Chapter3 √鳴海(文芸部+風夏)×√嶺二(文芸部-千春)-夏鈴ト老人=過ぎた千の春、ナミネを想う 前編
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter3 √鳴海(文芸部+風夏)×√嶺二(文芸部-千春)-夏鈴ト老人=過ぎた千の春、ナミネを想う
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家、滅びかけた世界で“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。ナツと一緒に“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。ボロボロの軍服のような服を着ている。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、学校をサボりがち。運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、鳴海と同じように学校をサボりダラダラしながら日々を過ごす。不真面目だが良い奴、文芸部部員。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。
柊木 千春女子
消えてしまった少女、嶺二の想い人。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。魔女っ子少女団メインボーカル。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。天文学部部長。不治の病に侵された姉、智秋がいる。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
安西先生 55歳女子
家庭科の先生兼軽音部の顧問、少し太っている
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。怒った時の怖さとうざさは異常。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ智秋の病気を治すために医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
高校を卒業をしてからしばらくして病気を発症、原因は不明。現在は入院中。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由香里
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった
Chapter3 √鳴海(文芸部+風夏)×√嶺二(文芸部-千春)-夏鈴ト老人=過ぎた千の春、ナミネを想う 前編
◯277 滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(日替わり/朝)
雨が止み久しぶりに晴れている
教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある
椅子や机、教室全体に溜まりまくった小さなゴミ
教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている
ナツとスズは互いにもたれながら眠っている
包帯を巻いているため両目とも見えないスズ
ナツの横には20Years Diaryが置いてある
教室の反対の方でナツとスズのことを見ている一人の老人がいる
老人はボロボロの軍服のような服を着ている
老人は大きな銃を抱えている
時間経過
目が覚めるスズ
ナツはまだ寝ている
もぞもぞと動くスズ
老人は安全装置を外しスズに向かって銃を構える
スズ「なっちゃん、もう包帯取るよ〜」
包帯を取り始めるスズ
スズ「(包帯を取りながら)珍しくなっちゃんの方が寝てるのかな?この隙にご飯を探しに行こ」
完全に包帯を取り終えたスズ
包帯をポイ捨てするスズ
老人がいることに気づかず、外を見始めるスズ
スズ「(外を見ながら)おお〜、雨止んでる〜!目が見えるっていうのは素晴らしいことだなぁ」
スズは外を見るのをやめ、二体の遺体を見る
スズ「(二体の遺体を見ながら)二体の骸骨・・・なっちゃんの言ってた通りだ」
スズはしゃがみ遺体に向かって手を合わせる
スズ「お化けになりませんように(少し間を開けて立ち上がり)探検だっ!!」
スズは向きを変え教室の扉の方に足を向ける
スズ「ラーメンっ!カレーっ!ごはんっ!なっとうっ!?!?」
初めて老人の存在に気づくスズ
老人と目が合うスズ
ナツは眠っている
老人「(銃をスズに向けながら)ラーメンとカレーとご飯と納豆がどうした?」
スズ「(驚き)ひ、ひ、人!?」
老人「(銃をスズに向けながら)ここで何をしてる?」
スズ「(焦って)こ、ここにいます!」
老人「(銃をスズに向けながら)見りゃ分かる、ここで何をしてるんだ?」
スズ「(焦りながら)こ、ここで生きてます!」
老人「(銃をスズに向けながら)お前は会話が出来ないのか、俺は何をして生きてるのかと聞いてるんだ」
スズ「(考えて)ご飯食べたり・・・ご飯食べたり・・・(少し間を開けて)ご飯食べたり?」
老人「(銃をスズに向けながら)飯食うだけの生活か」
スズ「あと寝てる」
老人「(銃をスズに向けながら)今からどこに行くつもりだったんだ?」
スズ「ご飯を探しに行こうかなぁと」
老人「(銃をスズにに向けながら)腹、減ってるのか」
首を何度も縦に振るスズ
安全装置を戻す老人
老人「(銃を向けるのをやめて立ち上がり)ついて来い」
スズ「(ナツの体を揺さぶり)なっちゃん!なっちゃん!!起きてよ!!人がいるよ!!」
ナツ「(スズの手をどかして)寝かせて・・・」
スズ「(ナツの体を揺さぶり)起きてってば!!」
ナツ「(ナツの手をどかして)スズうるさい・・・」
老人「放っておけ、どうせしばらく眠っているだろう。腹が減ってるなら来い」
スズは背中に隠し持っていた小さな銃を老人に向ける
老人「(スズの銃を見て)良い警戒心だ。でも安全装置を外さなきゃ意味ないぞ」
スズは慌てて安全装置を外し銃を構え直す
老人「来い、食料を分けてやろう」
老人はスズに背中を向け教室を出る
スズ「(銃を老人に向けながら)おい!待て!」
スズを安全装置を戻し銃をしまう
それから老人を追いかける
ナツは眠っている
◯278帰路(日替わり/放課後/夕方)
駅に向かって歩いている一条雪音と双葉篤志
駅に向かって歩いているサラリーマンや学生がちらほらいる
双葉「言ってる意味が分からない」
雪音「だから・・・天文部を辞めるの」
双葉「どうして?」
雪音「言ったでしょ、文芸部に入りたいから」
双葉「なら俺も天文部を辞めて文芸部に入る」
雪音「双葉は天文部を続けて、後輩たちは私より双葉のことを慕ってるよ」
双葉「なんで文芸部に・・・天文部を続けてくれ」
雪音「文芸部はね・・・三年生でも引退しなくていいんだって」
双葉「そんなことが理由で雪音が今まで続けてた天文部を投げ出すわけない。どうして天文部をやめて、文芸部に入りたいのか・・・本当のことを教えてくれ」
雪音「学園祭の初日・・・私がお姉ちゃんを連れて来たのを覚えてる?」
双葉「覚えてるよ」
雪音「学園祭が終わった後、病院で文芸部の子たちと会ったんだ」
双葉「学園祭が終わった頃のことは曖昧な記憶じゃないのか」
雪音「曖昧なことも多いよ、でも確かに会った。彼らは・・・何か・・・不思議な力があるんだと思う」
双葉「不思議な力って?」
雪音「多分・・・奇跡に関係する何か・・・」
双葉「雪音の言ってることがどういう意味なのか・・・俺には分からない」
少しの沈黙が流れる
雪音「お姉ちゃんの容体が悪くなってる、この夏を越えられるか分からないって先生が言ってた」
双葉「雪音はお姉さんの側にいるべきだ」
雪音「嫌だよ・・・だって、私と一緒に居てもお姉ちゃんはどんどん弱っていくんだよ。弱っていく姿を見るなんて辛過ぎる」
双葉「だからって文芸部に入るなんて変だろ、天文部を続ければいい」
雪音「双葉、これは可能性の話だよ。天文部にいるより文芸部の方がお姉ちゃんが助かる確率は高いと思う」
双葉「何を根拠にそんなことを・・・」
雪音「直感かな・・・早乙女さんが言ってた、今の私たちには奇跡が味方してるって」
双葉「雪音、君は間違ってる」
雪音「信じたくなったんだよねー、早乙女さんの言葉を・・・(少し間を開けて)ずっと待ってるけどドナーは見つからない、こればっかりは運だって先生が言ってた」
双葉「奇跡を信じるしかない・・・って言いたいの?」
雪音「それしか・・・ないんだよ。奇跡を起こせるかもしれない人たちに、頼るしか・・・」
足を止める双葉
双葉「雪音・・・!」
雪音「何?」
その場に止まり振り返る雪音
双葉「俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ!!!」
雪音「(微笑みながら)ありがとう、でも・・・双葉に出来ることは何もないよ」
雪音は歩き始める
双葉は何も言い返せずその場に立ち尽くす
◯279滅びかけた世界:波音高校廊下(昼)
廊下には生活用品のゴミ、遺体の骨、かつて授業で使われていた道具など様々な物が散乱している
廊下を歩いているスズと老人
老人「昨日、放送したのはお前か?それとももう一人か?」
スズ「もう一人、寝てる方」
老人「姉妹なのか?」
スズ「違う、友達」
老人「姉妹に見えたが・・・」
スズ「あんたは放送を聞いたの?」
老人「聞いたさ」
スズ「どこで?」
老人「体育館、マットを布団にして寝泊りしてる」
スズ「昨日放送したのに・・・来たのは今日・・・」
老人「教室全部を一つ一つ確認したんだ、時間もかかる」
スズは老人の肩を指で突っつく
スズ「触れる!!!」
老人「人だから当たり前だ」
スズ「謎だ・・・!謎過ぎる!!!」
老人「何が謎なんだ?」
スズ「だって人だよ!!だって人が人と会ってるんだよ!!凄いことだよ!!!」
老人「そうだな」
スズ「もしかして・・・」
少しの沈黙が流れる
スズ「お化け!?」
老人「お化けに見えるのか?」
スズ「見えないことはない!」
老人「残念ながらお化けじゃない、まだ生きてる」
スズ「お化けじゃないなら何者?」
老人「ただのジジイだよ」
スズ「ただのジジイかぁ〜、ジジイはどこから来たの?」
老人「遠い外国からさ」
スズ「がいこくっ!?外国ってどんなところ!?」
老人「今はどこの国もここと同じ状況だろう」
スズ「この町にはジジイ以外にも人がいる?」
老人「いないだろうな、俺が人と会うのも久しぶりだ」
スズ「この町の人たちはみんなどこ行っちゃったのかなぁ〜」
老人「みんな死者の国にいる」
◯280貴志家リビング(日替わり/朝)
制服姿で椅子に座ってテレビを見ている鳴海
時刻は七時半過ぎ
字幕「学園祭から十日後・・・」
ニュースキャスター2「米大統領選挙は今年の十一月に開催予定で、メナス議員以外の候補も各地で演説を行うなど選挙運動を開始しています」
テレビを消す鳴海
鳴海「(声 モノローグ)柊木千春が消えてから十日が経とうとしていた」
カバンを持ちリビングの電気を消して家を出る鳴海
◯281通学路(朝)
会社に向かう社会人、学校に向かう学生などが多い
鳴海は波音高校を目指してゆっくり歩いている
鳴海を追い抜いて行く学生たち
鳴海「(声 モノローグ)ゲームセンターのチラシを配っていたあの不思議な少女に関係していることは人々の記憶から消えていた。千春のことを覚えているのは文芸部のメンバーと菜摘の両親だけ・・・嶺二以外は病院で起きたことも少しずつ忘れていった」
◯282波音高校三年三組の教室(朝)
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来ていない
どんどん教室に入ってくる生徒たち
教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
鳴海は机に突っ伏している
明日香は女生徒たちと喋っている
菜摘と嶺二はまだ来ていない
鳴海「(声 モノローグ)みんな記憶が曖昧になっているんだろうか・・・奇妙なことに生徒たちは悪霊のことなんかとうに忘れているようだった。学園祭の話題も出なくなり、いつも通りの学校生活が戻ってきた」
菜摘が教室に入ってくる
菜摘は自分の席にカバンを置き、鳴海のところにやってくる
