Chapter6卒業編♯7 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由香里
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
織田 信長48歳男子
天下を取るだろうと言われていた武将。
一世 年齢不明 男子
ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。
Chapter6卒業編♯7 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯874貴志家リビング(日替わり/朝)
外では弱い雨が降っている
時刻は七時半過ぎ
テーブルの上に置き手紙がある
“晩ご飯はちょー高級ベトナム料理をご所望する。ベトナム料理が無理ならば、タイ料理でも可”と書かれている
リビングのテレビではニュースが流れている
制服姿で椅子に座って置き手紙を見ている鳴海
鳴海「(置き手紙を見たまま)弟は家政婦じゃないんだぞ・・・」
◯875波音高校三年三組の教室(朝)
外では弱い雨が降っている
校庭には水たまりが出来ている
朝のHR前の時間
どんどん教室に入ってくる生徒たち
教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある
教室に入る鳴海
菜摘は欠席している
明日香、雪音は自分の席でスマホを見ている
嶺二は机に突っ伏して外を眺めている
神谷はまだ来ていない
傘立てに傘を入れ、自分の席にカバンを置く鳴海
チラッと嶺二のことを見る鳴海
鳴海は嶺二の席のところへ行く
鳴海「うっす」
嶺二「(体を起こして)お、おお。どーかしたか、鳴海」
雪音のことを見る鳴海
鳴海「(雪音のことを見たまま)お前、昨日は一条の家に行ってたんだろ」
嶺二「お、おうよ。サボるんじゃねえって言っといたぞ」
鳴海「(雪音のことを見たまま)そうか」
少しの沈黙が流れる
雪音のことを見るのをやめる鳴海
鳴海「嶺二、一つ頼みがある」
嶺二「い、いーぜ、何でも言ってくれよ」
鳴海「クリスマスパーティーの準備をして欲しい」
嶺二「く、クリスマスパーティー?この余裕がねー時に、何でそんなアホみたいなことをしなきゃならねえんだ?」
鳴海「馬鹿かお前は、文芸部に余裕がないからやるんだろうが」
嶺二「よゆーがない中、パーティーを開いて文芸部には利益があるのかよ?」
鳴海「そういうことはいつか菜摘に聞いてくれ」
嶺二「菜摘ちゃんに聞けって・・・まさか・・・このアイデアを提案したのは・・・」
鳴海「菜摘だ」
再び沈黙が流れる
嶺二「菜摘ちゃんの病気はどーなってるんだよ・・・?そろそろ退院出来そーなのか・・・?」
鳴海「そう信じて準備をするんだ」
嶺二「信じてってことはまだ退院出来ねえんだな・・・」
鳴海「良いか嶺二。菜摘がいようがいまいが、何としてでもお前はクリスマスパーティーを成功させろ」
嶺二「わ、分かったけどよ・・・クリスマスパーティーって主に何をすりゃあ良いんだ?」
鳴海「とりあえず赤と白と緑でデコレーションをしとけ、それ以外はお前に任せる」
嶺二「て、てきとー過ぎねえか・・・」
鳴海「内容とか規模は全部嶺二が好きに決めたら良い。クリスマスパーティーなんざ俺は専門外だ」
嶺二「お、俺だって専門じゃねーよ!!」
少しの沈黙が流れる
鳴海「今回だけは派手にぶっ放しても構わないから、文芸部と軽音部にとって楽しいイベントにしてくれ」
嶺二「パーティーでサンタクロースを大砲に詰めろって言ってんのか」
鳴海「まあそんなところだ。ただし、菜摘がショックを受けるようなことはするなよ」
嶺二「ならサンタの公開髭剃りショーはアウトだよな?」
考え込む鳴海
鳴海「セーフだろ」
嶺二「せ、セーフなのか・・・」
鳴海「クリスマスパーティーのこと、頼んだぞ、嶺二」
嶺二「あ、ああ。俺以外の連中には手伝わせねーのか?」
鳴海「一年生にクリスマス行事の準備まで手伝わせられるわけないだろ・・・」
嶺二「明日香と雪音ちゃんはどうするんだよ・・・?」
鳴海「(小声で)お前はあの明日香がクリスマスパーティーを了承してくれると思ってるのか?」
明日香のことを見る嶺二
明日香は変わらず自分の席でスマホを見ている
嶺二「(明日香のことを見たまま小声で)いや。あいつにはクリスマスパーティー以外の雑務を回した方がいーな・・・」
明日香を見るのをやめる嶺二
鳴海「(小声で)明日香は自由参加にしてやろう」
嶺二「(小声で)何だよ自由参加って」
鳴海「(小声で)必要な時以外は、部活に来なくて良いって特別ルールをあいつに設けるんだ」
嶺二「(小声で)そんなことをしたら、俺たちがあいつを文芸部に引き留めた意味が無くなっちまうじゃねーか」
鳴海「(小声で)仕方がないだろ。これ以上俺たちのわがままに明日香を巻き込んでも、あいつの将来がドブに落ちるだけだ」
嶺二「(小声で)待てよ、俺だって受験を控えてるんだぞ」
鳴海「(小声で)嶺二と明日香じゃ受験の形式が違うだろ。筆記試験と面接がある明日香と違って、お前は書類選考で一発合格じゃないか」
嶺二「(小声で)それでも受験は受験だ、将来がかかってるのは同じなんだよ」
再び沈黙が流れる
嶺二「(小声で)鳴海、明日香を特別扱いし過ぎだろ」
鳴海「(小声で)そうか?いつかの退部届け騒ぎの反省を生かして、自由参加っていう権利を与えようと思ったんだけどな」
嶺二「(小声で)明日香が全く文芸部に顔を出さなくなったらどーすんだよ?」
鳴海「(小声で)あいつはそこまで不良じゃない。仮にサボったとしても罪悪感に耐えられなくなるのが明日香だ」
嶺二「(小声で)なるほどな・・・凶暴な犬でも多少は自由がいるってことか・・・」
鳴海「(小声で)犬の話なんか一言もしてないんだが」
嶺二「(小声で)鳴海、犬はメタファーだよ。如何にも文芸部らしい表現だろ?」
鳴海「(小声で)何が文芸部らしい表現だ、気取った言い方を・・・」
