Chapter7♯6 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
・・・?
ミツナ 19歳女子
・・・?
X 25歳女子
・・・?
Y 25歳男子
・・・?
ドクターS 19歳女子
・・・?
シュタイン 23歳男子
・・・?
伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯6 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯1822貴志家リビング(日替わり/朝)
面接日当日
外は薄暗く曇っている
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
時刻は七時半過ぎ
テーブルの上にはテレビのリモコンが置いてある
スーツ姿で椅子に座ってテレビのニュースを見ている鳴海
ニュースキャスター2「昨晩起きたロシア国内で起きた、テロ攻撃による負傷者の数は・・・」
鳴海はリモコンを手に取る
リモコンでテレビを消す鳴海
鳴海はテレビを消して立ち上がる
◯1823緋空浜に向かう道中(朝)
空は薄暗く曇っている
緋空浜にある事務所に向かっているスーツ姿の鳴海
鳴海「(声 モノローグ)数日間にも渡る菜摘の手厚い看護のおかげで、俺の足の怪我はすぐに回復した。そして俺は当初の予定通り、緋空浜でとある儀式を受ける・・・(少し間を開けて)そう・・・面接だ・・・」
鳴海の正面からたくさんの登校中の波音高校の生徒たちが歩いて来る
鳴海「(声 モノローグ)菜摘のために頑張ろう・・・菜摘のために・・・」
たくさんの登校中の波音高校の生徒たちすれ違う鳴海
鳴海とすれ違った登校中の波音高校の一年生女子生徒2人が話をしている
波音高校の一年生女子生徒3「隣の席の子、全然喋ってくれないんだよ」
波音高校の一年生女子生徒4「隣って、荻原早季?」
波音高校の一年生女子生徒3「うん。あの子ずっと本を読んでて、私が話しかけても無視すんの」
波音高校の一年生女子生徒4「ノリ悪いねー。荻原さん、スマホも持ってないんでしょ?」
波音高校の一年生女子生徒3「持ってないっぽいよ、いじってるところを見たことないし・・・」
波音高校の一年生女子生徒3、4は話をしながら波音高校に向かう
鳴海「(声 モノローグ)きっと親父は、母や俺たちのために身を粉にして働いていたはずだ・・・俺もその姿勢を見習わなくてはいけない」
◯1824緋空浜(朝)
空は薄暗く曇っている
緋空浜の浜辺にいるスーツ姿の鳴海
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791のかつての緋空浜に比べると汚れている
浜辺には鳴海の他にもたくさんの人がおり、釣りやウォーキングをしている
鳴海は緋空浜の浜辺を歩いている
鳴海「(声 モノローグ)もっとも・・・親父が家を留守にし続けたことを真似する必要はないが・・・(少し間を開けて)そういえばあの人は何の仕事をしていたんだろう・・・?明日・・・墓参りの時に姉貴に聞いてみるか・・・」
時間経過
外は変わらず薄暗く曇っている
緋空浜の浜辺には緋空事務所という名前の2階建ての小さくて古い事務所がある
緋空事務所の前にいる鳴海
鳴海は緋空事務所を見ている
鳴海「(緋空事務所を見ながら)落ち着け・・・面接なんて朗読劇に比べれば簡単なことだ・・・」
鳴海は緋空事務所を見るのをやめる
深呼吸をする鳴海
深呼吸をして緋空事務所のインターホンを押す鳴海
少しすると緋空事務所で働いている男がインターホンに出る
インターホンに出た男は伊桜京也
伊桜「(インターホンの声)はい」
鳴海「ほ、本日、8時半より面接をお願いしております。き、貴志鳴海と申しますが・・・」
伊桜「(インターホンの声)ああ。今扉を開けるから待っててください」
鳴海「わ、分かりました」
緋空事務所の扉の内側から鍵を外す音が聞こえて来る
緋空事務所の扉が開く
伊桜が緋空事務所から出て来る
伊桜の年齢は32歳
鳴海「え、えっと・・・」
少しの沈黙が流れる
伊桜「中に入らないのか?」
鳴海「し、失礼いたします!!」
鳴海と伊桜は緋空事務所の中に入る
緋空事務所中を見る鳴海
緋空事務所の中には男女合わせて数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたり、談笑をしたりしている
緋空事務所の中には太田美羽、目黒哲夫がいる
太田と目黒は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に上がる階段がある
伊桜「面接室は階段を登って右手の部屋だ、社長が来るまではその部屋で待っていて欲しい」
鳴海は緋空事務所の中を見るのをやめる
鳴海「(緋空事務所の中を見るのをやめて)は、はい!!よ、よろしくお願いします!!」
伊桜は頷き、自分の席に座る
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
鳴海は緋空事務所の階段を登り始める
鳴海「(緋空事務所の階段を登りながら小声で)しゃ、社長と面接をするのか・・・?」
鳴海は階段を登り終える
階段を登った先の右手側には面接室がある
面接室の扉を開ける鳴海
鳴海は面接室の中に入る
面接室の中には大きなソファが二脚、テーブル、家庭用発電機、折り畳まれた大きなテント、ダイビング用のタンク、ウエットスーツ、シュノーケル、漁に使う網、釣り竿、空気の抜けたボートなど様々な物がある
鳴海は周囲を見ている
鳴海「(周囲を見ながら)面接室というよりは・・・ただの物置だな・・・」
少しすると面接室の中に来栖真が入って来る
来栖の年齢は59歳
来栖は鳴海の履歴書を持っている
周囲を見るのをやめる鳴海
来栖「いやー待たせて悪かったね」
鳴海「い、いえ!」
来栖はソファに座る
来栖「緊張してると思うけど、まあまずは座って」
鳴海「は、はい。失礼します」
鳴海はテーブルを挟んで来栖と向かい合ってソファに座る
来栖は鳴海の履歴書を見る
再び沈黙が流れる
鳴海「(声 モノローグ)な、何を聞かれるんだ!?や、やっぱ定番の志望動機からか!?」
来栖「(鳴海の履歴書を見ながら)資格、何か持ってないの?」
鳴海「も、持ってないです・・・」
来栖「(鳴海の履歴書を見ながら)車の免許は?」
鳴海「持ってません・・・あ、ば、バイクなら運転出来ます!」
来栖「(鳴海の履歴書を見ながら)バイクなぁ・・・うちは船舶免許とかあったら助かるんだけど・・・」
少しの沈黙が流れる
来栖「(鳴海の履歴書を見ながら)高校生の時は文芸部だったんだ」
鳴海「は、はい!!」
来栖「(鳴海の履歴書を見ながら)文芸部って、主にどんなことをする部活なの?」
鳴海「えっと・・・小説を書いたり・・・朗読劇をしたり・・・」
来栖「(鳴海の履歴書を見ながら)じゃあパソコンは使えそう?」
鳴海「はい!!つ、使えると思います!!」
来栖は鳴海の履歴書を見るのをやめる
来栖「(鳴海の履歴書を見るのをやめて)思う?」
鳴海「た、タイピングは問題ありません」
来栖「そう」
来栖は再び鳴海の履歴書を見る
来栖「(鳴海の履歴書を見て)うちはなんでも屋さんだから、力仕事も少なくないけど」
鳴海「た、体力には自信があります!!」
来栖「(鳴海の履歴書を見ながら)それは助かるよ、この間若い子が続けて二人も辞めちゃったから」
鳴海「そ、そうなんですか」
来栖「(鳴海の履歴書を見ながら)なかなか長続きしなくてね」
再び沈黙が流れる
来栖は鳴海の履歴書を見るのをやめる
来栖「(鳴海の履歴書を見るのをやめて)何か質問は?」
鳴海「き、勤務時間のことなんですけど・・・」
来栖「ああ・・・一応朝は8時、帰りは5時って決まりだよ。ただ残業もあるから、絶対に5時に上がれるとは思わないでね」
鳴海「わ、分かりました」
来栖「僕の方からももう少し君に質問して良い?」
鳴海「ど、どうぞ」
来栖「まず学生の頃に頑張っていたことって、文芸部の活動なんだよね」
鳴海「はい」
来栖「それってコンクールに出たとか?」
鳴海「こ、コンクールではなくて・・・学校行事の学園祭とかで・・・」
鳴海と来栖は話を続ける
鳴海「(来栖と話をしながら 声 モノローグ)こうして俺の面接は終わった」
◯1825緋空浜/緋空事務所前(朝)
空は薄暗く曇っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791のかつての緋空浜に比べると汚れている
浜辺には鳴海の他にもたくさんの人がおり、釣りやウォーキングをしている
緋空事務所から出て来るスーツ姿の鳴海
鳴海「(緋空事務所から出て来て)し、失礼いたします」
鳴海は緋空事務所の扉をゆっくり閉める
緋空事務所の扉をゆっくり閉めて深くため息を吐き出す鳴海
鳴海「(深くため息を吐き出して小声でボソッと)もっと練習をすれば良かったな・・・」
鳴海はゆっくり歩き出す
鳴海「とりあえず・・・面接の出来の悪さを菜摘に報告しに行くか・・・」
◯1826早乙女家前(昼前)
空は薄暗く曇っている
菜摘の家の前にいるスーツ姿の鳴海
鳴海は菜摘の家のインターホンを押す
少しすると菜摘の家の玄関の扉が開く
菜摘の家の玄関の扉が開けている
すみれ「(家の玄関の扉を開けたまま)あれ、鳴海くん、どうしたの?」
鳴海「な、菜摘に会いに来たんですけど・・・」
すみれ「(家の玄関の扉を開けたまま)ごめんなさい、菜摘はさっき出かけてしまって」
鳴海「で、出かけたって一人でですか?」
すみれ「(家の玄関の扉を開けたまま)心配しないで、近くの本屋に行っただけだからきっとすぐに戻って来るはずよ」
少しの沈黙が流れる
すみれは家の玄関の扉を開けたままスーツ姿の鳴海のことを見る
すみれ「(家の玄関の扉を開けたまままスーツ姿の鳴海のことを見て)鳴海くんは・・・面接の帰りですか・・・?」
鳴海「はい・・・菜摘に面接の失態を報告しに来たんです」
すみれ「(家の玄関の扉を開けてスーツ姿の鳴海のことを見たまま)上手くいかなかったの・・・?」
鳴海「まあ・・・」
再び沈黙が流れる
すみれは家の玄関の扉を開けたままスーツ姿の鳴海のことを見るのをやめる
すみれ「(家の玄関の扉を開けたままスーツ姿の鳴海のことを見るのをやめて)家に上がって、鳴海くん」
鳴海「あ、いや、外で待ってますよ」
すみれ「(家の玄関の扉を開けたまま)鳴海くんはまだ私に遠慮するの?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「すみません・・・(少し間を開けて)すみれさんの優しさに甘えてお邪魔します・・・」
すみれ「(家の玄関の扉を開けたまま少し笑って)どうぞ、いらっしゃい」
◯1827早乙女家リビング(昼前)
外は薄暗く曇っている
早乙女家リビングにいるスーツ姿の鳴海とすみれ
鳴海とすみれはテーブルを挟んで向かい合って座っている
テーブルの上には冷たい麦茶の入ったポットと、冷たい麦茶が注がれたコップが鳴海、すみれの前に置いてある
話をしている鳴海とすみれ
すみれ「もしダメでも、潤くんのところで働かしてもらいましょう?」
鳴海「(少し笑って)そっちの方がダメですよ」
すみれ「潤くんなら喜んで鳴海くんと一緒にお仕事をすると思うけど・・・」
鳴海「(少し笑いながら)そうだとしても俺は独り立ちしないといけませんから」
少しの沈黙が流れる
すみれ「鳴海くんは・・・誰かを頼るのが苦手なのね」
鳴海「お、俺としては色んな人を頼ってばっかな気がしますけど」
すみれは冷たい麦茶が注がれたコップを手に取る
冷たい麦茶を一口飲むすみれ
すみれ「(冷たい麦茶を一口飲んで)そんなふうに思っているのは鳴海くん自身だけ」
鳴海「そ、そうですかね?」
すみれ「(少し笑って)ええ」
すみれは冷たい麦茶が注がれたコップをテーブルの上に置く
すみれ「(冷たい麦茶が注がれたコップをテーブルの上に置いて少し笑って)実は私たちはみんな、菜摘もだけど、いつだって鳴海くんから頼られる準備が出来ているのよ」
鳴海「あ、ありがとうございます、すみれさん」
すみれ「(少し笑いながら)もちろん、私たちは鳴海くんが人を頼るのを苦手にしていることも分かっていますけどね」
鳴海「す、すみません・・・」
すみれ「(少し寂しそうに笑って)鳴海くんも・・・菜摘や由夏理と同じ・・・」
鳴海「そ、そんなことないですよ。お、俺を含めてみんなすみれさんのことを頼りにしかしてませんから」
すみれ「そうだったら良いんだけれど・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海は冷たい麦茶が注がれたコップを手に取る
冷たい麦茶を一口飲む鳴海
鳴海「(冷たい麦茶を一口飲んで)う、美味いウーロン茶ですね!!」
すみれ「それはウーロン茶じゃなくて麦茶よ」
鳴海「あ・・・そ、そうですか・・・」
鳴海は再び冷たい麦茶を一口飲む
鳴海「(冷たい麦茶を一口飲んで)た、確かにこれは麦茶ですね。で、でもめちゃくちゃ美味いですよ」
すみれ「(少し笑って)緋空浜で取れた水と、スーパーに売られていた麦茶のパックに感謝にしてね、鳴海くん」
鳴海「は、はい」
少しの沈黙が流れる
鳴海は冷たい麦茶が注がれたコップをテーブルの上に置く
鳴海「(冷たい麦茶が注がれたコップをテーブルの上に置いて)な、なんか・・・すみれさん・・・」
すみれ「何?」
鳴海「い、いつもと違くないですか・・・?」
すみれ「どこが違うと思うの?」
鳴海「そ、それは・・・まあ色々・・・」
再び沈黙が流れる
すみれ「鳴海くん」
鳴海「な、何ですか?」
すみれ「あ、明日は雨なんですって」
鳴海「そ、そうですか・・・きょ、今日も曇ってますもんね」
すみれ「ええ・・・」
鳴海「(声 モノローグ)な、何なんだこの会話は・・・」
少しの沈黙が流れる
すみれ「あ、明日・・・」
鳴海「は、はい」
すみれ「ご両親のお墓参りに行くの・・・?」
鳴海「い、行きますけど・・・」
すみれ「鳴海くん・・・もう何年もお墓参りはしていなかったんでしょう・・・?」
鳴海「そ、そうですね・・・だから姉貴にも来いってしつこく言われてるんです」
再び沈黙が流れる
すみれ「こ、こんなこと・・・私は絶対に言ってはいけないけれど・・・(少し間を開けて)お墓参りは・・・行かない方が・・・鳴海くんにとっても・・・」
鳴海「い、行かなかったら姉貴が怒りますから」
すみれ「そ、そうよね・・・ごめんなさい・・・」
少しの沈黙が流れる
すみれは再び冷たい麦茶が注がれたコップを手に取る
冷たい麦茶を一口飲むすみれ
すみれは冷たい麦茶が注がれたコップをテーブルの上に置く
玄関の方から菜摘が帰って来た音が聞こえる
菜摘「(声)ただいまー!」
鳴海「(声 モノローグ)よし・・・やっとこの気まずい空間から解放される・・・」
菜摘がリビングにやって来る
鳴海のことを見て驚く菜摘
菜摘「(鳴海のことを見て驚いて)な、鳴海くん!?」
鳴海「お、おう。お邪魔してるぞ」
菜摘「め、面接はどうだったの?」
鳴海「く、詳しいことは部屋で話すよ」
