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Chapter6生徒会選挙編♯3 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・






老人の回想に登場する人物


中年期の老人 男子

兵士時代の老人。


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。


アイヴァン・ヴォリフスキー 男子

ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。


両手足が潰れたロシア兵 男子

重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。

Chapter6生徒会選挙編♯3 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯477波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)

 朝のHRの前の時間

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音が教室の窓際で話をしている


菜摘「そういや鳴海くん、今日私たち面談だよ」

鳴海「へっ?なぜ面談?」

明日香「あんた、進路未決定者でしょ」

鳴海「それはそうだが・・・でもお前らだって、受験先が決まってる程度だろ?」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「わりーな鳴海。俺一抜けしたわ」

鳴海「一抜け?どういう意味だ?」

雪音「嶺二の推薦、学校がOK出したんだって」

嶺二「すげーだろ、俺だってやるときはやる男なんだぜ?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(動揺しながら)こ、こいつが推薦・・・?あ、あり得ねえだろ・・・そんなこと・・・」

明日香「(首を何度も縦に振りながら)私もそう思う」

嶺二「お前らそれが親友にかける言葉かよ!!」

鳴海「(動揺しながら)いやだって・・・あまりに現実味がないと言いますか・・・」

菜摘「嶺二くんがいけたってことは、鳴海くんも推薦貰えた可能性があるよね」

鳴海「確かに・・・」

嶺二「鳴海、早めにどっか決めといた方がいいぞ。推薦の場合は枠に限りがあるんだしよ」

鳴海「あ、ああ・・・そうだな・・・」

明日香「鳴海も嶺二と同じ専門にしたら?」

鳴海「いや・・・それは・・・」

嶺二「鳴海が菜摘ちゃんを置いて上京するわけねーだろ」

明日香「あー・・・それもそっか・・・」

菜摘「私は別に鳴海くんが上京しても・・・」

鳴海「おい」

菜摘「ん?」

鳴海「俺が東京に行くんだったら、菜摘も一緒に連れて行くぞ」

菜摘「え、ええ!?私も!?」


 頷く鳴海


明日香「もうあんたら駆け落ちしたら?」

嶺二「それめっちゃ名案」

鳴海「(小声でボソッと)どこが名案なんだ・・・」

菜摘「もう私たち駆け落ちする?鳴海くん」

鳴海「(呆れながら)菜摘まで何を言ってるんだか・・・」

菜摘「鳴海くんが駆け落ちしたいって言うなら、私は鳴海くんの人質になるよ」

鳴海「俺が借金をしまくってヤクザに追われない限りにそんな展開はない、絶対にない」

菜摘「じゃあ進学か就職だね、それとも上京?」

鳴海「さあな・・・絶賛考え中だ」

雪音「駆け落ちと上京はやめた方がいいと思う」

鳴海「んなことはわかっとるわ。(少し間を開けて)面談って・・・俺と菜摘だけなのか?」

菜摘「ううん、雪音ちゃんも一緒だよ」

鳴海「なるほど・・・一条もか・・・」


 鳴海に笑顔を見せる雪音


鳴海「文芸部内に進路未決定三銃士が出来ちまったわけだな・・・」

明日香「鳴海、力だけは有り余ってるんだし、自衛隊にでも入れば?」

嶺二「何かあったら鳴海が犠牲になって、俺たちは助かると。悪くねーな」

鳴海「何で俺がお前らのために犠牲にならなきゃいけねえんだ」

雪音「市民を守るのが自衛官の仕事でしょ」

明日香「鳴海二等兵かぁー。ちょっと面白いかも」

鳴海「(小声でボソッと)面白くねえよ」

菜摘「そんな適当に自衛隊を勧めるのはちょっと・・・」

鳴海「全くだ」


 腕を組む明日香

 少しの沈黙が流れる

 明日香を見る鳴海


鳴海「(明日香を見ながら)何か言いたそうだな」

明日香「(腕を組んだまま)別に・・・どうするのかなって思って」

鳴海「知らん」


 再び沈黙が流れる

 腕を組んだまま鳴海を睨む明日香


鳴海「睨むなよ・・・俺だって考えてるんだから・・・」


◯478波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 校庭では運動部が活動している

 教室の隅にパソコン六台とプリンターが一台ある

 部室にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音

 円の形を作って座っている文芸部員たち


