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Chapter3 √鳴海(文芸部+風夏)×√嶺二(文芸部-千春)-夏鈴ト老人=過ぎた千の春、ナミネを想う 後編

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter3 √鳴海(文芸部+風夏)×√嶺二(文芸部-千春)-夏鈴ト老人=過ぎた千の春、ナミネを想う


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家、滅びかけた世界で“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。ナツと一緒に“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。ボロボロの軍服のような服を着ている。五十代後半から六十代前半の男。


滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、学校をサボりがち。運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、鳴海と同じように学校をサボりダラダラしながら日々を過ごす。不真面目だが良い奴、文芸部部員。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。


柊木 千春(ちはる)女子

消えてしまった少女、嶺二の想い人。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。魔女っ子少女団メインボーカル。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。天文学部部長。不治の病に侵された姉、智秋がいる。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


安西先生 55歳女子

家庭科の先生兼軽音部の顧問、少し太っている


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。怒った時の怖さとうざさは異常。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ智秋の病気を治すために医療の勉強をしている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

高校を卒業をしてからしばらくして病気を発症、原因は不明。現在は入院中。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった

Chapter3 √鳴海(文芸部+風夏)×√嶺二(文芸部-千春)-夏鈴ト老人=過ぎた千の春、ナミネを想う 後編


◯386貴志家リビング(日替わり/朝)

 土曜日

 快晴

 時刻は十一時過ぎ

 制服姿で椅子に座ってテレビを見ている鳴海


気象予報士「今日から梅雨明けです、気温は三十度になると予想され・・・」


 テレビを消す鳴海

 ショルダーバッグを持って家を出る


◯387波音駅の前(昼)

 よく晴れた空

 昼の十二時過ぎ

 電車、車、人々の声で騒がしい駅前

 待ち合わせで人がたくさんいる

 鳴海がスマホを見ながら突っ立っている


鳴海「(独り言)急用があると明日香から呼び出されたものの・・・用件を教えてくれないし・・・しかも呼び出しておいて遅刻してるし・・・」


 ぶつぶつ文句を言っている鳴海

 LINEを開き明日香とのトーク画面を見る鳴海

 前日のLINEを見ている鳴海

 “明日、暇?”という明日香のメッセージに対し”暇だよ”と返している鳴海

 “めっちゃ大事な用があるから、明日波音駅に十二時に来て”という明日香のメッセージに対し”用ってなんや”と返している鳴海

 “詳しくは明日話す”という明日香のメッセージに対し”おk”と返している鳴海

 LINEを閉じ、スマホをポケットにしまう鳴海

 しばらくすると明日香が走ってやって来る

 明日香の見た目の変化に驚く鳴海


明日香「(息を切らしながら)ご、ごめん・・・」


 明日香の服は短いズボンに、腕がかなり露出しているTシャツ

 肩くらいまであった髪は切られボブヘアーになっている明日香


明日香「(息を切らしながら)か、髪切るのに時間かかって・・・」

鳴海「(めちゃくちゃ驚きながら)明日香・・・そ、その髪・・・」

明日香「き、切っちゃった!」

鳴海「(めちゃくちゃ驚きながら)お、おう・・・似合ってるな」

明日香「そ、そう?男の子みたいじゃない?」

鳴海「いや、女子って感じ」

明日香「その言い方だと今までは女子って感じがしなかったってこと?」

鳴海「(慌てて否定する)そ、そういうわけじゃない!!今も前も女子って感じがするぞ!!!」

明日香「あいっかわらず適当だよねえ鳴海は」

鳴海「そ、そんなことより今日の用件を教えてくれ、大事な用があるんだろ?」

明日香「そう、大事な用」


 PASMOを取り出し波音駅に入って行く明日香

 明日香を追いかける鳴海

 Suicaを使って改札を通る鳴海


◯388波音駅ホーム(昼)

 ホームは人が多い 

 家族連れ、カップル、中高生で溢れている

 電車を待っている鳴海と明日香


鳴海「で、大事な用って?」

明日香「買い物」

鳴海「あー、買い物ね。(少し間を開けて)えっ?大事な用ってもしかして買い物?」

明日香「今買い物って言ったばっかじゃん」

鳴海「大事な用がただの買い物・・・?」

明日香「そうだよ」

鳴海「マジか・・・」

明日香「どうかしたの?」

鳴海「買い物は予想外だったわ、めっちゃ大事な用があるってLINEで言ってたからさ」

明日香「めっちゃ大事な買い物があるの」


 電車がやって来る

 人が降りるのを待ち電車に乗る鳴海と明日香


◯389電車内(昼)

 それなりに混んでいる電車

 明日香は座っている

 鳴海は立っている

 小さな子供が大きな声で楽しそうに親と喋っている


鳴海「大事な買い物って言うくらいだから・・・高額商品に違いない。家電か?家具か?」

明日香「ハズレ」


 考え込む鳴海


鳴海「ヒントは?」

明日香「水南木で降りる」

鳴海「水南木ぃ〜?あんなところ何もねえ気がするぞ」

明日香「あります、絶対鳴海も知ってる」

鳴海「ん?水南木?もしやショッピングモールか?」

明日香「正解、この勢いで言い続ければ買い物内容も当たるって」

鳴海「ショッピングモールでするめっちゃ大事な買い物・・・ショッピングモールでするめっちゃ大事な買い物・・・分かった!楽器だろ!」

明日香「バーカ」

鳴海「クソッ・・・弄ばれている気がするぞ・・・」


 笑っている明日香

 再び考え込む鳴海


鳴海「(納得した様子で)分かったわ、今度こそ絶対に合ってる」

明日香「やっと分かったんだね、良かった良かった」

鳴海「(自信ありげな表情で)明日香、今日お前が求めに来たのは野球かソフトボールの道具だ!髪を切ったのも野球をする時に邪魔だから、あえて俺を連れ出したのも道具を買った後に野球がしたいからだろ!!」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「いいだろう明日香、俺も久しぶりに体を動かしたいところだ。ゴールデンウィークぶりに再戦としようじゃないか。前回の俺は明日香の豪腕に負けて、へなちょこフライで終わっちまったが今日の俺はホームランをぶっ放すぜ。俗に言うリベンジマッチってやつだな」


 明日香が鳴海の顔を見る

 笑顔の明日香

 つられて笑顔になる鳴海


明日香「(笑顔で)ねえ鳴海、馬鹿なんだから余計なことは言わないほうがいいよ」

鳴海「(真顔になって)へっ?」


◯390ショッピングモールに向かう道中(昼過ぎ)

 水南木駅で降りた大勢の人たちがショッピングモールに向かっている

 鳴海と明日香もショッピングモールを目指してる

 駅の近くには自然が多い


鳴海「ほんとに野球道具じゃねえの?」

明日香「(怒りながら)違います」

鳴海「じゃあテニス道具か!?」

明日香「違います」

鳴海「もう分からん・・・家電、家具、楽器、野球、ソフトボール、テニス以外に買うものなんかねえよ・・・」


◯391ショッピングモール内ARTSという店の中(昼過ぎ)

 めちゃくちゃ混んでいるショッピングモール

 子連れの家族、カップル、中高生がたくさんいる

 レディース専門の洋服屋にいる鳴海と明日香

 明日香は何着も服を持って店内を物色している

 鳴海はやることがなくてボーッとしている

 一着の服を持った店員が鳴海に話しかけて来る


店員「(服を差し出して)よかったらこちらの服、彼女さんにプレゼントしてみたらいかがです?」

鳴海「はい?」

店員「(服を差し出して)この夏のトレンドが入ってるんですよ」

鳴海「そ、そうなんですね」

店員「(服を差し出して)いかがですか?」

鳴海「(服を受け取り)ど、どうも」


 鳴海が受け取ると店員は笑顔になり、鳴海から離れて行く

 店員が去ったのを確認する鳴海

 店員に気づかれないよう、すかさず渡された服を元あった場所に戻す鳴海

 明日香のところに行く鳴海


鳴海「(小声で)明日香、こんなところ早く出ようぜ」

明日香「えー」

鳴海「(小声で)他に買う物があるだろ?さっさとそっちに行こう」


 服を手に取ってかざしてみる明日香


明日香「(かざしながら)これどう思う?」

鳴海「あー・・・可愛いと思うけど・・・」

明日香「これも買っちゃお」


 明日香の片手にはたくさんの服が抱えられている

 また別の服を手に取ろうとする明日香

 

鳴海「持つよそれ」

明日香「(買う予定の服を差し出して)ありがとう」


 荷物持ちになる鳴海

 また別の服をかざしてみる明日香


明日香「(かざしながら)これはどう?少しアバズレっぽい?」

鳴海「分からん、てかアバズレっぽいってなんだよ」

明日香「(かざしながら)クソ女っぽいかってこと」

鳴海「見た目だけじゃクソ女かどうか分からんだろ」

明日香「(かざしながら)鳴海だってさっき私のことを見ながら女子って感じがするって言ってたじゃん、それと一緒」

鳴海「なるほど、俺には分からん」

明日香「これはやめとこ」


 服を元に戻す明日香


鳴海「てかそれを言ったら今日の明日香の格好も珍しくね?肌の露出が多いし」

明日香「アバズレに見える?」

鳴海「知らん」

明日香「髪を切ったのと合わせて服もイメチェンしたんだけど・・・」

鳴海「似合ってると思うよ、アバズレかどうかは他の奴に聞いてくれ」

明日香「鳴海以外の人で正直に思ったことを口に出す人なんてそうそういない」

鳴海「嶺二は?」

明日香「信用出来ない」

鳴海「菜摘は?」

明日香「あの子はアバズレとか意味わかってなさそう」

鳴海「確かに・・・一条は?」

明日香「八方美人だからダメ」

鳴海「南は?」

明日香「躊躇なく言いそうだから逆に怖い」

鳴海「なるほど、それで俺なのか・・・」

明日香「そういうこと、とりあえず今持ってるのは全部買っちゃっていいかな」

鳴海「こんなに買っていいのかよ?大事な買い物のために金は残しておくべきじゃないのか?」

明日香「まだそんなこと言ってんの?」

鳴海「明日香が良いなら気にしないけどさ、目的の前に破産しても知らねえぞ」

明日香「今、目的を果たそうとしてるからその心配はない」

鳴海「ん?どういうことだ?よく意味が分からないぞ?」

明日香「服を買うのが目的」

鳴海「は!?騙してたってこと!?」

明日香「騙してないけど・・・」

鳴海「いやいやいやいや、めっちゃ大事な買い物って言ってましたよね?」

明日香「言ったけど何?」

鳴海「今は明日香さんが買おうとしてるのはたかが服ではございませんか!!」

明日香「めっちゃ大事な買い物でしょ?」

鳴海「今日の目的って・・・服を買うだけ?」

明日香「もちろん、ヘアスタイルに合わせて服も一新させなきゃね!」

鳴海「マジですか・・・」

明日香「そんなわけだから今日一日よろしく!」


 レジに服を持っていく鳴海

 会計をする明日香


◯392ショッピングモール内(昼過ぎ)

