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Chapter6卒業編♯10 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで。


Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由香里(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われていた武将。


一世(いっせい) 年齢不明 男子

ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。

Chapter6卒業編♯10 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯923波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 ◯901の続き

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 校庭にある水たまりはまだ乾いていない


響紀「三年生を送る会もクリスマスパーティーもいけそうです」

鳴海「そうか・・・それは良かった」

嶺二「ようやく明るい兆しが見えてきたな!!」

明日香「曲作りも部員募集も失敗続きなのにどこが明るいんだか・・・」

鳴海「曲は南が完成させてくれるはずだ」


 少しの沈黙が流れる


明日香「鳴海、本当に汐莉一人で大丈夫なの?」

鳴海「逆に一人だと何か問題でもあるのか」

明日香「問題大ありでしょ、また学校をサボるかもしれないのに」

鳴海「明日香、今曲作りに人を回してる余裕はないんだ。南には悪いが一人で作ってもらうしかない」

嶺二「とりま汐莉ちゃんの才能を信じよーぜ」

鳴海「ああ」

雪音「ねえ部長代理」

鳴海「何だ?」

雪音「曲っていつまでに完成させた方が良いの?」

鳴海「そういうことは響紀たちに・・・」

響紀「(鳴海の話を遮って)年内です」


 再び沈黙が流れる


詩穂「(小さな声で)今の汐莉じゃ年内は間に合わないよ・・・」

鳴海「あいつは俺たちのために曲を完成させようと頑張ってるのに、お前が間に合わないだなんて言ったら、南が報われないだろ」

詩穂「先輩は汐莉のことを何も分かってない。汐莉はもう限界が来てるんです、また先輩たちが無茶な要求をすれば、今度こそ汐莉は・・・」

鳴海「今度こそ、か・・・」

詩穂「お願いです鳴海先輩、汐莉にかける負担を減らしてください」

真彩「し、汐莉の仕事はうちらでリカバリーしますから!!」

鳴海「永山と奥野の申し出は嬉しいが・・・お前たちは作曲が出来ないんだろ・・・?」

真彩「い、今から作り方を勉強するっす!!ね!?詩穂!!」


 少しの沈黙が流れる


響紀「私が手伝います」


◯924◯865の回想/南家リビング(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 汐莉の家のリビングにいる鳴海と汐莉

 テーブルに向かって椅子に座っている鳴海と汐莉

 汐莉は部屋着を着ており、髪はボサボサになっている

 テーブルの上には空になったたこ焼きの舟皿が二枚置いてある

 話をしている鳴海と汐莉


鳴海「だ、だったら・・・」

汐莉「何ですか?」

鳴海「思い切って響紀に告白しろよ・・・」

汐莉「そんなこと・・・出来ません」

鳴海「早めに済ませて楽になろうとは思わないのか」

汐莉「私が今響紀に告白をしたら、響紀が私を避けるようになって終わりです。そんなのは嫌なんですよ」

鳴海「じゃ、じゃあ・・・どうしたら良いんだ・・・」

汐莉「だから分からないんです」


◯925回想戻り/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 校庭にある水たまりはまだ乾いていない

 話をしている鳴海たち


鳴海「響紀は・・・曲作りに参加するな」

響紀「何でですか?」

鳴海「お前は他にやることがあるだろ」

響紀「ありません」

明日香「響紀、あなたには生徒会の仕事を任せてるでしょ?」

響紀「うん・・・そうなんだけど・・・」

嶺二「響紀ちゃん、今は汐莉ちゃんの才能を信じ・・・」

詩穂「(嶺二の話を遮って)先輩たちは汐莉の才能を殺してる」

雪音「私たちに殺されるようなスキルは才能とは言わない思うけどなー」

真彩「し、汐莉の才能は本物っすよ!!」

雪音「なら年内に三曲完成させるのは楽勝だね」

真彩「す、スピードと才能は関係ないっす!!」

雪音「ふーん。何でも良いけど、完成が遅れて困るのは軽音部だから」


 少しの沈黙が流れる


雪音「というかさ、才能があっても納期を守れなきゃ意味ないよね。だって共同制作なんだよ?一人が遅れたらプロジェクトは失敗・・・」

鳴海「(雪音の話を遮って)もう良い分かったから黙っててくれ」

雪音「はーい」


 再び沈黙が流れる


鳴海「やっぱり・・・曲作りは南にやらせよう・・・」

真彩「し、汐莉一人っすか・・・?」


 頷く鳴海


明日香「年内に完成が間に合わなかったらどうするの?」

鳴海「どうもしない・・・」

明日香「打開策はないと?」

鳴海「ああ・・・」

明日香「鳴海が汐莉のサポートをしてあげなさいよ」

鳴海「俺がいたところで南の邪魔になるだけだ」

明日香「邪魔にならないようにサポートするってことが出来ないわけ?」

鳴海「俺が不器用だって知ってるだろ、お前」

明日香「も、もちろん知ってるけど・・・」

詩穂「(小声でボソッと)鳴海先輩がそんなんだから汐莉は学校に来なかったんだ・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「良いかお前ら、俺たちが南に合わせるんだ。南が俺たちに合わせるんじゃない。永山の言う通りあいつは限界寸前だ、年内に曲が完成しなかったら、練習は来年からやれ」


