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Chapter6合宿編♯3 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6合宿編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。怒った時の怖さとうざさは異常。Chapter5の終盤に死んでしまう。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。


安西先生 55歳女子

家庭科の先生兼軽音部の顧問、少し太っている。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


波音物語に関連する人物


白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。

Chapter6合宿編♯3 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯286貴志家鳴海の自室(日替わり/朝)

 セミが鳴いている

 曇っている

 時刻は七時半過ぎ

 制服姿の鳴海

 学校用のカバンとは別の大きなカバンに着替えを詰め込む鳴海

 ノートパソコンと、パソコンのケーブルやマウスを大きなカバンに入れる鳴海


◯287波音高校三年三組の教室(朝)

 セミが鳴いている

 曇り空

 学校用のカバンと、着替えの入った大きなカバンを持って鳴海が教室に入って来る

 朝のHRの前の時間

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 菜摘、明日香、雪音が教室の窓際で話をしている

 自分の机に学校用のカバンと、着替えの入った大きなカバンを置く鳴海

 菜摘たちのところに行く鳴海


菜摘「おはよ」

鳴海「おはよう」

菜摘「荷物置いてこないの?」

鳴海「荷物なら自分の席に置いたぞ」

雪音「あんなところにあったら授業中邪魔にならない?」

鳴海「邪魔っちゃ邪魔だけど、別に気にするほどじゃないだろ」


 少しの沈黙が流れる


明日香「鳴海、見てないんでしょ?」

鳴海「え、何を?」

明日香「LINE」

菜摘「今朝連絡したんだよ?」

鳴海「今朝・・・?」


 ポケットからスマホを取り出し、LINEを見る鳴海

 文芸部のグループラインに菜摘からのメッセージが来ている

 ”部室を開けてもらったから、合宿用の荷物は部室に置いてね”という内容のLINE

 それに対して鳴海以外のメンバーはみんな返事を返している

 スマホをポケットにしまう鳴海


鳴海「わりい、手荷物がいっぱいで見れなかったわ。荷物は部室に置いてこいってことだな?」

菜摘「うん」


◯288波音高校特別教室の四/文芸部室(朝) 

 セミが鳴いている

 曇り空

 朝のHRの前の時間

 部室に合宿用のカバンを置きにきた鳴海

 教室の隅にパソコン六台とプリンターが一台ある

 プリンターの側に明日香、雪音のカバンが置いてある

 明日香、雪音のカバンは鳴海の物より更に大きい

 鳴海は雪音のカバンの隣に自分のカバンを置く


鳴海「(明日香、雪音のカバンを見ながら)こいつら・・・えらい大荷物だな・・・トランプかUNOでも入ってるんじゃな・・・」


 部室の扉が開く

 驚いて振り返る鳴海

 汐莉が部室に入って来る

 汐莉は学校のカバンと合宿用のカバンを持っている


鳴海「なんだ、南か・・・」

汐莉「おはようございます」

鳴海「うっす。(汐莉の合宿用のカバンを見て)南も合宿参加するんだな」

汐莉「はい」

鳴海「風邪はもう良くなったのか?」

汐莉「風邪と言っても軽い頭痛程度ですから、今日は元気です」

鳴海「それは良かった」


 汐莉は鳴海のカバンの隣に自分をカバンを置く

 汐莉のカバンは明日香や雪音の物に比べると小さい


鳴海「(汐莉のカバンを見て)小さいんだな、南のカバンは」

汐莉「そうですかね」

鳴海「(明日香と雪音のカバンを指差して)だって見比べてみろよ、明日香と一条のカバンより全然ちっせえじゃねえか」

汐莉「(明日香と雪音のカバンを見ながら)女子は荷物が多いんですよ」

鳴海「お前も女子だろ」

汐莉「私は別ってことで」

鳴海「なるほど・・・」

汐莉「時に先輩、菜摘先輩はどうしたんですか?」

鳴海「どうしたって・・・別にどうもねえよ。菜摘なら教室にいる」

汐莉「一緒に荷物を置きに来ないんですね」

鳴海「そりゃ俺たちだっていつも一緒にいるわけじゃねえからな」

汐莉「いつも・・・一緒にいるわけじゃ・・・ない・・・」


 俯く汐莉


鳴海「どうしたんだよ南、まだ体調が悪いんじゃないのか?」

汐莉「(俯いたまま)い、いえ・・・」

鳴海「調子が悪そうだぞ」

汐莉「(俯いたまま)鳴海先輩が菜摘先輩の側にいてあげるべきだと、そう思っただけです・・・」

鳴海「俺たち大体は一緒にいるじゃないか。むしろ、荷物を置きに行く時くらい、別行動でもいいと思うけどな」

汐莉「(俯いたまま)私が言いたいのは・・・言いたかったのは・・・(唇を噛みしめ)お二人は、一緒の時間をもっと過ごすべきなんじゃないかってことです・・・」

鳴海「お、おう・・・そうだな・・・その意見は参考にするわ・・・」


 少しの沈黙が流れる 


汐莉「(俯いたまま)戻りましょう先輩」


 汐莉は顔を逸らしたまま、部室を出ようとする

 鳴海にはその姿が、汐莉ではなく凛に見える


鳴海「し、汐莉!!待ってくれ!!」


 立ち止まって振り返る汐莉

 雲の合間から少しだけ太陽が出てくる

 部室の窓から太陽の光が差し込んでくる

 再び沈黙が流れる


鳴海「蛍は・・・(かなり間を開けて)蛍は好きか」

汐莉「(不思議そうに)蛍・・・?」

鳴海「ああ・・・(真剣な表情で)答えてくれ」

汐莉「好きですよ」

鳴海「そうか・・・」

汐莉「いきなりどうしたんです?鳴海先輩こそ調子が悪いんじゃないですか?」

鳴海「俺たち・・・昔・・・(かなり間を開けて)蛍を見ただろ・・・?」

汐莉「私と鳴海先輩が?」

鳴海「そうだ。俺と・・・菜摘と・・・」

汐莉「え?そんなことありましたっけ・・・」


 鳴海の瞳には汐莉ではなく、凛が映っている

 鳴海の瞳に映っている凛は、微笑んでいる

 

鳴海「あ、いや・・・」


 鳴海は頭を掻き、顔を逸らす


鳴海「(顔を逸らしたまま)何でもない・・・(少し間を開けて)人違いだ・・・」


 顔を上げ汐莉を見る鳴海

 さっきまでと違い、鳴海の瞳には汐莉が映っている

 凛の姿はなく、鳴海には汐莉が見えている


鳴海「遅刻になる前に戻るか・・・行こうぜ南」

汐莉「あ、はい」


 鳴海と汐莉は歩き出し、部室を出る


鳴海「(声 モノローグ)条件反射で口から漏れ出てしまった・・・間違いなく変なやつだと思われただろう・・・」


◯289波音高校三年三組の教室(朝)

 外は晴れ始めている

 教室に戻って来た鳴海

 朝のHRの前の時間

 嶺二、神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 鳴海、菜摘、明日香、雪音が教室の窓際で話をしている

 鳴海は、響紀からもらったアイリッシュフェスティバルのチラシを明日香に渡す

 菜摘がアイリッシュイベントについて、明日香と雪音に説明をしている


鳴海「(声 モノローグ)なんであんなことを聞いちまったんだ俺は・・・しかもあんなでけえ声で・・・普段呼ばない名前を呼んで・・・」


 嶺二が教室に入って来る

 嶺二は自分の席にカバンを置き、鳴海たちのところにやって来る


◯290波音高校一年六組の教室(朝)

 朝のHRの前の時間

 教室にやって来た汐莉

 教師はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 汐莉の席の周りに集まって、話をしている汐莉、響紀、詩穂、真彩 


鳴海「(声 モノローグ)合宿直前だって言うのに・・・全く・・・」


 響紀が汐莉の両手を握りしめ、喋る

 響紀のことを少し引きながら見ている詩穂と真彩

 汐莉は照れている


◯291波音高校三年三組の教室(朝)

 朝のHRの時間

 神谷が連絡事項を生徒たちに伝えている

 鳴海はボーッと外を見ている

 外は晴れ始めている

 菜摘、明日香、雪音は神谷の話を真面目に聞いている

 嶺二は机を使って、スマホを隠しながら見ている

 

鳴海「(声 モノローグ)菜摘や南に・・・ある人たちが重なって見えた・・・」


◯292◯262の回想/帰路(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 帰り道、一緒に帰っている鳴海と菜摘

 部活帰りの学生がたくさんいる

 鳴海には菜摘の姿が波音に見える

 微笑んでいる波音(菜摘)

 

◯293◯288の回想波音高校特別教室の四/文芸部室(朝)

 朝のHRの前の時間

 汐莉は顔を逸らしたまま、部室を出ようとする

 鳴海にはその姿が、汐莉ではなく凛に見える


◯294回想戻り/波音高校三年三組の教室(朝)

 朝のHRの時間 

 神谷の話を聞かず、外を眺めている鳴海


鳴海「(声 モノローグ)誰なんだ・・・何で分からねえ・・・俺はあの人たちのことを知ってるはずだ・・・」


 舌打ちをする鳴海


鳴海「(声 モノローグ)波音物語を読む前はこんなこと・・・(かなり間を開けて)いや、あの本を読んだから・・・俺は・・・そう感じてているのか・・・?波音物語に書かれていることが事実だとしたら・・・もし本当のことだとしたら・・・」


 菜摘を見る鳴海

 菜摘は真面目に神谷の話を聞いている


鳴海「(声 モノローグ 菜摘を見ながら)確かめべきじゃないのか?」


◯295◯262の回想/帰路(放課後/夕方)