菜摘「わ、分かった」
鳴海は冷たい麦茶が注がれたコップを手に取る
冷たい麦茶を一気に飲み干す鳴海
冷たい麦茶を一気に飲み干して立ち上がる鳴海
鳴海は空になったコップをテーブルの上に置く
鳴海「(空になったコップをテーブルの上に置いて)美味しいウーロン茶をご馳走様でした、すみれさん」
すみれ「さっきも話したように、それはウーロン茶じゃなくて麦茶よ」
鳴海「ど、どっちにしたって美味かったんだから良いじゃないですか」
◯1828早乙女家菜摘の自室(昼前)
外は薄暗く曇っている
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
ベッドはマットレス、掛け布団、枕が片付けられ、骨組みだけの状態になっている
菜摘の部屋に入って来るスーツ姿の鳴海と菜摘
鳴海は床に座る
菜摘「それで・・・面接はどうだった・・・?」
鳴海「最悪だ」
菜摘「えっ?」
鳴海「と、とにかく最悪な面接だったんだ、だからこれ以上は何も聞かないでくれ」
菜摘「う、うん・・・」
菜摘は床に座る
鳴海「それよりも菜摘」
菜摘「な、何?」
鳴海「今日のすみれさんはどうなってるんだよ」
菜摘「ど、どうって?」
鳴海「なんか様子がおかしいんだ」
菜摘「そ、そうかな?」
鳴海「明らかにいつもと違うんだよ」
菜摘「違うってどんなふうに?」
鳴海「例えるなら明日香から毒を抜いたような感じになってるんだ」
菜摘「あ、明日香ちゃんに毒なんかないと思うけど・・・」
鳴海「と、とにかく変なんだよ菜摘。無理矢理距離を詰めようとしたり、離れようとしたりして、会話も不自然なんだ」
菜摘「でも私が朝話した時は普通だったよ、お父さんともいつもの感じだったし・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「と、ということは・・・」
菜摘「うん」
鳴海「お、俺がすみれさんから嫌われたんだな・・・」
菜摘「えっ!?」
鳴海「面接が上手くいかなかったことを聞いて、俺を見限ったに違いない・・・」
菜摘「そ、それはないと思うよ鳴海くん!!」
鳴海「そ、そうか・・・?」
菜摘「お母さんは鳴海くんのことが大好きだっていつも言ってるもん」
鳴海「い、いつも言ってたらそれはそれで問題だが・・・」
菜摘「お、お父さんと考えてることは一緒で、お母さんにとっても鳴海くんは我が子同然だと思うよ」
鳴海「じゃあさっきの態度は何なんだ・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「もしかしたら・・・更年期障害でイライラしていたのかも・・・」
鳴海「す、すみれさんは墓参りには行かない方が言って来たんだぞ」
菜摘「そ、それは鳴海くんに気を使ったつもりなんじゃないかな・・・」
鳴海「気を使われたにしても、あんな会話は・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「あんな会話は・・・?」
鳴海「いや・・・(少し間を開けて)とにかく嫌われてなければ良いんだ」
◯1829貴志家鳴海の自室(深夜)
外は薄暗く曇っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる
鳴海「(声 モノローグ)眠ろうとして瞼を閉じると、仕事のこと、墓参りのこと、親友夫婦を失ったすみれさんと潤さんのことを考えてしまって、落ち着かなかった」
外から救急車のサイレンの音が聞こえて来る
鳴海「(声 モノローグ)考えたくないことに頭が囚われてしまうのが嫌で、俺は目を開け、体の向きを変える。(少し間を開けて)そしてまた瞼を閉じた」
外から聞こえる救急車のサイレンの音が少しずつ近付いて来る
鳴海は体の向きを変える
両目を瞑る鳴海
鳴海「(目を瞑って 声 モノローグ)もし今眠りに落ちたら、夢の中で俺は両親と会えるのだろうか」
外の救急車が鳴海の家の前を通る
鳴海の部屋では救急車のサイレンの音が大きく鳴り響いている
鳴海「(両目を瞑ったまま 声 モノローグ)それとももう・・・夢の中でさえ俺は両親と会うことが出来ないのか・・・」
外から聞こて来ている救急車のサイレンの音が徐々に遠のいて行く
鳴海は両目を開ける
鳴海「(両目を開けて 声 モノローグ)この日、俺は一睡も出来なかった」
鳴海は再び体の向きを変える
◯1830早乙女家前(日替わり/朝)
空は薄暗く曇っている
菜摘の家の前に一台の軽自動車が止まっている
菜摘の家の前にいる鳴海、風夏、龍造
鳴海たちは菜摘を待っている
話をしている風夏と龍造
龍造「菜摘ちゃんのご両親とは昔からの知り合いなんだよね」
風夏「うん、家族ぐるみの付き合いでさ」
龍造「じゃあ挨拶をしなきゃな・・・」
風夏「優しい人たちだから、龍ちゃんのこともすぐに受け入れてくれるよ」
龍造「風夏に優しくても僕にはどうか・・・」
鳴海は大きなあくびをする
風夏「菜摘ちゃんのご両親は優しいよね?鳴海」
鳴海「えっ・・・?」
風夏「菜摘ちゃんのご両親」
鳴海「な、菜摘の親がどうしたんだ?」
少しの沈黙が流れる
風夏「お姉ちゃんには昔から不思議に思ってることがあるんだけどさ」
鳴海「な、何だよ」
風夏「どうして鳴海は人の話を聞こうとしないの?」
鳴海「そ、そもそも関係のない会話を聞く必要がないだろ!!」
風夏「龍ちゃんは私の旦那さんであなたのお兄さん、つまり私たちは家族、それでも鳴海は関係・・・」
鳴海「(風夏の話を遮って)は、墓参りの前に説教はやめてくれ姉貴」
再び沈黙が流れる
鳴海「(小声でボソッと)龍さんに対しての嫌味で言ったわけじゃないんです」
龍造「わ、分かってる。気にしてないよ」
鳴海「姉貴よりも龍さんの方が俺に親切だ」
風夏「私は実の姉だから、しつけとして鳴海に厳しくしてるの」
鳴海「しつけって俺はペットじゃないんだぞ」
風夏「鳴海はまだペット以上人間の大人以下の立場でしょ」
鳴海「何だよそれ」
風夏「つまり鳴海は子供ってこと」
鳴海「こ、子供扱いしないでくれ、確かに俺はまだ10代だが、そのうち20代に・・・」
鳴海が話を続けていると菜摘、すみれ、潤が家から出て来る
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
菜摘「お待たせしました!!」
風夏「おはよ菜摘ちゃん、ところで弟の反抗期が再発したんだけどどうすれば良いと思う?」
菜摘「は、反抗期ですか・・・?」
風夏「うん、私のことをぶっ殺すクソババアって」
菜摘は驚いて鳴海のことを見る
鳴海「い、言ってない!!い、今のは姉貴の嘘だ菜摘!!」
菜摘「(鳴海のことを見たまま)で、でも本当っぽかったよ・・・」
鳴海「だ、騙されるな。姉貴は俺や親父と違って嘘をつくのが上手いんだぞ」
菜摘「(鳴海のことを見たまま)そ、そうなの・・・?」
鳴海「あ、ああ」
潤「親父が嘘をつけないって知ってたのか、鳴海」
鳴海「そ、そりゃそうだ、お、親子だからな」
潤「紘は子供たちの前でヘマをするような奴じゃないと思っていたが・・・俺があいつを買い被り過ぎていただけか」
少しの沈黙が流れる
潤は龍造のことを見る
潤「(龍造のことを見て)それで、そこにいるのはどこのどいつだ」
龍造「ふ、風夏さんとお付き合いさせていただいている、神北龍造と申します」
潤「(龍造のことを見たまま)お前が?」
龍造「え、ええ」
潤「(龍造のことを見たまま)もやしっ子じゃねえか」
風夏「龍ちゃんはこう見えても細マッチョなんですよー」
龍造「こう見えても・・・」
すみれ「潤くん」
潤「(龍造のことを見たまま)ああ確かにそうだなすみれ、俺も意外だ。紘と由夏理の娘の恋人がこんなひょろひょろな若造・・・」
菜摘は鳴海のことを見るのをやめる
菜摘「(鳴海のことを見るのをやめて潤の話を遮って)お、お父さん、龍ちゃん失礼だよ」
潤「(龍造のことを見たまま)菜摘も意外に感じるか、さすがは俺とすみれの子だ、考え方がよく似てるぜ」
すみれ「潤くん、失礼なことを言わないでください」
再び沈黙が流れる
潤は龍造のことを見るのをやめる
潤「お、俺には意外だったんだ・・・」
すみれ「うざいおっさんでごめんなさい風夏ちゃん、龍造さん」
風夏「(少し笑って)いえいえ。龍ちゃんも気にしてないよね?」
龍造「う、うん。に、賑やかなのは僕も好きですから」
鳴海「(呆れて)龍さんが無理してるじゃないか」
龍造「な、鳴海くん、僕は無理して・・・」
鳴海「(龍造の話を遮って)というか姉貴、この空間には俺以上に話を聞かない奴がいるだろ」
風夏「そんな人がいるわけないでしょー」
鳴海「いるんだよ!!」
少しの沈黙が流れる
菜摘「私・・・これからはもっと鳴海くんの話を聞くようにするね・・・」
鳴海「俺が言ってるのは菜摘の親父のことだ!!」
潤「菜摘の親父はこの俺だぞ」
鳴海「そうだよ!!俺はさっきからあんたのことを言ってたんだ!!」
潤「俺よりも義理の息子とその親たちの方が人の話は聞かなかったよな、すみれ」
すみれ「潤くん」
潤「どうした?」
すみれ「そろそろ家に戻りましょう」
すみれは潤の手を握り、引っ張る
潤「(すみれに手を引っ張られて)な、何をするすみれ!!俺にはまだ義理の息子との大事な話が・・・」
すみれ「(潤の手を引っ張りながら潤の話を遮って)じゃあ皆さん気をつけて、行ってらっしゃい」
菜摘「う、うん」
すみれは潤の手を引っ張ったまま家の玄関の扉を開ける
潤「(すみれに手を引っ張られながら)お、覚えていろ義理の息子!!いつの日か必ずお前を倒して菜摘とすみれを救い・・・」
すみれ「(潤の手を引っ張り家の玄関の扉を開けたまま潤の話を遮って)はいはい、潤くんは私たちのナイト様ですね」
すみれは潤の手を引っ張りながら家の中に入って行く
すみれに手を引っ張られながら家の中に入って行く潤
再び沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん」
鳴海「な、何だ」
菜摘「鳴海くんも将来、お父さんみたいになるかな?」
鳴海「な、なるわけないだろ!!」
風夏「鳴海は潤さんに似てるから可能性はあるかもよ〜」
鳴海「に、似てねえだろ!!」
風夏は軽自動車の助手席のドアを開ける
風夏「(軽自動車の助手席のドアを開けて)似てるのって本人には分からないもんなんだよね〜」
風夏は軽自動車の助手席に乗り込む
鳴海「に、似てないって言ってるじゃないか!!」
風夏は鳴海の話を無視して軽自動車の助手席のドアを閉める
龍造「似てないとか、似たくないって考え過ぎると、反対に意識して似ちゃうってことがあるかもしれないよ」
鳴海「そ、そんな・・・」
龍造「だから気にしないのが一番だ、鳴海くん」
鳴海「はあ」
龍造は軽自動車の運転席のドアを開ける
軽自動車の運転席に乗り込む龍造
龍造は軽自動車の運転席のドアを閉める
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くんが誰かと似ていても、私は鳴海くんのことがずっと好きだよ」
鳴海「そ、そうか・・・ち、因みに俺はもう少し立派な大人を目指してるんだが・・・」
菜摘「私のお父さんが立派じゃないってこと・・・?」
鳴海「い、いや、そうじゃなくてだな・・・(少し間を開けて)な、何が言いたいか分かるだろ菜摘」
菜摘「ううん」
鳴海「と、とにかく俺は俺の考えている立派な大人になる予定なんだよ」
菜摘「そ、そうなんだ、が、頑張ってね」
鳴海「あ、ああ。立派な大人になって波音町にスフィンクスを・・・」
鳴海は話途中で口を閉じる
菜摘「鳴海くん、波音町にスフィンクスを建てるの?」
鳴海「そ、そうだ。す、スフィンクスは菜摘の夢だろ?」
菜摘「ゆ、夢とはちょっと違うけど・・・興味はあるよ」
鳴海は軽自動車の後部座席のドアを開ける
鳴海「(軽自動車の後部座席のドアを開けて)な、なら俺が立派な大人になるまで少し待っててくれ、近いうちにスフィンクスを作るからさ」
菜摘「う、うん」
菜摘は軽自動車の後部座席に乗り込む
軽自動車の後部座席に乗り込む鳴海
鳴海は軽自動車の後部座席の扉ドアを閉める
◯1831寺院墓地に向かう道中(朝)
外は薄暗く曇っている
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車が寺院墓地に向かっている
鳴海と菜摘は後部座席に座っている
風夏は助手席に座っている
龍造は運転席に座り、運転をしている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
話をしている風夏と龍造
鳴海は外を眺めている
外を眺めている鳴海のことを心配そうに見ている菜摘
風夏「前に龍ちゃんがプレゼントしてくれたお花、あれってどこで買ったの?」
龍造「(運転をしながら)空波商店街の中にある古いお花屋さんだよ、寄って行こうか?」
風夏「そうだね〜・・・パパとママが喜びそうなお花が・・・」
風夏と龍造は話を続ける
鳴海は変わらず外を眺めている
鳴海「(外を眺めながら 声 モノローグ)立派な大人に・・・」
◯1832回想/公園(約十数年前/昼前)
空は薄暗く曇っている
公園にいる6歳頃の鳴海と30歳頃の紘
公園には6歳頃の鳴海と紘の他に子供連れの家族が何組かいる
6歳頃の鳴海と紘はボールを使ってサッカーの練習をしている
紘に向かってボールを蹴る6歳頃の鳴海
紘は6歳頃の鳴海が蹴ったボールを足で止める
紘「(ボールを足で止めて)違う」
鳴海「ど、どーするの?」
紘「(ボールを足で止めたまま)足に力を入れるんだ」
鳴海「入れてるよ!」
紘「(ボールを足で止めたまま)今なんて言った?」
少しの沈黙が流れる
紘はボールを足で止めたまま6歳頃の鳴海に向かって手招きをする
紘「(ボールを足で止めたまま6歳頃の鳴海に向かって手招きをして)こちらに来なさい」
6歳頃の鳴海は俯く
紘「(ボールを足で止めて俯いている6歳頃の鳴海に向かって手招きをしながら)早く」
6歳頃の鳴海は俯いたままゆっくり歩いて紘の元に行く
紘はボールを足で止めたまま6歳頃の鳴海に向かって手招きをするのをやめる
俯いたまま紘の前で立ち止まる6歳頃の鳴海
紘「(ボールを足で止めたまま)顔を上げるんだ、鳴海」
6歳頃の鳴海は顔を上げる
紘「(ボールを足で止めたまま)さっき口答えをしたな」
6歳頃の鳴海は首を横に振る
紘「(ボールを足で止めたまま)口答えをした上に嘘をつくのか?」
6歳頃の鳴海は再び首を横に振る
紘「(ボールを足で止めたまま)父親に対して口答えをするなと何度も何度も注意したはずだ」
再び沈黙が流れる
紘「(ボールを足で止めたまま)黙るな、黙るのは臆病者のやることだぞ。鳴海は臆病なのか?」
鳴海「(小さな声で)臆病者って・・・?」
紘「(ボールを足で止めたまま)いつも逃げてばかりで、負ける奴が臆病者だ。(少し間を開けて)お前はそんな人間じゃないだろう?」
鳴海「(小さな声で)うん・・・」
紘「(ボールを足で止めたまま)それなら良い」
少しの沈黙が流れる
紘「(ボールを足で止めたまま)父さんに口答えをしたと分かっているか?」
6歳頃の鳴海は首を縦に振る
