Chapter 2 √文芸部×青春(学園祭+恋)-放送少女ト盲目少女=未来世紀ナミネ 前編
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter 2 √文芸部×青春(学園祭+恋)-放送少女ト盲目少女=未来世紀ナミネ
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家、滅びかけた世界で“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。ナツと一緒に“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、学校をサボりがち。運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、鳴海と同じように学校をサボりダラダラしながら日々を過ごす。不真面目。絶賛彼女募集中。文芸部部員。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。
柊木 千春
身元がよく分からない少女、“ゲームセンターで遊びませんか?”というビラを町中で配っている。礼儀正しく物静かな性格。波音高校の生徒のフリをしながら文芸部に参加している。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。天文学部部長。不治の病に侵された姉、智秋がいる。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎40歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。怒った時の怖さとうざさは異常。
有馬 勇ゲームセンターのおじいちゃん(64歳)
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主、古き良きレトロゲームを揃えているが、最近は客足が少ない。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ智秋の病気を治すために医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
高校を卒業をしてからしばらくして病気を発症、原因は不明。現在は入院中。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった
白羽天使
女性八人で構成されるボーカルユニット(アイドル)
若者の間で流行っている
Chapter 2 √文芸部×青春(学園祭+恋)-放送少女ト盲目少女=未来世紀ナミネ 前編
◯110滅びかけた世界:波音高校廊下(日替わり/雨/昼過ぎ)
廊下を歩いているナツとスズ
雨は変わらず降り続いている
本やらたくさんの荷物を持っている二人
特別教室の四と書かれている教室の前で立ち止まるスズ
スズ「特別教室だって、ここも入ってみようよー」
ナツは立ち止まらず歩く
ナツ「図書館に行く」
スズ「えー、なんでよー」
ナツ「昔の本には私たちの知らないことが載ってる、読んだ方がいい」
スズ「でもおもんないよ、本」
ナツ「おもんないとか、おもろいとか、そういう枠で考えることじゃないだろ」
スズ「この部屋も入ろうよー、もしかしたら何かあるかもしれないよ」
ナツ「(立ち止まり)探検してるんじゃないんだから・・・」
スズ「では、失礼します!!」
ナツ「あ、スズ!!」
スズは扉を勢いよく開ける
◯111波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
運動部の掛け声が開けた窓から聞こえる部室
部室にはノートパソコン六台とプリンターがある
ノートパソコンはWordを開いている
黒板の前に立っている菜摘
黒板と対面して着席している鳴海、嶺二、明日香、汐莉、千春
それぞれ一人につき一台のパソコンが置いてある
黒板には文芸部活動内容と書いてある
菜摘「じゃあこういうことをしたいっていう具体的なアイデアがある人!挙手してね」
顔を見合わせる鳴海、嶺二、明日香、汐莉、千春
誰も挙手しない
鳴海「したいことって言われてもなぁ・・・」
嶺二「今更だけど文芸部って具体的に何をすればいいんや・・・」
汐莉「リレー小説でもしちゃいます?」
千春「リレー小説?」
汐莉「みんなで交代しながら一つの小説を作っていくことをリレー小説っていうんだよ」
千春「文芸部はリレー小説をすることが多いんですか?」
菜摘「そういうことも出来るよね。でもそれだけが活動なのはあんまりかな・・・」
明日香「待って待って、まずは創設者の菜摘がしたいことを提案するべきなんじゃない?」
嶺二「賛成」
菜摘「でもそれだとみんなが嫌になっちゃう気がして・・・」
鳴海「ここは早乙女が作った部なんだからいいだろ」
千春「菜摘さんが提案したことをベースに、出来ることを少しずつ増やしていけば良いのでは?」
明日香「文芸部でやってみたいこと、何かしらあるでしょ?」
考え込む菜摘
菜摘「神谷先生は月に一度執筆したものを公開しなさいって言ってたから・・・」
黒板の方を向く菜摘
大きな字で月に一冊部誌を作る!と書く菜摘
菜摘「文芸部誌をみんなで作ろう!」
汐莉「おおー!」
明日香「まさに文芸部っぽい活動ね」
菜摘「小説、詩、新聞、評論とかを書いてそれを一冊にまとめる、どうかな?」
嶺二「良いじゃん良いじゃん、文芸って感じがして!!」
千春「その部誌の中にゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の宣伝も入れていいでしょうか?」
明日香「どうしてゲームセンターの宣伝なんか入れるの?」
嶺二「ばっか野郎!千春ちゃんにはな・・・金が必要なんだよ!!」
千春「こ、高校に入るにはお金がたくさん必要なので・・・」
明日香「なら私もバイト先の宣伝しようかな・・・」
鳴海「あと学園祭に合わせて何かしろって言われたけどどうする?学園祭六月初旬だぞ」
汐莉「学園祭の準備と月に一冊部誌を執筆、やること多すぎません?」
菜摘「学園祭は朗読会をしたいなぁ・・・」
明日香「朗読する題材は?」
菜摘「それは・・・あったり・・・なかったり・・・」
明日香「微妙な感じね・・・」
嶺二「それこそ部誌で作った話を朗読すればよくね?」
鳴海「学園祭まであと二ヶ月もないって考えればそれが妥当な気がする」
菜摘「短いスパンで何個も何個も物語は作れないし、私もそれで良い思う」
汐莉「今月分の部誌を作るのが先決なんですよね?まずは部誌を完成させて、その中の作品を一つ選ぶか、みんなの作品を合わせたやつにするか・・・」
菜摘「とりあえず今月の部誌はそれぞれ違うジャンルの小説を書くことにする?」
嶺二「俺小説なんか書けねえよ・・・どうすりゃいいんだ・・・」
明日香「私も・・・小説なんか書いたことない・・・羞恥心で気が狂うかも」
鳴海「俺、嶺二、明日香の作品には期待出来ないな」
強く頷く嶺二と明日香
菜摘「千春ちゃんは書けそう?」
千春「物語なら何でもいいんですか?」
菜摘「何でも良いよ」
千春「多分、書けると思いますけど・・・自信はありません・・・」
菜摘「汐莉ちゃんは?」
汐莉「小説は書いたことありませんけど、普段作詞とかしてるんで問題ないかと」
菜摘「流石だね」
嶺二「汐莉ちゃん作詞なんかすんの」
汐莉「作詞くらいしますよ、これでも軽音楽部のボーカルなんで」
明日香「ボーカルなんだ!歌聞いてみたい」
汐莉「学園祭で歌いますよ、前座ですけど」
嶺二「なんか試しに歌ってよ」
汐莉「私の歌は学園祭まで楽しみにしててください」
嶺二「えー、はよ聞きたいわ」
鳴海「そんなことより部誌はどうすんのさ、早く決めなきゃやばいだろ」
菜摘「話が被らないようにジャンルだけ分けようか」
鳴海「だな」
菜摘は黒板の方へ向き小説のジャンルを書いていく
書かれたのは恋愛、ミステリー、ホラー、学園、ファンタジー、SF、スポーツ
嶺二「マジかマジか!?いよいよ俺の文才が爆発しなきゃいけない時がきたんだな・・・」
汐莉「私、ラノベがいいです」
ライトノベルと黒板に書き足す菜摘
菜摘「ライトノベルが書きたい人は汐莉ちゃん以外いない?」
誰も挙手しない
菜摘「じゃあ決まりだね、汐莉ちゃんはライトノベル」
汐莉「ライトノベルとかいう何を書いても許されるジャンルをゲット!!」
ライトノベルの下に汐莉ちゃんと書く菜摘
菜摘「恋愛が書きたい人は?」
誰も挙手をしない
菜摘「ミステリーが書きたい人は?」
誰も挙手をしない
菜摘「ホラーが書きたい人は?」
鳴海「(誰も手を挙げないのを見てから)あ、じゃあ俺ホラー」
明日香「鳴海がホラー書くの!?」
鳴海「ああ」
嶺二「なぜホラー?」
鳴海「いやだって書きやすそうじゃんか、呪いのビデオとか呪いの人形とかそういう設定を使っちゃえば」
明日香「あー!言われてみれば確かに!ホラーを選べば良かった・・・」
菜摘「他にホラーが書きたい人はいない?」
誰も挙手しない
菜摘「貴志くんがホラーね」
嶺二「人生初の執筆でホラーを選ぶあたり如何に鳴海が変人であるかが容易に分かる」
鳴海「うるせえいいだろ」
ホラーの下に貴志くんと書く菜摘
菜摘「学園が書きたい人は?」
凄まじい勢いで挙手する嶺二と明日香
菜摘「ああ・・・どうしよう」
汐莉「公平にじゃんけんで決めましょう」
嶺二「仕方がねえな明日香、今回ばかりは譲れないぜ・・・」
明日香「私だってこれ以外のジャンルは不可能なの!負けられない!」
嶺二「女子なんだから大人しく恋愛を選べばいいものを・・・」
明日香「は?女子だからと言ってみんながみんな恋愛小説を好きなわけじゃないし!」
嶺二「そんなに嫌なら明日香が負けたら恋愛小説を書け」
明日香「ふざけんな、それならあんたも負けたら恋愛小説にしなさいよ!」
嶺二「良かろう。何かを賭けた時の方が、俺の勝率は通常よりもはるかに高くなるということを貴様に教えてやろう!!」
時間経過
明日香がじゃんけんに勝利する
意気消沈している嶺二
菜摘「明日香ちゃんが学園・・・」
学園の下に明日香ちゃんと書く菜摘
嶺二「くそっ・・・こんなのあんまりだ・・・不可抗力じゃないか・・・」
千春「恋愛でも素敵な物語は作れますよ、私は嶺二さんが書く恋愛小説を読んでみたいです」
嶺二「ほんと!?」
千春「はい、読んでみたいです」
嶺二「(立ち上がりながら)俺の執筆人生もまだスリーアウトじゃねえってことか・・・俺、必ずホームランを打つから!!甲子園で待っててくれ!」
千春「こうしえん・・・?」
明日香「(嶺二をひっぱたきながら)意味不明なこと言うな!」
嶺二「痛え」
叩かれたところを手で押さえている嶺二
菜摘「千春ちゃんは何書く?」
千春「私はファンタジーでお願いします」
菜摘「ファンタジーだね、了解」
恋愛の下に白石くんと書く菜摘
ファンタジーの下に千春ちゃんと書く菜摘
鳴海「早乙女は何にするんだ?」
菜摘「私はSFにするよ」
SFの下に早乙女と書く菜摘
鳴海「締め切りはいつにする?」
菜摘「四月末かな、すぐには出来ないし」
鳴海「それって今月号じゃなくて五月号だな」
菜摘「言われてみればそうだね、分かりやすく締め切りは四月二十五日にしよう」
汐莉「二週間ない・・・高速で書き上げないと」
鳴海「戒めとして期日までに完成しなかったやつは全員に昼飯を奢るっていうのはどうよ」
菜摘「いいね!!何か縛りがある方が順調に進むかも!」
嶺二「やばくね?ずっと書き続ける生活じゃんそれ」
鳴海「それが文芸部なんだから当たり前だろ」
明日香「寡作な作家でいたかった・・・」
神谷が部室に入ってくる
神谷「どうよどうよ、部活動の方は」
菜摘「月に一冊部誌を出すことにしました」
神谷「文芸部としてノルマの活動だな」
菜摘「今から作業開始です」
嶺二「いきなり過ぎる!」
菜摘は着席する
既に千春は情報処理部から譲り受けたローマ字入力表を横見しながら文字を打ち始めている
汐莉も打ち始める
鳴海「俺も始めるかぁ・・・」
明日香「出来るの?」
鳴海「出来ないけど試すしかない、全員に飯を奢れるほど俺は裕福じゃないんだ」
明日香「(ため息を吐く)それは私もそうなんだけど・・・」
嶺二「(パソコンと睨めっこしながら)何をどう書けばいいのか全く分からん!!!」
神谷「最初なんだから書きたいことを好きなような書けばいい」
嶺二「それが分からないんすよ!!」
菜摘、鳴海も打ち始める
カバンからBluetoothの小型スピーカーを取り出す汐莉
スマホを取り出す汐莉
汐莉「(タイピングを止めて)白石先輩、明日香先輩、自分の限界を超えましょう!!」
神谷「そうそう、挑戦すればいずれ出来るようになる。そんじゃみんな頑張ってな」
神谷が部室を出て行く
スピーカーから音楽が流れ始める
菜摘「(タイピングを止めて)これって白羽天使の新しい曲?」
汐莉「(タイピングを止めて)そうですよ」
鳴海「(タイピングを止めて)白羽天使・・・?」
菜摘「(タイピングを止めて)最近流行ってるグループだよ」
鳴海「(タイピングを止めて)全然知らん」
明日香「この間テレビに出てたよね」
鳴海、菜摘、明日香、汐莉が喋っている中、黙々と打ち続ける千春
嶺二はパソコンと睨めっこしながら考え込んでいる
汐莉「(タイピングを止めて)今流してるのは白羽天使の新曲、“黒い限界、夜まで壊せ”です」
鳴海「(タイピングを止めて)初めて聞くわ」
明日香「私もこの曲は知らない」
汐莉「(タイピングを止めて)気合入りますよ、お勧めです」
菜摘「うん、頑張ろう!!」
汐莉「はい!」
タイピングを再開する鳴海、菜摘、汐莉
白羽天使「(♪黒い限界、夜まで壊せ)限界でも止まるな 星まで届けろ 黒く汚れたドル箱を睨み 鷹の子になる」
明日香、嶺二はまだ何も打っていない
嶺二は黙々と打ち続ける千春の姿を見る
◯112早乙女家リビング(夜)
椅子に座っている菜摘、千春、潤、すみれ
夕飯時、メニューはハンバーグ
皆楽しそうに喋り、美味しそうに食べる
白羽天使「(♪黒い限界、夜まで壊せ)灰羽を吹き荒らすと 彗星が目に反射した」
◯113波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来ていない
生徒たちは喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりして過ごしている
鳴海、菜摘、嶺二、明日香の四人が窓際で楽しそうに喋っている
白羽天使「(♪黒い限界、夜まで壊せ)暗闇まで通す力で 緋色に変える」
◯114波音町の歩道(朝)
通勤、通学している人々で道は混んでいる
千春がビラ配りをしている
忙しい朝の時間、受け取らずに通り過ぎて行く人ばかり
白羽天使「(♪黒い限界、夜まで壊せ)黒い壁を越えろ 押せ 飛べ 越えろ」
◯115波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