明日香「朗読劇と生徒会選挙のことはまた明日?」

菜摘「(頷き)そうだね」

汐莉「すいません・・・」

嶺二「どうして汐莉ちゃんが謝ってんだ?」

汐莉「(小さな声で)私が泣いたせいで・・・昨日は・・・」

鳴海「ほんと、末期花粉症患者は大変だよな」


 少しの沈黙が流れる

 嶺二の背中を思いっきり叩く鳴海


鳴海「(嶺二の背中を思いっきり叩きながら)なっ嶺二!!お前も花粉症だから目に来るだろ!!」

嶺二「えっ?花粉なんかとん・・・」


 鳴海はより強い力で嶺二の背中を何度も叩く


鳴海「(嶺二の背中を思いっきり叩きながら)秋花粉だよ秋花粉!!!この間菜摘もそれで泣いてたよな!!」

菜摘「う、うん!!!嶺二くんも泣いてたよね!!!」

嶺二「(慌てて)そ、そうだった!!!ご、号泣したぜ!!!もう泣き過ぎて逆に健康に・・・」


 汐莉を見た途端黙る嶺二

 俯く汐莉

 再び沈黙が流れる


雪音「何この空気・・・(少し間を開けて)どうしてくれるの鳴海」

鳴海「ど、どうしてくれるのって・・・そりゃあ・・・」


 再び明日香が腕を組み鳴海を睨む


明日香「(腕を組んだまま鳴海を睨んで)どうしてくれるわけ?」

鳴海「えっと・・・そうだな・・・」


 汐莉は変わらず俯いたまま


汐莉「(俯いたまま)気を遣ってくれてありがとうございます・・・鳴海先輩・・・」

鳴海「お、おう!!」


 菜摘が鳴海と汐莉の顔を交互に見る

 明日香は腕を組んだまま呆れている


鳴海「よ、よしっ!!!部誌を作ろう!!」


 少しの沈黙が流れる

 神谷が部室に入って来る


神谷「鳴海、菜摘、雪音、面談をやるぞ」

鳴海「こ、この際三人同時にやるってのもありっすよね」

神谷「そうか・・・鳴海は三人同時に面談が出来ると思ってるのか・・・」

鳴海「い、今の冗談っすよ先生」

神谷「君は一年生の時からこうだ、困ったらすぐ適当なことを言って逃げる」

鳴海「逃げることも大事だと思ってるんで・・・」

神谷「だから面談をすることになったんだよ、まずは鳴海からだ」

鳴海「お、俺からっすか・・・」

神谷「ああ」


 渋々立ち上がる鳴海

 チラッと汐莉の顔を見る鳴海

 汐莉はまだ俯いている


◯479波音高校三年三組の教室(放課後/夕方)

 教室で鳴海と神谷が面談を行っている

 教室の中心で四台の机が長方形の形にされている

 机の上には専門学校や大学の資料が置いてある

 鳴海の成績表を見ている神谷


神谷「(鳴海の成績表を見ながら)一年や二年の頃に比べると、少し頑張ってるようだな」

鳴海「どうも・・・」

神谷「(鳴海の成績表を見たまま)だが・・・」


 鳴海の成績表を鳴海に見えないように、机の中にしまう神谷


神谷「正直、まだ努力が足りないんじゃないかな」

鳴海「はあ」

神谷「まずはそういう態度を改めなさい」

鳴海「何すか、そういう態度って」

神谷「昨日、先生が止めたのに廊下を走り続けたね?」

鳴海「あ、あれは緊急事態で・・・」

神谷「緊急事態?何が緊急事態だったのかな?」


 少しの沈黙が流れる


神谷「まさか一年生を泣かせたんじゃないだろうね?」

鳴海「いや・・・俺は慰めに行っただけっす・・・」

神谷「鳴海は理解してないかもしれないが、下級生とのトラブルは良くないことなんだ。だから良くないことが起きたら、まずは顧問の俺に報告しなさい。先生にとって良くないことは、生徒にとっても最悪だからね」

鳴海「うっす・・・」

神谷「それから、緊急事態の定義だが・・・先生には昨日が緊急事態だったとは思えない」

鳴海「そうっすか?自分が担当してる部活の生徒が泣いてたら、それはそれで緊急事態だと思うんすけど」

 

 突然笑顔になる神谷

 神谷は笑顔のまま微動だにせず、鳴海のことを見ている

 再び沈黙が流れる


鳴海「(立ち上がり)お、俺・・・戻りますね・・・まだやらなきゃいけないことがあるんで」

神谷「(突然動き出し笑顔のまま)そういう態度とはそういう態度のことで、君の悪いところはそういう大人を馬鹿にしたような態度のことだよ。鳴海くん、そういう態度から嶺二より遅れるんだ」


 神谷が突然動き出し喋ったことに驚く鳴海


神谷「(笑顔のまま)それから今何か言ったかな?」

鳴海「(椅子に座り)い、いや・・・何も・・・」

神谷「(笑顔のまま)そうか、なら楽しい面談は再開しよう。確かさっきまで話してたことは・・・そうだそうだ、緊急事態の定義だったね」


 少しの沈黙が流れる


神谷「(笑顔のまま)緊急事態の定義だが・・・先生には昨日が緊急事態だったとは思えない。もう一度言おう、昨日は緊急事態じゃなかったんだ。何故なら、昨日は平和な一日だったからだよ」


 笑顔のまま喋り続ける神谷を引いている鳴海


鳴海「(引きながら)そ、そうなんすね・・・」

神谷「(笑顔のまま)例えば鳴海と菜摘が・・・そうだな、雪山の中にある小屋に閉じ込められたとしよう。外は猛吹雪で、帰ることが出来ない。小屋の中にあるのは一挺の斧だけ。鳴海か、菜摘のどちらか・・・もちろんどちらでも良いが、斧を持って片方を殺そうとする。子供の君にでも理解出来るように説明すると、緊急事態とはそういうことなんだよ。分かるかい?」


