掛けしている

 鳴海は汗だくになって息切れをしながら女子脱衣所の床を雑巾掛けするのをやめる

 汗だくになって息切れをしながら女子脱衣所の床を雑巾掛けしている伊桜のことを見る鳴海


鳴海「(汗だくになって息切れをしながら女子脱衣所の床を雑巾掛けしている伊桜のことを見て 声 モノローグ)どうなってるんだ・・・何で伊桜さんはあんなに体力があるんだよ・・・クソッ・・・やっぱりロボットだろ・・・」

伊桜「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)ボサッとするんじゃない貴志」

鳴海「(汗だくになり息切れをして女子脱衣所の床を雑巾掛けしている伊桜のことを見たまま)は、はい!!ハァ・・・ハァ・・・」

 

 鳴海は汗だくになって息切れをしながら女子脱衣所の床を雑巾掛けしている伊桜のことを見るのをやめる

 息切れをしながら額の汗を拭う鳴海

 鳴海は呼吸を整える

 呼吸を整えて女子脱衣所の床を雑巾掛けし始める鳴海


鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)い、伊桜さんって、バケモンみたいな体力っすね」

伊桜「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)貴志が体力不足なんだ」

鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)お、俺、こう見えても学生時代は部活で色々苦労してたんで、体力はある方だと思うんですけど・・・」

伊桜「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)お前は世の中の社会人たちが、学生の頃に得た知識や経験で活躍してると思ってるのか」

鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)い、いや・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)伊桜さんは部活ってやっててました?」

伊桜「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)帰宅部だ」

鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)へぇー・・・てっきりゴリゴリの運動部出身かと・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)どうやったら俺と伊桜さんの体力の差を埋められますかね?」

女将のおばちゃん「(新聞を読みながら)そりゃあんた、まずは大人にならないと」

鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)女将、俺、大人っすよ。まだ立派じゃないかもしれないですけど」

伊桜「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)良いな、そういうの」

鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)えっ?」

伊桜「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)貴志のガキっぽいところ、良いじゃないか。まだ尖ってて」

鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)褒めてないっすよね、それ」

伊桜「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら)褒めてるんだ、いつまでもガキでいられる奴は多くない」

女将のおばちゃん「(新聞を読みながら)まあそれもそうよねぇ、若いと無闇にジタバタしてて、その癖とんがってるんだけど、そういう感覚って大人になると消えちゃうから」

鳴海「(女子脱衣所の床を雑巾掛けしながら小声でボソッと)俺は大人だって言ってるじゃないか・・・」


 時間経過


 昼過ぎになっている

 緋空銭湯の掃除を終えて瓶の牛乳を飲んでいる鳴海と伊桜


鳴海「午後も昨日と同じ予定ですか?」

伊桜「いや、今日は緋空海鮮市場の配達だ」

鳴海「配達?」

伊桜「ああ。だから急げ」

鳴海「は、はい!!」


 鳴海は瓶の牛乳を一気に飲む

 牛乳を一気に飲んでいる最中にむせる鳴海


鳴海「(牛乳でむせて)ゲホッ・・・ゲホッ・・・」

伊桜「急いで飲むからだぞ」

鳴海「い、伊桜さんが急げって言ったんじゃないですか!!」

伊桜「大人はな、むせたくらいで人のせいにはしないんだ」

鳴海「は、はい・・・」


 女将のおばちゃんは鳴海のことを見ながら笑っている


鳴海「わ、笑わないでくださいよ女将!!

