Chapter6卒業編♯20 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由香里
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
織田 信長48歳男子
天下を取るだろうと言われていた武将。
一世 年齢不明 男子
ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。
Chapter6卒業編♯20 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯1091貴志家リビング(日替わり/朝)
外は晴れている
時刻は七時半過ぎ
テーブルの上に置き手紙がある
置き手紙には“今日はお家で晩ご飯を食べます。イブなのでチキンとケーキが食べたいです”と書かれている
リビングのテレビではニュースが流れている
制服姿で椅子に座って置き手紙を見ている鳴海
鳴海「(置き手紙を見たまま)菜摘は・・・姉貴の思考に毒されたな・・・」
◯1092波音高校三年三組の教室(朝)
神谷が朝のHRを行っている
鳴海は神谷の話を聞かずに外を眺めている
神谷の話を真面目に聞いている明日香
雪音は神谷の話を退屈そうに聞いている
右目に眼帯をつけている雪音
机に突っ伏して眠っている嶺二
神谷「期末試験が今日で終わって、明日は二学期最後の登校日となる。みんな、年末だからと言って浮かれないように。良いね?それから今日の四時から体育館で、生徒会主催のクリスマスパーティーが行われるが・・・参加する者は気をつけなさい。君たちが問題を起こせば、必ず進学先や就職先に連絡を入れる。先生も午後は体育館にずっといるから、用がある子は声をかけてくれ。それと荷物に関しては、各階のロッカーを使って・・・」
鳴海「(外を眺めながら 声 モノローグ)そういえば、文芸部と軽音部の冬休みの予定はどうなってるんだ?(少し間を開けて)冬休みも活動するんだとしたら、場所を探さないとな・・・正月は学校も閉まってるだろうし・・・」
◯1093波音高校一年六組の教室(朝)
日本史の期末試験が行われている
試験監督の教師が生徒たちのことを見ている
汐莉はまだ問題を解いている
問題を解き終えて机に突っ伏して眠っている響紀と真彩
詩穂は試験を見直している
鳴海「(声 モノローグ)菜摘の体調が万全で・・・朗読劇の準備と部員募集が上手くいっていれば・・・それこそ冬休みはみんなで海外旅行をしていたんだろうか・・・」
◯1094波音高校三年三組の教室(昼前)
現代文の期末試験が行われている
試験監督の神谷が生徒たちのことを見ている
問題を解き終えてボーッとしている鳴海
明日香と嶺二はまだ問題を解いている
雪音は問題を解き終えて退屈そうにしている
右目に眼帯をつけている雪音
鳴海「(声 モノローグ)ふと考えてみると、俺は作れるはずの思い出の機会を無駄に捨てていた気がする。仲間と過ごせる時間を・・・俺はどれだけ雑に扱っていたんだろう。7月か8月に響紀たちとの交渉を終わらせて、9月から朗読劇の準備を進めていたら、菜摘が入院してもこんな状況にはなっていなかった。(少し間を開けて)夏休みに補習や教習所へ通って、部誌の制作をサボり、追い詰められた9月に菜摘の家で合宿を行い、10月の生徒会選挙で響紀を立候補させて、11月になったら菜摘が倒れ、12月の今は内容が不明のクリスマスパーティーに参加するのがやっとだ・・・」
時間経過
列ごとに一番の後ろの席に座っていた生徒が答案用紙を回収している
回収し終わった答案用紙を神谷に渡す生徒たち
神谷は答案用紙に名前が書いてあるか確認している
神谷「(答案用紙に名前が書いてあるか確認しながら)まだ試験は終わってないから、立ち歩くんじゃないぞー」
少しすると神谷が答案用紙のチェックを終える
神谷は答案用紙を整える
神谷「(答案用紙を整えながら)さて・・・期末試験はこれで終わりだ。みんなお疲れ様、下校して良いぞ」
生徒たちは立ち上がったり、周りにいる人に喋りかけたりする
鳴海は筆記用具をカバンにしまう
カバンを持った嶺二が鳴海のところへやって来る
鳴海「飯か?」
嶺二「ちげーよ!!」
鳴海「嶺二が飯を食わないなんて珍しいな」
嶺二「パーティーの下準備があんのに飯なんか食ってられるか!!」
鳴海「下準備?」
カバンを持った明日香が鳴海のところへやって来る
明日香「鳴海!!今日は帰って良いよね!?」
鳴海「朗読劇の練習と部員・・・」
明日香「(鳴海の話を遮ってえ)お願い!!今日だけは帰らせて!!ね!?良いでしょ!?」
鳴海「別に構わないが・・・パーティーには来るんだよな?」
明日香「もちろん!!」
鳴海「そ、そうか・・・じゃあまた後でな」
明日香「(笑顔で)うん!!」
明日香は早足で教室から出て行く
鳴海「明日香の機嫌が良い日は100年ぶりじゃないか?」
嶺二「今日はあいつも気合が入ってんだろ」
鳴海「たかがクリスマスパーティーなのにな・・・」
嶺二「てめえ俺たちがどんだけこの日を待ち侘びていたと思ってやがんだ!!」
鳴海「し、知るかよそんなこと・・・」
嶺二「学校でパーティーだぞ!!アメリカの映画でしか見たことねーイベントが波高で起きちまうんだぞ!!すげーことなんだぞ!!」
鳴海「そ、そうなのか・・・よ、良かったな・・・」
嶺二「鳴海!!俺たちも下準備だ!!」
鳴海「し、下準備って何をするんだよ?」
嶺二「服と髪に決まってんだろ!!」
鳴海「面倒だな・・・」
嶺二「いーから行くぞ!!」
嶺二は鳴海の腕を引っ張り無理矢理立たせる
鳴海「(嶺二に腕を引っ張られながら)おい」
嶺二「(鳴海の腕を引っ張りながら)てめーに拒否権はねーんだよ!!」
鳴海「(嶺二に腕を引っ張られながら)一条を見ろって・・・」
嶺二は雪音のことを見る
雪音は自分の席でスマホを見ている
鳴海の腕を離す嶺二
嶺二「(雪音のことを見たまま)何やってんだあいつ」
鳴海「(雪音のことを見たまま)一条は嶺二と一緒に帰りたいんじゃないのか」
嶺二「(雪音のことを見たまま)鳴海、おめーには勘違いされたくねーから言うけどよ・・・俺は仕方なく雪音ちゃんと一緒に帰ってやってんだぞ。それも部活の日限定で」
鳴海「(雪音のことを見たまま)お前・・・意外と一条に冷たいんだな」
嶺二「(雪音のことを見たまま)あーゆーは女はつけ上げらせない方がいーんだよ。第一パーティーの下準備に異性がいたら邪魔になるだろーが」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(雪音のことを見たまま)しかしここで俺たちが帰ったら、一条は一人で四時になるまで待ち続けるんじゃないか?」
嶺二「(雪音のことを見たまま)アホだな鳴海は・・・不幸な女のイメージを植え付けて同情を買うのが雪音ちゃんのやり方なんだよ」
鳴海「(雪音のことを見たまま小声で)一条が一人の時にまた女子たちに絡まれたらどうするんだ」
再び沈黙が流れる
嶺二「(雪音のことを見るのやめ舌打ちをして)チッ・・・全く手間のかかる奴だぜ・・・」
嶺二は雪音の席へ向かって歩き出す
カバンを持って嶺二について行く鳴海
雪音「(スマホを見ながら)帰らないの?二人とも」
嶺二「貴様を道連れにして帰るとも」
雪音「(スマホを見るのをやめて)三人で時間を潰すってこと?」
嶺二「そーだよ。何か文句あんのか?」
雪音「(スマホをポケットにして)ううん。ないけど」
嶺二「ならとっとと立ちやがれ」
雪音はカバンを持って立ち上がる
嶺二「まずは鳴海んちに行くぞ」
鳴海「時間を潰すならファミレスで・・・」
嶺二「(鳴海の話を遮って)下準備だっつってんだろ!!」
◯1095貴志家鳴海の自室(昼過ぎ)
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋にいる鳴海、嶺二、雪音
雪音は右目に眼帯をつけている
鳴海の部屋の隅には前日に購入したプレゼントの入った大きな紙袋置いてある
鳴海の部屋の机の上には菜摘とのツーショット写真と、小さなプレゼント箱が置いてある
鳴海はスーツ姿
スーツ姿の鳴海のことを見ている嶺二と雪音
鳴海「どうだ、これで満足かお前ら」
雪音「(スーツ姿の鳴海のことを見たまま)なんかつまんないね」
嶺二「(スーツ姿の鳴海のことを見たまま)だな・・・もうちょっといじろーぜ、鳴海」
鳴海「何をすれば良いんだよ」
考え込む嶺二
嶺二「(スーツ姿の鳴海を見たまま)とりあえずワイシャツをズボンから出して、スーツの袖をまくっちまえ」
鳴海はスーツの下に着ていたワイシャツの裾をズボンから出し、スーツの袖をまくる
鳴海「じゅ、12月に袖をまくるのはおかしくないか・・・」
嶺二「(スーツ姿の鳴海のことを見たまま)いや、悪な感じがしてかっけーぞ」
鳴海「本当かよ・・・」
鳴海は机の上に置いてあった小さなプレゼント箱を手に取り、スーツのポケットの中にしまう
◯1096白石家嶺二の自室(昼過ぎ)
物が散らかっている嶺二の部屋
嶺二の部屋にいる鳴海、嶺二、雪音
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
雪音は右目に眼帯をつけている
嶺二の部屋の机の上には千春の剣のかけらと専門学校の資料が置いてある
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
タキシード姿の嶺二のことを見ている鳴海と雪音
嶺二「見ろ、完璧に決まってるだろ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)恥をかいても知らないからな・・・」
嶺二「恥?この俺が?」
鳴海「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)そうだ・・・」
嶺二「鳴海は何も分かってねーんだな。こーゆーイベントは目立った奴が勝つんだぜ?」
再び沈黙が流れる
嶺二「雪音ちゃんもそー思うだろ?」
雪音「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)うん。嶺二みたいな目立つイケメンが女子たちからモテるよ」
鳴海「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)一条、お前適当に言ってるだろ」
雪音「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)そんなことないって」
鳴海「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)先に忠告しとくぞ、嶺二。もしお前の自信がへし折られたとしてもそれは一条のせいだ」
雪音「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)違うよ。パーティーの前に鳴海が嶺二の自信を無くそうとしてるの」
嶺二「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)もしやお前ら二人ともてきとーなことを言ってんのか」
雪音「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)あー、そうじゃない?」
鳴海「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)俺は真面目に言ってるんだが・・・」
少しの沈黙が流れる
雪音「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)鳴海って平気で嘘をつくよねー」
鳴海「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)確かに俺は躊躇わずに嘘をつくが・・・お前たちは俺の嘘が絶望的に下手だということを知ってるだろ」
嶺二「そ、そーだな・・・つーことは鳴海が正しいのか!!」
鳴海「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)ああ。俺は今まで間違いを犯したことがない、常に正しい選択だけを選んできた超人だ」
雪音「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)早速下手くそな嘘が出たね、鳴海」
鳴海「(タキシード姿の嶺二のことを見たまま)何を言ってるんだ一条は。俺は今まで間違いを犯したことがない、常に正しい選択だけを選んできた超人なのに、嘘なんかつくわけないじゃないか」
再び沈黙が流れる
嶺二「お前らどっちもてきとーってことかよ・・・」
◯1097一条家リビング(昼過ぎ)
一条家のリビングにいる鳴海と嶺二
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
一条家のリビングは和風で広く、床の半分以上が畳で出来ている
一条家の照明は旅館にあるような和紙が巻いてあるペンダントライトと、同じく和紙が巻いてあるフロアランプの二種類
鳴海と嶺二は椅子に座って雪音の着替えが終わるのを待っている
話をしている鳴海と嶺二
鳴海「昔も似たようなことがあったよな」
嶺二「千春ちゃんが初めて制服を着た時のことか?」
鳴海「ああ」
◯1098Chapter1◯92の回想/早乙女家客室/千春の部屋(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
綺麗で物が少ない和室
千春の部屋にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春
千春は正座をしている
千春は明日香から借りた制服を持っている
部屋の隅にはゲームセンターギャラクシーフィールドのビラが置いてある
菜摘「じゃあ良いって言うまで廊下で待ってて」
鳴海「おう」
部屋を出る鳴海と嶺二
◯1099回想戻り/一条家リビング(昼過ぎ)
一条家のリビングにいる鳴海と嶺二
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
リビングは和風で広く、床の半分以上が畳で出来ている
照明は旅館にあるような和紙が巻いてあるペンダントライトと、同じく和紙が巻いてあるフロアランプの二種類
鳴海と嶺二は椅子に座って雪音の着替えが終わるのを待っている
話をしている鳴海と嶺二
鳴海「しかしよくどこの誰だか分からない奴を文芸部に入れたよな。誰だよこんなイカれた案を提案したのは」
嶺二「おめーだろーが」
鳴海「覚えてやがったか・・・」
嶺二「あたりめーだ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「なあ嶺二」
嶺二「ん?」
鳴海「俺たち、4月の頃から変わったか?」
嶺二「変わっただろ」
鳴海「そうだよな」
嶺二「鳴海も変わったと思うのか?」
鳴海「ああ」
嶺二「変わったのは間違いねーけどよ、やってることはあんま変わってねーよな。女子の家で、女子が着替え終わるのを、俺たちだけでくだらない話をしながら待ってるんだぜ?」
◯1100Chapter1◯93の回想/早乙女家客室前/千春の部屋前(放課後/夕方)
廊下に立って千春が着替え終わるのを待っている鳴海と嶺二
鳴海と嶺二は話をしている
鳴海「(声)じゃあ体俺たちは一体あの頃から何が変わったんだ?」
嶺二「(声)背負ってるもんが変わったじゃねーか」
◯1101回想戻り/一条家リビング(昼過ぎ)
一条家のリビングにいる鳴海と嶺二
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
リビングは和風で広く、床の半分以上が畳で出来ている
照明は旅館にあるような和紙が巻いてあるペンダントライトと、同じく和紙が巻いてあるフロアランプの二種類
鳴海と嶺二は椅子に座って雪音の着替えが終わるのを待っている
話をしている鳴海と嶺二
嶺二「4月はまだ文芸部が出来るかどーかってところだったのに、それが今や軽音部と合同で朗読劇をやることになってるんだぜ?鳴海はあの頃以上に菜摘ちゃんのことが大切になって・・・(少し間を開けて)千春ちゃんはいなくなって・・・雪音ちゃんが文芸部に入って来た。最初は俺らだけだったけど、菜摘ちゃんのお袋さんや親父さんにも色々世話になってさ・・・千春ちゃんがいなくなったから・・・俺らは響紀ちゃんたちとも知り合えたんだ。文芸部を介してっつーか・・・菜摘ちゃんとの関わりが、俺らの関係を広げてるのかもしれねーよな・・・ほんと、不思議な縁だぜ・・・」
鳴海「そうだな・・・」