 再び沈黙が流れる


神谷「(大きな声で笑いながら)アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!今のは君が大好きな冗談だよ!!大人のブラックユーモアだ!!」

鳴海「冗談とかどうでも良いんで早く面談を進めて欲しいっす」

神谷「なるみぃ、君はもうすぐ大人になるんだろ?だったら少しは、我慢するということを覚えた方が良いぞ」

鳴海「俺、忙しいんで」

神谷「良いから黙って先生の話を聞きなさい。(少し間を開けて)例えば・・・汐莉じゃなくて地球が泣いていたら・・・緊急事態だと先生は思うんだ。地球こそが、人類の母親だからね」

鳴海「(声 モノローグ)意味分かんねえ、さっきから何言ってんだこいつ」

神谷「さて・・・お喋りはこのくらいにして、面談を始めようか」


◯480波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 校庭では運動部が活動している

 パソコンと向かい合って部誌制作を行っている菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音

 教室の隅には一台のパソコンとプリンターがある

 部室に戻ってきた鳴海、神谷


神谷「菜摘、面談をやるぞ」

菜摘「(タイピングをやめて)はい」


 菜摘はパソコンを閉じ、立ち上がる

 鳴海は菜摘の側に行く


鳴海「(菜摘に向けて小声でボソッと)気をつけろ、今日の神谷はいつも以上に頭がおかしい」

菜摘「(小声で)ど、どういうこと?」

鳴海「(小声で)うぜえってことだ」

神谷「雪音には申し訳ないが、もう少し待っててくれ」

雪音「(タイピングしながら)はーい」

神谷「では行こうか、菜摘」

菜摘「(不安そうに)は、はい・・・」


 神谷に連れられて不安そうな菜摘が部室を出て行く

 鳴海は隅にあったパソコンを手に取る

 

