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Chapter4 √波音(菜摘)×√奈緒衛(鳴海)×√凛(?)-約500年前=暴力と愛の先に 前編

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter4 √波音(菜摘)×√菜緒衛(鳴海)×√凛(?)-約500年前=暴力と愛の先に


登場人物


白瀬 波音(なみね)23歳女子

妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。好戦的な性格だがあくまで妖術は使わず武器を使って戦う。優秀な指揮官。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

織田信長を敬愛している青年、武術の腕前を買われ波音の部下になる。


(りん)21歳女子

不思議な力を持つ女性、波音の精神面を支え戦のサポートをする。体が弱い。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われている伝説の武将。波音とは旧知の仲。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

信長の家臣。


上杉 謙信(けんしん)44歳男子

信長に対抗をする数少ない武将。


森 蘭丸(らんまる)17歳男子

信長の側近を務める礼儀正しい美少年。


住持 (じゅうじ) 61歳男子

知識が豊富なお坊さん、緋空寺に住んでいる。緋空浜に仕えている身。


滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、学校をサボりがち。運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、鳴海と同じように学校をサボりダラダラしながら日々を過ごす。不真面目。絶賛彼女募集中。文芸部部員。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。魔女っ子少女団メインボーカル。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。天文学部部長。不治の病に侵された姉、智秋がいる。

 

一条 智秋(ちあき)24歳女子

ドナーが見つかり一命を取り留める。現在はリハビリをしつつ退院待ち


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家、滅びかけた世界で“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。ナツと一緒に“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。ボロボロの軍服のような服を着ている。


Chapter4 √波音(菜摘)×√菜緒衛(鳴海)×√凛(?)-約500年前=暴力と愛の先に 前編


◯441冒頭

 字幕のみ

字幕「時は戦国時代・・・世は混沌を極めていた。戦で流れる血は雨よりも多く、作物を耕すことを知らない。米には戦の生臭さが残っていた。統一こそが全てを手に入れる」

字幕2「最後の海人である波音は、織田信長の友軍として戦場へ赴く。彼女は死をも恐れず、勇敢な部下と共に次々に戦果を上げていった」


◯442織田軍見張り台(昼)

 甲冑を身に纏い、武装している織田軍

 二千人ほどの騎馬武者が長い槍を持っている

 織田信長の旗印を身に付けている武士たち

 見張り台の上から敵軍を見ている奈緒衛

 相手は上杉軍

 相手の数は織田軍よりかなり少ない

 

字幕「1582年・・・」


◯442織田軍本陣(昼)

 坐禅をしている波音

 波音の隣には大きな薙刀と兜がある

 波音の坐禅を見守っている数人の武士たち

 本陣の中に入ってくる奈緒衛


奈緒衛「波音」


 目を開ける波音

 

波音「数は?」

奈緒衛「およそ八百、我々の方が圧倒的に有利だ」

波音「凛の予知通りか・・・」

奈緒衛「謙信はいない、奴ら命を投げ捨てる気だろう」

波音「愚かな謙信殿、哀れな家臣」


 兜を被る波音


波音「行くぞ奈緒衛、一泡吹かせてやろう」


 頷く奈緒衛

 薙刀を持つ波音

 本陣を出る波音

 波音に続いて本陣を出る武士たち


◯443織田軍隊列(昼)

 武装をした二千の武士たちが横並びしている

 中心にいるのは波音

 波音の隣にいるのは奈緒衛

 馬に乗っている波音たち

 向かい側には上杉軍がいる

 上杉軍も同じように武士たちが横並びしている

 ほら貝の大きな音が鳴り響く

 上杉軍からほら貝の音が返ってくる

 上杉軍が向かってくる

 

波音「(大きな声で)弓を構えろ!!!!!!」


 弓矢隊が宙に向かって構える

 

波音「(大きな声で)投石の準備を!!!!!!」


 投石隊が紐に石をくくり付ける

 

波音「楽しくなってきたぞ」


 上杉軍はどんどん近づいてくる


波音「(大きな声で)矢を放て!!!!!!」


 弓矢隊が一斉に矢を射つ

 矢は高く上がり、放物線を描いて落ちる

 先頭を走っていた上杉軍の武士と馬に矢が刺さる

 落馬する武士たち、倒れる馬、それらに巻き込まれ上杉軍の隊列が崩れる


波音「(大きな声で)第二陣構えろ!!!!!」


 弓矢隊が宙に向かって構える


波音「(大きな声で)矢を放て!!!!!!」


 弓矢隊が一斉に矢を射つ

 矢は高く上がり、放物線を描いて落ちる

 第一陣の矢を切り抜けた武士たちに矢が刺さる

 

波音「(大きな声で)投石構えろ!!!!!!」


 投石隊が構える

 弓矢を避けた上杉軍の武士たちが迫ってくる


波音「(大きな声で)投げろ!!!!!!!」


 投石隊が15cmほどの石を投げる

 石は真っ直ぐ飛び、上杉軍の武士や馬に当たる

 石が当たり体の部位が破損する

 飛び交う血と肉塊

 

波音「ずいぶん減ってしまったな」

奈緒衛「百はやったぞ」


 弓と石の攻撃から生き延びた上杉軍の武士たちが武器を構え走ってくる

 雄叫びを上げている上杉軍の武士たち


波音「聞こえるか奈緒衛、あの声だ」

奈緒衛「ああ」

波音「この世で最も美しい音色、心地よいわ」

奈緒衛「そうか?俺にはやかましいだけだが」

波音「死の音だよ、坊や。(薙刀を構える)あれは死の音なんだ」


 槍を構える奈緒衛

 騎馬隊の武士たちが武器を構える


波音「(大きな声で)戦の時だ!!!!!!侮るなよ!!!!!!奴らは上杉謙信に魂を売った化け物だ!!!!!!!死など恐れないぞ!!!!!!」

奈緒衛「(大きな声で)信長様に天下を!!!!!!」


 兜で顔を隠す波音

 声を上げる織田軍

 走り始める織田軍

 織田軍と上杉軍が交わる

 薙刀で上杉軍の武士を斬り殺す波音

 槍で上杉軍の武士を刺し殺す奈緒衛

 上杉軍も負けじと応戦し、織田軍の武士を殺す

 織田軍と上杉軍が入り交じり、ごった返しになっている戦場

 怪我を負った馬の鳴き声、武器が甲冑に当たる音が響いている

 

上杉軍の武士「(大きな声で)死ねえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

 馬に乗った上杉軍の武士が槍を構えて波音に突撃してくる

 槍を槍で受け流す波音

 上杉軍の武士は体勢を崩し、落馬する


波音「(薙刀を構えながら)貴様が死ね」


 上杉軍の武士の首を斬る波音

 血が波音にかかる

 兜の中から笑っている波音の表情が見える


◯444戦の跡地(夜)

 夜になっている

 松明を持った織田軍の武士たち

 上杉軍の生き残りを探している波音と奈緒衛

 二人は馬から降りている

 それ以外の武士たちは捕虜を見張っている

 足元には死んだ馬、遺体、壊れた甲冑や武器、肉塊が転がっている


波音「歯向かう奴は命を断ち切ってしまえ、戦意がない者は生け捕りにしろ!」


 いきなり波音の足を掴んで来る上杉軍の武士

 上杉軍の武士は怪我をして倒れている

 上杉軍の武士に槍を向ける奈緒衛

 