 夕日が沈みかけている

 帰り道、一緒に帰っている鳴海と菜摘

 部活帰りの学生がたくさんいる


菜摘「最近の文芸部・・・バラバラな感じがしない?」

鳴海「バラバラって・・・みんなの気持ちのことか?」

菜摘「うん・・・みんな、表面的には朗読劇の成功を目指してるけど・・・本当は・・・本当は別のことを考えながらやってるんじゃないかって気がして・・・」


◯296回想戻り/波音高校三年三組の教室(朝)

 菜摘を見ている鳴海


鳴海「(声 モノローグ)そうだ、俺まで余計なことを考えたら、ますます菜摘が心配するじゃないか。あいつに余計な心配をかけるわけにはいかない。俺が菜摘を支えないとな・・・」


◯297菜摘の家に向かう道中(放課後/夕方)

 ヒグラシが鳴いている

 菜摘の家を目指している文芸部員たち

 学校帰りの学生がたくさんいる

 明日香、嶺二、汐莉、雪音が話をしている

 

嶺二「やべー・・・」

明日香「どうしたの?」

嶺二「部誌の内容を全く決めてないんだよ」

明日香「(呆れながら)部誌の中身を決める前に余計なことばっかしてるからでしょ・・・」

嶺二「うるせえ・・・」

雪音「私も決めてない・・・部誌の内容」

嶺二「マジ?」

雪音「うん」

汐莉「そういえば雪音先輩って・・・」

雪音「初めての部誌制作だよ」

明日香「あれ、そうだっけ?」

雪音「(頷き)前回は自己紹介を書いただけだから」

明日香「あー・・・自己紹介だけの時もあったねぇ・・・」

嶺二「そんな雪音ちゃんにアドバイスをしてあげよう。物書きのコツはな、羞恥心を捨てることだ」

雪音「なるほど」

明日香「(嶺二の頭を叩いて)書く内容を決めてないくせに偉そうに言わないの」

嶺二「(頭を押さえながら)いってえなぁ・・・明日香は何書くのか決めてんのかよ?」

明日香「え・・・そ、それは・・・」

嶺二「俺と同じで、どうせなんも考えてないんだろ」

明日香「か、考えてるし!!」

嶺二「ほんとかよ・・・」

明日香「ほ、ほんとに決まってんでしょ!!」

嶺二「わぁーったわぁーった。んで、汐莉ちゃんは?決まってんの?」

汐莉「プロットと題材くらいは決まってますよ」

雪音「テーマが決まっちゃえば書くのって簡単?」

汐莉「簡単・・・ではないですけど、合宿中に書き終える予定です」

嶺二「やっぱ汐莉ちゃんは出来の悪い俺たちとはちげえわ、しっかりしてらっしゃる」

明日香「ちょっと、何で私と雪音まで出来の悪い部員にカテゴライズされなきゃ・・・」


 鳴海と菜摘は、明日香たちより少し前を歩いてる

 話をしている鳴海と菜摘


菜摘「この合宿が終わる頃には、みんなの気持ちも一つになってるといいな・・・」

鳴海「2、3日一緒に過ごせば、嫌でも同じ気持ちになるさ」

菜摘「一応・・・私も今回の合宿に合わせて計画を練ってきたんだよね」

鳴海「計画・・・?」

菜摘「うん、みんなで銭湯に行こうかと思って」

鳴海「(驚いて)せ、銭湯!?」

菜摘「裸の付き合いをすれば、気持ちもまとまりやすくなるでしょ?」

鳴海「そ、そうなのか?」

菜摘「(頷き)そうだよ。お父さんが見てた刑事ドラマで、熟年刑事と新人刑事が、銭湯の脱衣所で牛乳を飲みながら、熱く語り合って、その直後に犯人を逮捕、二人の友情はますます深まるっていう話があったし」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「菜摘・・・」

菜摘「何?」

鳴海「冗談だよな?」

菜摘「え?冗談なんか言った?」

鳴海「(大きな声で)ならボケのつもりで言ったのか?!それともあれか!?ジャパニーズジョークか!?いや・・・ま、饅頭怖い的な古典落語を言っていたのか!?!?」

菜摘「どうしたのそんな大きな声を出して鳴海くん」

鳴海「(大きな声で)どうしたもこうしたもないわ!!裸の付き合いが何ちゃらってふざけ始めるからツッコミしてるんだよ!!」

菜摘「私・・・真面目な話をしてるんだけど・・・」

鳴海「裸の付き合いのどこが真面目なんだ・・・」

菜摘「異性のいない空間の方が悩みとか相談しやすし、いろんな話が出来ると思わない?」

鳴海「そ、それはそうかもしれないけどさ・・・何も裸の付き合いに拘らなくてもいいだろ・・・」

菜摘「合宿と言ったらみんなで大浴場だよ!」

鳴海「い、言いたいことは分かるが・・・しかしだな・・・いきなり裸の付き合いってのは、逆に緊張して喋れない気がするぞ・・・」

菜摘「お風呂以外の時でも、話をしてくれればそれで良いんだ。合宿中、私はみんなのお悩み相談係になるから!」

鳴海「お、おう・・・頑張れ」

菜摘「鳴海くんも何かあったら、どしどし私に相談してね」

鳴海「あ、ああ・・・お、覚えとくよ」


◯298早乙女家玄関(夕方) 

 菜摘の家に着いた文芸部員たち

 

菜摘「ただいまー」


 すみれがやって来る


すみれ「おかえり菜摘、そして皆さんいらっしゃい、どうぞ上がって」

鳴海・明日香・嶺二・汐莉・雪音「お邪魔しまーす」


 靴を脱いで家に上がる文芸部員たち


◯299早乙女家菜摘の自室(夕方)

 菜摘の部屋にやって来た文芸部員たち 

 荷物を置く文芸部員たち

 菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある

 ベッドはマットレス、掛け布団、枕が片付けられ、骨組みだけの状態になっている 


菜摘「活動場所は私の部屋で良いかな?」

鳴海「おう」

明日香「菜摘、ここで寝るんでしょ?私たちが作業してたら邪魔にならない?」

菜摘「ううん、私も別の場所で寝るから」

明日香「えっ・・・そうなの?」

菜摘「うん、空いてる部屋にお布団敷いて、そこでみんなで寝よう」

嶺二「みんなで!?男女一緒!?」

汐莉「変態ですね先輩」

嶺二「汐莉ちゃん、合宿なんだから仲良くやろーぜ!」

汐莉「気持ち悪いっす先輩」

鳴海「それな、きめえわ」

嶺二「まあまあそう言わずに・・・」

雪音「男女一緒は・・・嫌かな・・・」

菜摘「大丈夫、男女別だよ」

明日香「ああ良かった・・・それなら安心」

汐莉「先輩たちと部屋で寝たら襲われますもんね私たち」

鳴海・嶺二「おい!!!」

鳴海「(大きな声で)襲わねえよ!!!」

嶺二「(大きな声で)襲ったとしてもそれはアクシデントだ!!!」

菜摘「あ、アクシデントって・・・襲う気じゃん・・・」

雪音「(笑顔で)別に私は襲われてもいいよ」


 全員が一斉に雪音を見る


雪音「(笑顔で)羞恥心を捨てることが大事なんでしょ?(少し間を開けて)もっとも、嶺二が私たちを襲えるとは思えないけどね」


 呆然としている鳴海、菜摘、明日香、汐莉

 嶺二はただ雪音のことを見ている

 少しの沈黙が流れる

 ニコニコ面白そうに笑っている雪音


明日香「(焦って大きな声で)ちょっ!?えっ!?ちょっと何言ってんの雪音!!!」

汐莉「へ、変態が二人もこの家に・・・」

菜摘「(大きな声で)や、や、家主兼部長として、そ、そんな下品な発言は許しません!!!」

鳴海「(大きな声で)れ、嶺二がガチで夜這いに行ったらどうするんだよ!!!」

菜摘「(大きな声で)な、鳴海くん!!!夜這いって単語もNG!!!」

鳴海「えぇ・・・厳しくないか・・・?」

菜摘「そ、そんなことないです!!!合宿中なんだから!!!全員部誌制作に集中して!!!!」

明日香「りょ、了解部長!!」


 再び沈黙が流れる

 雪音は変わらずニコニコ笑いながら面白そうにみんなのことを見ている


嶺二「マジになんなよお前ら・・・今の、悪質なギャグだぜ?」

菜摘「え・・・」

嶺二「そーだろ?雪音ちゃん」

雪音「(笑顔で)うん、ただのギャグ」

鳴海「ま、マジか・・・ギャグのレベルが高過ぎるぜ・・・」

嶺二「(興味なさそうに)んなことはどうでもいーだろ」


 嶺二は合宿用の大きなカバンからパソコン、マウス、ケーブルを取り出す

 雪音の顔から徐々に笑顔が消える

 