女将のおばちゃん「(笑いながら)ちょっと焦り過ぎよねぇ貴志ちゃんは」

伊桜「そうなんです、こいつは焦ってるんですよ、女将」

鳴海「つ、次の仕事に遅れないようにしてるんです!!」

伊桜「それは貴志の上司の俺が気にすることだ」


 再び沈黙が流れる

 伊桜は瓶の牛乳を一気に飲む

 落ち着いて一口ずつ瓶の牛乳を飲む鳴海


鳴海「(落ち着いて一口ずつ瓶の牛乳を飲んで 声 モノローグ)伊桜さんと女将には、俺の考えが全て見透かされてるようだ。この人たちは心に余裕がある」


◯1885緋空事務所(昼過ぎ)

 緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜

 緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたりしている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 来栖、太田、目黒は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている

 自分の席で昼食を食べている鳴海と伊桜

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃(いざくらひめの)の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 鳴海の席は伊桜の席の隣

 鳴海は菜摘の手作り弁当、伊桜は手作りのおにぎりを食べている

 菜摘の手作り弁当のメニューはオムライス、ミニハンバーグ、プチトマト、ポテトサラダ

 鳴海は菜摘の手作り弁当を見ている


鳴海「(菜摘の手作り弁当を見て 声 モノローグ)ハンバーグか・・・菜摘の好物のひき肉だな・・・」


 目黒はパソコンに向かってタイピングをするのをやめる

 立ち上がる目黒

 目黒は立ち上がって菜摘の手作り弁当を覗き見る


目黒「(菜摘の手作り弁当を覗き見て)おっ、すっげえ美味そうじゃん新人!!てか手作りって彼女に作ってもらったのか!?」


 菜摘の手作り弁当を見ている鳴海の顔が赤くなる

 鳴海は顔を赤くしたまま菜摘の手作り弁当を見るのをやめる


太田「(パソコンに向かってタイピングをしながら)やめなよ目黒くん。あ、そういうデリカシーのなさが婚活の失敗理由なんじゃない?」

目黒「(菜摘の手作り弁当を覗き見たまま)やかましいわ!!つか太田ちゃんも新人の弁当を見てみろって、めっちゃ美味そうだから」

太田「(パソコンに向かってタイピングをしながら)ふーん・・・」


 太田はパソコンに向かってタイピングをするのをやめる

 立ち上がる太田

 太田は菜摘の手作り弁当を覗き見る


太田「(菜摘の手作り弁当を覗き見て)あー確かに美味しそー!!」

鳴海「(顔を赤くしたまま)ど、どうも・・・」

太田「(菜摘の手作り弁当を覗き見ながら)貴志くん、ハンバーグちょうだい」

鳴海「はい?」

太田「(菜摘の手作り弁当を覗き見ながら)だからハンバーグ、今日お昼少なかったから。お願い、良いでしょ」

鳴海「いやいやあげられませんって!!」


 少しの沈黙が流れる


太田「目黒くん、やっぱ彼女の手作りだわこれ」

目黒「羨ましい奴だぜ・・・」

鳴海「は、はあ・・・」

伊桜「引っかかったな、貴志」

鳴海「ひ、引っかかったって何がっすか・・・?」

伊桜「この人たちは、いつもこうして新入りの弁当を見ては恋人がいるか確認するんだ」

鳴海「い、意味不明な文化があるんすね・・・」

目黒「おかずをくれって言って、そいつの反応を見たら恋人が作った弁当か分かるんだよ。面白いだろ?」

鳴海「お、面白くはないですけど・・・」

太田「だから私がハンバーグをちょうだいって言ったのは、貴志くんに彼女がいるか確認するためで、本当に欲しかったわけじゃないの。だから許してね」

鳴海「は、はい。というか皆さん・・・仲が良いんすね・・・」

目黒「付き合いの長い連中の集まりだからな、家族ぐるみの付き合いもあんだぜ」

太田「目黒くんは独身でしょ」

目黒「そうだよ独身だよ何か悪いか!!」

太田「あ、そういう言い方をしてるから婚活で・・・」

目黒「(太田の話を遮って)こ、婚活の話を引き出すのはやめてくださいお願いします・・・」

太田「だって目黒くんが・・・」


 太田と目黒は話を続ける

 緋空事務所の社員たちは笑って太田と目黒の話を聞いている

 手作りのおにぎりを食べながら笑っている伊桜

 鳴海は笑っている緋空事務所の社員たちのことを見ている


◯1886回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)