 めちゃくちゃ混んでいるショッピングモールを見て回っている鳴海と明日香

 鳴海は明日香の服を持っている


明日香「(指を差して)次はあの店行こ!」

鳴海「まだ買うんか」

明日香「当たり前でしょー」


 ため息を吐く鳴海

 明日香が指を差していたお店に行く


◯393ショッピングモール内Quarsという店の中(昼過ぎ)

 またしてもレディース専門の洋服屋

 鏡の前に立ち様々な服をかざしている明日香

 鳴海に意見を求めている明日香

 服を見ながら考え込んでいる鳴海


◯394ショッピングモール内Lion’s hatsという店の中(昼過ぎ)

 帽子屋さんの中にいる鳴海と明日香

 キャップ、ハット、ニット帽、ベレー帽など様々な帽子が売られている

 両手に大きな紙袋を持っている鳴海

 帽子を物色している明日香


鳴海「帽子なんかいんの?」

明日香「夏だよ?」

鳴海「俺は夏でも冬でも帽子なんか被らん」

明日香「それは鳴海の話、私は帽子が欲しいの。紫外線対策!」

鳴海「帽子で紫外線防げんのかな・・・」

明日香「え?なんか言った?」

鳴海「な、なんでもない」

明日香「そう、とりあえず三つくらい買っとくかなぁ」

鳴海「そんなに!?」

明日香「うん、だってまずキャップは必要でしょ?それからハット系とベレー帽も買わないと」

鳴海「そんなに買って使い分けられるのかよ」

明日香「楽勝、さっき買った服ともコーデ出来るし」

鳴海「まあ・・・欲しいなら買っとけ」

明日香「言われなくても」


 さっそく帽子を手に取る鳴海


◯395ショッピングモール内(昼過ぎ)

 帽子を購入し、鳴海の荷物が増えている(昼過ぎ)

 ショッピングモールの中を見て回っている鳴海と明日香


明日香「次はどこに・・・」


 ロフトの前を通り過ぎる鳴海と明日香


鳴海「明日香、俺も買い物していい?」

明日香「いいよ、何見たいの?」

鳴海「ロフト」


◯396ショッピングモール内のロフトの中(昼過ぎ)

 ノートを見て回っている鳴海

 鳴海について回っている明日香


明日香「買い物って言うから、珍しく服でも買うのかと思ったけど・・・」

鳴海「明日香さ、授業中どんなノートを使ってる?」

明日香「教科によって違うよ」

鳴海「全教科、どんなノートを使ってるのか教えてくれ」」

明日香「全教科!?」

鳴海「おう」

明日香「あんた今まで全くノートを書いてこなかったの?」

鳴海「さすがの俺でも少しくらいは書いてるわ」

明日香「じゃあなんでそんなにたくさん買いたいの?」

鳴海「菜摘が休んでるだろ、あいつのためにノートを取ろうと思って」

明日香「なるほどね・・・そういうことか・・・」


◯397ショッピングモール内のファミレス(三時ごろ)

 ファミレスで休憩している鳴海と明日香

 明日香が買ったもので椅子が占拠されている

 ドリンクバーでメロンソーダを飲んでいる明日香

 ドリンクバーで烏龍茶を飲んでいる鳴海

 ポテトを食べている鳴海と明日香

 混んでいるファミレス

 小さい子供がはしゃぎ回っている


鳴海「次はどこ見るんだ?」

明日香「もう、十分かな。いっぱい買えたし」

鳴海「良かったな」

明日香「うん、付き合ってくれてありがと」

鳴海「気にすんな、いろいろ見れて面白かったわ」

明日香「私も」


 メロンソーダを飲む明日香

 ポテトを食べる鳴海

 少しの沈黙が流れる

 子供の騒ぐ声が響いている

 外からの日が差し込んでいる


明日香「菜摘の体調はどうなの?」

鳴海「熱が下がらないらしい」

明日香「そっか・・・」


 少し俯いている明日香


鳴海「明日香?どうした?」

明日香「あっ、いや・・・大丈夫かなって思って・・・」

鳴海「心配だな。四月にもこんなことがあったけど、そん時は一週間くらい休んでたはず」

明日香「そんなこともあったね。私、よく覚えてるよ(少し間を開けて)鳴海が扉の方を見て、菜摘のことをじっと待ってるの」

鳴海「キモいな俺」

明日香「(少し寂しそうな表情をして)そうだね」

鳴海「そういやカフェのメソッドに行こうとしたよな。道に迷って着いた頃に売り切れてたけど」

明日香「カフェのメソッド、閉店しちゃったよ」

鳴海「マジ?」

明日香「期間限定だったからね・・・」

鳴海「そりゃ残念だな・・・」


 また沈黙が流れる


明日香「あの日、千春の配ってたビラが風で飛ばされて・・・嶺二が拾いに行ったよね」

鳴海「覚えてるよ、嬉しそうだったな嶺二」

明日香「雪音のお姉ちゃんの手術がどうなったか知ってる?」

鳴海「知らんよ、明日香は知ってんのか?」

明日香「知らない。でも共通してることがあるよね」

鳴海「共通?」

明日香「嶺二が千春と出会った時も、雪音のお姉ちゃんが手術してる時も・・・」

鳴海「何が言いたんだ」

明日香「全部、菜摘の体調が良くない時に起きてる」

鳴海「それがどうした?偶然だろ」

明日香「変だと思わないの?」

鳴海「思わん」

明日香「天文部の子に聞いたんだけど、雪音のお姉ちゃんって相当酷い病気なんだって・・・助かったら奇跡だって言われてたような人のドナーが突然見つかったんだよ?しかも菜摘は予言したんだよ?」

鳴海「ドナーは突然見つかるもんだろ」

明日香「それはそうなんだろうけど・・・あり得ないような事が続いているって感じ」

鳴海「でもそれが現実だぞ」

明日香「菜摘には・・・特別な何かがあるのかも」

鳴海「(呆れながら)おいおい・・・明日香、お前そういう神秘的なこととか信じないタイプだろ?」

明日香「今も信じてない」

鳴海「結局何が言いたいんだよ?」

明日香「別に・・・ただの会話」

鳴海「ただの会話か」

明日香「そうそう、鳴海が何を思ってるのか気になっただけ」

鳴海「俺は別に何も思わんよ。菜摘の体調が良くなればそれでいい」

明日香「ほんっと、菜摘のこと好きだよねー」

鳴海「(動揺しながら)そ、そういう風に見えるか?」

明日香「(笑いながら)菜摘愛してるぜオーラが全身から出てる」

鳴海「(より動揺しながら)ま、マジ!?!?」

明日香「私にはそう見えるけど?多分、嶺二にもそう見えてるんじゃない?」

鳴海「(顔を赤くしながら)き、気をつける」

明日香「で、いつ告白すんの?」

鳴海「(ボソボソ喋りながら)こ、告白とかそういうのはだな・・・た、タイミングを見計らってだな・・・」

明日香「菜摘も鳴海のことが好きだと思うし、ヘマをしなければいけるよ」

鳴海「いや・・・まだ分からんぞ。菜摘は嶺二のことが好きかもしれん」

明日香「はぁ!?」

鳴海「か、可能性はあるだろ!あいつも馬鹿じゃなければ意外と良い男だぞ!」

明日香「ないない」

鳴海「あ、明日香は・・・好きな人いんのか?」

明日香「いないかな」

鳴海「(驚き)えっ!?いないの!?」

明日香「いない」

鳴海「マジかよ、いるのかと思ってたわ・・・」

明日香「いたけど実らなかったよ」

鳴海「そうなのか・・・残念だな・・・」

明日香「嶺二は千春のことが好きだったからね・・・」

鳴海「(驚き)えっ!?お前嶺二のことが好きだったの!?!?!?」

明日香「バーカバーカ、違うに決まってるでしょ」

鳴海「なんだよびっくりしたな」

明日香「騙されるなんてほんとに馬鹿だよね鳴海」

鳴海「そもそも馬鹿呼ばわりし過ぎなんだよ」

明日香「だってね(少し間を開けてとても小さな声で)馬鹿なところも好きだったから」


 メロンソーダの中に入ってる氷が音を立てて割れる

 子供たちが騒いでいる


鳴海「えっ?何?」

明日香「うるさい馬鹿」

鳴海「いやうるさくなくね!?」

明日香「野球道具も買って帰っちゃおうかなー」

鳴海「おま・・・買わねえって言ってたじゃん!!」

明日香「買わないとは一言も言ってないけど」

鳴海「買うのかよ・・・」

明日香「ボール、グローブ、バットは必要だからね」

鳴海「書い過ぎだろ!」

明日香「ついでユニフォームとかも買っとく?」

鳴海「いらないいらない!!!」


◯398貴志家リビング(夜)

 買い物から買ってきた鳴海

 テーブルには買ってきたノートが広げられている

 名前ペンでノートに教科名を書いていく鳴海

 

 

◯399貴志家リビング(日替わり/朝)

 快晴

 時刻は七時半過ぎ

 制服姿で椅子に座ってカバンの中身を確認している鳴海

 テレビではニュースをやっている


ニュースキャスター4「スティルバー氏は立候補を降り、メナス議員を支持すると声明を出しました」


 カバンの中にはショッピングモールで購入したノートが入っている

 ノート一冊一冊を確認する鳴海

 確認を終え、テレビを消す鳴海

 カバンを持って家を出る鳴海


◯400波音高校三年三組の教室(朝)

 教室に入る鳴海

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 団扇や下敷きで扇いでいる生徒もいる

 窓際で喋っている明日香、嶺二、雪音

 鳴海は自分の席にカバンを置いて、明日香たちのところに行く


鳴海「うっす」

嶺二「やっと来やがったな鳴海!」

鳴海「なんかあったのか?」


 ニヤニヤ顔を見合わせる明日香と嶺二

 嬉しそうな表情をしている雪音

 三人の顔を見る鳴海


明日香「教えてあげて雪音」


 雪音のことを見る鳴海


鳴海「待てよ!もしかして!」

嶺二「そのもしかしてってやつだ」

鳴海「ほんとか!?」

雪音「手術は大成功!」 

鳴海「(大きな声で)おおおおおおお!!やったな一条!!!」

雪音「ありがとう!」

明日香「状態も凄く良いんだよね?」

雪音「うん!落ち着いてるよ」

嶺二「良かった良かった、これで安心だね」

雪音「奇跡だよほんとに!」

嶺二「心機一転!明日香の髪型も変わったし、雪音姉ちゃんも助かったし、部活も今日から新しいことを始めないとな!!!文芸部×軽音部による卒業朗読劇ライブの準備を始めようじゃないか!!」

