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Chapter6生徒会選挙編♯18 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・






老人の回想に登場する人物


中年期の老人 男子

兵士時代の老人。


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。


アイヴァン・ヴォリフスキー 男子

ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。


両手足が潰れたロシア兵 男子

重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


Chapter6生徒会選挙編♯18 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯691滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(日替わり/朝)

 曇り空

 教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある

 椅子や机、教室全体に小さなゴミが溜まっている

 教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている

 ナツとスズは、二体の遺体がもたれている壁とは別の壁にもたれて眠っている

 ナツの隣には20Years Diaryと、老人から貰ったロシア兵の双眼鏡が置いてある

 スズはサングラスをかけたまま眠っている

 スズの隣には拾った手鏡、同じく拾ったビー玉が置いてある

 扉にもたれてナツとスズのことを見ている老人

 老人は前日と同じような軍服を着ており、肩には空き缶を撃つのに使用した大きなライフルをかけている

 老人の目の前には非常食の入った缶詰二個と水の入ったペットボトルが置いてある

 ペットボトルは2リットルサイズ


老人「おはよう」


 老人の声に驚き飛び起きるナツ


ナツ「お、驚かすな馬鹿!!」

老人「すまない」


 スズはまだ眠っている

 スズの体を揺さぶるナツ


ナツ「(スズの体を揺さぶりながら)スズ、起きろ。朝だぞ」

スズ「(ナツに体を揺さぶられながら)ンー・・・」


 スズは寝ぼけながら両目を擦る

 ナツはスズの体を揺さぶるのをやめる


スズ「(両目を擦りながら)なっちゃん・・・ご飯は・・・?」


 老人は非常食の入った缶詰二個をナツに放り投げる

 二個の缶詰をキャッチするナツ


老人「飯だ、食っておけ」

ナツ「う、うん・・・」

 

 老人から貰った缶詰をよく見てみるナツ

 二個の缶詰のパッケージには、クッキーがデザインされている

 缶詰を開けてみるナツ


スズ「(飛び起き)ご飯だ!!!」


 スズはナツの手から缶詰を奪い取る

 老人は2リットルのペットボトルをナツとスズの方へ転がす


老人「水も忘れるな」


 転がってきたペットボトルを手で止め、大きなあくびをするナツ


◯692貴志家鳴海の自室(日替わり/朝)

 曇り空

 机の上には菜摘とのツーショット写真が飾られている

 ベッドで眠っている鳴海

 ベッドサイドのテーブルに置いてあった目覚まし時計が鳴り、目を覚ます鳴海

 目覚まし時計を止める鳴海

 時刻は朝の7時

 大きなあくびをする鳴海


◯693滅びかけた世界:道路(朝)

 曇っている

 道路を歩いているナツ、スズ、老人

 道路にはところどころにヒビ割れがあり、そこから雑草が生えたりしている

 道路の両脇には廃墟と化したたくさんのビルやお店が建っている

 道路には乗り捨てられた車、自転車、バイクがたくさんある

 スズはサングラスをかけている

 老人について行ってるナツとスズ

 老人は周囲を見ながら歩いている

 