 外は快晴

 昼休み

 鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩は波音高校の文芸部室にいる

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 鳴海たちは楽しそうに話をしながら昼食を食べている

 鳴海、嶺二、雪音、詩穂はコンビニのパンを、菜摘、汐莉、響紀は手作りの弁当を、明日香はコンビニのおにぎりを、真彩はコンビニの弁当を食べている


鳴海「(声 モノローグ)そうだ・・・俺も少し前では同じような空間に身を置いていたんだった・・・」


◯1887回想戻り/緋空事務所(昼過ぎ)

 緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜

 緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がいる

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 自分の席で昼食を食べている鳴海と伊桜

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃(いざくらひめの)の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 鳴海の席は伊桜の席の隣

 鳴海は菜摘の手作り弁当、伊桜は手作りのおにぎりを食べている

 菜摘の手作り弁当のメニューはオムライス、ミニハンバーグ、プチトマト、ポテトサラダ

 太田と目黒が話をしている

 緋空事務者の社員たちは笑いながら太田と目黒の話を聞いている 

 手作りのおにぎりを食べながら笑っている伊桜

 鳴海は笑っている緋空事務所の社員たちのことを見ている

 

鳴海「(緋空事務所の社員たちのことを見ながら 声 モノローグ)大人だって、この人たちだって、あの時の俺たちと変わらない・・・(少し間を開けて)子供じゃないか」


◯1888緋空海鮮市場(昼過ぎ)

 緋空海鮮市場にいる鳴海と伊桜

 緋空海鮮市場の中は広く、左右至る所でたくさんの魚介類が売られている問屋がある

 仕入れに来たたくさんの人たちが緋空海鮮市場の問屋で売られている魚介類を見ている

 緋空海鮮市場の中を歩いている鳴海と伊桜

 鳴海と伊桜は話をしている


伊桜「初めて来ただろ」

鳴海「はい、そもそもここって一般の人も入れないんですよね?」

伊桜「許可を貰えば入場出来る」

鳴海「えっ、そうなんすか?」

伊桜「俺たちだって一般人だろ」

鳴海「た、確かに・・・」


 少しすると鳴海と伊桜は”緋赤水産”という問屋の前に辿り着く

 ”緋赤水産”という問屋の前で立ち止まる伊桜

 鳴海は伊桜に合わせて”緋赤水産”という問屋の前で立ち止まる

 ”緋赤水産”ではたくさんの魚介類が卸売りされている


伊桜「配達の仕事に来ました!緋空事務所の伊桜です!」


 ”緋赤水産”の奥から漁業用の作業服を着た卸売業者の男が出て来る


”緋赤水産”の卸売業者の男「ああ、伊桜くん、ちょっと待ってくれ。今龍を呼ぶから」

伊桜「はい」

”緋赤水産”の卸売業者の男「龍!!俺の代わりに手伝ってくれ!!」

龍造「はーい!!」

 

 卸売業者の男は”緋赤水産”の奥に戻る

 ”緋赤水産”の奥から漁業用の作業服を着た龍造が出て来る

 龍造のことを見て驚く鳴海


鳴海「(龍造のことを見て驚いて)えっ!?龍さん!?」

龍造「(驚いて)な、鳴海くん!市場で会うなんてびっくりだよ!」

鳴海「(龍造のことを見たまま)お、俺もここで龍さんに会うなんて驚きです」

伊桜「神北さんと知り合いなのか、貴志」

 

 鳴海は龍造のことを見るのをやめる


鳴海「(龍造のことを見るのをやめて)し、知り合いも何も、龍さんは姉貴の旦那なんです」

伊桜「世界は狭い。(少し間を開けて)いつも鳴海くんにはお世話になってます、神北さん」

龍造「こちらこそお世話になっております。というか鳴海くん、どうして君がここに?」

鳴海「昨日から緋空事務所で働いてて・・・」

龍造「(驚いて)えっ!?め、面接はダメだったんじゃないの?」

鳴海「ダメかと思ってたんですけど、受かってたみたいで・・・」

龍造「そうだったのか・・・連絡がないからダメだったのかもしれないって話を風夏としてたんだけど・・・」

鳴海「連絡?俺、姉貴には真っ先に電話を・・・」


 鳴海は話途中で口を閉じる

 少しの沈黙が流れる


龍造「電話してたの?」

鳴海「すみません・・・ど忘れしてました・・・」

龍造「だ、だよね。風夏が心配してたよ、近いうちに家に行くって」

鳴海「あ、姉貴に悪いって伝えといてください、お、俺からも連絡しますから」

龍造「うん、分かったよ」


◯1889緋空海鮮市場の駐車場(昼過ぎ)

