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Chapter6卒業編♯16 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由香里(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われていた武将。


一世(いっせい) 年齢不明 男子

ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。

Chapter6卒業編♯16 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯1028波音高校校門(日替わり/朝)

 快晴

 たくさんの生徒たちが門を潜って学校の中へ入って行く

 校門の前で部員募集を行っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩は部員募集の紙の束を持っている

 通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している鳴海たち

 明日香、響紀、詩穂、真彩は手袋をつけて部員募集の紙を差し出しているが、鳴海、嶺二、雪音は手袋をつけていない

 鳴海、嶺二、雪音の指先が赤くなっている


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)文芸部副部長の貴志鳴海です!!!!文芸部存続にご協力をお願いします!!!!あと四人部員が必要なんです!!!!」

明日香・嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)お願いしまーす!!!!」

真彩「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)一緒にたくさんの思い出を作りましょー!!!!」

響紀「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)興味がある人は放課後特別教室の四を覗くか、三年三組に行ってみてくださーい!!!!」

詩穂「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)女の子でも男の子でもオッケーでーす!!!!」


 登校中の双葉と通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出していた雪音の目が合う

 双葉はそのまま特に反応せず、学校の中へ入って行く


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)大事な文芸部を守るために、俺たちに力を貸してください!!!!よろしくお願いします!!!!」


◯1029波音高校三年三組の教室(朝)

 朝のHRの前の時間

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 鳴海、明日香、嶺二、雪音が教室の窓際で話をしている


鳴海「まだ努力が足りてないんだ・・・」

嶺二「それはちげーだろ・・・」

明日香「鳴海、私たちだって頑張ってるの。あなたは簡単に努力不足だって言い切るけど、みんな寒い中最善をつくしてるんだからね?」


 少しの沈黙が流れる


雪音「結果が出ないって分かってるのに、こんなことで力を使ったって無駄じゃん」

鳴海「だから何だ?結果が出なさそうだからもうやめましょうって言いたいのか?」

雪音「そう」

鳴海「一条、やる気がないなら文芸部から出て行ってくれ」

雪音「良いの?波音役の私が抜けたら朗読劇は終わりだと思うけど?」

鳴海「誰もお前のやる波音には期待してないんだ」

雪音「残念だけど私は私に期待してるから」

鳴海「クソみたいな朗読をしていてよく自分のことがそこまで愛せるな」

明日香「な、鳴海・・・」

雪音「ああ、鳴海は知らないんだ。白瀬波音って本当はクソ女なんだよ?だから私がクソみたいな朗読をしたら完璧な再現になるんだけど、鳴海にはそれが分からないんだね」

嶺二「言い過ぎだぞ雪音ちゃん」


 再び沈黙が流れる


雪音「ごめんなさい」

嶺二「ほら、鳴海。許してやれよ」

鳴海「白瀬波音は偉大な人なんだぞ・・・」


 笑い出す雪音


雪音「(笑いながら)あーそうだね!!確かに波音は偉大な殺し屋だったと思う!!佐田奈緒衛のことも凛のことも救えなかったし、戦いから逃げて波音町を作ったんだからクソ偉大だよ!!ちょーリスペクトしちゃう私!!」


 拳を握り締める鳴海


鳴海「(拳を握り締めたまま)お前に波音の何が分かるんだ」

雪音「(笑いながら)さあね」


 出席簿とプリントを持った神谷が教室の中に入って来る

 教卓の上に出席簿とプリントを置く神谷


神谷「鳴海、雪音、ちょっと来なさい」


 鳴海は拳を開く


神谷「二人とも早く」

明日香「行って来なさいよ・・・鳴海・・・雪音・・・」

鳴海「(小声でボソッと)クソが・・・」

雪音「仲良くしようよ、鳴海」

鳴海「黙ってろ・・・」


 鳴海と雪音は神谷のところへ向かう


鳴海「何すか先生」

神谷「何すか、ではない。君ら二人とも今日の昼に面談だ」

鳴海「め、面談?」

神谷「そうだ、進路未決定者は面談を行う。分かったら席に戻りなさい」

雪音「はーい先生」


 雪音は自分の席に戻って行く


神谷「鳴海、君はホームルームの邪魔をする気か?」

鳴海「い、いや・・・」

神谷「先生が席に戻れと言ったのが聞こえていなかったのか?聞こえていたのなら言葉を処理する脳みそが君の頭の中にはないのか?先生の言葉を無視する悪い大人になって先生のことをいじめたいのか?」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は黙って自分の席に戻る


