表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/119

Chapter6卒業編♯15 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由香里(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われていた武将。


一世(いっせい) 年齢不明 男子

ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。

Chapter6卒業編♯15 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯1007滅びかけた世界:緋空浜近くの道路(昼過ぎ)

 快晴

 緋空浜近くの一般道にいるナツ、スズ、老人 

 道には至る所に雑草が生えており、緋空浜近くにあった店たちは廃墟になっている

 うつ伏せになって老人のボルトアクションのスコープを覗いているナツ

 ナツから30mほど離れたところには空き缶が置いてある

 スズと老人はナツの様子を見守っている

 緋空浜にはナツたちが乗っていたピックアップトラック型の車が駐車されている

 車の荷台にはショッピングモールから盗んだ楽器、スポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、海で遊ぶ道具、スケートボードなど、色々な物が山のように積まれている

 ナツはスコープを覗いたままライフルのボルトを上げ後ろに引く、そしてボルトを戻す

 空き缶を狙って発砲するナツ

 大きな銃声が周囲に響き渡る

 弾丸は空き缶に当たっていない

 地面に落ちた薬莢がカランカランと音を立てている

 ナツはスコープを覗くのをやめる

 

スズ「なっちゃん、ちゃんと的を狙ってるー?」

ナツ「狙ってるよ」

スズ「嘘だー。かすってすらなかったもーん」


 少しの沈黙が流れる


老人「ナツ、もう一回撃ってみろ」


 リロードをするナツ

 ナツはスコープを覗き、空き缶に狙いを定める

 空き缶を狙って発砲するナツ

 大きな銃声が響き渡る

 弾丸は空き缶に当たっていない

 地面に落ちた薬莢がカランカランと音を立てている


ナツ「(スコープを覗くのをやめて小声でボソッと)銃なんか嫌いだ・・・」

スズ「どーしてなっちゃんの狙い通りにならないのかなー・・・」

老人「目が甘過ぎるんだよ」

スズ「め〜?」

老人「ああ」

ナツ「目が甘いって何」

老人「ナツの意識が標的に向いていないってことだ。だから弾丸が標的から逸れるんだろう」

ナツ「缶の大きさが・・・」

老人「(ナツの話を遮って)そういうことではない。問題は君の意識にある」


 再び沈黙が流れる


スズ「目を良くしたら当たるようになるの?ジジイ」

老人「そうだ。(少し間を開けて)良いか、二人とも。人の命を奪うつもりで一瞬に集中しろ、その一瞬で世界が変わると思え、君たちの愛する者の人生が発砲するまでの一秒で決まることを忘れるな」

ナツ「そんなの無理だよ、私たちはあんたみたいな人殺しじゃないんだ」

老人「実際に殺せとは言わん。だが撃とうか悩んでいる間に殺されるのは嫌だろう?ナツが死んだら、スズは一人になるんだぞ」


 少しの沈黙が流れる


スズ「なっちゃん、私一人ぼっちは嫌だよ」

ナツ「うん・・・」

老人「スズを守りたかったら、意識を缶に向けるんだ」


 ナツはリロードをする

 スコープを覗き、空き缶に狙いを定めるナツ

 ナツは空き缶を狙って発砲する

 大きな銃声が響き渡る

 弾丸は空き缶に当たっていない

 地面に落ちた薬莢がカランカランと音を立てている

 スコープを覗くのをやめるナツ

 再び沈黙が流れる


ナツ「出来ない・・・やっぱり私には出来ないんだ・・・」

スズ「なっちゃん・・・」

ナツ「私とジジイじゃ経験が違い過ぎる・・・」

老人「愛する者を守るために、人を傷つける覚悟を持て。ナツ、獣の直感に従ってもう一度缶を狙うんだ」


 少しの沈黙が流れる


スズ「頑張れなっちゃん!!」


 リロードをするナツ

 ナツはスコープを覗き、空き缶に狙いを定める

 スコープを覗いたまま深呼吸をするナツ


ナツ「(スコープを覗いたまま 声 モノローグ)愛する者を守るために・・・人を傷つける覚悟を・・・愛する者を守るために・・・人を傷つける覚悟を・・・愛する者を守るために・・・人を傷つける覚悟を・・・(少し間を開けて)スズのために・・・引き金を引くを覚悟を・・・」