嶺二「(タイピングをやめて)面談、えらい長くなかったか?」


 机にパソコンを置く鳴海


鳴海「(椅子に座り)神谷の野郎が意味不明なことをダラダラ喋り続けたせいだ」


 パソコンを立ち上げる鳴海


雪音「(タイピングしながら)怒られた?」

鳴海「まあな」


 パソコンでWordを開く鳴海


鳴海「廊下は走るんじゃねえだとさ」

明日香「(タイピングをやめて)何それ・・・他には何を話したの?」

鳴海「忘れた」

明日香「(驚いて大きな声で)はぁ!?」

鳴海「神谷のイカれた話を真面目に聞いてたらこっちまでイカれちまうだろ。だからとち狂う前に耳を伏せておいたんだ」

嶺二「一体どんな話したんだよ・・・?」

鳴海「地球が泣いたらクソ緊急だとか、俺と菜摘が斧しかない雪山の小屋でクソみたいな殺し合いがクソ緊急事態でクソ何たらとかだよ」


 汐莉と雪音もタイピングを止める 

 全員が鳴海のことを見ている


嶺二「地球が泣いたらクソ?」

明日香「雪山の小屋で殺し合い?」

鳴海「ああ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「嘘だと思ってるのか」


 全員が頷く


鳴海「ニュアンスは違ったかもしれん」

明日香「ニュアンス?全部鳴海が聞き間違えたんじゃないの?」

鳴海「それはない」

嶺二「進路のことは話さなかったのかよ?」

鳴海「話してたかもな」


 顔を見合わせる明日香と嶺二


 時間経過


 パソコンと向かい合ってタイピングをしている菜摘以外の文芸部員たち

 菜摘はまだ面談から戻って来ていない

 鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音は部誌制作を行っている

 タイピングをやめて鳴海のことを見る明日香


明日香「(鳴海に向かって小声で)ねえ」

鳴海「(タイピングしながら)何だ?」

明日香「(小声で)鳴海、最近適当過ぎない?」

鳴海「(タイピングしながら)そうか?」

明日香「(小声で)自覚してよ。進路のことも、汐莉のことも、全部」

鳴海「(タイピングをやめて)何が言いたいのか分からん」

明日香「(小声で)さっきの花粉症・・・あれで汐莉をフォローしたつもり?」


 汐莉のことを見る鳴海

 汐莉は部誌制作に集中している


鳴海「(小声で)ああ」

明日香「(小声で)逆に汐莉に気を使わせたって分かんないの?」

鳴海「(小声で)逆に?」

明日香「(小声で)そう、あんたたちが変に張り切ったせいでしょ」

鳴海「(小声で)そりゃ張り切らないとやってられねえだろ」

明日香「(小声で)だからそういうところが適当なの。泣いてた子を、そう簡単に慰められるって思わないでよ」


 少しの沈黙が流れる


明日香「(小声で)フォローするならちゃんとフォローしなさい。じゃなきゃ汐莉が可哀想でしょ」

鳴海「(小声で)そんな完璧に出来るかよ」

明日香「(小声で)汐莉に気を使わせてるようじゃ、完璧どころか失敗してるんだからね」

鳴海「(小声で)俺の努力が足りないってことか?」

明日香「(小声で)中途半端は傷付くの。そんなことくらい鳴海にも分かるでしょ」

鳴海「(小声で)何もしないよりマシだろ」

明日香「(小声で)だからと言って余計なことをするのは間違ってる」

鳴海「(小声で)黙ってれば良かったって言うのかよ」


 首をゆっくり縦に振る明日香


鳴海「何もしてないお前がよくそんな偉そうな態度を取れるよな」


 嶺二、汐莉、雪音のタイピングが止まる

 三人は鳴海と明日香の方を見る


鳴海「そりゃあ俺は完璧じゃないさ、明日香よりバカだしな」

明日香「勉強出来る出来ないは関係ない、一緒くたにしないで」

鳴海「なら後出しであれこれ文句をつけるなよ」

明日香「鳴海が何も考えずに適当なことばっか言うからじゃん」

鳴海「適当適当うるせえな、俺が何も考えてねえってか?」

明日香「考えずに発言してるから、後輩に気を使わせたんでしょうが」


 再び沈黙が流れる


汐莉「あの、鳴海先輩・・・私は別に・・・」

明日香「ほら!!また!!また汐莉に気を使わせた!!」

鳴海「それが何だよ!?何の問題があるんだよ!?」


 徐々に鳴海と明日香の声が大きくなる


明日香「開き直るの?自分から汐莉のことを慰めようとして、それが失敗したら開き直るってわけ?適当だから?」

鳴海「気を使わせて悪かったよ南!!俺も!!菜摘も!!嶺二も!!花粉症って言ってお前のことを慰めようとして失敗したんだ!!悪かったな!!!これでいいか!?!?謝ったぞ!!!満足か!?」

明日香「汐莉に八つ当たりしてどうすんのよ!!」

鳴海「明日香が南に八つ当たりするように仕向けたんだろ!!!」

汐莉「先輩・・・わた・・・」

鳴海「(汐莉を指差して大きな声で)気を使いたくなきゃ南は口を出さないでくれ!!!」


 鳴海の大きな声に驚き黙る汐莉


明日香「汐莉を慰めようとして、失敗して、挙句汐莉にキレるんだ。へえ、そっちこそずいぶん偉そうじゃない?」

鳴海「(大きな声で)お前よりマシだ!!!少なくとも俺は文句を言ったりしないからな!!!」

明日香「(大きな声で)なら文句が出ないような部活を作ったら!?!?あんたが副部長なんでしょ!!!」

鳴海「(大きな声で)それを今全力でやってるんだよ!!!!菜摘に迷惑をかけまいとお前らのために必死にやってんだよ!!!!」

嶺二「鳴海、明日香、ここはお互いの話を・・・」

明日香「(嶺二の話を遮って大きな声で)愛するの菜摘のためにね!!!!菜摘がいなきゃ何も出来ないくせに!!!!」

鳴海「(大きな声で)菜摘はお前みたいに後出ししないから楽だけどな!!!!」

明日香「(大きな声で)そう!!!!鳴海は菜摘の話しか聞かない!!!!私たちが忠告したって全部それを無視!!!!でもその後に待ってるのは後悔だけでしょ!!!!もうただのバカじゃん!!!!あんたが私たちのためにも行動しても上手くいくわけない!!!!だって鳴海は人の話を聞かないバカだから!!!!」

鳴海「(明日香に詰め寄り怒鳴り声で)違うね!!!!お前は俺をコントロールしたいだけだ!!!!この三年間!!!!明日香は俺と嶺二のことをコントロールしようとしてる!!!!俺たちを自分の支配下に置きたいんだろお前は!!!!何が忠告だよ!!!!クソみたいな文句だけを言いやがって!!!!」


 涙目になっている明日香


鳴海「(怒鳴り声で)毎朝毎朝毎朝ああしろこうしろあれやれこれやれってよく好き放題言ってたよな!!!!ああ良かった!!!!お前との関係も波高の卒業で終わりだ!!!!これでやっと自由になれるよ!!!!専門学校でも誰かをコントロールすれば良い!!!!保育士になったら子供たちを支配するんだな!!!!そうやってお前は嫌われ続けろ!!!!明日香は自分より頭の弱い奴に対して偉ぶりたいだけのクソ野郎だ!!!!」


 涙を流す明日香

 嶺二、汐莉、雪音は呆然としている

 明日香はパソコンを閉じ、カバンを持って泣きながら部室を出て行く

 少しの沈黙が流れる

 鳴海はパソコンのマウスを壁に投げつける

 びっくりする汐莉

 マウスが粉々に砕け、プラスチックの破片があちこちに飛び散る


鳴海「(大きな声で)クソッ!!!!」


 嶺二がゆっくり歩いて鳴海の側に行く

 嶺二は右手を鳴海の右肩に乗せる

 嶺二は鳴海と肩を組んでるような状態


鳴海「何も言うな・・・」

嶺二「(左手を鳴海の右肩に乗せたまま)そいつは無理な相談だな」

鳴海「頼むから・・・何も言わないでくれ・・・」

嶺二「(左手を鳴海の右肩に乗せたまま)まっ、別に俺は、親友の鳴海と親友の明日香が喧嘩しよーが1ミリも関係ねーし、ぜんっぜん気にしねーけど・・・鳴海が明日香と汐莉ちゃんに謝るつもりがねーんだったら、お前の顔面を今すぐボコボコにするぜ?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「すまない・・・」

