Chapter6合宿編♯4 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6合宿編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。怒った時の怖さとうざさは異常。Chapter5の終盤に死んでしまう。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
安西先生 55歳女子
家庭科の先生兼軽音部の顧問、少し太っている。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
Chapter6合宿編♯4 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯320早乙女家菜摘の自室(日替わり/朝)
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
ベッドはマットレス、掛け布団、枕が片付けられ、骨組みだけの状態になっている
パソコンや筆記用具など、部誌制作で使ったものは昨日と同じ状態のまま
菜摘、汐莉、雪音が菜摘の部屋で喋っている
テーブルの上の時計は7時半を指している
部屋に入る鳴海、嶺二
鳴海「うーっす」
菜摘「おはよう、鳴海くん、嶺二くん。時間ぴったりだね」
嶺二「ギリギリ間に合ったぜ・・・」
鳴海「あわや寝坊するところだったけどな・・・」
嶺二「遅れなきゃいーんだよ。マラソンだってタイムより完走することが大切じゃねーか」
汐莉「それってマラソンで最後尾を走る人の言い訳ですよね」
菜摘「確かに・・・」
嶺二「いーのいーの。どうせ菜摘ちゃんたちだってさっき起きて来たばっかだろ」
雪音「七時にはこの部屋にいたよ」
鳴海「(驚いて)七時!?早過ぎるだろ!!」
菜摘「遅れないようにと思って」
嶺二「マジかよ・・・汐莉ちゃんは?」
汐莉「私は10分前に来ました」
嶺二「お前ら真面目過ぎるだろ・・・」
鳴海「真面目の代表の明日香がいねえけど・・・あいつはどうしたんだ?」
汐莉「明日香先輩は顔のメンテナンスをしてから来るそうです」
鳴海「あー・・・なるほど・・・」
菜摘「女の子はお顔の調子も大事だからね」
鳴海「飯は明日香が来た後か」
菜摘「(頷き)うん、ご飯はみんなで食べなきゃ」
嶺二「てことはしばらくお預けかよ・・・早起きした意味ねー・・・」
雪音「集合時間になってるんだし、そろそろ来るんじゃないの?」
汐莉「七時半には何とか間に合わせるって言ってましたけど・・・どうですかね・・・」
菜摘「みんな、気長に待とう?」
鳴海「お、おう!お、遅れた分、あとで作業スピードを上げようぜ!!」
菜摘「う、うん!!」
少しの沈黙が流れる
嶺二「鳴海・・・気合入ってんな」
鳴海「あ、当たり前じゃないか!!合宿二日目は一番盛り上がる日だぞ!!」
雪音「元気なのはいいけど、すぐ力尽きないようにね」
鳴海「あ、ああ・・・」
再び沈黙が流れる
明日香が部屋に入って来る
明日香「ご、ごめん遅れて!」
菜摘「ううん、気にしないで。今から朝ごはんを食べに・・・」
嶺二「(明日香の顔を見て)うっわ、お前、クマ酷いな。まるでゾンビ・・・」
反射的に明日香が嶺二の顔面を思いっきり殴る
勢いよくその場に倒れる嶺二
◯321早乙女家リビング(朝)
時刻は7時半過ぎ
外ではセミが鳴いている
テーブルの上には焼いたパン、バター、マーガリン、いちごジャム、ベーコン、目玉焼き、スライスチーズ、それぞれに取り皿と飲み物が置いてある
パンと組み合わせて朝食を取っている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、潤、すみれ
嶺二の目元が少し腫れている
それぞれ会話しながらパンを食べている
明日香「(食パンにバターを塗りたくりながら)ほんと嫌い、大っ嫌い」
菜摘「ま、まあまあ。落ち着いて明日香ちゃん」
明日香「(食パンにバターを塗りたくりながら)無理」
雪音「明日香、私もゾンビみたいな顔だよ」
明日香「(食パンにバターを塗りたくりながら)雪音は素材がいいでしょ。私は元がゾンビなの」
雪音「そんなことないと思うけど・・・」
汐莉「明日香先輩だって、綺麗な顔じゃないですか」
明日香「(バターを塗っていたナイフで汐莉を指差し)汐莉、もしかして馬鹿にしてる?」
汐莉「い、いえ・・・そんなつもりは・・・」
菜摘「明日香ちゃん、クマくらい誰にだって出来るよ。寝る時間が遅か・・・」
食パンにスライスチーズ、ベーコン、目玉焼きを乗せて食べる嶺二
すみれ「(心配そうに)嶺二くん、大丈夫?あとで湿布持ってこようか?」
鳴海「お構いなくすみれさん、ゆっくりご飯を食べてください」
嶺二「何でてめーが答えるんだよ」
鳴海「ゴッドマザーに迷惑をかけるじゃねえ。湿布を取りに行ってたら落ち着いて飯が食えねえだろうが」
すみれ「ご、ゴッドマザー・・・」
嶺二「(舌打ちをして)ちぇっ・・・仕方ねーな・・・おばさん、この傷は男の勲章なんで、気にしないでください」
すみれ「(心配そうに)ほ、本当に?」
嶺二「はい、男の痣ってカッコよくないっすか」
すみれ「(困りながら)えっ・・・うーん・・・」
嶺二「かっこいいんすよ、男の傷ってのは」
すみれ「そ、そうだね・・・」
潤が鳴海の肩をポンポン叩く
鳴海「(ベーコンを取り皿によそいながら)どうしたバッドファーザー」
潤「(小声で)やっぱ男の魅力は傷か?」
鳴海「は?」
潤「(小声で)顔に傷があったら格好良いと思うか?」
鳴海「あんたが何を聞きたいのかさっぱり分からねえんだが」
潤「(小声で)お前が殴ったんだな?」
鳴海「いや、違う。やったのは明日香だ」
潤「俺も殴ってもらうか・・・」
鳴海「どうぞご自由に」
◯322早乙女家菜摘の自室(朝)
外ではセミが鳴いている
テーブルの上の時計は九時前を指している
パソコンや筆記用具など、部誌制作で使ったものは昨日と同じ状態のまま
菜摘の部屋に戻って来た文芸部一同
菜摘「作業を始める前に、進捗状況を教えてほしいんだけど・・・みんなどんな感じ?」
鳴海「このペースなら俺は明日書き終わると思う」
嶺二「同じく」
汐莉「私は今日の夕方くらいに終わりそうです」
雪音「私も」
明日香「え、二人とも早くない?」
雪音「ペース次第だから、今日の夜になっちゃうかも」
明日香「それでも早い方でしょ・・・菜摘も今日終わんの?」
菜摘「私は無理じゃないかな・・・」
明日香「そっか、良かった・・・」
鳴海「みんな、ペースを崩さずに頑張ろうぜ。日曜日にはイベントが控えてるんだからさ」
明日香「ペースを崩さないってのが大変なんだけどね・・・」
汐莉「イベントって何ですか?」
菜摘「あっ・・・ごめん。汐莉ちゃんに言ってなかったかも・・・(少し間を開けて)日曜日は部誌が終わったら、アイリッシュイベントに行こうって話になってるんだ」
汐莉「アイリッシュイベントって何です?」
菜摘「アイルランドの食べ物や伝統品を楽しむイベントって言うのかな・・・私も詳しくは知らないんだけど・・・出店がいっぱいあるみたい」
鳴海「多分、アイルランド版のお祭りみたいなもんだな」
菜摘「そうそう。響紀ちゃんがクーポン券をくれたから、割引も出来るよ」
汐莉「響紀が?」
頷く菜摘
鳴海「せっかく貰ったんだし、みんなで行こうぜってわけだ」
嶺二「実質部誌の打ち上げだな」
菜摘「うん。頑張って部誌を終わらせたご褒美」
俯く汐莉
少しの沈黙が流れる
菜摘「汐莉ちゃん?どうしたの?」
汐莉「(顔を上げて)分かりました・・・(かなり間を開けて)先輩たち頑張ってくださいよ。特に菜摘先輩、鳴海先輩、明日香先輩、嶺二先輩の四人。文芸部の打ち上げがかかってますからね」
鳴海「お、おう・・・」
菜摘「が、頑張る!」
嶺二「あ、明日の昼には終わるよな。多分」
明日香「た、多分ね・・・」
雪音「私の方が早く書き終わっちゃうんだけど・・・」
鳴海「お、俺たちは早さより質で勝負してるんだ。な?菜摘」
菜摘「う、うん!早さは関係ないよ!」
明日香「そ、そうそう!中身の濃い作品は時間がかかるよね!」
嶺二「あ、あれだな!マラソンと一緒よ!!完走するのが大事ってやつ!!」
鳴海「だな!!」
汐莉「(呆れながら)何でも完走するのが大事ってことですね・・・」
菜摘「か、完走するのも凄いことじゃん!!」
雪音「完走で満足してたらメダルはおろか入賞すら不可能だけどね」
再び沈黙が流れる
菜摘「と、とにかくみんなそれぞれ頑張ろう!!」
鳴海・明日香・嶺二「おー!!!」
時間経過
パソコンと向かい合ってタイピングをしている文芸部員たち
それぞれ集中し、部誌を制作している
テーブルの上の時計は11時を指している
鳴海「(声 モノローグ タイピングをしながら)合宿二日目・・・南がプレッシャーをかけたお陰で、全員が寝不足なのにも関わらず、いつも以上に執筆の進みが早くなった。皆、パソコンと向かい合い余計な会話をすることなく、出来る限りの全力を尽くす」
時間経過
パソコンと向かい合ってタイピングをしている文芸部員たち
それぞれを部誌を制作している
テーブルの時計は12時過ぎを指している
すみれが部屋に入って来る
作業をやめる文芸部員たち
鳴海「(声 モノローグ タイピングをしながら)そんな俺たちを見てか、すみれさんは仏のような優しさを開放し、文句一つ言わず俺たちのために家事を行ってくれた。俺はその優しさに感動し、ゴッドマザー改め、天照すみれさんと呼ぶことにしたのだが、本気で嫌がられたのでやめた」
◯323早乙女家リビング(昼)
外ではセミが鳴いている
時刻は12時半過ぎ
冷やし中華を食べている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、潤、すみれ
大きな声で喋りながら冷やし中華を食べている鳴海たち
鳴海「(声 モノローグ)食事中はネジが外れたようにみんな大きな声で喋り出す。しかも必ず揉める」
明日香と嶺二が口論している
鳴海と潤が口論している
口論の様子を見ている菜摘、汐莉、雪音、すみれ
鳴海「(声 モノローグ)理由は謎だ。気付いたら誰かしらが言い争っている。と言っても、みんな寝不足で頭が回らず、苦し紛れに馬鹿かアホと叫ぶだけなのだが・・・」
明日香「あんたバカじゃないの!?」
嶺二「バカって言う方がバカなんだよヴァッカ!!!」
菜摘「(呆れながら 苦笑)ははは・・・もう止められないや私・・・」
汐莉「こんな下らないことで先輩たちが喧嘩する姿なんて私見たくありません・・・」
雪音「(鳴海と順を見ながら)しかもこっちでもやってるしね」
鳴海「俺が思うにあんたはアホだ」
潤「てめえ、大人に向かってアホとはなんだ!」
鳴海「歳は関係ねえ。俺は嶺二が地球上で一番のアホだと思っていたが、どうやら違ったらしいな。あんたがベストオブアホだ」
嶺二「ああ!?誰がワーストオブアホだよ!?」
鳴海「行儀が悪いぞ第二のアホ」
嶺二「俺はアホじゃねえ!!!」
鳴海「そうか。(少し間を開けて)バカだったな」
嶺二「黙れ!!!バカは鳴海と明日香だ!!!!」
鳴海「明日香はともかく、俺はバカじゃない。むしろ俺は天才側の人間だ」
明日香「ちょっと!!!私のどこがバカなの!?!?」
嶺二「自分で考えろよ、ヴァッカ」
少しの沈黙が流れる
嶺二「ヴァッカは自分で考えねーからな。ヴァッカは」
明日香が拳を握りしめる
汐莉が明日香の拳に気づく
鳴海「(声 モノローグ)そしてこの小学生レベルの争いを、菜摘か南が止めに入るのだが・・・」
汐莉「(慌てて)ヴァ、ヴァッカって思い出したんですけど!!バッタって後ろ足の付け根に耳がついてるらしいです!!す、凄いですよね虫って!!」
潤「へぇー。バッタって耳でジャンプしてるんだな」
汐莉「ち、因みに!!ミミズと同じく、カタツムリにはオスとメスの区別がないんですよ!!」
潤「詳しいじゃないか」
汐莉「じ、実を言うと!!カタツムリってコンクリートを食べるんです!!」
潤「(鳴海、明日香、嶺二を見て)お前らも汐莉虫博士みたいになれよ、知識を増やしてバカやアホから卒業しろ。男は生まれながらにバカだけど、女の子は違うんだから。ちゃんと勉強しなさい、じゃなきゃバカなおばさん・・・」
明日香が潤の顔面を思いっきり殴る
椅子からひっくり返って倒れる潤
頭を抱えるすみれ
倒れた潤を見下ろす鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音
潤の顔は明日香に殴られたところが赤くなっている
倒れたまま拳を突き上げる潤
潤「(拳を突き上げたまま 大きな声で)傷は男の勲章だぁあああああああ!!!!!」
菜摘「お父さんが一番バカだよ・・・」
鳴海「(声 モノローグ)やはり明日香に勝てる相手はいないようだ」
◯324早乙女家菜摘の自室(昼過ぎ)
外ではセミが鳴いている
テーブルの上の時計は1時半前を指している
菜摘の部屋に戻ってきた文芸部員たち
昨晩、買ってきたエナジードリンクを手に持っている文芸部員たち
乾杯をする文芸部員たち
エナジードリンクを開け、一口飲む文芸部員たち
鳴海「(声 モノローグ)俺たちはひとしきり騒ぎ、作業に戻る。感情に振り回されてるように見えて、意外と集中出来た」
時間経過
パソコンと向かい合ってタイピングをしている文芸部員たち
皆集中し、部誌を制作している
全員のエナジードリンクが空になっている