明日香「私のヘアスタイルは関係ないっつうの」


 嶺二の頭を軽く叩く明日香


雪音「ごめん、私今日も病院に行かないと」

鳴海「おう、行ってこい」

嶺二「雪音ちゃんがいない時のリカバリーは俺に任せろ!!」

雪音「うん、お願い!」

明日香「こいつらが変なことをしないようにちゃんと見張っとくね」


 笑う雪音


鳴海「こいつらって俺も・・・?」

嶺二「変なこととはなんだ、失礼な奴め」

明日香「あんた達は信用出来ないんだから、部長の菜摘がいない間は私が部長代理を勤めます!」

雪音「さすが明日香、厳しいね」

明日香「当たり前、こんな奴らクビにするべき」

鳴海「俺、副部長だよ?部長代理の肩書は俺にあると思うんだけど・・・」

明日香「鳴海はクビ」

鳴海「クビ・・・?」

明日香「役に立たないんだからクビに決まってるでしょ」

嶺二「反乱だ・・・反乱が起きてるぞ!!」

雪音「すごい、社内改革みたい」

明日香「文芸部に混沌は不必要、規律ある空間を築かなければならないのです」

嶺二「(混乱しながら)き、規律ある空間・・・?」

雪音「てかもうテスト二週間前だよ、来週は部活休止だし、今出来ることも限られてるよね」

嶺二「大丈夫よ、俺の計画通りに進めばバッチリ!」

鳴海「嶺二の計画か・・・嫌な言葉だ・・・」

嶺二「なんでだよ!?」

明日香「計画を立てても、計画通りに行かなきゃ意味ないでしょー」

嶺二「そこは問題ない、ちゃんと計算して立てた計画だからな」

鳴海「ますます心配になってきた」

嶺二「では計画初期段階を君たちに教えよう」


 神谷が教室に入ってくる


神谷「HRやるぞー!因みに今日はテスト二週間前だー!」


 生徒たちが絶句する声と悲鳴が上がる


神谷「騒いでないで早く席に戻れー!」


 嶺二の肩に手をポンと置く鳴海


鳴海「(嶺二の肩を叩きながら)そのお前の厨二病的計画は後で俺がゆっくり聞いてやるよ」

嶺二「(大きな声で)厨二病的計画って言うんじゃねえ!!」

神谷「うるさいぞ嶺二!」

嶺二「さーせん」


 席に戻って行く生徒たち

 鳴海、明日香、嶺二、雪音も自分の席に戻る


◯401波音高校三年三組の教室(朝)

 数学の授業中

 神谷が問題の解き方を黒板に書いている

 鳴海はショッピングモールで買ったノートに綺麗な字で写している

 明日香、雪音も真面目に授業を聞いている

 嶺二はノートを取りつつ、メモ帳に卒業朗読劇に向けた計画を書いている


◯402波音高校三年三組の教室(朝)

 数学の授業の後

 歴史の授業が行われている

 先生がプリントを配っている

 配られたプリントを後ろに回して行く生徒たち

 鳴海は菜摘のために二枚プリントを貰う

 鳴海のせいでプリントが一枚足りなくなる


生徒1「せんせー!プリント足りないっす!」

先生「おっかしいなぁ、ちゃんと枚数通りに渡したはずなんだが・・・」


 足りない生徒のためにプリントを一枚渡しに行く先生


鳴海「(声 モノローグ)すまん!俺が一枚余分にパクった!!」


 嶺二は変わらずメモ帳に卒業朗読劇に向けた計画を書いている

 夢中で計画を書いている嶺二

 嶺二の列はプリントが回ってない

 嶺二の机には回ってきたプリントが置いてある

 嶺二はプリントに気付いていない

 嶺二の後ろにいた生徒が嶺二にキレる


生徒2「プリント早く回してよ!!」

嶺二「あーごめんごめん」


 適当に謝って雑にプリントを渡す嶺二


◯403波音高校三年三組の教室(朝)

 公民の授業

 黒板にはビッシリと公民の単語が書かれている

 必死にノートを取っている生徒たち

 諦めて眠っている生徒がちらほらいる

 鳴海はノートを取っている

 嶺二はノートを取るのをやめ、メモ帳に卒業朗読劇に向けた計画を書いている


◯404波音高校三年三組の教室(昼前)

 英語の授業

 英語の先生がプリントの答え合わせをしている

 間違いだらけの鳴海のプリント

 明日香、雪音はほぼ満点

 嶺二は汚い字で答えを書いてる


◯405波音高校のベンチ(昼)

 とてもよく晴れている

 ベンチに座っている鳴海と嶺二

 鳴海はコンビニのおにぎりを食べている

 嶺二はカップラーメンを食べている

 ベンチはたくさんあり、友達同士やカップルがご飯を食べるのに使っている


鳴海「なんか疲れたなぁー」

嶺二「疲れるようなことしてないだろ」

鳴海「お前と違って真面目に授業を受けてたんだぞ俺は」


 カップラーメンをすする嶺二


嶺二「鳴海が真面目ぶってる間に俺も進めておいた」

鳴海「卒業朗読劇のことか?」

嶺二「おうよ、まず今日は軽音部の皆さん方に協力を求めに行こう」

鳴海「ここで断られたらおしまいだな、南たちに頼むんだろ?」

嶺二「そうそう」


 ツナマヨおにぎりを食べ終える鳴海


嶺二「俺たちには汐莉ちゃんがいるし、上手くいかないはずがない」

鳴海「すごい自信だ・・・」

嶺二「可愛い後輩のことは心配ないけど、問題は朗読劇の題材だ」

鳴海「また俺ら一人一人が作品を出してその中から選ぶか?」

嶺二「それだと話し合ってる時間が勿体無くね?あらかじめ朗読劇用に台本を作ってきてもらうのが一番手っ取り早いと思うぜ」

鳴海「となると誰にそれを書いてもらうか・・・」

嶺二「夏休み中に台本を仕上げてもらいたい」

鳴海「マジか、かなり早い段階から動くんだな」

嶺二「計画通りにことを進めるなら、俺たち文芸部だけじゃなくて軽音部とのスケジュールも調整しなきゃならん。言い出しっぺのこちら側の準備が遅れてちゃやばいだろ」

鳴海「それもそうか・・・ますます夏休み中に補習なんか受けてる場合じゃねえな・・・」

嶺二「安心しろ、今んところ俺たちが補習を受けるのも予定の中に組み込まれてるからよ」

鳴海「予定の中にあっても補習は受けたかねえ・・・」

嶺二「甘んじて受け入れるしかない」

鳴海「ということは俺たちが朗読劇の台本を作る可能性もあるってことか?」

嶺二「俺はない、鳴海は分からん」

鳴海「嶺二だけ降りるのはずるいぞ」


 カップラーメンをすする嶺二

 汁を飲む干す嶺二


嶺二「そう言うな、俺は全体の見通しや軽音部とのやり取りをしなきゃならねえ。台本を作ってる暇はない」

鳴海「こんなデカイイベントを考えておいて、肝心の文芸部分は丸投げかいな」

嶺二「自己犠牲と言って欲しいね、サクリファイスだよサクリファイス」

鳴海「腹立つからかっこつけんな」

嶺二「そんなことより台本を誰に頼むか・・・」

鳴海「軽音部とやるんだし南に書いてきてもらうのは?」

嶺二「汐莉ちゃんは厳しいと思うな」

鳴海「どうして?あいつは才能あると思うけど」

嶺二「汐莉ちゃんたちには朗読劇中に演奏する楽曲を作ってもらわなきゃいけないんだぞ?」

鳴海「未だにその辺のシステムについて理解してないんだが、俺らが朗読してる時に後ろでバンドの演奏をしてもらうんだよな?」

嶺二「そうだ」

鳴海「その演奏してもらう曲ってクラシックとかそういう系か?」

嶺二「ちげえ、オリジナルの曲に決まってんだろ」

鳴海「おいおい、それってつまり作詞作曲を依頼するってことじゃねえか」

嶺二「何を今更当たり前なことを言ってるんだ鳴海は」

鳴海「いや当たり前も何も初耳なんですが・・・」

嶺二「朗読劇の内容にあった曲が必要っちゅうわけだ」

鳴海「だから早めに台本を仕上げる必要があるのか・・・」

嶺二「急がなきゃやべーだろ」

鳴海「クソ忙しいのに補習なんか受けてる暇ねえじゃん」

嶺二「補習だけは抗えない、因みに夏休みは余裕のあるスケジュールを組むつもりだから心配いらないぜ?菜摘ちゃんとデートしたって問題ない」

鳴海「余計な気遣いを・・・」

嶺二「補習とデート以外の日は部活に来てもらうことになるかもしれん」

鳴海「ほぼ毎日学校に来いってことかよ」

嶺二「まーな」


◯406波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 外で活動している運動部の掛け声が聞こえる

 椅子に座っている鳴海と明日香

 卒業朗読劇の概要を黒板に書いている嶺二


明日香「で、今日は三人しかいないけど?」

嶺二「汐莉ちゃんが来ないなんて・・・」

鳴海「南って今軽音部の部室にいるんじゃねえの?」

明日香「そうね」

嶺二「軽音部の部室に突撃しに行くか、ライトナウで」

鳴海「やめろ」

明日香「やめて」

嶺二「(大きな声で)なんでだよ!?今がチャンスだろ!!」

明日香「話を勝手に進め過ぎ、菜摘も雪音も汐莉もいないのに」

鳴海「それこそ話を持ちかける前には題材を決めてからにするべきだろ」

嶺二「お、お前ら・・・協力してくれないのか・・・?」

鳴海「協力はする、だからこそ勢い任せはやめよう」

明日香「私は協力するなんて言った覚えない」

嶺二「(大きな声で)もう知らん!!!!俺が一人で頼み行くわ!!!!!」


 慌てて嶺二のことを止める鳴海と明日香


鳴海「待て待て!落ち着くんだ!」

明日香「嶺二一人が突っ走ったらせっかくの計画も失敗になっちゃう」

嶺二「(不満そうに)じゃあどうすればいいんだよ?」

明日香「鳴海の言う通り、せめて台本くらいは作ってから動こう?」

嶺二「無理、待てん。今すぐ頼み行く」

明日香「マジなんだよね?」

嶺二「マジ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「行くか・・・?」

嶺二「行こーぜ」

明日香「分かった。頼みに行ってもいいけど、私から話させて。嶺二と鳴海は余計なことを言わないように」

鳴海「余計なことは言わん」

嶺二「頼むぜ!明日香!」


◯407波音高校一年六組の教室前廊下/軽音部一年の部室前(放課後/夕方)

