Chapter7♯5 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
・・・?
ミツナ 19歳女子
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X 25歳女子
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Y 25歳男子
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ドクターS 19歳女子
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シュタイン 23歳男子
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伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯5 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯1793波音総合病院に向かう道中(昼前)
快晴
波音総合病院に向かっている鳴海とすみれ
鳴海とすみれはそれぞれエコバッグを持っている
鳴海とすみれが持っているエコバッグの中にはスーパーで買った物が入っている
話をしている鳴海とすみれ
すみれ「ごめんね鳴海くん、付き合わせた上に荷物まで持たせてしまって」
鳴海「いえ・・・俺は構いませんけど・・・(少し間を開けて)菜摘を置いて行って良かったんですか?」
すみれ「検査には1時間くらい時間がかかるの、だから昔から菜摘が病院にいる間によくお買い物をしているんです、そうしないと家で菜摘に待ってもらうことになりますから」
鳴海「なるほど・・・」
少しの沈黙が流れる
すみれ「鳴海くん、菜摘のことなんだけど・・・」
鳴海「何です?」
すみれ「菜摘はこの先も・・・病院で検査を受け続けたりすることや、また入院することがあるかもしれません・・・だからもし鳴海くんが・・・これからの人生でも菜摘と一緒にいたいと考えているのなら・・・鳴海くんにも菜摘の病気を・・・」
鳴海「(すみれの話を遮って)すみれさん、俺は絶対に菜摘のことを拒んだりしません、びょ、病気のこともだし、俺はあいつの全てを受け入れています」
すみれ「そう言ってくれてありがとう、鳴海くん。(少し間を開けて)でも私は、鳴海くんが全部を背負わなくても良いと考えているの。私たちは家族ですから・・・菜摘の病気のことは、みんなで乗り越えて行ければと・・・」
鳴海「す、すみれさんは俺のことを家族だと思ってくれてるんですか?」
すみれ「鳴海くんは私たちの子供も・・・(少し間を開けて)ごめんなさい」
鳴海「ど、どうして謝るんです?」
すみれ「言葉にすることで、私は自分を慰めようとしていたから・・・」
鳴海「慰める・・・?」
すみれ「ええ。(少し間を開けて)でも勘違いしないで、鳴海くん、本当にあなたは私と潤くんの子供も同然なの」
鳴海「あ、ありがとうございますすみれさん。俺、別にすみれさんを慰めるために使われても全然気しないですよ」
すみれ「それでも・・・やっぱり、自分のために誰かを利用するなんて子供じみていますから」
鳴海「そうですかね?」
すみれは頷く
鳴海「す、すみれさんって・・・昔は女優を目指していたんですか?」
すみれ「(驚いて)じゅ、潤くんからそれを聞いたの?」
鳴海「い、いや・・・まあ・・・」
すみれ「(少し笑って)女優を目指していたってほど大したことはしていないんですよ。私は若い頃に少し、役者さんに憧れただけだから」
鳴海「でもテレビとか映画に出演してたんじゃないんですか?」
すみれ「(少し笑いながら)確かに出たことはあるけど、ほとんどは通行人役」
鳴海「じ、事務所とかに入ってたりは・・・?」
すみれ「(少し笑いながら)一応はね、でもオーディションで落選しっぱなしだったから、菜摘の妊娠を機会にきっぱりやめたの」
鳴海「そ、そうだったんですか」
すみれ「若い頃・・・私と潤くんは・・・夢を追うのに必死だった。私は女優になりたかったし、潤くんは映画監督に・・・」
鳴海「だから映画研究会だったんですね?」
すみれ「(少し笑って)そんなことまで潤くんから聞いたの?」
鳴海「え、えっと・・・じゅ、潤さんから聞いたんじゃなくて・・・(少し間を開けて)は、母が言っていたのを思い出したんです」
すみれ「由夏理が?」
鳴海「は、はい。こ、高校生だった頃に友達と映画を撮ってたって」
すみれ「(少し笑って)映画と言っても、実際のところは身内のホームビデオみたいなものですよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「む、昔・・・きょ、挙動不審の奴が撮影の手伝いをしてませんでしたか?」
すみれ「挙動不審・・・?」
鳴海「そ、そうです」
すみれ「撮影は基本的に4人で行っていたから・・・私たちの他に誰かいたなら覚えていると思うけど・・・鳴海くん、それも由夏理から聞いたんですか?」
鳴海「は、はい・・・き、狐の話を撮ってる時だったって言ってました」
すみれ「狐の・・・(少し間を開けて)高校三年生の夏休みに撮ろうとしたキツネ様の奇跡っていう映画は、私と潤くんと由夏理と紘くんの4人が撮影メンバーだったはずだけど・・・」
鳴海「そ、そうですか・・・」
すみれ「菜摘と鳴海くんたちがやっていた文芸部の活動に比べると、私たちの映画はお遊びに過ぎなかったと思います。もちろん、それでも潤くんは本気で映画を撮ろうとしていたし、私は潤くんが監督した作品に出演するのが夢で・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「き、キツネ様の奇跡は・・・母が主役だったって・・・」
すみれ「ええ、確かにそうでした」
鳴海「どうしてすみれさんが主役じゃなかったんですか?」
すみれ「私よりも由夏理に合っているキャラクターだったの。最初は私が主役だったんだけど、潤くんにお願いして由夏理と代わってもらったんです」
再び沈黙が流れる
鳴海「すみれさん、母のことを聞いても良いですか?」
すみれ「(驚いて)も、もちろん、何でも聞いて、鳴海くん」
鳴海「母は・・・どんな人でした?」
すみれ「そうね・・・盛り上げるのが上手で・・・明るくて・・・誰とでもすぐに打ち解けられたけど・・・」
鳴海「けど・・・?」
すみれ「とても・・・繊細な一面があったと思う」
鳴海「潤さんは・・・母のことを自由人だったって言っていました」
すみれ「そんな言い方をするなんて・・・ごめんなさい。後で潤くんにキツく・・・」
鳴海「(すみれの話を遮って)いえ、良いんです。確かに自由人という感じがしましたから」
すみれ「鳴海くんはお母さんのことをどれくらい覚えてるの?」
鳴海「両親のことはほとんどが・・・忘れていて・・・(少し間を開けて)でも最近、自分の親がどんな人だったのか少しずつ興味が湧いて来たんです」
すみれ「記憶を辿れば・・・ご両親との思い出が必ず蘇って来るはずよ」
鳴海「それはそうなんですけど・・・昔のことを思い出すのは苦手みたいで・・・」
すみれ「鳴海くんはお父さんよりもお母さんと過ごす時間の方が長かったんじゃない?」
鳴海「どうですかね・・・でも確かに、親父は仕事で忙しかったと思います」
すみれ「お母さんと風夏ちゃんと何かした覚えは?」
鳴海「4、5歳の頃・・・泣いてる俺に、母が親父の写真を持たせてくれたらしいんです。俺は覚えていないんですけど、親父が家にいないのが嫌だったみたいで」
すみれ「その話は・・・風夏ちゃんから聞いたのね?」
鳴海「はい」
すみれ「鳴海くん、子供って珍しいものに惹かれるでしょう?」
鳴海「それがどうかしたんですか?」
すみれ「鳴海くんのお母さんは手先が器用で、高校生の頃によく私や潤くんにマジックを見せくれたの。だからもしかしたら、鳴海くんと風夏ちゃんにも見せてるんじゃないかと思って」
鳴海「いえ、俺は母が器用な人だったなんて知りませんでしたし、マジックなんて見た覚え全然・・・」
鳴海は話途中で口を閉じる
立ち止まる鳴海
◯1794回想/貴志家リビング(約十数年前/夕方)
夕日が沈みかけている
リビングにいる4歳頃の鳴海、10歳頃の風夏
4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏は床に座っている
鳴海「お姉ちゃん、ママは?」
風夏「もうすぐ来るよ」
鳴海「もうすぐっていつ?」
風夏「もうすぐはもうすぐだって」
少しの沈黙が流れる
少ししてから真っ黒なシルクハットに、シルクハットと同じく真っ黒なスーツを着た30歳頃の由夏理がリビングにやって来る
由夏理は革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを持っている
由夏理が着ている真っ黒なスーツは男用でサイズがかなり大きい
由夏理「やあ子供たち、今日は二人を特別なサーカスへ招待しよう」
鳴海「何やってるの?ママ」
由夏理「私はママじゃなくてユカリーニ・ジェルソミーナだよ」
由夏理は4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に向かってウインクをする
再び沈黙が流れる
革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを床に置く由夏理
由夏理は革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に見えないように開ける
革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを開けたままケースの中を覗き込んでいる由夏理
由夏理の顔は革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを覗き込んでいるため見えなくなっている
由夏理「(革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースの中を覗き込んだまま)まずはユカリーニのお化粧をしないとな〜・・・・ん〜・・・化粧道具はっと・・・」
由夏理は革製で出来たヴィンテージ風のスーツケース中を覗き込んだまま、ケースの中をガサゴソと漁り始める
由夏理の顔と、革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースの中身は変わらず4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏には見えていない
由夏理「(革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースの中を覗き、ケースの中をガサゴソと漁りながら)これだ!!」
由夏理は革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースの中を覗くのをやめる
革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを閉じる由夏理
由夏理はいつの間にか付け髭をつけている
付け髭をつけた由夏理の顔を見て笑う4歳頃の鳴海
由夏理「(付け髭をつけたまま)どう?メイク出来てる?」
風夏「髭がついてるよ、ママ」
由夏理「(付け髭をつけたまま)髭?」
自分の顔を触り髭がついているか確認する由夏理
由夏理は付け髭を触る
由夏理「(付け髭をつけたまま付け髭を触って)あっ、ほんとだ。お化粧を間違えちゃったよ」
4歳頃の鳴海は変わらず由夏理のことを見て楽しそうに笑っている
付け髭をつけたまま付け髭を触るのをやめる由夏理
由夏理は付け髭を外す
由夏理「(付け髭を外して)どこかににユカリーニの口紅があったと思うんだけどな〜・・・まあいっか」
由夏理は外した付け髭を後ろに放り投げる
由夏理の後ろの方ではプラスチック製の物が落ちたような音が聞こえる
振り返る由夏理
由夏理の後ろでは付け髭となかったはずの口紅が落ちている
由夏理は付け髭と口紅を拾う
拾った付け髭と口紅を4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏によく見せる由夏理
由夏理「(付け髭と口紅を4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏によく見せながら)見て、髭の中に口紅が隠れてたんだ」
4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏は由夏理が持っている付け髭と口紅を見ている
鳴海「(由夏理が持っている付け髭と口紅を見たまま)凄い、どうやったの?」
由夏理「(付け髭と口紅を4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏によく見せたまま少し笑って)奇跡が起こったのかも?」
4歳頃の鳴海は由夏理が持っている付け髭と口紅を見るのをやめる
鳴海「(由夏理が持っている付け髭と口紅を見るのをやめて)奇跡って何?ママ」
由夏理「(付け髭と口紅を4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏によく見せたまま)ママじゃなくてユカリーニだってば〜!!」
鳴海「ユカリーニ、奇跡って何なの?」
由夏理「(付け髭と口紅を4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏によく見せたまま)奇跡っていうのは・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「ママ・・・?」
由夏理「(付け髭と口紅を4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏によく見せたまま少し笑って)あ、またママって呼んだな〜!!」
鳴海「だってママはママでしょ?」
由夏理は付け髭と口紅を4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に見せるのをやめる
由夏理「(付け髭と口紅を4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に見せるのをやめて)ママって呼んだから奇跡の話はなーし!!」
鳴海「えー!!」
由夏理「なしったらなーし!!」
由夏理は真っ黒なシルクハットを外す
シルクハットの中に付け髭と付け髭をしまう
風夏「パパはどうして髭を生やさないの?」
由夏理「えっ・・・さあ・・・(少し間を開けて小声で)もしかしたら君たちのママは髭の生えた男の人が嫌いなのかもしれないね」
風夏「(少し笑って)そうなんだ」
由夏理は真っ黒なシルクハットを被る
由夏理「(真っ黒なシルクハットを被って)ん・・・なんか頭が重くなったな・・・」
由夏理は再び真っ黒なシルクハットを外す
由夏理が真っ黒なシルクハットを外すと、化粧水、ファンデーション、口紅、アイシャドウ、マスカラ、チークなどの様々な化粧品がシルクハットから由夏理の頭に落ちて来る
4歳頃の鳴海は頭に化粧水、ファンデーション、口紅、アイシャドウ、マスカラ、チークなどの様々な化粧品が落ちて来ている由夏理のことを見て楽しそうに笑う
軽く真っ黒なシルクハットを振る由夏理
由夏理が軽く真っ黒なシルクハットを振ると、付け髭が由夏理の鼻の上に落ちて来る
由夏理の鼻には付け髭が乗っかている
鼻の上に付け髭が乗っかったままくしゃみをする由夏理
10歳頃の風夏は床に落ちたマスカラを拾う
風夏「(床に落ちたマスカラを拾って)ママ、これ貰って良い?」
由夏理「(付け髭が鼻の上に乗っかったまま)あーダメダメ、それは使用期限が過ぎてるからさ」
由夏理は鼻の上に乗っている付け髭を取る
真っ黒なシルクハットの中に付け髭をしまう由夏理
鳴海「今お姉ちゃんママのことをママって呼んだ」
由夏理は真っ黒なシルクハットを被る
風夏「ママはママじゃん」
由夏理「(少し笑って)だーかーら、ママじゃなくてユカリーニだってば!!」
風夏「何でママはこんなにたくさんの期限切れのメイク道具を持ってるの?」
由夏理「そ、それは・・・」
由夏理は床に落ちた様々な化粧品を両手でかき寄せる
由夏理「(床に落ちた様々な化粧品を両手でかき寄せて)デートに行く機会が減ったから?」
由夏理は床に落ちた様々な化粧品を両手でかき寄せるのをやめる
革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に見えないように開ける由夏理
由夏理は革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に見えないように開けて、拾った様々な化粧品をスーツケースの中に雑にしまう
少しの沈黙が流れる
革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを開けたままケースの中を覗き込む由夏理
由夏理の顔は革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを覗き込んでいるため見えなくなっている
由夏理「(革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースの中を覗き込んだまま)ていうのは大人の最低な冗談で・・・」
