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Chapter5 √神谷(母)×√汐莉(響紀)×√早季(子供)=海の大混沌試練 中編

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter5 √神谷(母)×√汐莉(響紀)×√早季(子供)=海の大混沌試練


登場人物


神谷 志郎(しろう)44歳男子

このChapterの主人公。数学教師、一年六組の担任。昨年度まで担当していた生徒たちが卒業し、新一年生を担当することになった。文芸部と生活環境部の顧問。妻とは別居中、孤独でひねくれた男。


南 汐莉(しおり)16歳女子

このChapterにおける準主人公兼メインヒロインの一人。二年二組の生徒。明るく元気。軽音部と文芸部を掛け持ちしている。先輩が卒業してしまったため、汐莉が最後の文芸部員。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカル。歌とギターが上手い。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。


荻原 早季(さき)15歳女子

このChapterにおけるメインヒロインの一人。新一年生、担任は神谷。どこかミステリアスな雰囲気がある女性徒。クラスでも浮いた存在。


神谷 絵美(えみ)30歳女子

神谷の妻、現在妊娠中。


前原 駿(しゅん)22歳男子

大学を卒業したばかりの新人教師、一年六組の副担任、担当科目は体育。生徒に人気がある。


三枝 響紀(ひびき)16歳女子

波音高校二年二組の生徒、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。生徒会役員、クールで男前キャラ、同性愛者で明日香先輩に惚れている。


上野 和成(かずなり)57歳男子

波音高校の校長。規律にうるさく、生徒がやらかさないよう教員たちに圧力をかけている


井沢 由香(ゆか)15歳女子

新一年生、一年六組の生徒。いわゆるスクールカーストの上位に君臨しているタイプの女生徒。


細田 周平(しゅうへい)16歳男子

波音高校二年三組の生徒。強いことで有名な野球部に所属している。ポジションはピッチャーで次期エースと名高い。汐莉のことが気になっているようだが・・・


永山 詩穂(しほ)16歳女子

波音高校二年四組の生徒、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。周平のことが気になっている。


奥野 真彩(まあや)16歳女子

波音高校二年四組の生徒、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


コートの男

2m近くある正体不明の男、長く黒いコート、サングラス、マスク、黒いハット型の帽子が特徴、物語中盤から登場し、神谷を付け回す


天城 明日香(あすか)19歳女子

昨年度に波音高校を卒業した文芸部の先輩、現在は波音町から少し離れた専門学校に通って、保育士の勉強をしている。


安西先生 56歳女子

家庭科の先生兼軽音部の顧問、少し太っている。二年二組の担任。神谷に何かと因縁をつけて来る生徒の一人


神谷 良子(りょうこ)81歳女子

神谷志郎の母親。


神谷 栄一(えいいち)

五年前に病死した神谷の父親。


神谷 孝志(たかし)男子

神谷志郎の兄、神谷より2歳年上。15歳の時に事故死している。


早乙女 菜摘(なつみ)18歳女子

昨年度に波音高校を卒業した文芸部の先輩。卒業前に体を壊し、今は自宅で大人しく過ごしている。鳴海と付き合ってる。


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家、滅びかけた世界で“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。ナツと一緒に“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。ボロボロの軍服のような服を着ている。

Chapter5 √神谷(母)×√汐莉(響紀)×√早季(子供)=海の大混沌試練 中編


◯71神谷家寝室(日替わり/昼)

 何度か寝返りを打ち、体を起こす神谷

 電子時計は昼の12時半過ぎを指している

 ベッドの横の棚から充電されたスマホを手に取る神谷

 スマホを開くが特に誰からも連絡は来ていない

 スマホを持ってベッドから出る神谷

 寝室のカーテンを開ける神谷、外は快晴

 日差しを手で遮る神谷

 カーテンを閉める神谷


◯72神谷家リビング(昼)

 起きて早々キッチンに行き、冷蔵から缶ビールを取り出す神谷

 缶ビールを開け一口飲む神谷

 缶ビールとスマホをテーブルに置く神谷

 テーブルの上には早季の遺書と本が置きっぱなしの状態

 電話機の前に行き留守電がないか確認する神谷

 何度も留守電がないか確認する神谷、その度に機械音で”新しいメッセージは0件です”というアナウンスが流れる

 神谷は諦めスマホと缶ビールを持ってソファに勢いよく座る

 缶ビールを一口飲みテレビをつける神谷

 テレビでは昼のニュース番組をやっている

 ニュースの内容な犯罪にまつわる事、ニュースキャスターと元警察官が話をしている


ニュースキャスター4「ストーカー行為等の相談件数が前年と比較し29.3%も増加しているようですが、何故なんでしょうか?」

元警察官「この数字を聞くとですね、ストーカー行為による被害が増えているように感じますが、実はそうでもないんですよ」

ニュースキャスター4「詳しい話をお願いします」

元警察官「というのもですね、これは単純に相談が増えただけであって、実際の被害数は例年より減っているんです」

神谷「(声 モノローグ)これは視聴者を馬鹿にしているのか?相談件数が増えている時点で、被害数が減るわけがないだろう。警察側は被害者数を増やしたくないのか・・・同じ公務員の皮を被った偽善者め」

元警察官「それからですね、同じく減ったのが強制わいせつに関連する事件です」


 テレビのチャンネルを変える神谷


神谷「(テレビのチャンネルを変えながら 声 モノローグ)日本は嘘と傲慢を並べて成り立った哀れな国なのかもしれない。特にテレビは終わっている。沈黙に耐えられなくなった大人たちが用意した自己救済システムがテレビなのだ。テレビは情報を隠蔽し子供たちに嘘を信じ込ませようとする。マスコミは嘘をさぞ真実かのように放送し、平和ボケした日本人と、テレビで得た情報をすぐに信じ込んでしまう可哀想な子供たちを利用して、真実をかき消してしまう。(少し間を開けて)害悪に変わりはないが、責任転嫁のために沈黙している大人より、嘘とはいえ平和を守ろうとしているだけマスコミはまだ良い。真実を求めたり、現状を知ろうとする人に対し、沈黙で答えられるほど人類は偉くないと私は思う」


 缶ビールを一口飲み、立ち上がる神谷

 テレビの横にある棚を漁る神谷

 棚からブルーレイの博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったかを取り出す神谷

 ブルーレイレコーダーに博士の異常な愛情をセットし、ソファに戻る神谷

 博士の異常な愛情を見始める神谷

 

 時間経過


 博士の異常な愛情を見終えた神谷

 床には飲み干した缶ビールが6缶が潰して置いてある

 ディスクを取り出す神谷

 博士の異常な愛情を片付ける神谷

 テレビを消しスマホを手に取る神谷

 スマホの時計は三時を過ぎている、連絡は来ていない

 神谷はスマホを持ってどこかに行く

 しばらくすると着替えた神谷がリビングにやってくる

 財布、スマホをポケットにしまう神谷

 鍵と早季が残した本を持って家を出る神谷


◯73ファミレス(昼過ぎ)

 人が少ないファミレス

 神谷の向かいに汗だくの太った男がいる、男はスマホを見ている

 男の隣には白人の女性が座っている、女性は器用に箸を使いながら天ぷらの冷麺を食べている

 神谷はテーブルには食べ終えた皿と飲みかけのコーヒーが置いてある

 神谷はコーヒーを飲みながら本を読んでいる

 ”地球〜私たちに残された問題〜”というタイトルの本

 しばらくすると店員が皿を回収しに来る、同じでタイミングで向かいの太った男の元にボロネーゼが運ばれる

 読書をやめ店員に会釈する神谷、皿を持って行く店員

 太った男はボロネーゼを箸ですすりながら、片手でスマホを見ている

 神谷は読書を再開しようとするが、向かいの太った男が気になって集中出来ない

 太った男はクチャクチャと音を立てながらボロネーゼを食べている

 神谷は読んでいた本に栞を挟み閉じる

 太った男のことを睨みつけている神谷


神谷「(声 モノローグ)ただでさえ芸術、文化、メディアの対応が他国に比べて劣っているというのに、食事のマナーすらなってない・・・頼むからこれ以上のこの国の汚点を増やさないでくれ」


 神谷は白人女性の方を見る

 太った男とは違い白人の女性は食べ方は上品


神谷「(声 モノローグ)あの女性がどこの国の出身か知らないが、帰国した際には日本人ってパスタの食べ方も知らないのよと知人に言いふらすだろう」


 再び太った男の方を見る神谷

 太った男の口はボロネーゼで汚れ、首元は汗でテカテカと光っている


神谷「(声 モノローグ)もしかしてあの男は私に嫌がらせをしているのか?だとしたら頼むから欲しい。見ているだけでこちらのコーヒーまで不味くなってくる。何故あの男にパスタは箸ではなくフォークを使って食べるものだと教えなかったんだ。食べ方が下品だと私が直接文句を言いたい、誰かが教えなければあの男は一生パスタの食べ方を知らないままだ・・・ん?おかしくないか?何故私がそんな役目を引き受けなければならないんだ?(少し間を開けて)そういえば私は教えるという立場に興味や憧れはなかったはず・・・両親の強制で教師を目指したのか・・・私の人生だというのに・・・もしも二度目の人生があったら次は絶対に教師になんかならない」


 コーヒーを一口飲む神谷


神谷「(声 モノローグ)次の人生は思い切ってラーメン屋の店主にでもなろう。地元で愛されるラーメン屋だ、平日の昼間は学生とサラリーマンで溢れる、夜は老夫婦がひっそりと食べに来るんだ。今の私が味わったことのない、人を喜ばせながら生きる夢の世界」

 

 高校生くらいの学生が集団でファミレスに入ってくる

 高校生たちを席に案内する店員

 高校生の集団の後ろに長いコートを着た背の高い男が勝手に席に座る

 男は黒く長いコート、サングラス、マスク、ハット型の帽子を身につけており、身長が2m近くある

 コートの男は白人女性の隣に座る

 学生の集団がうるさい

 コーヒーを一口飲む神谷

 注文をしないでじっと神谷の方を見ているコートの男


神谷「(声 モノローグ)不気味な男だ、サングラスの下から私を見ているのか?」


 ポケットからスマホを取り出し、連絡が来ていないか確認をする神谷、特に誰からも連絡は来ていない

 コーヒーを飲み干す神谷

 本と伝票を持って立ち上がる神谷


◯74東緋空公園(夕方)

 夕日が公園を赤く照らしている

 公園の時計は五時前を指している

 キャッチボールをしている小学生くらいの男の子が二人いる

 公園のベンチに座って本を読んでいる神谷

 ベンチの下には一匹の黒い野良猫が眠っている

 少年がボールを掴み損ね、神谷の足元にボールが転がってくる

 本を閉じボールを拾って少年に投げ返す神谷

 神谷が投げたボールは少年たちを通り越して行く

 少年たちが走ってボールを追いかける

 黒い野良猫が目を覚まし、ベンチの下から出る来る

 ゴロゴロと音を鳴らしながら、神谷の足に擦り寄る黒い野良猫

 

汐莉「あれ?神谷先生?」


 神谷の目の前に制服姿の汐莉が立っている

 

神谷「(驚いて)おおっ!」

汐莉「驚き過ぎですよ先生」

神谷「(少し笑いながら)まさかこんなところで会うなんてな」

汐莉「ほんと奇遇ですね!」


 少しの沈黙が流れる

 

神谷「今日・・・学校あったのか?」

汐莉「どうしてそんなこと聞くんです?」

神谷「汐莉が制服を着てるからさ」

汐莉「嫌いですか?」

神谷「えっ?」

汐莉「先生は、制服姿が嫌いですか?」

神谷「(声 モノローグ)制服が嫌いな教師はいないだろう。それどころか好きじゃなきゃ成り立たない職業だ」

神谷「いや・・・別に嫌いじゃないけど・・・」

汐莉「(ポージングしながら)機関銃も必要でした?」

神谷「それが必要なのは薬師丸ひろ子だ、というか家なき子は知らないのにセーラー服と機関銃は知ってるんだな」


 ポージングをやめる汐莉


汐莉「薬師丸ひろ子はアイドルですから」

神谷「安達祐実との違いはそこか・・・」

汐莉「そうですよ」


 神谷の隣に座りに来る汐莉

 神谷にぴったりくっついている汐莉

 

汐莉「ところで先生は何をしてるんです?」

神谷「今か?」

汐莉「今です」


 足をぶらぶらさせる汐莉

 

