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Chapter 2 √文芸部×青春(学園祭+恋)-放送少女ト盲目少女=未来世紀ナミネ 後編

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter 2 √文芸部×青春(学園祭+恋)-放送少女ト盲目少女=未来世紀ナミネ


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家、滅びかけた世界で“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。ナツと一緒に“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、学校をサボりがち。運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、鳴海と同じように学校をサボりダラダラしながら日々を過ごす。不真面目。絶賛彼女募集中。文芸部部員。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。


柊木 千春(ちはる)

身元がよく分からない少女、“ゲームセンターで遊びませんか?”というビラを町中で配っている。礼儀正しく物静かな性格。波音高校の生徒のフリをしながら文芸部に参加している。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。天文学部部長。不治の病に侵された姉、智秋がいる。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)40歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。怒った時の怖さとうざさは異常。


有馬 (いさむ)ゲームセンターのおじいちゃん(64歳)

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主、古き良きレトロゲームを揃えているが、最近は客足が少ない。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ智秋の病気を治すために医療の勉強をしている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

高校を卒業をしてからしばらくして病気を発症、原因は不明。現在は入院中。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった


白羽天使

女性八人で構成されるボーカルユニット(アイドル)

若者の間で流行っている

Chapter 2 √文芸部×青春(学園祭+恋)-放送少女ト盲目少女=未来世紀ナミネ 後編


◯203通学路(朝/日替わり)

 学園祭初日

 登校している鳴海

 生徒以外にもたくさんの人が波音高校を目指している


菜摘「(後ろから大きな声で)鳴海くん!」


 振り返ると菜摘と千春が歩いている

 鳴海は立ち止まり二人がやって来るのを待つ


鳴海「おっす」

菜摘「おはよう!」

千春「おはようございます」


 三人並んで歩き始める


菜摘「人すごいね!」

鳴海「たかが学園祭なのに地元の住民はわんさかやってくるんだな」

千春「菜摘さんのご両親もいらっしゃるそうですよ」

菜摘「朗読劇楽しみにしてるって言ってた」

鳴海「まじかよ・・おっちゃんくるのか・・・そういや俺の姉貴も・・・(嶺二が横を通り過ぎる)」


 三人とも思わず通り過ぎた嶺二の方を見る


鳴海「おい!嶺二!!」

嶺二「(振り返って)なんだよ」

鳴海「文句があるなら俺に言え!」

嶺二「それなら、学園祭が終わったら言わせてもらうわ」


 嶺二は再び歩き始める


鳴海「クソめんどくせえなあいつ・・・」

菜摘「鳴海くん・・・」

千春「私ちょっと話して来ます!!」

菜摘「あっ!千春ちゃん!」


 千春は嶺二を追いかける


菜摘「嶺二くん・・・まだ怒ってるね」

鳴海「だろうな、俺らだけ千春の秘密を知ってるのが解せないようだ」

菜摘「どうする?千春ちゃんも行っちゃったけど」

鳴海「どうもしない、少なくとも学園祭が終わるまでは」

菜摘「でも、このままだともっと関係が悪くならない?」

鳴海「なるかもしれない。けど、今下手に説明をして嶺二が朗読劇の仕事をほっぽり出したらどうする?あいつなら直行でギャラクシーフィールドに向かうこともあり得る。菜摘だって分かってると思うけど、誰が欠けても朗読劇は出来ない」

菜摘「私は・・・鳴海くんと嶺二くんの関係の方が朗読劇より大事だと思う」

鳴海「何でだよ、朗読劇の方が大事に決まってんだろ。今日までみんな頑張って来たのに、お前がそんなこと言ってどうするんだ」

菜摘「で、でも・・・」

鳴海「いいから気にすんな、そんなことより午前中一緒に回らないか?どうせ暇な時間だし」

菜摘「う、うん・・・それは構わないけど・・・」


◯204波音高校三年生の下駄箱(朝)

 下駄箱は三年生と学園祭に遊びに来た一般客で溢れている

 下駄箱から上履きを取り出す嶺二


千春「嶺二さん!」

嶺二「千春ちゃん、どうしてここに・・・」

千春「追っかけてきました」

嶺二「なんでよ?鳴海たちと一緒に行動するんじゃないの?」

千春「嶺二さんも一緒に学園祭回りませんか?」

嶺二「(上履きを履き、靴を下駄箱にしまって)わりい、今はそういう気分じゃない」


 校舎に上がって行く嶺二

 千春は靴を脱いで来客用のスリッパに履き替える

 校舎に上がる千春


◯205波音高校廊下(朝)

 飾り付けがされている教室と廊下

 教室一つ一つに模擬店が出ている

 たくさんの生徒と一般客がいる

 千春は嶺二を追いかける


千春「嶺二さん!待ってくださいよ!」

嶺二「言ったでしょ?今はそういう気分じゃないって」

千春「なら私と一緒に回りましょう!!」

嶺二「いいよいいよ、そういう気づかいはむしろ傷付く」

千春「何言ってるんですか」

嶺二「お情け感覚で学園祭を一緒に回ってもらってもこっちが情けなるっつうの」

千春「変なこと言ってないで一緒に回りましょうよ!」


 歩くのを止め千春の方を見る嶺二


嶺二「マジ?」

千春「マジです」

嶺二「でも俺、学園祭とか興味ねえし」

千春「じゃあ一緒にお喋りしましょう!」

嶺二「お喋り・・・?」


◯206波音高校一年六組の教室前廊下/メイド喫茶前(朝)

 客引きをやっている汐莉と一年六組の女生徒

 女生徒は大半がメイド服

 アホな男子たちがメイドの誘惑に負け、次から次へと教室の中に入って行く

 メイド喫茶は大繁盛している


汐莉「(男子生徒三人組を教室に入れて)マジしんどいわぁ」

女生徒1「汐莉頑張って!」

女生徒2「似合ってるよ!」


 女生徒1、2はメイド服を着ていない


汐莉「(メニュー表を床に叩きつけて)どうして私がこんな格好を・・・ええい、もう辞めてやる!!!」


 汐莉は頭についてカチューシャを放り投げメイド喫茶から走って逃げ去る

 

女生徒1「軽音楽部のくせして変にシャイだよね」

女生徒2「ほんと変わってる」


◯207波音高校廊下(朝)

 メイド喫茶から逃げ廊下を全力で走っている汐莉

 人がいっぱいることを気にもせず汐莉は走っている

 全力ダッシュをしているメイド服の汐莉、たくさんの人がその姿を不思議そうに見ている

 神谷が一人の女性と歩きながら模擬店を見て回っている

 たまたま神谷とすれ違う汐莉


神谷「おい!廊下は走るな!」

汐莉「あっ、すいません」


 走るのをやめる汐莉


神谷「よく見たら汐莉か?何やってんだそんな怪しい格好して」

汐莉「怪しくありませんただのメイド服です!」

神谷「なぜメイド?」

汐莉「クラスの出し物がメイド喫茶なんですよ、メイド服を押しつけられた結果がこの有様です」

神谷「メイド喫茶なのに廊下をウロウロしてて大丈夫なの?」

汐莉「もちろんアウトですよ、とにかくメイド服が嫌なので逃げました」

神谷「逃亡してきたってことね・・・クラス中の男子が汐莉のメイド服を期待してたかもしれないのに逃げるとは不良生徒だ」

汐莉「先生今の発言はセクハラですよ」

神谷「えっ?セクハラではないでしょ」

汐莉「私がセクハラだって訴えればセクハラになります」

神谷「やめてやめて、先生クビになっちゃう」

汐莉「セクハラまがいの発言は迂闊にしないことです!」

神谷「勉強なりました、気を付けます南先生!」

汐莉「(声を低くして)うむ、神谷くん。今後の活躍を期待してるぞ、ではな!」


 歩き始める汐莉


神谷「っておい!止まれ!」


 足を止める汐莉


汐莉「まだ何か用がありますか?」

神谷「何かって・・・ちゃんとクラス出し物に参加しなさいよ」


 神谷のワイシャツの袖を引っ張っている一人の女性


女「ねえ、あっち行こうよ」

神谷「ちょっと待って、今は生徒の指導を・・・」

汐莉「では先生、私は自由を求めているので!」


 汐莉は再び走り始める


神谷「汐莉!!走ったら危ないぞ!!!」


 汐莉は気にせずそのまま走って行く


女「なあに今の子」

神谷「俺が顧問をやってる部活の学生」

女「最近新しく出来たって言ってた文芸部の?」

神谷「そう、文芸部員」

女「可愛いけど、生意気ね」

神谷「高校生はみんなあんな感じだよ」

女「へぇ・・・」


◯208波音高校校庭(朝)

 校舎に入り校庭に行ってみる鳴海と菜摘

 校庭にはいろんな模擬店が出ている

 模擬店の周りにはたくさんの人がいる


鳴海「(模擬店を見ながら)おおっ!三年目にして初めて学園祭周ってるけどすげえな」

菜摘「(模擬店を見ながら)お店いっぱい出てるね、校舎内にも喫茶店とかお化け屋敷があるよ。私たちのクラスは縁日」

鳴海「去年はサボったし、一昨年はすぐに帰ったけど、今年は色々見て周るかな」

菜摘「順々に見ていこうか」

鳴海「おう」


 時間経過


菜摘「(指を差して)あれだ!見て!手作りプラネタリウムの受付!!」


 菜摘が指を差した方向には天文学の手作りプラネタリウム体験受付はこちらと書かれた看板が出ている


鳴海「(模擬店一覧表の紙を見ながら)天文学部だぞ?ほんとに行くのか?」

菜摘「うん!天文学には興味ないけど、手作りプラネタリウムは興味ある!」


 模擬店一覧表の紙をカバンにしまう鳴海


鳴海「前にもさ、こんなことあったよな」

菜摘「え、そうだっけ?」

鳴海「一緒に部活周ったの忘れた?まだあれから二ヶ月しか経ってないぞ」

菜摘「あー!!あったあった!!懐かしいね!もう何年も前な気がする」

鳴海「(笑いながら)あれから色々あったからな」

菜摘「(笑って)そうだね!」


 天文学部の模擬店に向かう鳴海と菜摘

 天文学部の受付は長蛇の列が出来ている


鳴海「めちゃくちゃ混んでるやんけ・・・」

菜摘「ほんとだ、諦めようかな・・・」

鳴海「今日は校舎内を重点的に攻めて、天文学部は明日にする?」

菜摘「それがいいね、とりあえず校舎内に入ってみよっか」

鳴海「あっ・・・」

菜摘「ん?どうしたの?」

鳴海「いや、姉貴を見つけてさ・・・」

菜摘「(キョロキョロしながら)どこどこ?どの人?」

鳴海「(指を差して)車椅子引いてるのが姉貴、あの髪が長いやつ」

菜摘「えっ・・・お姉さんの隣にいるのって一条さん?」

鳴海「一条っぽいな」


 鳴海が指差した方向に風夏と車椅子に乗っている一条雪音の姉、智秋

 風夏の隣で歩いているのは雪音


菜摘「車椅子の人は・・・」

鳴海「一条がなんでいるのかは分からないけど、多分車椅子の人は姉貴の友達だと思う。病気の友達がいるって聞いたことがある」

菜摘「そうなんだ・・・」


◯209波音高校四階階段/屋上前(朝)

 天文学部以外の生徒立ち入り禁止という貼り紙がされている扉

 学園祭なのに楽しそうな声が四階まで響いている

 嶺二が屋上の扉を開けようとしている


千春「生徒立ち入り禁止って書いてありますけど・・・」

嶺二「へーきへーき、そもそも立ち入り禁止なら扉をちゃんと閉めろって話」


 嶺二が扉を開ける

 

◯210波音高校屋上(朝)

 何もない屋上

 屋上にいる嶺二と千春

 校庭の模擬店が見える

 カバンを置いて屋上に寝っ転がる嶺二

 立ったまま嶺二を見ている千春


嶺二「ええ天気や〜」

千春「そんなところで横になったら制服汚れちゃいますよ?」

嶺二「どうせもうボロボロなんだから気にしない気にしない」

千春「せっかく素敵な制服を着ているのに勿体無いと思います」

嶺二「まあね」


 嶺二の隣に座る千春


千春「鳴海さんと・・・喧嘩してるんですか?」

嶺二「あいつはさ、何か隠し事をしてるんだよな」

千春「隠し事?」

嶺二「そそ、俺や明日香に言ってないことがあると思うんだよね。千春ちゃんは知ってるでしょ?」

千春「私は・・・(少し間を開けて)ごめんなさい・・・皆さんに隠していることがあります・・・」

嶺二「知ってるよ、鳴海も菜摘ちゃんも隠し事が下手過ぎ。明日香や汐莉ちゃんだって違和感を覚えてると思うよ・・・俺、ずっと考えてたんだ。千春ちゃんのことを」

千春「私のことをですか?」

嶺二「うん、なんかキモいこと言ってるな俺、ごめん」

千春「いえ・・・私のことを考えてくれる人なんて・・・嶺二さんくらいしかいません」

嶺二「そうとは限らんよ。(間を開けて)話を戻すけど、俺って千春ちゃんと会ったことない?」


 少しの沈黙が流れる


千春「会ったことあると思います・・・」

嶺二「小学校か?いや、違う。中学校?それも違う。いつ会ったのかは分からない、千春ちゃんって何小だったの?」


 答えられない千春


嶺二「(起き上がり、校庭を見ながら)一ヶ月くらい前に鳴海に聞かれたんだ、奇跡を信じるかって。あの鳴海がそんなことを聞いてくるなんて、馬鹿な俺でも変だなって思った。きっと、鳴海でも理解したくないような、受け入れたくないようなことを突き付けられたんだって直感で分かった。千春ちゃん・・・君は奇跡なのか?」

千春「(大きな声で)知りませんよそんなこと!!」

嶺二「(千春の大きな声に驚いて)千春ちゃん・・・」

千春「(大きな声で)私にだって分からないんです!!知らないんです!!」

嶺二「ごめん・・・てっきり俺は、三人で示し合わせて隠し事をしているのかと・・・」

千春「最初はそうでした、俺たち三人だけの秘密にしようって鳴海さんに言われましたから・・・けれど最近は違います。鳴海さんと菜摘さんは私にも言ってないことがあると思います。私が質問をしても菜摘さんは誤魔化して答えることが増えてきました・・・休みの日にも鳴海さんと菜津さんは二人だけで会ってるみたいです」

嶺二「クソじゃねーか。そんなんでいいの?」

千春「よくは無いですよ、私だって知りたいことがいっぱいあります」

嶺二「それなら聞きに行こうよ、鳴海たちに。朗読劇の前に白黒はっきりさせちまおう」


◯211波音高校三年生の教室前廊下(朝)

 神谷から走って逃げ来た汐莉

 歩きながら三年生の出し物を物色している汐莉

 飾り付けがされている教室と廊下

 教室一つ一つに模擬店が出ている

 たくさんの生徒と一般客がいる

 

汐莉「菜摘先輩たちは教室は・・・」

明日香「(後ろから声をかけて)汐莉?何してんのこんなところで」

汐莉「(振り返り)明日香先輩!これはまた偶然ですね」

明日香「偶然も何もここは三年生の廊下だからね」

汐莉「そういえばそうでした」

明日香「そんなこっぱずかしい格好してどうしたの?」

汐莉「こっぱずかしいとか言わないでくださいよー!私だってさっさとこんな服脱ぎたいです!」

明日香「メイド服で校内を彷徨うのはね・・・それで、何してんの?」

汐莉「先輩たちの教室に遊びに行こうかと・・・」

明日香「あー、さっき鳴海と菜摘を見かけたよ。射的をしてたと思う」

汐莉「私もやりたいです射的!!」

明日香「三百円払えば遊べるよ」

汐莉「たっけえですね、学園祭なんだから十円でいいと思います」

明日香「それじゃあ赤字になるでしょ」

汐莉「三百円は手痛い出費・・・先輩、三年三組の教室まで案内をよろしゅう!」

明日香「えー、教室にいると手伝いしろって言われるから嫌なんだけど」

汐莉「(明日香の腕を掴んで)鳴海先輩がいるんだから気にせず行きましょう!」


 汐莉に引っ張られる明日香


明日香「私が案内されてね!?てか鳴海は関係ない!」

汐莉「(明日香の腕を掴んで引っ張りながら)さあさあ先輩!恥ずかしがらずに!!」


◯212波音高校三年三組の教室/縁日(朝)

 教室内では射的、スーパーボールすくい、ヨーヨー釣り、綿飴などの店が出ている

 提灯が吊るされ、縁日の飾り付けがされている教室

 小さい子供が多い

 鳴海は射的をしている

 次々とお菓子を撃ち落としていく鳴海

 落とした景品はビニール袋に詰めて全部菜摘が持っている


菜摘「すごいね、鳴海くん。射的の達人だよ」

鳴海「(射的の銃を構えながら)小さい頃に親父からコツを教えてもらったんだ。このくらいの軽いお菓子は簡単に落とせるよ」


 鳴海が撃つとコルクがボンタンアメに当たって落ちる


鳴海「(射的の銃を構えるのをやめて)ほらね」


 落としたボンタンアメを拾ってくる三組の生徒

 ボンタンアメを菜摘に渡す生徒


菜摘「(ボンタンアメを受け取りビニール袋に入れる)鳴海くん、私、こんなにお菓子食べられないよ」

鳴海「えっ・・・マジか・・・」


 明日香と汐莉が教室に入ってくる

 汐莉は教室の入り口にある受付で三百円を払う

 汐莉は射的の銃を受け取る

 明日香と汐莉は鳴海たちの方に近づいてくる


鳴海「(明日香と汐莉に気づき)よう」

菜摘「明日香ちゃんと汐莉ちゃんも射的しに来たの?」

汐莉「はい!!」

明日香「私は汐莉の付き添い、このメイドが射的したいんだって」

菜摘「そうなんだ!汐莉ちゃんメイド服似合ってるね!」

汐莉「(射的の銃を構えながら)今集中してるんでお静かにお願いします」

菜摘「ごめん・・・」

明日香「メイド服をいじられるのがよっぽど嫌みたいね・・・」


 汐莉が狙いを定めて撃つが、全然違う方向にコルクが飛んでいく


汐莉「(射的の銃を構えるのをやめて)うそーん、全然違う方向に行くじゃん・・・」

鳴海「ちゃんと的を見たか?照準を合わせなきゃ当たらないぞ」

汐莉「そんなことくらい分かってますよ!!馬鹿にするなら鳴海先輩がやってください!