嶺二「(鳴海の話を遮って)んで、雪音ちゃんたちはどーする?」
少しの沈黙が流れる
プリントと出席簿を持った神谷が教室に入って来る
鳴海「話の続きは部活で良いな」
嶺二「あ、ああ」
プリントと出席簿を教卓に置く神谷
神谷「HRを始めるから早く座れー!!」
◯876波音高校校庭(昼)
昼休み
傘をさして校庭に出てきた鳴海
鳴海は部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
校庭には大きな水たまりが出来ている
校庭には鳴海以外に生徒はいない
鳴海「掲示板に行って紙を貼り替えるか・・・」
早季「あなたは孤独と添い遂げます・・・」
驚いて振り返る鳴海
傘をさした制服姿の早季が鳴海の後ろに立っている
鳴海「お、驚かすなよ!!」
少しの沈黙が流れる
早季「みんな、消えてしまいますから・・・」
鳴海「な、何を言ってるんだ・・・?」
早季「死ぬんです・・・(少し間を開けて)奇跡はとっくに・・・人間を見捨てました・・・」
再び沈黙が流れる
早季「地球が滅びる時、人類は初めて平等を知ります・・・何故なら、この世にある全ての生物が死滅するからです・・・あなたは等しき絶滅を望みますか?」
早季はゆっくり歩いて鳴海に近づいて来る
早季「それとも、不平等で絶滅しない世界を望みますか?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ぜ、絶滅を望む奴なんていないだろ」
早季「あなたが呼吸をしている今この瞬間、人類が絶滅を招こうとしています」
鳴海「そ、そんなこと俺に言われたって・・・」
鳴海の前で立ち止まる早季
早季「あなたのような無責任な人類は生きたまま地獄に落ちるでしょう。喪失に苦しみながら」
早季は鳴海に背を向け、歩き始める
鳴海「お、おい!!ま、待ってくれよ!!」
早季「(鳴海に背を向け鳴海から離れながら)人はいつもそう言います、待ってと。(少し間を開けて)過ちの修正は効きませんよ・・・貴志鳴海・・・」
早季はそのまま歩いてどこかへ行く
◯877波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩
円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩
それぞれの椅子の近くにはカバンが置いてある
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある
校庭には水たまりが出来ている
教室の傘立てには7本の傘が立ててある
明日香「鳴海、汐莉はどうだったの」
真彩「え!?汐莉と会ったんすか先輩!!」
鳴海「き、昨日様子を見に家に行ったんだ。(少し間を開けて)黙ってて悪かった」
真彩「あ、いや、うちらも行こうか悩んでたところなんで・・・」
鳴海「そうだったのか・・・」
嶺二「鳴海、汐莉ちゃんの状態を教えてくれよ」
鳴海「ああ・・・正直に言うと・・・南はまだ時間がかかりそうだ・・・」
詩穂「汐莉は来ないってことですか」
鳴海「分からない・・・」
詩穂「先輩、そればっかりですよね」
鳴海「どういう意味だ」
詩穂「分からないとか、知らないとか、大丈夫だとか、心配要らないとか、無責任な発言だらけ。先輩は胸を張って言い切ったことが一度もないですよね。お願いだから、もっと頭を使って喋ってくださいよ。この前だって、汐莉は俺が何とかするって格好付けたことを言っておきながら、実際は汐莉を助ける自信が無かったんじゃないんですか」
鳴海「じ、自信は関係ないだろ!!どのみち会わなきゃどうすることも出来なかったんだ!!」
詩穂「だったらどうして鳴海先輩一人が汐莉に会いに行ったんですか?私たちの方が先輩よりも汐莉と親しいのに」
嶺二「ま、まーまー、そのくらいにしといてやってよ、詩穂ちゃん」
詩穂「納得出来ないんです、こんな部活は」
鳴海「す、すまない」
少しの沈黙が流れる
鳴海「きょ、今日は・・・今後の文芸部と軽音部の活動について話がしたいんだ。菜摘と南がいない中何をするか。今の俺たちに出来そうな案を・・・」
雪音「(鳴海の話を遮って)えっ?今まで何も決まってなかったの?」
鳴海「あ、ああ。一条たちが学校に来てない時は、ほとんど部活をしなかったからな・・・」
雪音「呆れた。面倒な女子が二人も消えてたのに、そそくさと下校してたんだ」
鳴海「お前のせいだぞ、一条」
雪音「責任を押し付けられてもこっちは困るんだけど」
再び沈黙が流れる
明日香「責任転嫁は良いから、私たちの次の予定を説明してよ」
鳴海「ま、まずは部員募集をして欲しい」
明日香「あんたがやってたみたいに?」
鳴海「み、見てたのか?」
明日香「み、見てたんじゃなくて見かけただけ・・・お、おっきな声で目立ってたから」
鳴海「声は大きい方が宣伝になるだろ」
明日香「そ、そうね」
響紀「部員募集は私たち軽音部も参加?」
鳴海「出来れば手伝ってくれ」
響紀「分かった」
嶺二「時間はどーする?やっぱ鳴海が一人でやってた時みたいに朝昼放課後か?」
鳴海「ああ。なるべくたくさんの時間を部員募集に・・・って何でお前まで俺の行動を知ってるんだよ」
嶺二「俺も明日香と同じで鳴海を見かけただけだぜ?」
鳴海「俺のことを監視してたんだろ、お前ら」
明日香「は?してるわけないでしょ」
嶺二「因みに俺は半分してたぞ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「今日の昼もか」
嶺二「半分だって言ったろ、だから今日の昼はしてーよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「明日香」
明日香「だ、だから私は監視なんかしてないって言って・・・」
鳴海「(明日香の話を遮って)そのことじゃない。お前の今後について言っておきたいことがあるんだ」
明日香「な、何よ」
鳴海「明日香、これからの部活は自由参加で良い」
