Chapter6生徒会選挙編♯15 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
老人の回想に登場する人物
中年期の老人 男子
兵士時代の老人。
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
アイヴァン・ヴォリフスキー 男子
ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。
両手足が潰れたロシア兵 男子
重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
Chapter6生徒会選挙編♯15 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯647波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
校庭では運動部が活動している
部室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、作詞作曲に使う機材が置いてある
部室にいる鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
円の形に椅子を並べて座っている一同
菜摘「生徒会選挙は今週末だし、それぞれ今の活動状況について一旦報告をしようか」
鳴海「ああ」
菜摘「まず私と汐莉ちゃんは、今一曲目を制作してるところ」
顔を見合わせる菜摘と汐莉以外のメンバー
嶺二「そんで・・・?」
菜摘「ん?」
嶺二「一曲目を作って・・・それでどーなった?」
菜摘「えっとー・・・まだ一曲目も完成してないんだけど・・・」
嶺二「あー・・・そんな遅いペースでいーのか?」
汐莉「嶺二先輩、これでも予定より早い進みなんですよ」
嶺二「もっと早くてもいーだろ」
汐莉「クオリティを保つには、かける時間が大切なんです。これ以上作業ペースを早めたところで、作品の質が下がるだけですよ」
少しの沈黙が流れる
真彩「曲作んのって手間も時間も必要っすからねー・・・」
詩穂「ギリギリまで楽曲の完成度を高めてもらった方が、私たち的にも良いかもです」
鳴海「そうは言っても、ライブの練習は避けられないぞ」
詩穂「雑な作りの曲じゃ、練習にもならないんですよ。まずはまともな楽曲がないと」
再び沈黙が流れる
汐莉「まあ、時間は何とかしますよ。(菜摘のことを見て)ね?菜摘先輩」
菜摘「(頷き)うん」
嶺二「一応曲作りは順調ってことか・・・(響紀と雪音のことを見て)俺たちも予定通りだよな?」
響紀「はい」
雪音「報告することは特に無しで」
鳴海「何からしらはあるだろ」
響紀「明日香ちゃんが推薦文を書いてくれました」
菜摘「(驚いて)えっ!?明日香ちゃんが!?」
響紀「そうです」
鳴海「ま、マジかよ・・・やるな響紀・・・」
響紀「褒めるなら私ではなく明日香ちゃんをお願いします」
鳴海「あ、ああ・・・」
汐莉「(小声でボソッと)推薦文を書くんだったら、早く文芸部に戻って来いよ・・・」
嶺二「明日香は俺らと違ってイメージも悪くねーし、間違いなく選挙を有利に進めるぜ」
菜摘「そ、そうだね!!」
詩穂「他の立候補者たちはどうなったんですか?」
雪音「男子は死んだも同然。女子がまだ何人かいるけど、相手にするほどじゃない」
嶺二「そーそー。もはや白星は手の中ってわけだ」
真彩「あのー、れーじ先輩?」
嶺二「ん?」
真彩「先輩、渡しちゃいけない物を使ってませんよね?」
少しの沈黙が流れる
菜摘「真彩ちゃん、渡しちゃいけない物って何?」
真彩「ちょっとした噂なんですけど・・・先輩がお金を・・・」
鳴海「(驚いて)か、金!?」
真彩「はい・・・」
◯648◯578の回想/波音高校一年生廊下(放課後/夕方)
嶺二が一年生の男子生徒と廊下で喋っている
少しすると一年三組の教室から鳴海が出て来る
深くため息を吐き、体を伸ばす鳴海
嶺二がいることに気づく鳴海
嶺二は一年男子生徒に、何かを手渡す
一年男子生徒は頷き、制服の内ポケットに貰った物をしまう
鳴海は不思議そうに嶺二と一年男子生徒のことを見ている
◯649波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
校庭では運動部が活動している
部室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、作詞作曲に使う機材が置いてある
部室で話をしている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
円の形に椅子を並べて座っている一同
鳴海「(大きな声で)お、お前あの時金を渡してたのかよ!?!?」
嶺二「渡すわけねーだろ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん、あの時っていつ?」
鳴海「数日前のことだ・・・俺が一年生の教室から出たら、廊下で嶺二が男子生徒と喋っててさ、その時に何か渡すのを見たんだよ」