鳴海「(手を出して)ちょっと貸してみろ」


 汐莉は射的の銃を鳴海に渡す


鳴海「(射的の銃を受け取り構えながら)こういうのは・・・狙いを定めてから・・・」


 鳴海が撃つとコルクがチョコボールに当たって落ちる


鳴海「(射的の銃を汐莉に返して)もう百発百中だな、(ドヤ顔で)ガンマンだわ俺」

汐莉「(射的の銃を受け取り)かっこつけてガンマンだわ俺・・・なんて言わなきゃ素直にかっこいいと思います。余計な一言が絶妙にダサい」

明日香「射的が得意なんてのび太と一緒だね。おまけにのび太と違って射的が役立つ時なんかないし・・・」

鳴海「ひでえな!のび太以下かよ俺は!つかかっこつけてねえから!」

菜摘「(笑いながら)の、のび太くんも普段は弱虫だけどいざって時はかっこいいと思うよ!」

鳴海「菜摘までなんちゅうことを言い始めるんだ!上手いんだから褒めてくれたっていいだろ!」

菜摘「(笑いながら)ごめんごめん」


 嶺二と千春が教室に入ってくる


嶺二「(カバンを千春に差し出して)ちょっと持ってて」

千春「(カバンを受け取り)あ、はい」


 嶺二と千春は受付を通り過ぎる


鳴海「(嶺二と千春に気づき)おお、良いところに来たな嶺二!!お前なら射的の素晴らしさが分かるだろ!!」


 菜摘、明日香、汐莉も嶺二と千春の存在に気づく


菜摘「二人も射的しに来たの?」

明日香「ちょっと、あんた達三百円払いなさいよ!」

千春「あっ・・・ごめんなさい・・・今出します」

 

 千春はその場に止まって三百円を出そうとする

 嶺二は拳を強く握りしめて、鳴海の方に近づく


鳴海「お前も射的しろよ、女子からキャーキャー言われたいなら射的を・・・」

嶺二「(鳴海の顔面を思いっきり殴って)調子に乗ってんじゃねえ!!!」


 鳴海はその場に倒れる


菜摘「(鳴海に駆け寄り)鳴海くん!!」

千春「(殴ったことに驚いて)嶺二さん!!」

明日香「(驚いて)嶺二!?」

鳴海「(殴られたところを手で押さえて)いってえな!!何すんだよいきなり!!」


 教室の中にいた生徒たちと一般客が嶺二の行動に驚きガン見している

 嶺二は鳴海に飛びかかり一方的に鳴海の顔を殴り続ける


菜摘「(嶺二を止めようとして)嶺二くん!やめて!!」

嶺二「(菜摘を払い飛ばし、鳴海の顔面をボコボコに殴りながら)邪魔するな!もう我慢が出来ねえ!!いつもいつも適当なことをしやがって!!!人のことを考えろ!!!」

明日香「菜摘!!大丈夫!?」

菜摘「う、うん・・・大丈夫・・・」

嶺二「(鳴海の顔面を一方的に殴りながら)人のことを考えられねえなら無責任なことするんじゃねえぞクソ野郎!!お前がやり始めたことなら最後までやり通せよ!!千春ちゃんの気持ちを考えろよ!!!」

千春「(嶺二のことを見ながら)嶺二さん・・・」

明日香「嶺二!!もうやめなよ!!!」


 鳴海は言葉を発する隙もなく殴られ続けている

 嶺二が殴ると鳴海の顔から血が吹き飛ぶ


嶺二「(鳴海の顔面を一方的に殴りながら)うるせえ!!お前らも揃いに揃って鳴海の肩を持ちやがってよ!!!このクソっ・・・」


 汐莉が射的の銃で嶺二のことを撃つ

 嶺二の頬にコルクが当たる


汐莉「(射的の銃を構えるのをやめて)あっ、初めて当たった」


 思わず殴るのを止める嶺二

 周りにいた人が怯えながら嶺二のことを見ている


汐莉「嶺二先輩、気が済むまで殴ったら話し合いをしましょうよ。私は一方の肩を持つなんてことしませんから」


 汐莉の方を見る嶺二

 再び鳴海の顔を見る嶺二

 鳴海の顔は血塗れでボロボロ

 嶺二は再び鳴海の顔面を一発思いっきり殴る

 嶺二は鳴海から離れる

 ワイシャツの袖で顔についた血を拭く嶺二

 嶺二の制服は返り血で汚れている

 鳴海に駆け寄る菜摘と明日香

 二人に支えられて立ち上がる鳴海

 ポタポタと血が垂れる


嶺二「(鳴海のことを見ながら)保健室に行ってこいよ。その後裏庭に来い」


 嶺二は教室を出て行く


千春「(頭を下げて)ごめんなさい鳴海さん」


 千春は謝ってから嶺二を追いかける


菜摘「(鳴海の左肩を持ちながら)大丈夫?」

鳴海「さ、最悪だ・・・クソ痛えよ」

明日香「(鳴海の右肩を持ちながら)珍しくボコボコにされたね・・・」

鳴海「あ、ああ・・・じ、自業自得だな・・・」

汐莉「これは朗読劇に来たお客さんも鳴海先輩の顔を見てドン引きすると思います」

鳴海「く、暗くて見えねえよ・・・」

汐莉「そうだといいですけど」


 鳴海を支えながら教室を出る菜摘、明日香、汐莉


◯213波音高校裏庭(昼前)

 裏庭で鳴海たちが来るのを待っている嶺二と千春

 他の生徒や学園祭に来た一般客はいない

 裏庭は花壇があり花が育っている

 ノロノロ歩きながら裏庭にやってくる鳴海

 鳴海のスピードに合わせて歩いてくる菜摘、明日香、汐莉

 鳴海の顔は痣で腫れあがり、応急処置がされている


嶺二「(鳴海を見て)ひっでえ顔、笑える」

鳴海「お前がタコ殴りにしたからだろ」

嶺二「殴るつもりはなかったんだ。でも鳴海の顔を見てるとつい腹が立って手が出ちまった、悪い悪い」

鳴海「何がついだよ・・・あれだけ一方的に殴っておいてよく言うわ」

嶺二「堪忍袋の緒が切れるって言葉あるだろ、それか仏の顔も三度までってやつよ。それにお前、今朝言ってただろ?文句があるなら直接言えって」

鳴海「学園祭が終わった後に言うって言われた気がするんだが」

嶺二「細かいことはいいだろ、俺はもう我慢ならないんだ。明日香や汐莉ちゃんだって気付いてるよな?鳴海と菜摘ちゃんが俺たちに隠し事をしてるってことくらい」

明日香「私は別に・・・二人のことだから気にしてない・・・」

汐莉「鳴海先輩と菜摘先輩の個人的なことなら喋る必要はないと思います」

嶺二「個人的なことじゃなかったら?」

汐莉「文芸部に関わることなら、部員の私たちにも知る権利はあると思います」

嶺二「そうだよね、俺もそう思う」

菜摘「(頭を下げて)隠し事をしててごめんなさい・・・みんなには言わない方がいいかと思ったの・・・」

嶺二「仲間なのにそれはあんまりじゃねーの」

菜摘「(頭を下げたまま)本当にごめんなさい」

千春「頭をあげてください菜摘さん。私は二人のことを責め立てたいわけじゃないんです。お二人が私のことで知ってることがあれば、教えていただけませんか?」

菜摘「(頭を上げて鳴海の方を見る)鳴海くん・・・本人も知りたがってるしもう言った方が・・・」

鳴海「(大きな声で)ダメだ!!!言うな菜摘!!!」

菜摘「鳴海くん・・・どうして・・・?」

鳴海「(大きな声で)今言うべきじゃない!!学園祭が終わるまで言わないってことにしたじゃないか!!!」

菜摘「でも・・・どうせ後で言うくらいなら今言ったって変わらないと思うよ」

鳴海「菜摘・・・本当にそう思うのか?お前は今日まで文芸部の活動を頑張ってきた。今話したら朗読劇どころじゃなくなるかもしれない」

菜摘「いいよ、朗読劇なんてそんなこと・・・」

鳴海「菜摘、部長のお前がそんなこと言っちゃダメだろ・・・」

菜摘「ごめん」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(ため息を吐いて)分かったよ、じゃあその前に少し昔の話をさせてくれ」


 頷く嶺二と千春


◯214回想/道路(八年前)

 激しく損壊している二台の車

 血を流しながらふらふらと車から出てくる鳴海

 二台の車の周りには人だかりが出来ている

 車の中を覗く鳴海

 車の前の座席には損傷の激しい二体の遺体(鳴海の親の紘と由香里)

 後ろの座席には血塗れ姿の姉の風夏がいる

 鳴海はその場にぺたんと座り込む

 周りにいた人たちが鳴海の方へ駆け寄ったり、電話をして救急車を呼んだり、車の中にいる鳴海の家族を救出しようとし始める

 鳴海は声をかけられても呆然としている


鳴海「(声)俺が十歳の時に両親は死んだ。交通事故で。生き残ったのは俺と姉貴だけ。昔から俺は思ってたことがある、なぜこの町は奇跡が起こるなんて言われているんだろうって。だって、奇跡が起こるなら事故に遭っても両親は死なないはずだ。医者から峠を越えたって言われても良かったはずだ。生きているのは奇跡ですって言われるべきだ」


◯215回想/葬式(八年前)

 紘と由香里の葬式

 風夏は大泣きしている

 鳴海は葬式でも呆然としている

 葬式には早乙女家も参加しているが、鳴海は気付いていない


鳴海「(声)馬鹿みたいに俺は奇跡を信じてた、両親が生き返ることを。死ねばそこで終わりなのに。それが人生の終着点、そこから先は何も待ってない。人生っていうのは案外呆気なく終わってしまうってことを知った」


◯216回想戻り/波音高校裏庭(昼前)

 話を続けている鳴海


鳴海「だから俺は奇跡なんて信じない。そんなものは存在しないって思ってた。千春の話を聞くまでは、ギャラクシーフィールドの店主から話を聞くまでは。これを口に出せば・・・俺は奇跡を肯定するような立場になってしまう。それがどうしても嫌だった。でも、もう・・・話すよ、聞いてどう思うかはそれぞれの考えだから・・・(千春の方を真っ直ぐ見て)千春・・・お前は・・・お前は・・・!!」


 鳴海は言おうと思ってもなかなか言い出せない


鳴海「ゲームの中の・・・キャラクターだ・・・!!」

千春「ど、どういう・・・ことですか」

鳴海「千春、君はゲームのキャラクターだ・・・波音町が起こした奇跡の幻影なんだ!」

千春「ゲームの・・・」

汐莉「鳴海先輩の言ってることが理解出来ないっす・・・」

明日香「本気で言ってんのそれ」

鳴海「本気だよ本気!!俺だって他にどう説明すればいいのか分からない!!(千春の方を見ながら)俺や菜摘は千春と昔会ったことがあるんだよな?」

千春「はい・・・あると思います」

鳴海「それって俺たちがゲームで遊んだだけじゃないのか!?千春はゲームの中から俺たちのことを眺めて・・・」

嶺二「ふざけてんのかてめえ」

鳴海「違う!!ふざけてるんじゃない!!」

菜摘「ギャラクシーフィールドの店主の有馬勇さんから話を聞いたの・・・ギャラクシーフィールドの新世界冒険っていう有馬さんが作ったゲームには、柊木千春っていう同姓同名のキャラクターが登場するんだって・・・(千春の方を見て)聞き覚えない?」

千春「そう言われたら・・・知ってるような気がします・・・」

嶺二「ふざけてるとしか思えねえ」

鳴海「千春が記憶喪失なのも、ゲームから出てきたキャラクターだから・・・」

明日香「(驚いて)記憶喪失?!」


 少しの沈黙が流れる


千春「ごめんなさい皆さん、本当は私記憶がないんです・・・学費を貯めたいっていうのも嘘です・・・」

汐莉「え、じゃあバイトをしてるってのも嘘だったの?」

千春「チラシを配ってるのは本当だけど、バイトってわけじゃない・・・ある日気付いたらギャラクシーフィールドの広告を持ってて、その日からずっとチラシを配ってるだけ・・・」

明日香「家出してるっていうのは?」

千春「家出じゃありません・・・ただ記憶がなくて、帰る場所が分からないから菜摘さんのお家でお世話になってます・・・」

嶺二「全て嘘だったってことかよ・・・俺たちを騙してたんだな・・・」

千春「ごめんなさい、本当にごめんなさい」

菜摘「嶺二くん、悪いのは私たち、千春ちゃんのことを責めないで!」

鳴海「いや、全部俺のせいだ。千春と菜摘に責任はない。(頭を下げて)嶺二の言う通りだ、俺が無責任だった。ごめん」

嶺二「俺だ私だってダチョウ倶楽部かよ・・・(大きな声で)お前がクソみてえにいい加減だから今更問題になってんだぞ!!」

鳴海「(頭を下げたまま)ごめん」

嶺二「(大きな声で)適当なことをいっつもいっつも抜かしやがって!調子に乗ってんだよお前は!!!」

鳴海「(頭を下げたまま)確かに調子に乗ってた、ごめん」

嶺二「(大きな声で)一ヶ月前もサイゼで逃げるように話題を変えたよなクソ野郎!!自分の秘密で我慢してくれとかほざいた挙句に、菜摘ちゃんに惚れたって最低な嘘を重ねやがって!!!どんだけクズなんだよお前!!!!!」


 頭を上げる鳴海


鳴海「(慌てて)ちょ嶺二!それは嘘じゃ・・・」

菜摘「私に惚れた・・・?」


 菜摘と目が合う鳴海

 慌てて目を逸らす鳴海

 次に明日香と目が合う鳴海

 慌てて明日香とも目を逸らし、下を向く鳴海

 赤く腫れ上がった鳴海の顔はさらに赤くなる

 菜摘の顔も赤くなっている

 嶺二は鳴海と菜摘の顔を交互に見る


嶺二「は・・・?あれは話を変えるために鳴海が適当に嘘をついたんじゃ・・・」

鳴海「(小さな声で)全部が全部嘘だったとは言ってない・・・」

嶺二「マジかよ。(大きな声で)馬鹿だな!!!嘘のつきすぎでもう誰からも信頼されてねえぞ!!!お前に青春なんか一生訪れねえよ!!!」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「あの・・・嶺二先輩」

嶺二「なんだよ?」

汐莉「気が済んだらそろそろ我々は体育館に行った方がいいかもしれません、集合時間をもうとっくに過ぎてます」


 舌打ちをする嶺二


汐莉「千春のことはまたみんなで放課後話し合いましょう、とりあえず今は体育館に行った方がいいと思います」

嶺二「(腕時計を見ながら)しゃあねえな・・・こんなあり得ねえわけのわからない話は後にしてやる、今は急ぐぞ!!」


 嶺二は走って体育館を目指す


明日香「(小声で)このタイミングで先越されるなんてほんと最低で最悪じゃん・・・」

汐莉「(明日香に耳打ちをする)明日香先輩、まだ勝負は決まってませんよ。ファイトです」


 汐莉は嶺二と同じく体育館を目指して走る


菜摘「(走って行った嶺二と汐莉を見ながら)わ、私たちも・・・行こっか・・・」

明日香「そ、そうね。話はまた後で・・・」

鳴海「千春・・・詳しい話は後でいいかな・・・」

千春「分かりました、今は体育館に行きましょう」


 鳴海、菜摘、明日香、千春も体育館を目指す


◯217波音高校体育館/学園祭のメイン会場(昼)

 薄暗い体育館

 体育館にはすでにたくさんの生徒と一般客が集まりパイプ椅子に座っている

 一般客の中に、風夏と智秋、潤とすみれ、有馬勇もいる

 ステージで披露する予定の部活たちは裏に集まっている

 そのほかに学園祭実行委員、顧問の先生、重鎮の先生方が全員集まっている

 走ってステージの裏に入って行く文芸部メンバー


菜摘「(息を切らしながら)お、遅れて・・・すいません」


 菜摘以外の文芸部メンバーも息切れてしている


校長先生「(文芸部員を見ながら)大事な集合に遅刻するなんて全く信じられん」

菜摘「(息を切らしながら)す、すいません・・・」

校長先生「神谷先生、この子たちはあなたの教え子でしょう。しっかり注意しなさい」

神谷「はい、(文芸部員を睨みながら)指導します」

校長先生「全くけしからん部だ・・・いいですか、ステージの上で恥をかくようなことはしないように。遅刻なんて以ての外、君たちはこの学校の代表です。先輩たちが築き上げてきた伝統と文化を守り抜く義務があることを忘れてはなりません、いいですね?」


 まばらな返事が聞こえる


校長先生「では時間までそれぞれ部の士気を高めてなさい」


 校長先生は出て行く

 神谷が鳴海たちのところにやって来る


神谷「こんな日に遅刻するなんて!!しっかりしてくれ!」

菜摘「す、すいません」

神谷「ステージの上ではしっかり頼むぞ・・・特に明日香、菜摘、鳴海っておい!!(鳴海の顔を見て)嘘だろその顔・・・」


 腫れ上がった鳴海の顔を見てドン引きしている神谷


鳴海「なんすか」

神谷「なんすかじゃねえだろ・・・鳴海と嶺二が殴り合いをしたってクラスの子から聞いてはいたけど・・・」


 嶺二の顔を見る神谷


嶺二「あー、心配しなくていいっすよ。俺、無傷なんで」

神谷「(頭を抱えながら)どうなってんだよ・・・なんで嶺二が無傷で・・・鳴海はボコボコになってるんだ。後で職員室案件な、みんなで頑張って作った縁日の屋台に血を付けた罪は重いぞ」

