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Chapter6卒業編♯2 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われていた武将。


一世(いっせい) 年齢不明 男子

ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。

Chapter6卒業編♯2 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯754汐莉の夢/緋空寺/境内(夕方)

 強い雨が降っている

 遠くの方では雷が鳴っている

 緋空寺の境内にいる汐莉

 汐莉は傘を持っていない

 寺は人の手入れが全くされていない

 寺の屋根の一部分は壊れている

 雑草が生い茂り、かつて舗装されていたであろう道は砂利で荒れ果てている

 手水舎には雨水が溜まっている

 寺の賽銭箱はひっくり返っている

 汐莉はずぶ濡れになっている

 汐莉は周囲を見ている

 寺の賽銭箱の前に傘をさした菜摘が立っている

 

汐莉「菜摘先輩?」


 菜摘は傘を閉じる


菜摘「さよなら」


 菜摘は傘の先端を自分の胸元に向ける

 菜摘は傘の先端を自分の胸元に突き刺す

 傘は菜摘の胸元を貫通する

 賽銭箱に血がかかる

 汐莉の後ろで何かが倒れたような音がする

 振り返る汐莉

 一条智秋が胸元から血を垂れ流しながら倒れている

 智秋の胸元には穴が空いている


汐莉「(混乱しながら)な、なんで雪音先輩のお姉さんが・・・」


 智秋は首から胸元を垂れ流したまま、立ち上がる

 

菜摘「さよなら」


 汐莉が前を見ると、傘を持った菜摘が立っている

 菜摘が立っている場所は、先ほど同じく賽銭箱の前

 菜摘の胸元に傷はない

 菜摘は再び傘の先端を、今度は自分の胸元に向ける

 菜摘は傘の先端を自分の胸元に突き刺そうとする

 汐莉は走って菜摘を止めに行く

 汐莉は菜摘の体に勢いよくぶつかる

 倒れる菜摘と汐莉

 菜摘は手に傘を持っている

 汐莉は這いつくばり菜摘の手から傘を奪い取ろうする


汐莉「(菜摘の手から傘を奪い取ろうとして大きな声で)先輩!!!やめてくださいこんなこと!!!」


 菜摘は何も言わずに抵抗する


汐莉「(菜摘の手から傘を奪い取ろうとしながら大きな声で)菜摘先輩ってば!!!!」


 汐莉は菜摘の手から傘を奪い取り、傘を遠くへ投げ捨てる

 汐莉は息切れをしながら、立ち上がる


汐莉「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・どうしちゃったんですか先輩・・・おかしいですよ・・・」


 呼吸を整え、汐莉は菜摘に手を差し伸べる

 菜摘は汐莉の手を取ろうか、少しの間悩む

 菜摘は汐莉と同じようにずぶ濡れになっている

 菜摘が汐莉の手を取ろうとした瞬間、空が光り大きな音が鳴り響く

 緋空寺境内に雷が落ちる

 汐莉は腕で顔を覆う

 再び汐莉の後ろで何かが倒れたような音がする

 汐莉は腕で顔を覆うのをやめて、振り返る

 傘を持った智秋が倒れている

 智秋は雷に打たれて死んでいる

 智秋の体から、肉を火で炙るような音が微かに鳴っている

 智秋の体からは煙が出ている

 智秋の肌は焦げて黒くなっている

 智秋の胸元に穴はなく、周りに垂れ流れていた血は無くなっている


汐莉「(菜摘の方を見て)菜摘先輩・・・智秋さんが・・・」


 汐莉は菜摘のことを見て言葉を失う

 菜摘の体は智秋と同じように煙が出ている

 菜摘の体からは、智秋と同じように肉を火で炙るような音が微かに鳴っている

 菜摘は死んでいる

 菜摘の肌は焦げて黒くなっている

 汐莉は呆然と菜摘のことを見ている

 少しの沈黙が流れる

 汐莉はその場に座り込む


汐莉「(呆然と落雷で死んだ菜摘のことを見たまま)どうして・・・菜摘先輩と智秋さんが・・・」


◯755Chapter3◯339の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 外で活動している運動部の掛け声が聞こえる

 部誌の印刷をしていた鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音

 雪音と話をしている菜摘

 菜摘と雪音の会話を聞いている鳴海たち


菜摘「大丈夫だよ、ドナーは見つかる」

雪音「どうして言い切れるの?」

菜摘「だってここは奇跡が起きる町だよ。(少し間を開けて)波音町の神様は一生懸命頑張っている人のことを見捨てたりしない。きっと今だって雪音ちゃんとお姉さんのことを見てると思う」

雪音「神様なんて・・・そんなのいるかどうか・・・」

菜摘「そうだね、でも必ずドナーは見つかる。近いうちにね」

雪音「それ、私は信じていいの?」

菜摘「信じなきゃ!」


◯756Chapter6◯576の回想/波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 校庭では運動部が活動している

 教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 軽音部の部室で椅子に座って曲制作を行っていた菜摘と汐莉

 二人の近くにある机の上には筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある

 机の横には菜摘と汐莉のカバンが置いてある

 菜摘は汐莉の頬に手を置く


菜摘「(汐莉の頬を触りながら)結果がどれだけ大事なのかは分からないけど・・・汐莉ちゃんの選んだ道が・・・運命であっても、そうじゃなくても、私が望むのは汐莉ちゃんの幸せだよ。きっと汐莉ちゃんなら、どんな道に進んだって、どんな結果が待っていたって、汐莉ちゃんの優しい心が困ってる人を助けるのは間違いなし、傷ついた人の心を癒すのも間違いないから、汐莉ちゃんに救われる人がいっぱいいて、汐莉ちゃん自身も好きな道を選んで、みんなが幸せになれると良いよね」

汐莉「先輩は?菜摘先輩はどうなるんです?」

菜摘「(汐莉の頬を触ったまま)私はただ決まった道を進むだけだよ」


◯757Chapter6◯345赤レンガ倉庫/アイリッシュイベント会場(夜)

 アイリッシュイベント会場にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、潤、すみれ

 人で溢れているアイリッシュイベント会場、イベント会場の横には赤レンガ倉庫が立っている

 牛肉のシチュー、ラム肉のグリル、パイ料理、フィッシュアンドチップス、酒類、食器、紅茶、お菓子、羊毛の織物、アクセサリーなどを売っている出店がたくさんある

 会場にはたくさんの丸テーブルと椅子があり、飲み食いをしている人が利用している

 会場の奥には大きなステージがあり、ステージの上ではアイリッシュ音楽のライブが行われている

 会場全体にアイルランドの国旗である緑、白、オレンジが飾り付けされている

 イベント会場ステージには大きなステージがあり、ステージの上にいた響紀が”Paint It Black”を歌い終える

 ライブの観客から大きな拍手が巻き起こる

 菜摘と汐莉はステージからかなり離れたところにあるベンチに座っている

 菜摘は汐莉の手を握っている


汐莉「私心配なんです・・・菜摘先輩の体が・・・」

菜摘「(驚いて 手は握ったまま)えっ・・・私の体?」

汐莉「はい・・・」

菜摘「(手を握ったまま)汐莉ちゃん、私は大丈夫だよ。合宿をする元気だってあるんだから」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「菜摘先輩、体調、何ともないですか・・・?」

菜摘「(手を握ったまま頷き)もちろん」


◯758回想戻り/汐莉の夢/緋空寺/境内(夕方)

 強い雨が降っている

 遠くの方では雷が落ちている

 緋空寺の境内にいる汐莉

 汐莉は傘を持っていない

 寺は人の手入れが全くされていない

 寺の屋根の一部分は壊れている

 雑草が生い茂り、かつて舗装されていたであろう道は砂利で荒れ果てている

 手水舎には雨水が溜まっている

 寺の賽銭箱はひっくり返っている

 汐莉はずぶ濡れになっている

 汐莉の前には雷に打たれて死んでいる菜摘、汐莉の後ろには雷に打たれて死んでいる智秋がいる

 菜摘と智秋の体は黒く焦げ、煙が出ている

 智秋は傘を持ったまま死んでいる

 その場に座り込んだまま、落雷で死んだ菜摘のことを見ている汐莉


汐莉「(落雷で死んだ菜摘のことを見たまま)菜摘先輩の・・・大嘘つき・・・」


 振り返る汐莉

 落雷で死んだ智秋の隣に、雪音が立っている


汐莉「(雪音のことを見て)そういうことだったんですね・・・雪音先輩・・・おかしいと思ったんです、天文学部を捨てて文芸部に入部するなんて」


 立ち上がる汐莉


汐莉「ごめんなさい菜摘先輩、鳴海先輩・・・部内の空気はめちゃくちゃになっちゃいますけど・・・菜摘先輩を救うために、自分に出来ることを私はします」


◯759南家汐莉の自室(日替わり/朝)

