Chapter6卒業編♯9 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由香里
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
織田 信長48歳男子
天下を取るだろうと言われていた武将。
一世 年齢不明 男子
ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。
Chapter6卒業編♯9 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯906滅びかけた世界:道路(朝)
快晴
ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている
道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる
建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている
ナツとスズは後部座席に乗っている
老人は運転をしている
老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある
ナツ、スズ、老人が乗っている車は、昨日ショッピングモールに行く時に使った車と同じもの
車の荷台にはショッピングモールから盗んだ楽器、ボールやバットなどのスポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、海で遊ぶ道具、スケートボードなど、色々な物が山のように積まれている
ナツ「どこに行くの?」
老人「(運転をしながら)緋空浜だ」
スズ「お掃除!!」
ナツ「また掃除か・・・」
老人「(運転をしながら)いや、今日は掃除じゃない」
スズ「え〜!?ジジイと言えば掃除なのに〜!?」
老人「(運転をしながら)失われた青春を取り戻すのに、ゴミは要らないだろう」
スズ「そっか〜!!青春!!青春!!」
ナツ「(小声でボソッと)期待しない方が良いって、スズ」
スズ「ん?今なんて?」
ナツ「な、何でもないよ・・・」
スズ「ワクワクだね!!なっちゃん!!」
ナツ「う、うん・・・」
老人「(運転をしながら)時代や世界に影響を受けても、楽しめることは絶対にある。諦めずにそれを見つけることが大事なんだ」
ナツ「戦争中でも娯楽はあったの?」
老人「(運転をしながら)娯楽なのかは分からないが・・・殺し合いの最中に仲間がいるのは幸せなことだったよ」
ナツ「殺し合い・・・」
老人「(運転をしながら)どうかしたか?」
ナツ「いや・・・」
スズ「ジジイ、へーしってどんな人たち?」
老人「(運転をしながら)一言では説明出来ないな・・・俺が所属していたところは普通の隊とは違った上に、変人が多かったんだ」
ナツ「普通の隊とは違うって、どういうこと?」
老人「(運転をしながら)一般の陸軍部隊とは編成も派遣先も異なってたのさ」
スズ「ジジイが行ったところは危険な場所だったの?」
少しの沈黙が流れる
老人「(運転をしながら)兵士に危険はつきものだ」
ナツ「良いな・・・ジジイは恐怖心が無さそうで・・・」
スズ「うん、無敵だもんね」
老人「(運転をしながら)俺は多くを失い過ぎただけだよ。大切な物を全て落としてしまって、その時に心が止まったんだ」
ナツ「あんたでも死にたくないって思ったりするの・・・?」
老人「(運転をしながら)それはないな」
スズ「ジジイも変人だ・・・」
老人「(運転をしながら)否定はしないよ、スズ」
外を眺めるナツ
ナツ「(外を眺めながら 声 モノローグ)変人で済ませる話では到底なかった。頭のおかしい男が少女二人を海へ連れて行こうとしてるんだ。おまけに銃も持ってる。この滅びかけた世界の狂ってるところは、銃を持った男が私たちのために青春を取り戻そうとしていることだ。普通は撃ち殺されるだろうけど、普通なんてもう存在してない。最初は異常に見えたジジイも、今は私が異常なのか、世界が異常なのか、ジジイが異常なのか、あやふやで分からなくなってる」
ナツ「(外を眺めたまま)こんな世界はどうかしてるよ」
老人「(運転をしながら)ナツ、たとえ思ったとしても、そういうことは口にはしない方が良い」
スズ「そーなの?」
老人「(運転をしながら)ああ」
ナツ「(外を眺めるのをやめて)何で?」
老人「(運転をしながら)吐き出してどうにかなることではないからだよ」
ナツ「(小声でボソッと)嫌な奴・・・」
再び沈黙が流れる
スズ「ジジイ、奇跡が起きて、世界が元通りになるってことは絶対にないのかな?」
少しの沈黙が流れる
老人「(運転をしながら)何故そんなことを俺に聞くんだ?」
スズ「ん〜・・・大人なら知ってるかと思って!!」
老人「(運転をしながら)スズ、大人にも分からないことはあるんだぞ」
スズ「え〜、そうなの〜?」
老人「(運転をしながら)ああ。第一今の質問は、スズ自身が答えを出すべき事柄だ」
考え込むスズ
スズ「奇跡は起きると思う!!それで世界は平和になるよ!!」
老人「(運転をしながら)そうか・・・」
ナツ「(声 モノローグ)スズはあんたに聞いてるのに・・・どうしてスズを試すんだ・・・」
ナツの膝に手を置くスズ
スズ「(ナツの膝に手を置いたまま)奇跡を信じようねなっちゃん!!」
俯くナツ
ナツ「(俯いたまま 声 モノローグ)いざ奇跡が存在してないと分かった時、私はスズにどんな顔をすれば良いのかな。なんて言葉をかけたら慰められるんだろ・・・(少し間を開けて)そりゃ私も奇跡を信じたいけど・・・世界が元に戻る奇跡って・・・そんなの・・・あるわけないよ・・・」