放課後、各部の活動が始まっている時間
汐莉以外のメンバーがパソコンと向き合っている
タイピングしては止まり、消して再び打ち直す鳴海
ただひたすら文字を打ち続ける菜摘と千春
嶺二と明日香は少しずつだが文字を打ち込んでいる
白羽天使「(♪黒い限界、夜まで壊せ)紺色を弾け 消せ 青空まで」
◯116波音高校軽音学部室(放課後/夕方)
汐莉がボーカルの曲を練習している
汐莉の歌に合わせてバンドを演奏する軽音楽部員たち
時間経過
休憩をとっているバンドメンバー
飲み食いをしたり、スマホを見ているメンバーがいる中、汐莉は20Years Diaryに日記をつけている
白羽天使「(♪黒い限界、夜まで壊せ)送り出した 止まった奴らの足跡を」
◯117波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
神谷が部室にいる
各々のペースではあるものの順調に物語を作っている文芸部員たち
それぞれのパソコンを覗き、執筆の進捗状況を見ている神谷
白羽天使「(♪黒い限界、夜まで壊せ)黄金のgirlに続く goldに燃えた勢いを持って 行進する」
◯118帰路(放課後/夕方)
一緒に帰っている鳴海、菜摘、嶺二、明日香、千春
楽しそうに喋りながら歩いている一同
白羽天使「(♪黒い限界、夜まで壊せ)黒くなった宇宙まで 黄金虫が飛んだ 星の砂になって」
◯119貴志家鳴海の自室(朝/日替わり)
カーテンの隙間から日が差し込む
ベッドで寝ている鳴海
時刻は六時半
字幕「四月二十五日・・・文芸部小説締切日」
目覚ましが鳴り響く
目覚ましを叩き、音を止める鳴海
ノロノロとベッドから出る鳴海
◯120波音高校三年三組の教室(朝)
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来てない
生徒たちは喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
窓際で喋っている鳴海、菜摘、明日香
菜摘「みんなの作品を読むのが楽しみ」
鳴海「一応書けたけど、自信ねえ」
明日香「私だって・・・もしも自分の書いた話が学園祭で披露するってなったら・・・」
菜摘「それはそれで良い思い出になるよ、高校最後の学園祭だからね」
鳴海「今まで学園祭なんてリア充イベントに参加して来なかったからこそ、逆に嫌な思い出にならないか心配だ」
明日香「ほんとそう、最後に恥を晒すのは嫌」
菜摘「恥をかいてもいつか笑い飛ばせる日が来るって、多分・・・」
鳴海「多分・・・」
明日香「多分ね・・・」
嶺二が教室に入ってくる
嶺二は自分の席にカバンを置いて鳴海たちところへやってくる
嶺二「おはっす」
鳴海「よう」
明日香「おはよう」
菜摘「おはよう、今日締切日だけどちゃんと書き終えた?」
嶺二「ま、まあね」
明日香「珍しく自信なさげね」
嶺二「そりゃそうだろ!小説なんか書いたことないんだぞ!」
鳴海「てか嶺二、普段の課題もちゃんと期限を守れよ」
嶺二「お前が言うな。課題は提出しなくても金を取らねえけど、今回はみんなに昼飯に奢れっていう鬼畜ルールがあったからオールして書き上げたんだよ」
菜摘「徹夜したんだ、やるね白石くん」
明日香「期待しちゃう」
嶺二「いや、期待はするな。史上最強にショボイ小説なんだ」
鳴海「自分のを人に読ませるのは恥ずいけど、人のを読むのは楽しみだな」
菜摘「自分の作品を人に読んでもらうことも大切だよ?人の意見は今後の作品に生かされるんだから」
鳴海「それでも恥ずいわ」
神谷が教室に入ってくる
明日香「放課後は公開処刑の時間ね」
嶺二「おっそろしい」
神谷「(黒板の前に立ち)座れ座れー、HR始めんぞー」
ドタバタと自分の席に戻っていく生徒たち
着席する鳴海、菜摘、明日香、嶺二
騒がしかった教室全体が静かになる
鳴海は隠しながらスマホを見ている
神谷「(プリントを配りながら)大事なプリントを配るから無くすなよ!」
プリントを後ろに回していく生徒たち
新着メッセージに気付きLINEを開く鳴海
菜摘からのLINE
“昨日、ゲームセンターの広告を千春ちゃんと作ったんだけどこんな感じでいいと思う?”というメッセージと写真が送られている
鳴海はスマホからを目を逸らし前から回ってきたプリントを受け取り、後ろに回す
菜摘はスマホを見ている
菜摘がスマホを見ていることを視認する鳴海
再びスマホを見る鳴海
“良い感じだな、たくさんの生徒が読めば宣伝効果も期待出来そう“と返信する鳴海
神谷「プリント足りないところない?」
クラス全員がプリントを持っている
鳴海のメッセージはすぐ既読が付く
“これで千春ちゃんの記憶が戻ってくるかな・・・本人は記憶よりゲームセンターのことを気にしてるみたい”というメッセージが菜摘から来る
神谷「まずは表の面、皆さんは今年から選挙権が与えられますって書いてある方を見ろ。公民?でやったと思うけど、みんな今年から選挙に行けるんだ。このプリントは選挙について詳しいことが・・・」
“記憶よりゲーセンの方が大事ってどういうことなんだろ、ゲーセンと記憶は何らかの形で繋がってるのかも”とメッセージを送る鳴海
鳴海のメッセージはすぐ既読が付く
“明日、土曜日だし私たちだけでゲームセンターギャラクシーフィールドに行ってみない?というメッセージが菜摘から来る
鳴海はどう返信しようか悩んでいる
“いいよ 他のメンバーには悟られないように注意して記憶について調べよう”というメッセージを送る鳴海
鳴海のメッセージはすぐ既読が付く
“そうだね 波音駅の前 昼の一時集合で良い?”というメッセージが菜摘から来る
“了解”と送る鳴海
神谷「ニュースで見たことあるだろ、若い人が投票に行かないって。そうならないように必ず投票に行ってください。大したことないって思ってる人もいるだろうけど、みんなの票で決まることもあるからね」
◯121波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
パソコンは隅の方に閉まってある
丸い形を作り椅子に座っている文芸部員一同
印刷したそれぞれの小説を静かに回し読みしている
読み終えると隣に小説を回す
時間経過
全員が全員の作品を読み終えて、手元には自分の作品が戻ってきている
菜摘「これで・・・一周した?」
鳴海「全員分読んだね、手元に自分の書いたやつが戻って来てるし」
明日香「ど、どうする?」
嶺二「ど、どれを朗読劇に使おうか・・・」
緊張気味の明日香と嶺二
千春「選ぶ前にそれぞれ感想を言った方がいいのではないでしょうか」
菜摘「うん、感想聞きたいよ」
汐莉「じゃあまずは部長の作品について、一人ずつ感想を言いますか」
菜摘「私の作品から!?」
汐莉「ここは菜摘先輩の作品からいきましょ!!」
鳴海「せやな」
少しの沈黙が流れる
菜摘「ど、どうだった・・・?」
鳴海「面白かったよ、ロボットと少年が旅をするっていう設定もSFだったしな」
汐莉「すごくエモかったです、世界観がしっかりしてて・・・早く続きが読みたいです!」
菜摘「(照れながら)あ、ありがとう」
千春「読んでると感情移入がしやすくて、思わず応援してしまうような作品でした。私も続きが気になります」
明日香「さすが部長って感じ、読んでて飽きない工夫がされてるのが良いね」
菜摘「(嬉しそうに)ありがとう」
嶺二「俺好みの話だった、アメリカで映画化とかしたらすげえヒットしそう」
菜摘「(嬉しそうに)みんなありがとう!頑張って続きを書きます!」
鳴海「これを学園祭で使う題材にしてもいいかもな!」
菜摘「私のは物語が完結してないからあれだけど・・・次は誰の作品の感想にする?」
汐莉「副部長の貴志先輩で行きましょ!」
鳴海「俺かいな」
嶺二「鳴海のはむずいな・・・」
菜摘「貴志くんのは・・・」
明日香「なんていうか・・・(考え込む)うーん・・・闇が深めだった」
汐莉「これはこれで世界観が確立されまくってますね」
千春「私は好きですよ、こういう話も」
嶺二「これ、部誌に載せてら批判されるんじゃね?」
菜摘「ホラーはホラーだけど・・・かなり攻めた内容だったよね。議論をするっていう意味では一番いろんな感想が出るから面白いかも・・・」
鳴海「もうやめてくれみんな・・・中途半端なフォローはむしろ心が痛む・・・俺のはいいから嶺二の作品の感想を・・・」
嶺二「鳴海みたいになりたくないんで感想はお手柔らかにおなしゃす」
明日香「嶺二のはさ、ベタベタだったよね。物凄く無難というか」
汐莉「菜摘先輩や貴志先輩に比べるとめちゃくちゃ普通でした」
鳴海「(小声でボソッと)俺の作品は普通じゃない・・・」
嶺二「俺は普通を目指したの。誰も傷つかない作品なんだからこれは」
千春「私は面白かったです。確かに普通かもしれないけど、普通だからこそ安心して楽しめました」
菜摘「うんうん、分かりやすいから読みやすかった。少女漫画みたいで」
嶺二「純粋な俺の心が物語に投影されたんだな!」
鳴海「(小声でボソッと)どうせ俺の心は純粋じゃなくて歪みまくってるのさ・・・」
汐莉「貴志先輩がメンヘラと化した」
鳴海「メンヘラ言うな」
嶺二「(笑いながら)貴志メンヘラ鳴海だな」
鳴海「メンヘラをミドルネームにすんな!そんなことより次の作品の感想!明日香のやつ!!」
明日香「え、私?」
鳴海「そうそう!明日香の作品も読みやすかったぞ!、まさに学園で。溢れ出てくる青春、俺らと同い年なのも共感出来る設定だった」
明日香「(恥ずかしそうに)あ、ありがと・・・」
菜摘「分かる、主人公が女の子三人っていうのも良いよね。ラブコメじゃなくてコメディと友情に重点を置いてるのがこだわりが感じられた」
汐莉「派手じゃなくてシュールなのが可笑しかったです。あとキャラクターが可愛いかった!」
千春「私にもあんな友達がいたら良いなぁって思えるようなキャラクターたちで素敵でした」
明日香「ありがとう」
嶺二「これを明日香が書いてるとは思えんな、ゴーストライター雇った?」
明日香「(大きな声で)雇ってないから!!!」
嶺二「(明日香の方をじろじろ見ながら)それにしても・・・普段の明日香からは想像出来ないようなゆるふわストーリーだったなぁ」
明日香「(怒りながら)うるさい!!!」
嶺二「(慌てて)お、落ち着け。つ、次は汐莉ちゃんの作品について語り合おうじゃあないか」
明日香「(舌打ちをする)チッ・・・」
嶺二「(より一層慌てて)し、汐莉ちゃんの作品も結構面白かったよな?笑えるところが多くてさ」
鳴海「一番コメディスパイスが効いてる小説だったね、ラノベっていうジャンルにぴったり」
明日香「ジャンルの特権が生かされた物語で、読者にも汐莉の書きたいものが何か分かると思う」
菜摘「ギャグ一つ一つに物凄く手が込んでて、読んでる側にもその努力が伝わってきたよ。書くの大変だったんじゃない?」
汐莉「ありがとうございます!!普通にめちゃくちゃ苦労しました。次はもう少し違う話を作ります」
千春「面白い部分が面白い止まりになるんじゃなくて、そこからストーリーが広がっていくのがすごいね」
汐莉「ありがとう!!私のより千春の作品の方が凄かった!引き込まれたし、完璧に計算されてるよね!」
千春「ううん、そんなことないよ」
明日香「千春、よくこの短い期間で全部書けたね、しかも面白いし。私だったら絶対無理」
菜摘「圧倒的だった、ここまで書けるなんて完全に小説家だよ!」
千春「私の作品より菜摘さんや明日香さんの話の方が面白いと思います。私のは・・・ただ頭にあるのを書いたので・・・」
鳴海「それでもここまでハイクオリティの作品を書けるなんて凄すぎないか」
千春「どうしてこんなに書けたのか・・・私にも謎です」
嶺二「確かにめっちゃクオリティ高いし、一番面白いと思うんだけど・・・なんかこれ・・・知ってる話な気がする」
明日香「あんた、千春の作品に嫉妬してんの?」
嶺二「ちげえよ、そういうつもりじゃない。なんとなく知ってるような気がしただけだ」
明日香「どうせ人の才能を奪い取ろうとしてるだけでしょ」
嶺二「別に千春ちゃんを疑ってるわけじゃねーよ、知ってる話な気がしただけだって言ってんだろ」
明日香「それって盗作を疑ってるってことじゃん」
嶺二「しつこいな、違うって言ってるだろ」
明日香と嶺二の声のトーンが徐々に低くなる
他のメンバーは黙っている
菜摘「(口論を止めようとして)その話はこのくらいで・・・」
菜摘のことを無視する明日香
明日香「じゃあ何が言いたいの?」
嶺二「知らねーよ」
明日香「何それ、そっちが言ったくせに」
嶺二「いちいち突っかかるな、少しは自分で考えて喋ってほしい」
明日香「いつもあんたが余計なことを言ってんの、自覚したら?」
鳴海「落ち着けよ二人とも。たかが小説くらいで揉めるんじゃねえ」
嶺二「(鳴海を指を差して)お前は黙ってろ」
明日香「たかが小説って、ここは小説書くのが目的じゃん。たかがはないでしょ」
鳴海「悪かったよ、俺は二人が言い合ってるからそれを止めたくてだな・・・」
千春「(大きな声で)あの!私も知ってます!!」
少しの沈黙が流れる
鳴海「知ってるって?」
千春「私が書いたこの話・・・頭の中にあったんです」
明日香「えっ・・・」
千春「盗作なのかは分かりませんけど・・・前から頭の中にこの話があって・・・それを書きました」
菜摘「じゃあ思い出したんだね!!!きお・・・」
菜摘は記憶と言いかける寸前で口を閉じる
皆が菜摘の方へ視線を向ける
汐莉「何を思い出したんですか?」
菜摘「(焦りながら)えっとその・・・千春ちゃんが作ろうとしていた物語を忘れちゃったって言ってて・・・それを思い出したのかなって」
汐莉「なるほど」
千春「ま、前に菜摘さんの家でそういう話をしたの、私がど忘れしちゃったから」
汐莉「そうなんだ、思い出せてよかったね!」
千春「う、うん、思い出せてよかった」
鳴海「嶺二、俺も千春の小説はなんとなく知ってるような気もするけど、物語なんか山のようにあるんだしなんか似たような話をどっかで見たんじゃないか?」
嶺二「そりゃどっかしらでは似た話もあるだろうけどよ・・・」
千春「他作品からの影響を受けて似たような物語になってしまったのかもしれません」
菜摘「そういうこともあるよね」
嶺二「あーね」
文芸部室の扉が開く
みんなが一斉に扉の方を見る
神谷が文芸部室に入って来る
神谷「良い物語は生まれた?」
菜摘「まあ・・・」
神谷「なんか全体的にテンションが低いな」
嶺二と明日香はまだ苛立った表情をしている
鳴海「どんちゃん騒ぎしてるような部活じゃないんで」
神谷「ちょっとみんなが書いたやつ読ませてよ、今日が締切日でしょ?」
菜摘「はい」
神谷は文芸部室にあった使われてない椅子を取り出し座る
文芸部員たちがコピーした小説を神谷に渡す
神谷「(小説を受け取って)これで全員分?」
菜摘「そうです」
時間経過
神谷は全員の作品を読み終え小説を閉じる
神谷「みんな思ってたより良い話書いてるじゃん。こんなこと言うのもあれだけどもっと酷い作品ばっかりかと思ってたよ。で・・・どれを朗読劇で使うんだ?」