テーブルの上の時計は4時過ぎを指している
鳴海「(声 モノローグ タイピングをしながら)カタカタと、キーボードを叩く音だけが響く」
鳴海をタイピングを止め、菜摘の方を見る
菜摘はタイピングをしている
少しすると菜摘の手が止まる
菜摘は右耳に髪の毛をかける
鳴海は菜摘以外の文芸部員を見る
タイピングをしている文芸部員たち
鳴海「(声 モノローグ 周りを見ながら)ただ部誌を作っているだけなのに、俺はこの一瞬が、みんなが黙々と作業をしているこの瞬間が、文芸部にとって最高の状態のように思えた」
◯325銭湯に向かう道中(夜)
銭湯に向かっている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音
六人は巾着袋を持っており、中には着替えとバスグッズが入っている
六人は楽しそうに喋りながら、銭湯に向かっている
鳴海「(声 モノローグ)学園祭の準備をしている時もこれに近い感じがあったはずだ。個々に問題や悩みはあったが、みんなで一丸となって、文芸部の活動をしている時は充実してた。ただ闇雲に一人が全力で動いてもしょうがないのか・・・?」
◯326銭湯/男湯(夜)
女湯と同じく、壁には富士山の絵が描かれている
ジェットバスのお風呂、薬湯のお風呂、水風呂、電気風呂などがある
ジェットバスのお風呂に入っている鳴海と嶺二
他には数人、お爺さんの客がいる
鳴海と嶺二を湯船に浸かりながら話をしている
鳴海「だからよ、全力だけじゃ意味ねえと思うんだ」
嶺二「で?」
鳴海「でって・・・お前・・・俺の話聞いてたか」
嶺二「聞いてたけど、今の話じゃ何をどうすりゃいーのかわかんねーよ」
鳴海「文芸部は一丸になる必要があるのさ」
嶺二「具体的には?」
鳴海「あー・・・具体的にはだな・・・」
少しの沈黙が流れる
嶺二「そんなんじゃなんも解決しねーぞ」
鳴海「分かってる・・・分かってるけど・・・分かんねえんだよなぁ」
嶺二「意味不明だ」
鳴海「(声 モノローグ)極論だが、俺たち文芸部はグループ全体に美しい絆があるとは言えない。嶺二が一条を嫌うように、個人の関係なんて微妙なもんだ。それでも、一丸にはなれる・・・個人の関係や感情を無視しても、文芸部は実力を発揮出来るのか・・・」
◯327早乙女家リビング(夜)
時刻は9時半過ぎ
リビングの椅子に座り、話をしている鳴海たち
潤はソファに座ってテレビを見ている
すみれは夕飯で使った食器を片付けている
汐莉「私と雪音先輩はどうすればいいでしょうか?」
菜摘「二人はもう完全に書き終わったんだよね?」
汐莉「はい」
雪音「終わったよ」
菜摘「うーん・・・どうしよっかなぁ・・・」
明日香「今月の部誌のフォーマットを作ってもらったらいいんじゃない?」
菜摘「あ、良いね。汐莉ちゃん、今までのデータ持ってなかった?」
汐莉「確か持ってたと思います」
菜摘「二人に頼んでいい?」
雪音「私たちでのいいの?」
菜摘「うん、お願い」
汐莉「分かりました」
鳴海「俺らも超高速で仕上げなきゃな」
嶺二「もうこだわってる時間がねえ」
雪音「早さより質が大事って言ってなかった?」
明日香「質と早さの両方が大事なの」
嶺二「そーそー、マラソンだって時間内に完走するのが大切なわけで。スポーツマンシップにうんちゃらで最低限の時間くらい守る男だぜ俺は」
菜摘「それがマラソンのルールだからね。(少し間を開けて小声で)なんで毎回マラソンに例えちゃうんだろう・・・」
◯328早乙女家菜摘の自室(夜)
パソコンと向かい合ってタイピングをしている鳴海、菜摘、明日香、嶺二
汐莉と雪音は一台のパソコンを使い、部誌のデザインをしている
それぞれエナジードリンクを飲みながら、部誌を制作している
テーブルの上の時計は10時過ぎを指している
タイピングを止め、深く息を吐き出す鳴海
体を伸ばす鳴海
エナジードリンクを一口飲む鳴海
鳴海「(声 モノローグ)幸い、考え事をしてる割には部誌も順調に進んでる。今日のうちに終わるかもしれない・・・菜摘たちも捗ってると良いが・・・」
時間経過
パソコンと向かい合ってタイピングをしている鳴海、菜摘、明日香、嶺二
エナジードリンクを飲み干す鳴海
菜摘は順調に部誌制作を進めている
あくびをする明日香
眠そうな明日香
文字を打っては消している嶺二
汐莉と雪音は変わらず部誌のデザインを行っている
テーブルの上の時計は午前1時半を指している
鳴海「(声 モノローグ)もうすぐだ・・・もうすぐ終わる・・・もはや俺の中では一刻も早く部誌を終わらせたかった。部誌に時間がかかってるようじゃ、菜摘の役には立てないからだ・・・」
時間経過
パソコンと向かい合ってタイピングをしている鳴海、菜摘、明日香、嶺二
菜摘は順調に部誌制作を進めている
眠そうな明日香
目を擦り、必死にタイピングをしている明日香
明日香と同じように、必死にタイピングをしている嶺二
汐莉と雪音は変わらず部誌のデザインを行っている
タイピングを止める鳴海
テーブルの上の時計は午前3時前を指している
鳴海「お、終わった・・・」
全員が鳴海を見る
嶺二「(驚いて)お、終わったのか!?」
鳴海「ああ」
嶺二「て、てめえ明日書き終わるって言ってたのに嘘だったのかよ!!」
鳴海「朝はそんな感じがしたんだが・・・違ったみたいだな・・・」
嶺二「クソッ・・・」
菜摘「お疲れ様!!鳴海くん」
鳴海「おう!」
汐莉「鳴海先輩が一抜けするのは意外ですね」
鳴海「今日は調子が良かったのさ」
雪音「残すは三人・・・誰が最後になるでしょう?」
明日香「絶対に最後だけは嫌・・・絶対に・・・」
嶺二「違いねえ・・・こうなりゃ今日はオールか・・・」
鳴海「おいおい・・・やめとけよ・・・」
菜摘「二人はあとどのくらいで終わりそう?」
嶺二「分かんねえ・・・」
明日香「私は明日の昼くらいかも・・・」
菜摘「焦らなくても大丈夫だよ、イベントは夕方か夜に行けば良いし」
明日香「菜摘はいつ書き終わるの?」
菜摘「明日の朝に終わると思う」
少しの沈黙が流れる
明日香「私も徹夜しようかな・・・」
菜摘「えぇ!?」
明日香「寝てる暇なさそう」
嶺二「それな」
汐莉「徹夜するより、今すぐ寝て朝起きる時間を早くしたら良いのでは?」
鳴海「ああ、それが良いと思うぞ」
顔を見合わせる明日香と嶺二
嶺二「どうする?オールするか?それとも早起きするか?」
菜摘「寝た方が良いって絶対」
明日香「ど、どうしよ・・・」
雪音「朝のメンテナンスの時間をタイピングに回したら?」
明日香「それは嫌だな・・・」
考え込んでいる嶺二
嶺二「決めた、俺寝るわ」
明日香「え、徹夜は?」
嶺二「やめる」
明日香「なんでよ?」
嶺二「ねみーもん」
嶺二「明日香も寝よーぜ。頭良いんだからよ」
明日香「何それ、どういう意味」
嶺二「せっかく賢い頭持ってんだから、寝て充電しとけってことだ」
明日香「わ、分かった」
あくびをする嶺二
鳴海「そんじゃあ今日は解散だな」
菜摘「うん、明日香ちゃんと嶺二くんは先にこの部屋を使ってて良いからね、他のみんなは7時半に集合で」
頷く鳴海たち
◯329早乙女家客室/鳴海と嶺二の寝室(深夜)
暗い部屋、カーテンから月の光が差し込んでいる
外ではスズムシが鳴いている
狭く、物がほとんどない部屋
部屋の隅に、鳴海、嶺二の学校用のカバンと合宿用の大きなカバンが置いてある
布団で眠っている鳴海と嶺二
大きないびきをかいている嶺二
寝返りを打つ鳴海
少しすると鳴海が目を覚ます
布団から出る鳴海
◯330早乙女家廊下(深夜)
暗い廊下、トイレに向かっている鳴海
トイレは電気がついており、誰かが中に入っている
トイレの前でしゃがみ、ため息を吐く鳴海
少しすると菜摘がトイレから出てくる
菜摘「(驚いて)うわっ!び、びっくりしたぁ・・・」
鳴海「安心しろ、幽霊じゃないぞ」
菜摘「(怒ったように)わ、分かってるよ!」
鳴海「なんだ・・・てっきり幽霊と俺を見間違えたのかと・・・」
菜摘「(怒ったように)そ、そんなことあるわけないじゃん!」
鳴海「怒らんといてください、今のちょっとしたゴーストギャグです」
菜摘「(怒ったように)もう!!お休み!!!」
菜摘は怒りながら寝室に戻ろうとする
鳴海「あ、おい!菜摘!」
菜摘「(振り返り)な、何?」
鳴海「話があるんだが・・・」
菜摘「(振り返ったまま)く、くだらないことだったら怒るよ?」
鳴海「いや、割と真面目な話がある。ちょっとここで待っててくれないか?」
菜摘「(振り返ったまま)良いけど・・・」
◯331早乙女家庭(深夜)
月が出ている
スズムシが鳴いている
庭のウッドデッキに座っている鳴海と菜摘
鳴海「悪いな・・・外に出しちまって」
菜摘「(首を横に振り)ううん、平気」
鳴海「菜摘、単刀直入に言うんだけどさ、今日の文芸部は・・・あー・・・その・・・良い感じだったよな?」
菜摘「良い感じって?」
鳴海「みんな集中して部誌を作ってただろ?」
菜摘「そうだね!」
少しの沈黙が流れる
鳴海「菜摘的には・・・今日の文芸部はどうだった・・・?」
菜摘「鳴海くんが言った通り、良い感じだったと思うよ」
鳴海「そうか・・・(少し間を開けて)やっぱり・・・まだダメなのか?」
菜摘「うん・・・本当に気持ちがまとまったとは言えない」
鳴海「だよな・・・学園祭の時と変わってないもんな・・・」
深くため息を吐く鳴海
菜摘「鳴海くん!今こそ部長と副部長の腕の見せ所だよ!!」
鳴海「おう、このために俺は副部長になったんだ」
菜摘「鳴海くん・・・神谷先生に押し付けられて嫌々副部長になってなかった・・・?」
鳴海「押し付けられたのは事実だが、嫌々ではない」
菜摘「えー、絶対嘘」
鳴海「さっ、戻ろうぜ菜摘」
菜摘「えっ?話は?」
鳴海「もう終わったよ」
菜摘「そうなの?」
鳴海「ああ。一丸になるだけじゃダメだって、再認識出来たからな」
菜摘「鳴海くん」
鳴海「なんだ?」
菜摘「確かに、今日の文芸部は良かったと思うよ。みんな真面目に部誌を書いてたし。でもね、結局、離れ離れにやってるんだ」
鳴海「離れ離れ・・・?」
菜摘「うん。同じことをしてるんだけど、みんな遠くにいるの。一丸とは言えないよ」
鳴海「すまん。もうちょっと分かりやすく説明してくれ」
菜摘「えっと・・・例えばさ、本当に一丸になってるなら、もっと協力し合って部誌を作ると思わない?」
再び沈黙が流れる
鳴海「そうだな・・・」
菜摘「だからさ、明日は協力し合えるように頑張ろうね!」
鳴海「あ、ああ」
菜摘「じゃあ戻ろう!」
菜摘は立ち上がろうとするが、立ちくらみを起こす
菜摘は倒れそうになり、慌てて鳴海が支える
鳴海「(菜摘の体を支えながら)な、菜摘!大丈夫か!?」
菜摘「う、うん・・・大丈夫・・・
鳴海「(菜摘の体を支えながら)部屋まで運ぼうか?それともすみれさんを・・・」
菜摘「ううん・・・平気・・・軽いめまいを起こしただけだから」
菜摘は鳴海から離れる
鳴海「菜摘、無理するな。支えてやるからこっちに・・・」
菜摘は夜空を見ている
菜摘「(鳴海の話を遮って 夜空を見ながら)鳴海くん!!流れ星!!」
鳴海「えっ?」
菜摘「(夜空を指差して)ほら!」
夜空を見る鳴海
一つの流星群が流れる
鳴海「(夜空を見ながら 驚いて)ま、マジかよ・・・は、初めて見た・・・」
菜摘「(夜空を見ながら)私も・・・」
ウッドデッキに座る菜摘
菜摘「鳴海くん、少し見てこうよ」
鳴海「ダメだ。明日も朝はや・・・」
菜摘は真っ直ぐ鳴海のことを見ている
顔を逸らす鳴海
菜摘「(真っ直ぐ鳴海の顔を見たまま)お願い・・・ちょっとだけでいいから・・・」
鳴海「(顔を逸らしたまま)クソッ・・・(かなり間を開けて)少しだけだぞ・・・」
菜摘「やった!!ありがとう!!」
菜摘の隣に座る鳴海
鳴海の肩にもたれる菜摘
二人は夜空を見ている
再び一つの流星群が流れる
菜摘「(夜空を見ながら)鳴海くん」
鳴海「(夜空を見ながら)今度はなんだ?」
菜摘「(夜空を見ながら)ごめんね」
再び一つの流星群が流れる
鳴海「(夜空を見ながら)どうして謝るんだよ」
菜摘「(夜空を見ながら)謝りたくなったの」
鳴海「(夜空を見ながら)謝ってばっかいると、みんなから馬鹿だと思われちまうぞ」
菜摘「(夜空を見ながら)うん・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(夜空を見ながら)菜摘・・・」
菜摘「(夜空を見ながら)ん?」
再び一つの流星群が流れる
鳴海は菜摘にキスをする
二人はウッドチェアに座ったまま、夜空を眺めている
◯332早乙女家菜摘の自室(日替わり/朝)
パソコンと向かい合ってタイピングをしている菜摘と嶺二
嶺二はゆっくりタイピングしている
汐莉と雪音は一台のパソコンを使い、部誌のデザインをしている
明日香は部屋の隅の方で横になって眠っている
テーブルの上の時計は7時半を指している
部屋に入る鳴海
鳴海「おはよう」
菜摘「(タイピングをしながら)おはよ、今日もぴったりだね」
鳴海「おう。(周りを見ながら)てかお前らいつ来たんだよ・・・」
菜摘「(タイピングをしながら)私は6時半」
鳴海「早過ぎだろ・・・」
汐莉「鳴海先輩が遅いんですよ」
雪音「ほぼ遅刻だよね」
鳴海「おい、7時半集合なのになんで俺が遅刻なんだ」
汐莉「実質遅刻です、10分前行動してください」
鳴海「そんな無茶苦茶な・・・」
菜摘「(タイピングをしながら)明日香ちゃんと嶺二くんは4時半に作業再開したんだって」