明日香「じ、自由参加?」
鳴海「ああ。菜摘には俺から伝えておくから、お前は受験の勉強をするんだ」
明日香「な、何それ・・・いきなりどうしちゃったの・・・?」
鳴海「三年は基本、部活を引退するもんだろ」
明日香「え・・・もしかして私・・・引退・・・?」
鳴海「半分な」
少しの沈黙が流れる
響紀「引退なんて許さない」
鳴海「それはお前が決めることじゃなくて明日香が・・・というか完全に引退するんわけじゃ・・・」
明日香「(怒りながら鳴海の話を遮って)退部届けを出すのは引き止めたくせに今になって引退しろって言うの!?」
鳴海「じゅ、受験勉強で忙しいんだったら、無理に部活に参加しなくても・・・」
明日香「(怒りながら鳴海の話を遮って)私は元々無理なんかしてません!!」
鳴海「あー・・・そうか・・・でもさ、一応今後は任意で部活参加ってことにしても良いんだぞ」
明日香「(怒りながら)何その上から目線、めっちゃ腹立つんだけど」
鳴海「わ、悪い・・・ま、まあ、必要な時は事前に声をかけるから、それ以外の時は夢を追うのに時間を・・・」
明日香「(怒りながら鳴海の話を遮って)そういう自分気を使ってますよ的な言い方が腹立つの」
嶺二「明日香、鳴海に感謝しろよ。お前だけ特別に自由参加が許されたんだぜ?」
明日香「(怒りながら)頼んでないけどどうもありがと、私はあんたら気を使われずとも自力で合格します」
響紀「格好良い明日香ちゃん!!」
明日香「別に格好良くなんかないでしょ・・・むしろこいつらに気を使われた時点でダサいんだから・・・」
鳴海・嶺二「おい」
響紀「嶺二と鳴海が明日香ちゃんに気を使うなんて300京年ほど早いよねー」
明日香「そうそう」
鳴海・嶺二「(大きな声で)おい!!!!」
明日香「何」
鳴海「今俺たちのことを呼びに捨てにしただろ!!」
明日香「それが?」
鳴海「先輩なんだぞ!!」
響紀「敬いたいと思う要素がどこにもない人たちに、先輩って呼ばなきゃダメなの?」
鳴海「年功序列を知らないのかお前は・・・(少し間を開けて)嶺二もこのクソ生意気な後輩にそう言ってやれ」
嶺二「分かった!!俺は呼び捨てにされても気にしない!!」
鳴海「いや気にしろよ!!」
嶺二「呼び捨てなんかよりも俺が引っかかったのは300京年の方だ!!言っとくが俺と鳴海は響紀ちゃんが明日香と仲良くなる前から気を使い合う関係だったんだぞ!!」
響紀「私と明日香ちゃんが仲良くなる前・・・?そんな時代ありませんけど?」
鳴海「あっただろ・・・」
嶺二「響紀ちゃん、まさか忘れちゃいねーよな?この俺がおめーと明日香を近づけたんだぜ?その恩を仇で返すつもりか?」
響紀「そ、そうだった・・・すみませんでした嶺二先輩、いや嶺二様!!」
明日香「嶺二様は気持ち悪いからやめなさいよ・・・」
響紀「なら呼び捨てにします」
鳴海「く、君とかさんをつけろよ!!」
響紀「はあ・・・じゃあ嶺二くんと鳴海くんで・・・」
鳴海「よ、よし・・・」
嶺二「あ、つか俺響紀ちゃんに頼みがあるんだった」
響紀「何ですか」
嶺二「生徒会でクリスマスパーティーを開いてくれねーか」
響紀「頼んでみます」
嶺二「サンキュー」
再び沈黙が流れる
真彩「ちょっ・・・今ので会話がおしまいっすか・・・?」
嶺二「おう!本格的な準備はまた後で響紀ちゃんと俺がやっから」
鳴海「な、何で響紀に頼んだんだよお前は!!」
嶺二「鳴海が好きなよーにやってくれって言ったんじゃねーか・・・」
鳴海「そ、それはお前一人でやれって意味で言ったんだ!!」
少しの沈黙が流れる
明日香「どういうことなの鳴海」
鳴海「(小声でボソッと)クソが・・・」
時間経過
明日香「菜摘は何を考えてるのか・・・」
鳴海「な、菜摘の意図はともかく、あいつが提案してきたことは今ままで全部上手くいってきたはずだ。そうだろ?みんな」
詩穂「でも合同朗読劇は失敗続きじゃん・・・」
鳴海「こ、今回の朗読劇を最初に提案したのは菜摘じゃなくて嶺二だ」
響紀「だから流れがめちゃくちゃなんですね」
鳴海「ああ」
嶺二「俺を悪者に仕立てんなよ・・・」
雪音「言い出した人がちゃんとしてないと企画って頓挫するよねー、どっかの国の政治みたいにさー」
明日香「分かる」
真彩「パーティーが心配になるっすね・・・」
嶺二「まあやん、目標はちょー巨大クリパだぜ?」
明日香「また嶺二は厄介ごとを増やすの?」
嶺二「パーティーは厄介ごとにならねーだろ」
明日香「部員の募集をやらずに、あんただけクリスマスツリーの飾り付けをするつもり?」
嶺二「部員募集をしながらパーティーの準備をすんだよ。生徒会を使ってな」
少しの沈黙が流れる
明日香「反対します」
鳴海「そう言うと思ってた・・・」
明日香「反対するって分かってたなら提案しないでよ」
鳴海「分かっていても、菜摘の頼みは無視出来ないだろ」
明日香「鳴海、みんながみんなあなたみたいに菜摘の犬になれるわけじゃないの」
鳴海「文芸部は菜摘のものだぞ」
明日香「強引な進め方はやめて。確かに文芸部を作ったのは菜摘だけど、今菜摘はいないでしょ?」
鳴海「菜摘は・・・文芸部と軽音部に思い出を作って欲しいんだけなんだよ・・・パーティーは俺たちのことを想って提案してくれたんだ。それを否定をするなんてあんまりだろ」
明日香「私は生徒会を頼るのが嫌なの」
嶺二「俺だって好きで頼ってるんじゃねーよ」
鳴海「嶺二、もう生徒会に頼るのは無しだ。パーティーは文芸部と軽音部だけでやれば良いだろ」
嶺二「本気で言ってんのか、鳴海。もし菜摘ちゃんと汐莉ちゃんがパーティーに参加するとしても、全員でたったの9人だぞ。人が少ない分、逆に揉めたりするリスクがあると思わねーのか?」
鳴海「そ、それはそうだが・・・」
雪音「私も嶺二に同意。部室でやったらきっと喧嘩になると思う」
詩穂「雪音先輩は汐莉と揉めるのが怖いんですか?」
真彩「し、詩穂ってば!!そーゆーことは黙ってた方が良いって!!」
雪音「そういうことって何なの?」
再び沈黙が流れる
