Chapter6生徒会選挙編♯9 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
老人の回想に登場する人物
中年期の老人 男子
兵士時代の老人。
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
アイヴァン・ヴォリフスキー 男子
ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。
両手足が潰れたロシア兵 男子
重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
Chapter6生徒会選挙編♯9 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯565波児商店街/ゲームセンターギャラクシーフィールドの近く(日替わり/昼)
曇り空
休日
人の多い商店街
新しいお店がたくさんある
主婦や学生など、たくさんの人が商店街の中を通っている
鳴海はゲームセンターギャラクシーフィールドの近くで、店内の様子を見ている
ギャラクシーフィールドは大きくて派手な看板が出ている
鳴海は片手にエナジードリンクを飲んでいる
ギャラクシーフィールドの中は賑わっており、レトロなゲーム機をプレイしている人がたくさんいる
ギャラクシーフィールドの客層は小さい子から大人まで様々
故障中のゲームはなく全て起動している
ギャラクシーフィールドの店主、有馬勇が小さい子供にゲームのプレイ方法を教えている
ギャラクシーフィールドの壁には、かつて千春が配っていたビラが貼られている
◯566◯513の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)
昼休み
教室の隅にパソコン六台と、プリンター一台、完成した部員募集の紙が置いてある
部室で昼食を取っている鳴海、菜摘、嶺二
鳴海と嶺二はコンビニのパン、菜摘はすみれの手作り弁当を食べている
鳴海「俺が聞きたいのは・・・(少し間を開けて)千春のことだ・・・」
嶺二「つまり?」
鳴海「お前さ・・・千春が好きな場所って分かるか」
嶺二「(呆れて)そんなしょうもねー質問かよ・・・」
鳴海「どこか知ってるなら教えて欲しい」
嶺二「それを聞いて鳴海はどうすんだ?」
鳴海「とりあえず・・・その店だか場所に行く」
嶺二「千春ちゃんを探す気か?」
鳴海「まあ・・・そういうことになるな・・・」
菜摘「嶺二くんだって、千春ちゃんと会い・・・」
嶺二「(菜摘の話を遮って)会いてーよ、当たり前だろ」
菜摘「だよね・・・」
少しの沈黙が流れる
◯567◯548の回想/帰路(放課後/夜)
帰り道、一緒に帰っている鳴海と菜摘
部活帰りの学生がたくさんいる
話をしている鳴海と菜摘
鳴海「菜摘」
菜摘「ん?」
鳴海「千春は・・・俺が必ず見つける」
菜摘「私も手伝うよ」
鳴海「だ、ダメだ。菜摘は・・・(少し間を開けて小声で)あいつと関わるべきじゃない・・・」
俯く菜摘
菜摘「(俯いたまま)私・・・千春ちゃんと会いたいな・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ち、千春は俺が必ず見つけるって言ってんだろ!!」
菜摘「(俯いたまま)うん・・・ありがとう・・・」
菜摘は俯いたまま歩き続ける
◯568回想戻り/波児商店街/ゲームセンターギャラクシーフィールドの近く(日替わり/昼)
エナジードリンクを飲みながら、ギャラクシーフィールドの中の様子を見ている鳴海
鳴海「(ギャラクシーフィールドを見ながら 声 モノローグ)以前はこんなに賑わってなかった。商店街も・・・ゲームセンターも・・・」
鳴海はエナジードリンクを飲み干し、空き缶を握り潰す
鳴海は近くの自動販売機の隣にあるゴミ箱に握り潰したエナジードリンクを捨てる
ゴミを捨てた後、ギャラクシーフィールドに向かう鳴海