スズ「(ナツの膝に手を置いたままナツの顔を覗いて)なっちゃん?」
顔を上げて膝の上にあったスズの手を握る
ナツ「(スズの手を握り締めて)一緒に・・・一緒に頑張ろ、スズ」
スズ「(ナツの手を握り返して頷き)うん!!」
◯907公園(朝)
◯896、◯897、◯898、◯899、◯900、◯901、◯902、◯903、◯904、◯905と同日
快晴
公園のベンチの上で刃の欠けた剣を抱き抱えたまま眠っている千春
公園にある時計は時刻八時半過ぎを指している
突然起き上がる千春
すかさず公園の時計を見る千春
千春「(公園の時計を見て)ね、寝坊しました!!」
慌てて立ち上がり刃の欠けた剣を持ったまま走り出す千春
◯908通学路(朝)
刃の欠けた剣を持って走っている千春
千春は急いで波音高校へ向かっている
千春「(走りながら 声 モノローグ)に、人間とは!!!!遅刻しちゃいけない生き物なのです!!!!」
横断歩道の前で立ち止まる千春
信号が赤になってる
息を切らしている千春
千春「(息を切らしながら)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・う、運動不足ですかね・・・」
千春は呼吸を整える
千春「(呼吸を整えながら)ハァ・・ハァ・・・それにしても・・・」
信号を見る千春
信号はまだ赤く光っている
千春「(信号を見ながら 声 モノローグ)実質幽霊の私が・・・交通ルールを守る必要ってあるのでしょうか・・・」
左右を確認する千春
車は全く通っていない
千春「(左右を確認しながら)わ、渡ってしまいたい・・・」
首をブンブン横に振る千春
千春「(首をブンブン横に振りながら 声 モノローグ)人間とは!!!!交通ルールを守る生き物なのです!!!!」
千春は首を横に振るのをやめて、屈伸運動を行う
千春「(屈伸運動をしながら 声 モノローグ)まあ私は、人間じゃないんですけど」
信号は赤の状態のまま
千春「(屈伸運動をしながら 声 モノローグ)ずいぶん切り替わりの遅い信号ですね。これでは遅刻確定なのです」
時間経過
横断歩道の前で刃の欠けた剣を素振りしている千春
信号は変わらず赤のまま
千春「(刃の欠けた剣を素振りしながら)1!!2!!3!!4!!5!!6!!」
千春は素振りを続ける
時間経過
横断歩道の前で待っている千春
信号は変わらず赤のまま
千春は刃の欠けた剣を口に咥える
逆立ちをする千春
千春「(刃の欠けた剣を咥えたまま逆立ちした状態で 声 モノローグ)日々のトレーニングは欠かせないのです!!特に運動不足疑惑が浮上した今こそ、体に鞭を入れないと!!」
千春は逆立ちをした状態で歩き出す
時間経過
横断歩道の前で待っている千春
信号は変わらず赤のまま
千春「よっと!!」
千春はバック宙をする
千春「もう一回!!」
千春は前方宙返りをする
時間経過
横断歩道の前で横になっている千春
千春はお腹の上に刃の欠けた剣を乗せている
信号は変わらず赤のまま
千春「(横になったまま)運動した後は体を休めるに尽きます・・・」
時間経過
横断歩道の前で立ち止まっている千春
千春は信号を睨みつけている
信号は変わらず赤のまま
千春「(信号を睨みつけたまま 声 モノローグ)おかしい・・・待てど暮らせど、信号が青にならないのです・・・何故?(少し間を開けて)も、もしや・・・交通機関に何らかの異常が!?」
一台の車が横断歩道を通り過ぎて行く
千春「(信号を睨みつけたまま 声 モノローグ)いや・・・現実的に考えてそれはない・・・信号機が故障しているということはあるでしょうか・・・?」
千春は信号を睨みつけるのをやめて、信号の側にある電柱を見る
千春「(電柱を見ながら)あなたの体が病気なのかもしれませんね・・・ここは一つ、機械の端くれとして私が診察をしてあげましょう。同郷のよしみだと思ってもらっても良いですよ。まあ私は、電柱ではなくてゲームの出身なんですけど」
電柱の周りをウロウロし始める千春
千春「(電柱の周りをウロウロしながら)ふむ・・・特に異常があるようには見えませんが・・・ん?こ、これは一体・・・」
千春は電柱についている黄色いスイッチのような物を見つける
千春「(電柱についている黄色いスイッチのような物を見たまま)ま、まさか・・・プラスチック爆弾!?」
慌てて周囲を見る千春
千春の周りには誰もいない
再び電柱についている黄色いスイッチのような物を見る千春
千春「(電柱についている黄色いスイッチのような物を見たまま 声 モノローグ)非常にまずいことになってきました・・・こんな日中のど真ん中に爆弾を見つけてしまうとは・・・つくづく私の運の無さを実感させられるのです・・・」
千春は深呼吸をする
恐る恐る黄色いスイッチのような物を指先で触る千春
千春はすぐに指先を引っ込める
千春「(声 モノローグ)ば、爆弾の一つでビビってるようでは、ギャラクシーフィールドの新世界は制覇出来ません・・・(少し間を開けて)しかしどうしましょう・・・悪霊の倒し方は知っていますが、爆弾なんて見るのも初めて・・・下手に動かして爆発すれば、黒木焦げ春になってしまいます・・・それにいくら周囲に人がいなくても、吹き飛ばすのは品がないというもの・・・真の爆弾処理班とは、スマートに爆弾を片付けるのです。まあ私は、爆弾処理班ではなくて剣士なんですけど」
黄色いスイッチのような物を見ている千春
千春は黄色いスイッチのような物の上に、プレートが貼られていることに気づく
