Chapter6卒業編♯46 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由香里
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
織田 信長48歳男子
天下を取るだろうと言われていた武将。
一世 年齢不明 男子
ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。
Chapter6卒業編♯46 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯1578波音高校校門(日替わり/朝)
快晴
たくさんの生徒たちが門を潜って学校の中へ入って行く
校門の前で部員募集を行っている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩は部員募集の紙の束を持っている
鳴海たちは通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している
鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)文芸部副部長の貴志鳴海です!!!!来年度の活動に向けて新入部員を募集しています!!!!一年生と二年生の力を俺たちに貸してください!!!!」
菜摘「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)よろしくお願いします!!!!大好きな文芸部を大好きな波高に残すために部員を集めています!!!!」
汐莉「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)私と一緒に文芸部の活動をしてくれる方を募集中です!!!!」
嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)頼む!!!!誰か入ってくれ!!!!」
明日香「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)未経験でもオッケーです!!!!」
響紀「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)入部すれば現代文が得意になること間違いなし!!!!」
詩穂「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)読書が趣味な方にはオススメの部活でーす!!!!」
真彩「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)楽しくて賑やかな部活ですよー!!!!」
雪音「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)お願いしまーす」
鳴海たちの前を通りかかる生徒たちは、文芸部のことを気に留めず周りの生徒たちと楽しそうに話をしながら校舎内へ入って行く
◯1579波音高校特別教室の四/文芸部室(午前中)
文芸部の部室にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある
校庭では二年生女子生徒が体育の授業を受けている
教室の窓際で話をしている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音
嶺二「もう時間がねーな・・・」
鳴海「ああ・・・」
嶺二「どーしたって無理なもんは無理なのか・・・・」
雪音「奇跡が起きたら無理じゃなくなるんじゃない」
少しの沈黙が流れる
雪音「菜摘もそう思うでしょ?奇跡が起きたら文芸部は大丈夫だって」
菜摘「う、うん」
再び沈黙が流れる
明日香「雪音・・・あんたってほんと変わってるよね・・・」
雪音「変わってるのが私の個性だから。(少し間を開けて)明日香は個性がある方が良いと思わないの?」
明日香「そ、そりゃないよりはあった方が良いけど・・・」
菜摘「文芸部は個性の塊だよ、明日香ちゃん」
明日香「その個性の塊の中に私みたいな常識人がいて良いわけ?」
鳴海「ちゃっかり俺たちのことを非常識人認定したな明日香・・・」
明日香「認定はしてないけど・・・変わり者が多いでしょ」
嶺二「変わり者って誰のことだよ?」
明日香「あんたら全員」
再び沈黙が流れる
菜摘「私たちが変わってるから新入部員も集まりにくいのかな・・・」
雪音「そうじゃない?客観的に見て入りたいって思う要素が文芸部にはほとんどないし」
