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Chapter6生徒会選挙編♯8 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・






老人の回想に登場する人物


中年期の老人 男子

兵士時代の老人。


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。


アイヴァン・ヴォリフスキー 男子

ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。


両手足が潰れたロシア兵 男子

重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。

Chapter6生徒会選挙編♯8 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海



◯555汐莉の夢/戦場:緋空浜(昼)

 曇り空

 波は激しく荒れている

 海にはロシア軍の大きな軍艦が何隻も浮かんでおり、艦砲射撃が浜辺のはるか先にある民家の方へ飛んでいく

 海に浮かんだロシア軍の大きな軍艦の手前には、同じくロシア軍の上陸用の船艇と水陸両用の戦車が緋空浜に向かってやって来ている

 ロシア軍の上陸用の船艇、水陸両用の戦車は大量の数を率いており、船艇の上にはたくさんの武装したロシア兵が乗っている

 上陸用の船艇に乗った大量のロシア兵たちと、水陸両用の戦車が緋空浜に上陸して来る

 どんどんと武装したロシア軍たちが侵略して来る

 緋空浜周辺にあった店や、民家は倒壊しかけており、至るところから炎と黒い煙が舞い上がっている

 一人のロシア兵が、笑いながら民家に向かって手榴弾を投げる

 少しすると激しい爆発音が鳴り、民家が吹き飛ぶ

 コンクリート、窓ガラス、家の素材である木材が民家の周囲に散らばって落ちる

 火炎放射器を背負った一人のロシア兵が、緋空浜近くにあった店に勢いよく火を付ける

 黒い煙が上がり、店は燃え上がる

 汐莉は呆然としながら浜辺に立っている

 汐莉以外の日本人はどこにもいない

 侵略して来るロシア兵には汐莉の姿は見えていない

 ロシア兵たちは汐莉を避けながら、楽しそうに様々な物を破壊する


汐莉「(呆然と周囲を見ながら)何で・・・こんなことに・・・」


 上から大きな戦闘機の音と音楽が聞こえてくる

 空を見る汐莉

 ロシア軍の戦闘機が隊列を組みながら、緋空浜に向かって飛んで来ている

 戦闘機にはスピーカーが付いており、そこから大きな音でКатюша(カチューシャ)が流れている

 汐莉は涙を流す

 友軍の戦闘機を見てロシア兵たちが歓声をあげる

 ロシア兵たちは嬉しそうに大きな声でКатюша(カチューシャ)を歌い出す

 隊列を組んだ戦闘機はどんどん近づいて来ており、それに伴い、戦闘機の音とスピーカーから流れるКатюша(カチューシャ)の音が大きくなる

 汐莉は急いでうつ伏せになり、両手で頭を守る

 隊列を組んだ戦闘機が、波音町を爆撃する

 各地で大きな爆発音が鳴り響く

 汐莉はしばらくの間、うつ伏せの状態で頭を守り続ける

 目を瞑っている汐莉

 少しすると周りから音が聞こえなくなる

 恐る恐る目を開ける汐莉

 ロシア兵たちはいない

 立ち上がり、周囲を見る汐莉

 汐莉がいるのは滅びかけたの世界の緋空浜浜辺

 汐莉の周りには、戦車、重火器、使い古された小型船や兵器、空っぽの缶詰、ペットボトル、日用品、壊れた電化製品、腐敗し死臭を放っている魚、骨になった遺体が転がっている

 波は変わらず荒れている


凛「(声)我が主、緋空よ・・・これは・・・これは・・・訪れねばならぬ、大いなる悲しみの日でございましょうか・・・」


 どこからか凛の声が反響する

 汐莉には凛の声が聞こえていない

 汐莉はゴミを避けながら、浜辺を歩く


汐莉「(小さな声で)世のことわりに関する・・・何か・・・」


 立ち止まる汐莉


汐莉「(首を横に振って大きな声で)嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!こんな世界知りたくない!!」

凛「(声)今の世には、涙で変えられぬ事柄が増え過ぎておるのです・・・あなた様は純粋でございますゆえに・・・今以上に傷心を増やしてはなりませぬよ・・・世が崩壊するというのに、人まで光を失ったらおしまいです・・・」


 再びどこからか凛の声が反響する

 汐莉には凛の声が聞こえていない

 汐莉はゴミを避けながら歩き出す


汐莉「私の運命は・・・大好きな人たちと共にある・・・(少し間を開けて)きっとそうだって、信じてる・・・」

 

◯556波音高校三年生廊下(日替わり/朝)

 快晴

 朝のHRの前の時間

 廊下で話をしている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩

 廊下では喋っている三年生や、教室に入ろうとしている三年生がたくさんいる 


響紀「今日は私にお任せを」

鳴海「何か良いアイデアでもあるのか」

響紀「はい。だから先輩たちは指を咥えて見といてくださいね」

嶺二「ちょいちょい響紀ちゃん、俺たちの協力なしで明日香と話すのは無理があるぞ」

響紀「いや、いけます。てか先輩たち要りません。普通に邪魔です」

鳴海「おい」

菜摘「じゃ、邪魔なんだ・・・私たち・・・」

響紀「良い?汐莉たちも見てて」

汐莉「わ、分かった」

詩穂「あっ、やば」

菜摘「どうしたの?」

詩穂「古文の宿題を忘れちゃいました」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「待て。なぜ今そんなことを思い出したんだ」

詩穂「(困りながら)いやー・・・なぜ今って聞かれましてもー・・・」

雪音「古文って品川が先生だっけ?」

詩穂「はい」

雪音「あの人、宿題を忘れた生徒にめちゃくちゃ厳しいよね」

詩穂「そうなんです」

真彩「10倍の量に増やして宿題をやって来いって言うよな、あいつ。頭おかしい」

嶺二「宿題なんて、犬が食べちゃいましたーって言えば良くね?」

菜摘「そんな嘘つき通せないよ・・・」

嶺二「いけるだろ」

汐莉「無理です」

詩穂「汐莉、後で宿題写させてくれない?」

汐莉「良いけど・・・完コピしたら怒られるよ」

詩穂「ちゃんとアレンジするから!!お願い!!」

真彩「ついでに私にも写させて!!」

汐莉「え、まあやんもやってなかったの?」

真彩「汐莉、これには深ーい訳があって・・・遡ると1986年にハレー彗星が地球に接近したところから話が・・・」

鳴海「(真彩の話を遮って)ハレー彗星と古文の宿題の話は後にしろ。今は明日香を・・・」

響紀「(鳴海の話を遮り)鳴海先輩、あなたはとんでもないミスをしましたね」

鳴海「は?ミス?」

響紀「そうですよ。話という言葉は禁句にし、直ちに議論するべき例の件、通称ただ件に置き換えてトーキングするって話を・・・あっ、失礼しました。話という言葉は禁句にし、直ちに議論するべき例の件、通称ただ件に置き換えてトーキングするって決めたじゃないですか。先輩は今、その大事な取り決めを勝手に破いたんですよ」


