Chapter6生徒会選挙編♯7 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
老人の回想に登場する人物
中年期の老人 男子
兵士時代の老人。
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
アイヴァン・ヴォリフスキー 男子
ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。
両手足が潰れたロシア兵 男子
重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
Chapter6生徒会選挙編♯7 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯550波音高校三年生廊下(日替わり/朝)
外では雨が降っている
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来ていない
廊下で話をしている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
イライラしている明日香
廊下では喋っている三年生や、教室に入ろうとしている三年生がたくさんいる
明日香「(イライラしながら)ほんとにしつこい」
嶺二「おめえがしつこくさせてんだよ」
明日香「(イライラしながら)は?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「新しく部員が入ってくれるまでで良いって言ってるだろ」
明日香「(イライラしながら)何のために、また私が、文芸部に、入ってあげなきゃいけないのか、理解出来ません」
菜摘「明日香ちゃんがいなきゃ文芸部じゃないもん」
明日香「(イライラしながら)一人くらい減ったってワイワイやれるでしょ」
菜摘「そんなことないよ。誰かが欠けた時点で文芸部は成り立たない・・・」
明日香「(イライラしながら)千春が消えた時は、そんな風に言ってなかった気がするけど?」
嶺二「それは関係ねーだろ」
明日香「(イライラしながら)同じ部員なのに?」
再び沈黙が流れる
汐莉「明日香先輩」
明日香「何」
汐莉「文芸部に戻ってください」
明日香「無理」
鳴海はチラッと汐莉を見るが、すぐに視線を明日香の方へ戻す
響紀「明日香ちゃん、文芸部に所属してなきゃ私と会えませんよ?」
明日香「それがどうしたって言うの?」
響紀「会えないと寂しいじゃないですか」
明日香「は?ぜんっぜん寂しくないし」
響紀「ツンデレはほんとにめんどくさいですねぇ・・・」
明日香「い、言っとくけど、私は響紀のこと好きじゃないから!!」
響紀「え、それはない」
明日香「き、決めつけないでくれる?」
響紀「一昨日、明日香ちゃんが私の裸を想像しながら抜いてる夢を・・・」
真彩が慌てて響紀の口を塞ぐ
真彩「(響紀の口を塞ぎながら大きな声で)な、何でもないっす!!!今のは響紀がエラーを起こしただけですから!!!」
真彩の手を離そうと暴れる響紀
菜摘、明日香、汐莉の顔が赤くなっている
ドン引きしている鳴海
真彩「(響紀の口を塞いだまま)お、お前はもう喋るな!!!この妖怪スケベJKが!!!」
暴れ続ける響紀
詩穂「こ、これも・・・響紀くん流の愛の告白なんですよね・・・」
雪音「アイラブユーとかジュテームみたいな?」
詩穂「は、はい・・・そんなにオシャレじゃないけど・・・」
嶺二「響紀ちゃんは明日香を愛してんだよ!!だからお前は文芸部に戻って愛を育め!!」
明日香「(顔を真っ赤にしたまま大きな声で)い、いい加減にしてよ!!!文芸部ならマシな言葉を使いなさい!!!」
明日香は怒りつつ、恥ずかしそうに走って教室に戻る
◯551波音高校食堂(昼)
昼休み
外では雨が降っている
食堂にいる鳴海、菜摘、嶺二
込んでいる食堂
注文に並ぶ生徒がたくさんいる
昼食を食べ終えた鳴海、菜摘、嶺二
食堂のテーブルはほとんど埋まっている
菜摘「今朝も上手くいかなかったね、明日香ちゃんとの交渉」
鳴海「いやあれはダメだろ・・・」
嶺二「でもいつもより怒ってなかった気がするぜ?」
菜摘「それは羞恥心のせいじゃないかな・・・明日香ちゃんって、恥ずかしがり屋さんなところがあるし・・」
嶺二「まーな・・・」
鳴海「そういや菜摘、今日の部活も部員募集か?」
菜摘「うん」
嶺二「そろそろ俺たちも別行動にした方が良いんじゃねーの?」
菜摘「別行動って?」
嶺二「響紀ちゃんと一緒に選挙活動をするグループと、朗読劇用の曲作りをするグループと、部員募集をするグループに分かれて部活をするべきなんじゃねーかってことだ」
鳴海「嶺二にしては良い考えだな。確かにこのままじゃ他の作業が始まらねえ」
嶺二「そーだろ?」
鳴海「ああ」
菜摘「明日香ちゃんがいないのに準備を始めちゃうのはあんまりだよ」
嶺二「菜摘ちゃんの気持ちも分からないことはねーが・・・先にやれることはやっとかねーと・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「波音物語を題材にするってことも、軽音部の連中はまだ知らないんじゃなかったか?」