 外は薄暗く曇っている

 自室で制服に着替えている汐莉

 机の上にはスマホが置いてあり、そこからPAMELAHの”SPIRIT”が流れている

 少しすると汐莉は着替え終える

 机の上に置いてあったスマホを手に取る汐莉

 PAMELAHの”SPIRIT”を止める汐莉


汐莉「(ポケットにスマホをしまって)どうせ無秩序なんだから・・・いっそのこと混沌をぶつけてやる・・・」


◯760貴志家リビング(朝)

 外は薄暗く曇っている

 時刻は七時半過ぎ

 制服姿で椅子に座ってニュースを見ている鳴海

 テーブルの上にはテレビのリモコンが置いてある


ニュースキャスター2「記録的な豪雨が続く東日本では・・・」


 リモコンを手に取ってテレビを消す鳴海

 立ち上がる鳴海


◯761通学路(朝)

 空は薄暗く曇っている

 明日香と響紀が波音高校に向かっている

 二人は楽しそうに話をしている

 明日香と響紀以外にも、波音高校に向かっている学生がたくさんいる


◯762波音高校三年三組の教室(朝)

 外は薄暗く曇っている

 校庭には水たまりが出来ている

 朝のHR前の時間

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある

 鳴海、明日香、雪音は自分の席に座っている

 嶺二は鳴海の席の近くで、鳴海と話をしている

 明日香と雪音はスマホを見ている

 菜摘は欠席している

 

嶺二「そ、そんでよ、今日の部活はどうすんだ?」

鳴海「知るか」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「な、なんかしら考えがあんだろ?鳴海」

鳴海「考え?」

嶺二「あ、ああ。今までもトラブルがあった時は、何か良いアイデアを考えて・・・」

鳴海「(イライラしながら嶺二の話を遮って)そんなもんあるわけないだろ」

嶺二「だ、だったら俺たちでまた作戦を考えよーぜ?いつ菜摘ちゃんが戻って来ても良い・・・」

鳴海「(イライラしながら嶺二の話を遮って)そうだな、手始めに今度は神谷を買収をするか。そのついでに菜摘にも報告をしとかないとな、金で人を買ってるから、朗読劇は問題なく出来そうだって」


 再び沈黙が流れる

 誰かが教室の扉を数回叩く

 

汐莉「雪音先輩!」


 汐莉が教室の扉の前に立っている

 扉を叩いたのは汐莉

 鳴海、嶺二、明日香、雪音、そして教室の中にいた数人の生徒が汐莉のことを見る 


汐莉「部誌のことで雪音先輩に相談があるんですけど・・・今良いですか?」


 スマホをポケットにしまい、立ち上がる雪音

 雪音は汐莉がいる方へ向かう

 明日香は汐莉のことを見るのをやめ、再びスマホをいじりだす

 鳴海と嶺二は変わらず汐莉のことを見ている

 汐莉と雪音は教室を出て行く


嶺二「(小声でボソッと)あいつら、仮面を剥がしまでやりあう気かよ・・・(舌打ちをして)チッ・・・全く厄介な環境になったもんだぜ・・・」

 

◯763波音高校三年生廊下(朝)

 外は薄暗く曇っている

 廊下を歩いている汐莉と雪音

 廊下では喋っている三年生や、教室に入ろうとしてい三年生がたくさんいる


汐莉「もう少し人がいない場所に行きますね」


◯764波音高校三年生の下駄箱(朝)

 外は薄暗く曇っている

 下駄箱にやって来た汐莉と雪音

 下駄箱には登校して来た生徒がちらほらといる

 汐莉はロッカーからローファーを取り出し、履き替える


雪音「どこへ連れて行く気なの」

汐莉「すぐそこですよ。(上履きをロッカーにしまいながら)ほら、先輩も早く履き替えてください」


 雪音はロッカーからローファーを取り出し、履き替える


雪音「(上履きをロッカーにしまいながら)他学年の下駄箱を使うなんて、汐莉にしてはずいぶん大胆じゃない」

汐莉「まあ・・・私にもプライドはありますから。あんまりなめられたくないんですよ」

雪音「そう、それは奇遇ね。今私も汐莉と同じことを思っていたから」


 汐莉は両手をポケットに突っ込む

 汐莉のポケットを見る雪音


◯765波音高校裏庭(朝)

 空は薄暗く曇っている

 裏庭にいる汐莉と雪音

 裏庭は花壇があり、枯れた花が植っている

 花壇の中には水たまりが出来ている

 汐莉は両手をポケットに突っ込んでいる


汐莉「単刀直入に言いますけど、菜摘先輩を返してください」

雪音「それが部誌の相談なの?」

汐莉「私は相談なんかしませんよ。雪音先輩を連れ出すために、嘘で部誌の相談があると言っただけです」

雪音「嘘つきは泥棒の始まりってことわざがあるけど、本当は嘘つきの下に泥棒がやって来るだと思わない?嘘をついた罰で、泥棒が大切な物を盗みに来るの」

汐莉「もし私の元へ泥棒がやって来るんだとしたら、その泥棒の正体は雪音先輩ですね。(少し間を開けて)盗んだ菜摘先輩を返してもらいますよ、盗賊女帝こと一条雪音さん」

雪音「まるで私が菜摘を強奪したかのような言い方をするのね」

汐莉「実際そうですから」

雪音「では聞くけど、菜摘は汐莉の物なの?」

汐莉「菜摘先輩は菜摘先輩の物です。誰かに悪用されたり、囚われて良い人じゃない」

雪音「悪用?」

汐莉「雪音先輩のことですよ。あなたは菜摘先輩の中にある特別な力を・・・利用して、お姉さんを助けようとしてる」


 大きな声を上げて笑い出す雪音

 笑い転げている雪音のことをイライラしながら見ている汐莉

 

雪音「(笑いを堪えながら)前から汐莉のことは馬鹿な子だなって思ったけど・・・ほんと・・・可哀想なくらい馬鹿なんだね・・・(少し間を開けて笑いを堪えながら)私と菜摘はお互いに利用し合ってるだけなのに」


 少しの沈黙が流れる


雪音「全部、全部菜摘が仕組んだことだと知ったら、あなたはどう思う?」

汐莉「菜摘先輩が私たちの運命を牛耳ってるとでも言いたいんですか」

雪音「そう」

汐莉「馬鹿馬鹿しい・・・そんな子供じみた話、私が信じるわけ・・・」

雪音「(汐莉の話を遮って)柊木千春は、ただのゲームキャラクターだった。(少し間を開けて)心も、魂もない、人の手によって作られた創作上の存在が、何故現実世界で、学園祭や朗読劇に参加出来たのでしょう?」

汐莉「知りませんよ・・・そんなこと」

雪音「死にかけていた私の姉は、何故一時的に病気が治ったのでしょう?」

汐莉「ど、ドナーが見つかったから・・・」

雪音「ブッブー。その回答は大間違いでーす。これじゃあつまらないから、もう少し簡単なクイズを出してあげるよ。(かなり間を開けて)閉店寸前のゲームセンターを救ったのは・・・誰でしょう・・・?ヒント、柊木千春ではない」


 再び沈黙が流れる


雪音「あらら・・・可愛い可愛い汐莉ちゃんには難しかった?それとも・・・わざと答えを出さないようにしてるのかな?」

汐莉「(大きな声で)ギャラクシーフィールドを救ったのは千春です!!!千春が救ったんです!!!」

雪音「嶺二から聞いたけど、千春って、ただ紙を配ってただけなんでしょ?そんな無能な子が、本当に潰れる間際のお店を救えると思って・・・」

汐莉「(雪音の話を大きな声で遮って)千春の悪口を言うな!!!!」


 汐莉の大きな声に少し驚く雪音

 ポツポツと雨が降って来る


汐莉「許しませんよ・・・私の友達を貶す人は・・・相手が誰であっても・・・絶対に許しませんから・・・」


 少しの沈黙が流れる


雪音「あなたはこの町や・・・菜摘のことを理解してなさ過ぎる。(少し間を開けて)奇跡でも起きない限り、ドナーなんてそうそう見つかったり・・・」

汐莉「(雪音の話を大きな声で遮って)分かってますよそんなことくらい!!!!雪音先輩は菜摘先輩の力が目当てで文芸部に入って来たってことでしょ!?!?」

雪音「そう・・・力・・・それもただの力じゃなくて、奇跡を起こす力・・・」

汐莉「奇跡にすがって、菜摘先輩の体を傷つけて、文芸部を壊して、雪音先輩はさぞ楽しいでしょうね。私、あなたのことを本物のクズだと思ってますよ」

雪音「確かに私はクズで奇跡にすがったけど、文芸部を壊してるのは他でもない菜摘自身・・・」


◯766波音総合病院/菜摘の個室(朝)