 空き缶を狙って発砲するナツ

 大きな銃声が響き渡る

 弾丸が空き缶に当たり、空き缶は宙を舞う


スズ「(大きな声で)おおー!!!今度は命中だー!!!」


 地面に落ちた薬莢と空き缶がカランカランと音を立てている

 スコープを覗くのをやめるナツ


老人「良い腕だ、ナツ」

ナツ「どうも・・・」


 時間経過


 うつ伏せになって老人のボルトアクションのスコープを覗いているスズ

 スズから30mほど離れたところには弾丸の跡がついた空き缶が置いてある

 ナツと老人はスズの様子を見守っている

 

老人「スズ、一瞬の感覚を忘れるな」

スズ「(スコープを覗いたまま)うん!!」

 

 空き缶を狙って発砲するスズ

 大きな銃声が響き渡る

 弾丸は空き缶に当たっていない

 地面に落ちた薬莢がカランカランと音を立てている

 スコープを覗くのをやめるスズ


スズ「あれ〜・・・」

老人「スズはまだ集中し切れてないんだろう」

スズ「自分の鼻息が気になっちゃってるせいかな〜・・・」

老人「そうだとしたら狙っている時は呼吸を止めると良い」

スズ「(驚いて)死んじゃうかもしれないのに!?」

老人「倒れそうになったら息を吸え」

スズ「分かったー!」


 スズはスコープを覗く

 息を深く吸い、呼吸するのを止めるスズ


ナツ「(スズのことを見ながら 声 モノローグ)私たちの未来は、また一歩ジジイに近づいたのかもしれない。ジジイも昔は、愛する者を守るために銃の扱いを学んだのかな。(少し間を開けて)正しいことのように見えて、その実態は果てしなく矛盾してるんだ。守るために殺して、守れなかった怒りで殺して、殺された悲しみでまた殺す。だんだん自分が銃を持っている理由も分からなくなって・・・生きる意味を見失って・・・最後には一人になって・・・今まで犯してきた罪が復讐者となって裁きにやって来る・・・そんな人生・・・誰が望んだんだだろ・・・」


 スズは空き缶を狙って発砲する

 大きな銃声が響き渡る

 弾丸が空き缶に当たり、空き缶は宙を舞う

 地面に落ちた薬莢と空き缶がカランカランと音を立てている


◯1008波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)

 外は快晴

 朝のHRの前の時間

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 鳴海、明日香、嶺二、雪音が教室の窓際で話をしている


鳴海「今日も収穫無しか・・・」

嶺二「いよいよ時間だけが無駄に過ぎていきやがるな・・・」

雪音「無駄って思うなら、部員募集は諦めれば?」

嶺二「馬鹿野郎、何があっても文芸部は波高の歴史に残るよーな伝説の部活にするんだよ」

雪音「一年で廃部でも良いじゃん」

鳴海「良いわけあるか」

明日香「一年間の活動で潰れたらそれはそれで歴史に残ると思うんだけど・・・」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「鳴海・・・俺ら策を練ろーぜ・・・こいつら女どもは役に立たねーしよ・・・」

明日香「あんた今役に立たないって言った?」

嶺二「(慌てて)い、言っておりませんとも!!」


 明日香が嶺二を睨みつけている


鳴海「部員募集は地道に声をかけるしかないだろ・・・」

嶺二「その戦法は散々やり尽くして失敗したじゃねーか」


 再び沈黙が流れる


嶺二「詩穂ちゃんたちが痺れを切らす前に何かしら作戦を考えねーとな・・・」

鳴海「嶺二」

嶺二「ん?」

鳴海「作戦はもう諦めてくれ・・・」

嶺二「(大きな声で)な、何で諦めなきゃなんねーんだよ!?!?」

鳴海「どうしても良い方法が思いつかないからだ・・・」

嶺二「ふ、副部長のおめーが諦めるのは無しだろ!!」


 少しの沈黙が流れる


明日香「流石の鳴海でも、お手上げ状態ってことね」

鳴海「すまん」

明日香「謝らないでよ、もともと期待してないんだし」

鳴海「そうか・・・」

雪音「鳴海さー」

鳴海「ああ」

雪音「後輩たちに醜態を晒しても良いの?」

鳴海「どういう意味だよ」

雪音「引き際は潔い方が格好良い卒業生に見えると思って。卒業までグダグダ新入部員の勧誘をやってるのは、はっきり言ってクソダサいじゃん?」

嶺二「(小声でボソッと)スイートメロンパン・・・」

雪音「あっ、でも既に鳴海はスイートメロンパン並みにダサい姿を見せまくってるからいっか」


◯1009波音高校一年六組の教室(朝)

