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Chapter6卒業編♯1 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

Chapter6 卒業編概要

Chapter5、7、8、9へと続き、学園編の完結を描いたChapter6の最終章。

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われていた武将。


一世(いっせい) 年齢不明 男子

ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。




Chapter6卒業編♯1 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯741緋空浜(朝)

 生徒会選挙から約二週間後

 強い雨が降っている 

 遠くの方では雷が落ちている

 波は荒れている

 浜辺には水たまりが出来ている

 浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちている

 緋空浜の浜辺にいる制服姿の荻原早季

 早季は傘をささずに、浜辺に正座している

 ずぶ濡れになっている早季

 早季は目の前の水たまりを見る

 早季が目の前の水たまりを見ていると水たまりの中に沈んでいる砂が生き物のように動き出し、砂が将棋の盤と将棋の駒に変わる 

 早季は水たまりの砂から作られた将棋の盤の上に駒を並べ始める

 将棋の駒を並べ終えた後、一人将棋を始める早季

 早季は一手打つたびに、将棋の盤をひっくり返す

 早季は雨に降られながら、一人将棋を続ける

 レインコートを着た二人の警備員が、少し離れた堤防から早季のことを見ている


警備員1「(早季に向かって大きな声で)君!!!そんなところにいたら危ないぞ!!!」


 早季は変わらず、一人将棋を続けている

 雨の勢いはますます強くなる

 遠くの方で落ちていた雷は、徐々に距離が近くなっている

 波の勢いは更に強くなり、一人将棋をしている早季の足元にまで波はやって来ている

 強風が吹いている

 レインコートを着た警備員1と2は、変わらず早季のことを見ている


警備員2「(大きな声で)聞こえてないみたいだ!!!直接声をかけよう!!!」

警備員1「(大きな声で)了解!!!」


 レインコートを着た警備員1と2は、一人将棋をしている早季のところへ向かう

 レインコートを着た警備員1と2に向かって、強い逆風が吹いている

 レインコートを着た警備員1と2は、慎重に早季の元へ向かっている

 早季は警備員の二人が近づいていることに興味を示さず、暴風雨の中一人将棋を続けている

 早季の体よりも大きな波が、浜辺へ向かって来ている


警備員2「(大きな声で)まずい!!!波が大き過ぎる!!!」


 早季は一人将棋をやめ、波の方を見る

 立ち上がる早季

 

警備員1「(早季に手を差し出し大きな声で)早く!!!こっちに来なさい!!!」


 早季は波に背を向け、警備員1、2のことを見る

 早季は警備員1、2のことを見ながら、右手を横に伸ばす

 早季の体よりも大きな波は、どんどん浜辺へ近づいて来ている

 全身ずぶ濡れの状態の早季


早季「(右手を横に伸ばしたまま大きな声で)ラッパを吹くのは、天使以下の知恵を持ち、七人以上の数に膨れ上がった人類だ!!!!」


 大きな波がやって来て、腕で顔を守るレインコートを着た警備員1と2

 早季は右手を横に伸ばしたまま、大きな波に呑まれる

 大きな波が引く

 腕で顔を守るのをやめるレインコートを着た警備員1と2

 周囲を見るレインコートを着た警備員1

 早季の姿はない


警備員1「(周囲を見ながら)そ、捜索隊を出そう、きっと今の波に攫われたんだ」


 警備員2は早季がいたところを見ている


警備員2「(早季がいたところを見ながら)いや・・・」


 警備員1は警備員2のことを見る


警備員1「(警備員2のことを見たまま)おい、どうかしたのか?」


 警備員2は早季がいたところを指差す

 警備員2が指差している方を見る警備員1

 警備員1と2が見ている方には、将棋の盤が置いてある

 将棋の盤の上の駒は、早季が一人将棋をしていた状態の時と変わっていない

 将棋盤を指差すのをやめて、海を見る警備員2

 海は変わらず荒れている


警備員2「(海を見たまま)今の女の子・・・ありゃあ人じゃなかったのかな・・・」


 警備員1、2がいる堤防の遠くに柊木千春がいる

 千春は刃の欠けた剣を持っている 

 千春が持っている刃の欠けた剣は、Chapter2の終盤で千春が使っていた物と同じ

 千春は俯きながら堤防を歩いている

 千春は傘をさしていないのにもかかわらず、千春の体は全く濡れていない


◯742波音高校三年三組の教室(朝)

 生徒会選挙から約二週間後

 中間試験最終日

 外では強い雨が降っている

 遠くの方では雷が鳴っている

 校庭には水たまりが出来ている

 朝のHR前の時間

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たり、勉強をしたりしている

 黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある

 騒々しい教室の中

 椅子に座っている鳴海と明日香

 菜摘は学校に来ていない

 嶺二は教室の窓際で雪音と話をしている

 明日香は自分の席で古文の勉強をしている

 鳴海は自分の席から、菜摘の席を見ている

 菜摘の席には誰も座っていない

 神谷が黒板に試験の時間割を書いている

 少しすると神谷が黒板に試験の時間を書き終える

 教卓の上に置いてあった出席簿を手に取り、生徒たちのことを見る神谷

 神谷は菜摘の席を見る


神谷「(菜摘の席を見て)なんだ、菜摘は試験最終日も休むのか」


 神谷は菜摘の席を見るのをやめ、出席簿にチェックをつける

 鳴海は変わらず、自分の席から菜摘の席を見続けている

 空が光り、雷が大きな音を立てて落ちる


◯743Chapter6◯740の回想/波音高校三年生廊下(朝)

 外では強い雨が降っている

 廊下にはたくさんの三年生がいる

 鳴海と菜摘が泣きながら抱き合っている

 明日香、廊下にいる生徒たちが119番に電話をかけようとしているが、電話は繋がらない

 鳴海と菜摘の周りにはたくさんの人だかりが出来ている

 廊下には菜摘の吐いた大量の血がある

 菜摘の体は雨で濡れており、顔は赤くなっている

 汐莉とストレッチャーを持った数人の救急隊員が鳴海たちの元へ走ってやって来る


汐莉「(大きな声で)菜摘先輩!!!」


 鳴海、菜摘、明日香、そして鳴海たちの周りにいた生徒たちが汐莉と救急隊員のことを見る


明日香「(驚いて)し、汐莉!?どうしてあんたが救急車を・・・」

汐莉「嫌な予感がして・・・(大きな声で)そんなことより鳴海先輩!!!早く菜摘先輩を!!!」

鳴海「あ、ああ。(抱き締めていた菜摘の体を少し離して)行こう菜摘」

菜摘「(頷き小さな声で)うん・・・」


 鳴海は菜摘を抱きかかえる

 救急隊員たちはストレッチャーを広げる


◯744回想/波音総合病院/手術室前(昼前)

 手術室前にはたくさんの椅子がある

 手術室の扉の上には、”手術中”と書かれたプレートが赤く点灯している

 椅子に座っている嶺二、雪音、双葉、ナース服姿の風夏

 雪音と風夏が小さな声で喋っている

 嶺二と双葉は向かい合って座っている 

 双葉を睨みながら貧乏揺すりをしている嶺二


風夏「(小さな声で)心臓のことは、手術後に先生から詳しい説明があるから・・・」

雪音「(小さな声で)はい・・・」

風夏「(小さな声で)時期も時期で色々大変だろうけど・・・乗り越えようね」


 少しの沈黙が流れる

 立ち上がる風夏

 

