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Chapter6生徒会選挙編♯12 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・






老人の回想に登場する人物


中年期の老人 男子

兵士時代の老人。


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。


アイヴァン・ヴォリフスキー 男子

ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。


両手足が潰れたロシア兵 男子

重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。

Chapter6生徒会選挙編♯12 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯592鳴海の夢/緋空寺/境内(夕方)

 夕日が沈みけている

 緋空寺境内にいる鳴海

 人の手入れが全くされていない寺

 寺の屋根の一部分が壊れている

 雑草が生い茂り、かつて舗装されていたであろう道は砂利で荒れ果てている

 手水舎には水が入っていない

 寺の賽銭箱はひっくり返っている

 周囲を見ている鳴海


鳴海「(周囲を見ながら)ここは・・・前も夢で来た・・・」

凛「恐れておるのですね」


 驚いて振り返る鳴海

 鳴海の後ろには凛が立っている


鳴海「お前・・・誰なんだ・・・」

奈緒衛「全てが刻まれた魂に聞いてみろ」


 正面を見る鳴海

 鳴海の前に佐田奈緒衛が立っている

 奈緒衛は日本刀を持っている


凛「あなた様から強い恐怖心を感じます」


 奈緒衛は鞘から刀を抜き、鳴海に向ける


奈緒衛「(刀を向けたまま)お前の欠点は、他者を失う止め処ない恐怖に支配されておることだ」


 俯く鳴海


鳴海「(俯いたまま)他者を・・・失う・・・」

奈緒衛「(刀を向けたまま)怖いのだろ?」

鳴海「(俯いたまま)怖くない奴なんかいねえよ・・・」

凛「生き死に囚われれば、心からゆとりが失われ、まことに大切な者が何であったのか、それさえも分からぬようになります」

鳴海「(顔を上げ凛に向かって)なら俺はどうすれば良い?」

奈緒衛「(刀を向けたまま)お前は失う恐怖心が強い故に、解決もせぬ数多の事柄を背負い過ぎておるのだ」

凛「出来ぬことをばかりを了承していると、やがては信頼を失い、自らを滅ぼしかねないでしょうに」


 拳を握り締める鳴海


奈緒衛「(刀を向けたまま)亡き父母のことを思い出せ。鳴海、人は引き止められぬと、お前が一番理解しておるだろう?」

鳴海「(拳を握り締めたまま)だからこそ俺は・・・抗ってるんだ・・・」

凛「何故、菜摘様に全てをお任せしないのです?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(拳を握り締めたまま)菜摘には・・・頼れない」

凛「何故ですか?」

鳴海「(拳を握り締めたまま)あいつが代償を払うのが嫌なんだ」

凛「菜摘様を信用していないのですね」

鳴海「(拳を握り締めたまま)そういうわけじゃない・・・ただ、菜摘には任せられないんだよ。あいつが何かするんだったら、俺が動けば良い・・・」

奈緒衛「(刀を向けたまま)お前が余計に手を出せば、信頼を失うどころではすまないだろう」

凛「築き上げた縁を無駄にしてはなりませぬよ、鳴海様。天によって仕組まれたことは、菜摘様に任せるのが一番でございましょう」

鳴海「(拳を握り締めたまま)仕組まれたこと、か・・・天に負けるほど、俺はまだ弱っちゃいねえ」

奈緒衛「(刀を向けたまま)鳴海、お前の人生には、まだ関わってくれる人がいる。自分の人生が、自分一人だけのものだと思ってはならん」

鳴海「(拳を開き)俺の人生は菜摘のものだ・・・(少し間を開けて)菜摘を守るために、文芸部を守るために・・・お前たちの力を貸してくれ」

凛「力を持てる者は限られておるのです」


 再び沈黙が流れる


奈緒衛「(刀を向けたまま)執着心を消せ。恐怖を克服しろ。辛いのは分かるが、死を愛さぬ限りお前の運命は苦痛と共にある」

凛「親しき友と、苦しみを共有なさい」

鳴海「親しき友って、誰だよ。みんなそれぞれ別の苦しみがあって、それぞれ戦ってるのに、俺の苦しみなんか誰と共有すりゃあ良いんだよ」

奈緒衛「(刀を向けたまま)よく考えることだ、鳴海。感情も、理屈も、お前の納得の行く形に収まりはしない」


 刀を振り上げる奈緒衛


凛「魂の記憶からの忠告を忘れぬよう。委ねることは、決して悪しき行為ではないのですから。我らは鳴海様の心が軽くなれることを祈っております」


 奈緒衛は鳴海の腹を勢いよく切る


◯593貴志家鳴海の自室(日替わり/朝)

 快晴

 ベッドから飛び起きる鳴海

 汗だくで息切れをしている鳴海

 慌てて自分の腹を触り、切られていないか確認する鳴海

 鳴海の腹に傷はない

 

◯594波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)

 昼休み

 外は晴れている

 教室の隅にパソコン六台と、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 部室で昼食を取っている鳴海、菜摘

 鳴海はコンビニのパン、菜摘はすみれの手作り弁当を食べている

 