 病室のベッドの上にいる菜摘

 菜摘はベッドから体を起こして、外を眺めている

 外では弱い雨が降っている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある


雪音「(声)菜摘が・・・私の姉の病気を一時的に回復させた。別に私は菜摘を脅してないし、行儀良く姉の命を救ってくれと頼んだわけでもない。ただ・・・私の想いが菜摘の心に・・・魂に触れたの。結局、こうなったのは全部菜摘のせい。菜摘は勝手に姉の命を救おうとして、勝手に部活の空気を悪くして、勝手に病気になって・・・勝手に入院してる。柊木千春の時だって同じ。誰かに頼まれたわけでもなく、ゲームセンターを救いたいという想いが菜摘の中で芽生えたから、あの子は奇跡を起こした。(少し間を開けて)菜摘は自分の行動が他人にどんな影響を与えるのか分かってる」


 菜摘は外を眺めたまま、涙を流す


雪音「(声)菜摘の起こす奇跡が文芸部を滅ぼすことも、あなたたちの脆い友情を破壊することも、私の姉が助からないことも、菜摘自身の命が燃え尽きることも、菜摘は知っていた。それでも、菜摘は姉を救おうとしたの。奇跡を起こして、人を助けるのが菜摘の運命だから」


◯767波音高校裏庭(朝)

 弱い雨が降っている

 裏庭にいる汐莉と雪音

 裏庭は花壇があり、枯れた花が植っている

 花壇の中には水たまりが出来ている

 汐莉は両手をポケットに突っ込んでいる

 話をしている汐莉と雪音


雪音「私たちはみんな・・・菜摘の運命に吸い寄せられた被害者ね・・・」

汐莉「(大きな声で)それは違う!!!!菜摘先輩こそ被害者だ!!!!」


 少しの沈黙が流れる


雪音「汐莉・・・世界と自分から逃げないで」

汐莉「逃げてなんかない・・・私は普通の学生生活を楽しみたいだけなのに・・・雪音先輩が文芸部に入ってから何もかもおかしくなった。先輩がぶち壊したんじゃないですか。私たちの文芸部を・・・」

雪音「謝ってほしいの?」


 雨の勢いが少しずつ強くなる


雪音「別に私が謝らなくても平気でしょ?だって汐莉がお優しい鳴海か愛しの響紀に泣きつけば、助けてもらえるんだし」


 歯を食いしばる汐莉

 右ポケットの中にある汐莉の右手が少し動く


雪音「あー、もしかして・・・響紀への恋心は隠してるつもりだった?ごめんごめん、それなら謝るね。私ったら空気が読めなくて」


 舌打ちをする汐莉


雪音「汐莉のくだらない秘密に気づいてないのは明日香、響紀の二人だけなんじゃない?(少し間を開けて)鳴海に喋ったのは大失敗だったようね。彼は隠しごとが下手過ぎる」


 再び沈黙が流れる


汐莉「雪音先輩なんか死ねば良いのに」

雪音「は?」

汐莉「雪音先輩には私から奪えない物がありますよ」

雪音「奪えない物?何それ」

汐莉「殺意です」


 遠くの方で雷が落ちる


雪音「人の死を願う奴は・・・努力って行為を知らないのね・・・(少し間を開けて)私たち先輩は、あなたのような役立たずを可愛がってあげられるほどの余裕は持ってな・・・」


 汐莉はポケットから手を出し、勢いよく話途中の雪音の方へ向かう

 汐莉の右手にはカッターが握られている

 カッターは刃が出ている

 汐莉は雪音の胸元を狙ってカッターを振り下ろす

 雪音は汐莉の右手首を掴み、カッターを止める

 カッターは雪音の胸元の手前で止まっている


雪音「(汐莉の右手首を掴んだまま)殺意には自信があるんじゃなかったの?」


 汐莉が持っているカッターの刃先が震えている

 汐莉はカッターに力を入れる


汐莉「(カッターに力を入れながら)菜摘先輩を・・・返せ・・・」


 カッターは徐々に雪音の胸元へ近づく

 雪音は汐莉の右手首に爪を立てる

 雪音は少しずつカッターの位置をずらす

 

雪音「(汐莉の右手首に爪を立てカッターの位置をずらしながら)私は何もしてないって言ってるでしょ・・・」


 雪音は素早く汐莉の足を自分の足で引っ掛ける

 体勢を崩し倒れる汐莉

 汐莉の手からカッターを奪い取る雪音

 雪音はしゃがみ込みカッターを汐莉に向ける

 汐莉は泥だらけになっている

 

雪音「(カッターを倒れている汐莉に向けたまま)菜摘を救いたきゃ、まずは菜摘自身に怒りをぶつけなさい。運命に抗って、菜摘と戦って、あの子の周りを取り巻く運命を破壊して。姉の命も、私たちの人生も、世のことわりも、菜摘の運命さえどうにかなってしまえば・・・きっと悪くはならない」


 雪音は倒れている汐莉にカッターを向けたまま、汐莉の顔に近づく

 汐莉と雪音の顔の距離は10chほどしかない


雪音「(カッターを倒れている汐莉に向けたまま、汐莉の顔の近くで)運命を壊してくれたら、私の命はあなたにあげる」


 雪音はカッターを倒れている汐莉に向けたまま、汐莉の頬にキスをする

 

雪音「(カッターを倒れている汐莉に向けたまま、汐莉の顔の近くで)汐莉、みんなの役に立ちたいんでしょ?」


 汐莉は雪音から顔を背ける

 汐莉の顔は少し赤くなっている


汐莉「(雪音から顔を逸らしたまま)雪音先輩・・・運命なんて・・・存在してませんよ・・・」


 少しの沈黙が流れる

 カッターを倒れている汐莉に向けたまま立ち上がる雪音


雪音「(カッターを倒れている汐莉に向けたまま)あっそ・・・だったらもう余計な手出しはしないで」


 汐莉と雪音は雨で濡れになっている

 カッターの刃をしまいその辺に投げ捨てる雪音

 汐莉のことを見下ろしている雪音


雪音「汐莉は役立たずの後輩ちゃんらしく、卒業おめでとうございますと、さよならって言う練習でもしてれば良いよ」


 汐莉は雪音から顔を背け続けている


◯768波音高校三年三組の教室(昼)

 外では弱い雨が降っている

 校庭には水たまりが出来ている

 授業が終わり昼休みに入る生徒たち

 黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある

 生徒たちは財布やお弁当を持って友人たちと廊下に出たり、教室の中でお昼ご飯を食べ始める

 鳴海はカバンから朗読劇用の波音物語を取り出し、机の上に置く

 カバンからコンビニのビニール袋を取り出して立ち上がる嶺二

 嶺二はコンビニのビニール袋を持って鳴海の席のところへ行く


嶺二「鳴海、飯食いに行こ・・・」

鳴海「(嶺二の話を遮って)一条と食えよ」


 少しの沈黙が流れる

 嶺二はチラッと雪音のことを見る

 雪音は一人で自分の席に座ったままコンビのおにぎりを食べている


響紀「明日香ちゃーん!ご飯いこー!」


 教室の扉の前に響紀が立っている

 響紀は手作りの弁当を持っている

 明日香はカバンからコンビニのビニール袋を取り出し、響紀のところへ行く


明日香「テスト返ってきた?」

響紀「うん。物理が91点」

明日香「たっか・・・」


 明日香と響紀は喋りながらどこかに行く


嶺二「おい鳴海、俺たちも飯を食いに行こうぜ?」

鳴海「断る、俺は今忙しいんだ」

嶺二「お前、俺と飯が食いたくねーだけだろ」

鳴海「否定はしない」

嶺二「飯の時間くらい仲良く過ごしても良いじゃねーかよ」


 立ち上がる鳴海


鳴海「しつこいな、忙しいって言ってるだろ」

嶺二「何がそんなに忙しいんだよ?」


 鳴海は机の上に置いてあった朗読劇用の波音物語を手に取って嶺二に見せつける


鳴海「(朗読劇用の波音物語を嶺二に見せつけながら)これで分かったか?」

嶺二「ぶ、部活なら俺もてつだ・・・」

鳴海「(朗読劇用の波音物語を手に持ったまま嶺二の話を遮り)一人でやりたいから邪魔しないでくれ」


 鳴海は朗読劇用の波音物語を持ったまま教室から出て行こうとする


嶺二「ま、待てよ鳴海」


 嶺二の声を無視して教室を出る鳴海

 鳴海の席の近くで一人取り残される嶺二


嶺二「(舌打ちをして)チッ・・・飯くらい一緒に食ってもいーだろ・・・」

 

 嶺二は再び雪音のことを見る

 雪音はコンビニのおにぎりを食べている

 少し悩んだ後、嶺二は雪音の席のところへ行く

 嶺二は雪音の隣の席に座り、机の上にコンビニのビニール袋を置く

 