風夏「じゃあ、また後で。雪音ちゃん」


 頷く雪音

 双葉のことを睨むのをやめて、風夏のことを見る嶺二


嶺二「(貧乏揺すりをしたまま風夏のことを見て)おいババア、雪音ちゃんのシスターは今どんな状態なんだよ?」

風夏「手術中って扉に書いてあるでしょ、それと、今度ババアって呼んだら火山が大噴火だからね」

嶺二「(貧乏揺すりをしたまま)うっせえクソババア」


 風夏は嶺二の頭を勢いよく引っ叩き、嶺二の頬を掴む

 嶺二の頬を思いっきり引っ張る風夏


風夏「(嶺二の頬を思いっきり引っ張りながら)どんぐりを頬張ったリスみたいな顔になりたいの?」

嶺二「(風夏に頬を引っ張られながら)やめろやめろやめろ俺の整った顔が壊れちまうだろやめてくれ」

風夏「(嶺二の頬を思いっきり引っ張ったまま)よーしよしよし嫌なら風夏お姉ちゃんにごめんなさいを言おうな〜。ごめんなさいを言わなきゃ、風夏お姉ちゃん、お雑煮の中に沈澱したお餅みたいにあんたの顔を引き伸ばすからね〜」

嶺二「(風夏に頬を引っ張られたまま)ご、ごめんって・・・」


 渋々嶺二の頬を離す風夏

 嶺二の頬が赤くなっている


嶺二「何でOLのお前がこんなところで看護師をしてんだよ・・・」

風夏「お姉ちゃんは夢を叶えて脱OLしたんです〜、残念でした〜」


 再び沈黙が流れる


嶺二「(舌打ちをして)チッ・・・最悪だぜ・・・菜摘ちゃんもこの病院に運ばれて来たっていうのによ・・・」

風夏「え、今誰が運ばれて来たって言った?」

嶺二「菜摘ちゃんだ」


◯745回想/波音総合病院廊下/菜摘の個室前(昼前)

 外では強い雨が降っている

 菜摘が眠っている病室の前で話をしている鳴海、潤、すみれ

 病室の前には"早乙女 菜摘"と書かれたネームプレートが貼られている

 潤は仕事用の整備服を着ている

 鳴海たちの近くには椅子があり、明日香と汐莉が座っている

 汐莉は俯いている

 明日香は心配そうに鳴海たちの会話を聞いている

 イライラしている鳴海


鳴海「(イライラしながら)原因は分からないってどういうことだよ!?」

潤「文字通りの意味だ」

鳴海「(イライラしながら)菜摘は病気なんだろ!?」

潤「ああ」

鳴海「(イライラしながら大きな声で)なら原因を追求してくれよ!!!それが菜摘の親であるあんたの役目だろ!!!」


 汐莉は俯いたまま、両手で耳を塞ぐ


潤「今出来る検査は全てやったんだ・・・だが・・・菜摘の体がどうなってるのかは・・・医者も分からんと言ってる」


 少しの沈黙が流れる


潤「しばらくは入院するしかない。菜摘も嫌がるだろうがな・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(イライラしながら大きな声で)クソッタレ!!!!」


 廊下を歩いていた看護師や、患者が鳴海の大きな声に驚く


すみれ「鳴海くん・・・」

鳴海「(イライラしながら)ああ分かってますよ、汚い言葉を使うな、でしょ・・・菜摘にも前注意されましたけど、今くらいは言わせてくださいよ・・・この状況はクソ以外の何物でも・・・」


 すみれは喋り途中だった鳴海のことを抱きしめる

 

すみれ「(鳴海のことを抱きしめたまま)一緒に・・・一緒に頑張りましょう」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(すみれに抱きしめられたまま小声で)ちくしょう・・・」


◯746回想戻り/波音高校三年三組の教室(朝)

 中間試験最終日

 外では強い雨が降っている

 遠くの方では雷が鳴っている

 校庭には水たまりが出来ている

 朝のHRを行っている神谷

 黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある

 鳴海、明日香、嶺二、雪音を含む生徒たちは着席をしている

 菜摘は欠席している

 神谷の話を真面目に聞いている明日香とお雪音

 鳴海は神谷の話を聞かず、外を眺めている

 嶺二は頬杖をついて、やる気のなさそうに神谷の話を聞いている

 黒板には試験の時間割が書いてある


神谷「今日の午前中で中間試験は終わりだ。みんな、気を引き締めてやるように。午後は部活動も再開するから、所属している生徒はきちんと出席すること。それから・・・(鳴海のことを見て)鳴海」


 外を眺めるのをやめる鳴海


神谷「人の話はちゃんと聞きなさい。外を眺めて良いのは幼稚園児までだぞ」

鳴海「(小声でボソッと)クソ教師が・・・」


 少しの沈黙が流れる


神谷「先生の聞き間違えだったら、申し訳ないんだが・・・(少し間を開けて)鳴海、今君は俺のことをクソ教師呼ばわりしなかったか?」

鳴海「いや・・・」


 再び沈黙が流れる


神谷「先生だって、テスト前の君たちに余分なストレスをかけたいわけじゃないんだよ。だけど、クソ呼ばわりはあまりに酷いと思うんだ。一生懸命働いてる大人に対して、その言葉はとても侮辱的な意味に聞こえるからね」


 明日香や嶺二、その他多くの生徒が鳴海と神谷のことを見ている

 笑顔になる神谷


神谷「(笑顔で)鳴海、神に誓えるか?」

鳴海「え・・・?」

神谷「(笑顔で)神に誓って、先生のことをクソ教師呼ばわりしていないと言えるか?」

鳴海「い、いや・・・」

神谷「(笑顔で)なるみぃ、自信なさげな態度は困るなぁ。俺は教師で、もちろんクソじゃない教師だが、君は生徒だろ?」


 神谷は笑顔のまま鳴海の席の方へ近づいて来る


神谷「(笑顔のまま鳴海の席の方へ近づきながら)この教室は、君ら生徒と、教師である俺のものだ。お互いが支配している空間だから、教師と生徒という関係ならではの、はっきりさせておいた方が良いこともある。つまり、言いたいことは言うべきだと思うんだ。我慢するのは大人だが、鳴海は違う。(少し間を開けて)だから・・・先生のことをクソ教師呼ばわりしていないと・・・」


 笑顔のままの鳴海の前で立ち止まる神谷

 教室の中の生徒たちが、鳴海と神谷のことを見ている

 神谷は笑顔のまま鳴海のことを見下ろしている

 鳴海は神谷から顔を逸らしている

 神谷の顔から笑顔が消える


神谷「(鳴海のことを見下ろしたまま)神に誓えるか?」


 少しの沈黙が流れる


神谷「(鳴海のことを見下ろしたまま)鳴海、首を縦に振りなさい」


 少しして鳴海は神谷から顔を逸らしたまま、ゆっくり首を縦に振る

 再び笑顔になる神谷


神谷「(笑顔のまま)よろしい」


 笑顔のまま右手を鳴海の右肩に置く神谷

 笑顔のまま鳴海の耳元に顔を近づける神谷

 

神谷「(笑顔のまま鳴海の耳元で)試験が終わったら職員室に来るんだ。進路のことで話がある」


 神谷は笑顔のまま鳴海の右肩をポンポンと叩き、鳴海の席から離れる


神谷「(笑顔のまま)みんなの貴重な時間を奪ってすまなかったね、切り替えて中間試験を始めようか」


◯747波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/昼過ぎ)