再び沈黙が流れる
菜摘「(嶺二のことを見たまま)嶺二くん・・・選挙活動の買収行為は校則違反どころじゃすま・・・」
嶺二「(菜摘の話を遮って)待てよ菜摘ちゃん、俺の話を聞かずに金を渡してたって決めつけるのか?」
菜摘「だって・・・真彩ちゃんが・・・」
真彩「(慌てて)じ、自分は噂を聞いただけっす!!ま、マジで嶺二先輩からお金を貰った人は知りませんよ!!」
汐莉「まあやん、その噂嘘じゃないの?」
真彩「そ、そーかもしれない・・・つか多分嘘・・・」
嶺二「前に鳴海にも説明したが、俺が渡してるのは選挙の公約みたいなもんで、金の価値は全くないぞ」
響紀「公約って何ですか?」
嶺二「え・・・いや・・・そ、その・・・やらなきゃいけないことのリストみたいな・・・」
汐莉「響紀はその公約の内容、知らないの?」
響紀「知らない」
詩穂「そもそも響紀くんの中に公約なんかあるんだっけ?」
響紀「明日香ちゃんと付き合うこと以外に?」
詩穂「うん」
響紀「ない」
雪音以外の全員が嶺二のことを見ている
鳴海「(嶺二のことを見ながら)怪しくなってきたな」
汐莉「(嶺二のことを見ながら)そうですね」
菜摘「(嶺二のことを見ながら)買収が事実なら、文芸部は活動停止になっちゃうよ・・・」
嶺二「(慌てて大きな声で)だ、だから俺は買収なんかしてねえんだって!!!」
鳴海「(嶺二のことを睨みながら)じゃあ公約の内容を言ってみろよ」
嶺二「そ、それは・・・」
俯く嶺二
雪音「1、全ての学生が、性別や障害に囚われず、充実した学校生活を送れるようにする」
全員が一斉に雪音のことを見る
雪音「2、部活動の差を無くす。文化部や、少人数のサークルにも活躍の場を設ける。3、学力向上。学年ごとに成績をリストアップし、模試の結果を他校と比較する。最終目的は、波音高校全体の得意不得意を明確にさせること。4、学校行事の見直し。体育祭、学園祭、宿泊行事などのイベントを改め、学生たちが楽しんで参加出来るように、良きところを残したまま変革を行う。5、地域と連携した教育活動。具体的には、職場体験など。学校にとっても、地域にとっても、WinWinの関係を維持出来る・・・」
鳴海「(雪音の話を遮って)こ、公約はもう良い」
雪音「問題ないでしょ?」
鳴海「いや、問題大ありだ。なんでお前たちだけが公約を知ってるんだよ」
雪音「私と嶺二が考えた、私たちだけの公約だから。(嶺二のことを見て)そうだよね、嶺二」
嶺二「お、おう。ひ、響紀ちゃんには言ってなかったんだ」
菜摘「どうして響紀ちゃんには言ってなかったの?」
嶺二「お、俺たちは別々に選挙活動をしてて・・・」
雪音「そう、当事者とその他チーム。響紀は伸び伸びやった方が良いでしょ?だから私と嶺二は、響紀とは別で選挙活動をしてたの」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(残念そうに)それじゃあ三人を同じ班にした意味がないよ・・・」
嶺二「ご、ごめんよ菜摘ちゃん、でもこうした方がやりやすかったんだ。失敗はするわけにはいかねーし、菜摘ちゃんたちにわざわざ説明する時間も無くてさ」
菜摘「うん・・・」
汐莉「嶺二先輩、本当に、選挙活動は順調なんですか」
嶺二「(頷き)ああ」
鳴海「お前たちのことを信じて良いんだよな」
嶺二「とーぜんだろ」
鳴海「分かった・・・」
再び沈黙が流れる
嶺二「そんじゃー次は明日香の話だな。頼むぜ響紀ちゃん」
響紀「はい。明日香ちゃんは、今日も元気で可愛かったです」
詩穂「元気なら良いね」
真彩「うんうん、元気が一番」
鳴海「おい」
詩穂・真彩「何ですか?」
鳴海「あいつは基本的にいつも元気なんだよ」
嶺二「風邪引いてるの見たことねーしな」
菜摘「明日香ちゃん最強説、あるよね!!」
嶺二「いや、明日香バケモン説の間違いだろ」
汐莉「先輩たち、本人がいないからって好き放題言う癖直したらどうですか」
少しの沈黙が流れる
菜摘「ねえ響紀ちゃん・・・明日香ちゃんが元気で可愛いってこと以外の情報・・・なんかない・・・?」
考え込む響紀
響紀「顔を赤くして、少し汗をかいてました」
菜摘「そっか・・・(少し間を開けて)明日香ちゃんが元気ならそれで良いや・・・」
鳴海「お前、昼休みは明日香と過ごしてるんだよな?」
響紀「はい。あと私の名前はお前ではなく、三枝響紀です」
鳴海「こんなこと俺が偉そうに言うのも変だけど、明日香の件はお前頼りなんだぞ」
響紀「分かってます。あとさっきも言いましたが、私の名前はお前ではなく、三枝響・・・」
鳴海「(響紀の話を遮って)良いから黙って俺の話を聞け。明日香が文芸部に戻って来るのかそうじゃないのかどっちなんだ」
響紀「まだ戻って来ません」
菜摘「いつ頃文芸部に復帰すると思う?」
響紀「もうすぐですよ先輩。もうすぐ」
鳴海「もうすぐって一体いつなんだよ」
響紀「それを知ってるのは明日香ちゃんだけです」
舌打ちをする鳴海
鳴海が何かを言おうとするが、汐莉が鳴海の制服の袖を引っ張り止める
菜摘が汐莉と鳴海のことを見ている
嶺二「響紀ちゃんがもうすぐって言ってるんだから、その言葉を信じて待とうぜ。鳴海」
鳴海「(イライラしながら)分かったよ・・・」
