Chapter6生徒会選挙編♯13 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
老人の回想に登場する人物
中年期の老人 男子
兵士時代の老人。
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
アイヴァン・ヴォリフスキー 男子
ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。
両手足が潰れたロシア兵 男子
重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
Chapter6生徒会選挙編♯13 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯617緋空寺/境内(500年前/夜)
月が出ている
境内はまだ綺麗で、荒れていない
境内の外れの方に奈緒衛のお墓がある
墓石には佐田 奈緒衛と彫られている
お墓の近くには奈緒衛が使っていた刀が地面に刺さっている
少しすると奈緒衛のお墓の元に白瀬波音がやって来る
波音はChapter4の頃に比べると少し痩せている
菜摘「(声 モノローグ)波音さんへ・・・私には、微かにだけど波音さんの魂の記憶があります。波音さんが波音物語を残してくれたから、私は自分について知ることが出来ました。ありがとう、波音物語は無駄じゃなかったよ。本来の使い方じゃないけど、波音物語は、私と雪音ちゃんの役に立っています」
波音はお墓の前で横になる
風が吹く
緋空寺境内に生えた草木が風で揺れる
◯618南家汐莉の自室(夜)
汐莉は机に向かって椅子に座っている
机の上にあった20Years Diaryを閉じ、筆記用具をしまう汐莉
汐莉はスマホで音楽を聞いている
汐莉が聞いているのはサイモン&ガーファンクルのスカボロー・フェア
汐莉は近くにあった学校用のカバンから、原作の波音物語を取り出す
波音物語を読み始める汐莉
菜摘「(声 モノローグ)波音さんが波音物語を書いたのは、本を通して500年前に亡くなった人たちの魂を繋ぎ合わせることが目的だったんだよね。波音さん自身が奈緒衛さん、凛ちゃん、波音さんのご両親と再び喋るためには、生まれ変わった先で眠る魂に直接語りかけるしかなかったから・・・そのために波音さんは、波音物語に妖術をかけて、輪廻転生した先の魂を呼び起こせるようにした・・・(少し間を開けて)でも・・・結果は失敗・・・波音さんたちの魂は今も眠ったままだ。私も、鳴海くんの姿が奈緒衛さんになったり、汐莉ちゃんの姿が凛ちゃんと重なる時はあるけど・・・姿が変わっても、会話は出来なかった。きっと、鳴海くんや汐莉ちゃんも同じ経験をしてると思う。夢の中で波音さんと出会った時も、波音さんの声が聞こえなかったのは、まだあなたの魂が眠ってることを表してるんだよね」
◯619貴志家鳴海の自室(夜)
片付いている鳴海の部屋
机に向かって椅子に座っている鳴海
机の上には菜摘とのツーショット写真が飾られてある
ベッドの上で横になりながら、スマホでフランスの観光地を調べている鳴海
菜摘「(声 モノローグ)私にはどうして妖術が失敗したのか分かりません。もしかしたら、時間と共に妖術の効果が薄れてしまったのかもしれないし、まだ波音さんの力が弱かったのかもしれない・・・私に言えるのは、時の間にある壁が、波音さんたちの想いを隔ててるということだけ・・・」
◯620緋空寺/境内(500年前/日替わり/昼)
◯617の続き
曇っている
境内の掃除をしている波音と数人の住職
箒を使って枯れ葉を集めている波音たち
一組の親子が緋空寺の境内にやって来る
子供は5、6歳の少年
母親はまだ若い
5、6歳の少年が波音を見つけ、波音の元へ駆け寄る
少年は竹串と、一枚の和紙を持っている