嶺二「(左手を鳴海の右肩に乗せたまま)俺に謝ってどーすんだよ。謝らなきゃいけねー相手くらい間違えんなボケ」

鳴海「あ、ああ・・・」


 鳴海は汐莉のことを見る

 嶺二は鳴海の背中を叩き、汐莉の方へ押し出す 鳴海は何か言おうとして口を開くが、一度黙る

 

鳴海「や、八つ当たりして悪かった・・・すまない」

汐莉「はい・・・」

鳴海「ほんとは・・・(少し間を開けて)昨日のことをフォローしたかったんだ・・・」

汐莉「花粉症でですか・・・」


 頷く鳴海


汐莉「さすがに・・・花粉症じゃちょっと無理があると思います・・・」

鳴海「すまん・・・本当にすまん・・・」


 再び沈黙が流れる

 粉々になったマウスを拾い集める雪音


雪音「(粉々になったマウスを鳴海に見せて)これどうするの?」

鳴海「弁償するよ・・・」


 雪音は粉々になったマウスを教室のゴミ箱に捨てる

 鳴海は椅子に座り、俯く

 少しすると神谷と菜摘が部室に戻ってくる


神谷「雪音、待たせたな」

雪音「はい」


 神谷と雪音が部室を出て行く

 椅子に座る菜摘


菜摘「なんかみんな元気無くない?どうかしたの?」


 嶺二が俯いた鳴海を指差す

 俯いた鳴海のことを見る菜摘

 俯いた鳴海の側に行く菜摘


菜摘「鳴海くん?大丈夫?」


 俯いたまま首を横に振る鳴海

 汐莉と嶺二のことを見る菜摘

 肩をすくめ、首を横に振る嶺二


鳴海「(俯いたまま)明日香に・・・ブチギレちまった・・・」

菜摘「えっ、明日香ちゃんに?どうして?」

鳴海「(俯いたまま)花粉と俺のせいだ・・・」

菜摘「花粉と鳴海くん・・・?鼻水が止まらなくて怒っちゃったの?」

鳴海「(俯いたまま)違う・・・」

汐莉「花粉じゃなくて花粉症のせいです・・・」

嶺二「ああ。花粉症のせいだな」

菜摘「保健室に行く?鳴海くん」


 俯いたまま再び首を横に振る鳴海


鳴海「(俯いたまま)言い過ぎたんだ・・・」

嶺二「(頷き)ああ。言い過ぎたせいもあるな」

菜摘「喧嘩でもしたの?」


 俯いたまま首を縦に振る鳴海


鳴海「(俯いたまま)全部俺のせいだ・・・」

嶺二「(首を何度も縦に振り)ああ。全部鳴海のせいだな」

菜摘「ちゃんと明日香ちゃんに謝ったよね?」

鳴海「(俯いたまま)いや・・・」

菜摘「ええ!?何で謝らなかったの!?」

鳴海「(俯いたまま)泣きながら出て行っちまって・・・」

菜摘「追いかけなきゃダメじゃん!!!」

嶺二「(首を何度も縦に振り)ああ。追いかけなきゃダメだな」

汐莉「お、追いかけられるような状況じゃなかったと思います・・・」

鳴海「(俯いたまま)南・・・そんなことで気を使わないでくれ・・・」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「すいません・・・(かなり間を開けて)やっぱ鳴海先輩は明日香先輩を追いかけるべきでした・・・」

鳴海「(俯いたまま)ああ・・・分かってる・・・」

菜摘「そんなに激しく喧嘩をしたの?」


 俯いたまま首を縦に振る鳴海


嶺二「教室の窓ガラスが割れそうな勢いで喧嘩してたぜ」

菜摘「(驚いて)な、殴り合ったってこと!?」

鳴海「(俯いたまま)殴り合ってはない・・・」

雪音「それと実際に割れたのはマウスだけ」

菜摘「そ、そっか・・・良かった・・・」

汐莉「全然良くはないですけどね・・・マウスは買い換えられても、明日香先輩の心は買い替えられませんし・・・」

嶺二「(首を何度も縦に振り)ああ。全然良くはないな。つか最悪だ」

鳴海「(俯いたまま)本当にすまない・・・」


◯481せせらぎ公園(放課後/夜)

