表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/121

Chapter6卒業編♯13 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由香里(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われていた武将。


一世(いっせい) 年齢不明 男子

ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。

Chapter6卒業編♯13 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯971社殿/女中の寝室(500年前/日替わり/昼)

 外は快晴

 女中たちが眠るための広い和室にいる波音と凛 

 和室の中は薄汚い

 和室の中に太陽の光が差し込んで来ている 

 凛はボロボロの布団の上に横になっている

 凛の布団以外は畳まれている

 凛の近くに座っている波音

 和室には波音と凛以外に人はいない

 波音と凛の吐く息が白い


波音「薬師は過労と申したのだな?」

凛「はい・・・」

波音「すまぬ凛・・・戦に心を奪われ、お主の身体を気使い損ねておった・・・」

凛「な、波音様!!女中に詫びるのはおやめください!!」

波音「そなたは私の女中だ。そなたが倒れれば、その責任は私にある」

凛「し、しかし波音様!!このような汚い場に武将様がいらっしゃってはなりませぬよ!!」

波音「凛はしかしが多過ぎるのう・・・そうことあるごとに、しかししかしと口酸っぱく注意するのはお主の悪い癖だ」

凛「も、申し訳ございませぬ・・・」

波音「今後は日に一回までにするのと良い」

凛「ひ、日に一回・・・?」

波音「うむ。日に一回のみ、しかしと口にすることを許そう」

凛「そ、それは・・・まことに難しいことでございます・・・私めは波音様と奈緒衛様の尊厳を損なわぬように申しているのですから・・・」

波音「(笑いながら)奈緒衛はまだ小童なのだ。多少の悪戯心にはお主も寛容になるしかあるまい」

凛「しかしなみ・・・あっ・・・」


 少しの沈黙が流れる


波音「早速しかしと申したか・・・」

凛「な、波音様!!あなた様も悪戯心を持ち過ぎでございます!!」

波音「品と知性と刀術では魅力的な女子にはならぬだろう?」

凛「そ、そうでございましょうか・・・?」

波音「ああ。お主も悪戯心を忘れてはならぬぞ、良いな凛」

凛「は、はい・・・」


 再び沈黙が流れる


凛「ときに波音様?」

波音「うむ」

凛「次の戦はいつ頃になるでしょうか・・・?」

波音「年が明けてからだろう」

凛「ではそれまでは社殿でお過ごしに?」

波音「無論そのつもりだが・・・何か気がかかりでもあるのか?」

凛「いえ・・・」

波音「凛よ、お主に無駄な負担をかけさせたくはない。予知を行うのはしばらく休め」

凛「波音様、ご無礼を承知で申しますが、ここのところ戦の予知は行っていませぬ」

波音「予知をしておらぬのなら、そなたの身体に負荷がかかることはないはずだが・・・」

凛「おそらくは例の夢のせいでございます・・・」

波音「予知夢か・・・貴志鳴海とやらは一向に現れぬが、彼は一体いつ生を受けるのだろうな・・・」

凛「きっと遠い未来でございましょう」

波音「それはまことに残念だ・・・」


◯972社殿/波音の寝室縁側(500年前/昼過ぎ)

 快晴

 波音の部屋は狭い和室

 和室の隅には畳まれた布団が置いてある

 和室の縁側に座っている波音と奈緒衛

 和室の縁側からは中庭が見える

 中庭には一本の松の木が生えている

 数羽の小鳥が松の木に止まっている

 話をしている波音と奈緒衛


奈緒衛「凛の奴、心配だな・・・」

波音「奈緒衛よ」

奈緒衛「何だ?」

波音「女中の部屋は男子禁制だぞ。分かっておるな?一歩でも踏み入ればそなたでも罰を与え・・・」

奈緒衛「(波音の話を遮って大きな声で)踏み入れねえよ!!!!」

 