 教室の前にいる鳴海、明日香、嶺二

 扉についている窓から教室の中を覗く三人

 教室の中には汐莉、三枝響紀、永山詩穂、奥野真彩がいる

 休憩をしてる軽音部員たち


鳴海「演奏してないぞ」

嶺二「今がチャンスだ!」

明日香「二人とも、余計なこと言わないでね」


 頷く鳴海と嶺二

 扉をノックする明日香


響紀「はーい!」


 響紀が扉を開ける

 響紀は明日香のことを見て、手に持っていたボールペンを落とす

 明日香がボールペンを拾う

 ボーッと明日香に見惚れている響紀


明日香「(ボールペンを差し出して)はい、落としたよ」

響紀「(ボールペンを受け取り大きな声で)あ、あ、ありがとうございます!!!お美しいですね!!!!」

明日香「え・・・?」

嶺二「(小声でボソッと)百合展開だ・・・」


 大きな声に驚いて軽音部のメンバーが鳴海たちのことを見る


汐莉「あ、明日香先輩の髪が・・・短くなってるぅ!!!!」


 汐莉に手を振る明日香


明日香「(困惑しながら)えっとー・・・話があるんだけど・・・中に入っていいかな?」

響紀「(大きな声で)ど、どうぞ!!!!」


◯408波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 黒板の前には軽音部の楽器が置いてある

 教室の端の方で喋っている響紀と詩穂

 それ以外のメンバーは対面式で座っている


明日香「(困惑しながら)えっとー・・・」

真彩「気にしないでください、あいつはちょっと頭がおかしいので」

詩穂「(小さな声で)ダメだよいきなりお美しいとか言っちゃ、セクハラセクハラ」

響紀「(小さな声で)えっ?美人なのに?」

詩穂「(小さな声で)ダメ」

鳴海「(響紀と詩穂の方を見ながら)あの子たちは・・・一体・・・」

汐莉「いないものとして扱って大丈夫です」

響紀「(小さな声で)が、頑張る。もしも暴走しそうになったら私のことを殴って」

詩穂「(小さな声で)分かった」


 戻ってくる響紀と詩穂

 椅子に座る響紀と詩穂


響紀「そ、それで御用はなんでしょう」

明日香「卒業前に朗読劇をやろうと思ってるんだけど・・・出来れば軽音部の皆さんと一緒にやりたくて」

響紀「(即答する)やります!」

真彩「響紀・・・話を最後まで聞け」

響紀「聞いてる」

真彩「絶対、聞いてない・・・」

汐莉「嶺二先輩のアイデアから変化はあったんですか?」

明日香「今のところは・・・ない」

鳴海「南は話してないのか?卒業朗読劇ライブのこと」

汐莉「あまりに具体的ではないので話してません」

嶺二「進化っていう意味では絶えず変化してる計画だぜ?」


 深くため息を吐く明日香


鳴海「どうする?」

明日香「もういいや・・・計画については嶺二が説明して・・・」

嶺二「いいだろう、立案者だからな。(少し間を開けて)さて・・・夏休みが明けると九月」

汐莉「前振りはもういらないっす」

嶺二「単刀直入に言うと文芸部×軽音部による生演奏つき卒業公演朗読劇をやりたい、君たちには朗読に合わせてライブをしてもらいたいんだ」

響紀「(即答する)やります!」

嶺二「おお!!よっしゃ!!!企画成立だな!!!!」

鳴海「俺が言えたことじゃないけど、もう少し人の話を聞いた方がいいよ」

響紀「具体的に何をすればいいんですか?」

嶺二「朗読劇の題材に合わせて曲を作って欲しい、その曲たちを朗読劇中に演奏してもらう」

響紀「朗読劇の題材っていうのは?」

嶺二「それは鋭意制作中だ、夏休み中には仕上げる」

詩穂「ライブはいつ頃を予定していますか?」

嶺二「年明けだな、二月か三月か・・・卒業直前だ」

汐莉「嶺二先輩・・・あの・・・その時期は・・・

嶺二「何かあんの?」

汐莉「私たち、二、三月は三年生たちの卒業ライブの前座として出なきゃいけないんです」

嶺二「なん・・だと・・」

汐莉「オリジナルの曲を作れるほどの余裕があるかどうか・・・」

嶺二「嘘だろ・・」

詩穂「軽音部ならではのしきたりです」

真彩「言わば伝統行事みたいな、後輩が先輩を送り出す年功序列のイベントでして」

嶺二「伝統なんかクソくらえ」

鳴海「落ち着け嶺二」

響紀「年内なら」

嶺二「年内はダメだ・・・俺たちにも受験がある」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「なんとか年明けにやってくれないか!軽音部は伝統があるし来年には新入部員が来るだろうけど、俺たち文芸部はこのままだと廃部になる・・・その前に何かデカイことをみんなでやりたいんだ!!」


 困っている軽音部員たち


響紀「(明日香のことを見て)どうしてもやりたいんですか?」

明日香「やれるなら・・・やってみたいよ」

響紀「そうですか・・・」

汐莉「私も出来るならやりたいです、でも・・・難しいです。どういう曲が必要なのか、どういう本なのか、本番はいつなのか・・・先にそれが決まってないと・・・」


◯409波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 部室に戻ってきた鳴海たち


嶺二「クソッ!!軽音部も意外と厳しいな・・・」

鳴海「明日は軽音部の先生に頼みに行こう、それがダメなら神谷を使って交渉だ」

明日香「諦めないの?」

嶺二「まだ始まったばっかだぞ、諦めるかよ」

鳴海「ああ。またみんなの記憶に残る作品を作ろう」

明日香「まだまだ折れないのね」

嶺二「当たり前だ」

鳴海「明日香だってやれるならやってみたいって言ってたじゃないか」

明日香「やれるなら・・・あくまでイフの話だからね」

嶺二「イフを現実にしてやる」

鳴海「部活を作るのだって不可能だと思ってたけど、楽勝だったしな。今回もその要領で行けるさ」

嶺二「おう!」

鳴海「(声 モノローグ)南の的確な指摘は、俺と嶺二の思いをより強くさせた。何かを全力でするっていうのは、何かを変える可能性がある。その理論に基づいて行動をすることがどれだけ辛いのか俺たちはまだ知らない。全力は困難を強くさせる。なんて楽観的だったんだろう、この突拍子もない嶺二のアイデアが俺たちの人生や命に大きく影響を与えた。この町は一瞬で全てが変わる」


◯410滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/道路(夜)

 月と星の灯りしかない道路

 ナツとスズは生い茂った雑草、ボロボロな民家、ガタガタな地面を避けながら自転車で進んで行く

 楽しそうに自転車を漕いでいるスズ

 未だに目を瞑っているナツ

 夜風で二人の髪の毛がなびいている


スズ「(自転車を漕ぎながら)もう怖くない?」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)怖いよ!」


 後ろに乗っているナツのことを見るスズ


スズ「(自転車を漕ぎながら)目開けていいよ〜」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)開けられないの!」

スズ「(自転車を漕ぎながら)一瞬だけでいいから」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)開ける必要ない!!」

スズ「(自転車を漕ぎながら)でも何かあった時、目を開けてた方が安全だよ?」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)何かって何!?」

スズ「(自転車を漕ぎながら)何かは何かだよ、例えば転ぶ時とか?」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)転ぶな!」

スズ「(自転車を漕ぎながら)転んでもそれは事故だもん、目を開けてた方が体を守れる」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)それは・・・そうかもしれないけど・・・」

スズ「(自転車を漕ぎながら)だから目は開けた方がいいよ」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)そ、そこまで言うなら一種だけ開けちゃる!!」

スズ「(自転車を漕ぎながら)一瞬なら意味ない」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)こ、怖かったらすぐ閉じる!!」


 恐る恐る目を開けるナツ


スズ「(自転車を漕ぎながら)どーう?」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)い、意外と・・・こ、怖くない」

スズ「(自転車を漕ぎながら)でしょー?だってゆっくり運転してるもん」


 ゆっくり進んでいる自転車

 ふらつかずバランス感覚の良いスズ


ナツ「(スズの体に掴まりながら)風が、気持ちいい・・・」

スズ「(自転車を漕ぎながら)涼しいねー」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)お前、名前なんて言うんだ?」

スズ「(自転車を漕ぎながら)スズ!」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)スズ?それだけ?」

スズ「(自転車を漕ぎながら)それだけ!」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)なら私はナツだ!」

スズ「(自転車を漕ぎながら)ナツぅー?飲み物の名前みたいだね」

ナツ「(スズの体に掴まりながら)そ、そうかな・・・」


◯411滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/大きなスーパーの前(深夜)

 大きなスーパーの前に自転車を止まっているナツとスズ

 真っ暗なスーパー

 スーパーの中はよくみえない

 自転車から降りるスズ

 自転車を止めるスズ

 カゴに入れてあった杖をナツに渡すスズ

 慎重に杖を使って荷台から降りるスズ

 カゴの中に入れてあったリュックを取り背負うスズ 


ナツ「こんなところがあったのか・・・」

スズ「食べ物いっぱい」

ナツ「真っ暗だけど・・・」

スズ「そういえば」

ナツ「何?」

スズ「夜来るのは初めて」

ナツ「リュックの中にライトが入ってる」

スズ「らいと・・・?」

ナツ「リュック貸して」


 リュックを渡すスズ

 受け取るナツ

 リュックからペンライトを取り出すナツ

 ペンライトつけるナツ

 スーパーの中を照らすナツ

 荒れ果てているスーパー


スズ「歩けないし自転車で回ろーか」


 笑うナツ


ナツ「面白い冗談」

スズ「冗談じゃないよー、自転車の方が楽で安全だもーん」


 至近距離でペンライトをスズの眼球に向けるナツ


ナツ「(スズの眼球にライトを照らしながら)頭おかしいのか!?荒れ果ててるのが見えないのか!?その目玉は節穴なのか!?私がお前の目を見えなくてしてやろうか!?」

スズ「(目を覆いながら)眩しい眩しい!!」


 ペンライトを向けるのをやめるナツ

 目を擦っているスズ


ナツ「自転車は入れない、入れても漕げない!理解した?」

スズ「理解した」

ナツ「何か別の方法を考えよう・・・自転車以外で」

スズ「ライト貸して」

ナツ「なぜ?」

スズ「使えるものがないか探してくる」

ナツ「ライト、壊さないでね」


 渋々ペンライトを渡すナツ

 ペンライトを受け取り、一人でスーパーの中に入っていくスズ


ナツ「気を付けろよー!」

スズ「へーい!」


 足元を照らしながら進んでいくスズ


ナツ「(心配そうに)大丈夫かな・・・」


 時間経過


 スズが戻っってくるのを待っているナツ

 台車を押して戻ってくるスズ


ナツ「そんなもんどこから拾ってきたの?」

スズ「(台車を押しながら)裏に落ちてた、これなら乗れるよ」


 台車に乗るナツ


スズ「しゅっぱーつ!!」


 ライトで照らしながら台車を押すスズ


◯412滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/大きなスーパー(深夜)

