Chapter6卒業編♯12 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由香里
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
織田 信長48歳男子
天下を取るだろうと言われていた武将。
一世 年齢不明 男子
ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。
Chapter6卒業編♯12 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯957貴志家リビング(日替わり/朝)
外は快晴
時刻は七時半過ぎ
テーブルの上に置き手紙がある
置き手紙には“今日はむっちゃ寒いらしいのでなるべく着込むべし。晩ご飯は鳥ごぼうの炊き込みご飯じゃなきゃお姉ちゃん倒れちゃうかも♡”と書かれている
リビングのテレビではニュースが流れている
制服姿で椅子に座って置き手紙を見ている鳴海
鳴海「(置き手紙を見たまま)白飯で我慢しろよ・・・」
◯958波音高校校門(日替わり/朝)
快晴
たくさんの生徒たちが門を潜って学校の中へ入って行く
校門の前で部員募集を行っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、詩穂、真彩
鳴海、明日香、嶺二、雪音、詩穂、真彩は部員募集の紙の束を持っている
通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している鳴海たち
鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)文芸部です!!!!よろしくお願いします!!!!」
嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)可愛い女の子がいるよー!!!!」
鳴海たちの前を通りかかる生徒たちは、文芸部のことを気に留めず周りの生徒たちと楽しそうに話をしながら校舎内へ入って行く
深くため息を吐く明日香
明日香「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)なんかもう無理な気がしてきた・・・」
真彩「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)あ、諦めずに頑張りましょ先輩!!」
明日香「これでも頑張ってる気持ちなんだけど・・・」
雪音「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)気持ち一つで結果が追いつくわけないよね」
明日香「そうそう・・・ひたすら時間を無駄にしてるんじゃないかって思うと、やる気も出ないし・・・もっと良い方法があればって感じだけど・・・思いつかないだろうから・・・」
詩穂「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて小声で)そもそも私たちだけじゃ無理なんですよ」
真彩「(小声で)なんとか鳴海くんに頼んで響紀と汐莉にも手伝うようにしてもらう・・・?」
詩穂「(小声で)頼んでも断られるのがオチだって・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海と嶺二は変わらず通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している
鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)あと四人入ってくれれば廃部にならずに済むんです!!!!文芸部に一年生と二年生の力を貸してください!!!!」
嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)合宿とか楽しいイベントもあるぞー!!!!」
鳴海と嶺二のことを見ている明日香
明日香「(鳴海と嶺二のことを見ながら)ここまで来るとちょっと哀れって言うか・・・愚かって言うか・・・見苦しいって言うか・・・」
嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて明日香たちに向かって)お前らも声出ししろよな!!」
明日香「あ、ごめん。(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)ぶ、部員募集にご協力お願いしまーす!!!!」
真彩「(小さな声で)声出しだって・・・」
詩穂「(小さな声で)応援団みたいなことをやらされてるね、私たち」
真彩「(小さな声で)うん・・・」
嶺二「まあやんたちも喋ってねーで部員募集してくれよ!!」
真彩「す、すんません!!」
雪音「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)文芸部でーす。誰でも良いので部員になってくださーい」
詩穂「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)お願いしまーす」
通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめてる鳴海
鳴海「一条と永山、真面目にやってくれ」
詩穂「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)真面目にやってるじゃないですか!!」
鳴海「もっと丁寧に・・・」
雪音「(鳴海の話を遮って)言いがかりをつけるの、うざいからやめてくれる?」
鳴海「言いがかりなんてつけて・・・」
嶺二「(鳴海の背中をポンと叩いて鳴海の話を遮り)やめとけよ鳴海、時間が勿体ねーだろ」
再び沈黙が流れる
雪音「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら)誰でも良いですよー。文芸部に興味がある人はぜひー」
◯959波音高校三年生廊下(朝)
三年生廊下にいる鳴海と嶺二
朝のHR前の時間
廊下では喋っている三年生や、教室に入ろうとしている三年生がたくさんいる
廊下で話をしている鳴海と嶺二
鳴海「お前が庇えば、一条はますます調子に乗るだろ」
嶺二「ゆ、雪音ちゃんが調子に乗ってんのはいつものことじゃねーか」
鳴海「入部したての時はあんな態度じゃなかったけどな」
少しの沈黙が流れる
鳴海「あいつは文芸部に厄介事を持ち込む疫病神だ・・・付き合うのは止めないが、気をつけろよ」
嶺二「お、俺と雪音ちゃんがくっつくわけねーだろ」
鳴海「どうだかな・・・最近のお前たちはいつも一緒にいるような気がするぞ」
嶺二「ば、馬鹿言え!あんな奴といつも一緒にいられるかよ!!」
双葉が廊下を歩いて来る
双葉は三年二組の教室に向かっている
双葉と鳴海、嶺二の目が合う
三年二組の教室に入る双葉
鳴海「クソ!!信用出来ない奴らばかりだ!!」
