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Chapter6合宿編♯1 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

Chapter6 合宿編概要

高校最後の夏休みを謳歌している鳴海たち。彼らは過去と未来の悲劇を知らないまま、毎日を過ごしていた。卒業まであと半年・・・文芸部は軽音部との合同の卒業朗読劇ライブを予定していたが、次から次へと問題が・・・そんな時、一条雪音の姉、智秋がい一冊の本を勧める。

滅びかけた世界では、ついにナツとスズが老人の掃除に参加する。老人と打ち解けるスズ、一方でナツは彼を信用していない・・・三人の関係はどうなっていくのか・・・老人の正体とは?

過去、未来の悲劇が彼らの運命を狂わし、バラバラの道に進ませた。そして、全員にまた新たな変化が訪れる・・・

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6合宿編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。怒った時の怖さとうざさは異常。Chapter5の終盤に死んでしまう。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。


安西先生 55歳女子

家庭科の先生兼軽音部の顧問、少し太っている。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


波音物語に関連する人物


白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取ると言われていた武将だが、光秀に追い詰められ、切腹した。






Chapter6合宿編♯1 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯183冒頭

 暗い画面に字幕が出る


字幕「500年前より繰り返される輪廻。神谷と汐莉は運命に殺された」

字幕「青春が、終わる・・・」


◯184滅びかけた世界:緋空浜(昼)

 Chapter5、◯109の続き

 晴れている

 緋空浜を歩いているナツ、スズ、老人

 水たまり、使い古された兵器、遺体を避けて歩いているナツと老人

 浜辺には戦車、重火器、使い古された小型船、空っぽの缶詰、ペットボトル、腐敗し死臭を放っている魚、骨になった遺体がそこら中に転がっている

 脱いだ軍服と大きな銃を肩に掛けている老人

 老人はナツとスズより先を歩いている

 老人の後ろをついて行っているナツとスズ

 タンクトップ姿の老人

 老人の上半身には脂肪が全くなく、筋骨隆々の肉体をしている

 老人の肉体には所々古傷の跡のようなものがある

 老人の首には軍人がつけているようなドッグタグが下がっている

 ドッグタグにはNarumi Kishiと名が彫られている

 

スズ「(老人を見ながら)ジジイ、ガリガリだね」

ナツ「(老人を見ながら)鍛えてるんだろ」

スズ「ふーん」

ナツ「スズ、私たち・・・今危険な状態かもしれない・・・」

スズ「危険かなー?」

ナツ「あの男、見るからに危険な感じがする」

スズ「なっちゃんは疑い過ぎだと思うよー。ジジイ、食いもんくれたから良い人だと思う」

ナツ「スズは食べ物のことしか頭にないのか」

スズ「食い物大事!食わないと死ぬ!」

ナツ「撃たれても死ぬからね」

スズ「撃たれないってー、食いもんくれたし」


 呆れてため息を吐くナツ

 立ち止まる老人

 ナツとスズも立ち止まる

 警戒してるナツ


ナツ「急に止まるな!!」

老人「すまんすまん。もうすぐ目的地に着くと言いたかったんだ」


 老人が指を差す

 老人が指を差した方にはゴミのない浜辺が見える


ナツ「ま、まだまだ遠いじゃないか!!!」

老人「若いんだから頑張ってくれ」


 歩き始める老人

 渋々ついて行くナツ

 スズはナツと違ってご機嫌な様子


スズ「またくれるかなー?食いもん」

ナツ「(少し怒りながら)スズの馬鹿!!食べ物のことなんか知らないよ!!」


◯185緋空浜/海の家(昼)

 快晴

 人で溢れている緋空浜

 セミが鳴いている

 泳いでいる人、浜辺で遊んでいる人など様々な人がいる

 混んでいる海の家

 店員がカレーライス、焼きそば、フライドポテト、酒、ジュースを客のテーブルに運んでいる

 海の家のテラス席に座っている鳴海と嶺二

 ライフセーバーの派手な服を着ている鳴海と嶺二

 鳴海と嶺二の胸ポケットにはサングラスがしまってある

 鳴海と嶺二のテーブルにはメロンソーダが二つ置いてある

 真剣な表情をしている嶺二


嶺二「八月ももう終わる・・・なあ鳴海」

鳴海「何だ?」

嶺二「そろそろ・・・決めなきゃな」

鳴海「(驚いて)れ、嶺二・・・お前・・・」

嶺二「鳴海、今が勝負時、そう思うだろ?」

鳴海「い、良いのか嶺二!!も、もうすぐ・・・もうすぐしたら・・・奴が来ちまうんだぞ!!!!」

嶺二「鳴海・・・俺な、死んだ爺ちゃんと約束したんだよ」

鳴海「や、約束!?」

嶺二「ああ。爺ちゃんは死ぬ直前、こう言ったんだ。(年寄りの声で)れ、嶺二・・・わしゃもう女体は拝めん・・・だから嶺二・・・爺ちゃんの代わりに・・・めんこい子・・・いっぱい捕まえてくるんじゃ・・・嶺二・・・爺ちゃんとの約束じゃぞ・・・(かなり間を開けて)爺ちゃんは・・・最後の最後まで・・・婆ちゃんに怒られてたよ・・・」

鳴海「(引きながら)お、おう・・・」

嶺二「んじゃあ行ってくるぜ相棒」


 メロンソーダを飲み干す嶺二

 立ち上がりサングラスをかける嶺二


鳴海「ま、待つんだ嶺二!!」

嶺二「止めるなよ鳴海、死んだ爺ちゃんのためにも、俺は今日こそナンパを成功させなきゃならねえ」

鳴海「あ、明日香に・・・明日香に何て言えばいいんだよ!?俺があいつに怒られるんだぞ!!!!」

嶺二「雰囲気で誤魔化せばいいだろ」

鳴海「雰囲気で誤魔化せるか!!!!」

嶺二「やれやれ・・・ほんと世話が焼ける奴だよ鳴海は・・・」

鳴海「お前が言うな!!!!!」

嶺二「仕方がねえ、俺が究極の技を伝授してやろう」

鳴海「何だよ究極の技って」

嶺二「ど」

鳴海「ど?」

嶺二「ど・げ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「嶺二・・・それってもしや・・・」

嶺二「ど・げ・ざ!!!!」

鳴海「(怒りながら大きな声で)何で俺がお前のために土下座するんだよ!!!!!」

嶺二「俺たち、親友じゃあないか」

鳴海「(怒りながら大きな声で)ざけんじゃねえ!!!!この間だって俺が明日香に怒られたんだからな!!!!明日香の奴、俺たちがやらかす度に菜摘に変なこと吹き込むんだぞ!!!!!!(明日香の声真似をして)菜摘・・・鳴海の馬鹿が暴走したらちゃんと叱ってね。ああ言うのは叱らないとどんどん馬鹿になるんだから。(少し間を開けて)明日香がそんなことを言ったせいでな・・・菜摘が・・・菜摘が・・・(菜摘の声真似をして)鳴海くん・・・私、馬鹿な男の人は・・・ちょっと嫌かな・・・ってガチトーンで言ってきたんだぞ!!!!!!これで俺がフラれたら嶺二のせいだからな!!!!!!」

嶺二「ふられないだろ、知らんけど」

鳴海「(怒りながら大きな声で)何が、行ってくるぜ相棒だよ!!!!振り回されるこっちの身にもなりやがれ!!!!!!」

嶺二「鳴海、死なばもろともだ。あばよっ!!」


 嶺二は浜辺でくつろいでいる水着姿の美女の元へ走って行く


鳴海「て、てめえ!!話はまだおわ・・・」

菜摘「(大きな声で)おーい!!」


 遠くの方から菜摘、明日香、汐莉、雪音、貴志風夏、一条智秋が歩いてくる

 鳴海に向かって手を振っている菜摘


鳴海「げっ・・・なんで姉貴まで・・・」


 嶺二の方を見る鳴海

 嶺二は水着姿の美女をナンパしている

 落ち着いて深呼吸をする鳴海

 メロンソーダを飲み干す鳴海

 椅子を降り、その場で正座をする鳴海

 菜摘、明日香、汐莉、雪音、風夏、智秋が海の家のテラス席にやって来る


菜摘「(正座をしている鳴海を見て不思議そうに)正座なんかしてどうしたの?」

鳴海「ちょっとな・・・」

明日香「(低い声で)鳴海、嶺二はどこ」

鳴海「れ、嶺二はですね。さ、さっきトイレにですね・・・」

汐莉「あっ、明日香先輩!!(指を差して)あれ、嶺二先輩ですよ!!」


 明日香は無言で嶺二のところに向かう

 嶺二は水着姿の美女をしつこく誘っている


菜摘「(残念そうに)鳴海くん・・・また遊んでたの?」

鳴海「ち、違うんだ菜摘!!決して遊んでいたわけじゃない!!!」

菜摘「(残念そうに)そっか」

鳴海「な、菜摘・・・」

風夏「弟よ、お姉ちゃんは悲しい。お前がナンパ野郎になるなんて・・・」

鳴海「なってないわ!!!」

智秋「まあまあ雪音、せっかくみんなで集まったんだからここは穏便に・・・」


 首を何度も縦に振り頷く鳴海

 

汐莉「鳴海先輩と嶺二先輩が問題を起こさなきゃ、私たちも穏便に過ごせるんですけどね」

雪音「言い訳せずにちゃんと謝ったら、明日香も許してくれるんじゃない?」

鳴海「(小声でボソッと)そんな簡単に許してもらえるわけないだろ・・・」


 明日香はナンパ途中の嶺二を無理やり引き連れて来る

 怒っている明日香

 抵抗している嶺二を力づくで連れて来た明日香

 

嶺二「明日香!!どうしてお前は俺のナンパを邪魔するんだ!!!」

明日香「(低い声で)座りなさい」


 椅子に座る嶺二


嶺二「嫉妬深い女は困るぜ・・・妬いてるなら素直にそう言えば良いのによ」

鳴海「(小声で)お、おい・・・あんまり挑発しない方が・・・」

嶺二「してないしてない、事実なんだから。(手を上げて)おばちゃん!カレーライス一つ!!」

店員「はーい!」


 キッチンに戻る店員

 忙しそうな店員


嶺二「(明日香を見ながら)フレディもなんで明日香に惚れちまったのか・・・全く意味分からんぜ」


 ますます怒り始める明日香

 怒っている明日香を見て怯える鳴海


汐莉「(怒りながら)響紀のこと、フレディって呼ばないでください」

嶺二「(呆れながら)汐莉ちゃん・・・響紀ちゃんは波高のフレディマーキュリーなんだよ?(汐莉を指差して)ブライアンメイ、まあやんがロジャーで、詩穂ちゃんがジョン。この際、バンド名も波音クイーンズにしたらどうかな」

鳴海「(小声でボソッと)少年野球のチーム名みてえだ」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「鳴海くん・・・今はふざける時じゃないと思う・・・」

鳴海「俺は場を和ませようと・・・」

雪音「見事に失敗したね」


 再び沈黙が流れる

 顔を見合わせる明日香と汐莉

 

汐莉「明日香先輩・・・そろそろこの二人に鉄槌を下した方がいいと思いませんか」

明日香「(頷き)そうね・・・」


 拳を握りしめる明日香


明日香「みんな、離れてて」


 明日香から離れる汐莉、菜摘、雪音、風夏

 

智秋「喧嘩はよして仲なおり・・・」


 後ろから智秋の肩に手をポンと置く風夏

 風夏を見る智秋

 首を横に振る風夏


風夏「若者を見届けるのが先輩の役目だよ」


 諦めて少し後ろに下がる智秋


嶺二「言っとくけどよ、ビンタ程度じゃ俺たちを止められないぜ?か弱い女子のピンタなんざ痛くも痒くねえってんだ」


 一歩前に出る明日香

 拳を引く明日香


明日香「(拳を引きながら)いい加減に・・・(嶺二を顔面を思いっきり殴って)しなさい!!!!!」


 鼻血を出しながら椅子から落ちる嶺二


雪音「ナイスパンチ」


 嶺二に近寄る鳴海


鳴海「嶺二!!大丈夫か!!」


 鼻を押さえながら体を起こす嶺二

 嶺二の鼻からポタポタと血が垂れる

 再び拳を握りしめる明日香


嶺二「(鼻を押さえながら)だ、大丈夫だ・・・死んだ爺ちゃんのためにも、俺は負けられねえ」

鳴海「凄い精神力だ・・・俺・・・お前のこと馬鹿にしてたけどこれからは尊敬するよ・・・」

明日香「(低い声で)鳴海」

鳴海「(振り向きながら)は、はい?」


 振り向きざまの鳴海の顔面を殴る明日香


汐莉「二発目も決まった!」


 鼻血を垂らしながら嶺二の隣に倒れる鳴海

 若干引きながら笑っている雪音

 ドン引きしながら見ている智秋

 鳴海と嶺二の姿を見て笑っている汐莉、雪音、風夏

 怒っている明日香

 明日香ほどでないが怒っている菜摘

 鼻を押さえながら体を起こす鳴海


鳴海「(鼻を押さえながら)いってえ・・・」

菜摘「自業自得だよ・・・」


 店員がカレーライスを運んでくる

 カレーライスと伝票をテーブルに置いて、無言でキッチンに戻る店員


明日香「(怒鳴り声で)どうしてあんた達は毎日毎日ろくでもないことばっかりするの!!!!馬鹿なの!?アホなの!?脳みそが入ってないの!?ちょっとは人の役に立つことをしたら!?結局文芸部のこともほったらかしにして!!!!卒業まで残り半年しかないのに!!!!あんた達が計画した合同朗読劇は一体どうなったの!!!!!」


 体勢を直し、正座する嶺二


嶺二「明日香、計画は全て順調だ。夏休みが明けた時・・・プロジェクトは第二段階へ移行する。夏休み中の今はまだ出来ないんだよ。明日香たちは説教する前に、早く朗読劇用の小説を書いてくれ。俺たちだって待ってるんだぞ」


 拳を握りしめる明日香

 鳴海が明日香の拳を見て怖がる


嶺二「それから、卒業まで残り半年って言ってたけど、まだ半年以上あるからな。しっかり計算してから言ってく・・・」


 再び思いっきり嶺二の顔面を殴る明日香

 倒れる嶺二


鳴海「(声 モノローグ)八月三十日・・・高校最後の夏休みは終わりを迎えようとしていた・・・」


◯186回想/波音高校三年三組の教室(昼)

 夏休み

 補習を行っている教室

 鳴海、嶺二、菜摘、その他大勢の生徒が補習用の課題を解いている

 神谷が教室の隅で読書をしている

 

鳴海「(声 モノローグ)案の定、俺と嶺二は期末テストで赤点を取り夏休みの大半を学校で過ごす羽目に・・・菜摘は出席日数の不足により、補習参加となった。因みに菜摘は赤点が無く、テストの結果自体は良かったそうだ。明日香曰く、毎日学校に通っていた俺や嶺二が赤点で、菜摘に赤点がないのは、人としての出来がそもそも違うとのこと」


 眠そうにあくびをする嶺二

 やる気のない嶺二

 歴史の課題に落書きをしている嶺二

 数学の課題を見ている鳴海

 鳴海の課題はほとんど埋まってない

 深くため息を吐き、課題を裏返す鳴海

 菜摘は真面目に英語の課題を解いている

 