 奈緒衛の大きな声に驚き松の木に止まっていた数羽の小鳥が一斉に飛び立つ


波音「鳥が逃げてしまったではないか」

奈緒衛「す、すまん・・・」


 少しの沈黙が流れる


波音「奈緒衛よ」

奈緒衛「こ、今度は何だ?」

波音「お主は・・・悪戯心も必要だと思うか・・・?」

奈緒衛「悪戯心・・・?」

波音「う、うむ。良き女子には、品と知性と刀術と悪戯心が備わっていると私は思うのだ」

奈緒衛「あー・・・そうなのか・・・?」

波音「そうなのか、ではない。私は奈緒衛に尋ねておるのだ、女子に悪戯心が必要か否か・・・」

奈緒衛「ど、どうだろうな・・・ま、まあ・・・あっても損はないような気もするが・・・」

波音「おお!そなたも私と同じ考えか!」

奈緒衛「そ、そうらしいな」

波音「(嬉しそうに)うむうむ、それでこそ我が家臣だ」


 再び沈黙が流れる


奈緒衛「り、凛の予知夢を止める方法はないのだろうか?」

波音「おそらくはないだろう・・・凛も見たくて夢を見てるわけではないのだ」

奈緒衛「自然に夢が止まれば良いが・・・」

波音「案ずるな奈緒衛、凛は私が守ってみせる」

奈緒衛「しかし幾ら波音でも・・・」

波音「お主もしかしと申すのか」

奈緒衛「お主も?」

波音「ああ・・・奈緒衛も凛も、ことあるごとにしかしだ」

奈緒衛「別に良いではないか」

波音「良くはない」

奈緒衛「俺はただ、波音と凛のことが心配なんだ」

波音「な、何故私のことまで・・・」

奈緒衛「俺は二人に生き残って欲しいと思ってるからこそ、心配になるのだよ」

波音「な、奈緒衛は我らのことを信頼しておらぬのだな!?」

奈緒衛「し、信頼はしてるぞ!!」

波音「で、では何故生き残って欲しいなどと死を予感させるようなことを申した!?」

奈緒衛「そ、それは・・・(かなり間を開けて)お、俺たち三人で過ごすひと時が好きだからだ・・・」


 少しの沈黙が流れる

 波音と奈緒衛の顔が赤くなっている


波音「そ、そうであったか!!うむ!!わ、私もそなたらと過ごす時がとても好きだ!!」

奈緒衛「お、おう」


 再び沈黙が流れる


波音「し、しかし奈緒衛よ」

奈緒衛「な、何だ?」

波音「女中の部屋に足を一歩でも踏み入れれば、たとえお主であっても罰を・・・」

奈緒衛「(波音の話を遮って大きな声で)踏み入れねえってば!!!!」


 少しの沈黙が流れる


波音「奈緒衛よ」

奈緒衛「あ、ああ・・・」

波音「(笑顔で)やはり悪戯心とは必要だろう?」

奈緒衛「そ、そうだな・・・」


◯973波音総合病院/菜摘の個室(日替わり/放課後/夜)

 外は日が沈み暗くなっている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 菜摘が話をしているが、鳴海は聞いていない


菜摘「良いなぁ、学校」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「早く病気を治して遅れてる分を取り戻さなきゃ!!特に部活と勉強!!」


 鳴海は変わらず菜摘の話を聞いていない 


菜摘「鳴海くん・・・今日は・・・静かだね」

鳴海「あ、ああ・・・すまん・・・」

菜摘「何か学校であったの?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「菜摘」

菜摘「うん」

鳴海「お前に言わなきゃいけないことがあるんだ」

菜摘「何・・・?」

鳴海「今日・・・文芸部で・・・多数決をした」

菜摘「た、多数決って・・・何の・・・?」


◯974回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 話をしている鳴海たち


鳴海「ご、合同朗読劇をやるかどうかで・・・」

真彩「は、はい・・・」

明日香「何で今になって多数決なんか・・・」

詩穂「(明日香の話を遮って)今が身を引ける最後のタイミングだからです」

明日香「こ、ここに来てそれはないでしょ!?」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「良い加減なまま続けるより、どこかで気持ちを切り替えるべきだと思います」

明日香「(イライラしながら)私たちが良い加減にやってるって言いたいわけ?」

汐莉「そうです」

明日香「(イライラしながら大きな声で)汐莉!!!あんた文芸部に所属しておきながら・・・」

嶺二「(明日香の話を遮って)あ、明日香、落ち着けよ」

明日香「(イライラしながら)落ち着けですって!?受験前の人間を散々駆り立てておいて落ち着けると思ってんの!?」

嶺二「そ、それについては・・・た、大変申し訳ない・・・」

明日香「(イライラしながら)申し訳ない、ね、本当は謝る気なんかないくせに」


 再び沈黙が流れる


嶺二「と、とりあえず、話だけでも聞いてみよーぜ・・・?な?せ、説明してくれよ、まあやん」

真彩「えっとー・・・き、気持ちを切り替えましょー的な意味合いで・・・」

明日香「(イライラしながら)それはさっき聞いたから」

真彩「そ、そうっすね・・・すんません・・・」

明日香「(イライラしながら)早く説明してよ」

汐莉「合同朗読劇をやりたくないって思ってる人が過半数いたら・・・中止にするべきです」

響紀「どうして?汐莉」

汐莉「だって、今の時点で準備がほとんど進んでないんだよ。最近も部員集めで忙しいけど、これからは朗読やライブの練習もしなきゃいけないし、それこそ受験とも重なって・・・もっと忙しくなるから・・・(少し間を開けて)本当にみんなのやる気があるのか確認した方が良い」