 再び沈黙が流れる


鳴海「よし響紀、お前は少し黙ってろ」

響紀「嫌です」

鳴海「減り続ける地球の酸素のためだ、響紀が口を閉じれば救われる世界がある」

響紀「そんな世界、最初から救われなくても良くないですか」

鳴海「おい、78億人の命をもっと敬えよ」

響紀「私のせいで他の生物が多少呼吸し辛くなっても、私は気にせず自由に生きます」

鳴海「そこまで言うんだったらさっさと明日香のところへ行って交渉してこい」

響紀「分かりました!!」


 響紀は走って扉の前に行く


汐莉「鳴海先輩、だんだん響紀の扱いに慣れてきましたね」

鳴海「手間のかかる奴だよ・・・全く・・・」


 三年三組の教室を覗く響紀

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 教室の中には明日香もいる

 明日香は自分の席でスマホを見ている

 鳴海たちは廊下で響紀のことを見ている


響紀「(大きな声で)明日香ちゃん!!!今日は一緒にお昼ご飯を食べましょう!!!」


 響紀のことを無視する明日香


鳴海「こ、今度は何を言い出すんだあいつ・・・」

嶺二「おい、俺たちも響紀ちゃんに加勢すんぞ」

鳴海「ああ」


 響紀の元へ行く鳴海たち


響紀「(大きな声で)明日香ちゃーん!!!一緒にお昼ご飯食べましょー!!!」


 教室の中にいる生徒たちはざわつき、明日香と響紀のことを見ている

 明日香は変わらず無視をしている


真彩「(響紀の頭を軽く叩き)馬鹿、声がでかい」

響紀「だって、聞こえてないみたいだから」

詩穂「明日香先輩はわざと無視してるんだと思うなー・・・」

響紀「(手を振りながら大きな声で)おーい!!!!明日香ちゃーん!!!!」

鳴海「うるせえ・・・」


 廊下にいる生徒も響紀たちのことを見始める

 明日香は無視し続ける

 明日香の前にいる女子生徒が明日香に声を掛ける


明日香の前の女子生徒「ね、ねえ、明日香呼ばれてるみたいだよ。行ってあげたら?」


 深くため息を吐き、スマホをポケットにしまう明日香


明日香「もう・・・めんどくさ・・・」

明日香の前の女子生徒「ふぁ、ファイト!頑張ってね・・・」

明日香「うん・・・」


 立ち上がる明日香

 教室を出て廊下にやって来る明日香


響紀「明日香ちゃん!!お昼ご飯!!一緒に!!」

明日香「(呆れながら)ほんっとにしつこいよねあんた」

響紀「ご飯くらい一緒に食べましょう!!」

明日香「しつこいから嫌」

菜摘「たまにはお昼休み一緒に過ごそうよ、明日香ちゃん」

明日香「菜摘、私はもう文芸部員じゃないって言ってるでしょ」

菜摘「で、でも・・・お昼休みくらい一緒に・・・」

響紀「(菜摘に話を遮って)明日香ちゃん!!!菜摘先輩は無視して、私と二人きりでご飯を食べましょう!!!」

菜摘「(驚いて)えっ?」

真彩「(驚いて)は?」

嶺二「なんだ、俺らは明日香と飯食わねーのか・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「おい響紀!!どういうことだ!!」

響紀「何がですか?」

鳴海「なんでお前と明日香の二人で飯を食う約束なんかしてるんだよ!!おかしいだろ!!」

響紀「鳴海先輩も混ざりたいんですか?」

鳴海「んなこと言ってねえわ!!」

響紀「先輩は何をそんなに騒いでるんですかね。もっと酸素を大事にしてくださいよ」

鳴海「(大きな声で)うるせえ!!!」

菜摘「ひ、響紀ちゃん・・・お昼ご飯って・・・全員で一緒に食べるんじゃないの?」

響紀「いえ、二人きりです」

菜摘「そ、そうなんだ・・・私たちは必要ないのかな・・・」

響紀「(頷き)はい」

詩穂「響紀くん、ランチデートの約束をしたってことだよね?」

響紀「そう、ランチデート」

明日香「ちょ、ちょっと!!私はまだ一緒に食べるなんて・・・」

響紀「約束、破るんですか」

明日香「や、約束とかしてないんですけど・・・」

響紀「明日香ちゃんは約束を守らない人なんですね。残忍で非情な性格が明日香ちゃんの本性だったんだー、あーもうショック過ぎて生きていけなーい。明日香ちゃんってサイテー、スイートメロンパンでも食べて食当たりになればいいのにー。あーあ、ショックだなー、悲しいなー、明日香ちゃんのモラハラ女ー、訴えて刑務所に・・・」

真彩「(小声でボソッと)もうどっちがモラハラしてるのか分からねーっす・・・」


 廊下にいる生徒たちは変わらず響紀のことを見ている


明日香「な、鳴海!!どうにかしてよ!!」

鳴海「悪いな明日香。俺に出来ることは何もない」

響紀「もう明日香ちゃんなんて一生誘われなきゃいいのにー。でも今日一緒にお昼ご飯を食べてくれたらー、私が死ぬまで明日香ちゃんを誘ってあげるよー。というか私が死ぬまで明日香ちゃんの面倒を見てあげるからねー。二人で一緒に幸せなババアになりたいなー。いやもう早く結婚しなーい?私はいつでも明日香ちゃんにこの体を捧げ・・・」