菜摘「み、みんな。始めよっか・・・部誌作り」

鳴海「お、おう・・・が、頑張ろうな・・・」


 時間経過


 テーブルの上に置いてある時計が六時前を指している

 それぞれパソコンと向かい合ってタイピングをしている


明日香「(体を伸ばして)あー!!疲れたー!!」

菜摘「(タイピングをやめて)そろそろ休憩にする?」

鳴海「(タイピングをやめて)そうだな」

嶺二「(パソコンを閉じて)制服脱ぎてー」

明日香「ちょっと、やめてよ変態発言」

嶺二「変態発言ではないだろ」

明日香「いや、変態発言だから」

汐莉「(タイピングをやめて)変態ばっかですねー、文芸部って」

鳴海「(小声でボソッと)そんな悲しい言い方やめてくれ・・・」

雪音「(タイピングをやめて)お風呂は食後?」

菜摘「どちらでもいいよ。みんなに任せる」

鳴海「風呂ってことは・・・あれか・・・」

雪音「あれって?」


 鳴海と菜摘が顔を見合わせる

 少しの沈黙が流れる


菜摘「えっとー・・・お風呂なんだけど・・・」

鳴海「(立ち上がり大きな声で)い、行くぞお前ら!!」

明日香「どこに?」

鳴海「(大きな声で)銭湯だ!!」

明日香「(驚いて)えっ、銭湯なの?」

鳴海「(大きな声で)おう!!!」

嶺二「(立ち上がり)銭湯か・・・悪くないイベントだぜ!!」

鳴海「だろ!!(菜摘、明日香、汐莉、雪音に手を差し出して)さ、さあ行こう!!銭湯が俺たちを待っている!!」


 再び沈黙が流れる


汐莉「菜摘先輩、今日って銭湯に行くんですか?」

菜摘「う、うん。ダメかな・・・?」

汐莉「ダメではないと思いますけど・・・」


 汐莉は明日香、雪音を見る


明日香「銭湯かぁ・・・」

雪音「明日香は銭湯とか行くの?」

明日香「(首を横に振り)行ったことない」

汐莉「私もです」

嶺二「初銭湯しよーぜ」

菜摘「行ったら案外楽しいと思うよ」

明日香「えー・・・」

鳴海「(菜摘、明日香、汐莉、雪音に手を差し出したまま)タイピングで疲れた体を癒そうじゃないか!!」

明日香「(ため息を吐いて)分かった・・・行きましょ」

鳴海「(大きな声で)よっしゃあ銭湯だ!!」

菜摘「あ、ごめん鳴海くん嶺二くん。二人は留守番してて」

鳴海「へっ?」

菜摘「私たちが戻ったら行っていいよ」

鳴海「待て待て待て、なぜそうなるんだ?」

菜摘「二人とも、覗くかもしれないじゃん?」

鳴海「はい?覗く?」

菜摘「うん、初めての銭湯で嫌な思いをさせたくないから。ごめんね」

嶺二「菜摘ちゃん・・・俺と菜摘のこと・・・覗き魔だと思ってたのか・・・」

菜摘「ね、念のためだよ。わ、私たちだって、落ち着いて湯船に浸かりたいし・・・」

鳴海「だからと言って・・・俺まで置いて行くなんて・・・」


 ショックを受け、座り込む鳴海と嶺二


菜摘「じゃ、じゃあみんな、荷物を持って、あっちの部屋で着替えの準備をしよ」


 合宿用の大きなカバンを持つ明日香、汐莉、雪音

 

菜摘「ふ、二人とも、お留守番よろしく」

鳴海「な、菜摘!!ま、待って・・・」


 鳴海の言葉を無視して部屋を出る菜摘


明日香「鳴海、嶺二、これを機に日頃の行いの反省をしなさい」

嶺二「ひ、日頃の行いだとぉ!?真面目に生きてる俺がなんでそん・・・」


 嶺二の言葉を無視して、合宿用の大きなカバンを持った明日香が部屋を出る


汐莉「お二人とも変態発言ばっかりしてるからですよ、自業自得です」

鳴海「お、俺は変態発言なんかしてね・・・」


 鳴海の言葉を無視して、合宿用の大きなカバンを持った汐莉が部屋を出る


雪音「(唇前に人差し指を立てて)ダーリン、おいたしたら許さないっちゃ」

 

 雪音は鳴海と嶺二にウインクをする

 合宿用の大きなカバンを持った雪音が部屋を出る

 静かに部屋の扉が閉まる

 呆然としている鳴海と嶺二

 顔を見合わせる鳴海と嶺二


鳴海「俺・・・変態発言なんかしてるか?」

嶺二「いや、まともなことしか言ってないだろ」

鳴海「だよな」

嶺二「でもちょっとやり過ぎた感はあるぜ?」

鳴海「なんだよ?やり過ぎた感って」

嶺二「動きがオーバーだったろ?手を差し出したりしてさ・・・あれは正直キモいわ」

鳴海「仕方ねえじゃねえか・・・菜摘のためにやって・・・」

嶺二「菜摘ちゃんのためにやったのは分かるが、キモかった」

鳴海「そうかよ・・・(うなだれながら)おかげで俺は菜摘の信頼を失ったようなもんだ・・・」

嶺二「俺だってそうだぞ!!鳴海と菜摘ちゃんが訳ありっぽそうだから話に乗っかったっつうのに・・・それがこんなことになるなんてひでえ仕打ちじゃねーか・・・」

鳴海「勝手に話に乗っかったのはお前だろ。俺のせいにされても困る」

嶺二「あのなぁ、塩対応されるって分かってたら銭湯なんて賛成しねーよ・・・(少し間を開けて)つかなんで銭湯なのか訳を教えろ」

鳴海「菜摘が言うには、同性だけの空間が必要なんだとさ」

嶺二「は?なんで?」

鳴海「男同士、女同士の方が腹を割って色々喋れるってことだろ」

嶺二「なーるほど」

鳴海「裸の付き合いをすりゃ、文芸部の絆も深まるってわけだ」

嶺二「理由は分かったけどさ、今更絆なんか深めてどうすんだよ?」

鳴海「どうするって・・・どうもしねえだろうけど、浅い絆より深い方がいいだろ」

嶺二「まーな・・・」


 菜摘、明日香、汐莉、雪音たちの話し声が廊下から聞こえてくる


鳴海「あーあ・・・」

嶺二「考んなよ、ソルトガールズのことは」

鳴海「無理言うな、声が聞こえるんだぞ」

嶺二「耳栓でもしとけ」


 菜摘、明日香、汐莉、雪音たちの話し声が徐々に遠ざかる

 

嶺二「おっ、そろそろ行くんじゃね?」

鳴海「となると・・・(腕時計を見て)俺らが風呂に行けるのは二時間後くらいか?」

嶺二「いや、日付を跨ぐかもしれない」

鳴海「ある、それは大いにある」

嶺二「そうだ、俺、次の部誌でこのこと書くわ」

鳴海「女に置いて行かれた話をか?切ねえな・・・」

嶺二「置いて行かれたことだけじゃねえ、女子の塩対応について書くんだよ」

鳴海「ほうほう」

嶺二「名付けて、ソルトガールズの日常!!彼女たちの冷たさは地球温暖化を止める!!」

鳴海「お、おお!!タイトルだけじゃマジで意味不明だがなんかおもろそうだな!!」

嶺二「そうだろうそうだろう!!」

鳴海「やっぱ嶺二はすげえよ!!!凡人の俺には思い付かねえセンスだ!!!」

嶺二「(照れながら)いや〜、これが才能ってやつなのかな〜」

鳴海「間違いねえ、お前は天才の枠を超えた存在・・・鬼才なんだよ!!」

嶺二「き、鬼才・・・!?それを見抜いた鳴海も鬼才なんじゃないのか!?」

鳴海「な、なんだと・・・いや・・・でも確かに、類は友を呼ぶって言うもんな!!」

嶺二「おう!!鬼才の遺伝子が俺たちを結びつけたってわけだ!!」

鳴海「そういうことか!!納得したぜ!!俺も嶺二のソルトガールズに続けて、鬼才兄弟の日常って話を書いてやるわ!!」

嶺二「す、すごい・・・才能が・・・才能が溢れてるぞ鳴海!!」

鳴海「いやいやいや嶺二さんほどじゃありませんって!!」

嶺二「何を言ってるんすか鳴海さん!!あなただって才能の塊っす!!」

鳴海「つまり、お互い才能の塊というわけですな!!」

嶺二「ハッハッハ!!そういうことですな!!」

鳴海「ハッハッハ!!ハッハッ・・・ハハ・・・(深くため息を吐いて)はぁ・・・」

嶺二「馬鹿野郎のクソッタレが!!何で今ため息を吐いたんだよ!?!?」

鳴海「すまん・・・」


◯300銭湯に向かう道中(夜)

 銭湯に向かっている菜摘、明日香、汐莉、雪音

 四人は巾着袋を持っており、中には着替えとバスグッズが入っている

 

明日香「どういうことなの雪音!!」

雪音「だ、だから・・・ギャグなんだって」

菜摘「嶺二くん、本気にしてないかな・・・」

雪音「してないよ」

汐莉「分かるんですか?」

雪音「目を見たからね」

明日香「雪音、あんなことを言って嶺二が惚れたら・・・」

雪音「それもないと思うな、あの人、意外と冷静に女を見れるんじゃない?」

明日香「え・・・そんなこと三年間で一度も思わなかったんだけど・・・」

雪音「そっか。なら私だけそう感じたのかもね」

汐莉「嶺二先輩って、実はアホなふりをしてるだけだったりして・・・」

菜摘「え〜!ふりには見えないよ!」

明日香「やっぱり菜摘も、嶺二のことはアホだと思ってるんだ?」

菜摘「(慌てて首を横に振り)う、ううん!!!は、発想力があるなとは・・・お、思ってるけど・・・」


◯301早乙女家菜摘の自室(夜)