雪音「合同朗読劇の賛成派が多ければ、追い詰められてやる気のなかった人たちも全力になるよ。きっと」


 嶺二はチラッと雪音のことを見る


鳴海「も、もし反対票が賛成を上回ったらどうするんだ?」

雪音「合同で朗読劇をするのは中止ってことで」

鳴海「ろ、朗読劇は文芸部と軽音部でやるって決まってたんだぞ!!それなのに今更多数決をして・・・」

汐莉「(鳴海の話を遮って)鳴海先輩」

鳴海「な、何だよ?」

汐莉「現実から逃げないでください」

鳴海「に、逃げてないだろ!!」

汐莉「なら波音役は雪音先輩に渡したらどうですか?」

鳴海「そ、それは・・・」

汐莉「鳴海先輩は待ってるんですよね、菜摘先輩が戻って来るのを・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「でももう・・・菜摘先輩の退院は間に合いません・・・奇跡でも起きない限り、菜摘先輩は朗読劇に参加出来ないんです。先輩はずっと起きもしない奇跡を待ち望んで、文芸部と軽音部の活動を遅らせてきました。(少し間を開けて)そろそろその責任を取ってくださいよ、鳴海先輩」


◯975回想戻り/波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夜)

 外は日が沈み暗くなっている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 話をしている鳴海と菜摘


鳴海「菜摘・・・残念だけど・・・朗読劇は中止にするべきだ・・・」

菜摘「えっ・・・?何で・・・?何で中止にするべきなの・・・?」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「鳴海くん・・・多数決ってどういうこと・・・?文芸部であったことの内容を私にも教えてくれない・・・?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「波音役は菜摘がやる予定なのか・・・」

菜摘「う、うん・・・」

鳴海「でも練習はしてないよな・・・」

菜摘「そ、そんなことないよ!!」


 菜摘はベッドの隣の棚の上に置いてあった朗読劇用の波音物語を手に取る


菜摘「(朗読劇用の波音物語を開いて)最近体の調子も良くなってきたから、一人で練習してるんだ」


 菜摘が持っている朗読劇用の波音物語にはたくさんのメモが赤い文字で書かれている

 俯く鳴海

 菜摘は開いたまま朗読劇用の波音物語を鳴海に差し出す


鳴海「(俯いたまま)菜摘・・・・頼むから無理をしないでくれ・・・このまま朗読劇の練習を続けたって菜摘の体が・・・」

菜摘「(開いたまま朗読劇用の波音物語を差し出しながら)私は大丈夫・・・大丈夫だから、朗読劇をやらせて・・・」


 鳴海は俯いたまま菜摘の朗読劇用の波音物語を受け取る

 俯いたまま菜摘の朗読劇用の波音物語を見ている鳴海


鳴海「(俯いたまま菜摘の朗読劇用の波音物語を見て)俺だって菜摘に波音役をやって欲しいんだ・・・」

菜摘「鳴海くん・・・」


◯976波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 ◯974の続き

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 話をしている鳴海たち


汐莉「もし・・・菜摘先輩の退院が間に合ったとしても、一時間近い朗読なんて出来るんですか?というかそんなことをさせても良いんですか?それで菜摘先輩がステージの上で倒れたら、鳴海先輩はどう責任を取ってくれるんですか?」


 少しの沈黙が流れる


明日香「な、鳴海、波音役は雪音にやってもらいましょ?それで問題は全て解決するはずよ」

汐莉「当初の予定とは違う、中途半端な形で朗読劇を行うってことですね」

響紀「汐莉、私は期限がある状態で完璧を求めるのは間違ってると思う。中途半端でも、今出来るベストな形を生み出そうよ」

詩穂「失敗したらどうするの?響紀くん」

響紀「ベストを尽くせば成功も失敗もない」

真彩「迷う方の名言が来た・・・」


 再び沈黙が流れる


嶺二「お、俺は・・・雪音ちゃんに波音役をやらせてもいーと思うぜ」


◯977回想戻り/波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夜)

 外は日が沈み暗くなっている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 俯いたまま鳴海は菜摘の朗読劇用の波音物語を見ている


鳴海「(俯いたまま菜摘の朗読劇用の波音物語を見ながら)今のスケジュール的にも・・・菜摘の体調的にも・・・菜摘が波音役をやるのは無理だ・・・」

菜摘「(寂しそうに)そっか・・・(少し間を開けて)そうだね・・・」


 鳴海は菜摘の朗読劇用の波音物語を閉じ、顔を上げる

 棚の上に菜摘の朗読劇用の波音物語を置く鳴海


菜摘「私がダメでも、雪音ちゃんがいるよ」

鳴海「あいつには波音役をやらせたくない・・・」

菜摘「どうして・・・?」

鳴海「一条は波音じゃないからだ」

菜摘「鳴海くん・・・私だって波音さんじゃないんだよ・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「雪音ちゃんは肝が据わってて、波音役も似合うと思うけどなぁ・・・雪音ちゃんも波音さんも、名前に音が入ってるし」