鳴海「(鳴海は首を縦に振って小さな声で)ごめんなさい・・・」
紘「(ボールを足で止めたまま)謝りたくなかったら謝らなくても良いんだぞ、反省していなければ謝る意味もないんだ」
鳴海「(小さな声で)もう口答えしません・・・」
紘「(ボールを足で止めたまま)二度としないか?」
鳴海「(小さな声で)うん・・・」
紘「(ボールを足で止めたまま)良いだろう・・・」
再び沈黙が流れる
紘「(ボールを足で止めたまま)鳴海」
鳴海「(小さな声で)何・・・?」
紘はボールを足で止めたままその場にしゃがむ
紘「(ボールを足で止めたままその場にしゃがんで)お前には立派な大人になって欲しいんだ、だから父さんをがっかりさせないでくれ。俺の期待を絶対に裏切るな」
鳴海「(小さな声で)分かった・・・」
紘「(ボールを足で止めてその場にしゃがんだまま)父さんが言ったことを忘れずにいるんだぞ鳴海、忘れなければ必ずお前は・・・(少し間を開けて)父さんよりも立派な大人になれるからな・・・」
鳴海「(小さな声で)パパは立派じゃないの・・・?」
紘「(ボールを足で止めてその場にしゃがんだまま)俺は・・・ダメな大人なんだ」
鳴海「(小さな声で)どーして・・・?」
紘「(ボールを足で止めてその場にしゃがんだまま)父さんのダメなところは・・・きっといつか鳴海にも分かるようになる」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(小さな声で)じゃあママは立派な大人・・・?」
紘「(ボールを足で止めてその場にしゃがんだまま)お前の母親はとても美しい人だが・・・良いところと悪いところの差がはっきりあるんだ」
再び沈黙が流れる
鳴海「パパ」
紘「(ボールを足で止めてその場にしゃがんだまま)ああ」
鳴海「ママと喧嘩しないで」
少しの沈黙が流れる
紘はボールを足で止めたまま立ち上がる
紘「(ボールを足で止めたまま立ち上がって)サッカーの練習を続けよう、元の位置に戻れ鳴海」
◯1833貴志家由夏理と紘の寝室(約十数年前/深夜)
外は薄暗く曇っている
寝室に一人いる30歳頃の由夏理
寝室にはダブルサイズのベッドと小さなベッドサイドテーブルがある
小さなベッドサイドテーブルには幼い頃の鳴海と風夏が写った家族写真とデスクライトが置いてある
寝室の電気は消えており、小さなベッドサイドテーブルの上のデスクライトの照明だけがついている
由夏理はダブルサイズのベッドの上に座って、電話の子機を使って誰かと話をしている
由夏理「(子機で電話をしながら)そうなんだよね〜、本当は旅行とか行きたいんだけどさ〜・・・旦那が留守にしてることが多いし、子供たちを置いて行くわけにはいかなくて・・・ん、平日の昼間なら時間あるよ。でもそっちは大丈夫?仕事でしょ?」
寝室の扉が開き6歳頃の鳴海が寝室に入って来る
由夏理「(子機で電話をしながら)あ、ごめん、息子が来たからさ、続きはまた明日で良い?うん、分かった。お休みなさい」
由夏理は子機のボタンを押して電話を切る
電話の子機を小さなベッドサイドテーブルの上に置く由夏理
由夏理「(電話の子機を小さなベッドサイドテーブルの上に置いて)良い子は夜更かししちゃダメでしょ〜?」
鳴海「ママだって夜更かししてるよ」
由夏理「(少し笑って)ママは悪い子だからさ、夜遅くまで起きてて良いんだ〜」
鳴海「ずるい」
由夏理「(少し笑いながら)じゃあ鳴海もママと一緒に夜更かししよっか。こっちにおいで」
6歳頃の鳴海は由夏理が座っているダブルサイズのベッドのところに行く
由夏理の隣に座る6歳頃の鳴海
由夏理「眠れなかった?」
鳴海「うん」
由夏理「そっかそっか・・・ママと同じだね〜」
鳴海「ママ、誰と喋ってたの?」
由夏理「ん、お友達だよ」
鳴海「でもパパがママには少ししか友達がいないって」
由夏理「そ、それはパパの勘違いでしょ〜」
鳴海「そうなの?」
由夏理「な、鳴海はママに友達がいないと思う?」
鳴海「分かんない・・・」
少しの沈黙が流れる
由夏理「じゃあちょっと確認してみよっかな〜・・・鳴海はママの友達の数を数えていてね?」
鳴海「うん」
由夏理「まずはすみれ・・・潤・・・それから・・・」
再び沈黙が流れる
由夏理「こら鳴海、今ちゃんと数えてなかったでしょ〜?」
鳴海「か、数えてるよ。い、今ちょうど二人目」
由夏理「(小声でボソッと)二人だけの友達、か・・・」
鳴海「えっ・・・?」
由夏理「今から名前をどんどん言うから数えててよ〜」
鳴海「う、うん」
由夏理「智子・・・弘子・・・陽子・・・幸子・・・久美子・・・純子・・・優子・・・良子・・・(少し間を開けて)ん・・・おっかしいな・・・」
鳴海「どーしたの?」
由夏理「ママさ、今ある重大なことに気付いちゃったんだ」
鳴海「じゅーだいって?」
由夏理「(少し笑って)智子も、弘子も、陽子も、幸子も、久美子も、純子も、優子も、良子も、みーんな子供の子がついてる」
鳴海「ほ、ほんとだ」
由夏理「(少し笑いながら)面白いよね〜、学校のクラスとかも、あっちもこっちもそっちも女子の名前は子供の子がついていたんだよ〜」
鳴海「お姉ちゃんの名前も風子にしようと思わなかったの?」
由夏理「(少し笑いながら)風子はママの友達に4人いたからやめたんだ」
鳴海「4人も?」
由夏理「(少し笑いながら)ん、そうそう。お友達と同じなのが嫌でお姉ちゃんの名前は風夏にしたんだよ。(少し間を開けて)それに名前は唯一無二・・・つまりその人にしかないアイテムだから大切にして欲しくてさ〜」
鳴海「そうなんだね」
由夏理「(少し笑いながら)うん。この話を聞いても、鳴海はまだママに友達が少ないって思う?」
鳴海「ううん」
由夏理「(少し笑いながら)良かった良かった。鳴海もママやパパにお友達が多い方が良いよね?」
6歳頃の鳴海は頷く
由夏理「(少し笑いながら)じゃあ大丈夫だ、鳴海のママには数え切れないくらいたくさんの友達が・・・それも子供の子ってつく女の子の友達がいるからさ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ママとパパは・・・離婚する?」
由夏理「え・・・?」
再び沈黙が流れる
由夏理「だ、誰から離婚なんて言葉を聞いたの?鳴海」
鳴海「色んな人から・・・」
由夏理「が、学校とか?」
鳴海「うん・・・あとお姉ちゃんがママとパパは離婚するかもしれないから、どっちについて行くか考えといた方が良いって」
少しの沈黙が流れる
由夏理「あ、明日の朝、お姉ちゃんのことをめちゃくちゃ叱らないとね」
鳴海「じゃあ・・・ママとパパは・・・」
由夏理「(少し笑って)り、離婚なんかするわけないでしょー、ママはパパのことを愛しているし、パパはママのことをいっぱいいっぱい愛しているんだからさー」
鳴海「ほんとに・・・?」
由夏理「(少し笑いながら)本当だって鳴海、ママは嘘をつかないよ」
少しの沈黙が流れる
由夏理は6歳頃の鳴海の頭を優しく撫でる
由夏理「(6歳頃の鳴海の頭を優しく撫でて)大丈夫大丈夫、ママとパパはずっと鳴海たちの側にいるからさ」
鳴海「(由夏理に頭を優しく撫でられながら)ずっとだよ」
由夏理「(6歳頃の鳴海の頭を優しく撫でながら頷き)ん、ずっと。だけど鳴海がママから離れたくなったら、ママは離れるよ。だからその時までは・・・一緒にいて良い?鳴海」
鳴海「(由夏理に頭を優しく撫でられながら)うん。でも離れたくなんかならないよ」
由夏理「(6歳頃の鳴海の頭を優しく撫でながら)未来はママにも分からないしさ・・・鳴海と風夏にはたくさんの可能性を用意しておきたいんだ。鳴海たちが大人になった時、困らないようにさ」
鳴海「(由夏理に頭を撫でられながら)立派な大人になるためってこと?」
由夏理「(6歳頃の鳴海の頭を優しく撫でながら少し笑って)立派じゃなくても良いんだよ鳴海、ママは鳴海と風夏が元気だったらそれだけで幸せなんだから」
再び沈黙が流れる
由夏理「(6歳頃の鳴海の頭を優しく撫でながら少し笑って)ママはね、鳴海と風夏には自由に育って欲しいんだ〜」
◯1834回想戻り/コンビニの駐車場(朝)
外は薄暗く曇っている
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車がコンビニの駐車場に止まっている
鳴海と菜摘は後部座席に座っている
風夏は助手席に座っている
龍造は運転席に座っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
ボーッと外を眺めている鳴海
菜摘「鳴海くん!!鳴海くん!!」
鳴海は菜摘に声をかけられているが気付いておらず、ボーッと外を眺めている
ボーッと外を眺めている鳴海の体を揺さぶる菜摘
菜摘「(ボーッと外を眺めている鳴海の体を揺さぶって)鳴海くんってば!!」
鳴海は菜摘に体を揺さぶられながら外を眺めるのをやめるう
鳴海「(菜摘に体を揺さぶられながら外を眺めるのをやめて)え、ああ・・・」
菜摘は鳴海の体を揺さぶるのをやめる
鳴海ことを心配そうに見ている菜摘
鳴海「ど、どうかしたのか?」
菜摘「(心配そうに鳴海のことを見たまま)風夏さんと龍ちゃんがコンビニに行くから、何か要るものはあるかって・・・」
鳴海「と、特にないぞ」
少しの沈黙が流れる
風夏「鳴海、さっきから私たちが声をかけてるのにずっと無視してたよね?」
鳴海「ず、ずっと?」
風夏「ずっと」
鳴海「そ、そうか・・・ず、ずっとか・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「た、多分聞こえていなかったんだ」
風夏「聞こえてなかったんじゃなくて聞いてなかったんでしょ?」
鳴海「ど、どっちでも良いだろ」
少しの沈黙が流れる
龍造「何かジュースでも買ってこようか?」
鳴海「い、いえ、目は覚めてますし、腹も空いてませんから」
風夏「じゃあ私たちは買い物して来るからね?鳴海」
鳴海「お、おう」
風夏と龍造は軽自動車の扉を開けて軽自動車から降りて行く
コンビニの中に入って行く風夏と龍造
菜摘「(心配そうに鳴海のことを見たまま)鳴海くん・・・意識が壊れてない・・・?」
鳴海「い、意識が壊れるってどういう意味だ」
菜摘「(心配そうに鳴海のことを見たまま)心がどこかに飛んじゃってないかなって思って・・・」
鳴海「心ならちゃんとコンビニの駐車場の前で止まってるぞ菜摘」
菜摘「(心配そうに鳴海のことを見たまま)そっか・・・」
菜摘は心配そうに鳴海のことを見るのをやめる
再び沈黙が流れる
鳴海の目の前に右手の人差し指を突き立てる菜摘
菜摘は鳴海の目の前に突き立てた右手の人差し指を円を描くように動かす
目の前で突き立てられて円を描くように動いている菜摘の人差し指を見ている鳴海
鳴海「(目の前で突き立てられて円を描くように動いている菜摘の人差し指を見たまま)な、何をしてるんだ、菜摘」
菜摘は鳴海の目の前に突き立てた右手の人差し指を円を描くように動かし続ける
鳴海「(目の前で突き立てられて円を描くように動ている菜摘の人差し指を見たまま)トンボか俺は・・・」
菜摘「(鳴海の目の前に突き立てた右手の人差し指を円を描くように動かしながら)鳴海くん・・・何本か分かる・・・?」
鳴海「(目の前で突き立てられて円を描くように動いている菜摘の人差し指を見たまま)一本だろ・・・」
菜摘は鳴海の目の前で突き立てた右手の人差し指を動かすのをやめる
鳴海の目の前で右手の人差し指を突き立てたまま右手の中指を突き立てる菜摘
鳴海は目の前で突き立てられた菜摘の右手の人差し指と中指を見ている
菜摘「(鳴海の目の前で右手の人差し指と中指を突き立てたまま)これは何本・・・?」
鳴海は目の前で突き立てられた菜摘の右手の人差し指と中指を見たまま、右手で拳を作り菜摘の前に突き出す
菜摘は目の前に突き出された鳴海の右手の拳を見る
菜摘「(鳴海の目の前で右手の人差し指と中指を突き立てたまま、目の前に突き出された鳴海の右手の拳を見て)ど、どういうこと・・・?」
鳴海「(目の前で突き立てられた菜摘の右手の人差し指と中指を見て、自分の右手の拳を菜摘の目の前に突き出したまま少し笑って)俺の勝ちだな」
菜摘「(鳴海の目の前で右手の人差し指と中指を突き立てて、目の前に突き出された鳴海の右手の拳を見たまま)も、もしかして・・・じゃんけん・・・?」
鳴海「(目の前で突き立てられた菜摘の右手の人差し指と中指を見て、自分の右手の拳を菜摘の目の前に突き出したまま少し笑って)もしかしても何も、この形はじゃんけんしかあり得ないだろ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(鳴海の目の前で右手の人差し指と中指を突き立てて、目の前に突き出された鳴海の右手の拳を見たまま)わ、私の負けになってるよ鳴海くん!!」
鳴海「(目の前で突き立てられた菜摘の右手の人差し指と中指を見て、自分の右手の拳を菜摘の目の前に突き出したまま)そうだな」
鳴海は自分の右手の拳を菜摘の目の前に突き出したまま、目の前で突き立てられた菜摘の右手の人差し指と中指を見るのをやめる
鳴海「(自分の右手の拳を菜摘の目の前に突き出したまま、目の前で突き立てられた菜摘の右手の人差し指と中指を見るのをやめて)チョキを出したから菜摘の負けだ」
鳴海は右手で作っていた拳を開き、菜摘の前に突き出すのをやめる
右手の人差し指と中指を鳴海の目の前に突き立てるのをやめる菜摘
菜摘「(右手の人差し指と中指を鳴海の目の前に突き立てるのをやめて)な、鳴海くんのは後出しだもん!!」
鳴海「(少し笑って)まあな」
菜摘「し、しかも私は鳴海くんとじゃんけんしたかったわけじゃないんだよ!!」
鳴海「ああ、本当は写真を撮って欲しかったんだろ?」
菜摘「(大きな声で)ぴ、ピースでもないもん!!!!」
鳴海「い、今のはボケだ菜摘」
菜摘「(大きな声で)分かってるよ!!!!」
鳴海「わ、分かってたなら怒号を飛ばさなくても良いじゃないか・・・」
菜摘「お、大きい声を出さないと・・・わ、私が心配していることが鳴海くんに伝わらないから・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「お、俺は元気だぞ」
菜摘「うん・・・」
鳴海は大きなあくびをする
菜摘「鳴海くん・・・寝不足なんだよね・・・?」
鳴海「そ、そんなことはない」
菜摘「でも今のは凄く大きなあくびだったよ」
鳴海「い、生きてればあくびくらいするだろ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「そ、そうだ、あ、姉貴たちがコンビニから戻って来たらなんかゲームでもしないか?」
菜摘「ゲーム・・・?」
鳴海「あ、ああ。し、しりとりとかどうだ?」
菜摘「鳴海くん、今からお墓参りをするんだよ」
鳴海「そ、それがどうかしたのか?」
菜摘「亡くなったご両親のお墓に向かっているのに・・・しりとりなんかしてて良いの・・・?」
鳴海「べ、別に平気だろ」
菜摘「そうかな・・・」
鳴海「もしダメだったら、ゾンビになった俺の両親が墓から出て来て菜摘みたいに怒号を飛ばすさ」
再び沈黙が流れる