ギャラクシーフィールド店内に入る鳴海
店主の有馬勇は子供にゲームのプレイ方法を教えるのを辞め、鳴海に声をかける
勇「いらっしゃい」
鳴海「お久しぶりです」
勇「ああ・・・初めましてじゃなかったのか・・・申し訳ない」
鳴海「いや、気にしないでください・・・今日は、ちょっと聞きたいことがあって来たんです」
勇「ここにあるゲームのことなら、何でも答えましょう」
鳴海「ギャラクシーフィールドの新世界冒険はどこにありますか?」
勇「ギャラクシーフィールドの新世界冒険・・・?聞いたことのないタイトル名だ・・・」
鳴海「(驚いて)わ、忘れてしまったんですか!?」
勇「忘れたも何も・・・そんなゲーム機は・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「有馬さん、ギャラクシーフィールドの新世界冒険はあなたが開発したゲームです。よく思い出してください」
勇「私が?」
鳴海「はい」
勇「確かに昔は、自作ゲーム機の開発によく取り組みましたが・・・でも、どれも失敗に終わったはず・・・」
鳴海「柊木千春を、覚えていませんか」
勇「柊木・・・千春・・・?」
考え込む勇
勇「聞き覚えのある名前ですね・・・その子、うちの店で遊んだことはありますか?」
鳴海「(イライラしながら)ふざけないでください、千春は、誰よりも有馬さんとこのお店を想って行動していたのに・・・」
鳴海は壁を指差す
鳴海が指差した壁には、かつて千春が配っていたビラが貼られている
鳴海「(壁に貼られているビラを指差したまま、イライラした様子で)あれですよ!!あの紙を配っていたのが千春です!!」
壁を見る勇
鳴海「(壁に貼られているビラを指差したまま、イライラした様子で)覚えてるでしょう!?」
首を横に振る勇
勇「あの紙は・・・いつか私の机に置いてあったんです。あまりに心のこもった字で書いてあるものだから、ついお店に貼ってしまったんだよ。その、柊木千春という子は君のお友達なのかな?あれを貼ったお陰でお店が繁盛してるような気がするし、今度お礼を言いたいんだが・・・」
拳を握り締める鳴海
鳴海「(拳を握り締めたまま大きな声で)千春はあなたのために紙を配っていたんです!!!俺たちが学校に行ってる間一人で!!!それなのに有馬さんまで千春のことを忘れてしまったら!!!千春が報われないじゃないか!!!」
鳴海の大きな声に驚く勇と、周りの客たち
周りにいる客たちはゲームをプレイするのをやめ、鳴海のことを見る
鳴海「(拳を握り締めたまま大きな声で)この店は千春がいたから潰れずに済んだんですよ!!!千春がいたから!!!奇跡が起こったから!!!ギャラクシーフィールドは今もこうしてやっていけてるんです!!!」
俯く鳴海
鳴海「(拳を握り締め俯いたまま)誰かが犠牲になった奇跡を忘れるなんて勝手過ぎるだろ・・・菜摘が代償を払ってるんだぞ・・・(少し間を開けて)そうだ・・・菜摘が・・・」
再び沈黙が流れる
勇「あの紙のことで何か分かったら君に連絡しよう。お兄ちゃんの電話番号を教えてくれないかい?」
鳴海は俯いたまま少し笑う
鳴海「(拳を握り締め俯いたまま少し笑って)前に教えたじゃないっすか・・・有馬さん、そんなことまで忘れたんすね・・・」
◯569波児商店街(昼)
人の多い商店街
新しいお店がたくさんある
主婦や学生など、たくさんの人が商店街の中を通っている
商店街の中を歩いている鳴海
鳴海「(小声でボソッと)ふざけやがって・・・」
鳴海とすれ違った主婦が思わず鳴海の方を見る
鳴海は主婦に気付かず歩き続ける
鳴海「(小声でボソッと)千春・・・どこにいるんだよ・・・」
立ち止まる鳴海
振り返る鳴海
鳴海は注意深く周りを見た後、正面を向き歩き始める
◯570滅びかけた世界:緋空浜(夕方)
夕日の光が海に反射しキラキラと光っている
浜辺にゴミの山がある
ゴミ山の前に立っているナツ、スズ、老人