 菜摘の部屋で暇そうにダラダラしている鳴海と嶺二

 部屋には菜摘たち本作りで使っていたパソコン、筆記用具、学校用のカバンが置いてある

 大きなくしゃみをする嶺二


鳴海「もう三度目だぞ、風邪でも引いてるんじゃねえのか?」

嶺二「な、なんか急にくしゃみが・・・」


 再び大きなくしゃみをする嶺二


鳴海「にしてもやることねえな・・・」

嶺二「もしこの場に明日香がいたら・・・(明日香の物真似をして)ダラダラしてないで部誌を書きなさい!!って怒鳴られたぜ絶対」

鳴海「間違いない・・・(少し間を開けて)ああ、早く風呂に入りてえもんだ・・・」

嶺二「俺らも遊ぼーぜ」

鳴海「遊ぶって何するんだよ?」

嶺二「喜べ鳴海、こんな時のために俺はトランプを持ってきた」

鳴海「と、トランプだと!?」

嶺二「おう」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「叱りたいところだが・・・今回は褒めよう。よくやったぞ」

嶺二「トランプあれば憂いなしだ」


 立ち上がり、合宿用の大きなカバンからトランプを取り出す嶺二

 トランプを箱から出し、シャッフルする嶺二


鳴海「ババ抜きやるか」

嶺二「(シャッフルしながら)二人じゃ出来ねーよ」

鳴海「ジジ抜きやるか」

嶺二「(シャッフルしながら)二人じゃ出来ねーよ」

鳴海「大富豪やるか」

嶺二「(シャッフルしながら)二人じゃ出来ねーよ」

鳴海「ダウトやるか」

嶺二「(シャッフルしながら)二人じゃ出来ねーよ」


 再び沈黙が流れる

 シャッフルをしていた嶺二の手が止まる

 トランプをそっと床に置く嶺二


鳴海「菜摘たち・・・今頃風呂か・・・」

嶺二「だろーな・・・クソ腹立つぜ・・・特にさっきの雪音ちゃんは許せん・・・」

鳴海「さっきのって、部屋を出る時のやつか?」

嶺二「それもだし、クソみてえなギャグもだ」

鳴海「あー、あれはよ、嶺二がアクシデントで襲うとか言ったからだろ」

嶺二「俺のはおふざけだって分かるから良いんだよ、雪音ちゃんのはギャグになってねえ・・・」

鳴海「後で俺が怒られるのが嫌だから前もって言うけど、嶺二、一条のこと襲うなよ?」

嶺二「襲うわけねーだろ!!」

鳴海「どうせ俺はお前と同じ部屋で寝ることになるんだ、ちゃんと見張ってるからな」

嶺二「襲わねえって。俺・・・あいつのこときら・・・」


◯302銭湯/女湯の脱衣所(夜)

 綺麗で新しい脱衣所

 脱衣所にいる菜摘たち

 棚に一つ一つカゴが入っている

 カゴの中にはそれぞれ各自着替えとバスグッズが入れてある

 制服を脱いでいる菜摘たち

 菜摘たち以外の客はいない

 くしゃみをする雪音


◯303早乙女家菜摘の自室(夜)

 話をしている鳴海と嶺二


鳴海「マジかよ・・・なんか意外だわ・・・」

嶺二「意外か?」

鳴海「ああ・・・女好きの嶺二がそんなことを言うとはな・・・」

嶺二「女好きにも色々あんだよ。(少し間を開けて)嫌いだからと言って、他の奴らと態度を変える気はねえ。でも嫌いなのはしょうがないだろ」

鳴海「なら教えてくれ、一条の何が嫌いなのか」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「雪音ちゃんはな・・・小賢しいんだ」

鳴海「賢いのは良いことだろ」

嶺二「賢いんじゃねえ、小賢しいんだ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(声 モノローグ)何となくだが・・・嶺二の言いたいことが分かってしまった。今、ここで使われた賢いと小賢しいは、晴れと雨くらいの違いがある」

嶺二「雪音ちゃんって、一見すると優等生って感じがするけど、本当は文芸部のことも、学校のことも、どうでもいいって思ってるんじゃねーかな」

鳴海「どうしてそう思うんだよ?」

嶺二「あいつは会話にほとんど参加してこねーし、意見も出さないじゃないか」

鳴海「一条は後から入ったから、遠慮してるのかもしれないぞ」

嶺二「(呆れながら)鳴海・・・お前雪音ちゃんのこと全く見てないな」

鳴海「えっ?そうか?」

嶺二「(頷き)ああ。俺たちが喋ってる時、あいつがどんな顔をしてたか思い出してみろ」


◯304◯217の回想/波音高校三年三組の教室(朝)

 朝のHRの前の時間

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音が教室の窓際で話をしているものの、雪音は退屈そうな表情をしている

 

◯305◯227の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 今後の予定について話し合いをしている文芸部員たち

 黒板には”今後やらなきゃいけないこと”と書かれている

 菜摘がチョークを持って、黒板の前に立っている

 黒板と向かい合って座っている鳴海、明日香、汐莉、雪音 

 雪音は退屈そうな表情をしながら、話を聞いている


◯306◯254の回想/波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 黒板の前にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 軽音部の部室にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音

 椅子に座っている鳴海たち

 文芸部員たちと向かい合って座っている汐莉、響紀、詩穂、真彩

 明日香が響紀を説得しようとしている 

 雪音は退屈そうな表情をしながら、話を聞いている


◯307回想戻り/早乙女家菜摘の自室(夜)

 話をしている鳴海と嶺二


嶺二「ちょーつまんなそーな顔ばっかしてると思わないか」

鳴海「まあ・・・楽しそうではないかもな・・・」

嶺二「だろ?質問に対してはほとんどが受け身で、適当に肯定するだけだ。(かなり間を開けて)俺たちに全力でって教えてくれた子なのに・・・酷いもんだぜ・・・」


 深くため息を吐く鳴海


鳴海「(声 モノローグ)一度は男女別の部屋が良いと言った一条が、なぜその後、嶺二の夜這いを許したのか・・・全力は、何かを変える可能性がある、そう教えてくれた一条が、なぜ文芸部の活動には全力を注がないのか・・・それは、俺が思っていたより一条は複雑で、小賢しい人間であることを示していた」


◯308銭湯/女湯(夜)

 壁には富士山の絵が描かれている

 ジェットバスのお風呂、薬湯のお風呂、水風呂、電気風呂などがある

 菜摘、汐莉は薬湯のお風呂、明日香、雪音はジェットバスのお風呂に入っている

 他の客はおらず、菜摘たちだけの銭湯

 四人は湯船に浸かりながら話をしている


明日香「悩み?どうして?」

菜摘「いつも、みんなには助けてもらってるから・・・そのお返しがしたくて。私だって話くらいは聞けるし・・・」

明日香「悩みねぇ・・・」

菜摘「愚痴とか、些細なことでも良いよ」

明日香「(考えながら)うーん・・・(少し間を開けて 汐莉と雪音を見ながら)雪音と汐莉は何かないの?」

汐莉「な、悩みですか?」

菜摘「うん!」

汐莉「と、特には・・・」

菜摘「本当?汐莉ちゃん、こういう時は相手が先輩でも遠慮しちゃダメだよ。もっとがっつかなきゃ!!隙あらば先輩の好意に漬け込むの!!」

汐莉「は、はい!!覚えときます・・・」

明日香「凄い教育ね・・・」

汐莉「で、でも菜摘先輩、私、悩みなんか・・・ないです」

菜摘「(驚きながら)えっ!?ないの!?」

汐莉「はい・・・」

菜摘「(驚きながら)この世に悩みがない人がなんていたんだ・・・」

雪音「私もないよ」

菜摘「(驚きながら)ゆ、雪音ちゃんまで!?」

雪音「ありがたいことに毎日充実してるから」

菜摘「そ、そっか・・・」

明日香「良いなぁ、充実してるの」

雪音「明日香は充実してないんだ?」

明日香「受験前なのに充実してたら変でしょ・・・」

雪音「そう?明日香は受験のこと気にし過ぎじゃない?」

明日香「なるべく気にしないようにはしてるもつもりなんだけどね・・・でもストレスで少し神経質になってるのかも・・・」

菜摘「しょうがないよ、今後の人生に影響するんだもの」

明日香「そーそー・・・今後の人生がかかってるって思うと、やっぱり気にしちゃうかなぁ・・・」

汐莉「同じ受験生なのに、どうして嶺二先輩はあんなに余裕があるんですかね?」

明日香「あいつはそういう生き物なの」

汐莉「な、なるほど・・・」

明日香「というか菜摘こそ、毎日あんぽんたんと過ごしててストレスにならないわけ?」

菜摘「あんぽんたん・・・?誰?」


 少しの沈黙が流れる


明日香「(呆れながら)あんたの彼氏」

菜摘「あ〜、鳴海くんのことか・・・」

雪音「男の子に合わせるのって疲れるでしょ?」

菜摘「ううん、楽しいよ」

明日香「毎日毎日一緒にいれば、さすがの菜摘も嫌にならない?」

菜摘「鳴海くんのことが好きで一緒にいるから、嫌だって思ったことは一度もないかな」

明日香「(怒りながら)もう!!これだからリア充は!!」

菜摘「でも、実際嫌になることなんかないよ。朝、教室の隅でみんなと喋って、お昼ご飯を食べながら作戦を考たりして、放課後、文芸部の活動をした後、大好きな鳴海くんと一緒に帰るの。それって凄く幸せな毎日を送ってると思うな」

明日香「え〜、同じことを繰り返してるだけじゃん・・・」

汐莉「それが良いんだと思います」

雪音「絶対に、同じ毎日が送れるって保証はどこにもないからね」

菜摘「(頷き)繰り返せるのって幸せだよ。だって、どんな事柄も、いつかは終わっちゃうし・・・」

明日香「幸せなのは分かったけど、愚痴くらいあるでしょ」

菜摘「鳴海くんのことで?」

明日香「そう、鳴海のことで」

菜摘「(首を横に振り)愚痴があるなら直接鳴海くんに言うよ。(少し間を開けて)それに・・・人の愚痴を言えるほど私偉くないから・・・」


 再び沈黙が流れる


汐莉「菜摘先輩のそういうところ、本当に素敵だと思います」

菜摘「(照れながら)あ、ありがとう。で、でも、みんなは愚痴とか文句があったら言ってね!!私何でも聞くしサポートするよ!!」


◯309早乙女家菜摘の自室(夜)