鳴海「それはまだ考えてないというか・・・」
神谷「なんだ、決めてないのか」
菜摘「先生は誰の作品が良いと思いました?」
神谷「(深く考え込む)うーん・・・」
神谷は再び小説を手に取りパラパラと流し見していく
神谷「みんなの中では誰の作品が良いとかないの?」
菜摘「まだそういう話はしてないです・・・」
神谷「確かに君らが話し合ってどれか一つを選べっていうのは酷だろうけど、誰かがどれかを選ばなきゃいけないからなー」
菜摘「多分私たちには決められないと思います」
少しの沈黙が流れる
神谷「(小説を閉じて)みんなの作品それぞれに良さがあったけど、正直に・・・正直に言うと俺が一番面白いと思ったのはこれかなぁ」
神谷は千春の作品を手に取りみんなに見せる
千春「わ、私のですか?」
神谷「うん、計算されてて読み応えがあった」
千春「ありがとうございます」
神谷「この作品をみんなでブラッシュアップすればいいんじゃないかな。朗読劇で使っても面白いと思う。ただこれはあくまで数学教師の意見だからね」
神谷は立ち上がり、みんなに小説を返していく
神谷「他の作品が良いならそれでも構わないし、これは結果論になっちゃうけど最終的に朗読劇を見に来たお客さんが楽しめれば何でもいいと思う。学園祭は中学三年生の子も来るだろうから、そういう子たちがこの学校に入学して文芸部に入りたいって思えばこちらの勝ちだよね。文芸部はさ、一年生が二人しかいない。部員が増えなきゃ来年には廃部になっちゃうよ」
菜摘「そうですね・・・私たちが卒業しちゃったらまた部員集めで・・・廃部になる可能性も・・・」
神谷「今日一日そういうことも込みで話し合ってごらん」
菜摘「分かりました・・・」
神谷「じゃあみんな頑張って」
神谷は文芸部室を出る
みんな黙り殺伐としている部室
嶺二「神谷ってああいう無責任な発言が多くね。俺らが卒業した後なんか知らんがな」
菜摘「そうは言っても・・・(汐莉の方を見て)事実だし・・・このままいけば廃部になる・・・」
汐莉「せっかく所属したのに廃部なんて嫌ですよ」
鳴海「俺だって設立した部活がたった一年の活動で廃部なんて嫌だ、悲しすぎる」
明日香「菜摘、どうするの?私は菜摘の作品か千春の作品のどちらかがいいと思う」
菜摘「(自信なさげに)どうしよう、私が書いたのは完結してないけど・・・集客出来るかな・・・」
千春「辞退します、この学校の生徒じゃない時点で私に権利はありません」
嶺二「何もわざわざ辞退しなくても良くね?さっきは俺も色々言っちゃったけど・・・面白いってことに異論はない」
千春「嶺二さん、そういうことじゃないんです。もし・・・学園祭で私のことがバレたら・・・それこそ来年になる前に文芸部は廃部、皆さんもどんな処罰を受けるか・・・」
嶺二「ハイリスクってわけね・・・」
鳴海「じゃあみんなで共作を書き上げるのは?」
菜摘「それ名案かも、みんなで協力して作るっていうのが良いね」
明日香「でもそれだと一から物語を作る分時間がかかるんじゃない?しかも全員の世界観を上手くまとめられるか・・・」
菜摘「あー・・・」
汐莉「菜摘先輩、確認したいことがあるんですけど」
菜摘「ん?なに?」
汐莉「菜摘先輩と千春の二人で共同制作しちゃダメなんですか?」
顔を見合わせる菜摘と千春
嶺二「汐莉ちゃん天才じゃん!二人は一緒に住んでるんだし、部活以外の時間も作業出来て効率良くね!?」
菜摘「その考えはなかったかも、千春ちゃん的にはどう?」
千春「私と共作なんて・・・菜摘さんの作品だけの方がいいと思います」
菜摘「でも共作にすれば千春ちゃんがバレるリスクも低くなるよ?文芸部に興味を持ってくれる人も増えるかもしれないし」
鳴海「廃部を回避出来るって算段だな」
明日香「なるほどね、全てが丸く収まる最強のアイデアなんじゃない?賛成」
千春「そんなとんとん拍子に進むものでしょうか・・・」
汐莉「私たちもサポートするよ、協力プレイだからね!」
嶺二「そうそう、部活仲間だもんな!」
菜摘「一緒に良い作品を作ってみない?」
千春「分かりました、頑張ってみます」
菜摘「違うよ、みんなで頑張るの。千春ちゃんだけじゃなくて、みんなで成功させる学園祭なんだから」
鳴海「ああ、これはみんなの目標だ」
千春「はい!」
嶺二「(勢いよく席から立ち上がり)じゃあ今日の部活は解散!!疲れた!!帰ろう!!」
菜摘「(席から立ち上がりカバンを持ちながら)そうだね、詳しいことはまた来週打ち合わせしよっか」
菜摘に続き席を立ち荷物を持つ部員たち
明日香「ねえ鳴海」
鳴海「ん?」
明日香「明日暇?今度こそカフェのメソッド行かない?」
思わず明日香と鳴海の方を見る菜摘
鳴海「ごめん明日は用事があるわ」
菜摘は鳴海と明日香の方を見るのやめる
明日香「(少し悲しそうな表情をして)あっ・・・そうなんだ」
鳴海「カフェのメソッドはみんなで行こうぜ、学園祭後の打ち上げとかで」
明日香「うん・・・そうだね」
鳴海は歩き始める
鳴海「さっ、帰ろ帰ろ」
ぞろぞろと部室を出始める部員たち
◯122崩壊しかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(雨)
教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある
椅子や机、教室全体に溜まりまくった小さなゴミ
教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている
一体の遺体は手に20Years Diaryという日記を抱えている
スズが扉を勢いよくこじ開けた瞬間舞い上がる埃
スズの目の中に埃が入る
スズ「うわっ!目が!!!」
立ち止まっていたナツはスズのところへ駆け寄る
ナツ「どうした!?」
スズ「(身悶え手で両目を押さえながら)目にゴミが入った!!」
ナツ「(目を押さえてるスズの手を取っ払い)馬鹿!手で抑えるな!!」
スズ「(身悶えながら)痛い!!」
スズは両目を瞑っている
ナツ「(スズの体を支えながら)暴れないで!ゴミが奥に入っちゃう!!」
ナツは教室の中にある椅子を取り出しスズに座らせる
ゆっくり椅子に座るスズ
ナツ「(遺体に気付き)ここにも遺体が・・・」
スズ「見えないよ!!」
ナツ「私からすれば遺体なんて見えない方がいい。目開けて、ゴミ見るから」
スズ「痛くて目が開かない!」
ナツ「我慢して、放っておいたら失明するかもしれない」
スズ「分かってる!!けど開かない!」
ナツ「ゆっくりでいいから開けて、スズの目が見えなくなったら私の視野も狭くなる」
少しずつ両目を開けるスズ
スズの両目から滝のように涙から出てくる
スズ「痛すぎる!!」
ナツ「(スズの頭を撫でながら)偉い、よく開けた」
スズ「め、目はどんな感じ?」
ナツ「(スズの両目を見ながら)ああ・・・控えめに言って・・・」
スズ「ひ、控えめに言って・・・?」
ナツ「死ぬほど痛そう」
スズの両目は健康な眼球とは程遠く異様に充血しながら、ダラダラと涙を流している
スズ「なっちゃん馬鹿なの!!死ぬほど痛いに決まってるでしょ!!!」
ナツ「ごめん、冗談。スズ、上見れる?」
ゆっくりと上の方を見るスズ
スズ「(上を見ながら)死ぬほど痛いから!!!冗談言う時じゃないから!!!」
リュックからペンライトを取り出しスズの両目を覗き込んでいる
ナツ「(両目を覗きながら)ごめんごめん、スズが取り乱すなんて珍しくてつい」
スズ「(上を見ながら)ひ、酷いよ、こっちは痛い思いをしてるのに」
リュックからピンセットと医療キットを取り出すナツ
ナツ「(ピンセットを持って)ゴミあった、両目とも大きな埃がある。死ぬほど痛いと思うけど取ってみるよ」
スズ「(上を見ながら)う、うまく取れるよね?」
ナツ「試したことないから分からない。でも、私の手先が器用なのはスズも知ってるだろ」
スズ「(上を見ながら)し、心配だよ」
ナツ「私のことを信じて」
スズ「(上を見ながら)う、うん・・・信じるけど・・・」
ペンライトを口で咥えるナツ
左手でスズのまぶたが動かないように押さえるナツ
スズ「(上を見ながら)痛い痛い痛い!」
右手でピンセットを持ち、スズの眼球の裏側に入り込んだゴミを取り出すナツ
スズ「(上を見ながら絶叫する)いってええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
ナツ「(ペンライトを口から取り)うん、取れた。次は右目」
ゴミを捨てるナツ
スズの左目はさっきより充血し、涙の量も増える
スズ「し、死ぬかと思った・・・」
ナツ「まだ右目がある、もう少しだけ頑張って」
スズ「み、右目も・・・し、死んじゃうよ私・・・」
ナツ「死ぬほど痛いと思うけど、死にはしない。上向いて」
覚悟を決め上を向くスズ
再びペンライトを口で咥えるナツ
左手でスズのまぶたが動かないように押さえるナツ
時間経過
ナツ「(ペンライトを口から取り)取れた取れた」
ピンセットに挟まったゴミをポイッと捨てるナツ
スズは両目を瞑っている
目を瞑っているのに溢れ出てくる涙
スズ「ほ、ほんとに目玉が取れるかと思った」
医療キットから目薬を取り出すナツ
ナツ「(目薬を持って)念のため目薬を差した方がいい、両目ともかなり大きなゴミが入ってたから後に響くかもしれない」
スズ「えぇ・・・もう嫌だぁ・・・」
ナツ「(目薬を持ちながら)目薬が最後だから頑張って、後でラーメン食べていいから」
スズ「ラーメン!?」
ナツ「そう、最後の一玉」
スズ「(ゆっくりと両目を開けて上を向く)ず、ずるい・・・食べ物で釣るなんて・・・」
ナツ「(目薬を持ちながら)ラーメン好きなんだからいいだろ。お湯沸かしてあげる」
スムーズに目薬を差すナツ
ナツ「はい、おしまい」
スズ「こ、こわかった・・・」
医療キットから包帯と眼帯を取り出すナツ
ナツ「あの感じだとしばらくはまともに見えないかも、一応両目とも眼帯をつけて包帯を巻いとこ」
スズ「わ、わかった・・・なるべく痛くしないでね」
ナツ「そーっとやるよ。余計な力を加えずに」
ナツはスズの両目に眼帯をつける
その上からゆっくり優しく包帯を巻いていくナツ
時間経過
包帯を巻き終えたナツ
スズの両目は完全に覆われている
ナツ「出来た」
スズ「か、完全に何も見えないよ・・・」
ナツ「しばらくはそれで我慢しろ。悪化しないように安静に」
スズ「うう・・・不便・・・」
ナツ「(スズの手を取り)大丈夫だよ、私がいるんだから」
スズ「(ナツの手を握り)頼むよなっちゃん」
ナツ「任せとけ!!ナツねえちゃんがラーメン作っちゃる!」
スズ「うん!お腹空いた!!」
◯123波音駅の前(日替わり/昼)
よく晴れた空
昼の一時前、土曜日
電車、車、人々の声で騒がしい駅前
待ち合わせで人がたくさんいる
鳴海がボーっと考え事をしながら突っ立っている
スマホをポケットから取り出し、LINEを見ては菜摘からのメッセージがないことを確認する鳴海
鳴海「(声 モノローグ)ドタキャンされないよな。それにしても土曜日に・・・早乙女と二人で・・・あぁ・・・これはイベントではない。イベントではないはずだ。ただゲーセンに行くだけで・・・てかゲーセンに行くって完全にそういうイベントにしか思えないけどそういうイベントじゃないのか。いや、これは遊びじゃない。重要な任務なのだ」
菜摘は鳴海が待ってることに気づき急いで駆け寄る
鳴海は菜摘が近づいていることに気づかない
鳴海「(声 モノローグ)ゲーセン行った後とか何するんだろ・・・解散か・・・普通に解散だよな。えぇ・・・解散しちゃうのは勿体なくね?だってせっかくの休日なんだよ?たまには人と遊んだ方がいいんじゃない?待てよ、なぜ俺は遊べる前提なのだ?生真面目な早乙女が俺なんかと遊ぶのか?いや、あり得ん。何故かって?俺が早乙女の立場だったら俺なんかとは遊ばんからだ!」
菜摘「ごめん遅れて、待った?」
鳴海「(声 モノローグ)そんなことより千春の記憶だ!大事なのは千春の記憶!そのためにわざわざ休日を犠牲にしたんだからな・・・」
菜摘「貴志くん?なんかボーっとしてる?」
鳴海「(菜摘に気付き)さ、早乙女!!い、いつの間に来たんだ?」
菜摘「たった今だけど・・・どうかしたの?」
鳴海「い、いや、なんでもない・・・ゲーセン目指すか」
菜摘「うん、行こっか」
歩き始める鳴海と菜摘
◯124ゲームセンターギャラクシーフィールドがある波路商店街(昼)
寂れた商店街
波音駅周辺と違って人は少ない
閉まってる店も多い
やってるお店も客はほとんどいない
波路商店街を歩いている鳴海と菜摘
鳴海「(周囲を見ながら)ずいぶん寂れてるな・・・」
菜摘「(周囲を見ながら)そうだね、閉店してるところも多いし・・・」
鳴海「やっぱ千春はギャラクシーフィールドの店主の孫ってラインが当たってそうだね、記憶の喪失の理由は分からんけど」
菜摘「私もそうだと思う、孫じゃなくても親戚とかね。そういえば千春ちゃんの書いてきた小説、何となく私も知ってる気がする」
鳴海「嶺二が言ってたやつか、俺もだよ。どこかで読んだのか・・・分からないけど知ってる気がする」
菜摘「何で知ってるんだろうね、ストーリーのあらすじをネットで調べたんだけど、出てこなかった。だから有名な小説に似てるってことはないと思う」
鳴海「千春自身は盗作してるって認識じゃなかった。何かの作品から無意識のうちに影響を受けて、それが千春の作品に出ちまったってことなのかもしれない」
菜摘「作品のことで明日香ちゃんと白石くんも喧嘩しちゃったし、部内の人間関係が悪くならないか心配だよ・・・」
鳴海「嶺二と明日香なら平気だ、あいつらは時々揉めるんだよ。昨日みたいにね」
菜摘「でも嫌だな・・・そんなことで揉めるのは・・・」
鳴海「そうなる前に千春の記憶を取り戻すしかないな・・・千春の方は何も思い出す気配なし?」
菜摘「思い出そうとしても何も出てこないみたい」
鳴海「今日もビラ配りしてるんだろ?」
菜摘「緋空浜の近くでやるって言ってたよ。千春ちゃんは私たちが授業を受けてる間や、学校がない日だってずっとビラ配りしてる」
鳴海「どうして千春がそんなことをしているのか・・・(指を差して)俺らがギャラクシーフィールドに行けば分かることもあるはずだ」
鳴海が指差した方向を見て頷く菜摘
鳴海が指を差した先にあるのはゲームセンターギャラクシーフィールド
◯125ゲームセンターギャラクシーフィールド店内(昼)
ギャラクシーフィールドに入る鳴海と菜摘
客は鳴海と菜摘のみ
UFOキャッチャーのようなゲーム機はなく、レトロな作品しか店内にはない
ほとんどのゲーム機はタイトル画面で静止している
中には故障中と貼り紙がされているゲーム機もある
鳴海「(周りのゲーム機を見ながら)おお・・・!懐かしなぁ・・・昔よく親父に連れてきてもらったわ」
菜摘「(周りのゲーム機を見ながら)私も・・・久しぶりに来た・・・なんだかノスタルジックな気持ちになるね」
鳴海「(周りのゲーム機を見ながら)良い雰囲気だ」
店の奥の方から店主の有馬勇が出て来る
勇「若いお客さんとは珍しいね」
鳴海「(勇に気付き)あっ、どうも」