ゴミの山は、空っぽの缶詰、ペットボトル、重火器、武器類、骨になった遺体などが積まれて出来ている
ゴミの山の隣には大きなシャベルが砂浜に突き刺さってる
ゴミの山から数百メートル先の浜辺は綺麗になっている
浜辺には水たまりが出来ており、水たまりの中にもゴミがある
三人は軍手をしている
三人それぞれに一台ずつスーパーのカートがある
三台のカートのカゴにはビニール袋が敷いてある
スズは拾った真っ黒なサングラスを頭にかけている
ナツ「(ゴミの山を見ながら)これ、燃やしてどうするの?」
老人「持って帰る」
ナツ「(ゴミの山を見たまま)どこに?」
老人「学校の体育館だ」
スズ「ジジイ、体育館で寝てるって言ってたよね」
老人「ああ」
ナツ「ゴミと一緒に寝てるってこと?」
老人「そうだ」
ナツ「汚な・・・」
老人「この世界は汚いことの方が多いさ」
老人はポケットから汚れたZIPPOライターを取り出す
ナツ「ま、待ってよ」
老人「どうかしたのか」
再びゴミの山を見るナツ
ナツ「(ゴミの山を見ながら)い、遺体も一緒に燃やすのか・・・?」
老人「ああ」
スズ「(ゴミの山を見て)死んじゃった人たちが可哀想だよ、ジジイ」
ゴミの山の中にはロシア兵らしき遺体や、日本人らしき遺体がある
老人「(ゴミの山を見て)死体は死体でしかないだろう」
ナツ「せめて日本人だけでも・・・」
老人「(ゴミの山を見たまま)日本人だけでも・・・なんだ?」
ナツ「ま、埋葬してあげなよ」
老人「(ゴミの山を見たまま)悪いが、そんな余裕は持ち合わせてない」
少しの沈黙が流れる
老人「(ゴミの山を見たまま)この山に積まれてる連中はまだ幸せだ。同じ人間に囲まれてるし、骨として形が残ってる。俺やお前たちに見られながら燃やされ、おまけにその瞬間を緋空浜に看取ってもらえるなんて、死者には十分過ぎるほどの環境だろう」
ナツ「十分過ぎる環境?あんたは痛ましいとすら思わないの?」
頷く老人
ナツ「ゴミや敵の兵士と一緒に燃やされるなんて・・・ここで亡くなった人たちが気の毒過ぎる・・・」
老人「ナツ、スズ、君たちは何も分かってない、死者も十人十色であることを忘れるな。(少し間を開けて)俺は今までたくさんの死を見てきた、中には骨が何処に行ったのか分からない奴だって大勢いる。ゴミであろうが、何であろうが、燃やしてもらえるだけまだ良いさ。俺の仲間は波音町に帰って来れなかった。火葬も、埋葬も出来ずに、遺品すら残らなかった人たちのことを考えてみろ。君らの両親だって、墓には眠ってないはずだ」
◯571Chapter3◯331の回想/滅びかけた世界(約七年前):ナツの家リビング(朝)
埃っぽくゴミが溜まっているリビング
ナツが二階から降りて来る
ナツの母親が床に座っている
壁にもたれかかっているナツの母親
青白く痩せているナツの母親
ナツ「ママ、起きて」
母親の体を揺さぶるナツ
ナツ「(母親の体を揺さぶって)風邪引くよ」
起きる気配のないナツの母親
ナツ「(母親の体を揺さぶったまま)ママ?」
ナツの母親はバランスを崩しそのまま床に倒れる
ナツの母親の隣に赤くなったカッターが落ちている
ナツの母親の服や周囲が赤い
ナツの母親の左手は乾き切ったドス黒い血で染まっている
ナツはしゃがみ、母親の左手を持ち上げて見る
ナツの母親は手首を切って死んでいる
◯572Chapter3◯424の回想/滅びかけた世界(約六年前):鳥取県/季札スポーツ総合公園(深夜)
野犬から追われ公園の中に入ったナツとスズ
野犬にバレないように木陰に隠れているナツとスズ
ナツは足を怪我しており、台車の上に乗っている
広い公園、公園は野犬たちの住処
広場の中心部分に遊具がある
野犬たちは遊具の近く集まっている
トンネル型の滑り台、うんてい、普通の滑り台、ジャングルジムなどが複合している遊具
滑り台の上には四人の人がいる
四人は体の至るところが噛みちぎられ出血している
四人のことを見張っている一匹の野犬がいる
野犬の口周りは血で赤くなっている
四人の体は動かない