 外では強い雨が降っている

 遠くの方では雷が鳴っている

 文芸部の部室にいる明日香、嶺二、汐莉、響紀、詩穂、真彩

 鳴海と雪音は部室に来ていない

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある

 教室の中の傘立てには4本の傘が立ててある

 校庭には水たまりが出来ている

 嶺二は机に向かって座っている

 頬杖をついて外を眺めている嶺二

 汐莉は机に突っ伏している

 詩穂、真彩は机の上に座っている

 明日香と響紀はたたまれた傘を使って、ダンスをしている

 明日香たちの近くにはそれぞれのカバンが置いてある

 響紀の近くには彼女のスマホが置いてあり、そこからジーン・ケリーの”Singin’ In The Rain”が流れている

 響紀が明日香にダンスを教えている

 詩穂と真彩は机に座ったまま、明日香と響紀のダンスの練習を見ている

 真彩はスマホで響紀と明日香のダンスを撮影している

 響紀は傘を持ったまま、タップダンスのようにステップを踏む


響紀「(タップダンスのようにステップを踏みながら)明日香ちゃんもやってよ」


 明日香は響紀と同じようにステップを踏む


明日香「(響紀と同じようにステップを踏みながら)こう?」

響紀「(タップダンスのようにステップを踏みながら)うん。(ステップを踏みながら傘を開いて)次は傘を開いて」


 響紀と同じようにステップを踏みながら傘を開く明日香

 響紀は開いた傘をくるくる回しながらステップを踏む

 響紀と同じように開いた傘をくるくる回しながらステップを踏む明日香

 嶺二は変わらず、頬杖をついたまま外を眺めている

 汐莉は変わらず、机に突っ伏している

 詩穂、真彩は変わらず、机に座ったまま明日香と響紀のダンスを見ている

 真彩は明日香と響紀のダンスをスマホで撮影し続けている


詩穂「(明日香と響紀のダンスを見たまま)朗読劇は響紀くんと明日香先輩のダブル主演で、波に唄えばにしますかー」

真彩「(スマホで明日香と響紀のダンスを撮影したまま)え〜、だったらナミネサイドストーリーが良いな〜」

明日香「(傘をくるくる回しながらステップを踏み)文芸部がミュージカルをやったらおかしいでしょ」

真彩「(スマホで明日香と響紀のダンスを撮影したまま)そんなことは誰も気にしませんって〜」

明日香「(傘をくるくる回しながらステップを踏んで)私は気にすんの」


 響紀はステップを踏みながらくるくる回していた傘を閉じ、バトンのように傘を放り投げる

 響紀はステップを踏むのをやめて、折り畳んだ傘をバトンのように回している


響紀「(折り畳んだ傘をバトンのように回しながら)はい、次は明日香ちゃん」


 明日香はステップを踏みながらくるくる回していた傘を閉じ、バトンのように傘を放り投げる

 明日香が傘を投げた瞬間、傘とカバンを持った鳴海が部室に入って来る

 顔を上げる汐莉

 外を眺めるのをやめる嶺二

 明日香が投げた傘は、鳴海の真横に落ちる


鳴海「危ねえな」

明日香「ごめん」


 傘を拾い、傘立てに入れる明日香


明日香「神谷に怒られた?鳴海」

鳴海「ああ」


 響紀は変わらず傘をバトンのようにしてくるくる回している

 響紀の近くに置いてあるスマホからはジーン・ケリーの”Singin’ In The Rain”が流れ続けている

 響紀のことを見る鳴海


鳴海「(響紀のことを見たまま)お前たちは何をしていたんだよ?」

真彩「(スマホで響紀のことを撮影したまま)ダンスっす、先輩」

鳴海「踊りたきゃダンス部に行ってくれ」


 鳴海は傘立てに傘を立てて、椅子を引っ張り出す

 椅子の隣にカバンを置き、鳴海は椅子に座る

 響紀は傘を回すのをやめて、傘立てに入れる

 少しの沈黙が流れる

 深くため息を吐く鳴海

 顔を見合わせる詩穂と真彩


鳴海「とりあえず全員座るんだ」


 明日香と響紀は、詩穂、真彩と同じように机の上に座る

 真彩はスマホで鳴海を撮影している

 響紀のスマホからはジーン・ケリーの”Singin’ In The Rain”が流れ続けている


鳴海「音楽を止めろ、それから俺を撮るな」


 響紀は机から降り、スマホを取りに行く

 ”Singin’ In The Rain”を止める響紀

 真彩はスマホで鳴海を撮影するのをやめる

 スマホをポケットにしまう響紀と真彩

 響紀は再び机の上に座る

 再び沈黙が流れる


鳴海「真面目に部活をやってくれ」

明日香「え?これでも真面目にやってるつもりなんだけど・・・」


 頭を抱える鳴海


鳴海「(頭を抱えたまま)一条はどこにいるんだ・・・」

嶺二「あー、雪音ちゃんなら病院に行っちまった」

鳴海「(頭を抱えたまま)部活は・・・?」

嶺二「多分来ねーだろ」

鳴海「(頭を抱えたまま)明日はサボらせないようにしてくれ」

嶺二「雪音ちゃんに強制は出来ねーよ」


 頭を抱えるのをやめる鳴海


鳴海「全員椅子を持って来て、いつもみたいに円の形を作るんだ・・・」


 椅子を持ち、円の形に並べて座る明日香、嶺二、汐莉、響紀、詩穂、真彩

 鳴海の隣に汐莉、汐莉の隣に響紀、響紀の隣に明日香、明日香の隣に嶺二、嶺二の隣に真彩、真彩の隣に詩穂が座っている


鳴海「知っての通り・・・菜摘は部活に参加出来る状態じゃない・・・(少し間を開けて)あいつが学校に来れない間・・・文芸部と軽音部の活動内容を・・・改めても良いか」

嶺二「ああ」

鳴海「よし・・・まずは朗読劇の曲をどうす・・・」

詩穂「(鳴海の話を遮って)鳴海先輩」

鳴海「何だ」

詩穂「菜摘先輩の具合を教えてくださいよ」

汐莉「詩穂、その話はしないって決めたじゃん・・」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「決まりごとを破りたいわけじゃないけど、お見舞いにすら行かせてくれないなんておかしいと思います。鳴海先輩」