鳴海「(驚いて)4、4時半!?」
嶺二「(ゆっくりタイピングをしながら)鳴海・・・見ろよ・・・明日香の野郎・・・先に書き終えて寝やがった・・・」
鳴海「そりゃ寝るだろ・・・」
汐利「嶺二先輩、後どのくらいかかります?」
嶺二「(ゆっくりタイピングをしながら)ざっと見積もって2、3時間ってところだ・・・」
汐莉「なが・・・」
雪音「菜摘はどう?」
菜摘「(タイピングをしながら)後30分くらい」
雪音「了解。菜摘が書き終わったら少し仮眠して良い?」
菜摘「(タイピングをしながら)うん」
鳴海「そうだ南」
汐莉「何ですか?」
ポケットからUSBメモリを取り出す鳴海
鳴海「(USBメモリを汐莉を差し出して)俺の書いたやつを部誌にまとめてくれ」
汐莉「(USBメモリを受け取り)分かりました」
パソコンにUSBメモリを挿し込む汐莉
鳴海「菜摘、手伝うことがあるな・・・」
菜摘「(タイピングをしながら)私はいいから、嶺二くんを手伝ってあげて」
鳴海「(残念そうに)そ、そうか・・・分かった・・・」
嶺二の元に行き、隣に座る鳴海
鳴海「手伝うぞ相棒」
嶺二「お、おお・・・ありがてえ・・・早速なんだが・・・この文章、変じゃ・・・」
汐莉「(大きな声で)鳴海先輩!データが入ってません!!」
鳴海「(片言で)データガ・・・ハイッテナイ・・・?」
ゆっくり立ち上がる鳴海
嶺二「な、鳴海!手伝ってくれるんじゃないのかよ!?」
鳴海「ま、まあ待て・・・落ち着くんだ、で、データはあるはず・・・」
嶺二「お、おい!!」
鳴海はゆっくり歩き、汐莉と雪音の元に行く
汐莉と雪音がパソコンから少し離れる
パソコンの目の前に座る鳴海
USBメモリのデータを確認する鳴海
鳴海のUSBメモリには何一つデータが入っていない
少しの沈黙が流れる
汐莉と雪音が鳴海のことを見ている
深呼吸する鳴海
鳴海「か、考えられるのは一つ・・・(かなり間を開けて)アメリカの諜報局員が俺の書いた本をハッキングし、盗作した。きっと・・・今頃俺の書いた本は、プロパガンダ映画の原作になってるだろう・・・これはある意味名誉なことかもしれないな・・・俺の才能が開花したってわけだ」
再び沈黙が流れる
菜摘、嶺二がタイピングをやめ、鳴海のことを見る
笑顔になる汐莉
つられて笑顔になる鳴海
汐莉「(笑顔で)鳴海先輩のバーカ!単細胞!クソガキ!クズ!アホ!カス!」
鳴海「(驚いて)お、お前なんて言葉を・・・」
汐莉「先輩、脳味噌足りてます?もしかしてどっかに落としてきたんじゃないんですか?」
鳴海「お、おい!!言っとくけど俺先輩だからな!!」
汐莉「威張るなよバカ」
嶺二「(汐莉の方を見ながら 驚いて)嘘だろ・・・汐莉ちゃんの言葉遣いが・・・」
汐莉「鳴海先輩はモラルとマナーをわきまえてください」
鳴海「お前が言うなお前が!!!」
汐莉「だって意味不明なこと言っててうざかったし・・・しかも寝不足のせいでイライラして・・・」
鳴海「俺はボケてたんだよ!!!」
汐莉「ここでボケるとは・・・さすが先輩、頭おかしいですね」
鳴海「うるせえ!!!ボケずにはいられねえ状況だろ!!!」
汐莉「(怒りながら)黙って探せばいいんですよ黙って。わけのわからないことを言ってる暇があるならって頭を使えって話です」
鳴海「悪かったな・・・ふざけて・・・」
汐莉「(怒りながら)もういいからデータを探してください」
笑いながら怒られている鳴海を見ている菜摘
鳴海「(小声でボソッと)黙って、ね・・・」
鳴海はマウスを使い、USBメモリの中に部誌のデータがないか確認するが、データは見つからない
鳴海「(頭をかきながら)ダメだ、なくなっちまったぁ・・・」
雪音「パソコンにはデータないの?」
鳴海「ない、USBに移行した後消した」
嶺二「終わったなお前」
鳴海「違いねえ・・・」
菜摘「わざとじゃないし、しょうがないよ」
鳴海「マジでごめん・・・」
汐莉「よくそんなすぐ諦められますね、もう怒りを通り越して呆れちゃいます」
鳴海「諦めるも何も、この世から消えちまったんだ・・・探しようがねえ・・・」
汐莉「(ため息を吐き)鳴海先輩のパソコン、貸してください」
鳴海は立ち上がり、部屋の隅に置いてあったパソコンを取ってくる
鳴海はパソコンを起動し、汐莉に貸す
汐莉はWordを開き、ゴミ箱の中からあっさり鳴海の本のデータを復元させる
鳴海「み、南・・・そ、そのデータは・・・」
汐莉「鳴海先輩の部誌ですね」
鳴海「お、おお!!!」
菜摘「消しちゃったんじゃないの?」
汐莉「ゴミ箱の中にあったので復元出来ました」
菜摘「さすがだね汐莉ちゃん」
汐莉「鳴海先輩の諦めが早過ぎるんですよ」
汐莉は筆箱から新しくUSBメモリを取り出す
鳴海のパソコンにUSBメモリを挿し込む汐莉
鳴海の本のデータを保存し直し、USBメモリに移動させる汐莉
汐莉は自分が使っていたパソコンにUSBメモリを挿し込む
鳴海の本のデータを開く汐莉
汐莉「これで合ってますか?」
鳴海「お、おう!!マジで助かったわ!!今度何かおごるぞ!!」
汐莉「ではたこ焼きをお願いします」
鳴海「いいとも!!」
汐莉「(パソコンから鳴海のUSBメモリを抜き鳴海に差し出して)先輩のUSBは多分壊れてるので買い換えてください」
鳴海「(USBメモリを受け取り)わ、分かった」
鳴海「(声 モノローグ)合宿最終日・・・南に罵倒されるという衝撃的な朝を迎えた俺は、怒りつつも、データを復元してくれる南に対して、これが菜摘の言っていた協力し合って部誌を作る、ではないかと馬鹿なりに思った」
時間経過
パソコンと向かい合ってタイピングをしている嶺二
嶺二の隣にいるのは鳴海と菜摘
鳴海と菜摘は嶺二の作業を見ている
明日香は変わらず部屋の隅で横になって眠っている
明日香の隣では雪音が横になって眠っている
汐莉は20Years Diaryで日記をつけている
あくびをする汐莉
テーブルの上の時計は10時半を指している
鳴海「嶺二、いつ終わるんだ?もう10時半だぞ」
嶺二「(タイピングをしながら)あとちょっとだから待っててくれ・・・」
汐莉「(日記を書きながら)嶺二先輩、タイピングに時間がかかり過ぎです」
嶺二「(タイピングをしながら)これでも最速で文字を打ってるんだよ・・・」
菜摘「ブラインドタッチ出来ないの?」
嶺二「(タイピングをしながら)無理。鳴海だってブラインドタッチは出来ねーだろ?」
鳴海「まあな・・・」
汐莉「(日記を書きながら)菜摘先輩、今度文芸部の活動でブラインドタッチの練習をしましょうよ」
菜摘「そうだね。明日香ちゃんと雪音ちゃんも出来なさそうだし」
鳴海「タイピングはをしばらくしたくねえんだが・・・」
嶺二「(タイピングをしながら)俺も・・・」
汐莉「(日記を書きながら)何甘えたこと言ってるんですか、先輩たちは文芸部に所属してるんですよ?」
鳴海「菜摘、文芸部はマルチに活動するべきだよな?」
菜摘「えっ・・・内容にもよるけど・・・」
嶺二「(タイピングをしながら)文芸部で遠足とかどーよ?」
汐莉「(日記を書きながら)嶺二先輩は遊びたいだけじゃないですか」
嶺二「(タイピングをしながら)だって俺たち卒業しちまうんだぜ?」
汐莉「(日記を書くのをやめて)それは・・・そうですけど・・・」
汐莉は日記を閉じる
菜摘「確かに・・・卒業する前に何かしらはしたいかも・・・」
鳴海「思い切って海外旅行でもするか」
菜摘・汐莉・嶺二「(嶺二はタイピングの手を止めて 三人大きな声で)か、海外!?!?」
鳴海「嫌なら国内だな」
汐莉「(大きな声で)ま、待ってください先輩!!海外旅行はしてみたいです!!」
嶺二「(大きな声で)お、俺もだ!!!外国には興味がある!!!」
菜摘「(大きな声で)鳴海くん!!!海外旅行で決定だよ!!!」
鳴海「(引きながら)お、お前ら・・・海外にめちゃくちゃ興味があるのか・・・」
首を何度も縦に振る菜摘、嶺二、汐莉
鳴海「た、例えば・・・どこの国に・・・」
菜摘「(大きな声で)アメリカ!!!!」
汐莉「(大きな声で)フランス!!!!」
嶺二「(大きな声で)テキサス!!!」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(小声でボソッと)聖徳太子の気持ちだ・・・冗談で海外って言ったのに・・・(少し間を開けて)えっとー、アメリカって言ったのが菜摘か?」
菜摘「うん!!!アメリカ!!というかハワイに行きたい!!」
鳴海「あー・・・なるほど・・・」
菜摘「スフィンクスがあるからエジプトでも良いよ!!」
鳴海「え、エジプトか・・・か、考えとくわ・・・」
菜摘「やった!!!」
鳴海「(小声でボソッと)か、考えとくだけだからな・・・(深くため息を吐き)で・・・南はフランスか?」
汐莉「はい!!!フランス行きたいです!!!」
鳴海「何でフランスに行きたいんだ?」
汐莉「フランスってオシャレな感じがするじゃないですか!!」
鳴海「JKが楽しめるような国じゃないと思うんだが・・・」
汐莉「女なら一度は憧れる国!!それがフランスなんですよ!!」
菜摘「分かる!!フランスも行ってみたいもん!!」
鳴海「あ、憧れるんだな・・・覚えとくよ・・・」
汐莉「お願いします先輩!!」
鳴海「お、おう・・・れ、嶺二はどこの国に行きたいんだ?」
嶺二「俺はテキサスに行きたい」
再び沈黙が流れる
鳴海「嶺二・・・あのな・・・」
嶺二「何だよ?」
鳴海「いや・・・その・・・」
嶺二「文句があるなら、テキサスの大統領にチクって、鳴海だけ入国出来ないようにすんぞ」
鳴海「大統領って・・・お前・・・」
嶺二「どうせ鳴海はテキサスに興味ねーんだろ」
鳴海「きょ、興味っていうかさ・・・」
顔を見合わせる菜摘と汐莉
嶺二「あれだよ、フランスの男版の国だと思って良い。屈強な男たちが馬を乗り回しながら、リボルバーで悪者を倒すんだ。それも女のために銃を抜くんだよ、憧れるだろ?鳴海」
鳴海「格好良いとは思うけど・・・嶺二、かんちが・・・」
嶺二「やっと分かってくれたか鳴海!!!やっぱテキサスは男が憧れる国だな!!菜摘ちゃんと汐莉ちゃんだって、いざって時はガンマンに助けてもらいたいだろ?西部劇みたいによ」
汐莉「嶺二先輩」
嶺二「ん?」
汐莉「テキサスは国じゃありません」
嶺二「(笑いながら)おいおい、先輩を馬鹿にするんじゃない。テキサスは立派な国だ」
鳴海「じゃあお前、テキサスの国旗を見たことあるのかよ?」
嶺二「当たり前だろ」
鳴海「どんなデザインなのか教えてくれ」
嶺二「アメリカと、メキシコと、カナダの国旗を混ぜ合わせたような柄だ」
頭を抱える鳴海
菜摘「嶺二くん、テキサスはアメリカだよ」
嶺二「んなわけあるか、お前らテキサス国民に失礼だぞ」
鳴海「嶺二、テキサスの大統領の名前を言えるか?」
嶺二「大統領なんか知らん」
鳴海「調べてみろよ」
嶺二「何で?」
鳴海「良いから調べろ」
嶺二「嫌だ」
鳴海「何で嫌なんだよ?」
嶺二「めんどいだろ」
ポケットからスマホを取り出す鳴海
鳴海はテキサスについて調べ、嶺二にスマホを差し出す
嶺二は渋々スマホを受け取り、鳴海が開いたを見る
嶺二「(スマホを見ながら)こりゃ酷いサイトじゃねーか・・・書いてあることのほとんどが間違ってやがる」
嶺二からスマホを奪い取る鳴海
別のサイトを開き、嶺二に差し出す鳴海
スマホを受け取り、鳴海が開いたサイトを見る嶺二
嶺二「(スマホを見ながら)どうなってるんだ・・・?ここも間違いしか書いてないぞ・・・」
鳴海「テキサスはアメリカだ」
嶺二「(スマホを見ながら)は?そんなわけねーだろ・・・」
再び嶺二からスマホを奪い取る鳴海
地図アプリを開き、テキサスの位置を嶺二に見せつける鳴海
鳴海「(スマホを見せつけながら)分かるか、テキサスなんて国はねえんだよ!!!テキサスはアメリカの中にある一つの州だ!!!」
再び沈黙が流れる
嶺二「(呆然としながら)お、俺が・・・間違えていたのか・・・?」
汐莉「そうです、先輩が間違えていたんです」
菜摘「多分だけど、嶺二くんが想像してるような西部劇の舞台はもうないと思う」
嶺二「えっ・・・」
鳴海「ああ。今の時代にガンマンなんていねえよ。みんなスマホゲーしかしねえ時代なんだぞ?」
嶺二「そ、そうなのか・・・?」
鳴海「やっぱり海外旅行はやめようぜ。俺らにはまだ早い」
菜摘「そんなぁー!!」
汐莉「嶺二先輩だけ置いていけば良くないですか」
嶺二「お、俺だけ置いていくなよ!!!」
鳴海「安心しろ、嶺二は置いて行かない」
嶺二「な、鳴海・・・」
鳴海「みんなで沖縄に行こう!!それで良いだろ!!!」
菜摘・嶺二・汐莉「(大きな声で)えぇー!!!!!」
汐莉「(小声でボソッと)沖縄とかしょぼ・・・」
菜摘「沖縄じゃつまんないよ!!!」
鳴海「沖縄だってほとんど外国だぞ?」
菜摘「海外行きたいのに!!!」
嶺二「そーだそーだ!!!海外に行かせてくれないならボイコットを起こしてやる!!!」
鳴海「(嶺二の頭を叩いて)お前はさっさと部誌を書きやがれ」
嶺二「いてっ!」
汐莉「菜摘先輩、もう私たちだけで海外行きません?鳴海先輩と嶺二先輩は二人で仲良く沖縄で遊んできてください」
鳴海「お、おい!!!仲間外れにすんなよ!!!」
嶺二「せめて俺は仲間に入れて・・・」
汐莉「お断りします、男子禁制です」
嶺二「菜摘ちゃん!!海外に行くんだったら俺も連れてってくれ!!絶対役に立つから俺!!」
菜摘「う、うん・・・」
鳴海「菜摘!!!別行動はダメだ!!!みんなで一緒に行かなきゃ思い出にならねえよ!!!