菜摘「私たちも後で嶺二くんの手伝いに行く?」

鳴海「いや、昼くらいは休んでも良いだろ」


 大きなあくびをする鳴海


菜摘「今日はよくあくびをするね、鳴海くん」

鳴海「そうか?」

菜摘「うん。さっきのあくびで23回目だった」

鳴海「(呆れて)数えてたのかよ・・・」

菜摘「鳴海くん、寝不足なんじゃない?」

鳴海「あー・・・変な夢を見たからな・・・」

菜摘「ど、どんな内容だったの?そ、その変な夢って・・・」

鳴海「寺でいきなり腹を切られたんだよ。幸い、現実じゃ傷は出来てなかったけどさ」

菜摘「へっ、へえ〜・・・そ、それは不思議な夢だったんだね〜」


 菜摘は何故か慌てて弁当のおかずを食べる

 不思議そうに菜摘のことを見ている鳴海


菜摘「ど、どうしたの鳴海くん」

鳴海「(不思議そうに)別にどうもねえけど・・・なんか慌てて飯食ってるなと思って」

菜摘「き、気のせいだよ」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「きょ、今日はいっぱい眠れると良いね!!鳴海くん!!」


◯595波音高校ベンチ(昼)

 快晴

 昼休み

 外のベンチに座っている明日香と響紀

 コンビニのおにぎりを食べている明日香と響紀

 ベンチはたくさんあり、友達同士やカップルがご飯を食べるのに使っている 


明日香「毎日毎日私と昼休みを過ごして・・・楽しい?」


 おにぎりを食べながら頷く響紀


明日香「生徒会選挙の準備は良いの?もうすぐ本番でしょ?」

響紀「昼休み中は嶺二先輩がやってくれてます。だから私は明日香ちゃんとご飯を・・・」

明日香「(響紀の話を遮って大きな声で)えっ!?嶺二に任せてんの!?」

響紀「はい」

明日香「私には関係ないから、あんたの好きなようにやったら良いけどさー・・・でもなんでよりによってあいつに任せちゃうわけ?」

響紀「んー・・・信じてるから?」


 少しの沈黙が流れる


明日香「嶺二のことを信じられるなんて、あんたも相当純粋なのね」

響紀「嶺二先輩が私のことを信じてるので、私も嶺二先輩のことを信じてます」

明日香「ふーん・・・先輩と後輩の絆ってわけか・・・」

響紀「明日香ちゃんも一緒にやる?選挙活動」

明日香「もう、巻き込まないでよ。あんたたちに付き合うといつもその後が大変なんだから」

響紀「明日香ちゃんがいないと、寂しいなー」

明日香「ここにいるでしょ、私は」

響紀「今日は偶然、たまたま明日香ちゃんの機嫌が良かったから一緒にいられるだけ。私としては四六時中明日香ちゃんの横にいたって良いのに」

明日香「響紀、ちょっとは自分の時間が欲しいと思わないの?」

響紀「思わないかな」

明日香「どうしてよ」

響紀「もう一人の時間は飽きちゃった」

明日香「飽きるほど一人でいたようには見えないんだけど・・・」

響紀「中学生の頃は友達いなかったし、小学校は転校してばっかりだったから・・・私、寂しい女なの」

明日香「寂しい女とか、そういうことは言っちゃダメ、良い?あんたの強みは、自己肯定感が無駄に高いところなんだから」


 再び沈黙が流れる


響紀「(大きな声で)あー!!!!どうしよう・・・私・・・」

明日香「何よ」

響紀「明日香ちゃんのことが好き過ぎて明日香ちゃんの体になりたいかも・・・」


 恥ずかしそうに顔を逸らす明日香

 明日香の顔が赤くなっている


響紀「あ、そうだ明日香ちゃん」

明日香「(顔を逸らしたまま)何・・・?」

響紀「生徒会選挙の推薦文、明日香ちゃんが書いてくれない?」

明日香「(顔を逸らしたまま)な、なんで私が・・・他の人に頼んでよ」

響紀「明日香ちゃん以外にやってくれそうな人はいないんですよねー。(少し間を開けて)だから明日香ちゃん、お願い」


 少しの沈黙が流れる


明日香「(顔を逸らしたまま)文芸部と軽音部の連中は?」

響紀「みんな他のことで忙しいですから」


 再び沈黙が流れる

 響紀のことを見る明日香


明日香「(響紀のことを見ながら)ほんとに・・・私で良いの?」


◯596波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)

 昼休み

 教室の隅にパソコン六台と、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある

 昼食を食べ終えた鳴海と菜摘


鳴海「放課後は俺んちなんだろ?」

菜摘「うん!」

鳴海「軽音部もセットなんだよな?」

菜摘「うん!!」

鳴海「何であいつらまで一緒なんだよ・・・」

菜摘「(大きな声で)鳴海くん!!!海外!!!」

鳴海「海外旅行が文芸部の最終目標なのか・・・?」

菜摘「海外旅行は、文芸部と軽音部の最終目標だよ!鳴海くん、朗読劇が終わったらみんなでグローバルな活動をしようね!」

鳴海「卒業記念のイベントにグローバルと軽音部は要らねえだろ・・・」

菜摘「えー、同じ感動を経験した仲間同士で旅に行くから面白いのにー」

鳴海「そりゃあ、みんなでワイワイしながら外国に行けたら楽しいだろうけどよ・・・前途多難な俺たちに、海外旅行はちょっとハードルが高過ぎるんじゃねえのか・・・?」

菜摘「私たちなら出来るって!!鳴海くん!!」

鳴海「俺たちなら・・・ね・・・」

菜摘「うん!!」


◯597波音高校二年生廊下(放課後/夕方)