少年は竹串と和紙を波音に渡し、何か頼んでいる
申し訳なさそうにしている少年の母親
波音は頷き、少年の頼みを聞く
菜摘「(声 モノローグ)波音さんの願いは私が叶えるよ。そのための朗読劇だもん。朗読劇を通して、波音物語を通して奇跡を起こしてみせる。500年前に亡くなった人たちの魂を目覚めさせるんだ」
波音は受け取った竹串と和紙に手をかざす
目を瞑り、妖術を使う波音
波音が妖術を使うと、竹串と和紙がふわふわと宙に浮かび始める
宙に浮かんだ和紙は一人でに折られていく
やがて宙に浮かんだ和紙は風車の形になる
宙に浮かんだ竹串は先端の部分だけ一人でに折られる
宙に浮かんだ竹串の先端の部分と、風車を妖術で繋ぎ合わせる波音
波音は目を瞑ったまま、近くに落ちていた枯れ葉に手をかざす
落ちてちた一枚の枯れ葉が、竹串、風車と同じように宙に浮かび始める
宙に浮かんだ枯れ葉はクルクルと丸まり、余った竹串と風車を結び合わせる紐となる
波音は目を瞑ったまま完成した風車に手をかざしている
完成してふわふわと宙に浮かんでいた風車は、一人でにゆっくり移動しながら少年の手元に向かう
風車を手に取る少年
目を開け、風車に手をかざすのをやめる波音
風が吹き、少年の持っている風車が回り始める
菜摘「(声 モノローグ)ただ輪廻転生を繰り返すだけではなく、今度こそ白瀬波音さんが、奈緒衛さんと凛ともう一度会って、喋れるようにするから、絶対に。波音さんに起こせなかった奇跡は、私が必ず掴み取るよ」
喜んでいる少年
波音に礼を言う少年の母親
少年も波音に礼を言う
波音は少年の頭を撫でる
菜摘「(声 モノローグ)出来れば・・・私もいつか波音さんとお喋りがしたいな・・・」
◯621早乙女家菜摘の自室(深夜)
◯616と同日
時刻は午前は2時ごろ
菜摘は机に向かって手紙を書いている
机の上にはたくさんのレターセットが置いてある
菜摘は”もしその時があったら、よろしくお願いします。”と手紙に書き、便箋を封筒に入れる
封筒に”波音さんへ”と書く菜摘
菜摘は新しくレターセットを手に取り、手紙を書き始める
机の上にはレターセットの他に、鳴海に宛てて書いた手紙が置いてある
◯622波音高校一年六組の教室(日替わり/昼)
快晴
昼休み
教室では昼食を取ったり、友人と喋ったり、スマホを見ている生徒がたくさんいる
汐莉、詩穂、真彩の三人が机を並べて昼食を取っている
汐莉は親の手作り弁当、詩穂、真彩はコンビニの弁当を食べている
楽しそうに喋っている三人
菜摘「(声 モノローグ)汐莉ちゃんへ・・・初めて出来た後輩が汐莉ちゃんで本当に良かった。わがままな私の後輩になってくれてありがとう、面倒な先輩に付き合ってくれてありがとう。(少し間を開けて)最近、汐莉ちゃんが落ち込んでいたり、悩んでいて、その都度なんて声をかけたら良いのか分からなくなります。とても意地悪な表現になっちゃうけど、汐莉ちゃんのような優しい子は、他人に振り回されやすくて、その分辛いことも多いのかな。汐莉ちゃんの笑顔は大好きだけど、お願いだから無理はしないでね。人に合わせて笑顔を見せても、後から苦しくなるのは汐莉ちゃん自身だよ」
笑っている汐莉
菜摘「(声 モノローグ)汐莉ちゃんが支えくれたから、文芸部はここまで大きくなれたんだ。誰かを支えるのって大変だし、合わせなきゃいけないのは正直めんどくさいよね。そんなめんどくさいことを一年間し続けた汐莉ちゃんは、凄いよ。私たちなんかよりよっぽど立派だと思う」
時間経過
放課後
校庭では運動部が活動している
教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある
椅子に座り、菜摘と汐莉が曲制作を行っている
机の上には菜摘、汐莉の筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある
汐莉はパソコンの作曲ソフトを使い、打ち込みをしている
二人の近くにはカバンが置いてある
菜摘「(パソコンを見ながら 声 モノローグ)文芸部の活動が汐莉ちゃんの自信に繋がって欲しい。新しく文芸部に入って来た後輩さんたちに、今度は汐莉ちゃんが自信をつけてあげたら良いし・・・私や鳴海くんの代には出来なかったような大きな活動をして・・・いっぱい楽しいことを経験して・・・世代交代をして・・・それで、文芸部が波音高校の歴史に残ってくれたら嬉しいな」
汐莉は近くに置いてあったカバンから、飴の入った袋を取り出す
飴の入った袋を菜摘に差し出す汐莉
菜摘は汐莉に礼を言い、飴の入った袋に手を入れる
袋から適当に飴を取り出す菜摘
飴を持った手を開く菜摘
菜摘の手にはハッカ味の飴がある
飴の入った袋を汐莉に差し出す菜摘
飴の入った袋を受け取り、袋に手を入れる汐莉
汐莉も袋から適当に飴を取り出す
飴を持った手を開く汐莉
汐莉の手にはハッカ味の飴がある
二人は顔を見合わせて少し笑う
ハッカ味の飴を個装を外し、口に入れる菜摘と汐莉
菜摘「(声 モノローグ)私も、先輩になった汐莉ちゃんのことが見たいけど・・・」
◯623白石家に向かう道中(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
嶺二の家に向かっている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
部活帰りの学生がたくさんいる
先頭で話をしている鳴海、嶺二、雪音
菜摘と汐莉は話をしながら三人の後ろを歩いている
菜摘と汐莉は楽しそうに話をしている
菜摘「(汐莉と話をしながら 声 モノローグ)別れは受け入れなきゃ。(少し間を開けて)次は汐莉ちゃんの近いところで生まれる気がするんだよね。どこだろう?じゃなくて、誰だろう、かな?汐莉先輩・・・というか汐莉お姉ちゃんになっちゃうかもしれないね。一気に立場逆転だけど、それも良いよ。私がどうなったとしても、汐莉ちゃんが前を向いていれば、私はそれだけで嬉しいし、幸せだから。新しい一歩を踏み出した汐莉ちゃんと再会するのを、楽しみに待ってるね」
◯624早乙女家菜摘の自室(深夜)
◯616、◯621と同日
時刻は午前2時ごろ
菜摘は机に向かって手紙を書いている
机の上にはたくさんのレターセットが置いてある
菜摘は”愛、心、優しさ、自由を込めて、汐莉ちゃんが運命から解放されますように。”と手紙に書き、便箋を封筒に入れる
封筒に”汐莉ちゃんへ”と書く菜摘
菜摘は新しくレターセットを手に取り、手紙を書き始める
机の上にはレターセットの他に、鳴海、波音に宛てて書いた手紙が置いてある
◯625白石家嶺二の自室(夜)
◯623の続き
少し散らかった嶺二の部屋で、それぞれエナジードリンクを飲みながら部誌制作をしている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
パソコンと向かい合ってタイピングをしている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音
順調に部誌制作を行っている菜摘、汐莉、雪音
鳴海は文字を打っては消している
嶺二はパソコンを睨んだまま動かなくなっている
机の上にはChapter2の終盤で千春が使っていた剣のかけらが置いてある
嶺二「(大きな声で)あーもう何も思いつかねえ!!!!」
鳴海は近くにあった消しゴムを嶺二にぶつける
嶺二「(大きな声で)何すんだよ!!!」
鳴海「(タイピングをしながら)うるせえ静かにしてろ馬鹿」
嶺二「てめえの小説からアイデアをパクってやる!!」
立ち上がり鳴海のパソコンを覗こうとする嶺二
鳴海は慌ててパソコンを閉じ、大事そうにパソコンを抱える
鳴海「(パソコンを抱えながら)こ、こいつには指一本触れさせねえぞ・・・」