 テーブルの上に置いてある時計は7時半前を指している

 パソコンと向かい合って、部誌を作っている鳴海

 スマホを見ながらゴロゴロしている嶺二

 銭湯から菜摘たちが戻ってくる

 菜摘の部屋に入る女子たち


菜摘「ただいまー」

鳴海「(タイピングをやめて)おかえり」

菜摘「鳴海くん、嶺二くん、待たせてごめんね。銭湯行ってきて良いよ」

鳴海「おう、行こうぜ嶺二」


 立ち上がる鳴海


嶺二「(小さな声でぶつぶつ言いながら)ったく遅過ぎるだろ・・・」


 スマホをポケットに入れて立ち上がる嶺二

 鳴海と嶺二は合宿用のカバンを手に持つ


鳴海「じゃ、後でな」

菜摘「うん、いってらっしゃい」


 鳴海が部屋を出ようとするが、嶺二が鳴海の腕を掴んで引き止める


鳴海「(嶺二の手を振り解き)何だよ?」

嶺二「鳴海、道知ってんのか」

鳴海「あっ・・・知らねえわ・・・お前ら、銭湯への行き方・・・(振り返って菜摘、明日香、汐莉、雪音の方を見る)っておい」


 菜摘、汐莉はパソコンを見ている

 明日香、雪音はスマホをいじってて鳴海の話に興味がない

 顔を見合わせる鳴海と嶺二


嶺二「嫌われたか?」

鳴海「かもな」

嶺二「明日香、道教えろよ」

明日香「(スマホをいじりながら)あっち行ってこっち行ってそっち行ったら着くから」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「(大きな声で)そんな曖昧な説明で分かるか!!!」


 パソコンを見るのをやめ、スマホを持って立ち上がる菜摘

 菜摘が鳴海と嶺二にスマホの地図を見せる

 地図には銭湯への行き方が載っている


菜摘「(スマホの地図を見せながら)そんなに遠くないよ、鳴海くんのLINEに地図を送るね」

鳴海「お、おう!ありがとう菜摘!」

嶺二「菜摘ちゃんがいてくれて助かったぜ・・・」

鳴海「ああ。見捨てられてなくて良かった・・・」

菜摘「(スマホをいじりながら)え、何?」

鳴海「あ、いや・・・なんでもない・・・」

菜摘「地図、送ったよ」

鳴海「サンキュー」


◯310早乙女家リビング(夜)

 時刻は9時前

 テーブルの上にはすき焼き用の鍋、肉、野菜、豆腐、それぞれに取り皿と飲み物が置いてある

 すき焼きを食べている鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、すみれ、潤

 それぞれ喋ったり食べているせいで騒がしい 


潤「あっ!!俺の肉を取るなよ義理の息子!!!」

鳴海「うるせえ!」


 取り皿によそった牛肉を口に入れる鳴海


潤「て、てめえ・・・なんて図々しいガキなんだ・・・」

鳴海「肉は早いもん勝ちだろ!!」

すみれ「二人とも、ゆっくり食べてね。お肉はまだまだあるんだがら」

鳴海・潤「はーい!!」


 嶺二が直箸で生の牛肉を鍋の中に入れる


明日香「(怒りながら)ちょっと嶺二!!菜箸使ってよ!!」

嶺二「あーごめん忘れてた」

明日香「(怒りながら)最低!!」

嶺二「怒んなって」

明日香「(怒りながら)今入れた肉はあんたが食べなさいよ!!!」

嶺二「(呆れながら)明日香・・・小学生じゃねーんだからそんなことでいちいち文句言うなよ?」

明日香「(怒りながら)はぁ!?!?あんたの箸で触った肉は気持ち悪いの!!」

菜摘「ま、まあまあ明日香ちゃん。落ち着いて・・・」

嶺二「そうだぞ、人様の家なんだから大人しくしろ。みっともない」

明日香「(怒りながら)次何か失礼なことを言ったら、あんたの目にすき焼きのタレを・・・」

鳴海「タレで思い出したんですけど、すみれさん、ごまだれってありますか?」

すみれ「あ、あるけど・・・ごまだれ使うの?」

鳴海「はい!」

すみれ「ごめんね、味薄かった?」

鳴海「いえ、最強のコラボレーションを試したくて」

すみれ「さ、最強のコラボレーション?」

鳴海「ごまと牛肉って最強の組み合わせだと思いませんか?」

すみれ「あー・・・わかんないけど取ってくるね」

鳴海「ありがとうございます!」


 すみれは立ち上がり、キッチンに向かう

 明日香と嶺二は変わらず言い争っている

 

菜摘「鳴海くん、いつもすき焼きにはごまだれかけるの?」

鳴海「いや、今日初挑戦だよ。まあごまだれは最強だし、合うだろ」

潤「アホか。ごまだれが最強なわけねえ・・・」

鳴海「あぁ?ごまだれが最強だろうが!!」

菜摘「お、落ち着いて鳴海くん・・・」

潤「菜摘、ごまだれがティラノサウルスに勝てると思うか?」

菜摘「えっ?何?何の話?」

潤「おめえの恋人は、ティラノサウルスよりごまだれの方が強いって言ってんぞ」

鳴海「言っとらんわ!!!」

菜摘「お、お父さん、なんでティラノサウルスの話をしてるの・・・?」

潤「最強だからだ」


 ごまだれを持ったすみれが戻ってくる

 テーブルにごまだれを置くすみれ


すみれ「はい、ごまだれ」

鳴海「すみれさん・・・」

すみれ「ん?何?」

鳴海「あなたの旦那さん、病気かもしれません」

菜摘・すみれ「えぇ!?」

鳴海「僕がごまだれの話をしていたのに、彼は・・・彼はなぜかティラノサウルスについて語り始めたんです・・・もはやホラーですよ」

潤「お前が最強の話をしてたからだろ、ごまだれよりティラノサウルスの方が強いに決まってる」

鳴海「俺は調味料の話をしてるんだよ!!!」

潤「バーカ、調味料で最強なのは砂糖、塩、酢、醤油、味噌だろ。近頃の子供はそんな常識も知ら・・・」


 言い争いを始める鳴海と潤

 すみれは椅子に座り、静かにすき焼きを食べ始める


菜摘「(鳴海と順を交互に見ながら)な、鳴海くん・・・お、お父さん・・・ごまだれとティラノサウルスの両方が最強ってことにしようよ・・・ふ、二人とも・・・喧嘩してないでご飯を・・・」


 すみれが菜摘の肩に手を置き、首を横に振る


菜摘「で、でも・・・

すみれ「(菜摘の肩に手を置いたまま)菜摘、無駄なことはおよしなさい」


  鳴海と潤のことを見る菜摘、二人は言い争っている


菜摘「分かった・・・」


 嶺二が入れた肉は、火が通り食べられる頃合いになっている

 

嶺二「明日香も食えよ!!」

明日香「(怒りながら)嫌です!!!」

嶺二「肉に失礼だぞ!!」

明日香「(怒りながら)失礼って言うなら菜箸使いなさいよ!!!」

嶺二「だから忘れちまったんだって!!!」

明日香「(怒りながら)なんでそんな大事なこと忘れるの!?頭壊れてるの!?」

嶺二「こんなくだらねえことでいちいち文句言ってくる方が壊れって・・・」


 雪音が菜箸を使って、肉の状態を確認する


雪音「(菜箸を使いながら)そろそろいっか・・・」

汐莉「あ、雪音先輩、私にもお肉一枚もらえませんか?」

雪音「(手を差し出して)取り皿貸して、よそってあげる」

汐莉「(取り皿を雪音に差し出して)お願いします」


 鳴海と潤、明日香と嶺二が言い争ってる間に汐莉の取り皿に肉をよそい始める雪音

 

雪音「お肉以外はいる?」

汐莉「お豆腐とお野菜もください」


 汐莉の取り皿に豆腐、白菜、春菊をよそう雪音


雪音「(取り皿を汐莉に差し出して)はい」

汐莉「ありがとうございます」


 雪音は菜箸を使って自分の取り皿に肉と野菜をよそう


菜摘「今ある分をよそっちゃったら、お肉追加しよっか」

明日香「え?嶺二肉はどうしたの?」

嶺二「近江牛みてーで美味そうだな、嶺二肉って」

雪音「ごめん。今よそっちゃった」

明日香「えぇー・・・あんな汚いものを・・・」

嶺二「汚いとか言うな」

汐莉「ちゃんと茹でてるんで大丈夫ですよ。嶺二菌は死滅しました」

嶺二「虐められてるのか俺は」

潤「が、ガキども・・・今、食べられる肉は死滅したって言ったな・・・」

鳴海「嘘・・・だろ・・・ごまだれを試す前に肉はなくなっちまったのかよ!!」

汐莉「いえ、死滅したのは嶺二菌です」

鳴海「れ、嶺二菌!?なんだそのきめえ菌は!!!」

汐莉「安心してください先輩、気持ち悪い菌は消えました」

鳴海「なんだ、良かった」

嶺二「いやもう喧嘩売ってるよね鳴海と汐莉ちゃん」

潤「なんとか菌はどうでもいい、大事なのは肉だ」

菜摘「お肉ならまだあるよ、ね?お母さん」

すみれ「(頷き)まだたっくさんありますから、皆さんどうぞ落ち着いて食べてくださいね」


◯311早乙女家菜摘の自室(夜)