鳴海「(声 モノローグ)補習で出された課題は難しく、かつ量も多かったため俺と嶺二は明日香たち助けを求めた」


◯187回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(夕方)

 夏休み

 補習の後

 教室の隅にパソコン四台とプリンターが一台ある

 明日香、雪音が鳴海と嶺二に課題の解き方を教えている

 菜摘、汐莉はそれぞれパソコンのWordを使って朗読劇用の小説を作っている

 タイピングしては文字を消している菜摘と汐莉


鳴海「(声 モノローグ)最初の方は明日香たちも優しかったのだが・・・」


◯188回想/波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(日替わり/夕方)

 夏休み

 夕日の光が教室に差し込んでいる

 黒板の前には軽音部の楽器が置いてある

 椅子に座っている鳴海と嶺二

 鳴海と嶺二に向かい合って汐莉、響紀、詩穂、真彩が座っている

 熱く語っている嶺二


鳴海「(声 モノローグ)朗読劇の題材に使う小説作りは菜摘たちに任せ、俺と嶺二は補習の合間を縫っては軽音部の説得を試みる。しつこく何度も頼んだが、結局は断られた。なかなか思い通りには進まない」


 困っている響紀、詩穂、真彩

 俯いている汐莉


鳴海「(声 モノローグ)計画の雲行きが怪しくなり、明日香たちの態度も変わり始めたのだ」


◯189回想/教習所の道路(日替わり/昼)

 夏休み

 快晴

 バイクにまたがっている鳴海と嶺二、そしてその他の生徒たち

 指示を出している教習所の教師


鳴海「(声 モノローグ)一番の失敗は、俺と嶺二がこのタイミングでバイクの免許を取りに教習所へ通い始めたことである」


◯190回想/本屋(日替わり/昼)

 夏休み

 大きな本屋にいる鳴海と菜摘、二人はデート中

 一冊の旅行雑誌を見ている鳴海と菜摘

 温泉、花畑、遊園地、動物園などの観光名所の写真が載っている雑誌


鳴海「(声 モノローグ)俺は夏休み前に菜摘と付き合い始め、そ、その後は・・・まあまあ上手くいってる、と思いたい・・・ある時、菜摘が日帰りでもいいからどこか旅行にでも行きたいねと言ってきた。それに対して何故か俺は、バイクで旅行しようぜ!と返しちまったわけだ・・・」


◯191回想/波音高校三年生廊下/三年三組の教室前(日替わり/昼)

 夏休み 

 休憩時間

 廊下で喋っている鳴海と嶺二


鳴海「(声 モノローグ)言ってしまった以上は、引き返せない。悩みに悩んだ挙句、親友以上恋人未満の関係である嶺二に相談。今にして思えば、こいつに相談したのも失敗だったな・・・そう、二人して補習が終わるのと同時に教習所デビューが確定したのだから」


◯192回想/緋空浜(日替わり/昼)

 夏休み

 人で溢れている緋空浜

 泳いでいる人、浜辺で遊んでいる人など様々な人がいる

 ライフセーバーの派手な服を着ている鳴海と嶺二

 鳴海と嶺二の胸ポケットにはサングラスがしまってある

 鳴海と嶺二は浜辺をパトロールしている


鳴海「(声 モノローグ)免許取得で金がどんどん消えていくので、俺と嶺二は夏休みだけ緋空浜で働くこととなった。言うまでも無く、忙し過ぎて文芸部どころではない」


◯193回想/映画館(夕方)

 夏休み

 ホラー映画を見ている菜摘と鳴海

 怖がっている菜摘

 菜摘と真逆で全然怖がっていない鳴海

 菜摘の膝の上にはポップコーンがあるが全然減っていない

 ポップコーンバケツを手に取り一人で淡々と食べる鳴海


鳴海「(声 モノローグ)それでも俺は、時間を作って菜摘とデートをした」

 

 時間経過


 ポップコーンがなくなっている

 半泣きになりながらもホラー映画を見ている菜摘

 寝落ちしている鳴海

 鳴海が寝ていることに気づく菜摘

 鳴海を起こそうとする菜摘

 鳴海の体を激しく揺さぶり、必死に起こそうとしている菜摘

 鳴海は全然起きない

 

◯194回想/映画館出入口(夜)

 映画館からたくさんの人が出てくる

 映画館から出てきた鳴海と菜摘 

 空になったポップコーンのバケツを捨てる鳴海

 大きなあくびをする鳴海

 半泣きの菜摘が鳴海に怒っている

 眠そうな鳴海


鳴海「(声 モノローグ)そんなこんなで少しずつに女性陣の怒りが溜まったらしい。免許を取る前に、バイトを始める前に、海でナンパする前に、ふざける前に、赤点を回避し、軽音部を説得し、朗読劇の準備をしろ、と」


◯195回想戻り/緋空浜(昼過ぎ)

 快晴

 人で溢れている緋空浜

 泳いでいる人、浜辺で遊んでいる人など様々な人がいる

 菜摘、明日香、汐莉、雪音、風夏、智秋は海の家で昼ごはんを食べている

 鳴海と嶺二は浜辺をパトロールしている

 鳴海と嶺二は鼻にティッシュを詰め込んでいる

 二人が鼻に詰めたティッシュで鼻血で赤く染まっている


鳴海「(声 モノローグ)今日は一条に誘われて、姉貴と一条のお姉さんが昔よく行っていたお好み焼き屋さんに連れてってもらう。一条のお姉さんの体は良くなってるみたいだし、あとは俺たちの合同朗読劇が何とかなりゃ良いんだが・・・」


◯196お好み焼き屋(夜)

 鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、風夏、智秋の8人が大きな鉄板がついたテーブル席に座っている

 混んでいるお好み焼き屋

 食材はまだ来ていない

 各々の前に飲み物、取り皿、小さなコテが置いてある


嶺二「そういうわけだから、まずは小説を準備してくれよ。本がなきゃ始まるもんも始まらないんだぜ。本の重要性ってのは、学園祭の時に分かっただろ、本のクオリティが成功とかんけ・・・」


 嶺二は一人で語っている

 誰も嶺二の話を聞いていない

 鳴海、菜摘、明日香、汐莉、雪音が話をしている

 風夏と智秋は鳴海たちとは別の話をしている


菜摘「(心配そうに)自分でうまく焼けるのかなぁ・・・」

鳴海「菜摘、焼き加減が大事だぞ」

菜摘「加減かぁ・・・」

汐莉「鳴海先輩、お好み焼き作ったりするんですか?」

鳴海「時々な」

汐莉「じゃあ先輩焼いてくださいよ、私たちは食べますから」

鳴海「おい」

菜摘「鳴海くん、ありがとう」

鳴海「な、菜摘!?」

明日香「(笑顔で)絶対に、焦がさないでよ」

鳴海「な、なんか怖いんですけど・・・」

雪音「絶妙な焼き加減でお願いね」

鳴海「何だよ絶妙な焼き加減って・・・」

智秋「風夏、お手本見せてあげたら?得意でしょ?」


 風夏と智秋が鳴海たちの話に入ってくる


風夏「いやー、タバコパワーがないと上手く出来ないよー」

鳴海「あんま吸ってると病気になんぞ」

風夏「姉上の体を心配をする前に自分の将来を・・・


 テーブルを思いっきり叩く嶺二 

 一斉に嶺二を見る鳴海たち


嶺二「(大きな声で)お前ら俺の話を聞きやがれ!!!」

風夏「(大きな声で)年上に向かってお前とはなんだお前とは!!!」

嶺二「(大きな声で)お前が嫌ならババアって呼んでやるよ!!!」

風夏「(大きな声で)ババアで結構!!!!こちとら踏んで来た場数が坊やとは違うからね!!!」

智秋「ね、ねえ風夏・・・その辺で抑えた方が・・・」


 周りにいる客たちは、迷惑そうに嶺二と風夏を見ている


嶺二「場数とか言って、実際はフラれた数が多いだけだろ」

風夏「(大きな声で)はぁ!?言っとくけど私むっちゃくちゃモテたから!!!」

鳴海「お前ら喧嘩するなら外でやってくれよ・・・」


 ジョッキに入ってたハイボールを一気に飲み干す風夏


智秋「あっ・・・飲んじゃった・・・」


 前のめりになる風夏 


風夏「(ポケットからスマホを取り出し 大きな声で)彼氏の写真を見ろ!!!!」


 風夏のスマホを覗き込む嶺二


嶺二「(大きな声で)ただのブス男じゃねーか!!!」

風夏「(大きな声で)バーカ!!!これが大人の男なの!!!!ガキは家に帰って保健体育の教科書でも読んでな!!!!」


 頭を抱える鳴海

 

嶺二「これが大人の男?笑わせんな。世界中の男を代表して言わせて・・・」


 言い争っている嶺二と風夏

 嶺二と風夏のことを見ている菜摘、明日香、汐莉、雪音、智秋

 

菜摘「鳴海くんのお姉さん・・・キャラ濃い・・・」

明日香「(風夏を見て)この姉にして、(鳴海を見る)この弟ありってわけか・・・」

汐莉「なーるほど、変人兄弟なんですね!」

雪音「恐るべしDNA」

鳴海「言っとくけど変人なのは姉貴の方だ!!!俺はあんな頑固じゃない!!!!」

菜摘「鳴海くんも、かなり頑固だと思うよ」

明日香「確かにね、堅物だしあんた」

鳴海「別に堅物ではないだろ俺・・・あと頑固でもねえからな・・・」

雪音「へぇー、無自覚なんだ」

鳴海「いや無自覚って・・・俺が堅物なのは確定かよ・・・」

雪音「うん」

鳴海「ひでえ・・・」

菜摘「兄弟なんだから仕方ないよ」

汐莉「そうですね、鳴海先輩には変わり者と頑固者と堅物の遺伝子が受け継がれているということで」

鳴海「お、お前ら・・・ボロクソに言い過ぎだぞ・・・」

明日香「海で遊んでた人にボロクソに言っちゃダメなの?」

鳴海「あの・・・俺遊んでたわけじゃないんですけど・・・」

明日香「鳴海・・・(少し間を開けて)狼少年って知ってる?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「はい・・・」

明日香「そういうことだから」

鳴海「はい・・・」

菜摘「しっかり反省してね鳴海くん」

鳴海「はい・・・」


 店員がお好み焼きの生地の素と、焼きそばを8人分運んでくる


店員「(食材をテーブルに置きながら)豚玉が7人前と、超特盛豚玉1人前と、超特盛ソース焼きそば1人前と、ミックス焼きそば3人前と、大盛り焼きそば1人前と、塩焼きそばが2人前。ご注文は以上でよろしいでしょうか」

風夏「(大きな声で)はーい!!!」

店員「鉄板の説明を・・・」

風夏「あっ、自分たちで出来ます」

店員「かしこまりました。ごゆっくり」


 店員がキッチンに戻っていく


風夏「一時・・・休戦とするか坊や」

嶺二「続きは食後だ!!」

鳴海「(小声でボソッと)みっともないから続けんといてくれや・・・」


 時間経過


 それぞれ喋りながらお好み焼きと焼きそば作り始めている8人

 上手く焼いている鳴海、嶺二、汐莉、雪音、風夏、智秋

 苦戦している菜摘、明日香


鳴海「(コテを使って)そろそろか」


 ちょうど良く焼けている鳴海のお好み焼き

 鳴海は取り皿にお好み焼きをのせる


菜摘「すごっ、綺麗に焼けてるね」

鳴海「(自慢げに)こんなん楽勝だ」

菜摘「さすが、家事が得意だって言ってただけあるよ」

鳴海「(照れながら)ま、まあな」


 お好み焼きを焼いている明日香

 綺麗に焼けずイライラしている明日香

 嶺二は超特盛焼きそばと超特盛お好み焼きをグチャグチャに混ぜながら焼いている


明日香「(イライラしながら小さいコテを使って)あーイライラする、せっかちだからこういう作業無理」

嶺二「(コテを使って混ぜながら)明日香、キレやすいのによく保育士になりたいって思ったよな。キレやすい奴には向いてないと思うぜ?」

明日香「(コテを向けて)あんたを黒焦げにしてあげよっか?」

嶺二「や、やめてください」

汐莉「(コテを使いながら)明日香先輩、焦らなくても嶺二先輩を焼き殺す機会はやってきますよー」


 ちょうどよく焼けている汐莉のお好み焼き

 汐莉は取り皿にお好み焼きをのせる


嶺二「焼き殺す!?」

雪音「(笑いながら)女子の怒りは怖いからね。闇雲に悪さばかりしてると、いつかツケが回ってくるんじゃないかな」

嶺二「い、良いことしかしてないから大丈夫だな・・・」

雪音「(コテを使って自分の皿にお好み焼きをのせながら)気を付けなよ。嶺二の将来を思って、一応今警告しといたから」

嶺二「あ、ありがと雪音ちゃん」

汐莉「さっき緋空浜でナンパした女性が襲いに来たりして・・・」

嶺二「こわっ!!」

明日香「せいぜい、気をつけることね。嶺二の前でうっかり包丁を滑らすかも」

嶺二「俺を殺しにかかってるじゃん」


 お好み焼きを取り皿にのせる風夏と智秋


風夏「タバコ吸いたいわぁ」

智秋「高校の時は吸ってなかったのに。どうして吸い始めたの?」

風夏「ストレスストレス」

智秋「ストレスの種は?」

風夏「上司、同僚、弟・・・その他いっぱい(少し間を開けて)仕事も勉強も忙しいし、ストレスが溜まるとついつい吸っちゃうんだよねぇ」

智秋「学校は行けてるの?」

風夏「なんとか・・・もうお金がカツカツでさぁ・・・(鳴海の方を見て小さな声で)あいつのためにも貯金しときたいんだけど・・・」


 鳴海は菜摘と話をしている


智秋「風夏・・・ありがとね。でもお金は弟くんのために残してあげて」


 嶺二がお好み焼きと焼きそばを混ぜた合わせたものを取り皿にのせている


風夏「医療関係の仕事は夢だから・・・そう言われても、身を引けないっていうか、簡単にはね・・・(少し間を開けて)ほんと、私も子供だなぁ・・・」

智秋「大人でも夢は追うよ、人間だもの」

風夏「(少し笑いながら)相田みつをか」


菜摘のお好み焼きがちょうど良い感じに焼けている

 