嶺二「俺、思ったんだけどよ、俺と鳴海の出会いも一種の奇跡なんじゃねーか・・・?だって俺らが出会ってなければ、俺は千春ちゃんのことを好きにならないまま生きてんだぜ?少しズレた時点で運命は狂っちまうのにさ、綺麗に人と人が繋がり合ってんだよな・・・・」
鳴海「俺たちはただの腐れ縁だろ」
嶺二「まーその可能性も捨て切れねーか・・・」
鳴海「実は神谷が仕組んでたってのもあるかもしれないけどな」
嶺二「仕組んでた?クラス替えをか?」
鳴海「そうだ。あいつなら、俺たちの側に明日香を置いて、真面目な生徒に改心させようって目論みをやりそうだろ」
嶺二「あ、ああ」
鳴海「(少し笑いながら)でも神谷の目論みは失敗だったな。結局俺と嶺二は明日香から影響を受けていない」
嶺二「そーか?ちょっとは真面目になったと思うぜ?」
鳴海「生徒会選挙で一、二年生を買収してるんだから、まだまだ一般生徒に比べたら不良だろ」
少しの沈黙が流れる
黒いパーティー用ドレスを着た雪音がリビングにやって来る
雪音は右目に眼帯をつけている
雪音「お待たせ」
鳴海「お、おう・・・(小声でボソッと)す、凄い服を着て行くんだな・・・」
雪音「パーティー用のドレスくらいみんな着るでしょ」
鳴海「そ、そうなのか・・・」
雪音はその場で一周回る
雪音が回ると黒いドレスの裾がひらひらと揺れる
雪音「どう?嶺二、可愛い?」
嶺二「似合ってるな。無駄口を叩かなきゃ可愛く見えるんじゃねーか」
雪音「素直に可愛いって褒めてよ、馬鹿」
嶺二「褒められたきゃ褒められるよーな行動をしろ、アホ」
舌打ちをする雪音
鳴海「お、お前ら一体どういう関係なんだよ・・・」
雪音「えっ、恋人同士だけど?」
鳴海「(驚いて)そ、そうな・・・」
嶺二「(鳴海の話を遮って)ちげーよ!!!」
鳴海「だ、だよな・・・」
雪音「鳴海、今日がいつか知ってる?」
鳴海「く、クリスマスイブだろ」
雪音「じゃあ付き合っちゃうかもね、私と嶺二」
鳴海「ど、どういうことだよ・・・」
雪音「どっちかがどっちかに告白をして、正式にカップルとして・・・」
嶺二「(雪音の話を遮って)あるわけねーだろ」
雪音「分からないよ?イブの晩にどんな奇跡が起きるか」
再び沈黙が流れる
嶺二「くだらねえ・・・準備が終わったなら早く学校に行くぞ」
◯1102波音高校に向かう道中(夕方)
夕日が沈みかけている
波音高校を目指している鳴海、嶺二、雪音
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
雪音はコートの下に黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
鳴海と嶺二は大きな紙袋を持っている
小声で話をしている鳴海と嶺二
雪音は鳴海たちの少し後ろ歩いている
鳴海「(小声で)一条は嶺二のことが好きなのか?」
嶺二「(小声で)てめえ、雪音ちゃんに騙されてんぞ」
鳴海「(小声で)お、俺には一条が嶺二に惚れてるようにしか見えないんだが・・・」
嶺二「(小声で)あいつは俺のことを持ち上げて利用する気なんだよ」
鳴海「(小声で)利用?一条は何かしようとしてるのか?」
嶺二「(小声で)い、いや・・・」
少しの沈黙が流れる
嶺二「(鳴海が持っている大きな紙袋を指差して)つ、つか何で鳴海はクリスマスパーティーに行くだけなのに荷物があんだよ!?」
嶺二が持っている大きな紙袋を見る鳴海
鳴海「(嶺二が持っている大きな紙袋を見たまま)お前だって荷物を持ってるじゃないか」
嶺二「(鳴海が持っている大きな紙袋を指差すのをやめて大きな声で)う、うるせえ!!!」
鳴海「(嶺二が持っている大きな紙袋を見たまま)ま、まさかだと思うが・・・」
嶺二「な、何だよ?」
鳴海「(嶺二が持っている大きな紙袋を見たまま小声で)お前、俺と同じクリスマスプレゼントを買ってないよな?」
嶺二「(大きな声で)こ、これはクリスマスプレゼントじゃねえ!!!!」
鳴海は嶺二が持っている大きな紙袋を見るのをやめて嶺二の肩にポンと手を置く
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)俺も文芸部と軽音部のためにプレゼントを用意しているんだ、お前と同じようにな」
嶺二「(小声で)ま、マジかよ」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)ああ。嶺二も文芸部と軽音部の士気を高めるためにプレゼントを買ったんだろ?」
嶺二「(小声で)そ、そーだ・・・」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)嶺二、お前の気持ちはありがたいんだが・・・プレゼントが被るのは困る。だからお前が用意した物はその辺に捨てといてくれ」
嶺二「(大きな声で)な、何で俺のを捨てなきゃならねーんだよ!?!?」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)だから言っただろ。プレゼントの中身が被ったら困るんだ」
嶺二「(大きな声で)か、被ってるわけがねーだろ!!!!」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)何となく被ってる気がするんだよ」
嶺二「(大きな声で)な、何となくで捨てられるか!!!!」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)すまん、でも捨ててくれ」
再び沈黙が流れる
嶺二「(小声で)ま、まずはてめえがプレゼントに何を買ったのか教えろ、それで被りがあったら捨ててやるよ」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)プレゼントの中身は言わないのが常識だぞ、嶺二」
嶺二「(小声で)被りがあるか確認すんだよ」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)なるほどな・・・嶺二は自分の分のプレゼントがあるか心配だから中身が見たいんだろ。(少し間を開けて)でも大丈夫だ、ちゃんとお前にもプレゼントを買ったからな」
少しの沈黙が流れる
嶺二「(小声で)もうこの話はやめよーぜ・・・」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)プレゼントが被ってたらどうするんだよ」
嶺二「(小声で)鳴海・・・贈り物は気持ちが大事だって言うだろ・・・だから被っててもいーんだ・・・俺らが全力で選んで買ったプレゼントに変わりはねーんだから・・・・」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)でも被ってたら嫌じゃないか」
嶺二「(小声で)貰った側が捨てなきゃもう何でも良いだろ・・・」
鳴海「(嶺二の肩に手を置いたまま小声で)強引なプレゼント理論だな・・・」
◯1103波音高校体育館外(夕方)
夕日が沈みかけている
体育館の外にはたくさんのスーツやコートの下にパーティー用ドレスを着た生徒たちが集まっている
集まった生徒の中には明日香、汐莉、詩穂、真彩もいる
明日香たちは固まって話をしている
明日香は淡いピンク色の、汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをコートの下に着ている
真彩「鳴海くんたち、いつ来るんすかねー」
明日香「さあ・・・そのうちひょっこり現れるとは思うんだけど・・・」
詩穂「連絡しないんですか?」
明日香「あいつ、そんなにスマホを見ないから連絡しても意味がないの」
少しの沈黙が流れる
汐莉「帰りたいな・・・」
明日香「えっ?何で?」
汐莉「時間が勿体無くて・・・早く曲を完成させないとダメなのに・・・」
再び沈黙が流れる
詩穂「(指を差して)あっ、鳴海くんたちだ」
詩穂が指を差してる方を見る明日香、汐莉、真彩
鳴海、嶺二、雪音が明日香たちから数十m離れたところにいる
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
鳴海と嶺二は大きな紙袋を持っている
明日香「(大きな声で)鳴海!!!こっちこっち!!!」
明日香の声に気づく鳴海たち
鳴海、嶺二、雪音は明日香たちのところへ行く
鳴海「お、おお・・・お前たちもど、ドレスなのか・・・」
明日香「何驚いてるの?鳴海」
鳴海「べ、別に驚いてないけどさ・・・」
嶺二「にしてもひっさしぶりに汐莉ちゃんたちと会ったな!!」
汐莉「そうですね」
真彩「先日も迷惑をぶつけまくってすんませんでした」
嶺二「気にすんなって!!それよりライブの練習と曲作りは進んでんのか?」
詩穂「まあまあです」
鳴海「いつぞやみたいに順調って言わないんだな」
汐莉「曲作りは順調ですよ」
雪音「ならまあまあって何なの?」
真彩「ら、ライブの練習はボーカルがいないと完璧にならないんす・・・」
雪音「完璧にならないってことを理解した上で飛び出しのは軽音部でしょ?あなたたちがスケジュールを管理せず、それで私たちの活動に迷惑をかけたんだよね?私たちは私たちで凛っていう大事な役どころが抜け落ちたまま朗読の練習してるんだけど、そのことについての謝罪はないの?ねえ、順調やまあまあで合同朗読劇を・・・」
鳴海「(雪音の話を遮って)やめろ一条・・・」
雪音「何で?後輩に説教をしちゃいけない?」
明日香「不毛な争いに発展しかねない話題は避けるべきよ。いつもの部活なら好きなだけ説教をしても良いけど、今日はクリスマスパーティーなんだから」
少しの沈黙が流れる
詩穂「(小声でボソッと)私たちだって言いたいことは腐るほどあるし」
雪音「は?」
明日香「雪音、詩穂、やめて」
再び沈黙が流れる
鳴海「このクリスマスパーティーは菜摘の要望だったんだ」
雪音「それは前にも聞いた。菜摘って入院してるのにほんとわがままなだよね」
鳴海「菜摘は・・・俺たちが思い出を作って、合同朗読劇までに離れた気持ちを近づけて欲しいと願ってるんだよ。(少し間を開けて)俺は今更・・・お前たち全員が仲良く過ごすとは思っていない。だけど・・・可能な限りお互いに敬意を払って、自分たちを高め合うことは無理じゃないはずだ」
明日香「リスペクトね・・・」
鳴海「ああ。みんな、合同朗読劇を成功をさせるって目的は同じだろ?」
嶺二「おう!!」
鳴海「だったら傷をつけるのはやめよう」
雪音「やめる?常に他人を傷つけてたきた鳴海がやめられるの?」
雪音はチラッと汐莉のことを見る
鳴海「一条と違って、俺は敬意を払うことが出来るぞ」
◯1104波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夕方)
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、詩穂、真彩が体育館の中にいる
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
明日香は淡いピンク色の、汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
明日香たちはコートを脱いでおり、ドレス姿になっている
鳴海と嶺二は大きな紙袋を持っている
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
離れないように固まっている鳴海たち
鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちが体育館の中におり、双葉や一年生の細田周平の姿も確認出来る
双葉と細田はスーツを着ている
生徒たちは友人同士で喋ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷や教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
話をしている鳴海と明日香
鳴海「(小声でボソッと)菜摘と来たかったな・・・」
明日香「プレゼントは菜摘に買ったの?」
鳴海「またプレゼントの話か・・・」
明日香「また?」
鳴海「いや、こっちのことだから気にしないでくれ。それからプレゼントはちゃんと買ったから安心しろ」
明日香「何を買ったの?」
鳴海「大した物じゃない」
明日香「大した物じゃない物をプレゼントにしちゃうわけ?」
鳴海「訂正しよう、大してる物を買った」
少しの沈黙が流れる
詩穂と真彩が話をしている
真彩は話をしながらテーブルの上の料理を見ている
真彩「(テーブルの上の料理を見ながら)まだ食べちゃダメなのー?」
詩穂「ダメ。最初にクリスマスパーティーを実行した生徒会から挨拶があるはずだから」
真彩「(テーブルの上の料理を見ながら)生徒会ってあいつだろー」
詩穂「うん。あいつだね」
真彩「(テーブルの上の料理を見ながら)しほー、こっそり食べちゃおうよー」
詩穂「ダメだってば・・・先生に怒られてつまみ出されるよ」
真彩「(テーブルの上の料理を見ながら)うー・・・あんな近くにポテトチップスコンソメダブルパンチがあるのにー・・・」
詩穂「真彩はクリスマスパーティーを大食いのイベントだと勘違いしてない・・・?」
真彩「(テーブルの上の料理を見ながら)恋人のいない私からすればクリスマスは大食いのイベントみたいな・・・」
話を続ける詩穂と真彩
嶺二と雪音が話をしている
嶺二「ドレスなんてみんなどこで買ってんだ?」
雪音「買ったんじゃなくてレンタル」
嶺二「そーなのか?」
雪音「ここにいる女の子のほとんど全員が借り物のドレスを着てると思う」
嶺二「雪音ちゃんは違うんだろ?」
雪音「うん、これは私物」
嶺二「すげーな・・・一体幾らくらいするんだよ・・・?」
雪音「紳士淑女の社交場で値段を聞くなんて馬鹿だね」
嶺二「す、すまねえ・・・」
少しの沈黙が流れる
雪音「柊木千春のドレス姿、見たかった?」
嶺二「そりゃそうだろ」
雪音「想像しなよ嶺二、千春が私と同じドレスを着てる姿を」
嶺二「想像なんて出来ねーな。まず千春ちゃんと雪音ちゃんじゃ、スタイルがちげーんだ」
雪音「へぇー・・・脚の長さとか?」
嶺二「そーだな」
雪音「胸の大きさも違うよね」
嶺二「だから何だよ?」
雪音「嶺二は小さいのが好きなの?」
嶺二「千春ちゃんの胸が小さいとは一言も言ってねーだろーが」
雪音「うん。でも嶺二の反応を見てたら分かった。千春の胸が小さいってことがね」
嶺二「雪音ちゃんは確かに胸があるけどよ、心がちっせえよな。心に必要な何かが脂肪になっちまったんじゃねのーか?」
雪音「人は見た目だよ。心なんかどうでも良い」
嶺二「雪音ちゃんが考えてるよりも、人は内面に魅力のある生き物だと俺は思いてーけどな・・・」
雪音「なら人じゃない時点で、千春は内面にも魅力がないことになるね」
再び沈黙が流れる
汐莉は誰とも話をしていない
鳴海と明日香は変わらず話をしている
鳴海は話をしながら汐莉のことを見る
汐莉のことを見るのをやめる鳴海
鳴海「明日香、響紀はずっと生徒会にいるわけじゃないんだろ?」
明日香「多分ね」
鳴海「そうか。じゃあ俺たちのところにも・・・」
突然体育館の電気が消え真っ暗になる
体育館のスピーカーから流れていたクリスマスソングが止まる
真彩「食事開始!?」
詩穂「もうそろそろだろうね、いただきますは」
真彩「早くしろ響紀早くしろ響紀早くしろ響紀」
ステージの照明が点灯する
ステージの上ではサンタクロースのコスプレをした響紀が椅子に座ってピアノで”ジングルベル”を弾いている
響紀は付け髭をつけている
生徒たちはステージの上の響紀のことを見ている
響紀「(ジングルベルを弾きながら)フォッフォッフォッ、わしの名はマスターサンタクロースじゃ」
真彩「マスター・・・」
詩穂「サンタクロース・・・?」
響紀「(ジングルベルを弾きながら)そんじょそこらのサンタとは違うてな、わしゃ大物なんじゃ。クリスマスという聖なる・・・あっ、因みに聖なるの聖は男性女性の性ではないぞ。耳と口と王がドッキングしたの方の聖じゃ。みんな、よーく覚えておくのだぞ。今のは年度末試験に出題されるはずじゃからな」
鳴海「何を言ってるんだあいつは・・・」
響紀「(ジングルベルを弾きながら)わしはこの暗黒の土地、波音町にクリスマスを取り戻すために遥々やって来たのじゃ。何と言ってもな、波音町には大魔王がいるからの」
鳴海「ストーリーまであるのかよ・・・」
明日香「響紀らしくて良いじゃない」
鳴海「響紀らし過ぎるから問題だ・・・」
響紀「(ジングルベルを弾きながら)以上じゃ」
鳴海「い、以上だと・・・?」
嶺二「大魔王はどーなったんだよ・・・?」
”ジングルベル”を弾くのをやめる響紀
響紀は立ち上がり、ピアノについていたマイクを手に取る
響紀「(大きな声で)大魔王なんかあたいは知らねえ!!!!一年だからって変な小芝居押し付けやがってスイートメロンパン野郎が!!!!」