由夏理は革製で出来たヴィンテージ風のスーツケース中を覗き込んだまま、再びケースの中をガサゴソと漁り始める
由夏理の顔と、革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースの中身は変わらず4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏には見えていない
由夏理「(革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースの中を覗き、ケースの中をガサゴソと漁りながら少し寂しそうに笑って)たまたま使用期限が切れたメイク道具を、ママがたくさん持ってるだけなのさ」
由夏理は革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースの中を覗くのをやめる
革製で出来たヴィンテージ風のスーツケースを閉じる由夏理
由夏理は2本のステッキを持っている
鳴海「ママはママのことをママって呼ので良いの?」
由夏理「(少し笑って)間違えた間違えた、ママじゃなくて私はユカリーニだよ、鳴海」
由夏理は2本のステッキでジャグリングを始める
由夏理「(2本のステッキでジャグリングをしながら)二人は凄く良い子だから・・・」
由夏理がジャグリングをしている2本のステッキは天井スレスレのところまで上がっては落ちて来る
由夏理「(2本のステッキでジャグリングをしながら)プレゼントをあげよう」
由夏理は2本のステッキでジャグリングをするのをやめる
2本のステッキを軽く振る由夏理
由夏理は2本のステッキを軽く振るが、2本のステッキに変化はない
再び2本のステッキを軽く振る由夏理
2本のステッキに変わらず変化がない
由夏理「んー・・・上手くいかないなー・・・(少し間を開けて)もしかしたら、3人の力が必要なのかも」
鳴海「3人でやるの?」
由夏理は2本のステッキをそれぞれ4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に差し出す
由夏理「(2本のステッキをそれぞれ4歳頃の鳴海と10歳頃の風夏に差し出して)私が良いって言うまで振っちゃいけないからね?」
鳴海はステッキの1本を由夏理から受け取る
鳴海「(ステッキの1本を由夏理から受け取って)うん!」
風夏はステッキの1本を由夏理から受け取る
由夏理「風夏、鳴海にぶつからないよに少し離れてあげて」
10歳頃の風夏は4歳頃の鳴海から少し離れる
由夏理「よーし・・・私が3、2、1、0って言うから、二人は0になった瞬間にそのステッキを振るんだよー」
鳴海「0になったしゅんかん?」
由夏理「うん、1の次の0で・・・(少し間を開けて)や、やっぱり鳴海はママと一緒にやろっか」
鳴海「どーして?」
由夏理「(少し笑って)ママは鳴海みたいに力持ちじゃないからさ、鳴海にお手伝いして欲しいんだ」
鳴海「いーよ」
由夏理「(少し笑いながら)ありがとう、鳴海」
由夏理は4歳頃の鳴海の後ろに回る
4歳頃の鳴海が持っているステッキを一緒に持つ由夏理
由夏理「(後ろから4歳頃の鳴海が持っているステッキを4歳頃の鳴海と一緒に持って)風夏、準備は良い?」
10歳頃の風夏は頷く
由夏理「(後ろから4歳頃の鳴海が持っているステッキを4歳頃の鳴海と一緒に持ったまま)じゃあいくよ・・・3・・・2・・・1・・・0!!」
10歳頃の風夏はステッキを振る
由夏理と一緒にステッキを振る4歳頃の鳴海
由夏理と一緒に4歳頃の鳴海が持っているステッキと、10歳頃の風夏がステッキを振った瞬間、2本のステッキの先からおもちゃの赤いバラが生えて来る
由夏理は4歳頃の鳴海が持っている先からおもちゃの赤いバラが生えたステッキを離す
由夏理「(4歳頃の鳴海が持っている先からおもちゃの赤いバラが生えたステッキを離して少し笑いながら)ん、鳴海と風夏には赤いバラをプレゼントするね」
風夏はステッキの先から生えたおもちゃ赤いの赤いバラを見る
風夏「(ステッキの先から生えた赤いの赤いバラを見て)でもこれ・・・偽物・・・」
由夏理「(少し笑いながら)モノホンは枯れちゃうんだからさ、偽物の方が良いんだよ風夏」
風夏「(ステッキの先から生えたおもちゃの赤いバラを見たまま)そうかなぁ・・・」
鳴海「ありがと、ママ」
由夏理は4歳頃の鳴海のことを後ろからいきなり抱き締める
由夏理「(4歳頃の鳴海のことを後ろからいきなり抱き締めて)ママじゃなくてユカリーニだって言ってるじゃん!!」
鳴海「(由夏理に後ろから抱き締められたまま)は、離してよママ・・・」
由夏理「(4歳頃の鳴海のことを後ろから抱き締めたまま少し笑って)ママのハグを嫌がっている子のことは離してあげてませーん!!」
10歳頃の風夏は俯く
風夏「(俯いて)ママ」
由夏理「(4歳頃の鳴海のことを後ろから抱き締めたまま少し笑って)ユカリーニって呼んでくれなきゃ風夏の話を聞いてあげないしー」
風夏「(俯いたまま)パパはいつ帰って来るの?」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(4歳頃の鳴海のことを後ろから抱き締めたまま)風夏もこっちにおいで」
10歳頃の風夏は俯いたまま4歳頃の鳴海のことを後ろから抱き締めている由夏理のところに行く
由夏理「(4歳頃の鳴海のことを後ろから抱き締めたまま)背中を向けてごらん、私の麗しいお嬢さん」
10歳頃の風夏は4歳頃の鳴海のことを後ろから抱き締めている由夏理に背中を向ける
由夏理は右手で後ろから4歳頃の鳴海のことを抱き締めたまま、左手で後ろから10歳頃の風夏のことを抱き締める
右手で4歳頃の鳴海、左手で10歳頃の風夏のことを後ろから抱き締めている由夏理
10歳頃の風夏は変わらず左手で後ろから由夏理に抱き締められたまま俯いている
由夏理「(右手で4歳頃の鳴海、左手で俯いている10歳頃の風夏のことを後ろから抱き締めたまま小声で)ママはさ、昔パパにうなじが綺麗だって言われたんだ」
由夏理は右手で4歳頃の鳴海、左手で俯いている10歳頃の風夏のことを後ろから抱き締めたまま、俯いている10歳頃の風夏のうなじにキスをする
由夏理「(右手で4歳頃の鳴海、左手で俯いている10歳頃の風夏のことを後ろから抱き締めたまま、10歳頃の風夏のうなじにキスをして小声で)風夏はママに似てるよ」
再び沈黙が流れる
由夏理「(右手で4歳頃の鳴海、左手で俯いている10歳頃の風夏のことを後ろから抱き締めたまま)二人とも・・・パパがいなくて寂しいよね・・・」
10歳頃の風夏は俯き、左手で後ろから由夏理に抱き締められたまま頷く
由夏理「(右手で4歳頃の鳴海、左手で俯いている10歳頃の風夏のことを後ろから抱き締めたまま)鳴海も寂しい・・・?」
鳴海「(右手で由夏理に後ろから抱き締められたまま)うん・・・」
少しの沈黙が流れる
風夏「(俯き左手で由夏理に抱き締められたまま)ママは・・・パパがいつ帰って来るか知らないの・・・?」
由夏理「(右手で4歳頃の鳴海、左手で俯いている10歳頃の風夏のことを後ろから抱き締めたまま)う、うん・・・で、でもきっともうすぐ帰って来るって風夏」
風夏「(俯き左手で由夏理に抱き締められたまま)家族でも・・・知らないことってあるんだね・・・」
再び沈黙が流れる
由夏理は右手で4歳頃の鳴海、左手で俯いている10歳頃の風夏のことを後ろから強く抱き締める
由夏理「(右手で4歳頃の鳴海、左手で俯いている10歳頃の風夏のことを後ろから強く抱き締めて小声で)家族なのに・・・夫婦なのにさ・・・ママ・・・知らないことだらけでごめんね・・・風夏・・・鳴海・・・」
◯1795回想戻り/波音総合病院に向かう道中(昼前)
波音総合病院に向かう道中にいる鳴海とすみれ
鳴海とすみれはそれぞれエコバッグを持っている
鳴海とすみれが持っているエコバッグの中にはスーパーで買った物が入っている
立ち止まっている鳴海とすみれ
すみれ「鳴海くん・・・?もしかして・・・お母さんのことを思い出したんですか・・・?」
鳴海「そうですね・・・少しだけ・・・」
鳴海は歩き始める
鳴海に合わせて歩き始めるすみれ
鳴海「すみれさん・・・」
すみれ「何?」
鳴海「記憶を辿るのって、どうして辛い旅になるんでしょうか」
すみれ「それは・・・きっと過ぎ去ってしまった幸せが切なくて・・・痛みに変わってしまうことがあるからよ・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「菜摘の病気よりも・・・死んだ両親や、過ぎ去った幸せと向き合う方が俺にはしんどいみたいです」
すみれ「そうですか・・・(少し間を開けて)でも・・・ある日・・・その日がいつなのかは分からないけれど・・・ある日突然、過去が鳴海くんに追いついて、鳴海くんが今まで経験して来たこととと自然に向き合えるようになれるかもしれませんよ」
鳴海「すみれさん・・・そんな日は・・・簡単には来ないと思います・・・」
すみれ「そうですね・・・だけど私は、必ずそういう日が訪れると信じていますよ。鳴海くんが穏やかに、過去を受け入れられる時が来るのをね」
鳴海「(少し笑って)俺は当事者だから、まずは受け入れる努力をしないと」
すみれ「鳴海くん、過度な努力こそが一番危険なのよ」
鳴海「過度な・・・努力ですか」
すみれ「頑張り過ぎは体に良くないでしょう?」
鳴海「でも努力しなきゃ、変わるものも変わりませんよすみれさん」
再び沈黙が流れる
すみれ「そういえば・・・鳴海くんが緋空浜でお仕事を始めると、菜摘から聞きました」
鳴海「ま、まだ履歴書を送っただけなので・・・始まるかどうかは分かりませんけど・・・」
すみれ「面接は?」
鳴海「今度の金曜日の予定です」
すみれ「どういうお仕事なの?」
鳴海「菜摘から聞いてないんですか?」
すみれ「具体的なことはあまり・・・鳴海くん本人から聞くのが良いかと思って」
鳴海「正直に言うと俺もよく分かってないんです。基本的に緋空浜で出来ることは何でもする、便利屋さんみたいな会社らしいんですけど」
少しの沈黙が流れる
すみれ「昔・・・あなたのお母さんも緋空浜で・・・」
鳴海「(すみれの話を遮って)働いていた?」
すみれ「ええ。由夏理はそういうことも話していたんですね」
鳴海「ま、まあ・・・」
すみれ「これも・・・(少し間を開けて)運命かもしれません」
鳴海「運命って何がですか?」
すみれ「二人が同じ緋空浜で働くことです。鳴海くんはお母さんとの運命の繋がりを感じませんか?」
鳴海「繋がりも何も・・・一応親子ですし・・・」
すみれ「一応ではなくて、立派な親子でしょう?」
鳴海「そうですね」
◯1796波音総合病院廊下/診察室前(昼前)
波音総合病院の診察前の廊下にいる鳴海、菜摘、すみれ
診察室前の廊下には椅子が設置されている
鳴海、菜摘、すみれは椅子に座って診察室に呼ばれるのを待っている
波音総合病院の診察前の廊下には鳴海たちの他にも、数人の患者が椅子に座って診察室に呼ばれるのを待っている
鳴海とすみれはそれぞれエコバッグを持っている
鳴海とすみれが持っているエコバッグの中にはスーパーで買った物が入っている
話をしている鳴海、菜摘、すみれ
すみれ「菜摘、お昼ご飯は何が良い?」
菜摘「うーん・・・鳴海くんは食べたい物ある?」
鳴海「お、俺は昼飯は別のところで済ませ・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)別々なんてダメだよ。お母さんもそう思うよね?」
すみれ「(頷き)ダメです」
鳴海「で、でも俺、この間もすみれさんの手料理をご馳走になったんで・・・」
菜摘「そんな言い訳は許されないよ、鳴海くん」
鳴海「い、言い訳じゃないんだが・・・」
菜摘「とにかくダメだったらダメ、ご飯は一緒じゃなきゃ」
少しの沈黙が流れる
すみれ「そうだ、お昼はファミレスにしない?」
菜摘「えっ・・・?」
すみれ「病院の帰りですからね。菜摘は頑張った分、好きな物を食べて元気になってもらわないと」
菜摘「う、うん・・・」
鳴海「菜摘、ファミレスは嫌なのか?」
菜摘「嫌じゃないけど・・・」
すみれ「じゃあお昼はファミレスにしましょう」
菜摘「お母さん、私外食じゃなくても・・・」
すみれ「(菜摘の話を遮って)好きな物を何でも頼んで良いからね、菜摘。もちろんドリンクバーもですし、料理が運ばれて来るまではガチャガチャをして遊んでいても良いんですよ」
菜摘「わ、私・・・小さい子じゃないもん・・・」
すみれ「菜摘、どうしてそんなに嫌がっているの?一年くらい前までは、ファミレスに行くって言っただけでお父さんと一緒にあんなに喜んでいたのに・・・」
菜摘「お、お母さん、私だって大人になったんだよ」
すみれ「菜摘はまだ18歳でしょう?」
菜摘「お、大人の18歳だもん!!」
鳴海「菜摘、こういう時は素直に喜んだ方が良いと思うぞ」
再び沈黙が流れる
菜摘「鳴海くんはファミレス好き・・・?」
鳴海「ひ、人並みにはな」
菜摘「(驚いて)ひ、人並みでしかないの!?」
鳴海「あ、ああ」
鳴海「ファミレスには美味しいご飯と、ドリンクバーと、ガチャガチャがあるんだよ!!」
鳴海「す、素直に喜ぶようになったのか・・・?」
菜摘「うん!!」
鳴海「ふぁ、ファミレス行くだけで凄い喜びようだな・・・」
菜摘「だって鳴海くんが素直に喜べって言ったんだもん」
鳴海「まさかこんなにテンションが上がるとはおもわ・・・」
診察室の扉が開き、ナース服姿の風夏が診察室から出て来る
風夏「菜摘ちゃん」
菜摘「あ、はい」
菜摘は立ち上がる
エコバッグを持ったまま立ち上がる鳴海とすみれ
菜摘「鳴海くんは待ってて」
鳴海「えっ?お、俺も一緒に・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)大丈夫。だから待ってて、お願い」
少しの沈黙が流れる
鳴海「わ、分かった・・・」
菜摘「ありがとう、鳴海くん」
菜摘とすみれは診察室の中に入る
風夏「すぐ終わると思うよ」
鳴海「ああ・・・」
風夏は診察室の扉を閉じる
椅子に座る鳴海
鳴海「(椅子に座って)待ってて・・・」
◯1797回想/貴志家玄関(約十数年前/夕方)
夕日が沈みかけている
玄関にいる2歳頃の鳴海、8歳頃の風夏、30歳頃の由夏理
2歳頃の鳴海は8歳頃の風夏と手を繋いでいる
2歳頃の鳴海と8歳頃の風夏は由夏理のことを見送りに来ている
由夏理は濃い化粧をしている
靴を履いている由夏理
風夏「(2歳頃の鳴海と手を繋いだまま)ママ、どこに行くの?」
由夏理「(靴を履きながら)ん、ちょっとお友達と会って来るだけだよ」
由夏理は靴を履き終える
由夏理「お留守番、出来るよね?風夏」
風夏「(2歳頃の鳴海と手を繋いだまま)パパは?」
由夏理「パパはもうすぐ帰って来ると思うからさ、鳴海と一緒に待っててあげて」
8歳頃の風夏は2歳頃の鳴海と手を繋いだまま頷く
由夏理「二人とも、良い子にしてたら今度ママがおもちゃを買って来るからね?」
風夏「(2歳頃の鳴海と手を繋いだまま)ママ」
由夏理「ん?」
風夏「(2歳頃の鳴海と手を繋いだまま)今度の土曜日、パパとお出かけしたい」
少しの沈黙が流れる
由夏理「ぱ、パパは土曜日お仕事だからさ・・・お、お出かけはママと、ね?風夏」
8歳頃の風夏は2歳頃の鳴海と手を繋いだまま首を横に振る
風夏「(2歳頃の鳴海と手を繋いだまま首を横に振って)パパとが良い」
由夏理「じゃ、じゃあママは鳴海と二人で遊び行っちゃおうかな〜?」
8歳頃の風夏は2歳頃の鳴海と手を繋いだまま再び頷く
再び沈黙が流れる
由夏理「わ、わがまま言っちゃダメでしょ?風夏」
再び沈黙が流れる
由夏理「ま、ママもう行かないと・・・(少し間を開けて)と、とにかく良い子にしてるんだよ、二人とも」
由夏理は玄関の扉を開けて家から出て行く
◯1798回想/貴志家リビング(約十数年前/夜)
リビングにいる30歳頃の由夏理と同じく30歳頃の紘
由夏理と紘は言い争っている
紘「(大きな声で)君の行いはどうかしている!!!!」
由夏理「(大きな声で)わ、私もたまには一人になりたいんだって!!!!」
少しの沈黙が流れる
紘「(小声でボソッと)男と会っていただけだろうに・・・」
◯1799回想/貴志家子供部屋(約十数年前/夜)
子供部屋にいる2歳頃の鳴海と8歳頃の風夏
子供部屋は散らかっており、たくさんのおもちゃが床に落ちている
子供部屋には鳴海と風夏が寝るための二段ベッドと、風夏の勉強机が置いてある
二段ベッドの下の段に座っている2歳頃の鳴海と8歳頃の風夏
8歳頃の風夏は俯いている
子供部屋にまで由夏理と紘の言い争っている声が聞こえている
由夏理「(大きな声)だ、だから何度も会ってないって言ってるじゃん!!!!し、信じてよ!!!!」
紘「(大きな声)だったら何をしていたんだ!!!!」
由夏理「(大きな声)友達と少し話をしてだけだって!!!!」
紘「(大きな声)一人になりたかったくせに話をしに行ったのか!?!?」
由夏理「(大きな声)べ、別にそんなの良いでしょ!!!!」
紘「(怒鳴り声)子供を置いて行くな!!!!」
由夏理「(怒鳴り声)紘だってずっと留守にしてるじゃん!!!!私は家にいて欲しいのさ!!!!」
紘「(怒鳴り声)君はいつもそうやって俺を困らせようとするが、金がなかったら俺たちは・・・」
子供部屋には由夏理と紘の怒鳴り声が聞こえ続ける
8歳頃の風夏は変わらず俯いている
風夏「(俯いたまま)最近・・・多いね・・・」
鳴海「おーい・・・?」