菜摘「こんにちは」
勇「いらっしゃい、どうぞごゆっくり」
菜摘「あの・・・聞きたいことがあるんですけど・・・」
勇「私に分かることであれば答えるよ」
菜摘「バイトの募集ってしてますか?」
勇「(首を横に振りながら)してないしてない。申し訳ないけどお嬢ちゃん、アルバイトがしたいなら他をあたってくれないか」
菜摘「十五、六くらいの女の子がここアルバイトしてませんか?」
勇「ここでアルバイトしてる子なんていないし、そもそもアルバイトの募集だってもう何年もしてないんだ」
鳴海はカバンから千春が配っていたチラシを取り出す
鳴海「(勇にチラシを渡しながら)これを見て何か分かりませんか?」
勇「(チラシを受け取り見ながら)これは・・・よく出来てるね。君たちが作ったの?」
鳴海「いや、俺らじゃないです。千春って名前の女の子が町でこのチラシを配ってるんですよ」
勇「(チラシを見るのをやめて)千春・・・?」
鳴海「はい、ご存知じゃありませんか」
勇「千春って言われてもどの千春か・・・」
菜摘「千春ちゃん、記憶喪失なんです」
勇「記憶喪失なのに、これを配ってるのかい?」
菜摘「記憶喪失で、気付いたらビラ配りをしてたそうです・・・なんでビラ配りをしているのか聞くと、ギャラクシーフィールドにはお客さんが必要だからって答えました」
勇「その子の苗字は?」
菜摘「苗字も覚えてないそうです」
少しの沈黙が流れる
勇「何のことだかわからないよ」
菜摘「そうですか・・・」
鳴海「本当に、何も知りませんか?少しでも思い当たる節があったら何でもいいので教えてください」
勇「いや・・・特にはないかな・・・もしかしたら昔の知り合いかもしれない、一応お兄ちゃんの電話番号を教えてくれないかい」
勇はお店にあったボールペンを取り、千春のチラシとボールペンを鳴海に返す
チラシの裏側にスマホの電話番号を書く鳴海
鳴海「(チラシとボールペンを渡しながら)携帯の電話番号です。何か分かったら連絡ください」
勇「(チラシとボールペンを受け取り)何か分かったら電話するよ」
菜摘「(頭を下げて)お願いします」
頷く勇
鳴海「じゃあ失礼しようか・・・俺たちは」
菜摘「うん」
軽く会釈をし、ゲームセンターギャラクシーフィールドを出る鳴海と菜摘
勇は鳴海と菜摘を見送った後、一台のゲーム機の前に立つ
ギャラクシーフィールドの新世界冒険というゲーム機には故障中と書かれた紙が画面に張られている
勇は静かにゲーム機の前の丸椅子に座る
そして優しくゲーム機に触れる
◯126波路商店街(昼)
寂れた商店街
閉まってる店も多い
やってるお店もほとんど客はいない
ギャラクシーフィールドを出て波路商店街を歩いている鳴海と菜摘
菜摘「何も分からなかったね」
鳴海「連絡先を教えてくれって言うくらいなんだ。もしかしたら爺さんの中じゃ思い当たることが何かあるのかもしれない」
菜摘「お爺さんの連絡を待つことしか出来ないのかな・・・」
◯127緋空浜付近(昼)
四月の休日なのに浜辺近くには多くの人がいる
小さな子供を連れた家族、カップル、中高生などが多い
道行く人たちにビラ配りをしている千春
千春「(ビラを渡そうとしながら)ゲームセンター“ギャラクシーフィールド”で遊びませんか?たくさんの名作が揃っています」
受け取ってくれる人も稀にいるが、ほとんどの人はスルーしている
◯128ファミレス(昼)
休憩がてらファミレスに入った鳴海と菜摘
鳴海はポテトフライを、菜摘はチョコレートパフェを食べている
ファミレスは人が多く騒がしい
鳴海「千春との共作は上手くできそう?」
菜摘「少しだけど作品の方向性とかは話したよ。千春ちゃんの作品をベースに修正していくつもり」
鳴海「楽しみだな、早乙女と千春は部活中もその作業で忙しくなるのか?」
菜摘「そうだね!しばらくはそれで忙しくなると思う!」
鳴海「俺らは何手伝えばいい?」
菜摘「みんなには部誌の制作をお願いしてもらっていい?」
鳴海「おう、五月号の小説は全部まとまってるから他に何を付け足すべきだと思う?」
菜摘「部員紹介とかあった方がいいかも」
鳴海「新設された部だし、活動内容の紹介もしないとな・・・のんびりしてると四月、五月はすぐに終わっちまうわ」
菜摘「部活も結構忙しいんだね、やることいっぱいだよ」
鳴海「その分やりがいがあって楽しいけどな」
菜摘「やっぱみんなで一つのことをやってるって良いね。毎日がすごく充実してるって感じがするもん」
鳴海「ああ、今までの俺の学校生活にはなかった日々だ」
菜摘「私も。こんなにやることがあって、やりたいことがあって、一緒に行動してくれる人がいるなんて初めての経験だよ」
鳴海「早乙女が努力したからじゃないか。まさに功績ってやつだな」
菜摘「そ、そんなことないよ。貴志くんやみんなが私を見放さないでくれたから・・・」
鳴海「(大きな声で)見放すわけねえだろ!!」
鳴海の大きな声にびっくりする菜摘
鳴海の大きな声でうるさかったファミレス店内が急に静かになる
鳴海たちのことをたくさんの人が見ている
ウェイトレスが鳴海たちのテーブルに近づいて来る
ウェイトレス「もう少しお静かにお願いします」
鳴海「(顔を赤くして謝る)す、すいません!」
ウェイトレス「他のお客様のご迷惑にならないようにお楽しみください」
鳴海「(顔を赤くして)は、はい・・・すいません」
ウェイトレスはホールの仕事へ戻っていく
菜摘は鳴海を見て笑う
鳴海「笑うなよ・・・自業自得だけど恥かいたわ・・・」
菜摘「だって、貴志くんが急に大きな声を出すから〜、周りにいる人たちがびっくりしてたよ?」
鳴海「ご、ごめんよ・・・」
菜摘「(思い出したかのように)そうだ!!」
鳴海「(驚いて)な、なんだよ。早乙女まで大きな声を出して人のこと言えんぞ」
菜摘「貴志くんほど大きな声じゃないよ。ウェイトレスさんが注意しに来ないでしょ?」
鳴海は店内にいるウェイトレスを見たが、誰もこちらに来る気配はない
鳴海「た、確かに・・・それで何を思い出したの?」
菜摘「ゴールデンウィーク、飛響草原公園に家族と行く予定なんだけど一緒に来ない?」
鳴海「ゴールデンウィークなら暇だかr・・・ん?家族と行く予定って言った?」
菜摘「うん、家族と。私とお母さんとお父さんともちろん千春ちゃんも一緒にね」
鳴海「早乙女の親父さんも・・・一緒なのか・・・」
菜摘「一緒だよ。貴志くんとお父さんと仲良いよね!」
鳴海「え?別に良くはないと思うけど・・・」
菜摘「そうかな?貴志くん楽しそうに喋ってたイメージがあるよ」
鳴海「た、楽しそうだったのか俺・・・そ、それなら文芸部員たちも連れて行きたいな・・・俺以外のみんなも仲良く出来ると思うぞ・・・」
菜摘「私の家、車二台あるしせっかくなら部活メンバーで行こっか!」
鳴海「お、おう・・・言い出したの俺だけど家族の予定に割り込んでいいのか?」
菜摘「人数が多い方が楽しいじゃん!!
鳴海「そ、それならいいけど・・・今更聞くけど千春は早乙女の家族と馴染めてんの?」
菜摘「バッチリ!」
鳴海「早乙女の家族も千春も適応力が半端ないな」
菜摘「相性が良かったんだよ」
鳴海「遊びに行った時に、他の部活メンバーとの相性も丸わかりだな・・・」
菜摘「(笑顔で)うん、すっごく楽しみ!」
鳴海「お、俺も楽しみだよ」
◯129滅びかけた世界:特別の教室の四/文芸部室(雨/三時ごろ)
教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある
椅子や机、教室全体に溜まりまくった小さなゴミ
教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている
一体の遺体は手に20Years Diaryという日記を抱えている
椅子に座っているスズ
包帯を巻いているため両目とも見えない
ナツはアルポットを使いお湯を沸かしている
アルポットは電気やガスを必要としない
ギュッとナツの手を握りしめているスズ
スズ「まだぁ?」
ナツ「(アルポットを覗いて)そろそろだな。スズ、手、離して」
スズ「やだ」
ナツ「離せ」
スズ「どうして」
ナツ「ラーメン作れない」
スズ「なっちゃんなら片手でいける!!」
ナツ「無理」
スズ「器用なんだから出来るって〜」
ナツ「器用でも片手じゃ出来ない。だから離して、失敗してラーメンひっくり返しても私は知らないよ」
スズ「ひどいっ、あなたはいつもそうやって私から逃げて・・・私は知ってるのよ!あなたが浮気してるってこと・・・」
ナツ「夫婦漫才始めないで手を離せ」
ナツはスズの手を無理矢理引き剥がす
スズ「(両手をぶらぶらさせながら)ひどいっ!目が見えないのにっ!」
ナツは保存食のラーメンを開ける
アルポットの中に麺を入れる
ナツ「(ラーメンのパッケージを見ながら)うわっ・・・これ半世紀近く前の賞味期限じゃん・・・」
スズ「(両手でナツを探しながら)なっちゃん!手ッ!!」
ラーメンの袋の中にフォークが入っている
フォークを取り出すナツ
ラーメンが入ってた袋をその辺にポイ捨てするナツ
ナツ「(スズの手を握って)はいはい」
スズ「(ナツの手を強く握りしめて)おお〜、やっぱなっちゃんの手だな〜」
手を握っているナツとスズ
ナツ「私の手だって分かんの?」
スズ「もちろん分かるとも」
ナツ「なんか、気持ち悪いなそれ・・・なんで分かんの?」
スズ「なっちゃん以外の手を握ったことないもの。みんな死んじゃったし」
ナツ「なら私もスズの手は分かるかな」
スズ「分かるよ〜」
時間経過
アルポットの蓋を取り、ラーメンを見るナツ
スズ「出来た!?」
ナツ「スズ、これ大昔に作られたやつだけどほんとに食べるの?」
スズ「食う食う!!」
ナツ「どうなっても知らないよ」
スズ「こんなに美味しそうな匂いがするのに食べないわけにはいかない!!」
ナツ「良い匂いはするけどさ・・・」
スズ「早く早く!!」
アルポットの中の麺をフォークに巻きつけるナツ
ナツ「(フォークに巻きつけた麺を冷ましながら)フゥー、フゥー」
麺から湯気が漂う
ナツ「まだかなり熱いよ」
スズ「ちょーだい!」
スズは口をガバッと開ける
フォークに巻きつけた麺をゆっくりスズの口の中に入れる
スズは熱さをものともせずモグモグ食べる
ナツ「ちゃんと噛んで食べろよ」
スズ「噛んでる!!」
スズは口をガバッと開ける
アルポットの中の麺をフォークに巻きつけるナツ
ナツ「(フォークに巻きつけた麺を冷ましながら)フゥー、フゥー」
フォークに巻きつけた麺をゆっくりスズの口の中に入れる
スズは熱さをものともせずモグモグ食べる
ナツ「どう?美味しいの?」
スズ「美味い!!なっちゃんも食べた方がいいよ〜、食べなきゃ人生の損!」
ナツ「えー、あんまし食べたくないんだけど・・・」
スズ「絶対美味しいって!!おすすめ!!最後の一玉だから食べた方がいい!!」
ナツ「もう今後の人生でこいつを食べる機会はないのか・・・」
スズ「だからこそ後悔しないように今食べよう!!」
ナツ「そんなに言うなら一口だけもらう」
スズ「食べな食べな!」
アルポットの中の麺をフォークに巻きつけるナツ
ナツ「(フォークに巻きつけた麺を冷ましながら)フゥー、フゥー」
ナツはラーメンを口の中に入れる
スズ「どうどう?美味い?美味いでしょ?食べなきゃ人生の損だよね?!」
食べ終えるナツ
ナツ「思ってたより・・・」
スズ「思ってたより・・・?」
ナツ「美味い」
スズ「でしょでしょ!!美味いでしょ!!」
ナツ「私、結構いける味かも」
スズ「美味しく食べるのに賞味期限なんか関係ないんだね!」
ナツ「関係なくはないけど・・・これは美味いね」
スズ「もっともっとちょーだい!!」
スズは口をガバッと開ける
ナツ「はいはい」
アルポットの中の麺をフォークに巻きつけるナツ
ナツ「(フォークに巻きつけた麺を冷ましながら)フゥー、フゥー」
フォークに巻きつけた麺をゆっくりスズの口の中に入れる
スズは熱さをものともせずモグモグ食べる
時間経過
スズは椅子に座っている
ラーメンを食べ終えたスズは両手をぶらぶらさせている
アルポットを片付け終えたナツ
スズ「手は〜?」
ナツ「ちょっと後で」
スズ「あと?」
ナツはリュックから防災ラジオを取り出す
スズ「何の音?」
ナツ「ラジオ」
スズ「回すの?」
ナツ「回す」
ナツは手回し充電用のハンドルを回し始める
時間経過
スズ「もう充電されたんじゃない?」
ナツは防災ラジオの電源を入れ、ラジオの周波数をダイヤルでいじる
ラジオから聞こえてくるのはテレビの砂嵐のようなホワイトノイズと呼ばれる音だけ
スズ「いつもの音だけだね」
ナツ「くそっ」
スズ「この世ってもう私たちしかいないのかな」
ナツは防災ラジオの電源を切る
ナツ「スズ、恐竜って知ってる?」
スズ「人が生まれる前にいたやつ、大昔に絶滅した」
ナツ「そう、絶滅する前にいた最後の恐竜も今の私たちみたいな感じだったのかもしれないね。あるいはそこの遺体みたいに・・・」
スズ「そうだね〜、生まれる時代、間違えたんだね私たち」
ナツ「学校に通ってみたかった」
スズ「きゅーしょくの時間になると、無条件でご飯が配られたってほんと?」
ナツ「多分ね。配給みたいな」
スズ「いいなぁ、食べたい」
ナツ「さっきラーメン食べたのにまだ食べるの?」
スズ「だって〜、足りない〜」
ナツ「学校に給食、縁のない人生だった」
スズ「今こうして学校で暮らしてるだけ良かったということにしよう!」
ナツ「学校で暮らしてるってね・・・勉強する場所だけど・・・」
スズ「もうちょっと探検したいね。体育館、職員室、音楽室、理科室とか」
ナツ「いちいち一つ一つ確認してたら無駄に時間が過ぎるだろ」
スズ「何か役立つものがあるかもしれないよ?なんかこう・・・学校から特殊なエネルギーが出てて、それをみんなに伝えるテレパシー室とかあったりして!」
ナツ「意味不明、テレパシーなんかないk・・・」
喋り終える前に黙り込むナツ
そして黒板の上を見るナツ
壊れて動かなくなった円時計の隣にスピーカーが設備されている
スズ「急に黙らないでよなっちゃん」
ナツ「テレパシー室はないけど・・・放送室ならもしかして・・・」
スズ「放送室?」
ナツ「学校にはスピーカーがある・・・つまり放送する部屋も・・・」
スズ「ラジオみたいに世界中に届くの?」
ナツ「さすがにそこまで無理。でも音量をマックスにすればかなり響くと思う」
スズ「聞いたことないから分からないや」
ナツ「ちょっと放送室探してくる」
スズ「えっ、私は?」
ナツ「ここで待ってて、放送が出来たらこの教室も聞こえると思う」
スズ「私も一緒に行く」
ナツ「ここで音が聞こえるか確認してて」
スズ「まじ?」
ナツ「まじ」
スズ「ひとりぼっちで?」
ナツ「ひとりぼっちで」
スズ「目が見えないのに?」
ナツ「目が見えなくても、音は聞こえる。だから大丈夫」
スズ「冗談?」
ナツ「冗談じゃない。行ってくる、ここから動かずに音に集中してて」
スズ「わ、分かった・・・早く戻ってきてね」
ナツ「努力する」
ナツはリュックを持ち走って教室を出る
スズは椅子に座って放送をじっと待つ
◯130波音高校三年三組の教室(朝/日替わり)