奈緒衛「(槍を向けながら)離せ!!手を斬られたいのか!!」

波音「まあ待て。この者、上杉軍の大将だと見受けるが・・・」

上杉軍の武士「(大きな声で)大将は謙信様だ!!!!!!」

波音「その謙信殿はお主たちを置いて逃走したのか?」

上杉軍の武士「(大きな声で)無礼者!!!!!貴様のような妖術使いが軽々しくその名を口にするな!!!!!!」

奈緒衛「(低い声で)黙れ。お前のその頭、串刺しにするぞ」


 上杉軍の武士の前にしゃがむ波音


波音「降伏するか?」

上杉軍の武士「命など惜しくはない、殺れ」


 立ち上がる波音


波音「では・・・(薙刀を構えて)そうさせてもらうぞ!!」


 首を斬り落とす波音

 足を掴んでいた手を斬り落とす波音

 手を足から外す波音

 斬り落とした手首から血が垂れる


奈緒衛「晒すか?」

波音「(斬り落とした手首を見ながら)首の上に手を乗せてな」


 時間経過


 生け捕りにした上杉軍の武士を連れて戦場を離れる織田軍

 波音が殺した武士は晒し首にされている

 首の上には手が置いてある


◯445社殿の門(日替わり/昼)

 社殿に帰ってきた波音たち

 波音たちの帰還を迎える凛

 馬から降りる波音と奈緒衛


凛「お帰りなさいませ!」

奈緒衛「凛、出迎えは禁じられているのだぞ」

凛「よいではありませんか、波音様と奈緒衛様のお姿をこの目に焼き付けておきたいのです」

波音「禁を犯すとはお主も悪だな」

凛「どうかお許しを。私めはお二人の無事を確認したかったのです」


 門をくぐり社殿の中に入る織田軍の武士たち


波音「仕方のない子だ、大目に見てやろう」


◯446社殿/波音の寝室縁側(昼過ぎ)

 それほど広くない畳の部屋

 寝るための布団があるだけの部屋

 縁側に座っている波音、奈緒衛

 中庭は松の木が生え、小鳥が鳴いている 

 抹茶を持ち運んで来る凛

 熱々の抹茶を置く凛

 

凛「戦はいかがでしたか?」

奈緒衛「いつもと変わらぬ。凛の予知した通りの敵が現れ、其奴らを葬るのみ」

凛「私も一度で構いませんので、戦に行ってみたいものです」


 抹茶をゆっくり飲む波音


波音「そなたには向いておらぬだろう」

奈緒衛「同意見だ、惨たらしい屍を見て取り乱すんじゃないのか?」

凛「屍如きで私は動じません!お二人以上の戦果を上げてみせましょう」


 腰につけた短剣(鞘にしまったままの状態)を取り出す凛


凛「(短剣を振り回しながら)てやっ!!とうっ!!せいっ!!!」


 短剣が抹茶の入っていた器に当たり、抹茶が飛び散らかる

 抹茶が奈緒衛にかかる

 熱さで悶える奈緒衛


奈緒衛「熱い熱い!!!!!」

凛「も、申し訳ありません!!」


 抹茶の付いた装束を慌てて脱ごうとする奈緒衛

 なかなか装束が脱げない

 脱ぐのを手伝っている凛

 奈緒衛の姿を見て笑っている波音


奈緒衛「(怒りながら)何なのだこの布切れは!!!ちっとも脱げないではないか!!!!」

波音「(笑いながら)情けないのう、男なのだから痛みには強くあれ」


 奈緒衛は抹茶の入っている器を手に取り、波音にかける

 波音の顔面が抹茶塗れになる

 装束で顔についた抹茶を拭う波音


波音「この不届き者!!」

奈緒衛「俺のことを笑うからだ!!!」


 睨み合う波音と奈緒衛

 間に入る凛


凛「お止めください!!!このような些細な事でお二人が争う姿など見とうありません!!!」


 少しの沈黙が流れる

 

波音「凛が短剣を振り回し、奈緒衛が茶塗れになったところからこの争いは始まったのだぞ?」

奈緒衛「そういえばそうではないか!!凛、お前のせいだ!」


 波音と奈緒衛の二人が凛のことを見る


凛「(少し笑いながら)も、も、申し訳ありません」

波音「何がおかしい?」

凛「(笑いながら)お、お二人とも、抹茶を被って仰ってるもので・・・こ、滑稽なのです」


 大笑いしている凛

 顔を見合わせる波音と奈緒衛


奈緒衛「確かに」

波音「なんと愉快な姿なことか」

奈緒衛「滑稽だ」


 互いの姿を見て笑い始める波音と奈緒衛


◯447社殿/波音の間縁側(夜)

 中庭から月の光が差し込んでいる

 縁側に座っている波音

 酒器に注がれている焼酎が波音の隣に置いてある

 焼酎を飲む波音


奈緒衛「波音、入ってもよいか」

波音「構わぬ」


 ふすまを開けて縁側にやって来る奈緒衛

 縁側に座る奈緒衛


奈緒衛「宴には出ないのか?皆大騒ぎしているぞ」

波音「あのような場は苦手でのう、私は一人で晩酌をするのがよいのだ」

奈緒衛「変わった奴だなぁ。皆と飲んでる方が楽しいと思うぞ」

波音「私には合わん」

奈緒衛「凛が波音様はどこだ!!!と騒いでおるよ。波音と飲みたいそうだ」


◯448社殿/大広間(夜)

 とても広い畳の部屋

 宴が行われている

 広間には酒、食料がたくさん置いてある

 織田軍の武士たちや女中が酔っ払い、大きな声で騒いでいる

 両手に酒を持った凛、顔は真っ赤 


凛「(大きな声で)波音様と奈緒衛様はどちらにいらっしゃるのだ!!!!」


 フラフラした足取りで立ち上がる凛


凛「(大きな声で)私が!!お二人を探しに行きます!!!!」


 酒を持ちながらゆっくり歩いている凛


凛「私は・・・お二人が戦に行く都度・・・どれだけ・・・侘しい思いをしているのか・・・私めが、戦でど阿呆になってしまった・・・お二人のことを・・・叱ってやられば・・・」


 バタンとその場に倒れ、眠り始める凛


◯449社殿/波音の寝室縁側(夜)

 縁側に座って話をしている波音と奈緒衛


波音「凛は可愛い子よのう。信長殿が天下を治めた暁には凛の婿を探さねばな」

奈緒衛「凛の予知を悪事に使われないか心配だ」

波音「あの子の体は脆い、それに頭も少し弱いか。争い事とは縁のない富豪の元に差し出すのが良かろう」


 焼酎を飲む波音


奈緒衛「差し出すって、その言い方ではまるで凛は波音の所有物だな」

波音「戦が終わるまで、この社殿にいる者は全て私の物だ。ましてや凛を易々と手放すわけにはいかん。奴の予知は戦に必要なのだ」

奈緒衛「先の戦も凛の予知通りだったな・・・俺はこの目で見える物以外は信じないつもりだったが・・・凛の力は信じるよりほかないようだ」

波音「以前、まだ奈緒衛がこの社殿に来る前のことだが、凛に尋ねたことがある。そなたの不思議な力はどこで身につけたのかと。(間を開けて)凛は故郷の海から授かった贈り物なのですと答えた」

奈緒衛「確か同郷なのだろう?凛は波音の血縁者ではないか?」

波音「いいや。海人はもう私だけだ。一説によるとあの地方では凛のような子が時々生まれるらしい。特別な力を持った子供がな」

奈緒衛「海人とは別にそういうのもおるのか・・・」

波音「無能な海人の私と違って・・・凛の力は本物だ」


 酒器に注がれていた焼酎を飲み干す波音


奈緒衛「聞いてもよいか?」

波音「何だ、改まって」

奈緒衛「小耳に挟んだことなのだが・・・」

波音「勿体ぶるでない、早う話せ」

奈緒衛「波音は・・・妖術を使ったことがないのか?」

波音「誰からその話を聞いたのだ?」

奈緒衛「そ、それは・・・」


 俯く奈緒衛


奈緒衛「(俯いて)社殿の者がそのようなことを話しておったのだ」


 少しの沈黙が流れる


奈緒衛「(波音に向かって頭を下げ)すまぬ!俺のような足軽が聞いてはならぬ事であった!」

波音「頭を上げい、私とてそなたと対等でありたいのだ」


 頭を上げる奈緒衛


奈緒衛「無礼を許してくれ」

波音「良かろう。私はそなたのことが気に入っているからな」

奈緒衛「は、恥ずかしくなるようなことを言わないでくれ・・・」


 顔を逸らす奈緒衛


波音「お主が社殿の中で聞いたことだが、それは造言よのう」

奈緒衛「ということは・・・妖術が使えるのか!?」

波音「残念ながら今は使えぬ。父君と母君が存命していた頃は、よく妖術を使って向日葵を咲かしたものだが・・・二人が亡くなり、私が戦に赴くようになると妖術は使えなくなってしまった」