鳴海「菜摘!焦げちまう前に皿に盛るんだ!」

菜摘「(コテを持って)う、うん!」鳴海「落っことさないようにな」


 頷く菜摘

 菜摘はコテを使って、お好み焼きを取り皿にのせようとする

 鳴海と菜摘のことを見ている風夏、智秋


智秋「(鳴海と菜摘を見ながら)可愛くない?あの二人」

風夏「(少し怒ったように)私らだってまだ可愛いよ」


 苦戦している菜摘


智秋「(悪戯っぽく笑って)手伝わないの?お姉ちゃん」

風夏「ここで私が手伝ったら弟の株が下がっちゃうでしょー」

智秋「い、今更それを気にするんだ・・・」

風夏「当然じゃない、弟の前で恥はかけないんだから」

智秋「そ、そうだね・・・(小さな声で)もう遅いけど・・・」

鳴海「危なっかしいな、(手を差し出して)コテ貸してみ」


 コテを鳴海に渡す菜摘

 コテを受け取り、菜摘の取り皿にお好み焼きをのせる鳴海

 皿を菜摘の前に置く鳴海


鳴海「ほれ」

菜摘「ありがとう!」

鳴海「(照れながら)こ、困った時は・・・俺に言えよ・・・なんでもやっから」

菜摘「うん!」

風夏「(鳴海を見ながら)お、弟が・・・あんなに小さかった弟が・・・せ、成長してる!」

智秋「良かったね、お姉ちゃん」


 一人で感動している風夏


嶺二「(鳴海と菜摘を指差して)おいそこ!!お好み焼きを目の前にしてイチャイチャすな!!」

鳴海「イチャイチャはしてないだろイチャイチャは!!!」

嶺二「カップルが隣同士に座ったらな!!!それがたとえ相手の指一本や髪の毛に触れてなくても存在そのものがイチャイチャなんだよ!!!」

鳴海「意味不明なこと言ってんじゃねえ日本語喋れよ馬鹿!!!」


 言い争いを始める鳴海と嶺二


明日香「(鳴海と嶺二を見ながら)やっぱり血は抗えないのね・・・」

雪音「(鳴海と嶺二を見ながら)さすが兄弟、対人関係まで似ちゃうのがちょっと・・・」

汐莉「(鳴海と嶺二を見ながら)自分、一人っ子で良かったです」


 言い争っている鳴海と嶺二を見てうろたえる菜摘


嶺二「鳴海の理解力がゴミ以下なんだろ!!!!」

鳴海「ゴミ以下の理解力をしてるのはお前だ!!!!」

嶺二「イチャイチャばっかしてる奴が何を言って・・・」


 いきなり立ち上がる菜摘

 全員が一斉に菜摘のことを見る

 少しの沈黙が流れる


菜摘「か、か、か、カップルなんだからイチャイチャくらいしたっていいじゃん!!!!」


 再び沈黙が流れる

 顔が真っ赤になっている菜摘

 驚いている七人


鳴海「(驚きながら)な、菜摘・・・お前・・・」


 舌打ちをする嶺二


嶺二「しゃあねえな・・・菜摘ちゃんがそう言うんだったら許してやんよ」

菜摘「(小さな声で)あ、ありがと嶺二くん・・・」


 恥ずかしそうに座る菜摘


鳴海「お、おい・・・菜摘?今のは・・・」

菜摘「(大きな声で 明日香のお好み焼きを指差して)あ!!明日香ちゃんのお好み焼きが!!!」


 焦げ始めている明日香のお好み焼き


明日香「ああっ!!」


 慌ててコテを手に取る明日香 


明日香「(コテを雪音に差し出して)雪音!!パス!!」

雪音「(驚いて)えっ!?わ、私!?」

明日香「(コテを雪音に差し出したまま)お願い!!!」


 コテを受け取り、明日香の皿にお好み焼きを盛る雪音

 焦げている明日香のお好み焼き

 焦げた明日香のお好み焼きを見ている8人


嶺二「(焦げたお好み焼きを見ながら)ヘッタクソだなー。そんなに不器用だと響紀ちゃんにフラれるぞ」


 嶺二の後頭部を殴る明日香


嶺二「いてっ!」

明日香「私はフる側だから」


 時間経過


 お好み焼きと焼きそばを完食した一同

 鳴海は嶺二と喋っている

 菜摘は明日香、汐莉、雪音と喋っている

 智秋は風夏と喋っている

 風夏は完全に酔っ払っている

 風夏は大きな声で上司の愚痴を言っている


鳴海「この後?何か用でもあんのか?」

嶺二「(小声で)朗読劇のことで話がある」

鳴海「(小声で)今度は何をする気だよ・・・」

嶺二「(小声で)ここじゃ言えん」

鳴海「(小声で)危険な香りがするんだが・・・」

嶺二「(小声で)危険かどうかは話を聞いてから判断すればいいだろ」


 風夏を見る鳴海

 大きな声で上司の愚痴を言っていた風夏が突然寝始める

 

鳴海「(小声で)姉貴があんなんだしこの後は無理だ」

嶺二「(小声で)明日は?」

鳴海「(小声で)明日は菜摘に宿題を教えてもらう予定がある」

嶺二「(小声で)いつなら暇なんだよ?」

鳴海「夏休み明けなら暇だぞ」

嶺二「クソだなお前」

鳴海「うるせえ」

嶺二「頼むよ鳴海、夏休み中にしときたい話なんだ」

鳴海「そんなに大事な話なら今言ってくれ」

嶺二「みんなにはまだ聞かれたくない」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「分かったよ・・・(かなり間を開けて)ただし、姉貴を家で寝かせてからだ」

嶺二「よっしゃ、あざっす鳴海」


 眠ってしまった風夏を智秋が起こそうとしている


智秋「(風夏の体を揺さぶり)風夏ー、風邪引くよー」


 壁にもたれている風夏

 風夏は起きない

 鳴海が風夏に声をかける


鳴海「起きろ姉貴、こんなところで寝るんじゃねえ」


 風夏は起きない

 ため息を吐く鳴海


鳴海「騒ぐだけ騒いで寝やがったなこいつ・・・」

智秋「鳴海くん、あんまりお姉さんのこと苛めちゃダメだよ。優しくしてあげてね」

鳴海「い、苛めてないっすよ!」

智秋「優しくしてる?」

鳴海「そ、それは・・・まあ・・・」

智秋「鳴海くんが優しくしてあげたら、風夏もすっごい喜ぶんじゃないかな」

鳴海「や、優しくっすね・・・分かりました・・・」

智秋「ファイト!」

鳴海「が、頑張ります・・・」


 わざとらしく大きな咳払いをする嶺二

 風夏以外が嶺二のことを見る


嶺二「諸君、そろそろ本題に入らせてほしい」

菜摘「本題って?」

明日香「どうせしょうもないことを言うんでしょ」

汐莉「嶺二先輩の提案って、企画力こそありますけど計画性は皆無なんですよねー」

鳴海「的確な分析過ぎるだろそれ」

汐莉「鳴海先輩も嶺二先輩と同じタイプじゃないですか」

鳴海「同類の扱いかよ・・・」

雪音「二人は想像力が豊かってことだ」

明日香「よく言えばね・・・」

菜摘「想像力は創作に必要だよ!」

鳴海「そうだそうだ!!想像力は大事だぞ!!」

明日香「鳴海や嶺二の想像力が創作の役に立ったことってあった?」

菜摘「あっ・・・ないかも・・・」

鳴海「何でだよ!!俺の想像力は文芸部の活動に貢献してきただろ!!」

菜摘「そう・・・かな・・・」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「あのー・・・皆さん。まだ俺提案があるなんて一言も喋って・・・」

菜摘「えっ!?提案じゃないの!?」

嶺二「いやそれを今から説明しようと・・・」

雪音「提案だと思ってたけど違うんだ」

鳴海「提案しないなら今日は解散するかー」

明日香「そうね、疲れたし」

嶺二「も、もう解散しちゃうの!?早くね!?てか俺の話は!?」

鳴海「嶺二からの提案がないんだし解散の流れだろ」

嶺二「(大きな声で)お前らほんとめんどくせえな!!!!!提案して欲しいのかそうじゃないのかどっちなんだよ!!!!!」

汐莉「割とどっちでもいいです」


 再び沈黙が流れる


智秋「(小声で)全然話が進んでない・・・」

雪音「(小声で)この一連の流れが文芸部の伝統なの」

智秋「(小声で)恒例行事ってことね・・・」


 再び大きなわざとらしい咳払いをする嶺二


嶺二「気を取り直して・・・合同朗読劇のことで提案がある」

鳴海「(小声でボソッと)結局提案かいな・・・」

嶺二「菜摘ちゃん、朗読劇用の本は出来そうか?」


 風夏以外が菜摘を見る

 

菜摘「うーん・・・」


 困っている菜摘


鳴海「(声 モノローグ)実を言うと、俺が忙しかったのはもう一つ理由がある」


◯197回想/早乙女家菜摘の自室(昼)

 夏休み

 綺麗な菜摘の部屋

 菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある

 菜摘の部屋にいる鳴海と菜摘

 テーブルにパソコンと菜摘が創作で使っているネタノートが置いてある

 床に座ってノート、パソコンを見ている鳴海と菜摘

 

鳴海「(ノートを見せて)これなんかどうだ?面白そうなアイデアだと思うぞ」

菜摘「(ノートを見て)これは・・・魔女っ子少女団の曲と合わなくない?」

鳴海「あー、そうだな・・・」


 ノートをパラパラとめくり、面白そうなアイデアがないか見ている鳴海


鳴海「(ノートを見せて)じゃあこれは?」

菜摘「(ノートを見て)これは学園祭の時の朗読劇と話が似てるからダメだと思う」

鳴海「言われてみればそうだけど・・・でもさ、みんな学園祭の時の記憶は無くなってるし大丈夫じゃないか?」

菜摘「(首を横に振って)違う話の方がいいよ、最後の行事だもん」

 

 立ち上がる菜摘


菜摘「鳴海くん、お腹空かない?」

鳴海「多少は・・・」

菜摘「なんか取ってくるね」

鳴海「お、サンキュー」


 菜摘は部屋を出る

 鳴海は一人でノートを見ている


鳴海「(声 モノローグ)朗読劇用の本は夏休み中に仕上げる予定だった。と言っても、軽音部を口説く役目があるので俺と嶺二は本作りから外れ、明日香は受験の準備、一条はお姉さんのサポートをしなきゃいけないため本作りにほとんど参加していない。つまり、朗読劇用の本作りは菜摘と南頼りになったのだが・・・もともとこの企画に反対で、俺と嶺二の悪行に痺れを切らした南は本を作ってこず。実質、菜摘一人で本を作ることとなった。幾ら何でも菜摘に任せっぱなしでは申し訳ないので、こうして想像力豊かな俺がアイデアを提案するも、ことごとく玉砕」


 ノートを閉じる鳴海

 チラッとパソコンを見る鳴海

 Wordが開かれている

 ”文芸部×軽音部の卒業合同朗読劇ライブの本”とタイトルがついている

 タイトル以外は特に何も書かれていない


鳴海「(声 モノローグ)ここ最近、菜摘は本作りの熱意を失っているようだった。スランプなのかもしれない。明らかに集中力が欠けてるし、おまけに疲れやすかった」


◯198スーパー(夕方)

 スーパーで買い物をしている鳴海と菜摘の父親の潤

 カートを押している鳴海

 メモ用紙を見ながら卵を手に取る潤

 卵をカートの中に入れる潤


潤「(メモを見ながら)次は大根か・・・行くぞガキ」

鳴海「(カートを押して)俺はガキじゃねえ。つかあんた俺の話聞いてんのか?」


 大根を探す鳴海と潤

 大根コーナーを見つけ、立ち止まる鳴海と潤


潤「(大根を選びながら)話?聞いてねえな」

鳴海「(イライラしながら)ここんところ、菜摘の様子が変なんだよ」

潤「(大根を選びながら)変っていうのは、体のことか、心のことか。どっちだ」

鳴海「両方かもしれない・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「菜摘が何か話をしてないか」

潤「(大根を手に取り)18の娘が何でもかんでも親に話すとは限らないって分かるだろ。菜摘はお前みたいなガキじゃないんだぞー」

鳴海「そうかよ。(少し間を開けて)俺にはその親がいねえから分からなくて当然だ」


 大根をカートに入れる潤


潤「何だお前。もしや早乙女家の養子になりたいのか?」

鳴海「ちげえよ!!!」

潤「これからは義理の息子って呼んでやろう」

鳴海「呼ぶな!!!」


 メモ用紙を見ながら歩き始める潤


潤「ちくわちくわ・・・はんぺんはんぺん・・・」


 潤についていく鳴海


潤「それはそうとして、おめえが考えてるより菜摘は繊細だ。体も、心もな」

鳴海「(カートを押しながら)あ、ああ・・・分かってるよ」


◯199回想戻り/お好み焼き屋(夜)

 風夏は眠っている

 風夏以外が菜摘を見ている


菜摘「(俯き)本は・・・」

嶺二「菜摘ちゃん、気にしなくていい。誰にでも不調な時はある」

菜摘「ごめん・・・」

嶺二「夏休みも終わるし、今から本作りをするのはちっと厳しい。(少し間を開けて)そこでだ、まずは朗読劇の原案を見つけないか?」

明日香「原案?盗作すんの?」

嶺二「盗作って言うな。元からある小説か何かをを俺たちでアレンジして、そいつを朗読劇で使うんだよ」

汐莉「盗作ですね」

嶺二「ちげえわ!!」

雪音「盗作じゃないにしても、学校側の許可がいるんじゃない?」

嶺二「そこは俺と鳴海が何とかしよう」

鳴海「おい!何とかしようって言うけどな!他にも何とかしなきゃいけないことは山ほどあるんだぞ!!」

嶺二「仕方ねえだろ。これしか方法がねえんだから」

菜摘「因みにその原案の候補は?」

嶺二「それはだな・・・(少し間を開けて)う、浦島太郎とか・・・不思議の国のアリスとか・・・適当に・・・」

鳴海「適当かよ!!!」

嶺二「要するに何でもおkってことだ」

明日香「逆に時間かかるじゃん」

嶺二「んなことねえよ。オリジナルの話さえ決めちまえばあとは素材を活かすだけだし。それにさ、原案があれば軽音部にもすぐ知らせられるぜ」

汐莉「軽音部が参加するなんて言ってません」

嶺二「本があれば参加するっしょ」

汐莉「そうとは限りませんよ」


 嶺二が菜摘を見る

 困っている菜摘


菜摘「(困りながら)元に出来そうな本があれば良いけど・・・」


 少しの沈黙が流れる


智秋「ねえ、みんな波音物語って本知ってる?」

菜摘「波音・・・物語・・・?」


 雪音がカバンから一冊の文庫本を取り出して、菜摘に差し出す

 受け取る菜摘

 白瀬波音が著書の本


雪音「その本・・・」


 パラパラと波音物語をめくる菜摘


明日香「波音物語って、波音町を作った人の話ですか?」

智秋「そうそう、白瀬波音の自伝。この町のことや、奇跡の話が描かれてるんだよ」

鳴海「(小声で)また奇跡か・・・」

智秋「古い話だから現代風にアレンジも出来ると思う」

嶺二「良いっすね!!!」


 波音物語を閉じる菜摘


菜摘「この本、借りてもいいですか?」

智秋「もちろん、是非読んでみて」

菜摘「ありがとうございます」


◯200お好み焼き屋外(夜)