詩穂「雪音先輩、汐莉を傷つけましたよね」
雪音「さあ、知らない」
鳴海「一条、敢えて人を煽るような態度を取るのはやめろよ。永山が誤解するだろ」
雪音「別に誤解してないと思うけど。というか鳴海、汐莉と話したんだよね?じゃあ私と汐莉の間で何があったのか知ってるんでしょ?後輩ちゃんたちに説明してあげなよ、責任から逃げずにさ」
鳴海「お、俺は・・・逃げてなんかない・・・」
雪音「逃げてなんかない・・・だって。逃げてる奴のお馴染みのセリフじゃん」
嶺二「もうやめろよ、雪音ちゃん」
雪音「え・どうして?私は律儀に嶺二との約束を守ってるのに」
嶺二「それとこれは別だ」
雪音「ふーん、まあ良いや。嶺二にやめろって言われたから、やめることにするね。私と汐莉の間で何があったかは、みんな鳴海から聞いてよ」
鳴海「ふざけるな、俺は南を裏切らないぞ」
雪音「あっそ。(少し間を開けて)ねえねえ、明日香は気にならないの?鳴海と汐莉の関係がどんなふうになってるのか」
明日香「き、気になるけど・・・私が口出しすることじゃないし・・・」
少しの沈黙が流れる
雪音「後輩ちゃんたちは違うでしょ?響紀・・・真彩・・・詩穂・・・あなたたちは汐莉の親友だもんね。愛想のない鳴海先輩から秘密を奪ってみたいと思わない?(少し間を開けて)相手が先輩だからと言って遠慮する必要はないよ。私が3人と同じ立場だったら、鳴海を拷問してでも隠してることを聞き出すもの」
詩穂と真彩が鳴海のことを見る
真彩「(鳴海のことを見たまま)せ、先輩・・・」
詩穂「(鳴海のことを見たまま)汐莉と何を話したのか教えてください、お願いです」
鳴海「だ、ダメだ」
詩穂「(鳴海のことを見たまま)私たちから逃げないで」
鳴海「に、逃げてないって言ってるだろ」
真彩「(鳴海のことを見たまま)汐莉がそんなに大事なんすか・・・」
鳴海「ああ・・・」
詩穂「(鳴海のことを見たまま)臆病者・・・」
再び沈黙が流れる
響紀「汐莉が鳴海くんに喋ったことを、他人に説明しなくても構わないです」
詩穂「(驚いて響紀のことを見て)ひ、響紀くん!!」
響紀「二人の間で起きたことは二人だけの秘密。鳴海くんや雪音さんが汐莉を傷つけたんだとしたら許せないけど・・・汐莉自身が説明してくれるのを私は待ちたい・・・」
俯く真彩
真彩「(俯いたまま)汐莉を信じるしかないのかな・・・」
響紀「うん」
詩穂「(響紀から顔を逸らして)真彩・・・響紀くん・・・汐莉に自主性はないと思うよ・・・」
響紀「それでも友達だから信じて待つの」
鳴海「ありがとう、響紀」
響紀「はい」
舌打ちをする雪音
体を伸ばす雪音
雪音「(体を伸ばしながら)あーあ、なんかつまらなくなっちゃった・・・」
嶺二「そ、そろそろさっきの話に戻ろうぜ?」
鳴海「クリスマスパーティーか・・・」
嶺二「そ、そーそー」
詩穂「(小声でボソッと)こんなメンバーでパーティーなんかやりたくない・・・」
体を伸ばすのをやめる雪音
雪音「(小声でボソッと)私だってやりたくねーよ・・・」
少しの沈黙が流れる
真彩「ぶ、部室以外の場所を探しますかね・・・」
鳴海「そうだな・・・明日香、やっぱり生徒会に協力してもらうのは反対か・・・?」
明日香「あんなやりとりを見せられたら反対するわけないでしょ・・・」
鳴海「ひ、響紀」
響紀「皆さんが揉めないために生徒会でクリスマスパーティーを提案すれば良いんでね」
鳴海「そ、そうだ」
響紀「分かりました」
明日香「あ、鳴海、お願いがあるんだけど良い?」
鳴海「何だよ」
明日香「嶺二をクリスマスパーティーの準備から外して」
鳴海「了解だ」
嶺二「か、勝手に決めんなよ!!」
明日香「嶺二の代わりに私が準備をやるから」
鳴海「明日香、受験は大丈夫なのか?」
明日香「大丈夫じゃないけど大丈夫にするしかないでしょ」
嶺二「お、俺はどうすりゃいーんだよ?」
鳴海「部員募集をしろ」
嶺二「つまんねーな・・」
鳴海「部員募集の辛さを知らないからお前はそんなことを・・・」
部室の扉が開く
扉の方を見る鳴海、明日香、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩
汐莉が扉の前で立っている
鳴海「(驚いて)み、南!!」
俯く汐莉
汐莉「(俯いたまま小さな声で)ご、ご迷惑をおかけいたしました・・・」
嶺二「き、気にすんなよ!!汐莉ちゃん!!」
汐莉「(俯いたまま小さな声で)何日もサボってすみません・・・」
響紀「(汐莉に手招きをして)謝らなくて良いから、座ってえ汐莉」
汐莉は俯いたままゆっくり歩いて部室の中へ入る
俯いたまま傘立てに傘を入れる汐莉
汐莉は俯いたまま使われていない椅子を持ち上げ、詩穂の隣に置く
詩穂「(小声で)汐莉、平気なの?」
俯いたまま頷く汐莉
嶺二「せ、せっかく人が集まったんだしよ、手分けして部員募集をやろーぜ!」
明日香「そ、そうね・・・」
嶺二「んじゃー・・・俺と雪音ちゃんペア、詩穂ちゃんとまあやんペア、明日香と響紀ちゃんペア、鳴海と汐莉ちゃんペアの四組に分かれるか!!」
鳴海「あ、ああ」
嶺二「俺と雪音ちゃんが三階、詩穂ちゃんとまあやんペアが二階、明日香と響紀ちゃんペアが一階、鳴海と汐莉ちゃんが外な!!」
真彩「はーい」
鳴海「俺たちだけ外かよ・・・」
◯878波音高校校庭(放課後/夕方)
弱い雨が降っている
傘をさして校庭に出てきた鳴海と汐莉
鳴海は部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
校庭には大きな水たまりが出来ている
校庭には鳴海と汐莉以外に生徒はいない
立ち止まる鳴海
鳴海「ちょっと待ってくれ南」
鳴海に合わせて立ち止まる汐莉
周囲を見る鳴海
鳴海「(周囲を見ながら 声 モノローグ)さっきの奴は・・・もういないよな・・・」
汐莉「どうかしたんですか」
鳴海「(周囲を見るのをやめて)な、何でもない、気にするな」
歩き始める鳴海
鳴海に続いて歩き始める汐莉