嶺二「お、落ち着けって鳴海。焦ったって良いことは・・・」
鳴海「(嶺二の話を遮って)部員募集も曲作りも遅れまくってるんだぞ!!おまけに部誌は全く刊行してないんだ!!よくこんな状況で余裕を持ってられるよなお前は!!」
嶺二「す、すまねえ・・・」
再び沈黙が流れる
出席簿とプリントを持った神谷がやって来る
神谷「鳴海、嶺二、そろそろHRを始めるから教室に入るんだ」
嶺二「う、うっーす」
三年三組の教室に入る神谷
鳴海「嶺二」
嶺二「お、おう」
鳴海「昼休み、文芸部の部室、全員。分かったな」
嶺二「こ、言葉が少なくねーか・・・?」
鳴海「全員だ」
嶺二「し、汐莉ちゃんと響紀ちゃんも・・・」
鳴海「(嶺二の話を遮って)全員って言葉の意味を知らないほどお前は馬鹿じゃないだろ」
◯960波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)
昼休み
文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂
円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある
校庭にある水たまりはまだ乾いていない
嶺二のことを見る鳴海
嶺二「な、何だよ?」
鳴海「(嶺二から顔を逸らして)まさか嶺二がクソ馬鹿だったとはな」
明日香「今更気づいたの?鳴海」
鳴海「馬鹿だってことは知ってたが、全員って言葉の意味を知らないほどの奴だとは思わなかったんだ」
嶺二「お、俺はちゃんと全員に連絡を入れたぞ!!」
鳴海「そうか。それはご苦労だったな。ところで全員参加と言ったはずなのに奥野がいないような気がするんだが、俺の勘違いか?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「嶺二、奥野はどこにいるんだ」
嶺二「し、知らねー・・・いや、待て・・・ちょっと確認する・・・(詩穂に向かって小声で)詩穂ちゃん、まあやんはどこにいるんだ?」
詩穂「先に購買に寄るって言ってました。だから多分、というか絶対に、真彩は文芸部ではなく今購買部にいます」
嶺二「(詩穂に向かって小声で)サンキュー詩穂ちゃん。(大きな声で)鳴海、分かったぞ!!!まあやん文芸部ではなく今購買部にいるらしい!!!」
再び沈黙が流れる
響紀「すみません鳴海くん。うちの真彩は犬並みに食欲旺盛なんです、どうか許してやってください。私の方からも後で食い過ぎるなって言っときますから」
鳴海「食い過ぎるなって言っときますから・・・で、俺が許すと思ってるのかお前は」
響紀「えっ、許してくれないんですか?」
鳴海「許すわけないだろ」
響紀「いやん鳴海くんの意地悪えっちドS変態」
少しの沈黙が流れる
響紀「すみません水素くらい軽い下ネタをぶっ込んでお通夜みたいな雰囲気を吹き飛ばそうと思ったんですが完璧に失敗したっぽいですすみません殴らないで」
鳴海「響紀、お前は俺が許可を出すまで二度と喋るんじゃない。分かったな」
首を横に振る響紀
鳴海「分からないのか?」
首を縦に振る響紀
響紀「許可がなくても喋りたくなったら勝手に口が・・・」
鳴海「(響紀の話を遮って)良いから黙ってろ」
響紀は明日香のことを見る
首を横に振る明日香
部室の扉がゆっくり開く
両手にたくさんのメロンパンを抱えた真彩が部室に入って来る
部室の扉を足で閉める真彩
真彩「(両手にたくさんのメロンパンを抱えたまま部室の扉を足で閉めて)遅れてすんません!水曜日限定メロンパンの争奪戦に思ったよりも時間がかかっちゃって!」
真彩は部室の扉を足で閉め切る
雪音「一人で馬鹿みたいな量のメロンパンを食べるの?」
真彩「(両手にたくさんのメロンパンを抱えたまま)ノンノンですよ雪音さん!!何とこれ、全員分あるんです!!」
嶺二「マジで!?奢り!?」
真彩「(両手にたくさんのメロンパンを抱えたまま)そうっすよ〜!!みんなストレスが溜まってますから、ここらで糖分を補給して心を落ち着かせましょーってプランっす!!」
汐莉「気が効くねまあやん」
真彩「(両手にたくさんのメロンパンを抱えたまま)前に鳴海くんたちがスイートメロンパンが食べたいってよく言ってたから、その繋がり買って来たんだ〜」
真彩は両手に抱えていたメロンパンの一つを鳴海に差し出す
真彩「(両手に抱えていたメロンパンの一つを鳴海に差し出したまま)好きなんすよね?メロンパン」
鳴海「(真彩からメロンパンを受け取り)ありがとう奥野。お陰で今の俺はとてつもなくスイートメロンパンが食べたい気分だ」
真彩「(両手にたくさんのメロンパンを抱えたまま)マジっすか〜!!経済力の豊かな後輩がいて良かったっすね〜!!」
再び沈黙が流れる
真彩は両手に抱えていたメロンパンの一つを雪音に差し出す
雪音「(真彩からメロンパンを受け取り)ありがと」
真彩「(両手にたくさんのメロンパンを抱えたまま)いえいえ〜!!」
真彩は両手に抱えていたメロンパンの一つを嶺二に差し出す
嶺二「(真彩からメロンパンを受け取り)あざっすまあやん!!助かったぜ!!」
真彩「(両手にたくさんのメロンパンを抱えたまま)嶺二くん、困った時はお互い様っすよ!!」
嶺二「おう!!」
真彩は両手に抱えていたメロンパンの一つを明日香に差し出す
明日香「(真彩からメロンパンを受け取り)ごめんね、変な気を使わせちゃって」
真彩「(両手にメロンパンを抱えたまま)いやいや普段お世話になってますから!!このくらいお安い御用っす!!」
真彩は両手に抱えていたメロンパンの一つを汐莉に差し出す
汐莉「(真彩からメロンパンを受け取り)ありがとう、まあやん」
真彩「(両手にメロンパンを抱えたまま)どいたま!!」
真彩は両手に抱えていたメロンパンの一つを詩穂に差し出す
詩穂「(真彩からメロンパンを受け取り)もうそろストレスで倒れるところだったよ・・・」
真彩「(両手にメロンパンを抱えたまま)詩穂、メロンパンでヒットポイントを回復させるんだ」
詩穂「うん・・・」
真彩が両手に抱えていたメロンパンは残り二つになっている
響紀に二つのメロンパンを差し出す真彩
真彩「(二つのメロンパンを響紀に差し出したまま)どっちがいーい?」
響紀「ンーンーンーンー」
真彩「(二つのメロンパンを響紀に差し出したまま)だから、どっちがいーの?」
響紀「ンーンーンーンー」
少しの沈黙が流れる
響紀は鳴海のことを見る
真彩「(二つのメロンパンを響紀に差し出したまま)両方とも食べていーい?」
響紀「(鳴海のことを見たまま勢いよく首を横に振って)ンーンーンーンーンーンーンー!!!」
真彩「(二つのメロンパンを響紀に差し出したまま)じゃーどっちか選べ!!」
響紀「(鳴海のことを見たまま)ンーンーンーンーンー!!!!」
真彩「(二つのメロンパンを響紀に差し出したまま大きな声で)何だよ新手の嫌がらせか!?!?それともあれか!?!?モールス信号か!?!?」
鳴海「モールス信号ならトンがあるだろ。さっきから響紀はツーしか言ってないぞ」
真彩「(二つのメロンパンを響紀に差し出したまま)確かにそうっすね〜・・・」
雪音「舌が麻痺したんじゃないの?」
