Chapter 2 √文芸部×青春(学園祭+恋)-放送少女ト盲目少女=未来世紀ナミネ 中編
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter 2 √文芸部×青春(学園祭+恋)-放送少女ト盲目少女=未来世紀ナミネ
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家、滅びかけた世界で“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。ナツと一緒に“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、学校をサボりがち。運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、鳴海と同じように学校をサボりダラダラしながら日々を過ごす。不真面目。絶賛彼女募集中。文芸部部員。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。
柊木 千春
身元がよく分からない少女、“ゲームセンターで遊びませんか?”というビラを町中で配っている。礼儀正しく物静かな性格。波音高校の生徒のフリをしながら文芸部に参加している。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。天文学部部長。不治の病に侵された姉、智秋がいる。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎40歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。怒った時の怖さとうざさは異常。
有馬 勇ゲームセンターのおじいちゃん(64歳)
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主、古き良きレトロゲームを揃えているが、最近は客足が少ない。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ智秋の病気を治すために医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
高校を卒業をしてからしばらくして病気を発症、原因は不明。現在は入院中。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった
白羽天使
女性八人で構成されるボーカルユニット(アイドル)
若者の間で流行っている
Chapter 2 √文芸部×青春(学園祭+恋)-放送少女ト盲目少女=未来世紀ナミネ 中編
◯170ファミリーレストラン(日替わり/雨/昼)
みどりの日
鳴海と菜摘が座って話をしている
既に空になっている皿
人の多いファミレス
菜摘「鳴海くんはその話についてどう思ったの?」
鳴海「信じてねえ・・・というか信じるなんて無理だろ?千春がゲームのキャラクターだなんて・・馬鹿馬鹿しいにも程がある」
菜摘「そっか・・・」
鳴海「千春は・・・あのゲーセンの客で、潰れるのが嫌だからビラ配りしてたんじゃねえか?」
菜摘「でも記憶がないんだよ?」
鳴海「こうなってくると記憶喪失は嘘かもな」
菜摘「私はずっと千春ちゃんと一緒にいるけど・・・嘘をついてるようには見えない。記憶喪失を偽って何の得があるの?」
鳴海「個人的な理由がある・・・とか?俺らに言ってない秘密があるんじゃ・・・」
菜摘「今更なんだけどね、柊木って苗字を付けた時に聞いたことあるなぁって思ったの。ただ適当に付けた、やり過ごすための苗字なのに。柊木千春って名前に聞き覚えがあった。おかしな話でしょ?でね・・・鳴海くんの話を聞いて思ったんだけどさ・・・」
鳴海「まさか菜摘も千春がゲームのキャラクターだと思ってんのか?」
菜摘「うん・・・もちろん断言はしないよ?絶対にとは言い切れない話だし。けど、私も内心どこかでギャラクシーフィールドの新世界冒険のことを覚えてて、それで柊木って苗字を付けたってこともあり得るんじゃないかな・・・」
鳴海「おかしなことだらけだ・・・記憶がないのも変だし、古いゲーセンの宣伝を一人でしてるのも変だし、小説のレベルもやけに高いし・・・」
菜摘「小説だって、既視感があるのはギャラクシーフィールドの新世界冒険のストーリーと一緒だからなんじゃない?」
鳴海「菜摘はギャラクシーフィールドの新世界冒険をプレイした記憶があるのか?」
菜摘「覚えてないけど・・・昔よくお父さんと行ってたからプレイしてても変じゃないよ」
鳴海「俺や嶺二もプレイしてるってことだな」
菜摘「千春ちゃん、今日は白石くんと遊ぶって言ってた」
鳴海「嶺二か・・・みんなにもなんて説明すれば・・・」
菜摘「具体的なことが分かるまで、みんなにはまだ言わない方がいいと思う」
鳴海「そうだな、嶺二や明日香が何するかわかんねえ」
菜摘「千春ちゃんに直接あれこれ聞くのもやめた方がいいかも」
鳴海「本人に確認する方が一番早いと思うぜ?」
菜摘「この話が本当でも間違っていても、ゲームのキャラクターだ!なんていきなり言われたら・・・千春ちゃんすごく傷付くと思うよ」
鳴海「そりゃ・・・精神的ダメージは凄まじいだろうけど」
菜摘「本人が語らないなら、私たちは黙っているべきだと思う」
鳴海「菜摘がそう言うなら・・・」
菜摘「様子を見て私たちも動こう、これが波音町の奇跡なら・・・町が良い方向へ導いてくれるよ」
鳴海「そうだな・・・」
◯171ショッピングモール内(雨/昼)
波音町の少し先の町、水南木町のショッピングモール内にいる嶺二と千春
二人はぶらぶらとお店を回っている
めちゃくちゃ混んでいるショッピングモール
嶺二「おっ!(指を差して)あれ千春ちゃんに似合うんじゃない?!」
千春「そうでしょうか?」
嶺二「(千春の手を引っ張って)ちょっと見てみようよ!」
嶺二は千春をSEREN LIGHTという女性服の店に連れて行く
ハンガーにかけてあった可愛らしい服を取る嶺二
嶺二「(服を渡しながら)ほら、鏡の前に立ってみて」
千春「(服を受け取り)こういうデザインはあんまり・・・」
嶺二「いいからいいから!!」
千春は渋々鏡の前に行き、服を重ねる