鳴海「合同朗読劇の主役を名前で選んで良ぶわけないだろ」

菜摘「ごめん・・・」


 再び沈黙が流れる


菜摘「な、鳴海くん。私、頑張ってすぐに退院するよ。退院して私が波音さん役をやるから、朗読劇も中止にしないで・・・」

鳴海「(菜摘の話を遮って大きな声で)無理して朗読劇をやって何になる!?!?」

菜摘「わ、私は・・・波音さんたちの生きていた証を伝えたいんだ・・・だから、無理してでも朗読劇はやりたくて・・・」

鳴海「(大きな声で)体調が悪化しても良いのかよ!?!?」

菜摘「うん・・・」

鳴海「(大きな声で)もっと自分の体を大事にしろ!!!!菜摘!!!!」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「鳴海くんは・・・私の体調が悪化したくらいで諦めちゃうの・・・?鳴海くんが言ってた全力って・・・その程度だったの・・・?」

鳴海「そ、そんな言い方・・・あんまりじゃないか・・・俺は菜摘のことが心配で・・・」

菜摘「大丈夫だよ、鳴海くん、私ちゃんと分かってるから。鳴海くんが私のことをすっごく心配してくれて、私のために怒ってくれて、私のために苦しんで、私のために悩んで、私のために考えてくれてるって分かってるよ」

鳴海「だったらどうして・・・俺の言うことを聞いてくれないんだ・・・」

菜摘「こればかりは・・・引き下がれないの・・・鳴海くん・・・(少し間を開けて)私は雪音ちゃんが波音さん役をやっても気しないから・・・鳴海くんも、気にしないで欲しい・・・」


 再び沈黙が流れる


菜摘「教えて鳴海くん・・・多数決で何を決めたの・・・?」


◯978回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 ◯962の続き

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 話をしている鳴海たち


汐莉「賛成が多くても、反対が多くても、文句は無しで。賛成派が多かったら、反対票に入れた人も朗読劇に全力で参加する。反対派が多かったら、軽音部は朗読劇から抜けます。軽音部が抜けた場合、今後どうするかは文芸部内で話し合うってことで良いですよね?」

明日香「私は棄権する・・・」

響紀「明日香ちゃんが棄権したら貴重な票が一票消えるよ」

明日香「納得出来ないの、何で多数決なんかしなきゃいけないのか・・・」

汐莉「納得出来る理由があっても、明日香先輩のことだから棄権するって言ってると思いまい」

嶺二「何たる的確な指摘」


 明日香が嶺二を睨みつける

 慌てて明日香から顔を逸らす嶺二


明日香「鳴海、本当にやるの」


 少しの沈黙が流れる


明日香「黙ってないで何とか言ってよ」

鳴海「今考えてるんだ・・・」

鳴海「(声 モノローグ)多数決をするべきなのか?危険な賭けだが、確かに気持ちは変えられる・・・でも他に方法はないのか?軽音部に頭を下げて・・・合同でやらせてくれと・・・いや、そんなことは夏休み前からもう何千回とやったんだ・・・(少し間を開けて周りを見ながら)多数決をしたとして・・・賛成に入れるのは・・・嶺二・・・明日香・・・あの二人は間違いないだろう・・・響紀も明日香に合わせて賛成に投票すると睨むべきか・・・逆に反対派は・・・永山・・・奥野・・・南もそうだ・・・あいつは菜摘が参加出来ないと踏んで、朗読劇を中止にするつもりだな・・・クソッ・・・(少し間を開け周りを見るのをやめて)分からないのは一条だ・・・あいつは賛成か・・・反対なのか・・・?はっきりしてるのは、一条に波音役をやらせるべきではないということだ・・・だったら俺は・・・」

明日香「いつまで考えてんの」

鳴海「あ、ああ・・・」

真彩「た、多数決・・・して良いっすよね・・・?」

鳴海「そうだな・・・」

明日香「な、鳴海!!これで朗読劇が中止になったらどうすんのよ!?」

鳴海「その時は・・・俺が菜摘の代わりに・・・文芸部と軽音部を引っ張れなかった現実を受け止めるだけだ・・・」

明日香「あんたって・・・(少し間を開けて小声でボソッと)本当にクソ・・・」


 再び沈黙が流れる


嶺二「た、多数決をするならさっさと始めるか!!じゃ、じゃーまず、合同朗読劇賛成派の人は手を・・・」

明日香「(嶺二の話を遮って大きな声で)ちょっ!!!ちょっと待って!!!」

嶺二「んだよ明日香・・・」

明日香「こういうのは匿名で投票をするべきでしょ・・・意志の弱い奴が流されるかもしれないんだから・・・」


 時間経過


 円の形に椅子を並べて座っている鳴海たちの中心に一台の机が置いてある

 机の上には赤い線が引いてある1cmほどの紙切れと、青い線が引いてある1cmほどの紙切れが山のように置いてある

 