神谷「あー・・・何をしているんだろうな俺は・・・」


 困っている神谷


神谷「今は・・・その・・・休職中なんだ」

汐莉「(足をぶらぶらさせながら)えー!お休みってことですかー!!」

神谷「お休み・・・うーん、お休みはお休みなんだろうけど」

汐莉「(足をぶらぶらさせながら)お休みいいなー!」

神谷「そんなに良いもんじゃないよ」

汐莉「(足をぶらぶらさせながら)あっ!もしかして・・・」

神谷「何だ?」

汐莉「(足をぶらぶらさせながら)ほんとは先生、暇なんでしょ?」

神谷「こう見えても大人は忙しいんだぞ?(汐莉に本を見せて)今だって読書に勤しんでるところだ」


 足をぶらぶらさせるのをやめ、スカートを整える汐莉

 汐莉のスカートはかなり短い

 一瞬、汐莉の太腿を見る神谷


汐莉「その本、面白いですか?」

神谷「うん、勉強になる本だよ」

汐莉「じゃあ先生、またいつかその本で勉強したこと、教えてくださいね!」

神谷「汐莉、環境のこととか興味あるのか?」

汐莉「もちろん!」

神谷「そうか・・・そいつは知らなかった」

汐莉「大事ですから」

神谷「大事って?」

汐莉「地球のことが」

神谷「地球・・・ね。先生も同感だ」

神谷「(声 モノローグ)人の気持ちを汲み取るのは難しい。特に十代は考えがコロコロ変わるし、勢い任せで物事を判断する」


 キャッチボールをしている少年たちに手を振る汐莉

 汐莉のことを見る神谷

 少年たちは手を振り返さない


神谷「(声 モノローグ)彼女だって・・・どこまで本音で言ってるのか・・・」

汐莉「何だろう・・・あの人・・・」

神谷「あの人?」


 汐莉が指を差す

 汐莉が指を差した方向にはコートの男がいる

 コートの男は公園の端の方から神谷たちのことを見ている


神谷「あいつ、さっきも会ったんだよ」

汐莉「先生の知り合い?」

神谷「顔が見えないけど、先生の知人ではないと思いたいな」

汐莉「怖いですね・・・さっきも会ったってことは神谷先生を追っかけて来たんじゃ・・・」

神谷「そんなことあるか?」

汐莉「今日テレビで見ましたよ、痴漢の被害が増えてるって」

神谷「あんまりテレビの情報を鵜呑みにしない方がいいぞ、それに男狙いなんて滅多にいないからな」

汐莉「先生、危機感を持つのが大事なんですよ?」

神谷「そうだな、それはこの本にも書いてあったよ」

汐莉「危機管理さえ出来れば、痴漢の被害だって減りますから」

神谷「ごもっともだ」


 神谷は再び汐莉の太腿を見る

 汐莉のスカートの丈がさっきより長くなっている

 公園のスピーカーから五時のチャイムが鳴る

 少年たちがキャッチボールをやめて、近くに止めてあった自転車に乗って帰り始める

 立ち上がる汐莉

 スカートのゴミを手で払う汐莉


汐莉「じゃあ先生、私そろそろ帰りますね!」

神谷「おう、気をつけて帰れよ」

汐莉「先生も!!あの人はコートで機関銃を隠している可能性がありますから!!」

神谷「だから、それは薬師丸ひろ子だって・・・」


 汐莉はいない

 さっきまで神谷の足元にいた黒い野良猫が遠くの方を歩いている


神谷「(声 モノローグ)いつもの如く汐莉は素早かった。彼女のことは嫌いじゃない、ユーモアに溢れていて、今時珍しく意欲関心もある。心が澄んでいるし、私に対しても優しい。何より芸術を理解していそうだ。私からすれば汐莉は・・・眩しい。(かなり前を開けて)彼女のことを考えていても無駄だ、私とは気が合わないだろう。どうせこの世にはいない、私が求めているような女性は」


 立ち上がる神谷

 コートの男は未だに神谷のことを見ている

 ポケットからスマホを取り出し、連絡が来ていないか確認する神谷、特に誰からも連絡は来ていない

 スマホをポケットにしまう神谷

 本を持って公園を出る神谷


◯75帰路(夜)

 本を持って住宅街を歩いている神谷

 自宅を目指している神谷


神谷「(声 モノローグ)私は少し嬉しくなった、まだ地球を大事に思う人がいる、それも女子高生だ。世界中の大人がクズ人間でも、十代に危機感を持たせることは出来るのかもしれない。生徒たちに何を教えればいいのか分かってきた。沈黙する大人・・・嘘をつく大人・・・逃げる大人・・・私はそうはならない、私は真実を教える大人になる。本当の意味での教師だ」


◯76神谷家リビング(夜)

 帰宅してきた神谷

 リビングの電気をつけて、本、財布、家の鍵をテーブルに置く神谷

 電話機の前に行き、留守電がないか確認する神谷

 何度もボタンを押し留守電がないか確認する神谷

 確認をする度に機械音で”新しいメッセージは0件です”というアナウンスが流れる

 ポケットからスマホを取り出し、連絡が来ていないか確認する神谷、特に誰からも連絡は来ていない

 スマホの電話帳を開き、波音高校と登録された電話番号に電話をかけようか迷う神谷

 少し考えた後、スマホをポケットにしまう神谷

 キッチンに行き、冷蔵庫から缶ビールを取り出す神谷


◯77神谷家志郎の自室(夜)

 机の上にはカップラーメン、缶ビール、パソコンが置いてある

 カップラーメンをすすりながらパソコンで調べ物をしている神谷

 老眼鏡をかけている神谷

 神谷がパソコンで見ているのはゴミの問題について記述されているサイト

 “海には既に1億5,000万トンものゴミがあり、2050年にはそれが海にいる魚と同等以上にまで増えると予測されています”と書かれている

 

神谷「(声 モノローグ)地球には問題が多い。ゴミと同じだ」


 浜辺に散らかったゴミの写真をクリックして拡大する神谷

 ペットボトル、空き缶、ビニール袋、家電、中には何かわからないようなゴミが写っている

 ゴミの画像を”罪”というファイルに保存する神谷

 カップラーメンをすする神谷

 新規タブを開き、海 ゴミ 生物と検索する神谷

 画像一覧を開く神谷

 出てきたのはゴミの海で泳ぐあざらし、ゴミが甲羅にくっついているウミガメ、ゴミに絡まっているタコ、死んだ鯨の腹から大量のゴミが溢れている写真

 それら全てを”罪”に保存する神谷


神谷「(声 モノローグ)人はまだ地球を汚そうとする。人が他の生物と違うのは、自分たちの手でこの美しい星を破壊していることだろう。犬や猫、あるいは魚が地球に対して破壊活動を行ったことは一度だってない」


 海 ゴミ 人 影響と検索する神谷

 インターネットに接続出来ませんと表示される

 Wi-Fiを確認する神谷、電波は良好なのに何故かインターネットが見れない

 カップラーメンをすする神谷

 缶ビールを一口飲む神谷

 カップを覗く神谷

 空になるカップラーメン、残っているのは汁とネギだけ


神谷「(カップを見ながら 声 モノローグ)人類が今日まで滅びなかったのは、他生物と地球を犠牲に出来るほどの傲慢さがあったお陰なのかもしれない。犠牲に出来るような生物、自然が失われつつある今、暴走した人類は資源を求めて争いを始めるだろう。まさしく早季が恐れていた未来・・・戦争と自然破壊のアンハッピーセット」


 カップを覗くのをやめる神谷


◯78神谷家リビング(深夜)

 リビングの電気をつける神谷

 冷蔵庫の中を見る神谷

 冷蔵庫の中の缶ビールが残り一つ

 神谷は上着を羽織り、財布と鍵を持って家を出る 


神谷「(声 モノローグ)深夜・・・目が覚めた」


◯79コンビニ前(深夜)

 コンビニのビニール袋を持って出てくる神谷

 中身は缶ビール

 家に戻る神谷


神谷「(声 モノローグ)研ぎ澄まされていく正義感。私はヒーローではないし、ヒーロー気取りをするつもりもない。ヒーローなんて創作物のキャラクター、悲しきかな、現実にいるのは自衛隊と警官だけだ、この国の防衛能力はゼロである」


◯80神谷家志郎の自室(深夜)

 コンビニのビニール袋を机に置き、袋から缶ビールを取り出す神谷

 パソコンを机の上に置き立ち上げる神谷

 缶ビールを開け、一口飲む神谷

 パソコンでインターネットを開く神谷

 机に置いてあった老眼鏡をかける神谷

 さっきまでと違いちゃんとインターネットが繋がる

 検索欄に自衛隊 人手不足と検索する神谷

 たくさんの記事がヒットする

 ”自衛隊 深刻な人手不足 若者集まらず”、”自衛隊の人手不足 外国人には頼れない”、”募集虚しく 若者自衛隊には興味なし”、”安すぎる自衛隊の給料 人手不足の原因は金か?”という見出しの記事が出てくる

 “防衛省 犯罪者を自衛隊に入れるか検討”という見出しの記事をクリックする神谷

 記事の内容は“防衛大臣の東野、減刑と引き換えに受刑者を自衛隊で労働させるシステムを提案したと発言。主に若年層の受刑者に向けたシステムで、認められれば彼らにとっても自分を見つめ直す良い機会になるのではないかと語った。ネットでは物議を醸し、犯罪の重軽に問わずなのか、何故若者だけなのか、犯罪者に自衛隊の仕事を任せるなんて危険だという声も上がっている”と書かれている

 缶ビールを一口飲む神谷

 神谷は別の記事を見ようとするが、再びインターネットに接続出来ませんと表示される

 神谷はインターネットを閉じて、パソコンを片付ける

 神谷は立ち上がり、本棚から分厚い画集を取り出す

 画集を持って椅子に座る神谷

 神谷が取り出したのはズジスワフ・ベクシンスキーの画集

 パラパラと画集をめくる神谷

 KOというタイトルの絵を見る神谷

 戦争で使うようなヘルメットを被った顔のない亡霊(兵士)が描かれている

 缶ビールを一口飲む神谷

 神谷は机の引き出しからハサミを取り出し、絵を切り取る

 神谷は立ち上がり、部屋を出る

 しばらくすると神谷が部屋に戻ってくる

 神谷は早季の遺書と画鋲を持っている

 神谷は壁にベクシンスキーのKOと早季の遺書を貼り付ける

 壁を見ている神谷


神谷「(声 モノローグ)私は暗黙だけではなく、この世から希望を奪っていく奴ら全員と戦う。未来のため、地球のため、子供たちのために。私の人生は世界のためにある」


◯81波音図書館(日替わり/昼過ぎ)

 図書館にいる神谷

 年寄りが多い図書館

 政治社会コーナーにいる神谷

 神谷は手に数冊の本を持ち、本棚を見ている

 神谷は本棚に指を当てながら、本を探している

 頭を搔く神谷

 検索機があるところに行く神谷

  “放射能と日本の関係 核は近い”というタイトルの本を検索する神谷

 政治社会コーナーに在庫ありと表示される

 神谷は再び政治社会コーナーに戻る

 政治社会コーナーの棚を見る神谷

 ハ行を念入りに確認する神谷

 本は見当たらない

 近くにいた司書に声をかける神谷


神谷「すみません、探している本が見つからないんですが・・・」

司書「検索機は使いました?」

神谷「はい、検索機によるとこのコーナーにあるはずなんです」

司書「ではこちらへ」


 本の貸し出しを行うカウンターに移動する神谷と司書


神谷「放射能と日本の関係 核は近いというタイトルの本です」


 司書はパソコンを使って調べる

 司書が調べている間、近くの本を手に取って見ている神谷

 