鳴海「勘弁してください、忙しいんで俺ら」

神谷「学生の分際で何が忙しいだ・・・ダメじゃないか明日香、君が仲直りさせないから鳴海のハンサムな顔面が台無しになってしまったよ」


 明日香はボーッとしている


神谷「明日香さん?聞いてます?」

明日香「へっ?」

神谷「いやだから、喧嘩は明日香が止めなきゃダメじゃないか」

明日香「そんなこと言うなら先生が奥さんとデートせずに教室にいれば良かったと思います。(少しイライラしながら)女生徒の力じゃ嶺二を止められませんでした」

神谷「それは悪かったよ」

汐莉「あの綺麗な女性は奥さんだったんですかぁ、デートですね」

神谷「嫁を連れてきてもいいだろ、学園祭は生徒のものじゃないんだから。というか・・・汐莉のその格好・・・」


 みんなが汐莉の方を見る


菜摘「汐莉ちゃん、軽音部のライブはそれが衣装なの?」


  少しの沈黙が流れる


汐莉「うっわ、やらかした!!!バンドの衣装に着替えてねええええええええええええええええええ!!!!!」

菜摘「着替えはどこにあるの?」

汐莉「教室です」

菜摘「急いで行けばまだ間に合うよ!」

神谷「ダメだよ、ステージ裏の出入り禁止。パフォーマンスの終わった生徒だけが戻っていいってことになってるんだから」

汐莉「ええええええええええ」

神谷「もうしょうがないからその格好で出なさい」

汐莉「(絶望して)終わった・・・メイド服でライブとか究極の黒歴史爆誕だ・・・」


 時間経過


 薄暗く不気味なBGMが流れている体育館

 オカルト研究会による怖い話の朗読が行なわれている

 文芸部員たちは舞台袖に隠れて、出番を待っている


 中森「この話を聞いた皆さんは呪われました。呪いを解くにはオカルト研究会に入部するしかありません。大人の方はお子さんに入部させましょう。それしか方法はありません。呪いを解かない限り一ヶ月以内にとんでもない不幸が襲いにかかります」


 ステージの照明が消え、真っ暗になる


汐莉「手の込んだ部活勧誘かよ・・・」

明日香「どちらかというとカルト的宗教団体の勧誘ね・・・(菜摘の方を見て)さあ菜摘、これが終わったら私たちの出番だよ」


 菜摘を中心に円を作る文芸部メンバー


菜摘「みんな、色々迷惑ばかりかけてごめんなさい・・・一人一人が今日と明日のために動いてくれてたのに・・・(千春の方を見て)千春ちゃん・・・なんて言ったらいいのか・・・私も、鳴海くんと同じで無責任だった。ごめん、ごめんね」


 千春は両手で菜摘を両手を握る

 ステージの照明が全部つく

 オカルト研究会の部員たちがステージに出てきて一礼をする

 会場から大きな拍手が聞こえてくる


千春「(菜摘の両手を握って)何しょんぼりしてるんです?今日まで頑張ってきたじゃないですか!!しっかりしてくださいよ部長!!」

菜摘「千春ちゃん・・・」


 幕が下がってくる


学園祭実行委員のアナウンス「オカルト研究会の皆さん、ありがとうございました」


 オカルト研究会の部員たちが小道具を持ってステージの裏に戻る


千春「(菜摘の両手を握りながら)私のことは考えないでください、もういいんです。私のことで・・・学園祭を無駄にしないでください!」

菜摘「(涙を流しながら)そんなこと・・・出来ないよ!!今まで千春ちゃんと向き合ってなかったくせに何を言うんだって思うかもしれない・・・こんなこと言うのはおこがましいかもしれない・・・でもね、私は千春ちゃんのこと友達だと思ってる、仲間だと思ってる、家族だと思ってる!!」

千春「(菜摘の両手を握りながら)菜摘さん・・・私は菜摘さんにそう言ってもらえてとても嬉しいです」

菜摘「(涙を流しながら)だから・・・本当にごめんなさい・・・私、ちゃんと向き合うね。学校なんか行かずに一緒にチラシを配る、記憶も、昔遊んだことも、一緒に思い出そう!」

鳴海「俺も・・・今度は・・・手伝えさせてもらえないかな、もう逃げないからさ・・・すまなかった千春・・・図々しいってのは分かってる、でも、もう一度だけやり直すチャンスをもらえいかな・・・」


 千春は左手で菜摘の右手を握り、右手で鳴海の左手を握る

 涙を拭う菜摘


千春「(二人の手を握りながら)私は幸せです・・・お二人にこんなに思ってもらえるなんて・・・」

明日香「ちょっとちょっと!!まるでその二人しか千春のことを考えてないみたいじゃない!!千春がゲームのキャラクター!?そんな馬鹿みたいなことあるわけないでしょ!!私も千春と向き合って、そんな馬鹿な考えを一蹴してやるから!!」

汐莉「ほんとですよ!!鳴海先輩と菜摘先輩は重度の厨二病で変なことを言ってるとしか思えません!!千春、私たちも友達だからね!!」

嶺二「俺だって千春ちゃんの仲間だよ!!仲間の問題は、みんなで解決しようぜ!!馬鹿な鳴海と菜摘ちゃんに任せておけない!!」

千春「(鳴海と菜摘の手を握りながら)皆さん・・・私は幸運です。鳴海さんと菜摘さんに拾ってもらって、こんな素敵な仲間に囲まれています!これほどの幸せはありません!」


 明日香が菜摘の左手を握り、汐莉が明日香の右手を握り、嶺二が汐莉の左手を握り、鳴海が嶺二の右手を握る


◯218波音高校体育館/学園祭のメイン会場客席(昼過ぎ)

 文芸部の出番を今か今かと待っている潤とすみれ


学園祭実行委員のアナウンス「続いてのプログラムは文芸部による朗読劇“少年少女のファンタジーアドベンチャー“をお送りします。演出、一年の柊木千春さん、原作、柊木千春さんと三年の早乙女菜摘さん、女の子役、早乙女菜摘さん、男の子役、三年の貴志鳴海くん、心の声役、三年の天城明日香さん、照明音響、三年の白石嶺二くんと一年の南汐莉さん。それではお楽しみください」

潤「(そわそわしながら)娘の晴れ舞台に緊張の汗が止まらないぜぇ!」


 潤の大きな声に周りのお客さんがびっくりする


すみれ「(睨んで)潤くん、声大きい」

潤「す、すまんすまん・・・つい興奮して」


◯219波音高校体育館/学園祭のメイン会場(昼過ぎ)

 ステージの裏で手を繋いで円を作る文芸部員


千春「この朗読劇を絶対に成功させましょう!!それが私を含めた文芸部の目標です!!!私の願いです!!!」

嶺二「おっしゃあ!!絶対に成功させんぞ!!!」

鳴海・菜摘・明日香・汐莉・千春「おー!!!!!」


 気合を入れてそれぞれの持ち場に行く文芸部員たち

 鳴海、菜摘、明日香が椅子を持ってステージに入る

 印に椅子を合わせて座る三人

 嶺二、汐莉、千春は体育館二階にある調整室に向かう

 

◯220波音高校体育館/学園祭のメイン会場客席(昼過ぎ)

 薄暗い客席

 一般客席から少し離れたところで立ち見している風夏と車椅子の一条智秋


智秋「なかなか始まらないね」

風夏「弟が問題を起こしてないか心配、トラブルメーカーだからなあいつ」


 BGMが流れ始める

 

智秋「あっ、始まるよ!」


 幕が上がる

 鳴海、菜摘、明日香の三人に照明が当たっている

 会場からどよめきが起きる


客1「男の子の顔ものすごい腫れてる・・・」

客2「ほんとだ・・・あれも演出なのか?」


 ざわつく客席


風夏「(呆然としながら)なんだあの顔・・・何をしたらあんな顔になる・・・?」

智秋「す、すごい腫れてるね、男の子だし喧嘩でもしたのかな・・・」

風夏「(怒りながら)馬鹿弟め・・・」


◯219波音高校体育館/学園祭のメイン会場客席(昼過ぎ)

 客席にいる潤とすみれが鳴海の顔を見て驚く


すみれ「鳴海くんの顔・・・」

潤「目立ちたい一心で顔に傷でも作ったのか?」

すみれ「潤くんじゃあるまいしそんなことしないよ普通」

潤「(大きな声で)俺は目立ちたいからって顔に傷なんか・・・!!!」


 大きな声で喋る潤のことを睨む周りの観客


すみれ「(睨んで)潤くんうるさいよ」

潤「すいません」


 照明が菜摘一人に当たる


菜摘「私は勇敢な戦士が現れるのを待っている、世界を救わなければならないから。今日も悪霊が人を襲ってる。私一人じゃ戦えない!!お願い!!助けて!!」


 菜摘が朗読を始めるとどよめきが消える


◯220波音高校体育館の二階調整室(昼過ぎ)

 狭苦しい調整室

 調整室の中に、嶺二、汐莉、千春、学園祭実行委員がいる

 嶺二と汐莉が座って照明とBGMのフェーダーを調整している

 千春が上から朗読劇を見ている


汐莉「お客さんが鳴海先輩の顔を見て引いてるじゃないですか」

嶺二「そりゃあの顔を見れば誰だってビビるだろうよ、ホラーやん」

汐莉「嶺二先輩のせいですよ、一発殴るならともかくあそこまでボコボコにするなんてぶっちゃけ引きました」

嶺二「日ごろの恨みが溜まってたの」

汐莉「鳴海先輩が死んでしまうんじゃないかと思いました」

嶺二「それは考え過ぎ」


 千春は一般客の方を見る


◯221波音高校体育館/学園祭のメイン会場客席(昼過ぎ)

 たくさんの客の中に有馬勇がいる

 勇が朗読劇を鑑賞している

 鳴海一人に照明が当たっている


鳴海「世界には助けを求めてる人がたくさんいる。俺はまだ修業中だけど・・・助けを求めてる人がいれば、剣を抜き悪霊を倒す!!世界を平和にするんだ!!」


 鳴海に当たっていた照明は消え、明日香に照明が当たる


明日香「男の子は決意を新たに出発した。少年少女に与えられた世界平和という大き過ぎる夢と、小さな幸せが日々を通過する」


◯222波音高校体育館の二階調整室(昼過ぎ)

 嶺二と汐莉が座って照明とBGMのフェーダーを調整している

 千春は客席にいる有馬勇のことを見ている


千春「(声 モノローグ)誰だろうあの人・・・知ってる人・・・?私の帰らなきゃいけないところ・・・?ゲームセンター・・・ギャラクシーフィールド・・・」

鳴海「(声)千春、君はゲームのキャラクターだ・・・波音町が起こした奇跡の幻影なんだ」

菜摘「(声)ギャラクシーフィールドの店主の有馬勇さんから話を聞いたの・・・ギャラクシーフィールドの新世界冒険っていう有馬さんが作ったゲームには、柊木千春っていう同姓同名のキャラクターが登場するんだって・・・」

千春「(声 モノローグ)有馬勇って・・・誰・・・?頭が痛い・・・」


 千春が頭を押さえる

 

勇「(雑音混じりの声で)名前は・・・柊木千春!それにしよう!!」


◯223回想/ゲームセンターギャラクシーフィールド

 千春に向かって有馬勇がドライバーをクルクルと回している


勇「(ドライバー回しながら)これを付ければ・・・」

千春「(声 モノローグ)これは・・・いつの記憶・・・?覚えてない・・・この人は何をしてるんだろう・・・」


 ネジを巻き終えドライバーを床に置く勇


勇「完成!!さっそく電源を入れてみよう」

千春「(声 モノローグ)電源・・・?何の電源を入れるの?」


 カチッと音が聞こえる


勇「(ポケットから百円玉を取り出して)長かったよここまで・・・」


 百円玉を千春に近付ける

 チャリンという音が聞こえる


◯224回想/草原

 七、八歳くらいの鳴海

 今と年齢が変わっていない千春

 鳴海は剣を背負っている

 二人は果てしなく広い草原を歩いている


千春「(声 モノローグ)小さい頃の鳴海さんと私・・・やっぱり昔旅行に行ったことがあったんだ、この記憶は正しいんだ」


 草原が急に真っ暗になる

 鳴海の姿が見えなくなる

 一人ぼっちになる千春


千春「(声 モノローグ)鳴海さん!?どこに行ったんですか?!」

鳴海「(声)お母さん!もう一回!!もう一回やりたい!!」

由香里「(声)今日はもういっぱい遊んだでしょ?また明日来ようね」

鳴海「(声)えぇー、まだ遊びたいのに!」

由香里「(声)お腹空いてない?お父さんとお姉ちゃんが晩ご飯の支度をして待ってるよ」

鳴海「(声)お腹空いた・・・お母さん、また明日来ていいんだよね?」

由香里「(声)もちろん、さあ帰りましょう」

鳴海「(声)うん」

千春「(声 モノローグ)行かないで!!もっと遊びましょう!!」


◯225回想/草原

 七、八歳くらいの嶺二

 今と年齢が変わっていない千春

 嶺二は剣を背負っている

 二人は果てしなく広い草原を歩いている


千春「(声 モノローグ)あっ!嶺二さん!!聞いてください!!鳴海さんが帰っちゃったんです!!私はもっと遊びたいのに!!」

嶺二「(声)悲しい話・・・こんな悲しい話は・・・もうやりたくない・・・」


 草原が真っ暗になる

 嶺二の姿が見えなくなる

 一人ぼっちになる千春


千春「(声 モノローグ)嶺二さん!!嶺二さん!!どこに行くんですか!!もっと私と遊んでください!!お願いです!!」


◯226回想/草原

 五、六歳くらいの菜摘

 今と年齢が変わっていない千春

 菜摘は剣を背負っている

 二人は果てしなく広い草原を歩いている


千春「(声 モノローグ)菜摘さん!!私と遊びましょう!!!冒険をして、少し危ない目にあって、二人で危機を乗り越えて、世界を救いましょう!!!」

菜摘「(声)けほっ・・・けほっ・・・」

千春「(声 モノローグ)菜摘さん?大丈夫ですか?」

菜摘「(声)けほっ・・・けほっ・・・」

すみれ「(声)菜摘!風邪引いてるの!?」

菜摘「(声)けほっ・・・けほっ・・・ううん・・・咳が出るだけ・・・けほっ・・・けほっ・・・」

すみれ「(声)どうして風邪引いてるって言わないの!!!」

菜摘「(声)風邪じゃないもん・・・熱ないもん・・・」

潤「(声)菜摘・・・風邪を引いてるならそう言わなきゃダメじゃないか・・・」

菜摘「(声)だって・・・ゲーム・・・けほっ・・・したいから」

潤「(声)ゲームならパパが買う、だから今日は帰ろう」

菜摘「(声)けほっ・・・けほっ・・・分かった」


 草原が真っ暗になる

 菜摘の姿が見えなくなる

 一人ぼっちになる千春


千春「(声 モノローグ)鳴海さん!!嶺二さん!!菜摘さん!!私を置いて行かないで!!もっと一緒に遊びましょうよ!!」

勇「(声)故障・・・ですか?」

男「(声)ええ、内部が完全に壊れてます」

勇「(声)修理は出来ませんか?」

男「(声)なかなか難しいですねぇ、無理とは言い切りませんが、百パーセント完全に直せるかどうか・・・それにパーツの多くが今は生産を終えた希少品ばかりです。パーツが手に入っても料金の方が・・・」

勇「(声)そうですか・・・今の子供たちは携帯ゲーム機で満足して、こういう卓上ゲームはプレイしませんよね・・・」

男「(声)そうですねぇ、わざわざ外に出てゲームをするくらいなら家でゲームをした方が早いですから」


◯227回想戻り/波音高校体育館の二階調整室(昼過ぎ)

 嶺二と汐莉が座って照明とBGMのフェーダーを調整している

 千春は頭を抱えたまましゃがみ込む


千春「(声 モノローグ)ああ・・・そうだったんだ・・・私は壊れちゃったんだ・・・」

嶺二「(頭を抱えてしゃがみ込んだ千春に気付いて)千春ちゃん!?大丈夫!?」


 嶺二は千春に駆け寄る


汐莉「ああちょっと嶺二先輩!(慌ててフェーダーを動かす)クライマックスの照明を当てないと!!!」

嶺二「ごめん汐莉ちゃん!!今千春ちゃんが!!」

汐莉「(振り返り)千春がなんですか!?」


 汐莉もフェーダーから目を離し千春の方を見る


千春「私、やっぱりそうみたいです・・・」

嶺二「そうって何?何がそうなの?」

学園祭実行委員「おい!!フェーダーから目を離すな!!!」

嶺二「うるせえ黙ってろ!!千春ちゃん、どうしたの?体調悪い?」


 少しの沈黙が流れる


千春「(立ち上がり)すいません・・・少し頭痛がしただけです」

嶺二「(心配そうに)本当に?大丈夫?」

千春「はい、もう大丈夫です。嶺二さん、汐莉、フェーダーの調整をお願いします」

汐莉「(慌ててフェーダーを動かす)やっべ、完全に無駄な間を演出してた」


 千春は再びステージを見ている

 嶺二は心配そうな顔をしている


汐莉「嶺二先輩も手伝ってくださいよー!」

嶺二「あ、ああ」


 嶺二は椅子に座りフェーダーを調整する


◯228波音高校体育館/学園祭のメイン会場(昼過ぎ)