千春「(黄色いスイッチのような物の上に貼られたプレートを見て)何でしょうこれは」
プレートには”歩行者用押ボタン 信号が青になってから渡りましょう”と書かれている
千春「(プレートを見たまま)歩行者用押しボタン・・・?」
信号を見る千春
信号の下には”押ボタン式”と書かれたプレートが備えて付けてある
少しの沈黙が流れる
千春は再び電柱についている黄色い押しボタンを見る
黄色い押しボタンの下には”おしてください”と文字が表示されている
千春はボタンを押す
千春「(声 モノローグ)に、人間とは・・・ドジな生き物なのです・・・ま、まあ私は・・・人間じゃないんですけど・・・」
横断歩道で信号が青になるのを待っている千春
千春がボタンを押したのにもかかわらず、信号は青にならない
黄色い押しボタンを見る千春
黄色い押しボタンの下の文字は変わらず”おしてください”表示されている
再び千春はボタンを押す
黄色い押しボタンの下の文字の表示は変わらない
ボタンを高速で連打する千春
千春が何回ボタンを押しても、表示されている文字は”おしてください”から変わらない
信号は変わらず赤のまま状態
ボタンを押すのをやめる千春
深くため息を吐く千春
少しすると信号が青になる
千春の正面から主婦が歩いて来る
黄色いボタンの下の文字は”おまちください”と表示されている
主婦には千春の姿は見えていない
横断歩道を渡り始める千春
千春「(声 モノローグ)機械とは・・・気紛れなのです・・・」
横断歩道を渡り終えた先で立ち止まる千春
千春「遅刻してしまいました・・・もう二時間目の授業が終わる頃です・・・」
再び沈黙が流れる
千春「(声 モノローグ)今日は朝のHRの前から嶺二さんたちのところへ行こうと思っていたのに・・・(少し間を開けて)しかし何故私は急いでいたのでしょう・・・?冷静になれば分かる通り、私に遅刻という概念はないですから、急ぐ意味もほとんどありません。というか、昨日の夕方か晩から波音高校で待機していれば良かったです・・・そしたら嶺二さんたちの様子も見れました・・・」
◯909波音総合病院に向かう道中(昼前)
波音総合病院へ向かっている千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春「(声 モノローグ)人間とは、サボる生き物なのです。まあ私は、人間じゃないんですけど。学校はまた後日にして、今日は菜摘さんに会いに波音総合病院へ行くことにします」
◯910◯747の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/昼過ぎ)
外では強い雨が降っている
遠くの方では雷が鳴っている
文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、千春、響紀、詩穂、真彩
鳴海、明日香、嶺二、汐莉、響紀、詩穂、真彩には千春の姿が見えていない
千春は刃の欠けた剣を持っている
円の形に椅子が並べられてあり、千春以外が座っている
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある
教室の中の傘立てには7本の傘が立ててある
話をしている鳴海たち
鳴海「よし・・・まずは朗読劇の曲をどうす・・・」
詩穂「(鳴海の話を遮って)鳴海先輩」
鳴海「何だ」
詩穂「菜摘先輩の具合を教えてくださいよ」
汐莉「詩穂、その話はしないって決めたじゃん・・」
少しの沈黙が流れる
詩穂「決まりごとを破りたいわけじゃないけど、お見舞いにすら行かせてくれないなんておかしいと思います。鳴海先輩」
鳴海「菜摘を疲れさせたくないんだよ。大勢で見舞いに行けば、あいつのストレスになるだろ」
詩穂「ならせめて容体を・・・」
鳴海「(イライラしながら詩穂の話を遮って)本人は心配するなと言ってるんだ。もしあいつに何かあったら、お前たちにも説明するから・・・だからこの話題はやめてくれよ」
千春は鳴海たちの会話を黙って聞いている
◯911回想戻り/波音総合病院に向かう道中(昼前)
波音総合病院へ向かっている千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春「(声 モノローグ)他の人たちに菜摘さんを見せたくない、鳴海さんのその気持ちは私にも分かります。そして鳴海さんが菜摘さんのことを一番に考えているのも分かっています。でも私は、菜摘さんの容体を知らなくちゃいけない。鳴海さんが菜摘さんの犬ならば、私も同じです。だって私は、菜摘さんの力でこの世界にやって来れたんだから。私のせいで菜摘さんが代償を払ってしまったこと・・・その事実・・・罰を受け入れて・・・罪を償うのです。菜摘さんを助けられたら、汐莉だって・・・」
◯912◯867の回想/南家リビング(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
汐莉の家のリビングにいる鳴海、汐莉、千春
テーブルに向かって椅子に座っている鳴海と汐莉
千春は立っている
鳴海と汐莉には千春の姿が見えていない
千春は刃の欠けた剣を持っている
汐莉は部屋着を着ており、髪はボサボサになっている
テーブルの上には空になったたこ焼きの舟皿が二枚と、ポケットティッシュが置いてある
話をしている鳴海と汐莉
汐莉は俯いている
汐莉「(俯いたまま小声で)鳴海くんと菜摘さんが・・・私の親しい人になってくださいよ・・・二人の役に立たせてください・・・」