嶺二「俺も一緒に食っていーよな?」

雪音「好きにしたら」

嶺二「よっしゃ」


 嶺二はコンビニのビニール袋から焼きそばパンを取り出す

 雪音はおにぎりを食べ終える

 嶺二は焼きそばパンを食べようとするが、やめる


嶺二「それだけ?」

雪音「何が?」

嶺二「雪音ちゃんの昼飯、おにぎり一つなのか?」

雪音「そう」

嶺二「足りねーだろ」

雪音「別に」


 嶺二は雪音に焼きそばパンを差し出す


嶺二「(雪音に焼きそばパンを差し出したまま)これ食えよ」


 少しの沈黙が流れる

 焼きそばパンを受け取る雪音

 雪音は焼きそばパンを食べ始める

 嶺二はコンビニのビニール袋からカレーパンを取り出す


嶺二「鳴海のやろー冷た過ぎるよな。三年間一緒に昼飯を食ってきた仲とは思えねーぜ・・・」


 再び沈黙が流れる

 嶺二はカレーパンを食べ始める


嶺二「(カレーパンを食べながら)さっき汐莉ちゃんとどんな話をしたんだ?」

 

 焼きそばパンを食べていた雪音の手が止まる


嶺二「(カレーパンを食べながら)女同士の話に口を出して良いのかわかんねーけどさ、汐莉ちゃんのことはあんまりいじめんなよ」


 食べかけていた焼きそばパンを机の上に置く雪音


雪音「嶺二は誰の味方なの」

嶺二「分かんねえ」


 立ち上がる雪音


嶺二「ど、どこに行くんだよ?」

雪音「帰る」

嶺二「は・・・?」

雪音「今日はもう帰る」


 雪音は机の横のフックにかけてあったカバンを手に取る

 雪音は黒板の横にある傘立てから傘を取り出し、教室を出る

 嶺二は呆然と雪音が出て行った教室の扉の方を見ている


◯769波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)

 昼休み

 外では弱い雨が降っている

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある

 校庭には水たまりが出来ている

 部室で椅子に座って一人朗読劇用の波音物語を読んでいる鳴海


早季「それほど興味深い内容ですか」


 驚いて振り返る鳴海

 制服姿の荻原早季が鳴海の後ろに立っている


鳴海「お前は・・・」


◯770Chapter6◯481の回想/せせらぎ公園(放課後/夜)

 公園にいる鳴海と菜摘

 鳴海と菜摘はブランコに座っている

 ブランコの向かいのベンチに制服姿の早季が座っている

 早季は鳴海と菜摘のことを見ている

 鳴海は菜摘のことを見る


鳴海「(菜摘のことを見ながら)菜摘の知り合いなのか?」


 菜摘はボーッと早季のことを見ている

 菜摘の瞳には反射している早季の姿と、あるはずもない海が映っている

 同じく早季の瞳には反射している菜摘の姿と、あるはずもない海が映っている

  

鳴海「(菜摘を見たまま)菜摘?おい」


 立ち上がる早季 

 鳴海がベンチの方を見ると、早季は消えている

 鳴海はベンチの周囲を見るが早季はいない


◯771回想戻り/波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)

 昼休み

 外では弱い雨が降っている

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある

 校庭には水たまりが出来ている

 鳴海の後ろに早季が立っている


鳴海「い、いつから部室にいたんだ?」


 早季は鳴海の隣の椅子に座る


早季「(鳴海が持っている朗読劇用の本を指差して)読んでも構いませんか・・・」

鳴海「(早季に朗読劇用の波音物語を差し出して)あ、ああ・・・」


 早季は鳴海から朗読劇用の波音物語を受け取る

 早季は朗読劇用の波音物語をパラパラとめくり、読み始める

 鳴海は早季のことを見ている


鳴海「(早季のことを見ながら)俺たち、前に公園で会ったよな・・・?」

早季「(朗読劇用の波音物語を読みながら)はい・・・」


 少しの沈黙が流れる


早季「(朗読劇用の波音物語から目を離して)過去と未来・・・重要なのはどちらの時間ですか?」

鳴海「え・・・?」

早季「過去と未来です・・・」

鳴海「さ、さあ・・・人によるんじゃないか・・・?」

早季「あなたは・・・?」


 考え込む鳴海


鳴海「未来・・・だな」


 再び沈黙が流れる


鳴海「お前、一年生だろ?」

早季「未来の一年生です」

鳴海「どういう意味だ・・・?」


 早季は朗読劇用の波音物語を鳴海に差し出す

 鳴海は早季から朗読劇用の波音物語を受け取る


鳴海「まさかお前、千春と同じような・・・いや・・・それはないか・・・」


 立ち上がる早季


鳴海「文芸部に興味があるんだったら、放課後また遊びに来てくれよ。絶賛部員募集中だからさ」


 早季は部室の扉に向かって歩き出す

 扉の前で立ち止まる早季


早季「貴志鳴海・・・さっきのは嘘ですね・・・」

鳴海「な、なんで俺の名前を・・・というか嘘ってなんだよ」

早季「あなたの目は未来よりも過去に向いています・・・それは今後の人生でもずっと変わりません・・・」


◯772滅びかけた世界:波音高校体育館(夜)

 一人体育館にいる老人

 損壊した屋根から、月の光が差し込んで来ている

 体育館の扉は壊れ、閉まらなくなっている

 体育館はステージを含め、ほとんどの場所に灰でいっぱいになったビニール袋が置いてある

 体育館は隅の一箇所だけ、灰の入ったビニール袋が置いてない場所があり、そこには体育の授業で使うようなマットが敷かれてある

 マットの上には災害用の毛布が何枚か置いてあり、その脇には、数冊の本、小さな電化製品、吸い切ったタバコが積まれている灰皿、着替え、酒のボトル、空になったタバコの箱、薬の入った小さな小瓶、何個も繋がったドッグタグ、数枚の古い写真、ボルトアクションライフル、ナイフ、ハンドガン、銃の弾丸など、老人の所有物と思わしき様々な物がまとめられてある

 老人の所有物がまとめられてある場所以外は、灰の入ったビニール袋が積まれてある

 老人はマットの上に座り、体育館の壁にもたれている

 老人は老眼鏡をかけている

 老人の左腕には、チェックのマフラーが蝶々結びになって縛られてある

 チェックのマフラーには老人の血が染み渡っている

 老人は古く傷んだ一枚の写真を見ている

 写真は汚れており、色も劣化している

 写真は文芸部の部室で自撮りしたもので、Chapter6◯485で明日香が見ていた写真と同じ物

 自撮りした写真には鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉が写っている

 写真の嶺二と汐莉の間には不自然なスペースがある

 老人は老眼鏡を外して自撮り写真を見る


早季「(声)1秒先に希望があると信じてる人類は少ないです・・・古代から人にとって未来とは、絶対的な暗闇か、憶測の希望でした・・・」


 老人は老眼鏡を体育館の床に置く

 老人は自撮り写真を見たまま右手で左腕のマフラーを強く押さえる


早季「(声)私は人の涙をたくさん見てきましたが、メトロポリスで流れる涙も、テンペストの中で飛び交う涙も、人間のささやかな心理的な感情では、地球が水の星へ返り咲くことは出来ないのです」


◯773波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)

 昼休み

 外では弱い雨が降っている

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある

 校庭には水たまりが出来ている

 早季のことを見ている鳴海

 早季は部室の扉の前に後ろ姿で立っている


早季「(振り返り)涙を止めないのが人類ですね・・・」


 鳴海と早季の目が合う

 

早季「散り際のひまわりほど醜い花はありません・・・それは地球にも同じことが言えると思いませんか・・・?良かったら聞いてみてください、未来のあなたに・・・滅びかけた世界がどれだけ醜いのか・・・」


 早季は鳴海に背を向ける

 部室の扉を開ける早季


早季「(部室の扉を開けたまま)夏の幸せは、秋霖が奪っていきました・・・あなたも、他人の幸福で喜べるようになれたら良いですね・・・では・・・さようなら・・・」


 早季は部室を出て行く

 鳴海は手に持っていた朗読劇用の波音物語を床に落とす


 時間経過


 夕方になっている

 外では弱い雨が降っている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、響紀、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海たち

 教室の中の傘立てには6本の傘が立ててある

 ボーッとしている鳴海

 鳴海のことを見ている明日香、嶺二、響紀、詩穂、真彩

 部室の床には、鳴海が昼休みの時に落とした朗読劇用の波音物語がある

 床にある朗読劇用の波音物語は、昼休みに鳴海が落とした時の状態から全く変わっていない

 