雪音「鳴海たちは?」
鳴海「(イライラしながら)俺たちがなんだ」
雪音「部員は集まったの?」
鳴海「(イライラしながら)見りゃあ分かるだろ」
再び沈黙が流れる
鳴海「(小声でボソッと)一人も集まってねえよ・・・」
詩穂「五人集めるのにはかなり時間がかかりそうです・・・」
真彩「あれ、私たちが集めなきゃいけないのは四人じゃなかった?五人は汐莉を合わせた人数じゃね?」
詩穂「あーそうだったかも」
頭を抱える鳴海
鳴海「(頭を抱えながら小さな声で)このままじゃダメだ・・・文芸部が潰れちまう・・・何とかしねえと・・・」
◯650南家に向かう道中(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
汐莉の家に向かっている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
部活帰りの学生がたくさんいる
先頭を歩いている鳴海、汐莉、菜摘
鳴海たちの後ろを歩いている嶺二と雪音
話をしている鳴海、菜摘、汐莉
汐莉「いよいよ生徒会選挙ですね」
鳴海「そうだな・・・明明後日に俺たちの全てがかかってるんだ・・・」
菜摘「明明後日?」
鳴海「明明後日だろ。生徒会選挙は」
菜摘「え、明後日だよ。鳴海くん」
少しの沈黙が流れる
汐莉「先輩、ちゃんとスケジュールを確認してませんね」
鳴海「いや・・・プリントには目を通してるはずだ・・・」
鳴海はカバンを開け、スケジュールの詳細が書かれているプリントを探す
鳴海のカバンの中は授業のプリント、教材、パソコン、マウス、パソコンに必要なケーブルなどがグチャグチャに入っていて散らかっている
汐莉「(鳴海のカバンの中を覗きながら)家は綺麗だったのに、カバンの中は汚いんだ」
鳴海「(カバンの中を漁りながら)うるせえ」
菜摘「(鳴海のカバンの中を覗きながら)鳴海くん、整理整頓くらいしなよ」
鳴海「(カバンの中を漁ったまま)これでも片付けてるんだけどな」
菜摘「(鳴海のカバンの中を覗いたまま)じゃあどうしてそんなに散らかってるの?」
鳴海「(カバンの中を漁ったまま)分からん。スフィンクスと一緒で、この世には解き明かされてない謎がたくさんあるだろ。このカバンもその一つだ」
汐莉「(鳴海のカバンの中を覗いたまま)先輩のカバンに、スフィンクスくらいの価値があれば良いんですけどね〜」
菜摘「(鳴海のカバンの中を覗いたまま)ほんとだよ」
少しの間鳴海はカバンの中を漁り続けるが、どれだけ探してもプリントは見つからない
鳴海はカバンを漁るのをやめる
鳴海「ま、まあ・・・明後日も明明後日も・・・同じようなもんだよな・・・うん・・・」
菜摘と汐莉が呆れて鳴海のことを見ている
鳴海たちの後ろでは嶺二と雪音が話をしながら歩いている
雪音「さっきのお礼、待ってるからね」
嶺二「んだよ?さっきのお礼って」
雪音が嶺二に耳打ちをする
嶺二「感謝を力技でもぎ取ろうとする奴に、俺からしてやれることは何もねーな」
雪音「(小声で)嶺二が何を渡していたのか、みんなにバラしても良いんだ?」
嶺二「(小声で)雪音ちゃんが言わなくてもどーせいつかバレることだろ」
雪音「ふーん・・・親友を裏切るんだね」
雪音はチラッと前にいた鳴海のことを見る
嶺二「俺と鳴海はちげーんだよ。朗読劇にかけてる想いが」
雪音「(小声でボソッと)かっこつけやがって・・・ほんとは私にもかけてるくせに・・・」
◯651南家玄関(放課後/夕方)
玄関に上がる鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
雪音の家と比べるとかなり小さめの玄関
汐莉「(靴を脱いで)上がってください」
菜摘「汐莉ちゃんのご両親は?」
汐莉「うちは共働きなんです。だから今は家にいません」
◯652南家リビング(夜)
夜になっている
玄関同様、雪音の家と比べると小さめなリビング
それぞれ部誌制作を行っている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
パソコンと向かい合ってタイピングをしている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
順調に部誌制作を進めている一同
リビングにあるCDプレーヤーからサイモン&ガーファンクルのコンドルは飛んで行くが流れている
少しするとコンドルは飛んで行くが流れ終わり、CDプレーヤーの動きが止まる
タイピングをやめる嶺二
嶺二「飯どーする?」
鳴海「(タイピングをしながら)お前の集中力、ほんとゴミだよな」
嶺二「腹が減ってんだよ俺は」
鳴海「(タイピングをしながら)パソコンでも食ってろ」
立ち上がる嶺二
鳴海のところに行く嶺二
嶺二は後ろから勢いよく、鳴海の後頭部を殴る
鳴海「(タイピングをやめて怒りながら)いってえな!!!」
嶺二「鳴海、飯にしよう。飯」
鳴海「(怒りながら)飯なんかどうでも良いだろ!!!」
少し沈黙が流れる
汐莉「(タイピングをやめて)晩御飯、どうしましょうか?」
嶺二「そーだなー・・・」
菜摘「(タイピングをやめて)どっか買い出しに行く?」