 古典の授業が行われている

 汐莉、響紀、詩穂、真彩が真面目に授業を聞きながらノートを取っている

 

鳴海「(声 モノローグ)何と言われようが、良い方法が思いつかなかろうが、俺は部員募集を諦める気はなかった。朗読劇の練習と並行して、部員募集を続けてやる」


◯1010波音高校三年三組の教室(昼前)

 日本史の授業が行われている

 鳴海は授業を聞いていない

 真面目に授業を聞きながらノートを取っている明日香

 机に突っ伏して眠っている嶺二

 興味なさそうに授業を聞きながらノートを取っている雪音


鳴海「(声 モノローグ)朗読劇も、部員募集も、成功させるんだ・・・」


◯1011波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、雪音、詩穂

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 鳴海、明日香、雪音は朗読劇用の波音物語を手に持って立っている

 詩穂は椅子に座っている

 朗読の練習を行っている鳴海、明日香、雪音

 詩穂は朗読の練習の様子を見ている

 校庭では運動部が活動している


鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら 声 モノローグ)菜摘一人のためじゃない。文芸部と軽音部の全員のためだ。抱えてる全ての問題を取っ払うのが無理でも、朗読劇と部員募集が成功さえすれば気持ちだって多少は晴れる」


 詩穂が朗読の練習を止める


◯1012波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 軽音部の部室では汐莉が一人椅子に座り曲制作を行っている

 教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 汐莉の机の上には筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある

 汐莉はパソコンの作曲ソフトを使い打ち込みをしている

 校庭では運動部が活動している


鳴海「(声 モノローグ)朗読劇・・・部員募集・・・部員募集・・・朗読劇・・・朗読劇・・・部員募集・・・」


◯1013波音高校一年生廊下(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 一年生廊下にいる嶺二、響紀、詩穂、真彩

 廊下には嶺二たちの他に生徒はいない

 夕日が廊下を赤く染めている

 嶺二、響紀、詩穂、真彩は部員募集の紙の束を持っている

 話をしながら廊下を歩いている嶺二、響紀、詩穂、真彩


鳴海「(声 モノローグ)繰り返される日常に、新鮮な香りはなかった」


 一年六組の教室/軽音部一年の部室の前を通る嶺二たち

 詩穂が立ち止まり一年六組の教室/軽音部一年の部室の中を覗く

 一年六組の教室/軽音部一年の部室の中では、汐莉が一人パソコンを使って曲制作を行っている

 一年六組の教室/軽音部一年の部室にいる汐莉のことを見ている詩穂

 汐莉は黙々と作業をしている

 

鳴海「(声 モノローグ)みんな内心、この生活には飽き飽きしているのかもしれない。卒業前なのに、地味で大して面白くもない作業を繰り返しているんだから、イライラして当然だ」


 嶺二、響紀、真彩は先を歩いているが、詩穂は変わらず一年六組の教室/軽音部一年の部室にいる汐莉のことを見ている

 真彩は詩穂が立ち止まっていることに気づき、声をかける

 詩穂は一年六組の教室/軽音部一年の部室にいる汐莉のことを見るのをやめて、嶺二たちのことを追いかける

 真彩の声を聞いた汐莉は教室の扉の方を見るが、そこには誰もいない


鳴海「(声 モノローグ)だがよく考えてみたら、俺の学校生活は文芸部に入るまで作業的な日々の繰り返しだった」


◯1014波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夜)

 外は日が沈み暗くなっている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 楽しそうに話をしている鳴海と菜摘


鳴海「(楽しそうに菜摘と話をしながら 声 モノローグ)学校に行かず、一人だけの家で一日ダラダラする日・・・学校に行って、嶺二とくらだらない話をして、明日香に怒られて、授業中に眠ったり、サボって抜け出したりして、帰宅したら適当に飯を作って、風呂に入って、意味もなく遅くまでテレビやスマホを見て、朝方に寝る日・・・(少し間を開けて)学校に行っても、行かなくても、俺は空っぽで刺激のない生活を送っていた」


◯1015帰路(放課後/夜)

 一人自宅に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「(声 モノローグ)今の文芸部での生活もあの時よりはマシか・・・」


◯1016貴志家リビング(夜)

 リビングで一人夕飯を食べている鳴海

 鳴海が食べているのは牛丼

 テーブルの上には置き手紙がある

 “夜勤のため晩ご飯は不要”と書かれている

 

鳴海「(牛丼を食べながら 声 モノローグ)全員が各自後悔しないように過ごすしかない」


◯1017貴志家鳴海の自室(深夜)

