Chapter6卒業編♯25 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由香里
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
織田 信長48歳男子
天下を取るだろうと言われていた武将。
一世 年齢不明 男子
ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。
Chapter6卒業編♯25 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯1207老人の夢/滅びかけた世界:緋空浜近くの道路(昼)
快晴
太陽の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている
緋空浜近くの一般道にいる25歳前後の若い女兵士
女兵士の正体はレキ
レキは老人と同じような軍服を着ており、タバコを咥えたままボルトアクションライフルを構えている
道には至る所に雑草が生えており、緋空浜近くにあった店たちは廃墟になっている
レキから30mほど離れたところにはロシア兵の軍服を着せられたマネキンが立っている
レキはタバコを咥えたままライフルのボルトを上げ後ろに引く、そしてボルトを戻す
ロシア兵の軍服を着せられたマネキンを狙って発砲するレキ
大きな銃声が周囲に響き渡る
弾丸がロシア兵の軍服を着せられたマネキンの心臓付近に当たり、マネキンは倒れる
地面に落ちた薬莢がカランカランと音を立てている
タバコの煙を吐き出すレキ
レキ「(タバコを咥えたまま)ざまあねえ」
レキはタバコを咥えたままロシア兵の軍服を着せられたマネキンの方へ歩き出す
タバコを咥えたままロシア兵の軍服を着せられたマネキンを立たせるレキ
ロシア兵の軍服を着せられたマネキンの心臓付近には5cmほどの穴が出来ている
レキはロシア兵の軍服を着せられたマネキンの心臓付近に出来た5cmほどの穴に人差し指を入れる
レキ「(タバコを咥え、ロシア兵の軍服を着せられたマネキンの心臓付近に出来た5cmほどの穴に人差し指を入れたまま少し笑って)即死だな」
レキはロシア兵の軍服を着せられたマネキンの心臓付近に出来た5cmほどの穴に人差し指を入れるのをやめる
老人「レキ!!」
タバコを咥えたまま老人の声が聞こえた方を振り返るレキ
レキの4、5m後ろで軍服姿の老人が立っている
レキ「(タバコを咥えたまま振り返って)な、鳴海!!」
レキは咥えていたタバコを吐き出し老人の元へ駆け寄る
レキ「(老人の元へ駆け寄りながら)会いたかったぜあたしの悪友!!」
老人「俺もだよ、レキ」
老人とレキは抱き合いお互いの肩を叩く
老人とレキは抱き合ってお互いの肩を叩き終えた後、少し離れる
老人のことを見るレキ
レキ「(老人のことを見ながら)すっかり老け込みやがって・・・老いぼれかよ・・・」
老人「俺と違ってお前は変わってないじゃないか」
レキ「サソリの毒を背負った死神は歳を取らねえのさ」
老人「その口調も変わってないな」
レキ「ああ」
老人「しかしこんなところにレキがいるとは・・・こんなところで何をしていたんだ?」
レキ「今は蓮根野郎共をぶっ殺す練習をしててね、あんたも一発やってけよ」
レキはボルトアクションライフルを老人に差し出す
老人「(レキからボルトアクションライフルを受け取り)最近は視力と共に腕も落ちてるんだが・・・」
レキ「目が開いてれば十分さ」
老人「(ライフルをリロードし、ロシア兵の軍服を着せられたマネキンに向かって構えて)そうだな・・・お前に教えられた通り・・・大切なのは目だ・・・」
老人はロシア兵の軍服を着せられたマネキンを狙って発砲する
大きな銃声が響き渡る
弾丸がロシア兵の軍服を着せられたマネキンの頭に当たり、顔の右半分が粉々に砕け破片が飛び散る
ロシア兵の軍服を着せられたマネキンは倒れる
地面に落ちた薬莢がカランカランと音を立てている
ライフルを構えるのをやめる老人
レキ「昔からあんたはセンスが良かったよ」
老人「そうか?(レキにライフルを差し出して)もう覚えていないな・・・」
レキ「(老人からライフルを受け取り)あたしがあんたから忘れられてなかったのは幸運だ」
老人「お前は個性が強いし、そもそも俺たちは仲も良かっただろう?」
レキ「親しくなれたのはクソがクソを呼んだせいさ、嶺二やフランソワもあたしらと同じ口だったよ、鳴海」
老人「嶺二とフランソワか・・・(少し間を開けて笑いながら)俺が印象に残ってるのはお前が嶺二の歯ブラシを使おうしたことだな、見兼ねたフランが予備の歯ブラシをレキに渡していただろう?」
レキ「人殺しを家業にしてる女は歯ブラシを持ち歩きやしねえ」
老人「それは世界中の歯ブラシを持っている殺し屋に謝るべき発言だ」
レキ「あたしが謝るのはあたしにだけさ」
レキはポケットからタバコの箱とZIPPOライターを取り出す
老人「俺にも一本くれ、レキ」
タバコの箱からタバコを二本取り出し、そのうちの一本を老人に差し出すレキ
老人「(レキからタバコを受け取り)悪いな」
老人とレキはそれぞれタバコを咥える
レキは自分の咥えていたタバコにZIPPOライターで火をつけ、その後老人が咥えていたタバコにもZIPPOライターで火をつける
タバコの煙を吐き出すレキ
レキはライフルをリロードする
老人はタバコの煙を吐き出す
ライフルを老人に向けて構えるレキ
老人「(タバコを咥えたまま)復讐か?」
レキ「(タバコを咥えたままライフルを老人に向かって構えて)死神との約束だよ」
少しの沈黙が流れる
レキ「(タバコを咥えたままライフルを老人に向かって構えて)あたしは地獄へ向かう特急列車の切符を持ってんだ。そいつであんたを連れてってやるぜ」
老人「(タバコを咥えたまま)不思議だな・・・俺はレキに・・・復讐されてもおかしくはない。なのに何故お前は俺の望みを叶えようとするんだ?」
ライフルを老人に向かって構えたままタバコの煙を吐き出すレキ
レキ「(タバコを咥えたままライフルを老人に向かって構えて)鳴海・・・今日の空は仲間の色さ・・・」
老人「(タバコを咥えたまま)仲間の・・・色・・・か・・・」
再び沈黙が流れる
レキ「(タバコを咥えたままライフルを老人に向かって構えて)約束は守る。復讐か望みか、あたしには難しくて分かんねえけど、あの世にいるクソッタレ共にあんたを送り届けるのが仕事なんだ」
老人「(タバコを咥えたまま)それは・・・今日ではないんだろう・・・?」
レキはタバコを咥えライフルを老人に向かって構えたまま頷く
レキ「(タバコを咥えたままライフルを老人に向かって構えて)でもそう遠くねえ未来だよ」
老人はタバコの煙を吐き出す
レキ「(タバコを咥えたままライフルを老人に向かって構えて)じゃあな、鳴海」
レキは老人に向けていたライフルを自分の頭に向ける
レキは自分の頭を狙って発砲する
大きな銃声が響き渡る
◯1208滅びかけた世界:波音高校体育館(日替わり/朝)
体育館で眠っている老人
損壊した屋根から 太陽の光が差し込んで来ている
体育館の扉は壊れ、閉まらなくなっている
体育館はステージを含め、ほとんどの場所に灰でいっぱいになったビニール袋が置いてある
体育館は隅の一箇所だけ、灰の入ったビニール袋が置いてない場所があり、そこには体育の授業で使うようなマットが敷かれてある
マットの上には災害用の毛布が何枚か置いてあり、その脇には、数冊の本、小さな電化製品、吸い切ったタバコが積まれている灰皿、着替え、酒のボトル、空になったタバコの箱、薬の入った小さな小瓶、何個も繋がったドッグタグ、数枚の古い写真、ボルトアクションライフル、ナイフ、ハンドガン、銃の弾丸など、老人の所有物と思わしき様々な物がまとめられてある
数冊の本の中には、かつて老人が汐莉から貰った”年下と上手に会話を行う本”も置いてある
老人の所有物がまとめられてある場所以外は、灰の入ったビニール袋が積まれてある
老人はマットの上で眠っており、隣には汐莉から貰った”年下と上手に会話を行う本”が開きっぱなしで置いてある
”年下と上手に会話を行う本”の上には文芸部の部室で自撮りした写真と老眼鏡が置いてある
自撮りした写真には鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉が写っている
写真の嶺二と汐莉の間には不自然なスペースがある
写真は傷と汚れが付いており、色も劣化している
文芸部の部室で自撮りした写真は、Chapter6◯485の明日香が見ていた写真と同じ物
目を覚ます老人
老人はゆっくり体を起こす
老人「クソ・・・」
老人は近くに置いてあった酒のボトルと薬の入った小さな小瓶を手に取る
小瓶から錠剤を5個出し、口に入れる老人
老人はボトルの酒を飲み、錠剤を流し込む
酒のボトルと薬の入った小瓶を床に置く老人
老人はボルトアクションライフルと弾丸、ナイフを手に取る
老人がナイフを手に取った際に、近くに置いてあった積み重ねてある数枚の古い写真が風で動く
