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Chapter6卒業編♯14 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由香里(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われていた武将。


一世(いっせい) 年齢不明 男子

ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。

Chapter6卒業編♯14 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯990波音高校校門(日替わり/朝)

 晴れている

 たくさんの生徒たちが門を潜って学校の中へ入って行く

 校門の前で部員募集を行っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩は部員募集の紙の束を持っている

 通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している鳴海たち


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら 声 モノローグ)結局多数決の結果は反対派が4票、賛成派が5票だった」


 鳴海たちの前を通りかかる生徒たちは、文芸部のことを気に留めず周りの生徒たちと楽しそうに話をしながら校舎内へ入って行く


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら 声 モノローグ)わざわざ誰がどちらに投票したのか言わないでくれと頼んだのに、この結果からじゃ丸分かりだ」


◯991波音高校四階階段/屋上前(昼)

 昼休み

 屋上に続く扉には、天文学部以外の生徒立ち入り禁止という貼り紙がされている

 太陽の光が扉から差し込んでいる

 屋上前の階段に座って昼食を取っている嶺二と雪音

 嶺二はコンビニのパン、雪音はコンビニのおにぎりを食べている


鳴海「(声 モノローグ)菜摘は波音役から降板になり、朗読劇の主役は一条のものになった」


 嶺二がパンを食べながら話をしている

 笑いながら嶺二の話を聞いている雪音


◯992波音高校一年六組の教室(昼)

 昼休み

 教室で机を並べて昼食を取っている汐莉、詩穂、真彩

 汐莉は手作りのおにぎり、詩穂と真彩はコンビニの弁当を食べている

 教室にいる生徒たちは昼食を取ったり、周りいる人と喋ったり、スマホを見たりしている

 

鳴海「(声 モノローグ)初めから一条は分かっていたのかもしれない。多数決をしたら、確実に自分の手の中に波音役が転がり落ちて来ると・・・」


 詩穂と真彩はご飯を食べながら話をしているが、汐莉は会話に参加していない


◯993波音高校食堂(昼)

 昼休み

 食堂にいる明日香と響紀

 混んでいる食堂

 注文に並ぶ生徒がたくさんいる

 明日香はオムライス、響紀はとんかつ定食を食べている


鳴海「(声 モノローグ)千春がいなくなって、ショックを受けている嶺二を見かねて軽音部はライブをしてくれた。もしあの時、軽音部が嶺二のことを可哀想だと思わなかったら・・・今の文芸部は違っていたんじゃないのか?いや、それ以前に俺が千春に声をかけていなかったら・・・俺が千春を文芸部に誘っていなかったら・・・響紀たちと出会うことはなかったんじゃないのか?(少し間を開けて)文芸部なんて部活がなければ・・・嶺二が千春に恋することも、響紀が明日香に心奪われることも、南が秘めた想いで苦しむことも、起こり得なかったはずだ」


◯994波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、雪音、響紀

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 鳴海、明日香、雪音は朗読劇用の波音物語を手に持って立っている

 響紀は椅子に座っている

 朗読の練習を行っている鳴海、明日香、雪音

 響紀は朗読の練習の様子を見ている


明日香「(朗読劇用の波音物語を読みながら)と、時は戦国時代・・・よ、世は混沌を極めていた・・・い、戦で流れる血は・・・」

鳴海「(明日香の朗読を遮って)おい」

明日香「な、何」

鳴海「噛み過ぎだぞ」

明日香「しょ、しょうがないでしょ!!初めて読むんだから!!」

雪音「初めて?前にみんなで通しで読んだよね?」

明日香「あ、あれ以来読んでなかったの!!」

雪音「初めてじゃないじゃん」


 少しの沈黙が流れる


響紀「頑張れ明日香ちゃん!!私は明日香ちゃんが初めてでも2回目でも気にしないからね!!」

明日香「(小さな声で)そ、その言い方はなんか語弊があるような気がするんだけど・・・」

響紀「細かいことは気にせずにやりましょう。明日香ちゃん」

明日香「そ、そうね・・・(少し間を開けて朗読劇用の波音物語を読みながら)と、時は戦国時代・・・世は混沌を・・・」

鳴海「(明日香の朗読を遮って)一旦朗読をやめてくれ明日香」

明日香「こ、今度は何よ!!」

鳴海「どうしてここに響紀がいるんだ」

響紀「いちゃいけない理由がありますか?」

鳴海「理由しかないだろ!!」

響紀「すみません鳴海さん」


 再び沈黙が流れる


鳴海「すみませんの後はどうしたんだよ!!」

響紀「どうもありませんけど」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「もう一度だけ聞くぞ・・・・何故お前は文芸部の部室にいるんだ」