 片付いている鳴海の部屋

 鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない

 机の上には菜摘とのツーショット写真が飾られてある

 机に向かって椅子に座っている鳴海

 鳴海は朗読劇用の波音物語を読んでいる

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる


鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら)波音は我らを勝利に導き・・・いかなる時も希望の道を指し示している・・・お日様と同じだ・・・」


 朗読劇用の波音物語を机の上に置く鳴海


鳴海「奈緒衛と凛はどうやって波音の力になったんだろうな・・・」


◯1018貴志家リビング(日替わり/朝)

 外は晴れている

 時刻は七時半過ぎ

 制服姿で椅子に座ってメモ用紙に何か書いている鳴海

 少しすると鳴海はメモ用紙に文字を書き終える

 立ち上がる鳴海

 テーブルの上のメモ用紙には”姉貴へ 昨日の残りの牛丼を温めて食べろ、くれぐれも火事は起こさないように”と汚い字で書かれている


◯1019波音高校校門(朝)

 晴れている

 たくさんの生徒たちが門を潜って学校の中へ入って行く

 校門の前で部員募集を行っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩は部員募集の紙の束を持っている

 通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している鳴海たち

 明日香、響紀、詩穂は手袋をつけて部員募集の紙を差し出しているが、鳴海、嶺二、雪音、真彩は手袋をつけていない

 鳴海、嶺二、雪音、真彩の指先が赤くなっている


女子生徒1「今日寒いねー・・・」

女子生徒2「最高気温15℃だよ」

女子生徒1「マジ・・・?そりゃ寒いわ・・・」


 女子生徒1と2が話をしながら学校の中へ入って行く


詩穂「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)文芸部の新入部員を募集してまーす!!よろしくお願いしまーす!!」

真彩「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)お願いしまーす!!」

響紀「(近くにいた男子生徒に部員募集の紙を差し出しながら指を差して大きな声で)おいそこの一年生!!!!」

男子生徒1「えっ・・・ぼ、僕・・・?」

響紀「(近くにいた男子生徒に部員募集の紙を差し出したまま大きな声で)そう君!!!!この紙を受け取って欲しい!!!!」

男子生徒1「で、でも・・・僕部活は・・・」

響紀「(近くにいた男子生徒に部員募集の紙を差し出したまま大きな声で)良いから受け取りなさい!!!!」

男子生徒1「はあ・・・」


 男子生徒1は渋々部員募集の紙を響紀から受け取る


響紀「(大きな声で)ありがとう!!!!」

男子生徒1「じゃ、じゃあ・・・僕はこれで・・・」


 男子生徒1は学校の中へ入って行く


嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)ナイスだぞ響紀ちゃん!!」

響紀「うっす!!」

 

 響紀は再び部員募集の紙を差し出し始める


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)普段は部誌を書いたり朗読劇の準備をしたりしています!!!!体験入部でも構わないのでぜひ来てください!!!!よろしくお願いします!!!!」

嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出して大きな声で)初心者でも歓迎するよー!!!!」

明日香「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)興味がある子は特別教室の四に放課後来てみてくださーい!!!!よろしくお願いしまーす!!!!」

雪音「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながらやる気がなさそうに)是非是非ー」


 三人の男子生徒が鳴海たちのことを見ながら小声で話をしている


男子生徒2「(鳴海たちのことを見ながら小声で)あの人たちいつもやってね?」

男子生徒3「(鳴海たちのことを見ながら小声で)ああ、ここんとこ毎日やってるよ」

男子生徒4「(鳴海たちのことを見ながら小声で)人気がないんだろ・・・文芸部って聞かない部だしさ・・・」

男子生徒3「(鳴海たちのことを見ながら小声で)無名だから軽音部の奴らを使ってんのか」

男子生徒4「(鳴海たちのことを見ながら小声で)そうじゃね、よく知らねえけど」

男子生徒2「(鳴海たちのことを見ながら小声で)あー・・・よく見たらあいつら軽音部か・・・」

男子生徒4「(鳴海たちのことを見ながら小声で)テスト前なのに可哀想だよな」

男子生徒2「(鳴海たちのことを見ながら小声で)先輩の命令で強制的に働かされてる感じかよ。文芸部ってやべえとこだな」

男子生徒3「(鳴海たちのことを見ながら小声で)逆に変人集団の軽音部の奴らとはノリが合うんじゃねえの?」


 男子生徒2、3、4は小声で話をしながら学校の中へ入って行く


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら 声 モノローグ)朗読の練習を始めてから数日が経った。太陽は出ているが、校舎によって日差しが遮られている。12月の朝、日陰の中で大きな声を出して部員募集を行うのは酷く惨めなものだった。通りかかる生徒たちのほとんどが俺たちのことを嘲笑している。血管が凍るような寒さと、波高生たちの冷たい眼差しは気分を落ち込ませるのに十二分だった」