 公園にいる鳴海と菜摘

 二人はブランコに乗りながら話をしている 

 公園の時計は7時前を指している

 公園には鳴海と菜摘しかいない


菜摘「面談?進路とか、学校生活のことについて喋っただけだったよ」

鳴海「そうか・・・」

菜摘「鳴海くんはどんなことを喋ったの?」

鳴海「緊急事態のこととか・・・進路のこととか・・・廊下は走るなとか・・・学校生活のこととか・・・まあ、色々と・・・」

菜摘「何か良い道はありそう?」

鳴海「いや・・・正直今は進路どころじゃない・・・」

菜摘「明日香ちゃんと喧嘩中だもんね・・・」

鳴海「ああ・・・」

菜摘「鳴海くんと明日香ちゃんは喧嘩しないのかと思ってたよ」

鳴海「俺もそう思ってたけど、今回ばかりは爆発しちまった・・・」

菜摘「土下座でもするの?」

鳴海「土下座はダメだ。ふざけてるのかと思われる」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「朗読劇・・・生徒会選挙・・・進路のことに、南や千春の件まで入ってきて頭が混乱して来てるのかもな、俺・・・」

菜摘「千春ちゃんの件って?」

鳴海「(慌てて)あっ・・・いや・・・その・・・な、何でもないんだ!!うん!!何でもない!!」

菜摘「隠さないで教えてよ鳴海くん」


 菜摘に千春ことを打ち明けようか悩む鳴海


鳴海「じ、実は・・・(かなりを間を開けて)千春と思しき人物を見たというか・・・」

菜摘「(驚いて)えっ!?いつ!?」

鳴海「き、昨日・・・」

菜摘「あっ、分かった!数学の授業でしょ!」

鳴海「バレたか・・・」

菜摘「鳴海くんがUFOなんか見に行くわけないもん」

鳴海「だ、だよな・・・俺もそう思う・・・」

菜摘「鳴海くん、本当に千春ちゃんを見たの?」

鳴海「見たというか・・・(少し間を開けて)聞いたというか・・・」

菜摘「聞いた?千春ちゃんの声を?」

鳴海「校庭でな・・・でも・・・正直よく分からない・・・めちゃくちゃ小さな声だったし、ほとんど聞き取れなかったんだ」

菜摘「小さくても声を聞いたなら凄いよ!!千春ちゃんがいるってことの証明になるじゃん!!」

鳴海「しょ、証明になるのか?たかが声だぞ?」

菜摘「なるよ。千春ちゃんが喋ってることだもん」

鳴海「それはそうだが・・・千春本人がどこにいるのか分からないじゃないか」

菜摘「鳴海くん」

鳴海「何だ?」

菜摘「私・・・波高を卒業したら千春ちゃんを探しに行きたい・・・」

鳴海「菜摘のその気持ちは分かるけどよ・・・探すったって無理があるだろ」

菜摘「でも・・・千春ちゃんはきっと私たちのことを待ってると思うんだ」


 深くため息を吐く鳴海


菜摘「鳴海くん、悩みがあるんだったらどんどん私に言ってね!!」


 菜摘のことを見る鳴海


鳴海「(菜摘のことを見ながら小声でボソッと)菜摘は俺と同じ進路未決定者なのに、余裕があるんだな・・・」

菜摘「余裕があるのかは分からないけど・・・私、卒業後はこの町に残るつもりだよ」

鳴海「残る?残るってどういうことだ?」

菜摘「んー・・・進学しないっことかな」

鳴海「(驚いて)だ、大学か専門に行くんじゃないのか!?」

菜摘「(首を横に振り)ううん」

鳴海「てっきり執筆活動が出来る道に進むのかと・・・」

菜摘「それも考えたけど、卒業してからしばらくは自分と人のために時間を使いたいんだ」

鳴海「かっけえな・・・菜摘は・・・」

菜摘「そ、そう?」

鳴海「ああ」

菜摘「その・・・出来れば・・・卒業してからも鳴海くんと一緒に過ごしたいんだけど・・・」

鳴海「お、おう!!当たり前だ!!」

菜摘「良かった・・・これで朝まで眠れるようになる」

鳴海「今まで寝れてなかったのよ・・・」

菜摘「まあ・・・ちょっとだけ寝不足だったかも・・・」

鳴海「しっかり寝てくれ」

菜摘「うん!(少し間を開けて)あとは鳴海くんの進路が決まれば完璧だ!!」

鳴海「おいおい、進路以外にも色々あるんだぞ」

菜摘「色々って例えば?」

鳴海「ほとんどは部活のことだな」

菜摘「えっと、今の鳴海くんの最優先事項は明日香ちゃんに謝罪することなの?」

鳴海「ああ」

菜摘「明日香ちゃんに謝って許してもらえたら、朗読劇の準備と、生徒会選挙の準備と、部誌制作と、千春ちゃん探しと、部員集めをしなきゃね!!」

鳴海「待て、部員募集もするのか?」

菜摘「うん!」

鳴海「何で今更部員集めをするんだ?」

菜摘「だって、汐莉ちゃんを一人には出来ないもん」

鳴海「そうか・・・俺たちが卒業したら・・・文芸部はあいつ一人になるのか・・・」

菜摘「だから部員集めも大事でしょ?」

鳴海「そうだな・・・(小声でボソッと)俺たちはどんだけ忙しくなるんだか・・・」

菜摘「みんなで手分けしてやったら簡単だよ」

鳴海「簡単か・・・?」

菜摘「(頷き)簡単簡単!」