◯926波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 軽音部の部室で汐莉が一人曲制作を行っている

 机に向かって椅子に座っている汐莉

 机の上には筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある

 汐莉はパソコンの作曲ソフトを使い、打ち込みをしている

 校庭にある水たまりはまだ乾いていない


鳴海「(声)南の負担を減らしたくば、黙ってあいつのことを待つんだ。急がせるな、焦らせるな、煽るな」


◯927波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 それぞれの椅子の近くにはカバンが置いてある

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 校庭にある水たまりはまだ乾いていない

 話をしている鳴海たち


鳴海「才能は信じて待つことで伸びる場合もある。南一人でも大丈夫だってことを、俺たちで証明してやるんだ」

嶺二「お、おう!!そーだな!!汐莉ちゃんを応援しつつ俺たちは俺たちに出来ることをやろーぜ!!」

雪音「(舌打ちをして)チッ・・・(小声でボソッと)馬鹿みたい・・・アマチュアバンドのボーカルに才能なんかあるわけないじゃん・・・」


◯928帰路(放課後/夜)

 一人自宅に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「(声 モノローグ)今いるメンバーで曲作りをしても、南は幸せになれない・・・(少し間を開けて)響紀の奴・・・年内に完成なんて無茶なことを抜かしやがって・・・お前が明日香に惚れさえしなければ、こんなことにはならなかったんだぞ・・・」


◯929貴志家リビング(夜)

 リビングで夕飯を食べている鳴海と風夏

 鳴海と風夏はテーブルを挟んで向かい合って座っている

 テーブルの上にはご飯、味噌汁、唐揚げ、サラダ、取り皿などが並べられてある

 箸をご飯茶碗の上に箸を置く鳴海

 風夏は自分の取り皿にサラダを盛り付けている


鳴海「姉貴・・・飯作れるようになったんだな」

風夏「(取り皿にサラダを盛り付けながら)おっ!もしや褒めてくれんの?」

鳴海「褒めるっておい、生きてれば飯くらい作れて当然だろ」


 サラダを食べる風夏


風夏「(サラダを食べながら)いやいや、生きてれば当然なんてことは何一つないよ。鳴海、私の患者さんは一人でトイレにも行けないんだからね?」

鳴海「(小声でボソッと)菜摘のことを言ってるのかよ」


 サラダを食べていた風夏の手が止まる

 サラダを飲み込む風夏


風夏「ごめん」


 少しの沈黙が流れる


風夏「菜摘ちゃんなら今は落ち着いてるよ、鳴海」

鳴海「落ち着いたって、あいつの病気が治らなきゃダメなんだ・・・」

風夏「うん・・・」

鳴海「みんな・・・みんな菜摘が戻って来るのを待ってるのに・・・」

風夏「そうだね・・・鳴海は先生と菜摘ちゃんのことを信じて、退院出来る日を待とう?きっと良くなるからさ」

鳴海「信じて待とう、か・・・(少し間を開けて)信じて待つことが無責任だって言う奴もいるけどな・・・」

風夏「無責任でも、諦めるよりは良い。信じて待ってあげることが患者さんには大事なの」


 再び沈黙が流れる

 サラダを食べ始める風夏


鳴海「(声 モノローグ)南は文芸部の部室にほとんど顔を出さなくなった」


◯930波音高校校門(日替わり/朝)

 快晴

 たくさんの生徒たちが門を潜って学校の中へ入って行く

 校門の前で部員募集を行っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、詩穂、真彩

 鳴海、明日香、嶺二、雪音、詩穂、真彩は部員募集の紙の束を持っている

 通りかかる生徒たち部員募集の紙を差し出している鳴海たち


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら 声 モノローグ)朝に行う部員募集も、放課後の活動も、あいつは曲作りに時間を割いている」

明日香「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)部員集めにご協力お願いします!!!!」

詩穂・真彩「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)お願いしまーす!!!!」

嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出しながら大きな声で)楽しくて賑やかな部活だぞー!!!!」


 鳴海たちの前を通りかかる生徒たちは、文芸部のことを気に留めず周りの生徒たちと楽しそうに話をしながら校舎内へ入って行く


嶺二「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)俺らのことが見えてねーのかよ・・・」

雪音「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)どうでも良いんだろうね、文芸部なんてちっぽけな部活なことは。みんな興味ないって感じで通り過ぎて行くし」

真彩「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)これじゃ埒が明かないっすよ〜・・・」

詩穂「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)朝は汐莉と響紀にも協力を頼んだ方が良いと思います」

鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて)あいつには三年生を送る会とパーティーのスケジュールが決まるまで、生徒会優先で動いてもらわないと困るんだ」

詩穂「なら汐莉だけでも部員募集に参加を・・・」

鳴海「(詩穂の話を遮って)曲作りはどうするんだよ、年内の完成は諦めるのか?」

 

 少しの沈黙が流れる


詩穂「協力するんじゃなかった、文芸部に」

真彩「し、詩穂!!せっかくみんなで頑張って・・・」

詩穂「(真彩の話を遮って)みんな好きで頑張ってるように見えないから嫌なんだ」

嶺二「お、俺は好きで頑張ってるぜ?」


 再び沈黙が流れる


詩穂「汐莉も、先輩たちも、本当に文芸部に愛情を持ってるのか・・・」

鳴海「持ってなきゃこんなことは・・・」

雪音「(鳴海の話を遮って)持ってないよ」

鳴海「(イライラしながら)一条に何が分かるんだ」

雪音「飼い主を失えばどんな動物だってすぐに死ぬ、犬が愛するのは飼い主でしょ。(少し間を開けて)鳴海は犬小屋に愛情なんか持つと思ってるの?」


◯931波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)

 昼休み

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、雪音

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、雪音

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 校庭にある水たまりはまだ乾いていない


嶺二「詩穂ちゃん・・・きっつい言い方をするよな・・・」

明日香「私たちのことを信頼してないからでしょ・・・」

嶺二「だとしてもよ・・・あんなに言わなくたっていーだろ?」

鳴海「いや・・・永山は間違ってない・・・実際、俺たちは嫌々文芸部の活動をしてるじゃないか」

嶺二「お、俺は嫌々なんかじゃねーって!!」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「少なくとも永山からすれば、好き好んで楽しそうに部活をやってるようには見えないんだ」

雪音「ならやることを絞ったら良いんじゃない」

鳴海「もう絞ってるだろ、今は部誌制作だってやってないんだぞ」

雪音「それだけじゃ変わらないよね、もっと大きなことを諦めてもらわないと」

明日香「例えば何?」

雪音「軽音部との合同をやめたり・・・部員を集めるのを諦めたり・・・朗読劇を中止にしたり」

嶺二「ふ、ふざけんじゃねえ!!今更中止になんか出来るかよ!!」

雪音「朗読劇と部員募集の両方が失敗しても良いの?」


 再び沈黙が流れる


明日香「確かにどちらかに振り切った方が失敗する確率は下がるかも・・・」

嶺二「ろ、朗読劇は中止にさせねーぞ!!」

鳴海「千春のためにか?」

嶺二「だ、誰のためにやろーが俺の勝手だろ!!!」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「嶺二、だから俺たちは文芸部に愛情を持ってないって言われたんだ」

嶺二「(大きな声で)お、俺は真摯に部活に取り込んでるじゃねーか!!!」

鳴海「真摯に取り組んでるのは千春のためだろ」

嶺二「(大きな声で)それの何がいけねーんだよ!!!鳴海だって菜摘ちゃんのために部活をやってるだろーが!!!」

鳴海「文芸部は菜摘のものだ」

嶺二「(大きな声で)その菜摘ちゃんがいねーんだぞ!!!」

鳴海「じゃあお前が菜摘の代わりをやるか?」

嶺二「(大きな声で)そうさせてもらうよ!!!今日から俺が副部長で・・・」

明日香「(呆れて嶺二の話を遮って)やめなさい二人とも・・・」


 再び沈黙が流れる


明日香「さっき雪音が言ってたことだけど・・・」

雪音「うん」

明日香「部員募集をやめるのが良いと思う・・・」

鳴海「やめてどうなるんだよ?」

明日香「軽音部の拘束時間を減らせるでしょ」

鳴海「そうだな、思い出を分かち合う暇が出来るってわけだ。それともその時間は女好きの変態生徒会役員と遊ぶか?」

明日香「何で私と響紀に八つ当たりするのよ」

鳴海「お前の相手が響紀だからだ」

明日香「は?どういうこと?」

鳴海「(小声でボソッと)何でもない・・・」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「明日香は文芸部が廃部になってもいーんだな」