菜摘「うん・・・」
嶺二「つか誰が朗読をするんだよ?俺か?俺なのか?俺が奈緒衛を担当してやっても全然構わないんだぜ?」
鳴海「安心しろ。奈緒衛はお前じゃない」
嶺二「な、なんでそう言い切れるんだよ!?」
鳴海「何となくお前じゃないからだ」
首を何度も縦に振る菜摘
嶺二「(舌打ちをして)チッ・・・っつうことはまた鳴海が主役か・・・スイートメロンパンかいわれ大根野郎のくせに・・・」
鳴海「(小声でボソッと)誰だよそれ・・・(かなり間を開けて)菜摘、配役はいつ発表するんだ?」
菜摘「うーん・・・どうしようかなー・・・」
嶺二「菜摘ちゃん的には、誰にどの役をやってほしいとかあんの?」
菜摘「もちろん希望はあるよ」
嶺二「なら今日の放課後に発表しちまおーぜ?」
菜摘「(驚いて)い、いきなり今日!?!?」
鳴海「何か問題があるのか?」
菜摘「と、特にないけど・・・」
嶺二「じゃー今日の放課後だな」
菜摘「う、うん・・・」
嶺二「別行動はどーする?」
鳴海「今のうちに班分けしといた方がいいかもな」
菜摘「そうだね」
嶺二「俺、響紀ちゃんの手伝いをするわ」
鳴海「まさか二人だけでやるのか?」
嶺二「二人もいれば十分だろ」
鳴海「俺は?」
嶺二「要らねーな」
鳴海「おい」
嶺二「んだよ?」
鳴海「俺も響紀生徒会作戦の半立案者なんだぞ」
嶺二「それがどーかしたか?」
鳴海「手伝わせろよ」
再び沈黙が流れる
嶺二「菜摘ちゃん、鳴海には他の役目を与えた方がいーだろ?」
菜摘「他の役目って例えば何?」
嶺二「部員募集とか・・・曲作りとか・・・」
考え込む菜摘
菜摘「部員募集が良いかも・・・反省してるように見えるし・・・」
鳴海「マジかよ・・・もう腐るほど反省したと思ってるんだが・・・」
菜摘「腐るほど反省したって言ってる人は、本当はまだあんまり反省してないと思う」
嶺二「だよな」
鳴海「だからと言って嶺二と響紀の二人に選挙活動を任せるのか?」
嶺二「そーだ。是非とも全任せしてくれたまえ」
鳴海「菜摘、こいつらはダメだ。他の奴も同じグループに入れよう」
嶺二「要らねえって・・・」
菜摘「嶺二くん、さすがに二人だけじゃ、仕事量からしても大変だと思うよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「い、一条だ!!一条を選挙活動の班に入れたら良くないか!!」
嶺二「て、てめえ余計なことを言うんじゃねえ!!!」
鳴海「嶺二、一条となら上手くやれるって言ってただろ」
嶺二「んなこと言ってねえよ!!!」
菜摘「嶺二くん、もしかして雪音ちゃんのことが苦手なの?」
嶺二「ん・・・いやぁ、苦手じゃねーけどさ・・・」
菜摘「苦手じゃないけど?」
嶺二「っつうか普通に好き?うん。好きだな、俺、雪音ちゃんのことが大好きなのかもしれない」
菜摘「(驚いて)だ、大好きなんだ・・・れ、嶺二くんってたくさん好きな人がいるんだね・・・」
嶺二「は、博愛主義ってやつだよ・・・そう・・・博愛・・・」
鳴海「んじゃあ選挙活動は嶺二と、響紀と、雪音の三人で決まりだな」
菜摘「オッケー」
嶺二は鳴海のことを睨む
鳴海は気づいていないふりをする
鳴海「さてー、次は部員募集班と曲作り班を決めるかー」
嶺二「(鳴海を睨んだまま)部員募集の仕事をするのは鳴海一人で良くね」
鳴海「やめるんだ嶺二、孤独への嫉妬と憧れは厨二病過ぎて見苦しいぞ」
嶺二「一人で部員募集をしてる方が何億倍も見苦しいわ」
菜摘「ま、まあまあ二人とも・・・部員募集も三人組でやるべきだよ」
鳴海「曲作り班に南は絶対必要だろ?」
菜摘「そうだね」
鳴海「となれば俺と一緒に部員募集をするのは・・・菜摘か・・・永山か・・・奥野か・・・」
菜摘「私は曲作りの手伝いをしようかなーって思ってたんだけど・・・ダメ?」
鳴海「あー・・・そうだな・・・曲作りは菜摘と南の二人でやればいいか」
菜摘「(頷き)うん」
嶺二「鳴海、お前は少しばかり菜摘ちゃんの恩恵を受け過ぎだぞ」
菜摘「え、そうかな?」
嶺二「鳴海のことを見てたら分かるだろーけど、こいつは人間というよりただのナマケモノだ」
鳴海「うるせえ余計なお世話だ」
嶺二「長原と奥山と一緒に修行にでも行って来い」
菜摘「長原と奥山じゃなくて、永山と奥野だよ」
嶺二「永山と・・・奥野・・・?(少し間を開けて)誰だそいつら」
再び沈黙が流れる
鳴海「(呆れながら)永山詩穂と奥野真彩を知らないんだなお前は」
嶺二「あー!!!詩穂ちゃんとまあやんのことか!!!」
鳴海「(呆れながら)後輩の苗字くらい覚えとけよ」
嶺二「無理無理。言っとくけど俺、同級生の苗字すら覚えられてねえんだぞ」
鳴海「嶺二、菜摘の苗字は分かるか?」
考え込む嶺二
菜摘「(驚いて)え・・・嘘・・・知らないの・・・?」
嶺二「わりい菜摘ちゃん、マジで覚えてねえわ・・・」
菜摘「私・・・早乙女菜摘って言うんだよ・・・」
嶺二「へー・・・早乙女って言うのかー・・・またすぐ忘れちまいそうだなー・・・」
鳴海「早乙女くらい覚えられるだろ!!!」
嶺二「頑張れば覚えられるけどよ、どーせすぐに変わるんだぜ?」
菜摘「すぐに変わる・・・?」
嶺二「お前らが結婚したら、早乙女菜摘から貴志菜摘に進化するじゃねーか」
鳴海と菜摘は一瞬顔を見合わせるが、すぐに逸らす