菜摘「鳴海くん、おはよう!」
鳴海「(机に突っ伏したまま)うっす」
菜摘「部誌書けた?」
鳴海「(机に突っ伏したまま)まだ書けてねえわ・・・菜摘は?」
菜摘「私は出来たよ!」
鳴海「(机に突っ伏したまま)マジか・・・早いな菜摘は・・・」
菜摘「良いアイデアが思いつかないの?」
鳴海「(机に突っ伏したまま)それもそうだし・・・なんか集中出来ねえんだよなぁ・・・」
嶺二が教室に入ってくる
嶺二はやる気なさそうに自分の席にカバンを置き捨て、鳴海たちのところにやってくる
嶺二「おは、二人とも部誌書けた?」
菜摘「私は書けたけど、鳴海くんはまだ・・・」
鳴海「(机に突っ伏したまま)嶺二は?」
嶺二「何一つ物語が生まれ出てこんな、スランプに陥った」
鳴海「(机に突っ伏したまま)あーこれがスランプってやつなのか・・・」
菜摘「小説じゃなくて随筆や詩にしてみるのはどう?」
嶺二「感想文だったら楽だよなぁ」
鳴海「(机に突っ伏したまま)感想文を書くためになんか読むのがめんどいけどな」
菜摘「うーん・・・一から作るよりは楽だと思うけど・・・」
嶺二「菜摘ちゃんの作品の感想文を書くってのはどうよ」
鳴海「(机に突っ伏したまま)それは菜摘のためにもなるし、俺たちも部誌が書けるしウィンウィンだな」
菜摘「えぇ・・・私の作品で書くの?」
嶺二「頼むよ!!それが理想だよな鳴海!」
鳴海「(机に突っ伏したまま)そうだな。菜摘、前言ってただろ?人の感想も大事だって」
菜摘「大事だけどさ・・・(ため息を吐く)じゃあ今月だけそれでいいよ」
嶺二「よっしゃあ!!サンキュー菜摘ちゃん!!」
神谷が教室に入ってくる
神谷は教室の扉付近で鳴海を呼ぶ
神谷「(手招きして)鳴海!ちょっと来なさい!」
嶺二「鳴海何やらかしたんだ?」
鳴海「(体を起こして)何もしとらん」
菜摘「千春ちゃんのことじゃないよね・・・?」
鳴海「(立ち上がり)今更千春のことじゃないだろ、(小声で)神谷は千春のことを覚えてないんだし・・・」
神谷のところに行く鳴海
手を出す神谷
鳴海「何すかその手」
神谷「(手を出しながら)個人面談の紙」
鳴海「まだっす」
神谷「お姉ちゃんと連絡とったか?」
鳴海と神谷のことを見ている菜摘と嶺二
首を横に振る鳴海
手を引っ込める神谷
神谷「このクラスの個人面談は鳴海待ちだ。お姉ちゃんに連絡しなさい」
鳴海「いつですか?」
神谷「今すぐ、電話しなさい」
鳴海「仕事中なんすけど」
神谷「出なかったら俺が職場に電話する」
鳴海はポケットからスマホを取り出し風夏に電話をかける
菜摘「誰に電話してるのかな?」
嶺二「鳴海が電話する相手は限られてる、こういう時は多分姉貴だな」
◯283◯245の回想/貴志家リビング(夜)
リビングで言い争っている鳴海と風夏
鳴海「母親みたいに口うるさく言うのはやめてくれ」
風夏「(大きな声で)分かってない!!あなたにとって私は邪魔なだけかもしれない・・・会話する時だって目すら合わせてくれない・・・それは鳴海が、私の顔を見てママとパパのことを思い出すのが嫌だから・・・それでも私は鳴海のことが心配なんだよ・・・大事な弟だから・・・鳴海は自分のことなんかどうでもいいって思ってるかもしれない、退学になってもいいのかもしれない、でも忘れないでほしい、あなたのことを大切に思ってる人がいるってことを・・・」
鳴海「それなら俺を放っておいてほしい」
風夏「あなたには母親の代わりが必要なの、じゃなきゃ鳴海はドロップアウトしてしまう・・・」
鳴海「なんで俺だけなんだよ、姉貴だって同じだろ。俺は死んだ母親を姉貴に求めちゃいねえ、無理して母親の代わりになろうとするな、そんなことされても息苦しくのなるのは俺だ」
◯284回想戻り/波音高校三年三組の教室(朝)
電話をかけている鳴海
風夏が電話に出る
鳴海「もしもし、姉貴」
風夏「(電話の声)仕事中は電話してこないで」
鳴海「急用なんだよ」
風夏「(電話の声)どうした?」
鳴海「来週個人面談があるんだけど、来れそうな日ある?」
風夏「(電話の声)それ急用なの?今じゃなくてまた後にしてほしいんだけど」
鳴海「今確認しろって先生が」
風夏「(電話の声)だからあの先生は嫌いなんだよ・・・ちょっと待って・・・確認するから」
鳴海「忙しいのにごめん」
少しの沈黙が流れる
電話越しに風夏がスケジュールを確認している音が聞こえる
風夏「(電話の声)来週の木曜日の午後なら空いてるよ」
鳴海「(スマホを離して)来週の木曜が空いてるらしいっす」
神谷「来週の木曜ね、じゃあその日にやれるようにスケジュールを組むよ、詳しい時間割は明日渡すって伝えて」
鳴海「(スマホを近づけて)来週の木曜、詳しい時間割は明日連絡するわ」
風夏「(電話の声)了解、じゃあ切るよ」
鳴海「うん」
電話が切れる
スマホをポケットにしまう鳴海
神谷「やれやれ・・・毎回毎回この三年間いつも電話で確認してるな」
鳴海「親がいないとろくなことないっす」
神谷「(鳴海の肩をポンポンと叩き)親っていうのは子供から見ればいてもいなくても面倒な存在さ」
鳴海「そうっすね」
神谷「悩みがあるならいつでも相談に来いよ」
◯285◯243の回想/波音高校生徒相談室/通称説教部屋(夜)
日は沈んでいる
神谷がソファに座っている
大きなテーブルには文芸部員の生徒一人一人の資料が散らかっている
文芸部員はみんな立っている
神谷「俺は今から意地の悪い質問をする、質問に対して質問を投げ返すのは無しだ。受け答えははっきりと、大きな声で答えること。いいね?」
◯286回想戻り/波音高校三年三組の教室(朝)
教室の扉付近で話している鳴海と神谷
鳴海「特にないんで大丈夫っす」
神谷「そうか・・・なんかあったらいつでも来なさい」
頷く鳴海
神谷「(気を取り直して)じゃあHR始めるか!(大きな声で)みんな席に戻れー!!」
鳴海、菜摘、嶺二、立ち歩いていた生徒たちが席に戻る
神谷がHRを始める
鳴海「(声 モノローグ)神谷志郎・・・四十三歳、担当科目は数学、文芸部の顧問。こいつとの付き合いももう三年になる。生徒の悩みや相談、数学にまつわる質問には真面目に答え、それでいて時々面白い小話を挟んだり名言っぽそうなことを平気で言う。学校に迷惑がかかることをやらかすと本気で怒るがそれ以外の時は基本優しそうなオーラを出している。神谷のことを嫌っている生徒は少ないが、こんな奴に悩みを相談するくらいなら俺だったらそんな悩みは墓場まで持っていくだろう」
◯287波音高校三年三組の教室(昼)
鳴海は机に突っ伏している
午前の授業が終わる
生徒たちは教材を片付け、財布や弁当を持って昼休みに入る
鳴海は体を起こし財布をカバンから取り出す
嶺二が財布を持って鳴海のところにやってくる
嶺二「飯だ飯」
鳴海「(財布を持って立ち上がり)学食は混んでるし外のベンチだな今日は」
嶺二「その前に飯を買うぞ」
鳴海「だな、(菜摘のところに行って)菜摘、飯行こうぜ」
菜摘「ごめん、私今日日直の仕事があるから二人で食べてて!」
鳴海「あー、そっか・・・」
菜摘「(立ち上がり)じゃあ後でね!」
菜摘は男子生徒と日直の仕事をしに行く
その姿を見ている鳴海
嶺二「しゃあねえ、たまには男同士で飯だ・・・」
鳴海と嶺二は教室を出る
◯288波音高校のベンチ(昼)
外のベンチに座っている鳴海と嶺二
コンビニで買ったパンを食べている鳴海と嶺二
ベンチはたくさんあり、友達同士やカップルがご飯を食べるのに使っている
嶺二「結局よー」
鳴海「ん?」
嶺二「俺たち文芸部の活動を真面目にやってないよなー」
鳴海「真面目にやりたいけどさ・・・」
嶺二「やりたいけど?」
鳴海「今は集中出来ない」
嶺二「まさにスランプだな」
鳴海「表向きにはスランプってことでいいけど、実際スランプでも何でもねえよ。俺たちまだ一冊しか小説を書いてないんだぜ?スランプって言うほどの実績はない」
嶺二「(頷き)確かに。てか鳴海、菜摘ちゃんとは?」
鳴海「菜摘ちゃんとはって何だ?」
嶺二「馬鹿野郎、進展したかって聞いてんだよ」
鳴海「してない」
嶺二「進展させろや!!」
鳴海「菜摘は俺のこと好きじゃねえよ、振られたら文芸部に居辛くなるから何もする予定はない」
少しの沈黙が流れる
嶺二「鳴海の制服に麦茶染み込ませていい?」
鳴海「ダメに決まってんだろ!!」
嶺二「菜摘ちゃんにアプローチしなかったらお前の制服を魔改造するぞ」
鳴海「何でだよ!!何のためにするんだよ!!」
嶺二「いや逆に聞きたいんだが何でアプローチしない?」
鳴海「今はそういう気分じゃないんだよ・・・それこそアプローチなんざしてる暇があれば部誌を作るだろ!」
嶺二は学校の外を見ている
鳴海「嶺二・・・?何見てんだよ?」
波音高校一年生の女子が四人で歩いている
そのうちの一人は汐莉
背格好が千春に似ている女子がいる
その女子のことを見ている嶺二
嶺二は食べかけたパンをベンチに置いて立ち上がる
嶺二「千春ちゃん!!待って!!」
嶺二は四人組の一年生を追いかける
鳴海「(立ち上がり)千春がいたのか!?」
鳴海は嶺二について行く
二人は走って波音高校を出る
◯289波音高校の外/通学路(昼)
コンビニに向かっている汐莉と女子三人
走っている鳴海と嶺二
鳴海「(走りながら)どいつが千春だよ!?」
嶺二「(走りながら指を差して)あの子だ!」
鳴海「(走りながら)ほんとに千春か!?」
嶺二「(走りながら)間違いない!!千春ちゃん!!」
汐莉「(振り返って)千春・・・?」
鳴海と嶺二が女子四人に追い付く
嶺二「(後ろから一人の女子の肩を叩き)千春ちゃん!」
嶺二のことに気づき振り返る汐莉以外の女子
汐莉と一緒に歩いていたのは軽音楽部の一年生、千春ではない
魔女っ子少女団のメンバー、三枝響紀、永山詩穂、奥野真彩
嶺二が肩を叩いたのは三枝響紀
響紀「(振り返って)えっと・・・どちら様ですか?」
少しの沈黙が流れる
汐莉「嶺二先輩・・・千春はもう・・・」
鳴海「すまん!!汐莉!俺らの勘違いだわ!人違いってやつだな・・・」
嶺二「(俯いて小さな声で)ごめんよ・・・知り合いに似てて・・・」
響紀「謝らなくて大丈夫です、気にしてないんで」
詩穂「(困惑しながら)この人たちは・・・汐莉の知り合い?」
汐莉「うん、文芸部の先輩だよ」
真彩「(小声で)こ、この先輩、めちゃくちゃ落ち込んでるよ・・・?」
鳴海「い、いいんだ!!こちらの勘違いだから気にしないでくれ」
嶺二は完全に落ち込んでいる
鳴海、汐莉、詩穂、真彩は心配そうに嶺二のことを見ている
響紀は気にしてなさそう
汐莉「世界で一番好きな人に会えたと思ったらそれが別人だったていう・・・死ぬほどショッキングな出来事ですね・・・」
響紀「(少し呆れながら)大袈裟な言い方だよ」
千春「(嶺二の頭の中で響く声)嫌だなぁ嶺二さん、ただのキャラクターにそんなふうに言うなんて・・・本当に大袈裟です」
泣き始める嶺二
汐莉「(驚き)れ、嶺二先輩!?ど、どうしたんですか!?」
嶺二「(泣きながら)千春ちゃん・・・会いたいよ・・・!本当にごめん・・・お、俺がクリアしたせいで!」
鳴海「嶺二・・・大丈夫か?」
嶺二「(泣きながら大きな声で)大丈夫なわけないだろ!!ち、千春ちゃんが・・・き、消えたのは・・・」
鳴海「嶺二、誰もお前のことを責めたりしてないよ」
嶺二「(泣きながら)ご、ごめん・・・」
汐莉、詩穂、真彩は困惑している
響紀「先輩が好きな人と私、そんなに似てるんすか?」
嶺二「(泣きながら)す、少し・・・」
響紀「また、その人と会えるといいですね」
嶺二「(泣きながら)う、うん・・・」
◯290波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
嶺二と汐莉以外のメンバーが揃っている
執筆作業はせずみんな椅子に座り丸の形を作っている
外で活動している運動部の掛け声が聞こえる
明日香「(真剣な表情をして)なるほど・・・それで嶺二は帰ったのね・・・」
菜摘「(心配そうに)嶺二くん・・・大丈夫かな・・・」
鳴海「かなり思い詰めてるみたいだった、さすがの嶺二でも引きずってる・・・明日も学校に来るかどうか」
明日香「(真剣な表情をして)サボりがちの生活に逆戻りするかもよ」
菜摘「そんな・・・」
明日香「千春の一件で溜め込んでいたものと、彼女がいなくなったショックで・・・嶺二にも限界が・・・」
鳴海「むしろ今日までよく来てたよ。サボりたくもなる」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(大きな声で)私たちは頑張って部誌をまとめよ!!」