明日香「良いってわけじゃないけど・・・一番後回しにするべきなのが部員募集だと思うの」

嶺二「部員募集をやめるとして、その間俺たちは何をするんだ?」

明日香「汐莉の手伝いと朗読の練習」

嶺二「どーやって汐莉ちゃんを手伝うんだよ?」

明日香「それっぽいことを言うの」

鳴海「それっぽいことって何だ」

明日香「メロディについてとか」

鳴海「ふざけてるのか、お前」

明日香「これでも大真面目に話してるつもりなんだけど・・・」


 再び沈黙が流れる


嶺二「やっぱ汐莉ちゃん一人ってのはダメか・・・」

雪音「詩穂と真彩を汐莉の側に置けば?」

明日香「そうね。あの二人なら汐莉の気心も知れてるはずだし・・・」

嶺二「どーするよ?鳴海」

鳴海「どうするだと?お前らは部員募集をやめるのが最善策だと思ってるのか?」

明日香「最善策じゃなくて苦肉の策ね」

鳴海「明日香、部員募集をやめたら文芸部は廃部に・・・」

嶺二「(鳴海の話を遮って)部員募集は朗読劇の練習がない奴らでやれば良いじゃねーか」

雪音「私と嶺二で?」

嶺二「しょうがねーな・・・」

鳴海「今朗読の練習が出来るのは俺と明日香しかいないんだぞ!!」

嶺二「二日に一回は汐莉ちゃんも練習に参加してもらえよ」

鳴海「(大きな声で)あいつは曲を作らなきゃいけないだろ!!!!」


 少しの沈黙が流れる


雪音「菜摘と汐莉が戻って来るまでは鳴海一人で練習してれば良いじゃん」


◯932波音総合病院に向かう道中(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 波音総合病院に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる


鳴海「(声 モノローグ)永山と奥野を交えても、話が進展することはなかった。もうめちゃくちゃだ・・・やることなすこと全てが裏目に出て文芸部を暗黒の底へ突き落としている・・・(少し間を開けて)信じて待つことが如何に難しいのかよく分かった。犬なんて落ち着きのない動物だ。飼い主がいなければ、牙を剥くこともある・・・だから・・・俺たちははただ喋ってるんじゃない・・・お互いに噛みつき合ってるんだ・・・」


◯933帰路(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 一緒に帰っている嶺二と雪音

 部活帰りの学生がたくさんいる

 話をしている嶺二と雪音


嶺二「何で朗読劇か部員募集をやめようだなんて言ったんだよ?」

雪音「そうでもしなきゃ全部失敗すると思ったから」

嶺二「おめえは失敗しても良いと思ってんじゃねーのか」

雪音「ううん。ここまで来たからにはちょっとやってみたいんだよね、朗読劇」

嶺二「嘘つけよ」

雪音「ひどーい、信じてくれないんだー」

嶺二「雪音ちゃんは俺が今まで出会ってきた女の中で一番信用出来ねーぞ」

雪音「そう・・・別に私は信用されても嬉しくないし」

嶺二「むしろ信用を裏切るのが得意だろ」

雪音「えっ?私嶺二のことは裏切ってないじゃん」

嶺二「まだ、な」

雪音「そうだね。でも今は朗読劇は中止にならない方向っぽいから、楽にしてなよ」


 少しの沈黙が流れる


雪音「嶺二は愛しの千春ちゃんに再会出来ることを信じて、朗読劇を成功させるんでしょ?」

嶺二「予定ではそーだ」

雪音「予定通りになる自信がないの?」

嶺二「そりゃそーだろ、文芸部と軽音部には爆弾みたーな奴が多過ぎるからな」

雪音「汐莉とかね」

嶺二「雪音ちゃんもだ。てめーは隙あらば起爆剤を置いてくだろ」

雪音「起爆剤?嶺二の勘違いじゃないの?」

嶺二「んなわけあるか」

雪音「嶺二ってまだ千春に興味があるの?」

嶺二「いきなり話を変えんじゃねえ・・・つか興味しかないに決まってんだろ」

雪音「千春のどこが可愛いのか教えてよ」

嶺二「全部」

雪音「つまんない答え」

嶺二「全部が魅力的なんだよ」

雪音「(興味なさそうに)へー・・・」

嶺二「千春ちゃんはな、容姿も、性格も、全て完璧・・・」


 雪音が嶺二の後ろへ隠れる


嶺二「な、何隠れてんだよ?」

雪音「(小さな声で)前から来る奴」


 正面を見る嶺二

 正面から派手な柄シャツを着た酔っ払いの男が歩いて来る


嶺二「(小さな声で)誰だあいつは」

雪音「(小さな声で)死んだ父の知り合い・・・」


 雪音は嶺二の後ろに隠れて、派手な柄シャツを着た酔っ払いの男気付かれないようにしながら歩いている


派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「(嶺二のことを見て)ガキの分際で女連れてんかよ・・・」


 派手な柄シャツを着た酔っ払いの男とすれ違う嶺二と雪音

 嶺二と雪音からすれ違ってから立ち止まる派手な柄シャツを着た酔っ払いの男

 振り返る派手な柄シャツを着た酔っ払いの男


派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「(嶺二と雪音に向かって)見たことある顔だぞ!!」


 足を早める嶺二と雪音

 嶺二と雪音を追いかける派手な柄シャツを着た酔っ払いの男


派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「あんた一条の旦那の次女じゃねえか!?」


 立ち止まる雪音

 雪音に合わせて立ち止まる嶺二

 雪音は嶺二の後ろに隠れるのをやめる

 派手な柄シャツを着た酔っ払いの男は嶺二と雪音のところに行き、雪音の顔を確認する


派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「(雪音の顔を見たまま)やっぱりな!!美人だからすぐ分かったぜ!!」