 広く大きな緋空海鮮市場の駐車場にいる鳴海、龍造、伊桜

 緋空海鮮市場の駐車場にはたくさんの車が止まっている

 龍造は漁業用の作業服を着ている

 配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている龍造

 鳴海、龍造、伊桜は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら、大きなトラックの前で話をしている

 鳴海たちの前に止まっている大きなトラックの荷台の側面には”緋空海鮮市場”と書いてある


龍造「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら)少し遠いですが、お願いします」

伊桜「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら)分かりました」


 鳴海、龍造、伊桜は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見るのをやめる

 配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを伊桜に差し出す龍造

 伊桜は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを龍造から受け取る


伊桜「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを龍造から受け取って)行くぞ、貴志」

鳴海「は、はい!!じゃあまた、龍さん」

龍造「(頷き)鳴海くんが頑張ってるって風夏に伝えておくよ」

鳴海「頼みます!」


 伊桜は大きなトラックの運転席のドアを開ける

 大きなトラックの運転席に乗り込む伊桜

 伊桜は大きなトラックの運転席のドアを閉める

 大きなトラックの助手席のドアを開ける鳴海

 鳴海は大きなトラックの助手席に乗り込む

 

◯1890配達先に向かう道中(昼過ぎ)

 鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている

 鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている

 伊桜は運転席に座り、運転をしている

 鳴海は助手席に座っている

 伊桜は運転席に座り、運転をしている

 配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている鳴海

 

伊桜「(運転をしながら)あまり家族に心配をかけるなよ」

鳴海「えっ?」

伊桜「(運転をしながら)お姉さんにうちで働いてることを言ってなかったんだろ」

鳴海「ああ・・・そうですね」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「伊桜さんにそういうことを言われるなんて、少し意外です」

伊桜「(運転をしながら)お前と一緒にいるせいでつい言いたくもない小言を言ってしまうんだ」

鳴海「す、すみません」

伊桜「(運転をしながら)俺も説教臭い大人にはなりたくなかった」

鳴海「俺、怒られるのには慣れてますから、平気っすよ」

伊桜「(運転をしながら)お前が良くても俺は人を叱りたくないんだ」

鳴海「そ、そうなんすか・・・」

伊桜「(運転をしながら)他人のことを叱ってると穏やかな人生が送れん」

鳴海「お、俺だって穏やかな人生が送りたいんすよ」


 再び沈黙が流れる

 鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見る


鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見て)こういう仕事もあるんすね」

伊桜「(運転をしながら)ああ、これも緋空事務所が何でも屋たる所以の仕事だ」

鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら)やっぱりドライバー不足なんすか?」

伊桜「(運転をしながら)そんなことを聞くならお前も免許を取れ」

鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら)取らないとやばいですかね?」

伊桜「(運転をしながら)やばいのは運転する俺だ」

鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら)すみません」

伊桜「(運転をしながら)近々貴志も、社長から資格を取るように勧められるから覚悟しておけ」


 鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見るのをやめる


鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見るのをやめて)資格ですか?」

伊桜「(運転をしながら)そうだ」

鳴海「でも車の免許を取るのって時間も金もかかるんじゃ・・・」

伊桜「(運転をしながら)車の免許とは限らん」

鳴海「じゃあ何の・・・」

伊桜「(運転をしながら鳴海の話を遮って)もう一度配達先の住所を教えてくれ」

鳴海「えっと・・・波音町・・・」


 鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを再び見る


鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら)3-4-7ルネマル一階法咲定食屋です」


◯1891法咲定食屋(夕方)