風夏「(俯いたまま)パパとママの喧嘩・・・」
◯1800回想戻り/波音総合病院廊下/診察室前(昼前)
診察前の廊下にいる鳴海
診察室前の廊下には椅子が設置されている
鳴海は椅子に座って診察室から菜摘とすみれが戻って来るのを待っている
波音総合病院の診察前の廊下には鳴海の他にも、数人の患者が椅子に座って診察室に呼ばれるのを待っている
鳴海はエコバッグを持っている
鳴海が持っているエコバッグの中にはスーパーで買った物が入っている
頭を抱える鳴海
鳴海「(頭を抱えて 声 モノローグ)子供を置いて行くなんて無責任な奴らだ・・・」
◯1801Chapter2◯212の回想/波音高校三年三組の教室(朝)
外は快晴
学園祭当日
教室にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春
教室では縁日が行われている
教室では射的、スーパーボールすくい、水風船のヨーヨー釣り、綿飴などの小さな出店が出ている
教室では提灯が吊るされ、縁日の飾り付けがされている
鳴海たちの他にも縁日のスタッフをしている生徒たちや学園祭に遊び来た小さな子供がたくさんいる
鳴海は嶺二に押し倒され、殴られている
鳴海のことを押し倒したまま鳴海の顔面を殴り続けている嶺二
菜摘と明日香は押し倒したママ鳴海の顔面を殴り続けている嶺二のことを止めようとしている
嶺二に押し倒れたまま顔面を殴られていr鳴海の顔は、血だらけになっている
教室の中にいる生徒たち、子供たち、千春が鳴海のことを殴り続ける嶺二を見ている
嶺二が鳴海のことを押し倒したまま鳴海の顔面を殴るたびに、床に血が飛び散る
嶺二「(鳴海のことを押し倒し鳴海の顔面を殴り続けながら大きな声で)無責任なことするんじゃねえぞクソ野郎!!!!お前がやり始めたことなら最後までやり通せよ!!!!」
◯1802回想戻り/波音総合病院廊下/診察室前(昼前)
診察前の廊下にいる鳴海
診察室前の廊下には椅子が設置されている
鳴海は椅子に座って診察室から菜摘とすみれが戻って来るのを待っている
波音総合病院の診察前の廊下には鳴海の他にも、数人の患者が椅子に座って診察室に呼ばれるのを待っている
鳴海はエコバッグを持っている
鳴海が持っているエコバッグの中にはスーパーで買った物が入っている
頭を抱えている鳴海
鳴海「(頭を抱えたまま 声 モノローグ)違う違う違う違う・・・俺は変わったんだ・・・大人になったんだ・・・もうガキじゃなくなったんだ・・・」
少しすると診察室から菜摘とすみれが出て来る
すみれはエコバッグを持っている
すみれが持っているエコバッグの中にはスーパーで買った物が入っている
鳴海は変わらず頭を抱えており、菜摘とすみれが診察室から出て来たことに気付いていない
菜摘とすみれは頭を抱えている鳴海の元にやって来る
菜摘「(頭を抱えている鳴海の元にやって来て心配そうに)鳴海くん・・・?大丈夫・・・?」
鳴海は頭を抱えるのをやめる
菜摘の声が聞こえた方を見る鳴海
菜摘とすみれは鳴海の正面に立っている
鳴海「も、戻ってたのか」
菜摘「う、うん」
鳴海「そ、それで診断結果は?」
菜摘「また後日連絡するって」
鳴海「そうか・・・(少し間を開けて)菜摘、検査よく頑張ったな」
菜摘「あ、ありがとう鳴海くん」
鳴海「おう」
鳴海はエコバッグを持って立ち上がる
◯1803ファミレス(昼過ぎ)
ファミレスにいる鳴海、菜摘、すみれ
テーブルに向かって椅子に座っている鳴海、菜摘、すみれ
鳴海の隣の椅子にはエコバッグが置いてある
鳴海の隣の椅子に置いてあるエコバッグの中にはスーパーで買った物が入っている
ファミレスには鳴海たちの他にも昼食を食べているサラリーマンやOLがいる
メニューを見ている菜摘とすみれ
鳴海はメニューを見ずにボーッとしている
菜摘「(メニューを見ながら)鳴海くんにはハンバーグステーキがオススメだよ」
鳴海「えっ?」
菜摘はメニューに載っているハンバーグステーキを指差す
菜摘「(メニューに載っているハンバーグステーキを指差して)これ」
鳴海は菜摘が指差しているメニューに載っているハンバーグステーキを見る
鳴海「(菜摘が指差しているメニューに載っているハンバーグステーキを見て)は、ハンバーグはこの前菜摘の家で食べたばかりだぞ」
菜摘「(メニューに載っているハンバーグステーキを指差したまま)でもひき肉だもん」
すみれ「(メニューを見ながら)鳴海くんもひき肉が好きなの?」
鳴海は菜摘が指差しているメニューに載っているハンバーグステーキを見るのをやめる
鳴海「(菜摘が指差しているメニューに載っているハンバーグステーキを見るのをやめて)好きと言われたら好きですけど・・・」
菜摘はメニューに載っているハンバーグステーキを指差さすのをやめる
菜摘「(メニューに載っているハンバーグステーキを指差さすのをやめて)鳴海くん、ひき肉には・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)不幸を幸せに変える力があるんだろ?」
菜摘「うん」
すみれはメニューを見るのをやめる
すみれ「(メニューを見るのをやめて)どういうこと?菜摘」
菜摘「胡椒が愛の味なのと同じだよ」
すみれ「幸せと愛がたくさんこもっているのが料理なのね?」
菜摘「そうだねお母さん!!」
鳴海「(小声でボソッと)変な会話をする親子だな・・・」
菜摘「ん?」
鳴海「こ、このハンバーグは美味いのかって聞いたんだ」
菜摘「も、もちろん美味しいよ!!」
鳴海「そ、そうか・・・じゃあこれを頼むよ」
菜摘「エクセレントチョイスだ鳴海くん!!」
鳴海「あ、ああ」
時間経過
ドリンクバーを見ている鳴海と菜摘
ドリンクバーのディスペンサーには緑茶、紅茶、コーヒー、コーラ、メロンソーダ、スポーツドリンク、オレンジジュース、りんごジュース、ぶどうジュース、水などの飲み物が用意されている
ドリンクバーのディスペンサーの前にはコップ、ストロー、砂糖、氷などが用意されて置いてある
鳴海と菜摘はコップを持っている
鳴海「(ドリンクバーを見ながら)ジュースも何かの味なのか?」
菜摘「(ドリンクバーを見ながら)何かって?」
鳴海「(ドリンクバーを見ながら)ひ、ひき肉には不幸を幸せに変える力があって、胡椒には愛の味があるんだろ?」
菜摘「(ドリンクバーを見ながら)そうだよ」
鳴海「(ドリンクバーを見ながら)じゃあ飲み物にも何か味があるんじゃないか?」
菜摘「(ドリンクバーを見ながら)うーん・・・」
菜摘はドリンクバーを見るのをやめる
ドリンクバーのディスペンサーを使ってコップにりんごジュースを注ぎ始める菜摘
菜摘「(ドリンクバーのディスペンサーを使ってコップにりんごジュースを注いで)飲み物はやっぱり、緋空浜の味じゃないかな?」
鳴海はドリンクバーを見るのをやめる
ドリンクバーのディスペンサーを使ってコップに緑茶を注ぎ始める鳴海
鳴海「(ドリンクバーのディスペンサーを使ってコップに緑茶を注いで)緋空浜の味ってどんな味だ?」
菜摘はドリンクバーのディスペンサーを使ってコップにりんごジュースを注ぎ終える
菜摘「(ドリンクバーのディスペンサーを使ってコップにりんごジュースを注ぎ終えて)きっと飲んだら分かるよ、鳴海くんは緋空浜の子だもん」
菜摘はドリンクバーのディスペンサーの前に置いてあったストローを手に取る
ドリンクバーのディスペンサーを使ってコップに緑茶を注ぎ終える鳴海
鳴海はコップに注がれた緑茶を見る
鳴海「(コップに注がれた緑茶を見て)魚の味がするってことか?」
菜摘「(少し笑って)そうじゃないよ鳴海くん」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(コップに注がれた緑茶を見ながら)じゃあ何の味なんだ?」
菜摘「(少し笑いながら)気になるなら飲んでみなきゃ」
鳴海はコップに注がれた緑茶を見るのをやめる
コップに注がれた緑茶を一口飲む鳴海
鳴海はコップに注がれた緑茶を一口飲んで再び緑茶を見る
鳴海「(コップに注がれた緑茶を見て)緋空浜の味・・・故郷の味・・・懐かしくて・・・優しくて・・・楽しさがある・・・な、波音町で経験した幸せな思い出が全部詰まっていて・・・俺たちを安心させてくれる味だ・・・(少し間を開けて)わ、分かったぞ・・・緋空浜は奇跡の味だな・・・きっと奇跡を起こしたり、見たりすることが出来る味なんだ・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「(コップに注がれた緑茶を見ながら)そうなんだろ・・・?菜摘・・・緋空浜には全てがある・・・だからこいつは奇跡を起こして、俺たちにそれを見せてくれるんだ・・・」
鳴海はコップに注がれた緑茶を見るのをやめる
鳴海「(コップに注がれた緑茶を見るのをやめて)な、菜摘?」
鳴海は隣のを見る
鳴海の隣に菜摘はいない
鳴海は隣を見るのをやめる
周囲を見る鳴海
菜摘はいつの間にかテーブルを挟んですみれと向かい合って椅子に座っている
すみれと楽しそうに話をしている菜摘
菜摘とすみれがいるテーブルには、菜摘がコップに注いだりんごジュースが置いてある
すみれと楽しそうに話をしている菜摘のことを見ている鳴海
鳴海はすみれと楽しそうに話をしている菜摘のことを見たまま深くため息を吐き出す
鳴海「(すみれと楽しそうに話をしている菜摘のことを見たまま深くため息を吐き出して)置いて行かないでくれよ・・・」
◯1804ファミレス前(昼過ぎ)
ファミレスから出て来る鳴海、菜摘、すみれ
鳴海とすみれはそれぞれエコバッグを持っている
鳴海とすみれが持っているエコバッグの中にはスーパーで買った物が入っている
ファミレスの扉にはバイト募集の貼り紙がされている
菜摘はファミレスの扉に貼られたバイト募集の紙を見ている
鳴海「すみれさん、ご馳走様でした」
すみれ「いえいえ、ハンバーグとライスだけで足りた?」
鳴海「は、はい!!お、美味しかったです!!」
すみれ「そんなにかしこまらなくても良いのに、鳴海くん」
鳴海「す、すみません・・・」
すみれは歩き出す
すみれに合わせて歩き出す鳴海
菜摘は変わらずファミレスの扉に貼られたバイト募集の紙を見ている
すみれ「菜摘?帰るよ」
菜摘はファミレスの扉に貼られたバイト募集の紙を見るのをやめる
菜摘「(ファミレスの扉の貼られた部員募集の紙を見るのをやめて)う、うん!」
菜摘は鳴海とすみれについて行く
◯1805早乙女家廊下/菜摘の部屋前(昼過ぎ)
菜摘の部屋の前の廊下で一人立っている鳴海
鳴海「は、入って良いんだよな!?」
菜摘「(声)ダメだよ鳴海くん!!まずはノックをしなきゃ!!」
菜摘の部屋から菜摘の声が聞こえて来る
鳴海「の、ノックをして入るぞ!!」
菜摘「(声)失礼いたしますって言うのも忘れないようにね!!」
再び菜摘の部屋から菜摘の声が聞こえて来る
鳴海「(小声でボソッと)自分自身と菜摘とのデートのため・・・」
◯1806回想/早乙女家菜摘の自室(昼過ぎ)
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にいる鳴海と菜摘
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
ベッドはマットレス、掛け布団、枕が片付けられ、骨組みだけの状態になっている
鳴海と菜摘は床に座っている
話をしている鳴海と菜摘
鳴海「酷いじゃないか菜摘、菜摘が飲んだら分かると言ったから俺はその場で味を確かめたんだぞ」
菜摘「ごめんね。なんかいつにもまして真剣な感じがしたから、邪魔しない方が良いかなって思ったんだ」
鳴海「そんなに真剣に見えたのか・・・俺・・・」
菜摘「うん」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん、お詫びに面接の練習を手伝いをしてあげるよ」
鳴海「め、面接の練習?」
菜摘「しといた方が良いでしょ?」
鳴海「せ、せっかく二人でいるんだから別のことを・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)二人でいるんだから面接の練習をするんだよ」
再び沈黙が流れる
菜摘「こんなことでへこたれずに頑張ろう鳴海くん!!」
鳴海「菜摘」
菜摘「ん?」
鳴海「俺はまだ頑張る時じゃないかもしれない」
菜摘「じゃあいつ鳴海くんの頑張る時は来るの?」
鳴海「もう少ししたらじゃないか?」
菜摘「もう少しっていつ?」
鳴海「そ、そういうのは突然やって来るもんだから分からないな」
菜摘「その突然に備えるために今頑張っておこう?」
鳴海「な、菜摘、今からデートに行かないか?」
菜摘「で、デート?」
鳴海「あ、ああ。デートだ。ど、動物園とか遊園地に行こう」
少しの沈黙が流れる
鳴海「な、菜摘もデートしたいだろ・・・?」
菜摘「し、したいけどダメ。デートはまた今度!!」
鳴海「こ、今度っていつだよ!?」
菜摘「今度は今度!!それにこの前も鳴海くんは風夏さんの引越しの手伝いをサボったもん!!だから今日はデート禁止!!」
鳴海「菜摘・・・お前はそんなに俺とデートしたくないのか・・・」
菜摘「こ、これは鳴海くんのためなんだよ!!今楽したらもう二度とデート出来なくなっちゃうかもしれないんだから!!」
鳴海「に、二度と・・・」
菜摘「そ、そうだよ!!に、二度とデート出来なくなっても良いの鳴海くん!!」
鳴海「そ、それは困るな・・・」
菜摘「じゃ、じゃあ頑張ろう!!で、デートのために!!」
◯1807回想戻り/早乙女家廊下/菜摘の部屋前(昼過ぎ)
菜摘の部屋の前の廊下で一人立っている鳴海
鳴海は菜摘の部屋の扉を3回ノックする
菜摘「(声)入りたまえ!!」
菜摘の部屋から菜摘の声が聞こえて来る
鳴海「(不思議そうに)入りたまえ・・・?」
鳴海は菜摘の部屋の扉を開ける
菜摘の部屋に入る鳴海
鳴海「(菜摘の部屋に入って)し、失礼いたします」
部屋には菜摘がいる
菜摘は床に座っている
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
ベッドはマットレス、掛け布団、枕が片付けられ、骨組みだけの状態になっている
菜摘の部屋の扉を閉める鳴海
菜摘「名前を名乗らんかね名前を」
鳴海は頭を下げる
鳴海「(頭を下げて)き、貴志鳴海です。ほ、本日はよろしくお願いいたします」
菜摘「座りなさい」
鳴海は顔を上げる
床に座る鳴海
菜摘「まずは軽く自己紹介をしてもらおうか」
鳴海「き、貴志鳴海と申します。わ、私は高校生の頃に文芸部に所属していて・・・」
時間経過
菜摘「では志望動機は?」
鳴海「彼女に紹介されたからです」
菜摘「鳴海くん」
鳴海「な、何だ?」
菜摘「真面目にやってよ」
鳴海「か、彼女に紹介されたは事実だろ!!」
菜摘「事実でも良くない!!」
鳴海「お、俺に嘘をつけって言うのか?」
菜摘「う、嘘もダメ」
鳴海「ならなんて答えれば良いんだよ・・・」
菜摘「私はこういう理由があって御社に・・・って説明しなきゃ」
鳴海「つまり嘘をつけってことだろ・・・」
菜摘「す、少し誇張して言えば良いんだよ鳴海くん」
鳴海「誇張?」
菜摘「う、うん」
鳴海「分かったよ、もう一回志望動機を聞いてくれ菜摘」
菜摘「では志望動機は?」
鳴海「彼女に紹介されて自分にはここしかないと思ったからです」
菜摘「(怒りながら)鳴海くん!!」
鳴海「な、何だよ?」
菜摘「(怒りながら)全然真面目にやってないじゃん!!」
鳴海「少し誇張しろって言ったのは菜摘だぞ」
菜摘「(怒りながら)誇張とかそういう問題じゃないよ!!」
鳴海「じゃあ・・・この世に存在している全生物の中で一番可愛くて大好きな人に紹介されたからです、とかにするか・・・」
菜摘「せ、世界一・・・?」
鳴海「ああ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「菜摘」
菜摘「な、何・・・?」
鳴海「疲れたから休んで良いか?」
菜摘「い、良くはないけど・・・(少し間を開けて)す、少しだけなら・・・」
鳴海「よし・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「な、鳴海くん・・・」
鳴海「何だ?」
菜摘「わ、私よりも可愛い人はたくさんいるよ」
鳴海「それは菜摘の考えだろ」
菜摘「うん・・・」
鳴海「俺には菜摘が全生物の中で一番可愛いんだ」
菜摘「(小さな声で)あ、ありがとう・・・鳴海くん・・・」
菜摘の顔が赤くなっている
立ち上がる鳴海
鳴海「それじゃあデートにでも行くか、菜摘」
菜摘「(顔を赤くしたまま)で、デートはダメだよ・・・」
鳴海「何言ってるんだ、この流れはデートしかないだろ菜摘。(少し間を開けて)動物園にするか・・・遊園地にするか・・・水族館にするか・・・映画館にするか・・・ショッピングモールにするか・・・菜摘はどこに行きたい?」
菜摘「(顔を赤くしたまま)わ、私は鳴海くんと一緒ならどこでも・・・」
鳴海「じゃあ動物園からの遊園地、なんて流れはどうだ?可愛いアニマルを見た後に・・・いや、可愛いと言っても菜摘ほどじゃないが・・・程々に動物たちと戯れた後は遊園地で暴れ回って・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)な、鳴海くん!!」
鳴海「ど、動物園と遊園地が嫌ならショッピングモールで爆買い・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)そうやって大事なことから目を背けるのはダメだよ鳴海くん」