鳴海「(小声でボソッと)クソッ・・・言い過ぎたか・・・」
菜摘「聞こえてるよ鳴海くん」
鳴海「す、すまん・・・(少し間を開けて)きょ、今日だけは変なことを言っても特別に許してくれないか」
菜摘「今日だけ・・・?」
鳴海「ああ」
菜摘「うーん・・・」
菜摘は悩む
少しの間悩み続ける菜摘
菜摘「じゃあ・・・今日だけだよ」
鳴海「わ、悪いな菜摘」
菜摘「今日だけだからね、鳴海くん、今日以外は使っちゃいけないんだよ」
鳴海「俺は日常的に変なことは言ってないだろ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「こ、言葉使いが正しくて、約束を守って、嘘をつかないのが俺だ」
菜摘「そうかな・・・」
鳴海「す、少しは俺のことを信頼してくれ菜摘」
菜摘「し、信頼はしてるけど・・・同じくらい疑いもするよ」
鳴海「な、何で疑うんだ」
菜摘「だって鳴海くんのことが大事なんだもん」
再び沈黙が流れる
風夏と龍造がコンビニから出て来る
コンビニのビニール袋を持っている龍造
風夏と龍造は鳴海と菜摘が乗っている軽自動車の元にやって来る
軽自動車の助手席の扉を開ける風夏
風夏は軽自動車の助手席に乗り込む
軽自動車の運転席の扉を開ける龍造
龍造は軽自動車の運転席のに乗り込む
風夏「二人ともおいたしてなかった?」
鳴海「クソガキ扱いするなって言ってんだろ」
風夏「何怒ってるの?」
鳴海「昔姉貴に言われた嫌なことを思い出したんだ」
風夏「嫌になるのはそれが鳴海のためになるって分かってるからでしょー」
鳴海「どうだかな」
少しの沈黙が流れる
鳴海「車を出してください龍さん。早く墓参りを終わらせてラーメンでも食いに行こう」
龍造「う、うん」
龍造は軽自動車のエンジンをかける
龍造「(軽自動車のエンジンをかけて)帰りは僕の行きつけの豚骨ラーメン屋さんに連れて行ってあげるよ」
龍造は軽自動車のアクセルを踏む
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車がゆっくり進み始める
鳴海「俺、豚骨よりも味噌ラーメン派っす」
龍造「(運転をしながら)だ、だったら美味しい味噌ラーメンが食べられるお店を探そうか」
鳴海「何でも良いですよ、飯なんて」
鳴海は外を眺める
チラッと外を眺めている鳴海のことを見る菜摘
◯1835寺院墓地に向かう道中(昼前)
外は薄暗く曇っている
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車が寺院墓地に向かっている
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車は山道を走っている
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車は木々に囲まれている
鳴海と菜摘は後部座席に座っている
風夏は助手席に座っている
龍造は運転席に座り、運転をしている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
風夏はお墓参り用の花束を持っている
鳴海と菜摘は外を眺めている
話をしている風夏と龍造
龍造「(運転をしながら)マグロやカツオだけじゃないんだ、他にも捕獲量が下がってる魚が多い」
風夏「原因は分からないの?」
龍造「(運転をしながら)もちろん分かってはいるけど、世界規模の問題を解決するには僕らだけの努力じゃ・・・」
風夏と龍造は話を続ける
鳴海「(外を眺めながら)菜摘」
菜摘は外を眺めるのをやめる
菜摘「(外を眺めるのをやめて)ん?」
鳴海「(外を眺めながら)菜摘は小さい頃に思い描いていた通りの人になれたと思うか?」
菜摘「うーん・・・まだなれてないんじゃないかな。多分今は目指してる最中だと思うよ」
鳴海「(外を眺めながら)じゃあいつか、思い描いていた大人になれると良いな」
菜摘「うん、いつか・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くんはどう・・・?思い描いていた人になれた・・・?」
鳴海「(外を眺めながら)俺は・・・(少し間を開けて)菜摘と同じで、今は目指している最中かもしれない」
菜摘「そっか・・・きっと鳴海くんならなりたい人になれるよ」
鳴海「(外を眺めながら)だと良いが・・・」
◯1836寺院墓地の駐車場(昼前)
空は薄暗く曇っている
寺院墓地の駐車場に鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車が止まっている
寺院墓地の駐車場は広く、鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車の他にも数台の車が止まっている
寺院墓地は山に囲まれており、周囲にはたくさんの木々が生えている
軽自動車から降りる鳴海、菜摘、風夏、龍造
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
風夏はお墓参り用の花束を持っている
周囲を見る鳴海
鳴海「(周囲を見て)さっさと済ませよう姉貴、ラーメンが待ってるんだ」
風夏「私お手洗いに行って来るね」
風夏はお墓参り用の花束を周囲を見ている鳴海に差し出す
お墓参り用の花束を風夏に差し出されたまま周囲を見るのをやめる鳴海
鳴海「(お墓参り用の花束を風夏に差し出されたまま周囲を見るのをやめて)何でさっきコンビニで行っておかなかったんだよ」
風夏「(お墓参り用の花束を鳴海に差し出したまま)気まぐれなんだからしょうがないでしょー」
鳴海はお墓参り用の花束を風夏から受け取る
鳴海「(お墓参り用の花束を風夏から受け取って)い、1秒でも長くこの地にいようとしてるんじゃないだろうな」
風夏「違いますー」
風夏は歩き出す
鳴海「ま、迷うなよ!!」
風夏は後ろ姿のまま鳴海、菜摘、龍造に手を振り、一人トイレに向かう
少しの沈黙が流れる
鳴海「良いんですか龍さん」
龍造「ああ、僕はコンビニでトイレに・・・」
鳴海「(龍造の話を遮って)トイレじゃなくて姉貴のことですよ。(少し間を開けて)あいつと結婚したら龍さんは・・・その・・・」
龍造「ふ、振り回される?」
鳴海「はい」
菜摘「い、今更鳴海くんは風夏さんと龍ちゃんの結婚を反対するの?」
鳴海「は、反対はしてない。た、ただ俺は事実を言ったんだ、姉貴はお袋に似て気まぐれだからな」
龍造「お、弟の鳴海くんと僕の目から見た風夏だとイメージが少し違うんじゃないか?」
鳴海「それは姉貴が龍さん前で本性を隠してるからです」
再び沈黙が流れる
菜摘「風夏さんは嘘偽りなく、鳴海くんや私に接するのと同じように龍ちゃんとお喋りをしてるよ」
鳴海「そ、そうか?」
菜摘「うん」
龍造「君のお姉さんは凄く器用な性格をしてるというわけじゃないから、無理に本性を隠そうとすれば僕もすぐに気付くと思うな」
少しの沈黙が流れる
龍造「あっ・・・ふ、二人とも、今僕が言ったことは風夏には内密に・・・」
菜摘「りょ、了解です」
龍造「な、鳴海くんも言わないでくれる?」
鳴海「別に黙ってますけど・・・」
龍造「た、助かるよ、鳴海くん、菜摘ちゃん」
菜摘「は、はい」
再び沈黙が流れる
龍造「そういえば出会ったばかりの頃に、風夏は自分のことをご両親には似ていないって話してたけど・・・鳴海くんからするとそれは違うんだね」
鳴海「自覚がないだけで、姉貴は母親に似てると思いますよ」
時間経過
鳴海、菜摘、龍造は風夏がトイレから戻って来るのを待っている
イライラしている鳴海
鳴海はイライラしながら腕時計を見る
鳴海「(イライラしながら腕時計を見て)姉貴の奴、どこで遊んでるんだ」
菜摘「ただのお手洗いだよ、鳴海くん」
鳴海はイライラしながら腕時計を見るのをやめる
鳴海「(イライラしながら腕時計を見るのやめて)ただのトイレにこっち30分以上も待ってるんだぞ」
菜摘「それはそうだけど・・・」
龍造はチラッと腕時計を見る
龍造「(チラッと腕時計を見て)もう少し待って戻って来なかったら、連絡してみようか・・・」
鳴海「(イライラしながら)いや、俺が探しに行きます」
龍造「えっ?そ、そういうことはやめた方が良いんじゃ・・・」
鳴海「(イライラしながら)姉貴は龍さんの恋人なんですよ、こんなところで姉貴が失踪して結婚が破綻になっても良いんですか?」
菜摘「な、鳴海くん、い、今の言い方は・・・」
鳴海「(イライラしながら)責めるなら姉貴を責めてくれ菜摘」
龍造「も、もう少し待ってればそのうち戻って・・・」
鳴海「(イライラしながら龍造の話を遮って)俺は待たされるのが嫌いなんです」
少しの沈黙が流れる
龍造「わ、分かった、僕が風夏を探すよ」
鳴海「龍さんが探しに行って逆に迷われたら困るんで、俺が行きます」
龍造「し、しかし鳴海くん」
鳴海「大丈夫ですよ、こういう時は姉弟の方が上手くやれると思いますし」
鳴海はお墓参り用の花束を菜摘に差し出す
菜摘「(お墓参り用の花束を鳴海に差し出されて)ここにいた方が良くない・・・?」
鳴海「(お墓参り用の花束を菜摘に差し出したまま)心配するな菜摘、俺は姉貴と違ってすぐに戻るからさ」
菜摘「(お墓参り用の花束を鳴海に差し出されたまま)でも鳴海くん・・・本当に大丈夫・・・?」
鳴海「(お墓参り用の花束を菜摘に差し出したまま)菜摘は俺のことを信頼してるんだろ?」
菜摘「(お墓参り用の花束を鳴海に差し出されたまま)確かに信頼してるけど・・・」
鳴海「(お墓参り用の花束を菜摘に差し出したまま)疑っている、か?」
菜摘「(お墓参り用の花束を鳴海に差し出されたまま)そうじゃなくて・・・心配してるんだよ・・・(少し間を開けて)特に今日は・・・お墓参りだから・・・」
鳴海「(お墓参り用の花束を菜摘に差し出したまま少し笑って)俺も菜摘と同じだな」
菜摘「(お墓参り用の花束を鳴海に差し出されたまま)えっ?」
鳴海「(お墓参り用の花束を菜摘に差し出したまま)墓参りじゃなきゃ、わざわざトイレに行った姉貴のことを追いかけたりしないさ」
菜摘「(お墓参り用の花束を鳴海に差し出されたまま)そう・・・だよね・・・」
菜摘はお墓参り用の花束を鳴海から受け取る
菜摘「(お墓参り用の花束を鳴海から受け取って)鳴海くんと風夏さんのこと・・・待ってる」
鳴海「おう」
鳴海「龍さんもここにいてください、俺が姉貴をとっ捕まえて来ますから」
龍造「た、頼んだよ、鳴海くん」
鳴海は頷く
風夏が歩いて行った方に向かう鳴海
◯1837寺院墓地(昼過ぎ)
空は薄暗く曇っている
寺院墓地の中にいる鳴海
寺院墓地の中にはたくさんのお墓がある
お墓にはそれぞれ埋葬された人々の名前が彫られている
寺院墓地は山に囲まれており、周囲にはたくさんの木々が生えている
寺院墓地にはお墓参りをしている数人の墓参者がいる
周囲を見ながら風夏のことを探している鳴海
鳴海「(周囲を見て風夏のことを探しながら)すみれさんと言い龍さんと言い、俺の周りにいる大人たちの態度は何なんだ・・・俺のことを子供扱いして・・・どうかしてるだろ・・・(少し間を開けて)姉貴も姉貴だ・・・こんな時に限っていなくなりやがって・・・」
鳴海はぶつぶつ独り言を言いながら周囲を見て風夏のことを探し続ける
ぶつぶつ独り言を言いながら周囲を見て風夏のことを探している遠くの方には、たくさんの小さなお地蔵さんがいる
たくさんの小さなお地蔵さんは100体以上いる
たくさんの小さなお地蔵さんの前にはお参りをしている風夏がいる
風夏は一体の小さなお地蔵さんに向かって両手を合わせている
遠くの方で一体の小さなお地蔵さんに向かって両手を合わせている風夏の姿を見つける鳴海
鳴海は遠くの方で一体の小さなお地蔵さんに向かって両手を合わせている風夏の姿を不思議そうに見ている
鳴海「(遠くの方で一体の小さなお地蔵さんに向かって両手を合わせている風夏の姿を不思議そうに見ながら)姉貴・・・?」
風夏は一体の小さなお地蔵さんに向かって両手を合わせたまま何かを言う
少しの沈黙が流れる
風夏は一体の小さなお地蔵さんに向かって両手を合わせるのをやめる
その場にしゃがむ風夏
風夏はその場にしゃがんだまま一体の小さなお地蔵さんの頭を撫でる
ポツポツと雨が降って来る
鳴海は遠くの方でしゃがんだまま一体の小さなお地蔵さんの頭を撫でている風夏の姿を見るのをやめる
空を見上げる鳴海
鳴海の顔には雨粒が落ちて来る
◯1838回想/道の駅駐車場(約十数年前/昼過ぎ)
ポツポツと雨が降っている
道の駅の駐車場にいる6歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘
6歳頃の鳴海、由夏理、紘の側には一台の車が止まっている
道の駅の駐車場は広く、6歳頃の鳴海、由夏理、紘の側に止まっている車の他にも数台の車が止まっている
道の駅は山に囲まれており、周囲にはたくさんの木々が生えている
6歳頃の鳴海は空を見上げている
6歳頃の鳴海の顔には雨粒が落ちている
6歳頃の鳴海は、◯1837の寺院墓地で顔を見上げている鳴海と完全に同じ状態
紘「風夏め・・・真っ直ぐ戻って来いと言ったのにどこかで遊んでいるな・・・」
由夏理「私がついて行けば良かったよ・・・全く・・・」
紘「後悔するくせに君はどうしていつも正しい行動を取ろうとしない?」
由夏理「紘が一人で風夏をトイレに行かせたんでしょー?」
紘「風夏はもう12歳だぞ、一人で行って当然だ」
鳴海は空を見上げるのをやめる
少しの沈黙が流れる
紘「由夏理が鳴海を構う前に、風夏と一緒に行動をしていればこんなことにはならなかった」
由夏理「あの子が私よりも紘に懐いているって知ってるよね?今日だって私の隣には座りたがらなかったのにさ」
紘「それが母親の言い分か?立派だな」
再び沈黙が流れる
由夏理は涙目になっている
紘「(怒りながら小声で)子供の前だぞ由夏理、頼むから涙を見せるんじゃない」
由夏理は涙を服の袖で拭う
鳴海「ママ・・・大丈夫?」
由夏理はその場にしゃがむ
由夏理「(その場にしゃがんで小さな声で)鳴海は女の子が泣いてたらハンカチを出してあげてね?良い?」
6歳頃の鳴海は頷く
由夏理「(その場にしゃがんだまま少し笑って小さな声で)ママとの約束だよ」
鳴海「うん」
由夏理「(その場にしゃがんだまま少し笑って小さな声で)鳴海は良い子だね」
少しの沈黙が流れる
由夏理は立ち上がる
鳴海「パパ、お姉ちゃんを探しに行こう?」
紘「お前はダメだ、ここで待っていろ」
鳴海「どーして?」
紘「父さんが一人で行く。お前たちは迂闊に動かない方が良い」
再び沈黙が流れる
紘「鳴海から目を離すな、由夏理」
由夏理「分かってるよ・・・」
紘は道の駅に向かって歩き出す
時間経過
弱い雨が降っている
傘をさして風夏と紘が戻って来るのを待っている6歳頃の鳴海と由夏理
少しすると手を繋いでいる紘と10歳頃の風夏が道の駅から出て来る
手を繋ぎながら鳴海たちのところに戻って来る紘と10歳頃の風夏
紘「(10歳頃の風夏と手を繋いだまま)母さんに謝るんだ、風夏」
風夏「(紘と手を繋いだまま小さな声で)ごめんなさい・・・」
少しの沈黙が流れる