 スーパーの中にいるナツとスズ

 スーパーの中は棚が倒れ荒れている

 食べ物が床に落ちている

 ライトで照らしながら台車を押すスズ

 ライト以外の灯がないスーパー

 落ちている食べ物を拾って台車に乗せるナツ


ナツ「適当に拾ってるけど・・・」

スズ「食べられる物は取っておこー」

ナツ「食べれるのかな・・・」

スズ「あっ!これこれ!!」


 足元を照らすスズ


ナツ「なんかあった?」


 スズが足元にあったペットボトルを拾ってナツに渡す

 受け取るナツ


ナツ「(ペットボトルを見ながら)なんだこれ」


 汚れた飲み物が入っているペットボトル

 

スズ「なっちゃん」

ナツ「なっちゃん?」


 ペットボトルに光を当てるスズ

 ペットボトルはなっちゃんのオレンジジュース


スズ「似てる飲み物」

ナツ「(ペットボトルを見ながら)これのことを言ってたのか・・・」

スズ「顔も似てる」

ナツ「似てない」

スズ「飲んでみる?」

ナツ「飲まない」

スズ「えぇー、勿体ないなぁ」

ナツ「飲みたきゃ飲んで良いぞ」

スズ「分かった」


 ナツからなっちゃんをぶん取るスズ

 何も躊躇せずになっちゃんをゴクゴクと飲むスズ


ナツ「ほ、ほんとに飲みやがった・・・」

スズ「美味いっ!」

ナツ「す、すごいな・・・何でも食べるのか?」

スズ「食べ物は何でも食べる!!」

ナツ「じゃ、じゃあ・・・試しにこれも」


 スーパーにあったジャーキーをスズに渡すナツ

 袋を破りジャーキーを食いちぎるスズ


ナツ「お、美味しい?」

スズ「これも美味いっ!!」

ナツ「お、おお!」


 ジャーキーを食ってなっちゃんを飲むスズ


スズ「組み合わせも完璧だっ!!」


 床に落ちていたドクターペッパーを拾うナツ


ナツ「(ドクターペッパーを差し出して)こ、これも飲む?」

スズ「(ドクターペッパーを受け取り)飲む!」


 ドクターペッパーを飲むスズ


ナツ「(台車の上にあったポテトチップスを見せて)次はこれ食べてみて!」


 ドクターペッパーを飲みながら親指を突き立てるスズ


 時間経過


 ポテトチップスを美味しいそうに食べているスズ


 時間経過


 スズに牛乳を勧めるナツ

 美味しそうに牛乳を飲むスズ


 時間経過


 茹でてないインスタント麺をそのままかじっているスズ

 スズを見てドン引きをしているナツ


 時間経過


 ドブネズミに遭遇して怖がっているナツ

 スズはドブネズミを蹴り飛ばす


 時間経過

 

 カビの生えた食パンを食べようとするスズ

 慌てて止めるナツ


 時間経過


 ツナ缶を食べ散らかしているスズ

 ツナ缶をナツに勧めるスズ

 全力で断るナツ


 時間経過


 缶ビールを飲みながら台車を押しているスズ

 台車には食べ物と飲み物いっぱい載っている

 ナツがペンライトを照らしている


ナツ「(ペンライトで照らしながら指を差す)あった!!水!!」


 水のある棚まで台車を押すスズ


スズ「どでかいのいっとくぅ?」

ナツ「一番大きいサイズを二本」

スズ「あいよ〜」


 2リットルの水を台車に乗せるスズ


スズ「あとは何かいるかな?」

ナツ「もう十分、行こう」

スズ「りょーかい」


 台車を押すスズ

 

◯413滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/大きなスーパーの前(深夜)

 スーパーを出たナツとスズ

 ナツが乗っている台車には食料品がいっぱいある

 

ナツ「あっ・・・」

スズ「どした?」

ナツ「自転車のカゴに荷物が入り切らない・・・」

スズ「今夜はここで寝るしかないね」

ナツ「やだなぁ・・・こんなところで野宿するなんて」


 スズは遠くの方を見ている

 

スズ「なっちゃん」

ナツ「なっちゃんはもうない、全部飲んだだろ」

スズ「そうじゃなくて、(指を差して)あれ」


 スズが指を差した方を見る


スズ「(遠くの方を見て)怪獣かな?」


 スズが指を差した方には大きな黒い犬がいる

 犬はナツとスズを睨んでいる

 犬の目が目が光っている


ナツ「違う・・・犬だ」


◯414貴志家リビング(日替わり/朝)

 快晴

 時刻は七時半過ぎ

 制服姿で椅子に座ってニュースを見ている鳴海


ニュースキャスター4「緋空浜では、先日まで降り続いた雨の影響で海水が汚れ・・・」


 テレビを消す鳴海

 カバンを持って家を出る鳴海


◯415波音高校三年三組の教室前廊下(朝)

 登校してきた鳴海

 廊下では生徒たちが喋ったりしている

 雪音と双葉篤志が廊下で喋っている

 小声で喋っている雪音と双葉


雪音「(小声で)ドナーが・・・のは・・・の・・・おかげ」

双葉「(小声で)本当に・・・のおかげ・・・か?」


 二人は小声で喋っているため会話の全てが聞こえない

 鳴海はバレないように二人の会話を盗み聞きしている


雪音「(小声で)絶対そう・・・予言した・・・」

双葉「(小声で)・・・が・・・休んでるのは・・・」

雪音「(小声で)なんで・・・でるのか・・・らない・・・でも・・・力がある子は・・・弱いんだって」


 登校してくる嶺二

 鳴海に声をかける嶺二


嶺二「おーっす鳴海!」

鳴海「(驚き)れ、嶺二!?」


 雪音と双葉は鳴海たちに気が付き遠くに行く


嶺二「(不思議そうに)何してんだそんなところで」


 舌打ちをする鳴海


鳴海「入るぞ教室に」

嶺二「あ、ああ。てかなんでキレてるんだ?」

鳴海「キレてないよ、ただちょっとだけイラッとしただけだ」

嶺二「キレてるじゃねーか!!」


◯416波音高校三年三組の教室(朝)

 英語の授業中

 プリントにぎっしりメモを取っている鳴海


 時間経過


 数学の授業中

 赤いペンで公式をノートに書いている鳴海


 時間経過


 歴史の授業中

 偉人の紹介と年表について詳しくノートに書いている鳴海


 時間経過


 古典の授業中

 漢文の意味を書いている鳴海


◯417波音高校のベンチ(昼)

 とてもよく晴れている

 ベンチに座っている鳴海と嶺二

 昼ごはんを食べ終えた鳴海と嶺二

 ベンチはたくさんあり、友達同士やカップルがご飯を食べるのに使っている


嶺二「軽音部の顧問って誰だっけ」

鳴海「分からん」

嶺二「現文の葛西は?」

鳴海「あいつは違う、オカ研だった」

嶺二「化学の森田は?」

鳴海「誰だそれ」

嶺二「お前ら知らないの?化学の森田」

鳴海「知らん、そんな奴いたか?」

嶺二「いるだろ!!忘れちまったのか!?」

鳴海「お前が言いたいのは森川じゃねえの?」

嶺二「森川・・・?そう言われてみれば森川だったかもしれん」

鳴海「嶺二の方こそ覚えてねえやん」

嶺二「森田でも森川でもどっちでもいい」

鳴海「因みに森川は吹部の顧問だ」

嶺二「考えるのがめんどくさくなってきた。顧問のことは汐莉ちゃんに聞けばいいな」

鳴海「あいつ今日も来ないらしいぞ」

嶺二「サボりか?」

鳴海「軽音部だろ」

嶺二「軽音部って腹立つ単語だな」

鳴海「軽音部の顧問と交渉が出来ればいいけど・・・」

嶺二「ほら見ろまた軽音部だ」

鳴海「(呆れながら)軽音部とやるんだから軽音部ってワードが頻出単語になるだろ」

嶺二「軽音部の顧問、軽音部の汐莉ちゃん、軽音部のライブ、軽音部と朗読劇、軽音部の協力、軽音部の一年、軽音部の予定、くそったれ軽音部だ!!!」

鳴海「その軽音部の機嫌を損なわないようにな」

嶺二「この計画は軽音部と上手く連携が取れるかにかかってる」

鳴海「暴走しないようにくれぐれも気を付けろ。(少し間を開けて)軽音部の顧問の前で」


◯418波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 円の形を作って椅子に座っている鳴海、明日香、雪音

 黒板の前に立っている嶺二


嶺二「今日の議題はだな、軽音部の顧問は誰なのかということについてだ」

雪音「安西先生じゃなかった?」

鳴海「聞いたことねえ先生だな」

明日香「家庭科の先生」

嶺二「その安西とかいうふざけた野郎に直談判すればいいってことだ」

明日香「交渉でうちらの印象が悪くならないといいけど・・・」

鳴海「ちゃんと下から頼めば大丈夫さ」

雪音「軽音部ってバンドのグループごとにやることや方針が違うんだって、だから安西先生の許可さえ貰えれば共同で活動も出来る気がする」

鳴海「というか・・・一条は・・・」

雪音「(声)ドナーが・・・のは・・・の・・・おかげ」

双葉「(声)本当に・・・のおかげ・・・か?」

雪音「ん?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「いや・・・そのー、嶺二の計画に賛成なのか?内容についてとかほとんど聞いてないだろ?」

雪音「何となく明日香から話は聞いたんだ、私は賛成だよ」

明日香「雪音いいの?こいつらに付き合ってたら面倒ごとが増えるよ?」

雪音「少しくらいトラブルがあった方が楽しいんじゃないかな」

嶺二「雪音ちゃん!!そうだよな!!面倒があっても仲間なら楽しくやっていけるよな!!」


 頷く雪音


雪音「(声)絶対そう・・・予言した・・・」

双葉「(声)・・・が・・・休んでるのは・・・」

雪音「(声)なんで・・・でるのか・・・らない・・・でも・・・力がある子は・・・弱いんだって」


 雪音と双葉の会話を思い出している鳴海


嶺二「んじゃあ職員室へ!」


 部室を出る嶺二

 嶺二に続いて部室を出る雪音

 

明日香「鳴海?どうかしたの?」

鳴海「ちょっと・・・考え事をしてた」

明日香「大丈夫?」

鳴海「おう」


◯419波音高校職員室(放課後/夕方)