明日香「鳴海、時間を無駄にする気?副部長なんだから指示の一つくらい出してよ」

鳴海「あ、ああ・・・」


 少しの沈黙が流れる

 嶺二が立ち上がり、鳴海の近くにあった朗読劇用の波音物語を拾う

 

嶺二「(朗読劇用の波音物語の埃を手で払いながら)明日香、もう少し優しく言ったらどうだ?」

明日香「私が優しく言ったところで、あんたたちは話を聞かないでしょ」


 嶺二は朗読劇用の波音物語の埃を払い落とした後、波音物語を持ったまま自分の椅子に戻る


嶺二「(朗読劇用の波音物語を持ったまま椅子に座って)まーな・・・」


 再び沈黙が流れる

 周囲を見る鳴海


鳴海「(周囲を見ながら)南はいつ来るんだ?」

真彩「先輩、汐莉は多分サボりっすよ」

鳴海「サボり?学校には来てただろ?」

真彩「はい・・・ただ朝のHRすら受けずに帰っちゃったみたいで・・・」

鳴海「授業には出席してないのか・・・」

真彩「そうっすね」

鳴海「まさかあいつまで病気になったんじゃないだろうな」

詩穂「それはないと思います。今朝少し喋ったけど、特に異変は感じなかったし・・・(少し間を開けて)むしろ、汐莉が荷物を置いたまま早退したことの方が不思議です」

鳴海「荷物を置いたまま?」

詩穂「はい。教室にはまだ汐莉のカバンが置いてあります」

明日香「もしかしてカバンを持って帰るのを忘れちゃった、とか?」

鳴海「あいつはそんな馬鹿じゃない。そもそも南は早退することを誰かに伝えていたのか?」


 顔を見合わせる響紀、詩穂、真彩


響紀「伝えてないですね。気づいたら帰ってました」

鳴海「おかしいな・・・明らかに変だ・・・」

明日香「何が変なの?」

鳴海「几帳面な南が荷物を置いて帰るか?曲作りを投げ出して、誰にも連絡をせずに帰るなんてことがあり得るのか?」

明日香「現実に起きてることなんだから、あり得るでしょ」


 考え込む鳴海

 嶺二のことを見る鳴海


嶺二「何だよ?」


 立ち上がる鳴海

 鳴海は嶺二の方へ向かって歩き出す


嶺二「(迫って来る鳴海に対して少し怖がりながら)お、おい。また胸ぐらを掴むんじゃねーよな?」


 嶺二の目の前で立ち止まる鳴海

 鳴海は嶺二が持っていた朗読劇用の波音物語を奪い取る


鳴海「お前のクソガールフレンドはどこにいる?」

嶺二「だ、誰だよガールフレンドって」

鳴海「一条雪音のことだ」

嶺二「ゆ、雪音ちゃんなら昼休みに帰ったぞ」

鳴海「理由は?」

嶺二「し、知らねーよ。あの女が考えてることなんて俺に分かるわけねーだろ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「嘘だったらお前をドブに埋めてやるからな」

嶺二「あ、ああ・・・」

鳴海「とりあえず一条は後だ・・・」


 鳴海は自分の椅子に戻る

 再び朗読劇用の波音物語を床に落とす鳴海

 鳴海はポケットからスマホを取り出し、汐莉に電話をかけ始める

 しばらくの間何回かコール音が鳴り、留守番電話に繋がる

 機械音のガイダンスがスマホから以下のように流れる、”おかけになった電話番号は、現在、電源が入っていない・・・”

 鳴海はガイダンスの途中で電話を切る

 再び汐莉に電話をかける鳴海

 しばらくの間何回かコール音が鳴り、またしても留守番電話に繋がる

 機械音のガイダンスがスマホから以下のように流れる、”おかけになった電話番号は、現在・・・”

 鳴海はガイダンスの途中で電話を切る

 

鳴海「(スマホをポケットにしまいながら小声でボソッと)クソ・・・」

明日香「汐莉にかけたの?」

鳴海「ああ」

明日香「カバンと一緒にスマホも置きっぱなしにしてるのかもね」

響紀「明日香ちゃん、汐莉はいつもスカートのポケットにスマホをしまってるよ」

明日香「あ、そうなの?」

響紀「うん」

鳴海「詳しいんだな」

響紀「汐莉の太ももとを観察するついでに、スマホをポケットしまう瞬間を何度も目撃してますから」

鳴海「何故お前は南の太ももを観察してるんだ」

響紀「先輩、見たことないんですか?汐莉って結構エロい体をしてるんですよ」

鳴海「誰でも良いからそこのクソ変態女を黙らせてくれ」

明日香「ちょっと鳴海、響紀に八つ当たりしないでよ」

鳴海「いきなり太ももの話をする奴が悪いんだ」

嶺二「け、喧嘩は辞めて今をどーするか考えよーぜ?な?」


 再び沈黙が流れる


響紀「汐莉の体がエロ過ぎた件については別のきかで語るとして・・・汐莉のことだから、鳴海先輩に折り返し電話をかけるとは思います」

詩穂「うん。さすがに無視はしないよね」

鳴海「そうか・・・・」

真彩「大丈夫っすよ先輩、汐莉は歳上に楯突くことが出来ない子なんで」

鳴海「ああ・・・(少し間を開けて)嶺二、一条には部活をサボるなと言っといてくれ」

嶺二「おう」


 立ち上がる嶺二

 嶺二は鳴海の近くに落ちていた朗読劇用の波音物語を拾い、鳴海に差し出す


嶺二「(朗読劇用の波音物語を鳴海に差し出して)副部長にはこれがいるだろ?」


 朗読劇用の波音物語を嶺二から受け取る鳴海

 自分の椅子に戻って、座る嶺二

 鳴海は少しの間、朗読劇用の波音物語を見つめる

 鳴海は再び、朗読劇用の波音物語を床に落とす

 

嶺二「何でまた落とすんだよ?」

鳴海「落ちてるのは俺たち自身の方だ・・・」


 朗読劇用の波音物語を拾う鳴海

 鳴海は朗読劇用の波音物語を嶺二たちに見せつけるようにする


鳴海「(朗読劇用の波音物語を嶺二たちに見せつけるようにしながら)菜摘は入院・・・汐莉とは連絡がつかない・・・嶺二は下級生を買収し、明日香は文芸部に戻ってから一度も部誌を書いていない。きっと今ごろ一条は病院にいる。菜摘が入院してる病院にだ・・・響紀、永山、奥野でさえ、汐莉が早退するってことを知らなかった・・・」


 朗読劇用の波音物語を床に落とす鳴海


鳴海「俺たちの行動は・・・白瀬波音・・・凛・・・佐田奈緒衛のことを愚弄してる」

明日香「愚弄してる自覚があるなら、どうして落とすのよ」


 鳴海は床に落ちた朗読劇用の波音物語を見る


鳴海「(床に落ちてる朗読劇用の波音物語を見ながら)俺には波音物語を手にする資格がない・・・」


◯774波音総合病院/智秋の個室(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 智秋の病室にいる雪音と智秋

 智秋はベッドに横になっている

 雪音はベッドの横の椅子に座っている

 智秋は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、原作の波音物語、雪音と智秋のツーショット写真などが置いてある

 雪音は外を見ている


智秋「どうしたの?」

雪音「(外を見るのをやめて)ううん、何でもない」


 雪音は智秋の手を握る


雪音「(智秋の手を握ったまま)お姉ちゃんと家族なのって・・・凄いよね・・・」

智秋「(雪音に手を握られたまま)凄いって・・・?」

雪音「(智秋の手を握ったまま)奇跡の確率で私たちは家族になったんだよ」

智秋「(雪音に手を握られたまま)うん」


 少しの沈黙が流れる


雪音「(智秋の手を握ったまま小さな声で)世の中にいっぱい・・・人がいるのに・・・私とお姉ちゃんが家族になっちゃうなんて・・・」


◯775貴志家リビング(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 リビングでは鳴海の姉、風夏がソファーに座ってダラダラしながらテレビを見ている

 玄関の鍵が開く音が聞こえる

 鳴海がリビングにやって来る


鳴海「(風夏のことを見て驚いて)か、帰って来るなら連絡くらいしろよ!!」

風夏「(ソファーの上でダラダラしながら)あー、ごめーん」


 鳴海はテーブルの上に家の鍵を置く


鳴海「仕事はどうしたんだ?」

風夏「(ソファーの上でダラダラしながら)んー。今日は早上がりだったからさー」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「菜摘を置いて・・・じゃなくて、患者を置いて帰って来て良い・・・」