司書「(タイピングしながら)今は構いませんけど、基本的にカウンターの前では立ち読みしないでくださいね」

神谷「すみません」


 本を片付けようとする神谷

 神谷の動きが止まる

 コートの男が奥のテーブルに座って神谷のことを見ている

 男の格好は昨日と変わっておらず、黒く長いコート、サングラス、マスク、ハット型の帽子を身につけている


神谷「(声 モノローグ)何故あいつが?気に食わない、私を尾けているのか?サングラスで隠した目で何を見てる?」

司書「お探しの本は見つかりません」


 少しの沈黙が流れる

 神谷はコートの男のことを見ていて、司書の話を聞いていない


司書「(少しイライラしながら)聞いてます?」


 神谷は司書のことを見る


神谷「失礼・・・見つかりました?」

司書「いえ、ですからお探しの本は見つかりません」

神谷「何故?」

司書「何故と聞かれても・・・無い物は無いです」

神谷「もう一度調べてくれ、検索機には誰も借りてないと出たんだ」

司書「ネットで調べてもそのような本はヒットしませんでした、本当に実在している本なんですか?」

神谷「実在してるに決まっているだろ」

司書「申し訳ありませんが・・・お役には立てません。似た本を借りるのはいかがですか?」


 神谷はコートの男の方を見る

 コートの男はコートの下から本を取り出して神谷に見せる

 コートの男が取り出したのは神谷が探していた“放射能と日本の関係 核は近い”というタイトルの本


司書「小学生でも分かる、放射能の危険っていう本はどうです?この本なら借りられますよ」

神谷「いや結構」


 神谷は手に持っていた本をカウンターに置く

 財布を取り出し図書館カードをカウンターに置く


神谷「それよりこれを借りる、期間は二週間で」

司書「かしこまりました 」 


 神谷はコートの男がいるところに行く


神谷「お前喧嘩売ってるだろ」


 コートの男に向かって話しかける神谷

 コートの男は見せつけていた本をコートの内ポケットにしまう


神谷「人に嫌がらせをしてそんなに楽しいか?」


 コートの男は何も答えない

 周囲の人たちは怖がりながら神谷のことを見ている


神谷「何故黙ってる?(大きな声で)聞こえないのか!?」


 借りた本と神谷の図書カードを持って司書がやって来る


神谷「(大きな声で)何か言えよ!!お前は昨日から俺のことを尾けてる!!!」

司書「お客様、騒ぐのは・・・」

神谷「今は取り込み中だ、悪いが話しかけてこないでくれ」

司書「他の利用者が迷惑してます、周りをよく見てください」


 神谷は周囲を見る

 周囲の人たちが怖がっている


司書「(借りた本と図書カード差し出して)お引き取りいただけますか」


 少しの沈黙が流れる


神谷「ちゃんと二週間で借りただろうな?」

司書「はい」


 司書の手から本とカードを奪い取る神谷

 財布にカードをしまいコートの男を睨みつける神谷

 神谷は本を持ったまま、出口に向かって歩く

 神谷が歩いていると笑い声が聞こえてくる

 振り返る神谷

 コートの男が大きな声で笑っている

 

コートの男「(大きな声で)アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!」


 コートの男の笑い声が響き渡る

 神谷は図書館を出る


◯82帰路(昼過ぎ)

 図書館から出て自宅を目指している神谷

 神谷は借りた本を手に持っている

 人のいない住宅街を歩いている神谷

 一匹のカラスが神谷の上空をカーカーと鳴きながら飛んでいる


神谷「(声 モノローグ)ここは引き下がろう、私は我慢が出来る大人だ。感情に身を任せるのは良くな・・・」

由香「あ、神谷先生じゃん」


 由香が後ろから声をかける

 振り返って立ち止まる神谷

 由香は制服姿でチュッパチャプスを舐めている


神谷「(驚いて)由香・・・この時間は学校じゃないのか」

由香「サボったんだー」

神谷「サボるなよ」

由香「(歩き出して)何で?」


 由香について行く神谷


神谷「サボるのは悪いことだぞ」

由香「先生っていつもそうっすよねー」

神谷「何が言いたいんだ?」

由香「自分のことを棚に上げておきながら、生徒には厳しいっていう。そういうの、どうなんすかね」

神谷「俺はそんなに厳しいか?」

由香「無自覚とか・・・ちょーやばい」

神谷「生徒に厳しく接するのは生徒のためを思ってだ」

由香「それって都合の悪い時に言う先生の逃げ台詞じゃないっすか」

神谷「君は教師を馬鹿にし過ぎてる。更生が必要だな」

由香「(馬鹿にしたように)休職中のおじさんが何を言ってるんですかねー」

神谷「由香のその反抗的な態度はどうにかならないのか?」

由香「無理、生徒はあんたの駒じゃない」

神谷「駒だなんて言ってないだろ」

由香「生徒は自分の支配下にあると思ってるくせに」

神谷「そんな風に思ったことは一度もない」

由香「生徒を偽善活動に巻き込もうとしてるっしょ」

神谷「偽善活動ってどういう意味だ」


 神谷が持っている本を指差す由香


神谷「これは・・・調べ物に使うんだ」

由香「調べてどうするんすか」

神谷「由香には関係ないだろ」

由香「へー、本当に関係ないと思ってんの?」

神谷「あ、ああ・・・」


 少しの沈黙が流れる


神谷「が、学校はどうだ?楽しいか?」

由香「楽しいわけないじゃん、絡みたくない奴と過ごすのは疲れるし」

神谷「授業は?数学のことなら俺が教えても・・・」

由香「頼んでないから」

神谷「そうか・・・」


 チュッパチャプスを噛み砕き、棒をポイ捨てする由香


神谷「ゴミはゴミ箱に捨てろよ」

由香「ほーら、そうやって偽善活動に巻き込むじゃん」


 神谷はチュッパチャプスの棒を探す


神谷「(棒を探しながら)偽善活動じゃない、これは正しい行動だ」

由香「(引きながら)うっそ、JKが舐めてた棒を拾う気?」

神谷「(棒を探しながら)JKじゃなくても拾ってるよ、地球のために」

由香「(引きながら)何それ・・・意味わかんな。キモすぎ」


 神谷のことを引きながら見ている由香


由香「あー、あったわ」

神谷「拾いなさい」

由香「棒じゃなくて学校のこと、ほんと面白くてさー」

 

 棒探しを再開する神谷


神谷「(棒を探しながら)何がそんなに面白かったんだ?」

由香「自殺した荻原さんの話」


 棒を探しをやめる神谷


神谷「早季がどうかしたのか」

由香「(笑いながら)荻原さんの写真に男子がめっちゃ食い付くの、もう六組じゃその話題で持ちきりなんだよねー」

神谷「写真って?」

由香「裸の写真、援交の時の」


 少しの沈黙が流れる


由香「あっ、神谷先生も見る?」


 ポケットからスマホを取り出そうとする由香


神谷「人の裸がそんなに面白いか?」

由香「(笑いながら)だって男子が馬鹿みたいに騒いでるし」


 棒を拾うのを諦め、歩き始める神谷


神谷「(歩きながら)馬鹿はお前だろ」

由香「は?」


 神谷を追いかける由香


神谷「馬鹿に流されて損するのは由香だぞ」

由香「別に損してないから、面白いんだし」

神谷「そんなことより勉強でもしろよ」

由香「ならもっと興味が湧くような授業をしたら?」

神谷「悪いが、俺は休職中だ。そういう文句は他の先生に言うんだな」

由香「自分から言い出しておいてあとは適当かよ」

神谷「俺は適当だからなー」

由香「(小さな声で)人殺し」


 足を止める神谷


由香「私、見てたから。先生と荻原さんの会話を」


◯83◯59の回想/波音高校一年六組の教室(放課後/夕方)

 夕日で赤く染まった教室

 神谷と早季が話をしている

 廊下から二人のことを見ている由香


由香「(声)先生は荻原さんの話を聞いてなかった、それどころか荻原さんの考えを否定したよね」


◯84回想戻り/帰路(昼過ぎ)

 話をしている神谷と由香

 

神谷「俺のせいで早季が自殺したと思うのか?」

由香「そう思う人の方が多い」

神谷「俺のせいだと思いたきゃそう思えばいい」

由香「先生、人を殺したことあるでしょ」


 歩き始める神谷


神谷「残念、俺はサイコパスじゃない」

由香「周りの圧力から押し潰されないように過ごすのって楽しい?」

神谷「ああ、生きてるって感じがするよ」

由香「それって負け犬の遠吠えじゃん」

神谷「勝ち負けがそんなに大事か?」

由香「神谷先生みたいな大人になりたくないし」

神谷「俺の何が嫌なのか教えてほしいな」

由香「恋人無し、アル中、変態、授業下手、偽善者、理屈っぽい、人の話を聞かない、嫌われ者。(少し間を開けて)神谷先生って最低」


 少しの沈黙が流れる


由香「謝ることすら出来ないのは先生がクズだから」

神谷「謝罪くらい出来るぞ」


 正面から女性が歩いて来る

 

由香「どうやって?謝罪の場がないのに」

神谷「保護者会があるだろ」

由香「(馬鹿にしたように)呼ばれてないじゃん」

神谷「それはまだ保護者会の予定が決まってないから・・・」

由香「保護者会はもう終わった」

神谷「そ、そんなはずない」

由香「確認したの?」

神谷「いや・・・」

由香「出た、また確認ミス。てか神谷先生って何が出来るの?」

神谷「授業を教えたり・・・」

由香「先生の授業は誰も聞いてない」

神谷「生徒の相談に・・・」

由香「その生徒は自殺するけどね」

神谷「俺は教えることが出来る、地球の現状と未来について」

由香「嫌がってる生徒に自分の考えを押し付けるんだー」

神谷「もう逃げられないんだよ、滅びを回避するには君たちが向き合わないと」

由香「誰も先生の話なんか聞かないと思うけどなー」

神谷「(大きな声で)地球の問題なんだぞ!!!!!由香一人だけじゃなくて世界中の命が掛かってるんだ!!!!!!」

由香「現実を知るのが怖い人だっているって神谷先生言いましたよね」

神谷「今はそんなことを言ってられない」

由香「ふざけんな、自分の発言をあっさり曲げるとかありえねー」


 由香は神谷が持っていた本を強奪する


由香「(本を投げ捨てて)人は真実であればあるほど簡単には信じない」


 本を拾いに行く神谷

 しゃがんで本についた砂を払う神谷


神谷「(本の砂を払って)言われなくても分かってる」

由香「話すら聞いてもらえずあんたは終わるよ」

神谷「(本を持って立ち上がり)そん時は・・・世界の終わりだ」


 由香がいなくなっている

 辺りを見る神谷

 相変わらず上空ではカラスがカーカー鳴きながら飛んでいる


神谷「(声 モノローグ)終わらせない。世界を変えてやる」


◯85神谷家リビング(夕方)

 帰宅した神谷

 財布、鍵、借りた本をテーブルに置く神谷

 キッチンに行き冷蔵庫から缶ビールを取り出す神谷

 缶ビールを開けて一口飲む神谷

 缶ビールを持ったまま電話機の前に行き、留守電がないか確認する神谷

 何度もボタンを押し留守電がないか確認する神谷

 確認をする度に機械音で”新しいメッセージは0件です”というアナウンスが流れる

 ポケットからスマホを取り出し、連絡が来ていないか確認する神谷、特に誰からも連絡は来ていない

 スマホの電話帳を開き、波音高校に電話をする神谷

 ”おかけになった電話番号への通話は、お客さまのご希望によりお繋ぎできません”というアナウンスが流れる

 何度波音高校に電話をかけても同じアナウンスが流れる


神谷「(声 モノローグ)私は教師なのに、どうも学校という組織から嫌われているようだ。連絡すらつかない」


 スマホの着信が鳴る、絵美からの電話

 何度もコールが鳴り、電話に出ようか悩む神谷

 缶ビールを一口飲み、電話に出る神谷


絵美「(電話の声)もしもし」


 少しの沈黙が流れる


絵美「(電話の声)聞こえてる・・・?」

神谷「ああ」

絵美「(電話の声)調子はどう?」

神谷「元気だけど」

絵美「(電話の声)良かった・・・(かなり間を開けて)あのね、志郎くん」

神谷「何だ」

絵美「(電話の声)去年みたいに、一緒に学園祭・・・」

神谷「休職中だぞ」

絵美「(電話の声)えっ?」

神谷「俺は今休職してるんだよ」

絵美「(電話の声)どうして休職してるの?お金は大丈夫?」

神谷「(イライラしながら)生徒が自殺したからだ。そのくらい分かるだろ」

絵美「(電話の声)ごめんなさい・・・(少し間を開けて)生活は大丈夫?助けがいるんだったら・・・」

神谷「(イライラしながら)必要ない」


 再び沈黙が流れる


神谷「子供は?」

絵美「(電話の声)先生が順調だって、予定日は8月末」

神谷「そうか・・・」

絵美「(電話の声)志郎くん、二人でどこかに行かない?旅行とか、美術館とか・・・」

神谷「絵美、まだ分からないのか?もう俺たちは終わったんだ、修復不可能な関係ってやつだよ」

絵美「(電話の声)でも・・・子供が・・・」

神谷「(イライラしながら)お前が一人で勝手に作った子だろ。母親なんだからしっかりしてくれよ、先生を巻き込むな」

絵美「(電話の声)誤解してる、この子はあなたが望んだ・・・」

神谷「(イライラしながら)望むわけないだろ、困った時に俺のことを利用するのはやめてくれ」

絵美「(電話の声)そういうつもりじゃ・・・」

神谷「(イライラしながら)俺のことを都合の良い男だと思ってるんだな。はっきり言うが、軽蔑に値するよ。君はクズだ。もう二度と電話してこないで欲しい、俺は君のことが嫌いだし愛してもない」