鳴海「じゃあどうして一条は文芸部に入ったんだ・・・」
雪音「文芸部なら奇跡が見れるかと思ったの」
嶺二「随分都合の良い奇跡を信じてるじゃねーか」
雪音「だって奇跡だよ、人が困ってる時に起きてくれなきゃ奇跡にならないじゃん」
菜摘「そうだね」
明日香「奇跡は神様じゃないんだから・・・」
雪音「明日香はどんなことが奇跡だと考えてるの?」
明日香「えっ・・・どんなことって言われても・・・(少し間を開けて)あり得ないこととか?」
雪音「つまり?」
明日香「あり得ないって思ってるようなことが起きたら、奇跡でしょ」
菜摘「河童や雪女と遭遇した・・・みたいな?」
明日香「なんか微妙な例えだけどまあそうね・・・」
鳴海「ということは明日香の中だと奇跡は一生起きないわけか・・・」
明日香「何でよ?」
鳴海「河童も雪女も現実には存在してないからだ」
明日香「か、河童と雪女は菜摘の例えがいけなかったの」
少しの沈黙が流れる
雪音「私の家にも奇跡の言い伝えがある」
菜摘「言い伝え・・・?」
雪音「そう」
◯1580緋空寺/波音の部屋(500年前/日替わり/朝)
外は快晴
狭い和室にいる波音と住持
波音が使っていた日本刀、装束、畳まれた布団が部屋の隅に置いてある
部屋には机がある
机の上には菜摘が波音に宛てて書いた筆文字(古語)の手紙(和紙)、書きかけの波音物語(波音の手記)、筆、数冊の本が置いてある
畳に座って話をしている波音と住持
住持「気をつけなさい。一世という男は並大抵の者ではない」
波音「分かっております」
住持「波音は彼の目を見ましたか?」
波音「はい・・・奴の眼光は信長殿の城にあった滝流吠虎図という絵画の虎と同じ瞳をしています・・・」
少しの沈黙が流れる
住持「彼はそこらの者以上に意志と運が強いのです。あの男の魂には帯のような一本の軸があり、乱れが感じられません」
波音「しかしながら住持様、私には一世の心が決して悪だけではないように思えるのですが・・・」
住持「だからこそ注意がいるのでしょう。波音、悪そのものと対峙することよりも、良い心と悪い心を持つ者と向き合う方が難しいのですよ」
再び沈黙が流れる
住持「向こうからこちらに近づいて来るまで放っておきなさい、波音」
波音「一世の様子を伺うのですね?」
住持「そうです」
◯1581緋空寺/境内(500年前/昼前)
快晴
緋空寺の境内にいる波音、一世、数人の子供たち
まだ荒れ果てていない緋空寺の境内
波音は数人の子供たちと楽しそうに話をしている
一世が数人の子供たちと楽しそうに話をしている波音のことを遠くから見ている
一世は髪と髭がボサボサに生えている
一世「(数人の子供たちと楽しそうに話をしている波音のことを見ながら)さっさとくたばっちまえ・・・」
◯1582緋空寺/波音の部屋(500年前/昼前)
狭い和室にいる一世
一世は波音の部屋を漁っている
一世は髪と髭がボサボサに生えている
波音が使っていた日本刀、装束、畳まれた布団が部屋の隅に置いてある
部屋には机がある
机の上には菜摘が波音宛てて書いた筆文字(古語)の手紙(和紙)、書きかけの波音物語/波音の手記、筆、数冊の本が置いてある
一世は波音の日本刀を手に取る
波音の日本刀を鞘から抜く一世
波音の日本刀を見ている一世
一世「(波音の日本刀を見ながら)悪くねえ・・・悪くねえ刀だ・・・」
一世は波音の日本刀を鞘に納める
波音の日本刀を元あった位置に置く一世
一世は机の上を見る
菜摘が波音に宛てて書いた筆文字(古語)の手紙(和紙)を手に取る一世
一世は菜摘が波音に宛てて書いた筆文字(古語)の手紙(和紙)を見ている
一世「(菜摘が波音に宛てて書いた筆文字(古語)の手紙(和紙)を見ながら)金になりゃしねえな」
一世は菜摘が波音に宛てて書いた筆文字(古語)の手紙(和紙)を机の上に投げ捨てる
書きかけの波音物語/波音の手記を手に取る一世
一世は書きかけの波音物語/波音の手記を見ている
一世「(書きかけの波音物語/波音の手記を見ながら)こいつは・・・内容によっちゃ売り捌けば儲かるぞ・・・」
ふすまが開き波音が部屋に入って来る
波音「物音がするかと思ったらお主か・・・人の物を漁るとは褒められた行為ではないぞ」
一世「(大きな声で)あ、あんたが死ねばここにある物は全部俺の物になるんだ!!!!」
波音「では私が死ぬまでもう少し待っておれ」
一世「(大きな声で)早くしやがれ!!!!こっちは急いでいるんだ!!!!」
一世は書きかけの波音物語/波音の手記を机の上に投げ捨てる
波音の部屋から出て行く一世
波音「やれやれ・・・せっかちな奴よのう・・・」