 二年生廊下にいる鳴海、詩穂、真彩

 三人は部員募集の紙を持っている

 廊下にはほとんど生徒がいない

 夕日が廊下を赤く染めている


鳴海「じゃあ今日も・・・」

詩穂「(鳴海の話を遮って)鳴海先輩、もっと効果的な部員募集の方法はない?」

鳴海「あったらとっくに試してるよ」

真彩「物で釣るってのはどうっすかね?」

鳴海「物で?」

真彩「そうっす。新入部員にはもれなくコンソメ味のポテチチップスをプレゼントー!!とかとか」

鳴海「なぜコンソメ味のポテチチップスなんだ」

真彩「好物なのでつい」

鳴海「ポテチ程度で入部しようとする奴はいないと思うぞ・・・」

真彩「ぽ、ポテチ・・・程度・・・」

詩穂「先輩、図書カードは?」

鳴海「ポテチよりは良い考えだ」

真彩「それだったら私、金が欲しいっす」

詩穂「入部祝い金500円みたいな?」

真彩「そーそー、そんな感じー」

鳴海「げ、現金を直接渡すのはダメだろ」

詩穂「なら図書カードで」

真彩「商品券でも可」

鳴海「(呆れて)お前らほんと欲深いよな・・・」


 廊下の奥の方で、雪音と響紀が選挙活動を行っている

 鳴海は雪音と響紀がいることに気がつき、手を振る


鳴海「(雪音と響紀に手を振りながら)おーい!!!一条!!!響紀!!!」


 雪音と響紀が鳴海の声に気づき、鳴海たちのところにやって来る


響紀「お疲れ様です」

鳴海「おう」


 響紀と雪音は選挙活動のポスターを手に持っている


鳴海「ちょっと一条と響紀に聞きたいことがあるんだ」

雪音「何?」

鳴海「新入部員に図書カードをプレゼントするっていうアイデア、どう思う?」

響紀「良いと思います」

鳴海「一条は?」

雪音「お金で人は集まるけど、それはお金がある時だけだから。今後の文芸部のためにはならないかもね」

鳴海「そう・・・だよな・・・」


 少しの沈黙が流れる


響紀「図書カードを配るって考え、詩穂の?」

詩穂「(頷き)あったり〜。さすが響紀くん」

真彩「魔女っ子少女団の人手が足りなくなったら、うちらお金でバンドメンバーを集めるかなぁ?」


 顔を見合わせる響紀、詩穂、真彩


響紀「集めないに一票」

詩穂「集めないに二票」

真彩「からの集めないに三票」

鳴海「おい。自分らがやらねえことをよその部活に勧めんなよ」

詩穂「よそはよそ、うちはうち」

鳴海「部活の存続がかかってるんだ、真面目に頼むぞ」


 再び沈黙が流れる


雪音「部長の菜摘にも聞いてみたら?」

鳴海「ああ・・・」

雪音「まあ、聞くまでもなく答えは分かってるでしょうけど」


◯598波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 校庭では運動部が活動している

 教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 軽音部の部室にいる鳴海、菜摘、汐莉、詩穂、真彩

 椅子に座っている鳴海たち


菜摘「ダメダメダメ!!物で釣るなんて絶対にダメ!!」

鳴海「い、一応ダメな理由を教えてくれ」

菜摘「なんかずるしてるみたいじゃん!!」

鳴海「な、なるほど・・・」

汐莉「だいたい誰が図書カードを買うんですか?鳴海先輩ですか?じゃあ鳴海先輩で良いですねもう」

鳴海「か、勝手に決めるんじゃねえ!!」

汐莉「だって先輩たちが卒業したら、ほぼ無条件で私が図書カードマスターになること決定ですよ?だるいじゃないですかそれ」

鳴海「だ、だるいってお前な・・・金は文芸部を生かすための手段なんだぞ・・・」

汐莉「金の匂いでやってくる小バエなんて、文芸部には要らないんですが」

鳴海「し、しかし・・・このままだと部員が集まるかどうか・・・」

真彩「そうっすよ〜。今現在手応えなしっすからね〜」

菜摘「うーん・・・困ったなぁ・・・」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「10月中に新入部員が増えなかったら、図書カード配布にしません?」

真彩「さんせーっす」

鳴海「金で釣るのは俺も嫌だけど・・・廃部になるよかマシだろ」


 再び沈黙が流れる


汐莉「廃部も嫌だし・・・図書カードも嫌だし・・・まさに究極の選択ですね・・・」

菜摘「どうする?汐莉ちゃん」

汐莉「私は反対です。図書カード目当てで集まられても、やる気がなかったら困るだけじゃないですか」

菜摘「そうだね。(少し間を開けて)鳴海くん、やっぱり物で釣るのは無しで」

鳴海「(立ち上がり)うーっす。じゃあ撤退するぞー」


 立ち上がる詩穂と真彩


詩穂「あーあ、良い考えだと思ったのになー・・・」

真彩「後悔しても知らないぞ〜、汐莉〜」

汐莉「はいはい」


 部室を出る鳴海、詩穂、真彩


菜摘「あの三人、ちょっと息合ってきた?」

汐莉「そうですね。意外と良い凸凹コンビかも」


◯599鳴海の家に向かう道中(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 鳴海の家に向かっている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 部活帰りの学生がたくさんいる