 絵美が何か言う前に電話を切る神谷


神谷「(声 モノローグ)子供はローズマリーの赤ちゃんになるだろう・・・望まれてもない赤ん坊は子宮の中に潜む悪魔だ。憎まれて産まれた子供は歪んだ肉塊でしかない。親の憎悪は子供を狂わせる、喋る肉ゴミの誕生。あんな女の子供だ、社会から嫌われ悪魔の子と言われなきゃおかしい。(かなり間を開けて)堕ろせと言うべきだったか?いや・・・私には人権がないんだった」


 連絡先から絵美を消す神谷

 缶ビールを一口飲む神谷

 缶ビールを持ってソファに座る神谷


神谷「(声 モノローグ)絵美も、学校も、私から人権を奪い行動を制限させたいようだ。もうお前は何もするな、そう言っているのかもしれない。コートの男や絵美の電話は・・・(少し間を開けて)学校が仕込んだ事のようにも思えた。校長や前原は絵美の妊娠を気持ち悪いくらい喜んでいたし、グルの可能性が高い。インターネットの調子が悪いのも、私に設けた制限の一つじゃないだろうか」


 立ち上がり、カーテンの隙間から外を見る神谷

 外には誰もいない、日が沈み始めている


神谷「(声 モノローグ)学校側の目的が何であれ・・・」


 カーテンを閉める神谷

 ソファに座る神谷


神谷「(声 モノローグ)私は自分の権利を取り戻しに行こう。周りの圧力から押し潰される前に・・・」


 缶ビールを一口飲む神谷


◯86神谷家志郎の自室(夜)

 机の上には缶ビールとパソコンが置いてある

 老眼鏡をかけてパソコンを見ている神谷

 検索欄に緋空寺と入力して検索する神谷

 “廃寺になった緋空寺の現在”という見出しの記事をクリックする神谷

 ”空襲で一部が焼け落ち、現在は誰も住んでいない緋空寺”と書かれている

 現在の緋空寺の写真が載っている

 現在の緋空寺は、建物の損傷が激しくかなりボロボロになっている

 

◯87◯46の回想/波音高校事務倉庫室(夜)

 ダンボールだらけの倉庫

 一年六組と書かれたダンボールの中に入っている書類を一枚一枚手作業で確認している神谷

 立ちっぱなしで書類に目を通していく神谷

 荻原早季とメモが貼られた書類を手に取る神谷

 少しの間動きが止まる神谷

 波音町緋空寺2−6−9と住所が記されている

 神谷は早季の住所を見ている

 

◯88回想戻り/神谷家志郎の自室(夜)

 現在の緋空寺の写真を見ている神谷

 缶ビールを一口飲む神谷


◯89◯59の回想/波音高校一年六組の教室(放課後/夕方)

 夕日で赤く染まった教室

 教室にいる神谷と早季

 早季は机の中に本をしまう

 カバンを持って立ち上がる早季


神谷「そういえば早季ってお寺の子だったんだな、知らなかったよ。今度お参りに行こうかな」

早季「先生、あの寺にはもう何もありませんよ」


◯90回想戻り/神谷家志郎の自室(夜)

 老眼鏡を外す神谷

 缶ビールを飲み干す神谷

 空になった缶ビールを握り潰す神谷


◯91緋空寺前(日替わり/昼)

 晴れている

 お寺の扉の前にいる神谷

 お寺の扉はボロボロで落書きがされている

 表札はなく、地面には広告が散らかっている


神谷「(声 モノローグ)私は緋空寺に向かった」


 扉は鍵が壊れており、神谷が扉を押すと簡単に開く


◯92緋空寺境内(昼)

 人の手入れが全くされていない寺

 お寺の屋根の一部分が壊れている

 雑草が生い茂り、かつて舗装されていたであろう道は砂利で溢れている

 手水舎を覗く神谷、水は入っていない

 境内を回る神谷

 お寺の賽銭箱はひっくり返っている

 雑草の中に墓石が二基ある

 手で雑草をかき分ける神谷

 墓石には佐田 奈緒衛、白瀬 波音と薄く彫られている


神谷「(声 モノローグ)この名前・・・波音物語に出てくる・・・」

早季「そうです、波音物語ですよ」


 驚いて振り返る神谷

 制服姿の早季が立っている


神谷「(驚いて)さ、早季?」

早季「先生、どうかしました?」

神谷「(驚いたまま)君は・・・死んだ・・・はずだろ」

早季「物事には二つの道があるのでしょう?生きてる道と死んでる道」

神谷「(困惑しながら)あ、ああ・・・」

早季「先生、中に案内しますよ」

神谷「(混乱しながら)た、頼む」


◯93緋空寺/講堂(昼)

 薄暗い畳の講堂

 畳はボロボロで、虫に食われたり、カビが生えたりしている

 汚い座布団の上に座っている早季と神谷

 二人は正座している

 埃を吸って咳き込んでいる神谷


早季「お茶を持って来ましょうか先生」

神谷「(咳をしながら)いや・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・結構だ、ありがとう」


 少しの沈黙が流れる


早季「知ってますか先生、ここでは昔、海人が暮らしていたんです」

神谷「波音物語の話だな、もちろん知ってるよ」

早季「先生はどうしてここに来たんです?」

神谷「さ、早季のご両親に・・・しゃ・・・(少し間を開けて)ご両親とお話がしたくて・・・」

早季「先生、ここには何もありませんよ」

神谷「早季のお父さんとお母さんはどこにいるんだ?」

早季「私に両親はいません」

神谷「誰にだって親はいるはずだぞ」

早季「なら地球が母です」

神谷「早季・・・」

早季「先生は未来が見えましたか?」

神谷「以前よりはね、地球にとって何が問題なのかも理解し始めたよ」

早季「どうしても謝りたいのなら・・・地球に謝罪にしてください」

神谷「地球に?」

早季「私の親に謝るとはそういうことです」


 再び沈黙が流れる


神谷「早季・・・君は現実にいるのか?」


 頷く早季


神谷「その証拠は?」

早季「先生は・・・私の存在を信じないのですね・・・」


 神谷は困って頭を掻く


早季「この町の人たちは繋がっています・・・神谷先生は私と・・・先生は南汐莉と・・・」

神谷「汐莉のことを知ってるのか?」

早季「(頷き)南汐莉は三枝響紀、奥野真彩、永山詩穂、早乙女菜摘、天城明日香と・・・三枝響紀は天城明日香と・・・天城明日香は早乙女菜摘、貴志鳴海、白石嶺二と・・・早乙女菜摘は一条雪音、一条智秋、柊木千春、白瀬波音、そして先生の子供と・・・白瀬波音は凛と・・・凛はみな・・・」

神谷「(話を遮って)分かった分かった、繋がりはもういい。大事なのは地球と子供たちの未来だろ」

早季「全ての元凶は人です。人の根底を正さなけば地球の問題は解決しません」

神谷「ずいぶんと上から目線で言うね。そういう早季は人を正そうと努力したのか?」

早季「神谷先生を・・・正しい道へ・・・」

神谷「じゃあ聞くけど・・・なんで自殺なんかした?」

早季「みんなが地球の問題に気づかないから・・・」

神谷「だからと言って、取り組んでいた問題を途中で投げ出すのは感心しないな」

早季「私は先生を見ていて思いました・・・鋭い感性、柔軟な思考、鬱屈した生活の怒り、濁りきった瞳の奥から感じる狂気、この人に地球を任せてみようと・・・」

神谷「それは・・・(少し笑いながら)人選を誤ったんじゃないのか?もっと適正に合った人がいただろ」

早季「神谷先生は問題を解くのが好き、私がヒントを与えれば先生は答えを追求し続ける。私にはそれが分かっていました」

神谷「まんまとやられたよ」


 少しの沈黙が流れる


早季「先生・・・(かなりを間を開けて)私は人ではありません」

神谷「(笑いながら)幽霊とでも言いたいのか?」

早季「いいえ・・・」

神谷「じゃあ人だな」

早季「人間だったら自殺してそれで終わります」


 太陽が雲に隠れ、講堂から一気に暗くなる


早季「見せましょうか?」

神谷「見せるって何を?」

早季「気になっているんですね、私が何者なのか」


 ハイソックスを脱ぐ早季

 立ち上がる早季


神谷「何をするんだ」

早季「私が人でないと知ったら・・・神谷先生は・・・怒りますか」


 早季の座っていた座布団と周りの畳が尋常じゃないくらい濡れてることに気が付く神谷

 セーラー服のリボンを外し、畳に落とす早季


早季「それとも・・・愛してくれますか」


 セーラー服を脱ぐ早季


早季「私は汚れています・・・」


 脱いだセーラー服を畳に落とす早季


神谷「(混乱しながら)そ、その・・・体は・・・」

早季「人のせいですよ・・・」


 ブラジャーを外し、床に落とす早季


早季「悲しいですか?怖いですか?」


 スカートのファスナーをゆっくり下ろす早季


早季「神谷先生、私の体を見てください」


 スカートを脱いで床に落とす早季

 早季の体を見ながら震えている神谷

 パンツを脱いで床に落とす早季


由香「(声)荻原さんの写真に男子がめっちゃ食い付くの、もう六組じゃその話題で持ちきりなんだよねー」


 早季の体を見ながら涙する神谷


早季「人は償えますか?この世界にしたことを・・・」


 早季の体は緑色に変色しており、全身が濡れ、緑色の網のような物が上半身に巻きついている

 早季の右胸は灰色の見た目をしたフジツボが大量に生え、左胸はペットボトルのキャップが大量にへばりついている

 早季の右腕からは無数のヒレのような物が生え、左腕からはくすんだペットボトルの破片のような物が大量に突き刺さっている

 早季の右側の横腹には無数の死んだ小魚が突き刺さっており、へそからは小さな触覚のような物が7、8本生えている

 早季の左側の横腹には何十本物の充電ケーブルがは生え、緑色の網と絡まっている

 緑色の網には充電ケーブル以外にも、ビニール袋、割れたガラス、よく分からないようなプラスチックのゴミを巻き付けており、それらのゴミは早季の体から直接生えてきている

 早季の背中には大きな死んだサンゴが二つ生えている

 早季の右脚は一部が鱗のような物で覆われ、他の部分は魚の骨が張り付いている

 早季の左脚は大小様々な真っ白な魚眼が大量に生えている

 早季の太ももから股にかけては亀の甲羅ような模様があり、股間近くには小さなゴミを巻き付けたアカモクが生えている


神谷「早季・・・君は・・・何者なんだ・・・」

早季「私は・・・」

 

 早季の口が動く

 早季は二文字の単語を言う

 その言葉を聞いて、ポタポタと畳に涙を落とす神谷


神谷「そうか・・・そうだったのか・・・」

早季「最悪な時代は・・・すぐそこまで迫っています・・・」


 涙を拭い立ち上がる神谷

 一歩前に出て、早季と向かい合う神谷

 俯く早季


早季「(俯き)人は傷ついた地球を見ようとはしない・・・神谷先生は・・・?」

神谷「俺は見てるよ」

早季「(俯き)子供たちに現実を教えますか」

神谷「先生のことを信用しろ」

早季「神谷先生?」

神谷「ん?」


◯94南家汐莉の自室(昼)

 ベッドの上で横になっている汐莉

 イヤホンをしてスマホの音楽を聞いている

 机の上には20Years Diaryという日記帳が置いてある

 日記帳は書きかけで開きっぱなし

 ”聞きたくないことが聞こえる”と日記に書かれている

 