ナツ「さっきからずっと歩いてるんだけど・・・ほんとに目的地なんかあるの?」

老人「ああ」

スズ「えんそくえんそく〜・・・どこかなどこかな〜」


 突然立ち止まる老人

 老人に合わせて立ち止まるナツとスズ


老人「この辺りで良いか・・・」

スズ「ジジイ、ここが面白いところ?」

老人「いや・・・(周囲を指差して)君たちの好きな車を教えてほしい」

スズ「好きな車とかない!!私が好きなのはご飯とご飯をくれる人だけ!!」

老人「ナツは?」

ナツ「乗れれば何でもいい」


 ため息を吐く老人


老人「この辺にあるやつで、乗りたい車を探してくれ。出来れば大きめのサイズでな」


 周囲を見るナツとスズ

 スズは近くにあったデリバリーなどで使用されている小さなバイクを指差す


スズ「(デリバリー用の小さなバイクを指差して)じゃああのでっかい自転車!!」

老人「(スズが指差しているデリバリー用の小さなバイクをチラッと見て)まずあれは自転車じゃない。それから選んで良いのは車だけだ」

スズ「え〜・・・なら歩くぅ〜・・・」


 少しの沈黙が流れる


老人「ナツとスズが選ばないなら、俺が適当に決めるぞ」

ナツ「待って」


 ナツは近くにあった荷台のある黒くて大きなピックアップトラック型の車を指差す

 ナツが指差しているピックアップトラック型の車を見る老人


老人「(ナツが指差しているピックアップトラック型の車を見ながら)あんなのが良いのか?」


 頷くナツ


老人「分かった。良いだろう」


 老人はピックアップトラック型の車があるところへ行く

 老人について行くナツとスズ


老人「まずは扉が開くかどうかだな・・・」


 老人は車の扉を引っ張る

 車の扉には鍵がかかっておらず、扉は老人が引っ張っただけで簡単に開く


老人「よし・・・」


 老人は肩にかけていたライフルを助手席に置き、扉を開けたまま運転席に乗り込む

 老人は車の中でエンジンや鍵などの確認をする

 車の鍵は挿しっぱなしになっている 

 老人は少しの間、車内で車の状態を調べている 

 少ししてから車から出て、車のルーフを見る老人


老人「(車のルーフを見ながら)高級電気自動車か・・・ついてるな、ナツ」

ナツ「どういう意味?」


 車のルーフを見るのをやめる老人


老人「この車の屋根にはソーラーパネルが取り付けられていて、飼い主がいなくても勝手に充電するんだ」

スズ「そおらあぱねるって何?ジジイ」

老人「太陽の光を吸収するSFまがいのアイテムだよ」

スズ「へ〜、よく分かんないや〜」


 スズは爪先立ちをして、車のルーフを見る


老人「とにかく、こいつはまだ動くはずだ」


 再び運転席に乗り込む老人

 車の電源を入れる老人

 大きくて黒いピックアップトラック型の車から、電気自動車とは思えないほどの爆音が鳴り響く


スズ「うっさい車だなぁ」

老人「そのうち慣れるかこいつが静かになるさ」


 再び沈黙が流れる


老人「さあ、君たちも好きなところに乗りなさい」

スズ「わーい!!」


 スズは走って荷台に向かう


ナツ「え、スズ、そんなところに乗るの・・・?」

スズ「うん!!いーよね!!ジジイ!!」

老人「構わないが落ちるなよ」

スズ「気を付ける〜!!」


 スズは荷台に乗る

 

スズ「(荷台の上からナツに手を差し出して)ほらほら、なっちゃんも!!」

ナツ「う、うん・・・」


 ナツはスズの手を取り荷台に乗る


老人「じゃあ出発するぞ」

スズ「あーい!」


 老人は車の扉を閉める

 車は大きな音を立てながら、進み始める


 時間経過


 ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている

 荷台から外を眺めているナツとスズ

 老人は運転をしている

 風でナツとスズの髪がなびいている

 ナツは双眼鏡を覗いている

 スズはサングラスをかけている

 建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている

 道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる

 車の音は静かになっている


スズ「(手を差し出して)なっちゃん、私にも見せて見せてー!」


 双眼鏡を覗くのをやめ、双眼鏡をスズに差し出すナツ

 双眼鏡を受け取り、サングラスをかけたまま双眼鏡を覗くスズ


スズ「(双眼鏡を覗きながら)お〜、やっぱり全部真っ黒だ〜」


 ナツは外を眺めている


ナツ「なんでこんな世界になっちゃったのかな・・・」

スズ「(双眼鏡を覗くのをやめて)んー?なんか言ったー?」

ナツ「なんでもない」

スズ「そうがんきょー、しばらく見ててもいーい?」

ナツ「うん、良いよ」


 ナツは運転している老人のことを見る

 助手席には、老人のライフルが置いてある

 少しの間、老人と老人のライフルのことを見ているナツ

 ナツは再び外を眺める

 スズは変わらず、サングラスをかけたまま双眼鏡を覗いている


ナツ「(声 モノローグ)滅びかけた世界へ・・・世界がこんなふうになってしまった訳を、私たちに教えて欲しい」


◯694貴志家洗面所(朝)