明日香「(響紀の話を遮って)わ、分かったから!!!分かったから黙りなさい!!!」


 黙る響紀

 明日香の顔が赤くなっている


明日香「お、お昼ご飯を食べるだけ・・・ね・・・?」


 頷く響紀


明日香「ご、午前の授業が終わったらあんたのとこ行くから・・・」


 再び頷く響紀


明日香「じゃ、じゃあ・・・また後で・・・」


 明日香は教室へ戻ろうとする


菜摘「明日香ちゃん!!」


 立ち止まって振り返る明日香


菜摘「明日香ちゃんが戻って来るのを待ってるよ!!」


 再び沈黙が流れる

 教室に戻る明日香


嶺二「おい!!今日の明日香、いつもより機嫌が良かったよな!!」

響紀「私の話術が功を奏したからですよ」

真彩「ただめんどくさくなっただけじゃないの〜?」

響紀「明日香ちゃん、喜んでたじゃん」

詩穂「響紀くんは物事をプラスに捉える天才だ・・・」

響紀「明日香ちゃん、生まれてから一番の喜びって顔をしてなかった?」

菜摘「う、うん。あ、あんなに喜んでる明日香ちゃんは初めて見たよ・・・」

鳴海「(小声でボソッと)むしろ人生史上一番の厄介ごとに巻き込まれたって顔に見えたけどな・・・」

菜摘「ま、まあ・・・表情の受け取り方は人それぞれだし・・・」

雪音「愛が重過ぎて明日香には断れなかったんでしょ」

響紀「ヘヴィラブメタル攻撃のお陰です」

真彩「そうか・・・あれは一種の攻撃だったのか・・・朝一からかわいそーな明日香先輩・・・」

嶺二「頼むぜ響紀ちゃん、今日の感じでやりゃあ、あいつも文芸部に戻って来る」

響紀「はい」

鳴海「な、なあ、やっぱり飯は俺たちも一緒の方が・・・」

嶺二「何言ってんだよ鳴海、俺らが行っても邪魔になるだけだろ」


 鳴海はチラッと汐莉のことを見る


汐莉「困ったら私を見るのはやめてください、ぶっちゃけちょっとキモいです」

鳴海「(汐莉から顔を逸らし)み、南が・・・」


 鳴海は何か言いかけるが口を閉じる

 菜摘が鳴海のことを見ている

 少しの沈黙が流れる


汐莉「詩穂とまあやんの宿題があるので私たちはもう戻りますね。さっ、行こう」

真彩「い、いーのか?先輩、何か言いたそーだけど・・・」

汐莉「大丈夫、いつものことだから。それよりまあやん、早く宿題やらないとやばいよ」

真彩「あ、うん。今からちょー高速でやらなきゃ・・・」


 汐莉、響紀、詩穂、真彩は話をしながら自分たちの教室に向かう

 鳴海は拳を握り締める

 菜摘は鳴海が拳を握り締めていることに気が付く


菜摘「(鳴海の耳元に小声で)どうしたの?」

鳴海「(拳を開き小声で)な、何でもない・・・気にするな」


◯557波音高校三年三組の教室(昼)

 授業が終わり昼休みに入る生徒たち

 生徒たちは財布やお弁当を持って友人たちと廊下に出たり、教室の中でお昼ご飯を食べ始めたりする

 カバンからコンビニのビニール袋を取り出して立ち上がる鳴海と嶺二

 鳴海が持っているコンビニのビニール袋の中には、おにぎりや飲み物が入っている

 鳴海と嶺二はコンビニのビニール袋を持って菜摘の席へ行く

 カバンからすみれの手作り弁当を取り出す菜摘


菜摘「今日はどこで食べ・・・」

嶺二「(菜摘の話を遮って)張り込みすんぞ」

菜摘「は、張り込み?」

鳴海「明日香と響紀のところか?」

嶺二「そーだ」

菜摘「えー・・・何のためにそんなことするの?」

嶺二「響紀ちゃんは一度俺たちを騙してるんだぜ?今回も文芸部のことなんかお構いなしで、明日香と飯を食うかもしれねーだろ」

菜摘「そうかなー・・・」

鳴海「嶺二、あいつらがどこで飯を食うのか分かるのか」

嶺二「ああ」

菜摘「どこで食べるの?」

嶺二「外のベンチだ」


◯558波音高校のベンチ(昼)

