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Chapter6生徒会選挙編♯10 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・






老人の回想に登場する人物


中年期の老人 男子

兵士時代の老人。


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。


アイヴァン・ヴォリフスキー 男子

ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。


両手足が潰れたロシア兵 男子

重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。

Chapter6生徒会選挙編♯10 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯574波音高校三年生廊下(日替わり/朝)

 快晴

 朝のHRの前の時間

 三年三組の教室を覗いている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 教室にいる生徒たちは周りにいる生徒と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 教室の中には明日香もいる

 明日香は自分の席でスマホを見ている

 神谷はまだ来ていない

 廊下では喋っている三年生や、教室に入ろうとしている三年生がたくさんいる


真彩「(教室を覗きながら小声で)ターゲット確認、現在スマホを見てる模様」

嶺二「(小声で)了解。響紀ちゃん、今日もあの作戦か?」

響紀「はい」

詩穂「(小声で)ミッションランチデートのシミュレーション、ちゃんとしてきたよね?」

響紀「完璧。ギャルゲーで勉強してきたから」

汐莉「(小声で)恋愛ゲームの知識で攻略されるってチョロいな、明日香先輩」

響紀「そこがまた可愛いところであり、明日香ちゃんの魅力でもある」

鳴海「(小声で)アホなこと言ってないで早く明日香に声をかけろ、響紀」

響紀「(手を振りながら大きな声で)おーい!!!明日香ちゃーん!!!」


 廊下、教室にいた生徒たちが一斉に響紀を見るが、明日香だけは気にしていない


菜摘「あ、相変わらず声大きいね・・・」

響紀「明日香ちゃんに聞こえるようにと思いまして」

鳴海「そんな馬鹿でけえ声を出さなくて聞こえてるからな絶対・・・」

響紀「念のためですよ先輩、念のため」

雪音「ならもう一回シャウトしたら?」

鳴海「何でだよ?」

雪音「念のため」


 深くため息を吐く鳴海


鳴海「あーもう好きにしてくれ・・・」

響紀「(大きな声で)明日香ちゃーん!!!おはよー!!!」


 明日香はスマホを見たまま、左手の中指を突き立ててる


汐莉「明日香先輩、鳴海先輩みたいなことしてますね」

鳴海「おい。俺はあんなことしないぞ」

汐莉「そうですか?」

鳴海「ああ」

嶺二「俺たちも明日香に中指立てよーぜ」

菜摘「えぇ・・・」

響紀「皆さん慌てないでください。これはレクリエーションです」

鳴海「は?」


 響紀はランニングマンを踊りながら、両手で中指を立てる


響紀「(ランニングマンをしたまま両手の中指を立てて)明日香ちゃーん!!!お揃いだよー!!!」

鳴海「(響紀のことを見て)マジで何がしたいのか分からん・・・」

雪音「鳴海もやってみてよ」

鳴海「やるか馬鹿!!」

響紀「(ランニングマンをしたまま両手の中指を立てて)おーい!!!明日香ちゃんってばー!!!」


 明日香は変わらずスマホを見たまま、響紀を無視している


真彩「(響紀のことを見て)必死だな・・・」


 教室、廊下にいた生徒たちがドン引きしながら響紀のことを見ている


響紀「(ランニングマンをしたまま両手の中指を立てて)ねー無視しないでよー!!!」


 スマホを見るのをやめ、立ち上がる明日香

 鳴海たちのところにやって来る明日香


明日香「うざい」

響紀「(ランニングマンをしたまま両手の中指を立てて)え?愛してる?」

明日香「マジでうざい」

響紀「(ランニングマンをしたまま両手の中指を立てて)え?心の底から愛してる?嬉しいなー。明日香ちゃんが愛の告白をしてくれるなんてー」


 明日香は響紀の両手を掴み、中指を無理矢理下げる 

 響紀は明日香に両手を掴まれたまま、ランニングマンを続けている

 明日香と響紀のことを見ている鳴海たち


明日香「(響紀の両手を掴んだまま)あんた、自分のこと変だと思わないの」

響紀「(ランニングマンをしたまま)思いません」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)そう、でも変だから。変って言うか異常だから」

響紀「(ランニングマンをしたまま)女の子のことが好きだからですか?もしかして差別ですか?」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)差別とかそういう話じゃない。響紀が変なのと好みは関係ないでしょ」

響紀「(ランニングマンをしたまま)あ、明日香ちゃんは・・・明日香ちゃんは・・・」


 ランニングマンをしたまま泣きそうになっている響紀


響紀「(ランニングマンをしたまま泣きそうになり)私のことを・・・キモいと思ってるんですね・・・」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)はい?」

響紀「(ランニングマンをしたまま泣きそうになり)あー・・・明日香ちゃんにキモいと思われた・・・悲しい・・・マジ無理・・・もう耐えられない・・・」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)ちょっと、人の話を・・・」

響紀「(明日香の話を遮り、ランニングマンをしたまま泣きそうになって)キモいと思ってるんでしょ!!!キモいならキモいってはっきり言えば良いのに!!!」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)いやだからそんなことは思って・・・」

響紀「(明日香の話を遮り、ランニングマンをしたまま泣きそうになって)嘘!!!私がキモいからさっきから私の踊りを無視するんでしょ!!!キモい私の踊りが見たくないなら早くあっち行ってよ!!!もう明日香ちゃんのことなんか知らない!!!」


 ランニングマンをしたまま大きな声を上げて泣き出す響紀

 ドン引きしながら響紀のことを見ている鳴海たち


鳴海「(ドン引きしながら)お、おいおい・・・泣き出したぞ・・・」

嶺二「明日香、響紀ちゃんを慰めてやれよ・・・」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)は!?何で私が!?」

菜摘「だって、響紀ちゃんは明日香ちゃんのことが好きなんだし・・・」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)慰めるったってどうすれば・・・」

雪音「お昼ご飯は?」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)え〜・・・また〜・・・?」

詩穂「お願いします先輩、このままじゃ響紀くんが号泣からの脱水で三途の川に・・・」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)どんだけ泣くのよ・・・(少し間を開けて)もう・・・お昼ご飯ね・・・」


 響紀のランニングマンの動きが速くなる


響紀「(泣きながらランニングマンをして)良いの?明日香ちゃん」

明日香「(響紀の両手を掴んだまま)い、良いけど・・・」


 響紀のランニングマンの動きが更に速くなる


真彩「(小声でボソッと)ランニングマン加速モードだ・・・」

響紀「(泣きながらランニングマンをして)わー!!!!明日香ちゃんとお昼ご飯だー!!!!」


 響紀は走る勢いでランニングマンをしている


明日香「(響紀の両手を掴んだまま)す、ストップストップ!!!ちょっと止まりなさい!!!」


 響紀はランニングマンをやめる


明日香「(響紀の両手を掴んだまま)ひ、昼休みになったら、私が響紀のクラスに行くから・・・それまでは落ち着いてなさいよ」

響紀「はい」


 明日香は恐る恐る響紀の両手を離す


明日香「じゃあ・・・また後でね」


 頷く響紀

 教室に戻る明日香

 響紀は涙を拭う


響紀「ではまた放課後に」

鳴海「切り替え早過ぎだろ、どうなってんだよお前の頭の中は」

響紀「女は役者ですから、涙はただの飾りですよ」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「響紀くんって、時々マジのサイコパスになるよねー」