鳴海「み、南は十分役に立ってるだろ」
汐莉「(俯いたまま小声で)もっと役に立ちたいんです・・・」
鳴海「そ、それなら・・・学校で朗読劇の準備や部員募集を手伝ってくれよ」
千春は鳴海たちの会話を黙って聞いている
◯913Chapter1◯100波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
文芸部の部室にいる菜摘、明日香、汐莉、千春
菜摘は明日香と、千春は汐莉と話をしている
千春「汐莉さん、さっきはありがとう」
汐莉「汐莉さんって、タメだから呼び捨てにしようよ!」
千春「よ、呼び捨て・・・汐莉・・・ちゃん?」
汐莉「(笑いながら)それじゃ呼び捨てじゃないよ。汐莉だけで良いのに」
千春「わ、わかった。汐莉・・・じゃあ・・・私のことも呼び捨てで・・・」
汐莉「では遠慮なく、千春って呼ぶ!」
千春「うん!」
◯914回想戻り/波音総合病院に向かう道中(昼前)
波音総合病院へ向かっている千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春「汐莉・・・文芸部で出来た友達・・・私の大切な友達・・・」
◯915◯865の回想/南家リビング(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
汐莉の家のリビングにいる鳴海、汐莉、千春
テーブルに向かって椅子に座っている鳴海と汐莉
千春は立っている
鳴海と汐莉には千春の姿が見えていない
千春は刃の欠けた剣を持っている
汐莉は部屋着を着ており、髪はボサボサになっている
テーブルの上には空になったたこ焼きの舟皿が二枚置いてある
話をしている鳴海と汐莉
鳴海「汐莉のことは汐莉にしか分からないのに、お前が投げ出してどうするんだよ。南が言ったんだろ、学校生活の全てに疲れたって。そんな曖昧な答えじゃ、聞いてる側の俺はますます分からなくなるんだ。部活か、授業か、人間関係か、それとも響紀のことか、最低限はその程度は説明してくれなきゃ・・・」
汐莉「(鳴海の話を遮って大きな声で)知らないって言ってるじゃないですか!!!!」
再び沈黙が流れる
汐莉「もう何かも分からなくなっちゃったんです・・・自分のことも・・・先輩たちのことも・・・」
俯く汐莉
千春は鳴海たちの会話を黙って聞いている
◯916Chapter2◯210波音高校屋上(朝)
学園祭当日
屋上にいる嶺二と千春
寝っ転がって空を見ている嶺二
嶺二の隣にはカバンが置いてある
千春は嶺二の隣に座っている
校庭にはたくさんの模擬店が出ている
話をしている嶺二と千春
嶺二「(体を起こし校庭を見て)一ヶ月くらい前に鳴海に聞かれたんだ、奇跡を信じるかって。あの鳴海がそんなことを聞いてくるなんて、馬鹿な俺でも変だなって思った。きっと、鳴海でも理解したくないような、受け入れたくないようなことを突き付けられたんだって直感で分かった。千春ちゃん・・・君は奇跡なのか?」
千春「(大きな声で)知りませんよそんなこと!!」
嶺二「(千春の大きな声に驚いて)千春ちゃん・・・」
千春「(大きな声で)私にだって分からないんです!!知らないんです!!」
◯917回想戻り/回想戻り/波音総合病院に向かう道中(昼前)
波音総合病院へ向かっている千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春「(声 モノローグ)汐莉はあの頃の私と似てる・・・汐莉にとって菜摘さんと鳴海さんは、居場所をくれる人なのです・・・だから汐莉は二人のことがとても大事で、二人から大事にされたいと願ってる・・・それは、あの頃の私が学園祭の準備をしながら、パパのためにギャラクシーフィールドを救おうとしたのと同じことだと思います。誰かのために、人のために、みんなのために、そう望んで活動していたはずなのに・・・何故文芸部は・・・」
6匹のチワワを散歩させているおばさんがいる
6匹のチワワは突然立ち止まり、千春に向かって吠え始める
混乱している飼い犬のおばさん
飼い犬のおばさん「な、何!?どうしたの!?」
千春は立ち止まって6匹のチワワを見る
6匹のチワワは千春に向かって吠え続けている
千春「(吠え続ける6匹のチワワを見たまま 声 モノローグ)吠えるのは・・・怖いから。噛み付くのは・・・守りたい人がいるから。臆病なのは・・・自分の小ささを知っているから。(少し間を開けて)同族嫌悪・・・・あのワンちゃんたちは、まるで今の鳴海さんや明日香さんのようです。人間とは、仲間を大切にする生き物であり、仲間と傷を付け合う生き物なのでしょうか・・・」
千春は6匹のチワワを見るのをやめて歩き始める
6匹のチワワは変わらず千春に吠え続けている
千春は6匹のチワワを無視して波音総合病院へ向かっている
千春「もし私が普通の女の子だったら・・・今頃文芸部は・・・(かなり間を開けて)ううん・・・やめよう・・・もしなんてことを考えるのは・・・時間の無駄なのです・・・」
◯918波音総合ロビー(昼)
ロビーは広く、たくさんの椅子が設置されている
診察を待っている人たちが椅子に座っている
波音総合病院のロビーにいる千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
ロビーにあるフロアマップを見に行く千春
千春「(声 モノローグ)悪霊がいなければ、ここもただの病院ですね」
フロアマップを見る千春
千春「(フロアマップを見ながら)この規模だと菜摘さんの病室を探し出すのは至難の業かも・・・って、あれ?」