 快晴

 外のベンチに座っている明日香と響紀

 響紀は手作り弁当を、明日香はコンビニのサンドイッチを食べている

 ベンチはたくさんあり、友達同士やカップルがご飯を食べるのに使っている 

 木陰に隠れて、バレないように明日香と響紀のことを見ている鳴海、菜摘、嶺二

 焼きそばパンを食べている嶺二 

 話をしている鳴海、菜摘、嶺二


菜摘「よく分かったね、嶺二くん」

嶺二「(焼きそばパンを食べながら)俺の本名は白石嶺二ではなくホームズだからな」

鳴海「焼きそばパン食いながらカッコつけるんじゃねえ」

嶺二「(焼きそばパンを食べながら)因みに出来損ないのワトソンが鳴海だ」

菜摘「なら私はモリアーティ教授?」

嶺二「(焼きそばパンを食べながら)いや、菜摘ちゃんは菜摘ちゃんだな」

菜摘「えー・・・」


 焼きそばパンを飲み込む嶺二

 コンビニのビニール袋から紙パックの牛乳を取り出し、ストローを使って飲み始める嶺二


鳴海「にしても・・・俺たちは今非常に無駄な時間を過ごしてないか」

菜摘「そうだね」

嶺二「張り込みは落ち着いてターゲットを観察し続けることが大事なんだぞ、鳴海」

鳴海「張り込みって言っても、何か待ってるわけじゃねえしな・・・」


 昼食を取りながら喋っている明日香と響紀


明日香「(響紀の弁当を覗いて)へ〜。一人で作ったの?」

響紀「はい。欲しいおかずがあれば、あーん、してあげますよ」

明日香「(慌てて首を横に振り)い、いい!!」

響紀「いいというのは、しても良いということですか?」

明日香「し、しなくて良いってこと!!」

響紀「そんなそんな遠慮なさらずに」


 響紀は弁当からハンバーグを箸で取り出し、明日香へ近づける


明日香「(逃げるように響紀から距離を取り)い、いらない!!いらないから!!!」

響紀「(残念そうに)そうですか・・・」


 ハンバーグを一口食べる響紀


響紀「自分でも言うのもあれですが、結構美味しいですよ」

明日香「そ、そう・・・」

響紀「明日香ちゃんはハンバーグ、嫌い?」

明日香「やっ・・・好きだけど・・・」

響紀「明日香ちゃんの好きなおかず、今度作って来ましまょうか」

明日香「えー・・・いいよそんなことしなくて・・・」


 明日香は手に持っていたサンドイッチを一口食べる

 明日香と響紀のことを見ながらは話をしている鳴海たち


鳴海「あの二人、なんかイマイチ盛り上がらねえな」

嶺二「明日香の奴、会話のキャッチボールがなってねーんだ。響紀ちゃんがちゃんとパスしてくれてるのによ」

菜摘「二人ともー。そろそろ食堂か部室に行ってご飯を食べようよー」

嶺二「菜摘ちゃん、今は張り込み中だぞ」

菜摘「分かってるけどさー・・・盗み見てるなんて明日香ちゃんと響紀ちゃんに申し訳ないし・・・」

鳴海「申し訳なくはないだろ。響紀は文芸部と軽音部を代表して明日香と飯を食ってるんだから」

菜摘「張り込みが明日香ちゃんにバレたらどうするの?」

鳴海・嶺二「土下座する」


 ハイタッチする鳴海と嶺二


鳴海「完璧に」

嶺二「決まったぜ」

菜摘「(呆れながら)良いのかなー・・・こんなことをしてて・・・」


 サンドイッチを食べ終え立ち上がる明日香


明日香「じゃ、じゃあ私・・・そろそろ戻るから・・・」

響紀「えっ!?明日香ちゃんもう行ってしまうの!?」

明日香「お、お昼ご飯を食べるって約束は果たしたでしょ・・・」

響紀「もう少しだけ私とお喋りしてくれませんか」


 少しの沈黙が流れる

 ベンチに座る明日香


明日香「もう・・少しだけね・・・(少し間を開けて)何か私に聞きたいことでもあるの?」

響紀「(首を何度も縦に振り)はい!!!」

明日香「何?」

響紀「退部届けは出しましたか?」

明日香「ま、まだ出してないけど・・・」

響紀「確か嶺二先輩に盗まれたんですよね?」

明日香「そ、そうそう。あいつに隠されたの」

響紀「もう一枚退部届けを貰ったらどうですか」


 鳴海たちは変わらず木陰に隠れながら明日香と響紀のことを見ている


鳴海「あ、あいつまた余計なことを・・・」

菜摘「でも鳴海くん、響紀ちゃんが言ってることは事実だよ。もし明日香ちゃんが本当に文芸部を辞めたいんだったら、もう一枚退部届けを貰えばそれで済む話だもん」

鳴海「た、確かにな・・・」

嶺二「明日香も意地になって引き下がれないだけなんだろーよ」


 明日香は変わらず響紀と話をしている


明日香「か、神谷がうるさいの。退部届けは何枚も渡せる物じゃないって」

響紀「辞めたくても辞められない状況にいるんですね」

明日香「そ、そういうこと」

響紀「明日香ちゃん」

明日香「何よ?」

響紀「明日香ちゃんが辞めるのを辞めたら、先輩たち喜ぶよ」

明日香「それが?」

響紀「そろそろ・・・明日香ちゃんは文芸部に戻っても良い頃合いです」


 再び沈黙が流れる


明日香「わ、私だって最初は文芸部のために色々努力したし、みんなに合わせてたつもりだけど、それでも適当に手を抜いて活動してる人がいるから・・・戻りたくないの・・・」