週明け
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来てない
生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
窓際で喋っている鳴海、菜摘、明日香、嶺二
明日香「(スマホを見ながら)ゴールデンウィークね・・・バイトのシフト見てみる」
嶺二「俺はいつでも平気、つか菜摘ちゃん&千春ちゃん&汐莉ちゃんと休日に遊べるなら元から予定が入っていてもそれを断るね」
菜摘「(嶺二の言葉に若干引き気味で)あ、ありがと」
鳴海「今嶺二に一キモポイントが入ったな」
嶺二「なんでだよ!?複数の女と遊べる機会なんて滅多にないんだから逃せないだろ!」
鳴海「そ、そうですね」
嶺二「リアクションうっす」
明日香「憲法記念日、みどりの日、こどもの日は丸一日暇」
菜摘「オッケー。昨日の夜、汐莉ちゃんにLINEしたんだけど憲法記念日以降は予定ないみたい」
明日香「じゃあ憲法記念日、みどりの日、こどもの日のどれかに行くってことね」
菜摘「そういうことになるね!!」
嶺二「遊ぶものをいっぱい持って行くか!!」
鳴海「何持って行くんだよ?」
嶺二「野球ボール、バット、グローブ、ラケット、シャトル、フリスビー、スケボー、水鉄砲、バスケットボール、水風船、ロケット花火だろ」
鳴海「いや持ってき過ぎだろ!!普段体育サボりまくってるくせにどんだけ運動したいんだよ!!」
嶺二「当たり前っしょ、俺は体育なんかよりもっと伸び伸びとしたところでスポーツを楽しみたいんだから」
明日香「とか言って菜摘と汐莉と千春にスポーツ出来るところを見せたいだけ」
嶺二「それもある」
菜摘「花火は禁止だと思う・・・」
嶺二「そいつはぁ残念だな、星降る夜にロケット花火をぶっ放すつもりだったんだが」
鳴海「水鉄砲と水風船もいらんくね?下手すりゃ寒いだろ」
嶺二「(強い口調で)いやそれだけは絶対にいる」
鳴海「さいですか」
明日香「(小声で)透けないように厚着していこ」
◯131波音高校外のベンチ(昼)
暖かい日差し
ベンチに座ってご飯を食べている鳴海、菜摘、嶺二
鳴海と嶺二はコンビニのパン
菜摘はすみれが作ったお弁当
嶺二「千春ちゃんってスマホ持ってないんだよね?」
菜摘「も、持ってないよ」
嶺二「そりゃそうか・・・家出中かつ学費優先だもんなぁ・・・せめてメールでもいいからやり取りできれば・・・」
鳴海「デートにでも連れ出したいのか?」
嶺二「デートっつうか、この間の部活でさ、俺が千春ちゃんの作品に対して変な感想言っちゃったじゃん?あれのお詫びがしたくてね」
鳴海「もう千春からは嫌われたかもね」
嶺二「ウソ・・・まじ・・・?」
鳴海「可能性はあるかもしれん」
嶺二「千春ちゃん、俺の悪口とか言ってた?!」
菜摘「(考えて)特には・・・ないと思う」
嶺二「お、おお。じゃあまだ大丈夫ってことだ」
鳴海「だといいな」
菜摘「千春ちゃん、陰口とか言うタイプじゃないと思うよ。言いたいことがあるなら真正面からストレートにって気がする」
嶺二「じゃあよ、千春ちゃんに俺のことが嫌いかって聞いたらストレートに返事が戻ってくるってことかね?」
菜摘「そうかもね、はっきり言いそう」
鳴海「嶺二覚えてる?お前、高一の時に同じクラスの川瀬に告白したけど、考える時間をくれって言われてから何も連絡来なかったよな?」
嶺二「覚えとるわアホ、あれはあれで返事だったってことに気づくまで半年かかった」
菜摘「悲劇の思い出だね・・・流石に千春ちゃんはそんなことないと思うよ」
嶺二「なら迷うことはない」
鳴海「嶺二、千春に告白すんの?」
菜摘「えっ!?なぜ告白!?」
嶺二「名誉挽回した後に必ず」
鳴海「今回はやめとけよー」
嶺二「いいだろ別に誰に告っても」
菜摘「え?え?白石くんは千春ちゃんのこと好きなの?」
嶺二「好き」
菜摘「(驚き大きな声で)えぇええええええ!!いつの間にそんな想いが・・・」
鳴海「嶺二は惚れやすいタイプだからな」
嶺二「強い想いが前からあったのさ!」
菜摘「じゃあ・・・いずれ告白するってこと?」
嶺二「もちろん、もう少し仲を深めたらするよ」
鳴海「お前すげえな、よくもまあそんな次から次へと惚れるもんだ」
嶺二「いや今回はガチ」
鳴海「いつもそう言ってるけどな・・・」
菜摘「せ、成功するといいね」
嶺二「千春ちゃんに俺の熱い気持ちが伝われば大丈夫よ」
鳴海「振られて部活に居辛くなっても知らんぞ」
嶺二「バーカ、千春ちゃんを誰かに取られた方が居辛くなるだろ」
鳴海はコンビニのパンを口に詰め込める
◯132波音高校文芸部室/特別教室の四(夕方/放課後)
菜摘と千春は二人で一台のパソコンを使い小説の修正を行なっている
鳴海、明日香、嶺二の三人は一台のパソコンを見ながら部誌の制作をしている
汐莉は軽音楽部があるため来ていない
明日香「(マウスを動かしながら)とりあえず全員分の簡略したページは出来た・・・あとはそれぞれ自己紹介を付け足せばいっか・・・」
部員たちのページを作り終え確認している明日香
菜摘「(画面を指差して)この設定は朗読する時は分かりづらいんじゃない?」
千春「この辺の流れは丸々カットした方がいいですか?」
菜摘「丸々切っちゃうのは勿体無いから、話をコンパクトに出来ないかな?」
千春「小さくまとめるのが良さそうですね、やってみましょうか・・・」
嶺二と鳴海は作業している菜摘と千春を見ている
嶺二「(感心しながら)素晴らしいね〜、学園祭という一つの目標に向ける集中力!!まさに青春!!」
鳴海「(同じく感心しながら)色々議論したけど、あの二人の共同制作で上手くいきそうだなぁ」
明日香「(パソコンから目を逸らし鳴海と嶺二の方を見る)感心してる暇ないんだからね、私たちはゴールデンウィークに入る前に部誌を作らなきゃいけないんだよ」
嶺二「へいへい」
明日香「(ため息を吐いて)はぁ・・・じゃあまずは鳴海の自己紹介ページから作るから・・・文だけ先に打ち込んで」
鳴海と明日香は席を入れ替わる
鳴海「了解」
明日香「嶺二もやるんだから文を考えといて」
嶺二「うぃーっす」
鳴海は自己紹介文を打ち始める
時間経過
タイピングを止める鳴海
鳴海「こんなんでいい?」
明日香「(パソコンを覗き込み)良いと思う、誤字があるけど」
鳴海「あっ、それは直す」
嶺二「(パソコンを覗き込み)おもんない文だな」
鳴海「うるせえ」
嶺二「明日香、次俺のやつ書かせてよ」
明日香「良いけど、あんまり変な文書かないでよね」
嶺二「大丈夫だって」
鳴海は嶺二と席を替わる
嶺二がポチポチと打ち始める
明日香「打つの遅過ぎない?まだ慣れないの?」
嶺二「俺は慎重なの!」
明日香「嶺二の考えた内容を他の人にタイピングさせた方が早いね」
鳴海「確かに」
時間経過
タイピングを止める嶺二
嶺二「(大きく伸びをして)終わったぞー!」
パソコンを覗き込む鳴海と明日香
鳴海「(パソコンを覗き込みながら)嶺二のもおもんないやん!」
嶺二「お前にこの文章の素晴らしさが分からねえのか・・・残念やなぁ」
明日香「(パソコンを覗き込みながら)なんか文が変じゃない?わざと?それともバカすぎてこんな文なの?」
嶺二「馬鹿なのはお前の方だ、この文章を斜めに読んでみやがれ」
“ちはるちゃんすき”という一文が隠れていることに気づく鳴海と明日香
鳴海「(引きながら)うわっ」
明日香「(引きながら)これはキモい」
嶺二「愛の篭った文に文句言いやがって」
鳴海「(呆れながら)部誌に私情を持ち込むなよ・・・」
明日香「(小声で)てか好きって・・・また?」
鳴海「まただよ、何度目だ?」
嶺二「またとか言うな、この気持ちは一度しかない」
鳴海「マジでやめとけ、今回ばかりは止めるぞ俺も」
嶺二「止めるんじゃあねえ、俺は自分の気持ちに嘘はつかねえんだから」
明日香「全生徒がこの文章を読むかもしれないのに・・・」
嶺二「そんなことは関係ねえ」
鳴海「また新たな黒歴史が出来たな」
明日香「ね、もはや歩く黒歴史じゃん。退いて黒嶺二」
嶺二「なんですか黒嶺二って」
明日香「黒歴史と嶺二のイコールが黒嶺二」
鳴海「ちょっと中二病的な、源氏名的な、二つ名的な?」
明日香「かっこいいでしょ?」
嶺二「全然かっこよくないと思うんですが・・・」
明日香「そんなことはどうでもいいからさっさと退いて、まだ私のは書いてないんだから」
嶺二「(渋々席を立ちながら)別に黒歴史じゃないだろ・・・」
席を入れ替わる嶺二と明日香
菜摘「そっちの進捗はどう?」
明日香「鳴海と嶺二のページは終わったけど、女子の分はまだ」
菜摘「かなり時間かかりそう?」
明日香「汐莉がまだ来てないけど今日中に全員分終わらせたいかな、後で二人も書いてもらっていい?」
菜摘「うん!部誌のこと押し付けちゃってごめんね」
明日香「ううん、男子は使えないからしょうがないよ」
顔を見合わせる鳴海と嶺二
鳴海「使えないってさ俺ら」
嶺二「我らは無力らしい」
菜摘「頑張ろうっ!!」
明日香「お互いね」
菜摘「うん!」
時間経過
タイピングを止める明日香
明日香「よしっ、誤字脱字無し」
嶺二「はやっ、もう終わったん」
明日香「こんなことに時間をかけてる方が馬鹿らしいよ」
嶺二「さすがっすわ、明日香の有能っぷりには某ポッターに出てくるハーマイオニーもびっくりするね」
明日香「褒められてる気がしないんだけどそれ」
嶺二「(鳴海の方を向いて)エマワトソンと比較されてるんだから素直に喜ぶべきだよな?」
鳴海「いや俺ハリポタ見たことないから知らん」
嶺二「やば、一番面白い映画だろ」
鳴海「ちゃう、一番面白い映画はラピュタ」
明日香「え、トイストーリー3でしょ」
嶺二「へートイストーリー3なんだ・・・」
鳴海「確かに面白いけど・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海と嶺二が明日香の方を見る
明日香「(頭を抱えて)ツッコミしないであんたらのアホな会話に参加してる自分が情けない・・・」
嶺二「(明日香の肩に手を置いて)三年の付き合いにしてようやく俺たちと同じ思考レベルに達してきたんだね、嬉しいよ」
明日香「(頭を抱えて)私・・・馬鹿になってる・・・」
嶺二「馬鹿じゃなくて天才に近付いてるんだよ」
ますます頭を抱える明日香
鳴海「明日香も俺らと同じ会話が出来るようになったわけだし、次は早乙女か千春だな!」
作業を止めて菜摘と千春が鳴海たちの方を見る
菜摘「次は私たちが書く番?」
鳴海「おう、後は早乙女と千春だけだ」
菜摘と千春は椅子を鳴海たちのところまで移動させる
千春「菜摘さんからどうぞ」
菜摘「いいの?」
千春「先にお願いします」
菜摘「じゃあ書くね」
菜摘と明日香が席を入れ替わる
菜摘は高速で打ち始める
時間経過
タイピングを止める菜摘
菜摘「長文過ぎる?」
鳴海「(パソコンを覗き込み)あー、どうだろ。確かに長いけど・・・部長は長くてもいいと思うけどなぁ」
明日香「(パソコンを覗き込み)うんうん、部長のページが一番しっかり作り込まれてるべき」
嶺二「(パソコンを覗き込み)みんな部長のページを最初に見るからね」
菜摘「じゃあこれでいっか・・・(席を立ちながら)次は千春ちゃんだね」
入れ替わる菜摘と千春
千春「どんなことを書けばいいでしょうか」
鳴海「これから作ってみたい話とか目標を書いとけばいいよ」
菜摘「顔写真は載せないし、個人情報とかはなるべく伏せとこ」
嶺二「当たり障りのなさそうな文章で締めよう」
明日香「バレないようにね」
千春「分かりました」
打ち始める千春
時間経過
タイピングを止める千春
千春「これでどうでしょうか?余計なことは書いてないと思います」
鳴海「(パソコンを覗き込み)良いね、あっさりしてる文で」
菜摘「(パソコンを覗き込み)この内容なら変に勘ぐられることもないと思う」
嶺二「そうやね、今日まで違和感無く溶け込んでるんだから大丈夫っしょ」
明日香「先生たちもわざわざこんなページ読み返さないよ」
千春「ではこれで良いということで」
菜摘「じゃあ私たちは作業に戻ろっか」
千春「はい」
菜摘と千春は椅子を運び、学園祭に向けた小説作りの作業に戻る
鳴海「後は南だけかー、一体いつ頃来るんだろう」
明日香「なるべく早めに来るって連絡が来たけど、バンドも学園祭の準備があって忙しそうね」
嶺二「こりゃ今日の解散は遅めやな」
時間経過
菜摘「さっきに比べるとかなり分かりやすくなってるよ」
千春「ほんとですか?」
菜摘「話が綺麗にまとまってる」
やることがない鳴海は椅子に座って眠っている
明日香と嶺二はスマホを見ている
汐莉が部室にやって来る
目を覚ます鳴海、作業を止める菜摘と千春、スマホを見るのを止める明日香と嶺二
みんな汐莉の方を見る
汐莉は背負っていた大きなギターケースとカバンを床に置く
急いで来たのか息切れしている
時刻は五時半
汐莉「(息切れしながら)す、すいません遅れて・・・」
菜摘「汐莉ちゃん、お疲れー。バンド練習はバッチリ?」
汐莉「(息切れしながら)な、なかなかリズムが合わなくて・・・も、もう皆さん書き終わったんですか・・・?」
明日香「みんな書き終わったよ」
汐莉「(呼吸を整えて)マジすか・・・ほんと遅れてすいません・・・」
菜摘「仕方ないよ、学園祭の準備だもん」
明日香「(汐莉を手招きながら)こっちでやるからおいで」
汐莉「(椅子を取り出し明日香たちのところに運び座る)高速で終わらせますね・・・」
袖をまくる汐莉
汐莉「えーっと・・・なんて書こうかな・・・」
打ち始める汐莉
時間経過
時刻は六時過ぎ
菜摘と千春は作業を続けている
タイピングを止める汐莉
汐莉「終わりました」
明日香「(パソコンを覗き込み)オッケー、これで全員分の自己紹介が完成」
明日香はマウスを持ち、今までの作業を保存する
鳴海「二人ともお疲れさん、後は何か付け足したりする?」
嶺二「自己紹介だけだど寂しいから、イラスト屋でも載せとこうぜ」
明日香「何か載せるのは賛成だけど、イラスト屋はちょっと・・・」
汐莉「写真はダメなんですか?」
鳴海「写真はダメだ、千春のこともあるんだから」
汐莉「あー・・・」
嶺二「それこそハリポタの小説の写真でも載せれば良いんじゃね?」
明日香「適当すぎ」
鳴海「部誌は今週中に完成させなきゃな・・・誰か絵でも描ければ・・・」
汐莉「絵でいいなら私が描きますよ。今週はもう軽音部の活動もありませんし」
鳴海「南絵描けんの?」
汐莉「中学の時美術部だったんで」
明日香「美術部!?」
鳴海「すごいな南、アーティストかよ」
汐莉「クリエイティブなことが好きなんです。その代わり運動能力は皆無ですけど」
嶺二「全パラメータを創作性に極振りしちゃったんだね」
明日香「創作力の塊じゃん」
汐莉「期待値を上げないでくださいよ、どんな絵を描けばいいんですか?」
明日香「表紙と裏表紙は何かしら絵があった方がいいかも、本を読んでる姿とか、本を書いてる姿とか」
汐莉「了解です」
汐莉はカバンから20Years Diaryと書かれた分厚い日記帳と筆記用具を取り出す