写真は入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由香里が制服姿で立って写っている物、公園らしき場所で5、6歳ごろの鳴海と、由香里が手を繋ぎながら写っている物、中年期ごろの老人、老人と同世代の男兵士1、レキ、老人と同世代の男兵士2、そして数人の兵士が武装して写っている物、軍服姿でタバコを咥えたレキが一人で写っている物、中年期ごろの老人、老人と同世代の男兵士1、レキがタンクトップ姿で楽しそうに話をしている場面が写っている物、結婚式で見るような純白のドレスを着た鳴海の姉、風夏、スーツ姿の鳴海、パーティー用ドレスを着た菜摘が写っている物、中年期ごろの私服を着た老人、同じく中年期の明日香、老人と同世代の私服を着た男兵士1が波音高校の前で写っている物、中年期ごろの私服を着た老人と、12、3歳ごろの七海が緋空浜で遊ぶ姿が写っている物、中年期ごろの私服を着た老人、中年期の明日香、老人と同世代の私服を着た男兵士1、15、6歳ごろの七海、その他十数人の老若男女が写っている物など
老人は軍服姿でタバコを咥えて写っているレキの写真を手に取る
老人は少しの間レキの写真を見続ける
老人「(レキの写真を見ながら 声 モノローグ)過去を覚えているか?」
レキの写真を床に置き、老人は立ち上がる
◯1209滅びかけた世界:保健室(朝)
◯1208と同日
荒れ果てている保健室
保健室にいる老人
保健室の窓ガラスは割れており、床にはプリント、薬品、割れたガラスが散乱している
床には血痕がある
保健室にあるカーテン付きの二台のベッドはどちらもカビが生え、生地が破れている
二台のベッドにはたくさんの血がついている
二台のベッドのカーテンは外れかかっている
保健室にある教師用の机には血のついた医療器具が置いてある
保健室にある椅子は倒れている
老人はボルトアクションライフルを肩にかけている
老人は保健室にある棚を漁っている
老人「(保健室の棚を漁りながら 声 モノローグ)この町には手放したくても手放し切れない思い出が染み付いている」
棚からエタノール消毒液、ガーゼ、包帯、医療用のテープ、ハサミを取り出す老人
老人は机の上にある血のついた医療器具を床に落とし、エタノール消毒液、ガーゼ、包帯、医療用のテープ、ハサミを机の上に置く
倒れていた椅子を立たせ、机の横まで運ぶ老人
老人は椅子を運び終えた後椅子に座る
老人が座っている椅子は◯1057で嶺二と雪音が座っていた椅子と同じ物
老人は左腕の袖をまくり上げる
老人「(左腕の袖をまくり上げながら 声 モノローグ)何もかも大昔のことだ」
左腕の袖をまくり終える老人
老人の左腕には包帯が巻かれている
左腕の包帯を外し始める老人
老人「(包帯を外しながら 声 モノローグ)母が涙したのも・・・」
包帯を外し終える老人
老人は外し終えた包帯を机の上に置く
老人の左腕の包帯の下にはガーゼが貼られており、ガーゼには血が染みている
老人はゆっくりガーゼを外す
外し終えたガーゼを机の上に置く老人
老人の左腕の刺し傷は出血が収まっているが、傷自体は良くなっておらず、皮膚が黒く変色している
机の上のエタノール消毒液を手に取る老人
老人は左腕の刺し傷にエタノール消毒液をかける
老人「(左腕の刺し傷にエタノール消毒液をかけながら 声 モノローグ)母を守るために父と争ったのも・・・」
左腕の刺し傷にエタノール消毒液をかけ終え、エタノール消毒液を机の上に置く老人
机の上のガーゼと医療用のテープを手に取る老人
老人はガーゼを左腕の刺し傷の上に乗せ、医療用のテープで止め始める
老人「(左腕の刺し傷の上のガーゼを医療用のテープで止めながら 声 モノローグ)菜摘を救えなかったのも・・・」
老人が左腕の刺し傷にガーゼを貼っていると、ガーゼにエタノール消毒液が染みていく
老人は左腕の刺し傷にガーゼを貼り終える
机の上の包帯を手に取る老人
老人は左腕のガーゼの上に包帯を巻き始める
老人「(左腕のガーゼの上に包帯を巻きながら 声 モノローグ)汐莉に手を差し出さなかったのも・・・」
左腕のガーゼの上に包帯を巻き終える老人
老人は机の上のハサミを手に取り、包帯を切る
左腕の包帯を医療用のテープで止める老人
老人「(左腕の包帯を医療用のテープで止めながら 声 モノローグ)七海から逃げて戦争へ行ったのも・・・」
左腕の包帯を医療用のテープで止めた後、残りの包帯、医療用のテープ、ハサミを机の上に置く老人
老人はまくっていた左腕の袖を下ろす
老人「(声 モノローグ)嶺二や明日香が死んだのも・・・全て過去として片付けられた・・・(少し間を開けて)この町には意志がある・・・俺を・・・俺たちを離そうとしない」
立ち上がる老人
老人「(声 モノローグ)これを俺の運命と呼ぶのか?」
◯1210緋空浜(日替わり/朝)
快晴
太陽の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちている
浜辺には釣りやウォーキングしている人がいる
緋空浜の浜辺にいる制服姿の早季
浜辺に正座している早季
早季は目の前の浜辺を見ている
早季が目の前の浜辺を見ていると砂浜が生き物のように動き出し、砂が将棋の盤と将棋の駒に変わる
浜辺にいる人たちは砂浜から将棋の盤と将棋の駒が作られたことに気づいていない
早季は砂浜から作られた将棋の盤の上に駒を並べ始める
将棋の駒を並べ終えた後、一人将棋を始める早季
早季は一手打つたびに、将棋の盤をひっくり返す
早季「(駒を進めながら 声 モノローグ)未来を知っていますか?」
早季は将棋の盤をひっくり返す
早季「(駒を進めながら 声 モノローグ)太陽は黒くなり、地球が赤くなる時代を知ろうとしていますか?」
将棋の盤をひっくり返す早季
早季「(駒を進めながら 声 モノローグ)私は初めて人が涙を流した瞬間を見たことがあります。その人は生きていることに絶望していました」
◯1211滅びかけた世界:波音高校廊下(朝)
◯1208、◯1209と同日
廊下の窓から太陽の光が差し込み、ほこりが浮かんで見えている
廊下を歩いている老人
老人の肩にはボルトアクションライフルがかけられている
廊下には生活用品のゴミ、遺骨、かつて授業で使われていた道具など様々な物が散乱している
早季「(声 モノローグ)彼は家族や友を失い、自らの選択に後悔していたんです・・・たくさん死んで、たくさん殺した世界で生きている彼は、運命を呪いました・・・(少し間を開けて)呪って、呪って、また呪って、何度も自分や世界に怒り、名前まで失ったんです。彼は・・・いっそのこと壊れてしまいたいと願い、地球の海よりも多い涙を垂れ流し続けました」
◯1212緋空浜(朝)
◯1210と同日
◯1210の続き
緋空浜の浜辺にいる制服姿の早季
浜辺に正座している早季
早季の目の前には将棋の盤が置いてある
早季の横には取った駒が置いてある
早季は一人将棋を行っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちている
浜辺には釣りやウォーキングしている人がいる
早季は一手打つたびに、将棋の盤をひっくり返す
早季「(駒を進めながら 声 モノローグ)21グラムを失わずに眼球から液体を流すのもまた、人間らしい人間の行動・・・」
早季は将棋の盤をひっくり返す
◯1213貴志家リビング(朝)
◯1210、◯1212と同日
外は快晴
リビングで朝食を食べている鳴海と風夏
鳴海と風夏はテーブルを挟んで向かい合って座っている
テーブルの上には焼きたての食パン、目玉焼き、ソーセージ、バターが置いてある
鳴海と風夏は焼きたての食パンにバターを塗りながら話をしている
鳴海「(食パンにバターを塗りながら)姉貴は今日仕事休みなんだろ」
風夏「(食パンにバターを塗りながら)うん」
鳴海「(食パンにバターを塗りながら)彼氏のところへ行くのか?」
風夏「(食パンにバターを塗りながら)正しくは彼氏の実家へね」
鳴海「(食パンにバターを塗りながら)義母と喧嘩するなよ」
風夏「(食パンにバターを塗りながら)大丈夫、私めっちゃお母様に好かれてるし」
鳴海「(食パンにバターを塗りながら)そ、そうか・・・」
◯1214◯935の回想/波音総合病院に向かう道中(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
波音総合病院に向かっている鳴海
部活帰りの学生がたくさんいる
横断歩道を渡り終えたところで立ち止まっている鳴海と制服姿の早季
話をしている鳴海と早季
早季「私は初めて人が涙を流した瞬間を見たことがあります」
鳴海「お、おい・・・」
早季「その人は私の姉妹で、新たな家族を作ろうとしていました。彼女は結婚を望んでいたんです・・・でも彼女の周りにいる人たちは、頑なに結婚を認めようとはしませんでした。父親、母親、弟、そして愛する男の家族までもが、彼女の嫁入りを止め続けて・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「姉貴・・・」
早季「どうかしましたか・・・」
鳴海「な、何でもない・・・(少し間を開けて)そ、その人は・・・結婚出来たのか・・・?」
早季「いいえ。彼女は実家に閉じ込められてしまいました。そして自ら手首を切って死んだんです・・・花嫁に憧れた体から吹き出る血には、海水のような青い液体が混ざっていました。無色な浄水や腐敗した下水とは違います、あれは涙です。彼女は・・・死にながら泣いていました。(少し間を開けて)魂が燃え尽きる瞬間、培った全部が無に帰る時、愚かな人類は眼球から液体を流すことしか出来ない」