雪音「一条組に何の御用で?」

派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「御用だって?そうか!!姉の方がぶっ倒れてからあんたが組長になったんだな!?」


 少しの沈黙が流れる


派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「なあ金を貸してくれねえか?昔あんたの親父には散々こき使われたんだよ、その謝礼ってことで良いだろ?」


 雪音が派手な柄シャツを着た酔っ払いの男の足を思いっきり踏みつける


派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「(雪音に足を踏みつけられたまま大きな声で)ってえええええええええええええ!!!!」

雪音「(派手な柄シャツを着た酔っ払いの男の足を踏みつけたまま)父からはお金の借り方を学ばなかったようね」

派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「(雪音に足を踏みつけられたまま)このクソガキが!!」


 派手な柄シャツを着た酔っ払いの男が雪音に手をあげようとする

 嶺二がすかさず派手な柄シャツを着た酔っ払いの男の腕を掴む


嶺二「(派手な柄シャツを着た酔っ払いの男の腕を掴んだまま)やめとけっておっさん、金欠なら俺が500円くらいは貸してやるから」

派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「(嶺二に腕を掴まれ雪音に足を踏みつけられたまま大きな声で)が、ガキの分際で調子に乗って・・・」

嶺二「(派手な柄シャツを着た酔っ払いの男の腕を掴んだまま話を遮って)周りをよく見ろよ」


 周囲を見る派手な柄シャツを着た酔っ払いの男

 嶺二たちの近くでは通りすがりの主婦や下校中の波音高校の女子生徒たちが派手な柄シャツを着た酔っ払いの男のことを見ている

 雪音は派手な柄シャツを着た酔っ払いの男の足を踏みつけるのをやめる

 派手な柄シャツを着た酔っ払いの男は嶺二の手を力付くで引き離す


派手な柄シャツを着た酔っ払いの男「(舌打ちをして)チッ・・・覚えてろよ一条・・・」


 派手な柄シャツを着た酔っ払いの男は早足で嶺二と雪音の元から去って行く

 再び沈黙が流れる

 ため息を吐く嶺二


嶺二「だいじょーぶか?雪音ちゃん」

雪音「あ、うん・・・ありがと・・・」


◯934公園(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 公園にいる雪音と嶺二

 公園には嶺二と雪音以外に人はいない

 嶺二は滑り台の階段の真ん中に座っている

 雪音は滑り台の頂上に座っている

 公園の時計は5時前を指している

 