嶺二「(鏡を見ながら)良いじゃん!!似合ってると思う!」
千春「(鏡を見ながら)本当ですか?私より汐莉の方がこの服は似合うと思います」
嶺二「汐莉ちゃんのことはどうでもいいの!」
千春「汐莉には似合わないってことですか?」
嶺二「いやそういうことではねえ、汐莉ちゃんも似合うかもしれん、が、千春ちゃんの方が似合うと思う」
千春「確かに可愛いとは思いますが・・・」
嶺二「(鏡を見ながら)千春ちゃんも可愛い、服も可愛い、ダブル可愛い」
千春「煽ても何も出ませんよ」
嶺二「分かってるよ、(手を出して)その服貸して」
千春「(服を渡しながら試着しますか?」
嶺二「いやしねえから!!!!!」
服を受け取る嶺二
千春「(笑いながら)ナイスツッコミです」
嶺二「(服を持って)ひどいもんだぜ、みんなして俺をいじりやがる」
千春「文芸部の人気者ですね!」
嶺二「(服を持って)果たしてこれを人気者と言っていいのか・・・俺もたまにはいじる側に回りてえ」
千春「面白い人は女性からもモテますよ」
嶺二「(服を持って)それにしてはモテなさすぎだろ俺!!」
千春「嶺二さんの魅力に気付いている女性もいると思います」
嶺二「(服を持って)だといいけどね。ちょっち行ってくる」
千春「どこに行くんです?」
嶺二「(服を持って)少しここで待ってて」
千春「あ、はい」
嶺二は服をレジまで持って行く
◯172ショッピングモール内(雨/昼)
水南木町のショッピングモール内にいる嶺二と千春
二人はぶらぶらとお店を回っている
めちゃくちゃ混んでいるショッピングモール
嶺二はSEREN LIGHTの紙袋を持っている
千春「(申し訳なさそうに)すいません・・・買っていただいて・・・」
嶺二「今日はお詫びツアーだからね!!欲しいものがあったらじゃんじゃん言ってよ!」
千春「そんなにお詫びされたら逆にお詫びしたくなります・・・」
嶺二「そういうことはいちいち気にしない気にしない、次はどこ行こっか、ご飯?洋服?雑貨?映画館やゲーセンでもいいよ!」
千春「(足を止めて)ゲームセンター・・・」
嶺二「(千春に合わせて足を止める)ゲーセン行ってみる?ここは結構広いよ」
千春「ゲームセンター・・・行ってみたいです」
嶺二「おっしゃ、上の階だ!」
ゲームセンターに向かい始める嶺二と千春
◯173ショッピングモールゲームセンター前(雨/昼過ぎ)
ゲームセンターの前にいる嶺二と千春
小さい子供を連れた家族、カップル、中高生がいっぱいいる
子供や若者の歓声、UFOキャッチャーやメダルゲームの機械音で鳴り響くゲームセンター
千春「(唖然としながら)人がたくさん・・・」
嶺二「連休だからね〜」
千春「(唖然としながら)私が知ってるところと全然違う・・・」
嶺二「えっ!?なんて言った?」
千春「いえ・・・」
嶺二「行こうぜ」
千春「は、はい」
歩き進める嶺二と千春
ゲームセンターの中に入って行く
◯174ゲームセンター内(雨/昼過ぎ)
ゲーム機を物色している嶺二と千春
ゲームセンターの中はうるさくたくさんの人で溢れている
嶺二「(両替機を見つけて)お金崩してくる!」
嶺二は両替機で紙幣を百円玉に替えている
千春は周りを見渡している
千春「ギャラクシーフィールドと違う・・・」
たくさんの百円玉をポケットに詰め込み千春の元へ戻ってくる
嶺二「回ろ!」
頷く千春
時間経過
大きなくまのぬいぐるみが景品のUFOキャッチャー
その前で立ち止まっている嶺二と千春
嶺二「(百円玉を入れながら)くそっ!!なんで取れねえんだ!!このアーム脱臼してんだろ!!!」
千春「嶺二さん、諦めましょう。お金が無駄になってしまいます」
嶺二「(アームを操作しながら)ここで諦めたら負けだ!!失われた百円のためにも、千春ちゃんのためにも俺は獲得しなきゃならねえんだ!!」
千春「私はぬいぐるみが取れなくても、嶺二さんの気持ちだけで十分に嬉しいです」
嶺二「(ボタンを押して)見てろよ千春ちゃん!!ここからが闘いだ!」
アームがぬいぐるみを掴み、持ち上げる
嶺二「(大きな声で)頑張れ!!負けるな!!お前の本気を見せてくれ!!!!!」
アームが動き始める
ぬいぐるみはアームから滑り落ちる
嶺二「(大きな声で)なんでや!なんでそこで落ちるんや!!!」
千春「なかなか取れませんね・・・」
嶺二は百円玉を入れる
嶺二「(アームを動かしながら)次こそは!!」
ボタンを押す嶺二
アームが下に行き、ぬいぐるみを掴む
ぬいぐるみを持ち上げる
嶺二「(大きな声で)いけっ!いけっ!諦めんな!!」
アームからぬいぐるみは滑って落ちる
嶺二「(大きな声で)おぉいまたかよ!!このくそ・・・」
千春「あっ!転がってます!!」
ぬいぐるみは転がって落ちる
嶺二「(大きな歓声を上げる)おおおおおおおお!!!!!」
嶺二は大きなくまのぬいぐるみを取り出す
嶺二「(ぬいぐるみを差し出して)はい!!千春ちゃんに!!!」
千春「(ぬいぐるみを受け取って)本当にありがとうございます!!!服にぬいぐるみまで・・・」
嶺二「気にすんなって!!(ピースサインを出して)このくらい楽勝!!」
千春「(ぬいぐるみを抱きしめて)宝物にします!!」
嶺二「(照れながら)お、おう!!!こ、こ、この勢いでプリクラ撮りに行こうよ!!」
千春「ぷりくら・・・?」
嶺二が千春を引っ張ってプリクラ機まで連れて行く
プリクラ機の周辺は女子高生やカップルが多い
嶺二「どれで撮る?」
千春「私はどれがいいとか・・・分からないので・・・」
嶺二「んじゃあ(指を差して)あれにしよ!」
千春「は、はい!」
百円玉を入れ設定を決めプリクラ機に入る嶺二と千春
時間経過
撮り終えたものを分けて渡す嶺二
受け取る千春
写真を真剣な眼差しで見ている千春
れいじ、ちはると名前が書かれている
千春「(写真を見ながら)違和感を覚えます」
嶺二「(写真を見ながら)そう?変じゃないと思うよ」
千春「(写真を見ながら)ひいらぎ・・・ちはる・・・?」
男「(千春の頭に響く声)名前は・・・柊木千春!それにしよう!!」
千春「(周りをキョロキョロ見ながら)い、今の声は!?」
嶺二「声・・・?なんか聞こえた?」
千春「(写真から目を逸らし)い、いえ・・・なんでもありません、違うところに行きましょう」
嶺二「えっ、まだ他にもいろいろあるよ」
千春「ゲームセンターはもういいです、行きましょう」
嶺二「わ、分かった」