◯1583波音高校特別教室の四/文芸部室(午前中)
文芸部の部室にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある
校庭では二年生女子生徒が体育の授業を受けている
教室の窓際で話をしている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音
鳴海「い、一世なんて奴は聞いたこともないぞ!!」
雪音「別に信じなくて良いよ、波音物語にも登場しないし。(少し間を開けて)波音町を作ったのは白瀬波音と波音を慕っていた人たちだけど、世の中には表に出ないような歴史もあるから」
少しの沈黙が流れる
菜摘「一世さんは実在したんだね?」
雪音「さあ?500年前のことなんて誰にも分からないでしょ」
明日香「何よそれ・・・というかどこが奇跡なわけ・・・?」
再び沈黙が流れる
嶺二「黙ってねーで続きを話せよ」
雪音「結局何日も経っても、一世は波音に心を開かなかった。(少し間を開けて)でもある日、緋空寺で火事が起きたの」
◯1584緋空寺/一世の部屋(500年前/日替わり/夜)
狭い和室に布団を敷き、その上で眠っている一世
一世は髪と髭がボサボサに生えている
部屋の隅に行灯が置いてある
行灯の火は灯されている
緋空寺で火事が起きている
一世の部屋の外は火事で明るくなっている
一世の部屋に黒い煙が入って来る
一世は咳き込んで目を覚ます
一世「(咳き込みながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・火をつけられたのか・・・?」
一世は立ち上がる
◯1585緋空寺/境内(500年前/夜)
月が出ている
緋空寺の境内にいる波音、住持たち、そしてたくさんの村人たち
まだ荒れ果てていない緋空寺の境内
緋空寺で火事が起きている
緋空寺の火は大きく燃え上がっている
緋空寺からは黒い煙が上がっている
波音たちは緋空寺を見ている
住持「波音!!一世がおりません!!」
波音「な、何!?」
波音は周囲を見て一世を探すが、一世はいない
波音「(周囲を見るのをやめて)あのうつけ者が!!(大きな声で)皆離れていろ!!!!」
波音は右手で拳を作り、地面を強く叩く
波音は妖術を使う
波音が右手の拳で地面を強く叩いた瞬間、緋空寺の火と黒い煙が一気に波音の方へ流れるように飛んで来る
住持たちと村人たちが波音から離れる
波音は再び右手の拳で地面を強く叩く
波音が右手の拳で地面を強く叩いた瞬間、緋空寺の境内の地面から勢いよく水が噴き出る
波音の方へ流れるように飛んで来た緋空寺の火と黒い煙が、緋空寺の境内の地面から勢いよく噴き出た水とぶつかる
波音は妖術で、緋空寺の火、黒い煙、緋空寺の境内の地面から勢いよく噴き出た水の動きをコントロールしている
◯1586緋空寺/一世の部屋(500年前/夜)
狭い和室に一人いる一世
畳の上に布団が敷いてある
一世は髪と髭がボサボサに生えている
部屋の隅に行灯が置いてある
行灯の火は灯されている
緋空寺で火事が起きている
一世の部屋の外は火事で明るくなっている
一世の部屋には黒い煙が充満している
一世は手で口を押さえている
一世「(手で口を押さえながら 声 モノローグ)は、肺に煙が・・・」
少しすると一世の部屋の外が暗くなる
部屋に充満していた黒い煙は外に吸い込まれるように部屋から出て行く
部屋に充満していた黒い煙が外に吸い込まれるように部屋から出て行っていることに気付く一世
一世は黒い煙の動きを見ている
◯1587緋空寺/境内(500年前/夜)
月が出ている
緋空寺の境内にいる波音、住持たち、そしてたくさんの村人たち
まだ荒れ果てていない緋空寺の境内
波音の方へ流れるように飛んで来た緋空寺の火と黒い煙と、緋空寺の境内の地面から勢いよく噴き出た水が波音の目の前でぶつかっている
妖術を使っている波音
波音は妖術で、緋空寺の火、黒い煙、緋空寺の境内の地面から勢いよく噴き出た水の動きをコントロールしている
住持たちと村人たちは波音のことを見ている
緋空寺の火事は収まっているが、寺の何箇所かに黒く焼け焦げた跡が残っている
手で口を押さえた一世が緋空寺から出て来る
一世は髪と髭がボサボサに生えている
一世は手で口を押さえるのをやめる
立ち止まって波音のことを見る一世
波音は目を瞑る
波音は目を瞑ったまま、自分の顔の前で両手を強く叩き合わせる
波音が両手を強く叩き合わせた音が、緋空寺の境内で響き渡る
波音が両手を強く叩き合わせた瞬間、緋空寺の火、黒い煙、緋空寺の境内の地面から勢いよく噴き出た水が混ざり合い、直径1cmほどの小さなビー玉になる