◯1030波音高校生徒相談室/通称説教部屋(昼)

 テーブルを挟んで向かい合っている鳴海と神谷

 鳴海はパイプ椅子に、神谷はソファに座っている

 テーブルの上には鳴海の成績表が置いてある

 相談室には椅子とテーブル以外に目立つ物はない


神谷「鳴海・・・鳴海・・・鳴海・・・鳴海・・・(少し間を開けて)君の担任なるのはこれで3回目だ。そしてその度に・・・苦労をさせられている」

鳴海「すいません」

神谷「良いんだ、鳴海が謝ることはない。君は生徒だからね、責任は先生にある」


 少しの沈黙が流れる


神谷「さてさてさて・・・どうしようか」


 再び沈黙が流れる


神谷「沈黙は困るよ、鳴海。この世界で黙ってて許されるのは神様だけだ」

鳴海「適当に・・・何とかします」

神谷「結構な覚悟だね。鳴海は高校三年間で何かを努力したことがないはずだが、君の長所は一体何だ?」

鳴海「一応・・・文芸部で本は書けるようになりました」

神谷「なるほど・・・本か・・・先生は鳴海が自衛隊にでも入りたいと言うのかと思っていたよ」

鳴海「自衛隊・・・ですか・・・」

神谷「君は創作に向いてるようには見えないからね、ミスターグイド」

鳴海「前から気になってたんすけど・・・そのミスターグイドって・・・」

神谷「ああ、君は知らないのか・・・(少し間を開けて)グイドという男がとある芸術作品に登場するんだよ。鳴海の置かれている状況は、そのミスターグイドと少し近いんだ」


 少しの沈黙が流れる


神谷「まあ気にすることはない。鳴海が小説家になると決断したのであれば、先生はとっても嬉しいよ」

鳴海「いや・・・俺は・・・」

神谷「そうだ鳴海、菜摘のお見舞いに行く予定はあるか?」

鳴海「きょ、今日にでも行くと思いますけど・・・」

神谷「それならこう伝えておいてくれ、出席日数のことは気にしなくて良い、おそらく退学にはならずに済むと」

鳴海「た、退学?」

神谷「そうだよ」


 ニヤニヤ笑い出す神谷


神谷「(ニヤニヤしながら)おそらくだがね。娘の単位が足りてないことを知ったら、お優しいご両親はさぞ悲しむだろう・・・」

鳴海「な、菜摘は卒業出来ないんですか?」

神谷「(ニヤニヤしながら)もちろん本人の努力によるよ」


 再び沈黙が流れる


神谷「(ニヤニヤしながら)人生の悲劇は素敵だね、鳴海。幸福な者を不幸のどん底に落とし、不幸な者に夢を見せるんだから、生きるのは辛くて最高だと思うだろう?」


◯1031波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 校庭では運動部が活動している

 話をしている鳴海たち


嶺二「鳴海、軽音部は自由参加で、試験勉強がしたかったら遠慮なく休むってことでいーんだな?」

鳴海「ああ・・・」

汐莉「本当に休む人がいると思ってるんですか?」

鳴海「や、休みたい奴がいると思ったから、わざわざこんな案を考えたんだよ」

汐莉「鳴海先輩」

鳴海「な、何だ?」

汐莉「先輩の顔面に嘘ついてますって書いてありますよ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「ひょ、表情自体が嘘なんだぞ」

汐莉「先輩、嘘つく気あるんですか」

鳴海「た、多少はな・・・」


 再び沈黙が流れる


汐莉「私は休みません。試験中も作業は続けます」

明日香「汐莉、曲作りの進みはどうなってるの?」

汐莉「順調です」

明日香「順調って・・・私たちはそれ以外の言葉が聞きたいんだけど・・・」

汐莉「もうすぐ二曲目が完成すると思います」

真彩「ん・・・?うちらまだ一曲目も聞いてなくない・・・?」

汐莉「うん。聞くのは三曲完成してからの方が良いかと思って」

真彩「あー・・・じゃーお披露目は年明けかな・・・」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「汐莉、響紀くんの手伝いがなくて平気そう?」