◯175ショッピングモール内スターバックス付近(雨/夕方)
スタバはたくさん並んでいる
嶺二と千春は近くの椅子に座っている
クマのぬいぐるみを抱き抱えている千春
外の雨が見える
嶺二「どうしよっか・・・」
千春「そうですね・・・」
嶺二「スタバでも行く?」
千春「お腹は空いてないので・・・」
嶺二「そ、そっか・・・(少し間を開けて)ゲーセンで調子に乗り過ぎた、引っ張り回してごめんよ」
千春「嶺二さんは謝らないでください!こちらこそすいません、少し考え事をしてて」
嶺二「考え事?」
千春「私は・・・何者なんだろうって考えてしまって・・・それでボーッとしてしまいました」
少しの沈黙が流れる
嶺二「千春ちゃんは千春ちゃんってことでいいじゃん。俺らがそれを知ってれば十分だよ」
千春「はい・・・」
嶺二「家出のことで悩みがあるの?」
千春「家出・・・?い、いえ!別にそういうわけでは・・・」
嶺二「家族のことが気になるなら、帰った方がいいんじゃない?俺がこんなことを言うのも変だけどさ、多分めちゃくちゃ心配してるぜ?」
千春「帰った方が・・・いいと思いますか?」
嶺二「うん・・・そう思う。千春ちゃんが鳴海と菜摘ちゃんとどういうやりとりをしたのか知らないけど、あの二人は目先の文芸部作りに夢中になってて千春ちゃんのことを深く考えてないんじゃないかな。あっ、これは別に二人の悪口ってわけじゃないよ!!」
千春「二人にはお世話になってます。でも学園祭が終わったら・・・帰ろうかな・・・」
嶺二「それもいいと思うよ」
◯176貴志家リビング(雨/夜)
テレビを見ながら一人でコンビニ弁当を食べている鳴海
テーブルに置いてあるスマホが鳴る
嶺二からのLINE
“明日 暇なら飯行かね?話したいことある”という内容のメッセージ
“話したいことってなんだ?”と返す鳴海
すぐに既読が付く
“その時話す”という返信が嶺二から来る
“分かった いつものサイゼに一時集合でよろ”と返す鳴海
すぐに既読が付く
“おk”という短い返信が嶺二から来る
LINEを閉じる鳴海
◯177サイゼリヤ(日替わり/昼過ぎ)
憲法記念日の振替休日
人が多いサイゼリヤ
二時過ぎ
空になった皿
鳴海と嶺二が話をしている
嶺二「そういうわけで、結構思い詰めてるみたいだったぞ」
鳴海「そうか・・・」
嶺二「鳴海、お前・・・千春ちゃんのことでなんか知ってることないのかよ」
鳴海「ない、むしろ知りたいくらいだ」
嶺二「どういう意味だそれ」
鳴海「俺も嶺二と同じ、知らないことだらけだわ」
嶺二「菜摘ちゃんが知ってることは?」
鳴海「あいつも俺たちと同じだよ」
嶺二「みんな知らないってことね」
鳴海「そういうこった」
嶺二「千春ちゃんは家族のことを気にしてるみたいだ」
鳴海「会いたいって言ってた?」
嶺二「そんなことは言わねえけどよ、学園祭が終わったら帰るってさ」
鳴海「学園祭が終わったら・・・あと一ヶ月もないな」
嶺二「下手すりゃ千春ちゃんとも学園祭でお別れになっちまうよ」
鳴海「なぁ嶺二」
嶺二「ん?」
鳴海「お前、奇跡って信じるか?」
嶺二「奇跡・・・?どうしたいきなり」
鳴海「俺たちは今、奇跡の中にいるって言われたらどう思う?」
嶺二「どうって言われても・・・実感がわかねえな・・・だいたい鳴海はそういうことを信じないタイプじゃん」
鳴海「ああ。そんな古臭い言い伝えあってたまるかよって思ってる。その反面・・・そういうこともあるのかもしれないって気持ちになってる」
嶺二「俺たちは今奇跡と遭遇してるって言いたいのか?」
鳴海「俺にだって分かんねえよ・・・きっと学園祭が終わるまでは・・・」
嶺二「学園祭が終われば何か分かるのか?」
鳴海「学園祭は今の俺たちの目標だからな・・・」
嶺二「お前やっぱりなんか知ってるだろ、隠し通すのかよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「すまん」
嶺二「何を知ってるんだよ」
鳴海「確証のないことなんだ、学園祭が終わって落ち着いたら必ず説明するから今は我慢して欲しい」
嶺二「解せないな、なぜ隠す?」
鳴海「言っても・・・出来ることは何もない。それにこれは千春のことじゃないか」
嶺二「はっきり言うけど、俺は千春ちゃんのことが完全に好きだ」
鳴海「お、おう・・・それは分かってるよ」
嶺二「分かっていると思うが、お前だけが千春ちゃんの秘密を知ってるのはクソ腹が立つ」
鳴海「それはマジですまん、許せ」
嶺二「今回ばかりは許せん」
鳴海「千春のことはまだ話せない」
嶺二「話せ」
鳴海「断る」
少しの沈黙が流れる
鳴海「わ、分かってくれ!!そ、その代わり・・・お、俺の・・・とっておきの秘密を嶺二に・・・お、教えてやる!!」
嶺二「鳴海の秘密に大した価値はないと思います」
鳴海「ひ、ひっでえやつだな!だ、誰にも言ってない秘密だぞ!!」
嶺二「早よ言え、価値は聞いた後に考えてやるよ」
鳴海「い、良いだろう!よ、よく聞けよ!!」
嶺二「くだらねえことだったらぶん殴るからな」
鳴海「わ、分かってるよ!!じ、実はな・・・お、俺は・・・俺は・・・!!な・・・な・・・菜摘のことが好きだ!」
顔が真っ赤な鳴海
嶺二「(驚き)マジで!?!?いつの間に!?!?!?」
鳴海「(照れながら)知らん!!!気づいたらそうなっていた!!!た、多分・・・かなり前から意識してた」
嶺二「お前興味なさそうだったじゃん!!!!!」
鳴海「(照れながら)そ、その時は興味なかったんだろ!!(少し間を開けて)つ、ついでに・・・も、もう一つ告白してやる!!お、俺は文芸部という空間が大好きだ!!」
嶺二「(笑いながら)なんかそれキモいな」
鳴海「う、うるせえ!!」
嶺二「いつか惚れるかもしれないとは思ってたけど・・・意外と早かったな、早漏め」
鳴海「うるせえな!!!別にいいだろ!!俺の秘密を持って帰れ!!」
嶺二「ならこれも聞いておかねえとな・・・いつ告るの?」
鳴海「知らん!!!!!」
嶺二「はぁ?秘密を言ってくれるんじゃねえの?」
鳴海「決めてねえよ!!」
嶺二「つまりいつやねん」
鳴海「真面目に決めてない、今のところそういう予定は全くないぞ」
嶺二「菜摘ちゃんがお前のことを好きか怪しいもんな」
鳴海「おい、やめろそういうこと言うの」
嶺二「菜摘ちゃんと鳴海ねえ・・・」
鳴海「なんだよ」