少しの沈黙が流れる
菜摘「で、デートはまた今度しよう?」
鳴海「分かったよ菜摘・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「波高を卒業してから・・・俺は何も菜摘にしてやれてない、それが俺は嫌なんだ」
菜摘「そんなことないよ、鳴海くんはずっと私の側にいてくれてるもん」
鳴海「逆だろ菜摘。お前が俺の側にいるんだ」
菜摘「どっちでも一緒だよ、お互い好きで一緒にいるんだから・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「俺は俺のためになることじゃなくて・・・菜摘のためになることがしたいんだよ」
菜摘「私は・・・鳴海くんのためになることをしたいもん」
再び沈黙が流れる
菜摘「鳴海くんが私のために何かしたいなら・・・わ、私が鳴海くんのためになることをしたいという気持ちを尊重して欲しいよ。だ、だってそれが私のためにもなるんだから・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「俺の負けってことか・・・」
鳴海は床に座る
菜摘「面接の練習の続き・・・しても良い・・・?」
鳴海「ああ」
時間経過
夕方になっている
夕日が沈みかけている
立ち上がる鳴海
鳴海は下げる
鳴海「(頭を下げて)ほ、本日はお時間をいただき、ありがとうございました」
鳴海は顔を上げる
菜摘の部屋から出て行く鳴海
再び沈黙が流れる
菜摘「戻って来て良いよ鳴海くん!!」
鳴海が菜摘の部屋に入って来る
鳴海「(菜摘の部屋に入って来て)面接への自信がなくなりそうだ・・・」
菜摘「えー・・・」
鳴海は床に座る
鳴海「(床に座って)動作やら礼儀で覚えなきゃいけないことが多過ぎてさ・・・」
菜摘「そっか・・・なら今日はこの辺にしておくね」
鳴海はその場で仰向けに横になる
鳴海「(その場で仰向けに横になって)面接をするんだったらもう100回くらい合同朗読劇をやる方がマシだな」
菜摘「(少し笑って)合同朗読劇も大変だよ鳴海くん」
鳴海「面接に比べたら楽勝だぞ」
菜摘「(少し笑いながら)そうかな?」
鳴海「そうだ」
菜摘は鳴海の隣で仰向けに横になる
鳴海の隣で仰向けに横になって天井を指差す菜摘
菜摘「(天井を指差して)見て見て鳴海くん、彦星があるよ」
鳴海「春過ぎの夕方の天井を見て何を言ってるんだ?」
菜摘は天井を指差すのをやめる
菜摘「(天井を指差すのをやめて)今のはボケだもん・・・」
鳴海「おい」
菜摘「ん?」
鳴海は天井を指差す
鳴海「(天井を指差して)あれは織姫じゃないか?」
菜摘「春過ぎの夕方の天井を見て何を言ってるの?鳴海くん」
鳴海は天井を指差すのをやめる
鳴海「(天井を指差すのをやめて)菜摘に便乗してボケたつもりなんだがな・・・」
菜摘「私も鳴海くんに便乗してツッコミを入れたんだよ」
鳴海「今のはただ俺の真似をしただけだろ」
菜摘「そんなことないもん」
少しの沈黙が流れる
鳴海「去年、天文学部の見学で星を見たよな」
菜摘「うん。ちょうど一年前のまだ文芸部がなかった頃の思い出だね」
鳴海「ああ」
菜摘「みんな・・・元気にしてるかな・・・」
鳴海「菜摘は明日香たちと連絡を取ってるのか?」
菜摘「ううん、鳴海くんは?」
鳴海「取ってないな」
菜摘「そっか・・・」
鳴海「向こうから連絡がないんだから、元気にやってるってことだろ」
菜摘「そうだね」
鳴海「今年の夏は・・・どっか星が綺麗に見えるところでも行きたいな」
菜摘「山籠りするの?鳴海くん」
鳴海「や、山籠りはしないけどさ・・・」
菜摘「私、プラネタリウムでも全然良いよ」
鳴海「プラネタリウムは人工物の星だぞ」
菜摘「それを言ったら写真や映画だって人工物にならない・・・?」
鳴海「た、確かに否定は出来ないが・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん」
鳴海「どうした?」
菜摘「さっき病院で何を考えてたの?」
鳴海「特に何も考えていないぞ、ただボーッとしてただけだ」
菜摘「でもあの時の鳴海くん、考えごとをしている顔だったよ」
鳴海「菜摘とすみれさんを待ってる時のことか?」
菜摘「うん。鳴海くん・・・頭を抱えたまま・・・」
鳴海「頭を抱えたまま何だ?」
菜摘「苦しんでた・・・」
鳴海「そりゃ頭を抱えるようなことがなんだから苦しんでいてもおかしくはないだろ」
菜摘「あの時・・・何を考えてたの・・・?」
鳴海「別に大したことじゃないんだ」
菜摘「鳴海くんが大したことじゃないって言う時は、いつも大したことだよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「実は最近・・・親のことをよく思い出すようになってさ・・・記憶の片隅から突然蘇るんだ、思い出したくないことが・・・」
菜摘「家族と過ごした幸せな時間なのに・・・どうして思い出したくないの・・・?」
鳴海「その時間が必ずしも幸せだったとは限らないだろ、菜摘」
菜摘「それでも・・・ご両親は鳴海くんに一緒に過ごした時を思い出して欲しいと望んでいるかもしれないよ」
鳴海「菜摘は・・・どうなんだ?」
菜摘「どうって?」
鳴海「俺に両親のことを思い出すべきだと考えているのか・・・?」
菜摘「うん・・・だって鳴海くんの記憶が・・・ご両親の生きていた証だから・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん、波音物語と同じだよ。伝えたり、思い出したりすることで、亡くなった人たちの生きた証を残すことが出来るんだ」
鳴海「ご、500年前の人間と俺の親を一緒にしないでくれ」
菜摘「時代は関係ないよ。大事なのは彼らの存在を認め、心の中に留めておくことだもん」
鳴海「それも・・・そうだな・・・(少し間を開けて)あの人たちのことを忘れずに日々を過ごすのが・・・俺たちに出来ることか・・・」
菜摘「うん」
少しの沈黙が流れる
菜摘「でも親との距離って・・・難しいよね・・・」
鳴海「何言ってるんだよ、菜摘はすみれさんたちと仲良くやってるじゃないか」
菜摘「仲は良いけど・・・私・・・お母さんとお父さんの人生を・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)菜摘、自分が誰かの人生の重荷になってるなんて考えは持つべきじゃないぞ」
菜摘「でも・・・」
鳴海「お前は誰の重荷にもなっていないんだ」
再び沈黙が流れる
菜摘「小さい頃・・・お母さんとお父さんから夢について聞いたことがあって・・・」
鳴海「ゆ、夢?」
菜摘「うん・・・お母さんは女優に・・・お父さんは映画監督になるのが夢だったんだ・・・」
鳴海「(小声でボソッと)ゆ、夢ってそっちの夢か・・・」
菜摘「お父さんが撮った映画に、お母さんが出演するのが目標だったみたい・・・(少し間を開けて)でもお母さんが私を妊娠して・・・それで二人は・・・夢を諦めちゃった・・・お母さんとお父さんは・・・人生の目標よりも私のことを選んで・・・」
鳴海「じ、自分が生まれて来たせいでなんて思うのも馬鹿げてるからな菜摘」
菜摘「そうかもしれないけど・・・もしお母さんとお父さんが家庭じゃなくて夢を追いかけていたら・・・」
鳴海「そ、そんなことをお前が考えてどうするんだよ」
菜摘「最近、お父さんが高校生の時に撮った映画を見たんだ・・・お洒落で・・・格好良くて・・・可愛くて・・・お母さんとお父さんの大好きな物がいっぱい詰まってた・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「二人が夢を追いかけていたら・・・今頃はハリウッドの巨匠と大女優になっていたかも・・・」
鳴海「すみれさんと潤さんは大きな夢を捨てた代わりに・・・世界一素晴らしい母親と父親になったんだ。(少し間を開けて)あの二人が心の底から菜摘のことを大事にしてるってことぐらい、分かってるだろ」
菜摘「鳴海くん・・・」
鳴海「ああ」
菜摘「分かっているから・・・分かっているからこそ・・・私で良かったのかなって思っちゃうんだ・・・」
鳴海「よ、良かったに決まってるじゃないか!!す、すみれさんと潤さんは菜摘のことを・・・あ、愛してるんだぞ」
菜摘「そうだね・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「も、物事を悪い方向に考えるのは俺の専売特許だ、菜摘じゃない。だ、だから菜摘はあまり考え過ぎずに生きてくれよ」
菜摘「うん・・・」
数こしの沈黙が流れる
鳴海「そ、そうだ、プラネタリウム以外にも行きたい場所はないのか?」
菜摘「プラネタリウム以外に・・・?」
鳴海「あ、ああ、今度どこかに行こう、それこそデートが出来るところにさ」
菜摘「私、動物園とか遊園地に行きたい」
鳴海「一日回って遊べ・・・」
鳴海と菜摘は話を続ける
鳴海「(菜摘と話をしながら 声 モノローグ)恋愛、友情、家族、容姿、学業、仕事、将来、自分のこと、人生のこと、他人とのこと、生きていればどこかしらで悩みは生まれてしまう。そんなのは仕方がないことだ。みんな当たり前だと分かり切って過ごしている。(少し間を開けて)菜摘の悩みは俺の悩みだ」
◯1808帰路(夕方)
夕日が沈みかけている
一人自宅に向かっている鳴海
部活帰りの波音高校の生徒がたくさんいる
鳴海「(声 モノローグ)菜摘は自分の存在が親しい人たちに迷惑をかけていると思い込んでいる。それが菜摘にとっての悩みであり、俺の悩みでもあった」
鳴海は帰宅途中の波音高校の一年生女子生徒3人とすれ違う
波音高校の一年生女子生徒3人のうちの1人は、神谷が新たに担任をすることになった一年六組の生徒、井沢由香
由香は波音高校の一年生女子生徒2人と話をしている
由香「あの神谷とかいう教師、マジでちょー使えないよね」
波音高校の一年生女子生徒1「分かるわー、教え方も下手だし、向いてないんじゃね」
波音高校の一年生女子生徒2「神谷って二年の女子と出来てるらしいよ」
由香「マジ?本物の変態親父じゃん」
波音高校の一年生女子生徒2「放課後に居残って二人きりでなんかやって・・・」
鳴海は立ち止まる
振り返って由香たちのことを見る鳴海
由香たちは変わらず話を続けている
鳴海「(由香たちのことを見たまま 声 モノローグ)どうやって菜摘の悩みを解決する?」
少しの沈黙が流れる
鳴海は由香たちのことを見るのをやめる
歩き始める鳴海
◯1809貴志家鳴海の自室(深夜)
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる
鳴海「(声 モノローグ)菜摘から事実無根の思い込みを無くすために・・・一体何をする?」
◯1810貴志家リビング(日替わり/昼前)
外は曇っている
リビングにいる鳴海と菜摘
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海と菜摘は荷物の片付けをしつつ、引越しの準備をしている
段ボール箱を持ち運んでいる鳴海と菜摘
鳴海は段ボール箱をリビングの山積みになっている場所に置く
鳴海「(段ボール箱をリビングの山積みになっている場所に置いて 声 モノローグ)答えは簡単なことだ。(少し間を開けて)俺があいつのために一時間でも、一分でも、一秒でも長く、この意地悪で退屈な世界から目を背けさせれば良い」
鳴海はキッチンに行く
少ししてからリビングに戻って来る鳴海
鳴海はコップを3個持っている
鳴海「(声 モノローグ)俺には母から受け継いだ隠れた才能がある」
鳴海は菜摘に声をかける
段ボール箱をその場に置く菜摘
鳴海はコップの1個を菜摘に差し出す
鳴海「(コップの1個を菜摘に差し出して 声 モノローグ)かつて・・・母が俺や姉貴を喜ばそうとしたように・・・」
菜摘は渋々コップを鳴海から受け取る
少し菜摘から離れる鳴海
鳴海「(声 モノローグ)今度は俺が・・・菜摘を楽しませよう」
鳴海は2個のコップでジャグリングを始める
鳴海「(2個のコップでジャグリングをしながら 声 モノローグ)ナルミーニの完成だ」
鳴海がジャグリングをしている2個のコップは、天井スレスレのところまで上がっては落ちて来る
2個のコップでジャグリングをしながら菜摘に持っているコップを投げるように頼む鳴海
菜摘は持っていたコップをジャグリングをしている鳴海に向かって軽く投げる
鳴海は2個のコップでジャグリングをしながら、菜摘が投げたコップをキャッチしてジャグリングに加える
3個のコップでジャグリングをしている鳴海
菜摘は拍手をする
鳴海「(3個のコップでジャグリングをしながら 声 モノローグ)生きている中でたくさんの悩みが生まれるのなら、悩みを超えるくらい俺が菜摘を元気つければ良い」
菜摘は拍手をしながら3個のコップでジャグリングをしている鳴海のことを褒める
鳴海「(3個のコップでジャグリングをしながら 声 モノローグ)そうやって二人で人生を共にするんだ。すみれさんと潤さんや・・・俺の両親を・・・見習って・・・」
◯1811◯1699の回想/緋空浜の近く/緋空祭り(約十数年前/夜)
満月が出ている
緋空浜の周囲で緋空祭りが行われている
5歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘、10歳頃の風夏が緋空祭りにいる
鳴海たちがいるところは緋空浜の近く
緋空祭りではたこ焼き、チョコバナナ、りんご飴、射的、水風船のヨーヨー釣り、焼きそば、じゃがバター、わたあめ、カステラ、かき氷、金魚すくい、唐揚げ、フライドポテト、おもちゃのくじ引き、仮面が売られているお店などのたくさんの屋台がある
緋空祭りには浴衣や甚平を着た大勢の人がいる
緋空祭りにいる大勢の人は仮面を被っていたり、飲食をしていたり、水風船のヨーヨーを持っていたり、屋台の射的で遊んでいたりする
道には緋空祭りに合わせてたくさんの提灯が吊るされている
吊るされたたくさんの提灯は全て赤く光っている
5歳頃の鳴海は泣いている
由夏理は泣いている5歳頃の鳴海のことを強く抱き締めている
由夏理は5歳頃の鳴海を強く抱き締めながら泣いている
紘と10歳頃の風夏は泣いている5歳頃の鳴海と由夏理の近くにいる
由夏理「(泣いている5歳頃の鳴海を強く抱き締めて泣きながら)ま、ママもごめんね・・・鳴海・・・も、もう絶対・・・置いて行かないから・・・」
鳴海「(泣いている由夏理に強く抱き締められて泣きながら)うん・・・」
紘「(イライラしながら)二人ともこんなところで泣くのはよせ、人に見られているんだぞ」
紘はイライラしながら泣いている5歳頃の鳴海と由夏理のことを見ている
紘「(イライラしながら泣いている5歳頃の鳴海と由夏理のことを見て)みっともない親子だ・・・(小声でボソッと)所詮蛙の子は蛙だな」
10歳頃の風夏は紘の着ている服の袖を引っ張る
風夏「(紘の着ている服の袖を引っ張って)パパ、後で射的やって」
紘「(イライラしながら泣いている5歳頃の鳴海と由夏理のことを見て)ああ後でな。母さんと弟が泣くのをやめたら射的をしよう」
10歳頃の風夏は紘の着ている服の袖を引っ張るのをやめる
風夏「(紘の着ている服の袖を引っ張るのをやめて)分かった」
紘はイライラしながら泣いている5歳頃の鳴海と由夏理のことを見るのをやめる
紘「(イライラしながら泣いている5歳頃の鳴海と由夏理のことを見るのをやめて)風夏」
風夏「うん」
紘「お前は強くて賢い子だな」
風夏「自分が強いかなんて分かんないよ」
紘「分からなくても強くて賢いと思うんだ」
風夏「どうして?」
紘「この世界は子供が相手でも優しくしてくれない。自分のことを弱いと思っているような人間は、競争に負けて生きていけなくなるんだ。分かるな、風夏」
10歳頃の風夏は頷く
10歳頃の風夏の頭を撫でる風夏
紘「(10歳頃の風夏の頭を撫でて)母さんと弟にも風夏から世界のことを教えてやってくれ」
風夏「(紘に頭を撫でられながら)うん」
◯1812回想戻り/貴志家リビング(昼前)
外は曇っている
リビングにいる鳴海と菜摘
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
菜摘の目の前には段ボール箱が1箱置いてある
鳴海は3個のコップでジャグリングをしている
鳴海がジャグリングをしている3個のコップは、天井スレスレのところまで上がっては落ちて来ている
鳴海が3個のコップで行っているジャグリングを見ている菜摘
鳴海が3個のコップで行っているジャグリングを見ながら拍手をしている菜摘
菜摘「(3個のコップで行っているジャグリングを見ながら拍手をして)上手だね鳴海くん!!いつの間に練習し・・・」
鳴海は菜摘が喋りかけていた途中でジャグリングをしていたコップの1個を指で弾いてしまう
鳴海が指で弾いたコップの1個は床に落ち、粉々に割れる
コップの1個を指で弾いてしまった拍子に、ジャグリングをしていた残りの2個のコップを掴み損ねる鳴海
鳴海が掴み損ねた2個のコップは床に落ち、粉々に割れる
拍手をやめる菜摘
少しの沈黙が流れる
鳴海の足元にはコップの大量の破片が散らばっている
鳴海「(小声でボソッと)クソッ・・・」
菜摘「鳴海くん!!」
鳴海「す、すまない。スイートメロンパンが・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って怒りながら)風夏さんの引越しの準備をしなきゃいけないのに散らかしてどうするの!!」