菜摘「そうだねぇ・・・みんなが納得するようなプランを考えるよ・・・」
嶺二「おなしゃす部長!!!」
菜摘「でもその前に、部誌を完成させよっか」
うなだれる嶺二
嶺二「へーい・・・」
時間経過
嶺二が書いた本のデータを部誌にまとめている汐莉
鳴海、菜摘、嶺二は汐莉の側で、部誌が完成するのを見ている
明日香は変わらず部屋の隅で横になって眠っている
明日香の隣では変わらず雪音が横になって眠っている
テーブルの上の時計は12時前を指している
汐莉「菜摘先輩、これで良いですか?」
菜摘「(頷き)バッチリだよ!ありがとう!」
完成した部誌を保存する汐莉
嶺二「(体を伸ばしながら)やっと完成かぁー。時間かかったなぁー」
鳴海「(嶺二を睨み)誰のせいだよ?」
嶺二「ごめんごめん」
パソコンを閉じる汐莉
菜摘「明日、部室で印刷だね」
鳴海「おう」
嶺二「そういや明日学校かよ・・・めんどくせえ・・・」
鳴海「明日ばかりは遅刻して良いってことにしねえか?」
菜摘「えー・・・」
鳴海「俺朝起きれる自信ねえよ・・・」
嶺二「それな・・・」
汐莉「菜摘先輩、イベント会場には夕方か夜までに着けば良いんですよね?」
菜摘「その予定だよ」
汐莉「だったら2時くらいまで寝ません?」
菜摘「そうだね・・・もうここで寝ちゃおっか・・・」
大きなあくびをする嶺二
嶺二「りょーかい」
早速横になろうとする嶺二
鳴海「ま、待て嶺二!まだ寝るな」
嶺二「んー?」
鳴海「寝過ごすとやべえし、全員スマホのアラームをセットしないか?」
嶺二「一人がセットすれば良くね?」
鳴海「それじゃあ起きねえかもしれねえだろ、スマホ四台作戦の方が安心だ」
嶺二「仕方ねーな・・・」
ポケットからスマホを取り出す鳴海、菜摘、嶺二、汐莉
鳴海「良いかみんな、午後の2時にアラームをセットしろ。午前の2時にセットするんじゃないんだぞ?」
汐莉「先輩こそ、気をつけてくださいね」
鳴海「お、おう」
スマホのアラームを午後の2時にセットする鳴海たち
鳴海「誰かしらが起きることを祈ろう・・・2時過ぎても寝てる奴がいたらどんな手段を使ってでも叩き起こせ」
菜摘「分かった」
鳴海「よし、二時間後に会おう」
頷く菜摘、嶺二、汐莉
扉付近の壁にもたれる鳴海、菜摘
鳴海と菜摘は自分の近くにスマホを置く
嶺二はポケットにスマホをしまい、その場で横になる
汐莉はテーブルにスマホを置き、そのまま突っ伏す
鳴海、菜摘、嶺二、汐莉はすぐに眠る
鳴海「(声 モノローグ)無事、四台のスマホは爆音を奏で、俺たちは中途半端に睡眠を得て起こされることとなった」
◯333早乙女家前(昼過ぎ)
セミが鳴いている
快晴
菜摘の家の前には二台の車が駐車されている
レクサスとトヨタのアクアの二台
車の側にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、潤、すみれ
車のトランクを閉めるすみれ
すみれ「みんな忘れ物ない?」
明日香「はい、大丈夫だと思います」
潤「忘れ物はフリマで売るからな」
すみれ「潤くん!」
潤「何かね」
すみれ「子供みたいなこと言わないの!」
潤「忘れ物がないようにしてるんだよ」
すみれ「(呆れながら)全くもう・・・」
鳴海「あの・・・すみれさん」
すみれ「何?鳴海くん」
鳴海「車はどちらに乗れば・・・」
すみれ「確か・・・前回は男女別だった?」
鳴海「は、はい・・・そうなんですけど・・・」
嶺二「菜摘ちゃん。今日は男女混合にしねえか?」
菜摘「良いよ」
嶺二「菜摘ちゃんは鳴海と一緒にお父様の車で・・・」
潤「誰がお父様だお兄様と呼べ」
嶺二「お、お兄様の車で良いよな?」
菜摘「うん」
鳴海「(嶺二に向かって 小声で)一人で逃げようとするんじゃねえ」
嶺二「(小声で)菜摘ちゃんと二人で乗れるんだから良いだろ」
鳴海「(小声で)そういう問題じゃあねえんだよ・・・」
菜摘「(鳴海と嶺二を見ながら不思議そうに)どうしたの?二人とも」
鳴海「な、何でもない!」
嶺二「鳴海は菜摘ちゃんと過ごしたいから、他の奴らは乗ってくんなってさ!!因みにお兄様の車を御所望らしいぜ!!」
鳴海「れ、嶺二!!!てめえ!!!」
菜摘「(顔を赤くしながら)な、鳴海くん・・・それなら私にこっそり言ってくれれば良かったのに・・・」
鳴海「な、菜摘!!!ち、違うんだ!!!!これは嶺二の嘘で・・・」
菜摘「えっ?違うの?」
鳴海「(大きな声で)い、いや!!!違くはない!!!」
明日香「はっきりしなさい鳴海」
雪音「中途半端な男は一番嫌われるよ?」
潤「おいクソガキ!!菜摘を泣かせたら殺すぞ!!」
鳴海「(大きな声で)わ、分かってるよ!!!」
汐莉「それで、何が言いたいんですか先輩」
少しの沈黙が流れる
鳴海の顔が赤い
鳴海「(顔を赤くしたまま)な、菜摘と一緒に乗せてください・・・」
すみれ「はーい、じゃあ菜摘は鳴海くんと仲良くね?」
菜摘「(顔を赤くしたまま俯き)う、うん・・・」
潤「何で俺が新婚旅行のドライバーを務めなきゃなんねえのか・・・」
鳴海「新婚旅行じゃねえからな!!!!」
潤「あ、そうなの?」
鳴海「(小声でボソッと)何が、あ、そうなの、だ・・・ヘッタクソなリアクションしやがって・・・」
嶺二「(鳴海の背中を何度も叩き)良かったな鳴海!!三人で楽しくやれよ!!」
嶺二を睨む鳴海
雪音「嶺二の狙い通りだね、ハーレムだよ」
嶺二「へっ?狙い通り?ハーレム?」
雪音「自分以外女の子しかいない車にしたかったんじゃないの?」
嶺二「いや・・・そんなつもりは・・・(嬉しそうに)まあいっか!!結果オーライってやつだ!!」
汐莉「ハーレムって言われると嫌ですね。なんか凄く不快です」
明日香「ね、生理的に受付ない」
菜摘「私、お母さんの車でも良いよ。鳴海くんは?」
鳴海「お、おう!!!構わないぜ!!!嶺二ハーレムも解消出来るしな!!!」
今度は鳴海が嶺二の背中を思いっきり何度も叩く
潤「んなら、お嬢さんたちと嶺二は俺のふぁるこんに乗りな」
嶺二「マジかよ・・・最悪だ・・・」
鳴海「(嶺二の背中を何度も叩きながら)元気出せって」
嶺二「クソ・・・」
潤「鳴海、うちの女たちに何かしたら・・・」
鳴海「しねえよ・・・」
すみれ「じゃあ皆様、行きましょうか」
すみれはアクアの運転席に、鳴海と菜摘は後部座席に乗り込む
潤はレクサスの運転席に、明日香、汐莉、雪音は後部座席に乗り込む
嶺二は嫌そうにレクサスの助手席に乗り込む
二台の車が発進する
◯334アクア車内(昼過ぎ)
運転しているすみれ
後部座席に座っている鳴海と菜摘
車のフロントガラスからレクサスが見える
静かな車内
すみれ「二人とも、寒くない?」
鳴海「あ、はい」
菜摘「大丈夫だよ」
すみれ「良かった」
外を眺めている鳴海と菜摘
すみれ「ごめんね鳴海くん」
鳴海「(外を見るのをやめて)え、何がです?」
すみれ「潤くん、鬱陶しいでしょ」
鳴海「い、いえ・・・こちらこそ、ご迷惑ばかりかけてすいません」
すみれ「良いの。私たち賑やかなのが好きだから」
鳴海「そ、そうですか・・・」
すみれ「鳴海くん、お父さんに凄く似てるんだよね。だから、潤くんもテンションが上がっちゃうのかも」
鳴海「親父に?」
すみれ「そう、お父さんに」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん、お父さんのこと覚えてる?」
鳴海「あんまり・・・ほぼ記憶にないな・・・写真なら見たことあるけど」
菜摘「そうなんだ・・・」
鳴海「まあ、確かに俺は親父似かもな。姉貴が母親似だし」
菜摘「鳴海くんもお姉さんに似てると思うけどなぁ」
鳴海「俺、そんな中性的な顔立ちしてるか?」
菜摘「中性的ではないかもしれないけど、目元とか鼻とか似てるよ」
鳴海「自分じゃ姉貴や母親に似てるとは思わねえんだけどなぁ・・・」
すみれ「鳴海くんはご両親二人に似てるのよ、容姿と性格がね」
鳴海「性格もですか?」
すみれ「(頷き)性格も」
菜摘「お母さん、鳴海くんのご両親と高校一緒だったんだよね?」
すみれ「そう。同じ波高生、私は鳴海くんのお母さんと同級生だったし、潤くんは鳴海くんのとお父さんと同級生」
鳴海「なんか・・・そうやって聞くと凄く不思議な感じがするな・・・」
菜摘「そうだね。これも運命だよ」
鳴海「運命か・・・」
菜摘「うん」
再び沈黙が流れる
◯335緋空寺/波音の部屋(500年前/昼過ぎ)
白瀬波音が寝泊まりしている畳の部屋
部屋にはかつて波音が戦で使っていた日本刀、小刀、古い書物、既に書いた分の波音物語が置いてある
机に向かって正座をしている波音
波音は筆を使い、和紙に波音物語を書いている
菜摘「(声)張り巡らされた線で、私たちは結ばれてるんだ」
◯336緋空寺/旧波音の部屋(昼過ぎ)
かつて波音が住んでいた畳の部屋
部屋は暗く、荒んでいる
畳はボロボロで、虫に食われたり、カビが生えたりしている
机、棚などは荒らされ、ほとんど物は残っていない
部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、部屋全体にホコリが溜まっている
菜摘「(声)過去から・・・今・・・人の縁や、小さな行いが、連なってて・・・」
◯337一条家雪音の自室(昼過ぎ)
綺麗に整理整頓された雪音の机
机の上には雪音と智秋が笑顔で写っている写真が飾られている
机の棚には、学校の教材と共に波音町にまつわる資料や歴史の本が置いてある
その中の一冊には波音物語がある
菜摘「(声)導いてるんじゃないかな?」
◯338アクア車内(昼過ぎ)
話をしている鳴海、菜摘、すみれ
赤信号で停車するアクア
鳴海「導いてるって?何に?」
菜摘「それは・・・私にも分からないけど・・・」
◯339レクサス車内(昼過ぎ)
法定速度ギリギリで運転をしている潤
助手席で怖がっている嶺二
明日香と汐莉がスピードを落とすように注意しているが、潤は気にしていない
雪音は興味なさそうに扉にもたれ外を眺めている
菜摘「(声)きっと良い未来が待ってると思う」
鳴海「(声)菜摘が言うなら間違いないな」
◯340滅びかけた世界:緋空浜(昼過ぎ)
晴れている
ゴミ掃除をしているナツ、スズ、老人
浜辺にゴミの山がある
ゴミの山は、空っぽの缶詰、ペットボトル、重火器、武器類、骨になった遺体などが積まれて出来ている
ゴミの山の隣には大きなシャベルが砂浜に突き刺さってる
ゴミの山から数百メートル先の浜辺は綺麗になっている
浜辺には水たまりが出来ており、水たまりの中にもゴミがある
三人は軍手をしている
三人それぞれに一台ずつスーパーのカートがある
三台のカートのカゴにはビニール袋が敷いてあり、その中にゴミを入れていくナツ、スズ、老人
ナツは疲れており、ゴミ拾いのスピードが遅い
スズは楽しそうにゴミを拾っている
老人はペースを乱さず、黙々とゴミを拾っている
ゴミを拾うたびに老人の首に下げているドッグタグが揺れる
Narumi Kishiと彫られた老人のドッグタグは、太陽の光に反射しキラキラと光っている
すみれ「(声)鳴海くん、生きていく上で大事なのはね、幸せな時に何をするかなの」
◯341神谷家志郎の自室(夜)
本だらけの部屋に机と椅子がある
物が多く散らかった部屋
机の上には缶ビールが置いてある
神谷はミケランジェロの彫刻が載った本を見ている
ゆっくり本をめくり続ける神谷
ピエタ像が載っているページを開く神谷
本をめくっていた神谷の手が止まる
すみれ「(声)どうしたって、生きてれば悪いこともある」
神谷はピエタ像をそっと指で撫でる
缶ビールを一口飲む神谷
◯342アクア車内(昼過ぎ)
話をしている鳴海、菜摘、すみれ
信号が青になり、車が発進する
すみれ「辛い時に、幸せな記憶を思い出せれば・・・なんとかやってける場合もあるのよ。人は幸せに執着する生き物だから、また幸せになりたいと心の底から願うでしょうし」
菜摘「そうだね。幸せを知ってるかどうかで、見方も変わるよ」
鳴海「幸せ、か・・・」
すみれ「だから、今ある幸せは全部吸収しちゃいなさい」
鳴海「吸収しまくって、幸せが無くなったらどうするんです?」
すみれ「そしたらまた幸せを作ればいいでしょう?若いうちは体力もあるんだから」
少しの沈黙が流れる
すみれ「大人になると、自分一人を幸せにするのだってすごく難しいの」
菜摘「大人は不幸ってこと?」
すみれ「(少し笑いながら)そんなことはないけど、生きてる分だけ、幸せに鈍感になっちゃうかもしれないね。(少し間を開けて)だから、幸せは噛み締めるべきだし、自分が恵まれていることを感謝しなきゃいけないの」