 職員室ではたくさんの先生たちが各自の席に着いてプリントの用意をしたり、明日の授業の準備をしている

 安西先生の机の近くに立っている文芸部員たち

 

嶺二「安西先生・・・俺・・・バスケがしたいです!!」


 嶺二の頭を思いっきり叩く明日香


明日香「(小声でボソッと)お前は目的を忘れたのか」


 時間経過


安西「そう言われてもねえ・・・軽音部は代々、後輩が先輩を送り出すの。受け継がれてる歴史があるんだから」

嶺二「そうやって・・・そうやって・・・自分たち軽音部の方が偉いって言いたいんすね!!!!」

安西「偉いとかそういう意味じゃなくて・・・」

嶺二「そりゃそうですよ!!!俺たち文芸部は四月に出来たばかり・・・部員だって少ない・・・来年は廃部してるかもしれない・・・俺だって知ってますよ軽音部の歴史くらい!!!!でもですよ!?部活の規模で優先事項を変えるのはどうかと思いますよ!!!!!」


 職員室にいた先生たちが嶺二たちのことを見る


安西「規模は関係ありません!」

鳴海「嶺二、もう少し静かに話した方が・・・」

嶺二「よくもまあそんな嘘が平然とつけますね!!!生徒の意見は平等に取り扱うべきです!!!!!というか平等に聞け!!!!!」

明日香「れ、嶺二!!」

嶺二「俺たちは三年生っす!!!!!義務でもないのにこの地獄型人間動物園に三年間も通ったんですよ!!!!!少しくらい俺たちの話くらい聞きやがれ!!!!!この・・・デ」


 嶺二の口を手で押さえる鳴海

 ドタバタ暴れで喋ろうとしている嶺二

 職員室にいた全教員が鳴海たちのことを見ている


鳴海「(嶺二を取り押さえながら)えっとー、そ、そういうことです先生。け、軽音部の一年生を借りてもいいですよね?」

安西「(静かに怒りながら)出て行きなさい」

鳴海「(嶺二を取り押さえながら)一年生を借りてもいいってことですか?」

安西「(静かに怒りながら)言葉の意味が分からないの?出て行きなさい」


 少しの沈黙が流れる

 ドタバタ暴れている嶺二


鳴海「(嶺二を取り押さえながら)ありがとうございます!!魔女っ子少女団と一緒に活動出来ることがとてもうれし・・・」

安西「(顔を真っ赤にして怒鳴りながら)出て行きなさい!!!!!!!!」


 安西の怒鳴り声にびっくりする先生たち


◯420波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 職員室から戻ってきた鳴海たち

 怒っている嶺二


嶺二「あのデブ教師が許可を出せば早いのに!!!!クソ女が!!!!」

明日香「どう考えても嶺二と鳴海の頼み方に問題がある」

嶺二「は!?おれたちのせいかよ!?」


 頷く明日香


雪音「また日を改めて頼みに行く?」

鳴海「いや・・・やっぱり顧問より前に南たちの協力を得るべきじゃねえか?軽音部の方から協力したいですって言ってくれれば先生の気持ちも変わるかもしれねえだろ」

明日香「汐莉たちにしても、安西先生にしても口説き落とすのはかなり大変だね」

嶺二「汐莉ちゃんと話し合いしなきゃなー」

明日香「勝手に活動しちゃってるけど、菜摘が反対したらどうすんの?」

嶺二「菜摘ちゃんとも話し合いが必要だなー」

雪音「菜摘が来るまで二班に分かれて行動しない?私と明日香は安西先生、鳴海くんたちは軽音部を説得しに行く」

明日香「それがいいかもね、鳴海たちは先生と会うべきじゃない」

嶺二「そうするかぁ・・・」

鳴海「どっちかだけでも説得出来ればこっちのもんだしな」

雪音「うん、テスト週間に入るまでに出来ることをやろう」


◯421貴志家リビング(夜)

 帰宅した鳴海

 家には鳴海しかいない

 真っ暗なリビング

 電気をつけてカバンを置く鳴海


鳴海「(声 モノローグ)あの時、一条と双葉が何を話していたのか・・・いや・・・誰のことを話していたのか・・・」


◯422波音総合病院/一条智秋の個室(夜)

 ベッドで眠っている智秋

 雪音は本を読んでいる

 “波音物語”という文庫の本


◯423滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/道路(深夜)

 野犬に追いかけられているナツとスズ

 ナツは台車に乗っている

 スズは走りながら台車を押している

 台車がガタガタ揺れて怖がっているナツ


ナツ「き、気を付けろよ!!!」

スズ「(走りながら台車を押して)だって・・・怪獣が来てる!!!」

ナツ「怪獣じゃなくてあれは野犬だよ!!」


 スーパーで手に入れた食料が台車から落ちていく


スズ「(走りながら台車を押して)食べ物が!!!!!」

ナツ「食料は今いい!!」


 野犬から逃げ続けるナツとスズ


◯424滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/季札スポーツ総合公園(深夜)

 野犬から追われ公園の中に入ったナツとスズ

 野犬にバレないように木陰に隠れているナツとスズ

 広い公園、公園は野犬たちの住処

 広場の中心部分に遊具がある

 野犬たちは遊具の近く集まっている

 トンネル型の滑り台、うんてい、普通の滑り台、ジャングルジムなどが複合している遊具

 野犬はシェパードのように大きく、目を光らせてナツとスズを探している


スズ「怪獣、いっぱい」

ナツ「(小声で)やられた・・・」

スズ「どういうこと?」

ナツ「(小声で)さっきの犬は、きっと私たちをここまで連れてくるのが目的だったんだ」

スズ「歓迎してくれてるってことだね」

ナツ「(小声で)違うよ間抜け!!ここまで追い込めば私たちも簡単には逃げられない・・・袋の鼠だ・・・」

スズ「ネズミ?あれは怪獣だよ?」

ナツ「もう・・・逃げられない・・・」


 台車の上で仰向けに倒れるナツ

 ナツの顔を覗き込むスズ


スズ「諦めるのはや」

ナツ「対処のしようがない」

スズ「そんなことない」

ナツ「どうすんの?」

スズ「殺す」

ナツ「言っとくけど、野犬一匹でもスズより力が強いからね」

スズ「関係ない、ライターをぶつけて怪獣燃やす」

ナツ「あいつらはスズより頭良いよ、後怪獣じゃなくて犬ね。それからライターはすぐ火消えるから」

スズ「試してみなきゃ分からない」


 スズはリュックの中の物を放り出してライターを探している


ナツ「燃やしやすい物をスーパーから盗んでくればよかった・・・せめてアルコールか・・・何か・・・」


 地面にリュックの中にあったものが散乱している

 ライターを見つけるスズ


スズ「あったあった、これであいつら燃やしてぶっ殺す!」


 ライターの火をつけて確かめるスズ

 アルコール消毒液が地面に落ちている

 慌てて体を起こし、アルコール消毒液を手に取るナツ

 アルコール消毒液のボトルを見るナツ

 アルコール度数70%っと書かれている


ナツ「(アルコール消毒液を見せて)これだ!これを使えばいいんだスズ!」

スズ「えぇー、水は逆に火が消えちゃうよ」

ナツ「(首を横に振り)これは燃えやすくなる成分が入ってる」

スズ「それはどう使うの?」

ナツ「消毒液をばら撒いて・・・火を投げれば・・・」

スズ「本に火をつける?紙だから使えそーだよね」

ナツ「うん、スズ、私たちとあいつらの距離がどのくらいあるのか確認してみて」

スズ「あいあいさー」


 スズは膝立ちになり、野犬たちの距離を確認する


ナツ「どう?」

スズ「結構あるかも」

ナツ「具体的には?」

スズ「歩かなきゃ分からないよ」

ナツ「(文庫の本を見せて)これを投げて届くと思う?」


 スズは何も答えない

 遊具の方をじっと見ているスズ


ナツ「おい、答えろ」

スズ「滑り台の上に人がいる・・・お母さんだ・・・」

ナツ「何?」

スズ「他にも人がいる・・・みんな血だらけだ。助けに行かないと」


 スズは遊具の方に行こうとする

 ナツがスズの服を思いっきり掴み止める


スズ「(抵抗しながら)離して!」

ナツ「(スズを止めながら)ダメ!」

スズ「(抵抗しながら)助けに行く!!」


 スズの力で台車が動く

 台車の音に気づく野犬たち


ナツ「(スズを止めながら)死んでもいいの!?今ここで動いたら私たち死ぬんだよ!!」


 抵抗するのを止めるスズ


ナツ「冷静に、何を見たのか教えて」

スズ「遊具の上に人がいる」

ナツ「何人?」

スズ「四人」

ナツ「お母さんも?」


 頷くスズ


ナツ「絶対にお母さん?」


 頷くスズ


ナツ「生きてるかどうか・・・分かった?」


 首を横に振るスズ


ナツ「もう一度、確認して」


 スズは膝立ちになり、遊具の方を見る

 滑り台の上には四人の人がいる

 四人は体の至る所が噛みちぎられ出血している

 四人のことを見張っている一匹の野犬がいる

 野犬の口周りは血で赤くなっている

 四人の体は動かない

 他の野犬は遊具の下で周りを見張っている

 座り込むスズ


スズ「死んでる」


 俯くスズ


ナツ「スズ、悲しいのは分かるけど・・・今の状況をどうにかしよう」


 俯きながら頷くスズ


ナツ「先にボトルをあいつらのいる所に叩きつけて、次に火をつけた本を投げる。火が燃えている間に逃げよう」

スズ「なっちゃんが投げるの?」

ナツ「私は立てないしうまく投げられない・・・だからスズ、お願い」


 少しの沈黙が流れる

 手を出すスズ

 スズの手にアルコール消毒液を渡すナツ

 スズは立ち上がりアルコール消毒液を投げる

 アルコール消毒液のボトルが割れ、野犬たちの近くに液体が広がる

 文庫の本に火をつけてスズに渡すナツ

 スズは火のついた本を投げようと構える

 野犬たちはスズに気付いて迫ってくる

 一瞬だけ、母親のことを見るスズ

 スズは火のついた本を投げる

 火は液体の上に落ち、燃え広がる

 野犬たちは火に向かって吠えている

 野犬の何匹かは燃えている


ナツ「逃げようスズ!!」


 スズは走りながら台車を押す

 野犬たちは追ってこない

 スズは走りながら振り返って燃え上がる遊具を見る

 遊具の上ではスズの母親が叫び声を上げている


スズ「生きてた・・・」


 炎の勢いはどんどん強くなる

 スズは振り返るのをやめて、前を見る


◯425貴志家リビング(日替わり/朝)