汐莉は日記帳を開きメモを取る
嶺二「何書いてんの?」
汐莉「日記です、と言ってもその日にあったことをメモするだけですけどね」
汐莉は部誌に必要そうな絵について箇条書きで日記帳に書いていく
明日香「日記書いてると役に立つ?」
汐莉「自分の行動を客観的に見たり、過去を遡るっていう意味では歴史が分かるので面白いですよ。創作をしていると読み返したりして役に立ちます」
明日香「これはどれくらい記録出来る日記帳なの?」
汐莉「(日記帳を閉じて表紙を見せる)20Years Diaryなので20年分書けます!」
鳴海「二十年!?よくそんなに続くね」
嶺二「三日も続かんわ俺なら」
明日香「だからそんなに分厚いのね」
鳴海「そりゃ軽く歴史が分かるわ」
汐莉「おすすめです、小説を書くのにもきっと役立ちます」
明日香「私もやってみようかな・・・」
汐莉は再び日記帳を開き、部誌に必要なイラストのイメージを箇条書きしていった
菜摘「(教室の時計を見て)今日はこの辺でやめよっか、切りがいいし」
千春「そうですね、続きはお家で進めましょう」
菜摘はデータを保存しUSBの中に入れる
鳴海「そろそろ解散?」
菜摘「(鳴海の方を見て)六時過ぎてるし、今日はこれで終わりにしよう」
嶺二「よっしゃ解散!!」
パソコンの電源を落とす明日香
明日香「汐莉、挿絵お願い出来る?」
汐莉「はい!」
USBを取り出し、パソコンの電源を落とす菜摘
汐莉は日記帳を閉じ、筆記用具とともにカバンに入れる
席を立つ部員たち
ギターケースを背負う汐莉
カバンを持つ部員たち
菜摘「じゃあ帰ろう!!みんなお疲れ様!!」
部室を出る部員たち
◯133貴志家リビング(日替わり/朝)
制服姿で椅子に座ってテレビを見ている鳴海
時刻は七時半過ぎ
ニュースキャスター1「藤田総理は現状を改善することは絶対、各国に協力を仰ぐつもりだがそれによっては関係が変わるかもしれない、一番に国民のことを考えて動くと述べました」
鳴海はテーブルの上に置いてあったリモコンを手に取り、テレビを消す
カバンを持って、家を出る鳴海
鳴海「(声 モノローグ)不思議なことに、やることがあると人生の進みが早くなるように感じた」
◯134波音高校三年三組の教室(朝/日替わり)
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来てない
生徒たちは喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
窓際で仲良く喋っている鳴海、菜摘、嶺二、明日香
鳴海「(声 モノローグ)俺の生活は今までと同じ、仲の良い奴らと過ごしてるだけ。違うのはみんなで協力して、一つの作業をするようになっただけ。早乙女が頑張っている」
◯135波音駅付近(朝)
通勤、通学ラッシュの時間
たくさんの人が波音駅を使って行く
ビラ配りをしている千春とすみれ
すみれは千春のビラ配りを手伝っている
たまに受け取ってくれる人もいるが、ほとんどの人はスルーしている
落ち込む千春を励ますすみれ
鳴海「(声 モノローグ)千春が頑張っている」
◯136波音高校食堂(昼)
生徒で溢れかえっている食堂
豚キムチ定食を食べている鳴海
坦々麺を食べている嶺二
すみれの手作り弁当を食べている菜摘
鳴海「(声 モノローグ)俺たちも続かなければ。何故だか自然とそう思えてきた」
◯137波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
菜摘と千春は二人で一台のパソコンを使い、昨日と同じように作業をしている
汐莉は液タブを使い、部誌用のイラストを描いている
明日香、嶺二は部誌のデザインやカラーについて試行錯誤を繰り返している
鳴海はボーッと菜摘の方を見ている
鳴海「(声 モノローグ)みんなが頑張っている。みんなで頑張っている。共に物を作る喜び、共有出来る幸せ、そして楽しさ。俺はそれを初めて知った。早乙女菜摘という毒のない少女が、俺に教えてくれた。昼と夜の間の時間、すぐに終わってしまう夕暮れの時間。俺たちは眩い奇跡の中にいた。みんな気付いちゃいない、嶺二だって」
◯138滅びかけた世界:波音高校階段前(夕方/雨)
校舎の案内図を見ているナツ
ナツ「(案内図を見ながら)広すぎこの学校・・・放送室は・・・二階の・・・あっちか」
走って放送室を目指すナツ
◯139滅びかけた世界:波音高校放送室前(夕方/雨)
廊下はゴミや使い古された防災道具が散乱している
放送室と書かれている教室の前で立ち止まるナツ
扉を開けようとするナツ
いくら強く押しても扉は開かない
ナツ「(扉を強く押しながら)くそっ、中から鍵を掛けた人がいるのか・・・」
ナツは廊下に落ちていた消火器を拾い持ち上げる
扉の鍵に消火器を思いっきりぶつけるナツ
何回かぶつけると鍵が壊れる
消火器を捨てナツは扉を思いっきり押す
大きな音を立てて扉が開く
ナツは慎重に放送室の中に入る
◯140滅びかけた世界:波音高校放送室(夕方/雨)
埃をかぶっている放送機材と備品
放送室からは校庭が見える
校庭は雨でぐちゃぐちゃになっている
放送室の椅子に遺体(骸骨)が座っている
ナツ「(遺体の後頭部を見て)こんなところにも遺体が・・・」
ナツはゆっくり遺体が座っている椅子を動かす
椅子には大人の遺体と、その上に子供の遺体が座っている
ナツ「(椅子から目を逸らし)子供まで・・・」
ナツは遺体から離れ、放送室の中にある棚から数冊の書類を取り出す
放送機材の使用方法と書かれている書類
ナツは書類を見てリュックから大きな業務用のバッテリーを取り出す
ナツはケーブルを繋ぎ換え、バッテリーに差し込む
ナツ「(書類を見ながら)電源は・・・これかな」
カチッと電源を入れる
電源が入る放送機材
ナツ「(書類を見ながら)使用中のCDは最後まで流してから放送に切り替えましょう・・・?」
ナツは意味がわからないまま、CDプレイヤーの再生ボタンを押す
CDプレーヤーの中でCDが回り始める
幸せなら手を叩こうが流れ始める
◯141滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(雨/夕方)
ナツが戻ってくるのを待っているスズ
椅子に座っているスズ
包帯を巻いているため両目とも見えない
スズ「(歌っている)なっちゃんの〜頭には〜マシュマロが乗っている〜川にはラーメンが流れ〜世界はハッピーになる〜」
スピーカーから幸せなら手を叩こうが大きな音で流れ始める
歌うのをやめ、スピーカーに耳を傾けるスズ
スズ「おおっ!音楽が聞こえるっ!!」
◯142滅びかけた世界:波音高校校庭(雨/夕方)
雨のせいでぐちゃぐちゃになっている校庭
スピーカーから幸せなら手を叩こうが大きな音で流れている
周りの住宅街にも響いている
スピーカー「(♪幸せなら手を叩こう)幸せなら手を叩こう 幸せなら手を叩こう」
◯143滅びかけた世界:波音高校廊下(雨/夕方)
たくさんの遺体(骸骨)やゴミが散らかった廊下
スピーカーから流れている幸せなら手を叩こうが響く
スピーカー「(♪幸せなら手を叩こう)幸せなら態度で示そうよ ほら みんなで手を叩こう」
◯144滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(雨/夕方)
スピーカーから幸せなら手を叩こうが流れている
スズは幸せなら手を叩こうの歌詞通りの動きをしている
スピーカー「(♪幸せなら手を叩こう)幸せなら足鳴らそう 幸せなら足鳴らそう」
ダンダンと足で音を立てるスズ
◯145滅びかけた世界:波音高校放送室(雨/夕方)
幸せなら手を叩こうが流れ終わるまで黙って聞いているナツ
時間経過
放送機材の使用方法という書類を見ているナツ
カチッと音がして幸せなら手を叩こうが流れ終わる
プレイヤーの中で回っていたCDも止まる
ナツ「(書類を見ながら)放送するには・・・マイクの電源を入れて・・・ヘッドホンをつける・・・フェーダーを上げてっと・・・繰り返して使えるように録音もしとこ」
ナツはマイクの電源を入れフェーダーを一番上にする
ヘッドホンをつけるナツ
ナツは口元をマイクに近付ける
同時に録音も始める
◯146滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(雨/夕方)
ナツが戻ってくるのを待っているスズ
椅子に座っているスズ
包帯を巻いているため両目とも見えない
スピーカーからナツの声が流れてくる
スピーカー「(ナツの声)こちら波音高校、こちら波音高校」
スズ「なっちゃんの声だ」
スピーカー「(ナツの声)私は友人のスズと一緒に、奇跡の海を目指してこの町にやって来ました。奇跡があると信じて・・・」
◯147滅びかけた世界:波音高校周辺の住宅(雨/夕方)
住宅はほとんど倒壊している
お店、車、電柱など全てのものがボロボロの状態
スピーカー「(ナツの声)緋空浜に奇跡なんてありませんでした。魔法の力や楽園は存在せず、あるのは絶望して死んでいった人たちの骨と、彼らを消滅までに追い込んだ兵器だけです」
◯147滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(雨/夕方)
スピーカーから流れてくるナツの声
その声に耳を傾けているスズ
スピーカー「(ナツの声)この放送を聞いてる人がいたら、助けてほしいです」
◯148滅びかけた世界:波音高校放送室
マイクに向かって喋っているナツ
ナツ「(マイクに向かって)ここには希望も資源もありません・・・このままだと私たちの命は、この滅びかけた世界と共に終わってしまいます。死にたくないです、長生きしたいです。お願いです、私たちを助けてください」
録音を止めるナツ
マイクから離れフェーダーを下げるナツ
放送機材の電源を落とすナツ
◯149早乙女家前(朝/日替わり)
憲法記念日/飛響草原公園に行く日
朝の十時過ぎ
快晴
家の前には二台の車が駐車されている
レクサスとトヨタのアクアの二台
鳴海、菜摘、汐莉、千春、すみれ、潤はすでに集合している
菜摘「二人とも来ないね・・・迷ってるのかな」
鳴海「何をしとるんだ嶺二と明日香は・・・」
汐莉「待ち合わせ場所を手前にしとくべきでしたねー」
潤「(車の鍵をクルクルと指で回しながら)待ち疲れたしもう行こうや、遅刻する奴なんて置いていけばいい」
千春「もう少しだけ待ってあげませんか?置いて行くのは気の毒です」
すみれ「そうですよ、潤くんだって置いて行かれたら嫌でしょ?」
潤「(車の鍵をクルクルと指で回しながら)俺は遅刻なんざしねえ!!」
すみれ「(呆れながら)大人気ないなんだから・・・」
嶺二と明日香が走ってやって来る
嶺二はたくさんの荷物を持っている
菜摘「来た来た!(手を振って)こっちこっちー!」
鳴海「なんだあの荷物の量は・・・」
明日香と嶺二が早乙女家前に到着する
明日香「(息を切らしながら)ほんっとごめん・・・道に迷って・・・」
菜摘「これで来るのは二回目だし、迷うのもしょうがないよ」
明日香「(息を切らしながら)ごめん・・・」
嶺二「(息を切らしながら)く、クソ重え・・・」
千春「(嶺二の大きなリュックを見ながら)何が入ってるんですか?」
嶺二「(息を切らしながら)遊ぶ道具だよ・・・飛響草原公園なんて滅多に行かないからね・・・」
鳴海「そんなもん持ってくる前に早起きしろ」
嶺二「(息を切らしながら)早起きしたさ・・・荷物の選別に時間が・・・」
すみれ「荷物いい?預かってあげるよ」
嶺二「(息を整えて)かなり・・・重いですよ」
すみれ「大丈夫」
嶺二がリュックを渡す
すみれが軽々と嶺二のリュックを持つ
すみれは嶺二のリュックをアクアのトランクに入れる
潤「そんじゃあ行くぞ、おい、(レクサスを指差し)男どもはこっちに乗れ!!」
鳴海「まじすか・・・」
嶺二「僕・・・(アクアを指差して)あっちの車に荷物あるんすけど・・・」
潤「そんなこと俺が知ったこっちゃねえ!!行くぞ!」
嶺二「そ、そんなぁ・・・」
潤はレクサスに乗り込む
すみれ「ではお嬢さん方は私の車に乗って行きましょー!!」
すみれ、明日香、汐莉、千春がアクアに乗り込む
嶺二「(アクアを見ながら)お、俺もそっちの車がよかった・・・」
鳴海「(アクアを見ながら)道中は耐えるっきゃねえな・・・」
菜摘「(手を振って)貴志くん、白石くん、また後でね」
鳴海「おう」
嶺二「さらばだ・・・友よ」
菜摘はアクアの助手席に乗る
鳴海と嶺二は観念したようにレクサスの後部座席に乗り込む
◯150レクサス車内(朝)
ナビをポチポチとセットしている潤
車窓からアクアの車内が見える
楽しそうに喋っている女子たち
それを羨ましそうに見ている鳴海と嶺二
潤「ファルコン、準備完了!!」
鳴海・嶺二「ふぁるこん・・・?」
潤「んじゃあ飛ばして行くぜ!!!」
潤がハンドルを握り、アクセルを踏み込む
レクサスが発車する、アクアはその後ろについてくる
時間経過
一般道なのに飛ばしているレクサス
60kmを越えている
潤「おらおらどけ!!!」
荒い運転と荒い言葉使いの潤
怖がっている鳴海と嶺二
嶺二「やばいっすよ!!捕まりますって!!」
交番の前を通っても速度を落とさない潤
潤「捕まえてみやがれってんだ!!あぁん?こっちはワイルドスピードなんだよ!!!ミレニアムファルコンなんだよ!!!!マッドマックス怒りのデスロードなんだよ!!!」
鳴海「(大きな声で)飛ばし過ぎだ!!事故は勘弁しろ!!!!」
鳴海の一声でスピードを落とす潤
潤「(我に返ったように)あ、ああ・・・飛ばし過ぎた」
嶺二「(安心して)よ、よかった。助かったぜ鳴海」
鳴海「おうよ。安全運転で頼む、この車が事故ったら後ろのすみれさん達も巻き込みかねない・・・」
潤「そ、そうだな・・・少しスピードを落とす」
赤信号で止まる
潤「なんか音楽でもかけるか・・・」
車内の収納ケースをガチャっと開け、一枚のアルバムを取り出す潤
そのCDをカーオディオドライブの中に入れる
信号が青になり発車する
stand by meが流れ始める
潤「おまえらstand by me知ってるか」
鳴海「知ってるけど・・・」
嶺二「ドラえもん・・・?」
潤「なんでドラえもんなんだよリバーフェニックスだろそこは・・・知らねえんだなぁ・・・俺くらいの歳だったら知らない奴はいない、こいつはそのくらいの名曲だよ」
嶺二は音楽に集中する
嶺二「あー!!この曲なら知ってるっす!」
潤「良い曲だろ」
嶺二「そうっすね!」
潤はstand by meを鼻歌で歌い始める
時間経過
昔懐かしい洋楽達がメドレーで流れ続け、気がつくと飛響草原公園に到着する
◯151飛響草原公園駐車場(昼)
広い駐車場なのに混んでいる
駐車場の空きを探してクルクルと回り続けているレクサスとアクア
潤「ゴールデンウィークだから混んでるなー」
鳴海「(空きを指差して)あっち空いてるぞ!!」
潤「なに!?そいつは見逃せん!」
潤はハンドルを大きく回し空いてるところを目指そうとするが、アクアに先を越される