嶺二は鳴海のパソコン目掛けて飛び込む
パソコンを抱えたまま回避する鳴海
嶺二が飛び込んだ大きな音が部屋に響く
汐莉「(タイピングをやめて)プロレスがしたいんだったら外に行ってくれません?」
鳴海「(パソコンを抱えたまま)おい嶺二、出て行けって言われてるぞ」
嶺二「(大きな声で)てめえが出て行きやがれ!!!」
鳴海「(パソコンを抱えたまま)客に向かってなんて酷いことを言うんだ・・・」
嶺二「(大きな声で)鳴海みたいに調子に乗った奴は客じゃねーんだよ!!!」
タイピングをやめて鳴海と嶺二の喧嘩を見る菜摘、雪音
鳴海「(パソコンを抱えたまま)嶺二に言われてもな・・・説得力がねえんだわ・・・」
嶺二「(大きな声で)てめえ、家主には敬意を払ったらどうだ!!!」
鳴海「(パソコンを抱えたまま)家主なら静かにタイピングしてろ。常識だぞ」
嶺二「(大きな声で)常識のねえ鳴海が・・・」
汐莉「(嶺二の話を遮って)もう二人とも出て行ってくれませんかね」
黙る嶺二
少しの沈黙が流れる
雪音「(小声でボソッと)ほんと、男子はみんなお寺に修行でもしに行けば良いのに」
再び沈黙が流れる
エナジードリンクを一口飲む汐莉
エナジードリンクを一口飲む嶺二
エナジードリンクを一口飲む鳴海
菜摘「じゃあ・・・再開しよっか・・・」
汐莉「そうですね」
パソコンを開く鳴海
自分のパソコンが置いてある場所に戻る嶺二
タイピングを再開する鳴海、菜摘、汐莉、雪音
嶺二はさっきと同じようにパソコンの画面をじっと見ている
菜摘はチラッと嶺二のことを見る
菜摘「(嶺二のことを見ながら 声 モノローグ)嶺二くんへ・・・嶺二くんの行動はいつもぶっ飛んでるので、正直に言うとほとんど理解が出来ません」
嶺二は指紋でパソコンの画面にニコちゃんマークを描いている
菜摘は嶺二のことを見ている
菜摘「(嶺二を見ながら 声 モノローグ)私にはよく分からないけど、嶺二くんが元気ならそれで良いと思います」
◯626波音高校三年生廊下(日替わり/朝)
快晴
朝のHRの前の時間
三年三組の教室を覗いている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
教室にいる生徒たちは周りにいる生徒と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
教室の中には明日香がいる
明日香は自分の席でスマホを見ている
神谷はまだ来ていない
廊下では喋っている三年生や、教室に入ろうとしている三年生がたくさんいる
嶺二が響紀に耳打ちする
頷く響紀
菜摘「何するの?」
嶺二「まー見ててくれ、菜摘ちゃん」
目を合わせる嶺二と響紀
二人は目を合わせたまま同時に頷く
嶺二・響紀「(大きな声で手を振りながら)おーい!!!!明日香ちゃーん!!!!今日も一緒にお昼ご飯を食べよー!!!!」
嶺二と響紀は、声の大きさから動きまで完全に一致している
嶺二・響紀「(大きな声で手を振ったまま)ねー!!!!良いでしょー!?!?」
ドン引きしながら嶺二と響紀のことを見ている鳴海、菜摘、汐莉、雪音、詩穂、真彩、そして廊下、教室にいる三年生たち
鳴海「(ドン引きしながら)お前らどんな打ち合わせしたんだよ・・・」
嶺二と響紀は明日香に向かって笑顔で手を振っている
二人の動きは変わらず完全に一致している
嶺二・響紀「(笑顔で手を振りながら大きな声で)明日香ちゃんってばー!!!!朝は!!!!おはよう!!!!だよー!!!!」
明日香はスマホを見たまま机の中から一冊のノートと筆記用具を取り出す
スマホを見たままノートを開く明日香
スマホを見たまま筆記用具から名前ペンを取り出し、ノートに何か書く明日香
明日香はスマホを見たまま自分の席から一歩も動かずに、ノートを鳴海たちに見せつける
明日香のノートには大きく”キモい!!”と書かれている