嶺二「おー!!スーパーで食材を爆買いするか!!」
タイピングをやめて立ち上がる雪音
雪音のことを見る鳴海
雪音「何こっち見てんの?」
鳴海「いや・・・お前らどんだけ飯食いてえんだと思って・・・」
立ち上がる汐莉
汐莉「食べなきゃ死にますよ、先輩」
立ち上がる菜摘
菜摘「鳴海くん!!ちょっとは力を蓄えなきゃ!!」
鳴海「力って・・・ただ文章を書くだけぞ・・・」
嶺二「今こそ貴志鳴海巨大化プロジェクトを始動させる時だな・・・」
菜摘「(頷き)そうだね!!」
鳴海「な、なんだよ、貴志鳴海巨大化プロジェクトって・・・」
◯653スーパー(夜)
大きなスーパーにいる鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
カートのカゴの中には山のように食材が入っている
食材は野菜、肉、お惣菜、お菓子、ジュースなど様々
カートを押してるのは鳴海
鳴海はお惣菜コーナーで立ち止まって、カートのカゴをドン引きしながら見ている
鳴海以外のメンバーは、それぞれ好きなコーナーで食材を選んでいる
スーパーの中には仕事の帰りのサラリーマンやOL、主婦などが数人いる
鳴海「(カートのカゴを見ながらドン引きして)か、買い過ぎだろ・・・お前ら・・・」
菜摘はお惣菜コーナーにあったエビフライを手に取る
エビフライの入ったパックには半額シールが貼られている
菜摘「(エビフライを持ったまま片方の手を振って大きな声で)おーい!!嶺二くん!!エビフライが半額だよー!!」
菜摘の近くにいたサラリーマンが、菜摘の大きな声に驚く
鳴海「お、おい菜摘・・・あんまでかい声を出すなって・・・」
嶺二は遠くの方で肉のコーナーを見ている
嶺二は両手に豚肉、牛肉、鶏肉のパックをたくさん抱えている
嶺二「(たくさんの肉を抱えたまま大きな声で)菜摘ちゃーん!!!エビフライも買っといてくれー!!!」
菜摘「(エビフライを持ったまま大きな声で)りょーかい!!!」
菜摘は鳴海のところに行き、カートのカゴの中にエビフライを入れる
鳴海「な、なあ菜摘・・・(カゴを指差して)ちょっと買い過ぎじゃないか・・・?」
菜摘「え?足りないくらいだよ」
鳴海「た、足りない・・・?」
菜摘「うん」
鳴海「ほ、ほどほどにするべきだと思うんだが・・・」
菜摘「ほどほど・・・?」
鳴海「あ、ああ。腹八分目って言うだろ?」
菜摘「そんなことより鳴海くんも好きな食材を選んだ方が良いよ。割引されてるのはすぐ売り切れちゃうからね」
鳴海「いや・・・俺はもう・・・」
菜摘「もしかして鳴海くん、今お菓子待ち?」
少しの沈黙が流れる
菜摘「大丈夫だよ鳴海くん。お菓子コーナーには汐莉ちゃんと雪音ちゃんを派遣したから。安心して」
鳴海「あ、あの二人・・・デブるぞ・・・」
汐莉と雪音はお菓子コーナーでお菓子を見ている
二人は両手に大量のお菓子を抱えている
雪音は立って、汐莉はしゃがんでお菓子を見ている
ポテトチップスを手に取ろうとしていた汐莉の動きが止まる
汐莉「(たくさんのお菓子を抱えながら)なんか今・・・鳴海先輩に失礼なことを言われたような・・・」
雪音「(たくさんのお菓子を抱えながら)汐莉、野菜を見に行こう」
汐莉「(たくさんのお菓子を抱えたまま)そうですね・・・」
お菓子を抱えたまま立ち上がる汐莉
鳴海と菜摘は変わらずお惣菜コーナーで話をしている
菜摘「鳴海くん、そういうことは言っちゃいけないんだよ・・・」
鳴海「そういうことって?」
菜摘「鳴海くん今、太るって言ったでしょ・・・」
鳴海「太るじゃなくて、デブるな」
菜摘「最低・・・」
鳴海「(カゴを指差しながら大きな声で)いやだってこんなに食ったらデブるだろ!!!」
菜摘「(大きな声で)人間には太っても食べなきゃいけない時があるんだよ!!!」
少しの沈黙が流れる
鳴海「は、腹が巨大化してもしらねえぞ・・・」
菜摘「(大きな声で)お、お腹が大きいのは健康の証拠だもん!!!」
鳴海「そ、そんなのただのデブじゃないか・・・」
菜摘「(大きな声で)太るのを恐れてたら美味しい物が食べられなくなっちゃうじゃん!!!」
鳴海「だからと言ってこの量は食い過ぎだろ」
菜摘「だ、誰だって食べ過ぎる時くらいあるよ!!!」
鳴海「いや、買い過ぎてるから食べ過ぎるわけで、そもそも買い過ぎていなければ、食べ過ぎることはないはずだ」
菜摘「だ、誰だって買い過ぎる時くらいあるよ!!!」
鳴海「菜摘・・・今日は買い過ぎてるし、食い過ぎてるし、更には開き直り過ぎてないか・・・?」
通りかかる主婦やサラリーマンたちが鳴海と菜摘のことを迷惑そうに見ている
菜摘「わ、私は・・・私は・・・食べない不幸よりも・・・(大きな声で)食べ過ぎの幸せを得る!!!!」
再び沈黙が流れる
深くため息を吐き出す鳴海
菜摘「ざ、残念だったね鳴海くん。今日の私は一味違うのだ!!」
鳴海「そのようだな・・・」
少しすると両手にお菓子と野菜を抱えた汐莉と雪音が鳴海たちのところにやって来る
汐莉と雪音はお菓子と野菜をカートのカゴの中に入れる
カートのカゴを見ている鳴海、菜摘、汐莉、雪音
鳴海「(カートのカゴを見ながら)お前ら好きなだけ持ってきたのかよ・・・っておい」
汐莉「どうしました?」