響紀「人ってそういう生き物じゃない?」

真彩「お前が人を代表するなよ・・・」

響紀「立派な人なのに人の代表を名乗っちゃダメなの?」

真彩「ダメ。響紀はサイコパ・・・」

汐莉「(真彩の話を遮って)そんなことより早く戻ろうよ」

真彩「ケッ!へいへい」

詩穂「では皆さんお疲れ様でした〜」

鳴海「お、おう・・・お疲れ」


 汐莉、響紀、詩穂、真彩が教室に向かおうとする


菜摘「あ、待って汐莉ちゃん」

汐莉「(立ち止まって振り返り)何ですか?」


 汐莉に合わせて響紀、詩穂、真彩も立ち止まり、鳴海たちの方を見る


菜摘「今日の部活が終わった後、時間ある?」

汐莉「(振り返ったまま)はい」

菜摘「汐莉ちゃん以外もだけど、文芸部は部活が終わった後、私の家で部誌を作らない?」

嶺二「こりゃまた急だな」

菜摘「そろそろ10月号を上げちゃった方が良いと思って、早めにやらないと大変じゃん?」

汐莉「(振り返ったまま)そうですね」

鳴海「なら放課後は菜摘の家だな」

雪音「この前お邪魔したばかりなのに良いの?」

菜摘「うん、大丈夫」

嶺二「たまには鳴海んちにしね?」

鳴海「ふざけんじゃねえ」

嶺二「菜摘ちゃん、家は交代制で回るって決まりじゃなかったか?」

菜摘「そうだけど・・・突然押しかけるのは悪いし・・・」

響紀「鳴海先輩の家、明日行きますね」

鳴海「お前は部外者だろうが・・・」

嶺二「いや、明日は鳴海んちで部誌を作って、その後は海外旅行についてみんなで話し合おうぜ。響紀ちゃんたちも入れてよ」

真彩「お〜、では私たちも〜」

詩穂「お邪魔します〜」

菜摘「じゃあ明日は鳴海くんの家だ」

鳴海「ま、待て待て待て勝手に決めるのは・・・」

雪音「(鳴海の話を遮って)部屋、片付けておいてね」

鳴海「(舌打ちをして)チッ・・・めんどくせえ・・・」

詩穂「えー、汚いのはやだなぁ・・・」

鳴海「というか別に汚くねえし」

菜摘「お客さんが来るんだから、掃除くらいしといた方がいいよ。鳴海くん」

鳴海「マジで言ってるんすか・・・」

菜摘「うん」


◯575波音高校一年生廊下(放課後/夕方)

 一年生廊下にいる鳴海、詩穂、真彩

 三人は部員募集の紙を持っている

 廊下にはほとんど生徒がいない

 夕日が廊下を赤く染めている


鳴海「今日は少し作戦を変えよう」

真彩「どうするんすか?」

鳴海「掲示板に貼るのはやめて、直接生徒に声かけをするんだ」

詩穂「それ、私たちがやって良いんですかね。軽音部員ですけど」

鳴海「今更そんなことを気にするなよ。適当に教室に入って、残ってる奴らに文芸部を紹介するぞ」

詩穂「はーい」


 歩き出す鳴海、詩穂、真彩

 一年一組の教室を覗く鳴海、詩穂、真彩

 一組の教室の中には男子生徒一人と、女子生徒一人がいる


真彩「(一組の教室を覗きながら小声で)か、カップル〜」

詩穂「(一組の教室を覗きながら小声で)あれは内田×飯田ペアですね」

鳴海「(一組の教室を覗きながら小声で)有名なのか?」

真彩「(一組の教室を覗いたまま小声で)人気っすよ。ほら、両方とも美男美女じゃないっすか」

鳴海「(一組の教室を覗いたまま小声で)に、人気とかあるんだな・・・」

詩穂「(一組の教室を覗いたまま小声で)ここはやめときましょうよ、カップルの時間を邪魔するのは申し訳ないです」

鳴海「(一組の教室を覗いたまま小声で)何言ってんだ。相手がカップルでも特攻しなきゃダメだろ」

詩穂「(一組の教室を覗いたまま小声で)特攻は死ぬやつじゃん」

真彩「(一組の教室を覗いたまま小声で)鳴海先輩、お手本を見せてくださいよ〜」

鳴海「(一組の教室を覗いたまま小声で)お手本?」

真彩「(一組の教室を覗いたまま小声で)はい。私たちは顔見知りなんで、いきなり突撃はちょーっとしんどいっす」

鳴海「(一組の教室を覗いたまま小声で)しょうがねえな・・・ここは俺が手本を見せるから、よく見とけよお前ら」

詩穂「(一組の教室を覗いたまま小声で)頑張れ鳴海おじちゃん」

鳴海「(一組の教室を覗いたまま小声で)お兄さんな」

詩穂「(一組の教室を覗いたまま小声で)失礼しました先輩」

鳴海「(一組の教室を覗いたまま小声で)じゃあ・・・行ってくるよ」


 鳴海は一組の扉を数回叩き、教室の中に入る

 内田(男)、飯田(女)がいきなり入ってきた鳴海に驚く

 詩穂と真彩は外から鳴海を見ている


鳴海「あー・・・お、俺は三年の貴志、君たち、良かったら文芸部に入らないか」


 鳴海は素早く手に持っていた部員募集の紙を内田と飯田に差し出す

 部員募集の紙を受け取る内田と飯田


鳴海「じ、実は、文芸部は・・・(指で数を数えながら)えっとー、俺、菜摘、明日香、嶺二・・・あ、いや・・・明日香はカウントしちゃダメか・・・(数を数えるのをやめて)ま、まあとにかく・・・部員が足りないんだ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「き、君たちは・・・ぶ、部活に入ってるのか?」


 頷く内田と飯田

 

鳴海「そ、そうか・・・で、でも大丈夫だぞ。文芸部は掛け持ちでも良い。(少し間を開けて)ち、因みに今は何部に所属してるんだ・・・?」

内田「サッカーっす」

飯田「サッカー部のマネージャーです」

鳴海「な、なるほど・・・よ、よく見たら二人ともサッカーって感じがするな・・・うん・・・サッカーって感じだ・・・」


 再び沈黙が流れる


内田「用はそれだけっすか」

鳴海「え、ああ・・・そ、その紙に電話番号が書いてあるから、興味があれば連絡してくれ・・・(少し間を開けて)じゃ、じゃあ・・・よろしく・・・」


 鳴海は静かに教室を出て、扉を閉める

 顔を見合わせる内田と飯田

 深くため息を吐く鳴海


真彩「あんな感じで良いんすか?」

鳴海「(大きな声で)い、良いわけねえだろ!!!」

詩穂「先輩、緊張のせいか怪しい動きをしてましたよ」

鳴海「だ、だよな・・・」

真彩「てか鳴海先輩、この作業向いてない説・・・」

鳴海「ああ・・・奥野の言う通りだ・・・絶対向いてない・・・」

詩穂「これ下手したら文芸部の評判がガタ落ちしませんか」

鳴海「その可能性は大いにある」

真彩「今のうちに汐莉や嶺二先輩と交代した方がいいんじゃないっすかね?」

鳴海「無理を言ってくれるな・・・しばらくは手持ちの武器だけで戦わなきゃならないんだぞ・・・」

詩穂「心ぼそ・・・」

鳴海「き、気を取り直して次行こう次」


 歩き出す鳴海

 鳴海について行く詩穂と真彩

 一年二組の教室に向かう鳴海たち

 二組の教室の前で立ち止まり、教室内を覗く鳴海、詩穂、真彩

 教室の中には誰もいない


真彩「(二組の教室を覗きながら)誰もいねえ〜、三組に行きましょ〜」

鳴海「(二組の教室を覗きながら)そ、そうだな」


 一年三組の教室に向かう鳴海、詩穂、真彩

 

鳴海「そうだ、今日も響紀は明日香と昼飯を食ったよな?」

詩穂「はい」

鳴海「響紀から何か聞いてないか?明日香のこと」

真彩「いやぁ・・・特にはないっすね」

鳴海「(小声でボソッと)今日も張り込むべきだったか・・・」

真彩「え?」

鳴海「な、何でもない!!ふ、二人は明日香と響紀のことをどう思ってるんだ?」

真彩「んー・・・よく分からないっす」

鳴海「永山は?」

詩穂「相性の良いカップルだと思いますよ。なんだかんだで、明日香先輩が響紀くんを見捨てないところとか、好きです」

鳴海「そうか・・・」


 三組の教室の前で立ち止まり、教室内を覗く鳴海、詩穂、真彩

 教室の中には女生徒が五人おり、話をしている


鳴海「(三組の教室を覗きながら小声で)よし・・・今度はいけるな・・・」

真彩「(三組の教室を覗きながら小声で)私たちは何をすれば良いっすか?」

鳴海「(三組の教室を覗いたまま小声で)適当にアシストしてくれ」

詩穂「(三組の教室を覗きながら小声で)それじゃあアシスト出来ません」

鳴海「(三組の教室を覗いたまま小声で)と、とりあえず俺が特攻するから、二人は援護を頼む」


 少しの沈黙が流れる


真彩「(三組の教室を覗いたまま小声で)はあ・・・よく分かんないっすけど・・・」

鳴海「(三組の教室を覗いたまま小声で)難しいことじゃない、シンプルに空気を読めば良いんだ」

詩穂「(三組の教室を覗いたまま小声で)シンプルがディフィカルト」

真彩「(三組の教室を覗いたまま小声で)おぅ、でぃすぷろじぇくといずれありぃはーどわーく!」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(三組の教室を覗いたまま小声で)ま、まあ適当で大丈夫だろ・・・」