 ステージの上

 鳴海と菜摘に照明が当たっている

 静かなピアノのBGMが流れている


鳴海「死ぬんじゃない馬鹿!!!」

菜摘「ごめん・・・私はここで・・・」

鳴海「世界が平和になったら一緒に暮らすって約束したじゃないか!!!」

菜摘「約束・・・果たせなくてごめん・・・でも、よかったぁ・・・世界が平和になって・・・これで・・・私も・・・みんなも・・・幸せだ・・・」


 鳴海と菜摘に当たっていた照明が消える

 明日香に照明が当たる


明日香「少女自らの命というあまりに大きな代償を払って、少年と少女は世界平和を為し得た。少年はこの残酷過ぎる運命を受け入れることにした。なぜなら彼は勇敢な戦士だからだ。少年と少女の冒険は終わった、少年は新たな旅に出る。新しい世界を目指して、運命が導くままに!」


 明日香に当たっていた物を含め全ての照明が消える

 BGMが止まる

 会場から盛大な拍手が沸き起こる

 ステージの照明が全てつく

 文芸部員がステージに出て一礼をする

 潤が立ち上がり指笛を吹く

 すみれ、風夏、智秋、勇も拍手をしている


鳴海「すげえ・・・拍手されるのも気持ちいいもんだな・・・」

菜摘「本当にそうだね!!このために私たちは部活をやってたんだよ!!」

明日香「まだ明日も公演があるっていうのに、今日一日だけでもすごい満足しちゃう!!」

汐莉「明日はもっといい公演にしましょう!!」

嶺二「早くみんなの感想を聞きたいね!!千春ちゃん!!」

 

 千春は黙っている


嶺二「(不思議そうに)千春ちゃん?」

千春「(我に返ったかのように)あっ、はい!!そうですね!!」


 幕が下がってくる

 

学園祭実行委員のアナウンス「文芸部の皆さん、ありがとうございました」


 幕が完全に下がり切り、ステージの裏に戻る一同

 文芸部と入れ替わって吹奏楽部員たちが、楽器、楽譜、椅子、譜面台を持ってステージに入って行く

 神谷がステージの裏で待っている


神谷「みんな、すごく良かったぞ!!!感想を色々言いたいところだけど他の部が詰まってるから汐莉以外は撤退しなさい」

菜摘「汐莉ちゃん、ライブ頑張ってね!!」

汐莉「プレッシャーをかけないでくだせえ・・・」

明日香「しっかりね、期待してる」

汐莉「先輩方の期待による心の重圧が・・・」

嶺二「動画撮影するわ」

汐莉「ネットにあげないでくださいよ!!」

千春「汐莉、バイバイ」

汐莉「あ、うん!また後でね!!」


 千春は汐莉から目を逸らす


鳴海「よし!撤退だ!!!」


 汐莉以外のメンバーは客席に戻る


学園祭実行委員のアナウンス「続いて、県二位の実力を持つ吹奏楽部によるメドレーをお楽しみください」


◯229波音高校体育館/学園祭のメイン会場客席(昼過ぎ)

 客席に向かう汐莉以外の文芸部メンバー


千春「私、トイレに行ってきます」

菜摘「あっ、おっけい。戻って来た時の席分かる?リハーサルの時と同じ場所だけど」


 頷く千春

 千春は体育館を出て行く


◯230波音高校体育館/学園祭のメイン会場客席(三時ごろ)

 汐莉と千春以外の文芸部員たちは客席に座っている

 吹奏楽部の公演が終わり場内は拍手に包まれる

 ステージにある全ての照明がつく

 吹奏楽部員たちが起立し一礼する

 幕が下がってくる


学園祭実行委員のアナウンス「吹奏楽部の皆さん、ありがとうございました。続いて、軽音楽部一年生女子、魔女っ子少女団によるライブをお楽しみください」

菜摘「汐莉ちゃんの番なのに、千春ちゃん戻って来ないね」

嶺二「俺、呼びに行こうかな」

明日香「馬鹿、女子トイレにいるのに呼べるわけないでしょ」

嶺二「どうせ誰もいない今なら女子トイレに入っても平気やろ」

鳴海「アホかお前は、平気なわけねえ」

嶺二「あぁ?アホって言ったか?殴るぞ?」

鳴海「いや嘘です殴らないで」


 明日香がため息を吐く


菜摘「もう少し待って、それでも来なかったらみんなで探しに行こっか」

明日香「うんうん、それがいい」


 幕が上がる

 一年生女子五人組のバンド、真ん中に汐莉がいる

 汐莉はギターを持っている

 汐莉以外は部活Tシャツを着ている


汐莉「どうも、魔女っ子少女団です。衣装を忘れちゃって・・・私だけ・・・メイド服です・・・」


 汐莉は緊張している


菜摘「頑張れ汐莉ちゃん!」

汐莉「えーっと・・・多分皆さんも知ってる曲だと思うので・・・良かったら一緒に歌ってください!」


 ドラムを担当している女の子がスティックを叩く


汐莉「(♪ルージュの伝言)あのひとの ママに会うために」

明日香「ルージュの伝言だ!」

汐莉「(♪ルージュの伝言)今ひとり 列車に乗ったの たそがれせまる 街並みや車の流れ 横目で追い越して」


 ノリノリのライブというより、みんな静かに汐莉の歌声を聴いている


菜摘「汐莉ちゃんの歌声、すごく綺麗・・・心まで響く声だ・・・」

鳴海「思ってたより心地よい声だな・・・てっきりもっとだみ声かと・・・」

汐莉「(♪ルージュの伝言)あのひとは もう気づくころよ バスルームに ルージュの伝言」

嶺二「ギターも普通に弾いてるし・・・初心者じゃないの?」

明日香「うちの学校でボーカルをやるくらいだし、ただもんじゃないね」

汐莉「(♪ルージュの伝言)浮気な恋を はやくあきらめないかぎり 家には帰らない」


 サビに向けて汐莉の声量も上がる


◯231波音高校体育館/学園祭のメイン会場(三時ごろ)

 ステージの裏側で汐莉の歌を聞いている神谷


汐莉「(♪ルージュの伝言)不安な気持ちを 残したまま 街はDing-Dong 遠ざかってゆくわ 明日の朝 ママから電話で しかってもらうわ My Darling!」


◯232波音高校体育館/学園祭のメイン会場客席(夕方)

 汐莉のライブを聞いている鳴海、菜摘、明日香、嶺二


汐莉「(♪ルージュの伝言)あのひとは あわててるころよ バスルームに ルージュの伝言」

鳴海「(声 モノローグ)結局千春は、軽音楽部のライブが終わっても戻って来なかった」


◯233波音高校特別教室の四/文芸部室(夕方)

 軽音楽部のライブが終わり汐莉が戻ってきた後、体育館を抜け出して来た一同

 みんなで千春を探している

 部室に千春はいない


菜摘「女子トイレと部室にもいない・・・」

嶺二「(大きな声で)くそっ!」

鳴海「落ち着け嶺二、どこかしらにはいるはずだ」

嶺二「落ち着いていられるかよこの状況!!消えちまったんだぞ!!」

鳴海「嶺二・・・」

嶺二「千春ちゃん、さっきも様子が変だった・・・頭痛とか言って頭を抱えてその場にしゃがみ込んだり・・・」

明日香「そんなことがあったの!?」

嶺二「ああ・・・」

汐莉「私、やっぱりそうみたいですって言ってたましたけど・・・あれって・・・もしかして・・・千春自身もゲームのキャラクターだって認識し始めたんじゃ・・・」

嶺二「(大きな声で)そんなことあるわけないだろ!!!」


 嶺二の大きな声に驚く汐莉


明日香「嶺二、焦るのも分かるけど、冷静に。手分けして千春が行きそうな場所を片っ端から回ってみよ」

嶺二「そ、そうだな・・・まだ回ってない場所もあったか・・・」

明日香「鳴海と菜摘は三階と四階を探して、私たちは一階と二階を回ってみるから」

鳴海「分かった!」

菜摘「千春ちゃんが見つかったら連絡する!」

明日香「お願い!」


 鳴海と菜摘は部室を出て行く


嶺二「明日香・・・いいのかよ、鳴海と菜摘ちゃんを一緒に行かせて・・・」

明日香「本当に馬鹿ね、今はそれどころじゃないでしょ!」

嶺二「すまん明日香、俺が裏庭で変なことを言ったせいで・・・」

明日香「そんなことはいいから。それに・・・なんとなく気付いてたし・・・(小さな声で)鳴海が菜摘のことを好きってこと・・・だいたい、今の嶺二と鳴海を一緒にするわけには行かないじゃん、またいつ喧嘩になるか・・・」

嶺二「そうじゃなくて、俺と菜摘ちゃんと汐莉ちゃんの三人組を作って、明日香は鳴海と・・・」

明日香「(大きな声で)いいって言ってるでしょ!!!!!(少し間を開けて小さな声で)怒鳴ったりしてごめん・・・でも今はやめてほしい・・・だって・・・私・・・二人も見たでしょ、あの時の鳴海の顔、真っ赤だった」

汐莉「あれは・・・嶺二先輩が鳴海先輩の顔を殴りまくったから・・・」

嶺二「あ、ああ。ただ腫れてただけだろ」

明日香「気を使わないで、私はそんなことを信じるほど馬鹿じゃないよ・・・さあ、この話は終わり!早く千春を探しに・・・」


 汐莉が明日香のことをギュッと抱きしめに行く


明日香「(汐莉に抱きしめられて)な、何すんの汐莉・・・やめてよ」

汐莉「(明日香を抱きしめながら)無理しないでくださいよ。無理すると、余計に明日香先輩が傷付いてしまいます・・・」

明日香「(汐莉に抱きしめられて)別に無理してない・・・」

汐莉「(明日香を抱きしめながら)もう・・・本当に先輩は馬鹿ですね・・・無理してるじゃないですか、傷付いてるじゃないですか・・・」

明日香「(汐莉に抱きしめられて)き、傷付いてなんか・・・傷付いてなんか・・・(少しを間を開けて涙がこぼれる)そっか・・・ふられちゃったんだ私」


 大きな声をあげて泣き始める明日香

 汐莉が嶺二にアイコンタクトをする

 嶺二が頷き静かに部室を出る


汐莉「(明日香を抱きしめながら)いいんですよ先輩、いっぱい泣いてください。毒は吐き出しましょうね」


 明日香が汐莉のことを強く抱きしめる


◯234波音高校屋上(夕方)

 千春を探しに屋上まで来た鳴海と菜摘 

 屋上に千春はいない


菜摘「三階と四階は全部周ったのにいないなんて・・・」

鳴海「(腕時計を見ながら)まずいな・・・もう学園祭が終わる・・・人ゴミに紛れて千春が行っちまったら探し出さねえ・・・」

菜摘「一階か二階にいるのかな・・・(スマホを取り出して確認する)明日香ちゃんたちから連絡ないけど・・・」

鳴海「ちくしょう・・・せめて千春が携帯でも持ってたら連絡が取れたかもしれねえっていうのに!」

菜摘「そうだね、お父さんとお母さんに頼めばよかった・・・」

鳴海「待てよ・・・千春と連絡を取るのは無理だけど、こっちから一方的に連絡を伝えることは出来るかもしれないぞ・・・」

菜摘「一方的に?どうやって?」

鳴海「放送室を使って千春を呼び出すんだ。それで千春が現れなかったら・・・学校の外にいるのかもしれない」

菜摘「でもそんなことを勝手にしたら・・・停学になるかも・・・」

鳴海「今更後先考えてもしょうがないだろ、こうなったら最後まで自分のやり方を突き通す、それでまた嶺二から殴られたら反省すればいいさ」

菜摘「鳴海くん・・・向こう見ず過ぎるよ。もう少し先のことを考えないと・・・後で損しちゃうのは鳴海くんなのに・・・」

鳴海「損したくらいで千春が見つかればそれで良くないか?」

菜摘「あんまり同意出来ない・・・」

鳴海「菜摘は気にするな、とりま行ってみようぜ放送室」


 鳴海は走って放送室に向かう

 菜摘は何か言いたげだが、とりあえず鳴海について行く


◯235波音高校放送室(夕方)

 校庭でやっていたお店が見える

 放送機材と備品がある放送室

 椅子に座る鳴海と菜摘

 菜摘が放送室の中にある棚から数冊の書類を取り出し鳴海に渡す

 書類を受け取る鳴海

 放送機材の使用方法と書かれている書類

 

鳴海「(書類を雑にめくって)さてと・・・効果があるか分からないけど先生風に呼び出すか」

菜摘「そんないきなり始めて大丈夫なの!?」

鳴海「(ヘッドホンをつけながら)おう、多分」


 放送機材の電源を入れる鳴海

 軽く咳払いをする鳴海

 全てのフェーダーをマックスにしてマイクもオンにする鳴海

 その瞬間、“キーン”という明らかに放送事故の音が爆音で流れる


◯236波音高校体育館/学園祭のメイン会場客席(夕方)

 ミス&ミスター波音高校コンテストが行なわれている

 その最中にキーンという嫌な音がスピーカーから爆音で流れる

 体育館にいた生徒、一般客、先生方が耳を塞ぐ


潤「(耳を塞ぎながら)なんだこの音!?!?」

すみれ「(耳を塞ぎながら)誰か早く止めて・・・」


 ステージ裏にいた先生たちも混乱している


神谷「(耳を塞ぎながら)誰だ放送してるやつは!!!!!!」

スピーカー「(鳴海の声)うるせえなこれ!!!バグってんのかよこれ!?!?!?」

スピーカー「(菜摘の声)鳴海くん!!!!フェーダーを全部最大値にするのはハウリングを起こすのでやめましょうって書いてあるよ!!!!!」


 スピーカーからキーンという音と共に鳴海と菜摘の声が流れる

 波音高校にいた全ての人が二人の声を聞く


潤「(耳を塞ぎながら)おい!!!!この声!!」

すみれ「(耳を塞ぎながら)間違いない!!!!菜摘と鳴海くんの声!!!!!!」

スピーカー「(鳴海の声)どれを下げればいいんだ!?!?!?」

スピーカー「(菜摘の声)多分これ!!!!!」


 ようやくキーンという音が止まる


風夏「(怒りながら)何をしているんだ鳴海は!」


◯237波音高校放送室(夕方)

 再び咳払いをする鳴海


鳴海「(マイクに口を近づけて)失礼しました。今のは事故です」


◯238波音高校裏庭(夕方)

 裏庭で千春を探している嶺二

 裏庭に千春はいない


嶺二「悪目立ちして鳴海たちは何がしたいんだ・・・」

スピーカー「(鳴海の声)一年の柊木千春さん、一年の柊木千春さん。至急・・・えーっと・・・そうだな・・・お、屋上に来てください!」

嶺二「(感心しながら)おお!!千春ちゃんを呼び出すってことか!!頭良いなあの二人!!」


 走り始める嶺二


嶺二「今屋上に行くぞ!!!!!」


◯239波音高校体育館/学園祭のメイン会場客席(夕方)

 アナウンスを聞いている勇


スピーカー「(鳴海の声)繰り返します。一年の柊木千春さん、柊木千春さん。至急、屋上に来てください!」


◯240波音高校放送室(夕方)

 フェーダーを下げて放送機材の電源を消す鳴海


鳴海「これで放送を聞いてれば千春は屋上に来るぞ」

菜摘「ねえ、鳴海くん」

鳴海「ん?」

菜摘「今屋上って流しちゃったけど、放送を聞いた先生たちも怒り狂って屋上に来るんじゃない?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「それってつまり・・・招かれざる先生たちも屋上にやってくるってこと・・・?」

菜摘「少なくとも放送を聞いていれば・・・」

鳴海「いやいやいや、大丈夫だろ!!だって先生っぽくアナウンスしたぜ?」

菜摘「でも私たち、マイクの電源が入っている状態で大きな声で話しちゃったよ?フェーダーを全部最大値にするなーとか」

鳴海「あっ・・・」


◯241波音高校廊下(夕方)

 放送を聞いた明日香と汐莉

 二人は走っている


明日香「どんだけ馬鹿なのあの二人!!!!!」

汐莉「もう救いようがないですね!!!!!私たちも一発ずつ殴りますか!!!!!」

明日香「一発じゃ足りない!!!!!」

汐莉「ボコボコにしちゃいましょう!!!!!」

明日香「そうね!!!!!汐莉!!ありがとう!!!!!汐莉のおかげで少しだけ元気出た!!!!!」

汐莉「それはよかったです!!!!!」

明日香「きっとまだ引きずると思うけど、考えないことにする!!!!!」

汐莉「あんな男のこと忘れちゃえ!!!!!」

明日香「おー!!!!!って忘れはしないけど!!!!!」


◯242波音高校廊下(夕方)

 走って屋上に向かっている鳴海と菜摘


菜摘「(怒りながら)馬鹿馬鹿!!!!!アホ!!!!!だから言ったじゃん!!!!!もう少し後先考えた方がいいって!!!!!先生が来たらどんするの!!!!!」

鳴海「すまん!!!!!マジで!!!!!」

菜摘「(怒りながら)どうして後のことを考えられないの!!!!!どんな頭してんの!!!!!みんなも怒ると思うよ!!!!!」

鳴海「なんて謝ったらいいのか分からん!!!!!とにかくごめん!!!!!」

菜摘「(怒りながら)また嶺二くんから殴られても知らないからね!!!!!私助けないから!!!!!」

鳴海「ご迷惑かけてすいませんでした!!!!!」


◯243波音高校屋上(夕方)