 再び沈黙が流れる


鳴海「なあ菜摘」

菜摘「ん?」

鳴海「学園祭の時・・・千春が代償って言ってただろ」

菜摘「代償?そんなこと言ってたっけ?」

鳴海「とぼけないでくれよ、本当は覚えてるんだろ」

菜摘「うーん・・・あっ・・・」

鳴海「思い出したか?」

菜摘「ううん、そうじゃなくて」


 菜摘は公園の隅の方にあるベンチを見ている

 ベンチには波音高校の制服を着た荻原早季が座っている

 早季は鳴海と菜摘のことを見ている

 

鳴海「(早季のことを見ながら)波高生だな・・・ありゃ一年生か?」

菜摘「(早季のことを見ながら)どうかな・・・」

鳴海「(早季のことを見たまま)あいつを文芸部に誘うってのはどうだ?一年なら南の知り合いかもしれないし」

菜摘「(早季を見たまま首を横に振り)あの子は・・・ダメ・・・」


 鳴海は菜摘のことを見る


鳴海「(菜摘のことを見ながら)菜摘の知り合いなのか?」


 菜摘はボーッと早季のことを見ている

 菜摘の瞳には反射している早季の姿と、あるはずもない海が映っている

 同じく早季の瞳には反射している菜摘の姿と、あるはずもない海が映っている

 

 

鳴海「(菜摘を見たまま)菜摘?おい」


 立ち上がる早季 

 鳴海がベンチの方を見ると、早季は消えている

 鳴海はベンチの周囲を見るが早季はいない


鳴海「(ベンチの周囲を見ながら)あいつ、どこに行ったんだ・・・?(再び菜摘のことを見て)菜摘?大丈夫か?」

菜摘「あっ、うん・・・ごめん。ちょっとボーッとしてた」

鳴海「今の一年、菜摘の知り合いなのか?」

菜摘「う、ううん。知らない」

鳴海「にしてはこっちをめちゃくちゃ見てた気がするんだが・・・」

菜摘「同じ制服だからじゃない?」

鳴海「そういうことなのか・・・?」

菜摘「きっとね・・・」


 早季が座っていたベンチで銀色の何かが飛び跳ねている


鳴海「何だありゃ・・・」


 立ち上がる鳴海と菜摘

 早季が座っていたベンチに向かう鳴海と菜摘

 早季が座っていたベンチで飛び跳ねていたのは銀色の鱗をした魚

 銀色の鱗をした魚は20cmほどの大きさ


鳴海「(飛び跳ねてる魚を見ながら不思議そうに)なんで魚が・・・」


 鳴海は再び周囲を見る

 鳴海は地面に水で出来た足跡があることに気づく

 足跡は小さく、早季のもの


鳴海「(水で出来た足跡を指差して)見ろ」

菜摘「(水で出来た足跡を見て)足跡・・・?」

鳴海「(水で出来た足跡を指差したまま)そのようだな」


 水で出来た足跡は公園を出て行っている

 水で出来た足跡を追う鳴海と菜摘

 公園の外の道路に出ると、突然水で出来た足跡が無くなる


鳴海「(周囲を見ながら)消えたぞ・・・」

菜摘「飛んで帰ったんじゃない?」

鳴海「そんなバカな・・・」

菜摘「多分ここで自転車に乗ったんだよ、だから足跡も消えたんだ」

鳴海「なるほど・・・?魚は忘れて行ったのか・・・?」

菜摘「多分・・・」


 鳴海と菜摘は公園に戻る

 二人は再び早季が座っていたベンチの近くに行く

 ベンチの上で飛び跳ねていた銀色の魚はかなり弱っているが、まだヒレを動かしている


菜摘「(ベンチの上の魚を見ながら)鳴海くんの今晩の夕飯にどうかな?」

鳴海「(ベンチの上の魚を見ながら)本気で言ってんのか」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)うん」

鳴海「(ベンチの上の魚を見たまま)得体の知れない女子高生が公園のベンチに置いて行った魚を俺の夕飯にしろと?」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)まだ生きてるし新鮮じゃん」

鳴海「(ベンチの上の魚を見たまま)公園のベンチに落ちてるのに新鮮なわけあるかい・・・」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)水道水で洗ったら平気じゃない?」

鳴海「(ベンチの上の魚を見たまま)そうだな・・・こいつは家に持ち帰って刺身にでも・・・ってアホか」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)おお、鳴海くんの得意なノリツッコミだ」

鳴海「(ベンチの上の魚を見たまま)菜摘、とりあえずボケれば良いってもんじゃないんだぞ」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)ごめんごめん」


 徐々に魚の動きが鈍くなる


鳴海「(ベンチの上の魚を見たまま)なんか最近、こういうこと多くないか」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)そうかな?私は初めて魚が落ちてるのを見たよ」