由夏理「ママは良いからさ、弟に謝ってあげて」
風夏「(紘と手を繋いだまま小さな声で)ごめん・・・」
鳴海「どこに行ってたの?心配したんだよ」
再び沈黙が流れる
風夏「(紘と手を繋いだまま小さな声で)蝶々人間を見せたくて探してたの・・・」
鳴海「ちょーちょ人間・・・?」
少しの沈黙が流れる
紘「(10歳頃の風夏と手を繋いだまま)また母さんに空想を吹き込まれたな」
由夏理「ぱ、パパも何年か前に緋空祭りで見たでしょ?ま、まさか忘れたんじゃないよね?」
紘「(10歳頃の風夏と手を繋いだまま)そんなくだらないもの・・・俺が覚えているわけないだろう」
再び沈黙が流れる
10歳頃の風夏は紘と手を繋いだまま俯く
紘と手を繋ぎ俯いている10歳頃の風夏の耳元に顔を近付ける由夏理
由夏理は紘と手を繋ぎ俯いている10歳頃の風夏の耳元で何かを囁く
6歳頃の鳴海には由夏理が10歳頃の風夏に何を言ったのか聞こえておらず分からない
10歳頃の風夏は紘と手を繋いだまま顔を上げる
紘と手を繋いでいる10歳頃の風夏の耳元から顔を離す由夏理
10歳頃の風夏は紘と手を繋いだままもう片方の手で6歳頃の鳴海の頭を撫でる
風夏「(紘と手を繋いだままもう片方の手で6歳頃の鳴海の頭を撫でて)ごめんね、鳴海」
鳴海「(10歳頃の風夏に頭を撫でられながら)うん・・・」
◯1839回想戻り/寺院墓地(昼過ぎ)
弱い雨が降っている
寺院墓地にいる鳴海と風夏
寺院墓地の中にはたくさんのお墓がある
お墓にはそれぞれ埋葬された人々の名前が彫られている
寺院墓地は山に囲まれており、周囲にはたくさんの木々が生えている
寺院墓地にはお墓参りをしている数人の墓参者がいる
鳴海の遠くの方にはたくさんの小さなお地蔵さんがいる
小さなお地蔵さんは100体以上いる
小さなお地蔵さんの前には風夏がいる
風夏はその場にしゃがんで一体の小さなお地蔵さんの頭を撫でている
空を見上げている鳴海
鳴海の顔には雨粒が落ちて来ている
少しの沈黙が流れる
風夏はその場にしゃがんだまま一体の小さなお地蔵さんの頭を撫でるのをやめる風夏
立ち上がる風夏
風夏は振り返る
遠くの方に空を見上げている鳴海がいることに気付く風夏
鳴海は空を見上げるのをやめる
鳴海と遠くの方のたくさんの小さなお地蔵さんの前にいる風夏の目が合う
鳴海と目が合っている風夏の瞳の下には雫がある
風夏の瞳の下にある雫が雨水なのか涙なのか鳴海には分からない
風夏は遠くの方にいる鳴海と目が合ったまま瞳の下の雫を服の袖で拭う
瞳の下の雫を服の袖で拭って遠くの方にいる鳴海と目を合わせるのをやめる風夏
風夏は鳴海の元に行く
鳴海「こ、こんなところで何してたんだよ、心配したんだぞ」
風夏「別にトイレに行ってただけだけどー?」
鳴海「と、トイレにはいなかったじゃないか」
風夏「嘘・・・鳴海女子トイレの中に入ったの・・・?」
鳴海「は、入ってねえよ」
風夏は歩き出す
風夏に合わせて歩き出す鳴海
鳴海と風夏は寺院墓地の駐車場に向かう
風夏「じゃあ女子トイレにお姉ちゃんがいたかなんて確認出来なくなーい?」
鳴海「と、トイレの外から姉貴のことを呼んだんだ」
風夏「えっ、何それ、恥ずかしい」
鳴海「あ、姉貴のせいだろ」
風夏「まあねー。でも心配してくれありがと鳴海」
風夏は鳴海の頭を撫でようとする
風夏の手を掴み撫でようとするのを止める鳴海
鳴海「(風夏の手を掴み撫でようとするのを止めて)母さんの真似をするなよ」
風夏「(鳴海に手を掴まれたまま)別に真似しているつもりはないし・・・」
鳴海は風夏の手を離す
鳴海「(風夏の手を離して)母さんはよく俺の頭を犬みたいに撫で回してたぞ、姉貴はそれをパクったんだろ」
風夏「本当はちょっと違うけど・・・まあそういうことにしといてあげるよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「姉貴はさ・・・」
風夏「何?」
鳴海「いつから良い姉貴になったんだ?」
風夏「鳴海が生まれた時から私はずっと良いお姉ちゃんだったじゃん」
鳴海「ば、馬鹿言うな。む、昔は俺のことをよくからかってただろ」
風夏「それは今もだけどねー」
少しの沈黙が流れる
鳴海「親父とお袋が離婚するって俺に脅したのを覚えてるか・・・?」
風夏「んー、そんなことあったかなー」
鳴海「その言い方は覚えてるだろ・・・」
風夏「弟をからかうのはお姉ちゃんの特権だからさ、いちいち何があったかとか覚えてないわけだよ」
鳴海「あ、姉貴にガキが出来ても絶対にからかうんじゃないぞ」
風夏「(少し笑って)からかわないって、弟や妹じゃないんだし」
鳴海「そうかよ・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「よく俺たちは・・・家で親父を待っていたよな」
風夏「うん」
鳴海「親父は仕事でいなかったんだろ?」
風夏「そうそう」
鳴海「姉貴は親父が何をしてたのか知ってるのか?」
風夏「何をって?」
鳴海「お、親父の仕事だよ」
風夏「どうしたの鳴海、今まではそんなこと1ミリも聞いて来ようとしなかったのに」
鳴海「昨日面接に向かっている時に気になったんだ、親父はどんな仕事をしてたんだろうなって」
風夏「そっか」
少しの沈黙が流れる
風夏「鳴海」
鳴海「あ、ああ」
風夏「傘持って来た?」
鳴海「いや」
風夏「傘がなきゃ菜摘ちゃんが風邪を引いちゃうじゃん」
鳴海「菜摘は自分で傘を持って来てるはずだ」
風夏「今日は持ってなかったよ鳴海」
鳴海「じゃあ姉貴は持って来てるのか?」
風夏「車に何本かねー」
鳴海「なら俺と菜摘はそいつを借りるよ」
風夏「本当は鳴海が傘を持って来なきゃ・・・」
鳴海「(風夏の話を遮って)何故親父のことから話を逸らしたんだ」
再び沈黙が流れる
風夏「パパの仕事が何だったのかお姉ちゃんは知らないし、今更知ることだって出来ないでしょ?鳴海」
鳴海「あ、姉貴も知らないのか?」
風夏は頷く
風夏「(頷いて)鳴海は覚えてないんだろうけど、ママはパパの仕事を嫌ってて、私たちにその話題について触れさせないようにしてたんだよ」
鳴海「何で嫌っていたんだ?」
風夏「さ、さあ・・・でもパパはママが嫌がってるのが分かっていたから、仕事を家に持ち込むことはほとんどなかった・・・と思う」
鳴海「そうか・・・」
風夏「鳴海はパパとママのことに興味が湧いて来たの?」
鳴海「まあな」
◯1840寺院墓地の駐車場(昼過ぎ)
弱い雨が降っている
寺院墓地の駐車場に鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っていた軽自動車が止まっている
寺院墓地の駐車場は広く、鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っていた軽自動車の他にも数台の車が止まっている
寺院墓地は山に囲まれており、周囲にはたくさんの木々が生えている
鳴海たちが乗っていた軽自動車の側にいる菜摘と龍造
菜摘と龍造は傘をさして鳴海と風夏が戻って来るのを待っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
お墓参り用の花束を持っている菜摘
話をしている菜摘と龍造
菜摘「二人とも遅いな・・・」
龍造「そうだね、何もないと良いけど・・・」
菜摘「龍ちゃんはさっき、鳴海くんのことを止めたかったんですか?」
龍造「ああ・・・風夏と鳴海くんが入れ違うわけにはいかないと思ってね」
少しの沈黙が流れる
龍造「菜摘ちゃんも止めたかったんじゃないの?」
菜摘「私は・・・(少し間を開けて)そうです・・・止めようともしました・・・でもそんなことをしても、鳴海くんを抑圧させるだけだと思って・・・」
龍造「(少し笑って)風夏も鳴海くんも、素直に人の話を聞いて従うタイプじゃなさそうだしね」
再び沈黙が流れる
菜摘「最近・・・私にはみんなが必死で鳴海くんのことを守ろうとしているんじゃないかって気がするんです」
龍造「僕はまだ・・・鳴海くんと知り合ってから日が浅いけど、直接会う前に風夏からたくさん話を聞いてたんだ。どんな家庭で育ったのかとか、ご両親を失ってから鳴海くんとの関係がどう変化したのかとか、鳴海くんが菜摘ちゃんのことをとても大切にしているとか、とにかくたくさん風夏が話してくれた。まだまだよそ者の僕だけど、風夏から話を聞いて思ったよ。風夏が守ろうとしてる人を、僕も一緒に守りたいってね。だから、菜摘ちゃんの周りにいる人たちが同じように鳴海くんのことを守りたいって思ったって全然変じゃない。(少し間を開けて)ふ、風夏もだけど、鳴海くんみたいな人は多少周りに迷惑をかけても愛されるタイプだよ」
菜摘「わ、私も・・・そう思います」
龍造「(少し笑って)愛嬌があるんだよね、鳴海くんは」
菜摘「は、はい」
少しの沈黙が流れる
菜摘「龍ちゃんが・・・龍ちゃんが理解のある人で良かったです」
龍造「い、いやいや・・・ぼ、僕も早く鳴海くんに受け入れてもらえたら良いんだけどね・・・」
菜摘「鳴海くんは龍ちゃんを受け入れて、風夏さんのことを任せてると思いますよ」
龍造「だ、だけど鳴海くんは僕に風夏を探させようとしなかったろ?」
菜摘「それは多分・・・鳴海くんも龍ちゃんも悪くなくて・・・」
再び沈黙が流れる
龍造「な、鳴海くんはゴルフとか興味あるかな、今度打ちっぱなしにでも誘おうかと思ってるんだけど・・・」
菜摘「ゴルフは・・・やったことないと思います」
龍造「そ、そうか・・・じゃあ別のスポーツが良いか・・・」
軽自動車の側にいる菜摘と龍造の元に鳴海と風夏が向かって来る
鳴海と風夏が向かって来ていることに気付く菜摘
菜摘「(鳴海と風夏が向かって来ていることに気付いて)あ、来た来た」
龍造は軽自動車のトランクを開ける
軽自動車のトランクの中には数本の傘が寝かしてある
龍造は軽自動車のトランクの中から傘を2本取り出す
風夏「ごめんねー待たせちゃって」
菜摘「い、いえいえ!!」
龍造は軽自動車のトランクを閉じる
持っていた傘の一本を風夏に、もう一本を鳴海に差し出す龍造
龍造「(持っていた傘の一本を風夏に、もう一本を鳴海に差し出して)はい、これ」
鳴海と風夏は傘を龍造から受け取る
鳴海「(傘を龍造から受け取って)どうも・・・」
風夏「ありがとう龍ちゃん」
龍造「冷えてない?」
鳴海と風夏は傘をさす
風夏「(傘をさして)むしろジメジメしてて暑いくらい」
龍造「まだ春なのにね」
龍造はポケットから軽自動車の鍵を取り出す
龍造「(ポケットから軽自動車の鍵を取り出して)自然が多いし、こういうところはもっと涼しいと思ったんだけどな」
風夏「だねー」
龍造は軽自動車の鍵のボタンを押して軽自動車の扉を閉じる
ポケットに軽自動車の鍵をしまう龍造
風夏「お花、ありがとうね菜摘ちゃん」
菜摘「は、はい」
菜摘はお墓参り用の花束を風夏に差し出す
お墓参り用の花束を菜摘から受け取る風夏
鳴海「トイレに行く途中で白いワンピースを着た長髪の女の人に遭遇してさ、それで姉貴がビビって動けなくなってたんだ」
菜摘「鳴海くんの嘘つき」
鳴海「ぼ、ボケたんだよ」
菜摘「そういうボケは私良くないと思う」
鳴海「ば、場をわきまえろって言うのか」
菜摘「うん」
鳴海「ど、どうしてもお化けジョークを菜摘に聞かせたかったんだよ」
菜摘「私はそんなジョーク聞きたくないもん」
再び沈黙が流れる
鳴海「つ、次のボケが思いつく前にお墓に行こう」
鳴海は歩き始める
鳴海に合わせて歩き出す菜摘
菜摘「こういうところでボケちゃダメ、鳴海くん」
鳴海「俺はマグロと同じで、ボケるのをやめたら死んでしまうんだ」
菜摘「そもそもマグロはボケないよ」
鳴海「キレのないツッコミだな・・・」
鳴海と菜摘の後ろをついて行く風夏と龍造
龍造「やっぱり弟だね」
風夏「(少し笑って)似てるって思った?」
龍造「うん、話の展開とか考え方が風夏と同じだ」
風夏「(少し笑いながら)実の弟だからね〜」
鳴海は菜摘と話をしている
鳴海「魚の考えてることが菜摘には分かるのか」
菜摘「わ、分からないけど・・・」
鳴海「ならマグロがボケてないとは言い切れないだろ」
菜摘「マグロがボケてる確証だってどこにも・・・」
鳴海「(菜摘と話をしながら 声 モノローグ)俺はわざと気を紛らわそうとした。小さい子供のように泣き叫び、出来ることなら両親の墓から遠ざりたい、願わくば一生両親の死というものを忘れてしまいたい。(少し間を開けて)だが菜摘も、姉貴も、龍さんも、俺の心も、それを許そうとはしなかった」
◯1841寺院墓地(昼過ぎ)
弱い雨が降っている
寺院墓地にいる鳴海、菜摘、風夏、龍造
寺院墓地の中にはたくさんのお墓がある
お墓にはそれぞれ埋葬された人々の名前が彫られている
寺院墓地は山に囲まれており、周囲にはたくさんの木々が生えている
鳴海、菜摘、風夏、龍造は傘をさして、由夏理と紘のお墓の前に立っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
寺院墓地にはお墓参りをしている数人の墓参者がいる
由夏理と紘の墓石には”貴志家之墓”と彫られている
由夏理と紘のお墓の前にはお墓参り用の花束と、雨に濡れて火が消えてしまったお線香が立てて供えられてある
由夏理と紘のお墓の周りには数羽のカラスアゲハが飛んでいる
風夏「全然来てなくてごめんね、パパ、ママ・・・実は最近少し忙しかったんだ、会社を辞めたり・・・看護師になるために勉強をしたり・・・だからパパとママに会いたくなかったわけじゃないんだよ。(少し間を開けて)でも・・・少しだけ・・・忙しいことを言い訳にしていた部分もあったと思う・・・ごめんなさい」
鳴海は俯く
俯いている鳴海のことをチラッと見る菜摘
風夏「今日はさ、パパとママに紹介したい人がいるんだ」
龍造は一歩前に出て、由夏理と紘のお墓に近付く
龍造「(一歩前に出て)初めまして、風夏さんとお付き合いさせていただいている、神北龍造と・・・」
鳴海は変わらず俯いている
菜摘「(心配そうに小さな声で)鳴海くん・・・?大丈夫・・・?」
鳴海「(俯いたまま小声で)信じられないんだ・・・」
菜摘「(小声で)えっ・・・?」
鳴海「(俯いたまま小声で)ここに両親がいるって・・・思えなくてさ・・・」
菜摘「(小声で)鳴海くんのご両親は、きっと鳴海くんの側にいるんだよ」
鳴海「(俯いたまま小声で)だったら墓参りなんてする必要はないよな・・・」
菜摘「(小声で)そ、それは・・・」
龍造は由夏理と紘のお墓に話をしている
龍造「先日、風夏さんにプロポーズをし、鳴海くんに結婚の承諾を貰いました。必ず風夏さんを幸せにします、僕たちの結婚をお許し頂けるでしょうか」
少しの沈黙が流れる
風夏は龍造の肩に手を置く
風夏「(龍造の肩に手を置いて)パパとママは喜んで許してくれるよ」
龍造「うん」
風夏「(龍造の肩に手を置いたまま)ほら、鳴海もパパとママのところに来て」
風夏は龍造の方に手を置くのをやめる
一歩後ろに下がる龍造
鳴海「(俯いたまま)近くに来てどうすれば良いんだ・・・」
風夏「二人に顔を見せるんだよ鳴海、それから話もしてあげて」
鳴海は俯いたまま渋々一歩前に出て、由夏理と紘のお墓に近付く