◯576波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 校庭では運動部が活動している

 教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 軽音部の部室では椅子に座り菜摘と汐莉が曲制作を行っている

 机の上には菜摘、汐莉の筆記用具、パソコン、朗読劇用の波音物語、ノートが置いてある

 汐莉はパソコンの作曲ソフトを使い、打ち込みをしている

 二人の近くにはカバンが置いてある


汐莉「(タイピングをやめて)ふう・・・」

菜摘「少し休憩する?」

汐莉「そうですね・・・」


 汐莉は近くに置いてあったカバンから、飴の入った袋を取り出す


汐莉「(飴の入った袋を覗き)何味が良いですか?」

菜摘「うーん・・・じゃあレモン!」


 袋からレモン味の飴を取り出す汐莉


汐莉「(レモン味の飴を菜摘に差し出して)どうぞ」

菜摘「(レモン味の飴を受け取り)ありがとう」


 レモン味の飴の個装を外し、口に入れる菜摘

 汐莉は袋からぶどう味の飴を取り出す

 ぶどう味の飴の個装を外し、口に入れる汐莉


汐莉「これで糖分不足は回避です」

菜摘「そうだね」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「みんな、上手くやってるかな」

汐莉「生徒会選挙と、部員募集、菜摘先輩はどっちが心配ですか?」

菜摘「どちらも同じくらい心配だよ・・・鳴海くんは緊張のあまり挙動不審になりそうだし・・・嶺二くんと雪音ちゃんと響紀ちゃんは、正直三人で喋ってるところが想像つかないし・・・組み合わせを間違えたかも・・・」

汐莉「意外と仲良くなったりして・・・」

菜摘「だと良いけど・・・どうかなぁ・・・」

汐莉「今からでも私と鳴海先輩をチェンジしましょうか?」

菜摘「ダメダメ、そんなことしたら曲作れなくなっちゃうもん」

汐莉「先に詩を書いて、後から曲を作るって方法もありますよ」

菜摘「作詞と作曲を別々にやって上手く出来るの?」

汐莉「時によりけりです。お勧めは出来ませんけど」

菜摘「なら私たち二人で頑張らなきゃ!!」


 再び沈黙が流れる


汐莉「菜摘先輩は鳴海先輩と同じグループが良いのかと思ってました」

菜摘「え、なんで?」

汐莉「カップルの共同作業って憧れるじゃないですか」

菜摘「そうかな?」

汐莉「(頷き)はい。結婚式のケーキ入刀とか」

菜摘「は、恥ずかしいよ、あんなことするのは」

汐莉「まあ・・・そうですね・・・ちょっと憧れますけど・・・」

菜摘「そうなんだ・・・」

汐莉「憧れませんか?結婚式って」

菜摘「もちろん憧れるよ」

汐莉「具体的にしたいこととかないんですか?」

菜摘「んー・・・純白のドレスを着るのと、お手紙を読むのと、指輪を交換するのと、美味しいご飯を食べるのと、お父さんと一緒にバージンロードを歩くのと・・・」

汐莉「ケーキ入刀だけ興味ないんですね・・・」

菜摘「だって、別に自分たちがやらなくても良くない?」

汐莉「えー・・・好きな人とやるから良いのかと思ってたんですけど・・・」

菜摘「だったら、鳴海くんと嶺二くんの二人がケーキ入刀をした方が面白くなるんじゃないかな?」

汐莉「(笑いながら)そ、それは見てみたいです!!」

菜摘「だよねだよね!私も見てみたいもん!」

汐莉「でもそんなことをしたら結婚式がコントになっちゃいますよ」

菜摘「盛り上がるじゃん!」

汐莉「良いんですかね、盛り上がる理由が男同士のケーキ入刀で・・・」

菜摘「結婚式で輝く男の友情、胸熱な展開だと思うけどなぁ・・・」

汐莉「少年漫画じゃあるまいし、鳴海先輩も、嶺二先輩も、きっと嫌がりますよ」

菜摘「あの二人だからこその良さがあるのに〜・・・」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「菜摘先輩」

菜摘「何?」

汐莉「話変わるんですけど・・・」

菜摘「うん」

汐莉「先輩は、運命ってあると思いますか」

菜摘「運命?」

汐莉「はい」

菜摘「どうしてそんなことを聞くの?」

汐莉「ちょっと気になって・・・深い意味はないんですけど・・・」


 考え込む菜摘


菜摘「私は、運命は確かにあると思う。でも、100%じゃないよ」

汐莉「どういうことですか?」

菜摘「運命があっても、その道に進む確率は100%じゃないと思う。人は誰しもどこかで選ぶ権利が与えられていて、そこで運命に進むか、違う道に進むか、分かれるんじゃないかな」

汐莉「選ぶこと自体が運命だったら?運命じゃないと思っていた道も運命かもしれないですよ」

菜摘「大事なのは選択するという行為そのものだよ、汐莉ちゃん。結果じゃない」

汐莉「全ての道が、実は一つの結末に繋がっていたとしても、結果は大事じゃないんですか?」


 菜摘は汐莉の頬に手を置く


菜摘「(汐莉の頬を触りながら)結果がどれだけ大事なのかは分からないけど・・・汐莉ちゃんの選んだ道が・・・運命であっても、そうじゃなくても、私が望むのは汐莉ちゃんの幸せだよ。きっと汐莉ちゃんなら、どんな道に進んだって、どんな結果が待っていたって、汐莉ちゃんの優しい心が困ってる人を助けるのは間違いなし、傷ついた人の心を癒すのも間違いないから、汐莉ちゃんに救われる人がいっぱいいて、汐莉ちゃん自身も好きな道を選んで、みんなが幸せになれると良いよね」

汐莉「先輩は?菜摘先輩はどうなるんです?」

菜摘「(汐莉の頬を触ったまま)私はただ決まった道を進むだけだよ」


 突然扉が勢いよく開き、鳴海、詩穂、真彩が部室に入って来る


真彩「お疲れーっす」


 菜摘は汐莉の頬から手を離す

 

菜摘「お疲れ様」


 鳴海、詩穂、真彩はその辺の机に部員募集を紙を置き、椅子に座る

 深くため息を吐く鳴海


菜摘「休憩?」

鳴海「ああ・・・」

汐莉「新入部員は見つかりそうですか?」

鳴海「分からん・・・とりあえず一年の教室に残ってる奴らには声をかけといたけどさ・・・」

真彩「(鳴海のことを見て)まーぶっちゃけアレっすよね」

鳴海「ああ。(詩穂のことを見て)アレだったよな?」

真彩「アレでしたね」

鳴海・詩穂・真彩「スイートメロンパンが食べたい」


 ハイタッチをする詩穂と真彩


汐莉「遊びに来たなら帰ってください。作業の邪魔です」

真彩「汐莉ー、私たちと交代しよーよー・・・」

汐莉「まあやん」

真彩「こ、交代してくれんの!?」

汐莉「(笑顔で)早く帰って」

真彩「え・・・衝撃の冷たさ・・・」

汐莉「当然じゃん、遊びでやってるんじゃないんだから」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「なんか今日は調子悪そうだね、三人とも」