◯879波音高校一年生廊下(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
一年生廊下にいる詩穂と真彩
廊下、一年生の教室にはほとんど生徒がいない
詩穂は部員募集の紙の束を持っている
真彩はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
廊下を歩いている詩穂と真彩
真彩「全然人いないなー・・・」
詩穂「意図的にやったんだよ、嶺二先輩」
真彩「ん?意図的って?」
詩穂「意図的に汐莉を雪音先輩から引き離したんだよ。部員募集は人を分けさせるための建前なんだ」
真彩「ええっ!?そーなの!?」
詩穂「うん。せっかく人が集まったから部員募集をしようって、おかしいじゃん。汐莉がいれば朗読劇の準備だって出来るのにさ」
真彩「あー・・・じゃーペアにも意味があるのかなぁ・・・」
詩穂「汐莉と鳴海先輩ペア、それから嶺二先輩と雪音先輩ペアは間違いなく狙って組んだんだよ」
真彩「そーだね、確かにわざととしか思えないけど・・・てか詩穂、さっきのはマジでやばかったよ!!雪音先輩キレてたもん!!」
詩穂「汐莉に手を出した雪音先輩が悪いんだ」
真彩「だからってねぇ・・・部室を殺伐とさせなくても良いと思いますよ私は」
詩穂「ごめん」
◯880波音高校四階階段/屋上前(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
屋上に続く扉には、天文学部以外の生徒立ち入り禁止という貼り紙がされている
屋上前の階段に座っている嶺二と雪音
二人の近くには部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った小さな箱が置いてある
話をしている嶺二と雪音
嶺二「信じらんねーよ、ほんと。ちょっとは自制しろ」
雪音「良いじゃん別に」
嶺二「俺が困るんだよ」
雪音「鳴海の味方をするから、困るんでしょ?」
嶺二「俺が味方してるのは俺自身だ」
雪音「ねえ、どうして私の味方はしてくれないの?」
嶺二「スーパーヒーローばりに味方してんだろ・・・」
雪音「ヒーローならもっと守ってくれても良いんだよ」
嶺二「嫌だね、俺は自分を守るので忙しいんだ」
雪音「(笑いながら)守れてないじゃん」
嶺二「んなことねーよ」
雪音「(笑いながら)喋るたびに明日香を怒らせてるくせに」
笑っている雪音のことを見ている嶺二
嶺二「(雪音のことを見たまま)お前、そのまま笑ってろよ」
雪音「無理」
雪音のことを見るのをやめる嶺二
嶺二「残念だな、笑ってりゃ可愛いのに」
雪音「私笑ってなくても可愛いから」
嶺二「いや、笑ってる時の方が可愛いだろ。今度自分の笑ってる顔を鏡で見てみろよ」
雪音「そんなキモいことするわけないじゃん」
嶺二「キモいのは雪音ちゃんの歪んだ性格の方だ」
雪音「言うね、嶺二」
嶺二「たまには雪音ちゃんに事実を伝えとかないとな」
雪音「嶺二だけだよ、私にズバッと言うのは」
嶺二「てめーの周りにはイエスマンしかいねーのか」
雪音「うん。顔は可愛いし、お金もあるし、寄ってくる男はたくさんいるよ」
嶺二「雪音ちゃんのゴミみてーな性格を知ったらそいつらも離れていくだろ」
雪音「どうかな。私、普段は良い子ちゃんのふりをしてるから」
嶺二「どこが良い子ちゃんなんだよ。てめーが文芸部と軽音部の輪を掻き乱してるんだぞ」
雪音「本音をぶつけ合える友達って素敵だと思わない?」
嶺二「バーカ、本音を言うから喧嘩が始まるんだろ」
雪音「喧嘩になったって良いじゃん。みんなが等しく汐莉を愛していて、あの子のことが心配だから揉めてるんだよ?周りが自分のためにそこまでしてくれるなんて、凄く幸せなことじゃないの?」
嶺二「汐莉ちゃんが幸せを感じてなきゃ意味ねーんだぞ」
雪音「あの子は幸せに気付いてないだけ。鳴海、菜摘、家族、友達もいるんだから、響紀のことは割り切って別の恋を探せば良いのに」
嶺二「そういうところがゴミなんだよ、お前は」
少しの沈黙が流れる
雪音「私汐莉のことが嫌いなの」
嶺二「だろーな。嫌ってるからトラブルが絶えねーんだ・・・」
雪音「汐莉なんか早く死んで欲しい」
嶺二「黙れよゴミ女」
雪音「良いじゃん、どの道あの子は長生き出来ないんだから」
再び沈黙が流れる
雪音「緋空浜の力を持つ者は、負荷によって肉体や精神が脆くなる。だから菜摘と汐莉は運命に殺されるんだよ?」
◯881波音高校校庭(放課後/夕方)
弱い雨が降っている
傘をさして校庭にある掲示板を見ている鳴海と汐莉
掲示板には雨に濡れてボロボロになった部員募集の紙が貼られている
鳴海は部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
校庭には大きな水たまりが出来ている
校庭には鳴海と汐莉以外に生徒はいない
鳴海「(掲示板に貼られてあるボロボロになった部員募集の紙を見て)クソッ・・・」
掲示板を見るのをやめて部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った小さな箱を汐莉に差し出す鳴海
鳴海「(部員募集の紙の束とたくさんの画鋲が入った小さな箱を汐莉に差し出したまま)持っててくれ」
汐莉は部員募集の紙の束とたくさんの画鋲が入った小さな箱を鳴海から受け取る
鳴海は傘を閉じ、閉じた傘を掲示板に立てかける
掲示板に貼られていたボロボロの部員募集の紙を剥がし始める鳴海
鳴海「(ボロボロになった部員募集の紙を掲示板から剥がしながら)そういえばクリスマスパーティーをやることになったんだ」
汐莉「そうなんですか・・・」
鳴海「(ボロボロになった部員募集の紙を掲示板から剥がしながら)菜摘の提案でさ。みんなで楽しいことがしたいんだってよ」
汐莉「鳴海先輩は凄いですね・・・菜摘先輩の役に立ってて・・・」
鳴海の手が止まる
汐莉のことを見る鳴海
鳴海は雨のせいで濡れている
鳴海「なあ南、昨日のことなんだが・・・(少し間を開けて)辛い時は・・・俺の家に来ても良いぞ」