嶺二「つかさー、苗字とか平仮名一文字で良くね?あ、とか。い、とか。う、とか。そっちの方がぜってー分かりやすいし、名前書かなきゃなんねー時も楽になるし・・・」
鳴海「逆にお前、誰の苗字なら分かるんだよ?」
嶺二「明日香の苗字は知ってるぜ?確か天城だったはず」
菜摘「さすが親友同士だね」
嶺二「だろ」
鳴海「他に分かるのは?」
嶺二「さーな・・・苗字なんて気にして生きたことがねーから・・・」
菜摘「千春ちゃんの苗字も知らないの?」
嶺二「柊木だろ」
鳴海「それは知ってるのかよ・・・」
嶺二「あったりめーだ、苗字くらい知ってて当然のことだかんな」
菜摘「じゃあ汐莉ちゃんの苗字は分かる?」
嶺二「あんまりなめてもらっちゃ困るぜ、菜摘ちゃん。汐莉ちゃんの苗字はな・・・三上、そーだろ?」
鳴海「自信あるのか?」
嶺二「ああ。数少ない覚えてる苗字の一つだ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「嶺二くん、汐莉ちゃんの苗字・・・三上じゃないよ」
鳴海「因みに正解は南な」
再び沈黙が流れる
嶺二「きゅ、99%合ってたじゃねーか!!!」
鳴海「東と日差しを聞き間違えてるようなもんだぞ」
嶺二「た、大したミスじゃねーよ・・・」
菜摘「東の方へ向かえと、日差しの方へ向かえだと、意味合いが物凄く変わってくるけどね・・・」
少しの沈黙が流れる
嶺二「は、話を変えるけどよ、つ、次の部誌はいつ書くんだ?」
鳴海「(小声でボソッと)無理矢理話題チェンジしやがって・・・」
嶺二「た、確か合宿はしないで、それぞれの家を巡回して行くっつう話だったよな・・・?」
菜摘「うん」
鳴海「菜摘、部誌は早めに終わらせないと、また徹夜することになるぞ」
菜摘「そうだけど・・・明日香ちゃんがいないし・・・」
鳴海「十月の分だけでも書けって、明日香に頼み込むか?」
嶺二「それで明日香の機嫌が更に悪くなったらどーするよ?部誌如きで全ての作戦が消滅だぜ?」
鳴海「部誌如きって・・・お前な、部誌制作も文芸部の大事な活動なんだぞ」
嶺二「もちろんそんなことは分かってるけどよ、物事には優先順位があんだろ。今一番大事なのは朗読劇の成功で、それ以外は二の次じゃないのか?」
鳴海「俺たちにある時間も、俺たちに出来ることも、限度があるんだ。優先順位を組み立てるにしても、限りがあることを忘れんなよ」
嶺二「あ、ああ・・・(少し間を開けて)菜摘ちゃんが明日香抜きで部誌は書かないって言うんだったら、俺はそれに従うぜ?」
考え込む菜摘
菜摘「残りの部誌は十月号、十一月号、十二月号、一月号、二月号・・・それから三月号の6回・・・(少し間を開けて)10月の上旬に生徒会選挙で・・・中旬には中間試験があって・・・期末は12月の終わり・・・1月は受験だし・・・2月には年度末試験がある・・・」
鳴海「そんでもって3月は朗読劇の本番だな・・・」
菜摘「そうだね」
嶺二「何もない月は11月だけってことか・・・なら11月にみんなでパスポートを・・・」
鳴海「(嶺二の話を遮って)おい。なんでそうなるんだよ」
嶺二「他の月は忙しいだろ?」
鳴海「お前よくこの状況でパスポートのことなんか考えられるよな」
嶺二「馬鹿野郎、パスポートはめちゃくちゃ大事だろーが」
鳴海「もう俺、脳みそがパンパン過ぎて、海外旅行はおろか国内旅行ですら眼中にねえんだが」
菜摘「鳴海くん、3月の予定は朗読劇と卒業式と海外旅行の三つだよ。忘れないでね」
鳴海「覚えてられるかよそんなこと、既に忘れかけてるんだぞ」
嶺二「カスみてーな脳みそだな」
鳴海「人様の苗字を覚えられない奴が偉そうに言うんじゃねえ」
嶺二「苗字にテキサスってのがありゃあいいのに。な?菜摘ちゃん」
菜摘「えっ?テキサスよりハワイが良いよ。それかエジプト」
嶺二「(呆れながら)まーだそんなことを言ってのんか菜摘ちゃんは・・・俺らが行くのはテキサスなんだぜ?」
菜摘「えー。テキサスってほとんど観光する場所無くない?」
嶺二「ガンマンがいるだろうが、ガンマンが」
菜摘「いないと思うけどなぁ・・・」
嶺二「ガンマンのいないテキサスなんて、ハンバーグのないハンバーガーと一緒だ」
菜摘「じゃあただのパンだね。そんなところ行くんだったら、やっぱりハワイかエジ・・・」
菜摘と嶺二が議論している
鳴海は菜摘と嶺二のことを見ている
◯552波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)
外では雨が降っている
教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある
椅子に座っている鳴海、菜摘、嶺二、雪音
鳴海、菜摘、嶺二、雪音に向かい合って汐莉、響紀、詩穂、真彩が座っている
それぞれ朗読劇用に菜摘が書いた波音物語のコピーを手に持っている
詩穂「(朗読劇用の波音物語をパラパラとめくりながら)ひゃー、結構な文章量なんですねー」
菜摘「これでもかなり簡略化されてるんだよ」
詩穂「(朗読劇用の波音物語をパラパラとめくりながら)へぇー・・・」
鳴海「多分、一時間くらいの朗読劇だよな?」
菜摘「曲数にもよるけど・・・一時間から一時間半くらいだと思う」