◯1020波音高校三年三組の教室(朝)

 朝のHRの前の時間

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 鳴海、明日香、嶺二、雪音が教室の窓際で話をしている


嶺二「別にいーだろテストなんか」

明日香「ダメに決まってるでしょうが・・・」

雪音「進路は一、二年の時の成績でほぼ決まるしねー」

明日香「その通り、あの子たちにとっては今が一番大事な時期なんだから」

鳴海「そんなことを言ったら学校生活の全部が大事な時期に当てはまるだと思うんだが」

明日香「そうです、あんたは馬鹿だから今更気づいたのかもしれないけど、学校生活の全部が大事な時期に当てはまるんです」

嶺二「でもよ明日香、馬鹿な俺らでも三年になってから更生出来たんだし、一年のうちは少しくらい勉強をサボっても問題ねーと思うぞ」

明日香「いつどこであんたたちは更生したのよ」

嶺二「学園祭が終わってちょっと経ってから活力に満ちた爽やかな男子高校生になったじゃねーか」

雪音「嶺二と鳴海が活力に満ちた爽やかな男子高校生?」

嶺二「一言一句あってるだろ?活力に満ちていて、爽やかで、男子高校生なのが俺と鳴海だ」

鳴海「(小声でボソッと)おそらく男子高校生であるってことしか合ってないぞ・・・」


 少しの沈黙が流れる


明日香「響紀たちが今後嶺二みたいな活力に満ちた爽やかな高校生になられたら困るので、期末試験前は絶対に開放するべきです」

鳴海「試験日は21、22、23の三日間だろ」

明日香「そうそう、クリスマスパーティーは24日ね」

鳴海「あと三週間もないか・・・」


 再び沈黙が流れる


雪音「試験前に部活を休みにして、曲作りは平気なの?」

明日香「し、汐莉が頑張ればね・・・」

鳴海「これ以上あいつに負荷をかけてどうするんだよ」

明日香「だって・・・しょうがないでしょ・・・」

嶺二「やっぱテスト前はふつーに活動してて良くね?つかその方が予定も狂わねーし楽だろ?」

明日香「他の部は休止になるのに私たちだけ活動するつもり?」

嶺二「ああ。それでいーよな?鳴海」


 少しの沈黙が流れる


明日香「鳴海!!ただでさえ軽音部には迷惑をかけてるんだから、試験前は自由にしてあげてよ!!」

鳴海「確かにテスト勉強の時間は奪いたくないが・・・下手に休止しても南の曲作りが遅れて朗読劇に・・・(少し間を開けて)いや・・・一つ打開策を思いついたかもしれない・・・」

嶺二「(驚いて)マジかよ!?ついに名案が生まれたか!!」

鳴海「名案ってほどのことじゃないけどな・・・」

嶺二「謙遜してないで早く言えよ!鳴海!」

鳴海「とりあえずは・・・嶺二が南から曲作りの進捗を聞き出して、順調そうならテスト前は休んでも良いってことにするんだ。ただし、試験前も活動したい奴は、自己責任で部活に参加出来ることにしよう」

明日香「えっ・・・ちょっと待って」

鳴海「何だ?」

明日香「要するに試験前に休むかどうかは個人に任せるってこと?」

鳴海「ああ。ただあくまでも曲作りの進捗によるからな」

嶺二「なかなか良い考えじゃねーか」

明日香「ぜんっぜん良くない考えでしょ!!」

嶺二「何でだよ明日香。鳴海の案なら汐莉ちゃんのペースに合わせて休止するか決められるし、各々の自由が効くんだぞ」

明日香「馬鹿、自由が効くからダメなの」

嶺二「意味が分からねーな・・・」

雪音「各自の判断に任せたら、きっと良い子ちゃんたちにとっては取り辛い休みになるんだよ。汐莉は休まないだろうし、汐莉が休まなきゃ他の子たちだって休まない。鳴海の案は軽音部の関係は上手く利用してるよね」