嶺二「釣り合わねえように見えるけど、意外とそれがいいのかね?」
鳴海「知るか!俺に聞くな!!」
嶺二「上手いことやれよな?」
鳴海「分かってるって!」
◯178滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(雨/夜)
教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある
椅子や机、教室全体に溜まりまくった小さなゴミ
教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている
ナツは床に座って20Years Diaryの音読をどんどん進めていく
スズはナツにもたれて音読を聞いている
包帯を巻いているため両目とも見えないスズ
ナツ「(日記帳を見ながら)五月七日木曜日晴れ・・・ゴールデンウィーク明けで体が重い。子泣きじじいのせいだ。学園祭の準備でびっくりするくらい部活が忙しい。なるべく両方の部にも顔を出したい」
スズ「私たちと違って忙しそうだね〜」
ナツ「(日記帳を見ながら)私たちは何もすることないし・・・この日記を読んでいる限りスズは学校に向いてなさそうだね。勉強に授業に宿題に部活に学園祭」
スズ「し・ぬ!!」
ナツ「(日記帳を見ながら)五月八日金曜日晴れ・・・何回も何回も同じ曲を歌う、そして弾く。学園祭で披露する以上中途半端な出来にしたくない。どうでもいいが古文の先生が嫌いになってきた。なんだよ古文って意味わからんです。異国の言葉かあの授業は」
スズ「昆布?」
ナツ「(日記帳を見ながら)古文な、昔の日本語と日本文学を習う授業」
スズ「昔の人は無駄にたくさん勉強するね、大昔のことなんか知って役に立ったのかな」
ナツ「(日記帳を見ながら)昔の文化に興味があったんでしょ、私たちだってこの日記が書かれた時代に興味を示してるんだから」
スズ「つまり・・・これも一種も勉強なのだ」
ナツ「(日記帳を見ながら)スズは聞いてるだけだから勉強になってない」
スズ「な、なんだって〜、つ、続きを読んでくれ〜」
ナツ「(日記帳を見ながら)五月九日土曜日大雨・・・新しい服が破れた・・・電車が三十分遅れてた・・・強風で傘がぶっ壊れた・・・滑って転んだ・・・買おうとしていた漫画の発売日が来週だった・・・かなCオロナミンCビタミンC不足・・・」
スズ「おろなみんしー?」
ナツ「(日記帳を見ながら)なんだろう・・・五月十日日曜日曇り・・・家のトイレが逆流した、こわかた」
スズ「しおりん・・・運のない人だったんだね」
ナツ「(日記帳を見ながら感心している)面白いことを書く人だ・・・」
◯179貴志家リビング(日替わり/朝)
制服姿で椅子に座ってテレビを見ている鳴海
時刻は七時半過ぎ
ニュースキャスター2「メナス議員は再び米国を強く偉大な国にする。我々は敗者ではなく勝者でいなければならないとツイートしています」
鳴海はテーブルの上に置いてあったリモコンを手に取り、テレビを消す
カバンを持って、家を出る鳴海
◯180波音高校三年三組の教室(朝)
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来てない
生徒たちは喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
窓際で仲良く喋っている鳴海、菜摘、嶺二、明日香
鳴海「今日の朝部誌を配るんだろ?」
菜摘「うん、初刊だよ」
明日香「これを毎月やるのね・・・休んでられない」
嶺二「ほんと息つく暇ねえ、今月は学園祭の準備もあるんだぜ?」
菜摘「朗読劇の本は完成したから、あとは朗読劇に向けて作業をしないとね」
鳴海「せっかく作った部誌もフィードバックを気にしてる時間はねえってことか・・・」
嶺二「酷評の嵐かもしれないからある意味ありがたい」
明日香「千春の作品は朗読劇までお楽しみっていうことにしたけど、他の作品だけで楽しんでもらえるのかなぁ・・・」
菜摘「文芸部最初の活動だからね、部誌の評価で朗読劇への期待値が決まるよ」
鳴海「例え部誌の評価が散々でも朗読劇で巻き返せるさ、千春の作品は隠し球だからな」
◯181波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
円卓会議をしている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春
みんなの手元には朗読劇で使う小説がある
それを立って見守っている神谷
会議の内容は朗読劇について
それぞれアイデアを出し合う
千春「三人必要ですけど、誰が朗読しますか?」
鳴海「そうだなぁ・・・とりあえず俺は遠慮する」
嶺二「右に同じ、俺たちは出来かねる」
鳴海「こんな大役は俺たちに任せちゃいかん」
神谷「(不思議そうに)作者の菜摘と千春がやっちゃダメなの?」
千春「わ、私はあがり症なので・・・」
菜摘「女役は私が読んでもいいですけど・・・あとは誰がやる?」
少しの沈黙が流れる
みんなが明日香の方を見る
明日香「私は無理無理!!滑舌悪いし!!」
続いてみんなが汐莉の方を見る
汐莉「みんなして見ないでください、私には無理です!」
神谷「(呆れながら)押し付けてたら何も決まんねえぞ。女役と男役と状況説明をする役が必要なんだろ?(黒板に女役は菜摘と書く)あと二人は誰にするんだ?こういうのは自主的にやるっていう奴がモテるんだぞ!」
また沈黙が流れる
他の役が決まらず菜摘が困っている
鳴海は菜摘を見る
鳴海はため息を吐く
鳴海「じゃ・・・じゃあ俺が・・・」
神谷「おお!?鳴海やってくれるんだな!?」
鳴海「言葉が少ない男役の方で」
神谷が男役は鳴海と黒板に書く
神谷「えらいぞ鳴海。さて、もう一役だけだ。状況説明をする役は男の方がいいの?」
菜摘「出来れば女の子の方がいいです」
神谷「千春がやればいいと思うんだけどなぁ・・・」
千春「私は裏方に徹したいです」
神谷「じゃあ・・・明日香は?」
明日香「嫌です!」
神谷「なんでだよぉ〜」
明日香「嫌だから嫌なんです!!」
神谷「やってくれたら・・・内申書に書けることが増えて、受験の時に役に立つよ」
明日香「私大学じゃなくて専門行くんで関係ありません!」
神谷「そう言わずにさ〜、頼むよ〜。鳴海だってやるんだから君もやろうよ〜」