響紀「明日香ちゃんに来て欲しいって頼まれたので」


 明日香のことを見る鳴海


鳴海「(明日香のことを見ながら)お前のせいか」

明日香「(鳴海から顔を逸らして)だ、だって響紀は暇そうだったし・・・それに聞いてくれる人がいないと練習にもならないから・・・」

鳴海「(大きな声で)響紀は生徒会でやることがあるだろ!!!!」

響紀「ないですね」

鳴海「(大きな声で)三年生を送る会の準備とかクリスマスパーティーの用意は投げ出したのかよ!!!!」

響紀「いや、一通りもう終わったんです」

鳴海「お、終わっただと・・・?」

響紀「はい」


 再び沈黙が流れる


雪音「男は男を、女は女を誘おうクリスマスパーティーの開催が決定したって鳴海は聞いてなかったんだ」

鳴海「いつの間にそんなふざけたパーティーの開催が発表されたんだよ・・・」

雪音「朝のホームルーム」

響紀「因みにタイトルは私が考えました」

鳴海「だろうな・・・」

響紀「コンセプトは、恋人がいない人でも楽しめる聖夜です」

鳴海「クソふざけてるだろ」

響紀「クリスマスパーティーくらいクソふざけさせてください」

鳴海「響紀、パーティーは文芸部と軽音部にとってプラスになるイベントじゃなきゃいけないんだぞ」

響紀「プラスに出来るかは鳴海さんたち次第ですよ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「生徒会の仕事がない時は、響紀は嶺二たちと部員募集をしてくれ、良いな?」

響紀「はあ・・・絶対にそうしろって言うなら嫌々部員募集をしますが・・・」

鳴海「絶対にそうしろ」

響紀「分かりました・・・」

明日香「な、鳴海!!」

鳴海「何だよ?」

明日香「聞く人がいない状態で朗読の練習をする気なの!?」

鳴海「ああ」

明日香「が、学園祭の時はみんなに朗読の練習を・・・」

鳴海「(明日香の話を遮って)今と学園祭の時じゃまるで状況が違うだろ。あの時は菜摘も千春もいた・・・朗読劇は俺たちだけの活動だったが・・・今はそうじゃない。軽音部と合同だ。おまけに文芸部は廃部寸前だぞ。明日香、振り返ってみれば学園祭の時の方が遥かに時間と余裕があったじゃないか」

明日香「それはそうだけど・・・(少し間を開けて)でも・・・前回の朗読劇はギャラクシーフィールドと合同でやったようなもんでしょ?」


 再び沈黙が流れる


明日香「鳴海、あんた少し焦り過ぎなんじゃないの?廃部寸前って騒いで部員募集をする割には、多数決で無駄な時間を取るし・・・波音の配役にしても、もっと前に代えてれば余裕も出来たと思うけど・・・?」

雪音「鳴海は私に波音役をやって欲しくなかったんだよ、そうでしょ?だからだらだら時間を使って、多数決みたいな無駄なことまでしちゃってさ。本当に馬鹿だよね」


◯995波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 

菜摘「そうなんだ!!じゃあ今度こそ朗読劇は合同でやることになったんだね?」

鳴海「ああ・・・今度こそ、な」

菜摘「(嬉しそうに)そっか!!良かった!!」

鳴海「そういえばクリスマスパーティーも出来そうだ、菜摘」

菜摘「ほんと!?」

鳴海「おう。響紀が上手いことやってくれて、全校生徒が参加出来る規模になったぞ」

菜摘「(驚いて)ぜ、全校生徒!?文芸部と軽音部だけのパーティーじゃないの!?」

鳴海「いや、完全に学校行事だ」

菜摘「凄いね!!私も参加したかったなぁ」

鳴海「参加出来るかもしれないだろ」

菜摘「うーん・・・(少し間を開けて)あっ、でもね、クリスマスまでに退院出来なかったとしても、風夏さんがプレゼントをくれるって!!」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「家族以外の大人の人からプレゼントって貰ったことないから、楽しみなんだ〜!!」