鳴海「菜摘を疲れさせたくないんだよ。大勢で見舞いに行けば、あいつのストレスになるだろ」

詩穂「ならせめて容体を・・・」

鳴海「(イライラしながら詩穂の話を遮って)本人は心配するなと言ってるんだ。もしあいつに何かあったら、お前たちにも説明するから・・・だからこの話題はやめてくれよ」


 再び沈黙が流れる


詩穂「分かりました・・・」

鳴海「曲作りについて話しても良いな・・・?」


 頷く詩穂


鳴海「(南のことを見て)南、朗読劇で使う曲はあれからどうなったんだ」

汐莉「菜摘先輩がいないので・・・進めてません・・・」

鳴海「そうか・・・」

汐莉「すみません」

鳴海「いや・・・気にしなくて良い。生徒会選挙が終わったことだし、曲作り班は一度体制を見直すべきだな・・・」

汐莉「菜摘先輩が戻って来るの待って・・・」

鳴海「(汐莉の話を遮って)ダメだ。時間が足りなくなる」

嶺二「んなら軽音部を曲作りに回そーぜ」

鳴海「そうだな・・・永山と奥野、お前たちは南と一緒に曲を作ってくれ」

真彩「え、うちら作詞作曲は出来ないっすよ」

鳴海「南一人で作業をするよりはマシだ」

詩穂「だったら響紀くんを曲作り班に入れません?」

鳴海「響紀は・・・」

汐莉「要りません。鳴海先輩、響紀がいなくてもいけます」


 少しの沈黙が流れる


明日香「汐莉、最近響紀に冷たくない?」

汐莉「えっ・・・別にそういうつもりは・・・」

響紀「私たちの間柄だもんね?汐莉」

汐莉「う、うん」

響紀「鳴海先輩、汐莉の音楽センスは私たちの中だと一番ですよ。ましてやバックアップに詩穂と真彩がいるなら、私はお呼びじゃないです」

鳴海「南、三人でやってくれるか?」

汐莉「はい」

鳴海「奥野と永山も頼むぞ」

詩穂「汐莉の足を引っ張らないように頑張りまーす」

真彩「同じくー」

鳴海「お前たちは真面目なのか不真面目なのかどっちなんだ」

詩穂「スイートメロンパンが食べたくなる級に真面目です」

鳴海「要するにクソ真面目なんだな」

真彩「そうっすね、つか先輩、クソは禁句なのでは」

鳴海「これ以上クソという言葉を封印するのは自分の精神衛生面に悪影響があると思ってな、だから、菜摘がいないところでは遠慮なくクソと吐き捨てることにしたんだ」

明日香「つまりクソってことね・・・」

嶺二「だな・・・」

鳴海「響紀、クソ生徒会役員たちに例の行事は提案したのか?」

響紀「三年生の送る会のことですよね?」

鳴海「それしかないだろ」

響紀「生徒会の中だと既に私の案は通りました。あとはクソ先生たちの許可が降りるのを待つだけです」

明日香「響紀」

響紀「何?明日香ちゃん」

明日香「あなたまでクソって言わないで」

響紀「失礼、プロフェッサースイートメロンパンの許可が降りるのを待つだけです」

嶺二「許可が降りないって場合もあるのか」

響紀「ないと思いますね。例年通りの流れ作業で、三年生を送る会が終わるのは良くないって先生たちが言ってましたから。部活動で出し物をすれば、学校側も得をするはずです」

鳴海「響紀、揉めたりしてないよな」

響紀「今のところは」

明日香「何でそんなことを聞くの?鳴海」

鳴海「生徒会選挙の前に、響紀が男子生徒をナンパしまくっただろ。あの一件で恨みを買った奴がいるかもしれないぞ」

明日香「それはあんたたちが響紀に汚れ役を押し付けたからでしょ」

嶺二「いちいちうっせえな、あれ以外に方法がなかったんだからしょーがねーだろ明日香」

明日香「偉そうに方法とか言って、後先考えてなかっただけなくせに」

嶺二「そんなら今度は明日香が良い作戦を考えてほしいもんだな。辞める辞める詐欺を繰り返す前によ」

明日香「言っとくけど私が辞めたのは一回だけです、繰り返してません」

嶺二「どっちにしたって同じだろ。一度でも辞めるって言ったら、十分詐欺だ」

明日香「は?決めつけないでくれる?」

嶺二「おめえが辞めるって抜かしてくれたお陰で、どんだけ俺たちは大変な目に・・・」

鳴海「(嶺二の話を遮って)二人とも喧嘩するなら黙ってろ」


 再び沈黙が流れる


鳴海「明日香が一度文芸部を抜けたのは、俺のせいだ。お前たちは関係ない」

明日香「鳴海、やっと副部長ならではの責任能力が付いてきたのね」

鳴海「嫌味を言うのはやめろ明日香」

明日香「こっちは嫌味でも言わないとやってらんないの、分かる?あんたらアホとはまともな会話が出来ないんだから」

鳴海「そうかよ・・・」


 部室の扉が開く

 全員が部室の扉を見る

 神谷が部室に入って来る


神谷「やあやあ、仲良く合同で部活動かね?」

明日香「ノックくらいしてくださいよ、神谷先生」

神谷「そうか・・・ノックは大切だな・・・」


 神谷は部室を出て、扉を二、三回叩く

 再び部室に入る神谷


神谷「お客様だよ、みんな」

鳴海「今忙しいんで、後にしてもらって良いっすか」

神谷「奇遇だねミスターグイド。先生も今忙しいんだ」

鳴海「用がないなら職員室に戻って・・・」

神谷「(鳴海の話を遮って)いやいやいやいや、大事な用があるんだよ、ミスターグイド」

鳴海「何すか」

神谷「文芸部の活動は問題ないかね?」

鳴海「まあ・・・」

神谷「菜摘部長がいなくても?」

鳴海「はい」

神谷「それは素晴らしい。君たちの作る芸術作品を楽しみにしてる身としては、吉報だな」


 神谷は明日香のことを見る


神谷「(明日香のことを見たまま)明日香、文芸部は辞めるんじゃなかったのか」

明日香「気が変わったんです先生」

神谷「(明日香を見るのをやめて)子供の心変わりは早過ぎるな、先生にはついていけないよ・・・」


 神谷は汐莉のことを見る


神谷「(汐莉のことを見たまま)汐莉・・・元気か」

汐莉「え、はい」

神谷「(汐莉のことを見たまま)俺は汐莉の透き通るような歌声が好きなんだ」

汐莉「あ、ありがとうございます・・・」

神谷「(汐莉のことを見たまま)この世界のナイチンゲールは汐莉だけだよ。君はいずれ、歴史に名を残す芸術家になるんだろうな」


 少しの沈黙が流れる


真彩「(詩穂に向かって小声で)今のセクハラじゃね・・・?」


 頷く詩穂


神谷「(汐莉のことを見たまま)朗読劇も頑張るんだぞ、汐莉。先生は君のことを応援してるからね」

汐莉「は、はい・・・」

神谷「(汐莉のことを見るのをやめて)さて・・・そろそろ失礼しよう」


 扉に向かって歩き出す神谷

 扉の目の前で立ち止まる神谷

 振り返って嶺二のことを見る


神谷「(嶺二のことを見たまま)あーそうだ嶺二。お前、選挙活動で下級生を買収してないよな?」


 鳴海、明日香、汐莉、響紀、詩穂、真彩が嶺二のことを見る

 再び沈黙が流れる


嶺二「い、いや・・・」

明日香「(嶺二のことを見るのをやめて)買収って・・・どういうことですか、先生」

神谷「(嶺二のことを見たまま)つい先ほど、二年生の先生から聞いた話でね。ある生徒が、三枝響紀さんを支持する三年生の男子生徒に、買収されたと報告しに来たんだよ。幸か不幸か買収された生徒は、不正行為を働いた男子生徒の名前は知らなかったそうだが、特徴を教えくれたんだ。態度が悪くて馴れ馴れしかったと。(少し間を開けて)嶺二、君は熱心に選挙活動を行っていたよね?」

嶺二「ひ、響紀ちゃんの手伝いをしただけっすよ。ば、買収なんてするわけないじゃないですか」

神谷「(嶺二のことを見るのをやめて)先生もそう思って、うちのクラスの白石嶺二はそんなことしませんとだけ伝えておいたよ。どの道先生には関係のない話だ、もし本当に買収行為をしていたんだとしたら、嶺二の将来が白紙になるだけだからね。そうなっても良いように推薦の取り消しは考えておこう・・・専門学校に迷惑はかけられない・・・(少し間を開けて)子供とは実に愉快だ・・・これだから学校生活は飽きないな・・・」