鳴海「お、おい・・・響紀の奴しばらく見てない間に変態から変人になってるじゃねえか・・・」
響紀「(大きな声で)良いか野郎共!!!!今日はイブ!!!!だから楽しむぞ!!!!」
体育館全体に沈黙が流れる
響紀「(付け髭を外し床に叩きつけて大きな声で)楽しむぞっつってんだよ!!!!」
嶺二「(手を挙げて)お、おー!!!!」
響紀「(大きな声で)てめえら全員で声を上げなきゃパーティーは開始しねえぞ!!!!」
詩穂「うわっ、響紀くんめんどくさい体育会系の先生みたいなテンションだ・・・」
響紀「(大きな声で)もう一回!!!!全員で!!!!イブの夜を楽しむぞー!!!!」
鳴海・明日香・嶺二・詩穂・真彩・生徒たち「(手を挙げて)おー!!!!」
響紀「(大きな声で)うっしゃあ最高だお前ら愛してるぜ!!!!」
響紀はサンタクロースの帽子を取り、サンタクロースのコスプレを脱ぐ
サンタクロースのコスプレの下にタキシードを着ている響紀
サンタクロースのコスプレを投げ捨て響紀はステージから飛び降りる
響紀「ということで各自楽しんでください、生徒会からの挨拶でした」
体育館の電気が戻り、スピーカーからはクリスマスソングが流れ始める
生徒たちは食事を取りに行ったり、周りにいる人たちと喋り出す
一気に体育館の中が騒がしくなる
真彩「ご飯を確保だ!!行こー詩穂!!」
詩穂「えっ、私は他のところに・・・」
真彩「ごーはーん!!」
詩穂は遠くの方で女子生徒と話をしている細田周平のことを見る
詩穂「(女子生徒と話をしている細田のことを見ながら)うん・・・ご飯ね・・・」
詩穂と真彩は食事が並んでいるテーブルの方へ行こうとする
女子生徒と話をしている細田のことを見るのをやめる詩穂
鳴海「(詩穂と真彩に向かって)な、永山!!奥野!!」
立ち止まる詩穂と真彩
真彩「(振り返って)ご飯が消えてしまう前に取りに行かせてくだせえ鳴海くん!!」
少しの沈黙が流れる
明日香「行かせてあげなさいよ、鳴海」
真彩「お願いします!!自分、腹が減ってるんす!!」
鳴海「わ、分かったよ・・・飯を食って来い・・・」
真彩「ありがとうございます鳴海くん!!この御恩はいつか必ず返しますんで!!」
鳴海「あ、ああ」
真彩「(前を向いて)馳せ参じよう詩穂!!」
詩穂「う、うん」
詩穂と真彩は飲食物が並んでいるテーブルの方へ行く
嶺二「どーするよ?鳴海」
鳴海「そうだな・・・」
明日香「私、響紀を探して来る」
鳴海「あ、明日香、お前まで別行動を・・・」
明日香「(鳴海の話を遮って)大丈夫、後で戻るから」
響紀を探しに行く明日香
鳴海、嶺二、汐莉、雪音の四人がその場に取り残される
嶺二「鳴海、俺と雪音ちゃんで飯を取ってくるよ」
鳴海「お、おう・・」
嶺二「汐莉ちゃん、苦手な食いもんとかあるか?」
汐莉「いえ、特にないです」
嶺二「よし、じゃーてきとーに取ってくるぜ」
汐莉「お願いします」
嶺二は床に大きな紙袋を置く
嶺二「行くぞ、雪音ちゃん」
雪音「(小声でボソッと)後輩に気を使ってる私、超偉いなー・・・」
飲食物が並んでいるテーブルの方へ行く嶺二と雪音
再び沈黙が流れる
鳴海「ほ、本当に久しぶりだな・・・」
汐莉「はい」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ふ、冬休みは旅行とかするのか・・・?」
汐莉「しないですね」
鳴海「爺さん婆さんの家に行ったりは?」
汐莉「ないです」
鳴海「そうか・・・」
鳴海が持っている大きな紙袋を見る汐莉
汐莉「(鳴海が持っている大きな紙袋を見たまま)鳴海先輩」
鳴海「な、何だ?」
汐莉「(鳴海が持っている大きな紙袋を見たまま)クリスマスプレゼントって、いつ渡すのが正解なんでしょうか?」
鳴海「よ、良さげなタイミングで渡すんだよ」
汐莉「(鳴海が持っている大きな紙袋を見たまま)良さげなタイミングっていつです?」
鳴海「そ、それは・・・分からないな・・・」
汐莉「(鳴海が持っている大きな紙袋を見るのをやめて)先輩はいつ渡すんですか?」
鳴海「今はまだ模索・・・ん?ちょっと待て。何故汐莉は俺がプレゼントを渡すと思ったんだ・・・?」
汐莉「クリスマスイブに大きな袋を持ってれば、誰だってプレゼントを渡すって思いますよ」
鳴海「そ、そうか・・・(少し間を開けて)な、なあ汐莉」
汐莉「はい」
鳴海「あ、明日香たちには俺がプレゼントを持ってることは内緒にしといてくれ」
汐莉「内緒にはしますけど・・・でも明日香先輩はもう気づいてると思います、鳴海先輩がプレゼントを持って来てるって」
鳴海「う、嘘だろ・・・」
汐莉「もしかしてサプライズにしたかったんですか?」
鳴海「い、一応はな・・・お、俺の計画だと、副部長からのサプライズプレゼントだったんだが・・・」
汐莉「相変わらず鳴海先輩は計画性が皆無ですね・・・」
鳴海「そ、そうだな・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「フランス、来年に行くか・・・」
汐莉「無理ですよ・・・」
鳴海「どうして無理なんだ?」
汐莉「先輩たちが卒業するからです」
鳴海「でも汐莉はフランスに行ってみたいんだろ?」
汐莉「行きたいですけど、もう諦めてます」
鳴海「そうか・・・(少し間を開けて)菜摘の体調が良くなったら、旅行をするのもありだと思ったんだけどな・・・」
少しの沈黙が流れる
汐莉「菜摘先輩・・・まだ入院してるんですよね・・・」
鳴海「ああ」
汐莉「私たち・・・今凄く悪いことをしてると思います・・・」
鳴海「どういう意味だ?」
汐莉「菜摘先輩が病気で苦しんでるのに、私たちはこんなところでパーティーになんか参加して、のんびり喋ってるんですよ」
鳴海「南、クリスマスパーティーは菜摘が望んだことなんだぞ」
汐莉「菜摘先輩が望んだことに、菜摘先輩がいないっておかしいと思いませんか?朗読劇もそうですけど・・・」
鳴海「おかしくても納得するしかないんだ。これが現実だからな」
汐莉「鳴海先輩・・・(少し間を開けて)変わりましたね」
鳴海「か、変わったか・・・?」
汐莉「はい。凄く変わったと思います」
時間経過
鳴海の周りに明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩が集まっている
鳴海と嶺二の足元には大きな紙袋が置いてある
生徒たちは友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
鳴海「じ、実は・・・(少し間を開けて)お、お前たちにプレゼントがあるんだ!!」
少しの沈黙が流れる
明日香「で・・・?」
鳴海「で、ではないだろでは・・・」
響紀「お金ですか?」
鳴海「いや、金じゃなくてクリスマスプレゼントを・・・」
詩穂「(鳴海の話を遮って)私たちがお金に釣り合う仕事をしてないから給料が貰えないんだ」
鳴海「部活で給料が出たら変だろ・・・」
再び沈黙が流れる
詩穂「(真彩のベージュ色のパーティー用ドレスを指差して)あっ、チキンの汁がドレスについてる」
真彩のベージュ色のパーティー用ドレスには肉汁の染みが出来ている
真彩「(驚いて)ええっ!?」
詩穂「(真彩のベージュ色のパーティー用ドレスを指差したまま)ここここ」
真彩は詩穂が指差してるところを見る
真彩「(ベージュ色のパーティー用ドレスに出来た肉汁の染みを見て)やっば・・・」
嶺二「汚れは100回洗濯すれば取れんだろ」
明日香「そんなにやったらドレスが傷んじゃうでしょうが・・・」
響紀「クリーニングに出して、破れたら店のせいにしよう」
詩穂「最悪だ、響紀くん・・・」
真彩「(ベージュ色のパーティー用ドレスに出来た肉汁の染みを見たまま)つかこんなのクリーニング屋さんで取り扱ってくれるかなー・・・」
雪音「それ、レンタルしてるドレスだよね?」
真彩「(ベージュ色のパーティー用ドレスに出来た肉汁の染みを見るのをやめて)はい・・・」
雪音「なら弁償じゃない?」
真彩「えっ・・・マジですか・・・」
雪音「うん。かなり高くつくと思うよ、パーティー用でも生地の素材で・・・」
鳴海「(雪音の話を遮って)プレゼントがあるって言ってるんだよ!!」
雪音「新品のドレスがプレゼントなの?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「みんな・・・渡しても良いか・・・?」
鳴海は明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩の顔を見る
鳴海「良いってことにするからな・・・」
鳴海は足元に置いてあった大きな紙袋から人数分の大小様々な形のプレゼントの箱を取り出す
明日香「大きさが全然違うのが気になるんだけど・・・」
鳴海「(大小様々なプレゼントの箱を抱えたまま)俺はそれぞれに合うプレゼントを買って来たんだよ」
明日香「鳴海が選んだってこと?」
鳴海「(大小様々なプレゼントの箱を抱えたまま)そうだ」
明日香「一人で?」
鳴海「(大小様々なプレゼントの箱を抱えたまま)ああ。(少し間を開けて)じゃあ配って行くぞ」
鳴海は抱えていた物の中から20cmほどの大きさのプレゼントの箱を明日香に差し出す
鳴海「(20cmほどの大きさのプレゼントの箱を明日香に差し出したまま)ほら、明日香のだ」
明日香「(鳴海から20cmほどの大きさのプレゼントの箱を受け取り)あ、ありがと・・・」
鳴海「(大小様々なプレゼントの箱を抱えたまま)おう、ちゃんと勉強しろよな」
明日香「(不思議そうに)べ、勉強?」
鳴海は抱えていた物の中から15cmほどの大きさの正方形のプレゼントの箱を嶺二に差し出す
嶺二「(鳴海から15cmほどの大きさの正方形のプレゼントの箱を受け取り)なんか重いぞ、これ」
鳴海「(大小様々なプレゼントの箱を抱えたまま)爆弾ではないから安心しろ」
嶺二「安心出来ねーよ・・・」
鳴海は抱えていた物の名から40cmほどの大きなプレゼントの箱を真彩に差し出す
真彩「(鳴海から40cmほどの大きなプレゼントの箱を受け取り)あ、ありがとうございます!!」
鳴海「(大小様々なプレゼントの箱を抱えたまま)奥野の口に合うと良いんだが・・・」
真彩「た、食べ物っすか!?」
鳴海「(大小様々なプレゼントの箱を抱えたまま)そうかもな」
鳴海は抱えていた物の中から15cmほどの大きさでとても薄いプレゼントの箱を詩穂に差し出す
詩穂「(鳴海から15cmほどの大きさでとても薄いプレゼントの箱を受け取り)ど、どうも・・・」
鳴海「(大小様々なプレゼントの箱を抱えたまま)小さいプレゼントだが使ってくれ」
詩穂「あ、はい・・・」
鳴海は抱えていた物の中から20cmほどの大きさで縦長のプレゼントの箱を雪音に差し出す
プレゼントの箱を渡す鳴海のことを見ている明日香と嶺二
明日香「(プレゼントの箱を渡す鳴海のことを見ながら)あの姿、前にどっかで見たような・・・」
嶺二「(プレゼントの箱を渡す鳴海のことを見ながら)まあやんだろ」
明日香「(プレゼントの箱を渡す鳴海のことを見ながら)えっ?」
雪音は鳴海から25cmほどの大きさで縦長のプレゼント箱を受け取る
嶺二「(プレゼントの箱を渡す鳴海のことを見ながら)まあやんからメロンパンを貰ったことを忘れちまったのか?」
◯1105◯960の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)
昼休み
文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある
校庭にある水たまりは乾いていない
真彩が両手にたくさんのメロンパンを抱えている
真彩「(両手にたくさんのメロンパンを抱えたまま)前に鳴海くんたちがスイートメロンパンが食べたいってよく言ってたから、その繋がり買って来たんだ〜」
真彩は両手に抱えていたメロンパンの一つを鳴海に差し出す
真彩「(両手に抱えていたメロンパンの一つを鳴海に差し出したまま)好きなんすよね?メロンパン」
◯1106回想戻り/波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夕方)
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海の周りに明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩が集まっている
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
鳴海はプレゼントの箱を抱えている
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
嶺二の足元には大きな紙袋が置いてある
明日香は淡いピンク色の、汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
響紀はタキシードを着ている
明日香たちは鳴海から貰ったプレゼントの箱を持っている
鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちが体育館の中におり、双葉や一年生の細田周平の姿も確認出来る
双葉と細田はスーツを着ている
体育館には鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちがいる
生徒たちは友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷や教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
鳴海が抱えていた物の中から20cmほどの大きさで横長のプレゼント箱を響紀に差し出す
プレゼントの箱を渡す鳴海のことを見ている明日香と嶺二
明日香「(プレゼントの箱を渡す鳴海のことを見ながら)確かに似てるというか・・・渡し方がまんま同じかも・・・」
嶺二「(プレゼントの箱を渡す鳴海のことを見ながら)だよな」
響紀は鳴海から20cmほどの大きさで横長のプレゼントの箱を受け取る
響紀「フォッフォッフォッ、きっと君は偉大なマスターサンタクロースになれるのじゃ」
鳴海「ならねえよ・・・というかそのキャラは何なんだ・・・」
響紀「1980年代前半に活躍した幻のアマチュアバンド、ダイナマイトローラーバレルズが男子限定クリスマスライブで披露したキャラですが」
鳴海「そ、そんなバンドがあるのか・・・」
響紀「今度ファーストアルバムのエターナルエクリプスエキサイトを貸しますよ。名曲揃いのレコードなんでマジオススメです」
鳴海「いや・・・レコードとかまずオーディオを持ってないから聞けねえし・・・」
響紀「君ならマスターサンタクロースになれるかと思っておったが、わしの見込み違いじゃったか・・・」
鳴海「そ、そうだ。見込み違いだ」
鳴海が持っているプレゼント箱は残り一つになっている
鳴海は15cmほどの大きさで縦長のプレゼントの箱を汐莉に差し出す
汐莉「(鳴海から15cmほどの大きさで縦長のプレゼントの箱を受け取り)ありがとうございます、鳴海先輩」
鳴海「ああ」
嶺二「おい鳴海、プレゼントを開けていーか」
鳴海「良いぞ、ぶち開けてくれ」
嶺二はラッピングの紙をビリビリに破り始める
明日香「(呆れて)もう少し綺麗に開けなさいよ・・・」
鳴海「こういうのはビリビリにした方が楽しいじゃないか、明日香」
明日香「贈り主のあんたがそう言うなら良いけど・・・」
ラッピングの紙を剥がし終え、嶺二はプレゼントの箱から紺色のマグカップを取り出す
嶺二「(紺色のマグカップを見ながら)おー!!鳴海にしては洒落てるじゃねーか!!」
鳴海「だろ」
嶺二「(紺色のマグカップを見ながら)サンキュー!!」
鳴海「おう。みんなも遠慮なく破いて中身を見てくれ」
響紀「ではお言葉に甘えて」
雪音、響紀、詩穂、真彩がラッピングの紙をビリビリに破り始める
明日香「幾ら鳴海から貰った物でもぞんざいに扱うのは気が引けるのよね・・・」
鳴海「お前のプレゼントはぞんざいに扱っても壊れたりしない物だぞ」
明日香「えっ、そうなの?」
鳴海「ああ」
明日香「じゃあ・・・いっか・・・」
明日香がラッピングの紙をビリビリに破り始める
明日香たちと違って汐莉はラッピングの紙を丁寧に外し始める
鳴海「汐莉、お前も破いて良いんだぞ」
汐莉「(ラッピングの紙を丁寧に外しながら)自分がされて嫌なことはしないようにしてるんです」
鳴海「そ、そうか・・・」
雪音、響紀、詩穂、真彩がラッピングの紙を剥がし終え、それぞれプレゼントの箱から黒色の折り畳みの傘、ハーモニカ、図書カード、チョコレートの詰め合わせを取り出す
真彩「(チョコレートの詰め合わせを見ながら)チョコレエエエエエエエエエエエト!!」
鳴海「年末年始にでも食ってくれ」