菜摘「鳴海くん、顔を上げないと・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海はゆっくり顔を上げる
鳴海「(ゆっくり顔を上げて)もうこれで良いだろ・・・」
風夏「話は?」
鳴海「何を話せば良いんだよ・・・」
風夏「学校を卒業したこととか、菜摘ちゃんと仲良してることとか、部活を頑張ったこととか、とにかく何でも良いからさ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「こ、高校卒業した・・・今は姉貴の命令で・・・引越しの準備を手伝わされてる・・・」
菜摘が一歩前に出て、鳴海の隣に行く
菜摘「(一歩前に出て)鳴海くん」
鳴海「な、何だよ」
菜摘「口にしなくても、心の中でお母さんとお父さんに話しかければ良いんじゃないかな」
鳴海「そ、そうか・・・」
菜摘「難しかったら、手紙を読むイメージをすると気持ちが楽になるよ」
鳴海「わ、分かった・・・(少し間を開けて)て、手紙だな・・・」
菜摘「うん」
再び沈黙が流れる
鳴海「(声 モノローグ)母さん・・・父さん・・・菜摘に勧められたやり方でやってみるよ、俺にはこれが限界だから・・・」
◯1842ラーメン屋に向かう道中(昼過ぎ)
外は弱い雨が降っている
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車がラーメン屋に向かっている
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車は山道を走っている
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている軽自動車は木々に囲まれている
鳴海と菜摘は後部座席に座っている
風夏は助手席に座っている
龍造は運転席に座り、運転をしている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
話をしている風夏と龍造
鳴海と菜摘は外を眺めている
鳴海「(外を眺めながら 声 モノローグ)高校は無事に卒業することが出来たんだ。菜摘や姉貴、それから仲間にも支えられて、充実した学校生活を送れたよ。(少し間を開けて)もしかしたら知ってるかもしれないけど・・・菜摘はすみれさんと潤さんの娘でさ・・・分かるだろ?ちょっと天然で、でも賢くて、優しいんだ。菜摘が俺の側にいてくれるから、俺のことは心配しなくて良い。母さんと父さんは休んでてくれ」
◯1843ラーメン屋(昼過ぎ)
外は弱い雨が降っている
ラーメン屋の中にいる鳴海、菜摘、風夏、龍造
テーブルに向かって椅子に座っている鳴海、菜摘、風夏、龍造
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
ラーメン屋には鳴海たちの他にも数人の客がいる
鳴海たちは味噌ラーメンを食べている
鳴海「(味噌ラーメンを食べながら 声 モノローグ)姉貴も元気でやってるよ、龍さんとの関係も良い感じだ。あの二人は・・・母さんと父さんとはまた違う夫婦になる気がするな・・・だって母さんと父さんは・・・」
◯1844早乙女家前(夕方)
外は弱い雨が降っている
鳴海、菜摘、風夏、龍造が乗っている車が菜摘の家の近くに止まっている
鳴海と菜摘は後部座席に座っている
風夏は助手席に座っている
龍造は運転席に座っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海たちに手を振る菜摘
鳴海は菜摘に別れを告げる
鳴海「(菜摘に別れを告げて 声 モノローグ)すみれさんや潤さんとも違う夫婦だったろ・・・?」
菜摘は鳴海たちに手を振るのをやめる
軽自動車の後部座席の扉を開ける菜摘
菜摘は軽自動車から降りる
小走りで家に向かう菜摘
菜摘は家の前で再び軽自動車に乗っている鳴海に向かって手を振る
鳴海「(声 モノローグ)も、もちろん違うのは当然なんだけどさ・・・」
鳴海は菜摘の家の前にいる菜摘に向かって手を振り返す
鳴海「(菜摘の家の前にいる菜摘に向かって手を振り返して 声 モノローグ)は、話がまとまってなくてごめん・・・」
龍造は軽自動車のアクセルを踏む
鳴海、風夏、龍造が乗っている軽自動車がゆっくり進み始める
鳴海「(菜摘の家の前にいる菜摘に向かって手を振り返して 声 モノローグ)自分でも、母さんと父さんに何を話したら良いのかよく分かってないんだ」
鳴海は菜摘の家の前にいる菜摘に向かって手を振り返し続ける
◯1845貴志家前(夕方)
弱い雨が降っている
家の前に立っている鳴海と風夏
鳴海の家の近くには龍造が乗っている軽自動車が止まっている
龍造は運転席に座っている
家の前で話をしている鳴海と風夏
風夏「今日はありがとね、鳴海」
鳴海「いや・・・俺は別に・・・何もしてないだろ・・・」
風夏「これも親孝行だよ」
鳴海「こんなことがか?」
風夏「こんなことって思っているのは鳴海だけでしょ?」
鳴海「そうかもな」
少しの沈黙が流れる
風夏「また・・・家族で行こうね、鳴海」
鳴海「ああ」
風夏「じゃ・・・面接の結果が分かったら連絡してよ」
鳴海「連絡がなかったら落ちたと思ってくれ」
風夏「電話を待ってるからねー」
鳴海「おい」
風夏「お姉ちゃんに電話くらい出来るでしょー」
鳴海「落ちた報告なんかしたくないし聞きたくもないだろ」
風夏「聞きたくなくても私は聞かなきゃいけないのー」
鳴海「何でだよ・・・」
風夏「だって義務だしー」
再び沈黙が流れる
風夏「それじゃあ、風邪を引かないようにね鳴海」
風夏は軽自動車が止まっている方に向かう
鳴海「あ、姉貴!!」
風夏「んー?」
風夏は立ち止まる
振り返って鳴海のことを見る風夏
鳴海「姉貴は母さんと父さんが本当に離婚すると思ってたのか?それともただ俺のことをからかっていただけなのか?」
風夏「(鳴海のことを見たまま)当時自分が何を考えていたかなんて、昔過ぎてもう覚えてないよ」
鳴海「ならどうして姉貴は・・・母さんのことを避けたんだ」
風夏「(鳴海のことを見たまま)私がママのことを避けるわけないでしょ?」
◯1846◯1838の回想/道の駅駐車場(約十数年前/昼過ぎ)
ポツポツと雨が降っている
道の駅の駐車場にいる6歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘
6歳頃の鳴海、由夏理、紘の側には一台の車が止まっている
道の駅の駐車場は広く、6歳頃の鳴海、由夏理、紘の横に止まっている車の他にも数台の車が止まっている
道の駅は山に囲まれており、周囲にはたくさんの木々が生えている
話をしている由夏理と紘
紘「由夏理が鳴海を構う前に、風夏と一緒に行動をしていればこんなことにはならなかった」
由夏理「あの子が私よりも紘に懐いてるって知ってるよね?今日だって私の隣には座りたがらなかったのにさ」
紘「それが母親の言い分か?立派だな」
◯1847回想戻り/貴志家前(夕方)
弱い雨が降っている
家の前に立っている鳴海
鳴海の家の近くには龍造が乗っている軽自動車が止まっている
龍造が乗っている軽自動車の近くにいる風夏
龍造は運転席に座っている
鳴海のことを見ている風夏
鳴海と風夏は話をしている
風夏「(鳴海のことを見たまま)鳴海がいつの記憶から避けてるって判断したのか分からないけど、私は鳴海よりも6年早く生まれて・・・」
鳴海「(風夏の話を遮って)年齢は関係ないだろ」
風夏「(鳴海のことを見たまま)あるんだって鳴海。私と鳴海の年齢差の分、私はパパとママと一緒に過ごしてるんだよ。競うわけじゃないけど、私は鳴海よりもパパとママの良いところと悪いところを知ってるの。何でかって、私には鳴海になかった時間があるから、パパとママと一緒に過ごした時間がね。(少し間を開けて)さっきも言ったけど、小さい頃の私が何を考えていたかなんて覚えてない、でも何かの際に私がママを避けたり、ママじゃなくてパパの元にいたいと思ったり、離婚すれば良いって考えになったんだとしたら、それは当時の私が許されないほどクソガキで、可愛げのない意地悪な娘で、嫌な姉貴だったってことかもしれないね」
鳴海「そ、そこまで俺は言ってない」
少しの沈黙が流れる
鳴海「お、俺だって褒められた子供じゃなかったぞ」
風夏「(鳴海のことを見たまま)私は鳴海の姉だって何度も言ってるでしょ」
鳴海「あ、姉だから何だよ・・・?」
風夏「(鳴海のことを見たまま)兄弟っていうのは・・・やっぱりよく似てるんだって鳴海」
鳴海「お、お互いダメな子供だったってことか・・・?」
再び沈黙が流れる
風夏「(鳴海のことを見たまま)今となっては分からないけどね。(少し間を開けて)子供はみんな、愛される存在だし、パパとママが私たちのことを大切にしてくれてたのは事実として残り続けるからさ」
鳴海「お、俺たちは親の期待に応えられて・・・」
風夏「(鳴海のことを見たまま鳴海の話を遮って)そういうことは考え過ぎない方が良いよ。鳴海は鳴海、ちゃんと学校を卒業して、そこそこの顔と容姿になって、守らなきゃいけない存在を見つけて、この世界を生き抜くために頑張っているんだから。これからも胸を張ってればね、鳴海の周りにいる人たちは・・・少なくとも私や菜摘ちゃんは幸せでいられるよ」
少しの沈黙が流れる
風夏「(鳴海のことを見たまま)お姉ちゃんの話、納得してくれた?鳴海」
鳴海「な、納得したと断言は出来ない」
風夏「(鳴海のことを見たまま少し笑って)そうかそうか、まあ若者らしく悩むのも一つの手かもね」
鳴海「あ、ああ」
風夏「(鳴海のことを見たまま)じゃあね鳴海、また困ったらいつでも人生相談に乗るよ」
鳴海「(小声でボソッと)別に俺は人生相談がしたかったわけじゃないんだけどな・・・」
風夏は鳴海のことを見るのをやめる
龍造が乗っている軽自動車の助手席の扉を開ける風夏
風夏は軽自動車の助手席に乗り込む
軽自動車の助手席の扉を閉める風夏
風夏と龍造が乗っている軽自動車が進み始める
鳴海は風夏と龍造が乗っている軽自動車を見ている
風夏と龍造が乗っている軽自動車の姿が徐々に小さくなる
鳴海の体は雨で濡れている
少しすると風夏と龍造が乗っている軽自動車の姿が完全に見えなくなる
鳴海は風夏と龍造が乗っている軽自動車が走って行った方を見るのをやめる
鳴海「(風夏と龍造が乗っている軽自動車が走って行った方を見るのをやめて声 モノローグ)姉貴はああ言っていても、俺は両親の期待に応えたかった」
鳴海はポケットから家の鍵を取り出す
鳴海は家の鍵を玄関の鍵穴に挿す
家の玄関の扉を開ける鳴海
鳴海は家の玄関の扉を開けて、鍵穴から鍵を抜く
家の中に入る鳴海
鳴海「(家の中に入って 声 モノローグ)俺と姉貴は両親が生きていた証だ」
玄関には風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
鳴海は靴を脱ぐ
◯1848貴志家リビング(夕方)
外は弱い雨が降っている
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
リビングにやって来る鳴海
鳴海はテーブルの上に家の鍵を置く
テーブルに向かって椅子に座る鳴海
鳴海「(テーブルに向かって椅子に座って 声 モノローグ)俺たちが立派な大人になれば、母さんと父さんが報われる気がした」
鳴海は顔を横にし、テーブルに突っ伏す
耳をテーブルに当てた状態でテーブルに突っ伏している鳴海
◯1849回想/緋空浜(約十数年前/昼)
快晴
蝉が鳴いている
緋空浜の浜辺にいる5歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、10歳頃の風夏
太陽の光が波に反射し、キラキラと光っている
緋空浜の浜辺にはゴミがなく、◯1785、◯1821、◯1824、◯1825の緋空浜に比べるととても綺麗
緋空浜には泳いで遊んでる人や、浜辺で日光浴をしている人など様々な人がいる
由夏理は5歳頃の鳴海と10歳頃の風夏から少し離れたところにいる
由夏理はタバコを吸いながら一人緋空浜の海を見ている
10歳頃の風夏は浜辺で砂遊びをしている
浜辺に砂のお城を作っている10歳頃の風夏
5歳頃の鳴海は砂遊びをしている10歳頃の風夏の隣で顔を横にし、浜辺に突っ伏している
耳を浜辺に当てた状態で浜辺に突っ伏している5歳頃の鳴海
5歳頃の鳴海は耳を浜辺に当てて浜辺に突っ伏したまま波の音を聞いている
5歳頃の鳴海は、◯1848の貴志家リビングで顔を横にしテーブルに突っ伏している鳴海と完全に同じ状態
鳴海「(耳を浜辺に当てて浜辺に突っ伏し波の音を聞きながら)波の音が聞こえる」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)顔が汚れるよ、鳴海」
鳴海「(耳を浜辺に当てて浜辺に突っ伏し波の音を聞きながら)汚れるって?」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)砂がついちゃうでしょ?」
鳴海「(耳を浜辺に当てて浜辺に突っ伏し波の音を聞きながら)うん」
5歳頃の鳴海は耳を浜辺に当てるのやめて、顔を上げる
顔を振り、顔についた砂を振り落とす5歳頃の鳴海
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)後で顔を洗って来てね」
5歳頃の鳴海は顔を振るのやめる
鳴海「(顔を振るのをやめて)めんどくさいよ」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)めんどくさくても洗って来て」
鳴海「どーしてお姉ちゃんはいつも偉そうなの?」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)お姉ちゃんは鳴海のお姉ちゃんだから」
少しの沈黙が流れる
鳴海「どーやったらお姉ちゃんよりも偉くなれる?」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)鳴海は一生お姉ちゃんよりも偉くなれないの、弟だからね」
鳴海「そんなのずるいよ」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)お姉ちゃんだってパパよりは偉くなれないもん」
鳴海「じゃあママよりは偉くなるの?」
浜辺に砂のお城を作っていた10頃の風夏の手が止まる
鳴海「お姉ちゃん?」
風夏「ママなんて知らない」
再び沈黙が流れる
10歳頃の風夏は再び浜辺に砂のお城を作り始める
少し離れたところで緋空浜の海を見ながらタバコを咥えている由夏理のことを指差す5歳頃の鳴海
鳴海「(少し離れたところで緋空浜の海を見ながらタバコを咥えている由夏理のことを指差して)ママならあそこにいるよ」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)あっそ」
由夏理はタバコを咥えたまま5歳頃の鳴海が自分のことを指差していることに気付く