 神谷はぶつぶつ呟きながら部室から出て行く

 

嶺二「か、神谷のやろー、マジで頭がぶっ壊れてるだろ、ば、買収なんてするわけねーのに」


 立ち上がる鳴海

 鳴海は素早く嶺二の元へ行く

 

嶺二「(鳴海のことを見て)な、何だよ鳴海。何か言いてえなら・・・」


 鳴海は嶺二の言葉を無視して嶺二の胸ぐらを掴み上げる

 嶺二の椅子が倒れる

 驚く明日香、汐莉、響紀、詩穂、真彩


明日香「(椅子から立ち上がり)ちょ、ちょっと鳴海!!」


 鳴海は嶺二の胸ぐらを掴んだまま、力任せに嶺二を教室の窓際に追い込む

 鳴海は嶺二の胸ぐらを掴んだまま、嶺二の背中を思いっきり窓に打ちつける

 立ち上がる汐莉


嶺二「(鳴海に胸ぐらを掴まれたまま)いってえな!!」

汐莉「鳴海先輩、やめてくだ・・・」

鳴海「(嶺二の胸ぐらを掴んだまま汐莉の話を遮り大きな声で)口を挟まないでくれ!!!」

嶺二「(鳴海から逃げようとして)おい!!離せよ!!」


 鳴海は再び嶺二の背中を窓に打ちつける


鳴海「(嶺二の胸ぐらを掴んだまま怒鳴り声で)お前言ったよな!!!!買収はしてないって!!!!」


 鳴海から顔を背ける嶺二


鳴海「(嶺二の胸ぐらを掴んだまま怒鳴り声で)選挙の公約を渡したんだろ!!!!」

嶺二「(鳴海に胸ぐらを掴まれ顔を背けたまま)鳴海、こんなことは無意味だぜ・・・お前がしてることは、文芸部のプラスにはなら・・・」

鳴海「(嶺二の胸ぐらを掴んだまま嶺二の話を遮り怒鳴り声で)誤魔化さずに答えろよ!!!!!」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「(鳴海に胸ぐらを掴まれ顔を背けたまま)悪い・・・あれは嘘だ・・・」


 再び沈黙が流れる

 鳴海は渋々嶺二の胸ぐらを離す

 鳴海は自分の席に戻ろうとする


汐莉「嶺二先輩、大丈夫ですか?」

嶺二「まーな・・・大したことじゃねえよ」


 鳴海はいきなり振り返って嶺二の顔面を思いっきり殴る

 殴られた拍子に倒れる嶺二


鳴海「(怒鳴り声で)裏切りやがって!!!!!」


 殴られた嶺二の頬を赤くなっている

 

鳴海「(怒鳴り声で)お前のせいで文芸部は廃部になるかもしれないんだぞ!!!!!」

嶺二「んなことくらい分かってるよ・・・」


 少しの沈黙が流れる

 立ち上がる嶺二


鳴海「今日はもう帰れ・・・」

明日香「えっ・・・?」

鳴海「今日はもう帰ってくれ・・・」

明日香「何でよ?」

鳴海「良いから・・・早く帰るんだ・・・」


 再び沈黙が流れる


響紀「行こう、明日香ちゃん」

明日香「そうね・・・」


 明日香と響紀はカバンを持って立ち上がる

 傘立てから傘を取り出す明日香と響紀

 明日香が座っていた椅子がいきなり倒れる

 倒れた椅子を見る鳴海たち


真彩「(倒れた椅子を見たまま)心霊現象・・・?」

詩穂「(倒れた椅子を見たまま)ゆ、幽霊なんていないって・・・」


 少しの沈黙が流れる


明日香「じゃ、私たちは帰るから」

響紀「お疲れ様です」


 部室を出る明日香と響紀

 顔を見合わせる詩穂と真彩

 

詩穂「(真彩と顔を見合わせたまま)か、帰ろ・・・真彩・・・」

真彩「(詩穂と顔を見合わせたまま)う、うん・・・」


 詩穂と真彩はカバンを持って立ち上がる

 傘立てから傘を取り出す詩穂と真彩


真彩「(小声で)お、お疲れっしたー・・・」


 部室を出る詩穂と真彩


鳴海「(チラッと嶺二と汐莉のことを見て)ここに残るな」


 嶺二はカバンを持って、傘立てから傘を取り出す


嶺二「すまん鳴海・・・確実に選挙を当選させるには、こうするしかなかったんだ・・・」

鳴海「傘で滅多刺しにされたくなかったらとっとと失せろ」


 嶺二は何か言おうとするが、やめる

 部室を出る嶺二

 鳴海は椅子に座り、俯く


鳴海「(俯いたまま)お前もだぞ、南」

汐莉「先輩、これからどうするんですか」

鳴海「(俯いたまま)それを今考えてるんだ・・・」

汐莉「考えた後は?」

鳴海「(俯いたまま)さあな・・・」

汐莉「私も一緒に考えてあげますよ、鳴海先輩」

鳴海「(俯いたまま)俺とお前はそういう関係じゃない」

汐莉「何ですか?そういう関係って」

鳴海「(俯いたまま)気を使い合う関係のことだ」

汐莉「じゃあ私たちは一体どんな関係なんです?」

鳴海「(俯いたまま)ただの先輩と後輩だろ」


 再び沈黙が流れる


汐莉「鳴海先輩と違って私は一人っ子なので・・・兄弟には強い憧れがあります。特にお兄ちゃんお姉ちゃんに」

鳴海「(俯いたまま)そうか」


 カバンを持って、傘立てから傘を取り出す汐莉


汐莉「文芸部の先輩たちが、私のお兄ちゃんやお姉ちゃんだと思っていたんですけど・・・」


 顔を上げる鳴海


汐莉「そうじゃないみたいですね」


 汐莉は部室から出て行く

 部室に取り残される鳴海

 再び俯く鳴海


◯748波音総合病院/菜摘の個室(放課後/夕方)

 外では強い雨が降っている

 遠くの方では雷が鳴っている

 菜摘の病室にいる鳴海と菜摘

 菜摘はベッドに横になっている

 鳴海はベッドの横の椅子に座っている

 菜摘は痩せている

 ベッドの隣には棚があり、小さなテレビ、朗読劇用の波音物語、原作の波音物語、パソコン、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダー、筆記用具、ノート、数冊の本などが置いてある

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある


菜摘「最近は雨ばっかりだね」

鳴海「ああ・・・」

菜摘「鳴海くん、試験はどうだった?」

鳴海「試験?覚えてないな」

菜摘「えー!サボってないよね?」

鳴海「サボってはないぞ。ただ試験中は寝てただけだ」

菜摘「えー!!」

鳴海「そんなにえーえー言うなよ。あと寝てたってのは冗談な」

菜摘「なんだ〜、冗談か〜」

鳴海「おう」

菜摘「部活は今日から再開したの?」

鳴海「あ、ああ・・・」

菜摘「みんな元気にしてる?」

鳴海「ま、まあな・・・そういえば、永山が菜摘の体調を知りたがってたぞ」

菜摘「えっ・・・心配要らないって伝えてくれたよね・・・?」


 頷く鳴海


菜摘「そっか、ありがとう鳴海くん」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「なあ菜摘、お見舞いくらいは・・・」