汐莉「大丈夫」

明日香「本当に?」

汐莉「はい。一月中には全部完成させますから」

明日香「一月中ね・・・」

雪音「本番には間に合わないんじゃない」

汐莉「間に合わせます、何があっても絶対に」


 再び沈黙が流れる


響紀「汐莉なら出来ますよ。私たちの演奏も一ヶ月半あれば物になると思うので」

鳴海「響紀、俺たちは軽音部を信じてるからな、もうお互いに裏切りは無しだぞ」

響紀「分かってます。軽音部と文芸部で手を取り合って朗読劇を成功に漕ぎ着けましょう」

鳴海「ああ」

真彩「こうなっちゃった以上はちっとだけ成績に傷がつくのも青春の思い出っすね!!期末テストなんかメロンパン食らえってノリで部員募集をやってやるっす!!」

嶺二「ほんとまあやんたちには申し訳ねーな・・・期末の後には年度末のテストが控えてるって言うのによ・・・」

真彩「あっ・・・年度末・・・」

鳴海「どうかしたのか、奥野」

真彩「(慌てて大きな声で)い、い、いや何でないっす!!!こ、こっちのことなんで!!!」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「まさか年度末試験を忘れてたんじゃないだろうな・・・」


 顔を見合わせる汐莉、響紀、詩穂、真彩

 再び沈黙が流れる

 

鳴海「おい・・・何か言えよ・・・」

真彩「えーっと・・・そうっすね・・・」

詩穂「スイートメロンパンが食べたい?」

鳴海「どういうことだ」

真彩「い、意味はクソで・・・」

鳴海「(真彩の話を遮って)そんなことを聞いてるんじゃない。お前たちは二月に年度末試験があるってことをド忘れてしていたのか?どうなんだ?」


 俯く真彩


響紀「鳴海くん、発言して良いですか」

鳴海「構わないが内容によってはお前の口をミシンで縫い付けて一生喋れないようにするからな」

響紀「ああなら多分大丈夫ですね。(少し間を開けて)年度末試験のことはド忘れてしてましたすみません」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「(大きな声で)ど、どーすんだよ!?!?」

明日香「(大きな声で)ね、年度末は勉強するしかないでしょ!!!!」

嶺二「(大きな声で)ライブの練習はやらねーのか!?!?」

明日香「(大きな声で)え、演奏は試験前までに完璧すんの!!!!」

嶺二「(大きな声で)で、出来んのかよそんなこと!!!!」

響紀「頑張ります」


 再び沈黙が流れる


真彩「(俯いたまま)ほんとにすいません・・・一月までしかスケジュール表を見てませんでした・・・」

雪音「これで朗読劇が失敗したら軽音部のせいだよ」

真彩「(俯いたまま)はい・・・」

汐莉「私が曲作りの完成を早めてスケジュールを調整します」

鳴海「無茶なことを言うな南。お前がこれ以上作業ペースを上げられるわけないだろ」

汐莉「馬鹿にしないでください。私だって腐っても軽音部に所属してるんです、納品の期限が早まろうがそれまでに必ず作り上げてみせますよ」

嶺二「ま、マジで出来んのか、汐莉ちゃん」

汐莉「出来る出来ないは関係ありません、仲間と先輩たちのために完成させるんです」

嶺二「後輩だけどかっけーな汐莉ちゃん」

汐莉「先輩たちがダサ過ぎるんですよ・・・」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「私たちは先に一曲目の練習を始めとく?」