 夕日が沈みかけている

 法咲定食屋のキッチンにいる鳴海、伊桜、法咲定食屋の料理長

 法咲定食屋は広く、数人の客が定食を食べている

 鳴海と伊桜は魚介類が入っている発泡スチロールの冷凍箱を持っている

 法咲定食屋の料理長と話をしている鳴海と伊桜

 

伊桜「緋赤水産の配達です」

法咲定食屋の料理長「はいはい、ご苦労さん」


 鳴海と伊桜は魚介類が入っている発泡スチロールの冷凍箱を床に置く

 魚介類が入っている発泡スチロールの冷凍箱を開ける法咲定食屋の料理長

 発泡スチロールの冷凍箱の中には冷凍されたアジ、シラス、鯛、ワカサギが入っている


法咲定食屋の料理長「アジ・・・シラス・・・鯛・・・ワカサギ・・・うん、揃ってるけど、納品書で確認させてくれる?」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「貴志、早くお出ししろ」

鳴海「えっ・・・の、納品書ってどこに・・・」

伊桜「(大きな声で)ボードに挟まれてただろ!!!!トラックに置いて来たなら早く取ってこい!!!!」

鳴海「(大きな声で)す、すみません!!!!」


 鳴海は走って法咲定食屋のキッチンを出て外に行く

 法咲定食屋の料理長に頭を下げる伊桜


伊桜「(頭を下げて)お忙しいのに申し訳ありません」

法咲定食屋の料理長「あ、いや、良いんだけど、今の新しい子?」


 伊桜は顔を上げる


伊桜「(顔を上げて)そうなんです」

法咲定食屋の料理長「なんか見たことない顔だし、通りで落ち着かないと思ったよ」

伊桜「申し訳ありません」


 時間経過


 鳴海は法咲定食屋のキッチンに戻って来ている

 納品書を見ている法咲定食屋の料理長

 

法咲定食屋の料理長「(納品書を見ながら)うん、ご苦労様」


 伊桜は頭を下げる


伊桜「(頭を下げて)またよろしくお願いします」


 頭を下げる鳴海


鳴海「(頭を下げて)お願いします」


 法咲定食屋の料理長は納品書を見るのをやめる


法咲定食屋の料理長「(納品書を見るのをやめて)次は失敗しないようにね」

鳴海「(頭を下げたまま)は、はい・・・」


◯1892配達先に向かう道中(夕方)

 夕日が沈みかけている

 鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている

 鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている

 鳴海は助手席に座っている

 伊桜は運転席に座り、運転をしている

 鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている

 話をしている鳴海と伊桜


鳴海「すみません・・・」

伊桜「(運転をしながら)もう良い、謝っても遅いんだ」

鳴海「はい・・・」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「(運転をしながら)何かミスをした時、そのミスで被害を受けるのはお前じゃない。仕事関係にあるクライアントだ。分かるか、貴志のミスのせいで神北さんや緋空海鮮市場の人たちに被害が及ぶんだ。これがもし配達先の魚の取り違えだったら?頭を下げてどうにかなることじゃなかったぞ」

鳴海「すみません・・・」

伊桜「(運転をしながら)どれだけ小さなミスでもクライアントに影響が出るかもしれないと肝に銘じておくんだ」

鳴海「はい・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「でも、俺が忘れたのは魚じゃなくて納品書で・・・」


 伊桜は運転をしながらチラッと鳴海のことを見る

 話途中で口を閉じる鳴海


伊桜「(運転をしながら)それで良い、お前は余計なことを喋り過ぎる」

鳴海「すみません・・・」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「(運転をしながら)納品書は注文番号、品番、数量などを確認する大事な物だ」

鳴海「はい・・・」

伊桜「(運転をしながら)大事な物は責任を持って管理しろ」


◯1893◯1874の回想/早乙女家前(夜)