 テーブルの上に置いてある時計は10時半を指している

 菜摘の部屋に戻ってきた文芸部員たち


嶺二「あー食った食ったー」

明日香「今日って・・・ここからまた部誌を作るの?」

菜摘「もちろん!!」

明日香「ごめん・・・私無理かも・・・」


 あくびをする明日香


鳴海「腹いっぱいだし、一眠りしてからやらねえか?」

汐莉「牛になりますよ先輩」

鳴海「俺はもう牛として生きることにした」

汐莉「何を言ってるんですかねこのグーたら三年生は」

菜摘「しっかりしてよ鳴海くん!!」

鳴海「頑張るけどよ・・・こりゃこのままじゃもたねえな・・・」

嶺二「なんとか体力を回復させねーと・・・」

雪音「ご飯を食べたのに体力は戻らないんだね」

嶺二「食ったら逆に眠くなってきちまったんだよ」

明日香「それ、体が寝る準備を始めてる・・・」

菜摘「え〜・・・そんなんじゃ部誌終わらないよ・・・」

嶺二「そうだ、ここらでトランプでもやろーぜ。頭を使えば目も覚めるだろ」

菜摘「ダメ!!合宿なんだから!!」

嶺二「じゃあ・・・怖い話でも・・・」

菜摘「それはもっとダメ!!!眠れなくなる!!!」

鳴海「眠れなくなるならいいじゃないか、部誌も捗るぞ?」

菜摘「部誌が怖い話だらけになっちゃうじゃん!!!」

鳴海「あー・・・ホラー特集っていいな」

嶺二「さすが天才鳴海」

鳴海「どうせ10月号なんだからホラー特集でも・・・」

菜摘「ダメなものはダメ!!!!それから部誌は9月号なの!!!!!」

明日香「えっ・・・今月号は諦めるんじゃ・・・」

菜摘「合宿中に書き終えて、来週の月曜に刊行すればまだギリギリ9月号だよ!」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「なんで8月中に部誌を作らなかったんだ俺たち・・・」

明日香「(鳴海と嶺二を睨み)誰かさんが補習と教習所に通い続けたせいでしょ」

鳴海「うっ・・・視線が痛いっす・・・」

嶺二「か、過去のことは気にせず、部長の指示に従いましょうか!」

鳴海「お、おう!」

菜摘「頑張って3時まではやるよみんな!!」

明日香「さ、3時!?」

菜摘「(頷き)3時に寝て起床は7時!!」

汐莉「文芸部史上最もしんどい期間になりそうですね・・・」

嶺二「下手したら死ぬ」

雪音「カフェイン買った方がいいんじゃない?」

鳴海「確かに・・・買い出し行くか?」

嶺二「めんど・・・行くんだったら少数精鋭にしよーぜ」

菜摘「なら私と鳴海くんで行くね!」

鳴海「え?俺?」

菜摘「うん、荷物持つの手伝ってくれない?」

鳴海「いいけど・・・」


 立ち上がる鳴海

 学校のカバンから財布を取り出す鳴海


◯312コンビニに向かう道(夜)

 月が出ている

 スズムシが鳴いている

 コンビニを目指している鳴海と菜摘

 

菜摘「その・・・さっきの銭湯のこと謝りたくて・・・」

鳴海「謝るようなことなんかあったか?」

菜摘「えっと・・・私、鳴海くんたちが覗くかもしれないって言ったじゃない?」

鳴海「そう言われるのも仕方ねえよ・・・(俯き)菜摘たちには俺や嶺二が変態に見えてるんだろうし・・・」

菜摘「違うよ鳴海くん。あれはね、女湯での会話が聞こえたら嫌だなって思って、わざと別のタイミングにしたかったの」

鳴海「(顔を上げて)え、そうなのか?」

菜摘「うん、ごめんなさい・・・」

鳴海「いやでも菜摘、あの銭湯って壁がちゃんとあったし、声なんか聞こえなかった気がするぞ?」

菜摘「そうだね」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「実は・・・その・・・私も初銭湯で・・・」

鳴海「は、初めてだったのか!?」

菜摘「(頷き)そう・・・だからどんな感じが分からなくて・・・でも私の中のイメージの銭湯って、女湯と男湯の間に薄い壁があるだけの・・・ほら、よくドラマとか映画で見るような・・・・」

鳴海「あー・・・やっと意味が分かってきたぞ」

菜摘「良かった・・・」

鳴海「しても銭湯慣れてる感が凄かったけどな・・・」

菜摘「やっぱり部長の私がみんなを引っ張らなきゃいけないでしょ?だから初心者感は隠してたんだ」

鳴海「そういうことか・・・行ったら楽しいと思うよ、なんて言ってたけどあれは嘘かい・・・」

菜摘「実際に行ったら楽しそうだなぁって思ってたんだもん」

鳴海「なるほどな・・・(少し間を開けて)とにかく、変態だと思われてなければそれで良いんだ」

菜摘「(少し笑いながら)思ってないよ、鳴海くんのおかげでスマートに銭湯に行けたし感謝してる」

鳴海「(笑いながら)俺が咄嗟に銭湯アピールをしたからな」

菜摘「(笑いながら)頑張ってたもんね鳴海くん」

鳴海「(自慢げに)菜摘と文芸部のためになら、あのくらいやるさ。後から動作がキモかったって嶺二に言われちまったけど・・・」

菜摘「そういえば私たちが銭湯に行ってる間、嶺二くんとはどうだったの?」

鳴海「ど、どうって?」

菜摘「男同士で喋りやすかったんじゃない?」

鳴海「ま、まあな」

菜摘「部活のことで悩みとか言ってなかった?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(声 モノローグ)嶺二が一条に対して抱いていた種々雑多な感情や疑念を、菜摘に打ち明けたくなった。嶺二の気持ちは理解出来るし、正論だった・・・嶺二が一条のことを嫌ってる、なんて菜摘が聞いたら酷く悲しむに違いない・・・ここは気持ちを抑えろ、菜摘には言わない方がいい・・・」

鳴海「いや・・・何も言ってなかったな・・・菜摘も薄々気付いてるかもしれねえけど、俺と嶺二は真面目な会話をしないっつうか・・・馬鹿なことしか話さないんだよ」

菜摘「そうかな?時々、二人とも真剣な顔をして議論してたような気がするけど・・・」

鳴海「んなことはねえ。それより、菜摘の方は明日香たちとは上手く話せたのか?」

菜摘「うーん・・・自信ない・・・」

鳴海「そうか・・・頑張ろうぜ菜摘。俺も出来るだけ嶺二たちから話を聞くからさ」

菜摘「うん!」


◯313コンビニ外/帰路(夜)

 コンビニから出てくる鳴海と菜摘

 鳴海は両手にコンビニのビニール袋を持っている

 ビニール袋の中身は大量のエナジードリンク

 早乙女家に向かっている鳴海と菜摘


菜摘「鳴海くん、部誌は進んだ?」

鳴海「なんとか行き詰まらずに書けてる状態だよ」

菜摘「そうなんだ。私は全然書けてない・・・」

鳴海「(驚いて)そ、そうなのか!?」

菜摘「(頷き)アイデアが思い浮かばなくて・・・疲れてるのかなぁ」

鳴海「おいおい・・・疲れてるのに3時まで起きてろって言ったのかよ・・・」

菜摘「だって厳しく言わないと、日曜日のアイリッシュイベントまでに部誌が終わらないかもしれないじゃん?」

鳴海「よっぽどイベントに行きたいんだな」

菜摘「楽しみにしてるんだ〜。文芸部のみんなと行くってのがポイントだよ」

鳴海「もしかして・・・明日も3時まで起きてるつもりか?」

菜摘「もっちろん」

鳴海「菜摘、ちょっと無理し過ぎだぞ。後から風邪でも引いたらどうするんだ?」

菜摘「それも合宿の良い思い出!」

鳴海「思い出で済ませていいことじゃな・・・」

菜摘「(鳴海の言葉を遮って)鳴海くん・・・」

鳴海「な、何だよ?」

菜摘「私・・・怖くないの・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「鳴海くんが一緒だから・・・」

鳴海「俺と一緒にいれば・・・(少し間を開けて)風邪を引くのも怖くないってか?」

菜摘「うん!」

鳴海「こちとら菜摘の体が心配なんだけどな」

菜摘「ありがとう。でも気にしなくていいんだよ」

鳴海「なら心配かけさせるなよ」

菜摘「ごめん・・・」

鳴海「全く・・・(ボソッと)俺も姉貴に似てきたな・・・」

菜摘「(笑いながら)世話焼きの血が流れてるんだよ」

鳴海「笑い事じゃねえって・・・」

菜摘「鳴海くん、人から心配されるのは嫌がるくせに、私のことを気遣ってるなんて変じゃない?」

鳴海「へ、変じゃないだろ別に」

菜摘「私としては、鳴海くんはもっと自分を大事に・・・」

鳴海「俺は菜摘みたいに弱っちい体をしてないからいいんだよ」

菜摘「酷い・・・私、鳴海くんより強いし!!」

鳴海「俺より強いなら、俺より早く部誌を書き終えてくれ・・・夜更かしせずにな部長」

菜摘「そ、それは・・・今全力で取り組んでる最中なの!!」


 再び沈黙が流れる


鳴海「菜摘・・・」

菜摘「何?」

鳴海「最近・・・疲れやすくなってるんじゃないのか?」

菜摘「え、そんなことないよ」

鳴海「さっきも言ってただろ、疲れてるのかなって」

菜摘「だって金曜日だもん」

鳴海「俺が言いたいのは今日だけじゃないんだ・・・夏休み、一緒に作業してる時もすぐ疲れてたし・・・」

菜摘「集中すると疲れない?特に執筆系は」

鳴海「それはそうだけど・・・部活が出来た当初は、今よりも集中力があった気がするぞ・・・」

菜摘「そう?」

鳴海「現に部誌を作るのに苦労してるんだろ?」

菜摘「今はアイデアが降りてくるのを待ってるの」

鳴海「それを苦労してるって言うんじゃないか」

菜摘「こんなのは苦労に入らないよ・・・世の中にはもっと苦しい思いをして頑張ってる人がいるんだから・・・」

鳴海「他人を引き合いに出すのはずるいぞ。俺は菜摘のことを心配してるのに」

菜摘「鳴海くん・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「ありがとう鳴海くん、心配かけてごめんね。(少し間を開けて)私は大丈夫だから。あんまり気にしてると、鳴海くんまで疲れちゃうよ」