嶺二「だ、だったら保健室に連れて行くべきだろ!!」
再び勢いよく首を横に振る響紀
響紀は変わらず鳴海のことを見ている
真彩「(二つのメロンパンを響紀に差し出したまま)つか響紀、鳴海くんのことを凝視してないっすか?」
鳴海「何で俺のことを見るんだよ・・・」
真彩「(二つのメロンパンを響紀に差し出したまま)さあ・・・何なんすかね・・・」
響紀「(鳴海のことを見たまま)ンーンーンーンーンー」
再び沈黙が流れる
汐莉「響紀は鳴海先輩の許可が下りるのを待ってるんじゃないんですか」
鳴海「許可って何だ」
汐莉「(呆れて)喋っても良い許可ですよ・・・先輩が響紀に黙ってろって言ったから、響紀はこんなふうになったんです」
嶺二「つまり鳴海のせいじゃねーか!!」
鳴海「そんな馬鹿な・・・俺は悪くないだろ・・・」
汐莉「馬鹿だと思うなら響紀に聞いてみてください」
鳴海「分かった・・・響紀、お前が喋らないのは・・・俺のせいなのか・・・?」
首を何度も縦に振る響紀
少しの沈黙が流れる
鳴海「喋って良いぞ・・・響紀・・・」
真彩は二つのメロンパンを響紀の目の前に突き出す
真彩「(二つのメロンパンを響紀の目の前に突き出したまま)どっちがいーのか言ってみろ!!ほら早く!!」
響紀「(真彩からメロンパンを一つ奪い取り大きな声で)どっちでも良い!!!!」
再び沈黙が流れる
椅子に座る真彩
鳴海「俺のせいだって気づいてたなら、もっと早めに教えてくれよ、南」
汐莉「すみません、ちょっと面白くて」
響紀「酷いよ汐莉・・・虐めるなんて・・・」
汐莉「ごめん・・・」
響紀「明日香ちゃんも私のことを忘れてたの・・・?」
明日香「う、ううん・・・鳴海のせいだって最初から分かってたけど・・・か、可愛かったから・・・」
嶺二「惚気るなきめーぞ明日香!!」
明日香「う、うるさい!!というか惚気てないし!!」
雪音「無駄に分かりやすい反論じゃん」
明日香「(大きな声で)わ、分かりやすい!?!?な、何のこと!?!?」
雪音「明日香は気にしなくて良いよ」
明日香「え・・・」
嶺二「んなことよりも早くメロンパンを食おうぜ」
腕時計を見る嶺二
嶺二「ってあと10分で昼休みは終わりか」
鳴海「(驚いて)じゅっ、10分だと!?」
袋からメロンパンを取り出す嶺二
嶺二「(袋からメロンパンを取り出しながら)ああ」
鳴海「み、みんなメロンパンは後回しにしろ!!」
袋からメロンパンを取り出す明日香
明日香「(袋からメロンパンを取り出しながら)何でよ?」
鳴海「だ、大事な話があるからだ!!」
明日香「(袋からメロンパンを取り出して)ご飯を食べることだって大事なんだけど・・・」
鳴海「め、飯なんかいつでも良いだろ!!」
明日香「あんた、ご飯くらいちゃんと食べなさいよ。ただでさえ痩せてるのに、骨と皮だけになりたいわけ?鳴海」
鳴海「お、お前は俺の姉貴か・・・」
メロンパンを食べ始める明日香
鳴海「お、おい!!大事な話があるって言ってるだろ!!」
袋からメロンパンを取り出す雪音
雪音「(袋からメロンパンを取り出しながら)いつも大事な話があるって鳴海は言ってるよね」
鳴海「きょ、今日は本当に大事な話があるんだよ!!」
雪音「(袋からメロンパンを取り出して興味なさそうに)へぇー・・・」
メロンパンを食べ始める雪音
嶺二「悪い鳴海、空腹には勝てねえ・・・」
真彩「うちもっす・・・」
メロンパンを食べ始める嶺二
袋からメロンパンを取り出す真彩
真彩「(袋からメロンパンを取り出しながら)食べなきゃ死んじゃうっすよ、鳴海くん」
鳴海「世の中には食うことよりも大事なことが・・・」
袋からメロンパンを取り出す詩穂
響紀が真っ直ぐ手を挙げる
鳴海「な、何だ響紀」
響紀「(手を下ろし)ンーンーンーンー」
鳴海「良いから早く喋れ」
響紀「お腹が空いたんでメロンパンを食べます」
袋からメロンパンを取り出す響紀
少しの沈黙が流れる
明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩がメロンパンを食べている
鳴海と汐莉だけはメロンパンを袋から出していない
汐莉「鳴海先輩、大事な話って何ですか?」
鳴海「色々あるんだが・・・一番最初にみんなに言っときたいのは・・・菜摘のことだ」
メロンパンを食べていた明日香、雪音、響紀、詩穂、真彩の手が止まる
嶺二が慌ててメロンパンを口に詰める
汐莉「話してください、先輩」
再び沈黙が流れる
鳴海「菜摘の体調は・・・少しずつ良くなっているらしい」
少しの沈黙が流れる
嶺二「(大きな声で)お、おおっ!!!回復の兆しってやつか!?!?」
鳴海「はっきりとしたことはまだ分からないんだ・・・ただ、検査結果の数値が大幅に改善されて、この調子で良くなれば退院出来ると菜摘は言っていた」
汐莉「(大きな声で)ほ、本当ですか!?!?」
鳴海「あ、ああ」
嶺二「(大きな声で)やったな鳴海!!!みんなで菜摘ちゃんお帰りクリスマスパーティーをやろーぜ!!!」
鳴海「ま、まだ喜ぶのは早いんだ・・・」
嶺二「何でだよ!?」
鳴海「な、菜摘の検査の結果が毎回良くなるとは・・・」
雪音「限らない」
頷く鳴海
嶺二「て、てめーら・・・せっかくの明るいニュースを・・・」
詩穂「また一気にお通夜みたいな雰囲気になっちゃった・・・」
真彩「えっ?お通夜?」
響紀「ここは私が軽い下ネタをぶちかまして淀んだ空気を入れ替えてあげましょう!!セック・・・」
明日香が慌てて響紀の口を塞ぐ
鳴海「響紀・・・やっぱりお前は黙っていろ・・・」
明日香に口に塞がれた響紀が首を縦に振る
明日香「(響紀の口を塞ぐのをやめて)そ、それで・・・退院はどのくらいの時期になるの?」
鳴海「早くても・・・年明けだ・・・」
明日香「と、年明け・・・?」
鳴海「ああ・・・」
再び沈黙が流れる
嶺二「厳しーな・・・」
詩穂「厳しいで済ませる話じゃないですよ!!早くても年明けって・・・下手すれば春になってるじゃん!!」
雪音「すぐには退院出来ないって事実を受け入れるしかないよねー。病気なんて治る方が奇跡なわけだし」
真彩「じゃ、じゃあ・・・今後はどうします・・・?またスケジュールも練り直した方が良いと思うんすけど・・・」
鳴海「そうだな・・・」
少しの沈黙が流れる
汐莉「菜摘先輩が参加出来ないなら・・・朗読劇をやる必要もないと思います・・・(少し間を開けて)菜摘先輩抜きの朗読劇なんて・・・無意味です・・・」
嶺二「(大きな声で)そ、そりゃあんまりだろ汐莉ちゃん!!!菜摘ちゃんがいなくたって、出来ることをやるのが文芸部じゃねーのかよ!!!」
真彩「でも波音役が・・・」
嶺二「な、菜摘ちゃんの代わりに代役を立てよーぜ!?な!?それでいーだろ!?鳴海!!」
鳴海「菜摘以外の奴に波音役をやらせろってことか?」
嶺二「そ、そーだ!!」
鳴海「ふざけるなクソ野郎」
嶺二「(大きな声で)な、何で反対するんだよ!?!?」
鳴海「あの役は菜摘の物だ」
嶺二「(大きな声で)その菜摘ちゃんが来れねーから代役を立てるんだろ!!!少しは妥協してくれよ鳴海!!!」
鳴海「妥協、か・・・なら言わせてもらうが、お前だってクソ身勝手だろ」