鳴海「さっき三組の女子軍団にボロカスに言われたばっかだからな・・・」

菜摘「ボロカス?」

詩穂「(頷き)文芸部なんて聞いたことがない、そんな部活は存在してないっしょって言われまして・・・」

菜摘「(驚いて)えー!!!」

鳴海「挙句宗教には興味ありませんとか言われて、教室から閉め出されたんだよ・・・」

汐莉「鳴海先輩、嘘ついてませんか」

鳴海「こんなことで嘘つくわけないだろ・・・本当の話だ・・・」


 再び沈黙が流れる


真彩「うちらが思ってるより、文芸部って認知度の低い部活なんすかねぇ・・・」

菜摘「そうなのかな・・・」

鳴海「というか俺、宗教団体に所属してるように見えるのか?」

真彩「いやー・・・どちらかと言えば先輩は、宗教を馬鹿にしてるように見えますけど・・・」

鳴海「馬鹿にはしてねえよ」

詩穂「まあ鳴海先輩は、一年生から見るとちょっと胡散臭いかも」

鳴海「胡散臭い・・・だと・・・」

詩穂「得体の知れない男感?がありますよね」

鳴海「そ、そうなのか・・・親しみやすいお兄さんを目指してるんだが・・・」

詩穂「気難しいおっさんじゃなくて?」

鳴海「いや・・・親しみやすいお兄さんをだな・・・」

真彩「目標は遠そうっすね・・・」

詩穂「先輩、もっと明るく元気にやってくださいよ」

鳴海「(大きな声で)こ、こんにちは!!!!ぼ、僕の名前は貴志鳴海!!!!み、み、みんな!!!!一緒に本を書かないか!!!!(少し間を開けて小さな声で)みたいな・・・?」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「共感性羞恥で死ぬ・・・」

真彩「私も・・・」


 俯く鳴海


鳴海「(俯いたまま)どうすりゃいいんだ・・・」


 立ち上がる汐莉


汐莉「私、三組の女子にちゃんと説明してきます、文芸部のこと」

鳴海「(俯いたまま)やめとけよ」

汐莉「どうして止めるんですか」

鳴海「(顔を上げて)ただでさえ俺ら三人は嫌な思いをしてるのに、南まで同じ気持ちにならなくたって良いだろ」

汐莉「余計なお世話です」


 汐莉は舐めていたぶどう味の飴を噛み砕く


鳴海「ああいう連中は言わせておけば良いんだよ。どうせ自分から関わったところでろくなことにならねえんだし」

汐莉「言わせておけばって・・・先輩、それはダサ過ぎますよ」

菜摘「し、汐莉ちゃん」

汐莉「だってダサいじゃないですか。自分たちの部活が馬鹿にされたのに言い返さないなんて」

鳴海「言い返して部員が増えるならともかく、ただエネルギーを無駄に使うだけだぞ」

汐莉「関係ありません」


 菜摘、詩穂、真彩が汐莉のことを見ている


鳴海「お前だって喧嘩はしたくないだろ」

汐莉「そりゃそうですよ。でも、必要であれば戦うつもりです」


 再び沈黙が流れる

 立ち上がる鳴海


鳴海「悪い永山、奥野、とりあえず部員募集はお前たちだけでやっててくれないか」

真彩「え・・・」

鳴海「頼むよ」

詩穂「わ、分かりました・・・」

鳴海「菜摘、ちょっと南を借りるぞ」

菜摘「あ、うん・・・良いけど・・・」

鳴海「よし、行くぞ南」

汐莉「どこに行くんですか」

鳴海「その辺だよ、その辺」


 部室を出る鳴海

 渋々鳴海の後をついて行く汐莉


◯577波音高校休憩所(放課後/夕方)

 自販機、丸いテーブル、椅子が置いてある小さな広場

 自販機の前にいる鳴海

 椅子に座っている汐莉 

 鳴海と汐莉以外に生徒はいない

 ポケットから小銭を取り出す鳴海

 自販機に小銭を入れ、ぶどうジュースとエナジードリンクを買う鳴海

 ぶどうジュースとエナジードリンクを自販機から取り出し、汐莉の元へ行く鳴海


鳴海「(ぶどうジュースを汐莉の前に置き)二度目のボジョレーだな」


 椅子に座る鳴海


汐莉「そのギャグ、もう面白くありませんから」

鳴海「そうかよ・・・」


 鳴海はエナジードリンクを開け、一口飲む


鳴海「落ち着いたか?」

汐莉「もともと落ち着いてます」

鳴海「そうは見えなかったけどな」

汐莉「その知ったかぶりな態度、やめてくださいよ」

鳴海「すまん」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「ごめんなさい」

鳴海「ダサいって言ったことに対するごめんなさいか」

汐莉「いえ、鳴海先輩が先に謝ったので、何となく後に続きました」

鳴海「なんとなくで謝るんじゃねえ・・・」

汐莉「謝らないより良いじゃないですか」

鳴海「まあな・・・でも普通は心を込めて謝るもんだぞ」

汐莉「鳴海先輩は、私の父親ですか」

鳴海「ちげえわ」

汐莉「じゃあ私の父親か兄代わりをしようとしてるんですか」

鳴海「そんなつもりはねえけど・・・だいたい俺、末っ子だし・・・」

汐莉「なら年上ぶって説教なんかしないでくださいよ」

鳴海「今日はやけに反抗的なんだな」

汐莉「そういう言い方です、やめて欲しいのは」


 再び沈黙が流れる


鳴海「曲はどうだ?」

汐莉「鳴海先輩たちが来るまではサクサク進んでました」


 エナジードリンクを一口飲む鳴海


鳴海「ダサくて悪かったよ・・・」

汐莉「もう良いです。気にしてません」

鳴海「お前が俺たち先輩をどう思ってるか分からねえけど・・・俺は、南のことを友達だと思ってる」

汐莉「どうも・・・」

鳴海「だから・・・このまま友達でいたいんだ・・・(少し間を開けて)俺が言ってることの意味、分かるか?」

汐莉「まあ・・・なんとなくは・・・」

鳴海「(呆れて)またなんとなくかよ」

汐莉「仕方ないじゃないですか、なんとなくでしか話が伝わってことないんですから・・・」

鳴海「俺は今の関係を壊したくないんだ」

汐莉「そんなのみんな同じですよ、先輩だけじゃありません」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「み、南が今の文芸部や・・・人間関係に不満があるのは理解してる・・・つもりだ・・・(少し間を開けて)それに関しては、とても申し訳ないと思ってる・・・俺も出来る限りのことを・・・」

汐莉「(鳴海の話を遮って)先輩の出来ることってなんですか?菜摘先輩を愛すること以外に、鳴海先輩は何が出来るんですか?」

鳴海「分からない・・・(かなり間を開けて)それでも、俺はお前や菜摘の・・・文芸部の役に立ちたいんだ」

汐莉「先輩の言いたいことは分かります。それから先輩が文芸部を守ろうとしてるのも分かります。鳴海先輩の想いは伝わりますけど、想いだけじゃ何も変わりませんよ」

鳴海「そうだな。だからこそ、南、さっきみたいのはもうやめてくれ」

汐莉「さっきみたいの?」

鳴海「ああ。言いたいことがあるなら表立てずに、後から俺にぶつけてほしい」


 再び沈黙が流れる


汐莉「どうして鳴海先輩に?」

鳴海「言っただろ。役に立ちたいんだ」

汐莉「それでもダサいことに変わりはありませんよ、鳴海先輩」

鳴海「この際ダサさは関係ねえ」

汐莉「パワープレイですね」

鳴海「南だってそうじゃないか。お前も俺たちの役に立とうと必死なんだろ」

汐莉「私が・・・ですか?」

鳴海「無自覚かよ・・・」

汐莉「先輩たちが私を必要としてくれてるから、私はそれに応えてるだけですけど・・・」

鳴海「俺たちの期待に毎回応えてるってのは、南が優秀な人間である証拠だ」

汐莉「鳴海先輩が私より馬鹿なだけじゃないですか」

鳴海「おい・・・ってツッコミたいところだが、それに関しては否定出来ねえな」

汐莉「ですよね」


 再びエナジードリンクを一口飲む鳴海


鳴海「それはともかく、愚痴やら不満は裏で俺に言ってくれよ。せめて見かけだけでも、ここまで築き上げてきた仲の良い文芸部を残しておきたいだろ」

汐莉「はい・・・」


 エナジードリンクを持って立ち上がる


鳴海「じゃあ戻るか・・・菜摘たちが待ってるしな・・・」


 頷く汐莉


汐莉「先輩、このぶどうジュースは?」

鳴海「ボジョレーな、持って帰って風呂にでも入れろよ」

汐莉「そういうことを平気で言うところが馬鹿なんですよね、鳴海先輩って」

鳴海「うっせえ」


 ぶどうジュースを持って立ち上がる汐莉

 鳴海はエナジードリンクを一気に飲み干し、ゴミ箱に投げ入れる


◯578波音高校一年生廊下(放課後/夕方)