早季「(声)どうして・・・人って・・・傲慢なんでしょう・・・」

神谷「(声)それは・・・」

 

◯95アクセサリーショップ(昼)

 アクセサリーショップにいる響紀と天城明日香

 二人はブレスレットを見ている

 響紀が楽しそうにショーウィンドウの中にあるブレスレットを指差している


早季「(声)地球の中で一番偉いのは人類だと思っているんですか?」

神谷「(声)そんなことは思っていないよ」


◯96ショッピングモール内(昼)

 人の少ないショッピングモール

 デートをしている詩穂と細田周平

 二人は楽しそうに喋りながらショッピングモールの中を回っている


早季「(声)食物連鎖の頂点は自分たちだと?」

神谷「(声)それは間違った考え方だろうね。所詮人間なんて悪知恵だけが特化した力の弱い生き物だ」


◯97楽器屋(昼)

 楽器屋にいる真彩

 真彩はドラムのコーナーを一人で見ている


早季「(声)美しい自然や動物を殺して食糧難になったらどうするんですか?戦争を始めるんですか?」

神谷「(声)だから先生が世界を変えるんだ、戦争や飢餓を避けるためにね」


◯98マクドナルド(昼)

 マクドナルドにいる由香と由香の女友達

 彼女たちはスマホを見ながら喋っている


早季「(声)神谷先生の話を信じる人がいなくても・・・神谷先生は正しいことを発信し続けてくれますか?」

神谷「(声)ああ、世界中を説得するまでやめないよ」


◯99早乙女家菜摘の自室(昼)

 物の少ない片付いた部屋

 ベッドで横になっている菜摘


早季「(声)先生は最善を尽くしてください・・・猶予はありません」

神谷「(声)もちろんだ、早季のためにも、地球のためにも、子供たちのためにも、俺はやると決めてる」


◯100早乙女家リビング(昼)

 リビングの椅子に座っている貴志鳴海、早乙女すみれ、早乙女潤

 テーブルの上には菜摘の人間ドックの結果表が置いてある

 多くの欄に異常ありとチェックが入っていて、赤い字で数値が記入されている


早季「(声)先生は運命論って信じますか?」

神谷「(声)信じないね」


◯101緋空寺(500年前/昼)

 佐田奈緒衛の墓の前にいる白瀬波音

 お墓に水をかけ、布で汚れを取っている波音


早季「(声)この町の人たちの繋がりは運命だと思いませんか?」

神谷「(声)彼らの関係は上辺だけだ。みんなが嘘や隠し事をしながら暮らしてる」


◯102専門学校/教室(昼)

 昼休み中の専門学校

 生徒たちはお昼ご飯を食べたり、近くの生徒と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしながら過ごしている

 白石嶺二が隣に座っている女の子と楽しそうに話をしている


早季「(声)因果は・・・」

神谷「(声)早季、そんなものはないんだよ」


◯103波音高校特別教室の四/旧文芸部室(昼)

 かつて文芸部の部室だった教室

 文芸部の道具と、使わなくなったロッカーや古くなった机椅子が置かれている教室

 椅子に座って文芸部誌を読んでいる柊木千春らしき人物の後ろ姿


神谷「(声)必ずしも善意と幸福がイコールで結びつくとは限らないし、その逆も然り」

早季「(声)では・・・人が地球に対して行った悪いことも・・・」


◯104波音総合病院裏(昼)

 非常階段付近でタバコを吸っている貴志鳴海の姉、風夏

 看護師の服装をしている風夏

 タバコの煙を吐き出す風夏


神谷「(声)償うことができる。いや・・・償わなきゃならないんだ」

早季「(声)本当に未来は不確かなんでしょうか」


 タバコをポイ捨てする風夏

 病院の中に戻る風夏


◯105波音総合病院廊下(昼)

 廊下を歩いている風夏


神谷「(声)統計的に確定していることもある、現在進行形で起きている悪いこともある」

早季「(声)それを治すんですね」


 病室の前で止まる風夏

 病室のプレートには一条智秋と書かれている

 扉をノックして病室に入る風夏


◯106波音総合病院/一条智秋の個室(昼)

 一条智秋がベッドで横になっている

 痩せ衰えている智秋

 一条雪音が椅子に座って智秋と話をしている

 病室に入ってきた風夏

 椅子に座る風夏

 

神谷「(声)そうだ、間違いは正すことが出来る」

早季「(声)数学のように・・・」


 風夏と入れ替わって病室を出る雪音


◯107波音総合病院待合室(昼)

 広くてたくさんの椅子がある待合室

 看護師たちが椅子の前を行き来する

 椅子に座っている双葉篤志


神谷「(声)いいか、早季。俺は真実を説く。不確かな未来を・・・約束された安全に変えてみせる」

早季「(声)神谷先生を・・・信じてもいいですよね?」


◯108絵美の実家(昼)

 実家にいる絵美

 妊娠七ヶ月目の絵美、お腹が膨らんでいる

 椅子に座っている絵美

 テーブルの上にアルバムとライターが置いてある

 絵美は写真を見ている、高校生の時の写真

 高校を卒業した時のクラス写真

 写真を持ったまま立ち上がり、ライターを手に取ってキッチンに行く絵美

 ライターで写真に火をつける絵美

 燃えている写真をシンクに落とす絵美


神谷「(声)ああ、信じてくれ。必ず良い未来にするから・・・」


◯109滅びかけた世界:緋空浜(昼)

 緋空浜を歩いているナツ、スズ、老人

 水たまり、使い古された兵器、遺体を避けて歩いているナツと老人

 スズはあえてポチャポチャと水たまりを踏んで歩いていく

 浜辺には戦車、重火器、使い古された小型船、空っぽの缶詰、ペットボトル、腐敗し死臭を放っている魚、骨になった遺体がそこら中に転がっている

 汗をかいている老人

 老人は立ち止まって銃を置く老人

 ナツとスズも立ち止まる

 軍服を脱ぐ老人

 タンクトップ姿になる老人

 老人の肉体を見て驚くナツとスズ

 老人の上半身には脂肪が全くなく、筋骨隆々の肉体をしている

 脱いだ軍服を肩にかける老人

 銃を拾い歩き始める老人

 顔を見合わせて老人を追いかけるナツとスズ

 老人の首には軍人がつけているようなドッグタグが下がっている

 ドッグタグにはNarumi Kishiと名が彫られている


早季「(声)良かった・・・神谷先生が先生でいてくれて・・・」


◯110緋空寺/講堂(昼)

 立って話をしている神谷と早季

 神谷のことを抱きしめる早季

 驚く神谷

 

早季「(神谷を抱きしめながら)先生・・・先生は選ばれし人です・・・」

神谷「そ、そうなのか?」

早季「(神谷を抱きしめながら)はい・・・」

神谷「そりゃありがたいな・・・」

神谷「(声 モノローグ)この瞬間、地球に危機が迫っているというのに、私は幸福を感じていた。儚げな美少女から絶大な信頼を勝ち得た喜び・・・もはや早季は人の形ではなかったが、そのか細い肉体から温もりを感じ取ることが出来た。死んだ魚の匂い・・・生ゴミの匂い・・・潮の匂い・・・腐ったサンゴの匂い・・・血の匂い・・・女の匂い・・・地球の匂い・・・お母さんお匂い・・・マリア様の匂い・・・落ち着く匂い・・・」


 神谷も早季のことを抱きしめる

 早季の背中から生えていたサンゴがボロボロと崩れこぼれる

 抱き合う神谷と早季


神谷「(抱き合いながら)早季・・・なんて無残な姿なんだ・・・でももう大丈夫だよ、早季をこんな姿にした奴らのことは絶対に許さない、悪い大人は粛清するからね。先生に任せておきなさい」

早季「(抱き合いながら)はい・・・この星の未来を先生に・・・お願いします・・・」

神谷「(早季を抱きしめるのをやめ)早季・・・君は本当に偉い子だな。こんな時間まで居残りするなんて・・・残りの問題は先生が解くよ。早季はもうお家に帰った方がいい」


 神谷から一歩離れる早季


早季「じゃあ・・・先生・・・」

神谷「ああ、気をつけて帰るんだぞ」

早季「はい、さようなら神谷先生」

神谷「(手を振って)またな」


 早季は別の部屋に行く

 早季が着ていた服が無くなっている


◯111緋空浜(昼)

 空は少し曇っている

 浜辺を歩いている神谷

 浜辺にはウォーキング中の老人、高校生くらいの学生、三歳児くらいの子供を連れた女がいる

 風で三歳児くらいの子供が持っていたお菓子のゴミが飛ばされる

 ゴミは遠くまで飛ばされる、母親らしき女は一瞬拾いに行こうか迷うが、諦める

 女はお菓子のゴミを浜辺に置いたまま、子供をベビーカーに乗せて帰ろうとする

 その一部始終を見ていた神谷はゴミを拾いに走る

 ゴミを拾う神谷

 女を追いかける神谷


神谷「(走りながら)ゴミ!落としましたよ!!」


 神谷の声に気づき立ち止まる女

 女に追い付く神谷

 ゴミを差し出す神谷


女「(少し嫌そうにゴミを受け取り)すみません」


 女はベビーカーを押して、お菓子のゴミを近くのゴミ箱に投げ捨てる

 ゴミ箱の周囲は風の影響でゴミが散乱している

 神谷はしゃがみ、ゴミ箱付近に落ちているゴミを拾う

 

神谷「(声 モノローグ)なぜ無視できる?ゴミが視界に入らないのか?」


 コートの男が神谷のことを遠くから見ている

 拾ったゴミを分別してゴミ箱に入れる神谷 

 コートの男が見ていることに気がつかない神谷


神谷「(声 モノローグ)大人たちの悪行が許せない・・・地球を何だと思ってる・・・子供たちの未来を何だと思ってる・・・絶対に許せない・・・」


 警備員が神谷のところにやってきて声をかける


警備員「何してるんですか?」

神谷「(ゴミを片付けながら)散らかったゴミを片付けてるんですよ」

警備員「えっと、業者の方じゃないですよね?」

神谷「(ゴミを片付けながら)ええ」


 少しの沈黙が流れる


警備員「もしかして・・・ゴミを漁ってます?」


 手を止める神谷


神谷「俺がゴミ漁りに見えるか?」


 立ち上がる神谷


警備員「最近はゴミを漁るホームレスが増えてるのでね。あんたもそうかもしれない」

神谷「そうか・・・ (少し間を開けて)あんたには俺がホームレスのゴミ漁りに見えるのか・・・」

警備員「警備員なんだから、疑うのは当然のことだ」

神谷「警備員さんよ、お前は何を警備してる?」

警備員「海に決まってるだろ」

神谷「海を警備してるのか?海って・・・緋空浜じゃないよな?」

警備員「(イライラしながら)緋空浜だ」

神谷「(笑いながら)いや、お前は緋空浜を警備してないね。(少し間を開けて)お前は警備員のくせしてゴミを漁ってるホームレスとゴミの片付けをしてる市民の違いが分かってない。そんなお前が緋空浜の警備なんか出来るわけないだろう?それともお前は警備をしてるつもりなのか?だとしたら笑えるよ、爆笑もんだな」


 再び沈黙が流れる


神谷「海に失礼だと思わないのか?自然を敬えよ、愛せよ、守れよ。お前みたいな低レベルの人間がぞんざいに扱って良い代物じゃないんだ。相手は海様なんだぞ?そんなことも知らないのか?勉強し直したらどうだ?こんな仕事辞めてしまえ、お前には向いてない。いや、お前に向いてる仕事なんかない。生きていちゃいけない存在なんだ、俺はお前が憎いよ」

警備員「あんた・・・イカれてるのか?」

神谷「(ぶつぶつと呟くように)お前は邪悪な人間だ、お前はダメな大人だ、お前は腐った肉塊だ、お前は地球に蔓延る癌細胞だ、お前は死ぬべき大人だ」


 一歩後ろに下がる警備員


警備員「(少し怯えながら)迷惑だから帰ってくれ」


 警備員に詰め寄る神谷

 警備員の服の匂いを嗅ぐ神谷


警備員「な、何をしてるんだ」

神谷「死んだ魚の匂いか・・・」

警備員「えっ・・・?」

神谷「(笑いながら)風呂に入って体を洗った方がいいぞ」


 神谷は笑いながら警備員の元を離れる

 呆然としながら立っている警備員

 コートの男は変わらず神谷のことを遠くから見ている


◯112神谷家志郎の自室(深夜)