嶺二・響紀「(驚いて大きな声で)あらやだ!!!!キモいなんて言葉どこで覚えたの!?!?そんな下品な言葉!!!!許しませんよ!!!!」
頭を抱える鳴海
真彩「(ドン引きしながら)響紀と嶺二先輩合体しそーじゃん・・・」
詩穂「んー・・・ということはー・・・キョージくん?になるのか・・」
嶺二・響紀「(大きな声で手を振りながら)明日香ちゃん!!!!僕の名前は三石キョージ!!!!よろしくね!!!!今日から三枝響紀と代わって、一緒にお昼ご飯を食べることになったんだ!!!!」
明日香は変わらず鳴海たちにノートを見せつけたまま、スマホを見ている
雪音「(ドン引きしながら)これ、なんか意味あるの?」
鳴海「(頭を抱えながら)あるわけねえだろ・・・」
汐莉「(呆れながら)こんなことを練習する時間があるんだったら、生徒会選挙の準備でも進めてほしいですね」
鳴海「(頭を抱えたまま)ああ・・・」
汐莉「(呆れたまま)全く、生徒会選挙まで後一週間もないって言うのに・・・」
嶺二と響紀は変わらず、明日香に向かって声をかけている
二人の動きは完全に一致している
菜摘は嶺二のことを見ている
菜摘「(嶺二のことを見ながら 声 モノローグ)いつも私の予想を超えたお笑いを提供してくれてありがとう」
◯627波音高校二年生廊下(昼)
昼休み
二年生廊下にいる嶺二
廊下では喋っている二年生や、昼食を取りに移動している二年生がたくさんいる
嶺二は廊下にいた一人の二年生男子生徒にいきなり声をかける
嶺二は男子生徒の肩に手を置く
迷惑そうな二年生男子生徒
コソコソと話をしている嶺二と二年生男子生徒
菜摘「(声 モノローグ)嶺二くんが誰よりも真っ直ぐな心を持っていること、知ってるよ。ふざけてる時も多いけど、本当は真面目なんだよね。千春ちゃんや明日香ちゃんのこと、それから文芸部の活動のことも、なんだかんだで?嶺二くんはいつもちゃんと考えてくれてるんだ。(少し間を開けて)みんな恥ずかしくて、嶺二くんにお礼を言ってないけど」
嶺二は周りの人に気付かれないように制服の内ポケットから茶封筒を取り出し、二年生男子生徒に渡す
茶封筒を受け取る二年生男子生徒
二年生男子生徒は制服の内ポケットに茶封筒をしまう
嶺二は二年生男子生徒に別れを告げ、離れる
菜摘「(声 モノローグ)思い返せば、嶺二くんは文芸部の設立も手伝ってくれたし、根が真面目というよりは、実はただの真面目なんじゃないの?」
嶺二は歩いていたまた別の二年生男子生徒にいきなり声をかける
菜摘「(声 モノローグ)まあ、時々明日香ちゃんや汐莉ちゃんに怒られることもあるけどさ、嶺二くんのキャラだから、お説教は受けなきゃいけないような気がするよ。あんまりふざけ過ぎてもダメだしね」
嶺二はさっきの男子生徒にしたのと同じように、二年生男子生徒の肩に手を置く
迷惑そうな二年生男子生徒
コソコソと話をしている嶺二と二年生男子生徒
菜摘「(声 モノローグ)私、嶺二くんの友情が少し羨ましいんだ。鳴海くんや明日香ちゃんとの関係は絶対的だし、卒業してもずっと残るでしょ?良いなぁ、やっぱり信頼されてるんだよ、嶺二くんは。千春ちゃんが嶺二くんを慕っていたのも、嶺二くんのそういうところが大きかったんじゃないかな」
嶺二は再び、周りの人に気付かれないように制服の内ポケットから茶封筒を取り出し、二年生男子生徒に渡す
茶封筒を受け取る二年生男子生徒
二年生男子生徒は制服の内ポケットに茶封筒をしまう
嶺二は男子生徒に別れを告げ、離れる
菜摘「(声 モノローグ)もう一度千春ちゃんに会わせてあげたいけど・・・今の私の力では・・・叶えられるかどうか・・・(少し間を開けて)もし・・・嶺二くんが千春ちゃんと再会出来たら、ごめんねって伝えて欲しい。お願い」
嶺二は再び、歩いていた別の二年生男子生徒にいきなり声をかける
◯628波音高校三年生廊下(放課後/夕方)