汐莉「うん」

真彩「(顔を上げて)自業自得とは言えマジでやばいことになってきたなぁ・・・」

響紀「時間がない方が本気になれるよ」

真彩「まあね〜・・・」

明日香「ちょ、ちょっと!!」

響紀「どうしたの?明日香ちゃん」

明日香「何でそんなに落ち着いてられるわけ!?」

汐莉「落ち着いてないですよ・・・」

詩穂「心の中ではもう無理だって思ってます」

鳴海「おい」

詩穂「こんな状況でもう無理だって思わない奴がいたら友達になりたい・・・」

響紀「あ、それ私だ。不可能を通り越した結果むしろ出来ると勘違いしちゃったタイプ」

明日香「(小声でボソッと)いつもいつもあんたは頼もしいけど意味不明なのよ」

響紀「明日香ちゃん褒められた嬉しさで私昇天しちゃう!!」

明日香「(呆れて)別に褒めてないけどね・・・」


 立ち上がる真彩


鳴海「どこに行くんだよ?」

真彩「練習に決まってるじゃないっすかー!!」


 汐莉、響紀、詩穂も立ち上がる


響紀「すみませんがしばらく姿を消します。クリスマスパーティーには顔を出しますので、その時まで皆さんどうかお元気で」


 部室の扉に向かって歩き始める汐莉、響紀、詩穂、真彩


鳴海「ま、待ってくれ!!」


 立ち止まる汐莉たち


鳴海「ぶ、部員募集はどうするんだよ」


 振り返る汐莉


汐莉「やらなくて良いです。どうせ来年には先輩たちもいなくなって、私一人だけになりますから」


 前を向く汐莉

 汐莉は部室の扉を開ける


汐莉「それでは」


 汐莉が部室から出て行く

 

真彩「お疲れ様でした〜」


 真彩が部室から出て行く


詩穂「お疲れ様でーす」


 詩穂が部室から出て行く

 振り返って明日香に投げキッスをする響紀


響紀「愛してます明日香ちゃん!!」

明日香「あ、うん・・・ありがと・・・」


 響紀は部室から出て行く

 少しの沈黙が流れる


鳴海「あのアホ共が・・・」


◯1032波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夜)

 外は日が沈み暗くなっている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 話をしている鳴海と菜摘


鳴海「神谷が・・・しゅ、出席日数のことは気にしなくて良いって言ってたぞ」

菜摘「そっか・・・ありがとう、鳴海くん」

鳴海「いや・・・礼なんて良いんだ」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「鳴海くん」

鳴海「ん?」

菜摘「試験勉強は出来てる?」

鳴海「お、おう。さ、最近毎日家に帰ってから2時間きっちり試験対策をしてるぞ」

菜摘「あの鳴海くんが2時間きっちり・・・?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「すまん菜摘・・・勉強してるってのは嘘だ・・・」

菜摘「だと思ったよ・・・」

鳴海「バレてたか・・・」

菜摘「うん。鳴海くん、嘘つくのが下手だもん」

鳴海「そうらしいな・・・俺には自覚がないが・・・」

菜摘「バレる嘘はついちゃダメだよ、鳴海くん」

鳴海「バレない嘘でもついちゃダメだろ」

菜摘「基本はそうだけど・・・でも場合によっては、人の幸せを守るために嘘をついた方が良い時もあるんじゃないかな?」

鳴海「菜摘、人の幸せがかかってるような嘘は、バレたら大変なことになるぞ」

菜摘「そうだね。だから最後まで嘘を隠し通さなきゃ」

鳴海「最後っていつまで隠すんだ?」

菜摘「うーん・・・天国に行くまで、とか・・・」

鳴海「て、天国なんて・・・口にするなよ・・・縁起悪いだろ・・・」

菜摘「えー・・・今のはボケたつもりなのに・・・」

鳴海「た、たとえボケであっても言わないでくれ」

菜摘「ごめん」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「朗読劇の準備が忙しくて勉強に手が付けられないの?鳴海くん」

鳴海「ああ。今は勉強どころじゃないんだ」


 再び沈黙が流れる


菜摘「鳴海くんは・・・ちゃんと波高を卒業出来るよね・・・?」

鳴海「出来るだろ。授業にも出席してるんだし」

菜摘「そっか、それなら安心だ」

鳴海「菜摘、姉貴みたいになってるぞ」

菜摘「そ、そうかな・・・(少し間を開けて)私は鳴海くんのお姉さんじゃないけど、家族だよ」


◯1033帰路(放課後/夜)

 一人自宅に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「家族って・・・何なんだ・・・」


◯1034波音総合病院/菜摘の個室(夜)

 窓際に立って外を眺めている菜摘

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 菜摘は鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを手に持っている

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている


菜摘「(ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを手に持ったまま外を眺めて)鳴海くん・・・もう少しだけ待っててね・・・私も鳴海くんたちと一緒に波高を卒業するから・・・もう少し・・・待ってて・・・」


◯1035波音高校校門(日替わり/朝)