菜摘「うん」
鳴海「俺って・・・恵まれてるのかもな・・・」
菜摘「えっ?」
鳴海「両親は事故で死んじまったけど・・・姉貴が面倒を見てくれたし・・・今や合宿をする仲間がいるんだから、良い人間関係を持ったんじゃねえか俺・・・」
菜摘「(少し笑いながら)鳴海くんって、放っておけないところがあるもんね」
鳴海「菜摘に言われたくないんだが・・・」
菜摘「私、鳴海くんよりもしっかりしてる自信あるよ?」
鳴海「しっかりしてるとかは別だ」
菜摘「えぇー・・・なんか納得いかないんだけど・・・」
すみれ「菜摘はそそっかしいからねぇ」
菜摘「そうかなぁ・・・」
時間経過
車内で話をしている鳴海、菜摘、すみれ
菜摘「お父さん達って、そんなに怒られてばっかだったの?」
すみれ「うん。怒られに登校してたようなものだった」
鳴海「すいません・・・うちの親父が・・・」
すみれ「(笑いながら)大丈夫、昔謝ってもらったから」
鳴海「もしかして、親父って不良でした・・・?」
すみれ「半分、不良だったかな・・・若さ故にギラギラしてる部分もあったし、かと思えば真面目な時もあったし・・・」
菜摘「今の鳴海くんと同じだ」
鳴海「俺は不良じゃないけどな」
菜摘「半分不良でしょ?」
鳴海「待ってくれ・・・不良要素なんかどこにもないだろ・・・」
菜摘「サボり癖があるのは不良の証だよ」
鳴海「最近はサボってないぞ」
菜摘「まあね、鳴海くんはエセヤンキーかも」
鳴海「それはそれで恥ずかしいステータスだな・・・」
すみれ「(笑いながら)鳴海くんはお父さん顔負けの不良かと思っていたけど、違うんだ」
鳴海「お、俺は真面目ですよ」
すみれ「それならよろしい。(少し間を開けて)残念ながら潤くんも、鳴海くんのお父さんも、真面目な学生だったとは言えないからね」
菜摘「お父さん達はどんな学生だったの?」
すみれ「よく喧嘩してたよ。下らないことでずっと口論してるの」
菜摘「鳴海くんと嶺二くんの関係みたいだね」
すみれ「まさにそう」
菜摘「お父さん達も漫才してたんだ・・・」
鳴海「おい、俺たち別に漫才はしてないからな」
菜摘「いや、あれは漫才だよ。それかコント」
すみれ「あー、そう言われてみれば・・・」
鳴海「な、納得しないでくださいよ」
すみれ「良いコンビじゃない」
鳴海「まあ・・・」
すみれ「学生時代、私が一番驚いたのは、潤くんと鳴海くんのお父さんが、波高中の窓ガラスを割って行ったことなんだけど・・・鳴海くんと嶺二くんはそんなことしてないでしょ?」
菜摘「ま、窓ガラスを割って行った!?」
鳴海「す、するわけないじゃないですかそんなこと!!」
すみれ「良かった」
菜摘「何で窓ガラスを割ったの?」
すみれ「菜摘、潤くんには内緒よ」
菜摘「う、うん」
すみれ「私も後から話を聞いてびっくりしたんだけど、二人はね、音を立てずに窓ガラスを破ろうとしてたらしいの。失敗したらまた次の一枚・・・っていう流れで何枚も割って・・・」
菜摘「鳴海くん、音を立てずに窓ガラスを割ってみたいって思う?」
鳴海「思うわけねえだろ!!!」
菜摘「今やったら即退学かな?やっちゃダメだよ、鳴海くん」
鳴海「やらんわ!!!(少し間を開けて)俺の親父・・・半分どころか完全に不良じゃないっすか・・・」
すみれ「今のエピソードだけを聞くとね。潤くんも、鳴海くんのお父さんも若かったから」
菜摘「他にお父さんたちのエピソードって何かないの?で、出来れば良い話で・・・」
すみれ「二人とも優しかった・・・頼み事は何でも聞いてくれたし、紳士だったと思う」
鳴海「窓ガラスを割る紳士って・・・紳士なのかそれは・・・」
すみれ「意外かもしれないけど、二人ともモテてたよ」
菜摘「えっ!?お父さんも!?」
すみれ「うん、時々、下駄箱にラブレターが入ってたからね」
鳴海「マジかよ・・・俺と嶺二はモテたことなんか一回もねえのに・・・そこは違うんだな・・・」
すみれ「気付いてないだけじゃない?」
鳴海「気付きますよ、自分に向けられてる好意くらい」
菜摘「鳴海くんと嶺二くんはモテたいの?」
鳴海「俺は別に。嶺二は一年の時からモテたいって言ってるけど」
菜摘「そうなんだ」
鳴海「俺と嶺二と明日香はモテねえからな・・・それは三年間の付き合いでもう分かってることだし」
菜摘「え、でも、明日香ちゃんはモテてるんじゃない?」
鳴海「響紀から一方的な好意を向けられてるだけで、モテてるとは言わなくないか?」
菜摘「響紀ちゃんだけじゃないよ、この間二年生の男の子からも告白されたらしい」
鳴海「(驚いて)えっ!?マジで!?」
菜摘「うん。昨日銭湯で教えてくれたんだ」
鳴海「あの明日香が告白されたのか・・・」
菜摘「鳴海くんと嶺二くんは、明日香ちゃんを女の子として見てないんでしょ」
鳴海「見てねえってわけじゃねえけど・・・告白はびっくりだ」
菜摘「明日香ちゃんって、自己評価が低いだけで男子からは人気なんじゃないの?」
鳴海「さあ・・・あっ、でも昔、明日香のことが気になるから紹介してくれって頼まれたことがあったな・・・」
菜摘「やっぱり、明日香ちゃんモテるんだよ」
鳴海「そうなのか・・・問題は、明日香が誰を選ぶかだが・・・その2年の男子には何て返事をしたんだ?」
菜摘「断ったって」
鳴海「ならまだ響紀には可能性があるな・・・」
菜摘「明日香ちゃん、響紀ちゃんにはまだ断ってないよね」
鳴海「ああ、嫌がってはいるけどな・・・」
菜摘「嶺二くんが言ってたけど、だんだん私も、あの二人はくっつくんじゃないかって思えてきたよ」
鳴海「マジ?」
菜摘「うん。明日香ちゃん押しに弱そうだもん」
鳴海「明日香と響紀か・・・分からねえもんだな・・・」
◯343赤レンガ倉庫/アイリッシュイベント会場(夕方)
アイリッシュイベント会場に辿り着いた鳴海たち
人で溢れているアイリッシュイベント会場、イベント会場の横には赤レンガ倉庫が立っている
牛肉のシチュー、ラム肉のグリル、パイ料理、フィッシュアンドチップス、酒類、食器、紅茶、お菓子、羊毛の織物、アクセサリーなどを売っている出店がたくさんある
会場にはたくさんの丸テーブルと椅子があり、飲み食いをしている人が利用している
会場の奥には大きなステージがあり、ステージの上ではアイリッシュ音楽のライブが行われている
会場全体にアイルランドの国旗である緑、白、オレンジが飾り付けされている
時刻は5時前
鳴海「(辺りを見ながら)思ってたよりも広いな」
菜摘「そうだね。どこから周る?」
明日香「周る前に何か食べさせて・・・」
嶺二「いきなり飯かよ?普通お土産優先だろ」
明日香「あんたお腹空てないの?」
嶺二「いや、空いてるけど?」
汐莉「なら何か食べませんか?私もお腹空きました」
嶺二「お土産は?」
雪音「後で買えばよくない?」
嶺二「(嫌そうに)後でぇ・・・?」
鳴海「嶺二、ここで集団行動が出来なきゃ海外旅行なんて無理だぞ」
嶺二「んなことはわかってるけどよ・・・あーあ・・・おみやげぇ・・・」
鳴海「後で買え」
嶺二「分かったよ・・・」
すみれ「ご飯の後、自由行動にしましょうか」
潤「そうだな。いつまでもガキの面倒は見てられない」
すみれ「潤くん!」
潤「え?どうした?」
すみれ「子供の面倒を見るのが大人の仕事です!」
潤「仕方ねえな・・・人生の先輩として、子供たちの子守をするか・・・」
すみれ「頼みますよ」
潤「おう、着いてこい子供たち!!」
潤が歩き出し、その後ろを着いて行く鳴海たち
明日香「(小さな声で)ねぇ菜摘」
菜摘「ん?」
明日香「(小さな声で)あの人、本当に菜摘の父親なの?」
菜摘「そうだよ」
明日香「(小声でボソッと)不思議な親子ね・・・」
時間経過
夜になっている
椅子に座っている鳴海たち、丸テーブルの上には紙皿のゴミが置いてある
食事を終えた鳴海たち
鳴海「んじゃあ適当に店でも周るか・・・」
菜摘「うん!」
嶺二「鳴海と菜摘ちゃん、二人で周って来いよ」
顔を見合わせる鳴海と菜摘
菜摘「ぶ、文芸部の合宿なのに私と鳴海くんだけで周るのはちょっと・・・」
鳴海「あ、ああ。こういう時はみんなで見て周るもんだろ」
少しの沈黙が流れる
雪音「誰も止めないよ」
鳴海「えっ?何が?」
雪音「二人がここでデートをしても、誰も止めないよ」
鳴海「あー・・・そ、そうなのか・・・?」
チラッと潤の顔を見る鳴海
潤「なぜ俺を見る」
鳴海「(顔を逸らし)い、いや・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「娘さんを・・・借りていいっすか」
潤「菜摘が・・・嫌がってなければな」
菜摘の方を見る鳴海
鳴海「菜摘・・・一緒に、周らないか?」
菜摘「(頷き)い、いいよ」
鳴海と菜摘の顔が赤くなっている
拍手をする嶺二
嶺二「(拍手をしながら)やったな鳴海」
鳴海「お、おう」
潤「我が娘が離れて行く悲しさ・・・これも親の宿命か・・・」
すみれ「(潤の頭を撫でながら)潤くんは私と周れるでしょう?」
潤「すみれ・・・俺にはお前しかいない・・・」
すみれ「(潤の頭を撫でながら)はいはい」
嶺二「こ、これは・・・二人一組でコンビを作る流れだな!!汐莉ちゃん!!俺と一緒に・・・」
汐莉「嫌です」
嶺二「何でだよ!?」
汐莉「むしろ何で私が嶺二先輩と一緒に見て周るんですか」
嶺二「いや・・・そういう流れだったじゃん今・・・」
汐莉「流れとか、知りません」
明日香「嶺二は一人で周ったらいいんじゃない?」
嶺二「冷た過ぎるだろお前ら・・・」
雪音「(笑いながら)お情けで一緒に見てあげてもいいよ、お情けだけどね」
嶺二「お情けって・・・残酷過ぎるぜ・・・」
すみれ「(腕時計を見て)じゃあ7時まで自由行動ね。集合はステージの近く広場にしましょうか」
鳴海「了解っす」
時間経過
それぞれ別行動をして出店を見て周っている鳴海たち
食器の出店を見ている鳴海と菜摘
花柄のデザインがされた食器がたくさん売られている
店員はアイルランド人
菜摘「(お皿を手に取り、鳴海に差し出して)鳴海くんの家に一枚どう?」
鳴海「(お皿を受け取り見ながら)俺んちじゃ使わないな・・・」
菜摘「どうして?綺麗なのに」
鳴海「(お皿を見ながら)割れやすいからさ。こういう皿はちょっとしたことですぐ粉々になるんだ」
菜摘「あー、素材が弱そうだもんね」
鳴海「(お皿を元あった位置に戻して)そうそう。やっぱ食器類はデザインより耐久面だな」
アイルランド人の店員が鳴海と菜摘のことを睨んでいる
アイルランド人の店員1「(鳴海と菜摘を睨みながら 片言の日本語で)うちの皿、弱くない。落としても割れない」
鳴海「えっ?」
アイルランド人の店員1「(鳴海と菜摘を睨みながら 片言の日本語で)うちの皿、日本のやつより強い。絶対」
鳴海「いや、ここの皿は割れやすい素材で出来てるだろ」
アイルランド人の店員1「(鳴海と菜摘を睨みながら 片言の日本語で)日本の皿の方が弱い、すぐ粉々。うちの皿を買った方がいい」
鳴海「確かにデザインは良いと思うよ、でも素材がダメなんだよ」
菜摘「な、鳴海くん・・・」
アイルランド人の店員1「(鳴海と菜摘を睨みながら 片言の日本語で)お客さん文句しか言わない、日本人の悪いところ、頑固」
鳴海「あんたも相当頑固・・・」
菜摘が鳴海の手を引っ張ってその場から走って逃げる
鳴海「(引っ張られながら)な、菜摘!!おい!!」
菜摘「(鳴海の手を引っ張りながら)いいから!!」
人ゴミをかき分けながら走って行く鳴海と菜摘
食器の出店から少し離れたところで立ち止まる鳴海と菜摘
鳴海「(息切れしながら)ハァ・・・ハァ・・・いきなり連れ去るなよ・・・」
菜摘「(息切れしながら)ハァ・・・ハァ・・・だ、だって・・・喧嘩になるかと思ったから・・・」
鳴海「(息切れしながら)ハァ・・・喧嘩なんか・・・するわけねえだろ・・・」
菜摘「(息切れしながら)ハァ・・・で、でも・・・お店の人怒ってたし・・・」
呼吸を整えながらゆっくりと歩き出す鳴海と菜摘
鳴海「怒らせたつもりはないんだけどな・・・国際問題に発展しなくてよかったわ」
菜摘「私が鳴海くんと世界を守ったんだよ?」
鳴海「ご苦労さんヒーロー」
菜摘「全然労いが感じられない・・・」
鳴海「お疲れちゃん」
菜摘「喧嘩を防いだのに・・・お疲れちゃん・・・」
鳴海「すまんすまん。(少し間を開けて)感謝の証としてスーパーヒーローの菜摘に何かプレゼントをしてあげよう」
菜摘「えっ、いいの?」
鳴海「おう」