少しの沈黙が流れる
汐莉「ありがとうございます、先輩」
鳴海「お、おう。た、ただやかましい姉貴も家にいるから・・・泊まる場合は言い訳を考えて・・・」
汐莉「(鳴海の話を遮って)鳴海先輩」
鳴海「あ、ああ」
汐莉「昨日私が言ったことは、全部忘れてください」
◯882波音高校一年生廊下(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
一年生廊下にいる詩穂と真彩
廊下、一年生の教室にはほとんど生徒がいない
詩穂は部員募集の紙の束を持っている
真彩はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
話をしながら廊下を歩いている詩穂と真彩
詩穂「さっきの部室での話、実は廊下で汐莉が聞いてたんじゃないかっていう・・・」
真彩「(慌てて)な、ないない!!そ、そんなのあるわけないっしょ!!」
詩穂「その根拠は・・・?」
真彩「こ、根拠は・・・と、特にない!」
少しの沈黙が流れる
詩穂「やっぱ聞いてたんだよ・・・だからあのタイミングで汐莉は部室に入って来たんだと思うもん・・・」
真彩「それってうちらにも気を使ってくれてたってことじゃん・・・(少し間を開けて)なーんか嫌だなぁ・・・同じ魔女っ子少女団なのに、汐莉との間に壁をすげー感じる」
詩穂「うん・・・」
再び沈黙が流れる
詩穂「私たちよりも鳴海先輩の方が汐莉から信頼されてたりするのかな」
真彩「ん〜・・・汐莉はうららのことも、先輩たちのことも、程良く信頼してないのかもよ。そのせいでみんなと距離がある的な」
俯く詩穂
詩穂「(俯いたまま)いつからそんなに汐莉と距離が出来ちゃったんだろ・・・」
◯883波音高校一階廊下(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
一階の廊下にいる明日香と響紀
廊下には明日香と響紀以外に生徒はいない
明日香は部員募集の紙の束を持っている
響紀はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
廊下を歩いている明日香と響紀
明日香「ったく・・・一階の廊下はほとんど掲示板が埋まってるっつうの・・・響紀、私たちは先に引き上げましょ」
響紀「あ、待って明日香ちゃん。部室に戻る前に汐莉たちの様子を見て良い?」
明日香「汐莉って外にいるんじゃないの?」
響紀「うん、多分校庭」
明日香「つまり濡れろってことね・・・」
響紀「私が明日香ちゃんを濡らす時まで雨から守ってあげる」
明日香「な、何よその変な言い方・・・」
明日香の顔が赤くなっている
響紀「照れてる明日香ちゃん可愛いよ超天使」
明日香「(響紀から顔を逸らして小声でボソッと)天使をいじめたらバチが当たるんだからね・・・」
時間経過
外では弱い雨が降っている
廊下の窓から校庭にいる鳴海と汐莉のことを見ている明日香と響紀
鳴海と汐莉は話をしている
廊下には明日香と響紀以外に生徒はいない
明日香は部員募集の紙の束を持っている
響紀はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
明日香「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)で・・・廊下から様子を見ると・・・?」
響紀「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)うん。約束通り濡れないように明日香ちゃんを守ったの」
明日香「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま呆れて)守ってくれてんのはあんたじゃなくて校舎でしょ・・・しかもここからじゃ汐莉と鳴海が会話の内容が分からないし・・・」
響紀「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)明日香ちゃん、読唇術。唇の動きから汐莉と鳴海くんの会話の内容を読み取るの」
明日香「(窓から鳴海と汐莉のことを見るのをやめて)そ、そんなこと出来るわけないでしょ!!」
少しの沈黙が流れる
明日香「響紀・・・もしかしてだけど、あんたにはあの二人がどんな話してるのか分かるの・・・?」
響紀「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)分からないよ」
明日香「ど、読唇術は・・・?」
響紀「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)I can’t do it」
再び窓から鳴海と汐莉のことを見る明日香
明日香「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)私たち・・・今何をしてるわけ・・・?」
響紀「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)汐莉たちの様子を見てます」
ため息を吐く明日香
明日香「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)汐莉のことが気になるのね」
響紀「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)ちょっと心配で」
明日香「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)とてもちょっとには見えないけど・・・」
響紀「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)明日香ちゃん」
明日香「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)何?