真彩「ありがとうございます!!」
鳴海「おう」
雪音が黒色の折り畳み傘を広げる
嶺二「黒いドレスに黒い傘か・・・パーフェクトなカラーリングだな」
雪音「(黒い折り畳み傘を広げたまま)そう?」
嶺二「似合ってると思うぞ」
黒色の傘を畳む雪音
鳴海「一条・・・要らなきゃその傘は煮るなり焼くなりしろ・・・」
雪音「うん」
少しの沈黙が流れる
明日香、汐莉がラッピングの紙を剥がし終え、それぞれプレゼントの箱から”秘技 優秀な保育士になるための101の方法”というタイトルの本と、万年筆を取り出す
明日香「(”秘技 優秀な保育士になるための101の方法”を見ながら)何・・・これ・・・」
鳴海「保育士用の教科書だ」
響紀「明日香ちゃん、ハーモニカと交換する?」
明日香「いや・・・ハーモニカの方が要らない・・・」
鳴海「その反応は教科書も要らないっぽいな・・・」
明日香「だって・・・クリスマスプレゼント・・・なのに・・・教科書って・・・」
再び沈黙が流れる
嶺二「教科書よりは図書カードとかチョコレートの方が嬉しーよな・・・」
鳴海「(小声でボソッと)最初からお菓子と図書カードの詰め合わせで良かったってことじゃないか・・・」
明日香「詩穂、幾ら分の図書カードを貰ったの?」
詩穂「(3枚の図書カードを見ながら)3000円分です」
汐莉「図書カードで良かったね、詩穂」
詩穂「うん、助かった」
鳴海「助かったって何だよ・・・」
嶺二「汐莉ちゃんは何を貰ったんだ?」
汐莉「(万年筆を見ながら)高級風の万年筆です」
鳴海「高級風じゃねえ!!実際に高級なんだよ!!」
汐莉「(万年筆を見ながら)そうなんですか」
鳴海「あ、ああ」
少しの沈黙が流れる
嶺二「前座の鳴海が終わったことだし、本命のプレゼントを渡す時が来たか!!」
鳴海「お前、クソみたいなプレゼントだったらブチギレるからな・・・」
嶺二「俺はな鳴海、おめーと違ってみんなが喜ぶもんを買って来たんだよ」
足元に置いてあった大きな紙袋から人数分のプレゼントを取り出す嶺二
嶺二のプレゼントは鳴海が用意した物と違って全て同じサイズで、30cmほどの大きさのリボン付き巾着袋に入っている
嶺二「(鳴海に向かって30cmほどの大きさのプレゼントを放り投げて)男のお前はこれだ」
鳴海「(30cmほどの大きさのプレゼントをキャッチして)男と女で違うのか」
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを何個も抱えたまま)ああ。(明日香に向かってプレゼントを放り投げて)受け取れ明日香」
明日香「(30cmほどの大きさのプレゼントをキャッチして)な、投げないでよ!」
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを何個も抱えたまま)元ソフトボール部なんだからいいじゃねーか」
明日香「プレゼントは投げる物じゃないでしょ!!」
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを何個も抱えたまま)し、汐莉ちゃんたちには手渡しすっから怒るなよ・・・(少し間を開けて)つか明日香以外は一旦こっちに来てくれ」
嶺二の側へ行く汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを何個プレゼントを抱えたまま)鳴海も来いよ」
鳴海「俺の分はもう貰っただろ」
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを何個プレゼントを抱えたまま)鳴海の分は渡したけど、菜摘ちゃんの分がまだだ」
鳴海「そうか・・・菜摘にも用意していたのか・・・」
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを何個プレゼントを抱えたまま)あたりめーだろ」
鳴海は嶺二の側へ行く
30cmほどの大きさのプレゼントを汐莉と真彩に差し出す嶺二
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを汐莉と真彩に差し出したまま)はい、汐莉ちゃんのとまあやんの」
汐莉「(嶺二から30cmほどのプレゼントを受け取り)ありがとうございます」
真彩「(嶺二から30cmほどのプレゼントを受け取り)貰ってばっかでマジ申し訳ねえっす・・・」
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを何個プレゼントを抱えたまま)俺らから貰った分はいつかまあやんたちの後輩に返してやってくれよ、波高の文化を守るためによ」
真彩「は、はい!!」
嶺二は30cmほどの大きさのプレゼントを雪音と響紀に差し出す
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを雪音と響紀に差し出したまま)んでこれが雪音ちゃんと響紀ちゃんのやつ」
雪音「(嶺二から30cmほどのプレゼントを受け取り)ありがと」
響紀「(嶺二から30cmほどのプレゼントを受け取り)私は鳴海先輩から頂いたハーモニカを後輩にプレゼントしたいと思います」
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを何個プレゼントを抱えたまま)おおっ!!それはナイスだな!!」
鳴海「どこがナイスなんだよ・・・」
雪音「波高にハーモニカ同好会が出来たら鳴海のお陰じゃん」
鳴海「そんな同好会が誕生しても俺は1ミリたりとも嬉しくないんだが・・・・」
嶺二は30cmほどの大きさのプレゼントを鳴海と詩穂に差し出す
嶺二「(30cmほどの大きさのプレゼントを鳴海と詩穂に差し出したまま)こっちが詩穂ちゃんので、これが菜摘ちゃんのだ」
詩穂「(嶺二から30cmほどのプレゼントを受け取り)どうもです」
鳴海「(嶺二から30cmほどのプレゼントを受け取り)悪いな、菜摘の物まで用意して貰ってさ」
嶺二「良いってことよ。それよりプレゼントを開けてみてくれ」
鳴海「おう」
プレゼントのリボンを外し、中身を出し始める鳴海、明日香、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
リボン付きの巾着袋から出て来たのはマフラーと手袋
鳴海のは紺色で、明日香、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩のは白色のマフラーと手袋
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
嶺二「部活のユニフォームみてーだろ?」
鳴海「(マフラーと手袋を見ながら)そうだな」
詩穂「(マフラーと手袋を見ながら)ザ青春って感じだ」
嶺二「そーそー」
明日香「(マフラーと手袋を見ながら)嶺二のはないの?」
嶺二「いや、俺のもあるぜ」
嶺二は足元に置いてあった大きな紙袋から30cmほどの大きさのプレゼントを一つ取り出す
プレゼントのリボンを外し、中身を出し始める嶺二
リボン付きの巾着袋から出て来たのはマフラーと手袋で、鳴海の物と同じく紺色
嶺二のマフラーと手袋にも、鳴海たちの物と同様に小さくペンと音符が刺繍されている
鳴海は手袋を両手にはめる
鳴海「男女で色が違うのも良いじゃないか」
嶺二「そーだよな!!」
マフラーを首に巻いている明日香
明日香「(マフラーを首に巻きながら)あっ、意外とあったかい・・・」
嶺二「カシミヤで出来てんだぜ、これ」
真彩「(驚いて)ま、マジっすか!?!?」
嶺二「おう、ユニフォームであると同時に完璧な防寒対策だからな」
真彩「あ、ありがて〜!!」
真彩はマフラーを首に巻く
響紀「明日香ちゃんの離れそうになっても、首に巻いてるマフラーを掴めば大丈夫ですね」
明日香「死ぬでしょ私が・・・」
詩穂「響紀くん怖い・・・サイコパスだ・・・」
響紀「(残念そうに)ダイナマイトローラーバレルズ流のジョーク・・・誰か伝わらないの・・・」
詩穂「響紀くんはジョークの質が悪趣味過ぎだよ・・・」
汐莉は手袋をはめ、マフラーを首に巻いている
マフラーに顔を埋めている汐莉
雪音「これをつけて部員募集をやれってこと?」
嶺二「つけるかつけねーかは任せるけどよ・・・(少し間を開けて)雪音ちゃんはいつもマフラーも手袋もなしで朝の部員募集をやってるから、寒そーだなって思ってたんだ」
汐莉「(マフラーに顔を埋めたまま)雪音先輩だけにプレゼントを渡すのが嫌だから、私たちの分も買ったんですか?嶺二先輩」
嶺二「そ、そーゆーわけじゃねーよ・・・」
俯く嶺二
嶺二は俯いたまま足元に置いてあった大きな紙袋を見ている
大きな紙袋の中には30cmほどの大きさのプレゼントが一つだけ残っている
嶺二「(俯いたまま大きな紙袋の中に一つだけ残された30cmほどの大きさのプレゼントを見て)このプレゼントは・・・文芸部と軽音部の全員に買ったんだ・・・特定の一人のためじゃねえ・・・」
時間経過
外は夜になっている
鳴海、嶺二、汐莉、雪音がテーブルの上の飲食物を見ている
明日香と響紀が鳴海たちから離れたところで話をしている
明日香たちとは別のところで詩穂と真彩が細田を含む数人の男子生徒たちと楽しそうに話をしている
双葉は一、二年生の女子生徒たちと話をしている
生徒たちは友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷たち教師は変わらず体育館の隅で生徒たちのことを監視している
取り皿にクリスマスケーキを乗せようとする雪音
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)雪音先輩」
雪音「(取り皿にクリスマスケーキを乗せようとしながら)何?」
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)そのケーキ、毒が入ってますよ」
クリスマスケーキを取り皿に乗せようとしていた雪音の手が止まる
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)さっき、先輩のことを嫌ってる三年生の女子たちが怪しい液体を入れてたんです」
雪音はクリスマスケーキを取り皿に乗せる
雪音「そう」
テーブルの上にあったフォークを手に取る雪音
鳴海「お前ら、もう少し普通の会話をしてくれ」
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)鳴海先輩、前に言ってましたよね、南のどこが普通なんだって。私もあれから色々考えたんですけど、やっぱり先輩が言ってた通り、私は普通じゃないんだと思います」
少しの沈黙が流れる
雪音がクリスマスケーキを食べ始める
雪音「(クリスマスケーキを食べながら)このケーキ、変わった味がするよ。普通じゃないって感じ、毒でも入ってるのかな?」
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)入ってると良いですね」
頭を抱える鳴海
嶺二「雪音ちゃん」
雪音「(クリスマスケーキを食べながら)嶺二、汐莉の毒入りケーキをアーンってしてあげよっか?美味しいよ」
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)私は何も入れてませんけど」
雪音「(クリスマスケーキを食べながら)誰が入れたって同じじゃん。私のことを恨み嫉妬した女の子には変わりないんだから」
嶺二「雪音ちゃん、てめえはどっか行っちまえよ」
雪音「(クリスマスケーキを食べながら)どっかって?」
嶺二「ここ以外のどっかだ」
食べかけのクリスマスケーキが乗った取り皿をテーブルの上に置く雪音
雪音「はいはい、邪魔者は消えれば良いんでしょ」
雪音は鳴海たちから離れて行く
鳴海「(頭を抱えたまま)敬意を払えと言ってるのに・・・」
嶺二「雪音ちゃんを一人で行かせていーと思うか?鳴海」
鳴海「(頭を抱えたまま)知るかよ・・・追っかけるなら嶺二が行け・・・俺じゃあいつと話をするのは無理だ」
嶺二「そーだな・・・まー俺も雪音ちゃんとは会話にならねーんだけどよ・・・」
鳴海「(頭を抱えたまま)俺よりはマシだろ・・・」
嶺二「ああ・・・全く手のかかるクリスマスシンデレラだぜ・・・」
雪音が向かった方向へ歩き始める嶺二
再び沈黙が流れる
鳴海「(頭を抱えるのをやめて)一条が波音役だって理解してるよな?」
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)はい」
鳴海「一条がクズで、波音役に合わないってことは俺も重々承知してるが・・・だからと言ってああいうのは許されないぞ、南」
汐莉「(料理を見ながら)すみません。今日はイライラしてるんです」
鳴海「それが何だ?一条に喧嘩を売って良い理由になるのか?」
少し沈黙が流れる
汐莉は取り皿を手に取り、雪音が食べていたクリスマスケーキと同じ物を取り皿に乗せる
汐莉「先輩には今の私の気持ちは理解出来ないと思います」
クリスマスケーキを食べる汐莉
汐莉「(クリスマスケーキを食べながら)鳴海先輩、このケーキは思いのほかいけますよ。何だったら普通に美味しいくらいです」
◯1107波音高校女子トイレ(夜)
女子トイレの個室の中にいる雪音
雪音はしゃがんで便器に向かってクリスマスケーキを吐き出している
息切れをしている雪音
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
雪音「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・毒なんか・・・入ってない・・・」
雪音は痰を吐き出す
◯1108波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夜)
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海と汐莉は飲食物が置いてあるテーブルの近くにいる
ケーキを食べている汐莉
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
明日香と響紀が鳴海たちから離れたところで話をしている
明日香たちとは別のところで詩穂と真彩が細田を含む数人の男子生徒たちと楽しそうに話をしている
明日香は淡いピンク色の、汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
響紀はタキシードを着ている
双葉は一、二年生の女子生徒たちと話をしている
双葉と細田はスーツを着ている
体育館には鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちがいる
生徒たちは友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷や教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
話をしている鳴海と汐莉
鳴海「文芸部と軽音部だけでパーティーをやるべきだった」
汐莉「(クリスマスケーキを食べながら)少人数だからですか?」
鳴海「ああ」
汐莉「(クリスマスケーキを食べながら)それはそれで面倒ですよ」
鳴海「そうか?」
汐莉「(クリスマスケーキを食べながら)顔を合わせたくない人と同じ空間にいるのは苦痛ですから」
鳴海「でも部活なんだぞ」
汐莉はクリスマスケーキを食べ終える
汐莉「嫌いな人は嫌いなんです」
鳴海「俺たち三年はもう卒業だ。明日で二学期は終わるし、冬休みが明けたら三年生は自由登校になる。だから今後は顔を合わせる日も少なくなるさ」
少しの沈黙が流れる
汐莉「卒業したら鳴海先輩は文芸部の部員じゃなくなるんですよ」
鳴海「それがどうしたんだ」
汐莉「寂しくないんですか?」
鳴海「寂しいに決まってるだろ」
汐莉「鳴海先輩のくせに素直ですね」
鳴海「事実寂しいからな」
汐莉「卒業したくないって思う時もあるんですか?」
鳴海「そりゃあるぞ。今までみたいにみんなで何かをすることがこの後の人生でもう二度と訪れないって思うと、卒業したくなくなるんだ」
汐莉「私は早く波高を卒業したいです・・・」
鳴海「どうしてだよ」
汐莉「この学校でしたいことはないですから・・・」
鳴海「卒業するまで永山たちと遊んで過ごせば良いじゃないか」
汐莉「私はもっと有意義に人生を使いたいんです」
再び沈黙が流れる
鳴海「有意義に人生を過ごせる相手を見つけるんだ、汐莉」
汐莉「そんな人どうやって見つけるんですか?」
鳴海「世の中には自ずと出会う奴がいるだろ?例えば俺と嶺二とかさ・・・(少し間を開けて)探したり、無理に見つけようとするんじゃなくて、その時汐莉の前に現れた人が、お前の人生を豊かにするんだと思うぞ」