◯1215回想戻り/貴志家リビング(朝)
◯1210、◯1212、◯1213と同日
リビングで朝食を食べている鳴海と風夏
鳴海と風夏はテーブルを挟んで向かい合って座っている
テーブルの上には焼きたての食パン、目玉焼き、ソーセージ、バターが置いてある
食パンにバターを塗っていた鳴海の手が止まっている
風夏は食パンにバターを塗っている
風夏「(食パンにバターを塗りながら)そっちは今日波音博物館だっけ?」
鳴海「あ、ああ」
再び鳴海は食パンにバターを塗り始める
風夏「(食パンにバターを塗りながら)社会科見学?」
鳴海「(食パンにバターを塗りながら)ま、まあそんな感じだ」
鳴海と風夏は食パンにバターを塗り終える
風夏「朗読劇の前に勉強しておいで、過去を学ぶのは良いことだからさ」
鳴海「姉貴は行ったことあるのか?」
風夏「一回だけね、高校生の頃に智秋と一緒に」
少しの沈黙が流れる
食パンを食べ始める風夏
鳴海「(声 モノローグ)過去なんて俺たちに分かるはずがない」
◯1216早乙女家リビング(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1214と同日
外は快晴
リビングにやって来た菜摘
キッチンではすみれが料理をしている
リビングでは潤がテレビを見ている
菜摘はすみれ、潤と挨拶を交わす
鳴海「(声 モノローグ)どれだけ学んだって、どれだけ知ろうとしたって、どれだけ寄り添おうとしたって、涙や幸せは波音、奈緒衛、凛のもので、俺たちは彼女らの想いをわずかに分けてもらうことしか出来ないんだ」
テーブルに向かって椅子に座る菜摘
菜摘はすみれ、潤と話をしている
鳴海「(声 モノローグ)その受け取った想いを、俺たちは合同朗読劇を通して後世に残す義務がある」
◯1217一条家キッチン(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216と同日
外は快晴
一人キッチンにいる雪音
キッチンのシンク、調理場は広く大きい
キッチンにはコンロや引き出しがたくさんある
大きな冷蔵庫を開ける雪音
冷蔵庫の中にはコンビニのサンドイッチ、酒類、500ミリリットルの水しか入っておらず、スペースがかなり余っている
雪音は冷蔵庫からコンビニのサンドイッチと500ミリリットルのペットボトルの水を取り出し、冷蔵庫を閉める
リビングに行く雪音
リビングは和風で広く、床の半分以上が畳で出来ている
照明は旅館にあるような和紙が巻いてあるペンダントライトと、同じく和紙が巻いてあるフロアランプの二種類
雪音はテーブルに向かって椅子に座る
テーブルの上にコンビニのサンドイッチと500ミリリットルのペットボトルの水を置く雪音
雪音「私にも奇跡の力が備わっていれば・・・」
◯1218◯765の回想/波音高校裏庭(朝)
ポツポツと雨が降っている
裏庭にいる汐莉と雪音
裏庭は花壇があり、枯れた花が植っている
花壇の中には水たまりが出来ている
汐莉は両手をポケットに突っ込んでいる
汐莉と雪音は話をしている
汐莉「奇跡にすがって、菜摘先輩の体を傷つけて、文芸部を壊して、雪音先輩はさぞ楽しいでしょうね。私、あなたのことを本物のクズだと思ってますよ」
◯1219一条家リビング(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217と同日
リビングにいる雪音
リビングは和風で広く、床の半分以上が畳で出来ている
照明は旅館にあるような和紙が巻いてあるペンダントライトと、同じく和紙が巻いてあるフロアランプの二種類
テーブルに向かって椅子に座っている雪音
テーブルの上にはコンビニのサンドイッチと500ミリリットルのペットボトルの水が置いてある
雪音「(声 モノローグ)お姉ちゃんみたいに無い物は奪えば良い・・・(少し間を開けて)過去も・・・未来も・・・運命も・・・変えられる力を私の手に・・・」
◯1220滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(朝)
◯1208、◯1209、◯1211と同日
外は快晴
教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある
椅子や机、教室全体に小さなゴミが溜まっている
教室の窓から太陽の光が差し込み、ほこりが浮かんで見えている
教室の壁際で朝食を取っているナツ、スズ、老人
ナツ、スズ、老人の中心には2リットルのペットボトルの水が置いてある
乾パンを食べているナツ、スズ、老人
老人の肩にはボルトアクションライフルがかけられている
教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている
ナツ、スズ、老人は二体の遺体がもたれている壁とは別の壁際にいる
ナツの近くには老人から貰ったロシア兵の双眼鏡、読みかけの20Years Diary、ショッピングモールから盗んだ服、本や化粧品などが置いてある
スズの近くには拾ったサングラス、手鏡、ビー玉、ショッピングモールから盗んだ服、ベレー帽、化粧品や大きなぬいぐるみなどが置いてある
乾パンを食べながら話をしているナツ、スズ、老人
老人「(乾パンを食べながら)何かしたいことはあるか?」
ナツ「(乾パンを食べながら)ない」
スズ「(乾パンを食べながら)青春!!」
乾パンの粉がスズの口から飛び出る
老人が乾パンを食べ切る
老人「スズは青春という言葉が好きなんだな」
スズ「(乾パンを食べながら)うん!!だって今までの私たちの人生にはなかった言葉だから!!」
再びスズの口から乾パンの粉が飛び出る
ナツは乾パンを食べるのをやめて、スズの口を手で押さえる
ナツ「(スズの口を手で押さえながら)カスが飛ぶ、汚い」
スズ「(ナツに口を押さえられながら)ンー!!!!」
ナツ「(スズの口を手で押さえながら)喋るならゆっくり喋れ。分かった?」
スズ「(ナツに口を押さえられながら)ン!!!!」
ナツはスズの口を押さえるのをやめる
再び乾パンを食べ始めるナツ
スズ「息が出来なくて死ぬかとおもた・・・」
老人「既視感のある光景だな」
ナツ「(乾パンを食べながら)何が既視感なの?」
老人「こちらのことだから気にしなくて良い」
再び乾パンを食べ始めるスズ
老人「それよりも今日は行きたい場所があるんだ。青春とは少し違うが・・・特に用がなければ二人とも俺に付き合って欲しい」
ナツ「(乾パンを食べながら)いつも付き合ってる」
老人「ならいつも通りで頼むよ。ナツ」
ナツ「(乾パンを食べながら)危なくなきゃ出かけても良いけど・・・」
老人「おそらく危険はない」
ナツ「(乾パンを食べながら小声でボソッと)そのおそらくってのが嫌なんだ」
老人「どんな場所でも0.01分の危険はあるんだよ、ナツ。この世界はそうやって成り立っているんだ」
少しの沈黙が流れる
スズが乾パンを食べ切る
スズ「お出かけってどこに行くの〜?」
老人「過去の存在を感じられる場所に行くのさ」
ナツ「(乾パンを食べるのをやめて)過去?」
老人「そうだ。それもただの過去ではなく、遠い過去にだよ」
◯1221滅びかけた世界:波音高校前(朝)
◯1208、◯1209、◯1211、◯1220と同日
荷台のある黒くて大きなピックアップトラック型の車が波音高校の前に止まっている
波音高校の校舎は古く、ボロボロになっている
車の荷台にはショッピングモールから盗んだ楽器、スポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、海で遊ぶ道具、スケートボードなど、色々な物が山のように積まれている
ナツ、スズ、老人が波音高校から出て来る
老人は肩にボルトアクションライフルをかけている
車に向かっているナツ、スズ、老人
スズ「遠足!!遠足!!遠足!!」
老人「遠足ではないぞ、スズ」
スズ「(驚いて)え、遠足じゃないの!?」
老人「ああ」
スズ「遠足だと思ってたのにー!!」
老人「スズ、遠足はたまにある学校行事なんだぞ」
スズ「そうなんだー・・・」
車の前で立ち止まるナツ、スズ、老人
老人「二人は後ろに乗るか?」
顔を見合わせるナツとスズ
スズ「(ナツと顔を見合わせたまま)どーする?なっちゃん」
ナツ「(スズと顔を見合わせたまま)どこでも良いよ」
スズ「(ナツと顔を見合わせるのをやめて)じゃー後ろ!!」
老人「了解だ」
老人はポケットから車の鍵を取り出し、ボタンを押して車の扉を開ける
運転席に乗り込む老人
ナツとスズは後部座席に乗り込む
老人は助手席にライフルを置く
車の電源を入れる老人
車は大きな音を立てて進み始める
◯1222早乙女家前(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219と同日
◯1213、◯1215、◯1216の続き
菜摘の家の前にいる鳴海
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
鳴海は嶺二から貰った紺色のマフラーと手袋をしている