嶺二「前回よりも長えってことか・・・」
菜摘「うん」
雪音「学園祭の時は何分間の朗読劇だったの?」
汐莉「確か40分ほどです」
響紀「曲のタイミングとか、決めてるんですか」
菜摘「何となく頭の中では。(少し間を開けて)軽音部には3曲から5曲くらい作ってほしいんだけど・・・お願い出来る?」
顔を見合わせる汐莉、響紀、詩穂、真彩
詩穂「(汐莉、響紀、真彩の顔を見ながら小声で)今から5も出来る?」
響紀「(汐莉、詩穂、真彩の顔を見ながら小声で)無理」
汐莉「(響紀、詩穂、真彩の顔を見ながら小声で)4曲は?」
真彩「(汐莉、響紀、詩穂の顔を見ながら小声で)先輩たちの仕上がり次第かなぁ。詩が先に書いてあったら見込みはあるっしょ」
響紀「(汐莉、詩穂、真彩の顔を見たまま小声で)真彩、探りを入れてみて」
真彩「(汐莉、響紀、詩穂の顔を見たまま頷き小声で)ラジャッ!」
顔を見合わせるのやめる軽音部員たち
真彩「曲数の前に聞きたいことがあるんすけど」
菜摘「何?」
真彩「今朗読劇の製作状況ってどうなってるんすか」
菜摘「順調だよ。やっと今日配役の発表をすることになったし」
真彩「え、配役の発表がまだってことは・・・(少し間を開けて)練習は・・・?」
首を横に振る菜摘
鳴海「誰がどの役をやるのか知らねえのに、練習なんか出来るわけないだろ」
少しの沈黙が流れる
真彩「本当に順調なんすよね・・・?」
雪音「少なくとも本は読んでるから、一回」
真彩「た、たったの一回だけっすか・・・」
嶺二「忙しい割にはよく読んでる方だと思うぜ?」
菜摘「うん。それに、明日香ちゃんを置いてけぼりにするのは気が引けるし・・・発表だって早いくらいだよ」
再び沈黙が流れる
響紀「私たちは3曲で手一杯になりそうです」
菜摘「そっか・・・(かなり間を開けて)これから、文芸部と軽音部は生徒会選挙が終わるまで、選挙活動班と、曲作り班と、部員募集班の3つに分かれて行動をしてもらって良い?」
響紀「分かりました」
嶺二「響紀ちゃんは俺と雪音ちゃんと一緒に生徒会選挙の準備な」
響紀「はい」
雪音「私も?」
嶺二「雪音ちゃんもだ」
雪音「そう、お手柔らかによろしくね」
嶺二「(小声で)それは俺が言うべきセリフだぞ・・・」
響紀「私は曲作りに参加しなくて良いんですか?」
菜摘「うん、今は選挙活動を第一にお願い」
響紀「(頷き)了解です」
菜摘「こちら側で勝手に決めちゃったんだけど、曲作り班は私と汐莉ちゃんで大丈夫かな」
汐莉「作詞は私と菜摘先輩の二人でもいけますが・・・(少し間を開けて)作曲は・・・自信ないです・・・」
鳴海「だったら永山と奥野も曲作り班に入れないか?部員募集は俺だけでも出来るし」
菜摘「鳴海くん一人で四人も集められるの?」
鳴海「よ、四人は無理かもしれねえけど・・・一人か二人くらいならいけるだろ」
菜摘「鳴海くん、あと最低四人を集めなきゃ文芸部は廃部になっちゃうんだからね?分かってる?」
鳴海「わ、分かってるけどよ・・・曲作り班に人が足りねえなら、永山か奥野をそっちに入れるしかねえだろ」
菜摘「それじゃあ文芸部は廃部だ」
鳴海「おい、そんな決めつけるなよ」
全員が鳴海のことを見ている
菜摘「鳴海くん一人じゃ四人も集められない・・・私の時みたいに、誰かが協力しないと・・・」
鳴海「手伝ってくれる奴くらいその辺にいるさ」
菜摘「誰?その辺にいる手伝ってくれる人って」
少しの沈黙が流れる
菜摘「部員を集めるのって鳴海くんが思ってるよりも大変だよ。失敗したら廃部に・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮ってイライラしながら)分かった分かった!!一人でやんなって言うならそうするよ!!」
再び沈黙が流れる
変わらず全員が鳴海のことを見ている
嶺二「(鳴海のことを見たまま深くため息を吐いて)あーあ、こういう時に明日香か千春ちゃんがいてくれたらなー」
鳴海「いない奴のことをいちいち口に出すなよ!!」
嶺二「馬鹿か鳴海は。いねーからこそ、口に出してやらなきゃ可哀想だろ」
鳴海「(小声でボソッと)クソが」
汐莉「鳴海先輩」
鳴海「(イライラしながら)なんだよ?」
汐莉「スイートメロンパンが食べたい、では?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(小声でボソッと)スイートメロンパンが・・・食べたい・・・」
嶺二「よっしゃ、丸く収まったな。(汐莉に向けて右手の親指を立てて)ナイスだぜ汐莉ちゃん」
汐莉「(嶺二に向けて右手の親指を立てて)どうも」
鳴海のことを見るのをやめる菜摘、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
鳴海「結局曲作り班はどうするんだよ・・・」
菜摘「うーん・・・」
嶺二「菜摘ちゃん、一つ提案していいか?」
菜摘「何?」
嶺二「俺、波音物語に詳しい奴が曲作りに関わるべきだと思うんだ」
菜摘「うん」
嶺二「(雪音を指差して大きな声で)だから雪音ちゃん!!!君は選挙活動班を抜けて曲作り班で活躍するんだ!!!」
雪音「えっ?」
嶺二「(雪音を指差したまま大きな声で)そもそも波音物語を教えてくれたのは雪音ちゃんのシスターじゃないか!!!