 先頭で話をしている鳴海、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩

 

鳴海「なんでこんな大勢が俺の家に・・・」

嶺二「文句を言うなよ、俺んちだって明日は犠牲になるんだぜ・・・」

真彩「日替わりで家凸してるんすか?文芸部は」

雪音「そう。気分転換も兼ねてそれぞれの家に行くの」

詩穂「文芸部って色々ルールがあって大変なんですねえ」

嶺二「生やさしい部活じゃねーのが文芸部だからなー」

響紀「先輩たちが厳しくするから、明日香ちゃんは泣いたんです」

鳴海「そ、それとこれは別件だ・・・」

嶺二「いやでもよ、改めて言わしてもらうけど、あの時の鳴海マジで最低だったぞ」

鳴海「わ、分かってるってそんなことくらい」

響紀「本当に分かってるんですよね?先輩が犯した罪の重さを」

鳴海「あ、当たり前だろ!!」

真彩「あの明日香先輩と喧嘩するなんて、鳴海先輩もめちゃくちゃ気が立ってたんすねー」

嶺二「マジで、地球をぶっ壊ししそうな勢いでキレてたもんな、鳴海」

鳴海「アホか」

響紀「地球を破壊する勢いで泣かされた明日香ちゃんが可哀想・・・」

詩穂「今度は地球を救う勢いで謝罪しないといけませんね」

鳴海「何だよ地球を救う勢いって・・・てか別にそんなにキレてねえからな。話を盛るんじゃねえ」


 菜摘と汐莉は、鳴海たちより少し後ろを歩いている

 話をしている菜摘と汐莉


汐莉「先輩は鳴海先輩の家に行ったことがあるんですよね?」

菜摘「うん、あるよ」

汐莉「カップルとしてしなければならないこと、しました?」


 菜摘の顔が赤くなる


菜摘「えっ・・・な、何言ってるのかな汐莉ちゃん・・・わ、私たちは高校生なんだから、こ、高校生らしい秩序を重んじた行動を・・・」

汐莉「冗談です、菜摘先輩」

菜摘「そ、そっか・・・じょ、冗談だったんだ・・・」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「菜摘先輩」

菜摘「な、何?」

汐莉「昨日、私と鳴海先輩で買い物に行くって言った時、少し嬉しそうな顔をしませんでしたか」

菜摘「んー?そうかなー?」


◯600◯580の回想/早乙女家菜摘の自室(夜)

 菜摘の部屋にいる鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音

 菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある

 ベッドはマットレス、掛け布団、枕が片付けられ、骨組みだけの状態になっている


汐莉「私と鳴海先輩が買いに行きますよ」

菜摘「え、良いの?汐莉ちゃん」

汐莉「はい」

菜摘「それなら二人に頼もうかな!!」


◯601回想戻り/鳴海の家に向かう道中(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 鳴海の家に向かっている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 部活帰りの学生がたくさんいる

 菜摘と汐莉は、鳴海たちより少し後ろを歩いている

 話をしている菜摘と汐莉


汐莉「私にはそういう風に見えたんですけど・・・(少し間を開けて)ごめんなさい、変なことを言って」

菜摘「ううん」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「先輩たちは、もっと一緒にいる時間を増やしても良いんじゃないですか」


 鳴海のことを見る菜摘


菜摘「(鳴海のことを見たまま)今の鳴海くんは、私以上に私以外の人と過ごす時間が大切だから、それを奪うことは出来ないよ」

 

◯602貴志家リビング(夕方)

 鳴海の家に着いた鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 適当にカバンを置き、リビングの電気をつける鳴海