鳴海「ああそっちか、てっきりスイートメロンパンの方で怒って・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って怒りながら)スイートメロンパンの件でも怒ってるよ!!」
鳴海「す、すまん・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「け、怪我はないか?」
菜摘「う、うん」
鳴海は床に散らばったコップの大量の破片を拾い始める
菜摘「す、素手で拾ったら危ないよ鳴海くん!!」
鳴海「(床に散らばったコップの大量のコップの破片を拾いながら)安物のコップだから大丈夫だろ」
菜摘「わ、私手袋探して来る!!」
鳴海は床に散らばったコップの大量のコップの破片を拾うのをやめる
鳴海「(床に散らばった大量のコップの破片を拾うのをやめて)お、おい!!勝手に漁るなよ!!」
菜摘は手袋を探しにどこかに行ってしまう
菜摘を追いかけようとする鳴海
鳴海「(菜摘を追いかけようとして)菜摘!!手袋ならキッチンにも・・・いたっ・・・」
鳴海は立ち止まる
恐る恐る右足の裏を見る鳴海
鳴海の右足の裏に小さなコップの破片が突き刺さっている
鳴海の右足の裏からは血が出ている
小さなコップの破片が突き刺さっている右足の裏を見たまま片足立ちをする鳴海
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さっている右足の裏を見たまま片足立ちをして)まずいな・・・菜摘に見られたら大変なことに・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って大きな声で)な、鳴海くん!!!!」
鳴海は片足立ちをしたまま小さなコップの破片が突き刺さっている右足の裏を見るのをやめる
鳴海の前には手袋を持った菜摘が立っている
菜摘「(大きな声で)あ、足にガラスの破片が刺さってるよ!!!!」
鳴海は片足立ちをしたまま深くため息を吐き出す
鳴海「(片足立ちをしたまま深くため息を吐き出して)見て分かることをわざわざ言わなくて良いんだぞ菜摘・・・」
鳴海の小さなコップの破片が突き刺さった鳴海の右足からは血がポタポタと垂れている
菜摘「(大きな声で)だ、だから言ったのに!!!!素手じゃ危ないって!!!!」
鳴海「(片足立ちをしたまま)て、手袋を足にすれば良かったのか」
菜摘「(大きな声で)な、鳴海くんの馬鹿!!!!あ、足に使うのは手袋じゃなくて靴下だよ!!!!」
鳴海「(片足立ちをしたまま)お、怒っているから大きな声になっているのか、ツッコミだから大きな声になっているのか、どっちなんだ?」
菜摘「(大きな声で)怒ってるから!!!!」
鳴海「(片足立ちをしたまま)べ、別に怒るようなことじゃないだろ菜摘」
菜摘「(大きな声)鳴海くんは大怪我をしてるんだよ!!!!」
鳴海「(片足立ちをしたまま)大怪我・・・か・・・?」
菜摘「(大きな声で)だ、大事故の大怪我だもん!!!!」
鳴海は片足立ちをしながら移動を始める
鳴海「(片足立ちで移動をしながら)交通事故を経験した俺からすれば・・・この程度じゃ大事故とは言えないな・・・」
菜摘「ご、ごめん・・・」
鳴海「(片足立ちで移動をしながら)謝るようなことじゃないさ」
菜摘「う、うん・・・こ、転ばないように気をつけてね」
鳴海「(片足立ちで移動をしながら)おう」
鳴海は片足立ちで床に散らばった大量のコップの破片を避けながら移動をしている
菜摘「か、肩を貸すよ鳴海くん」
菜摘は床に散らばった大量のコップの破片を避けて片足立ちの鳴海の元へ行く
片足立ちのまま立ち止まる鳴海
菜摘は片足立ちの鳴海に肩を貸す
片足立ちのまま菜摘の肩に腕を回す鳴海
鳴海「(片足立ちをたまま菜摘の肩に腕を回して)悪いな・・・」
菜摘「(片足立ちの鳴海に肩を貸したまま)う、ううん」
鳴海は菜摘の肩に腕を回して片足立ちをしながら再び移動をする
片足立ちの鳴海に肩を貸したまま鳴海に合わせて歩く菜摘
菜摘「(鳴海に肩を貸したまま)鳴海くん」
鳴海「(菜摘の肩に腕を回して片足立ちで移動をしながら)ん?」
菜摘「(鳴海に肩を貸したまま)何かあった時は・・・いつでも私に寄りかかってね」
鳴海「(菜摘の肩に腕を回して片足立ちで移動をしながら)あ、ああ。菜摘も何かあった時は俺に寄りかかってくれ」
菜摘「(鳴海に肩を貸したまま)うん」
鳴海は菜摘の肩に腕を回して片足立ちで移動をしながら、テーブルと対になっている椅子の前で立ち止まる
片足立ちの鳴海に肩を貸したまま鳴海に合わせて立ち止まる
菜摘「(片足立ちの鳴海に肩を貸したまま鳴海に合わせて立ち止まって)座る?」
鳴海「(菜摘の肩に腕を回して片足立ちをしたまま)そうだな・・・座ってから足のことは考えよう・・・」
鳴海は菜摘の肩に腕を回して片足立ちをしたまま、ゆっくりテーブルに向かって椅子に座る
椅子に座った鳴海は変わらず小さなコップの破片が突き刺さっている右足を上げたままにしている
小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま菜摘の肩から腕を下ろす鳴海
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま菜摘の肩から腕を下ろして)助かったよ、菜摘」
菜摘「ど、どういたしまして」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)ぶち抜くか・・・」
菜摘「ぶ、ぶち抜くってどうやるの?」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)そりゃあ・・・素手で引っ張れば良いだろ」
菜摘「えっ・・・」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)心配するな菜摘、こんな怪我は絆創膏を貼れば一瞬で完治するからな」
菜摘「きゅ、救急車呼ぼうよ!!」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま驚いて)きゅ、救急車だと!?」
菜摘「う、うん。だって縫わなきゃいけないかもしれないんだよ、それに足の怪我は歩くと悪化しちゃうし・・・」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)じょ、冗談だろ・・・?」
菜摘「冗談じゃないよ、鳴海くん」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)こ、こんな小さな怪我で救急車を呼ぶのか!?」
菜摘「小さな怪我じゃないもん、大怪我だもん」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)お、大怪我って・・・」
菜摘「とりあえず私救急車呼ぶね」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま慌てて)ま、待て待て待て!!」
菜摘「どうかしたの?鳴海くん」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)い、いきなり救急車を呼ぶってなったらどうかするだろ!!」
菜摘「そうかな・・・?でも鳴海くんだって、前に私が学校で倒れた時は救急車を呼んでくれたよ」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)そ、それは菜摘が血を吐いて倒れたからだ!!しかも結果的に呼んだのは俺じゃなくて南だからな!!」
菜摘「今の鳴海くんも足の裏から血を・・・」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま菜摘の話を遮って)出血量が違うだろ!!」
菜摘「それはそうだけど・・・(少し間を開けて)やっぱり後々怪我が悪化するが怖いから救急車を呼ぶね」
菜摘はポケットからスマホを取り出す
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)ま、待ってくれ!!」
菜摘は鳴海の話を無視してスマホで119番に電話をかける
菜摘「(スマホで119番に電話をかけながら)私の肩が足りなくなった時のためにも、救急車は呼べた方が良いよ、鳴海くん」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)だとしてもこの怪我で運ばれるのは恥ずかし過ぎるだろ・・・」
菜摘のスマホは119番と繋がる
菜摘「(スマホで119番と電話をしながら)あ、もしもし、救急です。ジャグリングをしていた恋人の足にガラスが突き刺さって・・・」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)勘弁してくれよ・・・これじゃあ救急隊員の人に失礼・・・」
菜摘はスマホで119番と電話をしながらスマホを手で押さえる
菜摘「(スマホで119番と電話をしながらスマホを手で押さえて鳴海の話を遮って)鳴海くん、住所を教えて」
鳴海「(小さなコップの破片が突き刺さった右足を上げたまま)緋空市波音町2丁目・・・」
◯1813貴志家前(昼前)
空は曇っている
鳴海の家の前にいる菜摘
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海の家の前には救急車が止まっている
鳴海の家の前に止まっている救急車はバックドアが開いている
救急車の中には患者が横になるためのベッド、心電図検査機、AED、酸素吸入機などの様々な医療機器が整備されている
鳴海の家の扉が開いている
ストレッチャーに乗った鳴海が数人の救急隊員によって運ばれて家から出て来る
ストレッチャーに乗った鳴海は右足を台で支えられ、上げたままの状態になっている
鳴海の右足の裏には小さなコップの破片が突き刺さっており、血が出ている
ストレッチャーに乗った鳴海は救急車に詰め込められる
鳴海「(ストレッチャーに乗ったまま救急車の中に詰め込められて)だ、誰か家の鍵を・・・」
菜摘「大丈夫だよ鳴海くん!!私が閉めとくから!!」
菜摘はポケットから家の鍵を取り出す
鳴海の家の鍵をストレッチャーに乗って救急車の中にいる鳴海に見せる菜摘
鳴海「(ストレッチャーに乗ったまま家の鍵を菜摘に見せられて)た、頼んだぞ菜摘」
菜摘「(鳴海の家の鍵をストレッチャーに乗って救急車の中にいる鳴海に見せたまま)うん!!」
数人の救急隊員たちは救急車の運転席の扉とバックドアから救急車の中に乗り込む
救急車のバックドアを閉じる救急隊員
鳴海「(ストレッチャーに乗ったまま大きな声で)し、しまった!!!!財布がない!!!!」
鳴海の声は救急車の外にいる菜摘には聞こえていない
鳴海の家の鍵をストレッチャーに乗って救急車の中にいる鳴海に見せるのをやめる菜摘
菜摘「(鳴海の家の鍵をストレッチャーに乗って救急車の中にいる鳴海に見せるのをやめて大きな声で)えっ!?!?何!?!?」
鳴海「(ストレッチャーに乗ったまま大きな声で)財布を持って来るのを忘れたんだ!!!!」
菜摘「ナイフ・・・?」
鳴海が乗っている救急車はサイレンを鳴らし、病院に向かって行く
菜摘「あっ・・・行っちゃった・・・私もついて行けば良かったかな・・・」
菜摘は鳴海の家の鍵を玄関の鍵穴に挿す
鳴海の家の扉を閉める菜摘
菜摘「(鳴海の家の扉を閉めて)何で鳴海くんはナイフが欲しかったんだろ・・・」
菜摘は鳴海の家の玄関の鍵穴から鍵を抜く
菜摘「(鳴海の家の玄関の鍵穴から鍵を抜いて)ナイフなんか何に・・・(少し間を開けて)あれ・・・?もしかして・・・ナイフじゃなくて・・・財布・・・?」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(慌てて)な、鳴海くんを追いかけなきゃ!!」
菜摘は鳴海の家の鍵を玄関の鍵穴に挿す
鳴海の家の扉を開ける菜摘
菜摘は急いで鳴海の家の中に入る
時間経過
急いで鳴海の家から財布を持って出て来る菜摘
菜摘は財布を持ったまま走って波音総合病院に向かう
走って波音総合病院に向かい続ける菜摘
少しすると徐々に菜摘の走る速度が遅くなる
菜摘は走りながら息切れをしている
息切れをしながら立ち止まる菜摘
菜摘「(息切れをしながら立ち止まって)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・わ、私・・・か、鍵・・・ハァ・・・閉めたっけ・・・?」
菜摘は立ち止まったまま呼吸を整える
菜摘「(呼吸を整えながら)ハァ・・・ハァ・・・引き返そう・・・」
菜摘は鳴海の家がある方へ向き、引き返し始める
菜摘の歩く速度は遅い
苦しそうに歩いている菜摘
菜摘は咳き込む
菜摘「(咳き込みながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・急がないと・・・ゲホッ・・・」
菜摘は咳き込みながら鳴海の家に向かい続ける
◯1814波音総合病院一階ロビー(昼過ぎ)
外は曇っている
波音総合病院の一階ロビーにいる鳴海
波音総合病院のロビーは広く、たくさんの椅子が設置されている
波音総合病院のロビーにはたくさんのカウンターがあり、診察の受付に来た人や、医療費の支払いをしている人がいる
波音総合病院のロビーの椅子には老若男女様々な人が座っており、診察に呼ばれるのを待っていたりしている
鳴海は車椅子に乗っている
車椅子に乗って風夏が来るのを待っている鳴海
鳴海は右足だけサンダルを履いている
鳴海の右足には包帯が巻いてある
車椅子に乗ったまま右足を伸ばしている鳴海
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま小声でボソッと)何でこんなことになったんだか・・・」
風夏「不注意だからでしょ?」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま横を見る
車椅子に乗り右足を伸ばしている鳴海の横にはナース服姿の風夏が立っている
風夏は財布を持っている
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)ひ、引越す張本人の姉貴がいなかったのも悪いだろ」
風夏「言っとくけど鳴海は約束したんだからね?引越すの準備を手伝う代わりに家賃を・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま風夏の話を遮って)わ、分かった分かった」
少しの沈黙が流れる
風夏「仕事中のお姉ちゃんをいきなり呼び出して、足にガラスが刺さって財布を忘れたから助けてくれ、なんて言われても困るんだよ鳴海」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま小声でボソッと)すまん・・・」
風夏「お姉ちゃんは家族、財布じゃない」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)姉貴は家族、財布じゃない」
風夏「リピートしなくて良いから」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま風夏のことを見る
風夏「何?」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま風夏のことを見るのをやめる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま風夏のことを見るのをやめて)い、いや・・・お、親子だなって思って・・・」
風夏「親子?誰が?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)あ、姉貴と母さんのことだよ・・・」
風夏「(呆れて)何言ってるの鳴海。私はママの娘なんだからそりゃ親子になるでしょ」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)そ、そうだな・・・お、親子になって当然か」
再び沈黙が流れる
風夏「鳴海、菜摘ちゃんがいるから調子に乗って格好付けようとしたの?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)か、格好付けてなんかねえよ!!」
風夏「気合の入ったママがやらかすことがあったけど・・・鳴海も完全にそれと同じだよねー・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)い、一緒にするな!!」
風夏「一緒にして当然でしょー、血の繋がった親子なんだしー」
少しの沈黙が流れる
風夏「車椅子だからって菜摘ちゃんに迷惑をかけ過ぎないようにね?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)わ、分かってるよ・・・というか俺だって好きで車椅子を借りたわけじゃないんだからな」
風夏「ならどうして松葉杖にしなかったの?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)松葉杖は全部貸出し中だって言われたんだよ・・・」
風夏「それはお姉ちゃんのせいじゃないし」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)お、俺のせいでもないだろ!!」