雪音「あ、うん。そうだけど」
嶺二「(雪音を指差したまま大きな声で)波音物語を熟読している雪音ちゃんこそ!!!曲作りに必要だろ!!!」
再び沈黙が流れる
雪音を指さすのをやめる嶺二
雪音「選挙活動は?」
嶺二「心配は無用だ雪音ちゃん。僕と響紀ちゃんが完璧に終わらせる」
鳴海「お前が終わらせるって言うと、自分の企画を自分で殺した感が半端ないな」
汐莉「確かに」
嶺二「作戦を完遂させるのは俺だ。つまり俺が作戦を終わらせるってわけ。理解したか?」
鳴海「いや、理解しかねる」
嶺二「この際馬鹿な鳴海は話から省こう。菜摘ちゃん、心の広い菜摘ちゃんなら俺の提案が理解出来るだろ?」
菜摘「まあ・・・理解は出来たけど・・・でも選挙活動を二人でってのはちょっと・・・」
嶺二「そう言うのも分かるが、俺にはとっておきの秘密兵器があるんだよ」
菜摘「何?秘密兵器って」
嶺二「そ、それはまだ秘密だ」
鳴海「なんで言えないんだよ?」
嶺二「ひ、秘密兵器は秘密にしとくもんだろ」
詩穂「響紀くん、秘密兵器って何なの?」
響紀「知らない」
汐莉「秘密兵器なんて本当は存在してないのでは」
鳴海「なるほど、ただの嘘ってことか」
汐莉「はい」
嶺二「い、いや!!ほんとに秘密兵器はあるんだ!!た、ただ・・・この場では言えないっつうか・・・」
鳴海「見苦しい言い訳はよせ嶺二」
嶺二「い、言い訳じゃねえよ!!」
少しの沈黙が流れる
真彩「曲作りは、選挙が終わってから汐莉以外の軽音部員も手伝うってことじゃダメっすかね」
菜摘「あ、それが良いかも」
嶺二「お、俺の提案はどうなったんだ・・・?」
鳴海「秘密兵器がない時点でその話は終わったんだよ」
嶺二「(小声で)い、言っとくけどマジで秘密兵器はあるんだからな・・・知らぬが仏だ・・・お前らは呑気にやりやがれ・・・」
菜摘「きっと選挙が終われば各自の役割も変わって来るだろうし、曲のブラッシュアップは後にしようか」
鳴海「そうだな・・・」
雪音「軽音部って、全員作曲出来るの?」
汐莉「いえ、私と響紀しか出来ません」
菜摘「えっ、詩穂ちゃんと真彩ちゃんは?」
真彩「きょ、曲を聞いて感想を言うことくらいならいけるっす!!」
詩穂「感想というか、文句?」
再び沈黙が流れる
鳴海「結局響紀頼りになるじゃねえか・・・」
響紀「私より汐莉の方が有能ですよ」
汐莉のことを見る鳴海
汐莉と目が合う鳴海
菜摘、嶺二、雪音、響紀、詩穂、真彩も汐莉のことを見る
響紀「(汐莉のことを見たまま)汐莉、いけるよね?」
汐莉「(鳴海から顔を逸らし響紀のことを見て)え・・・?」
響紀「(汐莉のことを見たまま)作詞作曲は汐莉に任せて良い?」
汐莉と響紀の目と目が合っている
響紀と目があったまま汐莉は頷く
汐莉は響紀から顔を逸らす
菜摘のことを見る汐莉
汐莉「(菜摘のことを見たまま)菜摘先輩、曲作りは私たちだけで大丈夫です」
菜摘「ほんとに?」
汐莉「(菜摘のことを見たまま)はい」
鳴海「汐莉・・・お前を頼って良いのか・・・」
汐莉「(頷き)むしろどんどん頼ってください。先輩に仕えるのが後輩の役目ですから」
鳴海は何か言おうとするが、黙る
鳴海「分かった・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「じゃあ今後の部活は班行動で決まりだね!!」
鳴海「ああ・・・」
嶺二「とりあえず今日の議題はほぼ終わったな、後は配役の発表だけだぜ。菜摘ちゃん」
菜摘「うん・・・(少し間を開けて)明日香ちゃんがいないのが残念だけど・・・」
立ち上がり黒板に向かう菜摘
菜摘は赤色のチョークを手に取る
座っていた鳴海、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩が椅子を黒板に向ける
菜摘は赤色のチョークで黒板に白瀬 波音と書く
菜摘はその下に、赤色のチョークで早乙女 菜摘と書く
菜摘は白瀬 波音の隣に続けて、赤色のチョークで凛と書く
菜摘はその下に、赤色のチョークで南 汐莉と書く
赤色のチョークを置き、青色のチョークを手に取る菜摘
菜摘は凛の隣に続けて、青色のチョークで佐田 奈緒衛と書く
菜摘はその下に、青色のチョークで貴志 鳴海と書く
青色のチョークを置き、白色のチョークを手に取る菜摘
菜摘は佐田 奈緒衛の隣に続けて、白色のチョークでナレーションと書く
菜摘はその下に、白色のチョークで天城 明日香と書く
菜摘はナレーションの隣に続けて、その他と書く
菜摘はその下に、白色のチョークで?と書く
菜摘は白色のチョークを置き、手についたチョークの粉を落とす
嶺二「(黒板を見ながら)ん?俺の役が無くね?気のせいか?」
鳴海「(黒板を見ながら呆れて)なんで自分の役があると思ってるんだお前は・・・」
嶺二「(大きな声で)どーして鳴海なんだよ!!!俺でも良ーだろ!!!」
鳴海「嶺二じゃダメだ。主役の器がない」
少しの沈黙が流れる
嶺二「今のは傷ついた。本当に傷ついた。心がぶっ飛んだ」
鳴海「(小声でボソッと)勝手にぶっ飛んでろ」
嶺二「あー・・・立ち直れないわー・・・あまりのショックで死んじゃうかもしれないー・・・」