真彩「すげ〜、マジの一人暮らしだ〜」

鳴海「カバンとかはその辺に置いといてくれ。とりあえず文芸部はリビングで部誌作りな」

嶺二「は?リビングでやんの?」

鳴海「ああ。この人数じゃ、俺の部屋よりリビングの方が楽だからな」

嶺二「んだよつまんねー」


 その場にカバンを置く嶺二

 菜摘、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩も適当にカバンを置く

 文芸部員たちはカバンからパソコンと筆記用具を取り出す


菜摘「じゃあ部誌制作を始めよっか」

鳴海「おう」


 床に座りパソコンを立ち上げる文芸部員たち


詩穂「先輩、私たちは何をしてれば・・・」

菜摘「文芸部の作業が終わるまでは自由行動で良いよ」

詩穂「自由行動・・・」

菜摘「うん。部誌制作を切り上げた後、みんなで海外旅行について会議をしようね」


 少し沈黙が流れる


鳴海「永山たちは適当に遊んでてくれ」

真彩「なら先輩、ドッジボールして良いっすか?」

鳴海「ダメに決まってんだろ!!」

詩穂「ならバンドの練習を・・・」

鳴海「近所迷惑になるからやめろ!!」

響紀「すみません先輩、エロ本ありますか」

鳴海「ねえよ!!」

嶺二「嘘つけ。どーせ昨日の夜に隠したんだろ」

菜摘「そ、そうなの?鳴海くん」

鳴海「んなわけあるか!!!」

雪音「もしかして鳴海、DVD派?」

嶺二「あー、その可能性の方が高いな・・・どこかにアニマルビデオの購入履歴が・・・」

汐莉「通称AVですね」

嶺二「汐莉ちゃんの口からAVなんて言葉が飛び出るなんて・・・」

汐莉「嶺二先輩キモいです近付かないでくださいもう一度言いますがキモいです帰ってください」

嶺二「そこまで拒まなくても良くね・・・?」

汐莉「先輩がキモ過ぎたので言い過ぎました、よって先輩のせいです」


 再び沈黙が流れる


鳴海「アホな会話はこれで終わりだ。軽音部は適当に過ごしてくれ。以上」


 時間経過


 夜になっている

 それぞれリビングの好きな場所で、パソコンと向かい合ってタイピングをしている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音

 順調に部誌制作を行っている菜摘、汐莉、雪音

 鳴海と嶺二は文字を打っては消している

 響紀、詩穂、真彩はリビングにいない


◯603貴志家廊下(夜)

 廊下にいる響紀、詩穂、真彩

 鳴海の部屋の前で立ち止まっている三人

 

詩穂「これ、鳴海先輩の部屋じゃない?」

響紀「そうかも」


 躊躇なく扉を開け、鳴海の部屋に入る響紀


真彩「扉を開けるのに一切の躊躇いがなかったよね、今」

響紀「人の部屋に入るのに何で躊躇うの?」

真彩「逆になぜ君は躊躇わないんだ・・・?」

響紀「さあ?詩穂と真彩も入りなよ」


 少し悩んだ後、結局鳴海の部屋に入る詩穂と真彩

 鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない

 机の上には菜摘とのツーショット写真が飾られてある

 扉を閉める真彩


詩穂「(部屋を見ながら)男子校生とは思えないくらい質素な部屋・・・」

真彩「(部屋を見ながら)こりゃお宝はありそうにないかー・・・」


 響紀は鳴海の部屋の押し入れを勝手に開ける


真彩「またまた躊躇なく開けたね君は」

響紀「適当に過ごせって言われたじゃない」

真彩「適当に漁れと間違えてませんかね・・・」

響紀「(押し入れの中を覗きながら)漁るなとは言われてないし」


 詩穂と真彩も押し入れの中を覗く

 押し入れの中にはたくさんダンボール箱がある


詩穂「(押し入れを覗いたまま)質素なのは見かけだけか・・・」


 押し入れの中からダンボール箱を一箱取り出す響紀

 ダンボール箱には黒い太字で写真と書かれている

 息を吹きかけ、ダンボール箱のほこりを払い落とす響紀

 ダンボール箱を開ける響紀


真彩「めっちゃ鳴海先輩のプライバシーだけどもーいーや・・・」


 ダンボール箱の中にはたくさんのアルバム、アルバムに保管されていない大量の写真、写真立てなどが入っている

 一冊のアルバムを手に取る響紀

 アルバムを開く響紀

 鳴海、風夏の幼少期の頃の写真がアルバムの中に保管されている

 パラパラとアルバムをめくる響紀 

 詩穂と真彩もアルバムを見ている

 アルバムの写真の中には、鳴海の両親である紘と由香里が写っているものもある


詩穂「(アルバムを見ながら)鳴海先輩って一人暮らしなんだよね?親はどこにいるんだろ」


◯604貴志家リビング(夜)

 時刻は7時半過ぎ

 それぞれリビングの好きな場所で、パソコンと向かい合ってタイピングをしている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音

 順調に部誌制作を行っている菜摘、汐莉、雪音

 鳴海と嶺二は文字を打っては消している

 タイピングをやめる嶺二


嶺二「あー!!力出ねー!!」

鳴海「(タイピングをしながら)うるせえぞ嶺二」

汐莉「(タイピングをしながら)うるさいです嶺二先輩」

菜摘「(タイピングをしながら)静かにしなきゃダメだよ嶺二くん」

雪音「(タイピングをしながら)黙ってて嶺二」

嶺二「お前ら・・・もっと優しくしてくれたって良いじゃねーか・・・」


 鳴海、菜摘、汐莉、雪音のタイピングの音だけが響き渡る


嶺二「鳴海、エナジードリンクは?」

鳴海「(タイピングをしながら)ない」

嶺二「ふざけんなよ・・・てかエロ本を片付ける暇があるんだったらエナジードリンクくらい用意しとけ」

鳴海「(タイピングをしながら)ない物はないんだから脳みそを使ってやれることをしろ馬鹿」


 舌打ちをする嶺二

 タイピングをやめる雪音

 

雪音「響紀たちに買い物を頼まない?」

嶺二「エナジードリンクを買いに行かせるつもりか?」

雪音「そうじゃなくて晩御飯。この後も話し合いをするなら、素早く食べられる物の方が良いでしょ?」

菜摘「(タイピングをやめて)そうだね」

汐莉「(タイピングをやめて)お金を渡して、行って来てもらいますか」

鳴海「(タイピングをやめて)ああ」


 立ち上がる菜摘


菜摘「私、響紀ちゃんたちを呼んでくるよ」

鳴海「サンキュー、菜摘」


◯605貴志家廊下(夜)