風夏「しょうがないからそういうことにしといてやるかー・・・」
鳴海の財布を持った菜摘が波音総合病院の自動ドアを通って病院の中に入って来る
クリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている菜摘
菜摘は鳴海と風夏のことを見つけ、小走りで鳴海と風夏のところにやって来る
菜摘「(小走りで鳴海と風夏のところにやって来て)鳴海くん!!」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)わ、わざわざ来てくれたのか菜摘」
菜摘「うん!!鳴海くんが財布を忘れたって言ってたから追いかけて来たんだ!!」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)わ、悪いな・・・だが姉貴が看護師だったおかげで財布を忘れても治療泥棒にはならず・・・」
風夏は車椅子に乗り右足を伸ばして話途中だった鳴海の後頭部を財布で引っ叩く
車椅子に乗り右足を伸ばしたまま風夏のことを睨む鳴海
風夏「鳴海、さっきからお姉ちゃんの顔を見てどうしたの?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま風夏のことを睨みつけて)今俺の後頭部をぶっ叩いただろ」
風夏「えっ?よしよししたつもりなんだけど?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま風夏のことを睨みつけて)そうやって他の患者の頭もぶっ叩いてるのか?」
風夏「いや、今のは鳴海だけの特別看護。所謂家族サービスだね」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま風夏のことを睨みつけて)都合の良い時だけ家族って言う・・・」
風夏「(鳴海の話を遮って)そろそろ私は馬鹿弟の医療費を払って仕事に戻るよ、菜摘ちゃん、面倒だろうけど、鳴海がまた馬鹿なことをしないか見張っといてね」
菜摘「は、はい!!でも風夏さん、お金は・・・」
風夏「お金は家族サービスの奢りってことで!!その代わり鳴海は、菜摘ちゃんに何か買ってあげなよ」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま風夏のことを睨むのをやめて)あ、ああ」
風夏は波音総合病院のロビーの受付に行く
受付で鳴海の代わりに医療費の支払いをする風夏
菜摘「鳴海くん、足は大丈夫・・・?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)お、おう。見た目は派手に怪我をしたような感じだが、実際は軽傷だ」
菜摘「でも・・・車椅子だよ・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)これは松葉杖がぶっ飛んだからな」
菜摘「ぶっ飛んだって・・・?どういうこと・・・?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)菜摘、ぶっ飛んだっていうのはボケだぞ」
菜摘「そ、そっか・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)実際は松葉杖の数が足りないせいで車椅子になったんだ」
再び沈黙が流れる
菜摘「け、怪我の具合はどう・・・?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)軽傷だって言ったろ」
菜摘「ほ、本当に・・・?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)本当だ」
菜摘「な、鳴海くん、面接の時はどうするの?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)もちろん歩いて行くつもりだが・・・」
菜摘「(驚いて)えっ!?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)医者には数日間足を休ませてれば大丈夫だって言われたんだ、だから面接日までは休めるだけ休むことにするよ」
菜摘「そ、そんなんで平気なの・・・?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)多分平気だろ」
菜摘「た、多分・・・?」
医療費の支払いを終えた風夏が鳴海たちのところに戻って来る
風夏は処方箋を持っている
処方箋を車椅子に乗り右足を伸ばしている鳴海に差し出す風夏
風夏「(処方箋を車椅子に乗り右足を伸ばしている鳴海に差し出して)はいこれ、近くの薬局に行ってお薬を貰って来るように」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま処方箋を風夏から受け取る
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま処方箋を風夏から受け取って)ああ」
風夏「二人とも、土曜日は遅れないでね」
菜摘「もちろんです!!」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)土曜日に何かあるのか・・・?」
菜摘・風夏「お墓参り!」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)びょ、病院で墓参りの話をするなんてどうかと思うぞ」
菜摘「鳴海くん、土曜日に行くってことを忘れていたの?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)た、たとえ忘れていたとしても今思い出したんだから良いじゃないか。そ、そうだろ菜摘」
菜摘「私は忘れること自体に問題が・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘の話を遮って)そ、そんなことよりも薬局に行くぞ。じゃあな姉貴」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま車椅子のハンドリムを回して移動し始める
菜摘「あ、危ないよ鳴海くん!!」
菜摘は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま移動している鳴海のことを追いかける
◯1815薬局(昼過ぎ)
外は曇っている
薬局の中にいる鳴海と菜摘
薬局の中には様々な薬が棚に陳列されている
薬局の中には数脚の椅子が置いてある
薬局の椅子には数人の客が座っている
薬局にはカウンターがあり、数人の客が薬の支払いをしている
薬局のカウンターの奥にはたくさんの薬が棚に陳列されている
鳴海は車椅子に乗っている
鳴海は右足だけサンダルを履いている
鳴海の右足には包帯が巻いてある
車椅子に乗ったまま右足を伸ばしている鳴海
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海の代わりにレジで薬の支払いをしている菜摘
菜摘の隣ではレジで老婆が薬剤師から睡眠薬の説明を受けている
薬剤師「稀にこの睡眠薬を飲んで夢を見やすくなったという方が・・・」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま薬剤師と老婆のことをボーッと見ている
薬の支払いを終えた菜摘が鳴海のところに戻って来る
菜摘は薬、包帯、ガーゼなどが入ったビニール袋を持っている
菜摘「鳴海くん、お薬は毎晩お風呂上がりに塗るようにだって」
鳴海は変わらず車椅子に乗り右足を伸ばしたまま薬剤師と老婆のことをボーッと見ており、菜摘の話を聞いていない
変わらずレジで薬剤師から睡眠薬の説明を受けている老婆
薬剤師「毎晩寝る前に2錠、数は必ず守って・・・」
菜摘「鳴海くん!!」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま薬剤師と老婆のことを見るのをやめる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま薬剤師と老婆のことを見るのをやめて)あ、ああ」
菜摘「お薬、貰って来たよ」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)あ、ありがとう菜摘」
菜摘「うん・・・(少し間を開けて心配そうに)鳴海くん、どうしたの?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)べ、別にどうもないぞ」
少しの沈黙が流れる
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動し始める
鳴海に合わせて歩き始める菜摘
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)な、菜摘、欲しい物があったら言ってくれ、財布のお礼に奢るからさ」
菜摘は俯く
菜摘「(俯いて)私・・・欲しい物なんかないよ・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)遠慮してるのか?」
菜摘「(俯いたまま)そうじゃなくて・・・」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら、薬局の自動ドアを通り外に出る
薬局の自動ドアを通り外に出る菜摘
薬局の前にはスロープがある
車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら、薬局の前のスロープを降りて行く鳴海
菜摘は顔を上げる
心配そうに車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動している鳴海のことを見る菜摘
◯1816住宅街(昼過ぎ)
空は曇っている
住宅街にいる鳴海と菜摘
鳴海は車椅子に乗っている
鳴海は右足だけサンダルを履いている
鳴海の右足には包帯が巻いてある
車椅子に乗ったまま右足を伸ばしている鳴海
鳴海の膝の上には財布、薬、包帯、ガーゼなどが入っているビニール袋が置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
車椅子に乗り右足を伸ばしたまま車椅子のハンドリムを回して移動している鳴海
菜摘は鳴海の車椅子の速度に合わせて歩きながら鳴海の後ろをついて行っている
目的もなくどこかに向かっている鳴海と菜摘
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)本当に何も欲しくないのかよ、菜摘」
菜摘「うん・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「な、鳴海くん・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)何だ」
菜摘「く、車椅子・・・押してあげるよ」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)さっきも大丈夫だって言っただろ菜摘、同じことを繰り返させないでくれ」
菜摘「ご、ごめん・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)今からどこかに行くか?」
菜摘「だ、ダメだよ、鳴海くんは安静にしてなきゃいけないのに・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)車椅子を使いこなしてるんだぞ菜摘」
菜摘「そ、それでもダメ!!」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)じゃあ・・・菜摘はどうしたいんだ」
菜摘「わ、私は・・・鳴海くんと一緒に・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら菜摘の話を遮って)それだけじゃつまらないだろ」
菜摘「そ、そんなことないよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)家まで送る・・・(少し間を開けて)今日はそれで良いか」
菜摘「わ、私が鳴海くんをお家に・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら菜摘の話を遮って)そしたら菜摘はどうするんだよ」
菜摘「な、鳴海くんに送ってもらわなくても私一人で帰れるもん」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)お前は病気なんだぞ」
菜摘は立ち止まる
俯く菜摘
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)怪我人の俺が大人しくしなきゃいけないなら、菜摘は家で寝てなきゃ・・・」
菜摘は俯いたまま鳴海の話を無視して早足で歩く
話をしながら車椅子に乗り、右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動している鳴海のことを追い抜いて行く菜摘
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)お、おい、菜摘」
菜摘は俯いたまま鳴海の声を無視して早足で一人先を歩き続ける
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして車椅子のハンドリムを回し移動しながら)ま、待ってくれよ!!」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま車椅子のハンドリムを回す速度を上げて、俯き早足で歩いている菜摘のことを追う
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま車椅子のハンドリムを回す速度を上げ、俯き早足で歩いている菜摘のことを追いかけて)な、菜摘!!」
菜摘は変わらず俯いたまま鳴海の声を無視して早足で一人先を歩いている
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま車椅子のハンドリムを回す速度を上げ、俯き早足で歩いている菜摘のことを追いかけて)クソッ・・・」
車椅子で移動している鳴海と俯いたまま早足で歩いている菜摘の距離は、全く縮まっていない
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま車椅子のハンドリムを回す速度を上げ、俯き早足で歩いている菜摘のことを追いかけて)ま、待ってくれ!!!!菜摘!!!!」
車椅子で移動している鳴海と俯いたまま早足で歩いている菜摘の距離が、少しずつ開き始める
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま車椅子のハンドリムを回す速度を上げ、俯き早足で歩いている菜摘のことを追いかけて)ちくしょう・・・」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま車椅子のハンドリムを回すのをやめる
片足で車椅子から立ち上がる鳴海
鳴海が片足で車椅子から立ち上がった拍子に、鳴海の膝の上に置いてあった財布、薬、包帯、ガーゼなどが入っているビニール袋が地面に落ちる
鳴海は怪我をした右足を引きずりながら、俯き早足で歩いている菜摘のことを追いかける
鳴海「(怪我をした右足を引きずりながら、俯き早足で歩いている菜摘のことを追いかけて大きな声で)菜摘!!!!」
菜摘は変わらず俯いたまま早足で一人先を歩き、鳴海の声を無視し続ける
鳴海「(怪我をした右足を引きずりながら、俯き早足で歩いている菜摘のことを追いかけて大きな声で)すまない!!!!菜摘のことを病人扱いするつもりはなかったんだ!!!!」
菜摘は俯いたまま立ち止まる
鳴海「(怪我をした右足を引きずりながら俯いている菜摘のことを追いかけて大きな声で)酷いことを言って悪かった!!」
怪我をした右足を引きずっている鳴海が俯いたまま立ち止まっている菜摘の元に追いつく
怪我をした右足を引きずりながら俯いている菜摘の後ろで立ち止まる鳴海
鳴海「(怪我をした右足を引きずりながら俯いている菜摘の後ろで立ち止まって)な、菜摘・・・お、俺は・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って大きな声で)鳴海くんは何も分かってないよ!!!!」
鳴海「わ、分かってるぞ。俺は菜摘のことを・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って大きな声で)私が言いたいのはそんなことじゃない!!!!」
少しの沈黙が流れる
菜摘「わ、私は・・・鳴海くんのことが大事なんだ・・・他のどんなことよりも・・・どんな人よりも・・・鳴海くんのことが世界で一番大事でなんだよ・・・」
鳴海「そ、それは重々承知で・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)鳴海くんだって私が自分のことを大事にしなかったら怒るのに・・・私には怒るなって言うのは理不尽だ・・・」