 一年生廊下を歩いている鳴海、汐莉

 廊下にはほとんど生徒がいない

 夕日が廊下を赤く染めている

 一年三組の教室の前で立ち止まる鳴海

 汐莉も立ち止まり、振り返って鳴海のことを見る


汐莉「(振り返ったまま)先輩?早く戻らないと詩穂とまあやんが怒りますよ」


 鳴海は一年三組の教室の中をチラッと覗く

 一年三組の教室の中には、◯575の時と変わらず女生徒が五人残っており、話をしている


鳴海「南、お前は先戻ってろ」

汐莉「え、鳴海先輩は?」

鳴海「ダサい奴にはやることがある」

汐莉「三組の女子と話すなら私も・・・」

鳴海「いや、ダメだ。これ以上、南たちを作業時間を奪うわけにはいかない」

汐莉「で、でも・・・」

鳴海「良いから早く戻れって」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「はい・・・」

鳴海「じゃあまた後でな」


 鳴海は三組の扉に向かう 


鳴海「(扉をノックし)し、失礼します!!文芸部副部長の貴志鳴海です!!」


 汐莉は廊下から教室の様子を見ている

 教室の中では女子生徒たちが鳴海の話を聞きながら、クスクス笑ったり、女子生徒同士で小声で喋ったりしている


汐莉「そっか・・・鳴海先輩は、役に立とうと必死なんだ・・・私と同じで・・・劣等感があるから・・・(少し間を開けて)私も・・・誰かの役に立てるようにならなきゃいけない・・・必要とされなきゃ・・・ダメなんだ・・・このままだと私、使いものにならなくなる・・・」


 歩き出す汐莉

 汐莉は軽音部の部室に向かう


 時間経過


 嶺二が一年生の男子生徒と廊下で喋っている

 少しすると一年三組の教室から鳴海が出て来る

 深くため息を吐き、体を伸ばす鳴海

 嶺二がいることに気づく鳴海

 嶺二は一年男子生徒に、何かを手渡す

 一年男子生徒は頷き、制服の内ポケットに貰った物をしまう

 鳴海は不思議そうに嶺二と一年男子生徒のことを見ている


鳴海「(不思議そうに嶺二と一年男子生徒を見ながら)あいつ・・・何を渡したんだ・・・?」


 鳴海が見ている気づく嶺二

 嶺二は一年男子生徒に別れを告げ、鳴海の元にやって来る


嶺二「なんだ、鳴海一人なのか」

鳴海「その言葉、そっくりそのままお前に返すぞ」

嶺二「えっ、ああ・・・俺も一人だぜ」

鳴海「一条と響紀はどうしたんだよ?」

嶺二「俺たちは決別して男女別行動になったんだ」

鳴海「意味不明なんだが」

嶺二「三人より一人で動く方が楽だろ」

鳴海「おい」

嶺二「な、なんだよ?」

鳴海「てめえ、一条のことを避けてるんじゃねえだろうな」

嶺二「さ、避けるわけねーだろ!!つかなんで避けるんだよ!!!」

鳴海「前あいつのことが嫌いだって言ってたじゃないか」

嶺二「それは別に関係ねえ!!!」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(嶺二のことをジロジロ見ながら)怪しい奴だな・・・」

嶺二「わ、悪いことは何もしてねえって!!!」

鳴海「じゃあ聞くが、何故一人なんだ」

嶺二「ひ、一人の方がやりやすいんだよ。お、お前だって同じだろ」

鳴海「俺には深い事情がある、だから一緒にすんなアホ」

嶺二「事情?何だよそれ」

鳴海「実はかくかくしかじかがあってただな・・・」


 再び沈黙が流れる


嶺二「は?」

鳴海「いやだから、かくかくしかじかだって」

嶺二「かくかくしかじかの中身を言えよ」

鳴海「かーちゃん、クリスマスに、カバのぬいぐるみを、くじ引きで当てて、静かに、川に投げ入れるか悩み、焦らした挙句、かーちゃん何もしない。のことか?」

嶺二「何言ってんだお前」

鳴海「嶺二がかくかくしかじかの中身を聞いて来るから、律儀に説明してやったんだが・・・」

嶺二「詩穂ちゃんとまあやんはどこにいんだよ?」

鳴海「多分、軽音部の部室か・・・それか2年の廊下だな」

嶺二「あの二人は今何してんだ?」

鳴海「部員募集だろ」

嶺二「んで別行動になった理由は?」

鳴海「色々あったんだよ・・・色々・・・」

嶺二「説明しねーと緋空浜で溺死させんぞ」

鳴海「(舌打ちをして)チッ・・・めんどくせえな・・・」


 時間経過


 一年生廊下で喋っている鳴海と嶺二


鳴海「ざっくり説明すると以上だ」

嶺二「そんなことがあったのか・・・部員募集も大変そーだな・・・」

鳴海「4月頃とは何もかも大違いだよ、全く・・・あの時から何が変わったんだか・・・」

嶺二「4月かぁ・・・懐かし過ぎてジジイになりそうだぜ」

鳴海「あの頃に戻れたら良いのにな・・・」

嶺二「あー・・・込み上げる郷愁で俺の清純な心が押し潰されちまいそーだ・・・」

鳴海「何が郷愁だよ・・・柄にもなく難しい言葉を使いやがって」


 鳴海、嶺二が同時に深くため息を吐く


嶺二「千春ちゃんがいた4月に戻りてー・・・」

鳴海「俺も・・・あの頃に戻りてえよ・・・」


 再び鳴海、嶺二が同時に深くため息を吐く


嶺二「うわ・・・なんか今めっちゃやる気無くしたな・・・」

鳴海「分かる」

嶺二「もう今日の部活は終わりしね?」

鳴海「そうだな」

嶺二「この後も菜摘ちゃんちで部誌を書かなきゃいけねーし、今は体力を温存させとくか・・・」

鳴海「ああ・・・って馬鹿野郎。しょうもないノリツッコミをさせんじゃねえ・・・」

嶺二「ボケとツッコミはちょっとした息抜きだろ?」

鳴海「こんなことで息は抜けるかよ。むしろ膨れ上がって爆発寸前だ」

嶺二「(鳴海の背中をバンバン叩きながら)まーまー、せいぜい頑張ろーぜ相棒」

鳴海「おうよ」

嶺二「んじゃー、俺は選挙活動を勤しむことにるわー」


 嶺二は手を振り、どこかに行こうとする


鳴海「お、おい!嶺二!!」


 立ち止まり、振り返る嶺二


鳴海「お前、さっき一年生に何か渡してなかったか?」

嶺二「(振り返ったまま)あー・・・あれかー・・・」

鳴海「何を渡したんだよ?」

嶺二「(振り返ったまま)選挙の・・・公約みたいなもんだ」

鳴海「公約・・・?」

嶺二「(振り返ったまま)そーそー、必要な下準備さ」


 嶺二は前を向き、歩き出す


◯579早乙女家に向かう道中(放課後/夜)