 

 再び沈黙が流れる


菜摘「朗読劇も、クリスマスパーティーも、忙しいと思うけど、頑張ろうね!!鳴海くん!!」

鳴海「あ、ああ・・・」


◯996帰路(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 一緒に帰っている嶺二と雪音

 部活帰りの学生がたくさんいる


雪音「だから言ったじゃん。5対4で朗読劇は中止にならないって」

嶺二「ま、まぐれかもしれねーだろ」

雪音「まぐれとか偶然とか、世の中にはないから」

嶺二「全部運命ってことかよ」

雪音「そう。全て運命なの」

嶺二「くだらねーな・・・」

雪音「私と嶺二が出会ったのも、運命だよ。あなたは輪廻転生の仕組みを知り、私と共に次の菜摘を探しに行くんだから」

嶺二「雪音ちゃん、そーゆー考えをアホ臭えって言うんだぜ?」

雪音「アホは嶺二の方じゃない?多数決の結果も予想出来ないんだし」

嶺二「俺は疲れたくねえからなるべく頭を使わないようにしてんだよ」


 少しの沈黙が流れる


雪音「ねーねー、覚えてる?」

嶺二「覚えてねーな」

雪音「その返事の仕方・・・覚えてるんだね」

嶺二「何のことだよ?」

雪音「約束したじゃん。私の予想が当たったら、キスするって」


 再び沈黙が流れる


嶺二「約束なんかしてねーだろ」

雪音「はあ?逃げんの?」

嶺二「アホな雪音ちゃんは、約束が無効になってることを忘れちまったみてーだな」


 少しの沈黙が流れる


雪音「あんたのそういうところ、ほんとクソつまらないから。やめた方が良いよ」

嶺二「アホだから俺の面白さが分からねーんだろ」


 立ち止まる雪音

 チラッと振り返って雪音のことを見る嶺二


嶺二「突っ立ってないでいこーぜ」


 唇を噛み締める雪音

 嶺二は雪音を置いて歩き続ける


雪音「待って」


 立ち止まる嶺二


嶺二「んだよ?」

雪音「足が痛い」


 再び沈黙が流れる


雪音「足を怪我してるの」

嶺二「じょーだんだろ・・・?」

雪音「今朝、階段で汐莉に突き飛ばされて・・・それで怪我をしたの」

嶺二「今朝っていつだよ?」

雪音「登校した時」

嶺二「汐莉ちゃんが階段から人を突き飛ばすわけねーだろ」


 雪音は右のハイソックスをまくる

 ハイソックス下の雪音のすねが青紫色になって酷い内出血を起こしている


嶺二「(雪音のすねを見て)ど、どーしたんだよその脚」

雪音「怪我をしたって言ってるでしょ」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「わ、わりーけど、俺急いでるから!!」


 嶺二は前を向き逃げるように早足で歩き出す

 雪音はその場で立ち止まっている

 一人で歩き続ける嶺二

 雪音は立ち止まったまま嶺二のことを見ている

 雪音から50mほど進んだところで立ち止まり、恐る恐る振り返る嶺二

 雪音は変わらず立ち止まったまま嶺二のことを見ている

 嶺二は少し悩んだ後、嫌々雪音のところへ引き返す

 雪音の前で立ち止まる嶺二


嶺二「言っとくけどな、死んでもおんぶはしねーぞ。てめーが怪我をしてようが背中は貸さねえ。俺はタクシーでも市民バスでも電車でもねーんだ。公共交通機関が使いたきゃ、そこら辺の駅まで這って・・・」


 時間経過


 雪音をおんぶをして歩いている嶺二


嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)人の良心を利用しやがって・・・」

雪音「(嶺二におんぶされながら)何?」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら大きな声で)人の良心を利用しやがってって言ったんだよ!!!!