嶺二「取られた・・・」
潤「やるなすみれ・・・他を探すしかねえ!」
時間経過
レクサスは未だ駐車出来ていない
アクアに乗っていた菜摘、明日香、汐莉、千春、すみれは車から降り、徒歩で駐車スペースを探している
明日香が空きを見つけ、その場に立ち手招きしている
鳴海「おっさん!!(明日香を指差して)明日香が空きを見つけてくれたぞ!!」
潤「今度こそ逃さねえ!!!」
素早いハンドル捌きを見せ、駐車スペースを目指す潤
嶺二「いけいけ!!」
菜摘、汐莉、千春、すみれはレクサスを明日香の元へ案内する
明日香が駐車スペースから退き、レクサスがそこに入って行く
レクサスの駐車が終わる
潤「(エンジンを切って)やっと着いた・・・」
女子たちはレクサスの前で待っている
シートベルトを外し、降りる鳴海、嶺二、潤
飛響草原広場はこちらと書かれた看板がある
すみれ「もう!潤くん駐車下手過ぎ!!」
潤「違うんだって、駐車場がまず混み過ぎなんだよ」
すみれ「潤くんのせいですごい時間押したんだから。みんな待ってたんだよ?」
潤「すまん、けど駐車場が混んでたせいで・・・」
すみれ「言い訳は要りません!!」
すみれは草原広場を目指して歩き始める
潤「怒んなよー!」
潤はすみれを追いかける
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春も後に続く
菜摘「どうだった?お父さんの運転は?」
鳴海「まあ・・・少しだけデンジャラスだったかな・・・」
嶺二「少し?めちゃくちゃデンジャラスドライバーだったわ!!」
菜摘「え・・・ジェットコースターみたいで楽しくない?ハラハラドキドキだよ?」
鳴海「一般道の走行でハラハラドキドキしたらダメだろ!!」
嶺二「あの速度でよく交番の前を通ったよね・・・逮捕されるかと思った」
菜摘「そんなに危ない運転だったんだ、生きてて良かったね!!」
鳴海「しれっと生きてて良かったねとか怖いこと言うな・・・」
嶺二「帰りは女性陣の車に乗りてえよ・・・」
明日香は菜摘と潤とすみれをまじまじと見ている
明日香「(早乙女一家を見て)変わった家族ね」
千春「皆さん温かい人たちですよ、私のことも受け入れてくれました」
汐莉「きっとめちゃくちゃ適応力が高い家族なんだ」
明日香「そうね、こういう家族だから受け入れてもらえたのかもね・・・」
◯152飛響草原公園草原広場のベンチ(昼)
広場は遊んでいる人たちで溢れている
十人以上が使える大きなテーブルがある
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春、潤は着席し、すみれはお弁当と飲み物を広げている
明日香「(お弁当を見ながら)これ・・・全部手作りですか?」
すみれ「(笑いながら)ううん、さすがに全部じゃないよ。唐揚げとかは手作りだけどね」
明日香「でもこの人数分作ってくるなんて・・・すごい」
すみれ「ありがとう、皆さんのお口に合うと良いけど」
汐莉「恐るべし女子力」
ご飯を全て出し座るすみれ
すみれ「それじゃあ食べましょうか。(手を合わせて)いただきます」
鳴海・菜摘・嶺二・明日香・汐莉・千春・潤「いただきます」
食べ始める一同
鳴海「相変わらずうめえ!!」
菜摘「唐揚げ、美味しいよお母さん」
すみれ「よかったよかった」
嶺二「マジだ、これは美味い!菜摘ちゃんと千春ちゃんが羨ましいなぁ。こんな美味しいご飯を毎日食べれるなんて」
千春「いつ食べてもすみれさんのご飯は絶品の味です!!」
潤「お前ら少しは遠慮しろよー」
すみれ「潤くん、ダメでしょそんな食い意地張っちゃ」
潤「食い意地とかではなく、俺は年功序列という四字熟語に従っているだけだ」
すみれ「意地悪しないの!」
潤「いやだからこれは意地悪ではなく・・・」
すみれ「はいはい、ほんとに大人気ないんだから」
嶺二「食べ終わったら水鉄砲しようなみんな!!」
汐莉「遠慮しときます」
鳴海「風邪引きたくないからパス」
菜摘「私も寒いのはちょっと・・・」
千春「濡れたくないです」
嶺二「えぇ・・・みんなノリ悪過ぎない?」
明日香「水鉄砲以外の遊びもあるでしょ?」
嶺二「じゃあ野球しようぜ!!」
明日香「ソフトボールならやる」
鳴海「野球にしてもソフトボールにしてもベースがねえ。ベース無しでやるのか」
嶺二「ええやんベースなくても」
すみれ「菜摘、ボール持ってきた?」
菜摘「うん、野球ボールとバドミントンのラケットとシャトルは持ってきたよ」
潤「俺はサバゲーでも構わないぜ!」
鳴海「サバゲーなんて選択肢はなかったはずだが・・・サッカーはダメ?」
汐莉「サッカー?ボールから逃げ回って終わりますけど」
千春「サッカーはゴールネットがないので難しくないですか?」
明日香「もう各々好きな球技か遊びをすればいいんじゃない?嶺二は一人で水鉄砲ね」
嶺二「みんなで水鉄砲がしたかったです・・・」
明日香「諦めなさい」
がっくりとうなだれる嶺二
◯153飛響草原公園草原広場(昼)
昼食後
とてもつもなく広い草原
遊んでいる人がたくさんいる
草原でソフトボールを始める
ベースがないので簡易ソフトボール
チーム戦ではなく、どれだけをボールを打てるかという個人戦
ピッチャーは明日香
バッターは嶺二
キャッチャーは潤
その他のメンバーは内野と外野に散っている
すみれはベンチから観戦している
すみれ「(大きな声で)頑張ってー!!」
嶺二「(バットを構えながら)おっしゃあ!!一発決めてやる!」
明日香がボールを投げる
空振る嶺二
潤がボールを明日香に投げ返す
嶺二「(バットを構え直して)次こそ打つ!!」
鳴海「(大きな声で)明日香ー!!空振り取れるぞ!!」
鳴海の方を見て頷く明日香
明日香がボールを投げる
空振る嶺二
潤がボールを明日香に投げ返す
汐莉「(大きな声で)明日香先輩!!ラストも空振りにさせましょう!!!」
頷く明日香
嶺二「(バットを構え直して)もう見極めたからなっ!!!」
明日香がボールを投げる
ボールはストライクゾーンから逸れる
潤がボールを明日香に投げ返す
鳴海「(大きな声で)焦らずに投げろ!!」
頷く明日香
バットを構え直す嶺二
明日香がボールを投げる
嶺二がバットを振りボールを当てる
綺麗にクリーンヒットした打球は守備していた範囲より遠くに転がる
嶺二「(ガッツポーズをして)よっしゃあ!!!」
すみれ「(大きな声で)ナイスバッティング!!」
慌ててボールを取りに行く鳴海
鳴海はボールを明日香に投げ返す
嶺二「完璧に決まったぜ!!」
嶺二は颯爽と草原を駆け抜ける
明日香「(大きな声で)あーもう悔しい!!!バッター交代!!!次菜摘!!!!!」
菜摘「(大きな声で)私!?」
嶺二は一周してバッターボックスに戻って来る
手招く明日香
菜摘は内野から離れる
嶺二「(バットを渡して)頑張って菜摘ちゃん!」
菜摘「(バットを受け取りながら)う、うん」
嶺二は内野に行く
菜摘はバッターボックスに入る
菜摘はバットを構える
千春「(大きな声で)思いっきり振ってください!!」
すみれ「(大きな声で)頑張って菜摘!!」
頷く菜摘
明日香がボールを投げる
菜摘は思いっきりバットを振るが、ボールには当たらない
潤がボールを明日香に投げ返す
潤「ボールをしっかり見ろ」
菜摘「見てるけど当たらないよ」
潤「一瞬に集中しろ」
菜摘「(自信なさそうに)うん・・・」
バットを構え直す菜摘
明日香がボールを投げる
菜摘は思いっきりバットを振るが、ボールには当たらない
潤がボールを明日香に投げ返す
鳴海「(大きな声で)頑張れ早乙女!!自信持ってやるんだ!!!」
頷く菜摘
潤「(大きな声で)おう!!!」
すみれ「(大きな声で)はーい!!!」
鳴海「(困惑しながら)えっ・・・返事する人が多くね?」
少しの沈黙が流れる
明日香は鳴海の方を見る
明日香「鳴海、今この空間には三人の早乙女がいることを忘れてんの?」
鳴海「は!?いやいやおかしいでしょ!?今俺が応援してたのはバッターの早乙女!!!!!」
すみれ「(大きな声で)私たち家族を応援してるんじゃないのー!?」
困惑している菜摘、すみれ、潤
菜摘はバットを構えるのを止める
菜摘「(困惑しながら)誰に対して頑張ってって言ったの?」
鳴海「そりゃもちろん早乙女に対してに決まってるだろ!!!早乙女ってもちろんバッターボックスにいる早乙女な!!!ベンチで観戦してる方とキャッチャーの早乙女は違うから!!!!!」
潤「おいガキ!!ややこしくなるから固有名詞で呼べよ!!苗字じゃわからねえだろ!!!」
鳴海「普通分かるでしょ!!!逆にだ!逆になぜ分からんのだ!!!」
潤「てめえの普通を押し付けてるんじゃねえ!!普通は名前で呼ぶんだよアホ!!」
鳴海「もはや俺が普通を押し付けられる側になってるんすけど・・・も、もういいわ!!!が、頑張れよ菜摘!!!」
菜摘「う、うん!!!」
菜摘はバットを構える
明日香がボールを投げる
菜摘が思いっきりバットを振る
ボールがバットに当たり良い音が鳴る
ボールは内野を抜けて行く
菜摘「や、やった!!ヒットだ!!!!!」
嶺二がボールを明日香に投げ返す
明日香「(ボールを捕んで)まさか菜摘に打たれるなんて・・・」
うなだれる明日香
明日香「(気を取り直して)次は鳴海!!!」
鳴海「俺かよ・・・打てる自信ねえ」
鳴海は外野を離れバッターボックスに行く
菜摘「(バットを渡しながら)な、鳴海くんも頑張ってね!」
鳴海「(バットを受け取り)お、おう!」
菜摘はバッターボックスから離れ内野に行く
素振りをする鳴海
鳴海はバッターボックスに入る
潤「ヘタレなお前に打てんのか?」
鳴海「(バットを構えながら)ヘタレじゃねえ」
潤「お前の親父は運動神経が良かったぞ」
鳴海「(バットを構えながら)俺の親父が・・・?親父のこと知ってるのか?」
明日香がボールを投げる
鳴海はストライクゾーンのボールを見逃す
潤「(ボールを投げ返しながら)俺はお前の親父と同級生だったからな」
鳴海「(バットを構えながら)信じられない」
潤「信じないのも無理はないが、結構仲良かったぜ」
明日香がボールを投げる
鳴海はストライクゾーンのボールを見逃す
菜摘「(大きな声で)鳴海くん!!頑張って!!!」
嶺二「(大きな声で)何やってんだよ鳴海!!振れ!!」
潤「(ボールを投げ返しながら)後で写真を見せてやるよ、今はボールに集中しとけ」
鳴海「(バットを構えながら)あんたの話題のせいで集中出来なくなったんだわ!」
潤「まだまだだな」
明日香がボールを投げる
鳴海がバットを振りボールを当てる
打球は大きく打ち上がる
ピッチャーフライ、明日香がキャッチする
明日香「良かった・・・鳴海は抑えられた」
◯154飛響草原公園草原広場のベンチ(昼過ぎ)
菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春はフリスビーをしている
潤とすみれと鳴海はベンチに座って、時折フリスビーで遊んでるみんなのことを見ている
鳴海「俺の親父と同級生だったって本当なのか・・・?」
潤「高校生の時、俺とすみれとお前の両親は同じ部活に所属してた。波高でね」
すみれ「(カバンから写真を取り出し鳴海に渡す)これ、当時の写真」
写真を受け取り両親の姿を見る鳴海
波音高校の制服を着ている四人の男女
若かりし頃の潤とすみれ、そして鳴海にそっくりな鳴海の父、紘と鳴海の母、由香里が笑顔で写っている
潤「お前の親父、紘と俺はいつも一緒に過ごしてたよ」
すみれ「二人とも不良だったんだよ、授業はまともに聞かないし悪いことばっかりするし・・・」
潤「(懐かしそうに)しょっちゅう怒られたもんだ、お前の母親・・・由香里ちゃんにもたくさん迷惑をかけたな・・・」
すみれ「(懐かしそうに)由香里は優しくて・・・どれだけ私が怒っても許してあげようって必ず言ってきてね・・・本当に優しくて聡明だった」
潤「菜摘から話を聞いてる限りだと、お前は紘の悪戯心と由香里ちゃんの優しさの両方を無事に受け継いだみたいだな」
写真を見るのを止める鳴海
鳴海「両親と知り合いだったなんて・・・」
潤「覚えてないかもしれないが、俺たちは顔見知りだぞ」
すみれ「ご両親が亡くなる前は家族ぐるみの付き合いがあった、その時に菜摘とも会ってる」
鳴海「全然・・・覚えてないです・・・たった八年前のことですけど、事故がトラウマになって両親に関係していることはほとんど忘れてしまった」
潤「無理もねえ、どういう形で影響が出てもおかしくはない体験だったんだからな・・・菜摘と再会したのも高校生になってからで、小中学校は別だ。娘もお前のことは覚えてないんだろう」
すみれ「鳴海くん、お姉ちゃんがいるでしょ?風夏ちゃんは私たちのことを覚えてると思うよ」
鳴海「姉貴に聞いてみます」
潤「(フリスビーをしている菜摘を見ながら)ほんと不思議な縁だな・・・菜摘の友人が紘と由香里ちゃんの子供か」
すみれ「繋がりはどこまでも続いていくものね」
菜摘が鳴海たちに手を振る
鳴海「(手を振り返して)そうっすね・・・」
鳴海のスマホが振動する
鳴海はポケットからスマホを取り出す
電話をかけてきたのは有馬勇
鳴海「(立ち上がり)ちょっと電話出てきます」
潤「おう」
潤は写真をしまう
鳴海は潤とすみれから離れた場所で電話を取る
鳴海「もしもし」
勇「(電話の声)もしもし、有馬です」
鳴海「有馬さん、何か分かったことがありましたか?」
勇「(電話の声)ええ・・・ちょっと・・・」
鳴海「ほんとですか?」
勇「(電話の声)貴志さんは、昔ギャラクシーフィールドに来たことあります?」
鳴海「小さい頃・・・親父と一緒に来たことが何度かあります」
勇「(電話の声)ギャラクシーフィールドの新世界冒険というゲーム機を覚えていますか?」
鳴海「すいません・・・覚えてないです」
◯155飛響草原公園草原広場(昼過ぎ)
フリスビーで遊んでいる菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春
嶺二がフリスビーを投げる
明日香が取り損ね遠くまで飛んで行くフリスビー
明日香「もうダメ、走りたくない・・・」
とぼとぼと歩いてフリスビーを取りに行く
菜摘「私も少し休憩したい・・・」
汐莉「明日筋肉痛になるぅ・・・一生分のエネルギー使ったぁ・・・」
嶺二「マジ?もう体力切れ?」
汐莉「体力は有限なんですよ?」
嶺二「そんなことは知っとるわ」
明日香「(フリスビーを拾って)電話・・・?」
明日香の視線の先には電話している鳴海
千春「ちょっと休みますか」
菜摘「そうだね・・・」
ベンチに向かい始める嶺二以外のメンバー
嶺二「ちょいちょいみんな!!もっと遊ぼうや!」
明日香「一人でフリスビー投げて、一人でキャッチしてなさいよ。インスタのストーリーに載せてあげるから」
嶺二「載せんな載せんな!!(緊張しながら)ち、千春ちゃん!ち、ちょっと話があるんだけど・・・」
菜摘、明日香、汐莉が嶺二と千春を交互に見る
千春「(歩くのやめて振り返る)話・・・ですか?」
嶺二「(緊張しながら)あ、ああ!少し話さない?」
千春「良いですよ」