菜摘と早季がフロアマップを見ていた千春の横を通って行く
菜摘は病院服、早季は制服を着ている
千春「(菜摘のことを見ながら驚いて)な、菜摘さん!?」
菜摘と早季は自動ドアを通って外へ出て行く
慌てて菜摘と早季の後を追いかける千春
千春は自動ドアを通って急いで外へ出る
ロビーにやって来たナース服姿の風夏が自動ドアを見ている
風夏「(自動ドアを見ながら)い、今勝手にドアが・・・」
風夏の近くにいた一人の看護師が風夏に声をかける
看護師「何してるの?」
風夏「(慌てて自動ドアから目を逸らして)えっ・・・ちょ、ちょっとね・・・」
少しの沈黙が流れる
風夏「そ、そうだ、私後で菜摘ちゃんのところに顔を出してくるよ」
看護師「また?」
風夏「うん。弟の大切な彼女だからさ、家族同然なんだ」
◯919緋空浜に向かう道中(昼)
◯903と同じシーン
緋空浜へ向かっている菜摘、早季、千春
息を切らしながらゆっくり歩いている菜摘
菜摘よりも少し前を歩いている早季
千春は菜摘と早季のかなり後ろを歩きながら二人を尾行している
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春「(菜摘のことを見ながら 声 モノローグ)何故菜摘さんが外に・・・」
立ち止まって振り返る早季
慌てて近くにあった電柱の後ろへ隠れる千春
千春「(電柱の後ろに隠れたまま菜摘と早季のことを見て 声 モノローグ)あの二人に私の姿が見えるとは思いませんが、万が一を考えてここは隠れながら尾行を続けましょう。真の探偵とは、スマートに調査をするのです。まあ私は、探偵じゃなくて剣士なんですけど」
早季「(振り返ったまま)本当に歩いて行きますか」
菜摘「(息を切らしながら)ハァ・・・ハァ・・・うん・・・早季ちゃん・・・一度家に寄っても良い・・・?」
頷く早季
菜摘「(息を切らしながら)ありがとう・・・ハァ・・・ハァ・・・」
歩き始める早季
ゆっくり歩きながら早季について行く菜摘
電柱に隠れるのを千春
千春は菜摘と早季の尾行を続ける
早季のことを見ている千春
千春「(早季のことを見ながら 声 モノローグ)あの子、誰なんだろう・・・」
菜摘「(息を切らしながら)ハァ・・・早季ちゃん・・・大胆に正面から出て来ちゃったけど・・・バレたりしないかな・・・?」
早季「彼らは気付きませんよ、それが人類です」
少しの沈黙が流れる
千春「(早季のことを見たまま 声 モノローグ)ああ・・・今の言い方でピンと来ました・・・彼女は・・・人ならざる者ですね・・・」
時間経過
菜摘の家の前にいる菜摘と早季
千春は菜摘の家の近くの電柱の後ろで菜摘と早季のことを見ている
家の扉を開けようとした菜摘の手が止まる
菜摘「か、鍵がない・・・どうしよ・・・」
少しの沈黙が流れる
早季「目的の場所を教えてください」
菜摘「じ、自分の部屋だよ」
再び沈黙が流れる
正面に右手を真っ直ぐ伸ばす早季
千春「(電柱の後ろに隠れたまま菜摘と早季のことを見て 声 モノローグ)一体何をする気でしょうか・・・?」
千春の足元から微かに水の音が聞こえてくる
足元を見る千春
千春が隠れている電柱の下のアスファルトの隙間から少しずつ水が溢れている
千春「(電柱の後ろに隠れたままアスファルトの隙間から溢れてくる水を見て)水・・・?」
周囲を見る千春
菜摘の家の周辺に生えていた雑草の茎やアスファルトの隙間から同じように少しずつ水が出て来ている
水はゆっくり早季の方へ流れて行く
菜摘と千春は水の動きを見ている
早季の足元には水が溜まっている
早季の足元に溜まった水は渦を作る
早季の足元に出来た水の渦はゆっくり宙に浮かび始める
千春「(電柱の後ろに隠れたまま宙に浮かび始める水の渦を見て)こ、これは・・・菜摘さんの持っている力と同じ・・・」
早季は正面に伸ばしていた右手を菜摘の方へ向けると、宙に浮かんだ水が渦を巻いたまま菜摘の前に移動する
宙に浮かんだ水の渦は2mほどの大きさになっている
菜摘の目の前にある宙に浮かんだ水の渦の中心が開く
水の渦の中心は菜摘の部屋と繋がっている
伸ばしていた右手を下ろす早季
菜摘と千春は水の渦の中心から部屋を見ている
菜摘「(水の渦の中心から自分の部屋を見ながら)凄い・・・」
早季「入ってください」
菜摘「(水の渦の中心から自分の部屋を見たまま)う、うん」
菜摘は病院で使う靴を脱いで、水の渦の中心を通って部屋に入る
早季のことを見る千春
千春「(電柱の後ろに隠れたまま早季のことを見て 声 モノローグ)以前・・・菜摘さんも似たことをしていました・・・」
◯920Chapter6◯662の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
外は晴れている
文芸部の部室にいる鳴海、菜摘、千春
部室の隅にプリンター一台、部員募集の紙、作詞作曲に使う機材が置いてある
椅子が円の形に並べられてある
椅子に座っている鳴海
床には菜摘が落としたすみれの手作りが弁当がある
正面に右手を伸ばしている菜摘
千春の姿は鳴海と菜摘には見えていない
菜摘の右手の先を見る鳴海
千春は菜摘の右手の先に立っている
千春は涙を流している
千春「(涙を流しながら)菜摘さん・・・私はここにいます」
千春は菜摘の右手を取ろうとするが、千春の手は透けて菜摘の手に触れることが出来ない
鳴海と菜摘には変わらず千春の姿が見えていない
菜摘「(千春がいる方へ右手を伸ばしたまま)千春ちゃん・・・」
菜摘は千春がいる方へ右手を伸ばしたまま目を瞑る
鳴海「(周囲を見ながら)な、菜摘!千春がいるのか!?」