雪音「強いんだね、嶺二って」

嶺二「男だからな」

雪音「女は弱いと思ってんの?」

嶺二「いーや、そんなことは思ってねーよ。実際強い女の子ってのが、俺の近くにはいるしな」


 笑い出す雪音


雪音「(笑いながら)ウケる」

嶺二「何が面白いんだよ?」

雪音「(笑いながら)強い女の子が近くにいるって、変なセリフじゃん」

嶺二「ま、漫画の主人公みてーで格好良いだろ!!」

雪音「(笑いながら)うん格好良い格好良い」

嶺二「馬鹿にしてんじゃねーか・・・」

雪音「あんた、やっぱちょー面白いよね」

嶺二「うっせえ・・・」


 少し沈黙が流れる


雪音「強い女って・・・明日香のこと?」

嶺二「あいつも強いかもな」

雪音「明日香だけ?」

嶺二「明日香以外にもいっぱいいるだろ。菜摘ちゃんとか・・・汐莉ちゃんとか・・・響紀ちゃんとか・・・詩穂ちゃんとか・・・(少し間を開けて)千春ちゃんとか・・・」

雪音「千春も強いんだ」

嶺二「あたりめーだろ。千春ちゃんは剣を持って悪霊と戦ってたんだぜ?」

雪音「(興味なさそうに)ふーん・・・でも千春って、ただのゲームキャラクターなんだよね」

嶺二「ああ・・・」

雪音「嶺二は人間じゃない女の子が良いの?」


 再び沈黙が流れる


嶺二「特別なんだよ、千春ちゃんは」

雪音「特別って何?」

嶺二「特別は特別だ。雪音ちゃんには分からねーだろーけどな」

雪音「本物の女の子には興味がないの?」

嶺二「俺は千春ちゃんのことが好きなんだって言ってんだろ。人だろうが人じゃなかろうが関係ねえんだよ」

雪音「嶺二のそういうとこ、ちょーつまんない・・・(少し間を開けて)嶺二は私と付き合いなよ、そっちの方が絶対賢いから」

嶺二「賢い恋愛なんか・・・それこそつまらねーだろ・・・」

雪音「私の体って悪くないと思うけどなー。おっぱいもあるし、付き合ってくれたら飽きさせないよ、嶺二のこと」

嶺二「それはそれは魅力的な提案だな」


 滑り台から滑り降りる雪音

 スカートについた砂を手で払い落とす雪音

 雪音は滑り台の反対に回る

 滑り台の階段を一段ずつゆっくり登る雪音


雪音「(滑り台の階段を一段ずつゆっくり登りながら)私でも良いよね?」


 嶺二が座っているところの一段手前で立ち止まる雪音


嶺二「友達になるのは考えてやってもいーけど、恋人だけは死んでも無理だな」


 少しの沈黙が流れる

 雪音は滑り台の階段に座る


雪音「嶺二がさっき言ってた人たちは強くなんかない・・・あいつらは強がってるだけ」

嶺二「なら雪音ちゃんと一緒だな。雪音ちゃんだって強がってるから、さっきのおっさんにもデカい態度が取れたんだろ。つかよ、ありゃ危ない状況だったんだぜ?運良く俺たちの近くに人がいたから助かったけどさ」

雪音「私はね嶺二、運が強いの」

嶺二「そーらしいな・・・」

雪音「嶺二、私の運を味方にしてよ」

嶺二「つまりどーしろって言うんだ?」

雪音「そんなこと聞かなくても分かるでしょ?」

嶺二「だから雪音ちゃんとは付き合わねえって・・・」

雪音「私以外の人間の女と付き合う気はあんの?」

嶺二「さあな」


 立ち上がる嶺二

 嶺二は滑り台の階段を登る


嶺二「(階段を登りながら)とにかく俺は千春ちゃんのことが好きなんだ」


 滑り台の頂上で座る嶺二


雪音「男の人って、特別な女に憧れて夢を見てるよね。病弱な女・・・貴族の女・・・アイドルの女・・・初恋の女・・・現実にはいない女・・・人間じゃない女・・・」


 滑り台から滑り降りる嶺二


雪音「柊木千春を愛しても幸せにはなれない。何故なら彼女はゲームのキャラクターだから。人間じゃない者に恋をすれば、あなたは一生不幸のまま。(少し間を開けて)でも私と付き合えば・・・嶺二は波音高校1の女を雌犬に出来る」

嶺二「いや、雪音ちゃんと付き合っても犬になるのは俺の方だろ。今だって俺は雪音ちゃんの飼い犬もどーぜんなんだしよ」


 再び沈黙が流れる


嶺二「今日は帰ろーぜ、雪音ちゃん」


 立ち上がる雪音


雪音「(大きな声で)付き合ってくれないから嶺二に協力するのやめーた!!!」

嶺二「ど、どーゆー意味だよ?」

雪音「文字通り私と付き合ってくれなきゃ嶺二に協力してあげないってこと」

嶺二「な、何でそんなことを・・・」

雪音「嶺二たちだって響紀と明日香の恋心を利用して似たようなことやってたじゃん、それと同じだよ」


 少しの沈黙が流れる


雪音「次の菜摘を探すには、私が必要だよね?嶺二」

嶺二「て、てめえ卑怯だぞ!!寂しさを紛らわすために俺と付き合おうするなんて・・・」


 雪音は階段から降りて話途中の嶺二の背中に抱きつく


雪音「(嶺二の背中に抱きついたまま)千春みたいに嶺二のことを愛してあげるから、嶺二も私のことを愛してよ。ねえ?良いじゃん、嶺二。いつまでもゲームのキャラクターに恋してるのは・・・子供じみててダサいよ・・・」

嶺二「(雪音に抱きつかれたまま)何度言ったらてめえは理解するんだ・・・俺は千春ちゃんのことが好きなんだよ」


 再び沈黙が流れる

 唇を噛み締める雪音

 雪音は嶺二の背中から離れる

 唇を噛み締めるのをやめる雪音

 振り返る嶺二


雪音「(笑顔で)今のどうだった?良い演技だったよね?」

嶺二「お、お前・・・」

雪音「(笑顔のまま)あれー?もしかして信じちゃったー?」

嶺二「し、信じるわけねーだろ!!」

雪音「(笑顔のまま)そうだよねー」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「く、くだらねえ!!とっとと帰るぞ!!」


 嶺二は怒りながら歩き出す


雪音「(小声でボソッと)ゲームのキャラクターにも勝てないとか・・・私ってほんとゴミ・・・」


◯935波音総合病院に向かう道中(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 波音総合病院に向かっている鳴海