嶺二「(大きな声で)俺は朗読劇を成功させようと全力でやってるんだ!!!!」
汐莉「嶺二先輩だけが頑張ってるみたいなアピールはやめてください。先輩以外の人も、朗読劇のために一生懸命やってますけど、みんな嶺二先輩ほどの余裕はないんですよ」
詩穂「(頷き)先輩たちは要求が多いし、こっちはもういっぱいいっぱいです」
明日香「ちょ、ちょっと!!確かに嶺二が自分勝手なのはムカつくけど、それでもこいつが言った代役を立てるって案は正しいでしょ!?」
汐莉「正しいから納得しろってのは無理があります」
明日香「はぁ!?現実問題、菜摘の代わりを考えるのが筋だと思わないの!?」
再び沈黙が流れる
響紀「方法は三つ、ナレーションとその他をやってる明日香ちゃんに兼ね役で波音を担当してもらうか、軽音部の中から人を出して波音役をやるか・・・」
鳴海「(響紀の話を遮って)俺の許可を貰う前に喋りやがったな、お前」
響紀「すみません、皆さんの進まない議論を聞いてるとついイライラして・・・口が開きました」
嶺二「気にすんなよ響紀ちゃん。むしろこれからはガンガン口を開いていこーぜ」
響紀「はい。私としては愛しの明日香ちゃんに波音役をやって欲しいですね」
明日香「(大きな声で)む、無理無理無理無理!!!ナレーションだってやりたくないのに!!!」
響紀「だったら詩穂か真彩が・・・」
真彩「えっ・・・それはちょっと・・・うちらもライブの練習があるし・・・」
詩穂「そもそも文芸部じゃない人が朗読をやるのはおかしいって、響紀くん・・・」
少しの沈黙が流れる
響紀「では、波音役は雪音さんにやって貰いましょう」
鳴海「い、一条に波音を・・・?」
響紀「そうです」
明日香「文芸部で空いてるのは雪音しかいないしね」
鳴海は雪音のことを見る
雪音「良いよ、私が菜摘の代わりに波音役をやってあげる」
俯く鳴海
鳴海「(俯いたまま)時間をくれ」
雪音「何のための時間?」
鳴海「(俯いたまま)考えるための時間だ・・・」
雪音「良いけど、何百時間考えたって答えは同じだと思うよ」
◯961波音高校四階階段/屋上前(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
屋上に続く扉には、天文学部以外の生徒立ち入り禁止という貼り紙がされている
沈みかけた夕日の光が扉から差し込んでいる
屋上前の階段に座っている雪音、詩穂、真彩
雪音、詩穂、真彩の近くには部員募集の紙の束が置いてある
話をしている雪音、詩穂、真彩
真彩「これってサボりになるんじゃないんすかね・・・?」
雪音「うん。でももしバレても、雪音先輩に連れて来られたって言えば二人は責められないから」
真彩「は、はあ・・・(小声でボソッと)ほんとにそれで大丈夫かなぁ・・・」
雪音「何?」
真彩「な、何でもないっす!!」
少しの沈黙が流れる
詩穂「雪音さん、どうして私たちとここへ来たんですか?」
雪音「まあちょっと、軽いお喋りがしたかったんだよね」
詩穂「軽いお喋り?」
雪音「そう。単刀直入に聞くけど、二人は朗読劇についてどう思ってるの?」
◯962波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
軽音部の部室にいる鳴海と汐莉
校庭では運動部が水たまりを避けて活動をしている
教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある
椅子に座っている鳴海と汐莉
鳴海の机の上には部員募集の紙の束が置いてある
汐莉の机の上には筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある
汐莉「私に聞かないでくださいよ・・・」
鳴海「お前の正直な意見が知りたいんだ・・・南は菜摘がいない状態で朗読劇をやるのは反対なのか?」
汐莉「さっきも言いましたけど・・・無意味だとは思います・・・反対とか賛成とかそれ以前に、朗読劇って行為そのものの価値が消えた感じです。(少し間を開けて)鳴海先輩はどうなんですか?本気で今のまま朗読劇をやりたいと思ってるんですか?」
鳴海「思ってるわけないだろ・・・」
少しの沈黙が流れる
汐莉「こういう時は勇気を振り絞らなきゃダメですよ。鳴海先輩の鶴の一声で、文芸部の活動方針は決まるんですから」
鳴海「残念ながら俺の発言権はそこまで強くないんだ」
汐莉「そうですかね?先輩がはっきりやめるって言えば、みんなも従うしかないと思いますけど」
鳴海「どうだがな・・・」
汐莉「鳴海先輩」
鳴海「何だ?」
汐莉「私はまだ、鳴海先輩たちのことを信じてますから」
再び沈黙が流れる
汐莉「鳴海先輩と菜摘先輩が私の手を引っ張ってくれるって、信じてますから」
鳴海「俺たちの関係は普通の先輩と後輩だぞ、忘れたのか」
汐莉「覚えてますよ、先輩。痛いくらい鮮明に覚えてます」
鳴海「南は俺と菜摘に何を望んでるんだ?」
汐莉「普通の関係を超えることです」
鳴海「俺は・・・お前の期待には応えられない。(少し間を開けて)俺は菜摘とは違う、あいつみたいに気が効くわけじゃないし、優しくもない。おまけに弱いんだ。だから俺は・・・」
汐莉「逃げてるんですか?」
◯963波音高校二年生廊下(放課後/夕方)
二年生廊下にいる明日香、嶺二、響紀
廊下には明日香たちの他に生徒はいない
夕日が廊下を赤く染めている
明日香、嶺二、響紀は部員募集の紙の束を持っている
廊下を歩いている明日香、嶺二、響紀
嶺二「人がすくねーな・・・みんな俺らから逃げてんじゃねのーか?」
明日香「期末テスト前だから人がいないんでしょ」
嶺二「テストとかちょー先のことだろ?」
響紀「試験日は22、23、24です。つまり余裕で一ヶ月切ってます」
嶺二「やっぱまだまだ先だな」
明日香「嶺二、お願いだから近づかないでね。あんたの側にいると私と響紀の知能指数が下がるかもしれないから」
嶺二「馬鹿野郎俺の近くにいるからこそ響紀ちゃんみてーな天才は育つんだぞ」
響紀「私は元々天才ですが」
少しの沈黙が流れる
明日香「嶺二のせいで響紀が馬鹿になっちゃったじゃない」
嶺二「明日香のしつけが悪いからいけねーんだろ」
響紀「ああ・・・もっと調教して明日香ちゃん・・・」
明日香「へ、変なことを言うのはやめなさい!!」
嶺二「(呆れて)お前ら普段どんなプレイをしてるんだよ・・・」
響紀「SM?」
明日香「し、してない!!してないから!!」
明日香の顔が赤くなっている
再び沈黙が流れる
嶺二「明日香と響紀ちゃんが生粋の変態であるという重要な事実はさておきだ」
明日香「わ、私も響紀も変態じゃないし!!!」
嶺二「わぁーったよ・・・んなことよりも、明日香と響紀ちゃんは代役を立てる案についてどう思ってるのか教えてくれ」
明日香「ど、どうもこうも賛成に決まってるでしょ!!というか代役を立てる以外に選択肢はないんだから、嫌でも菜摘の代わりを探さないと・・・」
嶺二「だよな」
響紀「代役を立てないなら、朗読劇は中止ですね」
嶺二「こんなところで中止になってたまるかよ・・・何があっても朗読劇は成功させるんだ」