千春は変わらず、涙を流したまま菜摘の手を取ろうとしている
千春が何度菜摘の手に触れようとしても、千春の体は透けていて菜摘の手に触れることが出来ない
千春「(涙を流しながら菜摘の手を取ろうとして)菜摘さん・・・私はまだここにいます!ずっと文芸部の一員のままです!!」
目を開ける菜摘
菜摘は涙を流す
◯921回想戻り/緋空浜に向かう道中/早乙女家前(昼)
◯903と同じシーン
自室にいる菜摘
菜摘の家の前にいる千春と早季
千春は菜摘の家の近くの電柱の後ろに隠れて早季のことを見ている
千春は刃の欠けた剣を持っている
宙に浮かんだ水の渦の中心から、菜摘の部屋の様子が見える
渦の中心から見える菜摘の部屋は綺麗に片付いている
千春「(電柱の後ろに隠れたまま早季のことを見て 声 モノローグ)奇跡の力を使える人間は波音さんと凛さんの生まれ変わりしかしない・・・となればあの子は凛さんの・・・?(少し間を開けて)いや・・・何かがおかしい・・・波音物語を読んだ私の印象だと、凛さんはもっと献身的で暖かった。でも、あの子から感じられるのは寂しさのみ・・・そして凛さんの魂が人ならざる者に宿るわけ・・・」
早季はチラッと千春のいる電柱の方を見る
一瞬、千春と早季の目が合う
千春は驚き焦って電柱の後ろに顔を隠す
千春「(電柱の後ろに隠れたまま 声 モノローグ)め、目が合った!?も、もしや彼女には私の姿が見えてるのでは・・・」
菜摘は机の引き出しから鳴海、明日香、嶺二、汐莉、千春、雪音、波音に宛てて書いていた手紙を取り出す
菜摘が手に取った手紙は、Chapter6の◯616、◯621、◯624、◯629、◯642、◯646、◯663と書いていた物と同じ
机の引き出しを閉じる菜摘
電柱の後ろに隠れたまま恐る恐る再び早季のことを見る千春
早季は千春の方を見ていない
千春「(電柱の後ろに隠れたまま早季のことを見て 声 モノローグ)し、信じられません・・・奇跡的な偶然でこちらに目を向けるなんてことがあるのでしょうか・・・?」
菜摘は手紙を持ったまま水の渦の中心を通り、外へ出て来る
靴を履く菜摘
菜摘「ありがとう、早季ちゃん」
宙に浮かんでいる水の渦の中心が閉じ、菜摘の部屋との繋がりは途絶える
宙に浮かんだ水の渦は徐々に小さくなり、ゆっくり早季の足元に流れ降りる
早季の足元には水たまりが出来ている
早季の足元に出来た水たまりは流れて行き、千春が隠れている電柱の下のアスファルトの隙間や周囲に生えていた雑草の茎へ吸い込まれて消える
足元を見る千春
千春「(電柱の後ろに隠れたまま足元のアスファルトを見て 声 モノローグ)あの子が何者なのかは分かりませんが、とても嫌な予感がします・・・」
◯922緋空浜(昼過ぎ)
◯905と同じシーン
浜辺にいる菜摘、早季、千春
砂浜でしゃがんでいる菜摘
菜摘の後ろに立っている早季
少し離れたところから菜摘と早季の様子を見ている千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
浜辺には所々に大きな水たまりがある
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちている
菜摘は鳴海、明日香、嶺二、汐莉、千春、雪音、波音に宛てて書いた手紙を持っている
菜摘の足元にまで海水が流れて来ては、引いて戻って行く
太陽の光が波に反射し、キラキラと光っている
浜辺には菜摘と早季以外にも人がおり、釣りやウォーキングをしている
菜摘が持っている七通の手紙を見る千春
千春「(菜摘が持っている七通の手紙を見たまま 声 モノローグ)菜摘さん・・・私にまで手紙を・・・」
菜摘「この手紙たちをね、私の力を使ってみんなの元へ届けようと思うんだ」
早季「妖術を行使するんですか・・・?」
菜摘「うん・・・まだ大したことは出来ないけど・・・このくらいのことはしたいから・・・」
菜摘のことを見る千春
菜摘は持っていた七通の手紙を砂浜に置き、目を瞑る
菜摘は右手を砂浜に置いた手紙の方へ向けて伸ばす
それぞれの手紙の封筒に書いてあった”鳴海くんへ”、”明日香ちゃんへ”、”嶺二くんへ”、”汐莉ちゃんへ”、”千春ちゃんへ”、”雪音ちゃんへ”、”波音さんへ”の文字が金色に光り始める
菜摘の足元にまでやって来た海水が、文字を金色に光らせた七通の手紙を乗せて引いて行く
文字を金色に光らせた七通の手紙は、海にぷかぷかと浮かんでいる
菜摘の右手は手紙が浮かんでいる方へ真っ直ぐ伸びている
千春「(菜摘のことを見たまま)菜摘さん、何故あなたは力を使うのです?鳴海さんや汐莉は菜摘さんのことを心配しているのに、どうして自分を大切にしないんですか?」
少しの間七通の手紙は文字を金色に光らせたまま、海水に浮かび続ける
目を開け、右手を下ろす菜摘
千春「(菜摘のことを見たまま)酷いですよ、菜摘さん・・・あなたの行動は、人を愛する気持ちから来ていますけど、その感情は文芸部の皆さんを強く傷付けてます・・・愛に棘が生えてるなんて、あまりに残酷ではありませんか・・・」
海水に浮かんでいたはずの七枚の手紙はいつの間にか消えている
立ち上がる菜摘
菜摘「お待たせ早季ちゃん!それじゃあやろっか!」
早季はポケットから将棋の王将の駒を取り出し、目の前の浜辺を見る
早季が目の前の浜辺を見ていると砂浜が生き物のように動き出し、砂が将棋の盤と将棋の駒に変わる
浜辺にいる人たちは砂浜から将棋の盤と将棋の駒が作られたことに気づいていない
早季がポケットから取り出した王将以外の駒は全て砂浜から出来ている