明日香「人と比べないでください!嶺二がやればいいじゃん!!」
嶺二「ちょおま!女の子の方がいいって菜摘ちゃんが言ってたやん!!」
明日香「私、汐莉がやってもいいと思うんだけど・・・」
汐莉「えぇー・・・私はこの前部誌の挿絵を描いたじゃないですか」
明日香「それとこれは別!だいたいあの時は汐莉が遅刻してきたでしょ」
汐莉「ひどいですよ明日香先輩!!遅刻と言っても私は軽音部の練習があっただけです!そもそも私は学園祭でバンドを披露しなきゃいけないんですよ?」
明日香「くっ・・・」
鳴海「もうここまできたら明日香も一緒にやろうや」
神谷「腹を括って後輩にかっこいい姿を見せてやりな明日香」
明日香「(怒りながら)分かりましたよもう」
神谷が状況説明役は明日香と黒板に書く
不服そうな顔をしている明日香
鳴海「(声 モノローグ)こうして朗読劇に向けて本格的な準備が始まった」」
◯182波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
本の読み合わせをしている鳴海、菜摘、明日香
それを聞いている嶺二、汐莉、千春
鳴海「(声 モノローグ)菜摘が朗読するのは主人公。明日香はキャラクターの心情と状況を説明する。俺は準主人公的な枠を担当しなくてはならない」
読み合わせを止める鳴海、菜摘、明日香
千春が演出する
千春の指示に従い読み合わせを再開する鳴海、菜摘、明日香
鳴海「(声 モノローグ)演出は千春、彼女の指示に従って読み方を変える。嶺二と南は舞台の準備、音楽や照明を担当することになった。公演は全部で二回、土曜日、日曜日にそれぞれ一回ずつ。みんな足を引っ張らないようにと準備と努力を怠らない」
◯183帰路(放課後/夕方)
部活を終えみんなで一緒に帰っている
楽しそうに喋っている一同
鳴海「(声 モノローグ)毎日少しずつ、完璧な作品に近づいていく。みんなの瞳に強い光が宿る」
◯184波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来てない
生徒たちは喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
窓際で仲良く喋っている鳴海と菜摘
鳴海「(声 モノローグ)いつの間にか授業をサボることもなくなった。三年生になってからは一度も欠席してない。無駄な時間だと思っていた学校生活も、いつしか目標が出来ていた」
嶺二と明日香がくだらない口喧嘩をしながら登校してくる
鳴海と菜摘は二人の言い争いを見て笑っている
鳴海「(声 モノローグ)やりがいがある目標、共に努力する仲間たち、有限ではない放課後の時が終わりと始まりを繰り返す」
◯185波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
朗読劇の練習をしている鳴海、菜摘、明日香
台本を持ち三人は台詞を順々に言っていく
千春が一つ一つの台詞を丁寧に演出する
嶺二は千春のサポートをする
鳴海「(声 モノローグ)学園祭までに全て頭に叩き込む。とても短い期間だ」
◯186波音高校軽音学部室(放課後/夕方)
汐莉とバンドメンバーたちが学園祭に向けて練習をしている
汐莉はボーカル
鳴海「(声 モノローグ)様々な部活動が学園祭に向けて動き始めている」
◯187波音高校第二理科室/天文学部室(放課後/夕方)
黒板にプラネタリウムの作り方と書かれている
技術で使うような道具と工作キットがそれぞれのテーブルに置いてある
一条雪音と双葉篤志が黒板の前に立ち作り方を部員たちに教えている
鳴海「(声 モノローグ)物が売れれば部活の予算になる」
◯188波音高校第二音楽室(放課後/夕方)
三十人以上いる部員たち
指揮者に合わせて演奏する
学園祭に向けてメドレーの練習をしている
鳴海「(声 モノローグ)興味を示す中学生がいれば未来の部員になる」
◯189波音高校旧理科準備室現オカルト研究会部室(放課後/夕方)
部室内は積み重ねられた古びた本、六芒星の描かれた巨大なポスターが貼られた壁、魔女のコスプレをさせられた人体模型、中世ヨーロッパを想起させるような少女の人形など不気味な物で溢れている
部長の中森と部員たちがパソコンで波音町の都市伝説について調べている
鳴海「(声 モノローグ)今後の部活に影響するイベントだ」
◯190波音高校三年三組の教室(日替わり/午後)
HRの授業
学園祭実行委員が前に立っている
クラスの出し物を決める
模擬店、お化け屋敷、縁日などが候補にある
鳴海「(声 モノローグ)学園祭の話が増えてきた。昼休み、放課後、授業中まで学園祭の話が出てくる」
◯191マクドナルド&カフェのメソッド付近(昼)
千春が一人でビラ配りをしている
千春が着ている服は嶺二が買ったもの
受け取ってくれる人が少しずつ増えている
千春の姿を遠くから見ている有馬勇
鳴海「(声 モノローグ)千春に対する嶺二の思いは変わらず。記憶に関する新しい情報は何も出てこない。千春が語らない以上、俺と菜摘は学園祭が終わるまで余計な行動はしないと決めた」
◯192波音高校三年三組の教室(日替わり/午後)
HRの授業
学園祭実行委員が前に立っている
模擬店、お化け屋敷、縁日などが候補にある
多数決で出し物を決める
鳴海は菜摘の方を見ている
鳴海「(声 モノローグ)俺は俺で菜摘が好きなのに特に想いを伝えることもなくダラダラと引きずる日々。今にして思えば学園祭の準備を言い訳にしてありとあらゆることを疎かにしていた」
◯193波音高校体育館/学園祭のメイン会場(放課後/夕方)
学園祭実行委員の生徒たちが、飾り付けをしたりパイプ椅子を並べたりしている
たくさんの先生たちが飾り付けと準備の進行具合を見に来ている
汐莉を含め音楽系の部活動に参加している学生が楽器をステージの裏に持ち運んでいる
汐莉以外の文芸部員がステージに立っている
台本を持っている文芸部員たち
鳴海「(声 モノローグ)一ヶ月というのはとても短い期間の単位であり、特に一つのことに集中して過ごせば尚更のことである。気がつけばじめじめとした湿気の多い六月になっていた」
菜摘「立ってるだけでも緊張するよ・・・」
千春「頑張ってください菜摘さん!」
菜摘「(自信なさそうに)う、うん・・・」
鳴海「ビビるなよ菜摘、俺たちめちゃくちゃ練習したんだぜ?次の土日を乗り越えてみんなで遊びに行こうぜ!!」