 お好み焼き屋を出てきた一同

 鳴海は風夏を支えている

 風夏は半分寝ている

 雪音は智秋と話をしている


雪音「お姉ちゃん、まだあの本持ってたんだ」

智秋「意外?」

雪音「ちょっとね」


 嶺二は明日香、汐莉と話をしている


嶺二「俺と鳴海はタクシーで帰るわ」

汐莉「え、ずる先輩」

明日香「何で嶺二もタクシーなの?」

嶺二「朗読劇のことで話がある」


 鳴海は菜摘と話をしている


鳴海「(風夏を支えながら)本作りのこと、あんま考え過ぎるなよ」

菜摘「うん・・・」

鳴海「(風夏を支えながら)焦らずにやって行こう」


 頷く菜摘


菜摘「明日遅れないでね。鳴海くんの宿題、まだまだあるんだから」

鳴海「(風夏を支えながら)おう、菜摘もな」

菜摘「私の家で宿題するんだよ?家主が遅刻すると思う?」

鳴海「(風夏を支えながら)今のはちょっとしたおふざけだ」

菜摘「そのおふざけが最近多い・・・」

鳴海「(風夏を支えながら)すまんすまん、菜摘を元気付けるためにふざけた」

菜摘「鳴海くんがふざけなくても私元気だよ」

鳴海「(風夏を支えながら)そうか・・・菜摘が元気ならそれで良いけど・・・」

菜摘「鳴海くん?どうしたの?」

鳴海「(風夏を支えながら)あっ、いや・・・何でもない。明日、勉強頼むよ」

菜摘「うん!」


 いつの間にか言い争ってる明日香と嶺二

 明日香と嶺二を見て呆れている汐莉


汐莉「明日香先輩と嶺二先輩は、菜摘先輩たちを見習ったらどうです?残り半年ちょっとくらい仲良くしてくださいよ」

明日香「無理、この馬鹿と仲良く出来るわけないでしょ」

嶺二「汐莉ちゃん、俺は仲良くやろうとしてんだぜ?でも明日香がよ・・・(ため息を吐いて)この女はほんと・・・すぐキレるんだ・・・」

明日香「はぁ!?」

嶺二「明日香が千春ちゃんみたいに優しくて、気遣いの出来る女だったらなぁー」

明日香「嶺二」

嶺二「んー?」

明日香「早く大人になりなさい」

嶺二「あー、千春ちゃんに会いたいわぁー。千春ちゃーん」

明日香「(汐莉の手を引っ張り怒りながら)汐莉、行こ。こいつの近くにいると馬鹿になるから」

汐莉「(明日香に引っ張られて)あ、明日香先輩!」


 明日香に引っ張られていく汐莉


明日香「(汐莉の手を引っ張り怒りながら)菜摘!!雪音!!早く」

汐莉「あ、うん!鳴海くん、バイバイ」

鳴海「(風夏を支えながら)じゃあな」


 菜摘、雪音、智秋が明日香のところへ行く

 嶺二が鳴海のところにやって来る

 菜摘、明日香、汐莉、雪音、智秋を見送る鳴海と嶺二


鳴海「(風夏を支えながら)嶺二・・・お前また明日香を怒らせただろ」

嶺二「怒らせてねーよ、千春ちゃんに会いたいって言ってただけだ」

鳴海「(風夏を支えながら)あんだけナンパしてたくせによく言えるよなそれ」

嶺二「千春ちゃんがいないからナンパしてんだよ馬鹿。嫉妬した千春ちゃんがその辺から出て来るかもしれねーだろ」

鳴海「(風夏を支えながら)そ、そんなことあるのか・・・?」

嶺二「それは俺にも分からん。てか早くタクシー拾うぞ」

鳴海「(風夏を支えながら)あ、ああ。(風夏を揺さぶって)姉貴、起きろ。帰るぞ」


 風夏は起きない


◯201せせらぎ公園(夜)

 ブランコに座っている鳴海と嶺二

 公園には鳴海と嶺二しかいない

 時刻は11時過ぎ


鳴海「(腕時計を見て)やべえ・・・もうこんな時間じゃねえか・・・」

嶺二「鳴海のせいだぞ。姉貴をベッドまで運ぶとか言い出すから」

鳴海「仕方ねえだろ、酔い潰れたままリビングに置いとくわけにはいかねえし」

嶺二「鳴海よ、お前最近姉貴に甘くね?優し過ぎないか?」

鳴海「んなことねえよ。姉貴のことはどうでもいいからさっさと用件を話せ」

嶺二「あーそうだったそうだった。軽音部のことなんだが・・・」

鳴海「何だよ?」

嶺二「作戦を変えようと思う」

鳴海「作戦?軽音部との合同は諦めるってことか?」

嶺二「いや、諦めない」

鳴海「じゃあどうすんだ?俺たち断られ続けてるんだぞ?」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「最終手段だが・・・生徒会を利用しよう」

鳴海「トラブルの香りしかしない最終手段だ・・・」

嶺二「生徒会お墨付きのイベントになっちまえば、俺たちの活動の幅もかなり広がると思わないか?」

鳴海「どうやってそんな大規模なイベントにするんだよ・・・」

嶺二「十月の上旬に生徒会選挙がある」

鳴海「お、お前、まさか・・・」

嶺二「そのまさかだ」

鳴海「三年生は立候補出来ないんだぞ!」

嶺二「俺が立候補するわけないだろ!!」

鳴海「なんだ、嶺二が立候補するのかと思ったわ」

嶺二「ちげえよ!!」

鳴海「言っとくけど、俺も立候補せんからな」

嶺二「分かっとるわ!! (少し間を開けて)安心しろ、三年生を立候補させる気はない」

鳴海「三年生をってことは・・・二年か一年を使うのか・・・(小声でボソッと)余計にトラブルの香りがして来たぞ・・・」

嶺二「俺たちにだって可愛い可愛い後輩いるじゃないか」

鳴海「誰のことを言ってるんだ・・・」

嶺二「響紀ちゃんだよ」

鳴海「どちらかと言うとあれは格好良い後輩だろ・・・」

嶺二「響紀ちゃんは最高に可愛くて、最高に格好良い後輩だよ。あの子が生徒会に入ってくれれば、俺たちはほぼ無敵だ」

鳴海「響紀を生徒会に入れる意味が分からん」

嶺二「生徒会には行事ごとを担当する役職があるんだぜ?響紀ちゃんがその仕事就いちまえばこっちのもんよ。卒業前の三年生を送る会で、俺たちの合同朗読劇を披露する」


 再び沈黙が流れる 


嶺二「卒業生の披露会っていう名目で響紀ちゃんがプログラムを提出すりゃいいんだよ。文芸部だけじゃなくて、軽音部も三年がライブをしなきゃいけないんだし、他の部にもメリットがあるだろ?」

鳴海「どうやって響紀を生徒会に立候補させるんだ?」

嶺二「明日香とのデートを交換条件にするんだよ」

鳴海「お前・・・そんなことしたらまた明日香に・・・」

嶺二「仕方ねーだろ。軽音部を説得出来なかったんだから。(少し間を開けて)こうなっちまった以上、多少強引な手段に出ねーと朗読劇が成功しないぞ」

鳴海「強引過ぎるだろ・・・」

嶺二「鳴海の気持ちも分かるけど、これが最良の作戦だぜ?」

鳴海「さ、最良なのか・・・?」

嶺二「最良に決まってんだろ!」

鳴海「(声 モノローグ)そう、つまり最良の作戦ですら最悪であった・・・」


◯202滅びかけた世界:緋空浜(昼)

 晴れている

 ゴミ掃除をしていた場所へ辿り着くナツ、スズ、老人

 浜辺にゴミの山が出来ている

 ゴミの山は、空っぽの缶詰、ペットボトル、重火器、武器類、骨になった遺体などが積まれて出来ている

 ゴミの山の周囲はまだ様々なゴミが散らかっている

 ゴミ山の隣には大きなシャベルが砂浜に突き刺さってる

 ゴミの山から数百メートル先の浜辺は綺麗になっている

 浜辺には水たまりが出来ており、水たまりの中にもゴミがある 

 浜辺には一台のカートがある

 カートはスーパー等に置いてあるものと同じタイプ

 老人のカートのカゴにはビニール袋が敷いてあり、その中にトング、新品のゴミ袋が入っている

 

ナツ「遠かった・・・」

老人「いや、まだだ」

スズ「ここがゴールじゃないの?」

老人「むしろ始まりだよ。今から君らの掃除道具を手に入れなきゃならん」

スズ「道具?」

老人「素手でやるのは危険だからな」

スズ「あ〜、なっとくちゃ!!」

ナツ「めんど・・・」

老人「(ナツの肩をポンポンと叩きながら)辛抱が大事だよ、若者」


 老人は歩き始める

 老人の後に続くスズ

 スズの後ろをゆっくりめんどくさそうに歩くナツ


◯203滅びかけた世界:緋空浜付近のスーパー店内(昼)

 緋空浜近くのスーパーの中にいるナツ、スズ、老人

 スーパーの中は暗く、かすかに太陽の明かりが店内に入ってきている

 荒れ果てている店内

 商品棚はほとんどが倒れており、食料品は一切ない

 ナツは怖がっている

 スズはライトを照らしている

 

スズ「(ライトで照らしながら)ジジイ、ここって食いもんある?」

老人「ない」

スズ「(ライトで照らしながら)本当に〜?隠してるんじゃないの〜?」

老人「無いものは無い」

スズ「(ライトで照らしながら)絶対あるよ〜」


 スズは一人勝手に店内を回り始める


ナツ「す、スズ!!置いてくな!!」


 スズはナツを無視してどこかに行ってしまう

 ナツはスズを追いかけようとするが、老人に止められる


老人「おい、お前は俺についてこい」

ナツ「命令するな!!お前となんか行かない!!」

老人「なら一人で真っ暗な店内を回るか?」

ナツ「(怖がりながら)ひ、一人で・・・」

老人「しかもかなり暗いぞ」

ナツ「(大きな声で)く、暗いのは平気だ!!!」

老人「そうか。そこまで言うなら別行動にしよう。俺は正面を適当に回るから、ナツは反対側を頼む」


 老人はナツを置いて一人で店内を回り始める


ナツ「ま、待って!!!」


 立ち止まって振り返る老人

 ナツは走って老人のところに行く


老人「なんだ?」

ナツ「や、やっぱり一緒に・・・ひ、一人より二人の方が襲われにくいから・・・」

老人「確かに、二人の方が安全かもな」


 二人は店内を回り始める


ナツ「(怖がりながら)ね、ねえ・・・」


 しゃがんで、倒れた商品棚を見ている老人

 かつて軍手やゴミ袋を取り扱っていた商品棚

 商品棚と棚の周囲には商品が散らかっている


老人「(倒れた商品棚を見ながら)なんだ?」

ナツ「(怖がりながら)く、暗いんだけど・・・」

老人「(倒れた商品棚を見ながら)だからそう言ったじゃないか。真っ暗だって」


 老人は倒れた商品棚から新品の軍手を二つ手に取る

 

老人「(軍手を二つナツに差し出して)持っとけ、これは使える」

ナツ「(軍手を二つ受け取り)あ、うん・・・」

老人「(倒れた商品棚を見ながら)袋もこの辺にあるはずなんだが・・・」


 しゃがんだまま周囲を見る老人


ナツ「ライト、持ってないの?」

老人「(しゃがんだまま周囲を見ながら)持ってる」

ナツ「使いなよ」

老人「(しゃがんだまま周囲を見ながら)太陽が出てるんだから、それで十分だ」

ナツ「見辛いじゃん」

老人「(しゃがんだまま周囲を見ながら)慣れてるから問題ない」


 老人は倒れた棚の横に新品のゴミ袋が落ちてることに気づく

 老人は新品のゴミ袋を拾う

 

老人「(新品のゴミ袋を差し出して)これも必要だ」

ナツ「(新品のゴミ袋を受け取り)袋なんか何にするの?」

老人「よく見ろ、それはただの袋じゃなくてゴミ袋だぞ」

ナツ「いや・・・だから暗くて見えないんだけど・・・」


 立ち上がる老人


老人「後はカートとカゴか・・・それとお前さんの相棒を連れて来ないとな」


 歩き始める老人

 老人について行くナツ

 店内を一人で回っているスズ

 スズは食料品が売られていたところを見ているが、何も残っておらず、酷く荒らされている


スズ「(ライトで照らしながら)おっかしいな〜。食べられる物があるかと思ったのに〜」


 スズがつまづく


スズ「いてっ・・・(足元をライトで照らして)ん?何だこれ?」


 スズが足元にある何かを見る


スズ「こ、これは!!!!」


 走ってその場から離れるスズ

 カートを押しているナツ

 ナツが押しているカートの中には二つの軍手、新品のビニール袋が入っている

 しゃがんだまま倒れた商品棚を見ている老人


老人「(商品棚を見ながら)仕方がない・・・料理用トングで我慢するか・・・」


 立ち上がる老人

 ナツと老人の元へ走って来るスズ

 スズが走って来ていることに気づくナツと老人


ナツ「一人で行動するなって・・・」


 スズはナツと老人の手を掴み、急いで二人を連れて行く


老人「(スズに連れて行かれながら)おい!!」

ナツ「(スズに連れて行かれながら)す、スズ!?」


◯204滅びかけた世界:緋空スーパー外(昼)

 晴れている

 走ってスーパーの外に出てきたナツ、スズ、老人

 スーパーの外からは緋空浜が見える

 道路には雑草が生え、所々に無人の汚れた車がある

 スーパーの周囲には半壊している民家やお店がある

 息切れしている三人


ナツ「(息切れしながら)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

老人「(息切れしながら)ハァ・・・ハァ・・・クソ・・・今度は何事だ・・・」

スズ「(息切れしながら)ハァ・・・ハァ・・・ば、爆弾が・・・爆弾が落ちてた・・・」

老人「(驚きながら)爆弾だと!?」


 頷くスズ


ナツ「スズ!!やっぱりこいつは私たちを殺す気なんだ!!!」

スズ「(驚き)えぇ!?そうなの!?」

老人「馬鹿言うんじゃない・・・何で今更君たちを・・・」

ナツ「このジジイサイコパスだよ!!」

スズ「さいこぱす・・・?さいこぱすってタコの仲間?」

ナツ「(大きな声で)それはオクトパス!!!!サイコパスは殺人で快楽を得る変態のこと!!!!」

スズ「あ〜、それはオクトパスだったか〜」


 銃を構える老人


ナツ「わ、私たちを撃ち殺して食べるのか!?」

スズ「なっちゃんよりね、私の体の方が美味いと思う」

ナツ「何を言ってるのスズ!!!」

老人「(銃を構えながら)お前たちはここから離れてろ。俺は爆弾があるのか確認しに行く」


 老人は銃を構えながらスーパーに向かって行く


スズ「ジジイ爆発しちゃうよ!!!」

老人「(銃を構えながらスーパーに向かい)そうとは限らん」


 スーパーに入る老人


ナツ「(スズの手を掴み)行こうスズ!!」


 ナツはスズの手を掴み、スーパーから離れたところに連れて行く

 離れたところからスーパーを見ているナツとスズ


スズ「ジジイ、大丈夫かな?」

ナツ「あいつは信用出来ない!」

スズ「ジジイはショートパス?とか言う奴なの?」

ナツ「サイコパスだってば!!」

スズ「難しいなぁ。サイコパスなんて言葉初めて聞いたもん」

ナツ「とにかくあいつは危険だ!!見るからにやばい!!脱走兵ってのも怪しい!!」

スズ「ふーん。そんなにやばい?」

ナツ「(頷き)油断出来ないよ」


 時間経過


 少しすると老人がカートを二台引きながら出て来る

 二台のカートの中には掃除用具であるトング二つ、小さなスコップ二つ、軍手二つ、新品のゴミ袋、壊れた電子時計が入っている


ナツ「スズ、用心して。爆弾を持ってるかも」

スズ「うん」


 ナツとスズに向かって電子時計を放り投げる老人


ナツ「ば、爆弾だ!!!」


 電子時計を爆弾と勘違いしてナツとスズは慌てて逃げる

 電子時計から少し離れたところでうつ伏せになり頭を両手で守るナツとスズ

 目を瞑っているナツとスズ

 怖がっているナツ

 老人は遠くからナツとスズのことを眺めている

 ため息を吐き、電信時計を拾いに行く老人


スズ「(頭を守りながら)いつ爆発するのかな・・・」

ナツ「(頭を守りながら)もうすぐだよ!!」


 二台のカートを置いて、電子時計を持ったまま老人はナツとスズの元に行く

 老人はナツとスズの目の前に電子時計を置く

 電子時計は深夜0時10分を表示したまま動かなくなっている

 数字の色は赤い


老人「これは爆弾じゃなくて時計だ。しかも壊れてる」


 恐る恐る目を開いて時計を見るナツとスズ


スズ「(うつ伏せのまま電子時計を見て)ほんとだ・・・壊れた時計だねなっちゃん」

ナツ「(うつ伏せのまま電子時計を見て)と、時計によく似た爆弾かもしれない・・・」


 少しの沈黙が流れる


老人「先が思いやられるな・・・全く・・・」


◯205早乙女家前(日替わり/朝) 