鳴海はカゴの中から椎茸とナスとところてんを取り出す
鳴海「(椎茸とナスとところてんを見せながら大きな声で)俺の嫌いな食べ物ランキングトップ3が入ってるじゃねえか!!!」
汐莉「嫌いな食べ物ランキングとかあるんですね。鳴海先輩、もしかして五歳児と同レベルですか?」
鳴海「(椎茸とナスとところてんを見せたまま)好き嫌いをするのはガキだって言いたいのかよ・・・」
汐莉「はい」
少しの沈黙が流れる
雪音「因みに嫌い食べ物ランキング一位は?」
鳴海「(椎茸とナスとところてんを見せたまま)どう考えても椎茸だろうが。分かってると思うけど二位がナスで、三位がところてんだ」
雪音「椎茸とナスとところてん、増量する?」
菜摘「そうだね」
鳴海「(椎茸とナスとところてんを見せたまま)増やすな増やすな!!!というか減らして来い!!!」
汐莉「先輩知らないんですか、一度手に触れた物は二度と元に戻せないんですよ。それがこの世のルールなんです」
再び沈黙が流れる
鳴海は諦めたように椎茸とナスとところてんをカゴの中に戻す
とぼとぼとカートを押し始める鳴海
菜摘「あ、待ってよ鳴海くん!」
鳴海について行く菜摘、汐莉、雪音
嶺二がいる肉のコーナーを目指す鳴海たち
嶺二は変わらず、両手に豚肉、牛肉、鶏肉を抱えたまま肉を見ている
鳴海「おい、肉男」
嶺二「(たくさんの肉を抱えたまま)ん?」
鳴海「その肉カゴに入れろよ」
嶺二「(たくさんの肉を抱えたまま)おお、助かる」
嶺二は抱えていた豚肉、牛肉、鶏肉のパックをカゴに入れる
カートのカゴを溢れそうなくらいいっぱいになっている
◯654南家キッチン(夜)
キッチンにいる鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
キッチンには購入したたくさんの食材が置かれている
食材は野菜、肉、お惣菜、お菓子、ジュースなど様々
食材を見ている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
鳴海「(食材を見ながら)どうすんだよ・・・これ・・・」
菜摘「(食材を見ながら)食べる」
嶺二「(食材を見ながら)食う」
汐莉「(食材を見ながら)頂く」
雪音「(食材を見ながら)食す」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(食材を見たまま)これだけの量を一気に使い切る料理は存在してねえだろ・・・」
汐莉「良い方法がありますよ、鳴海先輩」
鳴海「どうするんだ?」
汐莉「ラーメン鍋を作って、お菓子以外の具材を全部入れちゃうんです」
鳴海「なるほど・・・」
嶺二「ラーメンなら大抵の物と味が合うし、良いアイデアじゃねーか」
鳴海「ラーメンはそんな万能な食い物ではないんだが」
菜摘「でも他に調理方法が無くない?」
鳴海「まあな・・・」
雪音「元から不味いものがあるわけじゃないし、大丈夫でしょ」
汐莉「はい」
汐莉がキッチンの戸棚を開ける
汐莉「(戸棚を見ながら)あっ・・・」
鳴海「南・・・?どうかしたのか?」
汐莉が戸棚からインスタントの醤油ラーメンを取り出す
汐莉「(手に持っているインスタントのラーメンを見せながら)すみません・・・ラーメン、2玉しかありませんでした」
汐莉は手に二袋のインスタントラーメンを持っている
雪音「二玉じゃ食材全部入らないね」
再び沈黙が流れる
嶺二「こうなったら自家製の出汁を作ろーぜ」
鳴海「お前なぁ、出汁っていうのはそんな簡単には取れねえんだよ」
嶺二「え、カツオとか昆布を適当にぶち込んでおけば出来るんじゃねーの?」
菜摘「素人が醤油ラーメンに合う出汁をカツオや昆布から取り出せるのかな・・・」
嶺二「混ぜればへーきっしょ」
鳴海「嶺二は料理を工作か何かだと思ってるんだろ」
嶺二「ああ。つか俺、美術と技術と家庭科の違いが分からねーし」
少しの沈黙が流れる
汐莉「今日は文芸部初の工作の時間ってわけですね」
時間経過
キッチンで豚肉、牛肉を焼いている鳴海と嶺二
その隣では汐莉が鶏肉を茹でて出汁を取ろうとしている
嶺二が焼いている豚肉から、油が跳ねている
喧嘩している嶺二と汐莉
汐莉「(大きな声で)れ、嶺二先輩!!!火を弱めてください!!!」
嶺二「(大きな声で)馬鹿野郎!!!強火にしなきゃ火が通らねえだろ!!!」
汐莉「(大きな声で)その理論意味不明ですから!!!」
嶺二「(大きな声で)弱火にしたら飯が遠のくんだよ!!!」
汐莉「(大きな声で)は!?!?」
嶺二「(大きな声で)最大出力で燃やすのが時短メシのコツだぞ!!!」
汐莉「(怒りながら大きな声で)馬鹿じゃないですか!?!?強火にしたってお肉が焦げるだけなのに!!!!」
嶺二「(怒りながら大きな声で)汐莉ちゃんは生で食えって言うのかよ!?!?」
汐莉「(怒りながら大きな声で)嶺二先輩ってほんとゴミ頭ですよね!!!!弱火でも時間をかければ・・・」
嶺二と汐莉が喧嘩している中、鳴海は一人冷静に牛肉を焼いている
シンクの隣の調理場では、菜摘と雪音が野菜を細かく切っている
菜摘と雪音の隣には、細かく切られた野菜が積まれている
◯655南家リビング(夜)