明日香「だね!!振替休日もあるんだから!」
嶺二「せっかくだしみんなで遊園地とか行っちゃう!?」
菜摘「あっ、それいいね!」
鳴海「待て待て、俺は絶叫系アウトなんだよ!」
菜摘「えっ!?そうなの?」
鳴海「あんなもの人が乗るもんじゃねえ」
明日香「鳴海はヘタレだもんね」
鳴海「うるさいなヘタレって言うな!」
神谷がステージの方へやってくる
神谷「よう、上手くできそう?」
菜摘「ま、まあ・・・多分」
神谷「なんだ?自信なさげだな。演出家的には?」
千春「バッチリです」
神谷「ミスしても二回あるってことを忘れずにな」
明日香「ミスとか言わないでくださいよ先生!!」
神谷「悪い悪い!」
嶺二「なんつー無神経な先生なんだか・・・」
神谷「あれ・・・今日はこれで全員?少なくない?」
菜摘「汐莉ちゃんが向こうで楽器を運んでます」
神谷「あー、汐莉がいないのか・・・そういえば軽音楽部にも所属してるんだった。忘れてた忘れてた」
鳴海「大丈夫っすかそんなボケてて、この間もそれ言ってたっすよ」
神谷「ん?そうだっけ・・・そんなことよりみんな頑張れよ!!悔いが残らないようにな!!」
神谷はふらふらとステージから離れ、違う学生に声をかけに行く
ステージの裏から汐莉が台本を持って出てくる
汐莉「楽器の準備終わりましたー」
千春「お疲れ様」
菜摘「もう軽音部に行かなくていいの?」
汐莉「今日は解散になりました!」
菜摘「千春ちゃんたちは調整室に行ってみる?」
千春「そうですね、ライトと音楽を確認してみます」
嶺二「ついに来たな俺の大仕事がっ!!」
嶺二、汐莉、千春が体育館二階にある調整室に行く
少しするとステージの照明がつく
鳴海「おおっ!眩しいな」
菜摘はポケットからスマホを取り出し、汐莉と電話を始める
菜摘「私の位置はこれでいい?」
汐莉「(スマホから漏れる声)立ち位置は大丈夫です、近くに椅子ありませんか?座り位置も確認したいです」
菜摘「椅子ね、ちょっとまってて」
鳴海「椅子なら俺が取って来るよ」
菜摘「(スマホを口から離して)ううん、大丈夫。二人の立ち位置はまだ決まってないから私が取ってくるよ」
菜摘はパイプ椅子を取りにステージから降りる
鳴海「三台いるだろ、俺もてつd・・・」
明日香「鳴海!」
鳴海「(驚いて)な、なんだよ。びっくりしたやんけ」
菜摘は学園祭実行委員の生徒にパイプ椅子を借りていいか聞いている
明日香「に、日曜日さ・・・学園祭が終わったら言いたいことがあるんだけど・・・」
鳴海「(きょとんとしながら)言いたいこと・・・?」
明日香「言いたいことっていうか・・・大事な話があって・・・」
鳴海「大事な話・・・?(慌てて)も、もしかして嶺二から千春のことを!?」
明日香「(意味が分からない様子で)は?なんで千春?」
鳴海「(より慌てて)い、いや何でもない!!忘れろ!!!」
菜摘がパイプ椅子を三台借りて来る
明日香「と、とにかく学園祭終わった後!分かった?」
鳴海「う、うん?結局なんだ話って・・・」
明日香「それはその時に話す!」
鳴海「お、おう」
◯194帰路(放課後/夜)
部活を終えみんなで一緒に帰っている
嶺二「いよいよだなぁ・・・後はリハーサルして、本番二回だけ」
明日香「最後の学園祭だって考えると結構寂しいもんね」
汐莉「部活の掛け持ちがこんなに忙しいとは・・・」
明日香「バンドの演奏と朗読劇の二つはしんどいね」
汐莉「聞いてくださいよ!私のクラスはメイド喫茶やるんですけど、同じクラスの子がドタキャンしたせいで私がメイドやることになったんです!!」
嶺二「マジ!?メイド!?」
汐莉「メイドの格好なんて屈辱ですよほんとに」
明日香「まあまあ・・・良いか悪いかは別だけど思い出になるんじゃない?」
汐莉「三次元のメイドほど痛い衣装はないです」
明日香「この際、バンドの衣装もメイド服にしたら?」
汐莉「勘弁してくださいよ!!好きでメイドになるわけじゃのに!」
明日香と汐莉がメイドの話で盛り上がっている
千春「菜摘さん、鳴海さん」
菜摘「ん?」
鳴海「どうした?」
千春「(小声で)記憶のことで話があります」
顔を見合わせる鳴海と菜摘
千春「(小声で)今日私の部屋に寄ってもらえませんか?」
鳴海「(小声で)俺は良いけど・・・菜摘の家に寄っても大丈夫?」
菜摘「(小声で)私の家は大丈夫だよ」
鳴海「(小声で)じゃあ後で話してくれ」
千春「(小声で)はい」
嶺二は鳴海と菜摘と千春を見ている
◯195早乙女家客室/千春の部屋(夜)
嶺二がUFOキャッチャーで取った大きなくまのぬいぐるみが部屋に置いてある
それ以外はほとんど物がない質素な部屋
畳に座っている鳴海、菜摘、千春
千春「はっきりしたことは言えないんですけど・・・私には別の場所がある気がします」
鳴海「ギャラクシーフィールドのことか?」
千春「いえ、ギャラクシーフィールドとは別です。なんかもっと別の空間があったような・・・」
菜摘「別の空間?家族がいるところ?」
千春「分かりません。そんな気もしますし、そうじゃないような気もします。最近、過去のことも思い出すようになってきました。昔・・・私は、菜摘さん、鳴海さん、嶺二さんとお会いしたことがあるのでは?」
鳴海「分からねえ、会ったなら俺たちが」幾つくらいの時だ?」
千春「皆さんまだ小さかったです。小学生か、それよりも下か・・・」
菜摘「会ったことあったかなぁ・・・」
千春「一緒に冒険したり・・・旅したり・・・遊んだと思います」
鳴海「待て待て、旅なんかした覚えはないぞ」
菜摘「私も、さすがに一緒に旅行に行ってたら覚えてると思う」
千春「(大きな声で)お二人は忘れてしまったんですか!一緒に遊んだじゃないですか!!」
菜摘「千春ちゃん・・・」
千春「ごめんなさい、大きな声を出して・・・」
菜摘「ううん、忘れてる私たちが悪いよ」
鳴海「小さい頃、俺と千春と菜摘と嶺二の四人で遊んだのか・・・?」
千春「四人じゃなくて、それぞれ別々に遊んでました。でも・・・皆さん少しずつ、私のことを・・・忘れて・・・友達だったことも、一緒に冒険して悪者をやっつけたことも・・・」
鳴海「本当に覚えてねえ・・・すまん」
菜摘「ごめんね千春ちゃん」
俯く千春
◯196早乙女家前(夜)
家の前で二人きりで話をしている鳴海と菜摘
菜摘「(落ち込む)私たち、学園祭に夢中になり過ぎてて大事なことを忘れてるのかな・・・」