 快晴

 セミが鳴いている 

 自転車で菜摘の家にやってきた鳴海

 駐車場に自転車を止め、リュックを背負う鳴海

 駐車場には車が二台停まっている

 鳴海はポケットからスマホを取り出し、髪型と服装をチェックする

 身だしなみを確認した後、玄関に行ってインターホンを押す鳴海

 菜摘の母、すみれがインターホンに出る


すみれ「(インターホン 声)はーい」

鳴海「(インターホンに向かって)き、貴志です」

すみれ「(インターホン 声)ああ鳴海くん、ちょっと待ってて。今菜摘が開けに行くから」

鳴海「(インターホンに向かって)あ、はい」


 少しすると、菜摘が扉を開ける


菜摘「(扉を開けながら)おはよう鳴海くん」

鳴海「お、おはよう」

菜摘「(扉を開けながら)入って入って」

鳴海「お、お邪魔します」

 

 菜摘の家に上がる鳴海


◯206早乙女家リビング(朝)

 物が少なく綺麗に整理整頓されたリビング

 すみれの父、潤がソファに座ってテレビを見ている

 すみれは椅子に座りコーヒーを飲んでいる


すみれ「いらっしゃい」

鳴海「お邪魔します」

すみれ「ゆっくりしてってね」

鳴海「(軽く頭を下げ)はい」

潤「(振り返り)うちは無宗教だぞ。分かったら帰れ」

鳴海「宗教勧誘じゃねえよ!!!」

潤「(振り返ったまま)日曜の朝からうるさいなお前は・・・(少し間を開けて)帰れ」

鳴海「帰らんわ!!!」

菜摘「お父さん、今日は鳴海くん宿題をしなきゃいけないんだから邪魔しないでよ」

潤「(振り返ったまま)邪魔はしてない。これはただの嫌がらせだ」

鳴海「邪魔してるじゃねえか!!!!」

すみれ「潤くんはもうほんと子供なんだから・・・」

潤「(振り返ったまま)寄る年波に負けちゃうよりいいだろ」

すみれ「(呆れて)はいはい。潤くんは若い若い」

潤「(すみれを見て)いやぁ、でもやっぱり一番若くて綺麗なのはすみれだなぁ」

すみれ「あらそう?」

潤「(すみれを見たまま)今日も十代に見えるよ」

すみれ「ありがとー」

鳴海「(声 モノローグ)相変わらずこの家のノリは謎だ」

菜摘「行こう鳴海くん」

鳴海「あ、ああ。じゃあ宿題して来ます」

すみれ「頑張ってね〜」


 階段を登る鳴海と菜摘


◯207早乙女家菜摘の自室(昼前)

 綺麗な菜摘の部屋

 菜摘の学校用カバンの隣に鳴海のリュックが置いてある

 テーブルの上には鳴海が持ってきた夏休みの宿題と筆記用具が置いてある

 床に座って数学宿題をやっている鳴海

 床に座って鳴海が解いた英語の宿題の答え合わせをしている菜摘

 

菜摘「鳴海くん、(英語の問題集を指差して)これなんて書いてあるの?」

鳴海「ん?」


 菜摘が指差しているところを見る鳴海

 英語の問題集の鳴海の字はめちゃくちゃ汚い


鳴海「(英語の問題集を見ながら)あーこれは・・・(かなり間を開けて)bだな」

菜摘「(英語の問題集を見ながら)これでbなんだ・・・nかと思ったよ・・・」

鳴海「(英語の問題集を見ながら)そりゃないぜ。どう見てもbだろ」

菜摘「(英語の問題集を見ながら)う、うん・・・そうだね・・・」


 菜摘は英語の問題集の答え合わせを再開する


鳴海「菜摘、そろそろ休憩しねえか?」

菜摘「えっ?もう休憩?」

鳴海「まあ・・・夕方くらいまでには終わりそうだし・・・」

菜摘「ほんとに?」

鳴海「た、多分な」

菜摘「夏休みの宿題、提出しなかったらまた明日香ちゃんに怒られるからね」

鳴海「大丈夫だ、ちゃんと提出する」

菜摘「明日香ちゃん、怒ってばっかだけどほんとは鳴海くんと嶺二くんの将来を凄く心配してくれてるんだよ?」

鳴海「心配、ね・・・(ため息を吐き)明日香を怒らせずに卒業してえもんだ・・・」

菜摘「したいじゃなくて、全力で明日香ちゃんを怒らせないようにするの!!」

鳴海「なるほど・・・(小さな声で)俺と嶺二は三年間真逆のことをしてたわけだ・・・」

菜摘「え?真逆?」

鳴海「な、何でもない!!そ、それよりさ・・・昨日一条のお姉さんから借りた本はどんな感じだ?」

菜摘「まだ全部読んだわけじゃないんだけど・・・」


 考え込んでいる菜摘


鳴海「つまらないのか?」

菜摘「ううん、面白いよ。作者の手記から出来てるからリアリティもあるし・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「少し・・・千春ちゃんの時に似てるのかな・・・」

鳴海「千春の時に似てる・・・?」

菜摘「うん。初めて知る世界とは思えないんだよね」

鳴海「それって・・・本の内容を知ってたってことか?」

菜摘「うーん・・・(困りながら)なんて説明すればいいんだろ・・・(少し間を開けて)作者の気持ちが・・・」

鳴海「分かる?」

菜摘「分かる・・・分かるというか・・・知ってるっていうか・・・波音物語を読んでるとね、まるで自分の経験のように感じる時があって・・・」

鳴海「すげえ本じゃねえか」

菜摘「(頷き)特別な本だと思う」

鳴海「波音って人が書いたんだろ?」

菜摘「そうだよ」

鳴海「そんだけ凄い本を書いたってことは、よっぽど優秀な人だったんだろうな」


 再び沈黙が流れる


菜摘「鳴海くん。私、波音物語を元に朗読劇用の本を作るよ」

鳴海「おおっ!マジか!!」

菜摘「波音物語なら上手く出来ると思う」

鳴海「そりゃ良かった。俺にも手伝えることがあったら言ってくれ」

菜摘「大丈夫、鳴海くんは軽音部の説得をお願い」

鳴海「お、おう・・・(かなり間を開けて)軽音部をどうにかしないとな・・・」


 時間経過


 夕方になっている

 菜摘の部屋にある時計は五時半過ぎを指している

 宿題の答え合わせが終わって菜摘は波音物語を読んでいる

 数学の問題集を勢いよく閉じる鳴海

 体を思いっきり伸ばす鳴海


鳴海「(体を伸ばしながら)終わったぁ!!!」


 波音物語に栞を挟み、本を閉じる菜摘


菜摘「あれ?答え合わせは?」

鳴海「安心しろ、ちゃんとやった」

菜摘「私、チェックしてあげよっか?」

鳴海「いいって。俺だって丸つけくらい出来るんだぞ」

菜摘「でも鳴海くんの丸って下手くそじゃん?」

鳴海「おい、下手はないだろ」

菜摘「じゃあ・・・(かなり間を開けて)個性的!」

鳴海「うん、下手でいいわもう」

菜摘「そうやって開き直るのはよくないよ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「マジか・・・」

菜摘「どうしたの?」

鳴海「いや・・・まさか菜摘が説教するなんて・・・」

菜摘「私、鳴海くんを良い人にしたいんだよね」

鳴海「はぁ・・・ちょっと何を言ってるのか分からないんですけど・・・」

菜摘「良い人っていうのは、優しい人のことじゃなくて、悪さをしない人のことだよ」

鳴海「なるほど。既に俺は立派な良い人だな」

菜摘「適当なことを言う癖も直さなきゃ」

鳴海「俺の個性を奪う気か」

菜摘「鳴海くんの個性は他にもあると思う・・・」

鳴海「いや、適当なのが個性だろ」

菜摘「適当なのが個性だって言い切っちゃうその残念な感性も直そうね」

鳴海「改造でもしない限り俺の感性は変わらないと思うぞ?」

菜摘「やってみる!!」

鳴海「改造すな」

菜摘「えぇー。改造しないとこれから苦労が多いと思うよ」

鳴海「そうかぁ?」

菜摘「性格的にね・・・鳴海くんって自分を追い詰めるじゃん?現に今だってお昼ご飯を食べずに宿題しちゃうし」

鳴海「昼飯なんか食ってたら宿題が終わらないだろ。それに昼飯抜きになったのは今日まで宿題をやってこなかった自分のせいだ」

菜摘「それが分かってるなら・・・苦労が絶えないってことも気づくと思うんだけどなぁ・・・」

鳴海「菜摘。難しい話は後だ!!」

菜摘「後って・・・なんかするの?」

鳴海「今こそ飯を食おう飯を・・・って菜摘は食べてるのか・・・」

菜摘「ごめんね、先にお昼食べちゃった・・・」

鳴海「いや、悪いのは俺だ。貴重な夏休み最終日を俺の宿題で潰しちまった。すまねえ」

菜摘「ううん。私だって夏休み前ノートとかプリント取ってもらってたし・・・」


 菜摘の頭を軽くポンポンとする鳴海


鳴海「(菜摘の頭をポンポンし)そんな前のこと気にするなよ」

菜摘「(俯き)う、うん・・・」

鳴海「よしっ!遊ぼうぜ!」

菜摘「えっ、でもご飯は?お母さんに頼んで早めに・・・」

鳴海「(首を横に振り)夕飯まで我慢する」

菜摘「(心配そうに)倒れたりしない?」

鳴海「大丈夫だよ。それに菜摘のお母さんに迷惑をかけたくない」

菜摘「じゃあ・・・何しよっか・・・」

鳴海「何でもいいぞ。菜摘がしたいことあったらそれに付き合うけど」

菜摘「うーん・・・そうだなぁ・・・」


 少しの沈黙が流れる

 考え込んでいる菜摘


菜摘「あっ!そうだ!!鳴海くん、花火しない?」

鳴海「いいけど、家にあるのか?」

菜摘「うん!」


◯208早乙女家庭(夜)

 日が沈んですぐの時間

 雑草が刈られた綺麗な庭

 庭にいる鳴海、菜摘、潤

 ライター、水が入ったバケツ、ゴミを入れるための袋、大量の手持ち花火が庭に置いてある

 キッチンではすみれが夕飯の支度をしており、網戸からその姿が見える


鳴海「(花火を見ながら)思ってたより・・・多いな」

潤「俺に感謝しろよガキ」

鳴海「あんたがこんなに買ったのか・・・」

菜摘「違うよ鳴海くん、お父さんが商店街の福引で当てたの」

鳴海「(驚いて)は!?マジで!?」


 頷く菜摘


潤「義理の息子よ、父上を褒めるのだ」

鳴海「(小さな声でボソッと)俺は義理の息子じゃねえ」


 時間経過


 一通り袋から花火を出した鳴海たち

 花火は線香花火、ススキ花火、絵型花火、スパーク花火、ロケット花火など様々な種類がある

 花火を見ている鳴海たち


潤「(花火を見ながら)お前たち約束しろ。何があっても・・・絶対に・・・お隣の木下さんに向かってロケット花火を撃ち込むなよ?絶対だからな?」

菜摘「(花火を見ながら)分かった、狙わない。絶対狙わないよお父さん」

鳴海「(花火を見ながら)それは狙えっていうふりなのか・・・?」

潤「(花火を見ながら)木下さんはな、日曜の朝5時からホルンを吹く素敵な人だ。だから絶対に、ロケット花火を撃ち込んじゃならん」

鳴海「(花火を見ながら)迷惑過ぎるだろ木下さん」

菜摘「(花火を見ながら)そうだね、木下さんの家を燃やさないようにする」

鳴海「(花火を見ながら)あんたたち狙う気満々だな・・・」


 ススキ花火を手に取る鳴海たち

 ライターの火をつける潤

 

潤「(ライターの火をつけたまま)菜摘、つけていいぞ。俺と義理の息子は菜摘の花火から火を貰う」

菜摘「オーケー」

鳴海「いやだから義理の息子呼びするな」


 ススキ花火をライターに近づける菜摘

 少しすると菜摘の持っていたススキ花火に火がつく

 

菜摘「ついた!!」


 菜摘の持っているススキ花火が赤色に光り、音を立てながら火花を飛ばす

 鳴海は急いで持っていたススキ花火を菜摘のススキ花火に近づける

 ライターをポケットにしまい、潤も鳴海と同じくススキ花火を近づける 

 少しすると鳴海のススキ花火に火がつく


鳴海「サンキュー菜摘」


 鳴海の持っているススキ花火が赤色に光り、音を立てながら火花を飛ばす


潤「(ススキ花火を鳴海のススキ花火に向けながら)俺にも火をくれ」

鳴海「(火のついたススキ花火を近づけて)はいよ。(少し間を開けて)親父」

潤「(ススキ花火に火をつけながら)お、親父・・・だと・・・」

菜摘「(笑いながら)良かったね、お父さん」


 潤の持っているススキ花火が赤色に光り、音を立てながら火花を飛ばす


潤「(火のついたススキ花火を鳴海に向けて)く、クソガキがっ!!爆炎に焼かれろ!!」

菜摘「お、お父さん!!!!」


 潤が持っているススキ花火の火花が鳴海の方へ飛び散る

 慌てて避ける鳴海


鳴海「あ、危ねえな!!!クソ親父!!!!」

潤「(火のついたススキ花火を鳴海に向けながら大きな声で)俺はお前の親父じゃねえ!!!!」

鳴海「(大きな声で)んなこと理解してるわ!!!!あんたが義理の息子とか意味不明なこと言い始めたから親父って呼んだんだよ!!!!」

潤「(火のついたススキ花火を鳴海に向けながら大きな声で)おめえが早乙女家の子供になりてえって言ったから義理の息子扱いしてやったんだぞ!!!!」

菜摘「えっ・・・鳴海くん・・・私の弟になりたかったってこと・・・?」


 少しの沈黙が流れる

 菜摘と鳴海の持っていたススキ花火の火が消える

 潤は相変わらず鳴海にススキ花火を向けている


潤「そうだ。こいつはお前の彼氏じゃなくて、弟になりたかっ・・・」

鳴海「(大きな声で)変なこと吹き込むんじゃねえ!!!!」

菜摘「(俯き)そうなんだ・・・本当は弟になりたかったんだね・・・」

鳴海「(大きな声で)ちげえから!!!!弟になりてえなんて生まれてから一回も思ったことねえから!!!!あと俺既に弟してるから!!!!六つ歳上の姉がいるから!!!!てかなんだよ弟になりたいって!!!!どんな思考回路だよ!!!!いや逆に聞きたいけどあんたらは道行く人の弟になりてえって思うのかよ!!!!」