明日香「そう、私たちはね・・・」
菜摘と明日香が鳴海の顔を見る
鳴海「っておい、もしかして今月の部誌がまだ仕上がってないのって俺と嶺二だけ・・・?」
明日香「もちろん」
鳴海「くそっ」
明日香「くそとか言わないの、今まで書いてこなかったんだから」
菜摘がカバンから書いた小説を取り出し、鳴海に差し出す
鳴海「(小説を受け取り)ありがとう菜摘」
明日香「えっ?菜摘の作品を盗作するの?」
鳴海「盗作ちゃうわ、これはあれだ・・・随筆とかエッセイとかそういった類の物を書くのに必要な素材だ」
明日香「意味がわかりません」
鳴海「(もじもじしながら)いや・・・だからその・・・なんて言うべきなのかな・・・」
菜摘「鳴海くんと嶺二くんは私の書いた小説を読んで、感想文をまとめるんだよ」
明日香「(怒りながら)はぁ!?」
鳴海「(慌てて)お、落ち着くんだ明日香。作品の感想を書けばその人のためにもなるし、(徐々に小さくなる声)俺の文章力も上がってウィンウィンというわけなのだよ・・・」
明日香「(怒りながら)ウィンウィン!?!?楽したいだけじゃん!!!」
鳴海「な、菜摘も擁護してくれ!」
肩をすくめる菜摘
菜摘「ほんとのこと言うと私も反対だよ?読書感想文なんて小学生でも出来るし」
明日香「菜摘、このダメ人間にガツンと言ってやって!」
鳴海「(小声でボソッと)何もダメ人間呼ばわりしなくても」
菜摘「今月だけだからね?鳴海くんと嶺二くんが良いアイデアが思いつかないって泣き叫ぶから・・・」
鳴海「待て、話を盛るな、別に泣き叫んではいない」
明日香「菜摘が優しさが二人のダメ人間具合を加速させてるねぇ」
菜摘「優しいのは今月だけ!!!来月からはスパルタ部長で行くから!!」
鳴海「マジかよ・・・」
◯291波音高校高校一年生の軽音楽部室/一年三組の教室(放課後/夕方)
汐莉はメインボーカルとリズムギター、響紀はリードギター、詩穂はベース、真彩がドラムを担当している
真彩「(ドラムを叩くのをやめて)タイムタイム!!一旦休憩させて!」
響紀「もう?」
真彩はスティックをしまい両手を見せる
マメが潰れて血が出ている
目を背ける詩穂
汐莉「(引きながら)うわー・・・まあやん、力任せに叩きすぎだよ」
真彩「(両手を見せながら)仕方ないじゃん、勢いに乗ってるんだから」
響紀「休憩にしよう」
ギターとベースを立てかける汐莉、響紀、詩穂
詩穂「真彩、手洗ってきた方がいーよ」
真彩「あの壮絶な痛みには耐えられない・・・」
詩穂「傷口からばい菌が入って両手が腐るかもしれないのに、よく自然放置出来るね」
真彩「こわっ!!」
響紀「汐莉と詩穂、真彩を手洗い場に連れて行きな」
汐莉「はーい」
汐莉と詩穂に両肩を掴まれ強制的に連れて行かれる真彩
真彩「離してよ二人とも!」
汐莉「抵抗するぶん痛みは強くなるよ」
詩穂「悪足掻きしても逃げられないからね」
真彩「やめてぇ・・・」
カルピスを飲む響紀
時間経過
戻ってきた真彩にキズパワーパッドをつけている響紀
ダラダラしながらスマホを見ている汐莉と詩穂
真彩「(両手を出しながら)出来ては潰れ・・・出血したら止血し・・・ドラムを叩くとまた出来る・・・負の連鎖だ」
響紀「(丁寧にキズパワーパッドを貼りながら)スティックの持ち方を変えた方がいい、このままだと高校を卒業する頃には男の子の手みたいにゴツゴツになるよ」
真彩「(両手を出しながら)ドラムをやってる時点でそうなるのは仕方ないことだと思うんだけど・・・」
汐莉「(スマホを見ながら)握力が強くなりすぎて男の人と手を繋いだ時に握り潰しちゃうんじゃない?」
真彩「(両手を出しながら)んな漫画みたいなことあるかっ!」
響紀「(丁寧にキズパワーパッドを貼りながら)動かないで真彩」
真彩「(両手を出しながら)ごめん」
詩穂「(スマホを見ながら)響紀”くん”はゴツゴツしている女の子は手はどう?」
響紀「(丁寧にキズパワーパッドを貼りながら)嫌い、色白で華奢な手が最高」
真彩「(両手を出しながら)自分の指でもしゃぶってろ・・・」
キズパワーパッドを貼り終える響紀
響紀が真彩のおでこにデコピンをする
真彩「(おでこを押さえながら)痛いな!!暴力女め!!」
響紀はキズパワーパッドをしまいに行く
響紀「言葉使いの悪い女の子は嫌いだよ」
汐莉「(スマホを見ながら)暴言も暴力もなくていいと思いまーす」
真彩「こんな暴力女と間違えるなんて昼間の三年生が可哀想」
詩穂「千春ちゃんだっけ・・・響紀くんとそんなに似てるの?」
汐莉「(響紀のことを見ながら)あー、どうかな・・・髪の長さは同じくらいかも?」
詩穂「顔は?似てる?」
汐莉「顔は似てないと思うよ、背格好とか髪型が近かったから間違えたんだと思う」
詩穂「あの先輩すごい泣いてたけどどんな別れ方したのかな・・・」
汐莉「別れるって一口に言っても色々あったんだよ」
真彩「汐莉が励ましてあげればいいんじゃん」
汐莉「私に出来たらとっくに先輩は元気百倍になってる」
響紀「千春って子は今どこにいんの?」
汐莉「多分・・・(間を開けて)もう一生に会えないところにいる」
詩穂「し、死んじゃったの・・・?」
真彩「詩穂!そういうことは聞かない方が・・・」
首を横に振る汐莉
汐莉「でももう会えない気がするんだよね」
詩穂「そうなんだ・・・」
真彩「汐莉がどうにかしてあの先輩を元気付けるっきゃないね」
汐莉「私に出来ることなんか何も・・・(間を開けて)いや、私たちなら出来ることが・・・!!」
真彩「私たち?」
時間経過
響紀「良いよ、ロック魂を見せつけよう」
真彩「ロック魂なんて言って響紀は彼らの曲をカバーしたいだけでしょ」
響紀「良い曲ばかりだもの」
詩穂「私たち、しばらくライブ予定ないよね?」
響紀「ない」
詩穂「じゃあやろう!」
真彩「何曲カバーする?」
汐莉「三、四曲は決まりだね」
響紀「ライブエイドを再現するのもあり」
汐莉「じゃあそういう方向で!」
響紀「休憩終わり!練習開始!」
汐莉・真彩・詩穂「おー!!」
◯292白石家嶺二の自室(夕方)
汚い嶺二の部屋
服やゴミが散らかっている
嶺二はベッドで横になって、千春と撮ったプリクラの写真を見ている
写真に写っているのは嶺二一人だけ、千春はいない
◯293波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
菜摘の小説を手元に置きながらタイピングをしている鳴海
菜摘は読書をしている
明日香はスマホを見ている
時刻は五時過ぎ
外で活動している運動部の掛け声が聞こえる
明日香「(スマホをカバンの中に入れて)今日バイトだから先帰るね」
菜摘「(本を閉じて)バイト頑張って!」
明日香「(カバンを持って立ち上がり)うん!じゃあね!」
鳴海「(タイピングをしながら)お疲れー」
菜摘「バイバーイ!」
明日香は部室を出る
鳴海はタイピングを続ける
菜摘は読書を再開する
鳴海「(タイピングをしながら)しかしあれだなー」
菜摘「(本を閉じて)んー?」
鳴海「(文芸部をしながら)文芸部も寂れたなぁ・・・」
菜摘「そうだね・・・」
鳴海「(タイピングをしながら)俺と嶺二の部誌が仕上がったら、また部員集めでもするかぁー」
菜摘「ビラ配りのバイトをしてる子に声をかける?」
鳴海「(タイピングをしながら)おう、文芸部に入れて学校に忍び込ませる」
菜摘「(笑いながら)怒られちゃうね」
鳴海「(タイピングをしながら)次は怒られないように上手い事やるわ」
菜摘「でも鳴海くんは何も計画を立てないからなー」
鳴海「(タイピングをしながら)ひでえ、成長するんだぞ俺だって」
菜摘「(笑いながら)ごめんごめん(間を開けて)でも、よかったぁ・・・」
鳴海「(タイピングをしながら)何が?」
菜摘「鳴海くん、千春ちゃんがいなくなってから元気無さそうだったじゃん?でも最近、前みたいに明るくなったよね!」
鳴海「(タイピングを止めて)元気無さそうに見えたか?」
菜摘「まあね。テンションも低かったし・・・嶺二くんとも漫才しなくなっちゃったし・・・」
鳴海「元から漫才はしてねえ!」
菜摘「あっ、ほら!!ちゃんとツッコミもするようになってきた」
鳴海「元から漫才はしてねえからな・・・」
菜摘「そうだっけ・・・?元気があればそれで良いのだ!」
鳴海「バカボンか」
菜摘「バカボンのパパなのだっ!!!」
鳴海「あーね、女生徒の見た目をしたバカボンのパパね」」
菜摘「細かいことは良いのだ、ところで部誌は完成したのだ?完成したなら一緒に帰るのだ!!」
鳴海「まだ終わってないよ、てかバカボンのパパって全ての言葉にのだってつけんのか?」
菜摘「あまり見たことないのでその辺はよく知らないのだ!」
鳴海「さすがバカボンのパパ、適当だな」
菜摘「適当ではないのだ!!」
鳴海「締め切りに間に合いそうだし今日は作業をやめるよ、帰ろう」
菜摘「(小説をカバンにしまって)了解したのだ」
鳴海が作業途中のデータを保存する
カバンを持って立ち上がる菜摘
鳴海がパソコンの電源を消す
菜摘が書いた作品をカバンにしまい立ち上がる鳴海
電気を消して部室を出る鳴海と菜摘
◯294帰路(夕方)
歩いている鳴海と菜摘
鳴海「千春なんて最初からいなかったんだよな?」
菜摘「そんなことないと思う。何が現実だったのか今となっては確かめようがないけど、千春ちゃんと一緒に過ごした記憶は残ってる」
鳴海「俺は・・・千春が奇跡だったって思いたくない」
菜摘「どうして?」
鳴海「やっぱり俺、そういうことは受け入れられないんだ。超自然的な力・・・奇跡ってものを・・・」
菜摘「千春ちゃんがいたってことを認めるべきなんじゃないかな」
鳴海「今更どうしようもできないのに千春のことばっかり考えちまう、千春はいたのか?いなかったのか?そりゃこんなことばっかり考えてれば元気も出ないよ・・・(かなり間を開けて)嶺二もそうだ、千春に対して何かもっと出来たんじゃないかって思い詰めてる」
菜摘「鳴海くんと嶺二くんだけが追い詰めることじゃないよ、私だって・・・千春ちゃんと向き合ってれば・・・」
鳴海「でも、今出来ることはあの時の無責任な自分を強く恨むだけだ」
菜摘「それが私たち生き残った側の試練・・・っていうか仕事みたいな・・・後悔を背負って生きなきゃダメなんだと思う」
鳴海「それが千春の言っていた奇跡の代償か・・・それとも別に・・・」
菜摘「代償ってなんだろうね」
鳴海「分からん、ほんとにそんなものがあるのか」
菜摘「奇跡があるなら代償もあるってことじゃない?」
鳴海「これ以上払えるものは何もねえよ・・・」
◯295貴志家リビング(夜)
風呂上り、椅子に座ってぼーっとしている鳴海
鳴海「(声 モノローグ)結局千春のことは何も分からないんだ。分からないからこそ、答えが出ないこそ考え続ける。意味はない、得られることはない。それでいてずっと後悔する。この時初めて知った、無責任なことを言って困るのは周りより自分だということ。俺の人生は無責任な発言で罪を犯し、後悔こそが罰となっていることを」
◯296波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来ていない
どんどん教室に入ってくる生徒たち
教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
鳴海と菜摘と明日香は教室の窓際で喋っている
嶺二は来ていない
鳴海「嶺二、今日は来ないってさ」
明日香「やっぱり・・・」
菜摘「心配だね」
鳴海「サボりが続くとやばいな」
明日香「ただでさえ最悪な授業態度なのに、登校すらしないっていうのはね・・・」
菜摘「しばらく欠席すると思う?」
鳴海「分からん・・・そのうち来るような気もするし、来ないような気もする」
明日香「今まで嶺二のパターンだとサボりは続く事が多かったよ」
菜摘「数日は来ないかな・・・」
鳴海「その可能性の方が高いかもしれん」
神谷が教室に入ってくる
神谷「雪音ー!!(手招きして)ちょっとおいで」
座ってスマホを見ていた雪音が立ち上がり神谷のところに行く
神谷と雪音は教室の扉付近で話している
神谷が雪音に書類を渡し、雪音は書類に何か書いている
菜摘「(スマホを見ながら)汐莉ちゃん、今日も来れないんだって」
鳴海「軽音楽部は忙しそうだな」
明日香「ライブでもやるのかもね」
菜摘「そうだね。(少し間を開けて)今日も文芸部は三人かぁ」
明日香「ごめんっ!私今日はどうしても外せない用事があって、部活に出れない!」
菜摘「そうなんだ・・・」