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
菜摘の家のインターホンを押す鳴海
少しすると潤が家から出て来る
潤「朝からうるせえと思ったら義理の息子か・・・おはよう」
鳴海「お、おはよう」
潤「挨拶は済んだな、それじゃっ」
潤は扉を開けて家の中へ戻ろうとする
鳴海「お、おい!!な、菜摘を出してくれよ!!」
潤「(家の中へ戻ろうとしたまま)プロポーズならお断りだ」
鳴海「こ、断るな!!じゃなくて今日は文芸部で出かける用事があるんだよ!!」
潤「(家の中へ戻ろうとしたまま)待つということを知らんのかね最近の若者は。せっかちだと菜摘にフラれるぞ」
鳴海「お、俺がフラれたら菜摘を呼んでこなかったあんたのせき・・・」
潤「(家の中へ戻ろうとしたまま鳴海の話を遮って)菜摘は今化粧中だ。それからお前は約束した時間の20分も前にここへ来たことを自覚しろ」
少しの沈黙が流れる
腕時計を見る鳴海
潤「(家の中へ戻ろうとしたまま)俺は中に戻るぞ」
鳴海「(腕時計を見るのをやめて)さ、騒いですまん・・・」
潤「(家の中へ戻ろうとしたまま)忠犬ハチ公並みに静かに待ってなきゃぶっ飛ばすからな」
鳴海「わ、分かった」
潤は家の中へ戻る
再び沈黙が流れる
深くため息を吐き出す鳴海
◯1223社殿/稽古場(500年前/日替わり/早朝)
外は快晴
武士たちが刀、槍、薙刀の稽古をするための広い和室に一人いる奈緒衛
稽古場にはたくさんの木刀が壁にかけられている
奈緒衛「稽古の約束をしたというのに波音はおろか凛までいないとはな・・・(少し間を開けて)波音たちが遅いのか・・・俺が早かったのか・・・」
奈緒衛は壁にかけてあった木刀を一本手に取る
◯1224早乙女家前(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222と同日
◯1213、◯1215、◯1216、◯1222の続き
菜摘の家の前で菜摘が出て来るのを待っている鳴海
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
少しすると菜摘が家から出て来る
菜摘は鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
菜摘は嶺二から貰った白色のマフラーと手袋をしている
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
菜摘「待たせてごめん鳴海くん!!」
鳴海「い、いや・・俺が早く来過ぎたみたいだ・・・」
菜摘「遅刻するよりは良いと思うよ」
鳴海「そ、そうだな・・・」
鳴海と菜摘は歩き出す
菜摘「誰か遅れて来ると思う?」
鳴海「ああ。間違いなく嶺二が遅刻するぞ。俺の経験上だとあいつはまだ寝てるからな」
菜摘「えー!!電話で起こしてあげようよ!!」
鳴海「俺たちがそんなことをしなくても明日香が叩き起こしくれるはずだ」
菜摘「鳴海くん・・・明日香ちゃんに頼るのは私良くないと思う・・・」
鳴海「頼ってるんじゃなくて、勝手にあいつがやってくれるんだよ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「嶺二くん・・・寝坊してないと良いな・・・」
◯1225波音駅/ホーム(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224と同日
波音駅のホームにいる千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
ホームには学生、カップル、家族連れなどで溢れているが、文芸部員と軽音部員は誰も来ていない
千春の姿は誰にも見えていない
千春はホームで鳴海たちを探している
千春「(鳴海たちを探しながら 声 モノローグ)まだ嶺二さんたちは来ていませんか・・・」
鳴海たちを探すのを諦める千春
千春「(声 モノローグ)人間とは・・・よく遅刻する生き物なのです・・・とりわけありがちなのが、大切な約束事に限って寝坊することだと思います・・・」
◯1226滅びかけた世界:道路(朝)
◯1208、◯1209、◯1211、◯1220、◯1221と同日
ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている
ナツとスズは後部座席に乗って外を眺めている
老人は運転をしている
老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある
車の荷台にはショッピングモールから盗んだ楽器、スポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、海で遊ぶ道具、スケートボードなど、色々な物が山のように積まれている
建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている
道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる
車の音は静かになっている
ナツ「(外を眺めながら)ジジイ」
老人「(運転をしながら)どうかしたか」
ナツ「(外を眺めながら)あんたのこと・・・名前で呼んで良い?」
老人「(運転をしながら)何故だ?」
ナツ「(外を眺めながら)名前だから・・・それだけだよ。いつまでもジジイって呼ぶより名前の方がしっくり来ると思ったんだ」
少しの沈黙が流れる
スズ「(外を眺めるのをやめて)名前って大事だもんね〜・・・でも私はジジイって呼ぶのが良いなぁ〜」
再び沈黙が流れる
ナツ「(外を眺めながら)あんたが嫌がるなら私も名前じゃ呼ばない」
老人「(運転をしながら)好きにしろ。二人が呼びたいように呼べば良い」
スズ「じゃー春巻き!!」
老人「(運転をしながら)何故春巻きなんだ?好きなのか?」
スズ「ううん!!何となく最近春巻きが来てる!!」
老人「(運転をしながら)スズの中だと青春と春巻きが流行ってるんだな」
スズ「そーだよー!!」
車は古い商店街の中を通り始める
車が通っているのは波児商店街の中
波児商店街の中は薄暗い
波児商店街の中のお店はシャッターが降りているか、荒らされているかのどちらか
老人「(運転をしながら)昨日、ナツとスズに偽物の金を渡しただろう?」
ナツ「(外を眺めながら)うん」
老人「(運転をしながら)もう少ししたら、あの金が使われていた店の前を通る」
ナツ「(外を眺めながら)ゲームセンター?」
老人「(運転をしながら)そうだ」
ナツは外を眺めるのをやめてポケットからギャラクシーフィードのコインを取り出す
ギャラクシーフィードのコインの表面には”Game Center”と文字が彫られ、裏面には”Galaxy Field”と文字が彫られている
ギャラクシーフィールドのコインを見ているナツ
再びスズは外を眺める
スズ「(外を眺めながら)どこ〜?」
老人「(運転をしながら)もう少ししたら通るよ」
スズ「(外を眺めながら)まだ〜?」
老人「(運転をしながら)まだだ」
スズ「(外を眺めながら大きな声で)あっ!!!」
老人「(運転をしながら)何かあったのか?」
スズ「(外を眺めながら大きな声で)ポテチのゴミが落ちてた!!!なっちゃんも見たよね!?!?」
ナツ「(ギャラクシーフィールドのコインを見たまま)見てない」
スズ「(外を眺めながら)すっごい大きいゴミだったのに〜」
ナツはギャラクシーフィールドのコインをポケットをしまう
ナツ「ゲームセンターはまだなの?」
老人は運転をしながら正面左側を指差す
老人「(運転をしながら正面左側を指差して)あれがそうだ」
車はゲームセンターギャラクシーフィールドの目の前を通る
ナツとスズはギャラクシーフィールドを見る
ギャラクシーフィールドはシャッターが降りておらず、店内にあった旧式のゲーム機たちは全て破壊されている
ギャラクシーフィールドのほこりだらけの床に、かつて千春が配っていたビラらしき紙が落ちている
かつて千春が配っていたビラらしき紙は、ビリビリに引き裂かれている
ギャラクシーフィールドの看板は崩れ落ちており、ロシア語で落書きがされている
スズ「(通り過ぎながらギャラクシーフィールドを見て)ボロボロだね」
老人「(運転をしながらギャラクシーフィールドを指差すのをやめて)ああ」
ナツ「(通り過ぎながらギャラクシーフィールドを見て)鳴海の青春を過ごした店なの?」
老人「(運転をしながら)いや」
少しの沈黙が流れる
スズ「(外を眺めながら)昔はどんな感じのお店だったのかな〜・・・・」
再び沈黙が流れる
ナツ「(外を眺めながら 声 モノローグ)私は過去を知らない。だから知りたいと思うし、知らなければならないとも思う」
◯1227緋空浜(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224、◯1225と同日
◯1210、◯1212の続き
緋空浜の浜辺にいる制服姿の早季
浜辺に正座している早季
早季の目の前には将棋の盤が置いてある
早季の横には取った駒が置いてある
早季は一人将棋を行っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちている
浜辺には釣りやウォーキングしている人がいる
早季は一手打つたびに、将棋の盤をひっくり返す
ナツ「(声 モノローグ)貴志鳴海は誰よりも過去を知っている。でも彼は過去を語りたがらない。それどころか色々隠してる」
◯1228波音駅に向かう道中(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224、◯1225、◯1227と同日
◯1213、◯1215、◯1216、◯1222、◯1224の続き
波音駅に向かっている鳴海と菜摘
楽しそうに話をしている鳴海と菜摘
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘は鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海と菜摘は嶺二から貰ったマフラーと手袋をしている
鳴海は紺色の、菜摘は白色のマフラーと手袋をしている
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
ナツ「(声 モノローグ)きっと名前以外にも、まだ言ってない重要なことが鳴海の過去にはあるんだ。私とスズが未来を生き抜くためにも、鳴海の過去と、この世界の歴史を知らないといけない」
◯1229波音駅前(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224、◯1225、◯1227、◯1228と同日
◯1213、◯1215、◯1216、◯1222、◯1224、◯1228の続き
駅の時計は9時半前を指している
学生、カップル、家族連れなどで溢れている波音駅の前
波音駅の改札近くで鳴海たちが来るのを待っている汐莉、詩穂、真彩
汐莉、詩穂、真彩は嶺二から貰った白色のマフラーと手袋をしている
真彩はポテトチップスコンソメダブルパンチを食べている
汐莉「まあやん、博物館にポテチを持ち込んだら出禁になるよ」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)分かってるってば〜」
詩穂「博物館に入る前にまず電車・・・」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)そ、早急に食べ終えます!!」
少しの沈黙が流れる
真彩のポテトチップスコンソメダブルパンチを食べる速度は全く変わっていない
詩穂「全然早急じゃないじゃん」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)美味しいものは味わって食べたいし〜」
汐莉「先輩たちに何て言い訳するの?」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)いいわけ〜?」
汐莉「うん。だって絶対聞かれるよ、何でポテチ食ってんだって」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)ポテチが売られてたから〜」
詩穂「言い訳が言い訳になってない・・・」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)ポテチはいついかなる理由があっても食べて良い。それがこの世のルールだ!!」
詩穂「真彩のルールだね」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)時々思うんだよー、何で世界は私とポテチを中心に回ってないんだーって」
汐莉「世界の中心でポテチを叫ぶ」
詩穂「純愛小説のふりをした同人誌だ」
汐莉「それか作家の皮を被ったお菓子会社の回し者だね」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)私なら喜んでお菓子会社の回し者になるなー」
汐莉、詩穂、真彩が話をしていると鳴海と菜摘が汐莉たちのところへやって来る
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘は鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海と菜摘は嶺二から貰ったマフラーと手袋をしている
鳴海は紺色の、菜摘は白色のマフラーと手袋をしている
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
菜摘「おはよー!」
汐莉「おはようございます」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)おはようっす!!」
鳴海「奥野は俺たちのマブダチか」
真彩は口からポテトチップスコンソメダブルパンチを吹き出す
菜摘「(驚いて)うわっ」
詩穂「まあやー・・・ポテチのカスが飛んだんだけどー・・・」
笑っている真彩
真彩「(笑いながら)ご、ごめん・・・今の鳴海くんの静かなツッコミがツボにハマって・・・」
菜摘「鳴海くんのせいだよ」
鳴海「えっ?お、俺が悪いのか・・・?」
汐莉「鳴海先輩がまあやんを笑かしました。だから鳴海先輩の責任です」
鳴海「わ、笑かすつもりはなかったんだよ!!」
汐莉「結果的に笑かしたじゃないですか」
鳴海「ま、まあな・・・というか何で奥野はポテチを食べて・・・」
詩穂が白色の手袋を外し、真彩の口を手で押さえる
菜摘「し、詩穂ちゃん・・・何やってるの・・・?」
詩穂「(真彩の口を手で押さえながら)拡散防止です」
菜摘「そ、そうなんだ」
詩穂「(真彩の口を手で押さえながら)喋っても良いけど吹かないでね、汚いから」
真彩「(詩穂に口を押さえられながら)ンー!!!!」
詩穂「(真彩の口を手で押さえながら)分かった?」
真彩「(詩穂に口を押さえられながら)ン!!!!」
詩穂は真彩の口を押さえるのをやめる
真彩「危ねー・・・窒息するかと思ったー・・・」
鳴海「なんか既視感があるな・・・」
菜摘「既視感?」
鳴海「ああ」
再び真彩はポテトチップスコンソメダブルパンチを始める
鳴海「分かった、響紀が喋れなくなった時だ」
菜摘「ど、どういうこと?」
鳴海「あいつがうるさいから、俺の許可無しに喋るなって前に言ったんだよ」
菜摘「えっ・・・」
鳴海「仕方ないんだ菜摘。響紀は俺たち以上に余計なことを言い過ぎる」
菜摘「相手が誰であれ、発言権を許可制にするなんて最低だよ鳴海くん・・・」
汐莉「最低です鳴海先輩」
鳴海「ま、待ってくれ!!これには田沢湖よりも深い訳が・・・」
真彩はまたしても鳴海の言葉を聞いて口からポテトチップスコンソメダブルパンチを吹き出す
菜摘「(驚いて)か、拡散型ポテチ弾だ」
笑っている真彩
詩穂「(小声でボソッと)今のはそんなに面白くなかったって・・・」
真彩「(笑いながら)い、いやさっきよりも面白かったっしょ!!」
汐莉「先輩のせいですよ」
鳴海「す、すまん・・・何で俺が謝らなきゃいけないのか謎だがすまん・・・」
菜摘「鳴海くん、反省してね。ふざけてばっかりじゃダメなんだよ」
鳴海「あ、ああ・・・」
再び沈黙が流れる
真彩は笑いを堪えながらポテトチップスコンソメダブルパンチを食べ始める
汐莉「(指差して)あ、響紀と明日香先輩です」
汐莉が指差してる方を見る鳴海たち
汐莉が指差してる方には明日香と響紀がいる
菜摘は明日香と響紀に向かって手を振る
明日香と響紀のことを指差すのをやめる汐莉
菜摘「(明日香と響紀に手を振りながら)明日香ちゃーん!響紀ちゃーん!こっちだよー!!」
明日香と響紀は菜摘が手を振っていること気が付き、鳴海たちのところへやって来る
菜摘は手を振るのをやめる
明日香「ごめん遅れて!!」
菜摘「ううん、大丈夫だよ」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら少し笑って)お、おはようっす二人とも・・・」
鳴海「どうしてまだ奥野は笑ってるんだ・・・」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら少し笑って)ちょっとツボが・・・」
詩穂「口を押さえるよ」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)そ、それだけはご勘弁を!!」
鳴海「俺も笑かさないようにするから、奥野も笑わないようにしてくれ」
真彩「(ポテトチップスコンソメダブルパンチを食べながら)へ、へい!」
少しの沈黙が流れる
周囲を見る響紀
響紀「(周囲を見ながら)まだ来てないのは嶺二くんと雪音さんですか」
菜摘「うん」
鳴海「あいつら、駆け落ちでも・・・」
嶺二「(鳴海の話を遮って)するわけねーだろ」
驚いて鳴海、菜摘、明日香、汐莉、響紀、詩穂、真彩が後ろを見る
鳴海たちの後ろには嶺二と雪音が立っている
嶺二と雪音は鳴海たちと同じマフラーと手袋をしている
嶺二は紺色の、雪音は白色のマフラーと手袋をしている
嶺二と雪音のマフラーと手袋には、鳴海たちの物と同じく小さなペンと音符が刺繍されている
菜摘「お、おはよう嶺二くん!!雪音ちゃん!!」
嶺二「おう」
明日香「嶺二が寝坊しないなんて珍しい・・・」
雪音「私が朝の5時に電話をかけたから」