早季がポケットから取り出した王将と、砂浜から出来た駒の見た目に違いはない
将棋の盤と将棋の駒を見る千春
千春「(将棋の盤と駒を見ながら)ま、また菜摘さんと同じ力を・・・」
時間経過
浜辺に向かい合って正座をしている菜摘と早季
二人の中心には将棋の盤が置いてある
千春は少し離れたところから菜摘と早季の様子を見ている
将棋の駒を並べながら話をしている菜摘と早季
早季「(将棋の駒を並べながら)白瀬波音の死因を・・・」
千春「(菜摘と早季のことを見ながら 声 モノローグ)波音図書館で読んだ本は実話でしたか・・・あの早季とかいう子が、将棋を嗜む不思議な少女で間違いなさそうですね・・・(少し間を開けて)彼女が凛さんと同じ力を持っているんだとすれば、おそらく未来予知も出来るはず・・・」
菜摘と早季は変わらず将棋の駒を並べながら話をしている
菜摘「(将棋の駒を並べながら)波音さんは村の人たちのために妖術を使ったんだよ」
早季「(将棋の駒を並べながら)白瀬波音は223713グラムを奪っています・・・彼女に殺された者及び彼女の命令で殺された者の数は10653人です」
少しの沈黙が流れる
将棋の駒を並べ終える菜摘と早季
菜摘「先手は早季ちゃんで良い?」
頷き駒を進める早季
駒を進める菜摘
早季「(駒を進めながら)汚れた魂が体の奥底で眠っていると、心がおかしくなりませんか・・・?」
菜摘「(駒を進めながら)そうでもないよ。私には私の正義があって、波音さんが犯してしまった罪を少しでも多く償えればそれで・・・」
千春「(菜摘と早季のことを見ながら 声 モノローグ)しかしあの本の著書の方が少女と出会ったのは、子供の頃でした。早季が本に書いてあった少女と同一人物だと仮定すると、菜摘さんが生まれる前から早季はこの世界に存在していたということになります」
駒を進める早季
菜摘「(駒を進めながら)波音さんが私の名前を知らなくたって、私は波音さんのことを愛してる。それは絶対的な感情だし、波音さんの魂がどれだけ汚れていても変わらない。だって私は、波音さんの全てを受け入れてるんだもん」
早季「(駒を進めながら)白瀬波音の愚かさは菜摘にも引き継がれましたか」
菜摘「(駒を進めながら)愚かなのは早季ちゃんの方だよ。誰かを愛することの美しさが分からないなんて」
早季「(駒を進めながら)愛で混沌は消せません」
早季は菜摘の歩兵を取る
菜摘から取った歩兵を浜辺に置く早季
菜摘「(駒を進めながら)でも愛がなきゃ人間は何も出来ないと思うけどな・・・」
早季「(駒を進めながら)人類は地球という故郷に愛を捧げていないでしょう・・・(少し間を開けて)子供たちの将来は、あなたが考えている世界よりも悲惨なものに・・・」
千春「(菜摘と早季のことを見たまま 声 モノローグ)将棋をしながら未来について語る・・・まさに本に書いてあった通りなのです」
駒を進める菜摘
早季「(駒を進めながら)人類の問題は人類が解決しなければいけない・・・あなたが白瀬波音の罪を被り、人類は祖先の罪を被る・・・それが出来なければ、白瀬波音の魂を持つ者は永遠に苦しみ、人類は罪を償わなかった罰として地球と共に滅びます・・・」
菜摘「(駒を進めながら)そんな酷いことになる前に、人間は奇跡を起こすよ、絶対に」
早季「(駒を進めながら)罪と向き合わず奇跡に期待するとは、人は本当に気持ちの悪い生物ですね・・・菜摘のような人間がいるから、地球は・・・」
千春「(菜摘と早季のことを見たまま 声 モノローグ)早季の目的が読めません。自分だって妖術を使えるのに、何故菜摘さんと地球の未来について話すのでしょうか?」
駒を進める早季
菜摘「自分の気持ちを他人に理解してもらいたいのに周りには誰もいないから、私を将棋に連れ出して共感を求めてるんだよ。早季ちゃんは長い間、一人で過ごしてきたから・・・」
駒を進める菜摘
早季「また無駄な話を・・・」
再び沈黙が流れる
駒を進める早季
駒を進める菜摘
早季は菜摘の歩兵を取る
菜摘から取った歩兵を浜辺に置く早季
千春「(菜摘と早季のことを見たまま 声 モノローグ)孤独が辛いのは理解出来ます・・・どんな生物でも、どんな物質でも、一人は寂しいのです。思想は共感を得るために、感情は誰かから愛されるために備わっています。この世界に存在している全てものは、孤独を苦手とするべきです」
黙って駒を進める早季
菜摘「(駒を進めながら)私は・・・早季ちゃんの存在が奇跡だと思ってるよ・・・私や汐莉ちゃんが望んで早季ちゃんが誕生したわけじゃないし・・・あなたは独立してるから・・・」
早季「(駒を進めながら)菜摘・・・何を言ったって海人の務めからは逃げられません・・・(少し間を開けて)緋空のために犠牲を払う支度は済んでいますか・・・?死ぬ覚悟は出来ていますか・・・?墓石は選びましたか・・・?」
早季は菜摘の桂馬を取る
菜摘から取った桂馬を浜辺に置く早季
千春「(菜摘と早季のことを見たまま 声 モノローグ)なるほど・・・少し話が見えて来ました。早季は世界のために、菜摘さんの命を捨てさせる気ですね・・・そんなことは私が絶対に許しませんが・・・しかしこれではっきりしました、やっぱり凛さんの生まれ変わりは汐莉なのです。汐莉は菜摘さんと鳴海さんを心から愛している。まだ制御出来てないとはいえ、夢を通して予知する力も目覚めています。私がイメージしていた凛さんが、汐莉の中には眠っているのです・・・前々から凛さんの生まれ変わりだけは確証が無くてモヤモヤしていましたが、今回の件で分かりました。(少し間を開けて)後はあの早季とかいう妖怪女をどうするか、それを考えるのです」
駒を進める菜摘