 廊下にいる菜摘

 菜摘は鳴海の部屋の前で立ち止まっている

 部屋の中から響紀、詩穂、真彩の声が聞こえる

 扉をノックし開ける菜摘


菜摘「三人とも、ごめんだけどおつかいに行って・・・(真彩のことを見て)ん?何してるの?」


 慌ててダンボール箱を押し入れに戻そうとしている真彩

 真彩のことを見ている菜摘


真彩「(ダンボール箱を押し入れに戻そうとしながら)な、何でもないっす!!!」

菜摘「ここ、鳴海くんの部屋なんだよ。勝手に漁って怒られてもしら・・・」


 真彩はダンボール箱を押し入れに戻そうとしていたが、誤ってダンボール箱の中身をぶちまける

 部屋中にたくさんの写真、アルバム、写真立てが散らばる

 ダンボール箱を床に置き慌てて写真を拾う真彩

 響紀、詩穂も写真を拾う


詩穂「(写真を拾いながら)もー、鈍臭いなーほんと」

真彩「(写真を拾いながら)ご、ごめんごめん」


 菜摘も写真を拾う


菜摘「(写真を拾いながら)写真なんか見てたの?」

響紀「(写真を拾いながら)はい」

菜摘「(写真を拾いながら)ダメだよ、人の物を勝手に見たら」

響紀「(写真を拾いながら)ごめんなさい」


 菜摘は床に落ちていた一枚の写真を手に取る

 拾った一枚の写真を黙って見ている菜摘

 菜摘が見ている写真は、鳴海の母、由香里の波音高校入学時に撮影されたもので、波音高校の前に制服姿の由香里が立って写っている

 菜摘は足元に落ちていた一枚の写真を拾う

 その写真には、公園らしき場所で5、6歳ごろの鳴海と、由香里が手を繋ぎながら写っている

 波音高校入学時の由香里の写真と、幼き鳴海と手を繋いだ由香里の写真を見比べている菜摘

 少しの間、菜摘は二枚の写真を見続ける

 二枚の写真を制服の内ポケットに入れる菜摘

 詩穂が菜摘のことを見ている

 

詩穂「菜摘先輩、今写真を盗んだでしょ」

菜摘「借りただけだよ」

真彩「(写真を拾うのをやめて驚き)え!?パクったんすか!?」

菜摘「ううん。借りたの」


 菜摘は制服の内ポケットから、波音高校入学時の由香里の写真と、幼き鳴海と手を繋いだ由香里の写真を詩穂、真彩に見せる


菜摘「(二枚の写真を見せながら)後でちゃんと返すよ」

詩穂「(二枚の写真を見ながら)写真なんか、何に使うんです?」

菜摘「(二枚の写真を見せたまま)んー・・・プレゼントかな?」

真彩「(二枚の写真を見ながら)アルバムっすか?」

菜摘「(二枚の写真を見せたまま)うん、そんな感じの物だよ」

真彩「(二枚の写真を見たまま)ずいぶん曖昧なんすね」

菜摘「(二枚の写真を見せたまま)正確に言うとアルバムじゃないんだ」

詩穂「(二枚の写真を見たまま)何をプレゼントするんですか?」

菜摘「(二枚の写真を見せたまま)儚い奇跡と・・・過去へのチケット。それから夢の中の旅かな」


 菜摘は二枚の写真を制服の内ポケットにしまう


真彩「(不思議そうに)儚い・・・?過去・・・?夢・・・?」

菜摘「うん!」


 少しの沈黙が流れる


響紀「菜摘先輩・・・プレゼント選びのコツってありますか」

菜摘「えー?コツ?」

響紀「はい」

菜摘「相手が喜ぶ物をあげる、とか」

響紀「それが分からない時は?」

菜摘「うーん・・・」


 考え込む菜摘


詩穂「響紀くん、明日香先輩にプレゼントをあげるの?」

響紀「うん。だけど何が良いのか・・・」

菜摘「明日香ちゃんが貰って喜ぶものと言えば・・・(少し間を開けて)合格証明書・・・?」

真彩「合格証明書ってなんすか?」

菜摘「受験に合格したら貰える物だよ」

真彩「あー・・・はいはい・・・不可能なプレゼントを要求するタイプっすね・・・」

響紀「やっぱりここは手作りの歌を・・・」

詩穂「(響紀の話を遮って)嫌われちゃうよ、響紀くん」


 再び沈黙が流れる


菜摘「プレゼントとして一番良いのは、愛より軽くて、お金より価値のある物じゃないかな」


◯606早乙女家に向かう道中(夜)

 月が出ている

 菜摘を送っている鳴海

 街灯の下で立ち止まる菜摘

 菜摘に合わせて立ち止まる鳴海


菜摘「ありがとう鳴海くん、ここで大丈夫だよ」

鳴海「菜摘、家まで送るって言ってるだろ」

菜摘「(首を横に振って)ううん、平気」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「本当にこんなところで良いのかよ?」