明日香「ごめん・・・放課後学校見学に行く予定だからさ・・・明日はいつも通り部活に出られるよ」
鳴海「(大きな声で)学校見学!?」
明日香「何でそんな驚いてるの?」
鳴海「いや・・・まさかもうそんなことをするなんて・・・」
明日香「三年生なんだよ?早めに動かないと」
菜摘「大学?」
明日香「ううん、専門学校に行く予定。受験嫌だし」
菜摘「専門学校に通うんだ!!何系?」
明日香「まだ決まったわけじゃないよ、一応保育系で考えてるけど」
菜摘「保育士さんいいよねぇ、小さい子可愛いもんねぇ」
鳴海「(動揺しながら)ちょ、ちょ、ちょい待て」
明日香「どうしたの?そんなに動揺して」
鳴海「明日香さん進路決めるの早くね?」
明日香「保育士になるのが夢だって言ったじゃん」
鳴海「そうでしたか・・・?記憶にないのですが・・・」
明日香「そんなことより早く進路決めなよ、取り残されても良いことないんだから」
菜摘「うぅ・・・どうしよう私の将来・・・」
鳴海「もうダメだ、おしまいだ」
明日香「やりたいことを見つければ何とかなるって」
鳴海「それが分からないから困っているんですけど・・・」
雪音が席に戻る
神谷「みんな座ってー!!HR始めるぞー!!個人面談のスケジュール表を渡すから、絶対に無くすなよー!!!無くすかもしれないって奴は余分に二、三枚取って行きなさい!!」
生徒たちが席に戻る
明日香「いつかやりたいことも見つかるって!」
鳴海「だといいけど・・・」
菜摘「それまで頑張ろうっ!」
鳴海「(大きくため息を吐いて)はぁ・・・」
神谷「鳴海たちも座れー!!」
席に戻る鳴海、菜摘、明日香
生徒たちが着席したのを確認して、プリントを配っていく神谷
神谷「(プリントを配りながら)無くさない奴は一枚だけでいいんだからなー!!」
◯297波音高校三年三組の教室(昼)
机に突っ伏して眠っている鳴海
ヨボヨボのおじいちゃん教師が歴史の授業を行なっている
生徒たちのほとんどはスマホを隠れ見ているか、寝ている
明日香ですら眠っている
真面目な菜摘と雪音は板書をノートに書いている
時刻は十二時過ぎ
すでに昼休みの時間になっている
廊下から昼休みに入った他クラスの生徒たちの声が聞こえる
歴史の教師「(腕時計を見て)もうこんな時間になっていた、日直さん、挨拶をよろしく」
日直「起立」
眠っていた生徒たちがノロノロと立ち上がる
日直「気をつけ、礼」
歴史の教師「はい、ありがとうございました」
昼休みに入る生徒たち
菜摘は歴史の教材と筆記用具をしまいお弁当をカバンから取り出す
お弁当を持って鳴海のところに行く菜摘
鳴海は号令したのにも関わらず起きてない
菜摘「(鳴海の肩を優しくて叩いて)鳴海くん、授業終わったよ。お昼ご飯食べよう?」
鳴海「(ゆっくり体を起こして)昼休みか・・・?」
菜摘「うん、ご飯食べに行こ」
鳴海はカバンからコンビニのビニール袋を取り出す
中にはパンと飲み物が入っている
鳴海「(ビニール袋を持って)この時間だと学食は混んでるし、外のベンチだなぁ」
菜摘「おっけい」
二人は教室を出る
◯298波音高校のベンチ(昼)
快晴、気持ちの良い天気
ベンチに座っている鳴海と菜摘
鳴海はコンビニのパンを食べ終えている
菜摘はすみれの手作り弁当を食べている
ベンチはたくさんあり、友達同士やカップルがご飯を食べるのに使っている
菜摘「鳴海くんは進路どうするか決めてる?」
鳴海「(即答する)全く決めてないっ!!!」
菜摘「私も全然決めてないや・・・」
鳴海「菜摘はさ、文才があるんだからそういう道に進んだらいいんじゃないか?」
菜摘「(少し照れて)そ、そうかな・・・?」
鳴海「おう、才能だと思うぜ」
菜摘「い、一緒に小説家になる・・・?」
鳴海「俺には無理だわ」
菜摘「えぇ・・・鳴海くんもなれるよ!」
鳴海「(笑いながら)無理無理、まず俺は部誌で詰まってるんだから」
菜摘「た、確かに・・・」
鳴海「俺は生きていければ何でもいいかな」
菜摘「進学しないの?」
鳴海「何も考えてないからなぁ・・・学びたいことがあれば進学するけど特にないし・・・菜摘は進学するの?」
菜摘「うーん・・・」
鳴海「すみれさんとお料理教室を開いたりするのはどうだ?儲かりそうだぜ」
菜摘「私、お母さんほど料理上手くないよ」
鳴海「マジか・・・食べてみたいな、菜摘が作った飯」
菜摘「(驚き)えっ!?!?」
鳴海「(顔を赤くして大きな声で)あっ、いや・・・今のは何というか・・・お、お腹が空いててつい・・・」
鳴海は誤魔化すように紙パックのリンゴジュースを思いっきり吸い込む
菜摘「お、お腹が空いてるんだ!こ、これ!食べていいよ!!」
菜摘はお弁当の中に入っていたタコさんウインナーを箸で掴む
鳴海「い、いいのか?もらっちまって」
菜摘「うん」
タコさんウインナーを掴んだまま箸を鳴海に渡そうとする菜摘
鳴海が箸を受け取ろうとした瞬間、タコさんウインナーが落ちる
鳴海・菜摘「あっ!!!」
落ちたタコさんウインナーはベンチの下に転がっていく
鳴海「ごめん!!」
菜摘「ううん、私が箸ごと渡そうとしたから・・・」
菜摘はポケットからティッシュを取り出し、タコさんウインナーを拾う
菜摘「(拾ったタコさんウインナーを鳴海に差し出して)食べる?」
鳴海「(即答する)食わんわ!!!」
菜摘「(笑いながら)さすがツッコミの鳴海だね!!!」
鳴海「そんなこと一度も言われたことないんですが・・・」
菜摘は立ち上がり近くのゴミ箱にタコさんウインナーを捨てる
菜摘「卵焼き食べる?」
菜摘はベンチに戻る
鳴海は菜摘のお弁当を覗く
おかずとご飯は消え、卵焼きだけが残っている
鳴海「(お弁当を覗きながら)卵焼きしかないやん。しかもラスイチ」
菜摘「卵焼き嫌いなの?」
鳴海「いや、好きだよ」
菜摘「食べて」
鳴海「ラスイチなんだから菜摘が食べろよ、タコさんウインナーを落としたのは俺なんだし」
菜摘「じゃあ・・・」
菜摘が箸で卵焼きを半分にする
菜摘「(箸を差し出して)半分あげる!」
鳴海「いいのかよ?後悔しても知らんぞ」
菜摘「(箸を差し出して)後悔しないように生きるって決めたからだいじょうぶっ!!」
鳴海「(箸を受け取り)後悔しないように・・・か」
菜摘「うん!千春ちゃんは私たちにそれを教えてくれたんだよ!」
鳴海「(卵焼きを掴み)そういう考えはなかったな・・・」
卵焼きを口に入れる鳴海
鳴海「美味え!!この卵焼きを売ったら金になるぞ!!」
箸を差し出す鳴海
菜摘「(箸を受け取り)親子で卵焼き専門店を開こうかな?」
鳴海「(笑いながら)店開いたら俺を雇ってくれ」
菜摘「(残りの卵焼きを掴み)鳴海くんはお店の雑用係ね」
卵焼きを口に入れる菜摘
鳴海「雑用かよ!!!」
菜摘「(卵焼きを食べ終え)こうして貴志鳴海の料理人としての道が切り開かれた、雑用係から卵焼きマスターになるまでの遠いようで短い人生の幕開けだ」
鳴海「短い人生かいな!!!」
◯299波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
鳴海と菜摘しかいない文芸部室
鳴海は菜摘の小説を手元に置いてタイピングをしている
菜摘は読書をしている
外で活動している運動部の掛け声が聞こえる
時間経過
扉がコンコンと叩かれる
タイピングを止める鳴海
本を閉じる菜摘
顔を見合わせる鳴海と菜摘
首を傾げる菜摘
菜摘「どうぞー!」
神谷が部室に入ってくる
神谷「ようよう、今日は二人だけか」
神谷が入ってきたことを確認し鳴海はタイピングを再開する
菜摘「明日香ちゃんは専門学校の見学があって、嶺二くんは学校に来てなくて、汐莉ちゃんは軽音部に出てます」
神谷「それで鳴海と菜摘しかいないってことか・・・」
頷く菜摘
神谷は椅子に座る
神谷「(真剣な表情をして)実はな・・・」
菜摘「なんかあったんですか?」
神谷「ビックニュースがあるぞ・・・(かなり間を開けて)文芸部に入りたいと俺に申し出てくれた生徒がいる!!!」
タイピングをやめて神谷の方を見る鳴海
菜摘「(驚き大きな声で)ほんとですか!?」
神谷「ほんとだ、しかも・・・三年生だぞ!!!」
鳴海「まさかのまた三年生か・・・」
神谷「鳴海、またとか言うんじゃない。このタイミングで入りたいって言ってくれてるんだよ、貴重な人材確保じゃないか」
鳴海「まあ・・・そうっすけど・・・」
神谷「文芸部は最低人数の五人しかいないんだから、一人増えるだけでもありがたいことだぞ。俺は入部届けを受理したから、明日からその子は文芸部の一員だ」
菜摘「その三年生って誰なんですか?」
神谷「今呼ぶよ。(大きな声で)入ってこーい!!」
扉の方に視線を向ける鳴海と菜摘
部室に入ってくるのは一条雪音
雪音を見て驚く鳴海と菜摘
雪音「えーっと・・・文芸部に入ることになりました!一条雪音です、よろしく」
神谷「大物新入部員だろ!」
菜摘「あれ・・・?雪音ちゃんって・・・天文部の部長じゃなかった・・・?」
雪音「天文部は辞めちゃった」
鳴海「マジ?普通天文部を辞めて文芸部に入るか?」
神谷「まあまあ、そういうことは君たちが気にすることじゃないだろ?雪音自身が天文部を辞めて文芸部に入りたいって言いに来たんだから」
雪音「元から本を読むのは好きだったし、自分で小説を作ってみたいって思って」
菜摘「(少し驚いて)そうなんだ!文芸部に参加してればいつでも出来るよ」
雪音「それはよかった!」
神谷「菜摘、鳴海、雪音に文芸部とは何なのかその真髄を教えてあげなさい」
鳴海「真髄って・・・」
神谷「雪音は分からないことがあったら遠慮なく二人に聞きなさい、そこの二人は文芸部の部長&副部長であり創立者だからな」
雪音「はい先生」
神谷「では執筆作業を続けてくれたまえ」
神谷は立ち上がり部室を出る
雪音「というわけで・・・今日から文芸部員です・・・」
鳴海「お、おう・・・」
菜摘「よろしく!」
雪音「なんかしたほうがいいこととか、必要な物とかある?」
菜摘「(考えながら)特には・・・(鳴海の方を見て)ないよね?」
鳴海「パソコンが足りなくないか?」
菜摘「ううん。(指を差して)ここには六台パソコンがあるよ」
菜摘が指を差した方向を見る鳴海
教室の隅には五台のノートパソコンが置いてある
菜摘「鳴海くんが今使っているのと合わせて六台でしょ?」
◯300◯115の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
ただひたすら文字を打ち続ける千春
◯301回想戻り/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
置いてあるパソコンを見ている鳴海
鳴海「そう・・・だったな・・・必要な物も特にないわ」
雪音「毎月一冊部誌を作ってるって神谷から聞いたけど・・・」
菜摘「六月号は学園祭の準備で作れなかったけど、七月号は作るよ。今鳴海くんは七月号の執筆中」
雪音「部誌ってどんなことを書いてもいいの?」
菜摘「そうだね〜、小説、随筆、詩とか・・・どんな内容でもいいよ」
雪音「結構本格的に作るんだね!!部誌以外はどんなことするの?」
菜摘「部誌以外はぁ・・・」
鳴海「特に何もしてないような・・・」
雪音「そ、そっか・・・まだ部活が出来てから二か月しか経ってないもんね」
菜摘「先月は学園祭の準備があって忙しかったけど、今は割と暇な時期。七月号の部誌も鳴海くんと嶺二くん以外は上がってるし・・・部誌さえ出来てれば、各々好きな時間を過ごしてるっていう感じかなぁ」
鳴海「その説明だけ聞いていると文芸部ってめっちゃ緩い部活な気がするな・・・」
菜摘「厳しい部ではないよ、みんなで楽しくやっていくのが目的だもん」
雪音「そういう雰囲気、良いね!!」
鳴海「文芸部はマイペースな奴が多いからな・・・」
菜摘「みんないい人だよ!」
雪音「そうなんだ。(かなり間を開けて)ところでさ・・・学園祭の日のこと・・・二人は覚えてる?」
顔を見合わせる鳴海と菜摘
鳴海「どうかな・・・記憶が混濁してるけど」
菜摘「うん・・・少しずつ忘れてる」
雪音「学園祭が終わった後、二人と病院で会ったよね?」
鳴海「あー・・・そうだっけ・・・?」
菜摘「うーん・・・会ったような・・・会ってないような・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「一条?」
菜摘「どうかしたの?」
雪音「ううん!何でもない!(少し間を開けて)部誌のことに話を戻すけど、七月号で私も書けることあるかな?」
菜摘「今月末締め切りで・・・書けることかぁ・・・」