響紀「鳴海先輩のことを言ってるんですか」


 唾を飲み込む鳴海


明日香「あいつは救いようのない馬鹿で・・・適当なところばっかだけど・・・(少し間を開けて)正直まだマシ」


 深く息を吐き出す鳴海


鳴海「(小声でボソッと)良かった・・・ただの馬鹿で・・・」

嶺二「鳴海じゃないということは・・・もしや・・・俺・・・?」

鳴海「可能性はあるな。というか、多分おま・・・」

菜摘「(鳴海の話を遮って)シッ!二人とも静かに!」


 話を続けている明日香


明日香「あなたも文芸部と一緒に行動してたら分かるでしょ?やる気があるのは誰で、反対にやる気がないのは誰か」

響紀「はい」

明日香「そんな奴がいるのに、戻れるかって話」

響紀「明日香ちゃんがいないのは困ります」

明日香「全体的にそういう態度もムカつくの。辞めるって言ったら慌て出したし、しかも軽音部を巻き込んでるし」

響紀「私は文芸部を利用してるので」

明日香「利用?何それ」

響紀「明日香ちゃんと付き合うために、私は文芸部を利用してるんですよ。私たちが文芸部に協力したのは、初めから明日香ちゃんを手に入れるためだったんです」

明日香「あ、あのさ・・・前から聞きたかったんだけど・・・」

響紀「何ですか?」

明日香「あんた・・・わ、私のどこが好きなの・・・?」

響紀「全部です」

明日香「それ・・・答えになってないし・・・」

響紀「明日香ちゃんの外見から中身まで、全てが好き」

明日香「さ、さっきと言ってること一緒じゃん・・・てか響紀、私の内面なんか知らないでしょ」

響紀「はい。だからもっと知りたいんです」


 少しの沈黙が流れる


明日香「ね、ねえ、好きになったのって私が髪を切ってからだよね?」

響紀「そうです」

明日香「その前は好きじゃなかったの?」

響紀「文芸部の前でライブをした時は、正直明日香ちゃんのことを見てませんでした・・・あのライブは、嶺二先輩を慰めることが目的だったので」

明日香「そっか・・・あの頃って・・・嶺二がよく学校をサボってたんだっけ・・・」

響紀「らしいですね。汐莉から聞いたことなので詳しくは知りませんが」

明日香「チャランポランしてるくせにあいつも一途よねぇ・・・恋心以外にも少しは真面目なところがあれば良いのに」

響紀「嶺二先輩は真面目ですよ、ちゃんと部活もやってます」

明日香「神に誓っても良いけど、今にあいつはやらかすから」


 木陰に隠れて明日香と響紀のことを見ていた鳴海と菜摘が、嶺二のことを見る


嶺二「や、やらかさねえって!」

菜摘「(嶺二のことを見たまま)だいたい鳴海くんと嶺二くんは、交互にトラブル巻き起こすようなイメージがあるんだけどなぁ・・・」

鳴海「そ、そんなことはない・・・絶対にない・・・」


 明日香は変わらず響紀と話をしている


明日香「基本的にあいつらは、二人同時にやらかすか、交互にやらかすかのどっちかね」


 鳴海たちは変わらず、木陰に隠れて明日香と響紀のことを見ながら話をしている


菜摘「ほら!明日香ちゃんもそう言ってるじゃん!」

鳴海「あ、安心しろ菜摘。俺はもうやらかさない」

嶺二「お、俺も・・・」

菜摘「(鳴海と嶺二のことを見ながら)不思議とこういう時の二人は物凄く信用出来ないんだよね・・・」


 響紀は弁当の中にあったハンバーグを食べ終える


響紀「どちらにしても、文芸部には明日香ちゃんがいりますよ。明日香ちゃんがいないと空気が不味くなりますから」

明日香「どういうことそれ」

響紀「明日香ちゃんは今でも文芸部の人ってことです」


 再び沈黙が流れる


明日香「生徒会選挙と、朗読劇の準備はどうなってるの?」

響紀「首尾よく進んでますよ」

明日香「部員募集は?」

響紀「そちらも問題ありません」

明日香「何もかも完璧ってことね・・・」

響紀「明日香ちゃんがいなきゃ、完璧とは程遠いですよ」

明日香「またそんな菜摘みたいなことを言って。私がいなくたって平気でしょ」


 響紀は前のめりになり、明日香の太ももに右手を置く


響紀「(前のめりながら)明日香ちゃん」

明日香「な、何」

響紀「(前のめりになったまま)私が生徒会に入ったら、デートしてよ・・・」

明日香「そ、それは前に断ったんだけど・・・」


 明日香の顔が赤くなっている

 明日香は顔を逸らそうとするが、響紀が左手で明日香の顎を軽く掴んで、互いの目と目を合わせる

 嶺二は紙パックの牛乳をストローで吸う

 菜摘の顔が赤くなっている

 鳴海たちは変わらず、木陰に隠れて明日香と響紀のことを見ながら話をしている


鳴海「(菜摘の頭にポンと手を置いて)なんで菜摘の顔まで赤くなってるんだ」

菜摘「だ、だってー!!」

鳴海「(菜摘の頭にポンと手を置いたまま)だってだって何だもんってやつか」

菜摘「う、うん・・・」


 響紀は明日香の顔に近づく


嶺二「キスしろ!!キスしちまえ!!」

鳴海「変態かお前は」

嶺二「いけ!!やれ!!」


 明日香と菜摘の顔はますます赤くなる


菜摘「い、良いのかな!?私たち見ちゃっても良いのかな!?」

鳴海「興奮し過ぎだろお前ら・・・」


 明日香は顔を逸らそうとするが、響紀が明日香を逃さない


明日香「ち、近過ぎるから・・・」

響紀「(明日香の顎を左手で押さえたまま)良いじゃないですか・・・」

明日香「は、離してよ・・・」

響紀「(明日香の顎を左手で押さえたまま)デートしてくれるなら、離してあげても良いです・・・でも断ったら、逃がしませんから」

明日香「あ、あんたの愛・・・重過ぎるんだけど・・・」

響紀「(明日香の顎を左手で押さえたまま)体重は軽いですよ」

明日香「そ、そういう話じゃなくて・・・」

響紀「(明日香の顎を左手で押さえたまま)デートは?してくれるんですか?」


 少しの沈黙が流れる


明日香「い、一度だけなら・・・」


 響紀は明日香から離れる

 深呼吸する明日香

 鳴海たちは変わらず、木陰に隠れて明日香と響紀のことを見ながら話をしている


嶺二「(残念そうに)んだよこれで終わりか・・・」

菜摘「(残念そうに)一線は越えずに踏み止まったね・・・」

鳴海「何でお前ら残念がってるんだ・・・」


 明日香の顔はまだ赤い

 響紀のことを見れずにいる明日香

 嶺二は再び紙パックの牛乳をストローで吸う

 響紀はすかさず、明日香に耳打ちする


響紀「(明日香の耳元で)続きはまた今度に・・・明日香ちゃん・・・」


 立ち上がる響紀


響紀「(明日香に手を伸ばして)さて、戻りますか」


 少しの沈黙が流れる

 俯いている明日香

 明日香の顔は今までで一番赤くなっている

 明日香は少し悩み、響紀の手を取り立ち上がる


◯559波音高校廊下(昼)

 教室に向かっている鳴海、菜摘、嶺二

 廊下では喋っている生徒や、財布を持って買い物に向かっている生徒がたくさんいる


嶺二「いやぁ、キスはなかったけど良いものを見れましたなぁ」

菜摘「そうだね、二人の関係も良く分かったし」

嶺二「しかしですよ、あそこでキスをしないのはどーかと思いますねぇ。焦らしプレイって言うんですか?ああいうの」

鳴海「どこのエロ親父だお前は」

嶺二「ハッハッハ、いやはやもう興奮の連続で」

鳴海「きめえ」

菜摘「でもほんとに凄かったよね、なんか色々勉強になったもん!」

鳴海「何の勉強をしてるんだか・・・」

嶺二「こりゃあ、響紀ちゃんの計画通りに明日香は吸い寄せられてるな」

菜摘「うんうん」

鳴海「今日の感じからして、明日は張り込みの必要もないか・・・」

嶺二「次の展開が気にならねーのかよ?」

鳴海「気になるわけねえだろ。女学生がイチャイチャしながら飯食ってるだけだぞ」

菜摘「それが良いのに〜」

鳴海「明日香の奴が気づく前に、俺たちは身を引くべきだ」

嶺二「響紀ちゃんが上手くやることを期待しろってことか?」

鳴海「ああ・・・あいつに任せっきりなのは癪だが、今はそれしかねえからな・・・」


 時間経過


 階段を登る鳴海、菜摘、嶺二


菜摘「そういえば二人とも、明日香ちゃんと響紀ちゃんの会話で何か気になることはなかった?」

嶺二「ない」

菜摘「鳴海くんは?」

鳴海「誰のことを言ってたのか分からねえけど、やる気のある無しについては少し引っかかったよ」

嶺二「あれは多分、俺のことだろ」

鳴海「そうなのか?冷静に考えれば俺じゃない時点で、嶺二も違う気がするぞ」

菜摘「なら私かな・・・」

嶺二「菜摘ちゃんだけはねーな」

鳴海「同感だ」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「つーことは・・・汐莉ちゃんか・・・雪音ちゃ・・・」

鳴海「(嶺二の話を遮って)嶺二」

嶺二「何だよ?」


 菜摘は鳴海のことを見る


鳴海「その辺で・・・(少し間を開けて)やめてくれねえか」

嶺二「鳴海から振った話だろ?」

鳴海「悪い」

嶺二「別にいーけどよ・・・」


◯560波音高校一年生廊下(放課後/夕方)