汐莉「その人は・・・響紀じゃないんですね・・・」
鳴海「それはまだ分からないだろ」
汐莉「鳴海先輩、響紀は菜摘先輩と一緒なんですよ。私がどれだけ急いで追いかけても、菜摘先輩と響紀はどんどん遠くへ行っちゃうんです」
少しの沈黙が流れる
汐莉「鳴海先輩だって、もう私から見えないところにいると思います。そんな鳴海先輩よりも更に上へ上へ進むのが菜摘先輩と響紀です」
◯1109波音高校女子トイレ(夜)
洗面台で化粧直しをしている三人の二年生女子生徒たち
三人の女子生徒たちはパーティー用の派手なドレスを着ている
洗面台には二年生女子生徒三人の小さなパーティー用バッグが三つ置いてある
小さなパーティー用バッグ三つには化粧品が入っている
トイレは個室が一つ使用されている
二年生女子生徒1「(化粧直しをしながら)絶対そうだって、音が聞こえたし」
二年生女子生徒2「(化粧直しをしながら)音とかちょーキモいじゃん・・・」
二年生女子生徒3「(化粧直しをしながら)つか吐くまで食うなよ」
二年生女子生徒1「(化粧直しをしながら)ね。こっちまで気持ち悪くなるっつー・・・」
個室から雪音が出て来る
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
雪音を見た途端女子生徒1が黙る
二年生女子生徒1、2、3の化粧直しをしていた手が一瞬止まる
雪音は洗面台で手を洗い始める
雪音の隣にいた女子生徒3が雪音から少し離れる
二年生女子生徒1、2、3は無言で化粧直しを
手を洗い終えた雪音はうがいをする再開する
化粧直しをしながらチラチラ雪音のことを見ている二年生女子生徒1、2、3
雪音はうがいを終える
雪音「ねえ、あなたたちって二年生だよね」
二年生女子生徒たちは化粧直しをするのをやめる
二年生女子生徒1「は、はい・・・」
雪音「私のこと、知ってる?」
ゆっくり首を縦に振る二年生女子生徒2
雪音「私の名前は?」
二年生女子生徒2「(小さな声で)い、一条先輩です・・・」
雪音「下の名前は知らないんだ」
二年生女子生徒2「(小さな声で)はい・・・」
雪音「一回しか言わないからよく聞いててね」
少しの沈黙が流れる
雪音「私が吐いてたってことをこの中の一人でも誰かに言いふらしたら、連帯責任であなたたちの父親の手と足を人参やキュウリを料理する時のように細かく切って、お腹から腸を抉り出すから。そしてその抉り出した腸と細かくなった手足でクリスマスツリーを飾り付けしてあげる。(少し間を開けて)分かった?」
再び沈黙が流れる
ゆっくり首を縦に振る二年生女子生徒2
雪音「そう。連帯責任ってのを忘れないでね」
雪音は女子トイレの扉を開けて廊下に出る
廊下には嶺二がいる
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
雪音「ストーカー」
嶺二「心配して来てやったんだぞ」
雪音「良いよついて来なくて。そもそも嶺二がどっか行っちまえって言ったんじゃん」
嶺二「俺はてめーが汐莉ちゃんと戦争を起こす前に止めてやったんだよ」
雪音「何それ偽善者ぶってんの?」
嶺二「お前はそーゆー見方しか出来ねーのか・・・」
雪音「うざい、キモい、あって行って、邪魔」
嶺二「(呆れて)てめーは気分屋かよ・・・」
少しの沈黙が流れる
雪音「気持ちが悪いの」
嶺二「毒入りのケーキを食ったからだろ」
雪音「毒なんか入ってない・・・」
嶺二「だろーな。ありゃ汐莉ちゃんなりの嫌がらせで、先輩に対して出来る精一杯の反抗だぜ」
雪音「あんなガキの言うことなんか・・・」
嶺二「汐莉ちゃんも分かってんだろ、雪音ちゃんが女子たちから嫌われてるってことがよ」
再び沈黙が流れる
嶺二「雪音ちゃんの弱点を突いてきたってわけだ」
雪音「私がそんなことで負けると思ってるの?」
嶺二「さーな。俺には興味のねーことだし」
化粧直しを終えた二年生女子生徒1、2、3が女子トイレから出て来る
二年生女子1、2、3は化粧品の入った小さなパーティー用バッグを持っている
雪音と二年生女子生徒1、2、3の目が合う
二年生女子生徒1、2、3は早足で雪音から逃げるように体育館へ向かって歩く
雪音「あいつらの顔を見たらまた気持ち悪くなってきた」
嶺二「意味が分からねーよ・・・」
雪音「吐きそう」
嶺二「雪音ちゃんって普段強がってる割には繊細だよな」
雪音「うるさい、どっか行っててよ」
嶺二「どっかってどこだ?」
雪音「体育館に戻れば良いじゃん」
嶺二「あっちには鳴海と汐莉がいるから無理だな」
雪音「二人は友達でしょ」
嶺二「あいつらが友達なら雪音ちゃんだって友達だぞ」
雪音「友達とか要らないから」
嶺二「要らないんじゃなくてただ友達の作り方が分からねーだけだろ」
少しの沈黙が流れる
雪音「私のために死んでくれる友達なら欲しい」
嶺二「雪音ちゃんが求めてるのはイエスマンじゃねーか」
雪音「うん」
嶺二「そんな女が俺のことを好きになるわけがねえ・・・」
雪音「そんな女だから、好きになるんじゃない?」
嶺二「ならねーよ」
再び沈黙が流れる
雪音「私の周りにはずっといなかったの、嶺二みたいな男の人がね」
◯1110波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夜)
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海と汐莉は飲食物が置いてあるテーブルの近くにいる
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
明日香と響紀が鳴海たちから離れたところで話をしている
明日香たちとは別のところで詩穂と真彩が細田を含む数人の男子生徒たちと楽しそうに話をしている
明日香は淡いピンク色の、汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
響紀はタキシードを着ている
双葉は一、二年生の女子生徒たちと話をしている
双葉と細田はスーツを着ている
体育館には鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちがいる
生徒たちは友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷や教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
話をしている鳴海と汐莉
汐莉「私と先輩が同い年だったら、どんな関係になってたと思いますか?」
鳴海「同級生でも今の関係とほとんど変わらないと思うぞ」
汐莉「でも先輩と後輩じゃなくなるんですよ」
鳴海「じゃあ同い年の友達になってたんじゃないか。汐莉と響紀たちみたいにさ」
汐莉「イメージが出来ないです。仲良くなれますかね?」
鳴海「少なくとも今と同じくらいにはな」
汐莉「今の私たちは・・・特別仲良くないじゃないですか」
少しの沈黙が流れる
鳴海「汐莉の中に仲良くなりたいって気持ちはないんだろ」
汐莉「分かりません・・・先輩の中にはあるんですか?」
鳴海「ないことはないと思うぞ」
汐莉「また微妙な言い方ですね・・・」
鳴海「すまん」
汐莉「鳴海先輩」
鳴海「ん?」
汐莉「人との距離感って難しくないですか」
鳴海「難しいな」
汐莉「先輩も、私のことを名前で呼んだり、名字で呼んだりしますけど、あれって距離感が掴めてないせいだと思うんですよね」
鳴海「そうなのか・・・?」
汐莉「はい」
再び沈黙が流れる
鳴海は明日香と響紀のことを見る
明日香と響紀は楽しそうに話をしている
少しすると明日香は響紀から離れて行く
汐莉「何を見てるんです?」
鳴海「(響紀のことを見ながら)響紀だよ」
響紀のことを指差す鳴海
鳴海「(響紀のことを指差したまま)明日香が消えて今は響紀一人だけだぞ」
汐莉「そうですね」
鳴海は響紀のことを指差すのをやめる
鳴海「そうですね、じゃないだろ」
汐莉「何のことですか?」
汐莉の腕を掴む鳴海
鳴海「(汐莉の腕を引っ張って)響紀のところへ行くぞ」
汐莉「(抵抗しながら)や、やめてくださいよ先輩」
鳴海「(汐莉の腕を引っ張りながら)南、せっかくのクリスマスイブに話もしないなんてどうかしてるぞ」
汐莉「(抵抗しながら)よ、余計なお世話です!」
鳴海「(汐莉の腕を引っ張りながら)良いから来いよ!!俺が響紀と引き合わせやるから!!」
汐莉「(抵抗しながら)や、やめてってば先輩!!」
鳴海「(汐莉の腕を引っ張りながら)明日香がいない時しかチャンスはないんだぞ!!」
汐莉「(抵抗しながら)そ、そんなこと分かってますよ!!」
鳴海「(汐莉の腕を引っ張りながら)分かってるなら早くしろ!!」
汐莉は鳴海の手を無理矢理引き離し、鳴海から離れる
鳴海「好きって想いは自分から伝えに行かなきゃ拾って貰えな・・・」
汐莉「(鳴海の話を遮って大きな声で)私の気持ちを弄ばないで!!!!」
騒がしかった体育館の中が一瞬で静かになる
響紀、詩穂、真彩、双葉、細田、神谷などを含む大勢の人が鳴海と汐莉のことを見る
汐莉は泣いている
◯1111波音高校廊下(夜)
廊下を歩いている明日香
明日香は淡いピンク色のパーティー用ドレスを着ており、化粧品の入った小さなパーティー用バッグを持っている
女子トイレに向かっている明日香
少し歩くと明日香はトイレの前で話をしている嶺二と雪音に会う
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
明日香「二人とも、トイレの前で何してるの?」
嶺二「見て分からねーのか?」
明日香「分かるわけないでしょ」
嶺二「物思いにふけってんだよ」
少しの沈黙が流れる
雪音「気分が悪くなっちゃって、嶺二に付き添って貰ってるの」
明日香「えっ、大丈夫?」
雪音「うん」
嶺二「明日香も物思いにふけりに来たのか?」
明日香「(呆れて)メイク直しに来たのよ・・・」
嶺二「化粧を直してる間に響紀ちゃんが取られても知らねーぞ」
明日香「取られるわけないでしょうが」
嶺二「響紀ちゃんのことを狙ってる奴が・・・」
明日香「(嶺二の話を遮って)そんな人いないから」
再び沈黙が流れる
明日香「二人はパーティーに戻らないわけ?」
顔を見合わせる嶺二と雪音
嶺二「どーするよ?雪音ちゃん」
雪音「私はもう良いや、今何が起きてるのか大体の予想がついてるから」
明日香「何かあるの?」
雪音「何かはあるよ。当事者からすれば最悪なことがね」
◯1112波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夜)
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海と汐莉は飲食物が置いてあるテーブルの近くにいる
響紀、詩穂、真彩、双葉、細田、神谷などを含む大勢の人が鳴海と汐莉のことを見ている
体育館には鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちがいる
汐莉は泣いている
汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
響紀はタキシードを着ている
体育科の中は静かで、スピーカーから流れるクリスマスソングが響いている
汐莉から顔を逸らす鳴海
鳴海「お、俺は弄んでなんか・・・」
汐莉「(泣きながら小さな声で)弄んでますよ・・・鳴海先輩は私の好きな人を知っていて・・・私をその人と近づけることで自分の心を満たそうとしてるじゃないですか・・・」
鳴海「(大きな声で)それはお前も同じだろ!!!!自分が満足するために菜摘や俺の役に立とうとしてるはずだ!!!!」
汐莉「(泣きながら大きな声で)違いますよ!!!!私は先輩たちのことが好きだから頑張ってるんです!!!!」
鳴海「(大きな声で)俺だって!!!!俺がお前のことを見放せないのはお前が大切な友達だからだ!!!!」
汐莉「(泣きながら大きな声で)嘘をつかないで!!!!先輩たちは私よりも一条雪音と仲良くしてるじゃないですか!!!!」
鳴海「(大きな声で)そんなことはない!!!!いつも出来るだけのお前の味方を・・・」
汐莉「(泣きながら大きな声で)何を勘違いしてるんですか!?!?先輩は菜摘先輩の言うことを聞いてるだけなのに!!!!私の味方をしたいならまずは私に敬意を払えよ!!!!」
少しの沈黙が流れる
汐莉「(泣きながら大きな声で)先輩もいつか私みたいに苦しめば良い!!!!好きな人たちに見放される痛みを知って後悔してください!!!!先輩の人生なんか私が呪ってやりますから!!!!」
どこからか波の音が聞こえて来る
汐莉の瞳には滅びかけた世界の緋空浜の浜辺で一人掃除をしている老人の姿が映っている
汐莉の瞳に映っている滅びかけた世界の緋空浜は様々なゴミで溢れている
汐莉の瞳に映っている老人はトングでゴミを拾っている
汐莉の瞳に映っている滅びかけた世界の緋空浜の波が荒れている
波の音は鳴海と汐莉にしか聞こえていない
涙を流す鳴海
鳴海「(涙を流して)お、俺は・・・お前の味方でいたいんだ・・・卒業してもお前の友人でいたい・・・今までだって傷つけるつもりはなかったんだ・・・(少し間を開けて)ただどうやって接したら良いのか分からなくて・・・」
再び沈黙が流れる
涙を拭う汐莉
汐莉の瞳に映っていた滅びかけた世界の緋空浜と老人は消えており、鳴海姿が映っている
波の音が聞こえなくなる
神谷が鳴海と汐莉のところへやって来る
神谷「(汐莉に向かって)落ち着いたか?汐莉」
汐莉は俯く
鳴海は涙を拭う
神谷「汐莉、先生と二人でゆっくり話をしよう。良いね?」
汐莉「(俯いたまま小さな声で)はい・・・」
鳴海「せ、先生、俺も一緒に・・・」
神谷「(鳴海の話を遮って)ダメだ。鳴海が出る幕ではない」
鳴海「お、俺も話は聞けます!!」
神谷「感情のコントロールが出来ない子供を連れ込むわけにはいかないんだよ」
少しの沈黙が流れる
神谷「鳴海、後で君には謝罪の機会を与えるから、その時まで待ってるんだ」
鳴海「そんな・・・」
神谷「何か口にして頭を冷やしてなさい」
再び沈黙が流れる
神谷「では行こうか、汐莉」
汐莉は俯いたまま頷く
汐莉と神谷は鳴海を置いて歩き始める
鳴海は呆然とその場で立ち尽くしている
◯1113波音高校廊下(夜)
トイレの前の廊下で話をしている明日香、嶺二、雪音
明日香は淡いピンク色のパーティー用ドレスを着ており、化粧品の入った小さなパーティー用バッグを持っている
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
明日香「何でクリスマスパーティーまで嫌な雰囲気になっちゃうわけ?」
嶺二「雪音ちゃん本人に聞けよ」
明日香「何でなの?雪音」
雪音「先にケーキのことで喧嘩を吹っかけて来たのは汐莉だし、私は挑発に乗っただけだから」
明日香「そもそも挑発に乗るのがいけないんでしょ」
雪音「明日香だって鳴海や嶺二に喧嘩を売られたら買ってるじゃん」
明日香「そ、そうね・・・(少し間を開けて)私もまだまだ子供なのかも・・・」
嶺二「明日香、俺らが毎回やってるようなくだらねー煽り合いとはわけが違うんだぜ?雪音ちゃんと汐莉ちゃんのはもっとマジの戦争なんだ」
明日香「じゃあマジになるきっかけは何なのよ」
少しの沈黙が流れる
雪音「嫉妬と承認欲求かな」
明日香「汐莉が雪音に嫉妬してるの?」
雪音「ううん」
明日香「えっ?雪音が汐莉に嫉妬してたってこと?」
雪音「そう」
明日香「な、何で・・・?」
雪音「汐莉は特別だから」
明日香「特別・・・?」
雪音「うん」
再び沈黙が流れる
少しすると神谷と汐莉が明日香たちの前を通り過ぎる
汐莉は紺色のパーティー用ドレスを着ている
汐莉は明日香たちと目も合わせず俯いたまま通り過ぎて行く
明日香は汐莉と神谷のことを見ている
明日香「(汐莉と神谷のことを見ながら)も、もしかして雪音が言ってた何かって汐莉のことなの?」
雪音「そうじゃない?おそらく汐莉は大好きな先輩と喧嘩したんだよ」
嶺二「またやらかしたのか鳴海・・・」
雪音「鳴海が100%中100%悪いってことはないと思うけどねー」
明日香は汐莉と神谷のことを見るのをやめる
嶺二「あいつらは仲が良いんだかわりーんだか分からなくて困っちまうぜ・・・」
明日香「あんたと雪音の関係も十分よく分からないでしょ・・・」
◯1114波音高校生徒相談室/通称説教部屋(夜)
テーブルを挟んで向かい合っている汐莉と神谷
汐莉はパイプ椅子に、神谷はソファに座っている
汐莉は紺色のパーティー用ドレスを着ている
俯いている汐莉
相談室には椅子とテーブル以外に目立つ物はない
エアコンのリモコンを使って暖房をつける神谷