鳴海「五月号でやってみたいにさ、一条の自己紹介のページを付け加えるのがいいんじゃないか?」
雪音「自己紹介?」
菜摘「最初の部誌にみんなの自己紹介欄を作ったんだ。だから雪音ちゃんも同じものを作った方がいいかも!」
鳴海「明日、自己紹介のページを明日香に作ってもらうか・・・」
菜摘「そうだね!雪音ちゃんは自己紹介の文を考えておいて」
雪音「自己紹介の文・・・自己紹介の文・・・何を書けばいいんだろう」
鳴海「適当で大丈夫だよ、俺も適当に書いたし」
菜摘「意気込みとか・・・そういうことを書けばいいと思うよ」
雪音「な、なるほど・・・」
◯302貴志家リビング(夜)
部活を終え帰宅した鳴海
真っ暗なリビング
荷物を放り投げ電気をつける鳴海
テレビをつけ、手を洗いに行く鳴海
手を洗った後、椅子にどっかりと座りテレビのニュースを見る鳴海
鳴海「(声 モノローグ)病院で一条と会ったか・・・?分からない、けど一条本人は俺らと会ったと思っているようだ。あんなに千春のことを考えていたのに、千春に関係していたことは思い出し辛くなっている。もともと千春は寡言で自分から多くを語るタイプではなかった。複雑な物事や印象の薄かった出来事は忘れる。今になって千春は自分のアイデンティティを隠し、自己主張を避けていたことに気づいた」
◯303回想/波音高校三年三組の教室(英語の授業中)
鳴海、嶺二は机に突っ伏して寝ている
他の生徒は英語のプリントの答え合わせをしつつ、周りの子と答案の確認をしている
菜摘は近くにいる生徒と答えの確認をしようとしているが、なかなか声をかけられない
結局菜摘は諦めて一人で答え合わせをする
鳴海「(声 モノローグ)クラス単位になれば、俺、菜摘、嶺二ような人間はアイデンティティを隠しながら目立たないようにして過ごす」
◯304◯182の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
本の読み合わせをしている鳴海、菜摘、明日香
それを聞いている嶺二、汐莉、千春
鳴海「(声 モノローグ)そんな俺らが好きなように過ごせる場所が文芸部だった」
◯305◯216の回想/波音高校裏庭(昼前)
学園祭の日、朗読劇が行われる前
千春のことで言い争っている鳴海と嶺二
鳴海「(声 モノローグ)ボコボコに殴られるくらい自己主張が通る環境」
◯306◯194の回想/帰路(放課後/夜)
部活を終えみんなで一緒に帰っている
鳴海と菜摘は千春から記憶のことで話を持ちかけられている
鳴海「(声 モノローグ)千春はそんな文芸部の中で、自分自身のことを語らなかった」
◯307回想戻り/貴志家リビング
椅子に座っている鳴海
テレビはニュースを放送している
鳴海「(声 モノローグ)柊木千春は消え、一条雪音が入部。文芸部の数は変わっていないのに、少ない気がする、足りなかった。足りない分、後悔が募った」
◯309滅びかけた世界:波音高校食堂の料理場(昼)
食堂の料理場にいるスズと老人
料理場は校内の他の場所ほど汚くない
それでも食器には埃が溜まっている
スズ「(周りをキョロキョロ見ながら)おお〜、ここにはたくさんのご飯がある予感!」
老人「来なさい」
スズ「へーい」
老人についていくスズ
老人は料理場の奥にある業務用の大きな冷蔵庫を開ける
スズ「れーぞーこ?」
老人「電気は通ってない、これはただの大きな非常食箱だよ」
冷蔵庫の中を覗くスズ
冷蔵庫の中に大量の非常食が保存されている
スズ「いっぱい食べ物がある!!!」
老人「美味しくはないがね」
スズ「電気がないのに何で冷蔵庫にしまってんの?」
老人「外気に触れているだけで食べ物は傷んでしまうんだよ」
スズ「うそだぁ、外に落ちてたものを拾って食べたことがあるけど平気だったよ〜」
老人「そんなもん食べても体には毒だぞ、ここは陽が差し込んで来ないし冷蔵庫は密閉出来る。落ちてるものより数倍マシな状態で食えるんだ」
スズ「ふうん」
老人「はらが減っているんだろう?好きなだけ持って行きなさい」
スズ「全部もらっていいの?」
老人「全部は困る」
スズ「えぇ〜、好きなだけって言ってたのに〜、全部欲しい〜」
老人「俺の分は残しておけ、俺が死んだら残りは全部君にやる」
スズ「(冷蔵庫の中に手を伸ばし)では遠慮なく」
スズは冷蔵庫の中にあった非常食を取り出していく
◯310滅びかけた世界:波根高校特別教室の四/文芸部室(昼過ぎ)
教室に戻って来たスズと老人
スズは両手いっぱいに非常食を抱えている
教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある
椅子や机、教室全体に溜まりまくった小さなゴミ
教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている
ナツはまだ眠っている
老人は教室の扉付近に立っている
スズはナツに近づく
スズ「(大きな声で)なっちゃん!!ご飯もらったよ!!!」
ナツ「(もぞもぞと動きながら)ご飯・・・?」
スズ「ジジイからもらった!!」
ナツ「(もぞもぞと動きながら)誰それ・・・」
スズ「(大きな声で)起きて!!!」
ナツ「わかったよ・・・うるさいなスズは・・・」
体を大きく伸ばすナツ
老人「おはよう」
目を凝らして老人の方を見るナツ
ナツ「(怖がりながら)お、お、おば・・・」
老人「言っとくがお化けじゃないぞ。(少し間を開けて)全く・・・学校に住み着いてる時点で君らもお化けとさほど違いはないだろうに・・・よりによってこんなところにいるとは・・・」
スズ「私も最初お化けにしか見えなかったけど、良い人だよ(両手で抱えている非常食を見せながら)ご飯くれたんだ」
両目を擦りもう一度老人ことをよく見るナツ
老人はポケットから缶詰を取り出し、ナツに向かって放り投げる
ナツは缶詰をキャッチする
ナツ「(缶詰を見ながら)な、何だこれ・・・」
老人「ビスケットさ、それでも食べてなさい。俺は仕事に行く」
ナツ「仕事?」
老人「やるべきことがあるんだ」
スズ「どこで仕事するの?」
老人「緋空浜だ」
ナツ「緋空浜!?あの海には何もないのに・・・どうやって仕事を・・・」
老人「興味があるなら一緒に来るか?」
ナツとスズは顔を見合わせる
立ち上がるナツ
老人「じゃあ、行くか」
◯311波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来ていない
どんどん教室に入ってくる生徒たち
教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
鳴海と菜摘と明日香は教室の窓際で喋っている
嶺二は来ていない
雪音は女生徒たちと喋っている
スマホを菜摘と明日香に見せる鳴海
菜摘「(鳴海のスマホを見ながら)今週はサボる、かぁ・・・」
明日香「(鳴海のスマホを見ながら)これだと来週は来るって言い方だけど、嶺二のことだからどんだけサボるか分かんないね」
スマホをポケットにしまって大きくため息を吐く鳴海
鳴海「こればっかりはどうしようもねえよ・・・嶺二だって色々思うことはあるんだろ」
菜摘「汐莉ちゃんも来ないし・・・私たち、足並みが揃ってない」
鳴海「一人増えたっていうタイミングなのにな」
明日香「一人増えたって?」
菜摘「新しく雪音ちゃんが文芸部に入ってくれるの」
明日香「うそ!?雪音が!?」
鳴海「もう神谷に入部届けを出したらしい」
明日香「天文部は辞めたってこと?」
菜摘「天文部を辞めて文芸部に転入だよ」
明日香「どうして辞めたんだろ」
鳴海「わからん」
菜摘「星より本の方が好きだったのかな」
楽しそうに女生徒たちと喋っている雪音
雪音のことを見る明日香
◯312波音高校のベンチ(昼)
曇り空
ベンチに座っている鳴海と菜摘
鳴海はコンビニのパンを食べている
菜摘はすみれの手作り弁当を食べている
ベンチはたくさんあり、友達同士やカップルがご飯を食べるのに使っている
菜摘「もうすぐ夏休みだねぇ」
鳴海「いやまだだろ」
菜摘「後一ヶ月とちょっとだよ、もうすぐもうすぐ!」
鳴海「その前にテストがあんぞ」
菜摘「あっ・・・テストの話題はなし」
鳴海「てか、もう夏休みのことなんか考えてんの?」
菜摘「夏休みはビッグイベントだからね!!」
鳴海「予定あるのか?」
菜摘「(即答する)ない!でもしたいことはたくさんあるよ」
鳴海「例えば?」
コンビニのパンを口に詰め込める鳴海
菜摘「海、花火、お祭り、スイカ、プール、旅行、かき氷、怖い話とか!!」
鳴海「お、おお・・・典型的な夏のイベントごとだな」
菜摘「夏といえばこれだ!!っていうのは外せないよね!!」
鳴海「夏休みか・・・」
菜摘「毎年どんなことをして過ごすの?」
鳴海「基本ダラダラしてるだけだよ、たまに嶺二と遊ぶくらいだな。後は姉貴が帰って来たときに両親の墓参りに行くくらい」
菜摘「そんだけ?」
鳴海「そんだけだ」
菜摘「地味な・・・夏休みだね・・・」
鳴海「出かけても暑くて疲れちまうよ、行きたい場所もないし」
菜摘「パーッと遊ぼうよ!!」
鳴海「菜摘・・・・嶺二みたいになってるな」
菜摘「えっ?そうかな?」
鳴海「あいつもパーッと遊ぼうってよく言ってる気がする」
菜摘「嶺二くんも入れてみんなで遊びに行こう!」
鳴海「嶺二なら水鉄砲で遊びたいって言うぞ」
菜摘「飛響草原公園に行った時と違って夏だからね、水鉄砲はアリ!!」
少しの沈黙が流れる
菜摘は少しずつお弁当を食べている
鳴海「俺と嶺二はさ」
菜摘「うん」
鳴海「一、二年の時めっちゃサボってるんだよね」
菜摘「知ってるよ、サボりの常習犯だったから三年生初日に神谷先生から呼び出されたんでしょ?」
鳴海「そうそう。でも、俺、(自慢げに)三年になってから一回もサボってないんだぜ!!」
菜摘「う、うん」
鳴海「(自慢げに)すごいだろ!!」
菜摘「すごい・・・のかな?」
鳴海「すげえだろ!!菜摘がサボりの常習犯を更生させたんだぞ!!」
菜摘「私が・・・?」
鳴海「菜摘と文芸部のおかげだ」
菜摘「私、何もしてないよ?」
鳴海「俺や嶺二みたいな奴に居場所を作ってくれたんだぜ?」
菜摘「私が居場所を作ったんじゃなくて、二人が私について来てくれたから居場所が出来たんだと思うな」
鳴海「今日、学校から帰ったらまた嶺二にLINEしてみる、あいつがいないと盛り上がりに欠けるからな」
菜摘「うん!!」
◯313波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
鳴海は菜摘の小説を手元に置いてタイピングをしている
菜摘、明日香、雪音は一台のパソコンと向き合っている
菜摘と明日香は雪音の自己紹介文を作る手伝いをしている
外で活動している運動部の掛け声が聞こえる
雪音「大学受験の自己PRみたい、緊張するね」
菜摘「大丈夫、慣れたら気にしなくなるよ」
明日香「文芸部に入ってから羞恥心がかなりなくなったと思う」
雪音「それは・・・良いのか・・・悪いのか・・・」
菜摘「自信につながるから良いことだよ!!頑張って!!」
雪音「具体的にどんなことを書けばいい?」
明日香「これを読めば雪音について一発で分かるっていう文が理想」
雪音「む、難しいね」
菜摘「部活でどんなことをしたいか、どんな作品を書きたいかっていう目標を書いたら良いんじゃないかな?」
雪音「二人はどんなことを書いた?」
菜摘「目標と部長としての意気込みを書いたよ」
明日香「私は忘れちゃった、何となーく書いてたんだと思う」
鳴海「(タイピングしながら)明日香、俺らが書いた自己紹介文のデータ持ってないのか?」
明日香「今日USBを持って来てない・・・というか、五月の部誌を見れば良いじゃん。菜摘、五月の部誌って余ってなかった?」
菜摘「余ってるよ」
教室のロッカーの中にしまってある部誌を取りに行く菜摘
取り出した部誌を雪音に渡す菜摘
雪音「(部誌を受け取り)ありがとう(部誌をパラパラとめくりながら)えっー!?みんなしっかり書いてるじゃーん!」
明日香「最初の活動だったからね」
菜摘「うんうん、部誌を読んで文芸部に興味を持つ子もいるかもしれないし・・・」
明日香「雪音、入る前に読まなかったの?」
雪音「ごめん、読んでない・・・」
明日香「読んでから入部すれば良かったのに〜」
雪音「今読む!!!」
雪音は集中してそれぞれの自己紹介の文を読んでいく
時間経過
部誌を閉じる雪音
雪音「OK!どんなことを書けば良いのか何となく分かった!」
明日香「さすが、期待しているよ新入部員!」
雪音「頑張る!」
菜摘「雪音ちゃん、部員紹介の最後のページに何かあった?」