明日香「二度寝しなかったの?」
嶺二「したに決まってんだろーが!!」
響紀「ラブラブモーニングコールでも起きられなかったのにどうやってここまで辿り着いたのか不思議ですね。家にダイナマイトでも仕掛けましたか」
詩穂は再び真彩の口を手で押さえる
雪音「何で押さえてんの?」
詩穂「(真彩の口を手で押さえながら)こいつが吹かないようにしてるんです」
雪音「ふーん」
嶺二「つか聞いてくれお前ら。この女朝の5時に電話をかけてきたと思ったら、そこからまた10分おきに繰り返してかけてきたんだぞ」
雪音「嶺二、ちょっとくらい私に感謝してくれても良くない?」
嶺二「感謝なんかするか馬鹿!!俺の睡眠をぶっ壊し・・・」
鳴海「おい、喧嘩する前にさっさと電車に乗るぞ」
詩穂は真彩の口を押さえるのをやめる
真彩「じ、自分のポテチが終わるまで待って欲しいっす!!」
汐莉「早く食べなよまあやん」
真彩「そ、早急に!!あ、それからポテチを食べ終わったらトイレに手を・・・」
鳴海「(真彩の話を遮って)分かったから早く食え」
◯1230波音駅/ホーム(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224、◯1225、◯1227、◯1228、◯1229と同日
◯1213、◯1215、◯1216、◯1222、◯1224、◯1228、◯1229の続き
波音駅のホームにいる千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
ホームには学生、カップル、家族連れなどで溢れているが文芸部員と軽音部員は誰も来ていない
千春の姿は誰にも見えていない
千春「(声 モノローグ)嶺二さんたちは・・・いつ頃来るのでしょう・・・(少し間を開けて)人生とは・・・待っているだけでは始まらないのです。まあ私は、人じゃないので人生と言って・・・」
真彩「気分は遠足っすよ!!」
菜摘「そうだね!!」
鳴海「遊びに行くんじゃないんだぞ」
菜摘「はーい」
明日香「面接二日前にこんなことをしてて良いんだか・・・」
響紀「明日香ちゃんならいけるよ!!」
明日香「だと良いけどね・・・」
千春は自分の真横を見る
千春の真横には鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩がいる
鳴海たちには千春の姿が見えていない
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘は鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩はマフラーと手袋をしている
鳴海と嶺二は紺色の、菜摘、明日香、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩は白色のマフラーと手袋をしている
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
嶺二「文芸部と軽音部でやるイベントも残すは今回の社会科見学と合同朗読劇と卒業式だな」
明日香「卒業式は文芸部と軽音部が行う行事じゃないでしょ・・・」
嶺二「卒業式もほとんど俺らがやるイベントだろ!!」
汐莉「嶺二先輩、自惚れ過ぎです」
嶺二「う、自惚れてねーよ!!
鳴海「嶺二は自分が世界の中心だと思ってるからな」
詩穂「世界の中心で自惚れるだ」
雪音「頭おかしいくらい自信家だよね、嶺二って」
嶺二「てめえが言うな!!」
菜摘「でも自信があるのは良いことだよ、嶺二くん」
嶺二「や、優し過ぎるぜ菜摘ちゃん・・・」
菜摘「そうかな?」
鳴海「菜摘、こいつに優しくしても馬鹿だから無意味だぞ」
嶺二「な、何てひどいことを・・・」
鳴海たちは嶺二をいじりながら楽しそうに話をしている
千春「(声 モノローグ)これを私の運命と呼ぶのでしょうか?」
◯1231緋空浜(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224、◯1225、◯1227、◯1228、◯1229、 ◯1230と同日
◯1210、◯1212、◯1227の続き
緋空浜の浜辺にいる制服姿の早季
浜辺に正座している早季
早季の目の前には将棋の盤が置いてある
早季の横には取った駒が置いてある
早季は一人将棋を行っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちている
浜辺には釣りやウォーキングしている人がいる
早季は一手打つたびに、将棋の盤をひっくり返す
早季「(駒を進めながら 声 モノローグ)大概の人間・・・大人は自分の運命を認めようとしません・・・納得しないんです・・・(少し間を開けて)人類の中には・・・失敗するために生まれてきた人がいます・・・」
将棋の盤をひっくり返す早季
早季「(駒を進めながら 声 モノローグ)失敗は、本人からすれば不幸なことですが、失敗例を世に残したという意味では、その役割を全うした言えるでしょう・・・他人の失敗がなければ、他人の不幸がなければ、人類はこれほど進化出来ていませんでした・・・」
早季は将棋の盤をひっくり返す
早季「(駒を進めながら 声 モノローグ)そんな人間たちが今、地球を失敗へ歩ませています・・・子供たちに未来のない世界を作って、地球を滅ぼそうとしています・・・何故人間はそのことに気づかないんですか・・・気づいても行動する能力がないんですか・・・」
将棋の盤をひっくり返す早季
早季「(駒を進めながら 声 モノローグ)人間は怠惰で臆病な生物です。知識を得て、力を蓄えたとしても、それは飾りに過ぎません」
◯1232社殿/稽古場(500年前/早朝)
◯1223と同日
武士たちが刀、槍、薙刀の稽古をするための広い和室で一人木刀を素振りしている奈緒衛
稽古場にはたくさんの木刀が壁にかけられている
早季「(声 モノローグ)。知識にしても、力にしても、手にした分だけ失うのが人の運命です・・・」
少しすると稽古場のふすまが開き、凛が稽古場へ入って来る
凛「おはようございます、奈緒衛様」
正座をする凛
木刀の素振りをやめる奈緒衛
奈緒衛「遅かったな、凛」
凛「(頭を下げて)申し訳ございませぬ、今朝は馬の世話に手間を要してしまいました」
奈緒衛「そうだったのか。それなら仕方がない」
凛は頭を上げる
奈緒衛「波音がまだ来ないんだが、あいつは一体何をしているのだ?」
凛「波音様はお部屋で明後日の戦に備えて戦法を確認されていましたが、もうすぐお見えになるかと」
奈緒衛「分かるのか?」
凛「はい」
奈緒衛「相変わらず凛の予知は凄いな」
凛「いいえ奈緒衛様、今のは予知ではございませぬ」
奈緒衛「では何故波音が来ると分かるんだ?」
凛「勘でございます。波音様は奈緒衛様と過ごす時を最も大切にしておりますゆえに、必ず稽古場にいらっしゃるはずです」
奈緒衛「では凛の勘とやらを信じて待つか・・・」
凛「ありがとうございます、奈緒衛様」
奈緒衛「お前の申すことは大抵正しいからな。むしろ信じない方が間違っているよ」
凛「私めの予知もそこまでの確実性は・・・」
奈緒衛「凛、俺たちはお前を信じて勝利を得てきたんだぞ」
凛「しかし・・・」
少しの沈黙が流れる
奈緒衛「先の上杉軍との戦、我らの方が圧倒的に有利なんだろ?」
凛「はい」
奈緒衛「なら心配することはないな」
凛「し、失礼ながら奈緒衛様・・・」
奈緒衛「大丈夫だよ凛、俺も油断はしないさ」
凛「左様でございますか・・・」
奈緒衛「ああ」
再び奈緒衛は木刀の素振りを始める
奈緒衛「(木刀を素振りしながら)凛の予知も、凛の警告も、お陰でとても役に立ってるな」
凛「(笑いながら)私めは波音様と奈緒衛様にお仕えするのが務めですゆえ、役に立たぬようでは首を落とされてしまいます」
奈緒衛「(木刀を素振りしながら)恐ろしい冗談を言わないでくれよ・・・」
◯1233滅びかけた世界:波児商店街(午前中)
◯1208、◯1209、◯1211、◯1220、◯1221、◯1226と同日
ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている
ナツとスズは後部座席に乗って外を眺めている
老人は運転をしている
老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある
車の荷台にはショッピングモールから盗んだ楽器、スポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、海で遊ぶ道具、スケートボードなど、色々な物が山のように積まれている
道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる
車は波児商店街の中を通っている
波児商店街の中は薄暗い
波児商店街の中のお店はシャッターが降りているか、荒らされているかのどちらか
話をしているナツ、スズ、老人
スズ「(外を眺めながら)ここにたくさんの人がいたって思えないよ〜」
老人「(運転をしながら)今となっては俺もスズと同じ気持ちだ」
スズ「(外を眺めながら)みんな何して生きてたのかな〜」