奈緒衛「そうだったのか・・・」

波音「先祖たちはこんな私を天から眺めさぞ悲しい思いをしているだろう。海人の末裔ともあろう者が妖術を使えず、凛に頼りっきりだからな・・・恥ずべき存在だ」

奈緒衛「恥ずべき存在だなんて・・・そんなこと言うなよ。波音は最も優秀な大将だ。信長様のように強く、秀吉様のように賢い。心の底から尊敬するよ」

波音「気を遣ってもらえるなんて有難いのう」

奈緒衛「(大きな声で)気を遣ってるわけではない!!これは俺の本心だ!!」


 奈緒衛の大きな声に少し驚いている波音


波音「実はこのような話を聞かせたのはお主が初めてだ。奈緒衛、お主にも凛のような特別な力があるのではないのか」

奈緒衛「俺にはそのような力などないぞ」

波音「そうかのう?力がなくても、私にとって菜緒衛は特別な存在だ」

奈緒衛「と、特別とは・・・どんな存在なのだ?」

波音「かけがえのない者、唯一無二の存在だな」

奈緒衛「一人一人が唯一無二ではないのか?」

波音「無論そうではあるが・・・」


 空を見る波音


波音「(指を差して)空を見よ。無数の煌めきがあるだろう?」


 空を見る奈緒衛


奈緒衛「ああ」

波音「無数の煌めきが人だとしよう。お主のような存在は、あの空の中で一際輝いている煌めきなのだ」


 星を見ている波音と奈緒衛


奈緒衛「俺があの煌めきなら波音はお日様だな」

波音「(驚いて奈緒衛のを見る)お、お日様!?この私が!?」

奈緒衛「波音は我らを勝利に導き、いかなる時も希望の道を指し示している。お日様と同じだ」

波音「ふむ・・・ではお主にとって信長殿はどのような存在なのだ?」

奈緒衛「あのお方は神をも超越された存在、万物では例えるのは不可能だよ」

波音「なるほどな・・・」


◯450社殿/大広間(日替わり/昼)

 昨晩が宴が行われた部屋と同じ場所

 宴の食器は片付けられ、百人ほどの武士たちが正座し綺麗に並んでいる

 その中には奈緒衛もいる

 波音は反対側に座り武士たちと向かい合っている

 広間の隅の方に女中たちがいる

 その中には凛もいる


波音「(大きな声で)先の戦での活躍、見事であったぞ!!今朝!上杉謙信は信長殿に和協を誓ったと一報が入った!!全てそなたらのお陰である!!!天下は!!!!!完全に我らに傾いておる!!!!!!(少し間を開けて)この中には信長殿の命を受けて、一時的に私の下で戦っている者も多いだろう!!!!そなたらが信長殿に命を捧げていることを承知の上で頼む!!!!(頭を下げる)そなたらの力を!!!!!もう少しだけこの私に貸してほしい!!!!!!」


 波音が頭を下げたことに驚きざわめきが上がる

 

◯451社殿/波音の寝室(昼過ぎ)

 それほど広くない畳の部屋

 布団が丁寧に畳まれている

 小さな机の上に書物が乱雑に置いてある

 部屋からは縁側が見える

 部屋で喋っている波音、奈緒衛、凛

 

奈緒衛「大将が頭を下げるのは、戦で敗北を喫した時くらいかと思っていたが・・・」

凛「歴史的に大変珍しいことを行った女武将として、後世に名を残せたのではないでしょうか」

波音「そんなことで名が知られても嬉しゅうないな」

凛「時に波音様」

波音「何だ?」

凛「天下が治ってからは、お二人はどのような時間をお過ごしになるのですか?」

奈緒衛「俺は信長様に命を捧げてる身だ、それは天下が治められても変わらん」

凛「生涯、信長様に尽くすのですね」

奈緒衛「当たり前だろう」

凛「波音様はどうなさいますか?」

波音「私には戦しかないからな・・・戦地を探すか・・・或いは物書きになるか」

奈緒衛「物書き?」

波音「うむ」

凛「それはそれは!!素晴らしい余生だと思います!!」

奈緒衛「どうせ後世に名を残すのであれば、そういったことの方が良いな」

波音「様々な物語を書き連ねるとしよう」

凛「日々の記録を書物に残せば、とても美しい物語が出来上がりますね!!」

奈緒衛「抹茶を掛け合ったりする話だぞ?むしろ下品ではないか」

凛「私にとってそれらは全て美しい経験なのです。そんな経験を書物にして頂ければ、私めはお二人と離れても寂しい思いをしません」

奈緒衛「それでは離れるのが前提のようだな」

凛「戦が終われば、お二人がこの社殿を訪れる事も無くなるでしょう」

波音「幾ら書物に残っても、会えないとなれば寂しくなるのう・・・」

奈緒衛「会いに来ればよいではないか、歓迎するぞ」

凛「私は一介の女中ですゆえ、武士様や大将様に会える身ではありませぬ」

奈緒衛「では俺たちがこの社殿に訪れる機会を設けよう」

波音「奈緒衛、そなたは信長殿の家臣なのだぞ?幕府を離れてはならぬだろう?」

凛「波音様の仰る通りです」

奈緒衛「そう・・だな・・」

波音「奈緒衛、凛、そなたらには感謝しているぞ。楽しいという感情が戦以外にもあった事を忘れておったわ」


◯452社殿/波音の寝室(夜)