神谷「クリスマスイブに、大切な生徒に風邪を引かせるわけにはいかないからね。暖房は強めに設定させてもらうよ」
汐莉は俯いたまま頷く
神谷は暖房をつけた後、テーブルの上にエアコンのリモコンを置く
神谷「可哀想に・・・汐莉のクリスマスを破壊した生徒がいるんだな・・・」
汐莉「(俯いたまま)悪いのは私なんです・・・神谷先生・・・」
神谷「少年少女が自己嫌悪に陥るのはよくあることだよ、汐莉」
汐莉「(俯いたまま)大人は自分のことが嫌にならないんですか・・・?」
神谷「ああ。大人たちは自分という性格がゴミやクズであると理解しているし、その現実から目を背け笑っているからね」
汐莉「(俯いたまま)神谷先生は・・・悪い大人には見えません・・・」
神谷「俺は善良な人間なのか?」
汐莉「(俯いたまま)そうだと思います・・・」
少しの沈黙が流れる
神谷「汐莉、先生は悪い大人だよ。君の役に立ちたいのに、今こうして俺がしてるのは話を聞くことだけだ。教師なら、もっと実効的なことをして生徒の肩を持たなくてはいけないのに」
顔を上げる汐莉
汐莉「先輩たちは・・・私の話を聞いてくれないんです・・・でも神谷先生は違うじゃないですか・・・先生はちゃんと私の話を聞こうとしてくれてます・・・」
神谷「汐莉、鳴海たちが傲慢なのは三年間で彼らを変えることが出来なかった先生の責任なんだ・・・(少し間を開けて)先生のせいで君に迷惑をかけてしまった・・・謝るよ・・・すまないね・・・」
汐莉「いえ・・・きっと鳴海先輩は元々ああいう性格なんだと思います・・・」
神谷「汐莉は鳴海のことが嫌いになったか?」
再び沈黙が流れる
神谷「上下関係はさぞ苦痛だろうね・・・」
汐莉「はい・・・」
神谷「権力者はいつもそうだ・・・自分たちが偉いとばかり思い込んで、一番近くの部下に恨まれている。彼らは一見無敵のようだが、実は違ってね・・・往々にしてそういう権力者はあっさり死ぬのが運命だ。(少し間を開けて)際立った人間でも、人生の幕引きは驚くほど地味なことが多い」
少しの沈黙が流れる
汐莉「神谷先生はどうやったら鳴海先輩と仲直りが出来ると思いますか・・・」
神谷「汐莉と鳴海の間に出来た壁は、もう破壊のしようがない。鳴海が更生しないように、君が彼の側にいて得る苦痛の量も等しく変わらないからね。汐莉も、鳴海の口先だけの謝罪は聞きたくないだろう?」
汐莉「そう・・・ですね・・・」
神谷「だったら解の出し方は数学の問題よりも簡単だ。(少し間を開けて)エックスイコール君たちの友情は死んだ、これが公式だよ、汐莉」
◯1115波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夜)
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
飲食物が置いてあるテーブルの近くで話をしている鳴海と響紀
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
響紀はタキシードを着ている
鳴海たちとは別のところで詩穂と真彩が細田を含む数人の男子生徒たちと話をしている
詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスを着ている
双葉は一、二年生の女子生徒たちと話をしている
双葉と細田はスーツを着ている
体育館には鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちがいる
生徒たちは友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
一年生の生徒たちが鳴海と響紀のことを見ながら話をしている
一年生男子生徒1「(鳴海と響紀のことを見ながら)あー知ってるわ・・・・南を泣かせた人、朝部員募集とかやってるっしょ・・・?」
一年生男子生徒2「(鳴海と響紀のことを見ながら)そうそれ、文芸部だっけ・・・?よく知らねえけど」
一年生女子生徒1「(鳴海と響紀のことを見ながら)あの人たちすぐ声をかけてくるからちょー鬱陶しいんだよねー」
一年生女子生徒2「(鳴海と響紀のことを見ながら)つか圧が凄くてちょっと怖くない?」
一年生男子生徒1「(鳴海と響紀のことを見ながら)それめっちゃ分かる、奥野たちもよくあんな人たちと部活出来るよな・・・」
一年生男子生徒2「(鳴海と響紀のことを見ながら)三枝と天城先輩が付き合ってて、他の奴らは三枝たちに巻き込まれてるらしいよ」
一年生女子生徒1「(鳴海と響紀のことを見ながら)その噂ってやっぱマジなの?」
一年生女子生徒2「(鳴海と響紀のことを見ながら)マジじゃね?この前一緒に登校してんの見たよ私」
一年生の生徒たちは鳴海と響紀のことを見ながら話を続ける
鳴海と響紀は変わらず話をしている
響紀「うちの汐莉をいじめないでもらえますか」
鳴海「す、すまない・・・」
響紀「すまないじゃねえよはっ倒すぞこのメロンパン野郎」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(小声でボソッと)すまん・・・」
響紀「謝る気があるなら汐莉に謝ってください」
鳴海「南が戻って来たらそうす・・・」
響紀「(鳴海の話を遮って)何であんたははいそうしますって言えないんですか」
鳴海「すまん・・・」
響紀「いつもおちゃらけてる私も、仲間が傷つくようなことがあれば朗読劇から身を引きますよ」
再び沈黙が流れる
響紀「おい、人の話を聞いてんのかメロンパン野郎」
鳴海「あ、ああ・・・南にはちゃんと謝るよ・・・」
響紀「私たちは鳴海くんのことを信じて活動をしてきたんです。汐莉だってそうですから・・・汐莉は鳴海くんのことを信じているから、一人で曲を作れているんです。私たちの想いを、裏切らないでくださいね」
鳴海「分かってる・・・」
少しの沈黙が流れる
明日香、嶺二、雪音、神谷が体育館の中へ入って来る
数冊の本を抱えている神谷
明日香は淡いピンク色のパーティー用ドレスを着ており、化粧品の入った小さなパーティー用バッグを持っている
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
神谷が体育館の中へ入って来たことに気づき、鳴海は神谷の元へ駆け寄る
鳴海「か、神谷先生!!(周囲を見ながら)み、南はどこにいるんですか!?」
神谷「汐莉ならもう帰ったよ、鳴海」
鳴海「(周囲を見るのをやめて)か、帰った・・・?」
神谷「ああ」
雪音「残念だったね、役立たずな鳴海先輩」
鳴海「(大きな声で)な、何で南を引き止めなかったんだ!!!」
明日香「わ、私たちだって汐莉が帰るところを直接見たわけじゃないし・・・」
嶺二「俺らも先生から帰ったって聞いただけなんだよ、鳴海」
少しの沈黙が流れる
神谷「見送りは先生がしたから、鳴海はもう心配しなくて良い」
鳴海「(大きな声で)せ、先生は後で俺に謝罪の機会を与えるって言ってたじゃないか!!!だから俺はここで待ってたんですよ!!!」
神谷「大人は嘘をつくんだ、鳴海。今回の件で君も大人の嘘を学べて・・・」
神谷が喋りかけている途中で鳴海は神谷に殴りかかろうとする
嶺二が慌てて鳴海の肩を押さえて鳴海の動きを止める
嶺二「(鳴海の肩を押さえたまま)やめるんだ鳴海!!」
鳴海「(暴れながら大きな声で)あんたが汐莉を帰らせたんだろ!!!!」
神谷「誤解しないでくれ、鳴海。先生は先生がしなきゃいけないことを、傷ついた生徒にしてあげただけなんだ」
鳴海「(暴れながら大きな声で)クソッタレが!!!!」
明日香「な、鳴海!!あんたが今暴れたら文芸部はどうなるの!?」
鳴海「(暴れながら大きな声で)知らねえよそんなこと!!!!」
神谷「良いのか?教師を殴れば文芸部は即刻活動停止になるぞ?」
鳴海「(暴れながら大きな声で)どうせそれも嘘なんだろ!!!!」
神谷「君は本当に賢くないな。下手な行動は退学や停学を招くと分からないのか?」
鳴海「(暴れながら大きな声で)黙れよクソ教師が!!!!」
神谷「今の発言は聞かなかったことにしてあげよう、鳴海へのクリスマスプレゼントとしてね」
鳴海は嶺二に抑えられたまま暴れ続ける
鳴海「(暴れながら大きな声で)離してくれ嶺二!!!!」
嶺二「(鳴海の肩を押さえたまま大きな声で)鳴海が学校から消えたら菜摘ちゃんが悲しむだろうが!!!!」
再び沈黙が流れる
神谷のことを睨みつけたまま渋々暴れるのをやめる鳴海
神谷「嶺二は素晴らしい友人だ、鳴海」
神谷から顔を背ける鳴海
鳴海「(神谷から顔を背けたまま)離せよ嶺二・・・」
嶺二はゆっくり鳴海の肩を押さえるのをやめる
神谷「汐莉は君たち先輩たちへクリスマスプレゼントを残して行ったよ」
神谷は持っていた4冊の本を鳴海たちに差し出す
4冊の本は全て同じ
本のタイトルは”年下と上手に会話を行う本”
本を受け取る明日香、嶺二、雪音
明日香、嶺二、雪音は”年下と上手に会話を行う本”を見ている
明日香「(”年下と上手に会話を行う本”を見ながら)また教科書みたいな本ね・・・」
嶺二「(”年下と上手に会話を行う本”を見ながら)汐莉ちゃんらしいな・・・」
雪音「(”年下と上手に会話を行う本”を見ながら)このタイトル、私たちへの嫌味でしかないじゃん・・・」
神谷「(”年下と上手に会話を行う本”を鳴海に差し出したまま)鳴海、君も受け取りなさい」
渋々神谷から本を受け取る鳴海
神谷「よろしい。今日の鳴海の行いは最低最悪だったが・・・目を瞑ることにするよ。君も思春期だからね、怒りやすくなるのも先生には理解出来るよ。(少し間を開けて)さて・・・先生は少し見回りをしようかな。何か用があったら気軽に声をかけてくれ」
神谷は歩き出し、鳴海たちから離れて行く
少しの沈黙が流れる
鳴海「お前たちはどこで何をしてたんだ・・・」
明日香「どこで何をって・・・廊下で少し話してただけだけど・・・」
響紀が鳴海たちのところへ走ってやって来る
響紀「明日香ちゃーん!!こんなメロンパンな奴らといないで私と聖なる夜を過ごしましょう!!」
明日香「う、うん・・・」
嶺二「目の前でこんなメロンパンな奴らって言うなよ・・・」
響紀は明日香の腕を引っ張る
明日香「(響紀に腕を引っ張られながら)じゃ、じゃあ・・・私行くから・・・」
明日香は響紀に腕を引っ張られながら、鳴海たちから離れて行く
雪音「あんなんでも空気読めてるよね、あの子」
嶺二「響紀ちゃんのことか?」
雪音「うん。神谷との話が終わってから明日香のところへ来たでしょ?変人キャラみたいなふりしてるけど、実は普通なんだって思って」
嶺二「そもそも空気が読めなきゃ軽音部のリーダーにはならねーだろ」
雪音「そうだね、どこかの副部長さんと違って響紀は空気の読めるリーダーだったよ」
チラッと鳴海のことを見る雪音
鳴海「悪かったな・・・空気の読めない副部長で・・・」
嶺二「き、気にすんなって鳴海!!し、汐莉ちゃんなら疲れてるだけだと思うぜ!!」
鳴海「お前は怒り狂う南を見てないからそんな気休めが言えるんだ・・・」
嶺二「そ、そりゃ・・・確かに見てねーけど・・・」
再び沈黙が流れる
雪音「汐莉の気持ちが分かるよ、可哀想に・・・」
鳴海「お前が南のことを分かってるわけ・・・」
雪音「(鳴海の話を遮って)そういう先入観を抱いているから、汐莉を泣かせたんじゃないの?」
鳴海「お前も南を追い詰めた一人なんだぞ!!」
少しの沈黙が流れる
嶺二「け、敬意を払う、だろ・・・?鳴海も雪音ちゃんも、チキンでも食って楽しいクリスマスイブにし・・・」
雪音「(嶺二の話を遮って)あーあ、私疲れたし、そろそろ帰ろうかなー」
嶺二「ま、まだパーティーは終わってねーんだぞ!!」
雪音「パーティー?ただご飯を食べて、プレゼントを貰っただけじゃん」
嶺二「り、立派なパーティーじゃねーか!!」
雪音「子供向けのね。てか汐莉が帰ったんだよ?なら私たちも解散して良くない?」
嶺二「し、汐莉ちゃんはそーたいしたんだよ!!」
雪音「私も早退したいなー」
嶺二「だ、ダメに決まってんだろ!!」
雪音「じゃあ嶺二は私とクリスマスイブの夜を一緒に過ごしてくれるの?」
嶺二「い、今一緒に過ごしてるじゃねーか!!」
雪音「私、この後のことを言ってるんだけどなー」
嶺二「す、過ごすわけねーだろ!!」
雪音「あっそ。だったら私は帰るね」
雪音は体育館の出入り口に向かって歩き出す
嶺二「ゆ、雪音ちゃん!!」
雪音は嶺二のことを無視する
嶺二「な、鳴海!!あの女マジで帰っちまうぞ!!」
鳴海「放っておけ・・・」
嶺二「い、いーのかよ?」
鳴海「ああ・・・このイベントは南が帰った時点でお開きだからな・・・」
嶺二「く、クリスマスパーティーなんだぜ?せめて解散する前にみんなで何かして・・・」
鳴海「(嶺二の話を遮って)その何かが思いつかないからお開きなんだよ・・・」
再び沈黙が流れる
嶺二「ぱ、パーティーは失敗ってことか・・・?」
鳴海「そうだ・・・(少し間を開けて)間違いなく文芸部史上最大の失敗だ・・・」
◯1116波音総合病院/智秋の個室(夜)
智秋の病室にいる雪音と智秋
智秋はベッドに横になっている
雪音はベッドの横の椅子に座っている
雪音は黒いパーティー用ドレスの上にコートを着ており、右目には眼帯をつけている
雪音の足元には紙袋が置いてあり、その中には鳴海、嶺二、汐莉から貰ったクリスマスプレゼントが入っている
智秋は痩せている
ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、原作の波音物語を含む数冊の本、雪音と智秋のツーショット写真、プレゼント箱と香水などが置いてある
話をしている雪音と智秋
智秋「ドレス、可愛いね」
雪音「これお姉ちゃんが着てたんだよ」
智秋「へぇー・・・そうだったんだ」
雪音「覚えてないの?一条会と、五十嵐組、熊谷会、望月組と四合会合をした時に、お姉ちゃんがこのドレスを着てて・・・」
智秋「もう忘れちゃった」
雪音「望月組のチンピラにナンパされてたじゃん」
智秋「ナンパなんてよくあったし、状況や男の顔までいちいち覚えてないよ」
少しの沈黙が流れる
雪音「お姉ちゃんは美人だからね・・・」
智秋「雪音だって綺麗じゃない」
再び沈黙が流れる
雪音はベッドの横の棚の上に置いてあったプレゼント箱と香水を手に取る
雪音「(プレゼント箱と香水を見ながら)風夏さんから?」
智秋「うん。試してみてよ」
プレゼント箱を棚の上に置き、雪音はコートの袖をまくる
手首に香水をつける雪音
雪音は手首についた香水の香りを嗅ぐ
雪音「(手首についた香水の香りの嗅ぎながら)良い香り・・・」
智秋「雪音にあげる」
手首についた香水の香りの嗅ぐのをやめる雪音
智秋「同じ香水が家にあるから」
少しの沈黙が流れる
雪音「何で嘘をつくの、お姉ちゃん」
智秋「嘘?」
雪音「うん。家にこの香水はないのに」
智秋「そうだっけ?」
雪音「とぼけないでよ」
智秋「ごめん、雪音がその香水を欲しがってるのかと思って」
雪音「私、お姉ちゃんの物なんか要らないんだけど」
智秋「そう・・・」
雪音は香水を棚の上に置く
雪音の足元にある紙袋を見る智秋
智秋「(雪音の足元にある紙袋を見て)友達から貰ったの?」
雪音「文芸部の子たちからね」
紙袋の中に入っていた黒色の折り畳みの傘、白色のマフラーと手袋、”年下と上手に会話を行う本”というタイトルの本を取り出す
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
雪音「(黒色の折り畳みの傘、白色のマフラーと手袋、”年下と上手に会話を行う本”を智秋に見せて)お姉ちゃんはどれか欲しいのがある?」
首を横に振る智秋
智秋「マフラーとか手袋は何万回もプレゼントされたし、傘も貰ったことがあるんだよね、私」
雪音は黒色の折り畳みの傘、白色のマフラーと手袋を足元にある紙袋にしまう
雪音「(”年下と上手に会話を行う本”を智秋に見せたまま)じゃあこれは?」
智秋「歳の離れた人たちのコミュニケーションはもう心得てるから」
“年下と上手に会話を行う本”を強く握り締める雪音
“年下と上手に会話を行う本”の表紙にシワが出来る
智秋は“年下と上手に会話を行う本”を強く握り締めている雪音の手に自分の手を置く
智秋「(“年下と上手に会話を行う本”を強く握り締めている雪音の手に自分の手を置いたまま)学校で何かあったの?」
雪音「(“年下と上手に会話を行う本”を強く握り締めたまま)ううん。別に」
雪音は“年下と上手に会話を行う本”を強く握り締めている手を引っ込め、足元にある紙袋に“年下と上手に会話を行う本”をしまう
智秋から顔を背ける雪音
雪音「(智秋から顔を背けたまま)お姉ちゃん・・・死ぬのって怖いよね」
智秋「全然」
少しの沈黙が流れる
智秋「私に怖いものがないってことは、妹の雪音が一番分かってると思ってたけど・・・?」