 部活帰りの学生がたくさんいる

 横断歩道の前で立ち止まっている鳴海

 信号は赤になっている


早季「今日、あなたの知人に会いました」


 驚いて横を見る鳴海

 制服姿の早季が鳴海の横に立って、横断歩道の信号が青になるのを待っている


鳴海「ま、またお前か・・・(少し間を開けて)知人って・・・誰と会ったんだ?」


 少しの沈黙が流れる


早季「私は初めて人ならざる者が涙を流そうとした瞬間を見たことがあります。その人は地球に住んでいて、本物の人間になろうと生きていました」

鳴海「人・・・ならざる者・・・?」

早季「彼女は人になりたかったんです・・・(少し間を開けて)しかしそれは叶いませんでした。彼女は人間にはなれない存在だからです・・・」

鳴海「そ、そいつはどうなったんだ」

早季「彼女は闇に取り残されて、人類が滅びても、地球が無くなっても、闇から消え去ることは許されませんでした・・・闇に留まるのと死ぬことは違います、あれは中途半端に21グラムを得た者の代償の世界です。彼女は・・・自らを破壊しようとして痛みに苦しみました。何度も何度も命を絶とうして、失敗を繰り返す時が永遠に続きます。彼女は絶望しました・・・悲しみに暮れ、叫び、発狂し、そして涙を流そうとしたんです。それでも泣くことは絶対にありません。(少し間を開けて)人ならざる者は眼球から液体を流すことも許されないからです」


 信号が青になる

 鳴海と早季以外の人たちが横断歩道を渡り始める


早季「渡らないんですか?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「お前は・・・人ならざる者なんだな・・・」


 頷く早季


鳴海「柊木千春って子を知らないか?あいつもお前と同じで・・・人じゃない奴なんだ」

早季「彼女は私とは違います」

鳴海「ち、違うってことは知り合いなんだな!?千春がどこにいるのか教えてくれ!!俺の友人はあいつのことが好きで・・・」


 首を横に振る早季


早季「力のない者は会えません・・・」

鳴海「ち、力のない者?」

早季「そうです・・・あなたは力を持っていない・・・」

鳴海「よ、妖術のことを言ってるのか!?」


 早季は横断歩道を渡り始める

 鳴海は早季について行く


鳴海「し、白瀬波音や凛が使っていた力のことなんだろ!?」


 横断歩道を渡り終える鳴海と早季

 鳴海と早季は立ち止まる


早季「もう一つ話をしても良いですか?」

鳴海「は、話?何の話をするんだ?」

早季「私は初めて人が涙を流した瞬間を見たことがあります」

鳴海「お、おい・・・」

早季「その人は私の姉妹で、新たな家族を作ろうとしていました。彼女は結婚を望んでいたんです・・・でも彼女の周りにいる人たちは、頑なに結婚を認めようとはしませんでした。父親、母親、弟、そして愛する男の家族までもが、彼女の嫁入りを止め続けて・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「姉貴・・・」

早季「どうかしましたか・・・」

鳴海「な、何でもない・・・(少し間を開けて)そ、その人は・・・結婚出来たのか・・・?」

早季「いいえ。彼女は実家に閉じ込められてしまいました。そして自ら手首を切って死んだんです・・・花嫁に憧れた体から吹き出る血には、海水のような青い液体が混ざっていました。無色な浄水や腐敗した下水とは違います、あれは涙です。彼女は・・・死にながら泣いていました。(少し間を開けて)魂が燃え尽きる瞬間、培った全部が無に帰る時、愚かな人類は眼球から液体を流すことしか出来ない」


 再び沈黙が流れる


鳴海「お、俺には・・・六つ年上の姉がいるんだ・・・」

早季「束の間でも、お姉さんが幸せになれると良いですね・・・」


 早季は歩き出す


鳴海「ま、待ってくれよ!!」


 早季を追いかける鳴海


早季「さようなら、貴志鳴海」


 角を曲がる早季

 鳴海は早季を追いかけるが、角を曲がった途端早季を見失う

 周囲を見る鳴海

 

鳴海「(周囲を見ながら)ど、どこに行ったんだ!?」


 早季の姿はどこにもない


鳴海「(周囲を見ながら)クソッ・・・」


◯936波音総合病院廊下/菜摘の個室前(夜)

 波音総合病院の菜摘の病室の前にいる鳴海

 病室の前には"早乙女 菜摘"と書かれたネームプレートが貼られている

 病室の扉を数回ノックする鳴海


菜摘「(声)どうぞー!」


 鳴海は扉を開け病室の中に入る

 病室には菜摘の他にすみれ、潤、風夏がいる

 潤は仕事用の整備服を着ている

 風夏はナース服姿

 ベッドの上で体を起こしている菜摘

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、パソコン、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある


潤「おっせえぞガキ」

鳴海「ぶ、部活があったんだからしょうがないだろ」

菜摘「お疲れ様、鳴海くん」

鳴海「お、おう・・・にしても今日はお見舞いに来る人が多いんだな・・・」

すみれ「私たちは検査結果を聞いた帰りなの」

鳴海「け、検査・・・ですか・・・」

菜摘「うん。でも安心して、鳴海くん」

鳴海「あ、安心してってのは・・・?」

菜摘「検査結果の数値が前回に比べると大幅に改善されてたんだ」

風夏「先生曰く、奇跡!!だってさ。菜摘ちゃんが頑張ったから、きっと波音町の神様が応えてくれたんだよ」


 少しの沈黙が流れる


潤「おい義理の息子」

鳴海「えっ・・・?」

潤「(大きな声で)お前は愛する恋人の病状が良くなっていたというのに喜ばねえのか!?!?」

すみれ「潤くん、声が大きいですよ」

潤「(大きな声で)ちょっとは喜べボケナスが!!!!」

鳴海「あ、ああ・・・」

菜摘「この調子で良くなれば退院出来るって言われたよ」

鳴海「そ、そうなのか・・・それは・・・良かったな・・・」


 再び沈黙が流れる


潤「いつもに比べてリアクションが薄いぞ、義理の息子」

鳴海「わ、悪い・・・(少し間を開けて)もし退院出来るなら・・・いつ頃になるんだ・・・?」

すみれ「菜摘の体調と・・・これからの検査にもよるでしょうけど・・・早くても年明けには・・・」

鳴海「(驚いて)と、年明け!?」


 菜摘のことを見る鳴海


菜摘「ごめんね・・・鳴海くん・・・」

鳴海「な、菜摘が謝ることじゃないだろ・・・」

潤「クソガキには分からんかもしれないが、菜摘は毎週毎週検査で大変なんだぞ。それなのに貴様という男は菜摘のことを褒めやしねえ・・・そんな態度を続けるようであれば、彼氏失格にするからな、鳴海」

菜摘「お、お父さん。鳴海くんは疲れてるんだよ」

潤「疲れてない人類などいないのだ菜摘」

菜摘「で、でも・・・」

潤「そこから先の言葉は断固として認めん」

菜摘「えぇー・・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「な、菜摘・・・」

菜摘「う、うん」

鳴海「検査・・・よく頑張ったな」

菜摘「あ、ありがとう・・・鳴海くん」


◯937スーパー(夜)

 スーパーにいる鳴海と風夏

 カートのカゴの中には豚肉、野菜、調味料などが入っている

 カートを押しているのは風夏

 鳴海と風夏は野菜コーナーで立ち止まっている

 トマトを選んでいる風夏

 スーパーの中には仕事の帰りのサラリーマンやOL、主婦などがいる

 風夏はパックに入ったトマトを一つ手に取る

 

風夏「(パックに入ったトマトを鳴海に見せて)トメィトゥはこれで良いー?」

鳴海「え・・・何?」

風夏「(パックに入ったトマトを鳴海に見せたまま)だーからー、トマトだってばー」

鳴海「あ、ああ・・・トマトがどうかしたのか」

風夏「(カートのカゴの中にトマトを入れながら呆れて)どうしたは鳴海の方だよ・・・さっきから人の話をなーんも聞いてないし、頭がオーバーヒートでもしちゃったの?」


 カートを押し始める風夏

 風夏について行く鳴海


鳴海「考えごとをしてたんだ」

風夏「(カートを押しながら)お菓子は一つまでだからねー」

鳴海「ガキか俺は」

風夏「(カートを押しながら)18は立派なガキでーす」

鳴海「(小声でボソッと)ガキで悪かったな・・・」

風夏「(カートを押しながら)お姉ちゃんには、弟ってのがずっとガキに見えちゃうもんなんだよねー、もちろんガキなところも可愛いわけだけどさ。(少し間を開けて)そんで、鳴海は何を考えてたの?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「菜摘のことだよ・・・あいつは年内に退院出来ないのか・・・?」

風夏「(カートを押しながら)100%無理ってことはないけど、期待はしない方が良い」

鳴海「年が明ける前に出られる可能性はどのくらいあるんだ」

風夏「(カートを押しながら)限りなく低い・・・と思う」

鳴海「(声 モノローグ)全ての予定が遅れ始めている・・・これでは汐莉が急いでも・・・努力が無駄になるだけだ・・・」

風夏「(カートを押しながら)いつとか、どんなとか、そういう確定事項じゃないことはどうしてもさ・・・分かんないんだよね」


 カップ麺のコーナーで立ち止まる風夏

 棚にはたくさんの種類のカップ麺が陳列されている

 風夏はカップ麺を見ている

 

風夏「(棚に陳列されたカップ麺を見ながら)ねーねー、男の人ってやっぱり豚骨ラーメンがイチオシなの?それとも無難に醤油ラーメン?」

鳴海「そんなの人によるだろ・・・」

風夏「(棚に陳列されたカップ麺を見ながら)そっかー・・・どっちの方が喜ぶのかなー・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「彼氏に差し入れするのか・・・?」

風夏「(棚に陳列されたカップ麺を見ながら)んー・・・」


 鳴海は棚から豚骨ラーメンと醤油ラーメンを手に取り、カートのカゴの中に入れる


鳴海「と、豚骨が苦手だった時のために・・・醤油ラーメンもプレゼントしてやれよ・・・」

風夏「おおっ!!アドバイスありがとー!!」」


 風夏はカートを押し始める

 風夏について行く鳴海

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