三年生廊下でコソコソと話をしている嶺二と三年生男子生徒
廊下にはほとんど生徒がいない
隠れながら雪音が嶺二と三年生男子の様子を見ている
夕日が廊下を赤く染めている
菜摘「(声 モノローグ)多分、千春ちゃんはまだ完全には消えてないんだ・・・だから、私が死んでも千春ちゃんのことを諦めないで。嶺二くんなら千春ちゃんとまた会えるよ」
◯629早乙女家菜摘の自室(深夜)
◯616、◯621、◯624と同日
時刻は午前2時ごろ
菜摘は机に向かって手紙を書いている
机の上にはたくさんのレターセットが置いてある
菜摘は”二人には奇跡がついてるから。”と手紙に書き、便箋を封筒に入れる
封筒に”嶺二くんへ”と書く菜摘
菜摘は新しくレターセットを手に取り、手紙を書き始める
机の上にはレターセットの他に、鳴海、波音、汐莉に宛てて書いた手紙が置いてある
◯630波音高校三年生廊下(放課後/夕方)
◯628の続き
三年生廊下でコソコソと話をしている嶺二と三年生の男子生徒
廊下にはほとんど生徒がいない
雪音は変わらず、隠れながら嶺二と三年生男子の様子を見ている
夕日が廊下を赤く染めている
嶺二は昼休みの時と同じように、制服の内ポケットから茶封筒を取り出し三年生男子生徒に渡す
頷き、茶封筒を受け取る三年生男子生徒
嶺二「わりーけど、頼むわ」
三年生男子生徒「(制服の内ポケットに茶封筒を入れながら)ああ。それより白石、推薦なんだろ?こんなこと、バレちゃやべーんじゃねえの?」
嶺二「よけーな詮索は無しって約束したよな?忘れたのか?おめえボコって茶封筒の中身を取り返しても良いんだぜ」
少しの沈黙が流れる
三年生男子生徒「(小声でボソッと)後がなくなるのは俺じゃねえから・・・ま、いーけどさ・・・」
三年生男子生徒は嶺二から離れ、歩き出す
嶺二は体を伸ばし、その後深呼吸をする
隠れていた雪音が嶺二のところに行く
雪音「ねー、今なんの話をしてたの?」
突然雪音がやって来たことに驚く嶺二
嶺二「(驚いて)い、いきなり声かけんなよ!」
雪音「ごめん。そんなに驚かれると思わなくて」
嶺二「べ、別に驚いてはねーけどさ・・・てかなんで二年の廊下を担当するはずの雪音ちゃんがここにいるんだよ?」
雪音「来ちゃダメなの?」
嶺二「そ、そりゃそーだろ。一人一学年って決めたんだぞ」
少しの沈黙が流れる
雪音「さっきさー・・・嶺二、砂田と喋ってたよね?」
嶺二「あ、ああ・・・」
雪音「教えてよ、何喋ってたのか」
嶺二「な、なんでそんなことを聞くんだよ?」
雪音「気になるんだー」
嶺二「お、俺が砂田と喋ってたのは、せ、生徒会選挙の・・・」
雪音「生徒会選挙の、何」
嶺二「せ、生徒会選挙と言えばあれだろ・・・ひ、響紀ちゃんの紹介だよ。と、投票してくれって頼んだんだ」
雪音「(興味なさそうに)ふーん」
嶺二「も、もう用は済んだな?そ、それなら二年の廊下に戻って選挙活動をして来い。こ、ここにいられても迷惑なんだ」
雪音「なーんか、ずいぶん緊張してなーい?」
嶺二「そ、そんなことねーよ・・・」
雪音「嶺二が砂田に何か渡したの、偶然見えちゃったんだけどさー」
嶺二「(動揺して)お、お前、俺のことを見てたのか!?」
雪音「いやー、偶然だよ。偶然見えちゃっただけ」
嶺二「(大きな声で)か、からかうのも良い加減にしろ!!」
再び沈黙が流れる
雪音「まあ・・・封筒の中身は想像つくけど・・・一応、何なのか教えてよ?」
嶺二「せ、選挙に必要なもんだ」
雪音「つまり何?」
嶺二「(舌打ちをして)チッ・・・お前、マジでクソ女だよな・・・」
雪音「スイートメロンパンが食べたい、は?」
嶺二「鳴海と一緒にするんじゃねえ、俺はあいつより頭が良いんだ」
雪音「五十歩百歩のくせに」
嶺二「黙ってろ、黙って二年の廊下に戻れ」
雪音「それも良いけど、嶺二さ、文芸部の秘密を知りたくない?」