菜摘「(首を横に振り鳴海の話を遮って)ダメダメ、みんな絶対心配するもん」

鳴海「(呆れて)そりゃ血を吐いて入院したら心配するだろ・・・」

菜摘「それはそうだけど・・・お見舞いは絶対にダメ。みんなには朗読劇や進路のことに集中してもらいたいし、ただでさえ心配をかけてるんだから、入院中の姿なんて見せられない」

鳴海「しかしな菜摘、お見舞いに来ないでくれって頼むのもなかなかしんどいんだぞ」

菜摘「ごめんね、鳴海くん」

鳴海「い、いや・・・謝るほどのことではないけどさ・・・」


 再び沈黙が流れる


菜摘「部活、今日は何をしたの?」

鳴海「い、色々だよ」

菜摘「色々・・・?」

鳴海「は、話し合いをちょっとな・・・」

菜摘「そうなんだ・・・朗読劇の準備は、私がいない間も進めて良いからね」

鳴海「お、おう・・・や、やれることはやっておくよ」

菜摘「ありがとう、鳴海くん。迷惑ばっかりかけてごめんね」

鳴海「あ、ああ・・・」


 鳴海は菜摘から顔を逸らし、ベッドの隣にある棚を見る

 棚の上に置いてあった、ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを手に取る鳴海

 

鳴海「(ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを見ながら)菜摘、本当にこれで良かったのか?」

菜摘「うん!」

鳴海「(ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを見たまま)キーホルダーを選ぶところが菜摘らしいよな。ネックレスとかブレスレットとか色々あったのにさ」

菜摘「鳴海くん、キーホルダーだって素敵なワンポイントアイテムだよ」

鳴海「(ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを見たまま)そうだな」

 

 鳴海はステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを棚の上に置く


菜摘「あ、鳴海くん」

鳴海「ん?」

菜摘「今日のお昼、風夏さんが来てくれたよ」

鳴海「姉貴が?まさか自分が担当してる患者を見捨てて来たんじゃ・・・」

菜摘「違う違う。お昼休みだって言ってたもん」

鳴海「そうか・・・」

菜摘「風夏さん、鳴海くんに似てるよね」

鳴海「似てないだろ、性格とか全然違うし」

菜摘「でもボケとツッコミのタイミングは似てるよ。風夏さんって、コミュニケーション能力と母性のある女性版鳴海くんって感じがするけどなぁ」

鳴海「おい」

菜摘「ご、ごめん」

鳴海「やっぱ俺とは全然違うじゃないか・・・」

菜摘「雰囲気は鳴海くんと近いよ」

鳴海「菜摘、雰囲気なんてもんはあてにならないぞ」

菜摘「そうかな?」

鳴海「ああ」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「風夏さんは10月から看護師になったんでしょ?」

鳴海「らしいな」

菜摘「らしいって、もしかして鳴海くん、風夏さんと会ってないの?」

鳴海「いや、菜摘が入院した日に一度会ってるよ」

菜摘「そっか・・・(少し間を開けて)風夏さん、担当の患者さんだけじゃなくて、智秋さんのことがあるから大変だよね・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「大変なのはみんな一緒さ。菜摘だってそうだろ」

菜摘「ううん。そんなことないよ」

鳴海「お前は原因不明の大病を患ってるんだぞ」

菜摘「病気なんて・・・体が少し重たくなるだけだもん」

鳴海「それを大変って言うんだけどな」

菜摘「でも鳴海くん、私は病気だからしんどいとか、苦しいとか、それこそ大変とか、そんなふうに思ったことは一度もないよ」


◯749帰路(夕方)

 強い雨が降っている

 遠くの方では雷が鳴っている

 傘をさして、自宅に向かっている鳴海

 鳴海はゆっくり歩いている


鳴海「(声 モノローグ)菜摘が学校に来れなくなり、文芸部の管理は俺に一任されたが、俺は菜摘の容体が回復すると信じて、ひとまずは部活を停止させた。あいつが戻って来ることを信じて・・・だが、待てど暮らせど、菜摘の病気は治るどころか、その原因すら突き止められず、ただ時が過ぎ去っていった。菜摘は毎日、まるで実験で使用されるネズミのように、検査を受け続けている。菜摘と智秋さんは、いつ波音総合病院から退院出来るか分からない・・・結局、文芸部は菜摘のものだ。みんなは菜摘の容体を知りたがっているが、菜摘は頑なに、私は大丈夫だと言う。みんなに心配をかけたくないから、お見舞いには来させないで、菜摘はその一点張りだった。だから俺は、あいつらに菜摘のことを聞かれても、適当に答え、見舞いには行かないでくれと頼んだ。リーダーがいないことで、文芸部と軽音部の中ではストレスが募り、みんなは副部長の俺に不信感を抱いた。こんなんで朗読劇は成功するのかと・・・」


 立ち止まる鳴海

 自分の足元を見る鳴海

 鳴海の足元には、羽が折れて飛べなくなったスズメがいる


鳴海「(羽が折れて飛べなくなったスズメを見たまま)俺は菜摘に飼い慣らされた犬も同然だった。犬は飼い主に従順だ。そう、俺は菜摘のものだが、菜摘は俺のものじゃない・・・」


◯750滅びかけた世界:波音高校前(夕方)

 雲の間にある夕日が沈みかけている

 ナツ、スズ、老人が乗っている車が、波音高校の前で止まる

 三人が乗っている車は、荷台のある黒くて大きなピックアップトラック型の車

 波音高校の校舎は古く、ボロボロになっている

 ナツとスズは後部座席に座っており、お互いにもたれながら眠っている

 ナツの隣には老人から貰った双眼鏡が置いてある

 スズはベレー帽を被り、目にはサングラスをかけている

 老人は運転席に座っている

 老人の左腕には、チェックのマフラーが蝶々結びになって縛られてある

 チェックのマフラーには老人の血が染み渡っている

 老人の隣の助手席には、老人のボルトアクションライフルが置いてある

 車の荷台にはショッピングモールから盗んだ服、本、化粧品、楽器、ボールやバットなどのスポーツ用品、様々な電化製品、映画のDVD、CD、海で遊ぶ道具、大きなぬぐるみ、スケートボードなど、娯楽に使う物から日用品まで様々な物が山のように積まれている

 後部座席を見る老人

 ナツとスズは変わらずお互いにもたれながら眠っている

 

老人「(ナツとスズのことを見ながら)着いたぞ」


 目を覚ますナツとスズ

 スズはかけていたサングラスをベレー帽の上に乗せる

 ナツは窓から周囲を見る


スズ「ごくろージジイー」

老人「ああ」

ナツ「(周囲を見るのをやめて)荷物はどうするの?」

老人「すぐに必要になる物だけを持って行くと良い、それ以外は車の荷台に置いて行け」

スズ「え〜・・・」

老人「重い荷物を持って、学校の階段を何度も往復したいのか?」

ナツ「嫌だ」

老人「なら少しは置いて行くんだな」

ナツ「そうする」

スズ「でも荷物が盗まれちゃうかもしれないよ」

老人「盗まれたらまた手に入れれば良いさ。幸い生活用品以外の物は、比較的に入手しやすいからな」

スズ「そうなんだ〜」


 ナツは双眼鏡を持って、車から降りる

 ナツに続いてスズが車から降りる

 ナツとスズは車の荷台へ向かう


ナツ「スズ、お願い」

スズ「お任せなり〜」


 スズは車のタイヤを利用して、荷台によじ登る

 