響紀「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)明日香ちゃんは汐莉のことを信じてる?」
明日香「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)ある程度はね。でも100%信じろってのは無理」
再び沈黙が流れる
明日香「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)あんたは汐莉を信じてるんでしょ?」
響紀「(窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)うん」
明日香「窓から鳴海と汐莉のことを見たまま)大事にしてあげなさいよ、友達は」
◯884波音高校校庭(放課後/夕方)
弱い雨が降っている
掲示板の前にいる鳴海と汐莉
鳴海は部員募集の紙の束を持っている
汐莉はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
傘をさしている汐莉
鳴海は雨のせいで濡れている
掲示板には雨に濡れてボロボロになった部員募集の紙が貼られている
鳴海の傘は掲示板に立てかけられてある
校庭には大きな水たまりが出来ている
校庭には鳴海と汐莉以外に生徒はいない
話をしている鳴海と汐莉
汐莉「だから・・・昨日私が言ったことは全部忘れてください」
鳴海「な、何でだよ・・・」
汐莉「忘れて欲しいからです。それ以外に理由はありません」
鳴海「わ、忘れられるわけないだろ!!」
汐莉「鳴海先輩、昨日言ってましたよね、私たちの関係は普通の先輩と後輩だって」
鳴海「あ、ああ」
汐莉「恋人でもない異性の後輩を自宅に泊めることのどこが普通なんですか?」
鳴海「そ、それは別の話だったじゃないか!!」
汐莉「一緒なんですよ、先輩。私はいつも一つの話しかしてないのに、鳴海先輩が逃げてはぐらかすんです」
少しの沈黙が流れる
鳴海「お、俺はどうすれば良いんだよ・・・どうしたらお前の役に立てるのか教えてくれ・・・」
汐莉「先輩は菜摘先輩の側にいれば良いじゃないですか。私と違って存在しているだけで役に立てるなんて、鳴海先輩は価値のある・・・」
鳴海「(汐莉の話を話を遮って怒鳴り声で)俺は南の役に立ちたいんだよ!!!!」
汐莉「そういうのは・・・求めてませんから・・・」
鳴海「(怒鳴り声で)結局お前も俺から逃げてるじゃないか!!!!」
汐莉「(大きな声で)な、鳴海先輩の悪い癖が移ったんです!!!」
鳴海「(怒鳴り声で)ああそうかよ!!!!どうせ俺は逃げてばっかりだろうな!!!!でも今は南と向き合ってるぞ!!!!」
汐莉「(大きな声で)じゃあ先輩は学校や文芸部を投げ出して私のために生きようとする覚悟は出来てるんですか!?!?菜摘先輩と一緒に私のことを大事にしてくれるんですか!?!?鳴海先輩が菜摘先輩を支えてるのと同じように、先輩は私のことを支えてくれるんですか!?!?」
鳴海「(怒鳴り声で)そんな都合良く愛せるないだろ!!!!お前は俺の妹でも姉でもないんだぞ!!!!」
汐莉「(大きな声で)そうですよ!!!!私はただの後輩です!!!!普通の16歳なんです!!!!」
鳴海「(怒鳴り声で)南のどこが普通なんだ!!!!普通の16歳が人様を旅に誘うと思ってるのか!?!?」
汐莉「(大きな声で)先輩なら私を受け入れてくれるかと思ったんですよ!!!!だからそんなバカな提案をしたんです!!!!でも先輩は私の気持ちを裏切ったじゃないですか!!!!(少し間を開けて)こんなことなら鳴海先輩の後輩になんかならなきゃ良かった!!!!文芸部に入るんじゃなかった!!!!先輩たちと関わるんじゃなかった!!!!鳴海先輩のことを信頼出来るお兄さんだなんて思うんじゃなかった!!!!」
再び沈黙が流れる
汐莉「(小さな声で)すみません・・・少し言い過ぎました・・・」
鳴海「少し・・・?」
汐莉「(小さな声で)かなり・・・」
鳴海「お互いにな・・・」
汐莉「(小さな声で)はい・・・」
◯885波音高校四階階段/屋上前(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
屋上に続く扉には、天文学部以外の生徒立ち入り禁止という貼り紙がされている
屋上前の階段に座って話をしている嶺二と雪音
嶺二と雪音の近くには部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った小さな箱が置いてある
嶺二「鳴海はどーなるんだ?」
雪音「あいつは力とか持ってないから、野垂れ死ぬまで生きるんじゃない」
嶺二「一人で?」
雪音「さあ。鳴海の未来は運命が決めるでしょ。一人で生きるか・・・二人か・・・三人か・・・」
嶺二「俺たちには関係ねーってことかよ?」
雪音「そう」
嶺二「だとしても想像がつかねーな・・・鳴海が菜摘ちゃん以外の奴とくっつく未来なんてよ・・・」
雪音「もしかしたら私と結婚したりして」
嶺二「つまんねー冗談を吐き出すんじゃねえ」
雪音「本当に結婚するかもしれないよ」
嶺二「鳴海とおめーが結婚するなんてことは、この世にいる人類が鳴海と雪音ちゃんだけになったとしてもあり得ねーだろ」
雪音「嶺二、鳴海に嫉妬してるの?
嶺二「どーなったら俺が鳴海に嫉妬すんだよ?」
雪音「私と鳴海がキスしてる姿を想像したら、妬けるでしょ?」
嶺二「てめーのイチャつく相手が鳴海でも双葉でも俺が嫉妬することは絶対にないんだよなー、つか俺の天才的なイマジネーション力を使っても、雪音ちゃんの顔を思い出すだけでテンションがどん底に落ちるんだよー」
雪音「思い出よりも実物の私の方が可愛いからじゃない?」
嶺二「めんどくせーからそーゆーことにしといてやるかー・・・」
雪音「ありがとー、さすが天才でイケメンな嶺二だねー」
嶺二「くっだらねえ茶番だ・・・(少し間を開けて)そろそろ部室に戻るぞ」
雪音「もうちょっと話そうよ」
嶺二「鳴海たちにバレたらめんどーだろ。(立ち上がって)ややこしくなる前で逃げよー・・・」
喋るのをやめて制服の袖を見る嶺二
雪音が嶺二の制服の袖を掴んだまま俯いている
嶺二「(袖を掴んでる雪音の手を振り解こうとして)離せアホ」
少しの沈黙が流れる
雪音「(俯き嶺二の制服の袖を掴んだまま)私・・・嶺二のことが好きなの・・・」
嶺二「は?」
雪音「(嶺二の制服の袖を掴んだまま顔を上げて)だからさ、私と付き合ってよ」
再び沈黙が流れる
階段に座る嶺二
嶺二「マジで言ってんのか」
雪音「(嶺二の制服の袖を掴んだまま)うん。私たち馬が合うじゃん」
嶺二の制服の袖を離す雪音
少しの沈黙が流れる
嶺二「雪音ちゃん」
雪音「何?」
嶺二「俺を寂しさの捌け口にするなよ」
雪音「何でそんな酷いことを言うの?」
嶺二「わりーけど、雪音ちゃんからは好きっていう気持ちが感じられねーんだ」
唇を噛み締める雪音
嶺二「寂しいからって理由で男に近づいてると、後で心が壊れんぞ」
吹き出して笑う雪音
雪音「(笑いながら)だ、騙されてやんの。ちょーウケる。何マジになって・・・」
嶺二「(雪音の話を遮って)そーゆー演技は辛くなるだろ」
笑うのをやめる雪音
再び沈黙が流れる
部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った箱を手に取り、立ち上がる雪音
嶺二「どこに行くんだよ?」
雪音「(小声でボソッと)部室に戻る」
一人で階段を降りて行く雪音
嶺二「また怒らせちまったな・・・しょうがねえ・・・追っかけてやるか・・・」
立ち上がり、雪音を追いかける嶺二
嶺二「(雪音のことを追いかけながら)待てよ雪音ちゃん!!」