明日香「赤い紙は合同朗読劇賛成票、青い紙は合同朗読劇反対票。分かった?」

嶺二「お、おう。それでどーすんだ?」

明日香「まずはこの机を廊下に置いて、そこから一人ずつ赤い紙か青い紙を選ぶの。そして選んだ紙を職員室に行って神谷に渡す。赤い紙も青い紙も同じくらいたくさんあるから、減っても気づかないし、自分の意志で投票が出来るでしょ?」

嶺二「なるほど天才だな」

明日香「最初に投票しに行く鳴海が神谷に事情を説明しておいて」

鳴海「ああ」


 立ち上がる嶺二


嶺二「んなら俺は机を廊下に・・・」


 立ち上がる鳴海


嶺二「鳴海、机くらい俺一人で持てるぜ?」

鳴海「お前が小賢しい細工をしないか心配なんだ」

嶺二「て、てめー疑ってるのかよ!?」

鳴海「嶺二は前も生徒会選挙で不正をしてるだろ」

嶺二「こ、今回はやらねーって・・・」

真彩「あ、あのー・・・全員で嶺二くんが机を運ぶところを見れば良いんじゃないんすか・・・?」

明日香「そうね・・・」

嶺二「結局運ぶのは俺かよ・・・」


 時間経過


 鳴海たちの中心にあった机は廊下に運び出されたため無くなっている


鳴海「一つ約束して欲しい」

汐莉「何ですか?」

鳴海「多数決の結果を発表した後でも、全員、賛成に入れたか反対に入れかは言わないでくれ」

雪音「えー、それじゃあつまんなくなーい?」

鳴海「人間関係を壊さないためにも、秘密にしておくべきだ」

雪音「弱い友情だね」

鳴海「約束してくれ、一条」

雪音「はいはい部長代理」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は立ち上がり、扉を開けて廊下に出る

 部室の扉を閉める鳴海

 部室の扉の横には机が置いてある

 机の上には赤い線が引いてある1cmほどの紙切れと、青い線が引いてある1cmほどの紙切れが山のように置いてある

 鳴海は赤い線が引いてある1cmほどの紙切れと、青い線が引いてある1cmほどの紙切れの山を見ながらどちらを手に取ろうか考えている


◯979回想戻り/波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夜)

 外は日が沈み暗くなっている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 話をしている鳴海と菜摘


菜摘「おかしいよ・・・そんな多数決・・・絶対おかしいって・・・」

鳴海「ああ・・・馬鹿げた多数決だよな・・・」

菜摘「どうして話し合いをしなかったの・・・?」

鳴海「もうしたんだよ・・・菜摘・・・お前が倒れてから、俺たちはうんざりするほど話をしたんだ・・・でもいくら議論を重ねても、何も解決しない・・・(少し間を開けて)俺たちはお互いに話を聞かなくなってるんだよ・・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「すまない菜摘・・・全部俺がいけないんだ・・・俺があいつらの気持ちをまとめることが出来なかったせいで・・・文芸部は・・・」

菜摘「鳴海くん、壊れてしまったものは直せるよ。耳を傾けて、みんなで手を取り合えば・・・」

鳴海「手を取り合えば、か・・・」

菜摘「大丈夫!!鳴海くんなら出来るよ!!みんな鳴海くんのことを信頼してるはずだもん!!」

鳴海「菜摘は今の文芸部を知らないからそう言えるんだ・・・」

菜摘「確かに今の文芸部は知らないけど・・・みんなの暖かい心は絶対変わってない。文芸部も、軽音部も、優しい子しかいないんだよ、鳴海くん」

鳴海「その割には噛み付いてくる奴が多い気がするんだが・・・」

菜摘「噛み付くのは・・・一種の愛情表現だと思う・・・」

鳴海「相変わらず菜摘は前向きな思考回路だな・・・」

菜摘「鳴海くんが後ろ向き過ぎるんだよ」

鳴海「文芸部で活動をしてると、嫌でも後ろしか見えなくなるんだ」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「(寂しそうに)私たちの文芸部がそんなに辛い場所になっちゃうなんて・・・悲しいね・・・」