鳴海「すまない・・・」
菜摘「鳴海くんが私のことを大事にしてくれるのと同じくらい・・・ううん・・・それ以上に私は鳴海くんのことを大事にしたい・・・そう思っているのに・・・」
鳴海「お、お互いがお互いを大事にすれば良いじゃないか」
菜摘「私鳴海くんにだけは迷惑をかけたくないんだよ・・・」
鳴海「そ、それもお互い様にすれば良いだろ!!お、俺だって菜摘に迷惑をかけているんだぞ!!」
再び沈黙が流れる
鳴海「俺のことを大事にしたいって思ってくれてるのはありがたいけどさ・・・俺だって菜摘に対して同じ気持ちを抱いてるんだから・・・どちらかに重心がずれてしまうのは仕方がないことだろ・・・?」
菜摘「仕方がなくなんかない・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「わ、わがままを言わないでくれ菜摘。お互いがお互いを一番に想っている、それでこの話は終わりにしようじゃないか」
菜摘は振り返る
泣いている菜摘
菜摘「(泣きながら)何で好きな人のことを大事にしたいって気持ちが・・・わがままになっちゃうの・・・?(少し間を開けて)もし私がわがままなら・・・鳴海くんだって相当わがままなんじゃないの・・・?」
鳴海「そ、それは・・・」
菜摘「(泣きながら)鳴海くん・・・私さっきも言ったけど・・・鳴海くんは私に寄りかかって良いんだよ・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「分かった・・・俺は俺のことも大事にするから・・・菜摘は・・・自分のことを大事にしてくれ」
大きなエコバッグを抱えた主婦が鳴海と泣いている菜摘の横を通って行く
鳴海と菜摘の横を通って行きながら泣いている菜摘のことを見ている大きなエコバッグを抱えた主婦
少しの沈黙が流れる
菜摘「(泣きながら)鳴海くん・・・」
鳴海「な、何だ?」
菜摘「(泣きながら)転がって来たの・・・?」
鳴海「は・・・?」
菜摘「(泣きながら)冗談だよ・・・」
鳴海「じょ、冗談か・・・」
菜摘「(泣きながら)今の鳴海くんは歩いちゃいけないんだから・・・」
鳴海「な、菜摘を追いかけるのに必死で歩くしか・・・」
菜摘「(泣きながら鳴海の話を遮って)私車椅子取ってくる・・・」
鳴海「あ、ああ」
菜摘は涙を拭う
車椅子があるところに行く菜摘
菜摘は財布、薬、包帯、ガーゼなどが入っているビニール袋を拾う
財布、薬、包帯、ガーゼなどが入っているビニール袋を拾って車椅子を押し始める菜摘
菜摘は車椅子を押しながら鳴海の元に行く
鳴海の後ろに車椅子を止める菜摘
鳴海「す、座って良いか?」
菜摘「う、うん」
鳴海は車椅子に座る
車椅子に座って右足を伸ばす鳴海
鳴海「(車椅子に座り右足を伸ばして)あ、ありがとう菜摘」
菜摘「どういたしまして、鳴海くん」
鳴海は車椅子に乗って右足を伸ばす
右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押し始める菜摘
少しの沈黙が流れる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)ど、どこに向かってるんだ?」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)どこだろう・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)わ、分からないのに押してるのか?」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)うん」
再び沈黙が流れる
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)お父さんが前に言ってたんだ、愛する人と一緒にいることのただ一つの弊害は・・・少しだけ頭が変になってしまうことだって」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)な、菜摘の親父さんらしいな」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)私も・・・お父さんと同じ考えかも・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)そ、そうか・・・ま、まあ分からないことはないが・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)家まで送ってくれるか?菜摘」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)もちろんだよ、鳴海くん」
◯1817貴志家鳴海の自室(夜)
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋はカーテンが閉められている
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる
少しすると片足立ちの鳴海が部屋の中に入って来る
鳴海の右足には包帯が巻いてある
鳴海は片足立ちで移動をしながらベッドに行く
片足立ちでベッドに横になる鳴海
鳴海「(片足立ちでベッドに横になって 声 モノローグ)俺も菜摘もわがままだ。そしてそのことに俺たちは酷く無自覚で、無頓着でもあるのかもしれない」
◯1818コンビニ(日替わり/昼)
外は晴れている
コンビニの中にいる鳴海と菜摘
コンビニの中には鳴海と菜摘の他に昼食を買いに来たサラリーマン、OL、学生などがいる
鳴海は車椅子に乗っている
鳴海は右足だけサンダルを履いている
鳴海の右足には包帯が巻いてある
車椅子に乗ったまま右足を伸ばしている鳴海
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押している菜摘
鳴海と菜摘コンビニの棚に陳列されたお弁当を見ている
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらい、コンビニの棚に陳列されたお弁当を見て 声 モノローグ)まさに少しだけ・・・俺たちの頭は変になっているんだろう」
◯1819貴志家リビング(昼過ぎ)
リビングにいる鳴海と菜摘
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
鳴海の右足には包帯が巻いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはコンビニで購入した唐揚げ弁当、鮭おにぎり、梅おにぎり、割り箸一膳、500ミリリットルのお茶、250ミリリットルのお茶が置いてある
話をしている鳴海と菜摘
鳴海「じゃあ食べるか」
菜摘「そうだね」
鳴海・菜摘「いただきます」
鳴海は唐揚げ弁当の蓋を外す
鮭おにぎりを手に取る菜摘
菜摘は鮭おにぎりの個装を取り外す
テーブルの上に置いてあった割り箸を手に取る鳴海
鳴海は割り箸を割る
鮭おにぎりの個装を外す菜摘
菜摘は鮭おにぎりの個装を外して鮭おにぎりをテーブルの上に置く
菜摘「(鮭おにぎりをテーブルの上に置いて)鳴海くん」
鳴海「ん?」
菜摘「割り箸貸して」
鳴海「箸ならキッチンに・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)鳴海くんの割り箸を借りちゃダメ・・・?」
鳴海「べ、別に構わないけどさ・・・」
鳴海は割り箸を菜摘に差し出す
割り箸を鳴海から受け取る菜摘
菜摘「(割り箸を鳴海から受け取って)ありがとう」
鳴海「は、箸なんか何に使うんだ?」
菜摘「箸はご飯食べるのに使うんだよ、鳴海くん」
鳴海「さすがの俺でもそのくらいは分かるんだが・・・」
菜摘は鳴海の唐揚げ弁当を自分の前に引き寄せる
鳴海「唐揚げが食べたかったのか?」
菜摘「ううん」
菜摘は唐揚げ弁当の唐揚げを割り箸で挟んで持ち上げる
割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを鳴海の前に差し出す菜摘
菜摘「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを鳴海の前に差し出して)はい、鳴海くん」
鳴海「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを菜摘に差し出されたまま)な、何をしてるんだ・・・?」
菜摘「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを鳴海の前に差し出したまま)た、食べさせてあげるね、唐揚げ」
鳴海「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを菜摘に差し出されたまま)その鶏肉、めちゃくちゃ美味いんだぞ菜摘」
菜摘「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを鳴海の前に差し出したまま)そ、そうなの?」
鳴海「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを菜摘に差し出されたまま)ああ、試しに1つ食べてくれ」
菜摘「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを鳴海の前に差し出したまま)で、でもこの唐揚げは鳴海くんのだよ」
鳴海「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを菜摘に差し出されたまま)遠慮するな菜摘、俺はお前と美味い唐揚げの味を共有したいんだ」
菜摘「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを鳴海の前に差し出したまま)きょ、共有・・・?」
鳴海「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを菜摘に差し出されたまま)おう。騙されたと思ってとりあえず1つ食べてみろ」
少しの沈黙が流れる
菜摘は割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを鳴海の前に差し出すのをやめる
菜摘「(割り箸で挟んで持ち上げた唐揚げを鳴海の前に差し出すのをやめて)じゃ、じゃあ・・・1つだけ・・・」
菜摘は割り箸で挟んで持ち上げていた唐揚げを口の中に運ぶ
唐揚げをしっかり噛み、味を確かめる菜摘
鳴海は菜摘が唐揚げの味を確かめている間に素早く菜摘の鮭おにぎりを盗む
菜摘から素早く盗んだ鮭おにぎりをテーブルの下に隠す鳴海
菜摘は少ししてから唐揚げを飲み込む
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりを隠したまま)味はどうだ?菜摘」
菜摘「うーん・・・確かに美味しいけど・・・」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりを隠したまま)だろ!!きっとあそこのコンビニは鶏の飼育にめちゃくちゃこだわってるぞ」
菜摘「鳴海くん、コンビニと牧場を間違えてない・・・?」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりを隠したまま)そ、そんなことを言うならもう1つ食べてみてくれ。い、今菜摘が口にしたやつは外れだったかもしれないだろ?」
菜摘「えー・・・唐揚げは5つしかなかったのにそのうちの2つも私が食べちゃうのは鳴海くんに申し訳ないよ」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりを隠したまま)そ、それなら後で菜摘のおにぎりを少しくれ」
菜摘「少しだけで良いの?」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりを隠したまま少し笑って)2個しかない菜摘のおにぎりを少し貰えたら十分だ」
菜摘「そ、そっか」
菜摘は再び唐揚げ弁当の唐揚げを割り箸で挟み、持ち上げる
割り箸で挟んで持ち上げていた唐揚げを口の中に運ぶ菜摘
菜摘は唐揚げをしっかり噛み、味を確かめる
菜摘が唐揚げの味を確かめている間に素早く菜摘の梅おにぎりを盗む鳴海
鳴海は菜摘から盗んだ梅おにぎりを鮭おにぎりと同じくテーブルの下に隠す
少ししてから唐揚げを飲み込む菜摘
菜摘「(唐揚げを飲み込んで)な、鳴海くん・・・」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを隠したまま)な、何だ?」
菜摘「この唐揚げなんだけど・・・お母さんが作った唐揚げほどは美味しくないと思う・・・」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを隠したまま)そ、そりゃそうだろうな」
菜摘「えっ、でも鳴海くんにとってはこの唐揚げが凄く美味し・・・」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを隠したまま菜摘の話を遮って)し、しまった!!あ、誤って菜摘のおにぎりを2個も食べてしまった!!」
菜摘「(驚いて)えぇー!?」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを隠したまま)す、すまない菜摘、お、おにぎりが美味過ぎてつい・・・」
菜摘「りょ、両方とも食べちゃったの・・・?」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを隠したまま)あ、ああ。お、お詫びに菜摘には俺の唐揚げ弁当を献上しよう」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを隠したまま)い、今更遠慮することはないぞ菜摘。わ、悪いのは俺だからな」
菜摘「そうじゃなくて、本当に鳴海くんは私のおにぎりを食べたの?」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを隠したまま)も、もちろんだ」
菜摘「じゃあ梅おにぎりのゴミはどこ?」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを隠したまま)ご、ゴミ?」
菜摘「おにぎりを包んでいた袋のことだよ、鳴海くん」
鳴海「(テーブルの下に菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを隠したまま)ふ、袋は・・・そ、そうだな・・・(少し間を開けて)よ、よく考えてみたら確か袋ごと食べたんだ。ビブラート・・・じゃ、じゃなくてオブラートで出来た袋だったんだろうな」
菜摘「あれはオブラートじゃなくてビニールだったから、鳴海くんの言ってることが本当ならまた救急車を呼ばなきゃ」
再び沈黙が流れる
鳴海は渋々テーブルの下に隠していた菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりを出す
菜摘の前に鮭おにぎりと梅おにぎりを置く鳴海
菜摘「鳴海くんは嘘をつかない方が良いと思うよ」
鳴海「どうせ俺の嘘が下手ですぐにバレるからだろ」
菜摘「うん」
菜摘は目の前に置いてあった鮭おにぎりと梅おにぎりを手に取る
菜摘「(鮭おにぎりと梅おにぎりを手に取って)どっちが食べたい?」
鳴海「どちらでも良いぞ」
菜摘は鮭おにぎりをテーブルの上に置く
菜摘「じゃあ・・・鳴海くんには・・・」
菜摘は梅おにぎりの個装を外す
梅おにぎりの個装を外して鮭おにぎりを手に取る菜摘
菜摘は鮭おにぎりと梅おにぎりを鳴海の前に差し出す
菜摘「(鮭おにぎりと梅おにぎりを鳴海の前に差し出して)鮭おにぎりと梅おにぎりの両方を一口ずつあげるね」
鳴海「(鮭おにぎりと梅おにぎりを菜摘に前に差し出し出されたまま)さ、サンキュー」
鳴海は梅おにぎりを菜摘に前に差し出されたまま、菜摘の手から鮭おにぎりを取ろうとする
鳴海が菜摘の手から鮭おにぎりを取ろうとした瞬間、鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を同時に引っ込める菜摘
鳴海「ひ、一口くれるんじゃなかったのか?」
菜摘「(鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を引っ込めたまま)も、もちろんあげるけど・・・」
鳴海「な、何だ?」
菜摘「(鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を引っ込めたまま)わ、私が鳴海くんの口に食べさせてあげるよ」
鳴海「は・・・?」
菜摘「(鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を引っ込めたまま)だ、だから・・・な、鳴海くんは口を開けてて」
鳴海「ほ、本気でそんな頭の悪いカップルみたいなことをするつもりなのか・・・」