早季「(駒を進めながら)死んで自分の意志が消えるのが怖くないんですか」
菜摘「(駒を進めながら首を横に振って)うん」
菜摘は早季から銀を取る
早季から取った銀を浜辺に置く菜摘
千春「(菜摘と早季のことを見たまま大きな声で)菜摘さん!!簡単に死ぬことを認めてはいけません!!菜摘さんの周りにいる人たちは、菜摘さんに生きて欲しいと願っています!!あなたが死ねば、そんな彼らを裏切ったことになる!!(大きな声で)絶対の愛とは、人を裏切らないものなのです!!!!人間とは、愛する者を裏切らない生き物なのです!!!!」
千春の声は菜摘に届かない
早季の歩兵を取る菜摘
早季から取った歩兵を浜辺に置く菜摘
早季「(駒を進めながら)菜摘にしか出来ないことがある・・・海人の力を持つあなたにしか・・・」
菜摘「分かってるよ・・・早季ちゃん・・・」
菜摘は駒を進めて早季から香車を取る
早季から取った香車を浜辺に置く菜摘
早季は駒を進めて菜摘から飛車を取る
菜摘から取った飛車を浜辺に置く早季
菜摘は駒を進めて早季から歩兵を取る
菜摘から取った歩兵を浜辺に置く菜摘
早季は駒を進めて菜摘から金を取る
菜摘から取った金を浜辺に置く早季
菜摘と早季は少しの間、無言で将棋を指し合う
菜摘「(駒を進めながら)ごめんね、私の力を貸してあげられなくて」
千春「(菜摘と早季のことを見たまま)菜摘さん・・・菜摘さんは色んな人に対して優し過ぎます・・・優しいのは、罪なのです・・・あなたのことが好きな人たちは、その優しさに惹かれています。でも、優しくされた人たちは必ず後から苦しくなるのです・・・」
突然、将棋盤、将棋の駒が砂になって跡形も無く崩れる
砂を触る菜摘
菜摘「(砂を触ったまま)私の負け・・・?」
早季「はい」
千春「(菜摘と早季のことを見たまま 声 モノローグ)菜摘さんは・・・波音さんの罪を償わなければいけないのでしょうか・・・?本当に波音さんの罪は、菜摘さんが被らなければいけないのでしょうか・・・?」
立ち上がる菜摘と早季
菜摘は体についた砂を手で払い落とす
正面に右手を伸ばす早季
浜辺にあった小さな水たまりの水が流れるように早季の足元に集まって来る
千春は早季の足元に集まった水を見ている
早季「(正面に右手を伸ばしたまま)元いた場所へ戻ってください、菜摘」
菜摘「うん、ありがとう」
早季の足元には水が溜まっている
早季の足元に溜まった水は渦を作る
菜摘「早季ちゃん、前から気になってたんだけど、どうして早季ちゃんは波音高校の制服を着てるの?入学するのは来年なんでしょ?」
早季「(正面に右手を伸ばしたまま)波音高校には南汐莉と貴志鳴海が在籍しています」
菜摘「あの二人を巻き込むのは良くないよ、早季ちゃん。鳴海くんと汐莉ちゃんは・・・このこととは関係ないもん」
再び菜摘と早季のことを見る千春
千春「(菜摘と早季のことを見たまま)菜摘さんも関係ないのです!!」
千春の声は届いていない
早季の足元に出来た水の渦はゆっくり宙に浮かび始める
早季が正面に伸ばしていた右手を菜摘の方へ向けると、宙に浮かんだ水が渦を巻いたまま菜摘の前に移動する
宙に浮かんだ水の渦は2mほどの大きさになっている
菜摘の目の前にある宙に浮かんだ水の渦の中心が開く
水の渦の中心は波音総合病院にある菜摘の病室と繋がっている
浜辺にいる人たちには宙に浮かんだ渦が見えていない
右手を伸ばすのをやめる早季
早季「力無き者の魂を引き継いだ貴志鳴海は無関係かもしれません・・・でも・・・南汐莉はあなた同様に緋空の力を持っている・・・海人は・・・地球、子供たち、未来のために犠牲を払うのが務め・・・」
千春「(菜摘と早季のことを見たまま大きな声で)菜摘さんも鳴海さんも汐莉も関係なんかありません!!!!三人とも無関係なのです!!!!」
またしても千春の声は届かない
再び沈黙が流れる
菜摘「次はお喋りや将棋じゃ済まないよ・・・早季ちゃん・・・私・・・本気で行くからね・・・壁を壊してみんなを運命から救うために・・・」
早季「菜摘は傲慢ですね・・・」
水の渦の中心を通って病室に入る菜摘
菜摘「私は・・・みんなに幸せな人生を歩んで欲しいんだ」
少しの沈黙が流れる
早季「さようなら、菜摘。また会いに行きます」
病室から頷く菜摘
宙に浮かんでいる水の渦の中心が閉じ、菜摘の病室との繋がりは途絶える
少しすると再び宙に浮かんだ水の渦の中心が開く
水の渦の中心は廃寺と化した緋空寺の境内と繋がっている
千春は緋空寺の境内と繋がった水の渦を見ている
千春「(水の渦の中心から緋空寺の境内を見たまま)あ、あれは・・・緋空寺・・・」
水の渦を通って緋空寺の境内に入る早季
早季が水の渦を通った後も、宙に浮かんだまま渦の中心は開き続けている
浜辺にいる人たちには変わらず千春や宙に浮かんだ渦が見えていない
千春は恐る恐る宙に浮かんだ水の渦へ近づく
宙に浮かんだ水の渦の側に行って、渦の中心を覗く千春
渦の中心から見える緋空寺の境内は、雑草が生い茂り、かつて舗装されていたであろう道は砂利で荒れ果てている
千春「(水の渦の中心から緋空寺の境内を見ながら 声 モノローグ)怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化かさぬよう心せよ。お前が長く深淵を覗くのならば、深淵もまた等しくお前を見返すのだ。今ほどニーチェの格言が当てはまる時はないかもしれません・・・(少し間を開けて刃の欠けた剣を強く握り締めながら)良いでしょう、私は恐れずに深淵を覗くことにします」
千春は水の渦の中心を通って緋空寺の境内に入る