詩穂「嶺二先輩って重過ぎて結婚出来なかったOLみたい」
鳴海「例えが絶妙過ぎるな・・・」
嶺二「せめて俺にも役を・・・」
菜摘「なら嶺二くん、その他をやる?」
嶺二「その他って・・・菜摘ちゃん・・・俺、木Bとか、岩Eの役なんかやりたくねーよ・・・」
鳴海「(呆れながら)朗読劇とお遊戯会を一緒にするんじゃねえ・・・」
菜摘「嶺二くん、その他も出番自体はかなり多いと思うよ。嶺二くんがどうしても嫌なら、響紀ちゃんたちに頼んでも良いけど・・・」
真彩「(驚いて)ま、マジっすか!?!?」
菜摘「うん」
雪音「その他って男役だよね?」
菜摘「そうだよ」
真彩「あ、なら響紀がやれば良いじゃん」
響紀「何故に私が」
真彩「だって男役だよ?」
響紀「それが何?」
真彩「男役と言えば響紀じゃん!!」
響紀「男役でも無理。一時間ステージの上で字を読み続けるだけとか、私痙攣を起こしますよ」
鳴海「響紀、落ち着きが無さそうだもんな・・・」
響紀「静より道、うどんよりもラーメン、犬や猫ではなく熊を選ぶのが私です」
鳴海「(呆れながら)分かりやすい説明どうも・・・」
雪音「明智光秀の役なら、良い人知ってるよ」
菜摘「誰?」
雪音「双葉篤志」
再び沈黙が流れる
嶺二「文芸部員でもなければ、軽音部員でもない奴を推薦するんじゃねーよ」
雪音「嶺二、知らないんだ」
嶺二「(イライラしながら)あ?」
雪音「彼の血筋」
菜摘「ち、血筋って・・・?」
雪音「双葉は明智光秀の遠縁あたるの」
菜摘「(驚いて)えっ!?と、遠縁!?」
頷く雪音
真彩「先祖が明智光秀とかめっちゃかっけえ〜!!!」
少しの沈黙が流れる
雪音「何?嘘だと思ってる?疑うなら本人に確認してみたら?」
再び沈黙が流れる
鳴海「明智光秀は嶺二がやればいい」
雪音「なんで?」
鳴海「文芸部に部外者は必要ないからだ」
雪音「人手不足なのに?」
嶺二「あんなカス野郎の協力を得るくらいなら死んだ方がマシだな」
鳴海「ああ」
雪音「あー・・・そういえば二人は、一年生の時に双葉と喧嘩してるんだっけ?確かそれで謹慎処分になったんだよね?」
舌打ちをする嶺二
菜摘「(慌てて)ほ、他の役はまた後で考えよう!!とりあえずメインキャラクターの配役が決まったんだから、今はそれで・・・」
汐莉「(菜摘の話を遮り大きな声で)ま、待ってください!!!!」
全員が汐莉のことを見る
菜摘「な、何?汐莉ちゃん」
汐莉「(恐る恐る黒板を指差して)こ、黒板に・・・私の名前が書いてあるんですけど・・・」
菜摘「(不思議そうに)それがどうかしたの?」
汐莉「り、凛は私がやるんですか・・・?」
菜摘「うん」
少しの沈黙が流れる
汐莉「ど、どうして私なんです?前回は朗読してないのに」
菜摘「汐莉ちゃんと凛ちゃんって、なんか合いそうだから」
汐莉「そうですかね・・・」
嶺二「俺も、汐莉ちゃんは凛で良いと思うぜ、完璧なキャスティングだしさ」
菜摘「(頷き)うん、ピッタリだよ」
汐莉「あ、あんまり期待されるのは困ります」
雪音「でも私がやるより良いでしょ?」
汐莉「そうですか?雪音先輩がやっても良いと思うんですけど・・・」
雪音「(首を横に振り)私は凛の器じゃないから」
再び沈黙が流れる
鳴海「南、お前がやってくれよ」
汐莉「で、でも鳴海先輩・・・」
鳴海「南が凛なら、俺たち的にも助かるんだ」
汐莉「そ、そこまで言うなら・・・分かりました・・・(少し間を開けて小さな声で)頑張ります・・・」
菜摘「良かった!メインキャラクターはこれで決定!ナレーションは明日香ちゃんにお願いするとして・・・」
嶺二「また明日香か・・・断られねえよな・・・」
詩穂「激怒したりして」
真彩「え〜!!!もう怒られたくないんだけどな〜・・・」
嶺二「今までの経験則上、あいつが怒らなかったことの方が少ないぞ」
真彩「マジかぁ・・・やだなぁ・・・」
嶺二「怒っても別に怖くないし良くね?」
真彩「いや怖いっすよ!!!」
菜摘「大丈夫だよ二人とも。明日香ちゃんは怒っても絶対に戻って来てくれるから」
響紀「はい!!!それに怒った時の明日香ちゃんは可愛い!!!」
嶺二「可愛くねーだろ。むしろうぜえ」
響紀「我が明日香ちゃんに何てことを言うんですか!!!明日香ちゃんは可愛いの塊から生まれて・・・」
鳴海はチラッと汐莉のことを見る
鳴海「(声 モノローグ)何が、俺たち的にも助かるだ・・・菜摘のために、文芸部のためになんて言ってるが、どう見たって一番役に立ってないのは俺じゃないか・・・」
◯553帰路(放課後/夕方)
小雨が降っている
帰り道、傘をさしながら一緒に帰っている鳴海と菜摘
部活帰りの学生がたくさんいる
菜摘「鳴海くんは知ってた?双葉くんと明智光秀の関係」
鳴海「いや・・・」
菜摘「魂って凄いんだね。時代が変わっても、その人の意志は残り続けるんだ」
鳴海「死んだら何もかもそこで終わりだけどな・・・」
菜摘「そんなことない、そんなことないよ鳴海くん。たとえ世界が滅亡しても、私たちの魂は絶対に死なない。地球が無くなったら、人は重力から解放されて、きっとまた新しい旅に出るんだ。星や宇宙、地球の中にある自然は、そうやって旅を続けた魂の一つの形なのかもしれないよ」