雪音「(嶺二におんぶされながら)あーごめん」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら小声でボソッと)こんちくしょーが・・・」

雪音「(嶺二におんぶされながら)おぶってくれてありがと、嶺二」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)誰にやられた傷なんだよ」

雪音「(嶺二におんぶされたままイライラしながら)だから汐莉だってば」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)階段から突き飛ばされたのか?」

雪音「(嶺二におんぶされながら)そう」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)階段から突き飛ばされたってのが本当だとしたら・・・誰にやられたのか分からねーかもな、振り返る暇もなく相手が逃げてるかもしれねーし」


 再び沈黙が流れる


嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)多分・・・女生徒だとは思うけどよ・・・雪音ちゃん、逆恨みとかされてるんだろ?」

雪音「(嶺二におんぶされながら)知らない」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)色々大変なんだな、雪音ちゃんも」

雪音「(嶺二におんぶされながら)同情しないでよ」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)階段から突き飛ばされたんだとしたら、可哀想に思って同情するだろ・・・」

雪音「(嶺二におんぶされながら)私のこと、可哀想な子だと思うんだ」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)まーな・・・そう思いたくはねーけど・・・」

雪音「(嶺二におんぶされながら)どうして思いたくないの?」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)可哀想って言葉は、使い方によっちゃ人の心や尊厳を傷つけるだろ」

雪音「(嶺二におんぶされながら)うん」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)しょうがねえ・・・今日は特別に家まで送ってやるか・・・」

雪音「(嶺二におんぶされながら)私が可哀想だから送るんでしょ?」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)ちげーよ。友達だから送ってやるんだ」

雪音「(嶺二におんぶされながら)友達?」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)ああ。怪我した時限定の友達サービスってやつだぞ」

雪音「(嶺二におんぶされながら)ふーん・・・あのさ」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)何だよ?」


 雪音は嶺二の頬にキスをする


雪音「(嶺二におんぶされながら)今のも友達サビースってことで」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)ふざけんじゃねえ・・・てめーなんかとは早々と縁を切ってやる」

雪音「(嶺二におんぶされながら)無理だよ。もう私と嶺二の運命は同じ方へ向いてるから」


◯997帰路(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 一人自宅に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「(声 モノローグ)何で俺には・・・菜摘のような強い心も、強い意志も、物事を前向きに捉える脳みそも・・・備わってないんだ・・・」


◯998公園(夕方)

 ◯990、◯991、◯992、◯993、◯994、◯995、◯996、◯997と同日

 夕日が沈みかけている

 公園にいる千春

 千春はベンチに座っている

 千春は刃の欠けた剣を持っている

 公園では千春の他にサッカーをしている小学生くらいの二人の少年がいる

 少年たちに千春の姿は見えていない

 公園の時計は5時前を指している

 ため息を吐く千春


千春「(声 モノローグ)不甲斐ない・・・不甲斐ないのです・・・勝ったも同然だと思っていた早季相手に敗北・・・そして文芸部の状況は最悪中の最悪です・・・少し鳴海さんたちの様子を見ていない間に、多数決までしていて・・・もう本当に意味が分かりません・・・人間とは、意味不明な生き物なのです・・・まあ私が、人間を理解しきれていないだけかもしれませんが・・・」


 再びため息を吐く千春


千春「(声 モノローグ)ああ、不甲斐ない・・・(かなり間を開けて)私はついさっき、とんでもない現場を見てしまいました・・・まさか・・・あんなものを見てしまうなんて・・・」


◯999◯996の回想/帰路(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 雪音をおんぶしている嶺二

 千春は嶺二と雪音の後を尾けている

 刃の欠けた剣を持っている千春

 嶺二と雪音には千春の姿が見えていない

 話をしている嶺二と雪音


千春「(声 モノローグ)怪我した女性をおんぶしてあげるのは分かります。嶺二さんはジェントルマンなので。しかし!!問題は他にあるのです!!」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)ああ。怪我した時限定の友達サービスってやつだぞ」

雪音「(嶺二におんぶされながら)ふーん・・・あのさ」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)何だよ?」


 雪音は嶺二の頬にキスをする


雪音「(嶺二におんぶされながら)今のも友達サービスってことで」


 呆然として立ち止まる千春


千春「(呆然としながら)キスを・・・した・・・?」

嶺二「(雪音をおんぶして歩きながら)ふざけんじゃねえ・・・てめーなんかとは早々と縁を切ってやる」

雪音「(嶺二におんぶされながら)無理だよ。もう私と嶺二の運命は同じ方へ向いてるから」


 その場で怒りながら地団駄を踏む千春


千春「(怒りながら地団駄を踏んで大きな声で)ずる過ぎます!!!!後ろからキスするのはずるいのです!!!!」


◯1000回想戻り/公園(夕方)