 快晴

 たくさんの生徒たちが門を潜って学校の中へ入って行く

 校門の前で部員募集を行っている鳴海、明日香、嶺二、雪音

 鳴海、明日香、嶺二、雪音は部員募集の紙の束を持っている

 通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している鳴海たち

 明日香は手袋をつけて部員募集の紙を差し出しているが、鳴海、嶺二、雪音は手袋をつけていない

 鳴海、嶺二、雪音の指先が赤くなっている


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら 声 モノローグ)汐莉をはじめとする軽音部の連中は、朝の部員募集も、放課後の朗読劇の練習にも、参加しなくなった」


 鳴海たちの前を通りかかる生徒たちは、文芸部のことを気に留めず周りの生徒たちと楽しそうに話をしながら校舎内へ入って行く


◯1036波音高校三年三組の教室(朝)

 神谷が数学の授業を行っている

 鳴海、明日香、雪音が真面目にノートを取っている

 頬杖をつきながら授業を聞いている嶺二

 

鳴海「(ノートを取りながら 声 モノローグ)俺たちには俺たちの出来ることを」


◯1037波音高校一年六組の教室(朝)

 英語の授業が行われている

 英語のプリントの問題を解いている生徒たち

 響紀、詩穂、真彩は問題を解き終えているのに対して、汐莉はまだ問題を解いている

 机に突っ伏して眠っている響紀

 問題を見直している詩穂

 プリントの余白に落書きをしている真彩


鳴海「(声 モノローグ)彼女たちには彼女たちの出来ることをして日々を過ごした」


◯1038波音高校一年生廊下(昼)

 昼休み

 一年生廊下にいる鳴海、明日香、嶺二、雪音

 鳴海たちは部員募集を行っている

 廊下では喋っている一年生や、昼食を取りに移動している一年生がたくさんいる

 鳴海たちは通りかかる一年生たちに部員募集の紙を差し出している


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら 声 モノローグ)南が曲を完成させれば、文芸部と軽音部が別行動をすることもなくなるだろう」


◯1039波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、雪音

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 鳴海、明日香、雪音は朗読劇用の波音物語を手に持って立っている

 嶺二は椅子に座っている

 朗読の練習を行っている鳴海、明日香、雪音

 嶺二は朗読の練習の様子を見ている

 校庭では運動部が活動している


鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら 声 モノローグ)今俺たちが行ってることは・・・文芸部単体での最後の活動になるのかもしれない。菜摘も、南も、千春もいない文芸部だが・・・最後は最後だ」


 嶺二が朗読の練習を止める

 鳴海たちに意見を言う嶺二


◯1040波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 軽音部の部室にいる汐莉、響紀、詩穂、真彩 

 汐莉は教室の隅で椅子に座って曲制作を行ってる

 汐莉の机の上には筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある

 汐莉はイヤホンをつけてパソコンの作曲ソフトを使い打ち込みをしている

 響紀、詩穂、真彩は黒板の前でライブの練習を行っている

 響紀はリードギター、詩穂はベース、真彩はドラムを演奏している


鳴海「(声 モノローグ)俺は軽音部が羨ましかった。あの四人にはまだ二年も学校生活が残されている。ライブだって二年間のうちに何回も出来るはずだ。(少し間を開けて)きっと南たちはたくさんの青春を謳歌して、波音高校を卒業するんだろう」


◯1041帰路(放課後/夜)

 日が沈み暗くなっている

 一人自宅に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「(声 モノローグ)少しずつだが、確かに俺の中には波高を卒業したくないという気持ちが表れていた」


◯1042◯1004の回想/波音高校廊下(昼)

 昼休み

 廊下を歩いている鳴海と明日香

 廊下では教室に向かっている生徒や、友人同士で喋っている生徒がたくさんいる

 鳴海と明日香は話をしている


明日香「あんたが躍起になるのも分からなくはないけど・・・私たちはもうすぐ学校を卒業しちゃうんだからね?」


◯1043回想戻り/帰路(放課後/夜)

 一人自宅に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「もっと菜摘と一緒に・・・学校生活を楽しみたかったな・・・」


◯1044貴志家鳴海の自室(深夜)

 片付いている鳴海の部屋

 鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない

 机の上には菜摘とのツーショット写真が飾られている

 ベッドの上で横になってスマホを見ている鳴海

 鳴海がスマホで見ているのは3月のカレンダー

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる


鳴海「(スマホを見ながら 声 モノローグ)俺たちに残された登校日数は、休日を抜くともう70日もなかった」

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