雪音「(智秋から顔を背けたまま)うん・・・お姉ちゃんのことは何でも分かってるよ・・・」
再び沈黙が流れる
雪音「(智秋から顔を背けたまま)私・・・お姉ちゃんよりも完璧な人間って出会ったことがないんだよね・・・」
◯1117波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夜)
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海、嶺二、真彩は飲食物が置いてあるテーブルの近くにいる
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
明日香と響紀が鳴海たちから離れたところで話をしている
明日香たちとは別のところで詩穂が細田と楽しそうに話をしている
明日香は淡いピンク色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
響紀はタキシードを着ている
双葉は一、二年生の女子生徒たちと話をしている
双葉と細田はスーツを着ている
鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちがおり、友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷や教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
話をしている嶺二、真彩
鳴海は嶺二と真彩の会話を聞きながらボーッとしている
真彩「あちゃー・・・それはやっちゃいましたねー・・・」
嶺二「まあやんも帰るのは酷過ぎだと思うだろ」
真彩「んー・・・でも・・・確かにそろそろ帰りたいよーな・・・」
嶺二「えっ!?もう帰んのかよ!?」
真彩「はい・・・詩穂と響紀が構ってくれないんで・・・」
嶺二「そーいやさっきから詩穂ちゃんは誰と話をしてんだ?」
詩穂「一年の細田くんっす」
嶺二「仲がいーんだな」
詩穂「自分もよく知らないんですけど・・・詩穂は細田くんのことが気になってるらしくて・・・」
嶺二「恋じゃねーか」
詩穂「決めつけちゃいますそれ」
嶺二「気になってるなら恋しかねーだろ!!」
詩穂「はあ・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「嶺二・・・お前はいつ帰るんだ」
嶺二「決めてねーけど・・・」
鳴海「奥野はもう帰るんだろ・・・?」
真彩「はい」
再び沈黙が流れる
嶺二「やっぱ今日は解散か・・・」
真彩「ですねー・・・」
嶺二「クリスマスイブだっつーのに、こんなんで終わりかよ・・・」
鳴海「(声 モノローグ)自分のせいで全てが水の泡になってしまった。悪かった状況をもっと悪くしてしまった。汐莉に対して取り返しのつかないことをしてしまった。頭が真っ白で、それを隠すように嶺二と奥野に無理矢理話を振ったが、気持ちが落ち着くことはなかった。(少し間を開けて)そして、気が付くと俺は波音総合病院にいた」
◯1118波音総合病院/菜摘の個室(夜)
菜摘の病室にいる鳴海と菜摘
菜摘はベッドに横になっている
菜摘は嶺二のクリスマスプレゼントで貰った白色のマフラーと手袋を身につけている
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
鳴海はベッドの横の椅子に座っている
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
鳴海の足元には紙袋が置いてあり、その中には嶺二、汐莉から貰ったクリスマスプレゼントが入っている
菜摘は痩せている
ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本、プレゼント箱と香水、香水とはまた別のプレゼント箱とシルバーアクセサリーのブレスレットなどが置いてある
ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている
窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある
話をしている鳴海と菜摘
菜摘「じゃあみんなにプレゼントを渡せたんだ!!」
鳴海「ああ・・・一応な・・・」
菜摘「一応・・・?」
少しの沈黙が流れる
菜摘「クリスマスパーティーは成功したんだよね?」
再び沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん・・・?」
鳴海はスーツのポケットから小さなプレゼント箱を菜摘に差し出す
鳴海「(小さなプレゼント箱を菜摘に差し出したまま)これ・・・」
菜摘「(小さなプレゼント箱を鳴海から受け取り)ありがとう!!開けて良い?鳴海くん」
鳴海「構わないぞ」
菜摘は白色のマフラーと手袋を外してベッドの横の棚の上に置く
菜摘は小さなプレゼント箱のリボンを丁寧に外し、プレゼントの箱から青いクリスタルがついたネックレスを取り出す
鳴海「綺麗だなって思ったんだ・・・」
菜摘「うん!!凄く綺麗だよこれ!!」
鳴海「そうか・・・良かった・・・」
菜摘「つけてみるね!!」
鳴海「お、おう・・・」
菜摘はネックレスを首につける
菜摘「どうかな・・・?」
鳴海「似合ってるよ」
菜摘「(嬉しそうに)やった!!大切にするね!!」
鳴海「ああ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「私も鳴海くんにプレゼントがあるんだけどさ・・・」
鳴海「あ、ありがとう・・・菜摘・・・」
菜摘「うん。でもね鳴海くん、プレゼントの前に、私鳴海くんに怒らなきゃいけないことがあるの」
鳴海「えっ・・・お、怒らなきゃいけないことって・・・?」
菜摘「何だと思う?」
再び沈黙が流れる
菜摘「(怒りながら)鳴海くん、風夏さんの結婚は?」
鳴海「姉貴の・・・結婚・・・?」
菜摘「(怒りながら)引き止めないでって言ったじゃん!!」
鳴海「そ、それはそうなんだが・・・あ、姉貴とは・・・」
菜摘「(怒りながら鳴海の話を遮って)言い訳は聞きません!!」
鳴海「な、菜摘!!」
菜摘「(怒りながら)鳴海くんが風夏さんの幸せを奪ってるんだよ!!」
鳴海「お、俺だって姉貴には幸せに・・・」
菜摘「(怒りながら鳴海の話を遮って)言い訳しちゃダメ!!」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん、私と約束をして欲しいの」
鳴海「や、約束って何をだよ?」
菜摘「冬休み中に風夏さんと結婚の話をするって」
鳴海「そ、それじゃまるで俺が姉貴と結婚するみた・・・」
菜摘「(怒りながら鳴海の話を遮って)鳴海くん!!」
鳴海「す、すまん・・・」
菜摘「(怒りながら)約束を破ったら、二度と鳴海くんと口聞いてあげないからね」
鳴海「えっ・・・い、今のはボケだよな・・・?」
菜摘「(怒りながら)違うよ!!本気だもん私!!」
再び沈黙が流れる
鳴海「は、話をするくらいなら良いんだが・・・」
菜摘「鳴海くん、よっぽどな理由がない限り、風夏さんの結婚を引き止めたり伸ばしたりするようなことはしちゃダメだよ」
鳴海「あ、ああ・・・」
菜摘「約束だからね?」
鳴海「ふ、冬休み中に話せば良いんだろ」
菜摘「うん」
鳴海「分かったよ・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「じゃあ鳴海くんにはご褒美にクリスマスプレゼントをあげよう!!棚の一番下の引き出しを開けてみて、鳴海くん」
鳴海はベッドの横の棚の一番下の引き出しを開ける
引き出しの中には大きなプレゼントの箱が入っている
鳴海は大きなプレゼントの箱を手に取る
鳴海「(大きなプレゼントの箱を見ながら)重くて大きいな・・・」
菜摘「開けて良いよ」
鳴海「おう・・・」
ラッピングの紙を丁寧に外し始める鳴海
大きなプレゼントの箱の中に入っていたのは一眼レフカメラ
鳴海「(カメラを見て驚いて)か、カメラじゃないか!!」
菜摘「鳴海くんにしてはボケも捻りもないストレートな感想だね」
鳴海「(プレゼントの箱から一眼レフカメラを取り出し)ま、まさかカメラを貰うとは思ってなくてな・・・」
鳴海は一眼レフカメラのファインダーを覗く
鳴海「(一眼レフカメラのファインダーを覗いたまま)こ、これって一眼レフだろ・・・?」
菜摘「そうだよ」
一眼レフカメラのファインダーを覗くのをやめる鳴海
鳴海「こ、こんな高価な物を貰ってしまって良いのか・・・?」
菜摘「うん!!」
鳴海「菜摘・・・ありがとう」
菜摘「どういたしましてだよ」
再び沈黙が流れる
深くため息を吐き出す鳴海
菜摘「どうしたの?」
鳴海「申し訳なくてさ・・・」
菜摘「どういうこと?」
鳴海「俺はみんなに迷惑をかけてばっかりなのに・・・プレゼントなんか貰って・・・」
菜摘「大丈夫だよ、鳴海くん。私は鳴海くんが一生懸命部活をやってるってことも、人に迷惑をかけて、人から迷惑をかけられて、毎日頑張って、朗読劇の成功を目指してるってことも、分かってる。だから申し訳ないなんて思わなくて良いんだよ」
鳴海「菜摘・・・努力するのは当たり前のことだろ・・・」
菜摘「当たり前のことかもしれないけど・・・他人が頑張ってるからと言って、自分の努力が消えてしまうわけじゃないと思うな・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くんの行いはきっと報われるよ。だって鳴海くんは、苦しんで、悩んで、朗読劇の準備を進めてるんだもん」
再び沈黙が流れる
鳴海「菜摘は・・・誰かに呪われるほど恨まれたことってあるか・・・?」
菜摘「えっ・・・?」
鳴海「お前の人生なんか呪われて、好きな人たちから見放されて、一生苦しんで後悔すれば良いって・・・菜摘が言われるわけないよな・・・」
菜摘「言われたことはないけど・・・私のことを恨んでる人はたくさんいると思うよ」
鳴海「た、たくさん!?」
菜摘「うん・・・人って、過去とは切り離せないし、過去の行いは現在や未来へ返ってくるから・・・」
鳴海「そうなのか・・・」
菜摘「だからこそ困ってる人に手を差し伸べて、助けてあげるんだよ、鳴海くん」
鳴海「助けられそうにない時はどうすれば良いんだ・・・?」
菜摘「うーん・・・諦めずに手を差し伸べ続けるのが良いんじゃないかな」
鳴海「でも菜摘・・・世の中には手を取ろうとしない奴もいるだろ・・・」
菜摘「そういう人たちは助けの求め方が分からないんだよ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くんは誰かに呪われるほど恨まれたことがあるの・・・?」
鳴海「ああ・・・」
菜摘の瞳から涙が溢れる
鳴海「ど、どうして菜摘が泣くんだよ」
菜摘「(涙を流しながら)悲しくて・・・」
鳴海「う、恨まれてるのは俺なんだぞ」
菜摘「(涙を流しながら)うん・・・でも自分のことのように悲しいんだ・・・」
鳴海は慌ててベッドの横の棚の上にあったプレゼントの香水とシルバーアクセサリーのブレスレットを手に取る
鳴海「(香水とシルバーアクセサリーのブレスレットを見ながら)こ、これもクリスマスプレゼントか?菜摘」
菜摘「(涙を流しながら)そうだよ・・・」
鳴海「(香水とシルバーアクセサリーのブレスレットを見ながら)こ、香水とブレスレットのプレゼントなんて大人びてるな!!」
菜摘「(涙を流しながら)風夏さんと汐莉ちゃんから貰ったんだ・・・」
鳴海「(香水とシルバーアクセサリーのブレスレットを見るのをやめて)あ、姉貴と汐莉が!?」
菜摘「(涙を流しながら)香水が風夏さんで・・・ブレスレットが汐莉ちゃんから・・・」
鳴海「し、汐莉はここに来たのか?」
菜摘「(涙を流しながら)ううん・・・お家に郵送してくれて、お母さんが今日の昼に届けてくれたの・・・」
鳴海「な、なるほど・・・(小声でボソッと)南の奴・・・本は俺や嶺二たち専用のプレゼントにしてたのか・・・」
菜摘は涙を拭う
菜摘「汐莉ちゃんがくれたブレスレット・・・小さな青いクリスタルがついてるんだよ」
鳴海はシルバーアクセサリーのブレスレットをよく見てみる
シルバーアクセサリーのブレスレットには小さな青いクリスタルが一つついている
続けて鳴海は菜摘が身につけているネックレスを見る
菜摘のネックレスには青いクリスタルがついている
菜摘「鳴海くんと汐莉ちゃんの考えは、きっとよく似てるんだね。じゃなきゃ二人揃って青いクリスタルがついているアクセサリーは選ばないと思うもん」
鳴海の瞳から涙が溢れる
鳴海「(涙を流しながら)そうだな・・・俺も汐莉も・・・菜摘に喜んでほしかったんだ・・・」
◯1119公園(夜)
公園の時計は8時過ぎを指している
一人公園にいる雪音
雪音は黒いパーティー用ドレスの上にコートを着ており、右目には眼帯をつけている
雪音は鳴海、嶺二、汐莉から貰ったクリスマスプレゼントが入った紙袋を持っている
公園には雪音以外に人はいない
雪音はクリスマスプレゼントが入った紙袋を見ている
紙袋から白色のマフラーと手袋を取り出す雪音
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
◯1120◯1106の回想/波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夕方)
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海の周りに明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩が集まっている
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
鳴海は嶺二から貰った菜摘の分のプレゼントを抱えている
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
明日香は淡いピンク色の、汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
嶺二の足元には大きな紙袋が置いてある
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
響紀はタキシードを着ている
明日香たちは鳴海から貰ったプレゼントの箱を持っている
鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちが体育館の中におり、双葉や一年生の細田周平の姿も確認出来る
双葉と細田はスーツを着ている
生徒たちは友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷や教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
嶺二から貰った紺色の手袋をはめている鳴海
嶺二から貰った白色のマフラーを首に巻いている明日香、真彩
汐莉は白色の手袋をはめ、マフラーを首に巻いている
嶺二から貰ったマフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
マフラーに顔を埋めている汐莉
話をしている鳴海たち
汐莉「(マフラーに顔を埋めたまま)雪音先輩だけにプレゼントを渡すのが嫌だから、私たちの分も買ったんですか?嶺二先輩」
嶺二「そ、そーゆーわけじゃねーよ・・・」
◯1121回想戻り/公園(夜)
公園の時計は8時過ぎを指している
公園にいる雪音
雪音は黒いパーティー用ドレスの上にコートを着ており、右目には眼帯をつけている
雪音は鳴海、嶺二、汐莉から貰ったクリスマスプレゼントが入った紙袋を持っている
嶺二から貰った白色のマフラーを首に巻き、手袋をはめる雪音
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
雪音「暖かい・・・」
雪音は少しの間マフラーと手袋を身につけたまま何もせずに立っている
雪音「でもこれは・・・私に・・・」
公園のゴミ箱がある方へ向かって歩き出す雪音
雪音はゴミ箱の前で立ち止まる
白色のマフラーと手袋を外す雪音
雪音「必要ない」
雪音は白色のマフラーと手袋をゴミ箱の中へ落とす
鳴海と汐莉のクリスマスプレゼントが入っていた紙袋も同様にゴミ箱の中へ落とす雪音
雪音は公園から出て行く
雪音の姿を千春が見ている
千春は刃の欠けた剣を持っている
◯1122◯1102の回想/波音高校に向かう道中(夕方)
夕日が沈みかけている
波音高校を目指している鳴海、嶺二、千春、雪音
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