 一年生廊下にいる鳴海、詩穂、真彩

 三人は部員募集の紙を持っている

 廊下にはほとんど生徒がいない

 詩穂はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている

 夕日が廊下を赤く染めている


真彩「異色のメンツって感じっすね〜」

鳴海「ああ・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「こ、この間全員で貼り紙をしたから、掲示板の空きはほとんどないはずだが・・・」

詩穂「それなら外へ・・・?」

鳴海「そうだな・・・」


◯561波音高校校庭(放課後/夕方)

 校庭に来た鳴海、詩穂、真彩

 校庭では野球部が練習試合をしている

 野球部の中には一年生の細田周平がいる

 校庭にある掲示板を見ている鳴海と真彩

 掲示板には既に部員募集の紙が貼られている

 詩穂は野球部の練習を応援している

 三人は部員募集の紙を持っている

 詩穂はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている

 バッターボックスに入る細田


詩穂「(細田に向かって)頑張れー!」


 ピッチャーがボールを投げる

 細田がボールを打ち、バットの金属音が鳴る


詩穂「(細田に向かって)ナイスバッティング!!」


 ボールはライト前に落ちる

 細田が一塁に向かって走っている

 記録はヒット

 鳴海と真彩は変わらず掲示板を見ている 


真彩「(掲示板を見ながら)紙、貼り直します?」

鳴海「(掲示板を見ながら)いや・・・校内の掲示板は今のままで良いかもな・・・」


 少しの沈黙が流れる

 ピッチャーが一塁に牽制する

 一塁にヘッドスライディングする細田


鳴海「近場の商店街にでも貼りに行くか・・・」

真彩「そんなところに貼っていいんすか?」

鳴海「分からん・・・まあ多分平気だろ。行くぞ永山」

詩穂「(野球部の練習を見るのをやめて)はーい」


 商店街に向かう鳴海、詩穂、真彩


◯562波音商店街(放課後/夕方)

 波音商店街の中を歩いている鳴海、詩穂、真彩

 三人は部員募集の紙を持っている

 詩穂はたくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている

 人の多い商店街

 主婦や学生など、たくさんの人が商店街の中を通っている

 商店街の中には八百屋、お惣菜屋、和菓子屋、洋菓子屋、服屋、本屋、飲食店などのたくさんの店がある


真彩「あ〜・・・財布持ってくれば良かった〜・・・」

鳴海「学校に置いてきたのか?」

真彩「はい・・・」

鳴海「不用心な奴だな・・・」

詩穂「盗まれるかもしれないのに、必ず置き忘れてくるよね、財布」

真彩「そんな不良は波高にいないと信じてる」

詩穂「そうやって置きっぱなしにしてたら、いつか絶対盗まれるだろうなぁ」

真彩「今日盗まれきゃいーや」

鳴海「荷物は軽音部の部室にあるんだろ?」

真彩「そうっすよ」

鳴海「財布は菜摘と南が守ってくれるさ」

詩穂「二人とも微妙に頼りない感が」

鳴海「まあ・・・少なくともあいつらが財布を盗むことはないだろう・・・」


 時間経過


 商店街の中にある掲示板を見つけた鳴海、詩穂、真彩

 掲示板を見ている鳴海、詩穂、真彩

 掲示板には地域交流や、市民館で行われる展覧会のお知らせ、老人ホームの紹介、交通ルール、講演会の一覧、商店街の中にある店の宣伝など、たくさんの貼り紙されてあり、これ以上紙を貼るスペースはない


真彩「まさかの空き無しっすね」

詩穂「諦めて帰りますか?」

鳴海「いや、せっかくここまで来たんだ、一枚くらいは貼っておこう。(部員募集の紙の束を差し出して)奥野、ちょっと持っててくれないか」

真彩「(部員募集の紙を受け取り)了解っす」


 鳴海は真彩が持っている部員募集の束から一枚紙を抜き取る


鳴海「画鋲をくれ、永山」

詩穂「(画鋲を四個差し出して)はい」

鳴海「(画鋲を四個受け取り)サンキュー」

 

 鳴海は掲示板に貼られていた老人ホームのお知らせの上に、部員募集の紙を被せる


鳴海「(部員募集の紙を掲示板に貼りながら)ちょうど良いサイズだ」


 鳴海の作業を見ている詩穂と真彩


詩穂「(鳴海の作業を見ながら小声で)部員募集の紙って、先輩たちの電話番号が載ってるんじゃなかった?」

真彩「(鳴海の作業を見ながら小声で)そーだよ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(部員募集の紙を貼りながら)とりあえずここは一枚貼っときゃ良いかな?」

真彩「そ、そうっすね。い、良いと思います」

鳴海「(部員募集の紙を貼りながら)よし」


 部員募集の紙を貼り終える鳴海


鳴海「んじゃあ次行くか」

真彩「次?」

鳴海「まだ掲示板はあるだろ」

真彩「この後も商店街で貼る感じっすか」

鳴海「ああ」

真彩「あーでも先輩、電話番号が書いてある紙を無断でその辺に貼っつけるのはどーかと・・・」

詩穂「イタ電が来ますよ」


 頷く真彩

 再び沈黙が流れる

 鳴海は部員募集の紙を剥がす

 

鳴海「(掲示板から画鋲を抜きながら)学校内で出来る部員募集の方法を考えるしかないのか・・・」

詩穂「はい」

真彩「とりあえずなんか食べません?」

鳴海「(掲示板から画鋲を抜きながら)財布がないのにどうやって食うんだ」


 両手を合わせる真彩


真彩「(両手を合わせたまま)詩穂!お前も!!」

詩穂「あ、うん」


 両手を合わせる詩穂

 部員募集をの紙を外し終える鳴海

 詩穂と真彩のことを見る鳴海

 

真彩「(両手を合わせたまま)お恵みを〜」

詩穂「(両手を合わせたまま)現金を〜」


 鳴海は無言で掲示板から抜き取った画鋲を四個、詩穂と真彩に差し出す


詩穂「(両手を合わせたまま鳴海が差し出した画鋲を見て)スイートメロンパンな先輩だ」

鳴海「(画鋲を四個差し出したまま)奢ってやるから受け取れ」


 両手を合わせるのをやめ、画鋲を四個受け取る詩穂

 画鋲の入っていた箱に画鋲を戻す詩穂


鳴海「よし、さっさと帰るぞ」

真彩「(両手を合わせたままショックを受けて)え、先輩今奢ってくれるって言ったのに・・・」

詩穂「(鳴海のことを見て)真彩、この人、裏切り者のスイートメロンパンな先輩だね」

真彩「(ショックを受けたまま両手を合わせるのをやめ、鳴海のことを見ながら)うん・・・うちら騙されたんだ・・・」

鳴海「(慌ててポケットから財布を取り出し)か、帰るってのは冗談だよ。奢ってやるから二人ともそんなに怒らないでくれ」


 顔を見合わせる詩穂と真彩

 