 お盆に乗った食べ物を運んでくる凛

 畳に座っている波音と奈緒衛


凛「ご覧ください、本日の夕食は何やら奇怪な物でございます!!」


 お盆には焼酎、ご飯釜、土鍋が乗っている

 土鍋からは赤い足がはみ出ている


奈緒衛「な、何だこの赤いやつは・・・」

凛「たいそう美味であるという話を聞きました。見た目は少々変わっているようですね・・・」


 ご飯釜の蓋を取る波音

 ご飯釜から湯気が上がる

 ご飯釜を覗く波音、奈緒衛、凛


波音「(ご飯釜の中を覗きながら)山菜を混ぜて炊いた飯か・・・」

凛「(ご飯釜の中を覗きながら)山の幸でいっぱいでございます!」

波音「続いて鍋の中身は・・・」


 土鍋の蓋を取る波音

 土鍋に入っていたのは茹でた大きなタコ


凛「(土鍋の中を覗きながら)か、怪物のような姿をしておりますね・・・」

奈緒衛「(土鍋の中を覗きながら)こんな物本当に食えるのか?」

波音「(土鍋の中を覗きながら)推察するにこれはタコという生物では?」

奈緒衛「(土鍋の中を覗きながら)タコ・・・?初めて聞く名だ」

波音「(土鍋の中を覗きながら)そう幾度と手に入る食べ物ではなかろう。なかなかおぞましい見た目をしておるな」

凛「(土鍋の中を覗きながら)タコとは一体、どのような生き物なのでしょうか」

波音「(土鍋の中を覗きながら)海の中にいる生物だ、墨を吐いたり、足で獲物を捉えたりする」

奈緒衛「(土鍋の中を覗きながら)何とも奇妙な生物だな・・・」

波音「(土鍋の中を覗きながら)このような機会はそうなかなかあるまい、三人で分けようではないか」

奈緒衛「た、た、大将飯だぞ!?俺たちが食ってよい物じゃないだろ!!」

波音「そのようなことを気にするのであれば、お主はまず私に対する言葉遣いを直さねばな」

奈緒衛「そ、それは・・・そうだが・・・」

波音「凛、お主は食べたくないか?」

凛「私めのような女中が食べて良いのでしょうか・・・」

波音「食べてやらぬとタコが気の毒だろう」

凛「し、しかし・・・」

波音「甲斐性なしな奴らじゃのう。ならば命じよう。私と共にタコを食せ」

奈緒衛「権利の乱用ではないか!!」

凛「では頂きます」

奈緒衛「凛!?」

凛「命令には逆らえません」

波音「奈緒衛、逆らえば命はないぞ」

奈緒衛「分かったよ!!それほど言うのであれば食べる!」

波音「よろしい」


 土鍋の隣にあった小さな包丁でタコを切って分ける波音


奈緒衛「大将の飯を食うなんて・・・世に知られたら大騒ぎになるぞ」

凛「よいではありませんか。こうやって三人揃って食事を取る機会はもうそれほどありませぬ」

奈緒衛「貴重な機会というわけか・・・」


 取り分けたタコを小皿に乗せ、奈緒衛と凛に渡す波音

 皿を受け取る奈緒衛と凛

 お盆に乗っていた酒器を手に取る波音


波音「(酒器を掲げて)永遠の友情に祝杯を!」

 

 酒を飲む波音

 酒器を奈緒衛に差し出す波音


奈緒衛「俺が飲んでもよいのか」

波音「(酒器を差し出して)当たり前だろう、祝いなのだぞ」


 酒器を受け取る奈緒衛


奈緒衛「(酒器を掲げて)かけがえのない友に祝杯を!」


 酒を飲む奈緒衛

 酒器を凛に差し出す奈緒衛

 酒器を受け取る凛


凛「(酒器を掲げて)巡り会えた運命に祝杯を!」


 酒を飲み干す凛

 空になる酒器


波音「では早速食べるかのう」

凛「はい!」


 タコを手に取り、食いちぎる凛


奈緒衛「手で食うとは・・・豪快な奴だ」

凛「(タコを噛みながら)生きるとは食べる事なのです、飢える前に食べなくてはなりません」

奈緒衛「お、おう・・・」


 凛の食いっぷりを見て笑う波音


波音「(笑いながら)いつ飢えるか分からぬからな」

凛「(タコを噛みちぎり)しかしこのタコという生き物は、歯応えがあって結構な力が要りますね。食べている最中に頬が徐々に痩けてしまわぬか心配です」

波音「歯が取れてしまわぬか?」

奈緒衛「歯が取れてしまうような食べ物は食べられないだろ!」

凛「お二人も召し上がってください、とても美味しゅうございます」

波音「うむ、頂こう」


◯453社殿/波音の寝室縁側(夜)

 食後

 中庭から月の光が差し込んでいる

 縁側に座っている波音と奈緒衛

 酒に酔い潰れている凛

 波音の膝の上に頭を乗せ眠っている凛


奈緒衛「(凛のことを見ながら)あの少ない量で酔い潰れてしまうとはな・・・」

波音「凛は幼子のようだ。私には戦しかないが、この子の事を思うと戦は終わらせねばならぬわ」

 

 凛の頭を優しく撫でる波音


奈緒衛「戦も残すは数回か・・・」

波音「良かったのう、ようやく信長殿の時代が訪れるぞ」

奈緒衛「ああ」


 少しの沈黙が流れる


波音「我らが共に過ごせるのも、信長殿の時代が訪れるまでだ」

奈緒衛「悲しいな・・・本当に・・・」

波音「奈緒衛・・・今のうちにそなたに尋ねたい事があるのだが・・・」

奈緒衛「何だ?」

波音「想い人は・・・おるのか?」

奈緒衛「そんなの信長様に決まっておる」

波音「そ、それは・・・信長殿に惚れておる、という事だな?」

奈緒衛「いや別に惚れておるわけではないわ!!!」

波音「そ、そうであるのか・・・」

奈緒衛「お、俺だって男だぞ!!女に惚れる事くらいあるわい!!!」

波音「う、うむ」


 目を覚ます凛 

 体を起こす凛


凛「波音様!申し訳ございません!!ついうとうとしてしまって・・・」

波音「き、気にするな」

凛「私めは寝床に戻ります。失礼ながら奈緒衛様もそろそろお戻りになるべきでは?」

奈緒衛「そうだな、そろそろ戻るか・・・」

波音「い、行ってしまうのか!?」

奈緒衛「ああ、酔いが回って眠たくなってきたしな」

波音「も、もう少しここに残って私と話していかぬか・・・?」

凛「波音様、いけません。明日も朝早いでしょう」

波音「し、しかし・・・」

奈緒衛「明日は光秀様がやって来るのだぞ。うっかり寝過ごしたらどうするのだ?」

波音「寝過ごす心配などない!!」

凛「波音様!自分勝手なことを言ってはなりません!!」

波音「し、叱らなくても良いではないか・・・」


 拗ねた表情をしている波音


奈緒衛「お休み波音、また明日な」

凛「お休みなさい」


 お盆を持って波音の寝室を出る凛

 凛に続いて寝室を出る奈緒衛

 二人が出てから深呼吸をする波音


波音「(舌打ちをして)チッ・・・間が悪いのう・・・」


◯454社殿/波音の寝室(日替わり/昼)

 畳に座って話し合っている波音と明智光秀

 二人の近くには抹茶が置いてある


波音「我らがその戦に行けばよいのだな」

光秀「そうだ」

波音「しかし、なぜ信長殿はその役目を私に回したのだ?本来は明智殿の務めであったのだろう?」


 抹茶を飲む光秀


光秀「わしらには別の役目を与えられてな。細かい事はわしにもよう分からん」

波音「なるほど、それなら致し方ない」

光秀「突然のことだが頼むぞ」

波音「(頷き)承知仕った」


 立ち上がる波音と光秀


光秀「では失礼する」


◯455社殿の門前(昼)

 馬に乗っている明智光秀とその家臣

 見送りをしている女中

 光秀のことを見ている凛

 門が開く

 社殿を出て行く光秀たち

 奈緒衛が走って光秀のことを引き止める


奈緒衛「(走りながら)光秀様!!光秀様!!お待ちください!!」


 止まる光秀たち


光秀「奈緒衛ではないか!」

奈緒衛「信長様に!!信長様によろしくお伝えください!!!」

光秀「お主のその言葉、我らが軍師信長に伝えよう」

奈緒衛「(頭を下げ)感謝します!!!」

光秀「(奈緒衛の頭をぽんぽんと叩き)奈緒衛の活躍をわしらも期待しておるぞ」

奈緒衛「ご期待に沿えるよう精進いたします!!」

光秀「うむ」


 進み始める光秀たち

 門の近くで光秀たちを見送る奈緒衛


◯456社殿/女中の寝室(夜)

 女中たちが眠る広い部屋

 汚く薄暗い

 波音の布団と違い、ボロボロで古臭い布団

 広い部屋で一人横になっている凛

 凛の布団以外は畳まれてある

 横になった凛の隣にいる波音


凛「も、申し訳ありません!このような汚い場にいらっしゃるなんて・・・」

波音「構わぬ、奈緒衛も来たがったがここは男子禁制だからのう・・・どこか痛むか?」

凛「体が少し重く感じます」

波音「そうか・・・後で薬草をすり下ろして持ってこよう。大事に至らないとよいが・・・」

凛「私めは大丈夫です、それよりお二人のことが心配で・・・」


 咳き込む凛

 凛の背中をさする波音


波音「戦のことで何か見えるか?」


 目を瞑る凛


凛「敵の数は・・・前と変わらぬほどでしょう。あるいはそれよりも少数かもしれません」


 目を開ける凛


波音「ならば問題なかろう、そう時間もかかるまい。すぐに帰ってくるぞ」

凛「波音様、くれぐれも用心してください。胸騒ぎがいたします・・・」

波音「戦のことか?それとも私の命に関わることか?」

凛「世のことわりに関係する・・・とても大きな事が・・・」


 咳き込む凛

 凛の背中をさする波音


凛「とにかく注意を怠ってはなりませぬ」

波音「(頷き)気をつけよう」


◯457社殿/波音の寝室(夜)