鳴海「すまない・・・本当にすまない・・・菜摘・・・」

菜摘「大丈夫だよ鳴海くん、大丈夫」

鳴海「菜摘・・・俺が言うのも変な話だが・・・お前は俺に優し過ぎるんだ・・・」

菜摘「私は鳴海くんから貰ったものを返してるだけだよ」

鳴海「俺は・・・菜摘に何もしてやれてないだろ・・・」

菜摘「自分を責めないで、鳴海くん」

鳴海「俺なんかよりも南の方がよっぽど役に立ってるし、頑張ってるんだ」

菜摘「どうして汐莉ちゃんと比較するの?鳴海くんは鳴海くん、汐莉ちゃんは汐莉ちゃんなのに」

鳴海「あいつは・・・凄く苦しんでるからな・・・」


 再び沈黙が流れる 


菜摘「鳴海くん」

鳴海「ん・・・?」

菜摘「本当はね、鳴海くんにも、汐莉ちゃんにも、私とは別の人生を進んで欲しいんだ」

鳴海「な、何でまたそういうこをと・・・」

菜摘「だって二人には・・・いっぱい迷惑をかけちゃってるから・・・」

鳴海「ぶ、部長に迷惑をかけられるのが部員の役目だろ」

菜摘「ううん・・・そういうことじゃなくて・・・上手く説明出来ないんだけど・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「話が逸れちゃったね。その後、多数決はどうなったの?」

鳴海「け、結果はまだ言えないんだ・・・菜摘・・・」


◯980回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 ◯978の続き

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩、神谷

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 神谷は立っている

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 話をしている鳴海たち


神谷「いやはや・・・先生はとてもショックを受けてるよ・・・まさか君たちが、今になって行事から逃げ出そうするなんてね・・・がっかりだ・・・実にがっかりだよ・・・(少し間を開けて)鳴海、分かっているんだろうね?責任は全部、君にあるんだよ」

鳴海「分かってます」

神谷「本当かな?鳴海に事態を把握出来るほどの管理能力があるようには見えないが・・・」


 少しの沈黙が流れる

 ポケットから1cmほどの紙切れを8枚取り出して鳴海たちに見せる神谷

 神谷が持っている1cmほど紙切れは、赤い線のと青い線のがそれぞれ4枚ずつある


神谷「(1cmほどの紙切れ8枚を鳴海たちに見せて)見ての通り4対4だ」

明日香「(神谷の持っている1cmほどの紙切れ8枚を見ながら)う、嘘でしょ・・・」

嶺二「(神谷の持っている1cmほどの紙切れ8枚を見ながら)き、綺麗に真っ二つになっちまったってことかよ・・・」


 神谷は1cmほどの紙切れ8枚を机の上に置く


神谷「嶺二、君は本当に数学を理解してないな」

嶺二「えっ?票が割れてるんじゃないんすか?」

神谷「多数決はまだ終わっていない。もう一人、投票する人がいるだろ?鳴海」


 再び沈黙が流れる


鳴海「菜摘だ・・・」

神谷「その通りだよ」

鳴海「で、でも菜摘は学校に・・・」

神谷「(鳴海の話を遮って)関係ないね。悪いが鳴海、菜摘のご両親に票を届けてもらうように頼まれてくれないか?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「もし・・・断ったら・・・」

神谷「何を言うんだ鳴海。私は教師、君は生徒なんだよ。これほど明確な立場の違いはないというのに、鳴海は断る権利を有していると思っているのか?」

鳴海「い、いや・・・」

神谷「君は賢いよ、ミスターグイド。自分自身が弱い子供だと認識出来ているのだからね」


◯981回想戻り/波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夜)

 外は日が沈み暗くなっている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 話をしている鳴海と菜摘


菜摘「私の票を・・・?」

鳴海「そうだ・・・」

菜摘「鳴海くん、私、反対票には入れないからね」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「断言しても良い、菜摘、今のままじゃ絶対に朗読劇は失敗する」

菜摘「私の勘だと、朗読劇は大成功して、みんなで楽しく打ち上げ海外旅行をするよ、鳴海くん」

鳴海「勘で言うなよ・・・海外なんか行けるわけないだろ・・・」

菜摘「フランス旅行ってみんなで決めたじゃん!!」

鳴海「菜摘・・・文芸部はもう遊んでる暇がないんだ」

菜摘「それは朗読劇を行う前だからだよ」

鳴海「朗読劇が終わっても、部員を集めたり部誌を作ったりで忙しいんだぞ。(少し間を開けて)せいぜい俺たちが打ち上げで行けるのは、そこら辺のファミレスで限界だ」


 再び沈黙が流れる


菜摘「分かった、フランス旅行については今度みんなと話し合って考える」

鳴海「クソ・・・また話し合いか・・・」

菜摘「鳴海くん」

鳴海「何だ」

菜摘「スイートメロンパンが食べたい、だよ」

鳴海「(イライラしながら)良い加減にしてくれ菜摘・・・ふざけてる場合じゃないんだぞ・・・」

菜摘「ごめんなさい・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「もう少しカルシウムを取らないとな・・・」