明日香「嶺二にしては珍しく必死じゃないの」
嶺二「この朗読劇だけはな・・・必死でやるしかねーだろ」
明日香「そうね・・・私たちにとっては高校の最後の思い出になる行事だし・・・」
響紀「全力でお手伝いしますよ、明日香ちゃん」
明日香「ありがとう。巻き込まれた軽音部のためにも、絶対に成功させなきゃね」
嶺二「ああ」
◯964波音高校四階階段/屋上前(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
屋上に続く扉には、天文学部以外の生徒立ち入り禁止という貼り紙がされている
沈みかけた夕日の光が扉から差し込んでいる
屋上前の階段に座って話をしている雪音、詩穂、真彩
雪音、詩穂、真彩の近くには部員募集の紙の束が置いてある
話をしている雪音、詩穂、真彩
雪音「二人はやりたくないんだ、合同朗読劇」
真彩「め、めちゃくちゃやりたくないってわけじゃないっすよ!!」
雪音「そうなの?」
真彩「は、はい・・・ただ・・・色々と心配で・・・」
雪音「心配って?」
顔を見合わせる詩穂と真彩
詩穂「(真彩と顔を見合わせるのをやめて)軽音部と文芸部で連携が取れてないし・・・成功する気がしないんですよね・・・」
雪音「先輩たちのことが信じられないんでしょ」
真彩「(慌てて首を横に振りながら)け、決してそんなことはないっす!!」
雪音「ふーん・・・私のことも信じられるんだ?」
真彩「そ、それは・・・えっとー・・・」
少しの沈黙が流れる
詩穂「汐莉と雪音さんの間で何かあってから、信じられなくなりました」
真彩「な、何ぶっちゃけてるんだよ!?」
詩穂「だって・・・汐莉が・・・」
真彩「し、汐莉は汐莉!!うちらはうちら!!」
再び沈黙が流れる
雪音「私たちのことが信用出来ないなら、文芸部を追い詰めれば良いんだよ」
真彩「お、追い詰めるってゆーのは・・・?」
雪音「文芸部と軽音部の全員で朗読劇をやるか、中止にするかの多数決を取るの」
詩穂「えっ?そんなことをしても良いんですか?」
頷く雪音
雪音「追い詰めれば鳴海たちももっと全力になるから」
真彩「で、でも・・・もしほんとに中止になったら・・・」
雪音「それはそれで良いじゃん。朗読劇が消えたら軽音部は自由になれるんだよ?そしたら汐莉の負担だって減らせると思わない?」
◯965波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
軽音部の部室にいる鳴海と汐莉
校庭では運動部が水たまりを避けて活動をしている
教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある
椅子に座っている鳴海と汐莉
鳴海の机の上には部員募集の紙の束が置いてある
汐莉の机の上には筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある
鳴海と汐莉は話をしている
鳴海「菜摘なら・・・南の望みを叶えてくれると思う・・・だが・・・俺には・・・」
汐莉「無理・・・なんですね・・・」
鳴海「ああ・・・」
少しの沈黙が流れる
汐莉「みんな、みんなわがままで、クソ野郎だと思います。文芸部も、軽音部も、基本はクソッタレの集まりなんですよ。でもそんなクソ野郎たちをまとめていたのが菜摘先輩だったから・・・今まで上手くやれてたんです。(少し間を開けて)鳴海先輩・・・先輩だって・・・嶺二先輩と変わらないですよ。クソ身勝手で、みんなを巻き込んで、散々振り回してます。私たちは鳴海先輩の期待に応えようとしてますが、その一方で鳴海先輩は私たちの期待に応えようとしない。ほんと、甘ったれた奴ですよね。昔は鳴海先輩のことを頼りになる人だと思ってましたけど、今の先輩は・・・ただのクソヘタレです」
再び沈黙が流れる
立ち上がる鳴海
机の上に置いてあった部員募集の紙の束を手に取る
汐莉「出て行くんですか?」
鳴海「少し喋り過ぎたからな・・・そろそろ部員募集をしないと、文芸部が潰れちまうだろ」
汐莉「潰れたって良いですよ・・・来年には私一人の部活になるんですから・・・」
鳴海「そうか・・・(少し間を開けて)今の言葉・・・菜摘が聞いたら悲しむだろうな・・・」
鳴海は軽音部の部室から出て行く
汐莉は鳴海が出て行って少ししてから、机に突っ伏す
汐莉「(机に突っ伏したまま)私だって・・・菜摘先輩を悲しませたくはありませんよ・・・」
◯966波音高校一年生廊下(放課後/夕方)
一年生廊下にいる鳴海
廊下には鳴海の他に生徒はいない
夕日が廊下を赤く染めている
鳴海は部員募集の紙の束を持っている
廊下を歩いている鳴海
鳴海「(声 モノローグ)南は正しいことを言ってる・・・俺はみんなを振り回してるんだ・・・あいつらが俺の話を聞かないのは、俺のわがままに付き合うのに疲れたからじゃないか・・・毎日結果が伴わない努力をして、無能な副部長の命令を聞き続けてるんだ・・・(少し間を開けて)後輩から軽蔑されて当然だな・・・」
◯967帰路(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
一緒に帰っている嶺二と雪音
部活帰りの学生がたくさんいる
話をしている嶺二と雪音
雪音「詩穂と真彩に多数決をしよって提案しちゃった」
嶺二「た、多数決って何のだよ?」
雪音「朗読劇をやるか、中止にするかっていう多数決」
嶺二「(大きな声で)ふ、ふざけんじゃねえ!!!もしそれで中止になったら・・・」
雪音「(嶺二の話を遮って)ならないよ」
嶺二「て、てめえ責任は取れるんだろうな!?」
雪音「当たり前じゃん。私は鳴海みたいに責任を放置して逃げ出したりするような臆病者じゃないんだよ」
少しの沈黙が流れる
嶺二「な、何で中止にならないって言い切れるのか説明しろ」
雪音「私は誰がどっちに投票するのか分かってるの」
嶺二「(大きな声で)た、ただよそーしてるだけじゃねーか!!!」
雪音「絶対に当たる予想だけどね」
嶺二「て、適当なことを抜かすんじゃ・・・(少し間を開けて)わ、分かったぞ・・・票を仕組むんだろ?」
雪音「そんなことはしないよ。多数決はみんなが私の予想をしたところに票を入れて終わり。投票によって朗読劇は確実に決行することになるから、良かったね、嶺二」
嶺二「い、良いわけねーだろ!!」
雪音「どうして?柊千春に会いたいんじゃないの?」
嶺二「ゆ、雪音ちゃんのことは信用出来ねーんだよ!!」
再び沈黙が流れる
雪音「ねえ嶺二、私の予想が当たるか勝負しない?」
嶺二「い、いーぜ!!俺が勝ったら何をくれるんだ?」
雪音「何でも良いよ。欲しい物とかしたいことがあればそれを言って」
嶺二「な、何でもいーのか・・・?」
雪音「うん」
嶺二「一軒家でも?」
雪音「(呆れて)良いけど・・・馬鹿みたい・・・」
嶺二「家は大事だろ!!」
雪音「(呆れたまま)もっと他の物を要求したら・・・?」
嶺二「(大きな声で)豪邸に住んでる雪音ちゃんには分からねーだろーけどな、俺はマイハウスが欲しいんだよ!!!!」
雪音「(呆れたまま)そう・・・じゃあ家ね・・・」