雪音「何かって・・・何?」
菜摘「えーっと・・・」
菜摘はなんて言おうか悩んでいる
少し困惑している雪音
菜摘と雪音のことを交互に見る明日香
タイピングを辞めて立ち上がる鳴海
鳴海「一条、(部誌を指差して)ちょっと貸して」
雪音「(部誌を差し出して)あっ、はい」
鳴海「(部誌を受け取り)あざっす」
部誌をパラパラとめくり、部員紹介の最後のページを開く鳴海
最後のページは真っ白で何も書かれていない
そのページを開いて無言で菜摘に渡す鳴海
菜摘は部誌を受け取る
明日香と雪音は二人のことを見ている
少しの沈黙が流れる
鳴海「(心配そうに)菜摘?大丈夫か?」
菜摘「ごめん、大丈夫(部誌を雪音に差し出して)雪音ちゃん、ありがとう」
雪音「(部誌を受け取り)うん」
明日香「(菜摘の方を見て)問題ないね?」
頷く菜摘
明日香「さあ雪音、自己紹介の文!!」
雪音「やり始めていい?」
明日香「どんどん書いちゃって!」
雪音はタイピンングを始める
鳴海は席に戻り部誌作りを再開する
◯314帰路(放課後/夕方)
一緒に帰っている鳴海と菜摘
明日香、雪音とは別れた後
部活が終わり帰っている波音高校の生徒がちらほらいる
鳴海「最後のページ、白紙だったな」
菜摘「(俯いて)うん・・・千春ちゃんのページがなくなってた・・・」
鳴海「千春に関係していることは全部・・・消えるのか?」
菜摘「最初から千春ちゃんはいなかったって言ってるみたい」
鳴海「もしかしたらさ・・・(間を開けて)いつまでも自分のことを引きずるなって千春が言ってるのかもな・・・」
菜摘「(千春の声)私のことは考えないでください」
鳴海「(驚き)今の声・・・!?」
菜摘「声?」
鳴海「(驚き)今・・・声が・・・」
菜摘「声がどうかしたの?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「いや・・・何でもない・・・」
菜摘「きっと、千春ちゃんなら・・・私のことは考えないでとか、忘れてくださいって言うよね。そんなことを望んでいるのかな・・・」
鳴海「どうだろうな・・・くよくよするなって言ってるのかもしれないし・・・それとも忘れられたいのか・・・あるいはこういう会話すらやめて欲しいのか・・・」
菜摘「やっぱ千春ちゃんのことを考えちゃうね、考えるなって言われても無理だよそんなこと」
鳴海「また・・・千春と会えればな・・・」
菜摘「いつか・・・再会出来ると思う」
鳴海「分かるのか?」
菜摘「分かるわけじゃないよ・・・ただ、そんな気がする」
◯315貴志家リビング(放課後/夕方)
帰宅した鳴海
リビングの電気をつける鳴海
カバンを放り投げる
ポケットからスマホを取り出し、嶺二に電話をかける
何回かコールが鳴り、嶺二が電話に出る
鳴海「元気か?」
嶺二「(電話の声)あー、元気だけど」
鳴海「ほんとかよ?」
嶺二「嘘ついたわ、元気じゃねえ」
鳴海「分かるよ、俺も元気ない。(少し間を開けて)どっか外で話さないか?」
嶺二「どこで?」
鳴海「公園でも行こうや」
嶺二「いいけど・・・」
鳴海「せせらぎ公園でいいな?」
嶺二「分かった」
鳴海「おう。遅れるんじゃないぞ」
嶺二「鳴海も遅れるなよ」
鳴海「心配すんな、じゃあ公園で」
嶺二「うっす」
◯316せせらぎ公園(夜)
ブランコに座っている鳴海
公園には鳴海しかいない
時刻は七時過ぎ
自転車に乗って嶺二がやってくる
自転車から降りて駐輪する嶺二
鳴海「おっせえぞ!」
嶺二「わりい」
ブランコに座る嶺二
鳴海「菜摘と明日香が心配してたぞ」
嶺二「来週から行く」
鳴海「この間の一年のこと、気にしてんのか?」
嶺二「一応ね」
鳴海「おい、俺ですら学校に行ってんだから嶺二も来てくれ」
嶺二「来週から行くって」
少しの沈黙が流れる
嶺二はポケットから千春と撮ったはずのプリクラの写真を取り出し鳴海に渡す
プリクラの写真を受け取る鳴海
鳴海「(プリクラの写真を見ながら)千春とプリクラを撮ったのに、千春は消えてる・・・ってことか?」
頷く嶺二
嶺二「二人でショッピングモールに行った時に撮ったやつ」
鳴海「デートじゃねえか」
嶺二「まあな・・・(少し間を開けて)思い出だっつうのに千春ちゃんは消えちまった」
鳴海「部誌にあった自己紹介のページも消えてた」
プリクラの写真を嶺二に返す鳴海
嶺二は受け取りポケットにしまう
嶺二「千春ちゃんの存在を証明出来るものがなくなっているんだ、残っているのは俺たちの頭の中だけ」
鳴海「頭の中も・・・忘れかけてる。学園祭が終わってから何があったのか・・・」
嶺二「鳴海、病院での出来事を忘れちまったのか?」
鳴海「あんまり覚えてない・・・いや、覚えてることには覚えてるけど、はっきりとは思い出せん」
嶺二「マジか・・・俺なんかはっきり覚えてるぞ。思い出すと辛いけどな・・・」
鳴海「後悔・・・してるのか?」
嶺二「後悔しかないな・・・あの時あーしてたら、俺が別の選択をしてたらって考える毎日だよ」
鳴海「菜摘が言ってた、俺たちは後悔を背負って生きなきゃダメだって」
嶺二「後悔を背負って・・・か・・・・(少し間を開けて)菜摘ちゃん、きっついこと言うなー」
鳴海「菜摘は後悔しないように生きるって決めたらしい」
嶺二「菜摘ちゃんはすげーな、部活だって作っちまうし有言実行のプロじゃねーか」
鳴海「俺が菜摘のことを好きになったのも・・・そういうところかもしれんわ」
嶺二「やっぱ好きなんだな」
鳴海「ああ」
嶺二「頑張れよ、応援してるわ」
鳴海「なあ嶺二・・・」
嶺二「ん?」
鳴海「本当にごめん」
嶺二「いきなりどうした?何で謝るんだよ?」
鳴海「もっと俺が千春と向き合うべきだった」
嶺二「しゃあねーよ、向き合うって言ったって出来ることは限られてたぜ」
鳴海「そうかもしれない、でも俺はみんなのことを騙したんだ。後悔して許されることじゃないけど、一生後悔する」
嶺二「馬鹿だな鳴海は、誰も気にしてねえよそんなこと。(少し間を開けて)それによ、いろいろあったのは事実だけど、千春ちゃんが文芸部に入れたのは鳴海のおかげじゃないか」
鳴海「だからこそ、俺は千春と向き合わなきゃいけなかったんだ」
嶺二「(首を横に振って)確かに俺も最初はそう思った。無責任過ぎるって・・・でも、それは間違いだったな。人のことを責めたって何も解決しない」
鳴海「だから自分のことを責めるんだろ?」
嶺二「そういうこった」
鳴海「千春とまた会えると思うか?」
嶺二「分からん、会いたいけど、分からないっていうのが本音かな」
鳴海「辛いな」
嶺二「すげー辛いよ。千春ちゃんと再会出来ることを信じて・・・必死に生きるしかない」
鳴海「俺たちの人生はそういうもんか」
嶺二「奇跡がついてくるまではな」
◯317滅びかけた世界:緋空浜に向かう道(昼過ぎ)
緋空浜に向かっているナツ、スズ、老人
建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている
ガタガタな地面
ボロボロな民家
先を歩いている老人
老人から少し離れて歩いているナツとスズ
老人からもらったビ缶詰のスケットを食べているスズ
ナツ「スズ、毒とか入ってたらどうすんの」
スズ「(ビスケットを口に入れて)毒なんか入ってないよ〜」
ナツ「あの人、信用できる?」
スズ「出来る出来るぅ!」
ナツ「名前すら知らないのに?」
スズ「名前はジジイ」
ナツ「本名だよ本名!」
スズ「ないんじゃないかなぁ」
ナツ「馬鹿、名前くらいあるだろ!」
スズ「え〜、名乗らないんだから名無しだと思うよ〜」
ナツ「名前、年齢、どこに住んでるのか、何にも知らないのに信用出来ない」
スズ「体育館で寝てるって言ってた(缶詰に手を突っ込んでビスケットを取り出し)最後の一つだ!(ビスケットをナツに見せながら)食べる?」
ナツ「いらない」
スズ「なっちゃんが貰ったものなのに食べていいの?」
ナツ「食べたきゃ食べていいよ」
スズ「やったー!!」
ビスケットを口に入れるスズ
ナツ「学校で暮らしてるってこと?」
スズ「マットで寝てるんだって」
ナツ「あの爺さんの服、軍服?」
スズ「ボロボロだからわかんない」
老人「(立ち止まって振り返り)若いくせに歩くのが遅いな」
スズ「なっちゃんの歩く速度が遅いんだよ!」
ナツ「わざとじゃない」
老人「急ごう、仕事は山ほどある」
足を早める老人
老人「ビスケット、意外といけただろ?」
スズ「美味かった!!」
老人「悪くないはずだ」
ナツ「食べてない」
老人「そうか・・・」
ナツ「あんた兵士だよね?その服は軍服だ」
老人「今は違う」
ナツ「じゃあ・・・戦争に行ったの?」
老人「行ったとも」
スズ「どうして戦争になったのか知ってる?」
老人「知らんのか?」
頷くスズ
ナツ「知らない」
老人「簡単さ、調子に乗った日本とアメリカが他国に喧嘩を売って戦争の幕開け」
スズ「よく分かんないや」
老人「分かりやすい説明だと思うんだがな・・・」
ナツ「結果的に私たちの国は負けた」
老人「惨敗だよ」
スズ「勝った国はどこ?」
老人「どこだろうな、泥沼の暗黒時代に勝敗があったとは思えん」
ナツ「あんたはどうやって生き残った?他の兵士達は今どこに?」
少しの沈黙が流れる
老人「俺は戦いから逃げた脱走兵だよ」
スズ「ジジイ以外の人たちは死んじゃったんだよね?」
頷く老人
ナツ「脱走出来たなら・・・他の人だって・・・」
老人「(首を横に振って)脱走するのもそんな簡単な話じゃない、俺はたまたま運が良かった。同じ隊にいた人はみんな死んでる」
スズ「ジジイが生きてるならそれで良いんだよ〜」
老人「自分の命があるだけ良いか・・・(間を開けて)そういえばまだ君らの名前を聞いてなかった。名前を教えてくれ」
スズ「私はスズ!」
ナツ「ナツ」
老人「ナツとスズか・・・セミがよく鳴いていた季節を彷彿とさせる良い名だな」
スズ「ジジイの名前は?」
老人「ジジイで構わん、あまり自分の名前は聞きたくないんだ」
ナツ「なんで?」
老人「名前を聞いたところで昔のことを思い出すだけだからな」
緋空浜 この先三百メートル直進と書かれた看板が斜めに立っている
◯318波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)
雨が降っている
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来ていない
どんどん教室に入ってくる生徒たち
教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
鳴海と菜摘と明日香は教室の窓際で喋っている、窓際から雨が見える
嶺二は来ていない
雪音は女生徒たちと喋っている
菜摘「汐莉ちゃんからのLINE、特別活動があるから軽音部の部室に来てくださいって書いてあったけどなんだろ」
鳴海「南のことだし、ライブじゃねえか」
明日香「やっぱライブの準備をしてたってことかもね」
菜摘「それか、汐莉ちゃんによる朗読劇だよきっと!」
鳴海「このタイミングで朗読劇をやるか?」
菜摘「可能性はあるよね!!」
鳴海「そうかぁ・・・?」
明日香「今日って嶺二来るんでしょ?」
鳴海「多分な、先週話した時は来るって言ってた」
菜摘「じゃあ嶺二くんも汐莉ちゃんの朗読劇を鑑賞できるね!」
明日香「汐莉が朗読劇を行う前提で話が進んでる・・・」
力強く頷く菜摘
菜摘「可愛い後輩の朗読劇だよ?ワックワクのドッキドキだよ!?!?」
明日香「いやだから朗読劇をやるかどうか・・・」
菜摘「汐莉ちゃんなら軽音部のライブより文芸部の朗読劇を選ぶよ絶対」
明日香「すんごい自信だね・・・」
鳴海「こんだけ勝手に期待しておいて朗読劇でもライブでもなかったりして」
菜摘「それだけは絶対にない!!」
嶺二が教室に入ってくる
鳴海「おっ、嶺二来たぞ」
菜摘「ほんとだ!」
嶺二は自分の席にカバンを置き、鳴海たちのところにやってくる
鳴海「(嶺二の肩を叩き)やっと来たか」
嶺二「ちゃんと今日から来るっていう約束を守ったぞ」
鳴海「うむ、ご苦労」
明日香「このまま不登校になるかと思ったよ」
嶺二「ならねえよ」
菜摘「よかったよかった、これで文芸部に活気が戻るね!」
嶺二「せやな」
明日香「心配かけさせておいてせやなはないでしょ」
嶺二「マジ?明日香心配してくれたの?」
明日香「一年生の前で泣き崩れてから学校来てないんでしょ?そりゃ心配するわ」
嶺二「(鳴海を睨み)おい、てめえ余計なこと言っただろ」
鳴海「言ってない。脚色せずに事実だけを伝えたぞ」