菜摘「じゃあさっきのお皿をお願いしようかな」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ボケたな?」
菜摘「うん」
鳴海「ボケる以外の回答はなかったのか・・・」
菜摘「うーん・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「皿以外なら何でも買ってやるぞ」
菜摘「あっ!じゃあスフィ・・・」
鳴海「スフィンクスも無しな」
菜摘「えぇー・・・何でもじゃないじゃん・・・嘘つき・・・」
鳴海「せめてこの場で買える物してくれ」
菜摘「そう言われてもなぁ・・・」
考え込む菜摘
菜摘「なんだろ・・・欲しいものって・・・」
鳴海「もしかして金か?金が欲しいのか?」
菜摘「い、要らないよお金なんて」
鳴海「菜摘、今のボケだぞ」
菜摘「あっ・・・そっか・・・」
鳴海「(正面にあるお店を指差して)あの店はどうだ?アクセサリーとか小物が売られてるみたいだぞ」
鳴海が指差したのはシルバーアクセサリーの出店
数人の女性客がお店のシルバーアクセサリーを見ている
菜摘「行ってみる」
シルバーアクセサリーの出店に向かう鳴海と菜摘
シルバーアクセサリーの出店を覗く鳴海と菜摘
ケルト模様のブレスレット、十字架のネックレス、王冠型の指輪、クローバーのデザインがされたキーホルダーなど、様々なシルバーアクセサリーが売られている
店員は日本人
鳴海「(シルバーアクセサリーを見ながら)おおっ!これは厨二心がくすぐられるな・・・」
菜摘「(シルバーアクセサリーを見ながら)うん、可愛いのがたくさんだ・・・」
鳴海「気になるものはありそうか?」
菜摘「(シルバーアクセサリーを見ながら)うーん・・・」
菜摘はシルバーアクセサリーをゆっくり見ながら考え込んでいる
鳴海は王冠型の指輪を手に取る
鳴海「(王冠型の指輪を菜摘に見せて)菜摘、これは?王冠の指輪」
首を横に振る菜摘
鳴海「(王冠型の指輪を元の位置に戻して)そうか・・・」
菜摘「リングは結婚する時がいいよ」
鳴海「そ、そうだな・・・け、結婚する時に買おう」
菜摘「(シルバーアクセサリーを見ながら)うん」
菜摘は再びシルバーアクセサリーを見ながら考え込んでいる
鳴海も適当にシルバーアクセサリーを見ている
菜摘「(クローバーのキーホルダーを手に取り、鳴海に見せて)これがいい!」
菜摘が見せたのはステレンス性で出来た三つ葉の小さなキーホルダー、葉の部分はグリーンのストーンが付いている
鳴海「(驚いて)おいおい・・・キーホルダーよりネックレスとかブレスレットの方がいいだろ」
菜摘「鳴海くん、学校でアクセサリーをつけるのは禁止されてるんだよ」
鳴海「一応禁止されてるだけな。先生も没収しないし、もはや幻の校則だぞ」
菜摘「校則は校則だもん」
鳴海「でもキーホルダーよりは他の物を買った方が・・・」
菜摘「これがいいの。(少し間を開けて)小さくて可愛いし、色も綺麗だから」
鳴海「本当にいいのか?」
菜摘「うん」
鳴海「分かったよ。(手を差し出して)それ貸してくれ」
菜摘はクローバーのキーホルダーを鳴海に差し出す
クローバーのキーホルダーを受け取る鳴海
鳴海はクローバーのキーホルダーをレジに持って行く
会計を済ませる鳴海
クローバーのキーホルダーが入った小さな紙袋を菜摘に差し出す鳴海
鳴海「(紙袋を差し出して)はいよ」
菜摘「(紙袋を受け取り)ありがとう!」
鳴海「おう。次はどうする?」
腕時計を見て時間を確認する菜摘
時刻は7時前
菜摘「そろそろステージの方に向かった方がいいかも」
鳴海「早いな・・・なら行くか」
頷く菜摘
集合場所であるステージ方面へ向かう鳴海と菜摘
時間経過
ステージ付近で明日香たちを探している鳴海と菜摘
ステージではライブが行われていない
ステージ上にはスタンドマイク4本、エレキギター、リードギター、ドラム、スピーカーなどの機材が置いてある
ステージ付近はテーブルと椅子がなく、ライブを観覧するための広場がある
広場には人が集まり始めている
菜摘「(辺りを見ながら)いないね」
鳴海「(辺りを見ながら)明日香や嶺二はともかく、なんですみれさんたちもいないんだ」
菜摘「(辺りを見ながら)みんな買い物をしてるのかな」
すみれ「菜摘〜!」
振り返る鳴海と菜摘
すみれとたくさんのお土産を持った潤がやって来る
菜摘「お母さん、他のみんなは?」
すみれ「見てないけど・・・まだ集まってないの?」
菜摘「うん」
潤「これだからお子ちゃまは・・・俺たちだけでも先にふぁるこんに戻るか」
鳴海「混乱を招くからやめろ」
潤「いやぁ〜、待ち疲れたなぁ〜」
鳴海「あんた今来たばっかだろ・・・」
鳴海たちの周囲から歓声が上がる
ステージではバンドがライブを始める
女性ボーカリストがローリングストーンズのSatisfactionを歌っている
少しするとお土産を持った明日香、嶺二、汐莉、雪音が鳴海たちのところにやって来る
ライブの歌声と歓声のせいで周囲がうるさい
明日香「遅れてごめん!」
菜摘「えっ!?何!?」
明日香「(大きな声で)遅れてごめん!!!」
菜摘「(大きな声で)気にしないで!!!」
嶺二「(大きな声で ステージを指差して)おい!!!あれ響紀ちゃんじゃね!?!?」
ステージを見る鳴海たち
ライブを行なっていたのは四人組のバンドで、メインボーカルを勤めているのが響紀
響紀以外のバンドメンバーは強面の中年男性、全員レザーのジャケットを着ている
ステージ近くの広場にどんどん人が集まって来る
菜摘「(大きな声で)ほんとだ!!!」
すみれ「(大きな声で)知り合いなの!?!?」
菜摘「(大きな声で)うん!!!後輩だよ!!!」
嶺二「(大きな声で)もう少し前に行って聞き行こうぜ!!!」
鳴海「(大きな声で)そうだな!!!」
鳴海たちは人をかき分けて、ステージに近寄る
盛り上がっているライブ
響紀「(♪Satisfaction)I can’t gat no satisfaction I can’t get no satisfaction ’Cause I try and I try and I try and I try」
潤「(大きな声で)なかなか上手いな!!!!」
ライブを楽しんでいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、潤、すみれ
汐莉と雪音は楽しんでいない
雪音はライブに興味がなさそう
俯く汐莉
響紀「(♪Satisfaction)When I’m watchin’ my T.V. And that man comes on to tell me How white my shirts can be」
嶺二「(明日香の手を引っ張り 大きな声で)もっと前に行くぞ!!!!」
明日香「(嶺二に引っ張られながら 大きな声で)ちょ!!ちょっと!!!!」
明日香と嶺二は人をかき分けて最前列に行く
響紀「(♪Satisfaction 明日香を指差して)I can’t get no, oh no, no, no Hey hey hey, That’s what I say」
響紀に指を差されて明日香の顔が赤くなる
響紀「(♪Satisfaction 明日香を指差したまま)I can’t gat no satisfaction I can’t get no girl reaction ’Cause I try and I try and I try and I try I can’t get no, I can’t get no」
嶺二「(大きな声で)良いぞ響紀ちゃん!!!!」
汐莉がライブの広場から一人静かに離れて行く
響紀「(♪Satisfaction)When I’m ridin’ round the world And I’m doin’ this and I’m signing that And I’m tryin’ to make some girl Who tells me baby better come back later next week ‘Cause you see I’m on a losing streak I can’t get no, oh no, no, no」
周囲を見る菜摘
菜摘は汐莉がいないことに気付く
鳴海「(大きな声で)菜摘!!!!俺たちも前に行こう!!!!」
菜摘「(大きな声で)ダメ!!!凛ちゃんが!!!凛ちゃんがいないの!!!」
鳴海「(大きな声で)ライブの音で聞こえない!!!!誰がいないって!?!?」
俯く菜摘
盛り上がっているライブの中、鳴海と菜摘の間に少しの沈黙が流れる
顔を上げる菜摘
右手で自分自身を指差す菜摘
その後、右手で鳴海を指差す菜摘
右手の人差し指と中指を立てて見せる菜摘
指を2本立てたまま、菜摘は首を横に振る
両手の人差し指を使ってばつ印を作って見せる菜摘
菜摘は右手の人差し指、中指、薬指を立てて見せる
指を3本立てたまま、首を何回か縦に振る菜摘
その後、菜摘は両手で蝶が飛び立つような動作を見せる
夜空を指差す菜摘、その後地面を指差す菜摘
円を描くように右手の人差し指で周囲を指差す菜摘
意味が分からず、呆然と菜摘の動作を見ている鳴海
響紀がSatisfactionを歌い終え、ライブの観客から大きな拍手が巻き起こる
菜摘は走って汐莉を探しに行く
鳴海「(大きな声で)おい!!!!菜摘!!!!」
鳴海の声は菜摘に届かない
鳴海「何だったんだ・・・今のは・・・」
雪音「分からないの?」
鳴海「分からん・・・」
雪音「そう」
ステージの上のバンドはSatisfactionに続き、ローリングストーンズのPaint It Blackを演奏し始める
明日香、嶺二、潤、すみれ(ライブの観客たち)は歓声を大きな歓声を上げる
雪音はどこかに行こうとする
鳴海「(大きな声で)一条!!!どこ行くんだよ!!!」
雪音を追いかける鳴海
汐莉はステージからかなり離れたところにあるベンチに座っている
汐莉を見つける菜摘
菜摘「汐莉ちゃん!」
汐莉「あっ・・・菜摘先輩・・・」
菜摘「横、座ってもいい?」
汐莉「(少し横にずれて)どうぞ」
汐莉の横に座る菜摘
菜摘「どうしたの?汐莉ちゃん」
汐莉「その・・・座りたくて・・・」
菜摘「大丈夫?疲れちゃった?」
汐莉「いえ・・・大丈夫です」
俯く汐莉
汐莉「(俯いたまま)このイベントのこと・・・響紀から教えてもらったんですよね」
菜摘「うん、そうだよ」
チラッとステージの方を見る汐莉
汐莉「響紀がライブをやるって、先輩は知ってたんですか」
菜摘「ううん。確か響紀ちゃんは来れないって言ってたし・・・」
汐莉「それ、明日香先輩を呼ぶための嘘ですね・・・響紀がいるって聞いてたら、きっと明日香先輩は嫌がって来なかったでしょうから・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「汐莉ちゃん、響紀ちゃんと何かあったの?」
汐莉「何もありませんよ、何も」
雪音について行っている鳴海
雪音はクッキーやチョコレートなどのお菓子が売られている売店を見ている
店員はアイルランド人
鳴海「一条は分かってるのか?」
雪音「(チョコレート菓子を手に取って見ながら 興味なさそうに)何が?」
鳴海「菜摘の・・・ハンドサインの意味だよ」
雪音「(チョコレート菓子を元あった位置に戻して 興味なさそうに)分かってるかもね」
お菓子の売店から離れ、歩き出す雪音
雪音について行く鳴海
鳴海「教えてくれ」
雪音「嫌」
鳴海「どうして?教えてくれよ」
雪音「自分で考えない人って嫌いなの」
鳴海「俺に言ってんのか」
雪音「鳴海以外に誰かいる?」
鳴海「そうかよ。俺だって馬鹿なりに考えてるつもりなんだけどな」
雪音「その調子で考えればいいんじゃない。私に付き纏わずに」
鳴海「自分で考えるより、一条に教えてもらった方が早いんだ」
雪音「馬鹿ね、そんな簡単に教えるわけないでしょ」
鳴海「(小声でボソッと)クソッタレ・・・」
雪音「えっ?何か言った?」
鳴海「言ってない」
ステージからどんどん離れる鳴海と雪音
ステージからかなり離れた椅子に座る雪音
雪音は丸テーブルのゴミを手で払って捨てる
雪音に向かい合って座る鳴海
鳴海の位置から、ベンチに座って話をしている菜摘と汐莉が見える
鳴海「一条・・・お前、最近変だぞ」
雪音「どこが?」
鳴海「どこって・・・全体的に変だろ」
雪音「前は変じゃなかったと?」
鳴海「ああ」
雪音「むしろ今は通常運転だから」