 ◯692と同日

 ◯692の続き

 洗面所の鏡を見て、身なりを整えている鳴海

 

ナツ「(声 モノローグ)人はどこへ消えたの?生き物たちの楽園だった地球に、一体何が起きたの?」


◯695滅びかけた世界:道路(朝)

 曇っている

 ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている

 荷台にいるナツとスズ

 老人は運転をしている

 老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある

 風でナツとスズの髪がなびいている

 ナツは外を眺めている

 スズはサングラスをかけたまま双眼鏡を覗いている

 建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている

 道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる

 

老人「(運転をしながら 声 モノローグ)死んだみんなへ・・・久しぶりに人と出会ったよ、二人組の女の子で・・・歳は18だと言っていたが・・・おそらく嘘だろうな・・・(少し間を開けて)女の子の一人は・・・明るくて好奇心の強い子だ。いつもお腹を空かせてるから、飢餓を経験してるのかもしれない」


◯696早乙女家菜摘の自室(朝)

 ◯692、◯694と同日

 外は曇っている

 部屋にある大きな鏡で、全身のコーデを見ている菜摘


老人「(声 モノローグ)もう一人は・・・(少し間を開けて)きつい性格で・・・少し七海に似てるよ」


◯697滅びかけた世界:道路(朝)

 曇っている

 ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている

 荷台にいるナツとスズ

 老人は運転をしている

 老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある

 風でナツとスズの髪がなびいている

 ナツは外を眺めている

 スズはサングラスをかけたまま双眼鏡を覗いている

 建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている

 道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる

 

ナツ「(声 モノローグ)こんな世界で生きなきゃならない私たちは何なんだろう」


◯698早乙女家菜摘の自室(朝)

 ◯692、◯694、◯696と同日

 ◯696の続き

 外は曇っている

 部屋にある大きな鏡で、全身のコーデを見ている菜摘


ナツ「(声 モノローグ)ジジイを見ていると、未来への不安で憂鬱になる。私はあんなふうに歳を取りたくない。抜け殻みたいな世界で、掃除だけを生き甲斐にするなんて嫌だ」


 菜摘は突然咳き込み、その場でしゃがみ込む

 菜摘は両手で口を押さえる


ナツ「(声 モノローグ)彼の人生を知る由もないけど、彼が愛する者を失ってそれでもなお、一人で生き続けているのは少し気の毒に思う。あいつは私とスズより運の悪い被害者なのかもしれない」


 少しすると菜摘の咳は止まる

 菜摘は両手を見る

 菜摘の両手にはたくさんの血がついている


ナツ「(声 モノローグ)もし私がスズを失ったら、こんな世界では生きていけないだろう」


◯699緋空寺/境内(500年前/昼)

 ◯620の続き 

 曇っている

 緋空寺境内にいる波音、少年、少年の母親、数人の住職たち

 少年は波音に作ってもらった風車を持って、走り回っている

 風車はクルクルと回っている

 波音と少年の母親は、走る回る少年を見ている

 住職たちは箒を使って境内の掃除をしている

 突然波音が咳き込み、その場で膝をつく

 波音は装束の袖で口を押さえる

 少年の母親が波音を心配し、波音に声をかける


少年の母親「な、波音様!!