鳴海「(ベンチの上の魚を見たまま)俺が言いたいのは、変な出来事が多いってことだ」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)異常気象かもしれないね」

鳴海「(ベンチの上の魚を見たまま)嵐でも来たりして・・・」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)それならまだ良いけどなぁ・・・」

鳴海「(ベンチの上の魚を見たまま)それならって、嵐が来たらやばいだろ」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)鳴海くん、嵐よりやばいものが来たらどうするの?」

鳴海「(ベンチの上の魚を見たまま)そんなものはこの世に存在してない」

菜摘「(ベンチの上の魚を見たまま)だと良いけど・・・最近嫌な予感がするんだよね・・・」


 菜摘が咳をする


菜摘「(咳き込みながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・」


 菜摘が咳をした途端、魚の動きが完全に止まる


◯482一条家キッチン(夜)

 広くて和風なキッチン

 夕飯の準備をしている雪音と智秋

 突然智秋が激しく咳き込む

 雪音が智秋の背中をさする

 

鳴海「(声)大丈夫か?」

菜摘「(声)うん、ただの咳だから」


◯483CDショップ(夜)

 CDショップにいる汐莉と早季

 ショップには学校帰りや仕事帰りの客がいる

 汐莉はヘッドフォンをつけサイモン&ガーファンクルのコンドルは飛んで行くを試聴している


鳴海「(声)菜摘、お前合宿の時さ・・・」

菜摘「(声)何?」


 汐莉の後ろでは早季がCD棚を見ている

 汐莉は早季の存在に気づいていない

 早季は棚からPink Floydの狂気(The Dark Side of the Moon)を取り出す

 早季が触れた棚から雫が垂れる

 早季は試聴コーナーでPink Floydの狂気を試聴する

 早季は汐莉の斜め後ろで試聴をしている


鳴海「(声)俺と一緒なら、怖くないって言ったよな?」

菜摘「(声)うん」


◯484波音高校職員室(夜)

 職員室に残って作業をしている教師たち

 教師たちの中には神谷もいる

 神谷は自分の席で、生徒たちの成績表の確認をしている

 鳴海の成績表を見ている神谷

 神谷は机の上にあったボールペンを手に取り、鳴海の成績表の備考欄に”廊下は走るな”と走り書きする

 神谷は鳴海の成績表を見ながらニヤニヤ笑っている


鳴海「(声)本当に・・・怖くないのか?」

菜摘「(声)怖くないよ」


◯485天城家明日香の自室(夜)

 机に向かい合って椅子に座っている明日香

 机の上には専門学校のパンフレットが置いてある

 明日香はスマホの写真を見ている

 スマホの写真には鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉が写っている

 写真の嶺二と汐莉の間には不自然なスペースがある

 文芸部で自撮りした写真を見ている明日香


菜摘「(声)鳴海くんと一緒だし・・・みんなもいるし・・・」


 しばらく写真を見た後、明日香は写真を削除する


菜摘「(声)鳴海くんは怖いの?」

鳴海「(声)少しな・・・」


◯486三枝家響紀の自室(夜)

 CDやレコードが飾られている響紀の自室

 響紀はベッドの上で横になり、スマホの写真を見ている

 スマホの写真はアイリッシュイベントの時に撮ったもので、恥ずかしそうにした明日香が写っている


鳴海「(声)気を引き締めないと、またやらかしそうだ」


◯487せせらぎ公園(夜)

 早季が座っていたベンチの側で話をしている鳴海と菜摘

 ベンチの上では20cmほどの大きさの銀色の鱗を持った魚が死んでいる


菜摘「鳴海くんは力を入れ過ぎだよ」

鳴海「そうか?」

菜摘「うん。無理だったら諦めて、流れに身を任せた方が鳴海くんにとっては楽になるんじゃないかな」

鳴海「俺が流れに身を任せてたら、文芸部はまとまらねえだろ・・・」

菜摘「でも、鳴海くんはもう十分文芸部のことで頑張ってると思うよ」

鳴海「いや、まだ努力不足さ。もっと冷静に、俺はもっと冷静になって文芸部のことを見なきゃならねえ」

菜摘「客観的に物事を判断するのは大事だけど、鳴海くんの言ってる冷静は、感情を押し殺すって意味に聞こえるから心配だよ」

鳴海「感情を押し殺して、文芸部の気持ちがまとまるなら安いもんだ」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「鳴海くんの感情が暖かいから、嬉しくなったり、怒ったり、悲しんだり、喧嘩したり、怖くなったりするのに・・・その感情を殺しちゃうなんて・・・」


 再び沈黙が流れる


菜摘「昔・・・鳴海くんが教えてくれたじゃん・・・人はそういう生き物だって、感情があるのが人間なんだって」

鳴海「そんなようなことも・・・カッコつけて言ったかもしれないな」

菜摘「覚えてたの?」

鳴海「ああ、何となく・・・」

菜摘「そっか・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「帰ろうぜ、菜摘」

菜摘「うん、そうだね」



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