 夕日が沈みかけている

 先に屋上に着いていた明日香と汐莉


汐莉「千春、来ますかね」

明日香「どうだろ、あんな放送を聞いてくるか怪しい。もう学校はとっくに出たかもしれないし」


 勢いよく屋上の扉が開き、鳴海と菜摘がやってくる


鳴海「(息を切らしながら)ち、千春は・・・!?」

明日香「まだ来てない」

鳴海「(息を切らしながら)そ、そっか・・・」

明日香「てか鳴海、よくもまああんな放送をしたよね」

鳴海「(息を整えながら)ほ、ほんとすいません・・・」

明日香「先生にバレたら全部鳴海のせいだから」

鳴海「(息を整えながら)わ、わかっております」

菜摘「ほら!!怒られたじゃん!!」

鳴海「今後はこういうことがないように気を付けます」

汐莉「びっくりするくらい信用出来ませんね」

鳴海「そ、そんな・・・」


 再び勢いよく扉が開き、嶺二がやってくる


嶺二「(キョロキョロしながら)ち、千春ちゃんは!?!?どこ!?」

明日香「いないよ」

嶺二「屋上に来るんじゃないの!?」

明日香「それは鳴海が一方的に放送して呼び出しただけじゃん」

嶺二「マジかよ・・・また鳴海に騙されたのか・・・」

鳴海「おい!!!俺は今回は騙してねえ!!!そっちの勘違いだろ!!!」

嶺二「不気味だから化け物みたいに腫れ上がった顔でこっち見んな」

鳴海「誰が殴ったんだよ!!!おめえだろうが!!」

嶺二「殴られても仕方ないような嘘をずっとついてたのはどこの誰だ?」

鳴海「だからと言って化け物呼ばわりはひどくね!?」

明日香「実際、化け物みたいな顔だけどね」

汐莉「はっきり言ってグロいっす先輩の顔」

鳴海「先輩に向かってグロいとはなんだ」

嶺二「誰が見ても酷え顔だろ、菜摘ちゃんもそう思わない?」

菜摘「うーん、あんまりいい顔とは言えないかも・・・」

鳴海「そりゃそうだわ!!!傷なんか無い方がいいに決まってる!!!」

千春「でも鳴海さん、男の傷は勲章とかなんとかって言いますよ?スカーフェイスって非現実的でかっこいいと思います」

鳴海「スカーフェイスって響きがかっこいいだけやんか!!千春だって顔に傷なんか・・・」


 鳴海を含めた全員が驚き思わず千春の方を見る


嶺二「千春ちゃん!」

千春「(不思議そうに)皆さんどうしてそんなに驚いているんですか?」

嶺二「急にいなくなったりするから心配したんだぞ!!」

千春「トイレに行くって言ったじゃないですか」

菜摘「千春ちゃん、私たち校内を探し回ったんだよ、トイレにだって行った」

千春「すいません、トイレに行くっていうのは嘘です」

嶺二「どうして嘘なんか・・・」

千春「本当は、あのままお別れするつもりだったんです」

嶺二「なんでだよ!?」

千春「理由は幾つかあります。最近はチラシ配りの調子も良くて、もらってくれる人が増えて来ました。なのでギャラクシーフィールドの客足も伸びてると思います。朗読劇も成功しましたし・・・そういえば・・・記憶も蘇ってきたんです」

鳴海「記憶が・・・」

千春「鳴海さん、言いましたよね?私のことを奇跡の幻影だって。私が思い出した過去は、いつも同じ場所で、いつも同じ時間で、いつも同じことを繰り返していました。私は歳も取りません、当時からずっとこの姿です。そんなのおかしくないですか?」

鳴海「そんなこと・・・あり得ない」

千春「あり得ないから奇跡なんです。もし私が普通の女の子だったら・・・成長して・・・学校に通って・・・友達や仲間が出来て・・・好きな男の子が出来て・・・お付き合いして・・・デートして・・・結婚して・・・子供が出来て・・・ママになって・・・おばあちゃんになって・・・死んじゃって・・・」

嶺二「千春ちゃんだって普通の女の子じゃないか!!!」

千春「どうでしょう、私は小さい頃の嶺二さんも、鳴海さんも、菜摘さんのことも知っています、私と遊んでくれました。もう十年は前のことなのにあの頃から私は何も変わってません。(少し笑いながら)三次元になったってことを例外にしてですけど」

嶺二「俺はそんな馬鹿なこと信じないぞ!!!そんな訳の分からない理由で別れるなんて許さねえ!!!」

千春「嶺二さん・・・どうか分かってください。奇跡には代償が要ります。私はその代償を払ってまでこの世に留まりたいとは思いません」

嶺二「意味わかんねえよ!!!もっとちゃんと説明しろ!!!」

千春「神様って意地悪ですよね・・・出来る事なら、私も無機物ではなく人間の女の子として生まれたかったです」

汐莉「千春!言ってることがよく分からないよ、このまま消えちゃうってことなの?」

千春「ごめんね汐莉、これはそうするべきことなの」

汐莉「(怒りながら)ふざけないで・・・納得出来る理由がないのにはいじゃあねって言って送り出すわけないじゃん・・・」

千春「私は送り出されなくても消える、消えなきゃいけないから」

菜摘「行かないで千春ちゃん!!私たち家族だってさっき話したばっかりなのに・・・」

明日香「みんなが行かないで頼んでるのに、どうして消えようとするの?」

千春「皆さん大袈裟過ぎます、私は本当ならいない者なんですよ?奇跡のかけらを借りて存在しているだけなのに、私が消えても変わることはありません、むしろ元に戻るんです」

嶺二「元に戻す必要なんかねえよ!!!」

鳴海「ああ!嶺二の言う通りだよ!千春・・・ならその奇跡の代償ってやつを俺に払わせてくれ!全て責任は俺にある!!」

千春「代償を払う人はもう決まっています。変えることは出来ないんです」

菜摘「そんなの不公平だよ!!おかしいじゃん!!」

千春「菜摘さん、あなたの心は本当に透き通っていて海のように広いですね。やっぱり私はお二人に拾ってもらってこんなに素敵な仲間に囲まれてとても幸運です。鳴海さん、菜摘さん、私には分かります。お二人はこれからとても過酷な運命を背負うことになるでしょう。決して屈してはいけません、諦めないでください」

菜摘「(困惑しながら)ど、どういう意味?」

千春「支え合ってください、それでは・・・皆さんどうかお元気で」

嶺二「おい!!待ってくれ!!!」


 屋上の扉が開き、有馬勇が屋上にやってくる


鳴海「有馬さん!千春はゲームのキャラクターじゃないですよね?!」

勇「私も・・・何て言ったらいいのか分かりません」

千春「(勇の方を見て)パパ・・・」

勇「私のことを覚えているのかい?」

千春「(勇の方を見て)うん・・・」

勇「今までありがとね。チラシ、見させてもらったよ。とてもよく出来ていた。おかげでお客さんも増えてきてる、本当にありがとう」

千春「(俯いて)パパ、ごめんなさい。私、壊れちゃったの・・・ほんとはね、もっと・・・もっと・・・お客さんと遊んでいたかった」

勇「(手で招きながら)こっちにおいで」


 千春は俯いたまま勇の方へ近づく


勇「(千春の頭を撫でて)えらいね、よく頑張ったね。こちらこそごめんよ、あの時、すぐに修理するお金がなかったんだ・・・時間をかけて、お金を稼いでも、今度はパーツが・・・」

千春「ううん、パパのせいじゃない、私が壊れたのがいけないの・・・」

勇「(千春の頭を撫でて)それでも、私のためにお店の宣伝をしてくれたんだね、でも、もう大丈夫だよ。お店はずっとやり続けることにしたんだ。だから、安心してね」

千春「本当?」

勇「(千春の頭を撫でて)本当だよ」

千春「よかった・・・ありがとう・・・パパ・・・さようなら」


 千春の姿は忽然と消える


鳴海「(困惑しながら)き、消えた・・・?」

嶺二「(困惑しながら)千春ちゃんはどこに行ったんだよ!?」

勇「あの子は・・・行ってしまいました」

嶺二「(怒りながら)ふざけんな、こんな別れ許さないからな、俺は絶対に認めねえ!!!」


 屋上の扉が開く、神谷が屋上にやってくる


神谷「お前らやっぱりここにいたのか、話があるからついて来い」

明日香「神谷先生、私たち今ちょっと取り込み中で・・・」

神谷「(明日香の方を見て)取り込み中だと?いつからお前はそんなことを言えるくらい偉くなった?」


 黙り込む明日香


神谷「(勇の方へ近づき)あなたがどこの誰なのか知りませんが、屋上は立ち入り禁止なんですよ、扉に貼り紙がありましたよね?見ましたか?」

勇「え、ええ・・・」

神谷「(勇に詰め寄り)生徒も然り、勝手なことをされたら困るんです」

勇「す、すいません」

神谷「(勇に詰め寄ったまま)あなたの存在が生徒に悪影響を与えたらどうするんですか?責任取ってもらえます?」

勇「も、申し訳ない」

神谷「(鳴海たちを睨みつけて)来なさい」


◯243波音高校生徒相談室/通称説教部屋(夜)

 日は沈んでいる

 神谷がソファに座っている

 大きなテーブルには文芸部員の生徒一人一人の資料が散らかっている

 文芸部員はみんな立っている


神谷「俺は今から意地の悪い質問をする、質問に対して質問を投げ返すのは無しだ。受け答えははっきりと、大きな声で答えること。いいね?」


 頷く菜摘、明日香、汐莉

 鳴海と嶺二は特にリアクションしない


神谷「(怒鳴り声で)返事がねえぞ!!!」

鳴海・菜摘・明日香・嶺二・汐莉「はい!!!」

神谷「待て待て、お前らは俺をなんだと思ってる?俺はなんだ?汐莉、分かるか?」

汐莉「せ、先生です」

神谷「えっ?なんだって?」

汐莉「(大きな声で)先生です!」

神谷「そうそう、やっと聞こえる声になったな。さすが軽音楽部。今、職員室ではお前らの話題で持ちきりだ。嶺二、なんでだと思う?」

嶺二「分かりません」

神谷「分からないのか?本当に分からないのか?」

嶺二「分かりません」

神谷「あー、嶺二馬鹿だもんなー。分かるわけないか、ごめんごめん。違うやつに質問するわ。菜摘、お前なら分かるか?ヒントは・・・文芸部に関係していることだ」

菜摘「(怖がりながら小さな声で)わ、分かりません・・・」

神谷「聞こえねえよ」

菜摘「(大きな声で)分かりません!」

神谷「(テーブルを思いっきり叩き怒鳴り声で)大人を舐めんじゃねえ!!!!!」


 テーブルを叩いた音でビクッとする文芸部員たち


神谷「お前ら示し合わせて知らんって答えれば突き通せると思ってんのか。確かに俺は完璧な教師ではない、そんなことは知っている。だが、俺はお前らに何かしたか?お前らの恨みを買うようなことをしたか?だからと言ってわざわざ学校に迷惑をかけるなよ、面倒ごとを起こすなよ。今日の学園祭には市長も観覧に来ていたんだぞ!(少し間を開けて)なぁ明日香、お前はもっと真面目な奴だった、これは俺の間違えた認識なのか?お前なら馬鹿なことをするやつを止めるだろ?」

明日香「(落ち着いた声で)止めます」

神谷「それは嘘か?」

明日香「(落ち着いた声で)嘘じゃありません」

神谷「(怒鳴り声で)なんで止めなかったんだよ!!!!!」

明日香「(びっくりして)わ、わかりません!」


 少しの沈黙が流れる

 神谷はテーブルにあった資料をみんなに見せつける


神谷「不思議なことに一人の生徒の資料が足りない、鳴海、その生徒は誰だ?」

鳴海「柊木千春です」

神谷「変だよな?この資料は生徒一人一人に必ずあるものなんだよ。だけど千春の分だけない。学校のミスか?だとしたら大問題だ、幸いミスはなかった。良かった良かった。そこで浮上するのが柊木クソ千春は一体全体誰なんだってことだ」


 嶺二が拳を強く握りしめる

 明日香が嶺二の背中を叩く

 嶺二は拳を解く


神谷「他の先生、全員に聞き回っても誰も知らないらしい。部長、教えてくれるかな、千春は今どこにいる?」

菜摘「(怯えながら)わ、わかりません」

神谷「(怒鳴り声で)本当のことを言え!!!!!」

菜摘「(半泣きで)ほ、ほんとうに分からないんです!!」

神谷「(怒鳴り声で)本当のことを言え!!!!!お前が部長だろ!!!!!責任取れ!!!!!!」

菜摘「(泣きながら)わ、分からないんです!!!し、信じてください!!!!!」


 神谷は菜摘が殴ろうとする

 鳴海は反射的に神谷の手を止める


鳴海「(神谷の腕を掴みながら)女生徒を殴る気ですか?」


 腕を引っ込める神谷


神谷「鳴海はかっこいいねえ、女子は俺が守るってか?」

鳴海「先生が菜摘を殴ってもその傷はすぐ治ります、けど殴った側の先生は一生傷を負いますよ」

神谷「脅してるつもりかよ」

鳴海「いや、違います、忠告です。俺たちは殴ろうとしたあなたのことを見た」


 菜摘は涙を吹く

 少しの沈黙が流れる


神谷「悪ふざけのつもりか?」

鳴海「千春は俺の親戚です、と言ってもかなり遠い親戚ですけど・・・部員の頭数を揃えるために誘いました。全部俺のアイデアです。因みに嶺二に殴られた理由は千春のことについて揉めたからです。俺以外はみんな千春を入れない方がいいって反対してたんで」

神谷「俺は今、お前の自白を聞いたぞ」

鳴海「そうですか」

神谷「校長や教頭先生はお前ら全員に二週間の停学処分を求めるそうだ、びっくりするくらいたくさん理由があるからよく聞けよ。全く関係のない子供を本校に約二ヶ月間弱忍び込ませ、挙げ句の果てに教員(顧問の俺)を騙す、学園祭中に暴力沙汰の騒ぎを起こす、学園祭中に勝手に屋上に忍び込む、同日放送室に忍び込みあろうことか許可なく勝手に放送を行う、朗読劇に盗作疑惑がある、貴志鳴海、白石嶺二の二名は普段から素行が悪く全く反省をしないなどなど」

鳴海「待ってください先生、全部俺が始めたことです。みんなを巻き込む必要はない」

神谷「お前一人が全部の罪をおっ被るって言いたいのか?連帯責任って言葉があるだろ。こういうのは仲良くみんなで反省するのが筋だ」

鳴海「いや、俺一人で十分だと思います」

神谷「お前に十分かどうか決める権利はない」

鳴海「俺が一ヶ月停学になります」


 驚いて鳴海の方を見る文芸部員


神谷「そうか・・・」


 神谷は立ち上がり生徒相談室を出る


明日香「鳴海、自分が何を言ったのか分かってるの・・・」

鳴海「分かってるよそんなこと」

明日香「みんなで二週間停学になればいいのに、なんであんた一人が・・・」

鳴海「いやだって二週間でも停学になったら今後の進路にも影響するだろ、大学とか行けなくなるかもしれん。俺や嶺二はともかく、明日香、菜摘、南の将来まで棒に振ることはない」

明日香「だからと言って鳴海一人が一ヶ月停学なんて納得出来ない」

鳴海「そう言うならテスト前に勉強を教えてくれ、あと提出物を丸写しさせてくれ」


 明日香は黙って何も答えない


鳴海「そういや明日香さ、学園祭が終わったら話があるって言ってたけど何の話?」

明日香「な、何でもない・・・もう話さなくていいこと」

鳴海「あー、なるほど?」


 神谷が生徒相談室に戻ってくる

 神谷は大量のプリントをテーブルの上に置く


神谷「鳴海、お前は明日から学校に来るな。望み通り一ヶ月の停学で他の先生たちは許してくれるそうだ。一度でも学校の敷地に足を踏み入れたら退学になるぞ。家にいる間はこのプリントを全部やれ、やらなかったら退学にする」

鳴海「分かりました」

神谷「文芸部の活動は一ヶ月休止。明日の朗読劇も中止、学園祭も参加するな」

菜摘「(酷く落ち込み小さな声で)はい・・・」

神谷「それから、放課後は毎日補習に参加してもらう。最低一ヶ月、鳴海が戻ってくるまでは毎日補習。(嶺二の方を見て)サボることは絶対に許さん。サボったら退学だ」

汐莉「(恐る恐る)あの・・・私は軽音楽部には出ない方が・・・いいですよね・・・」

神谷「出たいなら出てもいいぞ、ただし補習に参加しなければ退学だけどな」

汐莉「はい・・・」

神谷「今日はもう帰れ、詳しいことはまた後日一人一人呼び出して聞くからな」

鳴海「神谷先生」

神谷「なんだ」

鳴海「朗読劇に盗作疑惑があるって言いましたよね?」

神谷「それがどうした」

鳴海「もう少し詳しい話を教えてもらえませんか」

神谷「なんかのゲームと話が酷似してるらしい、お客さんから集計したアンケート用紙にもそんなことが書いてあった」

鳴海「そのゲームのタイトルって・・・」

神谷「知らん、アンケートなんかちゃんと読む暇なかったからな。いいから早く帰れ、早く帰らないと二ヶ月停学になるぞ」


 渋々鳴海はテーブルに置いてあった大量のプリントを両手で抱え、生徒相談室を出る

 鳴海についていく他の部員たち


◯244帰路(夜)

 一緒に帰っている文芸部員一同

 

汐莉「千春って・・・結局・・・」

鳴海「なんだったんだろうな」

汐莉「現実には存在してなくて・・・その・・・ゲームの中の・・・」

嶺二「違う!!!千春ちゃんは存在している、今だってどっかにいるはずだ!俺は探し続けてやる、絶対に諦めない・・・!!」

汐莉「先輩・・・」

菜津「私も・・・あれが最後だったって思いたくない、もう一度会いたい」

明日香「みんなそう・・・私だって、まだ状況が飲み込めてない・・・」


◯245貴志家リビング(夜)