波音「(咳き込みながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・し、心配要らぬ・・・この程度・・・」


 少年は走るのをやめる

 少年は波音のことを見ている

 少年の持っていた風車は回らなくなる

 近くにいた住職たちが波音に駆け寄る

 少しすると波音の咳が止まる

 ゆっくり立ち上がる波音

 波音は装束の袖で口元を隠している


波音「(装束の袖で口元を隠しながら)す、すまぬが今日はもう休ませてもらうぞ・・・」

少年の母親「(頭を下げ心配そうに)波音様・・・心よりご回復を祈っております・・・」

波音「(装束の袖で口元を隠したまま)ああ・・・」


 近くにいた住職に小声で何かを伝えその場を立ち去る波音

 波音はバレないように、装束の袖をチラッと見る

 装束の袖にはたくさん血がついている

 波音は再び装束の袖で口元を隠す


波音「(装束の袖で口元を隠したまま 声 モノローグ)奈緒衛、凛よ・・・この身にも限界が来ておるようだ。体は日に日に細くなり、力も以前とは比べられぬほど衰えておる。やはり妖術を酷使し過ぎたかもしれぬな・・・・魂と手記にかけた妖術だけで、我が身にかかる負荷はかなりのものになっておろうが、そなたらのことを思えば、体の犠牲など容易い交換条件であるよ。(少し間を開けて)妖術をしくじっていないか心配だが・・・今は成功を期待するしかあるまい」


◯700緋空寺/波音の部屋(500年前/昼過ぎ)

 外は曇っている

 波音が使っていた刀や装束が部屋の隅に置いてある

 机の上には書きかけの波音の手記、後の波音物語となる和紙が置いてある

 畳に敷かれた布団の上で横になっている波音

 咳き込む波音


波音「(咳き込みながら 声 モノローグ)私の手記を読めば、過去に囚われた魂が解放され、再び交流出来るようになるであろう。転生した身ではなく、白瀬波音として・・・そなたら二人と再会するのだ。(少し間を開けて)それまでは輪廻を繰り返し、我が魂にこびりついた汚れを取らねばな・・・私の生まれ変わりが、私の罪を背負って短命になるのはあまりに不憫なことだ。願わくば、輪廻転生したお主らとも、関わりを持ちたいが、短命である以上、苦痛も少なくはない・・・その者たちのためにも、別れが訪れないようにせねばならんな・・・」


◯701滅びかけた世界:道路(朝)

 曇っている

 ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている

 荷台にいるナツとスズ

 老人は運転をしている

 老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある

 風でナツとスズの髪がなびいている

 ナツは外を眺めている

 スズはサングラスをかけたまま双眼鏡を覗いている

 建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている

 道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる


老人「(運転をしながら 声 モノローグ)昔と違って一人でいる時よりも、他人と一緒にいる方が孤独を感じるようになったよ。ナツとスズがいても、心の距離は狭まるどころか広がる一方だ・・・(少し間を開けて)それも俺が受けなきゃならない罰なんだろう。みんなが経験した悲しみや、絶望・・・怒りに比べれば・・・俺の苦痛なんて可愛いものだ」


 ナツとスズは変わらず外を眺めている

 スズは変わらずサングラスをかけたまま、双眼鏡を覗いている


ナツ「(声 モノローグ)昔は、世界が私たちを包み込んでるって思ってた。漠然と・・・そんな気がしてた。でも実際は、スズと旅を続けて分かったけど、私たちのことを包み込む世界が、孤独に包まれてる」


◯702緋空寺/波音の部屋(500年前/昼過ぎ)

 ◯700の続き

 外は曇っている

 波音が使っていた刀や装束が部屋の隅に置いてある

 机の上には書きかけの波音の手記、後の波音物語となる和紙が置いてある

 畳に敷かれた布団の上で横になっている波音

 咳き込んでいる波音

 

ナツ「(声 モノローグ)夢も希望もない世界にあるのは孤独、愛する者を失った後に残るのも孤独、私たちの人生の行き着く先にあるのも孤独だけなんだ・・・(少し間を開けて)死ぬまでに残された果てしない時間と、世界に溢れかえった孤独を、私たちはどう対処すれば良いんだろう」


◯703一条家リビング(朝)