鳴海「菜摘は仕方ねえだろ・・・ここんところ毎日学園祭の準備じゃないか・・・悪いのは俺だ、千春を文芸部に誘ったのも俺のアイデアだし・・・千春のことをもう少し気にかけとくべきだった」
菜摘「鳴海くん一人のせいじゃないよ、私たち二人に責任があることだと思う・・・千春ちゃんと私たちが遊んでた頃って、千春ちゃん自身は何歳だったんだろ」
鳴海「俺らと千春の年齢差は三つくらいだよな?仮に俺が六歳の時に遊んでいたら千春は三歳。三歳の時の記憶なんて普通忘れるはず・・・」
菜摘「おかしいよ・・・千春ちゃんと旅行に行ったことなんて全然覚えてないもん・・・それに、私は小さい頃体が弱くて旅行なんか連れて行ってもらったことないと思う」
鳴海「子供同士のおふざけで旅っていう大それたことを言ってただけかもしれんな・・・」
菜摘「それか・・・やっぱり・・・千春ちゃんはゲームのキャラクターで・・・旅っていうのはゲームの中の・・・・」
鳴海「冒険をして悪者をやっつけたっていうのもゲームのことかよ・・・そんなことそんなことあってたまるか!!」
菜摘「鳴海くん・・・」
鳴海「みんなになんて説明すりゃいいんだ・・・」
菜摘「日曜日、学園祭が終わったら・・・みんなに全てを話そう?千春ちゃんのこと、記憶のこと、ゲームのこと、嘘ついていたことも・・・」
鳴海「そうだな・・・自分勝手な話だけど・・・土曜日は有馬さんも学園祭に来てくれるし・・・」
菜摘「有馬さんの話も聞けるね、また何か分かるかも・・・今度はみんなで話し合って、千春ちゃんのことと向き合おう」
鳴海「ああ」
◯197貴志家鳴海の自室(夜)
ベッドで横になっている鳴海
鳴海の横にあったスマホが振動する
姉の風香からの電話、スマホを取る鳴海
風夏「(電話の声)もしもし、鳴海?」
鳴海「なに」
風夏「(電話の声)なんか機嫌悪くね?あっ、もしかして彼女とデートなう?」
鳴海「切っていい?」
風夏「(電話の声)ごめんごめん!切らんといて!学園祭のことなんだけどー!」
鳴海「なんだよ」
風夏「(電話の声)お姉ちゃんの友達から聞いたんだけどさー!鳴海、朗読劇やんの?!」
鳴海「やるけど」
風夏「(電話の声)私も行くねー!」
鳴海「来んな」
風夏「(電話の声)いいじゃん引き籠りの弟が朗読劇に参加するっていう奇跡が起きたんだからー!」
鳴海「(少しイライラしながら)別に奇跡でもなんでもねえよ」
風夏「(電話の声)今週の土曜日でしょ学園祭!友達と行くからよろしくー!!」
鳴海「勝手によろしくするんじゃ・・・(思い出したように)そういや姉貴」
風夏「(電話の声)なんだい」
鳴海「柊木千春って子知ってる?昔俺と遊んでたらしいんだけど、覚えてない?」
風夏「(電話の声)柊木千春・・・柊木千春・・・聞いたことはある気がするけど・・・付き合ってんの?」
鳴海「(即答する)ちゃうわ、俺、その子と旅行に行ったあるらしいんだけど・・・」
風夏「(電話の声)らしいって、あんた自身は覚えてないんかい」
鳴海「ああ。その子が言うには小学生くらいの時に旅行に行ったらしい、けど、全く覚えてないんだよ」
風夏「(電話の声)旅行?子供だけで?」
鳴海「分からん」
風夏「(電話の声)よう分からないけど、本当に旅行なんか行ったの?子供同士の遊びとかじゃなくて?」
鳴海「分からん」
風夏「(電話の声)お前のボキャブラリーは分からんか知らんか覚えてないの三パターンしかないのか」
鳴海「だって分からんことだし、知らんし、覚えてない」
風夏「(電話の声)私も同じ、分からん、知らん、覚えてないの三つ」
鳴海「じゃあ、何か思い出したら連絡して」
風夏「(電話の声)りょーかい」
鳴海「ほんじゃあな、来んなよ学園祭」
風夏「(電話の声/慌てて)あっ、待ってy・・・」
風夏が何か喋りかけていたが、容赦無く電話を切る鳴海
◯198波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来てない
生徒たちは学園祭の話題で持ちきり
窓際で仲良く喋っている鳴海と菜摘と明日香と嶺二
嶺二「今日はリハーサル、明日は本番、明後日も本番、ガチで緊張してきた」
明日香「しっかりしてよー、裏方がミスしても恥かくの私たちなんだからね」
嶺二「分かってるって!でもミスするかもしれないから先に謝っておく、すまん!」
鳴海「おいおい・・・俺らまで緊張してくるだろ」
嶺二「ミスする可能性はある」
菜摘「ミスするなら、お客さんに分からない程度のミスでお願い」
嶺二「それは逆にミスするのが難しい」
明日香「ミスしたら本気で殴る、蹴る」
嶺二「恐ろしい・・・てかさ、今日のリハーサルが終わったらなんかしようやみんなで」
鳴海「本番前日は大人しく家に帰った方がよくねえか」
嶺二「いやいや、決起集会!!」
菜摘「みんなでご飯にでも行く?」
明日香「そういうのは終わった後にすることでしょ・・・私たちは家に直帰して、台本の確認」
嶺二「それはつまらん。どっか遊びに行って気分転換しようぜ」
鳴海「どっか遊びに行くって言っても、リハーサルは放課後からだし、かなり遅い時間だぞ」
嶺二「夜の方が盛り上がるやん!!」
鳴海「子供かお前は」
嶺二「せっかくだし千春ちゃんのバイト先に行くってのは?」
菜摘「バイト先って・・・」
嶺二「ほらあれだよ、ビラ配りしてるってやつ。ギャラクシー・・・フィールドだっけ?」
明日香「本番前に散在して気分を入れ替えるのね」
鳴海「ダメだ」
明日香「ダメってゲームセンターが?」
鳴海「ああ」
嶺二「なんでダメなんだよ、ゲーセンなら遊べんじゃん」
鳴海「それなら飯でいいだろ」
菜摘「げ、ゲームセンターは千春ちゃんのバイト先だし、ほ、他の場所の方が楽しめるんじゃないかな・・・」
明日香が鳴海と菜摘の顔を交互に見る
舌打ちをする嶺二
嶺二「なら俺と千春ちゃんの二人でギャラクシーフィールドに行ってくるわぁ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「やめてくれ嶺二」
嶺二「は?誰とゲーセンに行こうがお前に関係ねーだろ」
鳴海「(嶺二に向かって小声で)嶺二、学園祭が終わったら全部説明するって言ったじゃないか。それまで我慢してくれよ、頼むから」
嶺二「(イライラしながら)うぜえんだわ、コソコソ勝手にやりやがってよ。こっちは一ヶ月も放置されてんのにまだ待てって言うのかよ?」