菜摘「うん!」

鳴海「迷子になったりしないよな?」

菜摘「鳴海くん・・・私のこと、小さい子供だと思ってるよね?」

鳴海「わ、悪い悪い・・・でもひょっとしたらがあるだろ」

菜摘「ありません」

鳴海「菜摘、いきなり拉致されるかもしれないんだぞ」

菜摘「誰が私を拉致するの?」

鳴海「そ、それは・・・分かんねえけど・・・」


 再び沈黙が流れる


菜摘「鳴海くん、ちょっとは私のことを信じてよ」

鳴海「すまん・・・(少し間を開けて)でもさ、こんな時間に一人で帰らせるのは・・・」

菜摘「(鳴海の話を遮って)でもはなし!!」

鳴海「だ、だけど・・・」

菜摘「だけどもなし!!」


 ため息を吐く鳴海


鳴海「しょうがねえな・・・」

菜摘「鳴海くんは全部私に任せてれば良いの」


◯607◯592の回想/鳴海の夢/緋空寺/境内(夕方)

 夕日が沈みけている

 緋空寺境内にいる鳴海、佐田奈緒衛、凛

 人の手入れが全くされていない寺

 寺の屋根の一部分が壊れている

 雑草が生い茂り、かつて舗装されていたであろう道は砂利で荒れ果てている

 手水舎には水が入っていない

 寺の賽銭箱はひっくり返っている

 鳴海の正面に立っている奈緒衛

 奈緒衛は日本刀を鳴海に向けている

 鳴海の後ろには凛が立っている


凛「天によって仕組まれたことは、菜摘様に任せるのが一番でございましょう」


◯608回想戻り/早乙女家に向かう道中(夜)

 月が出ている

 街灯の下にいる鳴海と菜摘

 

鳴海「菜摘・・・お前が・・・」

菜摘「どうしたの?」

鳴海「いや・・・なんて言ったら良いのか・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「観光地、調べておいてね」

鳴海「ん・・・?観光地?」

菜摘「フランスの観光地!!」

鳴海「あー・・・気が向いたらな・・・」

菜摘「気が向かなくても調べなきゃダメだよ!!厳選なる話し合いの結果フランス旅行が確定したんだから!!」

鳴海「そんなことを言ったって、フランスで行きたい場所なんて十ヶ所も思いつかねえよ・・・」

菜摘「ダメ!!!生徒会選挙が終わったら一人十ヶ所発表するの!!!」

鳴海「三ヶ所で限界だ」

菜摘「ダメったらダメ!!!」

鳴海「な、菜摘・・・最近圧が強くないか・・・?」

菜摘「鳴海くんが弱いんだよ!!!」

鳴海「そ、そんなことないだろ・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「なあ菜摘、フランスじゃなくて北海道にしないか?冬休みを有効活用してさ、みんなでスキーかスノボーにでも・・・」


 話途中の鳴海の唇に右手の指先を置く菜摘

 黙る鳴海

 菜摘は少しの間、鳴海の唇の上に右手の指先を置き続ける

 鳴海の唇に乗せていた右手の指先を、今度は自分の唇の上に置く菜摘

 少ししてから右手の指先を唇から離す菜摘


菜摘「(微笑んで)また会おうねの指先のキス」

鳴海「(不思議そうに)どうして指先なんだ?」

菜摘「(微笑んだまま)まだ赤くないから」

鳴海「(不思議そうに)赤く・・・?」

菜摘「(微笑んだまま)うん」


 菜摘は小走りで鳴海から離れ、立ち止まって振り返る


菜摘「(振り返ったまま右手を振って)バイバイ!!鳴海くん!!」

鳴海「き、気をつけて帰れよ!!」

菜摘「(振り返ったまま右手を振り続け)鳴海くんもね!!」

鳴海「おう!!」


 菜摘は前を向き、走って行く

 鳴海は菜摘の姿が見えなくなるまで街灯の下に居続ける

 菜摘の姿が見えなくなったのを確認し、鳴海はゆっくり歩き始める

 鳴海は自宅に向かっている


 時間経過


 走るのをやめ、立ち止まる菜摘

 息切れをしている菜摘

 

菜摘「(息切れしながら)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・(激しく咳き込み)ゲホッ・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・」


 右手で口を押さえながら激しく咳き込む菜摘

 菜摘はしばらくの間咳き込み続ける

 咳が止まった後、右手で口を押さえるのをやめる菜摘

 右手を見る菜摘

 菜摘の右手には血がついている

 菜摘は左手を使ってポケットからハンカチを取り出す

 右手についた血をハンカチで拭う菜摘

 菜摘の瞳から涙が溢れる

 ハンカチを持ったゆっくり歩き出す菜摘

 菜摘は泣きながら歩いている

 

菜摘「(泣きながら 声 モノローグ)鳴海くんへ・・・たくさんのごめんなさいと、たくさんのありがとうを鳴海くんには伝えなきゃいけないのに、私が鳴海くんに伝えられたごめんなさいとありがとうは、少ししかないよね。ごめんね、ありがとう。(少し間を開けて)たとえ500年前に、私たちの奥底に眠る魂の人たちが交わっていなくても、私は鳴海くんを好きになったと思う。でもね、500年前にあったことは消せないから・・・私の魂に呪いとして残っちゃったから・・・与えられた時間と小さな奇跡の力で、私は出来ることをしなきゃいけないんだ」


◯609公園(夜)