テーブルの上には大きな土鍋と、余った食材が並べられている
土鍋は蓋がされている
椅子に座っている鳴海、菜摘、嶺二、雪音
汐莉はミトンをはめて立っている
汐莉が土鍋の蓋を持つ
汐莉「(土鍋の蓋を持ちながら)じゃあ・・・行きますよ」
菜摘「うん!」
土鍋の蓋を取る汐莉
土鍋から湯気が沸き出る
菜摘・嶺二「(土鍋を覗きながら)おお〜!!!」
土鍋にはたくさんの食材が入っており、インスタント麺は沈んで見えない
鳴海「(土鍋を覗きながら)凄いボリュームだな」
嶺二「(土鍋を覗いたまま)楽勝だろ、こんな量」
雪音「(土鍋を覗きながら)楽勝なら、余った分は嶺二が持ち帰ってね」
嶺二「(雪音のことを見て)え?」
時間経過
それぞれ喋りながら、取り皿にラーメンをよそって食べている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
汐莉「そもそも嶺二先輩がお肉を焦がすからいけないんです!!」
嶺二「時短メシなんだから焦げなきゃおかしーだろ」
汐莉は自分の取り皿から焦げて黒くなった豚肉を箸で掴み上げる
汐莉「(焦げて黒くなった豚肉を掴み上げたまま)見てくださいよこれ!!真っ黒じゃないですか!!」
嶺二「汐莉ちゃんって食に対してうるさいんだな。知らなかったぜ」
汐莉「(焦げて黒くなった豚肉を掴み上げたまま)焦げたお肉が嫌なんですよ!!」
汐莉は怒っている
菜箸で土鍋からエビフライを取り出す菜摘
菜摘「(エビフライを菜箸で掴み上げ見ながら)うわー・・・誰ー?エビフライまで入れた人」
鳴海「俺じゃねえぞ」
雪音「あ、それ私が入れたかも」
エビフライを取り皿に入れ、菜箸を土鍋に戻す菜摘
菜摘「ダメだよ揚げ物を鍋に入れちゃ。サクサク感が無くなっちゃうもん」
雪音「ごめん。多分豚カツとコロッケとイカ天も入ってる」
菜摘「えー・・・」
鳴海「菜摘、買い過ぎたせいでこんな闇鍋が出来ちまったんだぞ」
菜摘「だって、食べ盛りの高校生が5人もいるんだよ?足りなくなったら嫌じゃん?」
鳴海「これは高校生5人でも多過ぎる量だ」
菜摘「みんなでたくさんのご飯を食べるから、幸せな気持ちを文芸部内で共有出来るのに」
鳴海「たくさんのご飯じゃなくて、作り過ぎたご飯の間違いな」
鳴海は菜箸で椎茸とナスとところてんを避けながら、取り皿にインスタント麺をよそう
菜摘「あ、鳴海くん今、椎茸とナスとところてんを避けたでしょ?」
鳴海「(麺をよそいながら)椎茸とナスとところてんは俺の体には合わないんだ」
雪音「好き嫌いを言う男って嫌だよね」
麺をよそい終えた後、菜箸を土鍋に戻す鳴海
鳴海「没個性な男より良いだろ」
雪音「女の子は意外と、身を固める時には普通の男を選ぶっていう常識があるの、そろそろ覚えたら?」
鳴海「普通はつまらねえよ」
雪音「普通には安心と安定があるんだけどね」
鳴海「菜摘、お前は安心と安定より冒険ってタイプだよな?」
菜摘「え、んー・・・」
考え込む菜摘
菜摘「スリルは要らないかも・・・」
雪音「でしょ」
鳴海「安心と安定なんて、俺の人生とは程遠いぞ・・・」
雪音「最悪ね」
鳴海「おい、最悪は言い過ぎだろ」
雪音「だって最悪じゃない?菜摘」
菜摘「わ、私は、みんなが楽しく過ごせたらそれで良いよ」
雪音「ふーん」
鳴海「一条の言う、安心と安定のある男って一体どんな奴なんだ?」
雪音「さあ?」
鳴海「誤魔化すなよ?誰か候補がいるんだろ?」
雪音「知らなーい」
鳴海「まさかお前・・・双葉か?」
雪音「は?」
鳴海「(呆れながら)安心と安定の男があいつかよ・・・」
雪音「違うし」
少しの沈黙が流れる
雪音「私の好きな人は別にいるから」
菜摘「だ、誰!?教えて教えて!!」
雪音「二人は私の好きな人の名前を聞いても信じないし、絶対馬鹿にするから教えない」
鳴海「だから双葉だろ?」
雪音「違うって言ってるでしょ」
再び沈黙が流れる
菜摘「雪音ちゃんの好きな人って、私や鳴海くんにとっては意外な人?」
頷く雪音
菜摘「そっか〜・・・」
鳴海「意外な人って・・・誰だ・・・?」
雪音「馬鹿な鳴海には思いつかないよ」
鳴海「ひでえ言いようだな・・・」
雪音「(自分の頭を指差して)私と鳴海じゃ、ここが違うからね」
鳴海「地頭の話ですか・・・」
雪音「そうそう」
鳴海「一条、お前な、俺はそんなに馬鹿じゃないんだぞ」
雪音「え?」
鳴海「だから、そんなに馬鹿じゃないんだよ俺は」
雪音「既にその発言が馬鹿じゃん」
鳴海「自分が馬鹿じゃないことを証明するためには、馬鹿な日本語を使うしかないんだ」
雪音「やっぱり馬鹿だね」
鳴海「ちげえって、それこそ俺は普通だぞ」
雪音「鳴海が普通だと思い込みたいだけでしょ?」
鳴海「一条がそんな風に言うから、馬鹿になっちまうんだろ俺は」
雪音「だって事実だし」
鳴海「世の中には言って良いこと悪いことが・・・」
鳴海と雪音の論争が始まる
汐莉は変わらず嶺二に対して怒っているが、嶺二はあまり気にしていない
四人のことを見ている菜摘
菜摘「(鳴海たちのことを見ながら 声 モノローグ)千春ちゃんへ・・・文芸部で活動をしていて、みんなが盛り上がれば盛り上がるほど、私は千春ちゃんがいないことに違和感を覚えます。私たちが千春ちゃんと過ごした期間はたった二ヶ月、文芸部は千春ちゃんがいなくなってからも続いてるのに、まだ慣れない。この違和感は、千春ちゃんが帰って来るまで続くのかな」