鳴海「好きだから気にかけてるんだ」

菜摘「分かってる。でも私は鳴海くんが心配してるほど、疲れてないし、苦労もしてない。だから・・・鳴海くんは・・・」

鳴海「何だよ?」

菜摘「私以外の人も心配してあげて」

鳴海「誰のことを言ってるんだ」

菜摘「みんな・・・とか?(少し間を開けて)まあそういうことだからよろしく!!」

鳴海「お、おい!何だその雑な言い方は・・・」

菜摘「いいからいいから!!この話はおしまい!!」

鳴海「は!?勝手に終わらせるなよ!!」

菜摘「こんな話をしてても楽しくないでしょ?話題変えようよ話題。えっと・・・今日の夜食どうする?」

鳴海「(驚いて)や、夜食ってまだの食うのか!?」

菜摘「夜はお腹が空くからね!」

鳴海「お、俺はもう要らねえかな・・・てかエナジードリンクだけで十分だろ」

菜摘「あー、そっか。カップラーメンでも食べない?」

鳴海「要らん」

菜摘「今なら豚肉増量中だよ!」

鳴海「ぶ、豚肉増量中なのか・・・しかし要らん物は要らんな」

菜摘「えー」

鳴海「えーじゃねえよえーじゃ」

菜摘「だってー、残り物の激辛ラーメンを食べることになるかもしれないんだよ?」

鳴海「いや、まず俺食べないから。食べる前に手を動かすし」

菜摘「箸を使わないと食べられないもんね」

鳴海「アホか、手はタイピングのために動かすんだよ」

菜摘「アホの由来ってアホ毛から来てるって知ってた?」

鳴海「知るわけね・・・えっ、それマジ!?」

菜摘「(笑顔で)うん!!」


◯314早乙女家菜摘の自室(夜)

 家に戻ってきた鳴海と菜摘

 コンビニのビニール袋からエナジードリンクを取り出し、全員に差し出して行く鳴海


鳴海「(ビニール袋からエナジードリンクを取り出し雪音に差し出して)とりあえず一人三本だ」

雪音「(エナジードリンクを受け取り)買い過ぎじゃない?」

鳴海「(ビニール袋からエナジードリンクを取り出し明日香に差し出して)三本くらいすぐ飲み終わるだろ」

明日香「(エナジードリンクを受け取り エナジードリンクを見ながら)これを三本も飲むって・・・」


 ビニール袋からエナジードリンクを取り出し、汐莉に渡す鳴海


汐莉「(エナジードリンクを受け取り)海外だとよく死人が出るらしいですよ、カフェインの多量摂取で」

明日香「えっ・・・こわ・・・」

菜摘「危険だから一気に飲まないでね」

明日香「わ、分かった」


 ビニール袋からエナジードリンクを取り出し、嶺二に渡す鳴海


嶺二「(エナジードリンクを受け取り)明日の朝一もエナジードリンクを決めて作業開始か?」

鳴海「(ビニール袋からエナジードリンクを取り出し菜摘に差し出して)多分な」

菜摘「(エナジードリンクを受け取り)一人一日二本までにしとく?飲み過ぎると出費が増えるし」

鳴海「(ビニール袋からエナジードリンクを取り出し)ああ、それが良い」


 残りのエナジードリンクが入ったコンビニのビニール袋を菜摘の机の上に置く鳴海


嶺二「みんなで乾杯しよーぜ」

菜摘「そうだね!」

嶺二「(咳払いをして)えー、この度は、白石嶺二が企画、提案した文芸部初の合宿に、参加頂き感謝・・・」

鳴海「(小声で)結婚式の祝辞みたいだ・・・」

汐莉「(小声で)どちらかと言うと、校長先生の挨拶じゃないですか?」

鳴海「(小声で)確かに」

雪音「(小声で)しかもこれだと嶺二が部長だね」

鳴海「(小声で)一応、企画したのはあいつだからな・・・」

明日香「(小声で)菜摘、先に乾杯の挨拶してよ」

菜摘「(小声で)で、でも・・・」

明日香「(小声で)良いから良いから」

菜摘「(小声で)う、うん・・・」

嶺二「こうしてみんなと合宿を行えたのは、ひとえに、菜摘ちゃんのご両親、そして菜摘ちゃん自身の協力があったからこそ・・・」

菜摘「あ、ありがと嶺二くん、じゃあみんな、缶を持って」


 嶺二以外がエナジードリンクを手に持つ


嶺二「ちょっ、俺の話はまだ思ってな・・・」

鳴海「嶺二、早く缶を持てよ」

嶺二「んだよもう・・・せっかく考えてきたっつーのに・・・」


 エナジードリンクを手に持つ嶺二


菜摘「(エナジードリンクを前に出して)乾杯!!」

鳴海・明日香・嶺二・汐莉・雪音「(エナジードリンクをぶつけ)乾杯!!!!!」


 時間経過


 パソコンと向かい合ってタイピングをしている文芸部員たち

 それぞれエナジードリンクを飲みながら部誌を制作している

 皆集中している

 テーブルの上の時計は午前零時を指している


 時間経過


 パソコンと向かい合ってタイピングをしている文芸部員たち

 エナジードリンクを飲み干す鳴海

 菜摘は文字を打っては消している

 あくびをする明日香

 眠そうな明日香

 汐莉、雪音は順調に部誌制作を進めている

 集中力が切れ始めている嶺二

 頭を掻き毟る嶺二

 テーブルの上の時計は深夜2時過ぎを指している


 時間経過


 パソコンと向かい合ってタイピングをしている鳴海、菜摘、嶺二、汐莉、雪音

 パソコンと向かい合っているものの、半分寝かけている明日香

 明らかにタイピングの速度が落ちている鳴海

 菜摘は変わらず、文字を打っては消している

 汐莉は変わらず、順調に部誌制作を行っている

 エナジードリンクを飲み干す雪音

 テーブルの上の時計を見る嶺二、時刻はちょうど深夜3時になる

 時計のアラームが鳴る

 菜摘が時計のアラームを止める


鳴海「(体を伸ばして)やっと3時か・・・」

嶺二「(パソコンを閉じて)早く寝ないとやばくね?」

鳴海「あと四時間後には起床だからな・・・」

汐莉「結局部屋はどうするんですか?」

菜摘「女子は二人ずつの部屋で」

汐莉「りょーかいです」

嶺二「男子は?!」

菜摘「男子は男子同士の部屋だよ」

嶺二「(舌打ちをして)ちぇっ・・・味気ねえな」

鳴海「うるせえ」

雪音「私が嶺二と同じ部屋で寝ようか?そしたら菜摘は鳴海と一緒に寝られるよ」


 菜摘のことを見る鳴海


菜摘「(首を横に振り)だ、ダメダメ!!」

嶺二「少なくとも、鳴海は俺より菜摘ちゃんと同室の方がいーだろ」

鳴海「(小声でボソッと)余計なお気遣いどーも」

菜摘「こ、今回は私と雪音ちゃんが同じ部屋!!分かった?」

雪音「はーい」

汐莉「(明日香の肩をポンポンと叩いて)明日香先輩、起きてください」

嶺二「(明日香を見て)こいつ起きてんのか?」

菜摘「さ、さあ・・・」

汐莉「(明日香の体を揺さぶり)明日香先輩ってばー。起きてくださいよー」

明日香「いま・・・なんじぃ・・・?」

汐莉「もう三時です」

明日香「あ・・・ねるじかんだ・・・」

汐莉「その前に歯を磨きましょうね」

明日香「うん・・・むしばいや・・・」

鳴海「こりゃさっさと寝かせた方が良さそうだな」

菜摘「そうだね。みんな、荷物を持って移動しよっか」

汐莉「菜摘先輩、明日香先輩を連れてくの手伝ってくれませんか?」

菜摘「あ、うん。鳴海くん、明日香ちゃんと汐莉ちゃんの荷物をお願い。パソコンとかはみんな置いて行っていいから」

鳴海「おう」


 鳴海は自分の荷物と、明日香の荷物、汐莉の荷物を手に持つ

 嶺二、雪音が自分の荷物を持つ


明日香「はぶらし・・・わすれちゃった・・・」

汐莉「(驚いて)えぇ!?」

明日香「わかんない・・・なくしたかも・・・けえたいのじゅーでんき・・・なくなた・・・」

汐莉「せ、先輩、何言ってるんですか」

明日香「わかんない・・・」

汐莉「もう!先輩!しっかりしてください!!」

明日香「しっかり・・・してる・・・いつも・・・わたし・・・」


 汐莉は明日香の左肩に腕を回す

 菜摘は明日香の右肩に腕を回す


菜摘「(明日香を支えて)せーの!」


 菜摘、汐莉は明日香を支えながら立たせる

 菜摘の部屋を出て廊下にやってきた文芸部員たち

 菜摘の部屋以外に五つ部屋がある


菜摘「(明日香を支えながら)私の部屋の隣の隣が鳴海くんたちの寝るところ、鳴海くんたちの向かいが汐莉ちゃんと明日香ちゃんの部屋、で、その隣が私と雪音ちゃんの寝る部屋。お布団は敷いてあるからね」