 帰宅した鳴海

 家には姉の風夏がいる

 風夏はリビングの椅子に座っている


鳴海「姉貴、帰ってきたのか。明日は仕事とか・・・」

風夏「さっき学校から電話があった、一ヶ月の停学処分になったって」

鳴海「(舌打ちをする)チッ・・・(小声でボソッと)電話を入れやがったのか・・・めんどくせえ・・・姉貴、これにはいろいろ事情があって・・・」

風夏「事情?何それ。言ったよね、問題は起こすなって・・・その顔の傷も誰かと喧嘩したんでしょ」

鳴海「ごめん、これはわざとじゃなくて・・・」

風夏「一ヶ月の停学って・・・テストは?出席日数は?進路は?どうするつもり?」

鳴海「わからない・・・で、でも、多分テスト前には停学解除になるよ。停学は一ヶ月間だけだし・・・」

風夏「一ヶ月間も学校行かないんだよ!?普通の生徒は学校に行ってるんだよ!?鳴海だけ行かないんだよ!?」

鳴海「分かってるってそんなこと・・・母親みたいに口うるさく言うのはやめてくれ」

風夏「(大きな声で)分かってない!!あなたにとって私は邪魔なだけかもしれない・・・会話する時だって目すら合わせてくれない・・・それは鳴海が、私の顔を見てママとパパのことを思い出すのが嫌だから・・・それでも私は鳴海のことが心配なんだよ・・・大事な弟だから・・・鳴海は自分のことなんかどうでもいいって思ってるかもしれない、退学になってもいいのかもしれない、でも忘れないでほしい、あなたのことを大切に思ってる人がいるってことを・・・」

鳴海「それなら俺を放っておいてほしい」

風夏「あなたには母親の代わりが必要なの、じゃなきゃ鳴海はドロップアウトしてしまう・・・」

鳴海「なんで俺だけなんだよ、姉貴だって同じだろ。俺は死んだ母親を姉貴に求めちゃいねえ、無理して母親の代わりになろうとするな、そんなことされても息苦しくのなるのは俺だ」


 鳴海は自分の部屋に行く

 風夏は鳴海のことを追いかけない


◯246波音総合病院/一条智秋の個室(夜)

 学園祭が終わり、病院に戻ってきた一条智秋と妹の雪音

 智秋は病室で横になっている

 雪音は座っている


智秋「久しぶりにすごく楽しかった、今日はありがとう」

雪音「ううん、楽しんでくれて良かった。お姉ちゃん、疲れたでしょ?」

智秋「ちょっとだけね、でも元気だよ」

雪音「夜更かししちゃいけないよ、早く寝てね」

智秋「雪音もね、遅くまでスマホ見てちゃダメだよ?」

雪音「お姉ちゃんと違って、ちゃんと早く寝まーす」

智秋「私も早く寝るよ!九時には就寝なんだから!」


 雪音が智秋の掛け布団を整える


雪音「じゃあ・・・私行くね」

智秋「うん、気をつけて帰りなよ」

雪音「また来るからね、お姉ちゃん」

智秋「待ってる」

雪音「(立ち上がり)おやすみなさい」

智秋「おやすみ」


◯247白石家嶺二の部屋(夜)

 嶺二は大きなリュックサックに着替えやお金を詰め込んでいる

 嶺二は財布の中に入れてあった千春と撮ったプリクラの写真を取り出す

 嶺二は写真を見ている


嶺二「(声 モノローグ)まだだ、まだ終わるもんか・・・もう一度会いたいんだ・・・俺は探しに行くよ、千春ちゃん・・・」


 嶺二のスマホの着信が鳴る


◯248貴志家鳴海の部屋(夜)

 電気をつけずベッドで横になっている鳴海

 カーテンから漏れる月明かり

 スマホの着信が鳴る

 菜摘からの電話

 鳴海は電話に出る


菜摘「(電話の声)もしもし鳴海くん!!」

鳴海「どうしたそんなでかい声で」

菜摘「(電話の声)今家に千春ちゃんがきてるの!!!」

鳴海「千春が!?!?」

千春「(電話の奥から聞こえる声)菜摘さん!!今こそ勇敢な戦士を集めて!!私は先に行きます!!!」

菜摘「(電話の声)千春ちゃんもう少し待って!!今鳴海くんに電話を・・・お父さん車!!!」

鳴海「菜摘!何が起きてるんだ!?」

潤「(電話の奥から聞こえる声)車!?今から!?」

菜摘「(電話の声)早く!!急いで!!」

潤「(電話の奥から聞こえる声)わ、分かった!!ふぁるこんの出番だぜ!!!」

菜摘「(電話の声)悪霊が出たんだって!!私たちも戦いに行かないと!!!」

鳴海「あ、悪霊!?闘う!?」

菜摘「(電話の声)武器を持って波音駅の前集合!!!」

鳴海「えっ!?今!?つか武器って・・・」

菜摘「(電話の声)いいから急いで!!!!!みんなには連絡したから!!!!!」


 電話が切れる

 鳴海がスマホを耳から離す


鳴海「な、なんだ今の電話・・・?と、とりあえず武器を・・・!!!」


 鳴海はスマホをポケットに入れ急いで自室を出る


◯249貴志家キッチン(夜)

 風夏が料理をしている

 ドタバタとキッチンに来た鳴海


鳴海「姉貴!!フライパンとチャリキー貸してくれ!!!」

風夏「自転車の鍵はいいけどフライパンなんか何に使うの?」


 キッチンを漁っている鳴海

 フライパンを手に取る鳴海


鳴海「(フライパンを手に持ちながら)ちょっと出かけてくる!」

風夏「どこ行くの?」

鳴海「(フライパンを手に持って)駅!!!」

風夏「フライパンを持って駅・・・?」


◯250貴志家前(夜)

 家の横に駐輪してある自転車

 自転車の鍵を外す鳴海

 自転車の籠にフライパンを放りこむ鳴海

 自転車のライトをつけ全力で漕ぎ始める鳴海


◯251波音駅前(夜)

 波音駅の前で違法駐車している潤

 鳴海は駅前で自転車を停める

 フライパンを持ち走って潤の車、レクサスに乗り込む鳴海


◯252レクサス車内(夜)

 車の中にはすでに嶺二、明日香、汐莉がいる


嶺二「遅えぞ鳴海!!」

鳴海「す、すまん!!」


 鳴海は急いでシートベルトをつける


菜摘「お父さん出して!!」

潤「(アクセルを思いっきり踏み込み)みんな捕まってろよ!!!!!」


 レクサスが急発進する


鳴海「(混乱しながら)せ、説明してくれ・・・これはどういうことなんだ・・・?」

菜摘「悪霊が出たの」

鳴海「(混乱しながら)あ、悪霊とは・・・」


 菜摘が車のラジオをつける


ラジオ「(ニュースキャスターの声)一人の少女が波音総合病院にいる悪霊と戦っています!!!」

菜摘「お父さん、目的地は病院!!」

潤「あいよ!!」

鳴海「あ、悪霊ってもしかして・・・!!」

明日香「鳴海、朗読劇の台本を思い出して。あれと同じ」

鳴海「お、同じってあれは創作物だろ!」

汐莉「頭が硬いですよ先輩!!!私たちは千春ちゃんに選ばれた戦士なんですよ!!!」

鳴海「(混乱しながら)せ、戦士!?」

嶺二「千春ちゃんを助けて世界を平和にするんだ!!」

鳴海「(混乱しながら)ち、千春を助けて世界を平和に?!てかなんで病院!?」

菜摘「きっと病院にはたくさんの人がいる・・・助けなきゃ!鳴海くん!これは世界を救うためなんだよ!!お父さん、もっとスピード出して!!!!!」

潤「了解!!ふぁるこんの本気を見せてやる!!!」


 車の速度は百キロを超えている


◯253波音総合病院の一階(夜)

 薄暗い病院

 病院の中に入った鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、潤

 それぞれ武器を持っている

 どこに悪霊がいるかわからない

 時々謎の呻き声が聞こえる


嶺二「二組に分かれて行動しよう、まだ生存者がいるはずだ、助けないと」

菜摘「了解、こっちは私とお父さんと鳴海くんの三人で行くよ」

嶺二「分かった、気を付けて」

菜摘「(頷き)お互いにね」


 頷く嶺二


◯254波音総合病院廊下(夜)

 不気味な病院の廊下

 電気がチカチカと点いたり消えたりしている

 ゆっくり廊下を見て回っている鳴海、菜摘、潤


鳴海「(フライパンを構えながら)う、薄気味悪いな・・・夜の病院は・・・」

潤「(日本刀を構えながら)ビビってんじゃねえ、男だろうが」

菜摘「(日本刀を構えながら)大丈夫だよ鳴海くん、悪霊が出てきてもすぐに一刀両断するから」

鳴海「(フライパンを構えながら)た、頼もしいな・・・てかなんであんたら親子は日本刀なんか持ってんだ・・・」

潤「(日本刀を構えながら)やっぱ日本刀はかっこいいだろ」

菜摘「(日本刀を構えながら)だよねだよね!」

鳴海「(フライパンを構えながら)かっこいいけどさ・・・普通家に日本刀なんかないと思うんだけど・・・」

潤「(日本刀を構えながら)家?武器屋で買うんだろ」

菜摘「(日本刀を構えながら)それか悪霊が落としたやつを拾わなきゃ、鳴海くん、フライパンなんか役に立たないと思うよ?」

鳴海「(フライパンを構えながら)ないだけマシだ」


 急に立ち止まる潤


菜摘「(日本刀を構えながら)どうしたのお父さん!」

鳴海「(フライパンを構えながら)あ、悪霊が出たのか!?」

潤「(日本刀を鳴海に差し出して)これ持ってろ」

鳴海「(日本刀を受け取り)お、おう・・・なんかあったのか・・・?」

潤「いや、普通に小便行ってくるわ」

鳴海「トイレ行くだけかよ!!!!!」

菜摘「もうお父さん!緊張感なさ過ぎ!」

潤「すまんすまん」


 潤は男子トイレに行く

 鳴海はフライパンと日本刀を素振りしている


菜摘「(日本刀を構えるのをやめて)鳴海くん、今日はありがとう」

鳴海「(フライパンと日本刀を振り回すのをやめて)ん?何が?」

菜摘「神谷先生が私を叩こうとした時、助けてくれたよね」

鳴海「そんな礼を言われるようなことじゃないって、女生徒を殴る教師とかあり得ねえだろ」

菜摘「ありがとう」

鳴海「気にすんな」

菜摘「停学のことも・・・鳴海くんが一人で一か月なんておかしいよ・・・私も停学になるべき」

鳴海「そんなことねえよ、今回の件は全部俺が悪いんだ。むしろ一ヶ月で済んで良かったよ。神谷の怒り方的に退学になるかと思ったぜ」

菜摘「怖かったよね・・・あんな風に学校の先生から怒られたことない・・・」

鳴海「あいつキレたらめんどくせえよな、情緒がおかしいんだ。怒鳴ったり、静かに怒ったり、物に当たったり・・・朗読劇が出来ないのが残念だけど、みんなの進路は守ったぜ」

菜摘「(俯きながら)ね、ねえ鳴海くん・・・」

鳴海「ん?」

菜摘「(俯きながら)きょ、今日の・・・う、裏庭の・・・話なんだけどね・・・わ、わ、私も、い、言いたいことがあって・・・」

潤「(悲鳴)うああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 潤の悲鳴が病院中に響き渡る


菜摘「(日本刀を構えて)お、お父さん!?」

鳴海「俺が見てくる!菜摘はそこで待ってろ!」


 鳴海は男子トイレに駆け込む


◯255波音総合病院男子トイレ(夜)

 男子トイレに潤の姿はない

 個室を一つ一つ開けていく鳴海


鳴海「おいおっちゃん、冗談でやってるなら早く出てきてくれ。悪霊と間違えて日本刀で斬っちまうぞ」


 掃除用のロッカーを開ける鳴海


鳴海「どこに行ったんだ・・・?出てこないならおっちゃんが丸の内のOLと不倫してるってすみれさんに吹き込むぞ!!」


 潤の声はおろか気配すらない男子トイレ

 

◯256波音総合病院廊下(夜)

 廊下に出る鳴海


鳴海「おっちゃんがいねえ」

菜摘「そんな・・・もしかして悪霊が・・・」

鳴海「争った後もなかったぞ、窓から逃げたとも思えないし・・・」

菜摘「(指を差して小声で)鳴海くん・・・あれ・・・」


 指を差した方を見る鳴海


鳴海「(小声で)くそっ・・・気付かれたらやばいぞ・・・」


 菜摘が指差した方にはゾンビのような見た目の悪霊がたくさんいる

 悪霊たちはまだ鳴海と菜摘に気づいてない


菜摘「(小声で)ど、どうする?闘う?」

鳴海「(小声で)ダメだ、数が多すぎる・・・」

菜摘「(小声で)走って行けるところまで逃げるしかないね・・・」

鳴海「(小声で)ああ・・・三秒数えたら全力で走ろう」


 頷く菜摘


鳴海「いくぞ・・・一・・・二・・・三・・・走れ!!!」


 鳴海と菜摘は全速力で廊下を走る

 鳴海と菜摘が走ると、その音で悪霊たちが気付き追いかけてくる

 

◯257波音総合病院廊下(夜)

 全速力で走っている鳴海と菜摘

 走りながらフライパンを投げ捨てる鳴海


鳴海「やばいやばいやばい!!!どんどんくるぞ!!!」

菜摘「追いつかれる!!!!!」

鳴海「(指を差して)あの部屋だ!!!!!あの部屋に入るぞ!!!!!」

菜摘「分かった!!!!!」


 病室に向かう鳴海と菜摘


◯258波音総合病院廊下(夜)

 金属バットを持ちながら一人で廊下を彷徨ってる嶺二


嶺二「明日香も汐莉ちゃんもどこ行きやがった・・・千春ちゃんも見つかんねーし・・・さっきから同じ場所ばっかりうろついてる気がするし・・・明日香ー!!汐莉ちゃーん!!千春ちゃ・・・」


 嶺二は突然口を覆われ声を出せなくなる

 ジタバタする嶺二

 嶺二は病院の階段の隅に連れて行かれる

 嶺二の口元から覆われていたものが取れる


嶺二「何すんだいき・・・千春ちゃん!!!」


 嶺二の口を押さえていたのは千春

 千春は嶺二に買ってもらった服を着ている


千春「嶺二さん、大きな声を上げてはいけません。悪霊たちに気付かれてしまいます」

嶺二「千春ちゃん・・・良かった・・・もう会えないかと・・・」

千春「私はいつだって“この世界”にいますよ」

嶺二「そ、そうだよな!居なくなるわけないよな・・・」

千春「それより嶺二さん、私と一緒に戦ってください!」

嶺二「悪霊か?」

千春「ええ、悪霊の親玉を倒さなければ、世界は平和になりません」

嶺二「よし、俺も力を貸すぞ!!」

千春「(階段にある窓を覗きながら)見てください、あそこにいるやつです」

嶺二「(階段にある窓を覗く)なんだあれ・・・巨人じゃねーか!!!」


 窓の外には10mくらいの大きな人型の影のように真っ黒な悪霊が歩いている


千春「(階段にある窓を覗きながら)やつを倒す必要があります」

嶺二「(階段にある窓を覗きながら)あんなでけえやつにどう攻撃をすれば・・・」

千春「(階段にある窓を覗きながら)私が奴の気を引きます、嶺二さんはその間に遠距離から攻撃してください」

嶺二「あいつにロケット花火をぶつけてやろう」

千春「お願いします!」


◯259波音総合病院屋上(夜)

 嶺二とはぐれて屋上に来てしまった明日香と汐莉

 月は雲に隠れている


汐莉「明日香先輩・・・方向音痴過ぎますよ!!こんなところに嶺二先輩も千春もいないでしょ!!」

明日香「ご、ごめん・・・あっ、ほら、暗くてよく分からなかったじゃん?迷って当然だよ」

汐莉「当然じゃありませんから!あと暗さのせいにしないでください!!」

明日香「ごめんごめん、怒らないでよ」

汐莉「適当に進むのは困ります」

明日香「次は汐莉が道案内してね」

汐莉「言われなくてもそうします」


 大きな生き物が歩いてるような地響きが聞こえる


明日香「さっきから思ってたんだけどこの音なんだろ」

汐莉「(辺りをキョロキョロを見ながら)ドシンドシンってかなり響いてますよね

明日香「(指を差して)あっ!!あれ!!!」


 明日香が指差した方向に巨大な悪霊が歩いている


汐莉「(明日香が指差した方向を見て)デカっ!!!」


 大きな悪霊からアリの軍団にようにワラワラと普通サイズの悪霊が一斉に出てきて明日香と汐莉の方に向かってくる


汐莉「あっ・・・しまった。めっちゃ来る」

明日香「(汐莉の手を持って)ボケっとしてないで逃げるよ!!!」


 屋上から走って逃げる明日香と汐莉


明日香「気付かれたじゃない!!!」

汐莉「だってびっくりするじゃないですかあんな大きさ!!!」

明日香「もういいから一番下に行こ!!!」

汐莉「先輩が方向音痴だから屋上にいるんですよ!!!!!」

明日香「だからごめんって!!!」


◯260波音総合病院病室(夜)