 夕日が沈みかけている

 公園にいる千春

 千春はベンチに座っている

 千春は刃の欠けた剣を持っている

 公園では千春の他にサッカーをしている小学生くらいの二人の少年がいる

 少年たちに千春の姿は見えていない

 公園の時計は5時前を指している

 

千春「(声 モノローグ)私だってその気になれば・・・いつでも嶺二さんの頬にキスは出来ます・・・直接触れられるわけじゃないけど・・・(少し間を開けて)後ろからというのが許せないのです・・・ちょっと嶺二さんと親しいからといって、おんぶからのキスはいただけません・・・あんなやり方をするのは・・・そう・・・雌犬です!!一条雪音とは、雌犬なのです!!もちろん嶺二さんが魅力的なのは理解出来ますが・・・」


 5時のチャイムが鳴る

 公園にいた少年たちがサッカーをやめる


少年1「帰ろうぜー」

少年2「うん!」


 少年二人はサッカーボールを持って公園から出て行く


千春「(声 モノローグ)菜摘さんが入院してから、嶺二さんは一条雪音さんと親しくしています・・・二人は良からぬことを企んでいるのです・・・(少し間を開けて)嶺二さんと雪音さんは・・・波音さんの魂を持つ者を探すのでしょう・・・もっと明確な表現をするのであれば、二人は菜摘さんの魂を持つ者を探そうと決めているのです。菜摘さんが亡くなった後も、奇跡を起こすために・・・」


 立ち上がる千春

 千春は刃の欠けて剣を使って、地面に何か彫り始める


千春「(刃の欠けた剣で地面に何か彫りながら 声 モノローグ)嶺二さんは私を・・・雪音さんはお姉さんを・・・救おうとしています・・・そのためには、奇跡の力が必要なのかもしれません・・・でも私は・・・そんな方法で救われても嬉しくないです。誰かが代償を払った上での奇跡は、尊い価値があります。そういった尊い価値のある奇跡は、私みたいな人形に使うべきではないのです。(少し間を開けて)私と嶺二さんの関係が終わってしまったとは思いません。でも・・・終わった方が良い関係もあります。嶺二さん、少年時代の思い出とは、忘れかけているから美しく見えるのです。その思い出を、他人が払った代償で汚れてしまうのは辛くないですか・・・?自分の目的のために他人を突き落とすのは、最も人間らしい行いであり、人間の行いの中で最も許され難く、最も見苦しいことだと思います。私は嶺二さんに、道を誤ってほしくないのです・・・」


 千春は刃の欠けた剣で何かを彫り終える

 公園の地面には”運命はない でもそれさえも運命なのか?”と彫られている

 公園の地面に彫られていた文字は、強風が吹き一瞬で消えてしまう


◯1001貴志家リビング(日替わり/朝)

 外は快晴

 時刻は七時半過ぎ

 制服姿で椅子に座ってニュースを見ている鳴海

 キッチンで風夏が弁当を作っている


ニュースキャスター2「今日の最高気温は18度・・・最低気温は・・・」


◯1002波音高校校門(朝)

 快晴

 たくさんの生徒たちが門を潜って学校の中へ入って行く

 校門の前で部員募集を行っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩は部員募集の紙の束を持っている

 通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している鳴海たち


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら 声 モノローグ)当たり前のように南は部活に顔を出さない。あいつの曲作りがどこまで進んでいるのか分からないままだった」

嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)文芸部でーす!!!!新入部員を募集してるんで良かったらぜひー!!!!」

明日香「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)お願いしまーす!!!!お願いしまーす!!!!」

響紀「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)チラシだけでも貰って行ってくださーい!!!!」


 鳴海たちの前を通りかかる生徒たちは、文芸部のことを気に留めず周りの生徒たちと楽しそうに話をしながら校舎内へ入って行く


真彩「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)文芸部存続のために部員を募集してまーす!!!!」

詩穂「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)一年生と二年生の皆さーん!!!!入部待ってますよー!!!!」

雪音「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながらやる気がなさそうに)文芸部でーす、興味がある人は来てねー」

鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら 声 モノローグ)部員募集は相変わらず成果が得られない・・・そんな状態でも、響紀、永山、奥野は文句を言わず、文芸部に協力をしてくれていた。いや・・・もう文句なんて言えないのかもしれない・・・期末試験が近づいているが、良くも悪くも、多数決の結果のお陰でとりあえずは俺の言うことを聞いてくれている・・・」


◯1003波音高校職員室(昼)

 昼休み

 職員室にいる鳴海と明日香

 鳴海と明日香は神谷の席の近くで神谷と話をしている

 職員室では神谷の他に作業をしている教師や、昼休憩を取っている教師がいる


鳴海「(声 モノローグ)廃部を避ける道がないのか、俺は神谷に掛け合った」

神谷「しかしなぁ・・・こればっかりは校則で定められているんだよ、鳴海」

鳴海「分かってます」

明日香「部員を一気に集める方法ってないんですか?」

神谷「君たちが頑張っていれば、自然と人は集まると思うよ」

鳴海「今の俺たちは十分に努力を・・・」

明日香「(鳴海の話を遮って)鳴海、話は冷静に・・・」


 少しの沈黙が流れる


神谷「なるみぃ・・・四月を思い出してごらん?あの時は君たちが一生懸命部員募集を行ったから、人はすぐに集まっただろう?でも今は、朗読劇の準備を行いながら多数決をしたり、他の部活の下級生に手伝わせたり、順序がめちゃくちゃになってるじゃないか。君は本当に努力をしていると言えるのかな?ミスターグイド」

鳴海「出来る限りのことは・・・やってるつもりです」

神谷「つもりじゃダメなんだよ、つもりじゃ」

明日香「神谷先生の方から文芸部の紹介をして貰えるとありがたいんですけど・・・」

神谷「先生も協力したいところだが、こう見えても今は忙しくね・・・明日香、君になら先生たちが忙しくしてる理由が分かるだろう?」

明日香「期末試験の準備・・・ですか?」

神谷「(笑顔で)大正解だよ、明日香。君たちの試験を作るのに先生の大切な時間を奪われているんだ」


◯1004波音高校廊下(昼)

 昼休み

 廊下を歩いている鳴海と明日香

 廊下では教室に向かっている生徒や、友人同士で喋っている生徒がたくさんいる


鳴海「神谷に頼ったのが馬鹿だった」

明日香「そうね・・・」


 少しの沈黙が流れる


明日香「ね、ねえ鳴海」

鳴海「何だ?」

明日香「はっきり言って・・・諦めることも選択肢に入れるべきだと思うの・・・」


 立ち止まる鳴海

 鳴海に合わせて立ち止まる明日香


鳴海「諦めるって・・・部員募集をか・・・?」

明日香「そう・・・新しく四人の部員を集めるのは・・・もう不可能に近いんだから・・・」

鳴海「不可能かどうかはやってみなきゃ分からないだろ!!」

明日香「興味を示してくれた子が誰もいないのに・・・ここから四人も集まると思ってるの・・・?」

鳴海「集まると思ってるから部員募集をしてるんだ!!」


 再び沈黙が流れる


明日香「あんたが躍起になるのも分からなくはないけど・・・私たちはもうすぐ学校を卒業しちゃうんだからね?嶺二は東京に行っちゃうし、私だって、受験が合格すれば横浜の短大に進学するわけで・・・」

鳴海「な、何が言いたいんだよ?」

明日香「波高との関わりも残すは後四ヶ月ってこと・・・強豪チームならともかく、小さな文化部の衰退はよくあるでしょ、鳴海」

鳴海「よくあるからって理由でお前は文芸部を潰すのか?確かに俺たちは卒業するけど、南はまだ二年も学校生活が残されているんだぞ」

明日香「だったら汐莉が先導して部員募集を行うべきでしょうが」

鳴海「曲作りをやめるわけにはいかないだろ!!」


 少しの沈黙が流れる


明日香「鳴海・・・私、この間汐莉に聞いたの。文芸部に存続してほしいかって。(少し間を開けて)そしたら汐莉は、どっちでも良いですって言ったんだからね」

鳴海「ど、どっちでも良いってことは・・・俺たちで部員募集はやるべきだ」


 歩き出す鳴海

 明日香も歩き出す


明日香「大切なのは文芸部って組織じゃなくて、部活で築いた友情だと思うんだけど・・・」

鳴海「組織を波高に残すことも大切なんだよ」


 再び沈黙が流れる


明日香「汐莉は今の文芸部が楽しくないとも言ったのよ」

鳴海「俺だって同じだ」

明日香「そんな状態の部活を無理矢理残すの?」

鳴海「安心しろ明日香、俺たちが卒業すれば文芸部の状態も回復するはずだ」

明日香「つまり在学している私たちが一番の問題ってわけね・・・」


◯1005波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、雪音、嶺二

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 鳴海、明日香、雪音は朗読劇用の波音物語を手に持って立っている