嶺二「(鳴海を睨み)それが余計なことだって言ってんだよ」
鳴海「許せ、状況説明が必要だと思ったのだ」
嶺二「(鳴海を睨み)許さん」
鳴海「しゃあねえだろ、心配かけたのは嶺二の方なんだからな?」
鳴海を睨み続ける嶺二
菜摘「まあまあ・・・仲良くやろう二人とも」
目線を下に向ける嶺二
嶺二「(小さな声でボソッと)悪かったよ、心配かけて」
鳴海「(再び嶺二の肩を叩き)気にすんな」
◯319波音高校食堂(昼)
昼休み、ガヤガヤとした食堂
生徒達がどんどん食堂にやってくる
鳴海は醤油ラーメン大盛り、菜摘はお弁当、嶺二はカツ丼カレーセットを食べている
嶺二「なんで雪音ちゃんが文芸部に入ったの?」
鳴海「本に興味があったらしい」
嶺二「いきなり雪音ちゃんがグループに入ってきたから驚いたわ」
菜摘「もう立派な部員だよ」
嶺二「これでまた文芸部は六人か・・・」
鳴海「誰もいないより良いだろ」
嶺二「ゼロ人よりはな」
カツ丼カレーセットを口の中にかきこむ嶺二
菜摘「そういえば嶺二くん、部誌作ってないよね?」
嶺二「ごめん、作ってないわ・・・鳴海は?」
鳴海「先週末に終わらせた」
嶺二「マジかよー!俺だけじゃんやってないの」
菜摘「入部したてだから雪音ちゃんもやらないよ、自己紹介の文だけ作ってもらったけど」
嶺二「今日から頑張って休んでた分を取り戻すしかねえ」
鳴海「と言っても来月はテスト前だぞ、活動するのか?」
嶺二「やべえ・・・テストのことをすっかり忘れてた・・・」
菜摘「さすがにテスト前は休止にするべきじゃないかな」
鳴海「俺と嶺二はどうせ赤点からの補習行き確定だからあんま関係ねえな」
嶺二「今回のテストも赤点かぁ・・・」
菜摘「進路に影響するよ?赤点は回避しないと・・・」
鳴海「嶺二、進路どうする?」
嶺二「知らんよ、考えてない」
菜摘「やりたいことはないの?」
嶺二「分かんね」
鳴海が一気にラーメンをすする
菜摘「私たちやばい・・・なんも考えてないね・・・」
嶺二「なんとかなるっしょ」
鳴海「ならなかった時はどうするんだ?」
嶺二「永遠の旅に出る」
鳴海「自殺するってことか?」
嶺二「しねえわ馬鹿!」
菜摘「でも旅行に行く前に旅費が必要になるよ、旅行に行く前に何で稼ぐの?」
鳴海「てか旅行の進路は決まってるのか?旅行の進路を決める前に自分の進路を見つめ直さないとど偉いことになるぞ」
菜摘「うんうん、そんな現実逃避的な甘い考えだと社会で生きていけないと思う。まずは一から人生の計画を立ててから趣味や娯楽に手を伸ばすべきじゃないかな」
鳴海「そうそう、旅行とか言ってるけど嶺二の稼ぎでそんな遊んでられる余裕が・・・」
嶺二「うるせえな!!!旅くらい好きなように行かせろ!!!!」
菜摘「旅行に行くことは反対してないよ。そういうことじゃなくて旅行に行く前にどういった将来を送るかきちんと決めた方が良いと思うって話」
嶺二「めっちゃ俺の将来を心配すんじゃん!!!というか二人とも進路決めてないんだろ!?!?」
頷く鳴海と菜摘
嶺二「立場一緒やん俺ら!!」
鳴海「三年三組進路未決定者三銃士だぞ俺ら」
菜摘「頼もしさに欠ける三銃士だ・・・」
嶺二「まだ進路のことなんか考えたくねえ」
鳴海「せめてニートか引きこもりになるっていう将来の選択肢があれば・・・」
菜摘「そんな将来、嫌だな私・・・」
◯320波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
雨が降っているのが見える
部室にいるのは汐莉、三枝響紀、永山詩穂、奥野真彩
机、椅子、コピー機などは隅の方に固められ、軽音部の楽器が代わりにおいてある
置かれている楽器はギター、ベース、ドラム、電子ピアノ
慌てて楽器の準備をしてる魔女っ子少女団のメンバー
汐莉「(エレキギターを持って)まあやん!!早く!!」
真彩「(スティックをケースから取り出し)分かってるってば!!!」
詩穂「(ベースを持って)先輩たち、もう廊下で待ってるよ」
アンプを調整する響紀
響紀「こっちは準備OK」
◯321波音高校特別教室の四前/廊下(放課後/夕方)
廊下で待っている文芸部員たち
部室から汐莉たちの声と楽器の音が聞こえる
明日香「やっぱライブだったね」
菜摘「(残念そうに)朗読劇じゃないのかぁ・・・」
鳴海「朗読劇を行いながら合わせて生演奏をするのかもしれんぞ」
雪音「それ楽しそう!!一石二鳥だし!!」
嶺二「いやいやさすがにライブじゃね?」
菜摘「汐莉ちゃんが文芸部を見捨てるわけないよ、きっと文芸部要素が詰まったイベントだと思うなぁ」
部室の扉が開き汐莉が廊下に出てくる
汐莉「お待たせしましたー!どうぞ入ってくださーい!」
◯322波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
雨が降っているのが見える
部室に入る文芸部員たち
楽器の準備を終えている軽音部員たち
汐莉はエレキギターを持って他の軽音部員より少しの前の位置に立つ
汐莉「(エレキギターを持って)えーっと・・・軽音部の一年です」
鳴海「お、おう」
不安そうに顔を見合わせる真彩と詩穂
汐莉「(エレキギターを持って)今日はですね・・・先輩たちの元気を取り戻すために、私たちのライブを聞いてもらおうかと」
菜摘「(小さな声で)朗読劇じゃ・・・ない・・・」
汐莉「(エレキグターを持って)みなさん最近元気がないようなので、ここは一発軽快な音楽を聞いて盛り上がっていきましょう」
少しの沈黙が流れる
響紀が汐莉の隣に並ぶ
響紀「(小さな声で)いいよ、あとは私がやる」
汐莉「(小さな声で)えぇー・・・こういうのは私がやった方が・・・」
響紀「(小さな声で)汐莉は煽りが下手すぎ、これじゃあ盛り上がってない」
汐莉「(小さな声で)へ、下手・・・」
響紀「(小さな声で)だから下がって、私が上手いこと盛り上げる」
汐莉「(小さな声で)分かった・・・頼むよフレディ」
響紀「(小さな声で)いいとも、ブライアン」
汐莉は少しに後ろに下がる
文芸部員たちは響紀のことを見ている
スタンドマイクを持つ響紀
響紀「どうも、魔女っ子少女団改めクイーンウィッチーズです!雨を吹き飛ばす勢いで早速歌っていきましょーか!!!」
ドラムを強く叩く真彩
響紀「はい次!!!ギターとベース!!!」
汐莉のギター、詩穂のベースがドラムに合わせて参加する
響紀はスタンドマイクを持って菜摘の前に立つ
響紀「ウィーウィル!?」
マイクを菜摘に近づける響紀
菜摘「うぃーうぃる・・・?」
マイクを自分の口元に戻す響紀
響紀「ウィーウィル!!!ろ・・・!?」
マイクを菜摘に近づける響紀
菜摘「ろ・・・っきゅう?」
マイクを自分の口元に戻す響紀
響紀「イエス!!!Rock you!!」
拳を高く上げる響紀
菜摘「(同じように拳を高く上げて)ろっきゅう!!!」
We will rock youを歌い始める響紀
響紀「(♪We will rock you)Buddy you're a boy make a big noise」
ノリノリでライブを楽しんでいる菜摘
響紀「(♪We will rock you)Playin' in the street gonna be a big man some day」
リズムに合わせて手拍子をする文芸部員たち
響紀「(♪We will rock you)You got mud on yo' face You big disgrace Kickin' your can all over the place」
楽器と響紀の声が響く
響紀「(♪We will rock you)Singin' We will we will rock you (嶺二の前に立ち)先輩も歌って!!」
嶺二にマイクを向ける響紀
嶺二「(小さな声で)ウィーウィルウィーウィルロッキュウ」
マイクを自分の口元に戻す響紀
響紀「(♪We will rock you)We will we will rock you!!(嶺二にマイクを向けて)もっと大きい声で!!!」
嶺二「We will we will rock you!!!」
響紀「(マイクを自分の口元に戻して)良いですね!!!軽音部も歌うよ!!!」
汐莉・響紀・真彩・詩穂「(♪We will rock you)We will we will rock you!!!!!!」
響紀「皆さん私と一緒に歌って!!!」
鳴海・菜摘・明日香・嶺二・雪音・響紀「(♪We will rock you)We will we will rock you!!!!!!」
響紀「(再び拳を叩く上げて)最後に全員で!!!!」
鳴海・菜摘・明日香・嶺二・汐莉・雪音・響紀・真彩・詩穂「(♪We will rock you)We will we will rock you!!!!!!」
ジャーンというドラムとギターの音が教室全体に響き渡る
音が止まり文芸部員たちが拍手する
響紀「みんなで歌うと気持ちが良いっすね!!!!!次の曲ものっていきますよ!!!!!レディオガガ!!!!!」
ギター、ベース、ドラムが演奏を始める
Radio ga gaを歌い始める響紀
響紀「(♪Radio ga ga)I'd sit alone and watch your light And everything I had to know And everything I had to know I heard it on my radio You gave them all those old time stars Through wars of worlds invaded by Mar」
リズムに合わせて手拍子をする文芸部員たち
響紀「(♪Radio ga ga)You made 'em laugh, you made 'em cry You made us feel like we could fly So don't become some background noise A backdrop for the girls and boys Who just don't know or just don't care And just complain when you're not there You had your time, you had the power You've yet to have your finest hour Radio」
汐莉、詩穂が両手を高く上げる
響紀「(♪Radio ga ga)All we hear is radio ga ga Radio goo goo Radio ga ga All we hear is radio ga ga」
汐莉、詩穂がリズムに合わせて両手を叩く
同じように両手を叩く上げて叩く文芸部員たち
響紀「(♪Radio ga ga)Radio blah blah Radio, what's new? Radio, someone still loves you」
ドラムが止まる
拍手する文芸部員たち
響紀「ラストにもう一曲やりますね」
響紀はスタンドからマイクを外し、電子ピアノの前に取り付ける
電子ピアノに向き合い椅子に座る響紀
電子ピアノを弾き始める響紀
Bohemian rhapsodyを歌い始める響紀
響紀「(♪Bohemian rhapsody)Mama, just killed a man, Put a gun against his head Pulled my trigger, now he's dead Mama, life has just begun, But now I've gone and thrown it all away」
前二曲と違い静かにライブを聴いている文芸部員たち
響紀「(♪Bohemian rhapsody)Mama, ooo, Didn't mean to make you cry If I'm not back again this time tomorrow Carry on, carry on, As if nothing really matters too late, my time has come, Sends shivers down my spine Body's aching all the time, Goodbye everybodyI've got to go Gotta leave you all behind and face the truth」
響紀の歌声が前二曲より大きい