鳴海「お、お前ら、何が食べたいんだ?」

真彩「コロッケと、唐揚げと、アイスと、ラーメンと、お団子と、焼肉と、豚カツと、カレーと、うどんと・・・」

鳴海「(真彩の話を遮って)な、永山は?」

詩穂「(再び両手を合わせて)私はお金が欲しいです」

鳴海「は、はい?」

詩穂「(両手を合わせたまま)お金だけください」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は財布から千円札を取り出し、真彩に差し出す


鳴海「(真彩に千円札を差し出したまま)もうお前らこれで好きなもんを買って来い・・・俺、ここで待ってるから・・・」

真彩「(勢いよく鳴海の手から千円札をもぎ取り)ありがとうございます鳴海先輩!!!!」

詩穂「(真彩が握り締めていた千円札を奪い)わー、鳴海おじちゃんありがとー」

鳴海「お、おう・・・おじちゃんではないけどな・・・」


 真彩が詩穂の手にある千円札を無理矢理引っ張る


鳴海「お、おい・・・千円で喧嘩するなよ・・・」

詩穂「(千円札を握り締めながら)やめて!!私の千円札に何するの!!」

真彩「(詩穂の手にある千円札を無理矢理引っ張りながら)いーから返せ!!」

詩穂「(千円札を握り締めたまま)嫌だ!!」

真彩「(詩穂の手にある千円札を無理矢理引っ張ったまま)詩穂が買うのはどうせつまらねー本だろ!!」

詩穂「(千円札を握り締めたまま)真彩と違って私は韋編三絶だから!!」


 通りすがりの主婦たちが鳴海、詩穂、真彩のことを見ている


主婦1「(鳴海たちのことを見ながら)お札で何してるのかしら・・・」

主婦2「(鳴海たちのことを見ながら)やーねぇ・・・最近の高校生って・・・」


 鳴海は慌てて財布から千円札をもう一枚取り出す


鳴海「(再び千円札を真彩に差し出して)わ、分かったよ!一人千円で好きなもんを買え!!!」


 真彩は詩穂が持っていた千円札から手を離し、鳴海の手から千円札を奪い取る


真彩「(頭を下げて)ありがとうございます先輩!!!」

鳴海「れ、礼は良いから・・・早く買って来い・・・」

真彩「(頭を上げ)はい!!行こう詩穂!!」

詩穂「うん!」


 二人は千円札を握り締めたまま、商店街の中にある店を回り始める


鳴海「(小声でボソッと)どんだけ欲深いんだよあいつら・・・」


 時間経過


 商店街の中を歩いている鳴海、詩穂、真彩

 歩きながらコロッケを食べている真彩

 真彩の代わりに部員募集の紙を持っている鳴海

 真彩の片手にはお惣菜屋のビニール袋がある、中身はたくさんの揚げ物

 詩穂は部員募集の紙と画鋲の入った箱の他に、波音書店のビニール袋を持っている

 波音書店のビニール袋の中には、文庫本が一冊入っている

 

鳴海「ったく・・・何しにここまで来たんだ・・・」

真彩「(コロッケを食べながら)当初の目的は果たせなかったけど、美味しいコロッケをゲット出来たので自分満足っす!」

鳴海「そりゃ良かったな・・・(詩穂が持っているビニール袋を見て)永山は現金が欲しいとか言いながら、ちゃっかり本を買ったのか・・・?」

詩穂「はい」

鳴海「そういや前に菜摘が言ってたぞ、永山は読書がなんちゃらかんちゃらって」

詩穂「永山は読書が何ちゃらかんちゃらなので、本を買いました」

鳴海「お、おう・・・そのようだな・・・」

真彩「(コロッケを食べながら)詩穂はめちゃくちゃ本好きなんすよ。食欲がない代わりに読書欲を持って生まれてきた活字マニアなんすから」

鳴海「そうなのか?」

詩穂「(頷き)土日のほとんどは本を読んで過ごしてます」

鳴海「読書家なんだな。南みたいに、掛け持ちで文芸部に入ったらどうだ?」


 首を横に振る詩穂


鳴海「そうか・・・」


 コロッケを食べ終える真彩

 惣菜屋のビニール袋から唐揚げを取り出して、食べ始める真彩


鳴海「それにしても、軽音部って変わってるよな」

真彩「(唐揚げを食べながら)うちら、はぐれ者の集まりから結成したんで」

鳴海「はぐれ者?」

詩穂「私と真彩は、中学を卒業してからこっちに引っ越して来たんです。だから知り合いがいなくて」

鳴海「引っ越す前はどこに住んでたんだ?」

詩穂「私は島根で、真彩は鳥取です」

鳴海「遠いところからわざわざご苦労さんだな」

真彩「(唐揚げを食べながら)たまたま隣の県同士で良かったすよ。これが東北とかだったら会話せずに終わってましたからね」

鳴海「響紀も地方出身なのか?」

真彩「(唐揚げを食べながら)いや、あいつは川崎の方っす」

鳴海「(驚いて)か、川崎!?何でそんな遠くから通ってるんだ・・・」

詩穂「響紀くん、地元には友達がいないって言ってました」

鳴海「そうなのか・・・(少し間を開けて)よくよく考えてみれば、響紀って謎要素だらけだよな」

真彩「(唐揚げを食べながら)あいつは一年生の中で一番テストの点数が高いんすよ」

鳴海「それはないだろ」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「響紀くんの試験、ほとんど100点だったよね」