 嶺二は椅子に座っている

 朗読の練習を行っている鳴海、明日香、雪音

 嶺二は朗読の練習の様子を見ている

 校庭では運動部が活動している


鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら 声 モノローグ)俺、明日香、一条の三人は、放課後朗読の練習に専念することとなった。基本的に嶺二、響紀、永山、奥野が交代で練習に立ち会い、朗読劇の観客として意見を言う。楽曲を完成させた後の南が練習に参加しやすいよう、今のうちに出来るだけ朗読劇を形にしておきたかった」

明日香「(朗読劇用の波音物語を読みながら)白瀬波音、佐田奈緒衛が率いる織田軍の武士たちは、上杉謙信の家臣たちと一戦を交えようとしていた」

雪音「(朗読劇用の波音物語を読みながら)聞こえるか奈緒衛、あの声だ」

鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら)ああ」

明日香「(朗読劇用の波音物語を読みながら)上杉軍の家臣たちは、刀を構え闘志を燃え上がらせている。彼らの叫びは、空を真っ二つに切り裂きそうだ」

雪音「(朗読劇用の波音物語を読みながら)この世で最も美しい・・・」

嶺二「(雪音の朗読を遮って)ストップストップ」

雪音「何?」

嶺二「三人とも声に力が入ってねーぞ」

明日香「声に力が入ってないって言われても・・・私たち放送部じゃないし・・・というか演劇部でもないし・・・」

嶺二「開き直ってんじゃねえ!!腹から声を出せ声を!!」


 顔を見合わせる鳴海、明日香、雪音


鳴海「同じところをもう一度やるぞ」

明日香「了解。(朗読劇用の波音物語を読みながら)白瀬波音、佐田奈緒衛が率いる織田軍の武士たちは、上杉謙信の家臣たちと一戦を交えようとしていた」

雪音「(朗読劇用の波音物語を読みながら)聞こえるか奈緒衛、あの声だ」

鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら)ああ」

明日香「(朗読劇用の波音物語を読みながら)上杉軍の家臣たちは、刀を構え闘志を燃え上がらせている。彼らの叫びは、空を真っ二つに切り裂きそうだ」

雪音「(朗読劇用の波音物語を読みながら)この世で・・・」

嶺二「(雪音の朗読を遮って大きな声で)さっきと変わってねーだろ!!!!」


 少しの沈黙が流れる


雪音「(朗読劇用の波音物語を読みながら大きな声で)聞こえるか奈緒衛!!!!あの声だ!!!!」

鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら大きな声で)ああ!!!!」

明日香「(朗読劇用の波音物語を読みながら大きな声で)上杉軍の家臣たちは刀を構え闘志を燃え上がらせている!!!!彼らの叫びは空を真っ二つに切り裂きそうだ!!!!」

雪音「(朗読劇用の波音物語を読みながら大きな声で)この世で最も美しい音色!!!!心地良いわ!!!!」

鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら大きな声で)そうか!?!?俺にはやかましい・・・」

嶺二「(鳴海の朗読を遮って大きな声で)抑揚がねーんだよ馬鹿!!!!」


 再び沈黙が流れる


明日香「どうやって喋れば良いわけ」

嶺二「だから抑揚をつけて・・・」

明日香「(嶺二の話を遮って)というか鳴海、私今回喋り過ぎでしょ」

鳴海「ナレーションがよく喋るのは当然のことだろ」

明日香「そうじゃなくて明智光秀とか織田信長のセリフまで私の担当になってるって言ってんの」

鳴海「ポンコツ嶺二にはやらせられないからな」

嶺二「誰がポンコツだ」

明日香「あんたに決まってんでしょ。ろくなアドバイスもしてないんだから」

嶺二「俺の説明を明日香が邪魔したんだろ!!」

明日香「えっ?私?」

鳴海「そーだよ!!」

雪音「ねえ嶺二、具体的にどんなふうにセリフを言えば良くなるのか初心者の私にご教授してくれない?」

嶺二「ぐ、具体的にか・・・」

雪音「具体的に」