少しの沈黙が流れる
いつの間にか明日香、嶺二に並び最前列でライブを楽しんでいる潤とすみれ
ライブは変わらず盛り上がっている
響紀「(♪Paint It Black)I wanna see it painted, painted black Black as night, black as cool I wanna see the sun blotted out from the sky」
変わらずライブを楽しんでいる明日香、嶺二、潤、すみれ
盛り上がっている観客たち
菜摘と汐莉はステージからかなり離れたところにあるベンチに座って、話をしている
菜摘「(汐莉の手を握って)汐莉ちゃんの力になりたいの。汐莉ちゃんは・・・ずっと私に仕えてくれたから・・・」
汐莉「菜摘先輩・・・」
菜摘「(手を握ったまま)お願い、悩みがあるなら私に教えて」
汐莉「悩みなんて・・・」
◯344◯259の回想/汐莉が見た夢:滅びかけた世界の緋空浜(昼)
今にも雨が降りそうな曇り空
浜辺に一人立っている汐莉
汐莉以外に人はいない
浜辺には戦車、重火器、使い古された小型船、空っぽの缶詰、ペットボトル、腐敗し死臭を放っている魚、骨になった遺体がそこら中に転がっている
強い風が吹き、波は荒れている
波の音が大きく響いている
汐莉の周りには誰もいない
鳴海と菜摘の声が緋空浜に響き渡っている
鳴海「(声)菜摘・・・残念だけど・・・朗読劇は中止にするべきだ・・・」
菜摘「(声)嫌だよ・・・みんな今日まで頑張ってきたのに・・・」
辺りを見る汐莉
汐莉「(辺りを見ながら)先輩・・・?どこにいるんですか?」
汐莉の周りには誰もいない
鳴海と菜摘の声が緋空浜に響き渡っている
鳴海「(声)菜摘・・・・頼むから無理をしないでくれ・・・このまま朗読劇の練習を続けたって菜摘の体が・・・」
菜摘「(声)私の体調が悪化したくらいで諦めちゃうの?鳴海くんが言ってた全力って、その程度だったの?」
鳴海「(声)そんな言い方・・・あんまりじゃないか・・・俺は菜摘のことが心配で・・・」
菜摘「(声)私は大丈夫・・・大丈夫だから、朗読劇をやらせて・・・」
遠くの方で雷が落ちる
ポツポツと小雨が降り始める
◯345回想戻り/赤レンガ倉庫/アイリッシュイベント会場(夜)
響紀がPaint It Blackを歌い終え、ライブの観客から大きな拍手が巻き起こる
菜摘と汐莉はステージからかなり離れたところにあるベンチに座っている
菜摘は汐莉の手を握っている
汐莉「私心配なんです・・・菜摘先輩の体が・・・」
菜摘「(驚いて 手は握ったまま)えっ・・・私の体?」
汐莉「はい・・・」
菜摘「(手を握ったまま)汐莉ちゃん、私は大丈夫だよ。合宿をする元気だってあるんだから」
少しの沈黙が流れる
汐莉「菜摘先輩、体調、何ともないですか・・・?」
菜摘「(手を握ったまま頷き)もちろん」
再び沈黙が流れる
ステージの上のバンドはPaint It Blackに続き、ローリングストーンズのDoom And Gloomを演奏し始める
響紀「(観客に向かって)それじゃあラストの曲いくぜ!!!!Doom And Gloom!!!!!」
歓声を上げる観客たち(明日香、嶺二、潤、すみれ)
響紀がDoom And Gloomを歌い始める
響紀「(♪Doom And Gloom)I had a dream last night That I was piloting a plane And all the passengers were drunk and insane I crash landed in a Louisiana swamp Shot up a horde of zombies But I come out on top」
鳴海は雪音と向かい合って話をしている
雪音「私は変えたの、だからもうあなたのイメージの私とは違う」
鳴海「イメチェンしたってことだな」
雪音「変わったのは私じゃない」
鳴海「何言ってんだ。変わったのは一条だろ」
雪音「(前のめりになって)私は変わってない、元に戻っただけ。これが本来の、無理をしてない私。今までの才色兼備な私はね、無理して作ってたの。分かる?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(イライラしながら)じゃあ何が変わったんだよ?一条は何を変えたんだよ?」
雪音「語弊があったかもしれない・・・私は変えてもらった、と言うべきかな・・・」
鳴海「(イライラしながら)誰に?」
再び沈黙が流れる
雪音「ごめんなさい」
鳴海「(イライラしながら)何で謝るんだ」
雪音「鳴海は何も分かってないから」
鳴海「(イライラしながら)謝る気ないだろ」
雪音「謝ってるのに酷い言い方」
鳴海「一条、俺と嶺二のことが嫌いなのは分かったよ。けどさ、その態度の方がよっぽど酷いぞ」
雪音「別に二人のことは嫌ってないよ」
鳴海「おいおい、無理すんな」
雪音「ほんとほんと、嫌いじゃないんだって。馬鹿だなぁって思いながらいじってるだけだから」
鳴海「無知な俺たちを馬鹿にするのは楽しいだろ?」
雪音「うん」
鳴海「馬鹿にするのもいい加減にしてくれ」
雪音「逆に、逆にだけど・・・私から何を聞きたいの?」
鳴海「全部だ」
雪音「じゃあ・・・ヒントを出してあげる・・・(少し間を開けて)さっきの菜摘の動作は、あなたたち自身のことを指してるの」
鳴海「あなたたち自身って・・・俺と菜摘のことか?」
雪音「自分で考えて」
盛り上がっているライブの観客たち(明日香、嶺二、潤、すみれ)
響紀「(♪Doom And Gloom)Baby won’t you dance with me I’m feeling kind of hurt Baby won’t you dance with meeeee Come on Dance with me I’m sitting in the dirt Baby won’t you dance with me」
響紀がDoom And Gloomを歌い終える
バンドが演奏を終えると、観客から大きな拍手が巻き起こる
指笛を鳴らしている潤
響紀、そしてバンドメンバーたちは観客に向かって頭を下げ、ステージ裏に戻る
ライブが終わり、広場からは人がどんどん離れて行く
嶺二「明日香!!裏に行って響紀ちゃんのとこ行くぞ!!」
明日香「え、いいよ・・・」
嶺二「いいとか言ってる場合じゃねえ!!すみれさん!!おっさん!!俺たち裏に行ってきます」
すみれ「良いけど、明日の学校は平気なの?」
嶺二「何とかなるっす!!!」
明日香「れ、嶺二、私行くなんて言って・・・」
嶺二は明日香の腕を引っ張って、ステージ裏に連れて行く
顔を見合わせる潤とすみれ
潤「すみれ、子供たちがいない間に買い物しないか」
すみれ「えぇー・・・またー?」
潤「何度だって買い物はするぞ」
すみれ「無駄使いしないでよー」
潤「なるべくな」
すみれと潤は手を繋いで、買い物をしに行く
ステージ裏は大きなタープテントが建ててあり、パイプ椅子と机が幾つか置いてある
響紀は椅子に座りながらバンドメンバーと喋っている
ステージ裏にやってきた明日香と嶺二
嶺二「響紀ちゃん!!お疲れっす!!」
響紀「(椅子から勢いよく立ち上がり)嶺二先輩!!明日香様!!来て下さってありがとうございます!!!」
嶺二「あったりめえよ!!」
明日香「(小声でボソッと)だから様はやめてってば・・・」
バンドメンバーの男1「こいつら、響紀のダチか」
響紀「話したでしょ?学校の先輩」
バンドメンバーの男1「そうかそうか・・・」
嶺二「響紀ちゃん、腹減ってねえか?」
響紀「空いてます」
嶺二「俺なんか適当に買ってくるから、その間明日香と喋ってろよ」
響紀「い、良いんですか!!!!」
明日香「(小さな声で 嶺二に向かって)れ、嶺二!一人にしないでよ!」
嶺二「(小さな声で 明日香に向かって)良いじゃねえか、ライブ楽しませてもらったんだから」
明日香「(小さな声で 嶺二に向かって)そ、そうだけど・・・一人は・・・」
嶺二「(明日香の話を遮って)じゃあ決まりだな!明日香と響紀ちゃんはそこら辺の椅子に座っててくれ」
響紀「はい!!!」
嶺二は走ってステージ裏から出て行く
明日香「れ、嶺二ってば!!ねえ!!」
嶺二は戻って来ない
響紀はペットボトルを水を飲み干して、ゴミ箱に投げ入れる
響紀「行きましょう明日香様!!!」
明日香「う、うん・・・」
ステージ裏から出て行こうとする明日香と響紀
バンドメンバーの男「(大きな声で)明日香!!!!」
明日香「(驚いて振り返り)は、はい!!」
バンドメンバーの男「(頭を下げて)響紀を・・・頼みます」
明日香「わ、分かりました・・・」
響紀「(明日香の袖を引っ張って)明日香様!!早く早く!!」
明日香「さ、様じゃなくて先輩ね・・・」
響紀「えー・・・」
ステージ裏から出て行く明日香と響紀
菜摘と汐莉はステージからかなり離れたところにあるベンチに座っている
汐莉はステージ裏から明日香と響紀が出てきたことに気がつき、二人を目で追う
菜摘も明日香と響紀のことに気づく
菜摘「明日香ちゃんたちのところに行く?」
首を横に振る汐莉
菜摘「そっか・・・一人になりたい?」
再び首を横に振る汐莉
汐莉「行かないでください・・・」
菜摘「うん、ここにいる」
少しの沈黙が流れる
鳴海と雪音、菜摘と汐莉たちから少し離れたところにある椅子に座る明日香と響紀
ちょうど鳴海と雪音、菜摘と汐莉の両方が見える位置に座っている明日香と響紀
明日香「(鳴海と雪音を見ながら)鳴海が雪音と喋ってる・・・珍しい」
響紀「仲悪いんですか?」
明日香「さあ・・・別ジャンルの人間同士だからねぇ・・・」
響紀「私と明日香様は同じジャンルですか?」
明日香「し、知るわけないでしょそんなこと!!」
響紀「(悲しそうに)そうですか・・・」
明日香「だ、だいたい、私はあなたのこと全然知らないし・・・」
響紀「聞かれたら何でも答えます!!」
少しの沈黙が流れる
明日香「も、もしかして・・・何か聞けって言ってる?」
響紀「はい!!!」
明日香「えー・・・聞けって言われても困るぅ・・・」
響紀「じゃあ、私から明日香様に聞いていいですか?」
明日香「良いけど、明日香様はやめてよね」
響紀「でも先輩呼びじゃつまらないですよ」
明日香「つまらなくても良いの」
響紀「なら・・・あーちゃんと」
明日香「無理無理、キモすぎるから」
響紀「そうですか?」
明日香「あーちゃんとか呼ばれたら虫唾が走る」
響紀「何て呼ばれたら嬉しいんです?」
明日香「普通に名前で、かな」
響紀「では遠慮なく呼び捨てで、明日香と」
明日香「それはそれで解せないんだけど・・・」
響紀「じゃあ明日香ちゃんでいきましょう」
明日香「明日香ちゃんか・・・(少し間を開けて)それが一番マシかも・・・」
響紀「わーい!!明日香ちゃんだ!!これで私たちの恋も急接近です!!」
明日香「こ、恋って・・・相変わらずストレートな表現ね・・・」
響紀「純粋な乙女ですから」
明日香「はいはい・・・で、何が聞きたいの?」
響紀「明日香ちゃんは今日のライブ、楽しんでくれました?」
明日香「ま、まあ・・・楽しかった・・・けど・・・」
響紀「それは良かったです」
明日香「歌、習ってたの?」
響紀「はい、小さい頃は合唱団に所属してました」
明日香「なるほど。だからあんなに上手いのね・・・」
響紀「明日香ちゃんも軽音部入りますか?」
明日香「なんでよ・・・」
響紀「歌うのは気持ちがいいですよ」
明日香「(呆れながら)歌うのは気持ちがいい、なんて理由で入るわけないでしょ・・・部活一つでも大変なのに、掛け持ちなんて不可能だし」
響紀「でも汐莉は・・・」
明日香「(話を遮って)私は汐莉ほど器用な人間じゃないの」
響紀「そうですか・・・」
明日香「というか、響紀こそよくバンドを掛け持ちしてるしてるよね」
響紀「メインは魔女っ子少女団ですよ。今日のバンドは私サポートメンバーですから」
明日香「サポートメンバーなのにメインボーカルなんだ・・・」
響紀「パパがやってるバンドなので」
明日香「ぱ、ぱぱ!?」
響紀「はい」
明日香「えっ・・・じゃあさっき私が喋った男の人って・・・」
響紀「パパです」
少しの沈黙が流れる
明日香「そ、そうなんだ・・・あれがパパか・・・」
響紀「どうかしました?」
明日香「あ、いや・・・」
響紀「明日香ちゃんは楽器出来ますか?」
明日香「ピアノなら出来るけど・・・」