 唐揚げを食べ終える真彩


真彩「そーそー」

鳴海「マジで言ってるのか?」

真彩「はい」

鳴海「信じられないんだが・・・」

詩穂「響紀くんは英語もペラペラなので、海外旅行の時は通訳してくれますよ」

鳴海「そんな馬鹿な・・・(少し間を開けて)軽音部の中で一番勉強が出来るのは南だろ・・・?」

真彩「鳴海先輩は汐莉のことを分かってないっすね。私たち四人の中で一番テストの点が低いのは汐莉っすよ」

鳴海「は・・・?」

真彩「学年一位が響紀、学年十三位が詩穂、学年三十二位が私で、汐莉は学年四十位っす」


 再び沈黙が流れる


鳴海「待て待て待て、今の、嘘だよな?」

真彩「先輩、これが現実っす」

鳴海「一年生って、全部で何人いるんだ・・・?」

詩穂「三百人弱ですかね」

鳴海「四十位でも十分頭が良いのに・・・お前ら・・・実は天才集団だったのか・・・」

真彩「そうっす」

鳴海「だったら南のじゃなくて、響紀の宿題を写せよ・・・」

詩穂「響紀くんの回答は完璧過ぎて狂気を感じるので写せませんね。その点は汐莉はミスもあってリアルです」

鳴海「そ、そうなのか・・・(少し間を開けて)逆に響紀は何が苦手なんだ・・・?」

真彩「さあ・・・」

鳴海「スポーツは出来るのか?」

詩穂「響紀くん、中学生の時は陸上部で、県大会で優勝したこともあるらしいですよ」

鳴海「ぶ、文武両道なんだな・・・」

真彩「あいつに出来ないのは、絵を描くことくらいじゃないっすかね〜」

詩穂「響紀くんの画風は技術よりも個性が重視されてるからね」

真彩「要するに下手なわけっす」

鳴海「なるほど・・・ぶっ飛んだ性格を除けば割と完璧人間ってことじゃねえか・・・」

真彩「中学時代に友達がいなかったことを踏まえると、かなりマイナスよりの人間っすよ」

鳴海「そ、それもそうだが・・・(少し間を開けて)さっき、はぐれ者の集まりから結成したって言ったよな?南もそうなのか?」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「汐莉は・・・私たちの中だと一番普通だけど・・・」

鳴海「何だよ?」

詩穂「6月くらいに・・・2年生の男子とトラブルがあって・・・」

真彩「それでまー・・・ちょっと・・・浮いちゃったって言うんすかね・・・(少し間を開けて)汐莉ってモテるから、それがいざこざになるんすよ」


 再び沈黙が流れる


鳴海「浮いてるって・・・虐められたりしてるんじゃ・・・」

真彩「(慌てて鳴海の話を遮って)そ、そこまで酷くはないっす!!」

詩穂「浮いてるレベルで言ったら、響紀くんの方がやばいもんね」

真彩「うん。響紀のことを嫌ってる奴は男女込みでかなりいるし・・・しかもあいつは汐莉より目立つからなぁ・・・」


◯563帰路(放課後/夕方)

 帰り道、一緒に帰っている鳴海と菜摘

 部活帰りの学生がたくさんいる

 夕日が沈みかけている


菜摘「部員募集はどうだった?」

鳴海「ま、まあまあだったよ。(少し間を開けて)菜摘たちは曲作れそうか?」

菜摘「うん!汐莉ちゃんがアドバイスしてくれるし、初日にしては良い感じに進んだと思う」

鳴海「そうか・・・南が・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「鳴海くん」

鳴海「ん?」

菜摘「もしも・・・もしもだけど・・・鳴海くんが・・・(首を横に振って)ううん、鳴海くんと汐莉ちゃんが、何か私に隠し事をしてるとしても、私は二人を信じてるから。言うべきじゃないことは、私や他のみんなが知るべきことじゃないのなら、それは二人の胸の中にしまっておいた方が良いんじゃないかな」

鳴海「な、菜摘・・・お前・・・」

菜摘「ほんとはちょっと前から気付いてたんだ。鳴海くんも、汐莉ちゃんも、なんか変だったから」

鳴海「ま、待ってくれ菜摘。俺たちは隠し事をするつもりは・・・」

菜摘「(鳴海の話を遮って)うん、分かってる。大丈夫だよ」


 立ち止まる鳴海


鳴海「菜摘・・・俺・・・」


 鳴海に合わせて立ち止まる菜摘


菜摘「どうしたの?」

鳴海「お前に何を話せば良いのか分からなくなってきたんだ・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「この数日で・・・自分の中にあったイメージとか、考え方とか、何もかもが一気に壊れるような出来事があって・・・俺の頭も、まだ理解が追い付いてない・・・素直に喋って説明出来れば良いんだが・・・(少し間を開けて)ごめん・・・とにかく言えないんだ・・・」

菜摘「鳴海くんが言葉に出来ないってことは・・・きっと口に出さない方が良いんだよ・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「さ、三人より・・・二人の方が良い時ってあるもんね・・・私たちだって・・・鳴海くんがいないのに曲を作ってるし・・・」

鳴海「菜摘・・・」

菜摘「ご、ごめんね変なことを言って!!私、鳴海くんと汐莉ちゃんの力になりたいんだ・・・だから困ってることとか、悩んでることがあったらいつでも相談してね!!絶対に助けてあげるから!!」

鳴海「ありがとう、菜摘・・・(少し間を開けて)ほんと、いつも迷惑ばっかかけてすまない・・・」

菜摘「う、ううん・・・どんなことがあっても・・・私は絶対に鳴海くんと汐莉ちゃんの味方でいるよ」


◯564早乙女家菜摘の自室(深夜)

 綺麗な菜摘の部屋

 菜摘の部屋にはパソコン、プリンターがある

 部屋の電気はついておらず、カーテンの隙間から入って来る月の光だけが唯一の灯り

 壁に寄り添って体育座りをしながら、俯いている菜摘

 

菜摘「(俯いたまま)三人じゃダメなのかな・・・」


 菜摘の瞳から涙が溢れる

 涙は月の光を反射させ、キラリと光る

 涙が床に落ちる

 床に落ちた涙を眺める菜摘

 床に落ちた涙の中には体育座りをし俯いている菜摘と、いるはずのない白瀬波音の姿が写っている

 涙の中の波音は、菜摘を慰めるように彼女の右肩に手を置く

 振り返り、波音がいるか確認する菜摘

 菜摘の後ろには誰もいない

 再び床に落ちた涙を見る菜摘

 涙に写っている波音は、変わらず菜摘の右肩に手を置いている

 菜摘は自分の右肩に触れる


菜摘「(自分の右肩に触れながら)そうだよね・・・波音さんの想いは私が引き継がなきゃ・・・(少し間を開けて)みんなに波音物語を・・・500年前の悲劇を伝えます。もう繰り返さないために・・・鳴海くんたちが前を向いて歩けるように・・・そして・・・波音さんが叶えられなかった夢を・・・朗読劇で叶えるために・・・」

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