鳴海「だから言ったんだ、名案じゃないって」

嶺二「いや、悪くないぜ鳴海。休むか活動するかは意志の強さで判断ってわけだろ?」

鳴海「そうだな」

嶺二「なら俺たちは汐莉ちゃんたちに口出しするべきじゃねーか」

明日香「はあ!?」

嶺二「汐莉ちゃんたちだってガキじゃねーんだ。自分たちで責任の持てる選択をするだろ」

明日香「嶺二!!期末試験は・・・」

嶺二「(明日香の話を遮って)テストが大切なのは分かってんだよ」

明日香「だったら響紀たちに責任の持てる選択なんかさせないで!!」

嶺二「合同朗読劇と違ってテストは何回もあるんだぜ?」

明日香「そんな理由が突き通せるわけないでしょ!!」

鳴海「明日香・・・(少し間を開けて)響紀にはお前の方から休めって言って構わないから、試験のことはこれで我慢してくれないか」


 再び沈黙が流れる


明日香「別に私は・・・響紀だけのことを考えて休みにしてって頼んでるんじゃない・・・軽音部の四人には試験前の時間を大切にして欲しかったの・・・」


 少しの沈黙が流れる


明日香「分かった・・・汐莉の進捗次第ね・・・」

鳴海「ありがとう、明日香。嶺二は今日の放課後、南のところに行って話を聞きに行ってくれ」

嶺二「おう・・・・って何で俺なんだよ?」

鳴海「こういう時はお前が一番適任だからだ」

嶺二「そーか・・・?」

鳴海「ああ、頼むぞ」

嶺二「ま、任せとけって!!」


◯1021波音高校二年生廊下(昼)

 昼休み

 二年生廊下にいる鳴海と嶺二

 鳴海と嶺二は部員募集を行っている

 部員募集の紙の束を持っている鳴海と嶺二

 廊下では喋っている二年生や、昼食を取りに移動している二年生がたくさんいる

 鳴海と嶺二は通りかかる二年生たちに部員募集の紙を差し出している


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)文芸部副部長の貴志鳴海です!!新入部員を募集してます!!」

嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)入部したら現代文の成績が上がるよー!!」

鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)おい」

嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)ん?」

鳴海「嘘はつくなよ」

嶺二「嘘なんかついてねーって」

鳴海「現代文の成績が上がったってのは嘘だろ」

嶺二「残念ながらマジの話だぜ」

鳴海「どのくらい上がったんだよ、成績」

嶺二「テストの結果が3点良くなったんだ。凄いだろ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出して)ぶ、文芸部です!!皆さんの力を貸してください!!廃部を食い止めたいんです!!」

嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出して)ご協力お願いしまーす!!」

鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)放課後はほぼ毎日活動をしてます!!興味がある人は体験入部に来てください!!場所は特別教室の四です!!」


 鳴海と嶺二の前を通りかかる生徒たちは、二人のことを気に留めずに歩いて行く


嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集に紙を差し出すのをやめて)なー、やっぱ明日香たちも連れて来ねーか?」

鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集に紙を差し出すのをやめて)いや、それこそ昼休みくらいは明日香たちを自由にしてやろう」

嶺二「甘いな鳴海は・・・だから明日香たちも反抗するんだぞ」

鳴海「みんながストレスを溜め込んで部室を爆発させるよりは甘い方が良いだろ・・・」

嶺二「そ、そーだな・・・」

鳴海「と言っても今更ストレスを気にしても遅いかもしれないが・・・]

嶺二「遅い早いは関係ねーってことにしようぜ、鳴海」

鳴海「ああ」


 鳴海と嶺二は再び通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出し始める


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集に紙を差し出しながら 声 モノローグ)明日香や一条に部員募集を手伝ってもらわなかった理由は幾つかあるが、最大の要因は今俺たち三年生の間で嫌な緊張感が走っていたからだった。高校三年生の今の時期は、ただの試験前ではない。多くの人が受験やら就職を目の前にして、野犬のようにキレやすくなっている。少し気に食わないことがあれば、相手が友人であっても牙を見せて唸るだろう。神谷は俺たちを煽り、朝のホームルームの時間では必ず進路という言葉を使って話をするが、それもまた生徒たちの反感を強く買い、イライラを助長させていた。(少し間を開けて)俺は心の底から明日香の受験が合格することを祈っている・・・もしあいつが受験に失敗すれば・・・どんなトラブルが起きるか分からないからだ」


◯1022波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 軽音部の部室では汐莉が一人椅子に座り曲制作を行っている

 教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 汐莉の机の上には筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある

 汐莉はパソコンの作曲ソフトを使い打ち込みをしている

 校庭では運動部が活動している

 誰かが教室の扉を数回叩く

 嶺二が教室の扉を開けて入って来る


汐莉「(打ち込みをやめて)嶺二先輩、どうしたんですか?」


 嶺二は使われていない椅子を手に取り、汐莉の席の近くに置く

 椅子に座る嶺二


嶺二「ちょっと話そーぜ」

汐莉「サボってたら怒られますよ、鳴海先輩に」

嶺二「へーきへーき」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「もしかして・・・鳴海先輩の差し金ですか」

嶺二「(驚いて)よ、よく分かったな!!」

汐莉「(小声でボソッと)人を使わないで自分から来いよあの意気地無し・・・」

嶺二「汐莉ちゃん、今なんて・・・」

汐莉「あんまり調子に乗らないでくださいって言ったんです」

嶺二「ぜ、全然違う言葉になってねーか・・・」

汐莉「気のせいですよ。(少し間を開けて)それで鳴海先輩の下僕犬は何しに来たんですか?」

嶺二「曲作りの進捗の確認をな・・・」

汐莉「順調です。鳴海先輩にはそう伝えておいてください」


 再び沈黙が流れる


嶺二「オッケーだ、鳴海には今の通りに言っておく。んじゃー汐莉ちゃん」

汐莉「何ですか」

嶺二「ここから先は忠実な鳴海の犬としてではなく、好奇心から聞かせてもらうが・・・」

汐莉「はい」

嶺二「鳴海と何があったんだ?」

汐莉「別に何もありません」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「毒が暴発する前に吐き出しちまえよ。鳴海や菜摘ちゃんよりも俺相手の方が言いやすいはずだぜ?」

汐莉「嶺二先輩に言えることは一つもないです」

嶺二「鳴海や菜摘ちゃんには言えんのか?」

汐莉「分かりません」

嶺二「菜摘ちゃんのことはともかく・・・俺と鳴海の関係は昨日や今日じゃねーんだ。だからよ、鳴海のことは手に取るよーに分かる時ってのがある。あいつが何を考えていたり、何で悩んでいたり・・・嫌でも色々見えてくるんだよ」

汐莉「良い友達ですね」

嶺二「きめーけどな・・・付き合いの長い俺や明日香には鳴海のことが分かっちまうわけだ。そんでよ、今の鳴海は菜摘ちゃんのこととか、文芸部のこととか、朗読劇のことも考えてるんだが・・・もう一つ汐莉ちゃんのことも気にかけよーとしてるみたいなんだよ。汐莉ちゃんからすればうざくてたまらねーだろうけどさ」

汐莉「何が・・・言いたいんですか・・・?」

嶺二「俺は二人に仲良くやってもらいてーんだ」

汐莉「仲・・・良いですよ」

嶺二「そーか?最近は一緒にいるところもほとんど見ねーけど・・・」

汐莉「私が一人で作業をしてるからです」

嶺二「曲作りのせいってことか」

汐莉「はい」

嶺二「だがよ、部室に全く顔を出さなくなったのはどーかと思うぜ?」

汐莉「すみません・・・」

嶺二「朗読を担当するのは鳴海、雪音ちゃん、汐莉ちゃん、明日香の四人だ。雪音ちゃんはクズ女だからしょーがないとしても、鳴海と揉めた状態のまま朗読の練習をするのは大変じゃねーのか?」

汐莉「別に喧嘩してるわけじゃないです・・・鳴海先輩だってきっと私と同じことを言うと思います・・・」

嶺二「喧嘩はしてねーって?」

汐莉「はい・・・」

嶺二「じゃー何がどーなってんだよ?」

汐莉「私と鳴海先輩の間には・・・距離が出来てしまったんです・・・」

嶺二「喧嘩したってのとは違うのか?」

汐莉「違います・・・決別したんです・・・」

嶺二「決別は汐莉ちゃんも鳴海も望んでいたことじゃねーだろ」

汐莉「どうでしょうね・・・鳴海先輩は・・・気持ちがふらふらしてる人ですから・・・」

嶺二「俺たち文芸部の中でふらふらしてないのは菜摘ちゃんだけだぞ」


 再び沈黙が流れる

 立ち上がる嶺二


嶺二「距離とやらは・・・まだ縮められるぜ、汐莉ちゃん。(少し間を開けて)んじゃ、曲作りを頑張ってな」


◯1023波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、雪音、真彩

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 鳴海、明日香、雪音は朗読劇用の波音物語を手に持っている