◯656Chapter1◯38の回想/早乙女家リビング(夜)
椅子に座ってテレビを見ている鳴海、菜摘、潤
すみれはキッチンで洗い物をしている
テレビの中のリポーターがゲームセンターギャラクシーフィールドの店主、有馬勇にインタビューを行っている
リポーター「なるほど、やはり若いお客さんの力が必要ですか?」
マイクを勇に向けるリポーター
勇「そりゃもちろん、お店をやっていくのもしんどいもんですから。畳みたくはないですけど、家族にも散々迷惑かけてきているので、そろそろ畳もうかなって思ってますよ」
潤「潰れちまうのか!すみれ!!俺たちが高校生の時によく通ってたゲーセンが潰れちまうらしいぞ!!」
すみれが洗い物をやめてテレビを見にくる
すみれ「潰れちゃうの?どうして?」
潤「客が来ないそうだ」
すみれ「残念ね、潰れちゃうなんて」
話をしている鳴海、菜摘、潤、すみれ
菜摘「(声 モノローグ)お父さん、お母さん、鳴海くんと一緒にテレビでギャラクシーフィールドを見たからか、お父さんたちの思い出の場所が潰れてしまう悲しみからか、有馬さんの寂しそうな目からか、それとも、私の中にある忘れていたギャラクシーフィールドの新世界冒険で遊んだ記憶が無意識に働いたのか、はたまた、波音さんに代わって善行に身を尽くす私の運命からか、私は知らず知らずのうちに、千春ちゃんに奇跡を吹き込んでいた。(少し間を開けて)三年生になってすぐ、文芸部に、みんなに、私に必要な出会いがあったなんて、面白いよね」
◯657回想戻り/南家リビング(夜)
テーブルの上には大きな土鍋と、余った食材が並べられている
ラーメン鍋を食べている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
鳴海は雪音と言い争っており、汐莉は嶺二に怒っている
嶺二は怒られているものの、あまり気にしていない
四人のことを見ている菜摘
菜摘「(四人のことを見ながら 声 モノローグ)千春ちゃんと過ごした日々は、私の人生において最も学ぶことの多い二ヶ月間だった。今の自分が完璧なわけではないけど、あの頃の私は、自分の行動が他人にどう影響するのか理解してなかったんだ。学園祭に夢中になって・・・千春ちゃんのことを無視して・・・全ての責任は私にあるのに」
◯658Chapter2◯243の回想/波音高校屋上(夕方)
夕日が沈みかけている
屋上にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春
千春が鳴海たちに話をしている
菜摘「(声 モノローグ)今なら、千春ちゃんが屋上で言っていたことの意味が分かるよ。(少し間を開けて)千春ちゃんは私から代償を払わないようにしてくれたけど・・・ダメなんだ・・・千春ちゃん、私は自分の命を引き換えにする義務がある」
◯659回想戻り/南家リビング(夜)
テーブルの上には大きな土鍋と、余った食材が並べられている
ラーメン鍋を食べている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
鳴海は雪音と言い争っており、汐莉は嶺二に怒っている
嶺二は怒られているものの、あまり気にしていない
四人のことを見ている菜摘
菜摘「(四人のことを見ながら 声 モノローグ)たとえ千春ちゃんがいなくても、私は代償を払っていたと思う。それが奇跡を起こす条件だし、人のために奇跡を起こさなきゃ、魂は汚れたままだからね。この力はもともと、緋空浜を守るのに必要な妖術だったから、タダで使って良いものじゃないんだよ。(少し間を開けて)代償を払わせたくないっていう千春ちゃんの想いを、今更こんな風に壊してしまうのは、私にとっても、千春ちゃんにとっても、他のみんなにとっても、望ましいことではないってちゃんと理解してる。でも、私にある道はこれしかないから・・・」
◯660波児商店街/ゲームセンターギャラクシーフィールドの店前(夜)
商店街のお店の多くは営業を終えている
ゲームセンターギャラクシーフィールドも営業を終えている
ゲームセンターギャラクシーフィールドはシャッターが下りている
ゲームセンターギャラクシーフィールドの店前で体育座りをして、寂しそうに俯いている千春がいる
千春の目の前には、Chapter2の終盤で使っていた刃の欠けた剣が置いてある
帰宅途中のサラリーマンたちが千春の目の前を通って行くが、誰一人千春の存在には気づかない
千春は◯612の時と同じような状態
菜摘「(声 モノローグ)私が千春ちゃんに使った力はもう無くなってしまったけど、私は今でも、千春ちゃんのことを感じるんだ。この間も、鳴海くんが千春ちゃんの声を聞いたって言ってたし、千春ちゃんはまだ、私たちの近くにいるんだよね?」
刃の欠けた剣を置いたまま立ち上がる千春
千春はどこかに向かう
◯661波音高校特別教室の四/文芸部室(夜)
一人で部室に訪れた千春
部室の隅にプリンター一台、部員募集の紙、作詞作曲に使う機材が置いてある