ビー玉が地面に落ちる
ビー玉は赤色、青色、黒色が混ざっている
一世が赤色、青色、黒色が混ざったビー玉を拾いに行く
波音は目を開け、両手を合わせるのをやめる
雪音「(声)波音は燃え上がる炎を小さなビー玉にして、一世の命を救った」
◯1588波音高校特別教室の四/文芸部室(午前中)
文芸部の部室にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある
校庭では二年生女子生徒が体育の授業を受けている
教室の窓際で話をしている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音
明日香と嶺二が雪音の話を聞いて笑っている
明日香「(笑いながら)ちょ、ちょっと雪音、それって奇跡じゃなくてファンタジーでしょ!!」
嶺二「(笑いながら)た、確かにそーだな!!つ、つか地面を叩いて水が出るとか馬鹿げてるにもほどがあるだろ!!う、打ち切り確定の少年漫画みてーなアクションじゃねーかよ!!」
明日香と嶺二は笑っている
鳴海「い、一条は・・・」
雪音「信じなくても構わないって言ってるじゃん」
鳴海「そ、そうじゃないんだ。その一世とかいう男の話は、一条の家では昔からあるのか?」
雪音「大昔からね」
菜摘「どうして雪音ちゃんの家でしか知られてないのかな?」
雪音「別に私の家族じゃなくても知ってる人はいると思うけど?」
嶺二「(笑いながら)で、でも雪音ちゃんちの奇跡の言い伝えなんだろ?」
雪音「うん」
明日香「(笑いながら)ぜ、全然奇跡じゃないのにね」
雪音「奇跡だよ」
嶺二「(笑いながら)ど、どこが奇跡なんだ?」
雪音はポケットからビー玉を取り出す
鳴海たちにビー玉を見せる雪音
明日香と雪音の顔から笑みが消える
雪音が持っているビー玉は直径1cmほどの大きさで、赤色、青色、黒色が混ざっている
雪音が持っているビー玉は、◯1587で一世が拾った物と完全に同じ
鳴海「(雪音のビー玉を見ながら)お、おい・・・そのビー玉は・・・」
雪音「(鳴海たちにビー玉を見せながら)これがどうかしたの?」
鳴海「(雪音のビー玉を見ながら)い、一世が拾ったやつなのか・・・?」
雪音「(鳴海たちにビー玉を見せながら)どうだろうね?とりあえず私に言えるのは、無闇やたらに人の話を馬鹿にしない方が良いってことだよ」
◯1589早乙女家に向かう道中(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
菜摘を家に送っている鳴海
部活帰りの学生がたくさんいる
鳴海と菜摘は話をしている
鳴海「菜摘はどう思った・・・?」
菜摘「ん?何が?」
鳴海「一条の話だよ。本当だと思うか?」
菜摘「うん。結局あのビー玉が何だったのかは分からないけど、雪音ちゃんの話は本当だと思う」
鳴海「そうか・・・あんなビー玉を毎日持ち歩いてるんだとしたら、明日香の言う通り一条もかなりの変人だよな・・・」
菜摘「鳴海くん、ビー玉は多分、一種の小道具なんだよ」
鳴海「小道具?」
菜摘「(頷き)話に説得力を持たせて、明日香ちゃんや嶺二くんみたいに馬鹿にして来た人を見返すためにあるんだ」
鳴海「じゃ、じゃあ・・・あのビー玉は偽物なのか・・・」
菜摘「偽物かもしれないし・・・本物かもしれない・・・どっちにしても雪音ちゃんはわざとぼかしながら話をしてるんだと思うよ」
鳴海「な、何のためにそんなややこしいことをするんだ?」
菜摘「雪音ちゃんは話を信じてもらえないのが嫌なんじゃないかな・・・一生懸命真実だって訴えても、信じてもらえなかったら傷つくのは話をした雪音ちゃんだから・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「だけど菜摘、一世は波音物語にも登場していない人物なんだぞ」
菜摘「雪音ちゃんも言ってたけど、世の中には表に出ないような歴史もあるよ、鳴海くん。それにあくまでも波音物語は、三人の日常と緋空寺に辿り着くまでの旅路が主なお話だし・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「一世が実在したとして、何故一条はそんな男について知っているんだ」
菜摘「それは・・・雪音ちゃんの家庭に理由があるんじゃない・・・?」
鳴海「一条の家庭、か・・・」
菜摘「うん」
鳴海「(声 モノローグ)卒業式まで残り9日・・・(少し間を開けて)残された貴重な時間を、一条の胡散臭い話に使う余裕など俺は持ち合わせていなかった」