菜摘・潤「思わない」

鳴海「(大きな声で)でしょうね!!!!それが普通だよ!!!!何がどう狂ったら俺が菜摘の弟になりたいって思うんだよ!!!!いくら俺が変わってるからと言ってそんな弟になりた・・・」


 潤が持っていたススキ花火の火が消える

 菜摘と潤はゴミになったススキ花火を水の入ったバケツに入れる

 菜摘は新しいススキ花火を一本、潤は二本手に取る

 ポケットからライターを取り出し火をつける潤

 ススキ花火をライターの火に近づける菜摘

 菜摘がススキ花火に火をつけようとしている間も一人で大きな声で喋っている鳴海

 少しすると菜摘の持っているススキ花火に火がつく

 菜摘の持っているススキ花火が赤色に光り、音を立てながら火花を飛ばす


菜摘「(ススキ花火を鳴海に向けて)鳴海くん、火いる?」

鳴海「(大きな声で)要らねえわ!!!!てか話違うから!!!!俺花火の話なんか一言もしてなかったよね!?!?それからずっと思ってたんだけどそれ危ないから!!!!花火人に向けちゃダメだから!!!!怪我するから!!!!明日の始業式火傷したまま参加とか俺嫌だから!!!!あと多分だけど君ら親子は俺のことを困らせ・・・」

潤「(二本のススキ花火を菜摘のススキ花火に向けて)菜摘、火を頼む」

菜摘「(潤のススキ花火に近づけて)はい、お父さん」

鳴海「(大きな声で)俺もう困ってるから!!!!これ以上喋ると花火の煙と酸欠で死んじゃうから!!!!少しくらい俺の話に耳を傾けて・・・」


 リビングでインターホンが鳴る

 料理を一旦やめ、手を洗ってインターホンに出るすみれ

 庭にいる三人にはインターホンの音が聞こえていない


すみれ「(インターホンに向かって)はーい」


 モニターに映ってるのは隣に住んでいる木下(男)


木下「隣に住んでる木下です」

すみれ「(インターホンに向かって)どうしました?」

木下「あのー・・・もう少しお静かに・・・」


 庭では潤の持っていたススキ花火に二本に火がつく

 リビングではすみれがインターホンに向かって謝っている

 

鳴海「(大きな声で)もう完全に話を聞く気ないだろ!!!!花火に夢中じゃねえか!!!!俺にも花火やらせろよ!!!!」


 潤の持っているススキ花火二本が赤色に光り、音を立てながら火花を飛ばす


潤「(二本のススキ花火を振り回しながら大きな声で)見ろ菜摘!!!爆炎の二刀流だ!!!」

菜摘「(新しいススキ花火を一本手に取り)私もやる!!!」


 菜摘は新しいススキ花火を左手に持ち、右手に持っていた点火済みのススキ花火に近づける

 リビングにいたすみれが静かに庭に近づいてくる

 

鳴海「(大きな声で)なら俺は五本まとめて火をつけて・・・」


 静かに網戸を開け、庭に降りるすみれ

 すみれをの顔を見た途端、鳴海は黙る

 微笑んでいるすみれ


菜摘「お母さんも一緒にや・・・」

 

 鳴海と同じくすみれの顔を見た途端、菜摘は黙る

 菜摘のススキ花火に火がつく

 菜摘が持っている二本のススキ花火が赤く光り音を立てながら火花を飛ばしている

 固まっている鳴海と菜摘

 

潤「(大きな声で)すみれも飯を作ってないで一緒にやるんだ!!!!俺たち夫婦で一気に10本以上の花火を点火するぞ!!!!」


 すみれは花火のゴミと水が入ったバケツを持ち上げる

 バケツの水は汚れている

 そしてバケツの中身を思いっきり潤にぶっかける

 全身ずぶ濡れになる潤

 花火が鎮火する音だけ響く

 バケツの中にある残りの水を新品の花火にぶっかけるすみれ 

 

すみれ「(微笑みながら)お隣の木下さんからうるさいと苦情があったので花火大会は中止にします。私は夕飯の支度がありますから、皆さんは花火の後片付けをしてくださいね」

 

 バケツをその場に落とし、リビングに戻るすみれ

 菜摘の持っていた二本のススキ花火の火が消える

 少しの沈黙が流れる

 顔を見合わせる三人

 

◯209早乙女家前(夜)

 月が出ている

 スズムシが鳴いている

 家の近くで話をしている鳴海と菜摘 

 二人の側には鳴海の自転車が停められてある


菜摘「花火、少ししか出来なかったね」

鳴海「また来年リベンジしようぜ。そん時は俺も静かにツッコミするからさ」

菜摘「(俯き)うん!!」

鳴海「菜摘、今日は色々ありがとな。夏場でも夜は冷えるからもう家に戻ってくれ」


 自転車のカゴにリュックを入れる鳴海

 俯く菜摘


菜摘「(俯いたまま)な、鳴海くん・・・」

鳴海「ん?」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「(俯いたまま)ま、また明日・・・」

鳴海「おう、また明日学校で」


 ポケットから自転車の鍵を取り出し、自転車に差し込む鳴海

 スタンドを外して自転車にまたがる鳴海

 菜摘は俯いたままの状態


鳴海「じゃあな」


 鳴海が自転車の明かりをつけ、漕ぎ出そうとする

 顔を上げる菜摘


菜摘「(俯いたまま大きな声で)鳴海くん!!!!」

鳴海「な、菜摘、あんまでけえ声出すとまた苦情が・・・」


 小走りで鳴海に近づく菜摘


鳴海「お、おい・・・菜摘・・・どうし・・・」


 菜摘は背伸びし、鳴海の話を遮って口にキスをする

 街灯の真下、二人は数秒間キスをする

 菜摘は小走りで鳴海から少し離れる

 鳴海と菜摘の顔が赤い

 驚き呆然としている鳴海


菜摘「鳴海くん!またね!」

鳴海「(呆然としたまま)お、おう・・・また明日・・・」

 

 家に戻る菜摘

 しばらくボーッとしている鳴海

 少ししてから自転車を漕ぎ始める鳴海


◯210貴志家リビング(夜)

 家に帰ってきた鳴海

 リビングでは風夏がソファに座ってダラダラしながらテレビを見ている

 家の鍵と自転車の鍵をテーブルの上に雑に置く


風夏「(ダラダラしながら)おかえり〜。お家デートはどうだった〜?」

鳴海「デートじゃねえよ。宿題しただけだ」

風夏「(ダラダラしながら)宿題デートですか〜。お姉ちゃんも昔よくやったな〜」

鳴海「だからデートじゃなくて夏休みの宿題を・・・」

風夏「ん?(匂いを嗅ぎながら)なんか焦げ臭くない?」

鳴海「焦げ臭い?」

風夏「燃えカスみたいな匂いがするんだけど・・・」


 鳴海は慌ててキッチンの火の元を確認しに行く

 ガスコンロの火は消えている

 電子レンジ、オーブントースターを確認する鳴海

 どの電化製品も特に異常はない


風夏「煙とか出てない?」

鳴海「いや・・・出てない」

風夏「うそー。絶対焦げ臭いって」

鳴海「本当に焦げ臭いのか?俺、全くわからないんだけど」

風夏「鳴海さー。昨日の鉄板の匂いがまだついてるんじゃないのー?」

鳴海「そんな馬鹿な・・・」

風夏「菜摘ちゃんの家でバーベキューでもしてきた?」

鳴海「バーベキューなんかするわけ・・・あっ・・・」


 少しの沈黙が流れる


風夏「ひえ〜。バーベキューデートかよぉ・・・羨ましいぞ〜」

鳴海「もしかして花火のせいか・・・?」

風夏「はなびぃ!?宿題は!?」

鳴海「宿題は終わったよ」

風夏「それならよし」

鳴海「んじゃあ俺風呂入って来るから。火の元、気を付けろよ」

風夏「はーい」


 風呂場に向かう鳴海

 風夏は再びダラダラした体勢でテレビを見始める

 テレビではスイーツ特集をやっており、ケーキ職人によって大きなチョコレートケーキが紹介されている

 

風夏「(テレビを見ながら)なんあれ〜、美味しそ〜」


◯211貴志家鳴海の自室(深夜)

 片付いている鳴海の部屋

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる

 机の上には菜摘とのツーショット写真が飾られてある

 ベッドで横になっている鳴海


◯212◯209の回想(夜)

 街灯の真下、自転車に乗っている鳴海にキスをする菜摘

 菜摘は小走りで鳴海から少し離れる

 

◯213回想戻り/貴志家鳴海の自室(深夜)

 ベッドで横になっている鳴海

 

鳴海「(声 モノローグ)一緒にいる時間が長いほど、離れたら寂しいもんか・・・」


 あくびをする鳴海

 目を瞑る鳴海


◯214鳴海の夢/緋空寺境内(昼)

 快晴

 緋空寺境内にいる鳴海


鳴海「(声 モノローグ 周りを見ながら)始業式の前の晩、俺は不思議な夢を見た。多分、どこかの寺だと思う」


 人の手入れが全くされていない寺

 境内を回る鳴海

 寺の屋根の一部分が壊れている

 雑草が生い茂り、かつて舗装されていたであろう道は砂利で荒れ果てている

 手水舎を覗く鳴海、水は入っていない

 お寺の賽銭箱はひっくり返っている


鳴海「(声 モノローグ 境内を回りながら)もう管理されていない土地なのかもしれない」


 強風が吹く

 顔を手で覆い、強風を防ぐ鳴海

 風で境内に生えている雑草が揺れる

 雑草の中に墓石が二基ある

 墓石の存在に気付く鳴海

 風が止まる

 鳴海は墓石がある方に向かう

 手で雑草をかき分ける鳴海

 雑草の中から墓石が二つ出て来る

 墓石の一つは佐田 奈緒衛、もう一つは白瀬 波音と薄く彫られている

 二つの墓石を見ている鳴海


鳴海「(声 モノローグ 二つの墓石を見ながら)本来ならもっと綺麗なところなんだろうけど、俺は気にしてなかった」


 鳴海は涙を流す

 鳴海はしゃがみ、波音の墓石に手を触れる


鳴海「(声 モノローグ 波音の墓石に手を触れながら)懐かしくて、悲しくて、この場所に来れたことが嬉しかったから・・・そう思ったのは俺だけじゃない。別の誰かが・・・同じ気持ちだったんだ」


 鳴海は波音の墓石の前で、一人泣き続ける


◯215滅びかけた世界:緋空浜(昼過ぎ)

 晴れている

 ゴミ掃除をしていた場所へ戻って来たナツ、スズ、老人

 浜辺にゴミの山が出来ている

 ゴミの山は、空っぽの缶詰、ペットボトル、重火器、武器類、骨になった遺体などが積まれて出来ている

 ゴミの山の周囲はまだ様々なゴミが散らかっている

 ゴミの山の隣には大きなシャベルが砂浜に突き刺さってる

 ゴミの山から数百メートル先の浜辺は綺麗になっている

 浜辺には水たまりが出来ており、水たまりの中にもゴミがある 

 三人は軍手をしている

 それぞれに一台ずつスーパーのカートがある

 ナツとスズのカートの中には新品のトング、新品の小さなスコップ、新品のゴミ袋が入っている

 老人のカートのカゴにはビニール袋が敷いてあり、その中にトング、新品のゴミ袋が入っている

 老人は持っていた大きな銃と新品のゴミ袋を浜辺にそっと置く


スズ「掃除だぁ!!」

老人「まあ待て。まずはそのゴミ袋をカートのカゴに敷いてからだ」

ナツ「何のために?」

老人「袋を敷いとけば、ゴミが漏れることもないだろう?要はカバー代わりだよ」

スズ「ほうほう。ニンジンの知恵ってやつだね〜」


 少しの沈黙が流れる


ナツ「(呆れながら)スズ・・・」

スズ「なに?」

ナツ「(呆れながら)勉強しろ」

スズ「嫌だよ、役に立たないもん」

ナツ「スズが勉強したら、私が恥をかく回数も減る」

スズ「はじをかくって・・・何?」


 再び沈黙が流れる


ナツ「袋の後は、どうするの」

老人「まずはその辺に落ちてるゴミを手当たり次第拾ってくれ。ただし、見たことないような物と武器類には触れるな。そういう物を見つけた場合は後回しにしろ。(ゴミの山を指差して)カートのゴミがいっぱいになったらそこの山場に放り込んでいい」

スズ「(敬礼して)りょーかい!!」

ナツ「分かった」

老人「よし」


 新品のゴミ袋を開封して、カートのカゴに敷き始めるナツとスズ


老人「袋は最低四枚強いておくといい、破れたら補充しろ」


 言われた通りにしてカゴに袋を敷き終えたナツとスズ


老人「それじゃあ始めるか」


 老人はトングを使い、近くにあったゴミを拾い始める

 拾ったゴミはカートの中に入れる老人

 顔を見合わせるナツとスズ


スズ「なっちゃん、私たちもやろ!」


 頷くナツ

 二人は近くにあったゴミをトングで拾い、カートの中に入れる

 ペットボトル、缶、プラスチック類の何か、雑誌や新聞、子供のおもちゃ、衣服類、食器類、料理道具、スマホやガラケー、菓子類の袋、電化製品、日用品のゴミなど、様々なゴミを拾っていく三人


ナツ「(ゴミを拾いながら小声で)こんなことして何の意味があるんだろ・・・」


 スズは楽しそうにゴミを拾っている

 女性用のパンツをトングで拾うスズ


スズ「(パンツを拾い上げて嬉しそうに)見て見てなっちゃん!!パンツ!!!」

ナツ「そんな物を嬉しそうに見せるな」

スズ「(パンツを見せながら)なんでよー」

ナツ「汚いだろ」

スズ「(パンツを見せながら)なっちゃん、この前パンツ欲しいって言ってたじゃん!!」

ナツ「し、下着の話をするなよ!」

老人「(ゴミを拾いながら)着替えに困ってるのか?」

ナツ「う、うるさいっ!」

老人「(ゴミを拾いながら)なんだったら今度新品の洋服がありそうな場所に連れて行ってやるぞ」

ナツ「ほ、本当!?」

老人「(ゴミを拾いながら)好みに合うか分からないが・・・少なくともそのパンツよりマシだろう」

ナツ「行きたい!!」

老人「(ゴミを拾いながら)分かったよ」

スズ「(パンツをカートに入れて)良かったね〜、なっちゃん」

ナツ「服のストックはどれだけあってもたすか・・・」


 我に返るナツ

 