響紀「えっ!?本当ですか!?」
明日香「出来るって言っても少しだけね」
響紀「今度一緒に弾きましょうよ!!」
明日香「響紀もピアノ弾けるの?」
響紀「前弾いたじゃないですか!!ボヘミアンラプソディの時に!!」
明日香「あー・・・弾いてたかも・・・」
俯く響紀
響紀「(俯いたまま)文芸部のために弾いたのに忘れるなんて・・・」
明日香「う、嘘嘘!!ちゃ、ちゃんと覚えてるから!!!」
顔を上げる響紀
響紀「可愛いです、明日香ちゃん」
明日香「え・・・」
響紀「(笑顔で)落ち込んでるかと思いましたか?」
明日香「し、信じらんない・・・せ、先輩を騙すとかあり得ないからね!!」
響紀「私はあり得ないことを平気でこなす女です」
明日香「か、勘弁してよ・・・これ以上私の周りに変人はいらないんだから・・・」
鳴海と雪音が椅子に座って話をしている
雪音「私の目的は達成してるの」
鳴海「変えたってやつか」
雪音「そう、全力で・・・」
鳴海「だからもう全力はやめるのかよ」
雪音「それは分からない。時と場合によるし、みんなと作業をする時は真面目にやるつもり」
少しの沈黙が流れる
雪音「鳴海は何も分かってないし、何も知らないし、何も見えてない。自分が何者で、どういう運命で・・・」
鳴海「(話を遮って)悪いけど、俺は俺だ。一条からすりゃ俺はゴミクズ人間かもしれねえけど、それならそれで良いさ。ゴミクズ人間でも、毎日楽しくやってるんだからな。彼女と友達がいりゃ十分だ」
再び沈黙が流れる
雪音「全部、無くさない事ね」
雪音は菜摘と汐莉の方を見る
雪音は菜摘たちを見るのをやめる
菜摘と汐莉はステージからかなり離れたところにあるベンチに座って喋っている
汐莉「菜摘先輩・・・軽音部との合同朗読劇・・・」
菜摘「朗読劇がどうかしたの?」
汐莉「その・・・や・・・やめ・・・」
汐莉は何か言いたげな様子
菜摘「絶対、成功させようね。朗読劇」
少しの沈黙が流れる
汐莉「は、はい・・・成功・・・させましょう・・・」
菜摘「うん!!」
汐莉「先輩・・・」
菜摘「ん?」
汐莉「私・・・菜摘先輩の役に立てるように頑張りますから・・・だから、先輩は無理をしないで、鳴海先輩と仲良く過ごしてください」
菜摘「汐莉ちゃん・・・」
汐莉「本当に、菜摘先輩の体が心配なんです・・・朗読劇だって・・・先輩の体のことを思えば・・・」
菜摘は汐莉の頭を撫でる
菜摘「(汐莉の頭を撫でながら)ありがとう、汐莉ちゃんは本当に優しいね」
汐莉「本能的に好きなんです・・・先輩たちのことが・・・」
菜摘「(汐莉の頭を撫でながら)私も、汐莉ちゃんのことが大好きだよ」
汐莉の顔が赤くなる
汐莉「(照れながら)あ、ありがとうございます・・・」
鳴海は菜摘と汐莉の方を見る
両目を擦る鳴海
鳴海の視界にいるのは菜摘と汐莉ではなく、白瀬波音と凛
波音が凛の頭を撫でている
波音(菜摘)が鳴海のことに気づく
波音(菜摘)は凛(汐莉)に、鳴海が見てることを知らせる
鳴海のことに気づく凛(汐莉)
波音(菜摘)と凛(汐莉)が鳴海に手を振って来る
鳴海は呆然と波音(菜摘)と凛(汐莉)のことを見ている
鳴海はゆっくり右手の人差し指と中指と薬指を立てて、波音(菜摘)と凛(汐莉)の方に見せる
波音(菜摘)が頷く
鳴海はそのまま右手で、波音(菜摘)と汐莉(凛)に手を振り返す
鳴海「(声 モノローグ 手を振りながら)二泊三日の合宿は、寝不足で、時間がなくて、盛り沢山で、いつも通り問題ごとが山積みだった」
明日香と響紀は楽しそうに椅子に座って話をしている
鳴海「(声 モノローグ)この合宿が成功なのか、失敗なのか俺には分からないが、少なくとも部誌は刊行される」
嶺二は売店で、フィッシュアンドチップスを買っている
鳴海「(声 モノローグ)もちろん、それだけで満足は出来ない。今回の合宿が、文芸部にとって良い経験になってなきゃダメだ」
潤とすみれは羊毛の織物の売店を見ている
売店には毛糸、ブランケット、マフラー、クッションカバーなどが売られている
潤とすみれは手を繋いでいる
鳴海「(声 モノローグ)期待と不安・・・俺は少しだけ祈った、明日の文芸部が悪くならないことを・・・」
鳴海は変わらず、波音(菜摘)と凛(汐莉)に手を振っている
波音(菜摘)と凛(汐莉)も鳴海に手を振り返している
鳴海「(手を振りながら)一条、俺、運命なんか信じちゃいなかったけどさ、今は運命があって良かったって思ってるよ」
雪音「どうして?」
鳴海「(手を振りながら)馬鹿だからな俺。運命がなかったら迷子になっちまうよ」
雪音「そうね」
◯346滅びかけた世界:緋空浜(昼過ぎ)
晴れている
ゴミ掃除をしているナツ、スズ、老人
浜辺にゴミの山がある
ゴミの山は、空っぽの缶詰、ペットボトル、重火器、武器類、骨になった遺体などが積まれて出来ている
ゴミの山の隣には大きなシャベルが砂浜に突き刺さってる
ゴミの山から数百メートル先の浜辺は綺麗になっている
浜辺には水たまりが出来ており、水たまりの中にもゴミがある
三人は軍手をしている
三人それぞれに一台ずつスーパーのカートがある
三台のカートのカゴにはビニール袋が敷いてあり、その中にゴミを入れていくナツ、スズ、老人
スズ「(トングでゴミを拾いながら)ほらほらなっちゃん、だんだんゴミが無くなってきたよ!」
ナツ「いや・・・(ゴミ山を指差して)そっちの山に移動してるだけだし・・・」
スズ「(トングでゴミを拾いながら)細かいな〜なっちゃんは〜」
ナツ「ねえ、一人で全部のゴミを片付けられると思ってるの?」
老人「(トングでゴミを拾いながら)出来る、出来ないに拘るつもりは無い」
ナツ「出来ないってことじゃん・・・」
老人「(トングをゴミを拾いながら)言いたいことは分かるよ、出来ないことに挑戦しても無駄だって思ってるんだろう?」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)うん」
老人「スズはどう思う?出来ないことに挑戦するのは無駄だと思うか?」
スズ「(ゴミを拾いをやめて)人生に無駄なことはないってお母さんが言ってた」
老人「(トングでゴミを拾いながら)良いお母さんだな」
スズ「(トングでゴミを拾いながら)うん、すぐ怒ったけど、良いお母さんだった」
老人「(トングでゴミを拾いながら)ナツ、そういうことだよ。出来なくても、無駄じゃない」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)どうかな・・・こんな世界、無駄なことの方が多いに決まってる」
老人「(トングでゴミを拾いながら)そうか?俺が君らくらいの歳の時は、それこそ無駄に人がいたぞ」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)人は無駄じゃない」
スズ「(トングをゴミで拾いながら)うんうん、人はたくさんの方が良い」
老人のカートの中はゴミでいっぱいになっている
老人はカートをゴミ山まで引き、ゴミ山の前で止まる
カートからカゴを取り出し、中に入っていたゴミをゴミ山に捨てる
老人のカートからゴミがなくなる
老人「(カートを引きながら)自由がなくてもいいのか?」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)私たち、もう一生分の自由を味わったよ」
スズ「(トングをゴミを拾いながら)そーそー」
トングでゴミ拾いを始める老人
老人「(トングでゴミを拾いながら)なるほど、現代っ子は違うな・・・俺がガキの頃は、どれだけ自由に過ごせるかって考えたもんだが・・・」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)勿体ない時間の使い方だ・・・」
スズ「(トングでゴミを拾いながら)ジジイは子供の頃からゴミ拾いしてたの?」
老人「(トングでゴミを拾いながら 笑って)まさか、ゴミ拾いなんかしてないよ」
スズ「(トングでゴミを拾いながら)なんだぁ・・・小さい頃からゴミ拾いをしてるんじゃないんだぁ・・・」
老人「(トングでゴミを拾いながら)俺がこの活動をし始めたのはそんな昔じゃない」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)いつなの?」
老人「(トングでゴミを拾いながら)はっきりとした日数は分からないが・・・大半の人間が死んだ後なのは確かだ」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)つまり・・・世界が滅びかけてから始めたってこと?」
老人「(トングでゴミを拾いながら)そういうことになるな」
少しの沈黙が流れる
ゴミを拾いをやめ、顔を見合わせるナツとスズ
スズ「どうして?」
老人「(トングでゴミを拾いながら)何が?」
スズ「どうして人がいなくなってからゴミ拾いを始めたの?」
老人の動きが止まる
老人「何故なら・・・俺が戻って来た時には・・・」
再び沈黙が流れる
スズ「みんな、死んじゃってたんだね・・・」
老人「(ゆっくり頷き)そうだ・・・」
老人は俯き、ゴミで溢れた浜辺を見たまま動かなくなる
老人「(俯いたまま)みんな・・・死んでいた・・・」
ナツとスズは心配そうに、再び顔を見合わせる
ナツ「あんたの知り合いは・・・本当に誰も生きていないの?」
老人「(顔を上げて)ああ」
ナツ「ずっと一人だったんでしょ?寂しくなかったの?」
老人は深いため息を吐き出す
老人「寂しいと感じても、開いた穴は塞がらん。それが人生だ」
少しの沈黙が流れる
スズ「悲しいね」
頷き老人
スズ「でもジジイ」
老人「なんだ?」
スズ「今は私たちがいるから、寂しくないんじゃない?」
老人「そうだな・・君らを見てると昔の仲間を思い出すよ。(少し間を開けて)彼らが・・・今でも生きていたら良かったんだが・・・」
スズ「私たちがジジイの新しい仲間だよ!!ねえなっちゃん!!」
ナツ「え、仲間って・・・」
スズ「(大きな声で)仲間なの!!!」
ナツ「わ、分かったから大きな声出すな・・・」
老人「(微笑みながら)ジジイは久しぶりに仲間が出来て嬉しいよ」
ナツ「わ、私はまだあんたのことを信じるって決めたわけじゃない!!」
スズ「なっちゃんは本当に頭が固いなぁ・・・」
老人「信頼は勝ち取れば良いだけの話だ」
ナツ「し、信頼を勝ち取るって・・・」
老人「よろしく頼むよ、ナツ、スズ」
スズ「うん!!」
ナツ「(小声でボソッと)何今更かしこまってるんだ・・・」
スズは鼻歌を歌いながらゴミ拾いを再開する
スズが歌ってるのはQUEENのWe Will Rock You
老人「クイーンか・・・懐かしいな・・・」
スズ「(トングでゴミを拾いながら)うぃーうぃるろっきゅうだよ!!私のお母さんが昔演奏してた曲!!」
老人「クイーンのメンバーに女はいないはずだが・・・」
スズ「(トングでゴミを拾いながら)演奏したって言ってたもん!!」
老人「なるほど・・・まあいいだろう・・・」
スズはQUEENのWe Will Rock Youを鼻歌で歌いながら、ゴミを拾いをしている
老人「ナツ」
ナツ「な、何」
老人「別れは唐突だ」
ナツ「わ、分かってるよ」
老人「自分自身と・・・スズを大切にな」
ナツ「(頷き)う、うん」
老人「(小声でボソッと)君たちはこの世界の希望だ・・・」
ナツ「えっ?なんか言った?」
首を横に振る老人
老人「また・・・三人だな・・・」
ナツ「三人・・・?」
老人「いや・・・何でもない」
老人はトングでゴミ拾いを始める
ナツは不思議そうに、老人のことを見ている
スズ「(トングでゴミを拾いながら ナツのことを見て)なっちゃん!一人だけサボるのずるい!」
ナツ「さ、サボってないし!」
ナツは慌ててトングでゴミを拾い始める
Chapter6合宿編はここまでとなります。 Chapter6、「向日葵が教えてくれる、波には背かないで」自体はまだまだ続きますので、今後も応援よろしくお願いします。今回投稿した♯1から4はChapter6の1/3にも満たない量かもしれませんが、如何せん、書くのに時間がかかってしまうため、次の投稿がいつになるのか分からないです、すみません。
今後は更に、過去や未来との繋がりが強くなる展開になります。過去のChapterを読み返しておいた方が良いかもしれません。鳴海たちは少しずつ"決別”し、各々の道へ進んで行きますが、そこもまた、面白いポイントの一つになればなと思っております。