響紀「(Bohemian rhapsody)Mama, ooo I don't want to die」
響紀が電子ピアノを弾き終え、一礼する軽音部員たち
拍手する文芸部員たち
響紀「皆さん元気出ましたかー!!」
菜摘「(拳を高く上げて)おー!!」
汐莉「元気出たの菜摘先輩だけじゃないですか」
菜摘「(周りを見て)あれ・・・みんなは?」
鳴海「あ、いや・・・もちろん元気は出たんだけど、良い意味で演奏と歌声にビビったっていうか・・・」
明日香「分かる、聞いているのが自分たちで良いのかって思った」
雪音「もっと大きいライブ会場でやったらすごい盛り上がるよね!!」
嶺二「うん、感動したわ」
汐莉「これで終わりじゃないですよ!!!今からお菓子パーティーです!!!」
菜摘「お菓子パーティー?」
汐莉「学園祭の打ち上げってやってないじゃないですか、軽音部もやってないんで一緒に打ち上げ的なノリでパーティーしましょう!!!!」
鳴海「それ俺らが参加しちゃっていいの?」
汐莉「みんなで楽しみましょう!!」
カバンからはち切れそうなビニール袋を取り出す詩穂
詩穂「(ビニール袋を取り出し)早く始めよーう!」
顔を見合わせる文芸部員たち
菜摘「じゃあ・・・せっかくだし!!」
時間経過
部室にあった机と椅子が並べてある
机の上にはたくさんのお菓子とジュースがある
真彩「何がいいですか?」
菜摘「アクエリアス、もらっていい?」
真彩「了解です!!」
紙コップを取り出しアクエリアスを注ぐ真彩
紙コップを菜摘に渡す真彩
菜摘「(紙コップを受け取り)ありがとう」
真彩「いいえー、先輩はどうします?」
鳴海「ファンタオレンジをお願い」
真彩「はーい」
紙コップを取り出しファンタオレンジを注ぐ真彩
紙コップを鳴海に渡す真彩
鳴海「(紙コップを受け取り)ありがとう」
真彩「ゆーあーうえるかむ、先輩は?」
嶺二「えっと・・・じゃあコーラで」
響紀「真彩っておじさんから好かれそうだよね」
真彩「はい?」
汐莉「それ分かる!!」
詩穂「気をつけなよまあやん」
真彩「響紀、変なこと言ってないでコーラ」
響紀「コーラじゃなくて、コーラを取ってくださいって言いなさいな」
真彩「腹立つわ〜」
嶺二「俺、自分で注ぐよ」
コーラを取ろうとする嶺二
響紀「(コーラを取って嶺二に差し出す)どうぞ」
嶺二「(コーラを受け取って)あ、ありがとう・・・」
目を逸らす嶺二
明日香「何照れてんの?」
嶺二「照れてねーわ!!!」
紙コップを取り出しコーラを注ぐ嶺二
コーラを一気に飲み干す嶺二
鳴海「おい!!!!嶺二!!!!」
嶺二「なんだよ?」
鳴海「(呆れながら)お前・・・こういうのは乾杯してから飲むのが常識だろ・・・」
みんなが嶺二のことを見ている
視線に気づく嶺二
嶺二「ごめん・・・忘れてた」
真彩「き、気にしないで飲んでください!」
嶺二「マジごめん」
汐莉「まあまあ・・・嶺二先輩、そういうこともありますよ」
嶺二「完全にミスったな・・・」
少しの沈黙が流れる
雪音「か、カルピス取ってくれない?」
詩穂「(慌ててカルピスを取って差し出す)あっ、はい!」
雪音「ありがとう!」
紙コップを取り出しカルピスを注ぐ雪音
明日香「お茶、貰うね」
真彩「どうぞどうぞ!」
紙コップを取り出し伊右衛門を注ぐ明日香
鳴海「俺たちも入れるよ、何が飲みたい?」
汐莉「ファンタグレープで!」
紙コップを取り出しファンタグレープを注ぐ鳴海
鳴海「(紙コップを差し出し)はいよ」
汐莉「(紙コップを受け取り)あざっす!」
鳴海「(響紀、詩穂、真彩の方を見ながら)君らは?」
時間経過
軽音部員たちの飲み物を注いだ鳴海
鳴海「(周りを見ながら)全員飲み物あるな? よし」
菜摘「ど、どうしよっか?」
汐莉「菜摘先輩、乾杯の挨拶をお願いします!」
菜摘「私じゃなくて汐莉ちゃんたちの方が・・・」
汐莉「いやいや、ここはやっぱり先輩がバシッと決めちゃってください!!」
菜摘「いいのかな私で・・・」
席を立つ菜摘
菜摘「(紙コップを持って)えっとー・・・・軽音部の皆さんの素敵なライブと、文芸部の朗読劇、お疲れ様でした。みんなのクリエイティブな活動と、文芸部と軽音部の間に出来た絆に・・・乾杯!!!!!」
鳴海・明日香・嶺二・汐莉・雪音・響紀・詩穂・真彩「(紙コップを持って大きな声で)かんぱーい!!!!!」
紙コップを当てて乾杯する
飲み食いを始める一同
時間経過
楽しそうに喋っている嶺二以外のメンバー
鳴海「嶺二遅くね?」
明日香「(腕時計を見て)出て行って三十分くらいかもね」
鳴海「マジかよ、何をしているんだあいつは」
詩穂「(小さな声で)響紀くんが似てるから・・・居心地が悪いんじゃない・・・?」
菜摘「(響紀のことを見ながら)似てるのかなぁ?」
真彩「汐莉言ってたよね、背格好と髪型が同じだって」
汐莉「でも、似てるのはそこだけだよ。顔や性格が似てるとは思わないし」
雪音「似てるって?」
菜摘「響紀ちゃんが知り合いに似てるかもしれないんだけど・・・」
雪音「似てるかもしれない?」
鳴海「嶺二は似てるって言ってるんだけど、俺にはよく分からん」
明日香「人によりけりで違うみたい」
雪音「なるほど・・・」
詩穂「私たちも響紀くんに似てる人に会ってみたいね」
真彩「汐莉、写真とか持ってないん?」
汐莉「ないよ〜、あったらとっくに見せてる」
真彩「ますます気になってきたっていうのに・・・」
菜摘「ごめんね響紀ちゃん、変なことに巻き込んで・・・」
響紀「私は気にしてないんで」
立ち上がる響紀
響紀「(コーラを飲み干して)白石先輩探してきます」
部室を出る響紀
◯323波音高校廊下(放課後/夕方)
一人で外を見ている嶺二
弱い雨が降っている
廊下には人が全然いない
響紀は嶺二のことに気づき、隣に並び同じように外を見る
嶺二「相談していい?」
響紀「どうぞ」
嶺二「失恋から立ち直れないんだが、どうすればいいと思う?」
響紀「ふられたんですか?」
嶺二「どちらかと言うと、両思いなのに成就しなかったってのが近い」
響紀「やっぱり私に似てます?」
嶺二「(響紀の顔を見て)この間ほど似てるって思わないなぁ・・・」
響紀「(少し笑いながら)別人なんで」
嶺二「だね、(間を開けて)響紀ちゃんも男と別れた時に今の俺と同じ思いをするよきっと、知らんけど」
響紀「レズです」
嶺二「(響紀の顔を見て)は?」
響紀「私、レズです」
少しの沈黙が流れる
響紀「だからめっちゃふられます」
嶺二「おぉう・・・」
響紀「失恋は日常茶飯事に起こることなので、気にしない方がいいです」
嶺二「気にしないでいられたらいいのにな」
響紀「私はそういう時、音楽を聞くんですよ。ボーカルが私の代わりに叫んでくれてます」
嶺二「失恋ソングを聞けって?それは逆に死にたくなるぜ」
響紀「別に失恋ソングに限らずとも・・・(ポケットからスマホを取り出して)例えばさっき私が歌ったボヘミアンラプソディーとか」
響紀はスマホでBohemian rhapsodyの和訳した歌詞を開く
響紀は音楽アプリでクイーンのBohemian rhapsodyを流し始める
スマホを嶺二に差し出す響紀
スマホ受け取る嶺二
和訳した歌詞を見ながらBohemian rhapsodyを聞く嶺二
響紀「(Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)これは本当に俺の身に起きてることなのか?それともただの悪夢なのか?」
◯324◯59の回想/マクドナルド外(放課後/夕方)
風で飛ばされたビラを拾い千春に渡す嶺二
笑顔で礼を言いビラを受け取る千春
嶺二は礼を言われて照れている
響紀「(声 Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)まるで土砂崩れに飲み込まれちまったみたいに この現実から逃れることなんて出来やしなかった」
◯325◯163の回想/飛響草原公園草原広場(昼過ぎ)
二人きりで話をしている嶺二と千春
ショッピングモールに行く約束をする嶺二
千春は笑顔
響紀「(声 Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)目を開けて 空を見上げてごらんよ」
◯326◯171の回想ショッピングモール内(雨/昼)
波音町の少し先の町、水南木町のショッピングモール内にいる嶺二と千春
めちゃくちゃ混んでいるショッピングモール
嶺二は千春をSEREN LIGHTという女性服の店に連れて行く
ハンガーにかけてあった可愛らしい服を取る嶺二
千春は渋々鏡の前に行き、服を重ねる
楽しそうな嶺二
響紀「(声 Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)僕はただの貧しい少年さ 同情は要らないよ だって僕はフラフラ適当に生きているからね」
◯327◯174の回想/ゲームセンター内(雨/昼過ぎ)
UFOキャッチャーで大きなクマのぬいぐるみを取る嶺二
取れたぬいぐるみを千春に渡す嶺二
ぬいぐるみをギュッと抱きしめ喜ぶ千春
その姿を見て喜ぶ嶺二
響紀「(声 Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)良い時もあれば悪い時もあるさ どのみち風は吹く 僕にはどうでもいいことなんだよ 僕にはね」
◯328◯272の回想/波音総合病院外(夜)
ザーザーと強い雨が降っている
嶺二は巨大な悪霊と向かい合う
嶺二は千春の横に落ちていた折れた剣を拾う
嶺二は力任せに折れた剣を悪霊に向かってぶん投げる
嶺二の投げた折れた剣は悪霊の真ん中に突き刺さる
悪霊は跡形もなく消滅する
響紀「(声 Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)ママ 人を殺したんだ 彼の頭に銃を突きつけて 引き金を引いたら死んじゃったよ 」
嶺二は千春の横に座る
響紀「(声 Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)ママ 人生は始まったばかりなのに もう終わりだよ 全部おしまいだ 」
千春は嶺二の口にキスをする
響紀「(声 Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)ママ ママを泣かせるつもりはなかったんだ 明日の今頃僕が帰らなくても 何もなかったように生きていってね 」
夜だったのに徐々周りが白くなる
響紀「(声 Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)もう遅いよ もう終わりなんだ 体が芯から震えてる ずっと体に痛みが走ってるんだ 」
全て真っ白な光に包まれる
響紀「(声 Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)みんなさようなら 行かなきゃ みんなと別れて現実に向き合わなきゃ」
◯329回想戻り/波音高校廊下(放課後/夕方)
雨が止んでいる
Bohemian rhapsodyを聴いている嶺二
響紀「(Bohemian rhapsodyを和訳した歌詞)ママ 死にたくないよ 生まれてこなきゃ良かったって時々思うんだ」
声を上げず静かに泣いている嶺二
響紀「また泣いてますよ」
嶺二「(ワイシャツの袖で涙を拭いて)ごめん」
響紀「大丈夫ですか」
嶺二「大丈夫。ちょっと・・・思い出しただけだから」
響紀「教えてください、先輩が体験したことを・・・(間を開けて)私が歌にします」
少しの沈黙が流れる
嶺二「一人でビラ配りしている女の子がいた、その子の名前は柊木千春。物静かで・・・優しい子だった。お世辞かもしんないけど、俺が書いた本を褒めてくれた。俺が一人で学園祭を回ってると、千春ちゃんが声をかけてくれて・・・俺に気を遣って千春ちゃんは・・・」
再び泣き始める嶺二
ポケットからハンカチを取り出し嶺二に差し出す響紀
ハンカチを受け取り涙を拭く嶺二
嶺二「ありがとう」
響紀「お気になさらず」
嶺二「(言い聞かせるように)しっかりしろ俺・・・大丈夫、今度こそ大丈夫だ。もう泣かないぞ」
深呼吸をする嶺二
響紀「それで・・・千春さんは?」
嶺二「もともと千春ちゃんは波高の生徒じゃなかったんだ。けど鳴海のやつが先生を騙して文芸部に入部させようって提案してさ・・・」
真剣な眼差しで嶺二の話を聞く響紀
嶺二「(声 モノローグ)千春ちゃん、俺進むよ。また・・・会える時まで」