鳴海「おう、サンキュー」

雪音「明日は朝はどこに集まればいい?」

菜摘「(明日香を支えながら)7時半に作業場に集合で」

雪音「分かった」

汐莉「(明日香を支えながら 心配そうに)寝坊しないかな・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「み、みんな!明日も頑張ろう!」


 頷く明日香以外

 

明日香「ふぁいと・・・ふぁいとん・・・おふとん・・・ばとん・・・」


 全員が明日香を見る

 明日香は菜摘、汐莉に支えられながら寝かけている

 再び沈黙が流れる


菜摘「じゃ、じゃあみんな、また明日。おやす・・・」

嶺二「あ、待って菜摘ちゃん」

菜摘「ん?」

嶺二「菜摘ちゃんの隣の部屋って・・・」

菜摘「千春ちゃんが使ってた部屋だよ」

嶺二「やっぱり・・・」

菜摘「入ってみる?」

嶺二「(首を横に振り)いや、いい。ありがとう」


◯315早乙女家客室/鳴海と嶺二の寝室(夜中)

 暗い部屋、カーテンから月の光が差し込んでいる

 外ではスズムシが鳴いている

 狭く、物がほとんどない部屋

 部屋の隅に、鳴海、嶺二の学校用のカバンと合宿用の大きなカバンが置いてある

 布団の上で横になっている鳴海と嶺二

 目を瞑っている鳴海

 目を開けている嶺二

 体を起こす嶺二

 枕元にあったスマホで、時計を見る嶺二

 スマホの時計は4時前になっている

 スマホをスリープモードにし、枕元に置く嶺二

 立ち上がる嶺二

 嶺二は合宿用の大きなカバンを漁り、何かを取り出す

 取り出した何かをポケットに入れ、寝室を出る嶺二

 目を開ける鳴海

 嶺二の布団を見る鳴海


◯316早乙女家客室/旧千春の部屋(夜中)

 カーテンから月の光が差し込んでいる

 外ではスズムシが鳴いている

 千春が寝泊まりしていた畳の部屋

 部屋に入る嶺二

 Chapter2◯174で嶺二がUFOキャッチャーで取った大きなくまのぬいぐるみが隅に置いてある

 窓際には小さな勉強机があり、千春が配っていたゲームセンターギャラクシーフィールドのチラシと学園祭朗読劇の本が置いてある

 それ以外には物はなく、全体的に質素な部屋

 ゆっくり部屋を見て回る嶺二

 くまのぬいぐるみを手に取る嶺二

 くまのぬいぐるみについた埃を手で払う嶺二


◯317Chapter2◯174の回想/ゲームセンター内(雨/昼過ぎ)

 たくさんの人で溢れているゲームセンター

 UFOキャッチャーをプレイしている嶺二

 千春が嶺二のプレイする姿を見ている

 UFOキャッチャーの景品は大きなくまのぬいぐるみ

 

嶺二「(百円玉を入れながら)くそっ!!なんで取れねえんだ!!このアーム脱臼してんだろ!!!」

千春「嶺二さん、諦めましょう。お金が無駄になってしまいます」

嶺二「(アームを操作しながら)ここで諦めたら負けだ!!失われた百円のためにも、千春ちゃんのためにも俺は獲得しなきゃならねえんだ!!」

千春「私はぬいぐるみが取れなくても、嶺二さんの気持ちだけで十分に嬉しいです」

嶺二「(ボタンを押して)見てろよ千春ちゃん!!ここからが闘いだ!」


 アームがぬいぐるみを掴み、持ち上げる


嶺二「(大きな声で)頑張れ!!負けるな!!お前の本気を見せてくれ!!!!!」


 アームが動き始める

 ぬいぐるみはアームから滑り落ちる


嶺二「(大きな声で)なんでや!なんでそこで落ちるんや!!!」

千春「なかなか取れませんね・・・」


 嶺二は百円玉を入れる


嶺二「(アームを動かしながら)次こそは!!」


 ボタンを押す嶺二

 アームが下に行き、ぬいぐるみを掴む

 ぬいぐるみを持ち上げる


嶺二「(大きな声で)いけっ!いけっ!諦めんな!!」


 アームからぬいぐるみは滑って落ちる


嶺二「(大きな声で)おぉいまたかよ!!このくそ・・・」

千春「あっ!転がってます!!」


 ぬいぐるみは転がって落ちる


嶺二「(大きな歓声を上げる)おおおおおおおお!!!!!」


 嶺二は大きなくまのぬいぐるみを取り出す


嶺二「(ぬいぐるみを差し出して)はい!!千春ちゃんに!!!」

千春「(ぬいぐるみを受け取って)本当にありがとうございます!!!服にぬいぐるみまで・・・」

嶺二「気にすんなって!!(ピースサインを出して)このくらい楽勝!!」

千春「(ぬいぐるみを抱きしめて)宝物にします!!」


◯318回想戻り/早乙女家客室/旧千春の部屋(夜中)

 大きなくまのぬいぐるみを手に取って見ている嶺二

 鼻水をすする嶺二

 嶺二は大きなくまのぬいぐるみの頭を優しく撫でている


嶺二「(くまのぬいぐるみの頭を撫でながら)お前・・・ここにずっと一人でいたのか・・・寂しかっただろ・・・千春ちゃんのところに行ければいいんだけどな・・・俺も寂しいよ・・・」


 嶺二は大きなくまのぬいぐるみを元あった場所に戻す

 嶺二は小さな勉強机がある方へ向かう

 勉強机には、千春が配っていたゲームセンターギャラクシーフィールドのチラシと学園祭朗読劇の本が置いてある

 勉強机の上に置いてあったギャラクシーフィールドのチラシを手に取る嶺二

 チラシには”ゲームセンターギャラクシーフィールド”で遊びませんか?懐かしい名作ゲームがあなたを待っています”と書かれている

 チラシには千春の手書きで、ゲームセンターのイラスト、ゲーム機の種類などが描かれている

 突然部屋の扉が開き、鳴海が入ってくる

 振り返る嶺二

 

嶺二「(振り返ったまま)んだよ、鳴海か・・・」

鳴海「悪かったな・・・俺で」


 嶺二はゲームセンターギャラクシーフィールドのチラシを元あった場所に戻す

 

鳴海「マジで夜這いに行ったのかと思ったぞ」

嶺二「するわけねーだろそんなこと」

鳴海「それは安心だ」


 畳に座る鳴海


嶺二「(学園祭朗読劇の台本を手に取り)鳴海、見ろよこれ」


 学園祭朗読劇の台本を鳴海に見せる

 学園祭朗読劇 少年少女のファンタジーアドベンチャーとタイトルが書かれている


鳴海「懐かしいな・・・まだあれから三ヶ月か・・・」

嶺二「一年くらいは経った感じがするぜ」

鳴海「ああ」

嶺二「(学園祭朗読劇の本をパラパラめくりながら)俺たち、奇跡の中にいたんだもんな・・・」


 少しの沈黙が流れる

 嶺二は学園祭朗読劇の本を机に戻す


鳴海「なあ嶺二」

嶺二「ん?」

鳴海「今度の朗読劇が成功したら、千春に会えると思うか?」

嶺二「いや・・・んなこと思っちゃいねーけど」

鳴海「そうか・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「明日も忙しくなりそうだな・・・」

嶺二「寝ねーのかよ?菜摘ちゃんに叱られるぞ?」

鳴海「嶺二こそ、いつ寝るんだ?」

嶺二「もう少ししたら・・・寝るわ」

鳴海「まだここにいるのか?」

嶺二「ああ」

鳴海「そうか」


 立ち上がり、扉に向かう鳴海

 嶺二は机の上のものを眺めている


鳴海「(扉を開けて)おい」

嶺二「(振り返り)何だよ?」

鳴海「早く寝ろよな」

嶺二「(振り返ったまま)分かってる」

鳴海「おやすみ」

嶺二「(振り返ったまま)おう」


 部屋を出る鳴海

 鳴海が出た後、畳の上で仰向けになる嶺二

 嶺二はポケットから、Chapter2の終盤で千春が使っていた剣のかけらを取り出す

 月の光が反射し、キラキラと光っている剣のかけら

 仰向けのまま、剣のかけらを見ている嶺二


嶺二「(剣のかけらを眺めながら)思っちゃいねーよ・・・思っちゃいねーけどさ・・・もし・・・再会出来るなら・・・今しかねえだろ・・・上京する前の今しか・・・」

 

◯319早乙女家客室/鳴海と嶺二の寝室(夜中)

 暗い部屋、カーテンから月の光が差し込んでいる

 外ではスズムシが鳴いている

 狭く、物がほとんどない部屋

 部屋の隅に、鳴海、嶺二の学校用のカバンと合宿用の大きなカバンが置いてある

 布団の上で横になっている鳴海

 嶺二はまだ戻って来ていない

 あくびをする鳴海


鳴海「(声 モノローグ)大変な一日だった・・・朝から・・・(少し間を開けて)考えてないようで・・・みんな色々考えてるんだな・・・」


 体の向きを変え、目を瞑る鳴海

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