 快晴

 時刻は七時半過ぎ

 制服姿で椅子に座ってニュースを見ている鳴海


ニュースキャスター5「昨日に引き続き、私は今緋空浜に来ています。浜辺でゴミ掃除をしている方がいらっしゃいましたので、お話を聞いてみましょう」


 テレビを消す鳴海

 カバンを持って家を出る鳴海


◯426波音高校三年三組の教室(朝)

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 団扇や下敷きで扇いでいる生徒もいる

 窓際で喋っている鳴海、明日香、嶺二、雪音

 

鳴海「どうやって軽音部を説得するか・・・」

明日香「土下座して頼む」

嶺二「それは俺のプライドが許さん」

明日香「ちっちゃいプライドね」

雪音「日雇い制にするのは?一日一日ごとにお小遣いをあげる」

鳴海「それは・・・一年生を買収しただけだ・・・」

嶺二「一年どもに金をあげられるほど俺の財布は裕福じゃない、そして俺の財布の紐はそれほど緩くない」

明日香「この前イオンで奢ってたのに?」

嶺二「あれは強制だったろ、しかも俺はまだ菜摘ちゃんに奢らなきゃいけねーんだ」

鳴海「こりゃ色んな意味で長い戦いになりそうだな・・・」


◯427波音高校三年三組の教室(午前中)

 現代文の授業

 教科書にマーカーで印をつけ、ノートを取っている鳴海

 

◯428波音高校のベンチ(昼)

 とてもよく晴れている

 ベンチに座っている鳴海と嶺二

 昼ごはんを食べ終えた鳴海と嶺二

 ベンチはたくさんあり、友達同士やカップルがご飯を食べるのに使っている

 ベンチの上でダラダラしている嶺二

 ワイシャツの襟元で扇いでいる嶺二


嶺二「(煽ぎながら)あっちいな・・・あー・・・あちいわー」

鳴海「軽音部にアイスを奢るから協力してくれねえかな」

嶺二「(煽ぎながら)そんなことで協力してくれたらいいけどよー」

鳴海「アイスで南を買収するのは無理か・・・」

嶺二「(煽ぎながら)イケメンを貸し出したら協力してくれるんじゃね?軽音部全員女子だし」

鳴海「嶺二の周りにいる?イケメン」

嶺二「(煽ぎながら)いねえ・・・鳴海の知り合いには?」

鳴海「いない、イケメンはツチノコや宇宙人と同じ類の種族だからな」

嶺二「(煽ぎながら)どういうことやねんそれ」

鳴海「幻の生き物ってことさ」

嶺二「(煽ぎながら)妖怪みたいな感じか」

鳴海「そうそう」

嶺二「(煽ぎながら)クソイケメン共が・・・」

鳴海「嫉妬か?」

嶺二「(煽ぎながら)嫉妬だ」


 鳴海と嶺二の前を楽しそうに笑いながらカップルが通り過ぎて行く


嶺二「(煽ぎながら)あーあ、鳴海は良いよなー」

鳴海「俺の何がいいんだ?」

嶺二「(煽ぎながら)お前には菜摘ちゃんいるじゃーん」

鳴海「いるって言ってもいないぞ」

嶺二「(煽ぎながら)菜摘ちゃんの風邪が治ったら鳴海もリア充だもんなー、良いなー」

鳴海「東京に行けば・・・嶺二だって彼女くらい出来るだろ」

嶺二「(煽ぎながら)東京に行かなきゃ出来ないのか俺・・・」

鳴海「波高で彼女を作るのはもう無理ゲーだな、悪評があり過ぎる」

嶺二「(煽ぎながら)それは鳴海だって同じじゃないか」

鳴海「嶺二、ルックスは良いんだしアホなことさえ言わなければモテると思うぞ」

嶺二「(煽ぎながら)黙ってろってことかよ・・・」

鳴海「黙って格好つければ良いんじゃね?」

嶺二「(煽ぎながら)次の授業、体育だし早速実践するわ」

鳴海「次は体育っつうか保健な」

嶺二「(煽ぎながら)てかさー、何で保健体育は男女別なんだ?体育は場所が一緒な時もあるけどよ、保健に関しては完全に別々だぜ?解せねえな」

鳴海「嶺二、お前はそういう発言をするからモテねえんだ」

嶺二「(煽ぎながら)別に今の発言はアホじゃねーだろ、男女別のせいで格好つけれねえ」

鳴海「別々なのは仕方ないことだぞ・・・他のことで格好つけることをさがs・・・もしかして今日女子も保健か?」

嶺二「(煽ぎながら)保健じゃねーの?」

鳴海「やべ、ノートのことをすっかり忘れてた・・・明日香に頼むか・・・俺ちょっと先に戻るわ」

嶺二「ノート・・・?」

鳴海「後でな!」


 鳴海はゴミを持って走って教室に戻る


◯429波音高校三年三組の教室(昼) 

 教室に入る鳴海

 教室でご飯を食べている生徒がいる

 明日香も女生徒たちとご飯を食べている

 明日香の元に駆け寄る鳴海


鳴海「明日香、頼みがあるんだけど」


 明日香と一緒にご飯を食べていた女生徒たちが鳴海のことをじろじろ見ている


明日香「な、何?」

鳴海「次の授業保健だよな?」

明日香「そうだけど・・・」

鳴海「授業が終わったらさ、保健のノートとかプリントを貸してくれないか」

明日香「あー、私のを?」


 頷く鳴海


明日香「男子から借りた方が良いと思う・・・」

鳴海「頼む、女子のやつが必要なんだ」


 周囲にいた女生徒たちがドン引きしながら鳴海と明日香のことを見ている


明日香「そ、そんなもの借りてどうするの・・・?」

鳴海「勉強に使うんだよ」

明日香「(動揺しながら)べ、勉強!?」

鳴海「あったりめえだろ」

明日香「せ、先生に借りたら・・・?」

鳴海「先生は貸してくれるか分からん」

明日香「ど、どうして鳴海は・・・女子の保健を勉強すんの・・・?」


 教室内にいたほとんどの生徒が鳴海のことを見ている


鳴海「は?俺が?馬鹿か明日香は、俺がそんなこと勉強するわけねえだろ」

明日香「(大きな声で)べ、勉強するって言ってたじゃん!!!!」

鳴海「勉強するのは俺じゃなくて菜摘な」


 少しの沈黙が流れる

 カバンから筆箱を取り出す明日香

 

鳴海「貸してくれるよな?」


 筆箱で思いっきり鳴海の頭を殴る明日香


鳴海「(叫び声)いってええええええええええええええええええええ!!!!!」


◯430波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 部室に集まっている鳴海、明日香、嶺二、雪音

 怒っている明日香


明日香「(怒りながら)保健の授業で使ったプリントは私が直接菜摘に渡します」

鳴海「は、はい・・・ありがとうございます」

明日香「(怒りながら)では私と雪音は職員室に行くので、あなた達はくれぐれも軽音部の皆様に迷惑をかけないように行動をしてください」

鳴海「はい・・・」


 足早に職員室に向かう明日香と雪音

 明日香と雪音が行ったのを確認する嶺二


嶺二「明日香めっちゃ怒ってるやん、何したのお前は」

鳴海「手違いだ・・・手違いが彼女の逆鱗に触れてしまった・・・」

嶺二「アホなことは言うなってあんなに偉そうにしてたのにな」

鳴海「誰にでもミスはあるだろ・・・」

嶺二「軽音部の前ではやらかすなよ?」

鳴海「大丈夫だ、余計なことは言わん」


◯431波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 黒板の前には軽音部の楽器が置いてある

 椅子に座っている鳴海、嶺二、軽音部員たち

 対面式で座っている


汐莉「何か決まったんですか?」

嶺二「何も決まっていない!!が、今明日香たちが安西先生と交渉してくれてる」

響紀「あ、あ、明日香先輩に会いたい・・・」

鳴海「協力してくれれば毎日会えるようになるぞ」

響紀「ま、毎日・・・あ、あ、明日香先輩と・・・」

真彩「何を妄想してるんだ・・・」

詩穂「セクハラだよ響紀くん、セクハラ」

嶺二「朗読劇に協力するって約束してくれたら、明日香を幾らでも貸し出そう!」

響紀「い、い、い、幾らでもおお!?」

嶺二「好きにしてくれて構わない」

汐莉「貸し出そうって明日香先輩は本か」

鳴海「おい嶺二、後で明日香からなんて言われても知らねえぞ」

嶺二「この際、明日香一個人のことはどうでも良いのだ」

詩穂「響紀くんがわいせつな行為をしないようにしつけなきゃ・・・」

響紀「し、し、しないからそんなこと!!!」

真彩「そ、その反応は・・・するだろお前・・・」

響紀「しない。(かなり間を開けて)なるべく」

真彩「なるべくかよ!!!!」

鳴海「もし・・・俺たちに協力しないなら、明日香に近づくのも不可能だな」

嶺二「その通りだ」

詩穂「協力したいですけど・・・スケジュールが・・・」

汐莉「肝心の内容が何一つ決まってないようじゃ動きたくても動けません・・・」

響紀「それと明日香先輩ばかりを引き合いに出すのはずるいっす!」

鳴海「具体的に何を決めてからここに来ればいいんだ?」

詩穂「スケジュールは早めに欲しいです」

響紀「明日香先輩のスケジュールも必要っす!!」

真彩「(小声でボソッと)それはいらないと思う・・・」

汐莉「最優先がスケジュール、次に朗読劇の題材です。本がないと曲も作れないので」

嶺二「スケジュールは二月下旬か三月上旬って前も言っただろ」

汐莉「嶺二先輩、その期間は難しいんです・・・年明けてからはライブの予定がたくさんあるし、余裕がありません」

嶺二「じゃあいつがいいんだよ?」


 顔を見合わせる軽音部員たち


真彩「夏休み?」

詩穂「秋にはライブの練習を始めてるよね、となると夏休みが一番空いてるかも・・・」

響紀「夏休みは無理、曲が間に合わない」

汐莉「私たちもやりたいですけど、どうする事も出来ないです」

鳴海「やっぱ現実的じゃないのか・・・」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「三年の卒業ライブに前座として参加するっつうのは、強制なの?」