スズ「何が必要なのか言ってって〜」

ナツ「服と本、それから日用品」


 スズは車の荷台の上で、ナツがショッピングモールで盗んだ物を探す

 ライフルを持った老人が車から出て来る

 老人は車の荷台へ向かう

 ナツと老人は車の横から、荷台の上のいるスズのことを見ている

 スズは荷台の上にあった数着の服を手に取る


スズ「(荷台の上から数着の服をナツに見せて)なっちゃんの服ってこれだけ〜?」

ナツ「(スズが持っている数着の服を見て)下着は?」

スズ「(数着の服を荷台に置き)探してみる〜」


 スズは近くに数着の服を置き、ナツが盗んだ下着を探す


ナツ「(荷台の上にいるスズのことを見ながら)スズ」

スズ「(荷台の上でナツの下着を探しながら)ん〜?」

ナツ「(荷台の上にいるスズのことを見たまま)下着は隠して持って来て」

スズ「(荷台の上でナツの下着を探したまま)分かった〜」

老人「(荷台の上にいるスズのことを見たまま)ナツ、君さえ良ければ、この後は・・・」

ナツ「(荷台の上にいるスズのことを見たまま老人の話を遮って)何」


 少しの沈黙が流れる

 スズのことを見るのをやめる老人


老人「(ナツのことを見て)三人で飯を食わないか」


 再び沈黙が流れる


ナツ「(荷台の上にいるスズのことを見たまま小さな声で)か、構わないけど・・・」

老人「(ナツのことを見たまま)そうか・・・ありがとう、ナツ」

ナツ「(荷台の上にいるスズのことを見たまま小さな声で)う、うん」


 老人はナツのことを見るのをやめる

 老人は再び、荷台の上にいるスズのことを見る


老人「(荷台の上にいるスズのことを見たまま)場所は・・・そうだな・・・4階の第一理科室でどうだ?」

ナツ「(荷台の上にいるスズのことを見たまま)行ったことない」

老人「(荷台の上にいるスズのことを見たまま)扉の近くに理科室と書かれたプレートが貼られてるから・・・」

ナツ「(荷台の上にいるスズのことを見たまま老人の話を遮って)分かってるよそんなことくらい」

老人「(荷台の上にいるスズのことを見たまま)そうか・・・すまない」

ナツ「(荷台の上にいるスズのことを見たまま)なんで特別教室の四じゃなくて理科室を使うの?」

老人「(荷台の上にいるスズのことを見たまま)あの教室は・・・好きじゃないんだ」


 少しの沈黙が流れる


老人「(スズのことを見るのをやめて)ナツ、俺は先に理科室へ行くよ」

ナツ「(驚いて老人のことを見て)えっ?」


 老人は波音高校に向かって歩き始める


老人「(波音高校に向かいながら)君たちは荷物を置いてから理科室へ来るんだ」

ナツ「(波音高校に向かう老人のことを見ながら)わ、分かった」


 老人は後ろ姿のまま、ナツに手を振る

 老人は一人、校門を潜り校舎の中へ入って行く

 ナツは波音高校を見ている

 波音高校の表札には、消えかかった字で波音高校と書かれている

 荷台の上にいるスズがナツの下着を見つける


スズ「(下着を手に取って)これか〜、なっちゃんの下着は〜」


 スズは近くに置いてあった数着の服を手に取り、下着を包み込む


スズ「(荷台の上から下着を包み込んだ数着の服をナツに見せて)なっちゃん、ブラとパンツあったよ」

ナツ「(波音高校を見るのをやめて)え?何?」

スズ「(荷台の上から下着を包み込んだ数着の服をナツの顔面に押し付けて)ブラとパンツ!!」

ナツ「(スズに下着を包み込んだ数着の服を顔面に押し付けられながら)やめろ鬱陶しい!」


 スズの手から強引に下着を包み込んだ数着の服を奪い取るナツ


ナツ「ふ、ふざけてないで早く行こうよスズ」

スズ「行くってどこに?」

ナツ「理科室に」

スズ「ふーん・・・(周囲を見て)あれ?なっちゃん、ジジイは?」

ナツ「し、知らないあんな奴」


◯751滅びかけた世界:波音高校第一理科室(夜)

 夜になっている

 一人理科室にいる老人

 老人は椅子に座っている

 理科室にある机と椅子は乱雑に並べられてあり、机には錆びた水道の蛇口と汚い流しが付属している

 教室の至るところに埃やゴミがある

 教室の後ろには大きな棚があり、棚の中にはフラスコ、ビーカー、ウサギやカエルなどのホルマリン漬け、蝶、カブトムシ、蜘蛛などの標本が置いてある

 棚の隣には人体模型が置いてある

 老人の目の前の机には、非常食の入った缶詰三個と水の入ったペットボトル一本が置いてある

 ペットボトルは2リットルサイズ

 缶詰のパッケージには、クッキーがデザインされている

 老人はボルトアクションライフルを肩にかけている

 老人の左腕には、チェックのマフラーが蝶々結びになって縛られてある

 チェックのマフラーには老人の血が染み渡っている

 少しすると理科室の扉が開く

 老人は素早く肩にかけていたライフルを手に持ち、扉の方へ向ける

 ナツとスズが理科室に入って来る

 スズはベレー帽を被っており、その上にサングラスを乗せている

 老人は扉の方へライフルを向けるのをやめる

 ナツとスズは老人が座っているところに向かう


老人「遅かったな」

ナツ「うん」

スズ「なっちゃんの嘘つき」

ナツ「え?」

スズ「ジジイがどこにいるのか知らないって言ってたじゃん!」

老人「そうなのか?」

スズ「うん!!なっちゃん嘘ついた!!」

ナツ「だ、だって・・・」

スズ「なっちゃん、嘘をつくとドロボーがやって来るんだよ」

老人「それを言うなら、嘘つきは泥棒の始まりだ」

スズ「ん?そうなの?」

老人「ああ」

スズ「やっぱ大人は頭が良いな〜」


 老人の向かいの椅子に座るスズ


ナツ「スズが馬鹿なんだよ」


 スズの隣の椅子に座るナツ


老人「(机の上に置いてあった缶詰二個をナツとスズの前にやって)そう言い争うな二人とも。まずは飯を食って、話はその後だ」

スズ「分かった!!」


 スズは素早く缶詰を手に取り、開ける

 勢いよく缶の中に入っていたクッキーを貪るスズ


ナツ「(クッキーを貪るスズを見て)スズ、急いで食べたら喉に詰まるよ」

スズ「(クッキーを貪りながら)ふぇーい」


 老人は2リットルのペットボトルをスズの前にやる

 スズはペットボトルのキャップを外し、水を一気に飲む


ナツ「(一気に水を飲むスズを見たまま)意地汚いな・・・」

老人「(一気に水を飲むスズを見ながら)欲とは汚いものさ。食欲ってのは生きるのに必要な感覚で、その感覚が正常に作動していれば、意地汚くなるのは当然だろう」


 老人は一気に水を飲むスズのことを見るのをやめて、缶詰を手に取る

 スズはペットボトルを机に置く

 缶を開ける老人

 ナツは老人の左腕にあるチェックのマフラーを見る


◯752Chapter6◯730の回想/滅びかけた世界:波音ショッピングモール内/一階(昼過ぎ)