鳴海「そう・・・だな・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「菜摘、さっきは悪かった」
菜摘「え?何が?」
鳴海「班分けの話の時、言い過ぎたよ」
菜摘「謝るほどきつい言い方はしてなかったのに」
鳴海「いや、そんなことない・・・俺さ、最近腑抜けてるんだ」
菜摘「腑抜けてるって・・・?」
鳴海「みんなに迷惑ばっかかけてるだろ」
菜摘「そうかな?」
鳴海「ああ。役に立ってないし、それどころか部内の空気を悪くしてるんだ」
菜摘「鳴海くん、考え過ぎだよ。鳴海くんは活躍してるし、文芸部も、軽音部も、良い雰囲気じゃん」
鳴海「俺からすれば・・・良い雰囲気とは言えないな・・・」
菜摘「どうして?」
再び沈黙が流れる
鳴海「菜摘・・・」
菜摘「何?」
鳴海「俺、どうしたらお前の役に立てるんだ・・・?」
菜摘「鳴海くん、何言ってるの?」
鳴海「何って・・・俺はお前の役に立ちたくて・・・それで・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)鳴海くんはもう十分、私の役に立ってるよ。だっていっぱい助けてもらってるもん」
鳴海「そんなことねえだろ・・・」
菜摘「ううん。本当は私が鳴海くんに返さなきゃいけないんだ」
鳴海「返すって、何をだよ?」
菜摘「お礼・・・とか・・・愛・・・とか・・・とにかく、貰った物はお返ししなきゃ」
鳴海「も、貰った物はとっておくのが常識だろ」
菜摘「でもお返ししたいの。私の気持ちを、鳴海くんにも味わって欲しいから」
鳴海「なんかくれるって言ってるのか?」
菜摘「うん」
鳴海「菜摘、俺だって大した物はあげてないぞ」
菜摘「そんなことないよ。昔から・・・鳴海くんにはたくさん貰ってるし」
鳴海「そうか・・・?俺が菜摘に買った物といえば、アイリッシュフェスティバルの時のキーホルダーくらいだろ?」
菜摘「あれは物でしょ?」
鳴海「え、ああ・・・貰ったもんって、物理的な物じゃねえのか・・・」
菜摘「鳴海くん、本当に良いものは、記憶や心にまで残り続けるんだよ」
鳴海「それはそうだな」
菜摘「私も、鳴海くんに一生残る物をあげるね」
鳴海「菜摘、一生ってのはそんな簡単じゃないぞ」
菜摘「大丈夫。きっと私なら出来るから」
鳴海「俺は別に・・・菜摘から何か貰いたいって思わねえけどな」
菜摘「えー・・・」
鳴海「俺の願いは菜摘から礼を言われることじゃなくて、菜摘の役に立つことなんだよ」
菜摘「じゃあもう叶ってるね」
鳴海「いや、こんなんじゃ役に立つどころか足を引っ張ってるだけだろ」
菜摘「鳴海くんは自分に多くを求め過ぎだよ。いろんな物事を自分の中で処理しようと必死なんじゃないの?」
鳴海「いけないのか?」
菜摘「人のために鳴海くんが疲れちゃったら意味ないもん」
鳴海「菜摘が疲れ果てるより良いだろ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「そういえば今日鳴海くん、汐莉ちゃんのことを名前で呼んだよね」
鳴海「そうだったか?」
菜摘「うん。はっきり汐莉って」
鳴海「一時的に苗字を忘れたんだな、俺」
菜摘「嶺二くんじゃあるまいし・・・その言い訳は無理があるよ、鳴海くん」
鳴海「普段は南って呼んでるんだぞ」
菜摘「苗字じゃなくて名前で呼んだら良いのに」
鳴海「いや、俺はいい・・・」
菜摘「なんで名前で呼ばないの?」
鳴海「名前で呼ぶほど親しくないだろ」
菜摘「え、じゃあ響紀ちゃんとは親しいってこと?」
鳴海「あ、いや・・・親しくはないが・・・響紀は名前の方が呼びやすいんだよ」
菜摘「そっか・・・(少し間を開けて)鳴海くん、最近汐莉ちゃんとはどう?」
鳴海「ど、どうって?」
菜摘「この前、一緒に部員募集の紙を貼ったでしょ?あれ、わざと鳴海くんと汐莉ちゃんをペアにしたんだよ」
鳴海「な、何のために俺と南を一緒にしたんだ・・・」
菜摘「だって汐莉ちゃんって、文芸部の中だと一番鳴海くんを慕ってない?」
鳴海「そんなこともないと思うけどな・・・」
菜摘「そう?でも、汐莉ちゃんが泣いちゃった時も鳴海くんが慰めてくれたし、良い関係を築いてるように見えるよ」
鳴海「仲良しに見えるってことか」
菜摘「うん」
鳴海「仲・・・良くはないと思うぞ・・・」
菜摘「(驚いて)そ、そうなの!?」
鳴海「ああ・・・多分嫌われてるし・・・」
菜摘「えぇ!?どうして!?」
鳴海は傘から手を出し、雨が降ってるか確認をする
雨は止んでいる
傘を畳む鳴海
鳴海「雨、止んでるぞ」
菜摘「あ、ほんとだ」
傘を畳む菜摘
鳴海「南が慕ってるのは、俺より菜摘だろ」
菜摘「そうかな・・・(少し間を開けて)汐莉ちゃんの負担になってないと良いけど・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「ねえ鳴海くん」
鳴海「ん?」
菜摘「汐莉ちゃん、何か抱え込んでるように見えない?」
鳴海「そ、そうか?」
菜摘「私だけなのかな・・・汐莉ちゃんが苦しんでるような気がするのは・・・」
俯く菜摘
鳴海は菜摘に何か声をかけようとするが、黙る