風夏「(ソファーの上でダラダラしながら鳴海の話を遮って)菜摘ちゃんなら他の看護師さんが見てくれてるから大丈夫だよー」

鳴海「そ、そうだよな・・・(少し間を開けて)着替えた後に飯を作ってやるから、ちょっと待ってろ」

風夏「(ソファーの上でダラダラしながらはーい」


 時間経過


 制服から私服に着替えた鳴海がキッチンにいる

 風夏は変わらず、ソファーの上でダラダラしながらテレビを見ている

 冷蔵庫を開ける鳴海

 冷蔵庫の中にはほとんど食材が入っていない


鳴海「(冷蔵庫の中を見ながら)やばいな・・・食うもんが全然ねえ・・・」


 冷蔵庫の中を見ながらしばらく考え込む鳴海


風夏「(ソファーの上でダラダラしながら)あのさー」

鳴海「(冷蔵庫の中を見ながら)先に言っとくけど高級フレンチやイタリアンは作れないぞ」

風夏「(ソファーの上でダラダラしながら)そうじゃなくて、弟のあんたに大事な話があるんだよねー」


 冷蔵庫を閉じる鳴海

 風夏は立ち上がり、テーブルと対になっている椅子に座る

 テーブルの上には家の鍵が置いてある


風夏「(キッチンにいる鳴海を手招きして)晩ご飯の準備は良いから、こっちに来て鳴海」

鳴海「あ、ああ・・・」


 鳴海は風夏の向かいの椅子に座る


鳴海「だ、大事な話って何だよ?」

風夏「えっとねー・・・んー・・・なんて言えば良いのかなー・・・」

鳴海「も、勿体ぶらないで早く言ってくれ」

風夏「マジで大事な話だから、とにかく真剣に聞いてほしいんだけど・・・」

鳴海「お、おう・・・」


 深呼吸をする風夏

 唾を飲み込む鳴海


風夏「お姉ちゃん・・・(小声でボソッと)・・・されちゃった・・・」


 風夏は”されちゃった”の前に何かを言ったが、声が小さいせいで鳴海には聞こえない


鳴海「え?何?」

風夏「だから・・・(小声でボソッと)・・・されたんだって・・・」


 風夏は”されたんだって”の前に何かを言ったが、声が小さいせいで鳴海には聞こえない


鳴海「姉貴、声が小さ過ぎてさっきから何を言ってるんだか全然わか・・・」

風夏「(鳴海の話を遮って大きな声で)プロポーズされたの!!!!」

鳴海「なんだ、そんなことならもっと早く言ってくれれば・・・ん?待てよ、プロポーズ?」

風夏「うん」

鳴海「プロポーズって・・・どういう意味だ・・・?」

風夏「(大きな声で)結婚だよ結婚!!!!」

鳴海「ああ、結婚か」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(大きな声で)は!?!?け、結婚!?!?」

風夏「(大きな声で)だからそう言ってんじゃん!!!!」

鳴海「(大きな声で)おいおいおいおい!!!!だ、大事な話って結婚のことだったのかよ!?!?」

風夏「まあねー」」

鳴海「(焦りながら)ま、待てよ・・・ちょっと頭が回らないぞ・・・」

風夏「同じく」

鳴海「(焦りながら)あ、姉貴・・・ぷ、プロポーズされたって言ってなかったか?」

風夏「言った」

鳴海「(焦りながら大きな声で)ぷ、プロポーズって結婚する時に必要な例の通過儀礼だよな!?!?!?」

風夏「一般的にはそうだね」

鳴海「(焦りながら大きな声で)な、何でそんな大事の話をいきなりしたんだ!?!?!?も、もっとタイミングとか時期を考えて言えよ!!!!」

風夏「いやだって、相手を待たせるのは悪いし・・・」

鳴海「あ、相手・・・?」

風夏「相手」

鳴海「姉貴・・・彼氏いたのか・・・」

風夏「みんなでお好み焼きを食べた時に写真を見せなかった?」

鳴海「は・・・?お好み焼き・・・?」

風夏「夏休みが終わる直前に智秋とか菜摘ちゃんとか、鳴海の部活仲間も一緒になってみんなで行ったでしょ。覚えてないの?」


◯776Chapter◯196の回想/お好み焼き屋(夜)

 鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、風夏、智秋の8人が大きな鉄板がついたテーブル席に座っている

 混んでいるお好み焼き屋

 食材はまだ来ていない

 各々の前に飲み物、取り皿、小さなコテが置いてある

 嶺二と風夏が大きな声で喧嘩をしている

 周りにいる客が迷惑そうに嶺二と風夏のことを見ている

 前のめりになる風夏 

 風夏はポケットからスマホを取り出す

 スマホの写真を開く風夏

 風夏はスマホの写真を嶺二に見せつける


風夏「(スマホの写真を嶺二に見せつけ前のめりのまま大きな声で)彼氏の写真を見ろ!!!!」


 風夏のスマホを覗き込む嶺二


嶺二「(スマホの写真を見ながら大きな声で)ただのブス男じゃねーか!!!」


◯777回想戻り/貴志家リビング(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 テーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている鳴海と風夏

 テーブルの上には家の鍵が置いてある

 鳴海と風夏は話をしている


鳴海「いやあれは酔った勢いで吐いた嘘かと・・・」

風夏「え、嘘だと思ってたの?」

鳴海「あ、ああ・・・しかも俺自身は写真を見てないし・・・」

風夏「見せてあげよっか?」

鳴海「いや、いい」

風夏「何でよ?お姉ちゃんの恋人に興味ないの?」

鳴海「ない。大体別れる相手だろ」


 少しの沈黙が流れる


風夏「あのさ・・・そのことなんだけど・・・」

鳴海「何だよ?」

風夏「OKしようかと思ってる・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「お、OKって・・・(少し間を開けて)プロポーズを・・・断らないのか・・・?」

風夏「うん・・・」

鳴海「り、理由は・・・?」

風夏「理由?」

鳴海「ああ・・・好きってこと以外の理由を教えてくれよ」

風夏「愛してるから・・・じゃダメ?」

鳴海「あ、愛してると好きはほとんど一緒だろ・・・」

風夏「そっか・・・んー・・・(かなり間を開けて)私さ・・・家族が欲しいんだよね」

鳴海「ど、どういう意味だよ・・・」

風夏「やっぱね、一人だと寂しいみたい」


 呆然としている鳴海


鳴海「(呆然としながら)お、俺は・・・か、家族じゃないのか・・・?」

風夏「(慌てて)う、ううん!!鳴海は大切な家族だけど・・・(少し間を開けて)パパとママが死んでから、私たちずっと二人だったじゃない?兄弟だけの人生だったから・・・対等な家族が欲しくて・・・」


 少しの沈黙が流れる


風夏「鳴海、無理して母親の代わりはするなって言ってたよね・・・?」


◯778Chapter2◯245の回想/貴志家リビング(夜)

 リビングで鳴海と風夏が言い争っている


風夏「あなたには母親の代わりが必要なの、じゃなきゃ鳴海はドロップアウトしてしまう」

鳴海「なんで俺だけなんだよ、姉貴だって同じだろ。俺は死んだ母親を姉貴に求めちゃいねえ・・・無理して母親の代わりになろうとするな・・・そんなことされても息苦しくのなるのは俺だ」


◯779回想戻り/貴志家リビング(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 テーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている鳴海と風夏

 テーブルの上には家の鍵が置いてある

 鳴海と風夏は話をしている

 鳴海は呆然としている


風夏「それで、私思ったんだけど・・・確かにもう私は・・・あなたの母親の代わりをする歳じゃないのかなって。(少し間を開けて)鳴海も・・・良い仲間を見つけくれたから・・・波高を卒業するとの同時に、ちょっと寂しいけど、お姉ちゃんからも卒業・・・してみない・・・?」


 少しの沈黙が流れる


風夏「結婚なんて、私の苗字が貴志じゃなくなるだけのことだよ」


 再び沈黙が流れる


風夏「まあ、籍を入れるのって色々と手間がかかるしさ・・・鳴海も考えてみて」

鳴海「な、何を考えれば良いんだよ・・・」

風夏「私たちのこと・・・家族のこと・・・私の結婚のこと・・・(少し間を開けて)鳴海が嫌だったら・・・私も考えるから・・・」

鳴海「(大きな声で)お、お前の結婚だろ!!!!自分で考えろよ!!!!」

風夏「うん・・・」

鳴海「(大きな声で)結婚したきゃ勝手にしてろ!!!!家族でも子供でも姉貴の好き放題作れば良いじゃないか!!!!」

風夏「鳴海・・・」

鳴海「あ、姉貴の結婚なんて、俺には関係のない話だ・・・」

風夏「鳴海、私の家族が増えれば、あなたの家族も増えるんだよ?」


 少しの沈黙が流れる

 立ち上がる鳴海


鳴海「(小声でボソッと)晩飯の食材を買って来る・・・」

風夏「え?」


 鳴海はテーブルの上に置いてあった家の鍵を手に取る


風夏「ま、待って!待ってよ鳴海!!」


 鳴海は風夏の言葉を無視して家から出て行く

 深くため息を吐き出す風夏


風夏「あーあ・・・やっちゃったなぁ・・・」


◯780住宅街/道路(夜)