 菜摘の家の前にいる鳴海と菜摘

 菜摘は合鍵と和柄のランチクロスに包まれた弁当箱を持っている

 話をしている鳴海と菜摘


菜摘「大丈夫、鳴海くんから貰った大事な物だもん、ちゃんと持っておくよ」


◯1894回想戻り/配達先に向かう道中(夕方)

 夕日が沈みかけている

 鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている

 鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている

 鳴海は助手席に座っている

 伊桜は運転席に座り、運転をしている

 鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている

 話をしている鳴海と伊桜

 

伊桜「(運転をしながら)分かったな」

鳴海「分かりました・・・」


◯1895緋空事務所(夜)

 緋空事務所に戻って来た鳴海と伊桜

 緋空事務所の中には来栖を含む数人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたりしている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 伊桜は机に向かって椅子に座っている

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃(いざくらひめの)の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 書類に書き込みをしている伊桜

 来栖は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている

 緋空事務所の扉の横の棚の上に置いてあったタイムレコードにタイムカードをセットしている鳴海

 タイムレコードは鳴海のタイムカードに退勤時刻を記録する

 鳴海はタイムレコードからタイムカードを抜く

 緋空事務所の扉の横の棚の引き出しにタイムカードをしまう鳴海

 鳴海は頭を下げる


鳴海「(頭を下げて)お先に失礼します・・・」

来栖「(パソコンに向かってタイピングをしながら)ああ、お疲れさん」


 鳴海は顔を上げる

 緋空事務所の扉を開けて事務所から出る鳴海

 少しの沈黙が流れる


来栖「(パソコンに向かってタイピングをしながら)伊桜くん」


 伊桜は書類に書き込みをするのやめる


伊桜「(書類に書き込みをするのやめて)残業ですか?」

来栖「いや、そうじゃなくて貴志くんのことなんだけど」

伊桜「はい」

来栖「彼落ち込んでたよね。伊桜くん、きつく言ったんじゃないの?」

伊桜「すみません」

来栖「辞められたら困るんだよ、これでも私は貴志くんに期待してるんだから」

伊桜「分かってます」

来栖「明日貴志くんが来なかったら君の責任だ、良いね、伊桜くん」

伊桜「はい」


 再び沈黙が流れる

 来栖は再びパソコンに向かってタイピングをし始める


伊桜「社長」

来栖「(パソコンに向かってタイピングをしながら)何かね」

伊桜「あいつ、明日も来ると思いますよ」

来栖「(パソコンに向かってタイピングをしながら)何かそう思う根拠でも?」

伊桜「貴志には大事な人がいるんです、守りたいと、側にいたいと思ってる奴が。だからこれで辞めるほど腰抜けじゃないと思います」


◯1896貴志家キッチン(夜)