 日が沈んでいる

 菜摘の家に向かっている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音

 部活帰りの学生がたくさんいる

 嶺二、雪音、汐莉が話をしている


嶺二「ひっさびさに文芸部だけの活動だなー」

汐莉「そうですね」

雪音「最近はいつも軽音部と一緒で、もう私たち何部なのか分からなくない?」

嶺二「今や俺ら、文軽芸音楽部だし」

汐莉「語呂悪・・・」

嶺二「文芸部らしい活動をすんのって、合宿以来じゃねーか」

雪音「そうね。あの時ぶりかも」

汐莉「合宿以来って言いますけど、まだあれから一ヶ月くらいですよ」

嶺二「マジ?もうあれから一ヶ月も経ったの?」

雪音「嶺二、おっさんになった気分でしょ」

嶺二「俺、おっさんにはならないから。赤ちゃん、少年、お兄さん、お爺ちゃん、死去、この五工程しかない人生だから」

汐莉「今嶺二先輩はお兄さんゾーンですか?」

嶺二「何言ってんだよ汐莉ちゃん、30まで少年だろ」

汐莉「30はおじさんかおっさんじゃないんですかね」

嶺二「そんなら汐莉ちゃんと雪音ちゃんは三十路a.k.aババアな」

雪音「(汐莉のことを見て)最低だね、嶺二先輩って」

汐莉「最低なんですよ、嶺二先輩は」

嶺二「人のことおっさんって言うからだろ!!!」

汐莉「だって、30はキモいa.k.aジジイですもん」

嶺二「はいー、今世界中の30代少年を敵に回しましたー」

汐莉「その人たちは少年じゃなくて、おっさんです」


 鳴海と菜摘は、嶺二たちより少し前を歩いている

 話をしている鳴海と菜摘


菜摘「(小声で)今は落ち着いてるみたいだね、汐莉ちゃん」

鳴海「(小声で)俺も似たようなことを言ったけど、そしたらあいつ、もともと落ち着いてるって反論してきたぞ」

菜摘「(小声で)汐莉ちゃんもみんなに似て、負けん気が強くなったんだよ」

鳴海「(小声で)良いんだか悪いんだか・・・というかみんなって誰のことだ」

菜摘「文芸部のみんなのこと」

鳴海「俺たち、そんなに負けん気が強いか?」

菜摘「うん。負けず嫌いな人が集まってるじゃん」


 鳴海はチラッと後ろを見る


鳴海「言われてみれば・・・そうかもな・・・元はここに明日香がいたわけだし・・・」

菜摘「明日香ちゃん・・・早く戻って来ないかな・・・」


◯580早乙女家菜摘の自室(夜)

 菜摘の部屋に入る鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音

 適当にカバンを置く鳴海たち

 菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある

 ベッドはマットレス、掛け布団、枕が片付けられ、骨組みだけの状態になっている


嶺二「菜摘ちゃんち、もはや第二の実家だわー」

鳴海「おい、人様の家だぞ」

菜摘「良いよ鳴海くん。お父さんとお母さんも歓迎してるし」

鳴海「いや、この家での無礼は許さん・・・絶対に許さんぞ・・・」

嶺二「つかそんなことよりエナジードリンク欲しくね?菜摘ちゃん、エナジードリンクない?」

菜摘「あ、ごめん。今在庫切れ中」

雪音「さっきコンビニで買えばよかったのに」

嶺二「そういうことはコンビニの前を通った時に言いなさい」

雪音「ごめんなさーい」

嶺二「罰として雪音ちゃん、買ってきてくれ」

雪音「えー・・・めんどくさー・・・」

汐莉「私と鳴海先輩が買いに行きますよ」

菜摘「え、良いの?汐莉ちゃん」

汐莉「はい」

菜摘「それなら二人に頼もうかな!!」

鳴海「何故俺・・・」

汐莉「嶺二先輩じゃ頼りなさ過ぎるので。消去法の結果、鳴海先輩しか残ってませんでした。まあ鳴海先輩も頼りないですけど」

鳴海・嶺二「おい!!!!」

雪音「しかも消去法っていうのがね・・・」

鳴海「全く嬉しくない選ばれない方だ・・・」

菜摘「行ってあげなよ、鳴海くん」

鳴海「お、俺で良いのか・・・?」

菜摘「下級生一人に荷物を持たせるより、鳴海くんがいた方が良いじゃん?」

汐莉「そうですね」

菜摘「じゃあ鳴海くん、汐莉ちゃん、おつかいよろしく!!」


◯581コンビニに向かう道中(夜)

 月が出ている

 コンビニを目指している鳴海と汐莉


汐莉「すみません」

鳴海「今度は何で謝ってるんだ」

汐莉「先輩を無理矢理連れ出してしまったので・・・」


◯582回想Chapter6◯312の回想/コンビニに向かう道(夜)

 月が出ている

 スズムシが鳴いている

 コンビニを目指している鳴海と菜摘

 

菜摘「その・・・さっきの銭湯のこと謝りたくて・・・」

鳴海「謝るようなことなんかあったか?」

菜摘「えっと・・・私、鳴海くんたちが覗くかもしれないって言ったじゃない?」

鳴海「そう言われるのも仕方ねえよ・・・(俯き)菜摘たちには俺や嶺二が変態に見えてるんだろうし・・・」


◯583回想戻り/コンビニに向かう道中(夜)

 月が出ている

 コンビニを目指している鳴海と汐莉


鳴海「(小声でボソッと)前回は菜摘・・・今日は南か・・・」

汐莉「ん?今何か言いました?」

鳴海「あ、いや、何でもない」

汐莉「先輩、どうしてさっき私を止めたんですか?」

鳴海「さっき?そんなことはもう忘れたな・・・」

汐莉「私が三組の教室に行こうとした時のことですよ。私を止めといて、後から先輩は教室に行ったじゃないですか」

鳴海「あー・・・そりゃ誰だって止めるだろ」

汐莉「どうしてです?」

鳴海「止めた方が良いと思ったからだ」

汐莉「もっとちゃんとした理由を教えてくださいよ」

鳴海「同学年同士だと、トラブルになった時居心地が悪くなるだろ。だから止めたんだよ」

汐莉「じゃあ鳴海先輩は私が行かずとも、最初から自分一人で三組の教室に行くつもりだったんですか?」

鳴海「まあな」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「もしかして私、一杯食わされました?」

鳴海「ああ」

汐莉「なんかちょっとだけムカつきますね」

鳴海「気のせいだろ」

汐莉「ちょっとどころじゃないかも」

鳴海「あんま怒ってると血管が切れるぞ」

汐莉「もう切れました」

鳴海「そいつは悪かったな。さっさと怒りを鎮めてくれ」

汐莉「鳴海先輩って、アホのように見えて実は計算してる系男子ですか?」

鳴海「何だそれ」

汐莉「言葉通りの意味です」

鳴海「よく分からねえけど、俺はアホだぞ」

汐莉「そうですか、それは良かったです」


 再び沈黙が流れる


汐莉「どうして菜摘先輩は、私と鳴海先輩が一緒に行動をしても嫉妬しないんでしょう?」

鳴海「いや、もう既に嫉妬してるかもしれないぞ」

汐莉「だとしたらサイコスリラーですね」

鳴海「そうだな」

汐莉「鳴海先輩は、菜摘先輩の気持ちや考えてることが瞬時に分かったりしないんですか?」

鳴海「分かるわけねえだろ・・・テレパシー能力者じゃねえんだぞ」

汐莉「言葉が無くとも、意思疎通が出来るものかと思ってました」

鳴海「アホか。言葉があっても分からねえことだらけだよ」

汐莉「読めないんですね?菜摘先輩のことが」

鳴海「ああ」

汐莉「先輩が一緒にいてあげてくださいよ」

鳴海「買い出しを手伝わせた奴が何言ってるんだか」

汐莉「あ、すみません・・・先輩は菜摘先輩の側にいてあげなきゃダメなのに、私が邪魔をしてしまいましたね」

鳴海「お前、前もそんなようなことを言ってたよな」

汐莉「そんなようなことってなんですか?」

鳴海「菜摘と一緒にいた方が良いって言っただろ」

汐莉「そりゃあ言いますよ。(少し間を開けて)カップルですから」

鳴海「(小声でボソッと)余計なお世話だ」

汐莉「ほんと、菜摘先輩が嫉妬しない人で良かったです」

鳴海「それは菜摘が南のことを信用しているからであって、絶対に嫉妬しないとは断言出来ないだろ」

汐莉「信用されてますかね、私」

鳴海「南のことを信用してねえ奴なんかいねえよ」


◯584帰路/帰路(夜)