 椅子に座って話をしている鳴海たち

 校庭では運動部が活動している


鳴海「じゅ、順調としか言わなかったのかあいつは」

嶺二「おう」

明日香「な、何でもっと細かく聞いて来なかったの!?」

嶺二「俺は汐莉ちゃんに頼まれた通りの言葉を届けてやったんだぞ」

真彩「頼まれた言葉って・・・順調っすか・・・?」

嶺二「そーそー」


 少しの沈黙が流れる


雪音「曲はまだまだ完成しないかもね」

真彩「ま、まだまだはやべーっすよ!!今からでも響紀を曲作りに回すべきっす!!」

鳴海「奥野・・・」

真彩「マジ休んでられませんって!!期末とかどーでも良いんでうちらにも出来ることをさせてください!!」

明日香「どうでも良いって言うけど、真彩、期末試験は二年生に進級する時に影響するんだからね?」

真彩「き、期末はもう捨てました!!」


 再び沈黙が流れる


真彩「響紀に汐莉の手伝いをさせましょーよ!!」

雪音「響紀ならすぐ曲は作れるの?」

真彩「はい!!あいつは凄い早さで仕事を終えますから!!」

雪音「じゃあ響紀に頼んだら?鳴海」

鳴海「響紀は・・・」

明日香「何よ?」

鳴海「いや・・・」

嶺二「俺は汐莉ちゃん一人でもいけると思うぞ」

明日香「順調の一言でどうしてそう思えるわけ?」

嶺二「俺は信じてるんだ、汐莉ちゃんのことをな。(少し間を開けて)鳴海も俺と同じだろ?」

鳴海「あ、ああ」

嶺二「それに今から響紀ちゃんを曲作り班に入れたらよ、才能がぶつかって微妙な楽曲が完成しちまうかもしれないぜ?」

真彩「で、でもあの二人は良いコンビっすよ!!」

嶺二「まあやん、バンドの解散する原因の99.673%は方向性の違いなんだぞ」

真彩「ま、魔女っ子少女団は解散しないっす・・・」

嶺二「作りかけ途中で他人が入って来たら、面倒が起きるかもしれねーだろ」

真彩「そ、そうなんすか・・」

明日香「嶺二、本当に汐莉は大丈夫なのね」

嶺二「おうよ!!保証するぜ!!」

鳴海「お前が保証した途端信用度がガタ落ちするな」

嶺二「可愛い後輩の才能を信じてやらねーとは酷え奴だ・・・」

鳴海「(声 モノローグ)俺にはどうして嶺二が南のことを庇うのか、どうして南を一人にさせたがるのか、その理由が分からなかった」


◯1024帰路(放課後/夜)

 日が沈み暗くなっている

 一人自宅に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「(声 モノローグ)文芸部と軽音部には、向こう見ずな奴か、或いはその真逆の性格を持つ奴が多い。俺や嶺二、響紀のように結果を考える前に行動してしまう奴と、明日香、永山みたいな行動を一歩下がって見る奴らが混ざっている。その中間に立っていた、言わばバランス的な存在が菜摘だった。事あるごとに文芸部と軽音部の中で意見が割れたり、好き勝手な行動を取る奴が出て来るのは、菜摘の不在に加えてこの極端な性格の違いに原因があるのかもしれない」


◯1025貴志家風呂場(夜)

 湯船に浸かっている鳴海


鳴海「(声 モノローグ)人だから性格が違うのは当然だ。それぞれ合う合わないがあるのも当然だ。以前の文芸部は、そんな性格の違う奴ら同士で歯車が綺麗に噛み合っていた。それは・・・きっと菜摘が俺たちの上に立って、全ての歯車が落っこちないように調整してくれていたからだ」


◯1026貴志家リビング(夜)

 リビングで夕飯を食べている鳴海と風夏

 鳴海と風夏はテーブルを挟んで向かい合って座っている

 テーブルの上にはご飯、味噌汁、照り焼きチキン、サラダ、取り皿などが並べられてある


鳴海「(夕飯を食べながら 声 モノローグ)菜摘が退屈しない日々を作ってくれていた」


◯1027貴志家鳴海の自室(深夜)

 片付いている鳴海の部屋

 鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない

 机の上には菜摘とのツーショット写真が飾られている

 ベッドの上で横になっている鳴海

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる


鳴海「かつて奈緒衛や凛も・・・俺と同じ気持ちを抱いていたんだろうか・・・」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