 ◯692、◯694、◯696、◯698と同日

 外は曇っている

 リビングは和風で広く、床の半分以上が畳で出来ている

 照明は旅館にあるような和紙が巻いてあるペンダントライトと、同じく和紙が巻いてあるフロアランプの二種類

 テーブルの上には焼き立ての食パン、目玉焼き、ベーコンなどが置いてある

 朝食を取っている雪音と智秋


ナツ「(声 モノローグ)ジジイのように、幸せな生活と孤独な時間の両方を知ってる方が良いのか、私やスズのように、生まれた時にはもう何もかも手遅れで、普通を知らずに育つ方が良いのか・・・・」


 突然咳き込む智秋

 雪音は心配そうに智秋の背中をさする


ナツ「(声 モノローグ)悲しいけど、幸せを知らない方が幸せなのかもしれない。人生なんて、どうせそんなものなんだ」


◯704滅びかけた世界:波児商店街(朝)

 曇っている

 ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている

 荷台にいるナツとスズ

 老人は運転をしている

 老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある

 風でナツとスズの髪がなびいている

 ナツは外を眺めている

 スズはサングラスをかけたまま双眼鏡を覗いている

 道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる

 建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている

 少しすると車は古い商店街の中を通り始める

 車が通っているのは波児商店街の中

 波児商店街の中は薄暗い

 波児商店街の中のお店はシャッターが降りているか、荒らされているかのどちらか

 

老人「(運転をしながら 声 モノローグ)波音が築き、菜摘が愛し、七海を育ててくれた町は、もうどこにも存在していないのだろう」


 車は、ゲームセンターギャラクシーフィールドの目の前を通る

 老人は運転をしながら、チラッとギャラクシーフィールドの方を見る

 ギャラクシーフィールドはシャッターが降りておらず、店内にあった旧式のゲーム機たちは全て破壊されている

 ギャラクシーフィールドの埃だらけの床に、かつて千春が配っていたビラらしき紙が落ちている

 かつて千春が配っていたビラらしき紙は、ビリビリに引き裂かれている

 ギャラクシーフィールドの看板は崩れ落ちており、ロシア語で落書きがされている


老人「(運転をしながら 声 モノローグ)同時に俺も死んだよ。愛する者が一人いなくなるごとに、俺は少しずつ死んでいったんだ」


◯705波児商店街/ゲームセンターギャラクシーフィールドの近く(朝)

 ◯692、◯694、◯696、◯698、◯703と同日

 曇っている

 波児商店街の中にいる嶺二

 波児商店街の中は人が多い

 波児商店街の中には新しいお店がたくさんある

 主婦や学生など、たくさんの人が商店街の中を通っている

 嶺二がゲームセンターギャラクシーフィールドの近くで、店内の様子を見ている

 ギャラクシーフィールドは大きくて派手な看板が出ている

 ギャラクシーフィールドの中は賑わっており、レトロなゲーム機をプレイしている人がたくさんいる

 ギャラクシーフィールドの客層は小さい子から大人まで様々

 故障中のゲームはなく全て起動している

 ギャラクシーフィールドの店主、有馬勇が小さい子供と楽しそうに話をしている

 ギャラクシーフィールドの壁にはかつて千春が配っていたビラが貼られている


老人「(声 モノローグ)昔の俺は、まだ本当の意味での孤独を知らなかった。大切な人が死んでも、あの頃は苦しみや怒りを共有してくれる仲間がいたんだ。(少し間を開けて)みんなのことを愛していたし、みんなから愛されていたよ・・・死んだ貴志鳴海は幸せな男だった」


◯706滅びかけた世界:波児商店街(朝)