千春は刃の欠けた剣を持っている
雪音はコートの下に黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
鳴海と嶺二は大きな紙袋を持っている
鳴海たちには千春の姿が見えていない
小声で話をしている鳴海と嶺二
鳴海と嶺二の話を聞いている千春
雪音は鳴海たちの少し後ろ歩いている
鳴海「(小声で)一条は嶺二のことが好きなのか?」
嶺二「(小声で)てめえ、雪音ちゃんに騙されてんぞ」
鳴海「(小声で)お、俺には一条が嶺二に惚れてるようにしか見えないんだが・・・」
嶺二「(小声で)あいつは俺のことを持ち上げて利用する気なんだよ」
鳴海「(小声で)利用?一条は何かしようとしてるのか?」
嶺二「(小声で)い、いや・・・」
千春「(声 モノローグ)私には一条雪音さんのことが理解出来ません」
◯1123◯1106の回想/波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夕方)
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海の周りに明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩が集まっている
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
鳴海は嶺二から貰った菜摘の分のプレゼントを抱えている
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
明日香は淡いピンク色の、汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
嶺二の足元には大きな紙袋が置いてある
雪音は黒いパーティー用ドレスを着ており、右目には眼帯をつけている
響紀はタキシードを着ている
明日香たちは鳴海から貰ったプレゼントの箱を持っている
鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちが体育館の中におり、双葉や一年生の細田周平の姿も確認出来る
双葉と細田はスーツを着ている
生徒たちは友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷や教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
嶺二から貰った紺色の手袋をはめている鳴海
嶺二から貰った白色のマフラーを首に巻いている明日香、真彩
汐莉は白色の手袋をはめ、マフラーを首に巻いている
嶺二から貰ったマフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
マフラーに顔を埋めている汐莉
話をしている鳴海たち
鳴海たちの近くに千春がいる
千春は刃のかけた剣を持っている
千春の姿は誰にも見えていない
汐莉「(マフラーに顔を埋めたまま)雪音先輩だけにプレゼントを渡すのが嫌だから、私たちの分も買ったんですか?嶺二先輩」
嶺二「そ、そーゆーわけじゃねーよ・・・」
俯く嶺二
嶺二は俯いたまま足元に置いてあった大きな紙袋を見ている
大きな紙袋の中には30cmほどの大きさのプレゼントが一つだけ残っている
嶺二「(俯いたまま大きな紙袋の中に一つだけ残された30cmほどの大きさのプレゼントを見て)このプレゼントは・・・文芸部と軽音部の全員に買ったんだ・・・特定の一人のためじゃねえ・・・
千春は嶺二の足元に置いてあった大きな紙袋を見る
千春「(大きな紙袋の中に一つだけ残された30cmほどの大きさのプレゼントを見ながら)ごめんなさい嶺二さん・・・私には受け取れないんです・・・」
◯1124回想戻り/公園(夜)
公園の時計は8時過ぎを指している
一人公園にいる千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
公園には千春以外に誰もいない
千春は周囲に人がいないか確認した後、ゴミ箱から雪音が捨てた白色のマフラー、手袋、鳴海と汐莉のクリスマスプレゼントが入った紙袋を手に取る
マフラーと手袋には小さくペンと音符が刺繍されている
千春「(鳴海と汐莉のクリスマスプレゼントが入った紙袋を地面に置いて 声 モノローグ)何故人から貰った物を捨てるのでしょうか?」
千春は雪音が捨てた紙袋の中に白色の手袋をしまう
白色のマフラーを丁寧に畳み始める千春
◯1125◯1106回想戻り/波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夜)
外は夜になっている
体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海、嶺二、汐莉、雪音がテーブルの上の飲食物を見ている
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
嶺二はタキシードを着て、髪の毛をワックスで固めている
明日香と響紀が鳴海たちから離れたところで話をしている
明日香たちとは別のところで詩穂と真彩が細田を含む数人の男子生徒たちと楽しそうに話をしている
明日香は淡いピンク色の、汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
響紀はタキシードを着ている
双葉は一、二年生の女子生徒たちと話をしている
双葉と細田はスーツを着ている
鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちがおり、友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷や教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
鳴海たちの近くに千春がいる
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春の姿は誰にも見えていない
取り皿にクリスマスケーキを乗せようとする雪音
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)そのケーキ、毒が入ってますよ」
クリスマスケーキを取り皿に乗せようとしていた雪音の手が止まる
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)さっき、先輩のことを嫌ってる三年生の女子たちが怪しい液体を入れてたんです」
雪音はクリスマスケーキを取り皿に乗せる
雪音「そう」
テーブルの上にあったフォークを手に取る雪音
千春「(声 モノローグ)ケーキではなく、この会話に毒が入っているのです・・・」
鳴海「お前ら、もう少し普通の会話をしてくれ」
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)鳴海先輩、前に言ってましたよね、南のどこが普通なんだって。私もあれから色々考えたんですけど、やっぱり先輩が言ってた通り、私は普通じゃないんだと思います」
少しの沈黙が流れる
雪音がクリスマスケーキを食べ始める
雪音「(クリスマスケーキを食べながら)このケーキ、変わった味がするよ。普通じゃないって感じ、毒でも入ってるのかな?」
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)入ってると良いですね」
頭を抱える鳴海
嶺二「雪音ちゃん」
雪音「(クリスマスケーキを食べながら)嶺二、汐莉の毒入りケーキをアーンってしてあげよっか?美味しいよ」
汐莉「(テーブルの上の飲食物を見ながら)私は何も入れてませんけど」
雪音「(クリスマスケーキを食べながら)誰が入れたって同じじゃん。私のことを恨み嫉妬した女の子には変わりないんだから」
千春「(声 モノローグ)汐莉と雪音の会話は、人間の悪い部分を詰め合わせています」
◯1126◯939の回想/緋空寺/講堂(昼過ぎ)
薄暗い畳の講堂にいる千春と早季
畳はボロボロで、虫に食われたり、カビが生えたりしている
汚い座布団の上に座っている千春と早季
千春と早季は正座している
千春の目の前には刃の欠けた剣が置いてある
話をしている千春と早季
早季「人類は・・・人類は・・・傲慢な生物です・・・醜く歪んでいて、気持ち悪い・・・彼らの知性は邪悪で、感情には本来の心が失われている・・・」
千春「早季は人間たちの悪い面を見ています。もっと良いところを探さなくては・・・」
◯1127回想戻り/公園(夜)
公園の時計は8時過ぎを指している
一人公園にいる千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
公園には千春以外に誰もいない
千春の目の前には鳴海と汐莉のクリマスプレゼントが入った紙袋が置いてある
千春は白色のマフラーを丁寧に畳んでいる
白色のマフラーには小さくペンと音符が刺繍されている
千春「(白色のマフラーを丁寧に畳みながら 声 モノローグ)早季が言っていた人間の悪い部分を、私はこの数ヶ月で数え切れないほど見てきました。人間とは、何かに熱中し過ぎると、仲間といがみ合いになり、毛嫌いし、相手を打ち負かすことへ目的が変わってしまう場合もあるのです。(少し間を開けて)私は早季の指摘を認めます。人間の邪悪さが露呈した瞬間、彼らは初めて傲慢で醜いに生き物に成り下がってしまうのです」
千春は白色のマフラーを畳み終え、目の間に置いてある紙袋の中にしまう
千春「(声 モノローグ)でも世界には優しい人間がいることも忘れてはいけません。邪悪な心に対抗出来るのは、人間が持つ優しさです」
再び周囲に人がいないか確認する千春
周囲に人はいない
千春は鳴海、嶺二、汐莉のクリスマスプレゼントが入った紙袋を見ている
千春「(鳴海、嶺二、汐莉のクリスマスプレゼントが入った紙袋を見たまま、声 モノローグ)このクリスマスプレゼントたちには優しさと、愛と、ユーモアが詰まっています。それを捨てるなんて・・・雪音さんは早季が言っていたような人間になりたいのでしょうか?(少し間を開けて)もしそんな人間になろうとしているのなら、私が止めなくては・・・」
鳴海、嶺二、汐莉のクリスマスプレゼントが入った紙袋を持つ千春
千春は歩き出す
千春「(声 モノローグ)人間とは、手助けが必要な生き物なのです・・・」
◯1128神谷家リビング(夜)
Chapter5◯9と同じシーン
リビングには小さなクリスマスツリーが飾られている
インテリアが綺麗に並べてあるお洒落なリビング
帰宅して来た神谷
キッチンへ行き神谷のために夕飯を温め直す神谷の妻、絵美
扉を開けてリビングにやって来る神谷
神谷「ただいま」
絵美「おかえり〜、今ご飯温めてるから」
神谷はワイシャツのボタンを何個か開け、椅子に座る
テーブルの上に産婦人科のパンフレットと母子手帳が置いてある
パンフレットを手に取る神谷
神谷「(パンフレットをパラパラとめくり)何だこれは」
絵美「見て分かるでしょう?産婦人科のパンフレット」
パンフレットをテーブルに置く神谷
神谷「何でそんな物がここに?」
絵美「(嬉しそうに)出来たの」
少しの沈黙が流れる
時間経過
立って言い争っている神谷と絵美
絵美は泣いている
絵美「(泣き叫び)何でよ!!!あなただって賛成してくれたじゃない!!!!」
神谷「(大きな声で)いいや!!!!そんなことは一言も言ってない!!!!子供が欲しいなんて思ったこともない!!!!」
◯1129滅びかけた世界:緋空浜(夜)
夜になっている
緋空浜の浜辺にいるナツ、スズ、老人
ナツたちは焚き火を囲って座っている
スズは横になって眠っている
老人の隣にはボルトアクションライフルが置いてある
月の光が波に反射し、キラキラと光っている
三人がいるところは老人が掃除し終えた場所で、ゴミは全くない
三人がいるところから数百メートル先の浜辺はゴミで溢れている
三人がいるところから少し離れたところに荷台のある黒くて大きなピックアップトラック型の車が駐車されている
車の荷台にはショッピングモールから盗んだ楽器、スポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、海で遊ぶ道具、スケートボードなど、色々な物が山のように積まれている
浜辺にはところどころに水たまりが出来ている
話をしているナツと老人
ナツ「人生で銃を手放そうと思ったことはある?」
老人「銃を手に入れてからはない」
ナツ「手に入れてから?」
老人「信じてもらえないかもしれないが、俺にも普通の学生だった頃があるんだ。戦争とはまだ無縁で、平和だったから銃なんて物騒な物は必要なかった。(少し間を開けて)10代の頃の自分だったら・・・銃を手にしたとしてもすぐに手放しただろう・・・」
ナツ「世界が変わったのか、ジジイが変わったのか、どっちなの?」
老人「両方だろうな。世界も自分も変わり果ててしまった」
少しの沈黙が流れる
ナツ「人には過去があるはずなのに、あんたの過去は想像がつかない・・・」
老人「知りたいのか?」
ナツ「うん」
老人「何故だ?」
ナツ「あんたは悪い人じゃないけど、大事な何かが壊れてるから・・・」
老人「壊れた原因を知りたいんだな」
頷くナツ
老人「過去は探らない方が良いと思わないのか?」
ナツ「思うよ。でも好奇心が勝ってるんだ」
老人「好奇心は猫を殺すぞ、ナツ」
再び沈黙が流れる
老人「過去を振り返るのは苦しいことだ。その当時にどんな感情を抱いていても、今は痛みに過ぎない」
ナツ「怖いの?」
老人「いや、痛いんだ。過去は痛いんだよ。幸せな記憶は眩しさのあまり目を背けたくなるし、辛い過去は後悔の念で押し潰されそうになる。歳を重ね、出会いや別れを繰り返せば、君にも理解出来る日が訪れるだろう」
ナツ「出会いや別れって、死ぬこと・・・だよね」
老人「死は別れだ。別れがあるのなら、出会うこともある。俺が君たちと出会ったようにね」
ナツ「死んで別れるくらいなら私は最初から出会いたくない」
老人「だが君たちの良き友人になるような奴と巡り会うかもしれないぞ」
ナツ「巡り会う・・・運命みたいに?」
老人「ああ。出会うべきして出会う奴らがいるはずだ」
ナツ「あんたにも昔はそういう人がいたの?」
老人「もちろんいたさ・・・苦楽を共にした奴とは、不思議な縁が続くものだよ」
ナツ「私とスズもそうだったら良いな・・・」
老人「君たちの関係は本物だ」
ナツ「本物って?」
少しの沈黙が流れる
老人「ナツ、今日一日はどうだった?」
ナツ「どうもないよ」
老人「そうか・・・」
ナツ「本物ってどういう意味なの?」
老人「親友ってことさ」
再び沈黙が流れる
ナツ「あんたはすぐ誤魔化す・・・嘘をついて、現実や過去から逃げてるんだ・・・」
老人「大人は・・・嘘をつくものなんだよ。ナツ」
ナツ「そんなの卑怯じゃないか・・・こっちは真剣なのに・・・」
老人は笑い出す
ナツ「(怒りながら)何で笑うんだ」
老人「すまない。君の姿が・・・いつかの自分と重なってしまってね」
ナツ「昔のあんたが今の私と似てるの?」
老人「そうかもしれないな。今まで俺は・・・ナツに一人の知人を投影していたが、実際は過去の俺が最もナツに似ているようだ」
ナツ「知人って?」
老人「君と同じくらいの歳の女の子で・・・雰囲気がナツに似てるんだよ」
ナツ「昔は私みたいな人がいっぱいいたんだ・・・」
老人「そういうことになるな」
ナツ「ジジイが私に投影していた子って、どんな子だったの?」
老人「読書好きで・・・とても聡明だった・・・今にして思えば、遺伝子が死んだ父親から影響を受けていたのかもしれないな・・・」
ナツ「その子の名前は・・・」
老人「神谷七海だ」
ナツ「神谷・・・七海・・・?」
老人「ああ」
少しの沈黙が流れる
老人「冷えてきたな・・・ナツ、学校へ戻ろう」
ナツ「うん・・・」
ナツがスズの体を揺さぶる
ナツ「(スズの体を揺さぶりながら)スズ、起きろ」
スズ「(ナツに体を揺さぶられながら)お前・・・春巻きって名前なのか・・・おいしそーだな・・・」
スズはぶつぶつ寝言を言っている
ナツ「(スズの体を揺さぶりながら)起きろってば、スズ」
スズは起きない
老人「寝かしといてやれ」
ナツ「(スズの体を揺さぶるのをやめて)で、でも・・・」
老人「スズは俺が抱えて行くよ」
ナツ「分かった・・・」
老人はボルトアクションライフルを肩にかけ、立ち上がる
ナツ「(声 モノローグ)七海って・・・誰なんだろ・・・凄く懐かしい感じがする・・・(少し間を開けて)汐莉の日記に出て来た神谷先生と関係があるのかな・・・」
眠っているスズを抱き抱える老人
Chapter6卒業編も、そろそろ後半戦へ突入です!!