 たくさんの悪霊から隠れるために病室に逃げ込んだ鳴海と菜摘

 悪霊たちは鳴海と菜摘が逃げたことに気付かず通り過ぎる

 暗い病室

 何があるのかはよく見えない


鳴海「(息を切らしながら)はぁ・・・はぁ・・・とんだ災難だな今日は・・・」

菜摘「(息を切らしながら)はぁ・・・はぁ・・・ほ、ほんと・・・厄日だよ・・・」

女「そ、そこにいるのだれ!?」


 女が病室のベッドの後ろに隠れている

 菜摘が瞬時に日本刀を構える


鳴海「(ベッドの方を見ながら)い、一条か!?」


 ベッドの後ろから一条雪音が出てくる


雪音「だ、だれなの?」

菜摘「待って、ライト出す」


 菜摘はリュックからペンライトを取り出し雪音の方を照らす

 眩しそうに手で顔を覆う雪音


雪音「き、貴志くんと・・・早乙女さん?」


 頷く菜摘


鳴海「なんで一条はこんなにところにいるんだ?」

雪音「わ、私は・・・学園祭が終わって、姉を病院に・・・」

菜摘「お姉さんって・・・もしかして・・・車椅子の・・・?」

雪音「う、うん」

鳴海「じゃあ一条のお姉さんって俺の姉貴の・・・」

雪音「風夏さんと私のお姉ちゃんは高校からの友達だよ」

鳴海「そうだったのか・・・」

菜摘「お姉さんは今どこに?」

雪音「わ、分からない・・・お姉ちゃんの病室を出たら、病院が暗くなってて・・・ゾンビみたいな人がいっぱいいて・・・走って逃げて・・・ここにずっと隠れてる」


 顔を見合わせる鳴海と菜摘


鳴海「どうする?」

菜摘「とりあえず車に避難した方が・・・」

雪音「その前にお姉ちゃんを探さないと・・・!」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「しゃあねえ、探しに行くか!」

菜摘「今の私たちには奇跡が味方してるからね!!!」

鳴海「こんだけ災厄が起きてるのに死んでねえならそりゃ奇跡だわ!」

菜摘「(雪音に手を差し出して)行こう雪音ちゃん!」


 菜摘の手を取る雪音

 

◯261波音総合病院外(夜)

 千春が剣を使い巨大な悪霊の足を切りつけている

 攻撃は悪霊に効いていない

 嶺二は悪霊からかなり離れたところにいる


嶺二「(ロケット花火に火を点けようとしながら)千春ちゃん!!!!!」

千春「はい!!!!!」


 千春は嶺二がロケット花火を準備していることに気づき、悪霊から離れる


嶺二「地獄で会おうぜナイトメア野郎!!!!!」


 ロケット花火が着火し一気に何十本もの花火が悪霊に向かって飛んでいく

 ロケット花火が悪霊の顔に直撃する

 よろめく悪霊

 一気に周囲が煙たくなる

 

嶺二「よっしゃあ!!さすがにくたばっただろ!!!」


 煙を吸い咳き込んでいる千春


嶺二「(千春に駆け寄り)千春ちゃん!!怪我は?」

千春「けほっ・・・けほっ・・・大丈夫です、嶺二さんは?」

嶺二「平気、あいつもこんだけ花火をくらえばさすがに・・・」


 悪霊は何ともなさそうに動き始め、嶺二と千春の方へ迫ってくる


嶺二「効いてねえっていうのかよ・・・」

千春「今の攻撃を・・・(剣を構えて)あと百回くらいやるしかありませんね・・・」

嶺二「な、何回もやれってことかよ・・・」


◯262波音総合病院医療器具倉庫(夜)

 いつの間にか病院の倉庫に逃げていた明日香と汐莉

 ダンボールがいっぱいある倉庫


汐莉「(息を切らしながら)はぁ・・・はぁ・・・何とか・・・撒いたようですね・・・」

明日香「(息を切らしながら)はぁ・・・はぁ・・・ここは一体・・・何の場所・・・?」

汐莉「(息を切らしながら)はぁ・・・はぁ・・・そんなこと・・・知りませんよ・・・」

明日香「(息を整えて)なんか・・倉庫みたいな・・・」

汐莉「(息を切らしながら)はぁ・・・はぁ・・・武器とか・・・あるかもしれないです・・・」

明日香「ただの病院だよ?ゲームじゃないんだから武器なんか・・・」

汐莉「(息を整えて)先輩・・・この世界は・・・」


◯263波音総合病院廊下(夜)

 病院の廊下で悪霊たちと遭遇した鳴海と菜摘

 雪音は悪霊から隠れている

 背中合わせをして互いを守り合う鳴海と菜摘


菜摘「(日本刀を構えながら)雪音ちゃん、隠れてて!」

雪音「う、うん!二人とも気をつけて!」

鳴海「(日本刀を構えながら)菜摘、後ろは頼むぞ」

菜摘「(日本刀を構えながら)鳴海くんも、私の後ろを守ってね!」

鳴海「(日本刀を構えながら)おう、任せとけ」


 悪霊たちが鳴海と菜摘を襲いにかかる

 鳴海と菜摘は日本刀で応戦する


鳴海「(戦いながら)数が多いな!」

菜摘「(戦いながら)他のみんなもきっと戦ってる!!私たちも負けてられないよ!!」


 菜摘が悪霊を切りつけると、黒いモヤモヤのようなものが取れて中から病院の看護師らしき人が倒れ出てくる


菜摘「(戦いながら)悪霊から人が!!」

鳴海「(戦いながら)人に取り憑いてるってことは・・・一条のお姉さんも!!」

菜摘「(戦いながら)そういうことだね!!雪音ちゃん!!私たちが援護するからこっちに!!」

雪音「分かった!!」


 雪音が動くと悪霊は雪音を襲おうとする

 鳴海と菜摘は雪音を援護する


鳴海「(戦いながら)いなくなった人はみんな悪霊になってんのか!!」

菜摘「(戦いながら)私たちが助けなきゃ!!」


◯264波音総合病院医療器具倉庫(夜)

 医療器具から役に立ちそうな武器がないか探している明日香と汐莉


明日香「メスとかバールのようなものはあるけど・・・ちょっと地味ね」

汐莉「おおっ!!これは・・・!!!」

明日香「なんかあったの?」

汐莉「(手術用の電動ドリルを取り出して見せながら)これ役に立ちますよ!!」

明日香「ずいぶん物騒なものを取り出してきたね・・・」


 電動ドリルにバッテリーを付ける汐莉

 電源を入れると電動ドリルが回る


汐莉「(電動ドリルを持ちながら)見てくださいよ!!殺傷能力高いですよ!!!」

明日香「(若干引きながら)そ、そうね・・・」

汐莉「(電動ドリルを差し出して)これ、明日香先輩使ってください!」

明日香「えっ?!」

汐莉「(電動ドリルを差し出しながら)このドリルを明日香先輩の投てき能力ででかい奴にぶつけましょう!!!」

明日香「電源オンの状態で投げられるのそれ」


 左ポケットから養生テープを取り出す汐莉


明日香「いつの間にテープを・・・」

汐莉「(電動ドリルを差し出しながら)テープを巻けば常に電源をオンにすることが可能ですよ!!」

明日香「(電動ドリルを受け取り)こんなのコントロール効くのかな・・・」

汐莉「先輩ならいけます!!!」

明日香「やってみるしかないっていうのね・・・」


◯265波音総合病院廊下(夜)

 雪音を守りながら悪霊を次々に倒していく鳴海と菜摘

 悪霊を倒すと中から人が出てくる

 鳴海、菜摘、雪音が通った廊下は悪霊に取り憑かれていた人がいっぱい倒れている


◯266波音総合病院(夜)

 千春が剣を使い巨大な悪霊の足を切りつけている

 攻撃は悪霊に効いていない

 嶺二は悪霊からかなり離れたところにいる


嶺二「(ロケット花火に火を点けようとしながら)千春ちゃん!!!もう一度だ!!!」

千春「分かりました!!!!!」


 千春は嶺二がロケット花火を準備していることに気づき、悪霊から離れる


嶺二「くらえ!!!」


 ロケット花火が着火し一気に何十本もの花火が悪霊に向かって飛んでいく

 悪霊は飛んできたロケット花火を右手で掴む

 悪霊はロケット花火を嶺二と千春の方へ投げ返そうとする

 嶺二と千春は反射的に顔を守ろうとする


明日香「ウスノロ!!!!!」


 病院の玄関を出たところに明日香がいる


嶺二「明日香!?」


 養生テープで電源がオンになった状態の電動ドリルを悪霊に向かって思いっきり投げる明日香

 電動ドリルは悪霊の顔に向かって飛んで行く

 悪霊は左腕で顔を守ろうとする

 電動ドリルは悪霊の左腕に刺さり切り落とす

 地面にドサリと落ちる悪霊の左腕

 悪霊の右手が持っていたロケット花火が勢いよく破裂音をあげる

 悶える悪霊


千春「明日香さん!!!汐莉!!!」

明日香「(駆け寄り)待たせてごめん千春!!」

汐莉「(駆け寄り)ギリギリのタイミングだったけど間に合って良かった!」

千春「お二人が駆け付けてくれて助かりました!!」

汐莉「遅れてごめんね、(明日香の方を見て)先輩のせいですよ!方向音痴過ぎます!!」

明日香「複雑な構造をしてるんだからしょうがないじゃん!!」

汐莉「むやみやたらに進むからです!!」

明日香「普通急ぐでしょ!!!悪霊が迫ってるんだもん!!!」

千春「まあまあ落ち着いてください、私はお二人が来てくれてとても嬉しいです」

汐莉「私たち仲間なんだよ?来るに決まってる」

明日香「早く世界を救っちゃいましょ!!」


 少し離れた場所にいた嶺二が千春たちのいるところにやってくる


千春「さあ嶺二さん!もう一踏ん張りですよ!!頑張りましょう!!」


 悪霊は嶺二たちのことを睨みつけ、戦いの再開を待っている


嶺二「なあ」

千春「どうかしましたか?」

嶺二「この戦いが終わったら、俺たちどうなっちまうんだ」

千春「どうもなりませんよ、世界が平和になるんです」

嶺二「千春ちゃんは・・・どうなるの?」

千春「私は・・・ここにいます」

嶺二「ここってどこだよ?」

千春「ここはここです」

嶺二「千春ちゃんはさ・・・本当はいなくなっちまうんじゃねーの?」

明日香「嶺二、早く続きを進めようよ!!」

嶺二「(明日香の方を見て)続きって何」

明日香「そ、それは・・・」


 嶺二は手に持っていた武器や花火を落とす


嶺二「こんなもん・・全部まやかしだ(悪霊の方を見る)見ろ、悪霊だって襲って来ない」

千春「そ、それは今私たちが喋ってるから・・・私たちのことを待ってくれてるんです!」

嶺二「何のために?こいつ、世界を滅ぼそうとしてるのに気楽なもんだな」

千春「どうしたんですか嶺二さん、何か変ですよ」

嶺二「悪霊がロケット花火を俺らに向かって投げようとした時、死ぬのかなって思った。でも、明日香と汐莉ちゃんが凄い良いタイミングで・・・」

汐莉「助けないと嶺二先輩と千春がやられてしまいます」

嶺二「ほんとに死んだのかな・・・」


◯267波音総合病院廊下(夜)

 潤と智秋を探し、雪音を守りながら悪霊と戦っている鳴海と菜摘

 鳴海、菜摘、雪音が通った廊下は悪霊に取り憑かれていた人がいっぱい倒れている


鳴海「(日本刀を振りかざして)しつけえな!!いい加減襲ってくんな!!!」


 鳴海が切りつけると中から智秋が倒れ出てくる

 

雪音「(智秋に駆け寄り)あっ!!お姉ちゃん!!!」


 鳴海と菜摘も智秋の方へ駆け寄る


雪音「(智秋の身体を揺さぶり)お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」

智秋「ん・・・・雪音・・・?どうしたの・・・?」

雪音「(智秋に抱きつき)良かった・・・すごく心配したんだよ・・・」

智秋「雪音は・・・本当に心配性なんだから・・・」

菜摘「鳴海くん!他の人たちも!!」


 鳴海が病院の廊下を見ると悪霊はいなくなっている


鳴海「悪霊が消えた・・・」」


 悪霊に取り憑かれていた人たちが目を覚まし始めている


菜摘「(日本刀を納めて)お父さんもきっとどこかに・・・」

鳴海(日本刀を納めて)そうだな・・・」

菜摘「雪音ちゃん、お姉さんを病室に」

雪音「お姉ちゃん、私の肩に掴まって立てる?」

菜摘「私も手伝うよ、肩に掴まってください」

智秋「(菜摘と雪音の肩に掴まって立ち上がる)あ、ありがとう・・・」


◯268波音総合病院外(夜)

 ポツポツと雨が降り始める

 巨大な悪霊は動かずにじっと嶺二たちのことを見ている

 

嶺二「学園祭が終わってからなんかずいぶん曖昧な記憶なんだよね。菜摘ちゃんに呼び出されてさ、慌てて飛び出て来たんだけど、何がどうなってんだって感じで・・・千春ちゃんにもう一度会いたいっていう気持ちだけで動いてたから俺・・・これは現実なのか?」


◯269波音総合病院/一条智秋の個室(夜)

 雨の音が聞こえる

 鳴海、菜摘、雪音は智秋を個室まで運ぶ


雪音「お姉ちゃん、大丈夫だよね?何か変なところとかない?」

智秋「大丈夫、三人ともありがとう」


 智秋はベッドに入り横になる


鳴海「(窓の外を指差して)お、おい・・・なんだあのでけえ悪霊は・・・!」


 鳴海は外にいる巨大な悪霊を指差している


菜摘「私たち、あいつのところに行った方がいいんじゃない?他のみんなも外にいるかも・・・」

鳴海「そ、そうだな・・・あんな巨人と戦える自信はねえけど・・・行くしかねえか・・・」


 頷く菜摘


菜摘「(雪音たちの方を見て)じゃあ、私たち行くね」

雪音「た、戦うの!?」

菜摘「うん!」

鳴海「戦って、人を救って、世界を平和にしなきゃ・・・ってなんでこんなこと俺が言ってるのか・・・」

菜摘「分かるよ、私もそんな感じもん」

鳴海「そういうことだな」

雪音「そ、そうなんだ」


◯270波音総合病院外(夜)

 雨の勢いはどんどん強くなる

 相変わらず悪霊は何もせずにじっと嶺二たちのことを見ている


嶺二「でも、なんかやっぱりおかしいよこれ」

明日香「おかしいって何が?」

汐莉「私は何もおかしくないと思います」

嶺二「千春ちゃん、学校の屋上で消えたよね・・・爺さんと喋って消えたじゃん。あの時の千春ちゃんって・・・なんで消えちゃったの?こうしてまた会えるのに・・・あの時、消える必要あったの?」

千春「だって・・・だって・・・嶺二さんが・・・もう一度私と会いたいって願ったからじゃないですか!別れを受け入れなかったから、こうしてまた・・・私は・・・」

嶺二「そんなの受け入れられるはずがない!!なぜなら俺は千春ちゃんのことが好きだから、大好きだから・・・でも・・・受け入れるとは別に分かることがある・・・この再会は・・・きっと本当の別れになってしまう!!」

千春「そんなことはありません!」

嶺二「なんで嘘つくんだよ!!この世界が・・・朗読劇の物語と同じように進めば・・・!!女の子は死ぬじゃないか!!」


 鳴海と菜摘が外にやってくる


菜摘「千春ちゃん!!!

鳴海「なんでみんなそんなところ突っ立ってるんだ・・・早く悪霊を倒そうぜ!」

嶺二「(大きな声で)戦っちゃダメだ!!!」

鳴海「嶺二?どうしたんだよ?」

嶺二「世界を救うと同時に女の子は死ぬ、昔俺がやったゲームも全く同じだった。その結末を知っていて戦うのか?戦えるのか?最低なゲームだよ、子供の好奇心にトラウマを植え付ける絶好の機会さ」

千春「嶺二さんは・・・私と遊んだことを思い出したんですか?」

嶺二「この世界は・・・ゲームのシナリオだ。何故かみんな世界を救うことに必死。世界を救ったら千春ちゃんは死ぬのに・・・」

 

 少しの沈黙が流れる


千春「そうですよ」

嶺二「千春ちゃん!!こんなの間違ってる!!」

千春「どうしてです?」

嶺二「めちゃくちゃだよ・・・好きな人が死ぬのを見届けろって言うなんて・・・」

千春「嶺二さんは大袈裟です、私が死ぬところを見たことあるならもう慣れっこでしょう」

嶺二「(大きな声で)慣れるもんか!!」

千春「わがままを言って私のことを困らせないでください」

嶺二「人の死を止めることの何がわがままなんだよ」

千春「なんて答えたらいいのか・・・運命とでも言いましょう」

嶺二「逆らえない川のように、決まった結末に向かっちまう。何回やっても・・・千春ちゃんが死ぬ未来は決まってるんだ」

千春「知ってるなら受け入れましょうよ、抗うのはやめてください。私が屋上で消えても、嶺二さんは探し続けるなんて馬鹿なことを言う・・・もはや誰が奇跡を起こしたのか分かりません、でもこれは終わりにする時です」