菜摘「えっ・・・?何でカルシウム・・・?」

鳴海「冷静に人と話をするためにだ」

菜摘「そっか、カルシウム不足はイライラの原因だもんね。ここの病院食はちゃんとカルシウムが入ってるからオススメだよ」

鳴海「オススメされても困るな・・・患者以外は食べられないだろうし・・・」

菜摘「鳴海くん、今のはボケだよ」

鳴海「あー・・・そうだったのか・・・気づかなかったな・・・」

菜摘「そこは、俺は患者じゃねえ!!とか、入院しなきゃ食べられないだろ!!とか言わなきゃ」

鳴海「なるほど・・・ってそんなことはどうでも良いんだよ」

菜摘「ノリツッコミだね」

鳴海「いや・・・ノリツッコミだね、じゃなくて・・・」

菜摘「賛成票に入れるよ、鳴海くん」

鳴海「そうか、賛成票か・・・っておい」

菜摘「ん?」

鳴海「俺が言ったことを聞いてただろ」

菜摘「うん」

鳴海「ろ、朗読劇は失敗する可能性の方が高いんだぞ」

菜摘「鳴海くんは何でそう思うの?」

鳴海「な、何でって・・・ろ、朗読もライブの練習も手付かずの状態なんだよ」

菜摘「それが失敗すると思う理由?」

鳴海「ほ、他にもあるぞ・・・」

菜摘「例えば・・・?」


 考え込む鳴海


鳴海「い、一条だ。あ、あいつに波音役をやらせるのまずい」

菜摘「どうして?」

鳴海「ほ、本番間近になって、私やめるーとか言い出すリスクが一条にはあるんだよ!!」

菜摘「そうなの?」

鳴海「あ、ああ!!」

菜摘「鳴海くんが思い込んでるだけじゃなくて?」

鳴海「お、思い込みであれあいつが信用出来ないのは事実だ!!」


 再び沈黙が流れる


菜摘「必死だね・・・鳴海くん・・・」

鳴海「ひ、必死か・・・?」

菜摘「うん。必死って感じがするよ」

鳴海「き、気のせいだろ・・・」

菜摘「鳴海くん」

鳴海「あ、ああ」

菜摘「どうして朗読劇がやりたくないの?」

鳴海「ど、どうしてって・・・し、失敗するのが嫌だからだ・・・」

菜摘「それ、きっと違うんじゃないかな・・・」

鳴海「えっ・・・?」

菜摘「多分鳴海くんの中には、もっと別のところに朗読劇をやりたくない理由があるんだと思うよ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「もっと別のところに・・・?」


 頷く菜摘


鳴海「(声 モノローグ)もっと別のところに・・・(少し間を開けて)俺は何が嫌なんだ・・・?何から逃げてるんだ・・・?何を恐れてるんだ・・・?俺が心配してるのは・・・菜摘だけじゃないのか・・・?」


◯982◯867の回想/南家リビング(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 汐莉の家のリビングにいる鳴海と汐莉

 テーブルに向かって椅子に座っている鳴海と汐莉

 汐莉は部屋着を着ており、髪はボサボサになっている

 テーブルの上には空になったたこ焼きの舟皿が二枚と丸まったティッシュが置いてある

 話をしている鳴海と汐莉

 汐莉は俯いている


汐莉「(俯いたまま小声で)鳴海先輩はそんなに朗読劇がやりたいんですか」


◯983◯884の回想/波音高校校庭(放課後/夕方)

 弱い雨が降っている

 掲示板の前にいる鳴海と汐莉

 鳴海は部員募集の紙の束を持っている

 汐莉はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている

 傘をさしている汐莉

 鳴海は雨のせいで濡れている

 掲示板には雨に濡れてボロボロになった部員募集の紙が貼られている

 鳴海の傘は掲示板に立てかけられてある

 校庭には大きな水たまりが出来ている 

 校庭には鳴海と汐莉以外に生徒はいない

 言い争っている鳴海と汐莉

 

汐莉「(大きな声で)先輩なら私を受け入れてくれるかと思ったんですよ!!!!だからそんなバカな提案をしたんです!!!!でも先輩は私の気持ちを裏切ったじゃないですか!!!!(少し間を開けて)こんなことなら鳴海先輩の後輩になんかならなきゃ良かった!!!!文芸部に入るんじゃなかった!!!!先輩たちと関わるんじゃなかった!!!!鳴海先輩のことを信頼出来るお兄さんだなんて思うんじゃなかった!!!!」