嶺二「あ、明日香たちは先に行っててくれ!」
顔を見合わせる菜摘、明日香、汐莉
明日香「千春を困らせちゃダメだからね」
嶺二「わ、分かってるよ!!」
明日香「(ため息を吐いてから)菜摘、汐莉、行こう」
歩き始める菜摘、明日香、汐莉
菜摘「こ、告白かな?」
汐莉「文芸部に巻き起こる青春、色恋沙汰」
明日香「色恋沙汰は勘弁・・・部内がギクシャクするじゃん」
嶺二「(小声でボソッと)まる聞こえなんだが・・・」
◯156飛響草原公園草原広場のベンチ付近(昼過ぎ)
電話をしている鳴海
菜摘、明日香、汐莉がベンチに向かって来ている
鳴海から嶺二と千春の二人が見える
勇「(電話の声)ギャラクシーフィールドの新世界冒険は私が作ったゲーム機です。ストーリーも、キャラクターも、ギミックも、全て私の個人制作です。今は壊れていますが、それこそ貴志さんが幼い頃くらいはかなり人気がありました」
◯157飛響草原公園草原広場(昼過ぎ)
二人きりになった嶺二と千春
嶺二「この間はごめん・・・」
千春「この間?」
嶺二「千春ちゃんの小説に変な文句つけたじゃん俺。悪気があったわけじゃないんだ、ほんとごめん」
千春「謝らないでください、私は気にしてませんよ」
嶺二「俺なんか人の作品に文句を言える立場じゃないのに・・・」
千春「良いんです、私も嶺二さんと同じですから。自分で言うのも変な話かもしれませんけど、多分、似た物語があるんだと思います」
◯158飛響草原公園草原広場のベンチ付近(昼過ぎ)
ベンチに戻ってきた菜摘、明日香、汐莉
明日香「(電話をしている鳴海を見て)何の電話だろ」
すみれ「さあ・・・」
電話をしている鳴海
鳴海「それはどんなゲームなんですか?」
勇「(電話の声)いわゆるロールプレイングと呼ばれるものです。ファンタジーで、プレイヤーが主人公になって、ヒロインと一緒に世界を救うというのが大まかなストーリーです。悪霊と呼ばれる敵を倒しながらレベルを上げていきます。物語的には最後にヒロインは死んでしまって・・・主人公の少年だけが生き残るっていう少し悲しい結末を迎えます」
◯159飛響草原公園草原広場(昼過ぎ)
二人きりで話をしている嶺二と千春
嶺二「そ、そっか!鳴海も言ってたけど世界には腐るほど物語があるんだから似た話の一つや二つあるもんだな」
千春「無意識に影響を受けた作品があるんだと思います」
嶺二「そ、そりゃそうだよな!俺も少女漫画を参考にしたし・・・」
千春「少女漫画を参考にするなんて、嶺二さんも意外と純情乙女なんですね!」
嶺二「(照れながら)ま、まあな!そんなことより・・・今度・・・どこかに遊びに行かない?」
◯160有馬勇家のリビング(昼過ぎ)
電話をしながら千春のビラを見ている
勇「(ビラを見ながら)貴志さん、あなたの知り合いには千春という名の少女がいるんですよね?」
鳴海「(電話の声)ええ。今も一緒にいますよ」
勇「(ビラを見るのをやめて)本当に?本当にいるんですか?」
鳴海「(電話の声)どうしてそんなことを聞くんですか?いるに決まってるじゃないですか」
◯161飛響草原公園草原広場(昼過ぎ)
二人きりで話をしている嶺二と千春
嶺二「ショッピングモールにでも行ってみない?色々あって楽しいよ」
千春「でも・・・お金が・・・」
嶺二「心配御無用!作品に対して失礼なことを言ったお詫びということで・・・奢るよ!!!」
千春「お詫びなんて、私は気にしてないのに・・・」
嶺二「いいのいいの!俺はお詫びしたいの!!だから素直にお詫びされてくれ!!」
なんて返事をしようか考えている千春
◯162飛響草原公園草原広場のベンチ付近(昼過ぎ)
電話をしている鳴海
鳴海、嶺二、千春以外のメンバーはベンチで休憩している
勇「(電話の声)私が知っている千春の苗字は、柊木です」
鳴海「えっ・・・柊木って・・・」
鳴海はLINEの菜摘とのトーク画面を開く
トークを遡る鳴海
“千春ちゃんの苗字は柊木、ビラ配りのバイトは高校に通うためにしてるっていう設定で“という菜摘からのメッセージを見る鳴海
鳴海「千春が記憶喪失をしてるって前に言いましたよね?」
勇「(電話の声)はい」
鳴海「千春は自分の苗字を忘れていました。だから俺たちは彼女に仮の苗字を与えました。柊木と」
勇「(電話の声)それはおそらく、柊木千春のことを知っていたんでしょう」
鳴海「どういうことですか?千春は一体誰なんですか?」
勇「(電話の声)柊木千春は・・・ギャラクシーフィールドの新世界冒険に登場するヒロインと同じ名前です」
◯163飛響草原公園草原広場(昼過ぎ)
二人きりで話をしている嶺二と千春
千春「そこまで言うなら・・・(笑顔で)ぜひお願いします!」
嶺二「(喜びながら)任せてよ!!!全力でお詫びするね!!!!!」
千春「楽しみにしています!」
◯164飛響草原公園草原広場のベンチ付近(昼過ぎ)
電話をしている鳴海
鳴海、嶺二、千春以外のメンバーはベンチで休憩している
鳴海「待ってください・・・千春がゲームから飛び出てきたキャラクターと言いたいんですか?」
勇「(電話の声)私に分かることはギャラクシーフィールドの新世界冒険に登場するキャラクターが、貴志さんの知人と同姓同名で年齢も同じだということです」
鳴海「そんなこと・・・信じられない話です」
勇「(電話の声)にわかに信じがたいことでしょう。でもこれが波音町に伝わる奇跡の力なのかもしれませんね、御伽話のような・・・例えるなら鶴の恩返し・・・寂れたゲームセンターを盛り上げるために現れた・・・なんてことだったらどうしますか?」
鳴海「それは・・・なんというか・・・とても奇妙なことだと思います」
勇「(電話の声)信じていないようですね」
◯165飛響草原公園草原広場(昼過ぎ)
二人きりで話をしている嶺二と千春
嶺二「明後日のこどもの日、空いてる?」
千春「空いてます」
嶺二「じゃあその日に行こう!!」
千春「はい!」
◯166飛響草原公園草原広場のベンチ付近(昼過ぎ)
電話をしている鳴海
鳴海、嶺二、千春以外のメンバーはベンチで休憩している
鳴海「奇跡なんか信じるんですか?」
勇「(電話の声)貴志さん、これは奇跡以外に何と言いようがあるのでしょうか」
鳴海「分かりません・・・」
勇「(電話の声)世の中には理解出来ないような神秘的なことがあってもいいと思います。私も千春と会ってみたい、会って確かめたい。彼女が本物かどうか・・・奇跡を見てみたい」
鳴海「(千春の方を見て考え込む)それなら・・・(少し間を開けて)波音高校の学園祭に来てください。千春の書いた小説で朗読劇を行います。もしかするとその小説は有馬さんが作ったゲームから影響を受けているかもしれません」
勇「(電話の声)直接会うことは出来ませんか?」
鳴海「千春はギャラクシーフィールドには行きたくないと言っていました。有馬さんと会うのも嫌がると思います」
勇「(電話の声)そうですか・・・」
鳴海「すいません、学園祭については追って連絡します。少し頭の中を整理する時間をもらえませんか?」
勇「(電話の声)分かりました、連絡待ってます」
鳴海「はい」
電話を切る鳴海
立ち尽くす鳴海
スマホをポケットにしまう鳴海
ベンチに戻る鳴海
明日香「何の電話?」
鳴海「ば、バイトの電話」
明日香「バイト始めんの?」
鳴海「いや。お、落ちたわ」
明日香「ウソ!?落ちた!?」
鳴海「き、傷付いてるからあんまり聞くな」
明日香「あ、ごめん」
汐莉「次がありますよ先輩!」
鳴海「そ、そうだな」
嶺二と千春がベンチに向かってくる
ニコニコしている嶺二
鳴海「あの二人は何してたんだ?」
菜摘「なんか話があったみたいだよ」
鳴海「話ね・・・」
菜摘「どうかした?」
鳴海「バイトのことでちょっと」
菜摘「(小声で)もしかして有馬さんからの電話?」
鳴海「(小声で)よく分かったな、ここはみんながいる。後で話すよ」
菜摘「(小声で)うん、(声を大きくして)バイト見つかるといいね!!」
ウインクをする菜摘
鳴海「おう」
ベンチに戻ってきて着席する嶺二と千春
嶺二「みんな一休みしたんだから遊ぼうぜ!!サイクリング?バドミントン?それともまたソフトボールかフリスビーでもするか!」
鳴海「元気な奴だな」
嶺二「(笑顔で)おう!!元気いっぱいだ!!」
◯167飛響草原公園駐車場(夕方)
遊び切り疲れ果てている一同
すみれ「帰りも行きと同じ車でいい?」
汐莉「はーい!」
嶺二「(小声で)また男車か・・・」
潤「あぁん?なんか今言ったか?」
嶺二「(慌てて)何でもございませんッ!!安全運転でお願いします!!」
潤「余計なことを言えば走行中でも放り出すからな!」
嶺二「分かっております!!」
潤「んじゃあ帰るぞ」
女子たちはアクアへ、男子たちはレクサスに乗り込む
◯168レクサス車内(夕方)
車内のスピーカーから流れる洋楽
潤は安全運転をしている
後部座席に乗っている鳴海と嶺二
嶺二は眠っている
鳴海は外を見ながら考え事をしている
鳴海「(声 モノローグ)すっかり頭が回らなくなっている」
菜摘「(声)な、鳴海くんも頑張ってね!」
潤「(声)お前の親父、紘と俺はいつも一緒に過ごしてたよ」
すみれ「(声)由香里は優しくて・・・どれだけ私が怒っても許してあげようって必ず言ってきてね・・・本当に優しくて聡明だった」
すみれ「(声)ご両親が亡くなる前は家族ぐるみの付き合いがあった、その時に菜摘とも会ってる」
潤「(声)無理もねえ、どういう形で影響が出てもおかしくはない体験だったんだからな・・・菜摘と再会したのも高校生になってからで、小中学校は別だ。娘もお前のことは覚えてないんだろう」
勇「(声)柊木千春は・・・ギャラクシーフィールドの新世界冒険に登場するヒロインと同じ名前です。にわかに信じがたいことでしょう。でもこれが波音町に伝わる奇跡の力なのかもしれませんね、御伽話のような・・・例えるなら鶴の恩返し・・・寂れたゲームセンターを盛り上げるために現れた・・・なんてことだったらどうしますか?」
鳴海「(声 モノローグ)たくさんのことが起こり過ぎてる。名前や両親のことなんかどうでもいい。それより千春のことだ。なんて説明すりゃいい・・・奇跡の力って言えばいいのかよ」
◯169滅びかけた世界:波音高校特別教室の四/文芸部室(雨/夜)
教室の中に半壊している旧式のパソコン六台と同じく半壊している旧式のプリンターが一台ある
椅子や机、教室全体に溜まりまくった小さなゴミ
教室の窓際には白骨化した遺体が二体並んで壁にもたれている
一体の遺体は手に20Years Diaryという日記を抱えている
ナツは床に座って本を読んでいる
スズはナツにもたれて座っている
包帯を巻いているため両目とも見えないスズ
スズ「なっちゃん」
ナツ「(本を読むのをやめて)寝てたのかと思ってたけど起きてんの?」
スズ「寝たり起きたりしてる」
ナツ「(本を閉じて)驚かすな、私から見たら寝てるのか起きてるのか生きてるのか死んでるのかも分からないんだから」
スズ「この部屋に骸骨があるんだよね?」
ナツ「(本を床に置いて)二体あるよ、骸骨」
スズ「どんな人?」
ナツ「どんなって言われても・・・服的に二人とも女の人かな」
スズ「食べ物持ってない?」
ナツ「ない」
スズ「確かめてないのになんで分かるの!!」
ナツ「見た感じないから」
スズ「確かめてみてよ〜」
ナツ「怖いからやだ」
スズ「お宝が出てくるかもしれないよ〜」
ナツ「ないない」
スズ「秘密のアイテムを持ってるかも!」
ナツ「そんなものはない!(遺体が持っている20Years Diaryを見ながら)けど・・・」
スズ「食べ物!?!?」
ナツ「間違いなく食べ物ではない、本だと思う。英語の本」
スズ「英語の本は要らないよ〜、日本語の本ですら読めないのに〜」
立ち上がるナツ
もたれていたスズはバランスを崩す
スズ「(体勢を直しながら)危ないよバカ!」
ナツ「少なくとも私はスズよりバカではない。なぜなら日本語の本は読めるから」
スズ「本を読むより大事なことがある!!ご飯を食べるとか!!」
ナツは遺体に近づく
20Years Diaryを大事そうに抱えている遺体
ナツ「ごめんなさい、少しだけ借ります」
そっと遺体から20Years Diaryを取るナツ
スズの隣に戻るナツ
ナツ「本、借りた」
スズ「珍しい、なっちゃんが死人から物を奪うなんて」
ナツ「奪ってない借りただけ」
スズ「泥棒なっちゃん」
ナツ「うるさい」
日記帳をパラパラとめくるナツ
ナツ「(日記帳を見ながら)英語じゃなくて日本語だ。五月三日・・・憲法記念日・・・晴れ。文芸部員全員で菜摘先輩のご両親の車に乗って飛響草原公園に行った。怒濤のスポーツラッシュ、日頃の運動不足により無事死亡、バットを振っただけで肩がすっぽ抜けるかと思った。楽しかったけど一生分の体力を使ったかもしれぬ」
スズ「変わった本だね〜」
ナツ「これ本じゃないよ、日記帳だ」
スズ「日記ってなあに」
ナツ「日々の出来事をまとめたもの、一日一日のことを書き留めてある本」
スズ「ふうん、骸骨が死ぬ前に書いてたのかな〜」
ナツ「(遺体を見て)死ぬ直前まで記録してれば・・・何があったのか知ることが出来るかも」
スズ「面白そ〜、何日分記録してあるの?」
ナツ「(日記帳の一番最初のページを見て)2020年の四月から始まってる・・・」
スズ「2020年・・・ってどのくらい前?」
ナツ「(日記帳の一番最後のページを見る)六十年以上前かな・・・この日記帳は二十年間記録出来たみたい」
最後のページは何も記入されていない
スズ「すごいね、その一冊で二十年間の出来事を知れるなんて」
ナツ「(日記帳をパラパラとめくりながら)最後の方は書いてない。十五年目、十六年目くらいでぱったり止まってる」
スズ「死んじゃったのかな」
ナツ「(日記帳をパラパラとめくりながら)それこそ最後まで読めば分かることだ」
スズ「面白そうだから読み聞かせよ〜、目が見えなくて退屈だし〜」
ナツ「(日記帳の一番最初のページに戻って)こんなに長いのを音読せいってか」
スズ「見えないから分からないよ」
ナツ「(日記帳の一番最初のページを見て)これめちゃくちゃ分厚いんだよ」
スズ「いいから読んで読んで!」
ため息を吐くナツ
ナツ「(日記帳の一番最初のページを見ながら)しょうがないな・・・記録者・・・みなみ・・・しおりかな・・・2020年四月一日水曜日曇り・・・クリエイティブのマスター、父からこの日記帳をもろた。記録していくと創作活動の役に立つらしい。二十年間も書き留めたら三十五歳になってしまう、私はババアになる」
スズ「ん?書き始めた時この人は何歳?」
ナツ「(日記帳を見ながら)十五歳、今の私たちくらい」
スズ「私たちと同時くらいかぁ」
ナツ「(日記帳を見ながら)四月二日木曜日曇り・・・春休みも終わる。今日は中学生の時に作った曲を一枚のアルバムにした。ベストアルバム、私が売れたら将来価値が出るかもしれない」
スズ「ミュージシャンなんだね」
ナツ「(日記帳を見ながら)いいなぁ、昔の人は好きなことがやれて」
スズ「でも骸骨になるのはやだ」
ナツ「(二体の遺体を見て)みんな嫌だよ骨になるのは」