 部屋の時計が深夜3時半を指している

 椅子に座って、早季が残した本を読んでいる神谷

 老眼鏡をかけている神谷

 机の上には早季が残していった本、パソコン、ハサミ、ボールペン、缶ビールが置いてある

 缶ビールを一口飲む神谷


神谷「(声 モノローグ)地球温暖化・・・ゴミ問題・・・貧富の差・・・」


 神谷は読んでいたページをハサミで切り取る

 机の引き出しから画鋲を取り、切り取ったページを壁に貼る神谷

 

神谷「(声 モノローグ)食糧難・・・伝染病・・・核兵器と量産される武器・・・」


 椅子に座る神谷

 パソコンを見る神谷

 デスクトップにある“罪”というファイルを開く神谷

 神谷は保存していた浜辺に散らかったゴミ、ゴミの海で泳ぐあざらし、ゴミが甲羅にくっついているウミガメ、ゴミに絡まっているタコ、死んだ鯨の腹から大量のゴミが溢れている写真を印刷する

 缶ビールを一口飲む神谷

 印刷した画像をベクシンスキーの絵の周りに貼り付けていく神谷

 神谷は椅子に座り、パソコンでインターネットを開こうとするが、インターネットに接続出来ませんと表示される

 Wi-Fiを確認する神谷、電波は良好なのに何故かインターネットが見れない

 

神谷「(声 モノローグ)人身売買・・・紛争に参加せられる少年兵・・・自衛隊の人手不足・・・」


 缶ビールを一口飲む神谷

 

神谷「(声 モノローグ)児童売春・・・オゾン層破壊・・・気候変動による自然災害・・・」


 壁を見ている神谷

 壁には早季の遺書、早季が残していった本の切り抜き、ベクシンスキーの兵士の絵、浜辺に散らかったゴミ、ゴミの海で泳ぐあざらし、ゴミが甲羅にくっついているウミガメ、ゴミに絡まっているタコ、死んだ鯨の腹から大量のゴミが溢れている写真が貼られている


神谷「(声 モノローグ)未成年の自殺・・・原子力発電の危険・・・人口爆発・・・世界の滅亡・・・」


 老眼鏡を外す神谷

 缶ビールを飲み干し、缶を握り潰す神谷


◯113汐莉の夢/Chapter4◯561森

 凛を抱きかかえている波音

 明智光秀とその仲間が波音たちを囲んでいる

 凛の胸元から血が溢れている

 波音が泣いている

 波音が凛の名前を呼ぼうとする


◯114南家汐莉の自室(日替わり/朝)

 波音が凛の名前を呼んだ瞬間、目を覚まし体を起こす汐莉

 汗だくな汐莉、呼吸が荒い

 

汐莉「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」


 深呼吸する汐莉

 違和感を覚え、掛け布団を勢いよくどかす汐莉

 ベッドと汐莉のパジャマが赤くなっている

 

神谷「(声)子供たちにどうやって警告する?」


◯115南家リビング(朝)

 外は雨が降っている

 着替えて制服になっている汐莉

 食パンを食べている汐莉

 慌ただしい汐莉の母親

 洗濯物を家の中で干す汐莉の母親

 スーツ姿の汐莉の父親がコーヒーを飲んでいる


汐莉の母親「汐莉、急ぎなさい。久しぶりの学校に遅刻していいの?」

汐莉「久しぶりって・・・休校だったのは三日間だけだし・・・」

汐莉の母親「いいから早くしなさい。(イライラしながら)全く・・・忙しい日に限って洗濯物を増やすんだから・・・」

汐莉の父親「汐莉、辛いなら無理して学校に行かなくていいんだよ。パパも昔交通事故を見たことあるけど、トラウマになるとなかなか頭から離れ・・・」

汐莉「(話を遮って)パパ」

汐莉の父親「ん?」

汐莉「そういう話は聞きたくない」

汐莉の父親「ごめん・・・」


 少しの沈黙が流れる

 食パンを食べ終える汐莉

 コーヒーを飲み干す汐莉の父親


汐莉の父親「そろそろ行くよ」

汐莉の母親「もう行くの?」

汐莉の父親「うん、遅れたら嫌だから」


 玄関に行く汐莉の父親と母親


汐莉の母親「(声)汐莉!!パパ行くって!!見送りに来なさい!!」


 玄関から汐莉を呼ぶ母親

 汐莉は嫌そうに立ち上がり、玄関に行く


汐莉の父親「行って来るよ」

汐莉「うん・・・」

汐莉の母親「頑張ってね、行ってらっしゃい」


 家を出る汐莉の父親

 リビングに戻る汐莉と母親

 汐莉と汐莉の父親の食器を片付ける母親

 キッチンに行き冷蔵庫を開ける汐莉


汐莉の母親「(食器をキッチンに運びながら)汐莉、イライラしてるからってパパに八つ当たりしないで」

汐莉「(冷蔵庫を覗きながら)してない」


 食器を運ぶのをやめる汐莉の母親

 冷蔵庫から鉄分飲むヨーグルトを取り出す汐莉


汐莉の母親「パパは汐莉のことを心配してるの、それなのにあんな冷たい態度・・・」

汐莉「朝から交通事故の話なんか聞きたくないの!!トラウマになってるって思うならそっとしてよ!!!」

汐莉の母親「だったらパパに直接そう言えば良かったのに」

汐莉「(イライラしながら)パパパパパパってうるさいなもう!!!!!!」

汐莉の母親「今日はパパにとって大事な日だって知ってるでしょ?何年も前から努力して今日があるの、応援も出来ないの?」

汐莉「(大きな声で)私には関係ないから!!!!!!」


 汐莉は鉄分飲むヨーグルトを持って部屋に戻る


汐莉の母親「(大きな声で)汐莉!!!!!待ちなさい!!!!!!」


◯116南家汐莉の自室(朝)

 イライラしながら部屋に戻ってきた汐莉

 血で汚れたシーツと掛け布団は無くなっている

 汐莉は学校のカバンに日記、財布、筆記用具、教材、鉄分飲むヨーグルトを詰め込める

 汐莉はギターを手に取ろうとする


◯117◯67の回想/緋空浜(夜)

 月が見えず暗い浜辺

 浜辺に一人立っている汐莉

 制服姿の汐莉

 汐莉の他には人がいない

 海を見ている汐莉

 スマホで電話をしている汐莉

 電話の相手は詩穂


◯118回想戻り/南家汐莉の自室(朝)

 少し迷った後、ギターを持っていくのをやめる汐莉 


◯119波音高校二年二組の教室(朝)

 外は雨が降っている

 机に突っ伏している汐莉

 スマホで音楽を聴いている汐莉

 朝のHRの前の時間

 担任の直井はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 響紀はまだ来ていない


神谷「(声)スマホに魂を売った彼らが現実を見るには?」


 詩穂と細田が廊下を歩いている

 二人のことに気がつく汐莉

 汐莉はイヤホンを外し、急いで廊下に出る


◯120波音高校二年生の教室前廊下(朝)

 廊下には話をしている生徒や教室に入ろうとしている生徒がたくさんいる

 廊下を歩いている詩穂と細田を呼び止める汐莉


汐莉「(大きな声で)詩穂!」


 何人かの生徒が驚いて汐莉の方を見る

 振り返る詩穂と細田


汐莉「詩穂、少し話がしたいんだけど」

詩穂「あー・・・」


 顔を見合わせる詩穂と細田


細田「気しないで、この続きは昼休みに喋ろう」

詩穂「ごめん」

細田「うん、また後で」


 細田は二年三組の教室に入っていく

 汐莉の方に近づく詩穂


詩穂「話って?」

汐莉「えっと・・・その・・・」


 汐莉は詩穂と目を合わせておらず、落ち着きがない


詩穂「汐莉?どうかしたの?」

汐莉「えっ?なんで?」

詩穂「だって・・・なんか落ち着きがないよ?」

汐莉「(作り笑いをして)そ、そうかな?」


 心配そうに汐莉を見ている詩穂


汐莉「そ、そんなことより話がしたいの!話っていうか・・・」

詩穂「うん」

神谷「(声)滅亡へのカウントダウンをどうやって止める?」

汐莉「どうしたら世界は滅亡しないと思う?」

詩穂「えっ・・・?」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「滅亡・・・?」

汐莉「(慌てて大きな声で)違う!!!!今のは違うから!!!!!」

詩穂「何それ・・・何が言いたいの?」

汐莉「私は!!(かなり間を開けて)詩穂に謝りたくて・・・」

詩穂「謝るって何を?」

汐莉「この間の細田くんとのこと・・・」

詩穂「どうして汐莉が謝るの?この間も電話してくれたのに」

汐莉「そうだけど・・・」

詩穂「汐莉おかしいよ。悪いのは汐莉じゃなくて野球部の三年なのに、何で汐莉が謝ろうとするの?」

汐莉「それは・・・」


 真彩が登校して来る

 真彩は汐莉と詩穂に気が付き声をかける


真彩「おはようっす二人とも!!いやー、久しぶりの学校なのに雨って嫌だねー!!」


 再び沈黙が流れる


真彩「あれあれ?どうしたの二人とも。元気ない感じ?」

詩穂「汐莉、私別に謝って欲しいなんて思ってないよ・・・事情は彼から説明してもらったし、そんなに気を使わなくても・・・」

汐莉「気を使ってるとか・・・そういうのじゃなくて・・・」


 汐莉と詩穂の顔を交互に見る真彩


汐莉「ごめん・・・何でもない・・・教室入っていいよ・・・」


 詩穂は何か言おうか迷うが、結局何も言わない


詩穂「(真彩の手を持って)行こう真彩」

真彩「(混乱しながら)えっえっ?汐莉は?いいの?」


 詩穂は真彩を教室に連れて行く

 

◯121波音高校二年二組の教室(朝)

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 響紀はまだ来ていない

 教室に戻って自分の席に座る汐莉

 ポケットからスマホとイヤホンを取り出し、音楽を聴き始める汐莉

 汐莉が聴いているのは地獄先生ぬ〜べ〜のEDテーマ”SPIRIT”

 机に突っ伏して顔を両腕で隠す汐莉


神谷「(声)今の子供たちが大人になった時、緊急事態を対処出来るような大人に育てる必要がある」


 机に突っ伏したまま、スマホの音量を上げる汐莉

 

◯122波音高校二年四組の教室(朝)

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 詩穂の席近くで話をしている詩穂と真彩


真彩「汐莉と何があったの?」

詩穂「何も」

真彩「嘘つけ!!」

詩穂「決めつけないでよ」

真彩「汐莉の様子、いつもと明らかに違くなかった?」

詩穂「うん・・・違ったと思う」

真彩「部活の時に汐莉に聞いてみよーよ」

詩穂「さっき私が聞いたけど、作り笑いで誤魔化されたよ」

真彩「言いたくないことでもあるのかな・・・」

詩穂「分かんない・・・(かなり間を開けて)そういえば私、今日部活出れない」

真彩「え〜、サボりとはけしからん」

詩穂「だって学園祭中止になったんだよ?私たちもライブの練習をする必要がなくなっちゃったし・・・」

真彩「中止ってほんとだと思う?」

詩穂「保護者会で発表されたんだし、確定じゃないかな。今日のHR中に説明があると思うよ」


◯123波音高校二年二組の教室(朝)

 机に突っ伏してSPIRITを聴いている汐莉

 誰かが汐莉の肩をポンポンと叩く

 顔を上げる汐莉

 目の前にいたのは響紀

 響紀が何か言うが、SPIRITの音で聞こえていない汐莉


汐莉「(イヤホンを外しながら)えっ?」

響紀「何聴いてるの?」

汐莉「PAMELAHっていうユニットの・・・」

響紀「私にも聴かせて」

汐利「響紀が好きな曲か分から・・・」

響紀「(手を出して)いいから、聴かせて」

汐莉「うん・・・」


 汐莉は曲を始めに戻して停止する

 イヤホンを響紀に渡す汐莉

 イヤホンをつける響紀

 