嶺二「こんな再会と別れはクソだ、こんなことなら屋上で消えたままでよかった」


 少しの沈黙が流れる

 千春は悪霊に向かって剣を構える


千春「(悪霊に向かって)来い!!私一人でも戦ってやる!!」


 静止していた巨大な悪霊はついに動き始める


明日香「援護しなきゃ!!!」

汐莉「了解!!」

菜摘「(日本刀を構えて)鳴海くん!!私たちも加勢しよう!!!」

鳴海「(日本刀を構えて)わ、分かった!」


 悪霊は左腕がないが素早い攻撃をする

 嶺二は戦わずにみんなのことを見ている


嶺二「やめろみんな・・・戦うな・・・」


 鳴海、菜摘、千春が悪霊の足元を切っていくが効いていない

 汐莉、明日香は遠距離から援護する


 時間経過


 強い雨でみんなずぶ濡れになっている


鳴海「(息を切らしながら)はぁ・・・はぁ・・・こいつ・・・不死身かよ・・・」

菜摘「(息を切らしながら)はぁ・・・はぁ・・・私たちじゃ勝てないのかな・・・」

千春「皆さん!!諦めずに頑張ってください!!」

嶺二「(戦っているみんなのことを見ながら)何やってんだみんな・・・戦う必要なんてないんだ・・・」


 悪霊が右手を振り下ろす


明日香「危ない菜摘!!」


 悪霊の攻撃をギリギリで回避する菜摘

 回避した隙を狙って攻撃をしてくる悪霊

 鳴海がそれを庇う

 吹き飛ばされる鳴海


菜摘「鳴海くん!!!」


 菜摘が鳴海の元へ駆け寄る


菜摘「大丈夫!?」


 鳴海は立ち上がろうとするが立てない


鳴海「ごめん・・・俺はここで・・・」

菜摘「しっかりして!!!」


 鳴海の姿が忽然と消える


菜摘「鳴海くん・・・(立ち上がり)許さない!(日本刀を構えて)絶対に倒す!!」


 菜摘は一人で悪霊に攻撃しに行く


明日香「汐莉!!私たちも行くよ!!!」


 頷く推理

 明日香と汐莉も菜摘と同じように攻撃しに行く


千春「無闇に突っ込んじゃいけません!!!」


 悪霊は右手で菜摘、明日香、汐莉を一気になぎ払う

 吹き飛ばされる三人

 千春が三人の元へ急ぐが、三人は消えてしまう


千春「間に合ったなかった・・・(剣を構えて)私は負けないぞ!!」


 巨大な悪霊と千春の一対一の戦いが始まる

 嶺二は一人戦いを見ている

 千春が悪霊に剣を当ててもカキンカキンと金属音が響きはじき返される


千春「(剣で攻撃しながら)絶対に負けないから!!!一人でも勝つから!!!」


 悪霊は軽々と千春の攻撃を払い退け千春は吹き飛ばされる


千春「(立ち上がり剣を構えて)もう一度だ!!!諦めない!!!」


 千春は勢いよく走って剣をぶつける

 何度やっても攻撃は弾かれる

 嶺二は千春のことを見ている


◯271回想/マクドナルド二階(放課後/夕方)

 嶺二は窓際の席に座っている

 地上で千春がビラ配りをしている

 通行人は千春が配っている紙を受け取ろうとしない、千春が差し出しても払い退けている

 嶺二は窓から千春のことを見ている


◯272回想戻り/波音総合病院外(夜)

 ザーザーと強い雨が降っている

 嶺二は一人戦いを見ている

 千春が悪霊に剣を当ててもカキンカキンと金属音が響きはじき返される


千春「(悪霊に剣をぶつけて)私だって!!!私だって!!!みんなと一緒に生きたい!!!こんな世界嫌だ!!!!!」

嶺二「(千春のことを見ながら)千春ちゃん・・・」


 悪霊は軽々と千春の攻撃を払い退け千春は吹き飛ばされる

 千春は立ち上がり勢いよく走って剣をぶつける


千春「(剣をぶつけて)この!!!この!!!!!」


 千春が力いっぱい剣をぶつける

 何度ぶつけても攻撃は意味がない


千春「(剣をぶつけて)何度だって!!!」


 千春が使っていた剣が折れ、欠けた部分が嶺二の足元まで飛んでくる

 悪霊は千春のことを見下ろす

 千春は折れた剣を落としその場にがっくりと座り込む

 嶺二は足元に落ちた刃のかけらを拾う


千春「もう嫌・・・私はここから出られない・・・」


 悪霊は千春の言葉に頷く


千春「どうせ私は・・・ゲームのキャラ・・・ゲームが壊れてるのに・・・ずっとここに・・・(悪霊の方を見て)あなたと同じなんだね」


 頷く悪霊


千春「(悪霊を見て)あなたが死なない限り・・・ゲームは何度でもリスタートする・・・でも私にはあなたを倒せない・・・そういう設定・・・あなたもここから出たい?」


 頷く悪霊


千春「(悪霊を見て)そうだよね・・・同じ気持ちだよね・・・」


 嶺二は刃のかけらを持って千春に近づく


嶺二「ねえ、千春ちゃん」

千春「なんですか・・・」

嶺二「千春ちゃんの本当の願いってなんなのか教えて、ゲームセンターにお客さんが入ること?朗読劇が成功すること?世界を救うこと?俺たちと別れること?」

千春「私の願いは・・・(少し間を開けて)たくさんの人と遊んでもらうことだった・・・壊れたゲームの中じゃなくて・・・それが一番の願い、でももう叶わない・・・壊れた物は直らない、私は、この中でしか生きられない」

嶺二「どうにか・・・現実の世界に来れる方法はないの・・・?今までみたいにさ、それこそゲームみたいに・・・もう一回やり直せないの・・・?」

千春「嶺二さん、奇跡が何回も起きたら奇跡の価値がなくなってしまいますよ・・・」

嶺二「じゃあ・・・この世界にずっと千春ちゃんはいることに・・・」

千春「いえ・・・まだ別の方法があります」

嶺二「どんな!?どんな方法があるの!?」

千春「嶺二さんがあいつを倒したら・・・ゲームクリアです」

嶺二「そんなことしたら全てが終わっちまうじゃねえか」

千春「もうそれでいいんです、クリアしていいんです」

嶺二「(大きな声で)無くなっちまうんだぞ!!千春ちゃんも・・・・ゲームも・・・俺たちと過ごした記憶も・・・全部、全部無くなっちまうんだぞ!!!」

千春「嫌だなぁ嶺二さん、ただのキャラクターにそんなふうに言うなんて・・・本当に大袈裟です」

嶺二「(大きな声で)大袈裟じゃねえよ!!!それは死ぬのと同じことなんだぞ!!!」

千春「私に命はないんですよ?」

嶺二「千春ちゃんだって人だ!!!!!俺と同じだろ!!!」


 静かに首を横に振る千春


千春「こんなところで一人でいるのは嫌です。嶺二さんやみんなことを思いながら一人でいるなんて私は絶対に嫌です!だから・・・もう・・・いいじゃないですか。嶺二さん、終わりにしちゃってください!クリアしちゃってください!」


 千春の真剣な頼みに目を逸らす嶺二


嶺二「出来ねえよそんなこと・・・」

千春「私を・・・自由にしてくれませんか」

嶺二「(大きな声で)なんで俺に頼むんだよ!!!鳴海か菜摘ちゃんに頼めばよかったじゃねえか!!!!俺に頼むな!!!!!」

千春「他の誰でもない・・・嶺二さんにしか出来ないことです。勇敢な嶺二さんにしか・・・」

嶺二「さっきも言ったけど・・・俺は千春ちゃんのことが大好きなの!死ぬほど好きなの!!!」

千春「(顔を赤くして照れながら)い、いきなり何言うんですか!!」

嶺二「いや、いきなりっていうかさっきも好きだって言ったんだが・・・まあいいや、千春ちゃんのことが大好きな俺が、ゲームをクリアするなんて嫌に決まってんだろ。好きな人を殺せって言うのかよ」

千春「(顔を赤くして照れながら)す、好きなら・・・私のお願い・・・聞いてくださいよ」

嶺二「クリアしたら・・・もう・・・一生会えなくなるよな?」

千春「また・・・奇跡が起きたら・・・」

嶺二「千春ちゃん自身が奇跡が何度も起きたら価値がなくなるって言ったやん」

千春「そう・・・でした・・・多分、二度と会えないと思います・・・」

嶺二「本当に消えたいのか・・・?」

千春「(微笑みながら)綺麗さっぱり・・・消えてしまいたいです!」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「分かった・・・でもその前に聞いておきたいことがある」

千春「なんですか?」

嶺二「千春ちゃんは・・・俺のこと・・・どう思ってんの?」

千春「好きですよ」

嶺二「なんか・・・あっさりしてんな」

千春「そんなこと言うなんてひどいですよ嶺二さん!」

嶺二「ごめん、ほんとなのかなって思って」

千春「ほんとです!!」

嶺二「それってあれじゃないよね?友達として好きとか・・・そういうのじゃなくて・・・ちゃんと恋してるっていう意味?」

千春「疑い過ぎです」

嶺二「(照れながら大きな声で)じゃ、じゃあさ!つ、付き合って・・・たくさんデートして・・・エッチなことをして・・・そのうち結婚とか・・・するよな!!」

千春「いちいち確認するなんて少し気持ち悪いと思います」

嶺二「べ、別にいいじゃん!!後悔がないように・・・確認しておきたいんだ」

千春「私は嶺二さんのことが大好きです!だから嶺二さんに頼むんじゃないですか、ゲームをクリアしてくださいって」

嶺二「すげー理不尽、その頼み方は卑怯だわ」

千春「ごめんなさい」

嶺二「そんな頼み方されたら断れねえっつうの」


 嶺二は巨大な悪霊と向かい合う

 嶺二は千春の横に落ちていた折れた剣を拾う

 嶺二は力任せに折れた剣を悪霊に向かってぶん投げる


嶺二「(折れた剣を投げて)いっけえええええええええええええええええええ!!!!!」


 嶺二の投げた折れた剣は悪霊の真ん中に突き刺さる


嶺二「刺さった・・・」


 悪霊は跡形もなく消滅する


千春「(微笑み大きな声で)ゲーム、クリアです!」


 嶺二は千春の横に座る

 

嶺二「た、倒しちまった・・・」

千春「嶺二さん、格好良かったです」

嶺二「(泣きながら)な、なんでかな・・・全然嬉しくねえや・・・ああ、とんでもないことしちゃったよ俺・・・」

千春「なんで泣くんですか?ゲームをクリアするのは凄いことなんですよ!」

嶺二「(泣きながら)か、悲しいよこんなの・・・」


 千春は嶺二の口にキスをする


千春「(少し笑いながら)ずぶ濡れです、お互い」


 キスされたことに驚いている嶺二


千春「少し寒いですね、くっつきましょうか」


 千春は嶺二の横にぴったりくっ付いて座る


嶺二「(泣きながら)に、二度とこんなこと出来ないんだよ・・・お、俺たち・・・も、もう一生会えないんだよ・・・」

千春「最後だから、こうやって恋人同士みたいにくっ付いて座っているんです。嶺二さん、いっぱい生きてくださいね!」

嶺二「(泣きながら)ち、千春ちゃんが・・いないのに・・・」

千春「何を言ってるんですか!私より素敵な女性はいっぱいいるんですよ!」

嶺二「(泣きながら)でも・・・俺はもっと千春ちゃんと過ごしたかった!!千春ちゃんと遊びたかった!!千春ちゃんと思い出を作りたかった!!」

千春「なら私なんかよりもっと素敵な女性と出会ってください!!その人といっぱい過ごして思い出をたくさん作ってください!!私と過ごした時間より楽しい日々を送ってください!!私は応援しています!!嶺二さんの人生を応援していますから!!!!!」

嶺二「(泣きながら)忘れないよ俺!!!絶対に!!!ずっとずっと、千春ちゃんのことが大好きだから!!!!!」

千春「お別れです嶺二さん、頑張ってくださいね」


 夜だったのに徐々周りが白くなる


嶺二「(泣きながら)また会えるって信じてる!!!!俺待ってる!!!!千春ちゃんと会える日まで待ってるから!!!!!」

千春「さようなら嶺二さん・・・大好きです・・・」


 全て真っ白な光に包まれる


◯273緋空浜(日替わり/昼)

 快晴

 砂浜で眠りこけている嶺二

 鳴海と菜摘が嶺二を起こそうとしている


鳴海「(嶺二の体を揺さぶり)嶺二!!嶺二!!いつまで寝てんだ!!」

菜摘「嶺二くん!!もう起きる時間だよ!!」

嶺二「(ゆっくりまぶたを開けて)んー・・・(体を起こして)どこだここは・・・」

鳴海「緋空浜だ」


 体を大きく伸ばす嶺二


嶺二「なんで俺はこんなところに・・・」

鳴海「知らん、むしろ俺たちが知りたい」

嶺二「そうだ!!!千春ちゃんは!?!?」

菜摘「(悲しそうな表情をして)いないよ」

嶺二「そっか・・・」

鳴海「どっからが現実だったんだろうな・・・」

嶺二「現実?」

菜摘「波音町で起きた集団幻覚だったのかな・・・みんな同じ夢を見てたみたい」

嶺二「なんだそりゃ、どういうことだ」

鳴海「詳しくは俺たちにも分からんよ。最後の方は色々とおかしくなってただろ?」

嶺二「最後の方って悪霊のことか?」

鳴海「そうそう、ごちゃごちゃした世界だったな」

嶺二「俺はてっきり・・・ゲームの世界にでも入っちまったのかと・・・」

菜摘「ゲームって、千春ちゃんが登場するゲームのこと?」

嶺二「そうそれ、朗読劇の台本になったゲームだよ」

菜摘「千春ちゃんのこともどこまでが現実か・・・」

鳴海「みんな無意識でボーッとしながらこの一週間を過ごしてたらしい、俺と菜摘もまともに意識が戻ったのは今朝だ」

菜摘「なんかぽっかり記憶に穴が開いてるって感じ・・・病院に行って・・・悪霊と戦ったけど・・・それも現実だったのか・・・」

嶺二「ちょちょ、そもそも今日はいつなのか教えてほしい」

鳴海「六月十三日の土曜日」

嶺二「ん?学園祭から・・・一週間経ってね?」

菜摘「うん、学園祭は先週」

嶺二「(頭をかきながら)意味わかんねえ・・・千春ちゃんの存在は幻覚だったのか・・・?」

鳴海「神谷に至っては千春のことを覚えてないらしいぞ、覚えてるのは俺たち文芸部員と菜摘の両親だけかもな」

嶺二「まじかよ・・・え、じゃあ鳴海の停学は?」

鳴海「あれも夢だったのか・・・とりあえず現実じゃないぜ!」

嶺二「は?!すげえな、これが夢オチってやつか・・・ん?なんか入ってんな」


 パーカーのポケットからキラキラ光るものを取り出す嶺二


鳴海「物騒だな、どこでそんなもんゲットしたんだよ?」


 嶺二のポケットから出てきたのは千春が使っていた剣の折れた部分、刃のかけら

 太陽の光に反射してキラキラと輝いている刃のかけら


嶺二「(輝く刃のかけらを見ながら)なんだ・・・現実だったのか・・・」

菜摘「えっ!?えっ!?どういうこと!?何が現実だったの!?」

鳴海「教えろよ嶺二!気になるぞ!」


 立ち上がりパーカーのポケットに刃のかけらをしまう

 嶺二は歩き始める

 鳴海と菜摘も嶺二について行く


嶺二「今のはな、奇跡から持ち帰ったお土産」

鳴海「いや意味わからんわ、もっとちゃんと説明しろや」

嶺二「それ以上の説明は必要ねえ」

菜摘「私たちは奇跡を見てたのかな・・・?」

鳴海「菜摘!話を変えるなよ!」

嶺二「そうだなぁ・・・奇跡って呼んでもいいくらい不思議な体験だったと思うよ」

鳴海「それよりどこからどこまでが夢なのか判別方法を教えろよ!」

嶺二「あのなぁ鳴海、今俺はおとぎ話の余韻に浸っているところなんだから、少しは気を利かせて黙っててくれてもいいんだぞ」

鳴海「悪かったな気が利かなくてよ!!!」


◯274 ゲームセンターギャラクシーフィールド店内(昼)

 レトロな作品(スペースインベーダーなど)を目当てにたくさんの客がゲームで遊んでいる

 客層は小さい子から大人まで様々

 故障中のゲームはなく全て起動している

 繁盛している店内を見て嬉しそうな顔をしている有馬勇

 ギャラクシーフィールドの壁には千春が配っていたビラが貼られている


◯275波音高校特別教室の四/文芸部室(日替わり/放課後/夕方)

 机に突っ伏してダラダラしている鳴海と嶺二

 カタカタと執筆作業をしている菜摘、明日香

 日記をつけている汐莉


明日香「(ダラダラしている鳴海と嶺二を睨みながら)そこの二人のやる気は?ないの?」

鳴海「(やる気なさそうに)なんもやりたくねー」

嶺二「(やる気なさそうに)わかるわー、千春ちゃんに会いてーよー」

明日香「いつまでそんな腑抜けたこと言ってんの・・・しっかりして」

菜摘「(小声で)明日香ちゃん・・・もう少しそっとしてあげた方が・・・」

明日香「菜摘は男共に甘すぎ!!部長なんだからもっと手厳しくしたら?」

菜摘「(明日香をなだめながら)まあまあ・・・千春ちゃんのこともあったんだし・・・」

汐莉「(日記を書くのをやめて)結局、千春はなんだったんですかねぇ。奇跡ってやつにしても、よく分からないことだらけです」

鳴海「(ダラダラしながら)なんか・・・」

嶺二「(ダラダラしながら)んー?」

鳴海「(ダラダラしながら)疲れたわー」

嶺二「(ダラダラしながら)それなぁ・・・いい天気だし昼寝ようぜー」

鳴海「(ダラダラしながら)ねんごろの時間だわぁ・・・わりぃ、ちょっと寝る」

菜摘「おっけー」


 目を瞑り動かなくなる鳴海と嶺二


汐莉「(ドン引きしながら)あの二人、すっかりダメ人間になりましたね」

明日香「(二人のことを見ながら)あれを見てるとほんとにぶっ飛ばしたくなる、嶺二は千春消失ショックのせいなんだろうけど、鳴海の無気力は一体何があった」

菜摘「(鳴海のことを見ながら)うーん・・・どうしたんだろ・・・」


 深いため息を吐く明日香


明日香「(呆れながら)元々無気力なタイプだったのに、進んで青春を謳歌しようとした結果がこれね・・・嶺二もあんなんだし・・・六月の部誌が迫っているっていうのに・・・」


 鳴海は寝たフリをして話を盗み聞きしている

 嶺二は寝息を立てて寝ている


◯276草原(昼)

 嶺二の夢の中

 広い草原、一本の大きな木が生えている

 木下に座ってもたれている嶺二

 向こうから千春が走ってやって来る

 千春は嶺二が買った服を着ている


嶺二「(立ち上がり)遅いよ千春ちゃん」

千春「(息を切らしながら)ごめんなさい」

嶺二「さあ行こうか千春ちゃん、新しい世界へ、俺たちの冒険の始まりだ」

千春「どこまでもお供します!」


 嶺二と千春は手を繋ぎ歩き出す

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