 鳴海の家のキッチンにいる菜摘

 エプロンをしている菜摘

 菜摘は包丁を使ってまな板の上でキャベツを千切りにしている

 鳴海が帰って来るのを待ちながら、夕飯の準備をしている菜摘


菜摘「(包丁を使ってまな板の上でキャベツを千切りにしながら)食べてくれるかな・・・鳴海くん・・・」


 少しすると玄関の方から鳴海が帰って来た音が聞こえる

 菜摘は包丁を使ってまな板の上でキャベツを千切りにするのをやめる

 包丁をまな板の上に置く菜摘

 エプロンで手を拭く菜摘

 菜摘はエプロンで手を拭いてリビングに行く

 リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある

 フラフラ歩きながらリビングにやって来る鳴海


菜摘「お、お帰り鳴海くん!!」

鳴海「お、おう・・・ただいま」


 鳴海はキッチンを見る

 キッチンには作りかけのキャベツの千切りがある

 キッチンを見るのをやめる鳴海


鳴海「(キッチンを見るのをやめて)わ、悪いな・・・菜摘・・・飯・・・また作らせちまって・・・」

菜摘「う、ううん!!もう少ししたら出来るから待っててね」

鳴海「そうか・・・」

菜摘「な、鳴海くんは休んでて大丈夫だよ」

鳴海「すまん・・・」


 鳴海はフラフラ歩きながらテーブルに向かって椅子に座る

 キッチンに戻る菜摘

 菜摘は再び包丁を使ってまな板の上でキャベツを千切りにする

 キッチンでキャベツを千切りにしている菜摘のことを見る鳴海

 鳴海はボーッとしながらキッチンで包丁を使ってキャベツを千切りにしている菜摘のことを見ている

 菜摘は包丁を使ってまな板の上でキャベツを千切りにしながら、鼻歌を歌っている

 菜摘が鼻歌で歌っているのはキャンディーズの”やさしい悪魔”

 鳴海は変わらずボーッとしながら、キッチンで包丁を使ってキャベツを千切りにして鼻歌で”やさしい悪魔”を歌っている菜摘のことを見ている

 鳴海にはキッチンで包丁を使ってキャベツを千切りにしながら、鼻歌で”やさしい悪魔”を歌っている菜摘の姿が由夏理と重なって見える


鳴海「(キッチンで包丁を使ってキャベツを千切りにしながら、鼻歌で”やさしい悪魔”を歌っている菜摘/由夏理のことをボーッと見て)菜摘・・・?」


 由夏理(菜摘)はキッチンで包丁を使ってキャベツを千切りにしながら、鼻歌で”やさしい悪魔”を歌うのをやめる


由夏理(菜摘)「(キッチンで包丁を使ってキャベツを千切りにしながら、鼻歌で”やさしい悪魔”を歌うのをやめて)ん?」


 鳴海はキッチンで包丁を使ってキャベツを千切りにしている菜摘/由夏理のことを見たまま、何度か瞬きをする

 鳴海が何度か瞬きをすると、由夏理ではなく元の菜摘の姿が見えるようになる


鳴海「(キッチンで包丁を使ってキャベツを千切りにしている菜摘のことを見ながら小声でボソッと)疲れてるんだな・・・」


 時間経過


 鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている

 テーブルの上にはご飯、豚肉の生姜焼き、キャベツの千切り、椎茸のバター醤油焼き、冷奴が置いてある

 椎茸のバター醤油焼きを見ている鳴海


菜摘「大丈夫!!鳴海くんなら食べられるよ!!」

鳴海「(椎茸のバター醤油焼きを見ながら)し、しかしだな菜摘・・・何故椎茸を・・・」

菜摘「何となく・・・?」

鳴海「(椎茸のバター醤油焼きを見ながら)な、何となくで出さないでくれよ!!」

菜摘「じゃあ食べて欲しかったから・・・?」

鳴海「(椎茸のバター醤油焼きを見ながら)そ、それを言うのはずるいだろ・・・」

菜摘「何もずるくなんかないもん!!」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は椎茸のバター醤油焼きを見るのをやめる


鳴海「(椎茸のバター醤油焼きを見るのをやめて)きょ、今日は疲れてるんだ菜摘。だから・・・せっかく作ってもらって申し訳ないんだが、この椎茸は・・・」


 再び沈黙が流れる


菜摘「後日食べる・・・?」

鳴海「あー・・・で、出来ればそうしたいな・・・」

菜摘「分かった・・・じゃあこれは冷凍しておくね」

鳴海「わ、悪い菜摘。こ、今度必ず食べるからさ」

菜摘「うん、待ってるよ」


 時間経過


 夕飯を食べながら話をしている鳴海と菜摘


菜摘「そっか・・・大変だね・・・」

鳴海「ああ・・・も、もちろんこんなことじゃ俺は辞めないからな、心配しなくて良いぞ」

菜摘「一生懸命な鳴海くんは・・・いつも思うけど格好良いよ」

鳴海「い、いや・・・一生懸命って言っても・・・俺は怒られてばっかで・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「それでも、格好良いと思うな」