ナツ「(老人に聞こえないように小声で)スズ、あいつ何か企んでるんだ。どう考えたって服なんか簡単にくれるはずがない・・・」

スズ「もしかしてなっちゃん、ジジイのことが怖いの?」

ナツ「こ、怖くはないけど・・・警戒を怠らない方がいいって・・・」

スズ「そんな心配要らないと思うけどなぁ・・・」


 スズはトングでゴミを拾い始める

 老人は黙々とトングでゴミを拾っている


◯216貴志家リビング(日替わり/朝)

 快晴

 時刻は七時半過ぎ

 テーブルの上に置き手紙がある

 "目指せ無遅刻無欠席、新学期も頑張れ”と書かれている

 制服姿で椅子に座ってニュースを見ている鳴海


ニュースキャスター2「2ヶ月後に控えた米大統領選挙ですが、今朝、ジーン議員は辞退を発表しました。ジーン氏は今後、メナス議員を支持すると・・・」


 立ち上がり、テレビを消す鳴海


◯217波音高校三年三組の教室(朝)

 セミが鳴いている

 教室に入る鳴海

 朝のHRの前の時間

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 菜摘、明日香、嶺二、雪音が教室の窓際で話をしている 

 自分の席にカバンを置き、窓際に行く鳴海


菜摘「おはよー」

鳴海「うっす」

明日香「(鳴海を見て)相変わらずテンションの低い挨拶ね・・・」

鳴海「朝から元気に挨拶してたら午後がもたねえよ」

嶺二「それよそれ。俺らは放課後のためにエネルギーを温存してんだ」

菜摘「放課後に何かあるの?」

嶺二「軽音部とちょっとね」

雪音「説得に行くなら私たちも手伝おうか?」

嶺二「ありがとう雪音ちゃん。しかし、心配は無用だ。みんなの力がなくとも俺たちはやってのけるよ。そうだろ?鳴海」

鳴海「いや・・・ここは素直に手伝ってもらった方がいいと思うんだが・・・」

嶺二「何言ってんだよ。俺たちはコードネーム最良の作戦を決行しなきゃならねーんだぞ」

鳴海「さ、最良のって嶺二!!あ、あれをやるのか!?」

嶺二「あったりまえだ。男に二言はねえ」

鳴海「マジかよ・・・」

菜摘「コードネーム最良の作戦って何?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「そ、それはだな・・・軽音部のひび・・・」

嶺二「(大きな声で鳴海の話を遮って)こ、コードネームに意味はない!!!た、ただ軽音部の説得をするだけのことだ!!」

菜摘「そうなの?」

鳴海「お、おう!!」


 再び沈黙が流れる


明日香「あんたたち怪し過ぎるでしょ」

嶺二「たとえ怪しくてもそれは文芸部のためである!!」

雪音「今度は何をやらかすのかな」

嶺二「な、何もやらかしはせん!!」


◯218波音高校体育館/始業式会場(朝)

 始業式を行っている

 校長の上野がステージの上に立って話をしている

 鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音、汐莉、響紀、詩穂、真彩を含む三学年全生徒が集まっている

 生徒たちは退屈そうに話を聞いている

 教師たちはステージの近くで校長の話を聞いている


上野「ですから、生徒の皆さんは気を抜かないように・・・」


 あくびをする嶺二

 鳴海もあくびをする


◯219波音高校食堂(昼)

 昼休み

 食堂にいる鳴海、菜摘、嶺二

 込んでいる食堂

 注文に並ぶ生徒がたくさんいる

 昼食を食べ終えた鳴海たち

 食堂のテーブルはほとんど埋まっている


菜摘「じゃあ今日は二人とも文芸部に来ない?」

鳴海「いや、俺は行くよ。つかさっき話し合ったんだけどコードネーム最良の作戦は嶺二単独でやることになったんだ」

嶺二「はい?そんな話し合いしてないんですが」

鳴海「いいだろ嶺二、やるんだったらお前一人でなんとかしてくれ」

嶺二「てめえ裏切るのか」

鳴海「裏切るもクソもねえよ。そもそも俺は反対だ」

嶺二「(驚いて)なん・・・だと・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「そのコードネーム最良の作戦って本当は何なの?」


 再び沈黙が流れる 


嶺二「菜摘ちゃん・・・実を言うとな・・・」

菜摘「うん」

嶺二「軽音部の説得は無理っぽい」

菜摘「(驚いて)えぇ!?企画倒れってこと!?」

鳴海「そうと決まったわけじゃない。今んところ説得に効果がないだけで・・・」

嶺二「鳴海はアホだからこう言ってるけど、状況は絶望的だ」

鳴海「(小声でボソッと)お前よりアホじゃないからな」

菜摘「またみんなで頼みに行くしかないね・・・私からもお願いするべきだし・・・」


 首を横に振る嶺二


嶺二「それじゃあまた断られて終わっちまうよ。卒業や受験のことを考えると時間が有限だって分かるだろ?こっちのやり方を変えねーとイタチごっこに決着がつかないじゃないか」

菜摘「そうだけど・・・粘り強く頼みに行くしか・・・」

鳴海「菜摘、嶺二は生徒会と響紀を利用するつもりだ・・・」

菜摘「えっ?生徒会と・・・響紀ちゃんを?」

嶺二「利用じゃねーよ。ちゃんと響紀ちゃんの了承を得る」

菜摘「ど、どういうこと?了承を得るって?」

嶺二「菜摘ちゃん・・・今から話すことはくれぐれも明日香に言わないでくれ」

菜摘「そんな・・・内容によっては明日香ちゃんに報告するよ?明日香ちゃんは私の友達でもあるんだから」

嶺二「チクったら俺と鳴海が永久に再起不能になるかも・・・」

鳴海「そんなわけないだろってツッコミしたいところだが、最近の明日香は受験のストレスで気が立ってるしな・・・俺たちが再起不能になるのもマジであり得る話だ」

菜摘「鳴海くんたちが再起不能になるかもしれないって、それはもう確実に明日香ちゃんが怒ることじゃん!」

鳴海「だから反対してるんだよ俺は・・・」

嶺二「鳴海はほんとチキンだなぁ」

鳴海「チキンで結構、嶺二のプラニングは信用ならん」

嶺二「つれねえ奴」

菜摘「その嶺二くんのプランが全然見えてこないんだけど・・・響紀ちゃんと生徒会を一体どうするの?」

鳴海「嶺二の計画を説明するとな・・・十月の上旬に生徒会選挙があるだろ?その時に響紀を立候補させて、生徒会に入れる。その後は生徒会で行事担当の仕事に就き、三年生を送る会で朗読劇がやれるように仕向けてもらうんだ。ついで軽音部の三年どもや他の部活の連中も色々と披露出来る機会が設けられて一石二鳥。俺たちは俺たちで朗読劇の日程が決まるし、一、二年の前で朗読劇を披露出来るってわけだ。これがコードネーム最良の作戦の全貌だよ」


 頷く嶺二


嶺二「学校全体の行事になりゃ、軽音部も俺たちに協力せざるを得ない。スケジュールもまとまってるから連携しやすいぜ」

菜摘「まさに賭けって感じがする作戦だね・・・でもやらないよりはやった方がいいかも、明日香ちゃんが怒るような話とは思えないし・・・」

鳴海「待てよ菜摘。嶺二のプランが上手くいく保証はどこにもないんだぞ。だいたい、軽音部は三年のライブがあって忙しいって言ってたじゃないか。嶺二のプランだと軽音部三年のライブは俺たちの朗読劇とダブる。つまり、軽音部の負担は変わってない・・・いや、響紀が生徒会に入った分、かえって余裕がなくなって、今よりも忙しくなるはずだ。だから響紀が生徒会に入ったとしても協力するとは限らないだろ?」

菜摘「た、確かに・・・」

鳴海「それにだ、響紀が生徒会に立候補すると思うか?」

菜摘「(考えながら)あー・・・どうかな・・・しないかも」

嶺二「菜摘ちゃん、響紀ちゃんは絶対立候補するよ。神に誓って断言出来る」

菜摘「どうして?」

嶺二「明日香とのデートを交換条件に出すからさ」

菜摘「ごめん、さっきの発言は撤回するね・・・明日香ちゃん怒ると思う」

鳴海「だろ・・・怒らないわけがない・・・」

菜摘「うん・・・明日香ちゃんの許可をもらってるならともかく・・・勝手にデートの約束を取り付けるなんて、再起不能になって当然だよ」

嶺二「明日香の許可、もらえると思うか?」

鳴海「(即答で)無理」

嶺二「だよなぁ」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「明日香ちゃんって、響紀ちゃんのことどう思ってるのかな」

鳴海「うざいとか、鬱陶しいとか?」

菜摘「とても良い印象とは言えないね・・・」

鳴海「あれだけしつこく迫ってくる後輩がいたらちょっとな・・・」

嶺二「俺的にはあの二人、アリだと思うぜ?」

菜摘「友達になれるってこと?」

嶺二「友達じゃなくて恋人だね」

鳴海「幾ら何でも恋人は無理だろ・・・」

嶺二「鳴海はほんと人のことを分かってないな。むしろあいつは押しに弱いタイプなんだよ。響紀ちゃんがしつこく迫ってるから、明日香は振り向くんだぞ」

鳴海「で、でもよ嶺二、明日香は・・・その・・・所謂同性愛者とは違うんじゃないのか・・・?」

嶺二「関係ないね、あいつがレズじゃなくても、響紀ちゃんを好きになる可能性はある。面倒見の良い明日香が、慕ってくれる下級生を放っておくわけねーだろ。三年間俺たちのことを見捨てなかったような奴だぞ」

鳴海「凄い説得力だ・・・」

菜摘「嶺二くんの考えも一理あるよね。響紀ちゃん可愛いし、格好良いし、歌と楽器の才能もあるし・・・魅力的だと思う」

鳴海「マジかよ・・・」

菜摘「あんな後輩から迫られたら意識しちゃうんじゃないかなぁ・・・」

鳴海「じゃあ・・・両思いになる可能性ありってことか・・・」

嶺二「そういうことだ」

鳴海「それならさ、デートの約束を取り付けたって別に問題ないんじゃね?」

菜摘「鳴海くんは、勝手に後輩とのデートの約束が取り付けられたら嫌じゃないの?同性の後輩だよ?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「嫌かもしれない・・・がしかし、文芸部のためなら我慢する」

嶺二「さすが鳴海、これぞ真の文芸部員だ」

菜摘「二人はその我慢を明日香ちゃんに強要するつもり?」

鳴海「いや・・・そういうつもりはないけど・・・」

嶺二「鳴海、今度こそ例のあれを使わねーか?」

鳴海「例のあれってなんだよ?」

嶺二「男にのみ許された禁断の技・・・(少し間を開けて)土下座だ!!」

鳴海「またそれか・・・」

嶺二「またじゃねえ。今回は謝罪じゃなくてお願いの土下座だぜ」

鳴海「俺たち土下座連発し過ぎなんだよなぁ・・・」

嶺二「困った時は土下座一択よ」


 深くため息を吐く鳴海


菜摘「土下座って、そんな軽々しくするもんじゃないと思う・・・」


◯220波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 校庭では運動部が活動している

 教室の隅にパソコン六台とプリンターが一台ある

 明日香に向かって土下座をしている嶺二

 嶺二を見下ろしている鳴海、菜摘、明日香、汐莉、雪音


嶺二「(頭を床に押し付けて)響紀ちゃんには明日香が必要なんだよ!!!」

明日香「意味わかんないんだけど・・・というか何で土下座・・・」

嶺二「(頭を床に押し付けて)響紀ちゃんとデートしてくれ!!!」

明日香「で、デート!?」

汐莉「どういうことですか、嶺二先輩」

嶺二「(顔を上げて)響紀ちゃんがデートしたがってるって思わないか?」

汐莉「したがってるから、何です?それだけの理由で嶺二先輩が土下座するとは思えないんですけど」

嶺二「汐莉ちゃん、俺は文芸部のために土下座をする男だ。鳴海と違ってな」

明日香「悪いけど、嶺二の土下座に価値はないから」

鳴海「ほら見ろ、土下座の価値が無くなってるじゃねえか・・・」

菜摘「嶺二くん、やっぱり一から説明をした方がいいよ」


 首を横に振る嶺二


雪音「嶺二たち、またよからぬことをしようとしてるの?」

鳴海「た、たちって俺を入れないでくれ・・・」


 立ち上がる嶺二


嶺二「とりあえず、響紀ちゃんはガチでお前に惚れてるから」

明日香「そ、それが何?」

嶺二「別に・・・優しくしてやれってことだ。(小声でボソッと)響紀ちゃんの気持ちくらい、明日香も知ってるしな・・・んじゃ鳴海、俺たちは俺たちで・・・」


 菜摘が鳴海の腕を力強く掴み、自分の方へ引き寄せる


菜摘「(鳴海の腕を掴んだまま)ダメだよ!」

鳴海「へっ?」

明日香「(驚いて)な、菜摘が鳴海を止めた・・・な、何この展開・・・」

菜摘「(鳴海の腕を掴んだまま)ちゃんとみんなに説明して、行動するならその後!!