響紀「軽音部の伝統行儀かつ通過儀礼、ぶっちゃけ強制です」

嶺二「そんな強制行事に参加してえと」

響紀「強制なので私たちの意思は・・・」

鳴海「ということは、取り立ててその行事に出席したいわけじゃないんだな」


 顔を見合わせる鳴海と嶺二


嶺二「じゃあ簡単じゃねーか、軽音部の三年生に参加したくないって言えばいい」

真彩「私ら一年の意見は聞いてもらえないです・・・」

鳴海「心配すんな、俺らがその三年に直接交渉しに行くわ」

汐莉「そんな上手くできますかね?失敗したら関係が悪くなるだけな気がしますけど・・・」

嶺二「いけるいける!!こういう時こそクイーンのドントストップミーナウだぜ!!!」


◯432波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 部室に戻ってきた鳴海、明日香、嶺二、雪音


鳴海「どうだった?」


 首を横に振る明日香


鳴海「そうか・・・」

雪音「安西先生、まだ怒ってたよ」

鳴海「マジ?めんどいな」

明日香「先生の怒りが収まるまでこの話は持ちかけるべきじゃないね」

嶺二「安心しろ、俺たちには一筋の光が見えてきたぞ」

雪音「話がまとまった?」

嶺二「残念ながらそこまでは進んでない・・・でも問題点は分かった。スケジュールのせいだ」

明日香「それで?」

嶺二「汐莉ちゃんたちは三年の卒業ライブに強制で参加が決まってる、その予定を覆すしかない」

明日香「何する気?」

嶺二「軽音部の三年と直接話し合う」

明日香「(即答する)やめた方がいい」

鳴海「一年生を貸してくれって頼むだけだぜ?」

嶺二「楽勝楽勝」

雪音「三年の軽音部ってさ・・・」


◯434波音高校特別教室の一前/軽音部三年の部室前廊下(放課後/夕方)

 ダラダラしながらスマホを見たり、お菓子を食べている軽音部員たち

 全体的に服装や態度などがチャラい

 男子二人女子二人の四人

 楽器はケースから出されていない

 扉の窓から軽音部員を見ている鳴海たち


鳴海「ただのダラダラしてる部活じゃねえか」

明日香「あれでもバンドのコンテストで優勝する実力があるからね」

雪音「私、あの人たち苦手・・・」

鳴海「行くか」

嶺二「おう」

明日香「え・・・やめた方がいいよ」

鳴海「頼む前から弱気だな」

明日香「馬鹿にされるだけだと思う・・・」

嶺二「馬鹿にされるくらいなら何も問題はないよな?」

鳴海「ああ、馬鹿にされるのはもう慣れてるぜ」

嶺二「お嬢さん方はここから俺たちの勇姿を見てるといい、一瞬で話をまとめてきてやる」

鳴海「俺たちだってたまには役に立つんだぜ?」

雪音「が、頑張ってね」


 ノックをせずに勢いよく軽音部の部室に入る鳴海と嶺二

 扉の窓から中の様子を見ている明日香と雪音

 軽音部員に事情を説明している鳴海と嶺二

 鳴海たちの話を聞いて大笑いしている軽音部員

 馬鹿にされた鳴海たちのことを見て頭を抱える明日香

 真剣に頼んでも話を取り合ってもらえない鳴海たち

 玉砕して戻ってくる鳴海たち


◯435波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 部室に戻ってきた鳴海たち

 意気消沈している鳴海と嶺二


明日香「(呆れながら)だから言ったのに」

鳴海「スクールカーストって最低だな・・・」

嶺二「学校ってほんと残酷だよ・・・」

雪音「頑張ろう?他に良い方法があるよきっと」

鳴海「クソー・・・一年生に頼んでもダメ、三年生に頼んでもダメ、先生に頼んでもダメ。どうすれば良いんだ・・・」

嶺二「こうなりゃ向こうがOKを出すまで押しかけるしかねえ」

明日香「菜摘が来るまで一旦待ったら?今の状態じゃ実質鳴海と嶺二だけで動いてるんだし」

嶺二「計画を練り直す必要があるというのか・・・」

雪音「みんなで話し合えば何か良い打開策が見つかるかも」

鳴海「早く菜摘に会いてえ」


 明日香、嶺二、雪音が一斉に鳴海のことを見る


嶺二「鳴海、大胆になったな」


 少しの沈黙が流れる

 顔が赤くなる鳴海


鳴海「(大きな声で)い、い、今のは!みんなで話し合いがしたい!!!という意味だ!!!!」


 動揺して身振り手振りが増える鳴海


嶺二「ツンデレという奴か?」

明日香「ツンデレってヤツね」

雪音「私から菜摘に伝えておくね、鳴海くんが会いたがってるって」

鳴海「(大きな声で)や、やめろ!!!」

雪音「やっぱりツンデレだ」

鳴海「(大きな声で)ツンデレじゃねえよ!!!」

嶺二「口を開けばツンデレ発言」

明日香「鳴ツンデレ海って呼んでいい?」

鳴海「(大きな声で)良いわけねえだろ!!!!」

嶺二「菜摘ちゃんも気の毒だな、相手がツンデレヘタレボーイだし」

鳴海「(大きな声で)ツンデレって言うな!!!後ヘタレじゃねえから!!!」


 笑っている明日香、嶺二、雪音


鳴海「(声 モノローグ)菜摘が欠席してから十日が過ぎた。たった十日、二百四十時間、およそ八十六万四千秒。千春が消え、ドナーが見つかる。幻想的な出来事、俺は向日葵のような少女のことを想う。彼女に恋をしているからだ」


◯436滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/道路(深夜)

 公園から遠くに逃げ、野営を行っているナツとスズ

 焚火を見ているスズ

 スーパーから盗んできたジャーキーを食べているナツ

 夜風で雑草が揺れている


ナツ「これ美味しいね、(ビーフジャーキーを差し出して)食べる?」


 首を横に振るスズ

 火の粉が弾ける音と夏の虫の鳴き声が響いている

 ずっと焚火を見ているスズ


ナツ「お母さんのこと・・・ごめん・・・」

スズ「なっちゃんは悪くないよ、私がお母さんを殺したんだ・・・」

ナツ「あれは予期せぬ事故!私が悪くないならスズだって悪くない」

スズ「よくお母さんに言われた。何度怒っても同じことを繰り返すし、人の話を聞かないって。(間を開けて)気をつけてるのに・・・わざとじゃないのに・・・良くない事をしちゃうんだ・・・」

ナツ「誰にだって不注意くらいあるよ」

スズ「自分のことが嫌になるって時ある?」

ナツ「もちろん」

スズ「自分のことが嫌いだ、食べ物のことしか考えてない」

ナツ「私だって同じ」

スズ「なっちゃんは違う、頭も良い」

ナツ「でも火をつけるって考えは思いつかなかった。スズだって頭良いじゃん」

スズ「そうかな・・・でもその考えでお母さんを殺しちゃったからね・・・」


 少しの沈黙が流れる


ナツ「これからどうするの?」

スズ「今までと同じように、ご飯だけを探して生きる」

ナツ「私と一緒に・・・旅しない?」

スズ「気持ちは嬉しいけど、これ以上迷惑をかけられないよ」


◯437滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/道路(日替わり/昼)

 快晴

 野営した後のゴミが残っている

 立ち上がるナツとスズ

 二人の近くには自転車と台車が置いてある


字幕「一ヶ月後・・・」

スズ「足だいじょーぶ?」

ナツ「うん、もう痛くないよ」


 ナツは新しいスニーカーを履いている

 手を握り合ってるナツとスズ


スズ「気をつけてね、なっちゃん」

ナツ「ほんとに・・・一緒に来ないのか」

スズ「うん、元気で」

ナツ「スズも元気でな・・・何でもかんでも食べるなよ」

スズ「うん」

ナツ「ちゃんと賞味期限見るんだぞ」

スズ「うん」

ナツ「危ないことしちゃダメだぞ」

スズ「うん」

ナツ「や、野犬には気を付けろ」

スズ「うん」


 泣き始めるナツ


ナツ「(泣きながら)い、生きてる人の物は盗むなよ」

スズ「うん」

ナツ「(泣きながら)し、死ぬんじゃないぞ」

スズ「うん、なっちゃんも死なないよーに」


 手を離すスズ


スズ「バイバイ」


 ナツの頭をポンポンするスズ


ナツ「(泣きながら)ば、バイバイ・・・」


 前を向いて歩き始めるスズ

 足を止めるスズ


スズ「なっちゃん?」

ナツ「(泣きながら)バイバイ!!」

スズ「バイバイ」


 再び前を向いて歩き始めるスズ

 二歩進んで立ち止まるスズ

 右腕を上げるスズ

 スズの右腕の袖口を握り締めてるナツ


ナツ「(泣きながら)バイバイ!!スズなんかどっか行け!!!!」


 泣きじゃくっているナツ

 歩き始めるスズ

 スズにぴったりくっ付いて歩くナツ


◯438滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/スーパー(昼過ぎ)

 埃っぽく汚いスーパーの中

 食料はほとんどない

 食べられそうな物がないか漁っているスズ

 スズの右腕の袖口を握り締めてるナツ

 スズにぴったりついて回っているナツ


◯439滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/道路(夕方)

 火が沈む前の時間

 道路のど真ん中に座っているナツとスズ

 スズの右腕の袖口を握り締めてるナツ

 気にせず乾パンを食べているスズ


スズ「なっちゃん」

ナツ「うん」

スズ「これからも一緒にいよっか」

ナツ「うん」

スズ「明日からどこを目指す?」

ナツ「わかんない」


 スズは左手をズボンのポケットに入れる

 ポケットからボロボロのポストカードを取り出すスズ

 ポストカードの表には綺麗な緋空浜と夕陽が写っている

 裏には“緋空浜には人の理解を超える特殊な力が宿っている、現実ではあり得ない力、奇跡を起こす、奇跡はたくさんの人を救う、波音町は奇跡によって守られる”と書かれている

 ポストカードをナツに渡すスズ

 

スズ「奇跡ってなんだろーね」


 ポストカードを見ているナツとスズ

 

ナツ「現実ではありえない力・・・奇跡を起こす・・・たくさんの人を救う・・・波音町・・・」

スズ「行ってみる?」


 頷くナツ


 時間経過


 夜になっている

 焚火と食料のゴミが散らかっている

 月と星の灯りしかない道路

 夜風で雑草が揺れている

 ナツとスズはくっ付きながら眠っている


◯440滅びかけた世界:緋滅びかけた世界:緋空浜(昼過ぎ)

 緋空浜を歩いているナツ、スズ、老人

 水たまり、使い古された兵器、遺体を避けて歩いているナツと老人

 スズはあえてポチャポチャと水たまりを踏んで歩いていく

 浜辺には戦車、重火器、使い古された小型船、空っぽの缶詰、ペットボトル、腐敗し死臭を放っている魚、骨になった遺体がそこら中にに転がっている


老人「互いに必要になったんだな」

スズ「一人より二人の方が楽しいからね〜」

ナツ「出会った経緯はこんな感じ、旅の道のりについては長いから省略する」

老人「そうかそうか」

スズ「奇跡を求めてここまで来たってことだよ」

老人「奇跡・・・か」

ナツ「奇跡なんかない、この海に来てそれが分かったけどね」」


 少しの沈黙が流れる


老人「さあ、掃除場はもう少し先だ。今日は長い一日になるぞ」

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