 弱い雨が降っている

 一人歩いている鳴海

 鳴海は傘を持っていない


鳴海「(声 モノローグ)何故俺は、たった一人の家族の幸せすら喜べないんだ・・・姉貴の幸せを、どうして受け入れられなかった・・・」


 立ち止まる鳴海


鳴海「クソ・・・犬でさえ飼い主にめでたいことがあれば喜ぶんだぞ・・・それなのに・・・」


◯781緋空浜(夜)

 弱い雨が降っている

 緋空浜の浜辺にいる鳴海

 鳴海は傘を持っていない

 波は荒れている

 浜辺には水たまりが出来ている

 浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちている

 鳴海は浜辺に立って、海を眺めている

 ずぶ濡れになっている鳴海

 

鳴海「(声 モノローグ)俺はみんなの幸せを緋空浜に願った・・・平等な幸せを・・・」


 浜辺に膝をつく鳴海


鳴海「(浜辺に膝をついたまま)この町は奇跡が起きるんだろ・・・?だったら菜摘の病気を治してくれよ。汐莉の恋心を叶えてやれよ。千春がどこにいるのか教えてくれよ。一条のお姉さんを助けろよ。(少し間を開けて)分かるだろ・・・みんなの想いが落ち始めてるんだ。菜摘のために、波音町と緋空浜にある力を少しで良いから貸してくれないか?」


 鳴海の吐く息が白くなっている


鳴海「(声 モノローグ)結局この日、汐莉から折り返しの電話が来ることはなかった」


 浜辺の遠くの方では、制服姿の早季が鳴海のことを見ている

 早季は傘をさしていない


◯782滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(日替わり/朝)

 外は晴れている

 教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある

 椅子や机、教室全体に小さなゴミが溜まっている

 教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている

 ナツとスズは、二体の遺体がもたれている壁とは別の壁にもたれて眠っている

 ナツの近くには20Years Diary、老人から貰ったロシア兵の双眼鏡、ショッピングモールから盗んだ服、本や化粧品などが置いてある

 スズの近くには拾ったサングラス、手鏡、ビー玉、ショッピングモールから盗んだ服、ベレー帽、化粧品や大きなぬいぐるみなどが置いてある

 突然、教室の中にあったスピーカーからキーンという高音が流れる

 少しするとキーンという高音が止まり、老人の大きな声が聞こえ始める


老人「(スピーカーの声)おはよう生徒諸君。一時間目の授業は10分後に三年三組の教室で行う」


 目を覚ますナツとスズ

 

ナツ「え・・・?なに・・・?」

スズ「んー・・・?」


 体を伸ばすナツ

 大きなあくびをするスズ


老人「(スピーカーの声)間違えるなよ。三年三組の教室だ。因みに、遅刻した奴は昼飯抜きになるから気をつけろ」


 慌てて立ち上がるスズ


スズ「やばいよなっちゃん急ごう!!遅刻したら三時間三十分お昼ご飯無しだよ!!」


 少しの沈黙が流れる


ナツ「なんか色々聞き間違えてないそれ・・・」

スズ「ううん!!ジジイが一年十組の教室でお昼ご飯って言ってたもん!!!」


◯783滅びかけた世界:波音高校三年三組の教室(朝)

 教室にいる老人

 教室の中には机と椅子が30脚以上ある

 ナツとスズ用に机、椅子が2脚だけ黒板の前に置いてあり、それ以外は後ろに下げられてある

 教室の中には小さなゴミやほこりが溜まっている

 老人は教卓に座っており、肩にはボルトアクション式のライフルがかけられている

 老人の服装は前日と同じような軍服

 老人の首には軍人がつけているようなドッグタグが下がっている

 ドッグタグの一枚にはNarumi Kishiと名が彫られている

 軍服の内ポケットから懐中時計を取り出す老人

 懐中時計は10時過ぎを指している


老人「(懐中時計を見ながら)遅いな・・・」


 懐中時計を閉じ、軍服の内ポケットにしまう老人

 少しするとナツとスズが教室に入って来る


老人「二人とも、遅刻だぞ」

ナツ「教室の場所を聞き間違えたスズが悪い」

スズ「え〜!?なっちゃんが、(ナツの真似をして)昨日一日で疲れた、今日は動きたくない。って言って、しばらく動こうとしなかったせいだよ〜!!」

ナツ「だって実際疲れてるし・・・しかも三時間三十分お昼ごはん抜きって意味不明だし・・・」

スズ「(大きな声で)そう言ってたんだもん!!!ジジイが!!!」


 老人のことを見るナツとスズ

 少しの沈黙が流れる

 頭を掻く老人

 頭を掻くのをやめ、教卓から降りる老人


老人「とにかく座れ。昼飯のことは後で考えるから」


 渋々椅子に座るナツとスズ


老人「ここは君たちだけの波音高校だ。俺に出来ることは、君たちのために全力でしよう」


 顔を見合わせるナツとスズ


老人「とりあえずやってみたいことや、やってほしいことを言ってくれ」


 再び沈黙が流れる


ナツ「奇跡を起こして世界を元に戻して」


 深くため息を吐き出す老人


老人「俺に出来ることは・・・と言ったはずだ」

ナツ「じゃあ何もない」

老人「スズは?」

スズ「んー・・・何だろー・・・」


 考え込むスズ


スズ「あっ!!良いの思いついたよジジイ!!」

老人「よし、聞かせてくれ」

ナツ「(小声でボソッと)絶対食べ物に関することだ・・・」

スズ「美味しいもんをたっくさん食いたい!!」

ナツ「(小声でボソッと)やっぱり・・・」

老人「スズは素直な子だな・・・」


 老人は肩にかけていたライフルを床に置く

 ポケットからゲームセンターで使う銀色のコインを一枚取り出す老人

 老人はコインを右手の親指に乗せる


老人「よく見てろ」


 右手の親指に乗せていたコインを弾く老人

 宙に浮かんだコインを素早く左右のどちらかの手で取る老人

 老人は両手で拳を作り、ナツとスズの前に突き出す


老人「(両手の拳をナツとスズの前に突き出したまま)どちらに入ってると思う?」

スズ「(老人の右手の拳を指差して)こっち!!」

老人「(両手の拳をナツとスズの前に突き出したまま)右か・・・ナツはどっちだと思う?」


 ナツは老人の左手の拳を指差す


老人「(両手の拳をナツとスズの前に突き出したまま)左だな?」


 頷くナツ

 老人は右手、左手を同時に開くがその中にコインは入っていない


スズ「(老人の手を見ながら驚いて大きな声で)じ、ジジイお金食っちゃったの!?!?!?」


 開いた両手をナツとスズによく見せる老人


老人「(開いた両手をナツとスズによく見せながら少し笑って)食べてないよ」


 開いた両手をナツとスズに見せるのをやめる老人

 老人は両手で何かを投げるような動作をする

 そして老人は何かをキャッチするような動作をし、素早く両手で拳を作る

 再び両手の拳をナツとスズの前に突き出す老人


老人「(両手の拳をナツとスズの前に突き出したまま)おそらく今度は入っているはずだ。どっちだと思う?」

スズ「(老人の左手の拳を指差して)じゃーこっち!!」

老人「(両手の拳をナツとスズの前に突き出したまま)左に変えてきたか・・・ナツはどっちだ?」


 ナツは老人の右手の拳を指差す


老人「(両手の拳をナツとスズの前に突き出したまま)分かった・・・」


 ゆっくり両手を開き、手のひらをナツとスズに見せる老人

 老人の右手、左手の上にはそれぞれ一枚ずつゲームセンターで使うコインがある

 