タバコを咥えたまま5歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に向かって手を振る由夏理
5歳頃の鳴海は由夏理のことを指差すのをやめてタバコを咥えている由夏理に手を振り返す
手を振る由夏理のことを無視し、浜辺に砂のお城を作り続ける10歳頃の風夏
由夏理はタバコを咥えたまま10歳頃の風夏に無視されたことに気付く
タバコを咥えたまま5歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に向かって手を振るのをやめる
由夏理はタバコを咥えたまま俯く
俯いたままタバコの煙を吐き出す由夏理
5歳頃の鳴海は俯いたままタバコを咥えている由夏理に向かって手を振るのをやめる
鳴海「(俯いたままタバコを咥えている由夏理に向かって手を振るのをやめて)ママはどうしてこっちに来ないんだろ」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)来たくないんでしょ」
鳴海「どーして?」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)知らない」
鳴海「パパがいないのが嫌なのかな」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)パパはもうすぐ戻って来るよ」
鳴海「お姉ちゃん、ママと同じこと言ってる」
少しの沈黙が流れる
5歳頃の鳴海は由夏理のことを見る
変わらずタバコを咥えたまま俯いている由夏理
20代ぐらいの一人の若い男がタバコを咥えたまま俯いている由夏理のところにやって来る
若い男は火の付いていないタバコを咥えている
タバコを咥えたまま俯いている由夏理に声をかける若い男
由夏理はタバコを咥えたまま顔を上げる
タバコを咥えたままポケットから使い捨てライターを取り出す由夏理
由夏理はタバコを咥えたまま使い捨てライターを若い男に差し出す
タバコを咥えたまま使い捨てライターを由夏理から受け取る若い男
若い男はタバコを咥えたまま由夏理から借りた使い捨てライターの着火レバーを何度か押す
若い男がタバコを咥えたまま由夏理から借りた使い捨てライターの着火レバーを何度か押すと、使い捨てライターの火が付く
若い男は由夏理から借りた使い捨てライターで咥えていたタバコに火を付ける
タバコの煙を吐き出す若い男
若い男はタバコを咥えたまま由夏理に使い捨てライターを差し出す
タバコを咥えたまま使い捨てライターを若い男から受け取る由夏理
由夏理はタバコを咥えたまま使い捨てライターをポケットにしまう
由夏理と若い男はタバコを咥えたまま談笑し始める
鳴海「(タバコを咥えたまま若い男と談笑している由夏理のことを見ながら)お姉ちゃん」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)んー・・・」
鳴海「(タバコを咥えたまま若い男と談笑している由夏理のことを見ながら)ママと喋ってる男の人、誰?」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)パパじゃないの?」
鳴海「(タバコを咥えたまま若い男と談笑している由夏理のことを見ながら)パパじゃないよ」
10歳頃の風夏は浜辺に砂のお城を作りながら由夏理のことを見る
由夏理は変わらずタバコを咥えたまま若い男と談笑している
浜辺に砂のお城を作りながらタバコを咥えて若い男と談笑している由夏理のことを見るのをやめる10歳頃の風夏
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながらタバコを咥えて若い男と談笑している由夏理のことを見るのをやめて)ママなら大丈夫、パパが助けてくれるから」
鳴海「(タバコを咥えたまま若い男と談笑している由夏理のことを見ながら)どうやって助けるの?」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)パパはね、格好良くて、凄く強いんだよ鳴海。いつも私たち家族を守ってくれてるんだ」
鳴海「(タバコを咥えたまま若い男と談笑している由夏理のことを見ながら)守るって何から?」
風夏「(浜辺に砂のお城を作りながら)今ママが話してるような男の人たちから」
再び沈黙が流れる
砂遊びをするためのスコップ、バケツ、熊手、じょうろなどのおもちゃをセットで持った30歳頃の紘が由夏理たちのところにやって来る
5歳頃の鳴海は変わらずタバコを咥えたまま若い男と談笑している由夏理のことを見ている
タバコを咥えたまま紘に声をかける若い男
由夏理はタバコを咥えたまま男から顔を背ける
若い男から顔を背けたまま深くタバコの煙を吐き出す由夏理
紘は砂遊びをするためのスコップ、バケツ、熊手、じょうろなどのおもちゃをセットで持った手とは逆の手で、いきなりタバコを咥えている若い男の顔面を思いっきり殴る
紘がいきなり若い男の顔面を殴った拍子に、若い男が咥えていたタバコが口から吹き飛ぶ
鼻血を出しながらその場に倒れる若い男
5歳頃の鳴海は紘が若い男の顔面を思いっきり殴ったことに強く驚く
紘は砂遊びをするためのスコップ、バケツ、熊手、じょうろなどのおもちゃを浜辺に置く
鼻血を出しながら倒れている若い男の胸ぐらを掴み無理やり立たせる紘
紘は鼻血を出している若い男の胸ぐらを掴み無理やり立たせながら、右手で拳を作る
浜辺に若い男の鼻血がポタポタと落ちている
浜辺にある若い男の鼻血の血痕の横には若い男が吸っていたタバコが落ちている
浜辺に落ちている若い男が吸っていたタバコからは煙が立っている
鼻血を出している若い男の胸ぐらを掴み無理やり立たせながら、右手で作った拳を後ろに引く紘
紘は鼻血を出している若い男の胸ぐらを掴み無理やり立たせたまま、若い男の顔面を再び思いっきり殴る
鼻血を出しながらその場に勢いよく倒れる若い男
◯1850回想戻り/貴志家リビング(日替わり/朝)
外は快晴
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
耳をテーブルに当てた状態で、テーブルに突っ伏したままいつの間にか眠っている鳴海
テーブルの上には家の鍵が置いてある
どこかでスマホの着信音が鳴っている
目を覚ます鳴海
鳴海はゆっくり体を起こす
鳴海「(ゆっくり体を起こして)クソ・・・」
鳴海は体の関節を鳴らす
体の関節を鳴らしながらポケットからスマホを取り出す鳴海
鳴海のスマホは誰かから電話がかかってきており、着信音が鳴っている
鳴海のスマホには非通知という文字と、電話マークが表示されている
鳴海は体の関節を鳴らしながらスマホで電話に出る
鳴海「(体の関節を鳴らしながらスマホで電話に出て面倒くさそうに)あー・・・もしもし?貴志ですけど・・・そうですよ、俺が貴志鳴海です・・・(驚いて大きな声で)えっ!?」
鳴海はスマホで電話をしながら体の関節を鳴らすのをやめる
鳴海「(電話をしながら)ほ、本当ですか!?あ、ありがとうございます!!は、はい、明日の8時半ですね、わ、分かりました!!よろしくお願いします!!(少し間を開けて)し、失礼します」
鳴海のスマホの電話が切れる
鳴海はゆっくりスマホをテーブルの上に置く
鳴海「(ゆっくりスマホをテーブルの上に置いて)や、やった・・・(大きな声で)よしよしよしよしよしよしよし仕事が決まったぞ!!!!」
鳴海はテーブルを思いっきり叩く
鳴海「(テーブルを思いっきり叩いて大きな声で)お、俺はやれば出来る男だ!!!!面接なんて簡単じゃないか!!!!」
鳴海は慌ててテーブルの上のスマホを手に取る
鳴海「(慌ててテーブルの上のスマホを手に取って)な、菜摘に連絡しよう!!」
鳴海はスマホの電話帳を開く
鳴海のスマホの電話帳には、”天城明日香”、”姉貴”、”伊桜京也”、”一条雪音”、”奥野真彩”、”神北龍造”、”三枝響紀”、”早乙女菜摘”、”早乙女潤”、”早乙女すみれ”、”白石嶺二”、”永山詩穂”、”南汐莉”と表示されており、それぞれ電話番号が登録されている
鳴海はスマホの電話帳に表示されている”早乙女菜摘”という文字をタップし、菜摘に電話をかける
鳴海のスマホからはコール音が鳴る
鳴海のスマホはしばらくの間何回かコール音が鳴り続ける
コールが鳴り続けた後、留守番電話に繋がる鳴海のスマホ
鳴海のスマホからは菜摘の声が音声ガイダンスとして”早乙女です、ごめんなさい、今は電話に出られないので、御用の方はピーという発信音の後にメッセージを・・・”と流れて来る
鳴海「(スマホで菜摘の声の音声ガイダンスを聞きながら)ま、まさかこんな時に限ってまだ寝てるのか・・・?」
鳴海はスマホから流れている菜摘の声の音声ガイダンスを途中で切る
再びスマホで菜摘に電話をかける鳴海
鳴海のスマホはしばらくの間何回かコール音が鳴り続ける
コールが鳴り続けた後、再び留守番電話に繋がる鳴海のスマホ
鳴海のスマホからは菜摘の声が音声ガイダンスとして”早乙女です、ごめんなさい、今は電話に出られないので、御用の方はピーという発信音の後にメッセージを残してください、こちらから折り返します、ピー。”と流れて来る
鳴海「(スマホで菜摘に電話をかけながら)も、もしもし菜摘、俺だ、鳴海だ、つ、伝えたいことがあるからこれを聞いたらかけ直してくれ」
鳴海は菜摘にメッセージを残してスマホの電話を切る
再びテーブルの上にスマホを置く鳴海
少しの沈黙が流れる
鳴海「る、留守電なんか残さなくても今から菜摘の家に行って直接話をすれば良いか・・・」
鳴海は立ち上がる
リビングをうろうろし始める鳴海
鳴海「(リビングをうろうろしながら)だ、だがそれで菜摘が家にいなかったらどうするんだ?な、菜摘ならすみれさんと買い物をしてるかもしれないぞ。ん?買い物?それじゃスマホは持ってないか・・・?家にスマホを忘れるなんてことを菜摘がするとは思えないしな・・・(少し間を開けて)も、もし菜摘が電話に出られない状況にいるんだとしたら・・・」
鳴海はリビングをうろうろするのをやめる
鳴海「(リビングをするのをやめて)ど、どういうことだよ電話に出られない状況って・・・そ、それこそまだ眠っていたり・・・映画館にいたり・・・海で泳いでいたり・・・(少し間を開けて)た、体調が悪かったり・・・い、いややっぱり家に行こう!!な、菜摘に電話に出ないなんて普通じゃ・・・」
鳴海は独り言の途中で口を閉じる
テーブルに向かって椅子に座る鳴海
鳴海「(テーブルに向かって椅子に座って)お、落ち着け・・・お、落ち着くんだ・・・取り乱すことじゃない・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「で、電話ならそのうちかかってくるさ・・・そ、そのうちな・・・」
時間経過
昼前になっている
鳴海は椅子に座って菜摘から折り返しの電話がかかって来るのを待っている
テーブルの上には鳴海のスマホと家の鍵が置いてある
テーブルの上に置いてあるスマホを睨んでいる鳴海
テーブルの上のスマホを睨んだままスマホのことを指差す鳴海
鳴海「(テーブルの上のスマホを睨んだままスマホのことを指差して)昼飯を食わずにお前のことを見張ってやるからな。悪いが菜摘からの電話を見逃すわけにはいかないんだ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(テーブルの上のスマホを睨んでスマホのことを指差したまま)電話がかかって来たら光の速さでお前を手に取って・・・」
時間経過
昼過ぎになっている
変わらず椅子に座って菜摘から折り返しの電話がかかって来るのを待っている鳴海
テーブルの上には鳴海のスマホと家の鍵が置いてある
鳴海「3時間近く待ってるが・・・折り返して来る気配が全くないな・・・こうなったら徹夜してでも菜摘からの電話をここで待って・・・」
突然、鳴海のスマホの着信音が鳴り響く
鳴海は慌ててテーブルの上のスマホを手に取る
急いでスマホで電話に出る鳴海
鳴海「(スマホで電話に出て)も、もしもし菜摘!!」
電話をかけて来た相手は菜摘
鳴海「(スマホで菜摘と電話をしながら)よ、良かった・・・し、心配してたんだぞ。(少し間を開けて)あ、ああ、仕事のことでさ、合格したんだ。えっ?ひ、緋空浜か?わ、分かった!!」
鳴海はスマホで菜摘との電話を切る
テーブルの上に置いてあった家の鍵を急いで手に取る鳴海
◯1851緋空浜(昼過ぎ)
快晴
緋空浜の浜辺にいる鳴海
太陽の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849のかつての緋空浜に比べると汚れている
鳴海は浜辺で菜摘が来るのを待っている
緋空浜には鳴海以外にも、釣りやウォーキングをしている人、浜辺で遊んでいる人などたくさんの人がいる
鳴海が菜摘を待っている場所は、◯1849でかつて由夏理がタバコを吸っていた場所と完全に同じ
少しすると遠くの方から菜摘が小走りで鳴海のところに向かって来る
菜摘が自分のところに向かって来ていることに気付き、同じように小走りで菜摘のところに向かう鳴海
鳴海は小走りで菜摘のところに向かいながら両手を広げる
小走りで菜摘のところに向かいながらそのまま菜摘のことを抱き締めようとする鳴海
菜摘抱き締めようとしている鳴海に対していきなり鳴海の唇にキスをする
両手を広げたままいきなり菜摘にキスをされたことに驚いて両目を見開く鳴海
菜摘は両目を瞑ながら両手を広げている鳴海とキスをしている
鳴海と菜摘の周囲にいる人たちはキスをしている鳴海と菜摘のことを顔を赤くしながら見ている
両目を瞑っている菜摘とキスをしたまま菜摘のことを抱き締める鳴海
鳴海は菜摘のことを抱き締めて菜摘とキスをしたまま両目を瞑る
鳴海と菜摘の足元には、キスをしている鳴海と菜摘の綺麗なシルエット姿が影になって映し出されている
少しの間鳴海と菜摘は両目を瞑ったままキスをし続ける
キスをするのをやめる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘は両目を開ける
菜摘「(鳴海に抱き締められたまま両目を開けて)おめでとう鳴海くん」
鳴海「(菜摘のことを抱き締めたまま少し笑って)ありがと」
鳴海と菜摘はお互いのおでこをくっつけ合う
菜摘「(鳴海に抱き締められたまま鳴海とおでこをくっつけ合って)お仕事、頑張ってね」
鳴海「(菜摘のことを抱き締めたまま菜摘とおでこをくっつけ合って)任せておけ」
鳴海と菜摘の足元には、お互いのおでこをくっつけ合っている鳴海と菜摘の綺麗なシルエット姿が影になって映し出されている
鳴海と菜摘の足元にあるお互いのおでこをくっつけ合っている綺麗なシルエット姿の影は、鳴海と菜摘の胸元の部分だけ影になっておらずハートの形が出来ている
◯1852早乙女家リビング(夕方)
夕日が沈みかけている
早乙女家リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
キッチンではすみれが料理をしている
話をしている鳴海たち