 月が出ている

 鳴海は両手にコンビニのビニール袋を持っている

 ビニール袋の中身は大量のエナジードリンク

 早乙女家に戻っている鳴海と汐莉


鳴海「南」

汐莉「何ですか?」

鳴海「この際はっきりさせたいことがあるんだけどさ・・・(少し間を開けて)お前・・・響紀のことが・・・」

汐莉「好きですよ」


 立ち止まる鳴海

 鳴海に合わせて立ち止まる汐莉


汐莉「私は響紀が好きです」

鳴海「そ、それは・・・友達的なやつではなく・・・」

汐莉「はい」

鳴海「(小声でボソッと)最悪だ・・・」

汐莉「ごめんなさい先輩」

鳴海「謝ってばっかいると、頭が悪くなるぞ」

汐莉「先輩が最悪って言うからですよ」

鳴海「人の恋愛感情に口出ししたくはねえけど・・・こればっかりは最悪だろ・・・」

汐莉「そうですね、私にとっても最悪です」

鳴海「何で・・・何で響紀なんだよ?」

汐莉「何でって、好きになっちゃったんだからしょうがないじゃないですか。鳴海先輩が菜摘先輩に恋をして、嶺二先輩が千春に恋をするのと同じですよ」

鳴海「だとしても・・・あんまりだ・・・」


 拳を握り締める鳴海

 汐莉は歩き出す

 鳴海は少ししてから汐莉について行く


汐莉「鳴海先輩、いつから気づいてたんですか」

鳴海「(拳を開き)部員募集の時だよ・・・」

汐莉「あー、やっぱりあの時なんですね」

鳴海「もっと前に気付くべきだったか?」

汐莉「いや、もっと後で気づいてほしかったです」

鳴海「無理を言うんじゃねえ」

汐莉「なんだったら一生気づかなくても良かったですよ」

鳴海「お前な・・・自分から匂わせておいてそれはないだろ・・・」

汐莉「そうですね・・・あれは失敗でした」

鳴海「悔やんでも遅えぞ」

汐莉「偉そうに言わないでくださいよ。私だって、あの日は死ぬほど後悔したんですから」


◯585公園(夜)

 月が出ている

 公園の時計は7時過ぎを指している

 ブランコに座っている鳴海と汐莉

 鳴海の隣にはエナジードリンクの入ったコンビニのビニール袋が置いてある

 公園には鳴海と汐莉以外に人はいない

 

鳴海「いつからだ、いつから響紀のことが好きなんだよ?」

汐莉「6月にはもう・・・恋してたと思います」

鳴海「きっかけとか、あったのか?」

汐莉「はい。(少し間を開けて)確か5月末だったと思うんですけど、私はある男子生徒に告白されたんです。その人は2年生で、私たちのライブによく来れる人でした。最初は純粋にライブを楽しんでくれて・・・その頃は私たち軽音部員も、その人に対して悪いイメージはなかったんですけど・・・だんだん、向こうから私たちに近づくようになって来たんです。それで、最初に言った通り、私はその人から告白されちゃうんですけど・・・問題になったのは告白された後で、その2年生の男子生徒って言うのが、女子からめちゃくちゃ人気があったんです」

鳴海「トラブルになったんだな・・・?」

汐莉「はい」


◯586回想/波音高校階段(放課後/夕方)

 6月頃

 階段の踊り場で汐莉が5人の女子生徒に囲まれ、詰め寄られている

 汐莉を囲ってる女子生徒たちは2年生

 

汐莉「(声)まあ・・・簡単に言うと詰め寄られたわけです。その時に響紀が私を助けてくれて・・・」


 響紀がやって来て、汐莉を庇うように汐莉の前に立つ

 イライラしている2年生の女子生徒5人

 響紀の肩を掴む1人の2年生女子生徒

 響紀は掴んでくる腕を簡単に払い除ける

 汐莉は響紀のことを見ている

 響紀は汐莉の腕を掴み、2年生たちから走って逃げる


◯587回想戻り/公園(放課後/夕方)

 月が出ている

 公園の時計は7時過ぎを指している

 ブランコに座って話をしている鳴海と汐莉

 鳴海の隣にはエナジードリンクの入ったコンビニのビニール袋が置いてある

 公園には鳴海と汐莉以外に人はいない


汐莉「響紀はその後も2年生の女子から呼び出されたりしたんですけど、ああいう性格だからか、全然物怖じしなくて・・・響紀の方が2年生を打ち負かしたんです」

鳴海「なるほど・・・そこからか・・・響紀を好きになったのは・・・」


 頷く汐莉


鳴海「友達じゃ満足出来ないのか・・・?」

汐莉「はい・・・」

鳴海「でも・・・明日香がいたら・・・友達以上の関係にはなれないだろ・・・」

汐莉「そうですね・・・今の私は餌を待ってる野良猫と一緒ですから・・・(少し間を開けて)響紀にもっと近づいて・・・触れてみたいですけど・・・拒まれるのが怖いし・・・拒まれるって分かってるから、私は一生響紀に近づけません・・・」


 俯く汐莉


汐莉「(俯いたまま)キスもしたいけど・・・そんなことをしたら・・・嫌われちゃうから・・・私が響紀の体で知ってるのは手だけなんです・・・ギターを弾く時に・・・彼女の指の動きを真似したりして・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「俺や菜摘に相談してくれたら・・・」

汐莉「(顔を上げて)先輩たちには相談出来ませんよ・・・」

鳴海「今でも俺たちに相談しようと思わないのか?」

汐莉「分かりません・・・多分しないです・・・響紀のことが好きだなんて・・・一番あってはならないことですから・・・」

鳴海「俺も菜摘も、南の味方をするぞ。嶺二だって・・・」

汐莉「(鳴海の話を遮って)嶺二先輩は千春の味方です・・・私じゃないですよ」


 再び沈黙が流れる


汐莉「先輩だって気づいてるでしょ?嶺二先輩は、朗読劇で千春と再会出来ると信じてるんですよ」

鳴海「信じてるからと言って、何が起きるかは分からないだろ。千春と再会しないで終わる可能性だってあるんだ」

汐莉「そうですね・・・でもあの人は奇跡にかけたんです」

鳴海「(小声で)誰が奇跡を起こすと思ってるんだよ・・・代償があるって分かってるから・・・千春は消えたのに・・・」

 