 曇っている

 ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている

 荷台にいるナツとスズ

 老人は運転をしている

 老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある

 風でナツとスズの髪がなびいている

 ナツは外を眺めている

 スズはサングラスをかけたまま双眼鏡を覗いている

 道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる

 車は波児商店街の中を通っている

 波児商店街の中は薄暗い

 波児商店街の中のお店はシャッターが降りているか、荒らされているかのどちらか


スズ「(双眼鏡を覗きながら)凄いなぁ〜、昔はお店がいっぱいあったのかなぁ〜・・・」

ナツ「スズ、楽しい?」

スズ「(双眼鏡を覗くのをやめて)うん!!楽しい!!」

ナツ「スズって、楽しくないことあるの?」

スズ「んー・・・ない!!」

ナツ「嫌な気持ちになったりすることもあるよね?」

スズ「あるよー、生きてるんだもーん」

ナツ「でも楽しくないことはないんでしょ?」

スズ「うん!」


 少し沈黙が流れる


ナツ「どうやったらスズみたいに・・・楽しくなれるんだろ・・・」

スズ「(サングラスを頭にかけて)なっちゃんは生きてるのが楽しくないの?」

ナツ「生きてることに、楽しいとか楽しくないとか考えたことない・・・」

スズ「そうなんだ〜。私は生きてるのが楽しいし、楽しいから生きてるのかなぁ〜?」

ナツ「じゃあスズは楽しいことがなくなったらどうするの?」


 考え込むスズ


スズ「楽しいことを探す!!だってね、楽しいことがあったら生きていけるし、生きていけるってことは美味しいもんが食えるし、美味しいもんを食うのは楽しいことだし、美味しいもんを食えば生きていけるし・・・」

ナツ「スズは良いな・・・楽しいことがすぐ見つかってさ」

スズ「なっちゃんの楽しいことも探そー!!私とジジイが一緒に探してあげる!!」


 再び沈黙が流れる


ナツ「スズ」

スズ「ん?」

ナツ「ありがと」

スズ「おー!」


◯707波音駅の前(昼前)

 ◯692、◯694、◯696、◯698、◯703、◯705と同日

 ◯694、◯698の続き

 曇っている

 学生、カップル、家族連れなどで溢れている波音駅

 鳴海は波音駅の改札近くで菜摘を待っている

 腕時計を見て時間を確認する鳴海

 時刻は11時前

 少しすると菜摘が手を振りながら走ってやって来る

 鳴海の前で立ち止まる菜摘

 息切れをしている菜摘


菜摘「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・ご、ごめんね遅れて・・・」

鳴海「11時集合だろ?」

菜摘「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・うん・・・」


 呼吸を整える菜摘


鳴海「菜摘、まだ11時前だぞ」

菜摘「そ、そうだけど・・・結果として鳴海くんを待たせちゃったから・・・」

鳴海「それは集合時間よりも早く来た俺が悪い」

菜摘「えー、集合時間より早く来るのって普通のことだよ」

鳴海「俺の周りだと、その普通が通じないんだ」

菜摘「嶺二くんのこと?」

鳴海「よく分かったな、天才だ菜摘は」

菜摘「鳴海くんの言う天才って、深みがまるでないよね。私、言われても全然嬉しくないもん」

鳴海「じゃあ鬼才で」

菜摘「もっと嬉しくないよ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「さてと、行きますか」

菜摘「う、うん・・・少しだけ納得してないけど行こっか・・・」


 鳴海と菜摘は改札を通り、ホームの中へ入る

 駅内には人がたくさんいる

 ホームに行く鳴海と菜摘


鳴海「まだ出来立てのショッピングモールなんだろ?」

菜摘「うん、オープンしたのが先週末」

鳴海「真新しいってことか・・・」

菜摘「そうだね」


 ホームで電車を待っている鳴海と菜摘

 ホーム内には電車を待っている人がたくさんいる


鳴海「波音駅の近くって聞いてたけど・・・まさかの五駅も先だとはな・・・」

菜摘「五駅なら波音駅の近くだよ」

鳴海「でも歩いて行けねえだろ」

菜摘「鳴海くん、今から歩いて行けるか試してみない?」

鳴海「もう改札を通っちまったんだぞ」

菜摘「今のは冗談だよ、鳴海くん」

鳴海「冗談だったのか・・・」

菜摘「うん!」

鳴海「今日のツッコミ予報は、不発時々成功だ」

菜摘「天気予報かい」

鳴海「ナイスツッコミ」

菜摘「私も鳴海くんと嶺二くんにかなり鍛えられたからね」

鳴海「確かにそうだな」


 鳴海と菜摘は話を続ける

 菜摘が楽しそうに笑っている


鳴海「(菜摘と話をしながら 声 モノローグ)父さん、母さん・・・菜摘から笑顔を奪わないでくれ・・・俺は・・・菜摘の笑顔だけは守らなきゃならねえんだ・・・」


◯708滅びかけた世界:波児商店街(朝)