菜摘「嶺二くん、落ち着いて」
嶺二「俺らだって薄々気付いてる、お前と菜摘ちゃんが千春ちゃんのことで隠し事をしていることくらい」
明日香「ちょっと嶺二・・・」
嶺二「(イライラしながら)だって明らかに説明不足のことばっかりじゃないか、学費を貯めるためにバイトしてるんだよな?家出のことはどうなったんだ?昨日の帰り道だって何をコソコソと喋ってたんだよ。しかもあの後お前、菜摘ちゃんの家に行っただろ」
鳴海「落ち着け嶺二、学園祭が終わったら・・・」
嶺二「(イライラしながら)クソッタレが、適当なことを言いやがって」
嶺二は怒って自分の席に戻ってしまう
頭を抱える鳴海
鳴海「クソ・・・」
明日香「後でちゃんと話してよ」
鳴海「そうする」
菜摘「ごめん明日香ちゃん」
明日香「今更謝らないでよ、朗読劇のことに集中して。文芸部の士気は菜摘にかかってるんだから」
菜摘「ほんとにごめん・・・」
明日香「だから謝らないでって言ってるでしょ」
◯199マクドナルド&カフェのメソッド付近(昼)
千春が一人でビラ配りをしている
受け取ってくれる人が着実に増えている
千春「(道行く人にビラを差し出して)ゲームセンター、ギャラクシーフィールドで遊びませんか?レトロな名作でたくさん遊べますよ」
◯200波音高校体育館/学園祭のメイン会場(放課後/夕方)
学園祭のリハーサル
薄暗く不気味なBGMが流れている体育館
オカルト研究会による怖い話の朗読が行なわれている
飾り付けと準備が終わっている体育館
体育館で披露する予定の生徒たちがパイプ椅子に座っている
先生たちもリハーサルを見守っている
文芸部員たちは舞台袖に隠れて、出番を待っている
中森「なんとその人の両腕と両足はぐちゃぐちゃに砕かれていました!女の子の正体は魔女のリーダー、祐一はそのことに気づかず、知らず知らずのうちに魔女に協力していたのです・・」
ステージの照明が消え、真っ暗になる
汐莉「(小声でボソッと)びっくりするくらい怖くねえ・・・」
ステージの照明が全部つく
オカルト研究会の部員たちがステージに出てきて一礼をする
学園祭実行委員のアナウンス「オカルト研究会の皆さん、ありがとうございました」
オカルト研究会の部員たちが舞台袖に戻る
緞帳が下がってくる
学園祭実行委員のアナウンス「続いてのプログラムは文芸部による朗読劇“少年少女のファンタジーアドベンチャー“をお送りします。演出、一年の柊木千春さん、原作、柊木千春さんと三年の早乙女菜摘さん、女の子役、早乙女菜摘さん、男の子役、三年の貴志鳴海くん、心の声役、三年の天城明日香さん、照明音響、三年の白石嶺二くんと一年の南汐莉さん。それではお楽しみください」
鳴海、菜摘、明日香が椅子を持ってステージに入る
印に椅子を合わせて座る三人
嶺二、汐莉、千春は体育館二階にある調整室にいる
照明が菜摘一人に当たっている
BGMが流れ始める
幕が上がる
菜摘「私は勇敢な戦士が現れるのを待っている、世界を救わなければならないからだ。今日も悪霊が人を襲ってる。私一人じゃ戦えない!!お願い!!助けて!!」
時間経過
ステージの照明が全部つく
文芸部員たちがステージに出てきて一礼する
緞帳が下がる
学園祭実行委員のアナウンス「文芸部員の皆さん、ありがとうございました」
舞台袖に戻る文芸部員たち
文芸部と入れ替わって吹奏楽部員たちが、楽器と楽譜と椅子と譜面台を持ってステージに入って行く
千春「皆さん完璧でした!」
明日香「一瞬危なかったけどね・・・」
舞台袖にいた神谷が声をかけてくる
神谷「よかったぞー!本番もこの調子でな!!」
嶺二は舞台袖から出て行く
神谷「(出て行った嶺二を見て)どうしたんだ嶺二は、何かあったのか」
鳴海「何でもないっすよ」
神谷「なるみぃ、嶺二になんかあった時は君が力を貸してやらなきゃダメだろ〜」
鳴海「そうっすね」
神谷「明日香ぁ、鳴海と嶺二を仲直りさせてやってくれよ〜」
明日香「私がですか?」
鳴海「てか別に喧嘩してませんけど」
神谷「見ろよこの鳴海の態度、こいつ素直じゃないところがあるからなぁ・・・」
鳴海「余計なお世話っす」
神谷「こんなギクシャクした感じで大丈夫なの?明日と明後日が心配だよ先生は」
鳴海「大丈夫っす、なんとかなるんで」
神谷「ほんとかよ〜、まあ後悔のないように頑張ってくれたまえ生徒諸君」
神谷は舞台袖から出て行く
学園祭実行委員のアナウンス「続いて、県二位の実力を持つ吹奏楽部によるメドレーをお楽しみください。今日はリハーサルなので、音楽系の部活は演奏しません」
◯201帰路(放課後/夜)
帰っている文芸部員たち
嶺二はいない
汐莉「鳴海先輩、嶺二先輩と喧嘩してるんですか?」
鳴海「してねえよ別に」
汐莉「その言い方は喧嘩してますよね完全に」
千春「仲直りしてください」
菜摘「二人は親友なのに、高校最後の学園祭中に喧嘩なんて悲しいよ」
明日香「こういう時に喧嘩するってほんと馬鹿だよねぇ、二人とも」
鳴海「馬鹿じゃなかったら今までだってつるんでねえ」
明日香「馬鹿ならちゃっちゃと仲直りしなさいな」
鳴海「俺らにも色々あんの」
ため息を吐く明日香
◯202滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(雨/夜中)
教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある
椅子や机、教室全体に溜まりまくった小さなゴミ
教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている
ナツは床に座って20Years Diaryの音読をしている
スズはナツにもたれている
包帯を巻いているため両目とも見えないスズ
ナツ「(日記帳を見ながら)六月五日金曜日曇り・・・朗読劇のリハは上手くいった、謎に鳴海先輩と嶺二先輩が喧嘩していた、謎に。バンドはリハなかったけど大丈夫だと思われる。一年生の演奏に期待して聴きにくる者はいなかろう」
スズは何も喋らない
ナツ「(日記帳を閉じスズの体を揺すりながら)おいスズ」
スズは寝息を立てている
ナツ「よかった・・・寝てるだけだ・・・」
ナツは日記帳を地面に置く
ナツ「誰か・・・放送聞いてくれたかな・・・聞いてるといいな・・・」
ナツは目を閉じて眠る