 少しの沈黙が流れる


汐莉「鳴海先輩・・・運命ってあるんですかね・・・」

鳴海「あるさ・・・じゃなきゃこんな人生・・・納得出来ねえよ・・・」

汐莉「私は運命なんて・・・信じたくありません」

鳴海「自分の運命は自分で切り開くかの?」

汐莉「はい・・・絶対に・・・」

鳴海「響紀とはどうするんだ」

汐莉「今はまだ・・・どうもしません・・・高校を卒業をすれば縁も切れると思います」

鳴海「そんな別れ方、寂し過ぎるだろ・・・」

汐莉「鳴海先輩、恋は普通、寂しいものです」

鳴海「せめて告白か何か・・・」


 首を横に振る汐莉


汐莉「明日香先輩が卒業するまでの辛抱ですから・・・」

鳴海「明日香が卒業すれば、俺も、菜摘も、嶺二も、一条もいなくなっちまうんだぞ」

汐莉「それもまた寂しいですね」

鳴海「南が寂しいって言うと、なんか嘘臭いよな・・・」

汐莉「酷いじゃないですか先輩、私の顔、ちゃんと見てくださいよ」


 鳴海は汐莉の顔を見る

 汐莉は泣いている

 鳴海は黙ってポケットからハンカチを取り出し、汐莉に差し出す


汐莉「(泣きながら)鳴海先輩・・・」

鳴海「(ハンカチを差し出したまま)黙って受け取れ」

汐莉「(泣いたまま)気持ちは嬉しいですけど・・・先輩・・・今日トイレに行きましたか・・・」

鳴海「(ハンカチを差し出したまま)行ったかもしれない」

汐莉「(泣いたまま)手・・・洗いましたよね・・・」

鳴海「(ハンカチを差し出したまま)洗ったかもしれない」

汐莉「(泣いたまま)鳴海先輩の手を拭いたハンカチとか・・・気持ち悪過ぎて無理です・・・」


 鳴海は黙ってポケットにハンカチを戻す

 汐莉は制服の袖で涙を拭う


鳴海「今後は・・・いつ誰が泣いてもいいように、ハンカチを二枚持ち歩くことにしよう・・・」

汐莉「お願いします」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「鳴海先輩・・・」

鳴海「ん?」

汐莉「私の気持ちは誰にも言わないでください」

鳴海「南がそう頼むなら・・・俺は誰にも言わないけどさ・・・」

汐莉「ありがとうございます」

鳴海「自分から打ち明ける気はあるのか?」

汐莉「(首を横に振り)口が裂けても菜摘先輩にだけは言えませんよ」

鳴海「そう・・・だよな・・・(少し間を開けて)菜摘以外にも言うつもりはないのか」

汐莉「少なくとも朗読劇が終わるまでは・・・菜摘先輩に限らず、知らない方が良い情報ですから」

鳴海「(小声でボソッと)そんな秘密を知っちまったんだよな、俺は」

汐莉「鳴海先輩に変な圧力をかけることになってしまったのは申し訳ないですけど、正直、誰にも言えなかったのは辛かったです」

鳴海「なら俺が秘密を知ったのも、南からすりゃあ悪くなかったってことか」

汐莉「どうでしょうね。私は今でも、鳴海先輩に仄めかしたことは大失敗だったと思ってます。ほんと、自分から告白したも同然で何を言うんだって話ですが、鳴海先輩にも私の気持ちは知られたくありませんでした」

鳴海「そうか・・・(少し間を開けて)それは・・・本当に残念なことだ・・・」


 俯き、深くため息を吐く鳴海


汐莉「でも鳴海先輩、私も、先輩と想いは一緒ですから」


 顔を上げる鳴海


汐莉「ここまで来たら、私だってみんなで朗読劇を成功させたいんです」

鳴海「みんなで・・・か・・・」

汐莉「はい。(少し間を開けて)だから鳴海先輩は今までと同じように私に接して、そして卒業してください。それでお別れです」


 再び沈黙が流れる


鳴海「南と会えなくなるの、俺は寂しいけどな・・・」

汐莉「私も寂しいって言ったじゃないですか」

鳴海「そうだった・・・」

汐莉「鳴海先輩、変に気を使ったりしなくて良いんですからね。本当に、今まで通りで良いですから」

鳴海「その今まで通りってのが難しいんだけどな」

汐莉「自然な感じで接してください」

鳴海「何だよ自然な感じって」

汐莉「自然な感じは自然な感じです」

鳴海「南だって自然な感じには出来てねえだろ」

汐莉「私は仕方ないじゃないですか。好きな人が先輩に寝取られたんですよ」

鳴海「ね、寝取られたってお前・・・別にまだ寝取られてはないだろ・・・」

汐莉「は?寝取られたも同然ですけど?というか今はまだでも、近い将来必ず寝取られるんですからね」

鳴海「いや・・・まあ・・・そういうことになるのか・・・」

汐莉「全裸の響紀と明日香先輩が絡み合う瞬間がもうすぐやって来るんです」

鳴海「あー・・・」

汐莉「明日香先輩に寝取られたんですよ、響紀は」

鳴海「そ、そうなのか・・・よく分からねえけど・・・」

汐莉「先輩が明日香先輩の味方をするようであれば、今のこの場で殺しますからね」

鳴海「(両手を上げ)わ、分かった分かった。分かったから物騒な言葉は控えてくれ」

汐莉「私は今荒ぶってるんです」

鳴海「お、おう・・・そうだよな・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「なあ南・・・今後は誰かに相談しろよ」

汐莉「鳴海先輩にですか?」

鳴海「別に俺じゃなくても良い。お前が悩んでる時に相談すればそれで良いんだ」

汐莉「かく言う鳴海先輩は、人に相談してるんですかね?」

鳴海「適度にな」

汐莉「はいダウト」

鳴海「ダウトするんじゃねえ」

汐莉「いやだって、先輩が平然と嘘をつくので」

鳴海「嘘なんかついてねえよ」

汐莉「もうその言葉が嘘じゃないですか」


 鳴海はチラッと公園にあった時計を見る

 公園の時計は7時半を指している

 コンビニのビニール袋を持って立ち上がる鳴海


鳴海「そろそろ戻ろうぜ。時間も遅いしさ」

汐莉「あ、時間とか言って逃げましたね今」

鳴海「逃げるのも道だろ」


 鳴海は汐莉に手を差し出す

 汐莉は鳴海の手を払い除け立ち上がる


汐莉「逃げるのはダサいですよ、鳴海先輩」


◯588早乙女家リビング(夜)

 菜摘の家に戻って来た鳴海と汐莉

 鳴海はコンビニのビニール袋を持っている

 テーブルの上にはデリバリーで頼んだたくさんのピザ、チキン、ポテト、サラダ、ジュースが置いてある

 食事をしている菜摘、嶺二、雪音、潤、すみれ

 

菜摘「おかえりー!!」

鳴海「お、おう」

すみれ「ごめんね、二人とも。ピザが先に来ちゃったから・・・」

鳴海「あ、気にしないでください。(コンビニのビニール袋を上げて見せ)それよりこれは・・・」

すみれ「んー・・・冷蔵庫に入れちゃいましょうか」


 立ち上がるすみれ

 すみれはコンビニのビニール袋を鳴海から預かり、キッチンに行く

 

菜摘「さあさあ鳴海くん、汐莉ちゃん。座って食べなよ」

汐莉「は、はい・・・」


 椅子に座る鳴海と汐莉


汐莉「(手を合わせて)いただきます」

菜摘「うん、どうぞ」


 汐莉は近くにあったビザを一切れ手に取り、食べ始める


鳴海「いただきま・・・」

嶺二「(ピザを食べながら鳴海のいただきますを遮って)えあいおおかったな?」

鳴海「は・・・?」

嶺二「(ピザを食ったまま)やっ、あから、えあいおおかったなって」


 嶺二はピザを食べながら喋っているせいで何と言ってるのか分からない


潤「えらい遅かったな、だそうだ」


 ピザを食べながら首を何度も縦に振る嶺二


鳴海「(呆れながら)なんでこいつの言葉が分かるんだよあんたは・・・」

潤「俺に理解出来ない日本語はない」

鳴海「そうっすか・・・(小声でボソッと)さすが似た者同士・・・」


 すみれが冷蔵にエナジードリンクを入れる

 菜摘と汐莉が話をしている


菜摘「私たちも書き始めたばかりだから、そんなに差は開いてないよ」

汐莉「ほんとですか?」

菜摘「うん。やっぱり部活の後だとみんな疲れてるし、初日は波に乗ってないから。汐莉ちゃんもすぐ追いつくって」

汐莉「が、頑張ります」


 すみれがキッチンから戻ってきて、椅子に座る

 食事を再開するすみれ


雪音「鳴海、遅かったね」

鳴海「え、ああ・・・」

雪音「どこで何してたの?」

鳴海「ど、どこで何って・・・コンビニに行ってきたんだよ」

雪音「ふーん」


 雪音は近くにあったピザを一切れ手に取り、食べ始める

 鳴海は嶺二の肩をポンポンと叩く


嶺二「(鳴海の方を向き)んー?」

鳴海「(小声で)逃げるのってダサいか?」

嶺二「(小声で)んなこと俺に聞かなくても分かってんだろ?」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「(小声で)お前、今逃げたいのかよ?」

鳴海「(小声で)ああ」

嶺二「(小声で)避難出来る場所なんか、ないんだぜ。鳴海」


 再び沈黙が流れる

 鳴海は菜摘と汐莉のことを見る

 菜摘と汐莉は笑顔で、楽しそうに話をしている

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