老人「(運転をしながら)大人は愛する人のために働いて、子供は仲間と遊んで生きていたのさ」
ナツ「(外を眺めながら)戦争は?」
少しの沈黙が流れる
老人「(運転をしながら)戦争は戦争だ。殺されて殺す、殺して殺される。単純にそれだけだ」
再び沈黙が流れる
ナツは外を眺めるのをやめる
ナツ「人を殺したことがあるの・・・?」
少しの沈黙が流れる
老人「ある」
スズ「(外を眺めながら)戦争だもんね、殺さないと殺されちゃうもんね」
ナツ「でも殺したら終わらない・・・どちらかが全滅するまで・・・」
老人「(運転をしながら)そうだな。だから一度始まった戦争は、死ぬまで終わらないんだ。戦いに参加していなくても、頭の中じゃ銃声と仲間の叫び声が響き渡っている。腹から飛び出た腸の匂いは、こびりついたまままだ取れていない。(少し間を開けて)戦争に参加したら何から何までおかしくなるんだ。肉体、精神、五感、思考、全てが壊れたよ」
スズ「(外を眺めるのをやめて)壊れちゃったなら私たちと一緒に直そー!!」
少しすると車は波児商店街を抜け、外の道に出る
外の建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている
老人「(運転をしながら)気持ちは嬉しいが、もう手遅れだ」
スズ「諦めちゃうのはいけないよ〜」
老人「(運転をしながら)普通は、諦めない方が良いかもしれないな」
スズ「ジジイはふつーじゃないってことー?」
老人「(運転をしながら)ああ」
再び沈黙が流れる
ナツ「(外を眺めるのをやめて)私はあんたの過去にあった出来事を知りたい」
老人「(運転をしながら)そんなことを知ってどうするんだ」
ナツ「覚える。覚えて・・・鳴海の不幸と苦しみ、絶望、悔しい想いを記憶に残して生きていく」
スズ「おお〜、なっちゃん格好良い〜」
ナツ「スズも覚えるんだよ」
スズ「え、私も・・・?」
ナツ「うん」
スズ「馬鹿でも覚えられるかなー・・・」
老人「(運転をしながら)スズは賢いさ」
スズ「ほんと〜?」
老人「(運転をしながら)間違いない」
スズ「やったー!!」
ナツは再び外を眺める
ナツ「(外を眺めながら 声 モノローグ)私は未来を知らない。希望のない世界での未来は想像もしたくない」
◯1234電車内(午前中)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224、◯1225、◯1227、◯1228、◯1229、 ◯1230、◯1231と同日
◯1213、◯1215、◯1216、◯1222、◯1224、◯1228、◯1229、◯1230の続き
電車に乗っている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春、雪音、響紀、詩穂、真彩
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘は鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩はマフラーと手袋をしている
鳴海と嶺二は紺色の、菜摘、明日香、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩は白色のマフラーと手袋をしている
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春の姿は誰にも見えていない
電車には鳴海たちの他に学生、カップル、家族連れなどが乗っている
千春以外は楽しそうに話をしている
ナツ「(声 モノローグ)過去は想像せずに、人から分けてもらうことが出来る。人から譲り受けたものを人は大切にし、歴史を作ってきた。過去の想いが人類を生き長らえさせたんだ」
電車は南波音駅に止まる
電車の扉が開く
鳴海たちは南波音駅で電車から降りる
鳴海たち以外にも数人の客が南波音駅で降車する
改札に向かって歩いている鳴海たち
ナツ「(声 モノローグ)家族、友人、仲間、あの子のために、あいつのために、そんな想いが生まれるのは過去の経験からでしかない。だから大人は子供に教えるし、大人になった子供は過去に聞いたことや経験したことを、死ぬまで下の代へ伝える。(少し間を開けて)この滅びかけた世界にはそういう秩序が存在していない」
改札を通って駅から出る鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
千春は改札横の窓口を通って駅から出る
ナツ「(声 モノローグ)世界が滅びかけえている前提だなんて・・・」
◯1235滅びかけた世界:道路(午前中)
◯1208、◯1209、◯1211、◯1220、◯1221、◯1226、◯1233と同日
ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている
ナツとスズは後部座席に乗って外を眺めている
老人は運転をしている
老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある
車の荷台にはショッピングモールから盗んだ楽器、スポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、海で遊ぶ道具、スケートボードなど、色々な物が山のように積まれている
建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている
道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる
ナツ「(外を眺めるのをやめて 声 モノローグ)私たちは最後の人類になるかもしれない・・・(少し間を開けて)人類の未来を・・・私たちに・・・託すの・・・?まだ子供の私とスズに・・・?」
ナツの体は震えている
ナツ「(体を震わせながら 声 モノローグ)嫌だ・・・そんなことは考えたくない・・・」
◯1236緋空浜(朝)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224、◯1225、◯1227、◯1228、◯1229、 ◯1230、◯1231、◯1234と同日
◯1210、◯1212、◯1227、◯1231の続き
緋空浜の浜辺にいる制服姿の早季
浜辺に正座している早季
早季の目の前には将棋の盤が置いてある
早季の横には取った駒が置いてある
早季は一人将棋を行っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちている
浜辺には釣りやウォーキングしている人がいる
早季は一手打つたびに、将棋の盤をひっくり返す
ナツ「(声 モノローグ)怖くてたまらない・・・これから私たちの人生に何が訪れるんだろう・・・」
◯1237社殿/稽古場(500年前/朝)
◯1223、◯1232と同日
武士たちが刀、槍、薙刀の稽古をするための広い和室にいる奈緒衛と凛
木刀を素振りしている奈緒衛
凛は正座して奈緒衛の稽古の様子を見ている
稽古場にはたくさんの木刀が壁にかけられている
ナツ「(声 モノローグ)人が死ぬのを見たくない・・・」
◯1238波音博物館に向かう道中(午前中)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224、◯1225、◯1227、◯1228、◯1229、 ◯1230、◯1231、◯1234、◯1236と同日
◯1213、◯1215、◯1216、◯1222、◯1224、◯1228、◯1229、◯1230、◯1234の続き
波音博物館に向かっている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春、雪音、響紀、詩穂、真彩
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘は鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩はマフラーと手袋をしている
鳴海と嶺二は紺色の、菜摘、明日香、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩は白色のマフラーと手袋をしている
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春の姿は誰にも見えていない
千春以外は楽しそうに話をしている
ナツ「(声 モノローグ)助けて・・・誰か助けて・・・過去を知るから・・・過去を学ぶから・・・過去を受け入れるから・・・もう二度と失敗しないから・・・誰か私たちを助けて・・・私たちに未来をください・・・貴志鳴海が死んで老人になったのと同じことを私たちにはしないでください・・・こんな現実を運命にして突き付けないでください・・・」
◯1239滅びかけた世界:道路(午前中)
◯1208、◯1209、◯1211、◯1220、◯1221、◯1226、◯1233、◯1235と同日
ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている
ナツとスズは後部座席に乗っている
ナツの体が震えている