嶺二「(小声でボソッと)マジで用意出来るのか・・・さすが大金持ちはちげーな・・・」
雪音「私が勝ったら、嶺二は何をくれるの?」
嶺二「あらかじめ断っておくが、家は・・・」
雪音「(嶺二の話を遮って)分かってる」
嶺二「ロケットとか城も無理だからな」
雪音「そんな物要らない」
嶺二「なら何が欲しいんだよ?ブランド物か?」
雪音「んー、何だろうなー」
嶺二「考えるふりをするのはやめろ」
雪音「バレた?」
嶺二「バラす気しかなかっただろーが・・・(少し間を開けて)で、何が欲しいんだよ」
雪音「キス」
嶺二の足が止まる
嶺二に合わせて雪音も立ち止まる
少しの沈黙が流れる
雪音「聞こえてたでしょ?嶺二」
再び沈黙が流れる
歩き始める嶺二
雪音も歩き始める
嶺二「やっぱこの話はなしな、マイハウスとかマジで要らねーし」
雪音「勝負から逃げるのは男らしくないよ」
嶺二「雪音ちゃん、不要な戦いをしねーが本物の男なんだぞ」
雪音「へぇー。私とキスしたくないからって、そんな言い訳までするんだ」
嶺二「雪音ちゃんとチューしたら、体が腐るかもしれねーだろ」
少しの沈黙が流れる
雪音「朗読劇中止・・・つまり反対票に入るのは4票。逆に朗読劇決行の票は・・・5票。要するに勝負は私の勝ち」
嶺二「たった1票の差かよ・・・これで朗読劇が中止になったらどう責任を取ってくれるんだ」
雪音「家でしょ?」
嶺二「しょ、勝負はなしだって言ってんだろ・・・」
◯968帰路(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
一緒に帰っている汐莉、詩穂、真彩
部活帰りの学生がたくさんいる
話をしている汐莉、詩穂、真彩
真彩「多数決ってのもなー・・・」
詩穂「気分を替える良い機会になるよ」
真彩「気持ちねー・・・でも提案したのがあの雪音さんだしー・・・」
詩穂「汐莉は多数決なんかしない方が良いと思う?」
汐莉「さ、さあ・・・どうかな・・・」
少しの沈黙が流れる
汐莉「あっ、で、でも・・・このままじゃいけないっていうか・・・わ、私が何とかしなきゃって気持ちはあるよ」
詩穂「汐莉、無理して気を使うのは良くないって・・・」
再び沈黙が流れる
真彩「今ならギリ・・・軽音部が朗読劇から抜けてもへーきだよね・・・」
詩穂「うん・・・」
深くため息を吐き出す汐莉
詩穂「汐莉、大丈夫?」
汐莉「まあ何とか・・・」
真彩「多数決はどうすっかねー・・・?」
少しの沈黙が流れる
汐莉「確かに朗読劇は・・・文芸部だけでも成立すると思うけどさ・・・(少し間を開けて)でもそれじゃあ・・・菜摘先輩たちの期待を裏切ったことになるよ・・・」
真彩「無理なことを無理って言うのが裏切りになるのかなぁ・・・つかむしろ無理なことに挑戦して失敗する方が裏切ってない・・・?」
汐莉「だ、だけど・・・菜摘先輩が・・・」
詩穂「汐莉、菜摘さんは参加出来るか分からないよ」
汐莉「で、でも・・・」
俯く汐莉
汐莉「(俯いたまま)そうだね・・・多数決をした方が良いかもしれない・・・」
真彩「多数決なんかしないで、もう参加しませんってうちらから言っちゃおうよ」
詩穂「そんな提案、鳴海くんが受け入れてくれる?」
真彩「あー・・・受け入れないだろーね・・・」
汐莉「(俯いたまま)多数決をするしかないよ・・・鳴海先輩は今・・・私たちの話をそのまま聞けるほど心中穏やかではないから・・・」
真彩「そっかー・・・で、でもさ汐莉、多数決って案を出しのは・・・」
汐莉「(俯いたまま)雪音先輩なんでしょ・・・?」
真彩「う、うん・・・」
詩穂「汐莉、雪音さんと何があったの?」
汐莉「(俯いたまま)何も・・・」
真彩「ふ、二人で話をしたって聞いたんだけど・・・」
汐莉「(俯いたまま)そうだよ・・・ただ・・・話をしただけだから・・・」
再び沈黙が流れる
汐莉「(顔を上げて)そ、そうだ。二人とも、今からどっか寄って息抜きでもしない?」
真彩「えっ、息抜き?」
汐莉「う、うん。たまには女子高生らしく遊ぼうよ」
詩穂「おっ、良いね。私ストレス発散したい」
汐莉「私も」
真彩「ストレス発散って何すんの?」
汐莉「えっとー・・・まあ適当に・・・」
真彩「(小声でボソッと)鳴海くんみたいな言い方だな・・・」
汐莉「鳴海先輩・・・?」
真彩「し、汐莉の言葉使いが鳴海先輩と似ていたよーな気がして・・・」
詩穂「汐莉はクソって言わないじゃん」
真彩「そ、そーだね・・・」
詩穂「あっ!」
真彩「な、何・・・?」
詩穂「久しぶりにあそこ行きたいんだった」
汐莉「どこどこ?」
素振りをする詩穂
汐莉「バッティング・・・?」
詩穂「(素振りをやめて)うん」
真彩「息抜きなのに運動かぁ・・・(少し間を開けて)つか女子高生の寄る場所がバッティングセンターって・・・」
詩穂「でも楽しいよ」
汐莉「私バッティングセンターに行くたびに思うんだけどさ・・・詩穂は・・・打たないんだよね・・・?」
再び沈黙が流れる
詩穂「打つのは真彩担当だもん」
真彩「えっ・・・私だけっすか・・・」
◯969バッティングセンター(放課後/夕方)
バッティングセンターにいる汐莉、詩穂、真彩
バッティングセンターの中ではバットがボールに当たる音が鳴り響いている
バッティングセンターには複数台のピッチングマシンがあり、それぞれ80km、90km、100km、110km、120km、130km、140kmの球速が出る
ピッチングマシンの上にはホームランの的がある
バッティングセンターにはカウンターがあり、カウンターの中にホームランの景品のバット、グローブなどが置いてある
カウンターの近くには自動販売機がある
ピッチングマシンの他にはストラックアウトがある
バッティングセンターには汐莉たちの他に数人の客がいる
バッティングセンターにはベンチが何台も置いてある
汐莉、詩穂、真彩たちはベンチに座っている
汐莉たちは足元にカバンを置いている
真彩「せめてボウリングとか、カラオケに行かない・・・?」
汐莉「もう遅いよ、まあやん」
真彩「(舌打ちをして)チェッ・・・こちとら疲れてるのに・・・」
詩穂「頑張って!!」
真彩「あーあ・・・暖房のついたファミレスでぬくぬくしたかったなぁ・・・」
真彩は立ち上がり、カバンを開けて財布を取り出す
財布の中のから300円を出し、財布をカバンにしまう真彩
真彩は汐莉たちが座っているベンチの正面にある硬貨投入口に300円を入れる
100kmの球速が出る打席に真彩は入る
打席の横に立ててあったバットを手に取る真彩
バットを構える真彩
ピッチングマシンからボールが発射される
バットを振り真彩はボールを打つ
バッティングセンター内にバットの音が響く
詩穂「ナイスバッティング!!」
汐莉と詩穂は真彩のバッティングを見ている
バットを構え直す真彩
ピッチングマシンからボールが発射される
バットを振り真彩はボールを打つ
バッティングセンター内にバットの音が響く
汐莉「まあやん、相変わらずバッティング上手いよね」
詩穂「体育会系だもん、脳筋ってやつだよ」
汐莉「それ褒めてなくない・・・?」
詩穂「そう・・・?響紀くんは脳筋って言われて喜んでたけどな・・・」