 月が出ている

 公園の水道水で、一人泣きながらハンカチを洗っている菜摘

 ハンカチについた血はなかなか取れない

 公園の時計は9時前を指している


菜摘「(泣きながらハンカチを洗い 声 モノローグ)鳴海くんは、奇跡の代償が怖いんだよね。怖がらないでって言ってあげたいけど、出来ないよ・・・私の言葉は鳴海くんに届かないもの・・・愛してるのに、言葉が届かないなんて寂しいね。不器用でごめんなさい。500年前から、そういうところだけは変わってないみたい」


 公園のベンチに制服姿の荻原早季が座っている

 早季はベンチに座ったまま菜摘のことを見ている

 早季が見ていることに気づく菜摘

 ハンカチを洗うのをやめる菜摘

 菜摘は涙を拭う

 見つめ合っている菜摘と早季

 二人の瞳には反射したお互いの姿と、あるはずのない海が映っている


菜摘「(声 モノローグ)私ね、気付いちゃったんだ。私には鳴海くんの心は守れないし、言葉を届けることも出来ないって。鳴海くんが失う恐怖から救われるには、私以外の人の力が必要なんだよ」


 立ち上がる早季

 早季は菜摘の方へ近づいてくる


◯610南家汐莉の自室(夜)

 汐莉は机に向かって椅子に座り、20Years Diaryに日記をつけている

 汐莉は日記に、”菜摘先輩に期待されてる、だけど応えられない”と書く

 汐莉はスマホで音楽を聞いている

 汐莉が聞いているのはサイモン&ガーファンクルのコンドルは飛んで行く


菜摘「(声 モノローグ)きっとその人は鳴海くんのことを理解していて」


◯611白石家嶺二の自室(夜)

 少し散らかっている嶺二の部屋

 ベッドの上で横になってスマホを見ている嶺二

 机の上にはChapter2の終盤で千春が使っていた剣のかけらが置いてある


菜摘「(声 モノローグ)鳴海くんに言葉を届けることが出来るんだ」


◯612波児商店街/ゲームセンターギャラクシーフィールドの店前(夜)

 商店街にはほとんど人がおらず、お店の多くは営業を終えている

 ゲームセンターギャラクシーフィールドも営業を終えている

 ゲームセンターギャラクシーフィールドはシャッターが下りている

 ゲームセンターギャラクシーフィールドの店前で体育座りをして、寂しそうに俯いている千春がいる

 千春の目の前には、Chapter2の終盤で千春が使っていた刃の欠けた剣が置いてある

 

菜摘「(声 モノローグ)私じゃない。私は鳴海くんを愛してるけど、愛してる分、力にはなれないよ」


◯613天城家明日香の自室(夜)

 机に向かって椅子に座り受験勉強をしている明日香

 明日香は古典の問題集を解いている


菜摘「(声 モノローグ)私たちはお互い救えない因果関係にあるんだと思う」


◯614帰路(夜)

 月が出ている

 家に向かってゆっくり歩いている鳴海


菜摘「(声 モノローグ)鳴海くんが私のために、私のことを思って行動してくれるのは嬉しいけど・・・とても辛い。だって私は死んじゃうから・・・もう助からないから・・・(少し間を開けて)私は鳴海くんを守れないし、鳴海くんは私を助けられない。それでも、私のことを信じて・・・私に委ねて欲しい」


◯615滅びかけた世界:波音高校に向かう道中(夕方)

 夕日が沈みかけている

 波音高校に向かっているナツ、スズ、老人

 三人は灰の入ったビニール袋を持っている

 ビニール袋の中は灰でいっぱいになっている

 建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている

 道には乗り捨てられた車、自転車、バイクが置いてある

 ナツとスズは老人より前を歩いている

 老人はゆっくり歩きながらタバコを吸っている


菜摘「(声 モノローグ)鳴海くんが何かしようとすればするほど、後で鳴海くんが傷つくって知ってるから・・・それだったらもう、鳴海くんは何もしない方が良い。守れないんだったら、守ろうとしない方が良いに決まってる。自分に絶望してしまう鳴海くんの姿を見るのは、私だって辛いよ。(少し間を開けて)一番嫌なのは私が死んだ後、鳴海くんが一人ぼっちになってしまうこと。友達も、家族もいない、一人ぼっちの鳴海くん・・・時々、孤独な鳴海くんを想像しちゃうんだけど、大丈夫だよね?私が死んでも、鳴海くんの周りには友達がいるよね?未来の鳴海くんが、世界や、周りの人たちと離れ離れになっていないか心配だよ。私への愛が、鳴海くんの唯一の生きる活力になってないと良いけど・・・どうかな・・・」


 老人はタバコの煙を吐き出す


菜摘「(声 モノローグ)あんまり心配ばかりしても、きっと鳴海くんは怒っちゃうから、もうこれ以上は余計な言葉を書かないことにするね」


◯616早乙女家菜摘の自室(深夜)

 時刻は午前2時ごろ

 菜摘は机に向かって手紙を書いている

 机の上にはたくさんのレターセットが置いてある

 菜摘は”輝く奇跡よりも美しくて楽しい毎日をありがとう、持てる全ての愛を鳴海くんへ捧げて。”と手紙に書き、便箋を封筒に入れる

 封筒に”鳴海くんへ”と書く菜摘

 菜摘は新しくレターセットを手に取り、手紙を書き始める

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