 鳴海の顔が赤くなる

 ご飯の上に豚肉の生姜焼きを乗せて一気にかき込む鳴海


菜摘「あっ、そんなに慌てて食べたら喉に詰まるよ鳴海くん」


 鳴海はご飯と豚肉の生姜焼きをかき込むのをやめる

 口の中に詰まっているご飯と豚肉の生姜焼きをゆっくり飲み込む鳴海


鳴海「(口の中に詰まっているご飯と豚肉の生姜焼きをゆっくり飲み込んで)そ、そういえば、今日は龍さんに会ったんだ」

菜摘「えっ?どこで?」

鳴海「配達の仕事をしたって言っただろ?その時に緋空海鮮市場でさ」

菜摘「そうなんだ、じゃあ龍ちゃんもお仕事中だったの?」

鳴海「ああ、でも少し話せたんだ。そしたら俺重大なことに気付いたんだよ」

菜摘「じゅ、重大なことって?」

鳴海「姉貴たちに言い忘れてたんだ、就職したことを」

菜摘「(驚いて)えぇー!!言ってなかったの!?」」

鳴海「あ、あの時は菜摘に報告するのを第一優先にしてたからさ」

菜摘「ふ、風夏さんたちが可哀想だよ・・・あんなに鳴海くんのことを心配してるのに・・・」

鳴海「だな、叱られないことを祈って後で電話するよ」

菜摘「風夏さんが怒っても仕方がないことだと思う・・・」

鳴海「今日は姉貴からも叱られなきゃいけないのか・・・」

菜摘「じ、自業自得だよ鳴海くん」

鳴海「確かに・・・仕事の件と言い姉貴に伝えてなかった件と言い、俺が悪いのは分かってるんだけどさ・・・」

菜摘「あ、ごめんね・・・」

鳴海「いや、気にするな。それに俺はこんなことじゃへこたれないぞ菜摘、何せ仕事よりも合同朗読劇を成功させる方がよっぽど大変だったからな」


 再び沈黙が流れる


菜摘「鳴海くん」

鳴海「ん?」

菜摘「私、凄く嬉しいよ」

鳴海「嬉しい?」

菜摘「うん、鳴海くんが自信を持ってることが凄く嬉しいんだ」

鳴海「俺も・・・自分に自信があって良かったって思うよ」

菜摘「(嬉しそうに)そっか、だったら尚更、私は嬉しいな」


◯1897貴志家鳴海の自室(深夜)

 片付いている鳴海の部屋

 鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない

 机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある

 机の上のてるてる坊主には顔が描かれている

 ベッドの上で横になっている鳴海

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる

 鳴海はベッドの上で横になりながらスマホで風夏と電話をしている


鳴海「(スマホで風夏と電話をしながら)だから悪かったって・・・いや、伝えるつもりだったんだよ、でも忘れちまったんだ。しょうがないだろ、菜摘に連絡するのを優先にしてたんだから・・・(少し間を開けて)は・・・?まだたったの12時じゃないか・・・」


 鳴海はスマホで風夏と電話をしながら体を起こす

 

鳴海「(スマホで風夏と電話をしながら体を起こして)ああ・・・それはすまん・・・というか姉貴の方から電話をくれたら仕事が決まったって報告を・・・いや・・・何でもない・・・とにかく遅れて悪かった、それから遅い時間に電話をして悪かったよ、それじゃあな、おやす・・・えっ?(少し間を開けて)次の日曜?いや・・・特にないが・・・」


 鳴海はスマホで風夏と電話をしながらベッドから出る


鳴海「(スマホで風夏と電話をしながらベッドから出て)日曜日に引越しな・・・分かった。(驚いて)け、結婚式!?そ、そういうことこそ連絡しろよ!!き、近所迷惑だと!?誰のせいだ!!べ、別に驚いてねえって!!と、とっとと結婚しやがれ!!あ?うるせえ!!よ、余計なお世話だ!!あ、明日も仕事があるから切るぞ!!じゃあな!!お休み!!」


 鳴海はスマホで一方的に風夏との電話を切る

 深くため息を吐き出す鳴海

 少しの沈黙が流れる


鳴海「姉貴の奴・・・全く・・・誰に似てあんな性格になったんだか・・・」

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