 畳に座って話をしている波音と奈緒衛

 行灯の明かりしかない部屋


奈緒衛「意味が分からぬ、世のことわり一体何なのだ・・・」

波音「奈緒衛、今度の戦を注意を怠るなよ」

奈緒衛「わ、分かった」


◯458織田軍見張り台(日替わり/昼)

 甲冑を身に纏い、武装している織田軍

 二千人ほどの騎馬武者が長い槍を持っている

 織田信長の旗印を身に付けている武士たち

 見張り台の上から敵軍を見ている波音と奈緒衛

 相手は武田軍の残党

 相手の数は織田軍より少ない


奈緒衛「数は少ないな」

波音「油断してはならぬ」

奈緒衛「ああ」


◯459織田軍隊列(昼)

 武装をした八百の武士たちが横並びしている

 中心にいるのは波音

 波音の隣にいるのは奈緒衛

 馬に乗っている波音たち

 向かい側には武田軍がいる

 武田軍も同じように武士たちが横並びしている

 ほら貝の大きな音が鳴り響く

 武田軍からほら貝の音が返ってくる

 武田軍の弓矢隊が遠くから弓を構えている


奈緒衛「奴ら遠距離から攻撃してくる気だぞ!」

波音「(大きな声で)怯むな!!!!我らも弓を構えろ!!!!!」


 弓矢隊が宙に向かって構える

 武田軍の騎馬部者が走ってくる


奈緒衛「あいつら・・・自分達の矢に刺さってもいいっていうのか!!」


 叫びながら織田軍に向かってくる武田軍残党


波音「(大きな声で)矢を放て!!!!!!」


 織田軍の弓矢隊が一斉に矢を射つ

 武田軍も同じタイミングで矢を放ってくる

 矢は高く上がるが、矢同士がぶつかり落ちる

 矢は馬や武士たちに刺さらない


波音「(大きな声で)もう一度の矢を準備しろ!!!!!」


 弓矢隊が宙に向かって構える


波音「(大きな声で)放て!!!!!!」


 織田軍の弓矢隊が一斉に矢を放つ

 またしても同じタイミングで矢を放ってくる武田軍

 矢は高く上がるが、矢同士でぶつかって落ちる

 迫り来る武田軍

 薙刀を構える波音

 槍を構える奈緒衛


波音「(大きな声で)一人残さず地獄に送れ!!!!!!絶対に生かすな!!!!!!!生き残るのは我らだ!!!!!!!」

奈緒衛「(大きな声で)信長様のために!!!!!!」


 武器を構える武士たち

 兜で顔を隠す波音

 声を上げる織田軍

 走り始める織田軍

 織田軍と武田軍が交わる

 薙刀で武田軍の武士を斬り殺す波音

 槍で武田軍の武士を刺し殺す奈緒衛

 武田軍も負けじと応戦し、織田軍の武士を殺す

 武田軍と上杉軍が入り交じり、ごった返しになっている戦場

 怪我を負った馬の鳴き声、武器が甲冑に当たる音が響いている


武田軍武士1「(槍を構えながら)殺してやる!!!!!!」


 馬に乗った武田軍の武士1が奈緒衛に突撃してくる

 槍を避ける奈緒衛

 攻撃を避けた時にバランスを崩し落馬する奈緒衛


武田軍武士1「(槍を振りかざし)死ね!!!!!!」


 波音が薙刀を投げ武田軍の武士を殺す

 落馬する武田軍武士1

 

波音「馬から降りて奈緒衛!!大丈夫か!!」


 奈緒衛に駆け寄る波音

 波音の背中を狙う馬に乗った武田軍武士2


奈緒衛「危ない!!!!」


 武田軍武士2が槍を思いっきり振りかざす

 ギリギリのタイミングで槍を避ける波音

 槍は波音の右腕にかする

 右腕から出血する波音

 痛みで反射的に右腕を押さえる波音

 武田軍武士2がその隙に波音の首を狙う

 槍を拾い上げ武士2が乗っている馬を刺し殺す奈緒衛

 落馬する武田軍武士2

 武田軍武士2の首を槍で刺す奈緒衛

 右腕を押さえて空を見る波音


波音「(大きな声で)矢だ!!!!!矢が来るぞ!!!!!死体か馬の下に隠れろ!!!!!!!」


 武田軍の矢が宙に上がっている

 武田軍武士2の死体の下に隠れようとしている波音

 腕の怪我のせいで死体を動かすのに苦戦している波音

 槍を捨て奈緒衛が死体を動かすのを手伝う


奈緒衛「俺がやる!!!そこに寝ろ!!!」


 仰向けになる波音

 死体を波音の上に乗せる

 矢が落下して来る


波音「そなたも急ぐのだ!!!!」


 奈緒衛は横になり、武田軍武士2を動かす

 武田軍武士2の死体を自分の体の上に乗せる奈緒衛

 矢は隠れ遅れた武士を刺し殺して行く

 織田軍、武田軍に関係なくたくさんの武士が死ぬ

 隣同士で仰向けになっている波音と奈緒衛

 目と目が合う波音と奈緒衛

 矢が落下する音、人や馬に刺さる音、人の叫び声、馬の鳴き声が響いている

 見つめ合っている波音と奈緒衛

 二人の顔の距離が近い


奈緒衛「時が許す限り・・・俺はお前の側にいたい」

波音「な、何を言っておるのだ!戦中なのだぞ!!!」


 顔を赤くしている波音


奈緒衛「すまん・・・今言いたくなったんだ」

波音「わ、私も!お、お主の事は嫌いではない!」

奈緒衛「惚れておらぬのか?」


 少しの沈黙が流れる

 目を逸らす波音

 第二陣の矢が降って来る


奈緒衛「波音は俺に惚れてるのかと思ってた。特別な存在ってそういう事なのかと・・・」

波音「(小さな声で)お主の事が好きだ」


 第二陣の矢が生き残った武士を殺して行く


波音「(顔を赤くして)さ、されど今は・・・戦に集中しろ。よいな?」

奈緒衛「あ、ああ。分かった」


 矢が降り終え、死体の下から出る波音

 薙刀と槍を拾い上げる波音

 死体の下から出る奈緒衛

 人、馬の死体がゴロゴロ転がっている戦場

 槍を奈緒衛に渡す波音

 槍を受け取る奈緒衛

 痛みで悶え苦しんでいる武田軍武士3が波音の近くにいる

 武士3の体には矢が二本刺さっている

 波音はためらわずに武士3の首を薙刀でかっ斬る

 武士3の体を踏みつけ登る波音

 髪留めを解く波音

 波音の綺麗な長い髪が垂れ下がる

 風でなびいている波音の髪

 髪留めを使って器用に右腕を止血させる波音


波音「(大きな声で)この程度の攻撃で我らは負けぬ!!!!!!我らの怒りがそなたらの命を奪い去る!!!!!!!」


 薙刀を構える波音

 槍を構える奈緒衛

 

波音「(大きな声で走りながら)行くぞ!!!!!!!」


 波音に続いて走って行く織田軍

 織田軍の武士たちは生き残った武田軍の残党を次々に殺す

 

奈緒衛「(槍を振りかざして)くたばれぇええええええええええええええええ!!!!!!」


 武田軍武士の首を跳ね落とす奈緒衛

 怪我をしてるとは思えないほど身軽な動きで武田軍武士の体を斬って行く波音

 腕、足など甲冑が守っていないところを切った後に首を攻撃する波音

 波音から必死に逃げようとしている武田軍武士4

 波音は容赦無く殺す

 武田軍の武士から噴水のように血が吹き出る

 波音の顔に血が大量にかかる


◯460◯446の回想/社殿/波音の寝室縁側(昼過ぎ)