汐莉「響紀は変わってるから・・・」
ピッチングマシンからボールが発射される
バットを振り真彩はボールを打つ
バッティングセンター内にバットの音が響く
詩穂は立ち上がり、カバンを開けて財布を取り出す
詩穂「付き合ってくれたから、なんか奢るよ」
汐莉「えっ、ほんと?」
詩穂「うん!何が良い?」
汐莉「じゃあ・・・ぶどうジュース!」
詩穂「オッケー、真彩はコーラで良いかな・・・?」
汐莉「多分・・・」
詩穂「(大きな声で)まーや!!!コーラ!?!?」
真彩「(バットを振りながら大きな声で)私はコーラじゃねえ!!!!」
ボールがバットに当たる
バッティングセンター内にバットの音が響く
真彩が打ったボールはホームランの的近くに飛んで行く
詩穂「(大きな声で)コーラにしとくからー!!!」
バットを構え直す真彩
詩穂「汐莉、荷物見てて」
汐莉「あ、うん」
詩穂は自動販売機がある方へ向かう
一人で真彩のバッティングを見ている汐莉
ピッチングマシンからボールが発射される
バットを振り真彩はボールを打つ
バッティングセンター内にバットの音が響く
バットを構え直す真彩
真彩は空振りをせずに、ボールを打ち続ける
ピッチングマシンからボールが発射される
バットを振り真彩はボールを打つ
バッティングセンター内にバットの音が響く
自動販売機の方へ向かった詩穂のことを見る汐莉
詩穂はカウンターでバッティングセンターの店員と楽しそうに話をしている
詩穂がカウンターで話をしている相手は波、音高校の一年生で野球部に所属している細田周平
細田はバッティングセンターでバイトをしている
少しの間詩穂と細田のことを見続ける汐莉
俯く汐莉
汐莉「(俯いたまま)響紀・・・今頃何してるんだろ・・・明日香先輩と遊んでるのかな・・・」
ピッチングマシンからボールが発射される
バットを振り真彩はボールを打つ
バッティングセンター内にバットの音が響く
バットを構え直す真彩
◯970滅びかけた世界:緋空浜(昼前)
快晴
緋空浜にいるナツ、スズ、老人
太陽の光が波に反射し、キラキラと光っている
三人がいるところは老人が掃除し終えた場所で、ゴミは全くない
三人がいるところから数百メートル先の浜辺はゴミで溢れている
三人がいるところから少し離れたところに荷台のある黒くて大きなピックアップトラック型の車が駐車されている
車の荷台にはショッピングモールから盗んだ楽器、スポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、海で遊ぶ道具、スケートボードなど、色々な物が山のように積まれている
浜辺にはところどころに水たまりが出来ている
浜辺で野球をしているナツ、スズ、老人
グローブをはめているナツ
老人は軟式ボールを持っている
老人の近くにはボルトアクションライフルが置いてある
バットを構えているスズ
ナツはスズの後ろでグローブを構えている
ボールを投げる老人
バットを振りスズはボールを打つ
振り返る老人
スズが打ったボールは綺麗な放物線を描いて遠くの方へ飛んで行く
スズ「よっしゃー!!」
老人はボールを追いかける
老人「(ボールを拾い大きな声で)悪くないスイングだぞ!!!スズ!!!」
スズ「すいんぐ・・・って何?なっちゃん」
ナツ「何だろ・・・振り方のことかな。多分スズのことを褒めてるんだと思うよ」
スズ「おおー、私は悪くないすいんぐなんだー」
ボールを拾う老人
老人はボールを投げていた位置に戻る
バットをナツに差し出すスズ
スズ「(バットをナツに差し出したまま)はい、次はなっちゃんね」
ナツ「やらない」
スズ「(バットをナツに差し出したまま)ええ!?何で!?青春なのに!!」
ナツ「スズ、絶対こんなの青春じゃないよ」
スズ「(バットをナツに差し出したまま)そうなの?」
ナツ「うん」
スズ「(バットをナツに差し出すのをやめて)どーしてジジイは本当の青春を体験させてくれないんだろーね?」
ナツ「あいつ自身、本当は青春が何か分かってないのかも」
スズ「あー・・・ふったか振りしてるのかなー・・・」
ナツ「知ったかぶり、だ」
スズ「ほとんど合ってるよ、なっちゃん」
少しの沈黙が流れる
老人「次はナツの番だぞー!!」
グローブを外すナツ
ナツ「私、やめる」
スズ「えー・・・」
ナツ「こんなのは青春じゃない」
老人はボルトアクションライフルを拾い肩にかけてナツとスズのところへやって来る
老人「どうかしたのか?」
スズ「ジジイ、何で本物の青春を体験させてくれないの?」
老人「運動だって立派な青春になるぞ、スズ」
再び沈黙が流れる
ナツは老人にグローブを突き出す
ナツの真似をしてバットを老人に突き出すスズ
老人「(ナツとスズからバット、グローブを受け取り)ここで待っていろ・・・」
老人は黒くて大きなピックアップトラック型の車が駐車されてる方へ歩き始める
スズ「次は青春かな?」
ナツ「さあ・・・」
ナツとスズは老人のことを見ている
老人は車の荷台にバット、グローブ、ボールを積み、代わりにベースギターとドラムセットを下ろし始める
ナツ「(老人のことを見たまま 声 モノローグ)本当にジジイは車の荷台にある物で青春を作り出せると思ってるんだろうか・・・」
時間経過
ナツとスズの目の前にはベースギター、ドラムセット、家庭用の大きな発電機、アンプ、ベースギターのケーブルが置いてある
家庭用の大きな発電機はベースギター、アンプ、ケーブルが繋がっている
ベースギターとアンプもケーブルが繋がっている
老人はベースのピックとドラムのスティックを二本持っている
老人は肩にボルトアクションライフルをかけている
ピックをナツに、スティックをスズに差し出す老人
老人「(ピックをナツに、スティックをスズに差し出したまま)試してみろ」
スズ「(スティックを受け取り)分かった!!」
老人「(ピックをナツに差し出したまま)ナツ、君もやってみるんだ」
渋々ピックを受け取るナツ
スズはドラムを適当に叩き始める
ナツ「うるさいな・・・」
ドラムを叩くのをやめるスズ
スズ「なっちゃんもやってみて」
ナツはピックでベースの弦を弾く
アンプからベースの音が流れる
スズ「格好良い音だね〜」
ベースを弾くのをやめるナツ
老人「何か演奏したい曲はないのか?」
ナツ「ない」
老人「スズは?」
スズ「うーん・・・」
少しの沈黙が流れる
スズは口笛を吹き始める
スズが口笛で吹いてる曲は”ジョニーが凱旋するとき”
老人「その曲は・・・思い出したぞ・・・ジョニーが凱旋するとき、だな?」
ナツ「有名な曲なの?」
老人「ああ、昔よく聞いたよ」
スズは口笛を吹くのをやめる
スズ「この曲、じょにいはがいせんする時って名前だったんだ・・・」
老人「初めて知ったのか?」
スズ「うん!ジジイはどこで聞いてたの?」
老人「船の上か・・・戦場か・・・仲間が口ずさんでいたか・・・もう忘れてしまったな・・・とにかくいろんなところで聞いたはずだが・・・」
スズ「そうなんだ〜」
再び沈黙が流れる
ナツ「それで青春は?」
老人「ああ・・・すまない。君たちで二人で、何か演奏をしたら良いと思ったんだ」
ナツ「演奏したらどうなるの?」