◯984◯960の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)

 昼休み

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 校庭にある水たまりはまだ乾いていない

 鳴海、汐莉はメロンパンを持っている

 話をしている鳴海たち


汐莉「菜摘先輩が参加出来ないなら・・・朗読劇をやる必要もないと思います・・・(少し間を開けて)菜摘先輩抜きの朗読劇なんて・・・無意味です・・・」


◯985◯958の回想/波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 軽音部の部室にいる鳴海と汐莉

 校庭では運動部が水たまりを避けて活動をしている

 教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 椅子に座っている鳴海と汐莉

 鳴海の机の上には部員募集の紙の束が置いてある

 汐莉の机の上には筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある


汐莉「私はまだ、鳴海先輩たちのことを信じてますから」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「鳴海先輩と菜摘先輩が私の手を引っ張ってくれるって、信じてますから」


◯986回想戻り/波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夜)

 外は日が沈み暗くなっている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある

 

鳴海「(声 モノローグ)そうだ・・・俺は・・・菜摘と汐莉のことが心配なんだ・・・」

菜摘「鳴海くん?」

鳴海「分かったよ、菜摘。俺は菜摘と汐莉のことが心配だから・・・朗読劇をやりたくないんだ」

菜摘「私と・・・汐莉ちゃんのことが・・・?」

鳴海「ああ・・・」

菜摘「どうして汐莉ちゃんと朗読劇が結びついてるの?」

鳴海「そ、それは・・・(少し間を開けて)説明出来ない・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「いくら鳴海くんと汐莉ちゃんのためでも・・・朗読劇を中止にするなんて嫌だよ・・・みんなで頑張ってきたのに・・・」

鳴海「俺も・・・最初はそう思ってた・・・今日まで頑張って来たんだから・・・ここでやめるのは勿体無いってな・・・でもさ菜摘・・・俺や菜摘・・・嶺二や明日香が全力でも・・・ダメなんだよ・・・全員の気持ちがまとまってなきゃ・・・努力は報われないんだ・・・」

菜摘「私たちで報われる努力の結果を作ろうよ!!」


 再び沈黙が流れる


菜摘「鳴海くんが諦めるなら・・・(少し間を開けて)私一人で朗読劇を成功させてみせる・・・」

鳴海「菜摘が一人になるわけないだろ・・・」

菜摘「どういう意味・・・?」

鳴海「俺はお前の・・・」

菜摘「何・・・?」

鳴海「さ、最後まで言わなくても何となくで察してくれ」

菜摘「鳴海くん、察したくても分からないよ」


 俯く鳴海


鳴海「(俯いたまま)一人じゃなくて二人だ・・・(少し間を開けて顔を上げ)俺は菜摘の味方をする」

菜摘「一緒に朗読劇の成功を目指してくれるの・・・?」

鳴海「ああ・・・何があっても・・・俺は菜摘について行くよ」

菜摘「ありがとう・・・鳴海くん・・・私も必ず鳴海くんの手を引っ張って行くね・・・」


◯987帰路(放課後/夜)

 一人自宅に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「(声 モノローグ)何をどうしようが、俺は一生菜摘には勝てないということを悟った」


◯988貴志家リビング(夜)

 リビングにいる鳴海と風夏

 鳴海と風夏はテーブルを挟んで向かい合って座っている

 テーブルの上にはご飯、紙パックの牛乳、ヨーグルト、スライスチーズ、鯖の味噌煮、味噌汁、サラダ、取り皿などが並べられてある

 テーブルの上の料理を見ている鳴海と風夏


風夏「(テーブルの上の料理を見ながら)どういう組み合わせの晩ご飯なのこれは」

鳴海「(テーブルの上の料理を見ながら)カルシウムが取りたかったんだ」

風夏「(テーブルの上の料理を見ながら)カルシウムゥ?」

鳴海「(テーブルの上の料理を見ながら)何だよ」

風夏「(テーブルの上の料理を見ながら)ブラザーは牛乳と鯖の味噌煮がマッチすると思っているのかね」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(テーブルの上の料理を見ながら)た、単品で食えばどれも不味くはないだろ」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(テーブルの上の料理を見ながら)ごめん・・・変な飯で・・・」


◯989貴志家鳴海の自室(深夜)

 片付いている鳴海の部屋

 鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない

 机の上には菜摘とのツーショット写真、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、汚い字で波音物語と書かれたノートが置いてある

 ベッドの上で横になっている鳴海

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる


鳴海「多数決をした意味が・・・もう分からないな・・・」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