 奈緒衛が波音の顔に目掛けて抹茶をかける

 抹茶まみれになる波音の顔

 奈緒衛の装束にも抹茶がかかっている

 抹茶まみれになった波音と奈緒衛のことを見て笑っている凛 


◯461回想戻り/戦場(昼)

 波音は死んだ武田軍の武士4を必要以上に斬り刻んでいる

 その度に血が飛び散る

 何度も何度も薙刀を振りかざす波音

 波音は笑っている

 波音の姿を見て逃げて行く武田軍武士5と6

 逃げて行く武田軍の武士に気が付き、追いかける波音

 

◯462社殿/女中の部屋(昼過ぎ)

 一人で眠っている凛

 呼吸が浅く、顔色の悪い凛

 苦しそうに寝言を呟いている凛


凛「ことわり・・・りん・・・ね・・・うみ・・・」


◯463戦の跡地(夕方) 

 足元には死んだ馬、遺体、壊れた甲冑や武器、肉塊が転がっている

 周囲を見回っている波音と奈緒衛

 そのほかの織田軍の武士たちも周囲を見回っている

 波音の右腕は血で赤い

 武田軍武士の死体を蹴り飛ばしている波音 

 槍を使って武田軍武士の生死を確かめている奈緒衛


奈緒衛「皆死んでおるようだな」

波音「こんなところに長居をしても仕方があるまい。社殿に戻ろう、凛の体が心配だ」

奈緒衛「今度ばかりは凛の予知も外れたか・・・」

波音「戦の事とは限らん。警戒心を解くなよ」

奈緒衛「ああ」

波音「そ、それからだな・・・の、信長殿に我らの関係について話さねばならぬと思うのだが・・・お主はどう思う?」

奈緒衛「だ、だな!!!信長様に認めてもらわないと!!」


 照れながら話をしている波音と奈緒衛


◯464明智軍が滞在している社殿の外(夜)

 一万人を超える明智軍の武士たちが馬に乗り整列している

 一万の武士たちと向かい合っている明智光秀

 松明と月の明かりしかない社殿

 甲冑をまとい武装している武士たち


光秀「(大きな声で)我は天下!!!!!天下は我なり!!!!!!!そなたらは我と共に天下になるのだ!!!!!!!行かねばならぬ!!!!!!!本能寺に!!!!!!!本能寺に!!!!!!!奴の家臣が戦にいる今!!!!!!!この期は逃せない!!!!!!!敵は!!!!!!!本能寺にあり!!!!!!!!」


 武器を高く掲げて雄叫びを上げる明智軍


◯465社殿/女中の部屋(夜)

 飛び起きる凛

 他の女中たちは皆眠っている


凛「信長様!!」


 ゲホゲホと咳をする凛

 深呼吸をする凛

 立ち上がる凛


◯466社殿/波音の寝室の前廊下(夜)

 波音の寝室前の廊下にいる凛

 暗い廊下

 月の光が少しだけ差し込んでいる

 行灯を持っている凛

 青白い顔をしている凛


凛「波音様!!波音様!!いらっしゃいますか!!!!!」


 勝手にふすまを開ける凛

 誰もいない暗い部屋


凛「(焦りながら)このままでは間に合わない・・・波音様にお伝えせねば!!!!!」


◯467社殿に戻る道(夜)

 社殿に戻っている最中の波音たち

 馬に乗っている波音たち

 走らずにゆっくり戻っている

 月の光が馬の毛に反射している

 行灯を持っている武士がいる

 

◯468本能寺の信長の寝室(深夜)

 畳の部屋

 信長の刀が一本置いてある

 行灯の火が揺れている

 酒を飲みながら、家臣の囲碁の対局を眺めている信長


◯469社殿/馬小屋(深夜)

 広くたくさんの馬がいる小屋

 馬小屋の中には数十匹の馬が眠っている

 行灯を持った凛が馬を起こす


凛「(馬の頭を触り)起きてください!!」


 ゆっくりと起き上がる馬

 馬小屋から馬を出す凛


◯470社殿の外(深夜)

 社殿の外に連れ出す凛

 行灯を持ちながら慎重に馬にまたがる凛

 手綱を持つ凛

 馬に話しかける凛


凛「私たちの主人のところに行かなければなりません、匂いを辿るのです。良いですね?」


 馬は凛を乗せて走り始める


◯471本能寺に向かう道(深夜)

 明智軍が本能寺を目指している

 彼らは目立たないように走らず向かっている


◯472波音の元に向かっている道(深夜)

 馬に乗っている凛

 ゲホゲホと時々咳き込んでいるが、馬は速度を落とさない


凛「急がねば!!!(咳き込む)ゲホッ・・・ゲホッ・・・」


◯473本能寺の信長の寝室(深夜)

 布団を敷き横になる信長

 行灯の火を消さずに寝始める信長


◯474社殿に戻る道(深夜)

 社殿に戻っている波音たち


波音「待て、止まるのだ」


 波音の指示に従い止まる織田軍の武士たち

 一匹の馬と行灯を持った人が波音たちの方へ走って来る


奈緒衛「(大きな声で)止まれ!!!何者だ!!!」

凛「(大きな声で)奈緒衛様!!!!凛でございます!!!!」


 顔を見合わせる波音と奈緒衛

 馬から降りて波音たちのところに来る凛


波音「凛、どうしたのだ?何かあったのか?」

凛「信長様の命に危険が・・・(咳き込む)ゲホッ・・・ゲホッ・・・暗殺でございます!」

奈緒衛「暗殺だと!?どういう事だ!!!」

波音「落ち着け奈緒衛!」

凛「本能寺でございます!急いで信長様を助けに行かなければ!!!」


 馬の向きを変え、一人で本能寺に向かう奈緒衛


波音「奈緒衛!!!待つのだ!!!」


 奈緒衛の馬は凄まじい速さで走っている

 菜緒衛の姿がどんどん小さくなる


波音「凛!!後ろに乗れ!!!我らも本能寺に向かうぞ!!!」

凛「はい!!」


 波音の後ろに乗る凛


波音「(大きな声で)皆の者!!!!よく聞け!!!!!突然のことですまぬが今から本能寺に向かう!!!!!(武士たちからざわめきが上がる)何故ならば信長殿に危険が差し迫っておるからだ!!!!!!疲れておるだろうがまだ戦は終わっておらぬぞ!!!!!!急ぐのだ!!!!!!」


 戸惑っている武士たち


波音「(怒鳴り声で)集中しろ!!!!!!今ここで信長殿が死ねば我らの命も共に朽ち果てるのだぞ!!!!!!」


 武士たちは戸惑ったまま、馬の向きを変え本能寺に向かい始める

 走っている織田軍の馬たち


波音「凛!!!!振り落とされるなよ!!!!!!」

凛「はい!!!」


 波音の体に捕まっている凛


波音「誰なのだ!!!暗殺を企てのは!!!!」


◯475本能寺周囲(深夜)

 本殿、客殿、奥書院の全てを囲む明智軍

 鉄砲隊と弓矢隊が戦う準備をしている


◯476本能寺に向かう道(深夜)

 夜道を全速力で駆け抜けている馬と奈緒衛


◯477本能寺に向かう道(深夜)

 奈緒衛より少し遅れている波音たち

 波音の体に掴まっている凛

 馬の体を叩きもっと早く走るように煽る波音


◯478本能寺客殿見張り台(朝方)

 見張り台にいる蘭丸

 見張り台からは明智軍が見える

 明智軍は鉄砲と弓矢の準備をしている


◯479本能寺/信長の寝室(朝方)