 曇っている

 ナツ、スズ、老人が乗っている車がどこかに向かっている

 荷台にいるナツとスズ

 老人は運転をしている

 老人の隣の助手席には老人のライフルが置いてある

 風でナツとスズの髪がなびいている

 荷台には老人から貰った双眼鏡が置いてある

 道路はガタガタで、時々車が大きく揺れる

 車は波児商店街の中を通っている

 波児商店街の中は薄暗い

 波児商店街の中のお店はシャッターが降りているか、荒らされているかのどちらか

 少しすると車は波児商店街を抜け、外の道に出る

 外の建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている

 ナツとスズは話をしている


鳴海「(声 モノローグ)俺、二人を失ってから気づいたんだよ。人の死が怖いってことに・・・(少し間を開けて)菜摘から何かを奪うんだったら、俺の体から盗ってくれ。二人には俺の体を貸すから・・・頼むよ・・・」

老人「(運転をしながら 声 モノローグ)死んだみんなに聞いたり頼んだりしたって、返事がないことくらいとっくに気付いているが、もはや問い続けることが俺の人生の生き甲斐になっているんだろう」


◯709波音ショッピングモール前(昼前)

 ◯692、◯694、◯696、◯698、◯703、◯705、◯707と同日

 ◯707の続き

 曇っている

 新しくオープンした波音ショッピングモールにたくさんの人が向かっている

 鳴海と菜摘も波音ショッピングモールに向かっている

 ショッピングモールは大きく、中も人で溢れている

 ショッピングモールの前には広い駐車場があり、駐車スペースに空きはない

 ショッピングモールの扉近くではスタッフがお店のチラシを配っている


菜摘「(波音ショッピングモールを見ながら)うわぁ、さすがに新オープンなだけあって大きいね」

鳴海「(波音ショッピングモールを見ながら)そうだな」


◯710滅びかけた世界:波音ショッピングモール前(昼前)

 曇っている

 ◯709に登場したショッピングモールと同じショッピングモールの前で、適当に車を駐車する老人

 ナツとスズは荷台の上から周囲を見る

 荷台の上には老人から貰った双眼鏡が置いてある

 スズは頭にサングラスをかけている

 ショッピングモールは建物そのものが損壊している

 ショッピングモールの周囲には放置された車が何台も置いてある


スズ「(周囲を見ながら)着いたのかな?」

ナツ「(周囲を見ながら)さあ・・・」


 ライフルを持って車から降りる老人

 荷台から飛び降りるスズ

 地上からナツに手を差し出すスズ 

 スズの手を受け取り、ゆっくり荷台から降りるナツ


老人「(ショッピングモールを指差して)ここが目的地だ」

ナツ「ただの廃墟じゃん」

老人「見た目はボロいが、中はまだいけるぞ」

スズ「ねージジイ、あの中、何があるの?」

老人「入ったら分かるさ」


 老人はショッピングモールに向かって歩き始める

 老人について行くナツとスズ

 壊れたドアからショッピングモールの中に入るナツ、スズ、老人

 ショッピングモールの中は薄暗く、荒れ果てている 

 ショッピングモールは六階建てて広く、たくさんの店が残っている

 ショッピングモールのエントランスで立ち止まって周囲を見ているナツとスズ

 エントランスの近くには動かなくなったエスカレーターが何台もある

Chapter6の真ん中にあたる、生徒会選挙編も次回でラストです。

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