鳴海「すみませんすみれさん・・・またご馳走になっちゃって・・・」
すみれ「(キッチンで料理をしながら少し笑って)おめでたい日に一人ぼっちのご飯なんて寂しいでしょう?」
鳴海「(少し笑って)ま、まあ・・・でも俺、いつも夜はぼっち飯ですから」
菜摘「一人で食べてたらご飯も腐っちゃうよ鳴海くん」
鳴海「(少し笑いながら)別に腐りはしないけどな」
すみれ「(キッチンで料理をしながら少し笑って)でも今晩はみんなでお祝いをしないと」
鳴海「あ、ありがとうございます」
時間経過
夜になっている
テーブルに向かって椅子に座っている鳴海、菜摘、すみれ
テーブルの上にはお赤飯、鯛の塩焼き、えび、さつま芋、レンコン、茄子、舞茸などの天ぷら、茶碗蒸し、お吸い物、ローストビーフ、取り皿が置いてある
取り皿は鳴海たちそれぞれの分が用意されてある
夕飯を食べている鳴海、菜摘、すみれ
鳴海はお吸い物を飲んでいる
菜箸を使って茄子と舞茸の天ぷらを取り皿に盛る菜摘
菜摘「(菜箸を使って茄子と舞茸の天ぷらを取り皿に盛りつけて)鳴海くん、茄子と舞茸の天ぷらはどう?」
鳴海はお吸い物をむせる
お吸い物を飲むのをやめて口を押さえながら咳き込む鳴海
鳴海「(口を押さえて咳き込みながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・い、いや・・・な、茄子と舞茸は遠慮しとくよ」
菜摘「(菜箸を使って茄子と舞茸の天ぷらを取り皿に盛りつけながら残念そうに)美味しいのに・・・」
菜摘は茄子と舞茸の天ぷらを取り皿に盛りつけ終える
お吸い物が入っていた汁椀を置く鳴海
少しの沈黙が流れる
鳴海は菜箸を手に取る
菜箸を使ってえびとレンコンの天ぷらを取り皿に盛る鳴海
鳴海「(菜箸を使ってえびとレンコンの天ぷらを取り皿に盛りつけて)え、えびとレンコンの天ぷらを頂きますね」
再び沈黙が流れる
鳴海はえびとレンコンの天ぷらを取り皿に盛りつけ終える
すみれ「苦手なの?鳴海くん」
鳴海「えっ?」
すみれ「茄子と舞茸」
鳴海「そ、そんなことないですよ、た、ただ今日はどちらかと言うとエビとかレンコンが食べたくて」
菜摘「お母さん、鳴海くんはキノコ類が全般苦手なんだよ」
すみれ「あらまあ・・・それじゃあ茄子の天ぷらは?美味しく出来た自信があるから是非鳴海くんにも食べて欲しいのだけれど・・・」
鳴海「す、すみませんすみれさん、茄子はちょっと・・・」
すみれ「茄子も苦手なの?」
鳴海「に、苦手というかですね・・・あ、ある種のアレルギーみたいな・・・」
菜摘「実は鳴海くんは、椎茸が一番苦手な食べ物で、その次に苦手なのが・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)こ、この話はトップシークレットだぞ菜摘」
菜摘「でもトップシークレットの割には色んな人に知れ渡っている情報だよ」
鳴海「き、機密を保持しない輩がいるからだろ!!」
菜摘「だって好き嫌いは良くないもん」
鳴海「も、もちろんそれは重々承知している、だが俺が食べるよりも、キノコや茄子のことを美味いと感じてくれる心が綺麗な人間に食してもらった方が良いだろ?そ、その方がキノコたちも幸せのはずだ」
菜摘「鳴海くんも心は綺麗だよ」
鳴海「き、綺麗でも苦手なものはあるさ」
すみれは笑い出す
鳴海「わ、笑わないでくださいよ」
すみれ「(笑いながら)ご、ごめんなさい・・・鳴海くんのお母さんのことを思い出してしまったの」
鳴海「は、母がどうかしたんですか?」
すみれ「(笑いながら)鳴海くんのお母さんはピーマンとグリーンピースが苦手で、よく紘くんが代わりに食べていたのよ」
鳴海「お、俺はピーマンとグリーンピースは平気ですから」
菜摘「椎茸と茄子とところてんも食べられるようになろう、鳴海くん」
鳴海「そ、それは無理だ」
すみれ「ところてんも苦手なの?」
鳴海「は、はい・・・」
菜摘「椎茸と茄子が苦手っていう人は時々いる気がするけど、ところてんはちょっと珍しいよね」
鳴海「ところてんとはな・・・色々あったんだよ・・・」
菜摘「い、色々・・・?」
鳴海「昔ところてんが喉に詰まりかけたことがあって、それがトラウマになってるんだ」
菜摘「鳴海くん、急いで食べようとすることが多いもんね、この前のおにぎりの時もそうだったし」
鳴海「き、気をつけるよ」
玄関の方から潤が帰って来た音が聞こえる
潤「(大きな声)ただいまだぞ家族たち!!!!」
玄関から潤の大きな声が聞こえて来る
鳴海「げ、元気だな・・・」
作業服姿の潤がリビングにやって来る
すみれ「お帰りなさい」
潤「おう」
潤はテーブルの上の料理を見る
潤「(テーブルの上の料理を見て)今晩はご馳走だな」
菜摘「鳴海くんのお仕事が決まったからお祝いの晩ご飯なんだよ、お父さん」
潤はテーブルの上の料理を見るのをやめる
潤「(テーブルの上の料理を見るのをやめて)鳴海?誰だそのヘンテコな名前の奴は」
鳴海「俺だよ」
潤「(驚いて)な、何でまたお前が我が家のディナーにいやがる!?さ、さては不法侵入か!?」
鳴海「(呆れて)招待されたんだ」
潤「自惚れるんじゃねえぞガキンチョ、俺はお前を招待したことなんて一度も・・・」
菜摘「(潤の話を遮って)招待したのは私だもん」
少しの沈黙が流れる
潤「菜摘の客ってことならしょうがなく特別扱いしてやるか・・・一家の大黒柱である俺様に感謝しろ義理の息子」
鳴海「ありがとよ義理の親父」
時間経過
夕食を終えた鳴海、菜摘、すみれ、潤
テーブルの上には空になったお皿が置いてある
潤は缶ビールを持っている
話をしている鳴海たち
潤は缶ビールを開ける
潤「(缶ビールを開けて)そうか、ついにお前も宇宙飛行士になるんだな、おめでとう」
潤は缶ビールを一口飲む
缶ビールをテーブルの上に置く潤
潤「すみれも一杯どうだ」
すみれ「一杯だけなら・・・」
潤は飲みかけの缶ビールを手に取る
すみれのコップに缶ビールを注ぐ潤
潤はすみれのコップに缶ビールを注ぎ終える
再び缶ビールをテーブルの上に置く潤
すみれ「潤くん」
潤「何だマイワイフ」
すみれ「今注いだビール、潤くんの飲みかけですよ」
潤「そうだなすみれ。これが大人の間接キスの仕方だ、覚えておくんだぞ菜摘」
菜摘「う、うん・・・」
鳴海「(小声でボソッと)覚えるなよ・・・」
すみれはコップに注がれたビールを一口飲む
すみれ「(コップに注がれたビールを一口飲んで)鳴海くん」
鳴海「はい」
すみれ「聞きたいことがあるんだけど・・・」
鳴海「何ですか?」
すみれ「宇宙人って・・・本当にいるのかしら・・・」
再び沈黙が流れる
潤「てめえすみれのことを無視するのか」
鳴海「無視はしていない思考が停止していただけだ」
すみれ「宇宙人、鳴海くんいるの?」
鳴海「た、単語が逆になってるせいで、宇宙人に俺が存在しているか聞いてるみたいになってますけど・・・」
潤「はぐらかすんじゃねえよ、早く答えてやれ鳴海」
鳴海「はぐらかしてなんかないんだが・・・」
すみれ「はぐらかさないでください」
鳴海「いやだからはぐらかしてないですって」
菜摘「いないの?宇宙人」
鳴海「な、何で菜摘まで気になってるんだよ・・・」
菜摘「宇宙人、会ってみたいなぁ・・・」
鳴海「別に会わなくて良いだろ・・・というか宇宙人なんて存在してるわけないじゃないか」
潤「て、てめえ・・・俺たち早乙女家の夢とロマンを壊したな・・・」
鳴海「は・・・?」
菜摘「(寂しそうに)宇宙人・・・いないんだ・・・」
すみれ「(寂しそうに)宇宙人・・・いないんですね・・・」
潤「(寂しそうに)宇宙人・・・いないのかよ・・・」
鳴海「繰り返さなくで良いですから・・・」
少しの沈黙が流れる
潤「で、いつ宇宙に行くんだ」
鳴海「行かねえよ!!」
潤「パイロットになったんだろ」
鳴海「何で俺がパイロットになったと思い込んでるんだ!!」
潤「仕事を見つけたんじゃないのか?」
鳴海「あんたの頭の中じゃ仕事イコールパイロットなのかよ・・・」
潤「モノリスを探し出すのがお前の夢だったんだろ」
鳴海「いつどこで俺がそんな夢を語った・・・」
再び沈黙が流れる
潤「すみれ、こいつパイロットになるんじゃないのか」
すみれ「なりませんよ」
潤「期待させるだけさせて裏切ったな義理の息子」
鳴海「言っておくがあんたが勝手に期待しただけだからな・・・」
すみれ「鳴海くん」
鳴海「今度は何ですか・・・?」
すみれ「本当にいないの?宇宙人」
鳴海「(大きな声で)知りませんよ!!!!」
潤「もっと気が利く答えを用意しとけってんだ」
鳴海「(大きな声で)気が利く答えなんかあるか!!!!」
菜摘「友達に宇宙人がいますよ、って答えるのはどうかな?」
鳴海「それはもうやばい奴のアンサーだろ・・・」
すみれ「今日の茄子の天ぷらは衣がふわふわしていて、舌の上で溶けてしまった、対して中の茄子は身が詰まっていて食べ応えがバッチリだった、って答えなら気が利いていると思います」
鳴海「それ宇宙人関係ないですよね・・・しかも茄子は俺食べてないですし・・・というかそんな食レポみたいなこと言えるか!!」
菜摘「何だか荒ぶってるね、鳴海くん」
鳴海「誤解するな・・・俺は荒ぶってるんじゃなくてツッコミを入れてるんだ・・・」
菜摘「お仕事のために体力は温存しといた方が良いんじゃない・・・?」
鳴海「そ、そうだな・・・」
潤「明日から緋空浜なんだろ」
鳴海「ちゃんと話を聞いてるなら無駄にボケるなよ・・・」
潤「あぁん?」
鳴海「何でもないです・・・」
潤「まあ無理せずに頑張れよ」
鳴海「いや、ひたすら頑張るさ」
潤は缶ビールを手に取って一口飲む
缶ビールをテーブルの上に置く潤
潤「(缶ビールをテーブルの上に置いて)鳴海」
鳴海「ん?」
潤「やばくなったら足を止めろ、がむしゃらに突き進んでも壁にぶつかる時はぶつかるんだ。そんでぶつかちまった時は俺たちや風夏ちゃんを頼れ。良いな」
鳴海「あ、ああ」
◯1853早乙女家前(夜)
満月が出ている
菜摘の家の前にいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘は話をしている
菜摘「お母さんとお父さん、凄く喜んでたよ」
鳴海「そうか?」
菜摘「うん、少し安心したのかもしれないね」
鳴海「人の親に心配をかけてるなんてみっともないな・・・」
菜摘「心配するのはそれだけ鳴海くんが愛されてるからだよ」
鳴海「愛していても宇宙飛行士になると思い込んでたんだろ?」
菜摘「(少し笑って)それも愛の形のじゃないかな」
鳴海「(少し笑って)変わった形だ」
菜摘「(少し笑いながら)そうだね」
少しの沈黙が流れる
鳴海「合同朗読劇は成功させた・・・文芸部での活動は終わった・・・高校を卒業した・・・(少し間を開けて)今までやって来たことを終わらして、俺たちは次のステップに進むんだ」
菜摘「きっと新しい人生の波が訪れるよ」
鳴海「ああ。素晴らしく立派な大人になってやるぞ」
菜摘「何か作戦はあるの?鳴海くん」
鳴海「作戦、か・・・とりあえず風呂に入って、歯を磨いて、寝る」
菜摘「作戦というよりは・・・この後の予定だね」
鳴海「そうだ、でも悪くない予定だろ?」
菜摘「うん、私も同じ予定だよ」
鳴海「(少し笑って)やっぱりな」
再び沈黙が流れる
鳴海「あ、合言葉でも決めておくか?」
菜摘「合言葉?」
鳴海「あ、ああ」
菜摘「例えばどんなの?」
鳴海「お、俺がカップって言ったら菜摘はラーメンって返すとか」
少しの沈黙が流れる
菜摘「あ、合言葉っているのかな・・・?」
鳴海「いらないかもしれない・・・というか風呂に入って、歯を磨いて、寝る作業の合言葉って何だよ・・・」
菜摘「一人ツッコミ?」
鳴海「そんなところだ」
再び沈黙が流れる
鳴海「菜摘、寒くないか?」
菜摘「大丈夫だよ」
鳴海「でもそろそろ家の中に戻って・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)向日葵が教えてくれる、波には背かないで」
鳴海「何だそれ」
菜摘「合言葉だよ、鳴海くん」
鳴海「向日葵が・・・何だって?」
菜摘「向日葵が教えてくれる、波には背かないで」
鳴海「なるほど・・・?意味を教えてくれ」
菜摘「うーん・・・」
鳴海「そんなに複雑で難しい言葉なのか?」
菜摘「意味は簡単だよ、でも前にも言ったけど、こういうのって全貌が見えない方が魅力的じゃないかな?」
鳴海「俺だけ意味を知らずに使うのは馬鹿みたいだと思うんだが・・・」
菜摘「じゃあ意味はなしってことにしよう!!向日葵が教えてくれる、波には背かないでは、ただの言葉遊び!!」
鳴海「でも菜摘は本当の意味を知ってるんだろ?」
菜摘「私が知っていた意味はたった今消えちゃったよ、鳴海くん」
鳴海「そ、そうなのか・・・」
菜摘「最初に向日葵が教えてくれるって言って、私と鳴海くんのどちらかが・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)波には背かないでって返すんだろ?」
菜摘「うん!!」
鳴海「向日葵が教えてくれる、波には背かないでが、俺たちのこれからの人生を表す言葉だな」
菜摘「そ、そうだね!!な、鳴海くんも悪くない言葉だと思う?」
鳴海「ああ、良いと思うぞ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「向日葵が教えてくれる・・・」
鳴海「波には背かないで」
菜摘は笑顔になる
菜摘「(笑顔になって)最高だよ、鳴海くん」
鳴海「(少し笑って)菜摘が最高なら俺も最高だ」
菜摘「(笑顔のまま)鳴海くんが最高だから私も最高に・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って少し笑いながら)分かったから家に戻れ菜摘、あんまり長居してると潤さんが夜遊びすんなってブチギレて来るぞ」
菜摘「う、うん・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「じゃあ・・・また今度・・・だね」
鳴海「ああ、お休み」
菜摘「お休みなさい、鳴海くん」
菜摘は家の扉を開けようとする
鳴海「菜摘!!」
菜摘は家の扉を開けようとするのをやめる
家の扉を開けようとするのをやめて振り返る菜摘
菜摘「(振り返って)な、何?」
鳴海「向日葵が教えてくれる」
菜摘は再び笑顔になる
菜摘「(笑顔になって)波には背かないで」
鳴海は頷く
鳴海「またな」
菜摘「(笑顔のまま)うん、バイバイ鳴海くん」
菜摘は家の扉を開ける
家の中に入る菜摘
少しの沈黙が流れる
鳴海は自分の家を目指して歩き始める
◯1854貴志家鳴海の自室(深夜)
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から満月の光が差し込んでいる
鳴海「向日葵が教えてくれる・・・波には背かないで・・・向日葵が・・・教えて・・・くれる」
鳴海は両目を瞑る
鳴海「(両目を瞑って)波には・・・背かないで・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海は眠っている