 布団から体を起こしている信長

 明らかに周囲の音が騒がしく目を覚ました信長

 部屋に入って正座をする蘭丸


信長「さては謀反を企てた者がおるな、誰の仕業だ?」

蘭丸「明智の軍勢と見受けます」

信長「外の音から察するに大軍を率いているか?」

蘭丸「一万はいるでしょう」

信長「蘭丸よ、女子は逃しなさい。巻き込むのは気の毒であろう」

蘭丸「承知いたしました、男たちはいかがなさいますか?」

信長「すまぬがここに残ってもらう他はない、槍と弓の支度をするのだ」

蘭丸「(頭を下げて)仰せの通りに」


 蘭丸は部屋を出る

 信長は部屋に置いていた刀を腰につける


◯480本能寺/櫓(朝方)

 槍、弓矢、刀が保管されている櫓

 蘭丸、その他の家臣達は槍と弓矢を手に取っている

 発砲の音が聞こえる


◯481本能寺裏口付近(朝方)

 日が昇り始めている

 裏口の扉の隙間から中の様子を探っている奈緒衛

 裏口の扉を護衛している二人の明智軍武士がいる

 鉄砲隊が客殿に向かって発砲しているのが見える

 そーっと裏口の扉を開ける奈緒衛

 護衛をしていた明智軍武士1と2が奈緒衛に向かって槍を向ける


明智軍武士1「(奈緒衛に槍を向けながら)今この場に近づけば死ぬぞ」

明智軍武士2「(奈緒衛に槍を向けながら)去るのだ、そなたに出来る事は何もない」

奈緒衛「お前ら・・・明智軍の者ではないか・・・?」

明智軍武士2「(奈緒衛に槍を向けながら)我らは明智光秀殿に命を捧げておる!!」


◯482◯455の回想/社殿の門前(昼)

 奈緒衛の頭をぽんぽん叩いている光秀


◯483回想戻り/本能寺裏口付近(朝方)

 槍を強く握りしめている奈緒衛


奈緒衛「(大きな声で)裏切ったな・・・信長様を裏切ったな!!!!!!!」


 力任せに槍を振り明智軍武士1と2に攻撃する奈緒衛


◯484本能寺/台所口(朝方)

 本能寺客殿に侵入してきた明智軍

 信長、蘭丸、家臣達は弓を使って何とか応戦している

 圧倒的な数で攻めて来る明智軍

 矢に火を付けて放つ明智軍の武士

 矢は台所口の壁に刺さる


信長「(弓を引きながら)火を消すのだ!!!!!」


 信長が矢を放つ

 信長が放った矢は明智軍武士の頭に刺さる

 火を消そうとする信長の家臣

 再び矢に火を付けて放つ明智軍の武士

 火を消そうとしていた信長の家臣の頭に矢が刺さり倒れる

 

信長「(弓を引きながら)おのれぇえええええええ!!!!!!」


 信長の弓が切れる

 

蘭丸「(弓矢を差し出して)これをお使いください!!!!」

 

 自分が使っていた弓矢を差し出す蘭丸

 受け取る信長

 台所にあった包丁を投げ明智軍の武士を殺す蘭丸

 死んでいる織田軍武士の槍を拾って戦う蘭丸

 火は壁に燃え移る


◯485本能寺裏口付近(朝方)

 二人の護衛を相手に戦っている奈緒衛

 槍を使って砂を撒き散らす奈緒衛

 砂が明智軍武士1の視界に入った隙に足を刺す

 明智軍武士2が奈緒衛の背中を狙って来る

 奈緒衛は明智軍武士1に槍を刺したまま攻撃を避ける

 奈緒衛の顔面を狙って槍を振りかざす明智軍武士2

 槍を両手で掴みギリギリのところで顔を守る奈緒衛

 

明智軍武士2「(槍を強く押しながら)死ねぇええええええええ!!!!!!」


 槍の先端は奈緒衛の眼球の近くにある

 奈緒衛は少しずつ槍の位置をずらす

 足を槍で刺された武士1がゆっくり奈緒衛に迫って来ている

 武士2の槍は奈緒衛の頬を斬る

 

奈緒衛「(槍を少しずつずらしながら)うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


 奈緒衛は一瞬だけ力を抜き、武士2の槍を器用にかわす

 奈緒衛が突然力を抜いたため転倒する武士2

 奈緒衛の左頬はパックリ割れ血がダラーっと垂れている

 腰に身に付けていた刀を抜き転倒した武士2の首を後ろから斬る奈緒衛

 武士2の槍を拾い上げる奈緒衛


奈緒衛「(息切れ)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」


 槍を武士1に向ける奈緒衛

 武士1は足に槍が刺さっているため走って逃げることは出来ない


明智軍武士1「た、頼む!殺さないでくれ!!!」

奈緒衛「命乞いか?」

明智軍武士1「こ、殺すことはないだろう!!」

奈緒衛「いいさ、好きにしろ」


 奈緒衛は信長がいる客殿に走って向かう


◯486本能寺/台所口(朝方)

 火の勢いが増している

 信長の家臣は残りわずか

 明智軍の鉄砲隊が客殿に侵入を始めている

 矢を使い切ってしまう信長

 死んだ武士の槍を使って応戦する信長

 

蘭丸「(槍で戦いながら)信長様!お逃げください!!ここは私が引き受けます!!!」

信長「(槍で戦いながら)他の者を置いては行けぬ!!!」

蘭丸「(槍で戦いながら)私らここで食い止めれば少しの時間を稼げるでしょう!!!!!」


 鉄砲の弾丸が信長の肩に当たる

 よろめく信長

 信長を守る蘭丸


蘭丸「(槍で信長を守りながら)早く!!!!!!」

信長「(立ち上がり)すまぬ!!!!!許せ!!!!!!」


 信長は走って上の階に逃げる

 残された家臣たちは信長のために戦い続ける


蘭丸「(大きな声で)この場は決して通さぬぞ!!!!!!」


 蘭丸は槍で明智軍の武士を刺す

 肩の辺りに槍が刺さっている

 刺された武士は痛みに屈することなく、自身の槍で蘭丸の首を斬り落とす

 鈍い音を立てて蘭丸の首が転がり落ちる


◯487本能寺裏口付近(朝)

 ようやく本能寺に辿り着いた波音たち

 本能寺の状況を見て絶句する波音

 本殿、客殿、奥書院、全てを明智軍が囲んでいる

 信長のいる客殿は一階から黒い煙が上がっている

 外にいる明智軍の武士は逃げ出して来た女中たちを殺している


波音「この戦、我らに勝ち目はないか・・・凛!すぐに逃げられるよう馬の準備をしておくのだ!」

凛「承知しました、くれぐれも無茶はしないように」

波音「分かっておる、(大きな声で)弓矢隊は女中たちを助けに行け!!!他の者は私と来い!!!!!」


◯488本能寺/台所口(朝)

 客殿に侵入した奈緒衛

 火の勢いは強くなり、台所にいた明智軍はいなくなっている

 煙を吸い込まないように手で口を覆っている奈緒衛

 信長の家臣の死体と明智軍武士の死体も燃えている

 

奈緒衛「(口を覆いながら)信長様!!!!信長様!!!!(咳き込む)ゲホッ!ゲホッ!」


 火を避けながら歩いている奈緒衛


奈緒衛「(口を覆いながら)信長様!!!!のぶな・・・・」


 奈緒衛は何かを蹴飛ばす

 ゴンと大きな音がする

 下を見る奈緒衛

 奈緒衛が蹴ったのは蘭丸の生首

 ゴロゴロ転がる蘭丸の生首

 蘭丸の目の下には涙の跡があり、口からは血が垂れている

 目を逸らす奈緒衛

 

◯489本能寺/奥書院の広間(朝)