 顔を見合わせる鳴海と嶺二

 少しの沈黙が流れる


鳴海「分かったよ」

嶺二「て、てめえ裏切りやがったな!!」

鳴海「菜摘の言うことには逆らえん」

嶺二「鳴海・・・お前を信じてたのに・・・」

鳴海「すまんな。例の作戦は一旦中止ってことで」

嶺二「(小声でボソッと)く、クソが・・・鳴海の馬鹿!!!!お前なんか嫌いだ!!!」


 泣いたふりをしながら嶺二が走って部室を出て行く


汐莉「昭和のメロドラマみたいな捨て台詞でしたね」

鳴海「そうだな・・・(少し間を開けて)菜摘・・・この手は・・・」

菜摘「(慌てて手を離して)ご、ごめん!!」

雪音「今のもメロドラマみたい・・・」


◯221波音高校階段(放課後/夕方)

 階段を下っている嶺二


嶺二「(舌打ちをして)ちぇっ。丸くなりやがったな鳴海は・・・」


◯222波音高校一年生廊下(放課後/夕方)

 軽音部の部室を目指している嶺二

 一年生の教室では文化部が活動していたり、作業するために残った生徒がいる

 一年六組の教室(軽音部の部室)前で止まる嶺二

 何度か扉を叩く嶺二

 反応がない

 扉の窓から教室を覗く嶺二

 教室には誰もいない


嶺二「(扉の窓から覗きながら)こんな時に限って何で誰もいねえんだ・・・」


 嶺二は覗くのをやめ、引き返そうとする

 

嶺二「文芸部に戻るとす・・・」

真彩「嶺二先輩、こんなところで何してるんすか?」


 真彩が後ろから嶺二に声をかける


◯223波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 円の形を作って座っている嶺二以外の文芸部員たち

 話をしている文芸部員たち


明日香「つまり・・・その最悪な作戦を実行しようとしていたと・・・」

菜摘「ロマンある作戦だよね」

鳴海「ロマンはな・・・」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「止めに行きますか、嶺二先輩を」

明日香「いいよ汐莉、あいつ一人で何か出来るとは思えないし」

汐莉「でも・・・明日香先輩と響紀が・・・」

明日香「汐莉、響紀が嶺二の言葉を鵜呑みにすると思う?」


 再び沈黙が流れる


汐莉「それは・・・分かりません・・・」

明日香「響紀が生徒会に立候補をしても、しなくても、私たちには他にやることがあるんだから、そっちを優先にするべきじゃない?」

汐莉「そうですね・・・」

雪音「部誌を刊行して、朗読劇の本を作って、軽音部とのスケジュールを調整するんでしょ?」

鳴海「ああ」

明日香「何から片付ける?(菜摘を見て)部長」


 鳴海、汐莉、雪音が菜摘のことを見る


菜摘「えっと・・・朗読劇の本なんだけど・・・雪音ちゃんのお姉さんから借りた本をベースにしようかなって思ってて・・」


 菜摘は床に置いてあるカバンから波音物語を取り出して、膝の上に置く


菜摘「(不安そうにみんなを見ながら)波音物語で・・・いいかな?」

雪音「良いと思う、面白いよね」

菜摘「うん!こんな惹かれた物語は初めてだよ」

明日香「そんなに面白いんだ・・・なら私も波音物語で良いと思うな」

鳴海「俺も構わないよ」

菜摘「良かった!」


 汐莉のことを見る菜摘


菜摘「(汐莉のことを見ながら)汐莉ちゃんは・・・どう?」

汐莉「私は・・・皆さんに合わせます」

菜摘「何かやりたい題材があるんだったら・・・」

汐莉「いえ・・・特にないので・・・」

菜摘「波音物語で良いの?」

汐莉「はい」

菜摘「オッケー!後は嶺二くんに・・・」


◯224波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 黒板の前にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 椅子に座って話をしている嶺二と真彩


真彩「明日香先輩が!?」

嶺二「そーそー、響紀ちゃんに立候補してほしいって」

真彩「なーんか話が大きくなってきましたねー、当の本人は買い出しで不在だし・・・」

嶺二「ほんとだよ、受験前だっつうのに困ったもんだぜ・・・」

真彩「受験っていつなんですか?」

嶺二「俺は推薦だから来月に願書を提出。因みに試験と面接なし、書類選考だけだから年内に合否も分かるよ」

真彩「す、推薦!!すっげ〜!!」

嶺二「実を言うと、推薦がもらえるかどうかはまだ決まってないんだ。学校の承認が出れば書類選考だけで済むんだけどさ」

真彩「え・・・じゃあ推薦が貰えなかったら・・・」

嶺二「そうなりゃ仕方なしに試験と面接を受けるけどよ、そんなことをしてたら一瞬で卒業かもなぁ」

真彩「大変なんすね・・・受験生って・・・」

嶺二「まあやんも三年後には同じ気持ちを味わうよ・・・」

真彩「嫌だー、もっと遊んでてー」

嶺二「まあやんたちは後二年半も学校生活が残ってるんだぜ?青春を謳歌するには十分過ぎるほど時間があるじゃねーか、羨ましい・・・」

真彩「先輩も今から青春しましょ!!卒業までまだ時間があるんですから!!」

嶺二「もっちろんそのつもりよ。(少し間を開けて)だからさ、俺、みんなで朗読劇をやりたいんだ。文芸部と軽音部で、はちゃめちゃに盛り上げて、卒業前にド派手な思い出作りをして、高校最後の青春ってやつを楽しみたいんだ。(少し間を開けて)生徒会であれ、利用出来そうな組織は使わないとな。軽音部の三年どもとスケジュールの折り合いをつけるためには、力技でどうにかするしかねえ」

真彩「あの・・・先輩・・・」

嶺二「何?もしかして俺の志の高さに感動した?」

真彩「違います。あ、いや、ちょっとだけ感動しましたけど」

嶺二「だろだろ。ふざけてばかりに見えて、意外としっかりしてるんだよ俺は」

真彩「そうっすね。ところでスケジュー・・・」


 両手にコンビニのビニール袋を持った響紀と詩穂が教室に入って来る


響紀「ただいま」

詩穂「お菓子買ってきたよ」

真彩「お、ありがと」


 机の上にコンビニのビニール袋を置く


嶺二「響紀ちゃん!待ちくたびれたぞ!!」


 響紀に駆け寄る嶺二


響紀「来るなら来るって連絡してください。それから響紀ちゃんはやめてくださいって何度も言ってますよね。先輩は言葉が通じないんですか?」

嶺二「ごめんよ響紀ちゃん」

響紀「文芸部に所属してるのに日本語を理解してないんすね」

嶺二「(響紀の腕を掴んで)愚痴なら後で聞くからちょっと来てくれ!」


 嶺二は響紀の腕を掴んで教室の外へ連れ出そうとする


響紀「(嶺二に引っ張られながら)何なんですかもう!!」

嶺二「(響紀の腕を掴んで)良いから良いから!!」

真彩「れ、嶺二先輩!話の続きが!!」

嶺二「青春を謳歌しろ後輩!!」


 嶺二は響紀を引っ張って教室の外へ出る


真彩「あぁ・・・行っちゃった・・・」


 椅子に座る詩穂

 コンビニのビニール袋からお菓子とジュースを取り出して机の上に一つずつ並べて行く詩穂


詩穂「(ビニール袋からお菓子とジュースを取り出し、机の上に並べながら)何?青春を謳歌しろって?」

真彩「先輩からの有難いお言葉だよ」

詩穂「(ビニール袋からお菓子とジュースを取り出し、机の上に並べながら)意味は?」

真彩「青い春を過ごせってこと」

詩穂「(ビニール袋からお菓子とジュースを取り出し、机の上に並べながら)漢字のまんま」

真彩「青春よりお菓子が大事だから!というか食べ物こそが話が青春!」


 お菓子とジュースを全て机の上に並べた詩穂

 机の上には様々な種類のお菓子とジュースが置いてある


詩穂「これまたなかなかにしょぼい青春」

真彩「食べる青春だよ」

詩穂「(コーラ味のグミを手に取って)食べるラー油的な・・・」

 

 コーラ味のグミを食べ始める詩穂


真彩「(お菓子を漁りながら)ねえ待って詩穂、コンソメダブルパンチは?」


 机の上にあるポテトチップスを指差す詩穂

 詩穂が指差したポテトチップスを手に取る真彩

 真彩が手に取ったポテトチップスは普通のコンソメ味


真彩「(コンソメ味のポテトチップスを机に叩きつけて)これじゃねえ!!!」

詩穂「同じコンソメ味だよ」

真彩「私が頼んだのはコンソメダブルパンチだ!!!」

詩穂「何が違うの?」

真彩「味だよ味!!!」

詩穂「アー・・・間違えちゃったかもしれない」

真彩「間違えちゃったかもしれない、じゃなくて間違えたんでしょうが・・・」

詩穂「(コーラ味のグミを口に入れ)コンソメはコンソメ」


◯225波音高校一年生廊下(放課後/夕方)

 廊下で話をしている嶺二と響紀


響紀「で、デート!?!?」

嶺二「そうだ」

響紀「せ、生徒会に入ったらデート・・・生徒会に入ったらデート・・・」

嶺二「落ち着け響紀ちゃん、明日香の望みを忘れたら意味ないぞ」

響紀「明日香先輩の望み・・・生徒会に入って・・・三年生を送る会で・・・朗読劇をやる・・・他の部も披露出来る時間を設けなくてはならない・・・」

嶺二「そう、全てをクリアしなきゃならん」

響紀「明日香先輩のために・・・!!」

嶺二「響紀ちゃん、無理なら無理って言っていいんだよ。この作戦に参加するってことは軽音部の活動、朗読劇の準備、生徒会の仕事、全てをこなす必要がある」

響紀「任せてください先輩、私は期待を裏切らない女ですよ」

嶺二「ひ、響紀ちゃん・・・なんて格好良い後輩なんだ・・・」

響紀「明日香先輩や文芸部の皆さんの熱い想いをいつまでも無視は出来ません」

嶺二「そう来なくっちゃな!!じゃあ早速戦略を・・・」


◯226波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)

 黒板の前にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある

 椅子に座って話をしている詩穂と真彩

 机の上にはお菓子とジュースが並べてある

 コンソメ味のポテトチップスを開ける真彩

 コーラ味のグミを食べている詩穂


詩穂「そうまでして朗読劇をやりたいって・・・先輩たちも必死だ・・・」

真彩「最後の思い出作りだって言ってたよ。スケジュールのこと伝え損ねたのはまずかったなぁ」

詩穂「嶺二先輩、今頃響紀くんに生徒会に立候補する話を・・・」


 コーラ味のグミを口に入れる詩穂


真彩「してるに決まってる。あの人それが目的でここに来てたし」


 コンソメ味のポテトチップスを食べる真彩


詩穂「話がややこしくなるから、スケジュールのことは極秘にする?」

真彩「(ポテトチップスを手に取り)ひとまずはねぇ・・・明日香先輩の頼みだって言ってたから、響紀もアプローチをするためにスケジュールのことは隠し通す思うよ。自分が有能だってことを明日香先輩に証明するチャンスだし」


 コンソメ味のポテトチップスを食べる真彩


詩穂「汐莉が反対してるのに、文芸部に肩入れしていいの?」

真彩「よくはねーけど、汐莉が一方的に反対してるだけからなぁ・・・」


 コーラ味のグミを食べる詩穂


◯227波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 今後の予定について話し合いをしている鳴海、菜摘、明日香、雪音、汐莉

 汐莉はほとんど会話にして参加しておらず、元気がない

 黒板には”今後やらなきゃいけないこと”と書かれている

 菜摘がチョークを持って、黒板の前に立っている

 黒板と向かい合って座っている鳴海、明日香、汐莉、雪音

 菜摘が黒板に”朗読劇の本作り 菜摘”と書く


真彩「(声)どうして汐莉は朗読劇に参加したくないんだろう。スケジュールの折り合いがつくかもって時も乗り気じゃなさそーだったし・・・」

詩穂「(声)きっと何か事情があるんだ」


 黒板に“軽音部との調整 鳴海くん、嶺二くん”と書く菜摘

 

真彩「(声)三年生のライブのためにもっと練習をしたいとか?」

詩穂「(声)それが理由なら私たちにそう説明してくれるよ」


 黒板に“部誌刊行 菜摘、鳴海くん、明日香ちゃん、汐莉ちゃん、雪音ちゃん、嶺二くん”と書く菜摘


真彩「(声)確かにそうだなぁ・・・汐莉から何か言ってくれたらいーのに・・・」

詩穂「(声)汐莉が考えてることって全然分からないね」


 黒板に”全員、波音物語を買う!!”と書く菜摘

 汐莉以外の文芸部員たちが話をしているが、汐莉は何も喋らない


◯228帰路(放課後/夕方)

 帰り道、一緒に帰っている鳴海と菜摘

 部活帰りの学生がたくさんいる

 鳴海のことを見ている菜摘

 

鳴海「(不思議そうに)俺の顔になんかついてんのか?」


 一瞬、菜摘には鳴海の姿が佐田奈緒衛に見える

 少しの沈黙が流れる


鳴海「菜摘?」

菜摘「(顔を逸らして)あ、ごめん・・・(少し間を開けて)波音物語のことを考えてて・・・」

鳴海「全部読んだのか?」

菜摘「うん」

鳴海「これで朗読劇の本問題は解決だな」

菜摘「そうだね」


 再び沈黙が流れる


菜摘「鳴海くんって蛍好き?」

鳴海「嫌いじゃないよ」

菜摘「昔さ・・・一緒に蛍を見たよね」

鳴海「俺たちだけでか?」

菜摘「ううん・・・(かなり間を開けて)三人で・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「それっていつ頃の話だ?」

菜摘「ずっと・・・昔のことだよ」


 考え込む鳴海


鳴海「すまん・・・覚えてねえ・・・」

菜摘「(残念そうに)そっか・・・」

鳴海「三人で見たんだろ?」

菜摘「(頷き)うん」

鳴海「だとしたら・・・俺の親か姉貴がいたのか?それとも、菜摘の親が・・・」

菜摘「違うよ鳴海くん。違うの・・・もう一人は・・・」


 菜摘は何か言いかけたが黙る


鳴海「誰なんだ?」

菜摘「波音物語を読めば・・・分かるかも・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(声 モノローグ)波音物語を読めば・・・確かに菜摘はそう言った・・・」

菜摘「鳴海くん、本屋さんに行こう」

鳴海「あ、ああ・・・」


◯229本屋(放課後/夕方)

 小さな本屋にいる鳴海と菜摘

 二人は古典文学の棚を見ながら、波音物語を探している

 本屋には鳴海と菜摘以外に、客が数人いる


鳴海「(古典文学の棚を見ながら ボソッと)古典文学か・・・」

菜摘「(古典文学の棚を見ながら)ちゃんと現代版に改訂してあるよ」

鳴海「(古典文学の棚を見ながら)えっ、マジ?」

菜摘「(古典文学の棚を見ながら)だって昔のままだったら読み辛いもん」

鳴海「(古典文学の棚を見ながら)確かにそうだな・・・この際学校の古典も今風にすりゃいいのに」

菜摘「(古典文学の棚を見ながら)それじゃあ勉強にならないじゃん・・・」

鳴海「(古典文学の棚を見ながら)古典なんざ勉強しても役に立たねえって」

菜摘「(古典文学の棚を見ながら)役に立たない勉強なんかありません」

鳴海「(古典文学の棚を見ながら)そうかぁ・・・?」


 波音物語を見つけ、本棚から二冊取り出す菜摘


菜摘「(波音物語を一冊鳴海差し出して)はい、これ」


 波音物語の表紙にはタイトルと、著者である白瀬波音の名前が書いてある

 波音物語を受け取る鳴海

 パラパラと波音物語をめくって見る鳴海


鳴海「(波音物語を閉じて)よしっ、買おう!」

菜摘「うん!」


 二人は波音物語を持って、レジに向かう


◯230帰路(放課後/夜)

 立ち止まっている鳴海と菜摘


菜摘「じゃあまた明日」

鳴海「気をつけて帰れよ」

菜摘「鳴海くんも」

鳴海「おう」


 菜摘は角を曲がる

 鳴海は菜摘を見送った後、正面の道を進む


鳴海「(声 モノローグ)蛍、か・・・(少し間を開けて)菜摘は俺の知らない世界を見ている。前にも似たようなことがあった・・・その時、菜摘は一条のお姉さんの病気が治ると、ドナーが見つかると予知したんだ。いつか明日香が言っていたが、菜摘には特別な何かがあるかのかもしれない。あいつの体が弱いのも・・・いや・・・考え過ぎだな・・・」



ご無沙汰してます、ななです。

向日葵が教えてくれる、波には背かないでのChapter6がいよいよ始まりました。自分史上、最も長く、キャラクターと、会話の多いChapterとなっております。今までのChapterを思い出しながら、読んでもらえると嬉しいです!!


まだ完成には程遠いですが、少しずつアップしていきますので、どうぞよろしくお願いします!!!

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