他の野犬は遊具の下で周りを見張っている
四人の中の一人の女性が、スズの母親
野犬はシェパードのように大きく、目を光らせてナツとスズのことを探している
スズにアルコール消毒液を渡すナツ
スズは立ち上がりアルコール消毒液を投げる
アルコール消毒液のボトルが割れ、野犬たちの近くに液体が広がる
文庫の本に火をつけてスズに渡すナツ
スズは火のついた本を投げようと構える
野犬たちはスズに気付いて迫ってくる
一瞬だけ、母親のことを見るスズ
スズは火のついた本を投げる
火はエタノールの消毒液の上に落ち、すぐに燃え広がる
野犬たちは火に向かって吠えている
野犬の何匹かは燃えている
ナツ「逃げようスズ!!」
スズは走りながらナツの乗った台車を押す
野犬たちは追ってこない
スズは走りながら振り返って燃え上がる遊具を見る
遊具の上ではスズの母親が叫び声を上げている
スズ「(ナツが乗ってる台車を押しながら遊具の方を見て)生きてた・・・」
炎の勢いはどんどん強くなる
スズは振り返るのをやめて、前を見る
◯573回想戻り/滅びかけた世界:緋空浜(夕方)
夕日の光が海に反射しキラキラと光っている
浜辺にゴミの山がある
ゴミ山の前に立っているナツ、スズ、老人
ゴミの山は、空っぽの缶詰、ペットボトル、重火器、武器類、骨になった遺体などが積まれて出来ている
ゴミの山の隣には大きなシャベルが砂浜に突き刺さってる
ゴミの山から数百メートル先の浜辺は綺麗になっている
浜辺には水たまりが出来ており、水たまりの中にもゴミがある
三人は軍手をしている
三人それぞれに一台ずつスーパーのカートがある
三台のカートのカゴにはビニール袋が敷いてある
スズは拾った真っ黒なサングラスを頭にかけている
老人「知らない奴を埋葬する義理はないだろう。(少し間を開けて)死んだ仲間のことを思えば当然だ、彼らはまだ・・・遠くで眠ってる・・・」
ナツ「そんなのただの言い訳だ!!自分の親しい人を埋葬出来なかったからと言って、人をゴミと一緒に燃やして良いはずがない!!」
スズ「なっちゃん・・・」
老人「ナツ・・・これはな、理屈や感情論だけで語れるようなことではないんだ。正義はとっくに腐敗してるし、正しかろうが、不道徳であろうが、どちらの道を選んだにしても、虚しさは拭えないんだよ」
ナツ「イカれてる・・・(少し間を開けて)あなたも、この滅びかけた世界も、大事な何かが壊れてるんだ」
少しの沈黙が流れる
老人「この山から日本人だけを別にして燃やしたところで、その灰をどう処分するか、俺には決められないな」
スズ「悲しいことだね・・・死んじゃった人たちを見送ってあげられないのって・・・」
老人「ああ・・・」
再び沈黙が流れる
俯き、深呼吸する老人
顔を上げる老人
老人「二人は離れていなさい。人が燃える匂いは・・・心にも体にも毒になる」
スズ「行こう、なっちゃん」
ナツ「でも・・・」
スズ「色々あるんだよ、ジジイにも」
スズはナツの手を引っ張り、ゴミの山から離れる
老人はナツとスズが離れたのを確認し、ゴミの山の下の方に汚れたZIPPOライターで火を付ける
老人はナツとスズほどではないが、ゴミの山から離れた位置に行く
火は徐々にゴミの山全体に広がっていく
じっとゴミの山を見ている老人
ナツとスズは離れたところからゴミの山が燃え上がる様子を見ている
ゴミの山の中にあった、小さな日本人らしき遺体に火がつく
涙を流すナツ
ナツ「(泣きながら)どうして私たちが生き残って・・・彼らは死んじゃったの・・・?どうして・・・?どうしてなの・・・?」
ナツは泣きながらスズに抱きつく
スズ「(ナツの頭を優しく撫でながら)意地悪な世界だよね・・・優しくする相手をクジで選んでるのかな・・・」
老人は変わらず燃え上がるゴミの山を見ている
ゴミの山からは黒い煙が舞い上がり、灰がふわふわと落ちていく
ゴミの山の中にあった電化製品や、弾丸などの銃火器類が爆発を起こし、火の勢いは更に増す
少しするとゴミの山は完全に炎に包まれる
涙目になっている老人