 畳の広い部屋

 座って一人で瞑想をしている光秀

 光秀の周りには本能寺で暮らしていた僧侶の首が二十個近く置いてある


明智軍武士3「(ふすまを開けて部屋に入る)光秀様!!」


 目を開ける光秀


光秀「何用だ」

明智軍武士3「白瀬波音が織田の家臣を率いて戦から戻って来ました!!!!織田の救出を目的にしているようです!!!!」

光秀「焦るな。わしらより力も数も劣るだろう」

明智軍武士3「しかし光秀様!ここで奴らが介入して来るのは芳しい事ではございませぬ!織田が生きれば我らは滅びの一途を辿る事になるでしょう!!」

光秀「客殿の火の勢いはどうなっておる?」

明智軍武士3「衰える事を知らぬまま、燃え広がっております」

光秀「では問題なかろう、追い詰められた織田は腹を斬る。まさに袋の鼠ではないか」

明智軍武士3「白瀬の軍勢はどう対処致しましょう?」


 考え込む光秀


光秀「この暗殺、白瀬波音が企てたと嘘を流せぬか?」

明智軍武士3「この近辺にいる織田の軍勢に伝達すれば・・・可能であります」

光秀「我らは織田の救出に向かったが白瀬の軍勢と戦になった、本能寺は白瀬波音の妖術で燃え尽きたという話にすればよいな」

明智軍武士3「白瀬波音が真実を訴えたらどうなさいますか?」

光秀「その前に殺すしかあるまい。織田の死を確認し、その後白瀬波音を暗殺者として仕立て上げようぞ。お尋ね者になればそう長くはもつまい」

明智軍武士3「では伝達に参りましょう」

光秀「幾人かはここに置いて行け、近辺の森で身を隠させればよい。織田の死を確認したのち、本能寺を焼くのだ」

明智軍武士3「承知仕りました」


◯490本能寺/信長の寝室(朝)

 信長のいる寝室に向かって鉄砲隊が発砲している

 信長の部屋は弾丸のせいで穴だらけになっている

 信長は着替え、切腹の準備をしている


◯491本能寺/二階(朝)

 信長を探している奈緒衛

 二階にも火の煙が上がって来ている


奈緒衛「(口を覆いながら)信長様!!信長様!!」


◯492本能寺/信長の寝室(朝)

 刀を抜く信長


奈緒衛「(声)信長様!!!信長様!!!どちらにいらっしゃいますか!!!」

信長「この声・・・奈緒衛か!?」

奈緒衛「(声)そうでございます!!お助けに参りました!!!!」

信長「助けなどいらぬ!!!!」


 徐々に奈緒衛の声が近くなる


奈緒衛「(声)信長様は天下をお取りになってください!!!」

信長「すまぬがもう俺には出来ん!!!奈緒衛!!!こちらに来るのだ!!!お主に最後の頼みがある!!!」


◯493本能寺/客殿周囲(朝)

 客殿に侵入しようとしている波音

 客殿の一階はほとんど燃え上がっている

 客殿を取り囲んでいる鉄砲隊


波音「ここは私が行く!!!!そなたらは周りにおる明智の軍勢を一人でも多く殺せ!!!!」


 火の中に飛び込む波音


◯494本能寺/信長の寝室(朝)

 信長の部屋にいる奈緒衛

 話をしている奈緒衛と信長


奈緒衛「(動揺しながら)で、出来ません!!」

信長「命令だ!」

奈緒衛「断ります!!!」

信長「(大きな声で)命令に背くのか!!!!」

奈緒衛「俺は・・・あなた様の命を助けに来たのです!首を落とすためではありませぬ!!!!」


◯495本能寺/台所口(朝)

 火の海になっている台所

 天井、壁、床、全てが燃えている

 奈緒衛と信長を探している波音

 

波音「(口を覆いながら)奈緒衛!!!信長殿!!!!どこにおるのだ!!!!」


 波音が歩こうとすると天井が崩れて来る

 

波音「(口を覆いながら)早く探さねば・・・(咳き込む)ゲホッ!!ゲホッ!!」


◯496本能寺/信長の寝室(朝)

 言い争いをしている奈緒衛と信長


信長「観念しろ、今更救出に来ても遅い」

奈緒衛「何故です!!皆が信長様を必要としているのに!!!!」

信長「皆間違いを求めておる。武士である以上、今必要なのは名誉の死だ」

奈緒衛「俺はやりません!!」

信長「では一人で成し遂げるまで!!!!」


 抜いた刀を腹に刺そうとする信長

 切腹を止める奈緒衛

 奈緒衛を蹴り飛ばす信長

 思いっきり壁に背中をぶつける奈緒衛


信長「(刀を腹に向けて)奈緒衛、お主も明智と同じだ!!俺の命令を聞けぬとは裏切り行為だぞ!!!」


 信長は腹に向かって刀を振りかざす


奈緒衛「(叫び声で)やめろおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 信長は腹に刀を刺す


信長「(切腹しながら)お主に!!!!武士とは何なのか!!!!教えてやろう!!!!!その目に焼き付けるがよい!!!!!!!」


 部屋中に信長の血が飛び散る

 信長の真っ白で綺麗な装束は、一気に赤く染まる

 腹を斬り進めるごとに血がどんどん出て来る

 

奈緒衛「(震えながら)なんという事を・・・」


 奈緒衛は信長の切腹をただただ見ている

 痛みで顔が歪みきっている信長


波音「(声)奈緒衛!!!信長殿!!!!!」


 部屋のふすまを開ける波音

 信長と奈緒衛の姿を見て唖然とする波音


信長「(切腹しながら)白瀬殿!!!!!わしが腹を切った後!!!!!!首を落としてくれ!!!!!!」


 奈緒衛のことを睨む信長

 奈緒衛のことを見る波音

 震えている奈緒衛


信長「(切腹しながら)よいか奈緒衛!!!!!!!敗北者は生きれぬのだ!!!!!!!死に損ないは不名誉!!!!!!!自ら腹を斬る行為こそが!!!!!!!武士として!!!!!!!勇しく!!!!!!!誇らしい死だ!!!!!!!奈緒衛!!!!!!!そなたも武士である以上!!!!!!!この名誉な死を受け入れろ!!!!!!!惰性で生きる事だけは絶対に!!!!!!!!絶対に許さぬ!!!!!!!殺されるか!!!!!!!自ら死ぬか!!!!!!!それこそがそなたの運命なのだ!!!!!!!」


 見たことのない速さで抜刀し、切腹途中の信長の首を斬り落とした波音

 納刀する波音

 ゴロゴロと信長の首が転がり波音の足にぶつかる

 首のなくなった信長が倒れる

 信長の腹からは大量の血が出てくる


奈緒衛「な、波音?」


 座り込んでいた奈緒衛の腕を掴み立たせる波音


波音「(奈緒衛の腕を引っ張り)行くぞ」

奈緒衛「お、おい!!やめろ!!」


 波音の腕を振り解く奈緒衛


奈緒衛「(大きな声で怒りながら)切腹の途中だったのだぞ!!!!!」

波音「私は・・・(少し間を開けて)奈緒衛の心を守りたかっただけだ」


 顔を逸らす波音


奈緒衛「(大きな声で怒りながら)どういう事だよ!?!?なんだよ心を守るって!!!」

波音「これ以上こやつの言葉を聞かせたくなかった」

奈緒衛「(大きな声で怒りながら)そんな理由かよ!!!!!事が終わる前に首を斬ってしまうなんてあってはならぬことだ!!!!!」

波音「(俯き)私はそなたに死んで欲しくない・・・生きて欲しい。信長殿の命令を聞けば・・・そなたは戦で死ぬか腹を斬るか・・・」


 少しの沈黙が流れる

 煙は信長の部屋に充満する


奈緒衛「聞かねえよ・・・そんな命令」


◯497本能寺/客殿周囲(朝)

 猛炎を掻い潜って外に逃げてきた波音と奈緒衛

 二人の装束と顔は黒く汚れている

 外にいたはずの明智軍はいなくなっている

 凛が波音たちの元に駆け寄る


凛「波音様!奈緒衛様!!お怪我はありませんか?」

波音「大丈夫だ」

凛「信長様は?」


 首を横に振る奈緒衛


波音「間に合わなかった」

凛「(俯き)左様でございますか・・・(少し間を開けて)明智の軍勢は退却したようです。私らも逃げましょう。もうこの建物は保ちませぬ」

波音「うむ・・・」

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