嶺二「そ、そりゃー・・・(少し間を開けて)な、波みたいに朗読をすればいーんだよ」

明日香「あんた喧嘩売ってんの?」

嶺二「(慌てて)う、売ってねえって!!」


 再び沈黙が流れる


雪音「波みたいに喋れば抑揚って付くんだ」

嶺二「そ、そーそー!!頭の中で波を作って・・・いや、それよりも潮の満ち引きとビブラートの中間をイメージしてもらった方が分かりやすいかもしれねーな・・・」

明日香「あんた今潮の満ち引きとビブラートの中間って言った?」

嶺二「お、おう!!パーフェクトなイメージだと思うぜ!!」

鳴海「そうか、嶺二は邪魔だからもう帰って良いぞ」

嶺二「(大きな声で)な、何でだよ!?!?こっちは真剣にイメージを伝えてやってんのに!!!!」

鳴海「潮の満ち引きとビブラートの中間をイメージした声なんか作り出すわけないだろ!!」

嶺二「(大きな声で)た、例えがそれしか出てこなかったんだから仕方ねえじゃねーか!!!!」

鳴海「(大きな声で)そんなクソみたいな例えは聞きたくねえんだよ!!!!」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「よ、抑揚は自然に身につくのを待つとして・・・ま、まずは、発声練習から始めよーぜ・・・?」

明日香「何をすんの?」

嶺二「早口言葉しかねーだろ」

明日香「めんどくさ・・・」

嶺二「い、一発目は生麦生麦生麦だからな!!」

鳴海「米と卵はどこに行ったんだ」

嶺二「い、いーから、リピートアフターミーでやるぞ!(少し間を開けて)生麦生米生卵中巻き紙赤巻き紙青巻き紙木巻き紙!!」

鳴海「おい」

嶺二「リピートしろって鳴海!!」

鳴海「生麦生麦生麦じゃねえのかよ。というか生麦と赤巻き紙を混ぜやがったなお前」

嶺二「混ぜたって良いじゃねーか!!」

雪音「しかも途中で中巻き紙って言ったよね」

嶺二「なんかありそーだろ、中巻き紙」

明日香「いやないでしょ」

嶺二「そ、そんなら・・・バスガス爆発ブスが椅子にニスを塗装し師走に茄子が居留守でウグイスとイカロスが愛し合う先の白洲で磨りガラスが隅々まで荒んでいる、にしよう」

鳴海「日本語がめちゃくちゃだ」

嶺二「早口言葉なんだからいーだろ」

鳴海「文が長過ぎて覚えられないんだよ・・・」


 再び沈黙が流れる


雪音「てか時間が勿体ないから、朗読の練習を再開して良い?」

嶺二「お、おめーらのことを思って早口言葉でトレーニングを・・・」

明日香「(嶺二の話を遮って)頼んでない」

嶺二「(舌打ちをした)チッ・・・ったくしょがねー奴らだな・・・」

鳴海「一条、聞こえるかのところから頼む」

雪音「(朗読劇用の波音物語を読みながら)聞こえる奈緒衛、あの声」

鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら)ああ」

明日香「(朗読劇用の波音物語を読みながら)上杉軍の家臣たちは、刀を構え闘志を燃え上がらせている。彼らの叫びは、空を真っ二つに切り裂きそうだ」

雪音「(朗読劇用の波音物語を読みながら)この世で最も美しい音色、心地良いわ」

鳴海「(朗読劇用の波音物語を読みながら)そうか?俺にはやかましいだげだが」

雪音「(朗読劇用の波音物語を読みながら)死の音だよ、坊や。あれは死の音なんだ」

明日香「(朗読劇用の波音物語を読みながら)波音は薙刀を、奈緒衛は槍を構える。二人は敵陣から漂う破滅的な殺気と、生き血の香りに身を任せ、戦国戦場最前線で舞い始めた」


◯1006帰路(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている 

 一人自宅に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「(声 モノローグ)一条がやっている波音は完璧なまでに違う・・・本能的にそう感じた。いつもの席に違う奴が座っているような、底知れない違和感と気持ち悪さがある・・・」

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