菜摘「(俯いたまま)あのさ、鳴海くん」
鳴海「あ、ああ。どうした?」
菜摘「汐莉ちゃんって・・・もしかしてだけど・・・」
菜摘は俯いたまま黙り続ける
鳴海「み、南が何だよ?菜摘、最後まで言ってくれ」
顔を上げる菜摘
再び沈黙が流れる
菜摘「ぶ、文芸部のことが嫌いだったり・・・して・・・」
鳴海「さ、さすがに文芸部そのものが嫌いだったら、ちょっとは態度に出るだろ」
菜摘「だ、だよね・・・」
鳴海「というか、意外とあいつは顔の表情や態度に気持ちが出るタイプだぞ」
菜摘「そうなんだ・・・じゃあ人の好き嫌いも・・・分かるかな・・・」
鳴海「(声 モノローグ)また余計なことを言った・・・これでは菜摘に南の気持ちが悟られてしまう・・・あいつが隠してることは・・・俺も隠さないと・・・」
鳴海「で、でもよ菜摘、あんまり探ると汐莉も・・・じゃなくて南は・・・」
菜摘「わざわざ言い換えなくても良いのに」
鳴海「と、とにかくだ、探り過ぎると俺たちのイメージダウンになるだろ」
菜摘「うん・・・そうだね・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(声 モノローグ)後味の悪い部活帰りだった。お互いに悪意のないことは分かっていたが、それがまた、少なからずこの場の空気を重くしている。結局、菜摘の言った良い雰囲気とは、俺を慰めようとして出た嘘かもしれない」
◯554貴志家鳴海の自室(深夜)
片付いている鳴海の部屋
机に向かって椅子に座っている鳴海
机の上には菜摘とのツーショット写真、朗読劇用の波音物語、原作の文庫本波音物語、汚い字で波音物語と書かれたノート、エナジードリンクが置いてある
原作の波音物語をパラパラとめくっている鳴海
鳴海「(原作の波音物語をパラパラとめくりながら)ヒント無しか・・・そりゃそうだよな・・・何を期待してるんだか俺は・・・」
原作の波音物語を閉じる鳴海
鳴海「(声 モノローグ)俺は波音物語の中に、今の状況が良くなるような魔法の言葉が書かれていると勝手に信じ込んでいた。意志が時代を越えるのなら、この本に何か隠されていても不思議じゃない。波音物語に隠されたあるはずのない暗号を探し出すために、斜め読みから、一文字飛ばし読みなど、俺はありとあらゆる手段を用いて白瀬波音の手記を読み込んだ。きっと何かある、絶対に何かある。波音は未来に何か残してくれたはずだ・・・」
エナジードリンクを一口飲む鳴海
鳴海「(声 モノローグ)寝る間も惜しんでの行動だったが、結果は空振りに終わった。俺のひと時の休み・・・つまるところ貴重な睡眠時間は、活字と引き換えに消え去り、目の下に出来た大きなクマだけが戦果となったのだ。勘違いとは恐ろしく惨めである」
朗読劇用の波音物語を手に取りパラパラとめくる鳴海
鳴海「(朗読劇用の波音物語をパラパラとめくりながら 声 モノローグ)波音物語から得られる情報は、長い文章とは不釣り合いなほど少なかった。白瀬波音の半生・・・死の直前までを描いたこの手記は、当時の文化を知るのにはちょうど良いかもしれないが、はっきり言って現代人の生活の知恵にはならない。そもそも、なんで俺は波音物語を読み込んでいるんだろう。今文芸部が・・・いや、俺自身が直面している問題を、本一冊で解決出来るわけがないのに」
朗読劇用の波音物語を閉じる鳴海
鳴海「(声 モノローグ)波音物語に何かとんでもない秘密があるのなら、とっくに菜摘は気づいているだろう。この本に惚れているのは菜摘だ。あいつにしか分からないことがあるかもしれない・・・」
再びエナジードリンクを一口飲む鳴海
鳴海「(声 モノローグ)そういえば、一条も波音物語を熟読しているのか・・・思い返せば、波音物語を勧めたのもあいつのお姉さんだった。一条姉妹を虜にするなんて、大した本だな・・・」
突然、閉じてあったはずの朗読劇用の波音物語が一ページめくれる
鳴海は振り返る
部屋には鳴海以外誰もいない
鳴海の部屋のカーテンが揺れている
鳴海は立ち上がり、窓が開いているか確認をする
窓は完全に閉まっている
鳴海「心霊現象かよ・・・」
窓を開ける鳴海
鳴海「(外を見ながら 声 モノローグ)たった一枚の紙がめくれ、カーテンが少し揺れただけだったが、邪気のない人の気配を感じた。またしても俺の勘違いで、勝手に人だと信じ込んでいるだけかもしれないが・・・(少し間を開けて)小さい頃、お父さんとお母さんは天国に行ったんだよと、周りからしょっちゅう言われた。俺が天国の場所を尋ねると、相手は決まって空だと答える。姿形を失った魂は、天国という名の空に帰ったと言いたいんだろうが、俺からすれば空に行くのではなく、姿形がなくても、地上に留まって同じ空を見上げてくれている方が嬉しかった。(少し間を開けて)500年前、確かに白瀬波音はこの地で暮らし、人々に愛され、俺と同じように空を見上げては、思いを馳せただろう」
夜空を見上げる鳴海
曇り空から月がかすかに見える
鳴海「(夜空を見上げながら)俺にはまだ、波音から貰ったものがいっぱい残ってる。(窓の外に手を伸ばして)愛に吸い込まれそうだよ、俺。寂しいな・・・」
鳴海の瞳から涙が溢れる