嶺二「秘密?そんなアホくさい言葉に釣られるかよ」
雪音「封筒の中身を言ってくれたら、代わりに文芸部の秘密を教えてあげる」
嶺二「(笑いながら)文芸部に秘密なんかねーだろ。つか後から入った雪音ちゃんに何が分かるんだ」
雪音「知らないの?遠くからの方がまとまりに欠けた集団ってよく見えるんだよ?」
嶺二「まとまりにかけた集団って、文芸部のことを言ってるんじゃねーだろうな」
雪音「その文芸部のことを言ってるの」
嶺二「ぶん殴られたいのかお前」
雪音「もう18なんだから、殴るだけじゃ何も解決しないって気づいても良いんじゃない?」
嶺二「雪音ちゃんの綺麗な顔を壊すには、むしろ殴るだけで十分だろ」
雪音「褒めてくれてるって思うことにするよ、嶺二は女を殴らないし」
嶺二「ジェントルマンだからな、俺」
雪音「ジェントルマンの嶺二には、文芸部がまとまってる素敵な部活に見えるんでしょ?」
嶺二「バーカ、まとまりに欠けてるのも文芸部の良いとこなんだよ」
雪音「じゃあさ、どこがどんな感じにまとまりに欠けてるのか、分かる?」
嶺二「文芸部が迷走状態だって愚痴なら、俺じゃなくて副部長の鳴海に言ってほしいもんだね」
少しの沈黙が流れる
嶺二「もう話は終わりで良いかな、よし、今度こそ消えてもらおうか。雪音ちゃん」
雪音「なんで?」
嶺二「何がだよ?」
雪音「なんで文芸部の秘密を知ろうとしないの?」
嶺二「文芸部に秘密なんてもんは存在してねーからだ。雪音ちゃんが消えねーなら、俺が消えることにする。んじゃーな、真面目に仕事しろよ」
嶺二は雪音に背を向け歩き出す
雪音「柊木千春に会う方法、私知ってるから」
立ち止まる嶺二
嶺二「冗談抜かすんじゃねえ・・・お前は千春ちゃんのことを知らねーはずだ・・・」
再び沈黙が流れる
雪音「嶺二、菜摘と汐莉が誰なのか・・・誰だったのか・・・知ってるの?」
嶺二「菜摘ちゃんは菜摘ちゃん、汐莉ちゃんは汐莉ちゃんでしかねーよ」
雪音「じゃあ鳴海は?」
嶺二「鳴海は鳴海だ。馬鹿でアホな俺の相棒だろ」
嶺二は背を向けたまま、雪音と会話を続ける
雪音「へー・・・分かってないふりをするんだー。馬鹿じゃないのに、馬鹿なキャラを演じるんだね」
嶺二「うっせえな、別にキャラとかねーんだよ・・・」
雪音「本当は誰に頼んだら柊木千春と会えるのか知ってるくせに」
嶺二は雪音に背を向けるのをやめ、雪音のことを見る
嶺二「知らないね、知らないし興味もない」
雪音「そうやって無駄に意地を張って、友達を守ろうとしてるんでしょ?」
嶺二「千春ちゃんに会いたきゃ自分で頼めよ、俺には関係ねえ」
雪音「関係ない?嶺二は今でも千春のことが好きなのに?」
雪音は嶺二に詰め寄る
雪音「(嶺二に詰め寄りながら)これは呪いなの。人間じゃないものに恋をしたあなたにとって、柊木千春との思い出は永遠に消えない。あなたの運命はもう決まってしまった。これからの人生、嶺二は千春の幻影に囚われ苦しみ続けるの、それも死ぬまでね。馬鹿なふりが出来るのも若い今だけ、苦しみは年々増していく一方。生者でも、死者でもない者に恋をするから、あなたは人間の女の子には満足出来なくなった・・・」
嶺二と雪音の体の距離は40cmもないほどになっている
雪音「(嶺二に詰め寄りながら)奇跡の呪いを受けるのが嫌だったら、文芸部の秘密を聞いて。そして私の仲間になりなさい」
雪音は嶺二の腰に手を回す
雪音は嶺二の腰に回した手で、嶺二の体を引き寄せる
二人の体の距離は30cmほどしかない
雪音「(嶺二の体を引き寄せながら小さな声で)一緒に運命の歯車を壊すの・・・奇跡が食い尽くされる前にね・・・」
少しの沈黙が流れる
嶺二「俺さ・・・雪音ちゃんのこと、マジでめっちゃ嫌いなんだけど・・・」
雪音「(嶺二の体を引き寄せたまま小さな声で)そう、残念ね。私はあなたのことが嫌いじゃないのに」
再び沈黙が流れる
二人の距離はキスしそうなほど近い