スズは外を眺めている
老人は運転をしている
老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある
車の荷台にはショッピングモールから盗んだ楽器、スポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、海で遊ぶ道具、スケートボードなど、色々な物が山のように積まれている
建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている
道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる
車のバックミラー越しにナツが震えていることに気づく老人
老人「(運転をしながらバックミラー越しにナツのことを見て)ナツ?大丈夫か?」
ナツ「う、うん」
スズは外を眺めるのをやめる
ナツが震えていることに気づくスズ
スズ「なっちゃん?震えてるよ」
ナツ「は、早く車から降りたい・・・」
スズ「ジジイ!!車止めて!!」
老人は車をゆっくり止める
ナツは急いで車から降りる
ナツは過呼吸になっている
その場にしゃがみ込むナツ
スズと老人も車から降りる
スズ「なっちゃん!!ど、どーしたの!?」
ナツ「(過呼吸になりながら)わ、分かんない・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
スズ「どーしようジジイ!!なっちゃんが病気だよ!!」
老人「騒ぐなスズ、お前が焦ればナツの呼吸も早くなる」
スズ「で、でも!!」
老人はナツと同じようにしゃがみ込む
老人「ナツ、どうしたんだ?」
ナツ「(過呼吸になりながら)ハァ・・・ハァ・・・分かんないよ・・・きゅ、急に全部が怖くなって・・・息が・・・」
スズはナツと老人のことを心配そうに交互に見ている
老人「目を閉じろ、ナツ」
ナツ「(過呼吸になりながら)ハァ・・・ハァ・・・な、何で・・・目を瞑ったら真っ暗になるのに・・・」
老人「良いから目を閉じるんだ」
ナツは過呼吸になったまま目を瞑る
老人「良いぞ、目を閉じたまま俺の話に耳を傾けてくれ」
老人はナツの手を取り、握る
老人「(ナツの手を握ったまま)この町には奇跡を起こせる人々が住んでいた・・・彼らは奇跡の力を持っていたんだ」
ナツ「(目を瞑り老人に手を握られたまま)き、奇跡の力・・・?」
老人「(ナツの手を握ったまま)ああ。強大で美しく・・・誰もが羨むような残酷な力だが・・・確実に存在していた」
ナツ「(目を瞑り老人に手を握られたまま)ほ、本当に・・・?」
老人「(ナツの手を握ったまま)本当さ。俺はこの目で奇跡の力を見てきたんだ。(少し間を開けて)波音町には彼らの魂が眠っている。ナツ、君は一人ではない。波音町に暮らしていた全ての人々がナツたちと共にあるんだ。彼らは今も君たちのことを見守ってくれてるんだよ。俺の大切な人たちもナツの側にいる、みんな、ナツの味方なんだ」
少しの沈黙が流れる
ナツ「(目を瞑り老人に手を握られたまま)奇跡の力を持つ人はどこにいるの・・・?」
老人「(ナツの手を握ったまま)君の側に・・・忘れないでくれ、ナツとスズには奇跡がついてるということ・・・」
ナツは目を開ける
ナツの過呼吸は収まっている
ナツ「(老人に手を握られたまま)分からないよ・・・あなたが孤独を感じてるのは確かだけど・・・鳴海には見守ってくれてる人がいないの・・・?」
老人「(ナツの手を握ったまま)ナツ、俺は罪を犯し過ぎたんだ。たくさんの人を傷つけてしまった。だからもう許されないんだよ」
ナツ「何をしたのか教えて・・・」
老人はナツの手を離し俯く
老人「(俯いたまま)君たちには聞かせたくない」
スズ「ジジイが教えてくれたら・・・私となっちゃんも何か出来るかも・・・」
老人「(俯いたまま)だと良いがな・・・」
顔を上げ立ち上がる老人
老人「立てるか?ナツ」
ナツ「うん・・・」
ナツは立ち上がる
スズ「よ、良くなったの?なっちゃん」
ナツ「分かんない・・・」
ナツは周囲を見る
ナツ、スズ、老人の近くには廃駅と化した南波音駅がある
電車の線路には雑草が生え、駅のホームには至るところに植物のツタが巻き付いている
ナツ「(周囲を見ながら)ここは・・・」
老人「南波音駅だ」
ナツ「(周囲を見ながら)目的地はどこなの・・・?」
老人「すぐそこだよ、ここから歩いて行ける距離にあるが・・・どうする?」
ナツ「(周囲を見るのをやめて)だったら行こう・・・」
スズ「(心配そうに)なっちゃん、大丈夫?」
ナツ「うん、もう大丈夫だと思う・・・」
老人は車からライフルを手に取り、車の鍵を抜く
車の扉を閉める老人
老人はライフを肩にかける
老人「行こうか」
老人は歩き出す
老人について行くナツとスズ
ナツ、スズ、老人が歩いている場所は◯1238の鳴海たちが歩いていた場所と完全に同じ
◯1240波音博物館前(午前中)
◯1210、◯1212、◯1213、◯1215、◯1216、◯1217、◯1219、◯1222、◯1224、◯1225、◯1227、◯1228、◯1229、 ◯1230、◯1231、◯1234、◯1236、◯1238と同日
◯1213、◯1215、◯1216、◯1222、◯1224、◯1228、◯1229、◯1230、◯1234、◯1238の続き
波音博物館に辿り着いた鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春、雪音、響紀、詩穂、真彩
波音博物館は広く大きい
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘は鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩はマフラーと手袋をしている
鳴海と嶺二は紺色の、菜摘、明日香、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩は白色のマフラーと手袋をしている
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春の姿は誰にも見えていない
鳴海たちは波音博物館の前で立ち止まっている
波音博物館の建物には”波音博物館”と書かれたプレートが貼られている
鳴海「(波音博物館のことを見ながら)ここか・・・波音博物館って・・・」
菜摘「(波音博物館のことを見ながら)うん・・・」
少しの沈黙が流れる
明日香「突っ立ってないで入りましょ」
菜摘「(波音博物館のことを見ながら)そうだね」
鳴海たちは波音博物館の扉に向かって歩き出す
◯1241滅びかけた世界:道路(午前中)
◯1208、◯1209、◯1211、◯1220、◯1221、◯1226、◯1233、◯1235、◯1239と同日
歩いているナツ、スズ、老人
老人が先頭を歩き、その後ろをナツとスズがついて行っている
老人は肩にライフルをかけている
建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている
道路はガタガタになっている
スズ「ジジイは行ったことある場所なの?」
老人「ああ。だが何十年も前だ」
スズ「そっかー・・・変わってないと良いねー・・・」
老人「多少の変化は甘んじて受け入れるよ」
少しの沈黙が流れる
ナツ「鳴海」
老人「何だ」
ナツ「さっきの話・・・本当・・・?」
老人「本当だと言っただろう」
ナツ「じゃ、じゃあ・・・・奇跡を起こせる人は・・・今もいる・・・?」
老人「いるさ」
スズ「ジジイの嘘じゃなくて・・・?」
老人「俺は昔から嘘をつくのが苦手でな・・・嘘をついてるってことがすぐにバレるんだ。(少し間を開けて)君たちには、俺が嘘をついていればすぐに分かるだろう」
ナツ「い、今嘘をついてるかもしれないじゃん!!」
老人「俺はそこまで器用な人間ではない」
再び沈黙が流れる
老人「初めは俺も信じていなかった・・・奇跡なんて馬鹿げた都市伝説だと思っていたよ・・・だが実際は違う。確かに現実には奇跡が存在しているんだ」
スズ「奇跡が存在してるのに、世界は滅びかけちゃったの・・・?」
老人「ああ。奇跡は意地悪だよ。絶対に俺たちのことを味方をするとは限らないからな」
ナツ「どうしてそんなものを奇跡と呼ぶんだ・・・」
老人「奇跡は人を傷つけることもあるが・・・人を救うことも出来る」
ナツ、スズ、老人は廃墟と化した波音博物館に辿り着く
老人は波音博物館の前で立ち止まる
老人に合わせてナツとスズも立ち止まる
波音博物館は広く大きい
波音博物館は建物に傷がたくさん出来ており、壁にはロシア語で落書きがされている
波音博物館の建物に貼られてある”波音博物館”と書かれたプレートが剥がれかかっている
波音博物館の扉は壊れかけている
ナツ、スズ、老人がいる場所は、◯1240の鳴海たちがいた場所と完全に同じ
少しの沈黙が流れる
老人「ここが今日の目的地だ」
ナツ「波音・・・博物館・・・?」
スズ「博物館って何?ジジイ」
老人「昔の物が置いてある場所だな」
スズ「ほーほー。昔の物で過去を感じるんだね!!」
老人「そういうことだ、スズ」
老人は波音博物館の壊れかけた扉に向かって歩き出す
ナツとスズは老人について行く