椅子は鳴海たちが使ったまま、円の形に並べられて残されている
千春は部室内をゆっくり周りながら、椅子に触れて行く
菜摘「(声 モノローグ)改めて、世界には見えない壁があるって気づいた・・・今の千春ちゃんと、私たちの間にも見えない壁があるでしょ?壁は、過去や未来・・・時間の間、生き物と物の間にだって存在してると思う。波音さんは、波音物語にかけた妖術で壁を壊そうとしたけど、出来なかった。今度は私が、朗読劇で挑戦しなきゃいけない。全ての壁を壊すために・・・奇跡を起こすために・・・囚われ、苦しみ、彷徨っている人たちを救うために・・・・」
◯662波音高校廊下(日替わり/昼)
外は晴れている
廊下を歩いている鳴海と菜摘
鳴海はコンビニのパン、菜摘はすみれの手作り弁当を持っている
二人は文芸部の部室を目指している
少し歩くと、鳴海と菜摘は部室の前に辿り着く
部室の扉を開ける鳴海
部室に入る鳴海と菜摘
部室の隅にプリンター一台、部員募集の紙、作詞作曲に使う機材が置いてある
椅子は昨晩千春が訪れた時と同じ状態で、円の形に並べられたまま残されている
部室に入って立ち止まる菜摘
鳴海は椅子に座る
菜摘は手に持っていたすみれの手作り弁当を床に落とす
鳴海「(心配そうに)菜摘?大丈夫か?」
少しの沈黙が流れる
菜摘は落とした弁当を拾おうとしない
菜摘「ねえ鳴海くん・・・鳴海くんは、懐かしい感じがする時ってない?」
鳴海「(不思議そうに)懐かしい感じ・・・?」
菜摘「うん・・・」
鳴海「(不思議そうに)そりゃあ・・・あると思うけど・・・」
菜摘「私は今・・・確かに感じるんだ・・・」
鳴海「(不思議そうに)か、感じるって?」
菜摘は正面にゆっくり右手を伸ばす
菜摘「(ゆっくり右手を伸ばしながら)千春ちゃんを・・・」
菜摘の右手の先を見る鳴海
菜摘の右手の先には千春が立っている
千春は涙を流している
千春「(涙を流しながら)菜摘さん・・・私はここにいます」
千春は菜摘の右手を取ろうとするが、千春の手は透けて菜摘の手に触れることが出来ない
鳴海と菜摘には千春の姿が見えていない
菜摘「(千春がいる方へ右手を伸ばしたまま)千春ちゃん・・・」
菜摘は千春がいる方へ右手を伸ばしたまま目を瞑る
鳴海「(周囲を見ながら)な、菜摘!千春がいるのか!?」
千春は変わらず、涙を流したまま菜摘の手を取ろうとしている
千春が何度菜摘の手に触れようとしても、千春の体は透けていて菜摘に触れることが出来ない
千春「(涙を流しながら菜摘の手を取ろうとして)菜摘さん・・・私はまだここにいます!ずっと文芸部の一員のままです!!」
目を開ける菜摘
菜摘は涙を流す
菜摘「(千春がいる方へ右手を伸ばしたまま涙を流し)ごめんね・・・千春ちゃん・・・」
千春「(涙を流しながら菜摘の右手を取ろうとして)菜摘さんは謝らないでください・・・私がいけなかったんです・・・」
菜摘「(千春がいる方へ右手を伸ばしたまま涙を流し)鳴海くん・・・鳴海くんも・・・千春ちゃんの声を聞いたんだよね・・・」
鳴海「あ、ああ。菜摘は今、千春の声を・・・」
菜摘「(千春がいる方へ右手を伸ばしたまま涙を流し)うん・・・凄く小さい声だけど・・・確かに千春ちゃんだよ・・・」
鳴海「千春は・・・なんて言ってるんだ」
菜摘「(千春がいる方へ右手を伸ばしたまま涙を流し)千春ちゃんは・・・私に謝ってる・・・ごめんなさいって・・・何度も・・・何度も・・・(少し間を開けて)ダメ・・・もう聞こえなくなっちゃう・・・」
その直後菜摘は立ちくらみを起こし、倒れそうになる
鳴海が立ち上がり、慌てて菜摘を支える
鳴海「(菜摘を支えながら)菜摘!!」
鳴海は菜摘を支えながら、菜摘の右手が伸びていた方を見る
菜摘の右手が伸びていた方には誰もいない
菜摘「(鳴海に支えられながら涙を流して)私の意地無し・・・」
◯663早乙女家菜摘の自室(深夜)
◯616、◯621、◯624、◯629、◯642、◯646と同日
時刻は午前2時ごろ
菜摘は机に向かって千春への手紙を書いている
机の上にはたくさんのレターセットが置いてある
机の上にはレターセットの他に、鳴海、波音、汐莉、嶺二、雪音、明日香に宛てて書いた手紙が置いてある
菜摘「(手紙を書きながら 声 モノローグ)もし私の力不足で、見えない壁を壊せなかったら・・・全てをまた未来に託さなくてはいけない・・・白瀬波音から続いた、たくさんの魂と汚れを引き継いで・・・」
菜摘は”どれだけ時間がかかるか分からないけど、世界が滅びようとも、いつか絶対に千春ちゃんを救う魂になるよ。”と手紙に書き、便箋を封筒に入れる
封筒に”千春ちゃんへ”と書く菜摘
ペンを置き机の引き出しを開く菜摘
机の引き出しの中には、鳴海の家から盗んだ鳴海の母、由香里の波音高校入学時の写真と、公園で幼き鳴海と手を繋いで写っている由香里の写真が入っている
菜摘は机の引き出しの中に、鳴海、波音、汐莉、嶺二、雪音、明日香、千春に宛てて書いた手紙を入れ、鳴海の家から盗んだ二枚の由香里の写真を取り出す
菜摘「(由香里が写っている二枚の写真を見ながら)死んでいい人なんていないけど、生き続けていい人もいないなんて、ほんと・・・嫌になっちゃうなぁ・・・」