 外は曇っている

 ショッピングモールの中にいるナツ、スズ、老人、青年1、青年2、青年3

 スズはベレー帽を被っており、その上にサングラスを乗せている

 ショッピングモールの中は薄暗く、荒れ果てている 

 ショッピングモールは六階建てて広く、たくさんの店が残っている

 ショッピングモールの中には壊れて動かなくなったエスカレーターが何台もある

 青年1は片手でハンドガンを構え、もう片方の手にはトランシーバーを持ってる

 老人は両手を上げている

 ナツとスズは老人の横に立っている

 青年2は老人のライフルを構えている

 青年3は青年1と同じようにハンドガンとトランシーバーを持っている


ナツ「(焦りながら)ま、待ってよ!!話し合いを・・・」

青年1「(ナツにハンドガンを向けてゆっくり数を数えながら)1・・・2・・・3・・・4・・・」


 老人は両手を上げるのをやめ、素早く青年1からハンドガンを奪い取り、ハンドガンで青年1の顔面を思いっきり殴る

 鼻血が飛び散り、よろめく青年1


青年1「(よろめきながら)クソ!!!こいつ!!!」


◯753回想戻り/滅びかけた世界:波音高校第一理科室(夜)

 理科室にいるナツ、スズ、老人

 ナツとスズは老人と向かい合って椅子に座っている

 理科室にある机と椅子は乱雑に並べられてあり、机には錆びた水道の蛇口と汚い流しが付属している

 教室の至るところに埃やゴミがある

 教室の後ろには大きな棚があり、棚の中にはフラスコ、ビーカー、ウサギやカエルなどのホルマリン漬け、蝶、カブトムシ、蜘蛛などの標本が置いてある

 棚の隣には人体模型が置いてある

 ナツと老人の目の前には、未開封の缶詰が置いてある

 スズの目の前には2リットルのペットボトルと、食べかけのクッキーが入った缶が置いてある

 缶詰のパッケージには、クッキーがデザインされている

 老人は肩にボルトアクションライフルをかけている

 老人の左腕には、チェックのマフラーが蝶々結びになって縛られてある

 チェックのマフラーには老人の血が染み渡っている

 スズはベレー帽を被っており、その上にサングラスを乗せている

 ナツは老人の左腕にあるチェックのマフラーを見ている


スズ「なっちゃん?」


 老人の左腕にあるチェックのマフラーを見るのをやめるナツ


ナツ「ん?」

スズ「ご飯、食べないの?」

ナツ「(首を横に振って)ううん」


 ナツは缶詰を手に取り、開ける


 時間経過


 食事を終えたナツ、スズ、老人

 机の上には空になった缶詰三個と、水の入ったペットボトルが置いてある

 ナツと老人は椅子に座っている

 スズは教室の後ろに置いてある人体模型を見ている


スズ「(人体模型を見ながら)君はあんまり人っぽくないな〜」


 指先で人体模型をツンツンと突くスズ


スズ「(指先で人体模型をツンツンと触りながら)それにちょっと硬過ぎだよ〜?今度私となっちゃんの体を触ってみ〜、ぷにぷにしてて気持ち良いから〜」


 ナツと老人は椅子に座って話をしている


ナツ「(教室内を見ながら)本当にこの教室で授業を行ってたのかな・・・」

老人「やってたさ」

ナツ「(教室内を見るのをやめて)何で分かるの?」

老人「俺は大昔に・・・この学校に通っていたからだ」

ナツ「(驚いて)こ、この学校って、波音高校に?」

老人「ああ」

ナツ「そっか・・・あんた、卒業生だからここに住んでるの?」


 少しの沈黙が流れる


老人「さあな・・・俺にもよく分からないんだ。自分がどうしてここにいるのか・・・」


 老人は軍服のポケットからスキットル風の水筒を取り出し、一口飲む

 老人はスキットル風の水筒をポケットにしまう


ナツ「学校生活って・・・楽しかった・・・?」

老人「ああ」

ナツ「そうなんだ・・・」

老人「毎日友達とつるんで、馬鹿みたいに部活をやってるだけだったからな」

ナツ「勉強は?」

老人「勉強なんてものは、クソでしか・・・」


 老人は口を閉じる


ナツ「どうしたの?」

老人「いや・・・何でもない。勉強も楽しかったよ」


 再び沈黙が流れる


ナツ「良いな・・・学校・・・」

老人「ナツは学校生活に憧れがあるのか?」

ナツ「憧れってほどじゃないけど・・・一度で良いから、学生になってみたかった」

老人「なるほどな・・・ナツはもう遅いと思っているんだろう?」

ナツ「遅いって?」

老人「今からじゃ学生にはなれない・・・こんな世界で学校には通えないと・・・そう考えているんじゃないのか?」

ナツ「うん・・・そうだよ・・・まず滅びかけた世界に学校なんて存在してないし・・・」


 深くため息を吐く老人

 老人はスズのことを見る

 スズは変わらず、人体模型に話しかけている


スズ「(人体模型を見ながら)ん〜・・・今日から君の名前は、裸丸肉男で良い〜?」

老人「(人体模型に話しかけているスズのことを見たまま)スズ、こっちにおいで」


 スズは人体模型に話しかけるのをやめて、ナツと老人のところにやって来る

 スズはナツの隣に座る


老人「俺が君たちの・・・失われた青春を一日かけて取り戻そう」


 顔を見合わせるナツとスズ


老人「スズ、青春を味わってみたいと思ったことはないか?」

スズ「青春ってなに?」

老人「青春ってのは・・・若者が愛し、年寄りが恋しむものだ。例えば・・・学校生活や、部活動のことだよ。味わいたいと思わないか?」


 少しの沈黙が流れる


スズ「さよならをしなくても良いなら・・・青春を味わってみたい!(ナツのことを見て)なっちゃんもそうだよね?」

ナツ「スズ、こんな世界に青春なんかないよ・・・奇跡と一緒で、言葉だけが存在してるんだ」

スズ「え〜、ないの〜?」

ナツ「うん」

老人「そう簡単に諦めてはならん、ナツ。今の時代、今の世界だからこそ、俺が君たちのために青春を用意することが出来るんだ」

ナツ「方法は?どうやって青春を作り出すの?」

老人「学校があるだろう?」

ナツ「学校?」

老人「ああ。俺たちがいるのは波音高校だ。この学校は、君たちのための、君たちだけの、素晴らしい空間を作り出すことが出来る。かつて俺が学生だった頃に経験したようにな」

スズ「学生になれるってこと?私となっちゃんが」

老人「そうだ。今日は遠足で、明日は学校さ。まさに君たちは立派な学生だな」

スズ「お〜、ジジイも立派な学生だったの〜?」

老人「いや・・・そもそも俺は、立派な人間ではない。(少し間を開けて)だが、青春くらいなら体験させてあげよう」


 再び沈黙が流れる


ナツ「(老人のことを見て)なんであんたは、そんなに私たちに尽くそうとするの?」

老人「俺は正しいことをして、君らの人生を豊かにしたいんだ」

スズ「(首を何度も縦に振りながら)うんうん、分かる分かる。人生間違いたくないし幸せでいたいもんね〜」

ナツ「(老人のことを見たまま 声 モノローグ)ジジイは私たちに優しくすることで、過去の自分と決別をしたがってるんだと思った」

ご無沙汰してます、ななです。

「向日葵が教えてくれる、波には背かないで」のChapter6がやっと書き終わりましたので、定期的にアップしていきたいと思います。尋常ではないくらい長いお話になってしまいましたが、最後まで楽しんで頂けると幸いです。


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