汐莉「じゃあ・・・流すよ」


 頷く響紀

 目を瞑る響紀

 SPIRITを再生する汐莉

 シャカシャカと響紀の耳から音が漏れる

 恥ずかしそうに俯く汐莉

 右腕に細いシルバーのブレスレットを身につけている響紀

 ブレスレットには小さなダイヤモンドが付いており、キラキラ光っている

 ブレスレットをつけていることに気が付く汐莉

 ブレスレットを見ている汐莉


 時間経過


 イヤホンを外す響紀


汐莉「(俯きながら)どうだった・・・?」

響紀「(イヤホンを差し出して)格好良い曲だね」

汐莉「(イヤホンを受け取り)ほんと?」

響紀「気持ちに嘘つくような事はやめてイエスの良い子は卒業しよう・・・うん、凄く格好良いと思う」

汐莉「(少し嬉しそうに)そっか、良かった・・・」

 

 汐莉はイヤホンをカバンの中にしまう

 響紀は汐莉の前の席の椅子を勝手に座る

 汐莉は響紀の右腕を目で追う


響紀「(右腕を少し上げて)ああこれ?」

汐莉「(頷き)どうしたの?」

響紀「週末、明日香ちゃんと買ったんだー」

汐莉「(俯き)そうなんだ・・・(少し間を開けて)明日香先輩、元気だった?」

響紀「元気だったよ、また文芸部で集まりたいって」

汐莉「文芸部かぁ・・・」


 少しの沈黙が流れる


響紀「先輩たちと連絡取ったりしてるの?」


 首を横に振る汐莉


汐莉「全然・・・みんな忙しそうだし・・・」

響紀「上京したのって・・・確か嶺二くんだけじゃなかった?」

汐莉「そうだと思うよ、鳴海先輩は菜摘先輩と一緒のはずだし、雪音先輩はお姉さんのことがあるから・・・」

響紀「じゃあ集まりさえすれば文芸部も復活出来るかもよ?」

汐莉「私以外はみんな卒業しちゃったのに?」

響紀「卒業しちゃった人たちはOB、新入部員が集まるまでお手伝いをしてもらえば良いんじゃない?」

汐莉「ダメダメ。神谷から新しく部活を設立するなら年度替わりって言われたもん。文芸部は今や存在しない部なんだよ」

響紀「神谷先生ってさ、自分が担当してる部活なのに案外適当だよね。なんか自由にやらせてるって感じ」

汐莉「多分・・・興味がないんじゃないかな・・・」

響紀「数学が専門だから?」

汐莉「ううん・・・他にやることがあるんだと思う」

響紀「なるほど、多忙ってことね」

汐莉「まあ・・・」

響紀「実は私、好きだったんだ」


 驚いて響紀の顔を見る


汐莉「す、好きって何が?」

響紀「文芸部」

汐莉「(目を逸らして)それって明日香先輩がいたからじゃなくて?」

響紀「汐莉」

汐莉「な、何?」

響紀「もしかして明日香ちゃんが絡んでたら何でも好きだって思ってる?」

汐莉「そうかも・・・違うの?」

響紀「(少し不機嫌に)違います」

汐莉「た、例えば・・・明日香先輩以外に何が好き?」

響紀「決まってるでしょ、(かなり間を開けて)マネー」

汐莉「まねえ?」

響紀「直訳するとお金」

汐莉「あー、お金は大事だね」

響紀「でしょ?これがないと生きていけない」

汐莉「他には?」

響紀「お子様ランチ?」

汐莉「それ・・・私たちの年で食べたら怒られると思うよ」

響紀「私だって大切なお金を犠牲にしてるんだから怒られなくても良くない?」

汐莉「お子様ランチはお子様しか食べちゃいけない決まりだから・・・」

響紀「明日香ちゃんにも全く同じこと言われた・・・」

汐莉「何かもっと違う好きな物ないの?」

響紀「物じゃないけど・・・文芸部は好きだったよ。みんな楽しそうで・・・本気になって・・・一つの作品を作って・・・今でも良いなぁって思う。軽音部とはまた違う暖かさがあるよね」

汐莉「そう・・・なのかな・・・」

響紀「廃部になったのは本当に残念」

汐莉「ごめんね、部員募集とかたくさん手伝ってもらったのに・・・」

響紀「(汐莉の手を握って)まだチャンスはある。菜摘さんみたいに三年生になってから上手くいくかも」


 汐莉は一瞬、握られている手を見る


汐莉「響紀・・・響紀って・・・まだ・・・」

響紀「何?」

汐莉「明日香先輩がいても・・・女の子のこと・・・」


 担任の直井が教室に入ってくる


直井「(大きな声で)みんな廊下に並んで!!!今から体育館で全校集会を行います!!!」


 ダラダラしていた生徒たちが立ち上がり、一斉に廊下に出る


直井「(大きな声で)三枝!!!!生徒会員は一旦生徒会室に集まるように指示が出てるから急いで行って!!!!!!」


 汐莉の手を離し、立ち上がる響紀


響紀「ごめん、呼ばれてるみたい!」


 響紀は急いで教室を出ようとする


汐莉「(大きな声で)響紀!!」


 振り返る響紀


直井「(大きな声で)南!!!あなたも早く廊下に出なさい!!!」


 汐莉は直井の声を無視する

 響紀は汐莉が何か言うのを待っている

 汐莉は何か言おうとして口を動かすが、なかなか言葉が出ない


汐莉「私と・・・私と一緒に逃げ・・・」


 教室にまだいる男子生徒たちが汐莉のことを見ながらヒソヒソと話をしている


男子生徒3「(汐莉のことを見ながら小さな声で)逃げるって今言ったか?」

男子生徒4「(汐莉のことを見ながら小さな声で)ああ、確かに言った」

男子生徒5「(汐莉のことを見ながら小さな声で)もしかして南って・・・そっち系なんじゃね?」

男子生徒3「(汐莉のことを見ながら小さな声で)三枝もレズだしな・・・今のは駆け落ち発言か」


 男子生徒たちの話を聞いて焦る汐莉


汐莉「(焦りながら)あの・・・私も生徒会室に用が・・・」


 身振り手振りが増え、挙動不審の汐莉


響紀「後で一緒に行ってあげる」

汐莉「あ、ありがと・・・」


 響紀は背筋を伸ばし、汐莉に向かって執事のような格好良いお辞儀をする


直井「(大きな声で)三枝!!早く行きなさい!!!」


 響紀は走って生徒会室に向かう


直井「(怒りながら)何してんのあんたは・・・(汐莉の制服を引っ張って)さっさと動きなさい!!そこの男子たちも早く!!!」


 直井は汐莉を引っ張って廊下に連れ出す


◯124波音高校体育館(朝)

 雨の音が外から聞こえる

 緊急の全校集会が行われている最中

 全生徒、全教員が体育館の中に集まっている

 生徒会役委員は体育館の前の隅にいる

 ステージの上で校長の上野が話をしている


上野「一年六組の担任だった神谷先生ですが、しばらくお休みを取ります。その間は前原先生が臨時担任です。六組の生徒、それ以外の生徒も、今は大変辛い時でしょう」


 ふらふらしている汐莉


神谷「(声)社会は人を分ける。君は優秀だ、あの会社に入ると良い、安定した暮らしが出来るだろう。君は出来損ないだね、少ない収入で我慢しなさい、他人を養うのは無理だ。そうやって決めつける」

上野「でもそんな時こそ、仲間と支え合ってください。いつの日か笑い飛ばせるように!そうです!人は強い生き物です!!戦争、地震、津波、台風、日本人はどんな時だって負けずに生きてきました!!!」

神谷「(声)私は弱き者を捨てすぐに回転する日本社会を崩壊させるために生まれてきた狼だ、人が地球を食い殺す前に、私が大人を狩る、子供たちには狩りの仕方を教えよう」

上野「悩みがあれば友達に相談しなさい、困っているなら先生に助けを求めなさい、しんどくなったら親に話しなさい。自分を孤独だと思わないでください」

神谷「(声)誤った教育を受けた子供がどう育つのか私は知っている。前原がその一番良い例だろう。あの愚鈍な筋肉男は危機管理能力を磨かずに大人になったのだ。前原のような男が自然を破壊し、何の躊躇もなく動物を虐待する」

上野「残念ながら・・・今年は学園祭を中止にします。(少し間を開けて)悔しいでしょう・・・部活の練習の成果を出せなかったり、三年生はクラスで何かをやる最後の機会が無くなってしまった。とても残念でなりません・・・しかしですね、こういう時に覚えた感情はあなた達の血や肉となります」

神谷「(声)前原のような大人は自分が間違えているという自覚がない。動物を虐待しても、彼にとってそれは遊んでいるだけなのだろう。森林を伐採すれば景観を良くするためだと言い、戦争に参加すれば日本が強いことを証明するためだとほざく」

上野「亡くなった生徒の事も・・・必ず記憶に残してください」

神谷「(声)早季・・・早季・・・私は怒りに突き動かされそうだ・・・」


 ふらふらとした足取りで、クラスの列から抜ける汐莉

 汐莉はステージとは逆方向の体育館入り口に向かい始める


上野「私たち教員も、彼女のことは忘れません。もう二度と凄惨な出来事が起きないように、私たちは・・・」

神谷「(声)大人たちは脳が壊れてる、頭を改造されたのか?そういえば第二次世界大戦中、ナチスは人体実験を行っていた。ドイツと同盟を組んだ日本も・・・」


 少しずつ汐莉の歩く速度が上がる


上野「今後は皆さん一人一人に寄り添って・・・」

神谷「(声)教育は子供たちの洗脳を目的しているのか?学校は悪の組織?」


 二年二組の生徒たちが入り口に向かう汐莉の事を不思議そうに見ている


上野「カウンセリングや個人面談を行い、心のケアを・・・」

神谷「(声)こんな社会まともじゃない」


 汐莉は走って体育館を出ようとする

 生徒たちの後ろにいた直井が汐莉を引き止める


直井「ちょっと!南!」


 汐莉は直井を無視して急いで体育館を出る


神谷「(声)腐敗した内側から毒ガスが吹き出て、最悪な時代を呼ぶ」


◯125波音高校女子トイレ(朝)

 女子トイレの扉を勢いよく開ける汐莉

 呼吸が荒い汐莉

 洗面台に両手をつく汐莉

 

汐莉「(叫び声で)ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!(洗面台を思いっきり叩き)うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!!!!!!!!!」


 髪が乱れている汐莉


汐莉「(息切れしながら)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

早季「正しいと思う事、あなたにしか出来ない事をしてください」


 素早く振り返る汐莉

 後ろには誰もいない

 汐莉が前を見ると、隣の鏡に早季が映っている

 目を瞑る汐莉


汐莉「(目を瞑りながら言い聞かせるように)これは現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない」

早季「何がそんなに怖いの?」

汐莉「(目を瞑りながら言い聞かせるように)現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない・・・現実じゃない」


 鏡に映っている早季が歩く

 早季は汐莉の正面の鏡に映る

 鏡の中では目を瞑る汐莉の隣に早季がいる

 鏡の中の早季は、汐莉の両肩に手を置く


早季「目を開けて・・・遠くじゃなくて近くを見たら怖くないから」


 恐る恐るゆっくり目を開ける汐莉

 早季は鏡越しに汐莉のことを見ている


早季「緋空の力を持つ人・・・あなたの苦しみは世界のためにある」


 汐莉は隣を見る

 汐莉の隣には誰もいない


汐莉「声が・・・神谷先生の声が聞こえるの・・・聞きたくないのに・・・声はなんで聞こえるの?」

早季「あなたは・・・緋空の力を持つ人だから・・・心の奥底に住う魂が彼に共鳴してるのか・・・彼を助けたがってるのか・・・」

汐莉「そんな力、要らない・・・」

早季「でもあなたにしか出来ない事がある。あなたにしか・・・」


 少しの沈黙が流れる


汐莉「もうこれ以上辛いのは嫌だ・・・」


 鏡の中の早季は汐莉から離れ、扉がある方へ歩く


早季「よく考えて・・・あなたがしたい事、あなたが何を望むか・・・」


 トイレを出ようとする鏡の中の早季


汐莉「待って!!!!」


 鏡の中の早季が振り返る


汐莉「私は・・・日常が送れればそれでいい・・・みんなと楽しく過ごせれば・・・それで・・・」

 

 鏡の中の早季が首を横に振る

 鏡の中の早季がトイレを出る

 汐莉は早季を追いかけて、トイレを出る


◯126波音高校廊下(朝)