老人「(両手を開いたままナツとスズにコインを見せて)今回は二人とも当たったな」

スズ「(老人の両手を見たまま)ちょ、ちょーのーりょく!?」

老人「(左手で持っていたコインをスズの机に置いて)ただのマジックさ」


 スズは机の上に置かれたコインを手に取ってよく見る


スズ「(コインを見たまま)まじっく・・・?」

老人「(右手で持っていたコインをナツの机に置いて)手品だよ」

スズ「(コインを見たまま)ふーん・・・なんかよく分かんないけど凄いね!!」

老人「ただの手品だがな」


 ナツは机の上に置かれたコインを手に取ってよく見る

 コインの表面には”Game Center”と文字が彫られている

 コインの裏面を見るナツ

 コインの裏面には”Galaxy Field”と文字が彫られている


ナツ「(コインの裏面を見たまま)スズ、ここに書いてある文字、日記で見なかった?」


 コインの裏面を見るスズ


スズ「(コインの裏面を見たまま)あっ、ほんとだ。なんて読むんだろうね〜?」


 ギャラクシーフィールドのコインを机の上に置くナツ


ナツ「さあ・・・」


 ギャラクシーフィールドのコインを机の上に置くスズ

 少しの沈黙が流れる


老人「それは君たちにあげよう」

スズ「えっ、良いの!?」

老人「ああ」

ナツ「こんなもの要らないよ」

スズ「(ギャラクシーフィールドのコインを手に取りナツに見せながら)なっちゃん!!これは絶対貰っといた方が良いって!!凄い綺麗だもん!!」


 スズが持っているギャラクシーフィールドのコインが窓から差し込む太陽の光を反射させ、キラキラと光っている

 ナツは再びギャラクシーフィールドのコインを手に取り、よく見てみる


ナツ「(ギャラクシーフィールドのコインを見たまま)これ、何か金銭的価値があるの?」

老人「そいつはな・・・(少し間を開けて)昔、ゲームセンターで使われていたんだ」

ナツ「(ギャラクシーフィールドのコインを見たまま)ゲームセンター・・・で・・・?」

老人「ああ・・・とにかく、取っておきなさい。もしかしたら・・・いつか役に立つ時が来るかもしれないからな・・・」

スズ「(ギャラクシーフィールドのコインをポケットにしまって)うん!!」

ナツ「(ギャラクシーフィールドのコインを見たまま)貨幣経済が消えた世の中で、こんな鉄クズが役に立つ日なんて一体いつ来るんだか・・・」


 再び沈黙が流れる


老人「今ナツが目にしている物は、確かに金銭としての価値は全くないだろう」


◯784Chapter2◯195の回想/早乙女家客室/千春の部屋(夜)

 千春が寝泊まりしている畳の部屋で話をしている鳴海、菜摘、千春

 部屋には嶺二がUFOキャッチャーで取った大きなくまのぬいぐるみが置いてある

 窓際には小さな勉強机があり、その上には千春が配っているゲームセンターギャラクシーフィールドのチラシと、学園祭朗読劇の本が置いてある 


老人「(声 モノローグ)だが・・・その鉄クズは・・・過去、未来を繋ぎ止めることが出来るはずだ。貨幣経済のない世の中で大事なのは、君たちが読んでいる日記のような、時を越えた代物だと俺は思っている」


◯785回想戻り/滅びかけた世界:波音高校三年三組の教室(朝)

 教室にいるナツ、スズ、老人

 教室の中には机と椅子が30脚以上ある

 ナツとスズが使っている机、椅子は黒板の前に置いてあり、それ以外は後ろに下げられてある

 教室の中には小さなゴミやほこりが溜まっている

 ギャラクシーフィールドのコインを手に取って見ているナツ

 老人はナツとスズの前に立っている

 老人の後ろには教卓があり、教卓の横に老人のライフルが置いてある

 ナツは少し悩んだ後、ギャラクシーフィールドのコインをポケットにしまう


老人「(床に置いてあったライフルを拾って)とりあえず・・・少し話をしようか」

スズ「どんな話〜?」


 教卓の上に座る老人


老人「そうだな・・・」


 考え込む老人


老人「俺が君たちに見せたのは、ただの手品だ。くだらなくて、大して面白くもないが、俺がいなきゃ君たちは手品を見れなかった」

ナツ「私たち、手品が見たいなんて言ってない」

老人「ああ、確かにそうだ。俺は頼まれて見せたんじゃない、自分の意志で見せたんだ」

スズ「お〜、なんかかっこいい言い方だ〜・・・」

老人「ナツ、スズ、どんな事柄でも、裏でこうしようとか、ああしようって、考えて実行する奴がいるんだよ」

ナツ「人は考える動物だって言いたいの?」

老人「そうではない。君たちの人生が今こうなっているのも、世界が滅びかけているのも、人の意志が大きく関係しているということだ」

ナツ「それが・・・何なの・・・?」

老人「スズ、さよならはしたくないだろう?」

スズ「(頷いて)う、うん!」

老人「この宇宙のどこかには、スズのさよならをしたくないという気持ちを突き落とそうとする奴がいる。そいつが何なのかは俺にも分からないが、そいつの意志は絶対的なんだ」

スズ「それって・・・運命の意志・・・?」

老人「分からない・・・だが俺の友人は・・・屋上から落ちて死んでしまった・・・」


◯786Chapter6◯587の回想/公園(放課後/夕方)

 月が出ている

 公園の時計は7時過ぎを指している

 ブランコに座っている鳴海と汐莉

 鳴海の隣にはエナジードリンクの入ったコンビニのビニール袋が置いてある

 公園には鳴海と汐莉以外に人はいない

 汐莉は泣いている

 鳴海は黙ってポケットからハンカチを取り出し、汐莉に差し出す


老人「(声)俺も、俺の友人も、何者かの凶暴な意志に負けたんだ」


◯787Chapter5◯125の回想/波音高校女子トイレ(朝)

 女子トイレの洗面台の前にいる汐莉

 洗面台の鏡には汐莉が映っており、その隣の鏡には早季が映っている

 汐莉の後ろには誰もいない

 目を瞑る汐莉


汐莉「(目を瞑りながら言い聞かせるように)これは現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・」

早季「何がそんなに怖いの?」


 鏡の中の早季が汐莉に喋りかけてくるが、汐莉は目を瞑ったまま”現実じゃない”と呟き続ける


老人「(声)その子は誰かの役に立とうと必死だった。自分を犠牲にすれば、他人の運命が変わると思っていたんだろう」


◯788Chapter5◯180の回想/波音高校屋上(朝)

 屋上にいる汐莉、神谷、校長の上野、新人教師の前原を含む学校関係者たち、響紀、詩穂、真彩、神谷の教え子である井沢由香、そしてたくさんの野次馬(生徒)たち

 屋上のフェンスは一部が切り取られている

 屋上のフェンスの一部が切り取られているところは、早季が飛び降りるのに使った場所

 神谷は早季が飛び降りるのに使った場所にいる

 汐莉は神谷の側におり、神谷の両手を握っている

 神谷の腹は大量の出血をしている

 神谷が着ているワイシャツは血まみれになっている

 神谷の足元には血がついたナイフが落ちている

 焦り動揺している教師たち

 神谷の姿を見て興奮して騒いでいる生徒たち

 生徒の何人かはスマホで神谷を撮影している

 教師たちの後ろにはたくさんの野次馬がいる

 屋上の扉付近には人が溢れている

 汐莉のことを突き飛ばす神谷


汐莉「神谷せん・・・」


 一瞬、神谷と目が合う汐莉

 汐莉の体は宙に投げ出されている

 グチャッという大きな音が響く 


神谷「汐莉・・・?何が起きた・・・?」

 

 辺りを見る神谷、汐莉はいない

 生徒たちが泣き叫んでいる

 神谷はゆっくりと校庭を見下ろす

 校庭で汐莉が死んでいる

 響紀が泣いている


神谷「(激しく動揺しながら大きな声で)違う!!!俺は汐莉を殺すつもりなんてなかった!!!!」

響紀「(泣きながら大きな声で)人殺し!!!!」

神谷「(大きな声で)違う!!!!!!これも妄想だ!!!!!!!絶対妄想だ!!!!!!!現実で起きたことじゃないんだ!!!!!!!」


 神谷を目を瞑り、自分の頬を何度も思いっきり叩く


神谷「(目を瞑り頬を叩きながら)汐莉は死んでない!!!!!!汐莉は死んでない!!!!!!」


 神谷は目を瞑って自分の頬を思いっきり何度も叩きながら”汐莉は死んでいない”と叫び続ける


老人「(声)人は簡単に落ちてしまう」


◯789滅びかけた世界:波音高校三年三組の教室(朝)

 教室にいるナツ、スズ、老人

 教室の中には机と椅子が30脚以上ある

 ナツとスズが使っている机、椅子は黒板の前に置いてあり、それ以外は後ろに下げられてある

 教室の中には小さなゴミやほこりが溜まっている

 老人は教卓に座っており、肩にはボルトアクション式のライフルがかけられている

 話をしている老人


老人「悲しいことだ。世界は不公平で、不平等で、光より闇に、生きることよりも死ぬことに近づくように出来ている。幸福と不幸は紙一重で、幸せになろうともがく者の側には、人様の不幸を望んで嘲笑している奴がいるんだ」

ナツ「それが・・・意志・・・?」

老人「ああ」

ナツ「どうやったら勝てるの?強い意志に」

老人「さあな・・・」

スズ「教えてよ〜!!」


 少しの沈黙が流れる


老人「俺は勝てなかったんだ」

ナツ「えっ・・・?」

老人「長い人生で・・・たくさんの戦いがあったが、俺は一度も勝てなかった」

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