老人「記憶に・・・残る」
ナツ「つまり・・・?」
老人「人と一緒に何かを作って、それを完成させれば、素晴らしい思い出になるだろう?」
スズ「滅びかけた世界の思い出って要るのかなぁ?」
老人「スズ、世界は関係ないよ。思い出は一生心に残るものだ、特に親しい友人と共有した出来事は、どれだけの時間が経っても太陽のように輝き続けるのさ」
ナツ「思い出が青春になるってこと?」
老人「そうだ。自分の人生を振り返った時に甦る美しい思い出があれば、それは間違いなく青春だろう」
スズ「青春って、今じゃないんだね。過去なんだ」
老人「過去、か・・・」
少しの沈黙が流れる
老人「楽器はやめよう・・・」
時間経過
緋空浜近くの一般道にやって来たナツ、スズ、老人
老人は肩にボルトアクションライフルをかけている
道には至る所に雑草が生えており、緋空浜近くにあった店たちは廃墟になっている
一台のスケートボードが置いてある
老人「(スケートボードを指差して)これはスケートボードだ。とりあえず乗ってみろ」
スズ「分かったー!!(スケートボード目掛けてジャンプし)とうっ!!」
スズはスケートボードに飛び乗るが、ひっくり返って転ぶ
スケートボードはスズが転んだ勢いでそのまま滑って行く
頭を押さえるスズ
スズ「(頭を押さえたまま)いてててて・・・」
老人「大丈夫か?スズ」
スズ「(頭を押さえたまま)界がひっくり返って死ぬかと思ったよ〜」
ナツ「ひっくり返ったのはスズの方だろ」
スズ「(頭を押さえたまま)えへへ、転んじゃった」
スズは頭を押さえるのをやめて立ち上がる
スケートボードを取りに行く老人
老人はスケートボードをナツの目の前に置く
老人「慎重にな」
ナツ「うん・・・」
スズ「死なないよーにねなっちゃん」
ナツ「大丈夫・・・この乗り物、私得意な気がする」
ナツは慎重にスケートボードの上に乗る
スズ「お〜!!なっちゃん上手だね〜!!」
恐る恐る地面を蹴るナツ
スケートボードがゆっくり滑り出す
ナツ「(スケートボードでゆっくり移動しながら嬉しそうに)や、やった!!やっぱり得意なんだ!!」
ナツは再び地面を蹴る
ナツが乗ってるスケートボードは真っ直ぐ進む
スズ「ジジイ」
老人「何だ?」
スズ「きっとこれはね、なっちゃんにとって良い思い出になるよ」
老人「ああ」
スケートボードから降りて、ボードの向きを変えるナツ
ナツはスケートボードの上に乗る
地面を蹴るナツ
スケートボードが進み始める
ナツはスズと老人がいる方へ向かう
スズと老人の目の前で止まり、スケートボードから降りるナツ
老人「楽しいだろう?」
ナツ「う、うん・・・」
老人「そうか、それは良かった」
ナツ「スズも乗りなよ」
スズ「え〜・・・死ぬかもだからやだ」
ナツ「落ち着いて乗れば平気だって」
スズ「落ち着くの無理。じっとしてたら死んじゃう」
老人「お前は子犬か」
スズ「犬じゃないもん、人間様だもん」
老人「ナツ、スズ様をスケボーに乗せてやれ」
ナツはスズに手を差し出す
ナツ「(スズに手を差し出したまま)ほら、手持っててあげるから」
スズはナツの手を取り、慎重にスケートボードの上に乗る
スズ「(ナツの手を握ったまま)お〜!!私も乗れたよ〜ジジイ!!」
老人「良かったな」
スズ「(ナツの手を握ったまま嬉しそうに)うん!!」
ナツ「(スズの手を握ったまま)スズ、優しく地面を蹴ったら前に進むよ」
スズ「(ナツの手を握ったまま)や、やってみる!!」
スズはナツの手を握ったまま、そっと地面を蹴る
スケートボードがゆっくり滑り出す
ナツはスズの手を握りながら、スケートボードの動き合わせて歩く
スズ「(スズの手を握ったまま)お、落っこちるかも・・・」
ナツ「(スズの手を握ったままスケートボードの動きに合わせて歩きながら)大丈夫だよ、私が側にいるから」
老人はナツとのスズのことを見ている
スズは再び、そっと地面を蹴る
スケートボードがゆっくり進む
ナツはスズの手を握ったままスケートボードの動きに合わせて歩く
老人の瞳にはナツとスズではなく波音と凛の姿が映っている
老人にはナツとスズのことが波音と凛に見えている
少しすると波音と凛の姿が徐々にぼやけ始める
老人の瞳にはナツ、スズ、波音、凛ではなく菜摘と汐莉の姿が映っている
老人にはナツとスズのことが菜摘と汐莉に見えている
少しすると再び菜摘と汐莉の姿がぼやけ始める
老人の瞳には七海とスズが映っている
老人にはナツのことが七海に見えている
七海は15、6歳くらいの少女
涙を流す老人
老人「(七海とスズのことを見ながら涙を流して)七海・・・ナツはお前によく似ているよ・・・」
老人は涙を拭う
老人の瞳にはナツとスズが映っている
スズはナツの手を握ったままスケートボードから降りて、ボードの向きを変える
ナツの手を握ったままスケートボードの上に乗るスズ
スズはナツの手を握ったまま地面を蹴る
スケートボードが進み始める
ナツはスズの手を握りながら、スケートボードの動き合わせて歩く
手を握ったまま老人がいる方へ向かうナツとスズ
ナツとスズは老人の目の前で止まる
老人「スズも上手じゃないか」
スズ「(握っているナツの手を老人に見せて)なっちゃんがいてくれたからだよ〜!!」
老人「そうだな」
スズ「(ナツの手を握ったまま)なっちゃん!!今度は一人でやってみる!!」
ナツ「(スズの手を握ったまま)ひ、一人で?」
スズ「(ナツの手を握ったまま)うん!!」
スズはナツの手を離す
ナツ「お、落ちるなよ」
スズ「だいじょーぶ!!」
スズは地面を蹴る
スケートボードが進み始める
心配そうにスズのことを見ているナツ
老人「ナツはスズのことが大切なんだな」
ナツ「あいつは・・・私の家族だから・・・私が守ってやらないと・・・」
少しの沈黙が流れる
老人「すまない・・・」
ナツ「何が?」
老人「俺は君たちに何もしてやれてないが・・・本当は・・・もっと、幸せになって欲しいんだ」
ナツ「幸せなんて・・・不幸を引き立てる災いじゃん」
老人「ああ・・・人は一度過去の幸福に囚われてしまったら・・・這い上がれなくなってしまう・・・だが、生きてる限り幸福を望むのが人だ」
再び沈黙が流れる
ナツ「青春とか、学校生活はもう良いから・・・この滅びかけた世界で生き残る方法を教えてよ・・・私たちはこれからどうすれば良いのか・・・知りたいんだ・・・」
スズはスケートボードから降りて、ボードの向きを変える
スケートボードの上に乗るスズ
スズは地面を蹴る
スケートボードが進み始める
スズはナツと老人がいる方へ向かう
老人「分かった。(少し間を開けて)午後からは銃の訓練をしよう」
ナツ「銃なんか・・・必要ない」
ボルトアクションライフルを肩から外す老人
老人はボルトアクションライフルを見る
老人「(ボルトアクションライフルを見ながら)こいつは憎い相手のの命を噛み砕き、大切な人の命を守るために作られた道具だ。そんな銃とどう接するかは君の自由だが、いざという時に引き金は引けた方が良い」
ナツ「じ、ジジイは私たちを兵士に仕立て・・・」
老人「(ボルトアクションライフルを見たままナツの話を遮って)違うな。俺は二人に死んで欲しくないだけだ」