 外では雨が降っている

 早季を追いかけて廊下に出てきた汐莉

 周囲を見る汐莉

 早季の姿は廊下にない


汐莉「私が望む事・・・私にしか出来ない事・・・菜摘先輩・・・」


 廊下を走る汐莉


神谷「(声)水滴に水滴を足しても、それは一にしかならない。白雪姫が毒リンゴではなく腐ったリンゴを食べたら・・・腐り姫になる。誤った教育を受けた大人が作る腐った食事・・・汚れた大地から取った穀物・・・肉片のような色になってしまった水の惑星地球・・私が水より酒を好むのは、血の味がアルコールで消毒されているからだ」


◯127早乙女家前(昼)

 強い雨が降っている

 早乙女家の前に立っている汐莉

 

神谷「(声)無知は許されない、人は人を許さない、地球殺しは罪になる」


 汐莉はインターホンを押す


◯128波音高校二年二組の教室(朝)

 教室に戻ってきた生徒と担任の直井

 席に着く生徒たち


直井「じゃあ・・・一旦休憩にしましょう。(腕時計を見て)11時5分までに席に戻るように。休憩後はHRをします」


 直井は教壇で出席を確認している

 トイレに行ったり、仲の良い友達のところに行ったり、スマホを見たり、近くの子と話をする生徒たち

 汐莉の席を見る響紀

 汐莉はいない

 直井の元へ行く響紀


響紀「直井先生、汐莉がどこにいるのか知りませんか?」

直井「(出席簿に印をつけながら)さあ?体育館を出て行ったきり見てないけど」

先生1「直井先生!ちょっとお話が・・・」


 他クラスの教師が廊下に立っている

 直井は出席簿を教壇の中にしまう


直井「三枝!邪魔だから退いて!」


 響紀を払い除ける直井

 廊下に出る直井

 響紀はバレないように出席簿を取り出して開く

 汐莉の出席を確認する響紀

 汐莉は早退になっている

 直井の方を見る響紀

 直井は先生1と話をしていて、響紀の事に気付いていない

 バレないように出席簿を元あった場所に戻す響紀

 自分の席に戻る響紀


響紀「安川、汐莉知らない?」


 スマホを見ている隣の席の男子生徒に声を掛ける響紀

 首を横に振る安川


響紀「体育館を出て行くの見た?」

安川「(イライラしながら)知らないってば」


 安川はスマホを見ながら立ち上がり、廊下に出て行く

 響紀は前に座っている男子生徒の肩を叩く

 立ち上がる男子生徒


響紀「汐莉がどこにいるのか・・・」


 男子生徒は響紀の事を無視して、友人らしき生徒の元へ行く

 男子生徒は友人たちとゲームの話をし始める

 ポケットからスマホを取り出す響紀

 LINEを開く響紀

 汐莉に”帰ったの?”と連絡する響紀

 しばらくトーク画面を開いたままにする響紀、既読はつかない

 LINEを閉じ、YouTubeを開く響紀

 カバンからイヤホンを取り出し、スマホに差し込む

 PAMELAH SPIRITと検索する響紀

 SPIRITが流れ始める


◯129波音高校二年二組の教室/軽音部二年の部室(放課後/夕方)

 雨が降っている

 校庭には水溜りが出来ている

 校庭の一部は立ち入り禁止になっている

 教室の中には響紀が使っているギターと電子ピアノが置いてある

 クリーニングクロスでギターを拭いている響紀

 外を眺めている真彩


真彩「詩穂も汐莉もつれないなー。部活くらい出ればいいのにー」


 少しの沈黙が流れる


真彩「響紀、コンビニ行かない?」

響紀「(ギターを拭きながら)何で?」

真彩「リフレッシュしようよリフレッシュ。ギターを掃除してたって何も始まらないじゃん」

響紀「(ギターを拭きながら)コンビニ行っても変わらないけどね」


 カバンから財布を取り出し、立ち上がる真彩

 財布と傘を持つ真彩


真彩「どうしてこううちの女たちここ一番って時にノリが悪くなるんだか・・・」


 部室を出る真彩


◯130早乙女家前(夕方)

 雨が降っている

 家から出てきた汐莉

 傘を持っているのにささない汐莉

 あっという間にずぶ濡れになる汐莉

 菜摘の家の前で立ち止まっている汐莉


汐莉「(俯き)最低だよ先輩・・・」

神谷「(声)私たちは鳥籠の中にいる小鳥じゃない、適切な表現をすれば鳥籠を破壊するカラスのような存在だ」


◯131波音高校二年二組の教室/軽音部二年の部室(放課後/夕方)

 雨が降っている

 校庭に水溜りが出来ている

 校庭の一部は立ち入り禁止になっている

 教室の中には響紀が使っているギターと電子ピアノが置いてある

 真彩はコンビニに行っている

 一人でギターケーブルをアンプに繋いでいる響紀

 ギターのジャックにケーブルを繋ぐ響紀

 アンプの電源を入れる響紀

 ギターを持って立ち上がる響紀

 スタンドマイクの高さを調整する響紀

 ギターを軽く弾く響紀、大きな音が鳴る

 遠くの方から歓声が聞こえる


◯132波音高校体育館(夕方)

 ステージの上に軽音部のメンバーがいる

 人で一杯になっている体育館

 卒業生、在校生、教職員が入り混じって盛り上がっている体育館

 観客の一番前に天城明日香がいる

 観客側は暗く、ステージ上だけが明るい

 

汐莉「(大きな声で)みんなぁー!!!!学園祭盛り上がってるぅー!?」


 汐莉の声に合わせて、ドラムを叩く真彩


観客「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

詩穂「(大きな声で)もっともっと大きな声で!!!!!!」


 詩穂の声に合わせて、再びドラムを叩く詩穂


真彩「じゃあ次の曲行こー!!!!!」


 照明が変わり、汐莉と響紀に光が当たる


汐莉「次の曲は二人で歌います」

響紀「夢見る少女じゃいられない」


 真彩がドラムを叩く

 汐莉、響紀、詩穂が真彩のドラムに合わせて、ギターとベースを弾き始める

 盛り上がる観客


汐莉「(♪夢見る少女じゃいられない)午前0時の交差点 微熱まじりの憂鬱 なんだかすれ違う恋心」

響紀「(♪夢見る少女じゃいられない)夜のドアすり抜けて 明日に辿り着かない 約束なんか欲しいわけじゃない」

汐莉「(♪夢見る少女じゃいられない)車走らせるあなたの横顔 嫌いじゃない 少し黙ってよ」

響紀「(♪夢見る少女じゃいられない)ハートがどこか焼けるように痛いよ ウィンドウを開けて 街中に」

汐莉・響紀・詩穂・真彩・観客「(♪夢見る少女じゃいられない)Bang! Bang! Bang! Bang!」


 軽音部のメンバー、観客の声が合わさって体育館に響く


汐莉「(♪夢見る少女じゃいられない)もっと激しい夜に抱かれたい No No それじゃ届かない」

響紀「(♪夢見る少女じゃいられない)素敵な嘘に溺れたい No No それじゃ物足りない」

汐莉「(♪夢見る少女じゃいられない)鏡の中 今も震えてる」

響紀「(大きな声で)みんな一緒に!!!!!!!」

汐莉・響紀・詩穂・真彩・観客「(♪夢見る少女じゃいられない)夢見る少女じゃいられない」


 体育館中の声が反響する


響紀「(♪夢見る少女じゃいられない)中途半端な距離ね 一番分かって欲しい」

汐莉「(♪夢見る少女じゃいられない)言葉だけが絶対言えなくて」

響紀「(♪夢見る少女じゃいられない)噂話や流行りのギャグのなんてもういいよ 赤い月が心照らしてる」

汐莉「(♪夢見る少女じゃいられない)きっと誰かがいつかこの世界を変えてくれる そんな気でいたの」


◯133波音高校二年二組の教室/軽音部二年の部室(放課後/夕方)

 雨が降っている

 校庭に水溜りが出来ている

 校庭の一部は立ち入り禁止になっている

 教室の中には響紀が使っている電子ピアノが置いてある

 真彩はコンビニに行っている

 一人で夢見る少女じゃいられないを歌っている響紀


響紀「(♪夢見る少女じゃいられない)もう自分の涙になんか酔わない」


 男女4人組の一年生が部室の前を通りかかる


響紀「(♪夢見る少女じゃいられない)ウィンドウを開けて 街中にBang! Bang! Bang! Ban!」


◯134波音高校二年生廊下/軽音部室前(放課後/夕方)

 響紀に気づかれないよう、コソコソと話をしながら夢見る少女じゃいられないを聞いている一年生四人組

 響紀は変わらず、一人で夢見る少女じゃいられないを歌っている


響紀「(♪夢見る少女じゃいられない)もっと心まで抱きしめて No No 愛が届かない」

一年生女子生徒1「よく一人で歌えるよね」

一年生男子生徒1「羞恥心がないんだろ」

一年生女子生徒2「あの先輩、レズだし」

一年生男子生徒2「マジで?」

一年生女子生徒2「うん、目をつけられないように気を付けろって言われた」

一年生女子生徒1「あ、それ私も〜」

一年生男子生徒1「あの先輩が入学したての頃やばかったらしいよ」

一年生男子生徒2「やばかったって?」

一年生男子生徒1「いきなり同級生に告白、それも女子。普通に考えたらあり得ねえ事だろ」

一年生男子生徒2「確かに・・・」

一年生女子生徒1「告白された子・・・可哀想・・・」

一年生女子生徒2「あんな人がどうして生徒会役員なんだろ」

一年生男子生徒1「先輩のコネで生徒会に入ったって噂」

一年生男子生徒2「最悪だな」

真彩「君たち一年生だよね、二年の廊下で何してんの?」


 驚いて振り返る一年生四人組

 一年生たちの後ろにコンビニのビニール袋、財布、傘を持った真彩が立っている


一年生男子生徒2「(焦りながら)えっとー、僕たちは・・・」

真彩「もしかして見学かな?」

一年生女子生徒1「いや・・・見学ではなくて・・・」

真彩「遠慮すんなってー。おーい!響紀!」


 手を振って部室内の響紀に声を掛ける真彩

 響紀が演奏をやめる


真彩「この子たち見学!!」


 響紀がギターを持ったまま廊下に出てくる


響紀「そうなの?」

一年生男子生徒1「あ、あの!」

真彩「どうした一年」

一年生男子生徒2「ぼ、僕たち用があるんで失礼します!!」


 早足で逃げる一年生男子生徒2

 残りの三人も男子生徒に続く


真彩「あ、おい!こら一年!!」


 真彩の声を無視して、軽音部の部室から遠ざかっていく一年生たち


真彩「(舌打ちをして)ちぇ」

響紀「なに怒ってるの?」

真彩「あいつら、響紀の悪口言ってたんだよ」

響紀「そんな事で毎回怒らなくてもいいのに」

真彩「私はやなの、友達を悪口を聞くのは」

響紀「そう・・・」


 部室に戻る響紀

 響紀に続く真彩


◯135波音高校二年二組の教室/軽音部二年の部室(放課後/夕方)

 雨が降っている

 校庭に水溜りが出来ている

 校庭の一部は立ち入り禁止になっている

 教室の中には響紀が使っている電子ピアノが置いてある

 部室に戻ってきた響紀と真彩

 ギターを立てかける響紀

 傘立てに傘を入れ、机にコンビニのビニール袋を置く真彩

 椅子に座る響紀と真彩

 ビニール袋の中身を机に勢いよくぶちまける真彩

 ビニール袋の中身は大量のお菓子


響紀「真彩」

真彩「(お菓子を並べながら)んだよ?」

響紀「いつもありがとう」


 少しの沈黙が流れる


真彩「(顔を赤くして照れながら)ぽ、ポテチは私が食う!!(少しの沈黙が流れる)から・・・ひ、響紀はポテチ以外のお菓子を・・・」

響紀「分かった、ポッキーもらっていい?」


 頷く真彩

 ポッキーを手に取る響紀

 ポテトチップスを手に取る真彩

 ポッキーの箱を開けて、ポッキーを食べ始める響紀

 ポテトチップスの袋を開ける真彩

 ポテトチップスを食べ始める真彩


響紀「食うじゃなくて、食べる。女の子なんだから、そのくらいちゃんとしてよ」

真彩「うるさいなぁもう」


 お菓子を食べる二人

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