菜摘「(鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を引っ込めたまま)わ、私馬鹿だもん・・・な、鳴海くんだって・・・たまに馬鹿な時があるし・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ちゃ、ちゃんと口の中に入れるんだぞ菜摘」
菜摘「(鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を引っ込めたまま)う、うん」
鳴海「は、鼻の中に入れたりするなよ」
菜摘「(鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を引っ込めたまま)だ、大丈夫」
再び沈黙が流れる
菜摘「(鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を引っ込めたまま)じゃ、じゃあいくよ、鳴海くん」
鳴海「お、おう」
鳴海は口を開ける
恐る恐る鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を鳴海の口に近付ける菜摘
菜摘が持っている鮭おにぎりと梅おにぎりがゆっくり鳴海の口に近付いて行く
菜摘「(恐る恐る鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を鳴海の口に近付けながら)は、恥ずかしいから目は開けてちゃダメ」
鳴海「(口を開けたまま)わあった」
鳴海は口を開けたまま両目を瞑る
鳴海の口に近付いて行っている鮭おにぎりと梅おにぎりの位置を若干上にずらす菜摘
菜摘は鮭おにぎりと梅おにぎりを両目を瞑っている鳴海の口ではなく、鼻の方にゆっくり持って行く
鮭おにぎりと梅おにぎりを両目を瞑っている鳴海の鼻の先に優しく当てる菜摘
鳴海は菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりが自分の鼻の先に当たった瞬間、両目を開ける
鳴海「(菜摘の鮭おにぎりと梅おにぎりが自分の鼻の先に当たった瞬間、両目を開けて)く、口の中に入れろと言ったじゃないか!!」
菜摘は鳴海の鼻の先に鮭おにぎりと梅おにぎりを当てるのをやめる
菜摘「(鳴海の鼻の先に鮭おにぎりと梅おにぎりを当てるのをやめて)で、でも鳴海くんが・・・は、鼻の中に入れるなって・・・」
鳴海「それが何だよ!?」
菜摘「つ、つまり鼻の中に入れろってことでしょ・・・?」
鳴海「ど、どうしてそうなるんだ!!」
菜摘「入れて欲しいってボケのふりじゃないの・・・?」
鳴海「(大きな声で)お、俺はボケてなんかない!!!!」
菜摘「な、鳴海くん、ちゃんと口の中に入れろ、鼻の中に入れたりするなって念を押して言ってたから・・・ぼ、ボケてるのかと思ったよ・・・」
鳴海「(大きな声で)な、菜摘には俺がそこまでふざけた奴に見えているのか!?!?」
菜摘「う、うん・・・と、時々だけど・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「お、俺は食べ物で遊ぶような下品な人間じゃないぞ、菜摘」
菜摘「で、でもさっき私のおにぎりをテーブルの下に隠して遊んでなかった・・・?」
再び沈黙が流れる
鳴海「こ、金輪際お互い食べ物で遊ぶのは無しにしよう」
菜摘「そ、そうだね」
少しの沈黙が流れる
菜摘「も、もう一回やって良いかな・・・?」
鳴海「こ、今度は一体何をするつもりだ菜摘」
菜摘「お、おにぎりを鳴海くんの口に・・・」
鳴海「(驚いて菜摘の話を遮って)ま、また鼻に突撃させるつもりなのか!?」
菜摘「(慌てて)ち、違うよ!!こ、今度こそ鳴海くんにおにぎりを食べてもらおうと思って・・・」
鳴海「ぼ、ボケじゃないだろうな?」
菜摘「う、うん!!」
鳴海「な、菜摘のことを信じるぞ・・・」
菜摘「ま、任せてよ鳴海くん!!」
鳴海「よ、よし・・・」
鳴海は口を開ける
再び鮭おにぎりと梅おにぎりを持った手を鳴海の口にゆっくり近付ける菜摘
菜摘は鳴海の開けている口の前で鮭おにぎりと梅おにぎりを止める
菜摘の鮭おにぎりを一口かじる鳴海
鳴海は少しすると鮭おにぎりを飲み込む
再び口を開ける鳴海
鳴海は菜摘の梅おにぎりを一口かじる
菜摘「しっかり噛まなきゃダメだよ、鳴海くん」
鳴海は梅おにぎりを急いで飲み込む
鳴海「(梅おにぎりを急いで飲み込んで)もう食べちまった」
菜摘「い、今鳴海くんわざと急いで飲み込んだと思う!!」
鳴海「かつてないほどゆっくり味を噛み締めながら食べたぞ菜摘」
菜摘「鳴海くんの・・・嘘つき。(少し間を開けて)もし喉に食べ物が詰まったらまた救急車なんだよ」
鳴海「事あるごとに救急車と言って俺を脅さないでくれ・・・」
菜摘「し、心配しているだけで脅してなんかないもん」
鳴海「俺はタフガイなんだぞ、菜摘」
菜摘「タフガイ・・・?鳴海くんが・・・?」
鳴海「そ、そうだ」
菜摘「とてもじゃないけど鳴海くんはタフガイに見えないよ、足だって怪我をしてるし」
鳴海「だ、誰でも足くらいは怪我するだろ」
菜摘「私はしてないもん」
鳴海「いつか怪我するかもしれ・・・」
鳴海と菜摘は話を続ける
鳴海「(菜摘と話をしながら 声 モノローグ)変になったのは本当に少しだけか?」
◯1820公園(夕方)
夕日が沈みかけている
公園にいる鳴海と菜摘
鳴海は車椅子に乗っている
鳴海は右足だけサンダルを履いている
鳴海の右足には包帯が巻いてある
車椅子に乗ったまま右足を伸ばしている鳴海
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
公園には鳴海と菜摘の他に人はいない
菜摘は木の棒を持っており、公園の地面に大きな文字で何かを書いている
車椅子に乗り右足を伸ばしたまま、菜摘が木の棒で公園の地面に何かを書く姿を見ている鳴海
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして、菜摘が木の棒で公園の地面に何かを書く姿を見たまま)何を書いてるんだ?」
菜摘「(木の棒で公園の地面に大きな文字で何かを書きながら)秘密!!」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして、菜摘が木の棒で公園の地面に何かを書く姿を見たまま)お、教えてくれよ!!」
菜摘「(木の棒で公園の地面に大きな文字で何かを書きながら)こういうのは知ったら面白さがなくなっちゃうからダメ!!」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして、菜摘が木の棒で公園の地面に何かを書く姿を見たまま)お、面白さなんて俺は求めてないんだが・・・」
菜摘「(木の棒で公園の地面に大きな文字で何かを書きながら)知らない方が神秘的で素敵だよ、鳴海くん」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして、菜摘が木の棒で公園の地面に何かを書く姿を見たまま)そ、そういうものなのか・・・?」
菜摘「(木の棒で公園の地面に大きな文字で何かを書きながら)うん!!」
時間経過
菜摘は木の棒で公園の地面に何かを書き終える
木の棒を公園の地面に置く
菜摘「(木の棒を公園の地面に置いて)書けたよ鳴海くん!!」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)お、おう」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘が公園の地面に書いた文字を見ようとする
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘が公園の地面に書いた文字を見ようとするが、鳴海の位置からでは公園の地面に何が書かれているのか見えず分からない
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘が公園の地面に書いた文字を見ようとするのをやめる
車椅子に乗り右足を伸ばしたまま一眼レフカメラの電源を入れる鳴海
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま一眼レフカメラのファインダーを覗く
公園の地面に書かれた大きな文字の上に立って両手を広げる菜摘
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして一眼レフカメラのファインダーを覗いたまま)撮っても良いよな、菜摘」
菜摘「(公園の地面に書かれた大きな文字の上に立って両手を広げたまま)もちろん!!」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばして一眼レフカメラのファインダーを覗いたまま、公園の地面に書かれた大きな文字の上に立って両手を広げている菜摘の写真を撮る
車椅子に乗り右足を伸ばしたまま一眼レフカメラのファインダーを覗くのをやめる鳴海
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま撮った写真を一眼レフカメラの液晶モニターで確認する
一眼レフカメラの液晶モニターには、公園の地面に書かれた大きな文字の上に立って両手を広げる菜摘の姿が写っている
菜摘は車椅子に乗り右足を伸ばしている鳴海の元へ行く
車椅子に乗り右足を伸ばしたまま撮った写真を一眼レフカメラの液晶モニターで確認するのをやめる鳴海
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま一眼レフカメラで撮れた写真を菜摘に見せる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま一眼レフカメラで撮れた写真を菜摘に見せて)写真を見ても何が書いてあるのか分からないな」
菜摘「(車椅子に乗り右足を伸ばしている鳴海に一眼レフカメラで撮れた写真を見せられながら)それで良いんだよ鳴海くん」
鳴海は車椅子に乗り右足を伸ばしたまま一眼レフカメラで撮れた写真を菜摘に見せるのをやめる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま一眼レフカメラで撮れた写真を菜摘に見せるのをやめて)でも気になるじゃないか」
菜摘「きっと鳴海くんの興味は書いてある文字を知ってしまった瞬間に失われてしまうもん」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま)そ、そんなこと分からないだろ」
菜摘は車椅子に乗り右足を伸ばしている鳴海の後ろに回る
右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押し始める菜摘
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)夢とか、映画とか、小説とか、絵画と同じで、全貌は分からない方が魅力的に感じるんだよ、鳴海くん」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)そ、それは否定しないけどさ・・・せめてヒントはくれても良くないか?」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)ダメ」
鳴海と菜摘は公園を出る
鳴海と菜摘の正面から部活帰りの波音高校の生徒たちが歩いて来る
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)こ、今度また唐揚げ弁当を奢るから教えてくれ」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)鳴海くん・・・私・・・そこまでコンビニのお弁当は好きじゃないよ・・・」
鳴海と菜摘は部活帰りの波音高校の生徒たちとすれ違う
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)じゃ、じゃあ違う物を奢ろう・・・」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)物なんて要らないもん」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって呆れて)相変わらず物欲のない奴だな」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)な、鳴海くんと過ごしているだけで私は世界一幸せだから・・・」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)菜摘、響紀みたいなことを言ってるぞ」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)えっ、そうかな?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)卒業式の時に、響紀がそこら中に鼻水を撒き散らかしながら私は世界で一番幸せな高校生だって言ってたじゃないか」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら少し笑って)実際に私も響紀ちゃんも世界一幸せだって思ってるんだもん、それに幸せだと口にするのはとても良いことだよ鳴海くん」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)ま、まあな」
少しの沈黙は流れる
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)鳴海くんは・・・今幸せ・・・?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)お、俺に世界一幸せだって小っ恥ずかしいことを言わせるつもりか・・・?」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)そ、そういうわけじゃないけど・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって小声でボソッと)俺も世界一幸せだ・・・」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)な、なんか今のだと無理矢理私が鳴海くんに言わせた感じがしない・・・?」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)お、俺は菜摘や響紀と違って思っていることを直接口に出せる勇気は持ってないんだよ」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)そ、そっか・・・そ、そうだよね」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)そ、卒業式で思い出したけど、響紀ちゃんは鼻水を撒き散らかしてなんかなかったよ」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)何を言ってるんだ菜摘、あいつは体育館中を鼻水だらけにしていただろ」
菜摘「(右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら)そ、それは鳴海くんの記憶違いだと思うな・・・多分卒業式の思い出が脚色されてるよ」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま菜摘に車椅子を押してもらって)響紀が全校生徒の前でハーモニカを吹いて大恥をかいたのも俺は覚えて・・・」
鳴海と菜摘は話を続ける
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして菜摘に車椅子を押してもらい菜摘と話をしながら 声 モノローグ)少しではなかった」
◯1821緋空浜(夕方)
夕日が沈みかけている
緋空浜の浜辺にいる鳴海と菜摘
太陽の光が波に反射し、キラキラと光っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791のかつての緋空浜に比べると汚れている
浜辺には鳴海と菜摘の他にもたくさんの人がおり、釣りやウォーキングをしている
鳴海は車椅子に乗っている
鳴海は右足だけサンダルを履いている
鳴海の右足には包帯が巻いてある
車椅子に乗ったまま右足を伸ばしている鳴海
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
菜摘は右足を伸ばした鳴海が乗っている車椅子を押しながら走っている
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま走っている菜摘に車椅子を押してもらって 声 モノローグ)俺と菜摘は、それこそ響紀にも劣らないくらい変になっている」
車椅子に乗り右足を伸ばしている鳴海と、鳴海が乗っている車椅子を押しながら走っている菜摘が緋空浜の浜辺を駆け抜けている
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばしたまま走っている菜摘に車椅子を押してもらって 声 モノローグ)俺たちは夢中なんだ、今を生きて、お互いを幸せにすることに」