◯886帰路(放課後/夕方)
弱い雨が降っている
傘をさして自宅に向かっている鳴海
部活帰りの学生がたくさんいる
鳴海「(声 モノローグ)南と一条が学校に戻っても・・・文芸部と軽音部はもう壊れる寸前だ・・・」
◯887◯876の回想/波音高校校庭(昼)
昼休み
傘をさした鳴海と早季が校庭にいる
鳴海は部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
校庭には大きな水たまりが出来ている
校庭には鳴海と早季以外に生徒はいない
早季は鳴海に背を向けて歩いている
早季「(鳴海に背を向け鳴海から離れながら)人はいつもそう言います、待ってと。(少し間を開けて)過ちの修正は効きませんよ・・・貴志鳴海・・・」
早季はそのまま歩いてどこかへ行く
◯888回想戻り/帰路(放課後/夕方)
弱い雨が降っている
傘をさして自宅に向かっている鳴海
部活帰りの学生がたくさんいる
鳴海「過ちの修正は効きません、か・・・」
◯889◯884の回想/波音高校校庭(放課後/夕方)
弱い雨が降っている
掲示板の前にいる鳴海と汐莉
鳴海は部員募集の紙の束を持っている
汐莉はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている
傘をさしている汐莉
鳴海は雨のせいで濡れている
掲示板には雨に濡れてボロボロになった部員募集の紙が貼られている
鳴海の傘は掲示板に立てかけられてある
校庭には大きな水たまりが出来ている
校庭には鳴海と汐莉以外に生徒はいない
言い争っている鳴海と汐莉
汐莉「(大きな声で)先輩なら私を受け入れてくれるかと思ったんですよ!!!!だからそんなバカな提案をしたんです!!!!でも先輩は私の気持ちを裏切ったじゃないですか!!!!(少し間を開けて)こんなことなら鳴海先輩の後輩になんかならなきゃ良かった!!!!文芸部に入るんじゃなかった!!!!先輩たちと関わるんじゃなかった!!!!鳴海先輩のことを信頼出来るお兄さんだなんて思うんじゃなかった!!!!」
◯890回想戻り/帰路(放課後/夕方)
弱い雨が降っている
傘をさして自宅に向かっている鳴海
部活帰りの学生がたくさんいる
鳴海「ちくしょう・・・ボロクソに言いやがって・・・」
◯891波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
ベッドの上で体を起こしている菜摘
菜摘は痩せている
ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、パソコン、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある
ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている
窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある
外を眺めている菜摘
菜摘は少しの間外を眺め続け、棚の上に置いてあったステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを手に取る
ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを握り締める菜摘
菜摘「(外を眺めたままステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを握り締め)そろそろ・・・戻らなきゃ・・・」
◯892波音総合病院/智秋の個室(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
ベッドで眠っている智秋
サングラスをかけたスーツ姿の一人の男がベッドの横の椅子に座っている
サングラスをかけたスーツ姿の男の年齢は20代後半から30代前半
ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、原作の波音物語を含む数冊の本、雪音と智秋のツーショット写真などが置いてある
ベッドの横の棚には、サングラスをかけたスーツ姿の男の傘が立てかけられてある
誰かが智秋の病室の扉を数回ノックする
サングラスをかけたスーツ姿の男が立ち上がる
学校帰りの雪音が病室の中へ入って来る
サングラスをかけたスーツ姿の男「(雪音に向かって頭を下げ)お疲れ様です」
雪音「(眠っている智秋のことを見て)姉の様子は?」
サングラスをかけたスーツ姿の男「(頭を上げて)今日は昼食を召し上がってから、ずっとお休みになっています」
雪音「(眠っている智秋のことを見たまま)そう」
雪音は持っていた傘をベッドの横の棚に立てかけ、サングラスをかけたスーツ姿の男が座っていた椅子に座る
サングラスをかけたスーツ姿の男「雪音さん、間宮組との会合はどうしましょう?叔父貴にやらせますか?」
雪音「いいえ、延期にして」
サングラスをかけたスーツ姿の男「なら詫びを入れるのが筋かと」
雪音「間宮さんには今度私が謝りに行くから。それで許してもらいましょう」
サングラスをかけたスーツ姿の男「分かりました。俺らはこの後本部で待機ですか?」
雪音「今日はもう休んでちょうだい。みんなにはご苦労様って伝えておいて」
サングラスをかけたスーツ姿の男「はい。(少し間を開けて)ああ、さっき双葉の坊ちゃんが見舞いに来ましたよ」
少しの沈黙が流れる
雪音「彼をガキ扱いするのはやめなさい」
サングラスをかけたスーツ姿の男「すんません。つい昔からの癖で・・・」
雪音「高校を卒業すれば双葉も一条会の仲間になるのに、いつまでも坊ちゃんで通すのは大人の男に対して無礼でしょ」
サングラスをかけたスーツ姿の男「はい。気ぃつけます」
ベッドの横の棚に立てかけてあった傘を手に取る男
サングラスをかけたスーツ姿の男「雪音さん」
雪音「何?」
サングラスをかけたスーツ姿の男「お帰りになる時は向かいをやりますよ。夜の雨は体に良くない」
雪音「ありがと。でも一人で帰れるから」
再び沈黙が流れる
雪音「あなたは私や一条会に何かあった時に備えて、家で体を休めてよ」
サングラスをかけたスーツ姿の男「分かりました・・・じゃあ俺はこれで・・・失礼します」
雪音「ご苦労様」
サングラスをかけたスーツ姿の男は智秋の病室を出て行く
少ししてから智秋が眠っているベッドに顔を埋める雪音
雪音「(智秋が眠っているベッドに顔を埋めたまま)お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・」
雪音はベッドに顔を埋めたまま、右手をベッドの中へ入れる
ベッドの中から智秋の手を取る雪音
雪音は眠っている智秋の手を握ったまま、顔を埋めるのをやめる
雪音「(眠っている智秋の手を握ったまま)家族って本当に良いよね・・・(少し間を開けて)お姉ちゃんにもいつか・・・私と同じ思いをさせてあげるよ・・・」
◯893貴志家リビング(夜)
外では弱い雨が降っている
リビングでは風夏がソファーに座ってダラダラしながらテレビを見ている
帰宅した鳴海がリビングにやって来る
風夏「(ソファーの上でダラダラしながら)おかえり〜」
鳴海「(床にカバンを置いて)ただいま」
風夏「(ソファーの上でダラダラしながら)ちゃんと買ってきたよね〜?」
鳴海「買うって何をだ?」
風夏「(ソファーの上でダラダラしながら)ちょー高級ベトナム料理かタイ料理」
鳴海「あっ・・・やべ・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「悪い姉貴・・・買うの忘れてた」